【IPSオピニオン=タルミズ・アフマド】
「ISIS(イラクとシャームのイスラム国)に参画する多くのアラブ人青年らにとってのISISの魅力とは、自らの歴史と伝統に基盤を置く大義の下に参加したいという彼らの希望を満たしながらも、中東地域全体でアラブの独裁者らに闘いを挑んでいる点にある。」
昨年、自らをカリフと称するアブ・バクル・バグダディは、モスルにあるモスクの壇上から集会の参加者に演説を行い、「イスラムの土地へのヒジュラ[移住]は義務的なもの」であるとして、全てのイスラム教徒に対してISISへの移住を呼び掛けた。
バグダディは自らの領土を「アラブ人と非アラブ人、白人と黒人、東洋人と西洋人がみな兄弟であり、ひとつの旗と目標の下に、彼らの血は交わり一つになる」ような場所だと述べた。
この呼びかけに応じた人々の数は驚くべきものだった。ISISには20万人の兵士がおり、そのうち3分の1が既に戦闘を経験済みだという。そのほとんどはイラクやシリアの出身だが、少なくとも3万人は80か国から集まった外国人だという。うち7000人が、女性2500人を含む欧州出身者である。
トルコ・シリア国境の監視が緩かった昨年までは、数百人の若い新参兵がISISに加わるために毎日国境越えをしていた。ほとんどが15~20歳で、女性の場合でも、最低年齢はそれを少し上回る程度だった。男たちには月給500~650ドルが支払われている。婚姻局が結婚を促進し、相談部局が結婚生活の諸問題を取り扱っている。
ISISへの入隊勧誘がほぼオンライン上で行われていることは驚くにあたらない。ISISは最新のソーシャルメディアと非常に能力の高いIT専門家を使い、キック(Kik)やワッツアップ(WhatsApp)、スカイプといった非常に探知しにくいツールを通じて複数言語でそのメッセージを発信している。(「ムスリムブック」と呼んでいる)自らのフェイスブックやスマートフォンのアプリ、イラク駐留の米兵が標的となったビデオゲームなども使っている。
「デジタル国家」
アラブの著名な評論家アブデル・バリ・アトワン氏は、デジタル技術が占めるこうした中心的な役割に関して、ISISは「デジタル国家」だと述べている。インターネットなしでは兵士を雇うことも、領土征服も成しえなかっただろう。
ほとんどの兵士は、例えば、「聖戦(ジハード)のない人生なんか考えられない」といったタイトルの勧誘映像を通じて、引き寄せられてくる。この映像は、さまざまな出自を持つ3人の過激派戦士(ジハーディスト)を登場させ、戦闘の状況について語らせたり、ISISでの生活がいかに快適なものかを語らせたりしている。あるジハーディストは「ジハードに参加する光栄ほど、鬱屈した状況への薬はない」と語っている。ISISは単に戦士を集めているだけではなく、様々なスキルを持った人々を歓迎する。「それぞれに役割はある」―映像はそう呼びかける。
ここで投影されるメッセージには2種類のものがある。つまり、①(「ジハーディ・クール」と呼ばれる)若者たちの俗語を使いながら、集団の「兄弟愛」に焦点を当て、ISISが青年たちが「属する」に値する場所であることを訴えるものと、②人質や敵集団との戦闘や殺害に焦点を当て、ジハーディストの最高の貢献として「殉教」を称賛するものである。
女性に向けられたメッセージも同様に二分法を反映している。一つは、料理のレシピや、特定の食料の慢性的な不足、季節替わりの際の温かい衣服の必要といったことに触れるものであり、もう一つは、彼女らの夫の殉教や敵兵の殺害を称賛するものである。敵兵の東部がペットの子猫と並べて表示されてすらいるのだ!
