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|広島G7サミット|核軍縮に進展見られず

【国連IDN=タリフ・ディーン】

5月19日から21日にかけて広島に主要7か国(G7)の首脳らが集ったが、議題の一つは核軍縮であった。

1945年の米国による原爆弾投下により広島・長崎合計で22万6000人以上が殺害されている(両都市では広島の方が被害が大きかった)ことから、今回のG7サミット開催地は象徴的な場所であった。

しかし、カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・日本・英国・米国の7カ国に欧州連合を加えた首脳らは、「核兵器なき世界」に向けて取り立てて重要な進展を生み出すことができなった。

フランス・英国・米国の三国が(ロシア・中国と並んで)主要な核保有国であるだけではなく国連安保理の常任理事国でもあるだけに、進展の不在はなおさら残念なことだ。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

防衛目的の核兵器を暗に正当化した「核軍縮に関する広島ビジョン」について5月21日の記者会見で問われた国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「文書へのコメントはしません。(しかし)私は自分の信念に従って動くことが重要だと申し上げておきます。『核兵器なき世界』の実現という主要な目的に関して諦めることはしません。」と語った。

「20世紀最後の数十年間は、軍縮がかなり進展しましたが、それが完全に止まってしまったのです。そして、新たな軍拡競争を目の当たりにしています。」と指摘した。

「核兵器に関する軍縮論議を再開することが極めて重要です。核兵器を保有している国々が核兵器を先行使用しないと約束することも必要です。さらには、どのような状況にあっても核を使わないと約束することが重要です。」

グテーレス事務総長は、「核兵器のない世界を実現するためには、いつの日か、願わくは私が生きている間に、核兵器のない世界を実現するために、野心的になる必要があると考えています。」と宣言した。

5月19日に発表された声明で、G7首脳らは「核軍縮に関する広島ビジョン」を打ち出した。声明はこう述べている。

「歴史的な転換期の中、我々G7首脳は、1945年の原子爆弾投下の結果として広島及び長崎の人々が経験したかつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎と共に想起させる広島に集った。粛然として来し方を振り返るこの時において、我々は、核軍縮に特に焦点を当てたこの初のG7首脳文書において、全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認する。」

G7 Hiroshima Summit Logo
G7 Hiroshima Summit Logo

「我々は、77年間に及ぶ核兵器の不使用の記録の重要性を強調する。ロシアの無責任な核のレトリック、軍備管理体制の毀損及びベラルーシに核兵器を配備するという表明された意図は、危険であり、かつ受け入れられない。我々は、ロシアを含む全てのG20首脳によるバリにおける声明を想起する」。

「この関連で、我々は、ロシアのウクライナ侵略の文脈における、ロシアによる核兵器の使用の威嚇、ましてやロシアによる核兵器のいかなる使用も許されないとの我々の立場を改めて表明する。」

「我々は、2022年1月3日に発出された核戦争の防止及び軍拡競争の回避に関する五核兵器国首脳の共同声明を想起し、核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならないことを確認する。」

「我々は、ロシアに対し、同声明に記載された諸原則に関して、言葉と行動で改めてコミットするよう求める。我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている。」

ワールド・ビヨンド・ウォー」のアリス・スレイター理事は、「核軍縮に関するG7ビジョン」は盲目的な傲慢さの表れではないか。」と疑問を呈した。

Alice Slater
Alice Slater

スレイター氏はIDNの取材に対して、「被爆地広島で、核保有国や、自国に代わって米国に核使用を期待する『核依存国』が広島平和記念公園に集い、1945年8月6日の破滅的な日を生き延びた被爆者のつらい証言に耳を傾けました。」と指摘した上で、「にもかかわらず、G7首脳らは無神経な声明を出しました。偽善的にも、核兵器の恐るべき性格を主張し、ロシアが核の恫喝によっていかに世界を危険に陥れているかを語り、北朝鮮にも同じような非難の目を向け、単に透明化措置を前進させるよう呼びかけています。まるで、西側諸国の恐るべき核戦力と、その再建や改修、再設計、実験に関連した活動については、情報を開示しさえすれば、核の惨劇が予防できる、とでも言わんばかりです。」と語った。

新戦略兵器削減条約(新START)を棄損するロシアの決定を非難する一方で、米国がロシアとの弾道弾迎撃ミサイル制限条約中距離核戦力全廃条約からいかにして脱退したかという点は黙して語っていません。また、バラク・オバマ前米大統領がイランとの間で結んだ核合意への復帰についても触れていません。」と、スレイター氏は指摘した。

米国はまた、宇宙での兵器やサイバー戦争を禁止する条約交渉を、ロシアと中国から何度も要請されたが、拒否している。これらの条約交渉は、もし実現していれば、核兵器の廃絶に向けた協議において、「戦略的安定」もたらす条件作りに欠かせないとロシアが呼びかけていたものである。

「ドイツ・オランダ・ベルギー・イタリア・トルコの北大西洋条約機構(NATO)5カ国は米国の核兵器を自国領内に配備することを認めているし、日本は、皮肉なことに平和憲法があるにもかかわらず米国の『核の傘』の下で、G7諸国がこれまでボイコットし拒絶してきた核兵器禁止条約入りをこれら諸国に求めるのではなく、代わりにNATOとの連携強化に動いています。」

