【バンコクIDN=パッタマ・ビライラート】
タイの人口が高齢化し農民が借金に苦しむ中、5月14日の総選挙でこれら集団からの票を勝ち取ろうと、政党のボルテージが上がっている。
下院500議席に対して5200万人以上の有権者がいる。2022年12月以来、選挙戦が激しくなってくる中、タイの諸政党は票を勝ち取るための魅力的な政策を発表している。たとえば、高齢者手当、妊婦・児童福祉、農業部門への支援基金などである。
来る総選挙には1200万人以上の高齢の有権者がいる。王室の庇護を受けている「タイ高齢者協議会」の会長で、「タイ高齢者全国委員会」の副議長は、「2022年はタイが高齢化社会となった年」つまり、総人口の約2割が60歳以上となったことを確認している。
国民移転勘定(NTA)は、学齢にある子どもと高齢者の面倒を見たのち、90歳まで生きるとすると、770万バーツ(約22万5000米ドル)の貯蓄が必要であるという。これはタイの賃金レベルに比べると相当な額だ。
プオイ・ウンパコーン経済研究所によると、農家世帯の収入は概して低い。加えて、農民の42%は借金の返済があり、次の農期に向けて投資する資金が不足しているため、残余所得が不足している。現在、タイの農家世帯の90%が借金を抱えており、その額は1世帯あたり平均45万バーツ(14,000米ドル)である。
農民の借入先は多岐にわたり、「特別金融機構」(SFI)をはじめ(65%)、村落基金、商業ローン、親戚、投資家、リース会社、貯蓄協同組合などがある。
「農業銀行」と「農業協同組合」は、高齢の借り手がおよそ140万人いると情報公開しているが、そのすべてが農民というわけではない。
4つの主要政党はこうした問題に対処するためのマニフェストを発表している。IDNはそれらを調べてみた。
プラユット・チャンオチャ首相の元秘書官ピラパン・サリラサヴィバガ氏は、タイ団結国家建設党(UTNP)を率いている。同党は高齢者に月1000バーツを与える「福祉プラスカード」を公約としている。また、コメやゴムの価格補助のための基金の創設、生活資金のために予算300億バーツ(8億7200万米ドル)を割り当てた「国民緊急基金」の創設を訴えている。
タクシン・シナワット元首相が創設し、現在は次女のペートンタン・シナワット氏が率いているタイ貢献党は、収穫量を増やしタイ農業の新規市場を開拓するために精密技術が利用可能であり、16歳以上のタイ国民にデジタル通貨1万バーツ(290米ドル)を与えること、農民の借金支払いを3年間猶予することを打ち出している。
軍事政権に対抗するために創設され、現在ピタ・リムジャラーンラット氏が率いる前進党は、高齢者に対する月3000バーツ(87米ドル)の手当を創設し、農民に土地権利書を発行することによって土地紛争を解決するための100億バーツ(2.9億米ドル)規模の基金を立ち上げることを公約としている。
プラウィット・ウォンスワン副首相が率いる「国民国家の力党(パラン・プラチャーラット党)」もまた、高齢者手当創設を謳っており、60歳以上の人は月3000バーツ(87米ドル)、70歳以上は月4000バーツ(116米ドル)、80歳以上は月5000バーツ(145米ドル)を得られるようにする、としている。
総選挙が近づくにつれて、ほとんどの政党が現金やデジタル広告で有権者の気を引こうとしている。しかし、経済学者らは選挙後に財政が膨張してしまうのではないかと懸念している。
タイ開発研究所(TDRI)上級研究員のノラリット・ビソニャバット博士は、『イスラ・ニュース』の取材に対して、「現在の高齢者1200万人に月3000バーツを支払うとすると、月々の支出は360億バーツ(100万米ドル)にもなります。しかし、今後5~10年で高齢者は2000万人にまで拡大します。これらの制度を補助するために借入ができたとしても、与信枠を増やし続けなければならず、結果的に財政負担になります。」と警告した。
全国経済社会開発庁(NESDB)のダヌチャ・ピチャラヤナン事務局長もまた、諸政党が訴えている債務返済猶予制度に懸念を示している。
ピチャラヤナン事務局長は記者会見で、「債務の支払い猶予によって借金自体がなくなってしまうわけではなく、結局のところ借金は返さなくてはなりません。元本や利子の支払いを猶予すれば、経済の屋台骨である金融機関に継続的に悪影響を与えます。なすべきは、システム全体ではなく個別の債務見直しなのです。」と述べ、「債務返済猶予は実施すべきでない」と主張した。
有機コメ生産集団「カセディップ」の指導者で上院議員でもあるブーンミー・スラコテは、IDNの取材に対して、「政治的なプラットフォームは信頼できません。農民は自立して、自ら生き残るためのグループを形成し、(先代国王が提唱した)『足るを知る経済』哲学を適用すべきです。」と語った。
スラコテ氏はさらに、農民が直面している問題について、「300人以上のメンバーでグループを作ったものの、低金利の資金調達ができないため、銀行や高利貸しから借りている農家もいます。農家は収入が少ないのに、多額の借金を背負っているのです。また、農家が同時に作物を収穫するため、過剰供給が生じて収入を押し下げることになり、結果として多額の借金が生じます。そのため、借金を返すために急いで商品を売る必要に迫られるのです。」と説明した。
上院議員であり農民でもあるスラコテ氏は、農民がコミュニティ企業を設立するための農民ネットワーク政策と、「大規模農地区画」制度を提唱している。「企業が設立されれば、農家は互いに助け合い、他のコミュニティとネットワークを組んで、自分たちで有機製品を生産、販売、さらには輸出までできるようになるだろう。」とスラコテ氏は主張した。
一部の農民は、農業部門の持続可能な発展のニーズを無視する傾向にある諸政党の短期的な解決策には懐疑的だ。
スリサケット県の農民であるニン・ノイ氏は、IDNの取材に対して、「私の知る限りでは、どの政党も持続可能な援助を提供していません。」と語った。そのため、彼女はどの政党に投票すべきか決めかねている。「私たちは自立する必要があります。私は自分の農場を有機農法に変えたいと思っています。それは持続可能で、間違いなく自立への道を開くものですが、有機肥料は少し高価です。」
スラコテ上院議員も、農民が持続可能な生活を送るためには、自立こそが必要であると考えている。彼はIDNの取材に対して、「新政権が発足すれば、農業分野で『足るを知る経済』アプローチの実施を追求し、推進するつもりです」と語った。彼は、農民の生活は選挙の結果ではなく、「足るを知る経済」を実践できるかどうかにかかっていると考えている。(原文へ)
INPS Japan
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