【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】
中央アジアの中心部に位置し、豊かな文化的多様性と、多民族社会、精神的伝統で知られるこの国は、近年、世界的な宗教間の調和と相互理解を促進する道標として注目を浴びている。
過去20年にわたり、カザフスタンの世界伝統宗教指導者会議は、世界中の多様な宗教間の対話を促進し、団結を築き、平和を訴える中心的な役割を果たしてきた。同国の深い精神的遺産と知恵に根ざしたこのイニシアチブは、国際協力と寛容の象徴へと発展を遂げてきた。その目覚ましい歩みを振り返り、カシム・ジョマルト・トカエフ大統領のリーダーシップの下で進められているこのイニシアチブの未来を展望するとき、このイニシアチブが相互理解を醸成する対話プラットフォームとして、世界の調和と団結を育むために、さらに大きな前進を遂げる用意ができていることは明らかである。
レジリエンスと寛容の歴史
カザフスタンの歴史は、レジリエンス(困難で脅威を与える状況にもかかわらず,うまく適応する能力)、寛容さ、不屈の精神が織り成すタペストリーである。遊牧文明から近代的な多民族・多宗教社会へと移行したこの国は、その過程で数々の試練や苦難に直面した。しかし、カザフスタンの人々は、自らの精神的ルーツとの揺るぎないつながりを維持し、多様で包括的な社会の中で多民族が共に繁栄する道を選択した。
歴史的苦難と精神的レジリエンス
歴史を通じてカザフの人々が耐えてきた苦難は、彼らの深い精神性と独自の知恵を形成してきた。ロシア帝国の膨張からソビエト時代の圧政による国土の荒廃まで、カザフの人々は途方もない困難に直面してきた。強制移住政策、大飢饉、カザフの文化的・宗教的アイデンティティの抑圧政策は厳しい現実だった。しかし、これらの試練は、困難の中を耐え忍び、かつ伝統文化や信仰を守るというカザフの人々の集団精神に火をつけることとなった。
信教の自由と寛容
カザフスタンの独立への道のりは、信教の自由と寛容へのコミットメントをもたらした。1949年から89年まで、ソビエト連邦はカザフスタン東部のセミパラチンスク核実験場(日本の四国或いはベルギーにほぼ等しい面積)で456回の核実験を行った。これらの核実験の結果、約150万人が世代を超えた健康被害を被ったと推定されている。このような逆境の歴史にもかかわらず、ソビエト連邦が崩壊すると、カザフスタンはすべての民族の平等と信教の自由(ソビエト政権下では宗教は毒とみなされ弾圧されていた)を保障しただけでなく、セミパラチンスク核実験場の閉鎖と当時世界第4位の核兵器の完全放棄を実現し、ロシアだけでなく西側諸国からも安全保障をとりつけることに成功した。それ以来、カザフスタンは国連の枠組みに基づく、「核兵器のない世界」を提唱する最も積極的な国の一つであり、2024年には第3回核兵器禁止条約(TPNW)締約国会合の議長国を務めることになっている。
文化遺産の保護
遊牧文化の根絶と定住促進を目指したソビエト政府の政策にもかかわらず、カザフの人々はその豊かな文化遺産の保存に成功した。祖先から受け継がれてきた伝統を維持するだけでなく、カザフ人以外の人々の伝統、文化、宗教をカザフ文化と同等に扱う政策を独立国家カザフスタン共和国の憲法に明記した。この先進的なアプローチは、社会の調和を促進し、ソビエト時代のカザフ文化弾圧からの強力な教訓となっている。
世界伝統宗教指導者会議:輝く道標
2003年にカザフスタンが開始した世界伝統宗教指導者会議は、カザフスタンの深い精神性と知恵の証左である。過去20年間、このイニシアチブは、宗教間の対話を促進し、相互理解を育み、世界平和を推進するための重要なプラットフォームへと成長した。その目覚ましい成功には、いくつかの重要な要因が寄与している:
宗教間の調和:カザフスタンの宗教間の調和と宗教的寛容に対する揺るぎない取り組みが、この会議の原動力となっている。それは、多様な宗教指導者が一堂に会し、それぞれの視点を共有し、より平和な世界を目指して協力し合うためのユニークなプラットフォームを提供している。