「米国は、核軍縮を『誠実に』追求するという核不拡散条約上の義務を率先して尊重しない道を辿っています。決して『誠実に』など行動していません。戦争の惨禍を防ぐために創設された国連の管理下に核兵器を置くべきだとのヨシフ・スターリン書記長の提案をハリー・トルーマン大統領が拒絶した時代から、核兵器製造施設や弾頭、それらを運搬するミサイル・航空機・潜水艦のための30年に及ぶ1兆ドル規模の予算をオバマ大統領が認可した時代に至るまで、米国は核に関する違反・拡散に関与してきました。」

核兵器廃絶に努力するという見せかけと裏腹に発せられている偽善的なメッセージは、「ステップ」を踏む、という言葉だ。「我々は『軍備管理』の名目で、どこまでも果てしないステップを踏んできました。今回のG7会合での議論も、結局何も生み出さない不毛なステップにすぎなかった。例えれば、暗い顔をした男たちが円になって階段を上ったり下ったりしているが結局頂上にはたどり着かないという、M・C・エッシャーの絵『上昇と下降』に似ています。」とスレイター氏は語った。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のダニエル・ホグスタ事務局長代行は、「単に機会を失ったというだけではありません。広島・長崎への原爆投下以来初めて核兵器が使用されてしまうかもしれないという厳しいリスクに世界が直面しているなか、リーダーシップが発揮されずじまいという重大な失敗にほかなりません。」と語った。

「ロシアや中国、北朝鮮を指弾するだけでは不十分です。核兵器を保有し、あるいは配備を許可し、その使用を容認しているG7諸国は、『核兵器なき世界』という目標を達成したいというのであれば、軍縮協議において他の核保有国を巻き込む努力をしなければなりません。」とホグスタ事務局長代行は指摘した。

広島で5月19日に行われた記者会見で、ノーベル平和賞の受賞団体であるICANは、「『核兵器なき世界』という自らの目標を前進させる具体的な提案を打ち出すことにG7首脳らは失敗した。」と述べた。

ロシアや北朝鮮による核使用の恫喝によって、冷戦後最も核紛争の危険が強まっている中、日本の岸田文雄首相は、核軍縮を重要な議題とするために、史上初めて核兵器で攻撃されたこの都市をG7サミットの会場に選んだ。

ICAN
ICAN

G7首脳らは広島平和記念公園と平和記念資料館訪問で日程をスタートさせ、ここで被爆者にも面会した。ICANは、この面会を歓迎する一方で、「もはや平均年齢85歳にもなる被爆者が求める、彼らが生きている間の核兵器廃絶と言う声に首脳らが耳を傾けたとは思えない。」「今日の首脳声明に書かれてあったことは、実質的な軍縮に繋がる新たな措置を含んだ、信頼性の高いビジョンを提示することができなかった。」と述べた

ICANはまた、「G7首脳らはすべての国家に対して『その責任を深刻に受け止める』よう求めたが、そのG7諸国自体が、現在の核兵器がすべての人々に対して与えている脅威に関して自らの責任を回避している。」と指摘したうえで、「G7首脳らは、核兵器は『防衛目的』にのみ使用されるべきというが、核兵器は無差別的かつ不均衡であり、大規模な殺傷を目的としているため、国際人道法の下では『防衛目的』だとみなすことはできない。」と述べた。

さらに、「G7の3つの核保有国は核能力強化のために多額の資金を投じている、と指摘した。今日の声明は、すべての核保有国に対して、核戦力に関するデータを公開し、核戦力を縮減しつづけるよう要請しているが、すべてのG7諸国が自らの核兵器に関して透明性を保っているわけではないし、自国領土に核を配備させている国もある。さらに一部の国は備蓄を増やしてもいる。」と指摘した。

G7は岸田首相の「ヒロシマ・アクション・プラン」を称賛しているが、目下の緊急性を反映していない、従来からの不拡散措置の焼き直しであり十分とは言い難い。

「世界が直面している安全保障上の問題にG7が対応するために必要なことは、核兵器禁止条約によって確立された国際法の枠組みの下で、すべての核保有国を巻き込んだ協議を行い、具体的かつ実行可能なプランを立てることだ。」とICANは指摘した。

ICANのパートナー団体である「ピースボート」の川崎哲氏は「日本国民、とりわけ被爆者は岸田首相に失望させられました。広島でG7サミットを開催することで期待感は高まりましたが、核兵器廃絶に向けた実質的な進展はありませんでした。」と語った。

ICANは以下のように補足している。

1.すべてのG7諸国は安全保障政策において核兵器の役割を認めている(核保有国:フランス・イギリス・アメリカ、核兵器配備容認国:ドイツ・イタリア、「核の傘」(核依存)国:カナダ・日本)。

2.日本の岸田文雄首相は広島を地盤とし、米国が1945年に核兵器を使用したことで自身の親戚も被害に遭っている。岸田首相は今年のG7を広島で開催し、核軍縮・不拡散を議題とすることを決定した。ロシアのウクライナへの全面侵攻と、北朝鮮による短距離・長距離ミサイル実験の継続という状況を受けて、1945年以来初めて核兵器が使用される危険性が高まっているためだ。

3.国連の核兵器禁止条約は現在、署名国92、批准国68である。

4.核不拡散条約第6条は、G7諸国の全てを含めた全ての締約国に対して、次の通り、核軍縮追求を義務付けている。「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。」(原文へ

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