数多くの新兵参入、その多様な背景を考えると、ISISに加わる動機は幅広いものだと言ってよいだろう。中核的な小集団にとっては、主な誘因は宗教的なものを動機としている。彼らは、自分たちはイスラム教のためのジハードに従事していると信じており、「カリフの領土」の創設に歓喜している。ユダヤ人が数百年にわたって聖地を望んできたように、自分たちもカリフの領土を望んできたのだという。あまりに長きにわたって敗北と絶望の日々が続いたのち、自分たちは新たなイスラムの領域を建設するパイオニアとなったのだと自負している。
この集団のまた別の人々は、スンニ派の教義を熱心に標榜するISISのアプローチに好意的に反応している。つまり、多くのスンニ派イスラム教徒の間では、反シーア派感情が根強く、シーア派はイスラム教徒ではなく、(シーア派の大国)イランの指導の下に全てのイスラム国家が乗っ取られようとしていると考えている。
こうした感情は、数百万のフォロワーを持つソーシャルメディア上で聖職者が書く過激な言葉に強く煽られている。
しかし、ISISに加わる若者らの間で、宗教的な熱意が動機となっている者はほとんど見られない。フランスで活動する米国人学者スコット・アトワン氏は、「(ISISに加わるため)シリアに向けて出国する一部の青年らは、ダミーとして(!)コーランを持参しているのです。」と指摘した。つまり、ほとんどのこうした若いISIS新兵にとっての誘因は、(カリフが支配するイスラム国を建設するという)世界的に重要な計画に自身が参加するという冒険心と同志愛である。アトワン氏は、ISISの中核的なグループの多くが、宗教や地政学には無関心な「社会の主流から取り残された、はみ出し者たち」であると見ている。彼らは今や、「世界を変革し救う極めて魅力的な任務」に就いており、「栄えある大義のために同志に加わる喜び」を感じているのだという。
イスラム教とジハードの研究を専門とするフランスの学者オリビエ・ロイ氏も、アラブの若者がISISに惹かれることに宗教的動機はないというアトワン氏の見解に賛同している。ロイ氏は、「こうした青年らにとって、ISISへの参加は、自分たちを親の世代から分け隔てている深いジェネレーション・ギャップ(世代的隔たり)の表れであり、ごく短期間に急激な社会変化を経験したため、イスラム社会ではこのギャップ(隔たり)はより大きなものになっている。」と指摘した。
欧州では、アラブ系の若者が、社会の最底辺にいる自分たちの生活や、文化的な根無し草の状況、嘲りとイスラム憎悪の対象となってきた経験から、親の世代を非難している。彼らが反社会的な暴力行動に走る傾向は、19世紀フランスの無政府主義者や、近年ではドイツ赤軍派のものに近いものを認めることができる。
ISIS幹部の大部分を構成する中東出身のアラブ人にとって、各々の社会に対して募らせてきた疎外感は、不透明で説明責任が全く果たされず、政治的な意思決定プロセスに彼らが参加する門戸が完全に閉ざされたままの政治体制に起因するものだった。
こうした若者たちは、この5年間、「アラブの春」によって生まれた希望が潰され、こうした政治秩序を維持するために暴力が振るわれるのを目の当たりにしてきた。
ISISに参画する多くのアラブ人青年らにとってのISISの魅力は、自らの歴史と伝統に基盤を置く大義の下に参加したいという彼らの希望を満たしながらも、地域全体でこうしたアラブの独裁者らに闘いを挑んでいる点にある。従ってこれは、自分たちが英雄的な中核の役割を果たし、歴史的重要性をもつ企図に関与しているという、アラブの若者たちの感覚に訴えるのである。
従ってISISは、絶望した人たちが駆け込む聖域となってしまっている。ISISが青年らを惹きつけている危険な魅力を弱めることができるとすれば、それは、民衆に自由と尊厳を与えるような政治秩序の改革が中東において実現した時のことだろう。(原文へ)
※タルミズ・アフマドはインドの元外交官。インドの駐サウジアラビア大使(2000~03、10~11)、駐オマーン大使(2003~04)、駐アラブ首長国連邦大使(2007~10)。外務省退職後は、ドバイでのエネルギー企業に勤める。
翻訳=IPS Japan
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