人口1億5700万人のバングラデシュは、その49%が女性である。あるメディアの調べによると、女性たちは、その声が「聞かれる」よりも新聞のイラスト入りの記事で「見られる」ことの方が多いという。女性の多くはテレビを持たず、新聞を読むこともできないが、コミュニティーラジオがこの状況を変えようとしている。バングラデシュ北西部チャパイ・ナワバンジ県出身の学生のモメナ・フェルドゥシさん(24)は、有望なラジオ専門家の一人である。声なき人々、貧しい人々、読み書きができない女性たちに声を与え、彼女たちの関心を世界と共有するための第一歩にしたいと決意を固めている。
【ダッカIPS=ナイムル・ハク】
どれだけ新聞の見出しを飾ったかという基準から言えば、バングラデシュの女性は国の中で主要な役割を果たしていないと考えたくもなる。
非政府組織「バングラデシュ・ナリ・プロガティ・サンガ」(BNPS)によるメディア調査によると、2か月間の3361本の報道のうち、「女性をテーマとしているか、女性にインタビューしたもの」は新聞記事の16%の新聞記事、テレビニュースの14%、ラジオニュースの20%に過ぎなかったという。
すべての項目のうち、女性を中心的に取り扱ったのは8%弱であった。テレビに登場する数少ない女性のうち、97%がニュースの読み手であり、わずか3%だけが「記者」であった。
署名入りニュースのうち、女性の署名入りのものはわずか0.03%だけだった。
調査では、写真の場合は男性よりも女性が多く登場するのに、女性ははるかに少ない回数しか言及されない、としている。人口1億5700万人のバングラデシュには、女性は「聞かれるよりも見られるもの」ということわざがあるが、それが証明されているようなものだ。
こうした調査結果を見ると気落ちしてしまうが、座視して状況が変わるのを待ってはいられないと決意した女性たちが、自らの手で事態を切り開こうとしている。彼女たちは、ラジオを利用して、女性の声を伝え地域の問題に焦点をあてる道具にしようとしている。
女性はバングラデシュの人口の49%を占めている。同国の人口の大部分と同じく、女性たちも農村部に固まっている。農村部には、人口の72%にあたる1億1120万人が住んでいる。
政策決定にあずかる都市中心部から離れていることは、女性をますます「見えにくい」存在にしている。BNPSの調査から得られたデータによると、農村部あるいは遠隔地に焦点をあてたニュースは、新聞記事の12%、テレビニュースの7%、ラジオニュースの5%だけだという。しかし都市部は、バングラデシュの面積のわずか8%、人口の28%を占めるにすぎないのである。
女性と女性問題がメディアに不在であることは、国連開発計画(UNDP)のジェンダー不平等指標(GII)で187か国中142位であり、アジア太平洋地域でももっとも状況が悪い国のひとつであるバングラデシュの危険な傾向である。
しかし、このこと自体もメディアでは触れられない。BNPSの調査では、調査されたニュース3000本のうちジェンダー平等に触れたのは1%以下であり、一般的なジェンダーのステレオタイプを問題視したの記事はわずか11本だけであったことが判明している。
国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)によれば、世界の平均識字率84.3%に比較するとバングラデシュのそれは59%ときわめて低い。こうした国では、ラジオの重要性は過小評価できない。
貧困線以下で暮らしている人びとが24%にも上るバングラデシュにおいても、ラジオは外の世界とつながれる比較的手軽な手段として、人口の大部分を占める農村部の人々の間で人気を博している。
農村女性の声を広める
バングラデシュ北西部チャパイ・ナワバンジ県出身の学生モメナ・フェルドゥシさん(24歳)は、有望なラジオ専門家の一人である。2011年に立ち上げられたコミュニティーラジオ局「ラジオ・マハナンダ」のシニアプロデューサーを務めている。このラジオ局の主な目的は、7780平方キロ(=ほぼ静岡県の大きさ)のバリンド地域の一部を成すこの農村地帯の農家に奉仕することだ。
フェルドゥシさんはIPSの取材に対して「私や将来への希望を持った多くの女性ラジオ局スタッフが『ラジオ・通信のためのバングラデシュNGOネットワーク』(BNNRC)から受けた支援と訓練がなければ、今の自分はなかったと思います。」と語った。