平和の促進:対話を通じて平和を推進し、世界的な課題に取り組むという会議のひたむきな姿勢は、宗教の枠を超えた思いやり、愛、非暴力という共通の価値観を強調している。
文化の多様性:カザフスタンの豊かな文化遺産は、イスラム、テュルク、遊牧民の伝統(祖先崇拝やテングリ信仰)の影響を受けており、多様な宗教指導者が集うのに理想的な環境を提供している。こうしで多文化と精神的遺産が融合したカザフスタンには、東洋と西洋、イスラム教とキリスト教、仏教、その他さまざまな信仰体系を橋渡しする議論を育む精神的土壌がある。
中立と外交:国際関係におけるカザフスタンの中立政策(マルチ・ベクトル外交)は、多様な国々から集う宗教指導者らが、政治的やイデオロギー的な圧力を受けることなく、議論に参加することができる中立的な対話の場を提供している。
信教の自由へのコミットメント:カザフスタンは一貫して、国内における信教の自由と寛容へのコミットメントを示しており、会議のミッションの核心にある原則と一致している。
世界の諸課題への取り組み:この会議は、宗教的過激主義、テロリズム、環境問題など、現代のグローバルな課題にも積極的に取り組んでいる。多様な背景を持つ宗教指導者を巻き込むことで、これらの差し迫った問題に対する共通の立場と解決策を模索している。
文化交流:公式の議論に加えて、この会議にはカザフスタンの伝統や芸術を紹介する文化交流、パフォーマンス、展示が行われる。このような豊かな文化的側面は、世界各地から宗教指導者をカザフスタンに惹きつけるイベントの魅力を高めている。
トカエフ大統領の未来へのビジョン
カシム=ジョマルト・トカエフ大統領のリーダーシップのもと、世界伝統宗教指導者会議はさらなる進化を遂げようとしている。大統領は、世界が政治的な不確実性に晒される中、文化や文明間の架け橋がこれまで以上に求められていると認識している。
トカエフ大統領は、今回の事務局会合に先立って寄稿したオピニオン記事において、国際的な緊張の高まりと国連設立以来の世界秩序が毀損しつつある現状認識に言及したうえで、文明間の信頼と対話を強化することの重要性を強調した。その手段として外交が不可欠であると指摘しつつ、宗教指導者は国際安全保障の新しいシステムを構築する上で不可欠な変革の担い手であるという認識を表明している。
伝統宗教指導者の役割
世界人口の約85%が宗教を信仰しており、宗教指導者は世界情勢に大きな影響力を持つ。トカエフ大統領は、人命の神聖な価値、相互扶助、破壊的な対立や敵意の否定など、すべての宗教が共通する原則が、平和に焦点を当てた新しい世界システムの基礎を形成できると確信している。
実践的な貢献
トカエフ大統領は、宗教指導者が世界平和に貢献できる実践的な方法として、紛争後の社会の傷を癒すこと、寛容・相互尊重・平和共存の文化を損なう否定的な傾向を防ぐこと、デジタル技術が社会に与える影響に対処することなどを概説している。また、急速な技術進歩がもたらす諸課題を乗り越えるために、精神的な価値観や道徳的な指針を培う必要性を強調している。
団結と調和の未来
カザフスタンの世界伝統宗教指導者会議が進化を続ける中、分裂が進む世界における「希望の光」としての役割を果たしている。トカエフ大統領の先見的なリーダーシップと宗教間対話への揺るぎないコミットメントは、多様な宗教間の団結、寛容、協力という明るい未来を約束している。不確実性が増す今日の世界において、カザフスタンの宗教間対話への揺るぎないコミットメントは、精神性と知恵がより平和で調和のとれた国際社会への道を開くことができることを私たちに思い起こさせてくれる。
カザフスタンが激動の過去から宗教間対話の「希望の光」となるまでの道のりは、国民の深い精神性と知恵の証しである。トカエフ大統領のリーダーシップの下、世界伝統宗教指導者会議は、対話の力、相互理解、そして不朽の人間精神を示しながら、世界の調和と団結への道を照らし続けている。(英文へ)
INPS Japan
The Astana Times, London Post, Inter Press Service, 世界伝統宗教指導者会議ウェブサイト
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