BNNRCの行っている奨学生・能力開発プログラムによって、バングラデシュ全土にある14のコミュニティーラジオでプロデューサーや番組司会、キャスター、記者、局の管理者などのポストを数多くの女性が占めることになった。
フェルドゥシさんは、「雇われるまでの道のりは険しいものだった」と振り返りながら、「でも、BNNRCは、私や他の女性ジャーナリストたちに可能性を見いだしてくれました。私たちも、情報に対する女性の権利が立ち遅れている状況に対処することで、かなりの変化を起こせたと考えています。」と語った。
さて、別の場所では、シャルミン・スルターナさんの自信に満ちた声が「ラジオ・ポリコント」で響いていた。このコミュニティーラジオ局は、モウルビバザールの北東部で放送され、半径17kmの約40万人に聴取されている。
ラジオ・ポリコントは、主に農村女性の抱える問題に焦点を当てた毎日5時間の番組で、この地域における大きな格差を埋めてきた。
スルターナさんは、「番組を作って、ゲストと直接生放送話をし、健康や女性の権利、社会的不正、教育、農業といった問題でラジオを聞いてくれている人々のリクエストに応えるのは、本当に楽しいです。」と語った。
「私たちが始めた時には、女性問題についての番組はひとつしかありませんでした。しかし今では、女性だけの問題を扱った番組を週に5本も放送しています。」
「私たちの番組を聞いてくれている人々のほとんどが貧困層の女性です。テレビもなければ、新聞も読めません。粗末な携帯電話でも聞くことができるFMラジオは非常に人気があり、双方向的なライブ放送を求める声は日増しに強まっています。」とスルターナさんは語った。
バングラデシュで女性が直面している問題はきわめて多い。
公的部門で雇用されている女性は1680万人に過ぎない。大多数の女性は、農場での仕事に加えて、賃金の発生しない家内労働に従事している。
経済的に自立を果たしていないということは、家庭内暴力に対してきわめて脆弱になるということでもある。バングラデシュ統計局(BBS)副局長が最近行った調査によると、現在結婚している女性の87%が夫からの暴力を受けた経験があり、98%の女性が結婚している間のいずれかの時点において配偶者から性的に「虐待された」と語っている。
またこの調査では、すべての婚姻女性のうち3分の1が「経済的な人権侵害」を受けていることも明らかになった。つまり、暴力をふるう夫が妻を自分に経済的に従属させ続ける目的で、その女性の資産を強制的に取り上げるのだ。
2011年には、330人の女性がダウリー(婚姻に伴う持参金)関連の暴力によって殺害されている。
児童婚のようなその他の問題も、女性向けコミュニティーラジオにとっての喫緊の課題となっている。国連のデータによると、バングラデシュの少女の66%が18歳の誕生日を迎える前に結婚するという。
状況は依然として厳しいものだが、専門家らは、女性が教育を受け自分の権利を自覚するようになるにつれ、流れは不可避的に良い方に向かうであろうとみている。
バングラデシュ全土にコミュニティーラジオ放送を広める取り組みを主導してきたBNNRCのA・H・M・バズルール・ラーマン事務局長は、IPSの取材に対して、「政策立案者らは、予算の分配、適切な衛生政策の欠如、女性への暴力、汚職との闘い、女児教育といった問題を(しばしば)無視する傾向にあります。しかし、女性に発言権を与えることができるならば、こうした問題は徐々に消えてなくなるだろう。」と語った。
今後より多くの女性の声がコミュニティーラジオで取り上げられることで、はたしてエンパワーメントを必要としているバングラデシュ国民の半数の人々(=女性)の地位を引き上げられることにつながるかどうかは未知数だ。しかし、女性の声がラジオ番組で生き生きと発せられるたびに、また別の女性がその話に耳を傾け、自分の権利について学び、平等へとまた一歩近づくことになるのだ。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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