ニュースイスラエルがイランへの威嚇を再開するなか、専門家は自重を求める

イスラエルがイランへの威嚇を再開するなか、専門家は自重を求める

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、再びイランの核施設に対する攻撃を示唆する中、米国の専門家・元外交官ら29人がバラク・オバマ大統領に対して、新たにイラン大統領に選出されたハサン・ロウハニ師の政権誕生後の交渉において、最大限柔軟に対応するよう求めている。

大統領宛ての書簡は「あらゆる懸念を解決する合意に到るには時間がかかるが、イランとの外交交渉は、我々が既存の制裁やその他の措置を、あくまでもイラン側からの互恵的な妥協を引き出す目的で活用する用意がある場合にのみ、成功するだろう。」と述べている。

この書簡の署名者には、トーマス・ピカリング元米国務次官(政治担当)、ブルーノ・ペイヨ元国際原子力機関(IAEA)副事務局長がいる。

「さらに、ロウハニ政権発足までに、すべての当事者が、この外交的機会を危機にさらす挑発的な行為は控えることがきわめて重要だ」と書簡は述べている。この書簡には、ピーター・ジェンキンス元英国IAEA大使や、米中央情報局(CIA)で2000年から05年まで近東・南アジア担当の情報分析官を務めたポール・ピラー氏も署名している。

「米国は現段階において追加制裁を実施したり検討したりすべきではない。なぜならそのような動きは、政策をより穏健な方向に転換しようとする(イラン国内の)勢力を犠牲にして、核の問題で譲歩することに反対している強硬派を勢いづけることになるからだ。」と書簡は述べている。

この書簡は、2006年以来核問題に関してイランと交渉しているいわゆる「P5+1」(米国、英国、フランス、中国、ロシア+ドイツ)の高官が会談を行う予定の7月16日の前夜に出されたものである。

この書簡は、日曜日の人気番組「CBSニュース」でのネタニヤフ発言と並んで、オバマ政権が、エジプトで7月3日に発生した軍のクーデターの問題、米国の支援する反体制派にとって風向きが悪くなりつつあるシリア内戦の問題、アフガニスタンからの米軍撤退のペースとタイミングに関する新たな不確実要素の問題、ますます悪化するタリバンとの和平協議の見通しといった諸問題に取り組んでいるなかで、出てきたものである。

ネタニヤフ首相は、こうしたオバマ政権が直面している諸問題についてイラン核問題以外の重要性は比較的低いと指摘したうえで、「米政権にはイラン核問題に関する危機感がなさすぎる」とオバマ政権の姿勢に不満を表明した。

ネタニヤフ首相は、「これらの問題は重要ではありますが、核兵器を保有しようとしているこの救世主的かつ終末論的で過激な(ロウハニ)政権に比べれば、大した問題ではないと言わざるを得ません。」と述べ、昨年はほとんど控えていた激しい口調を復活させて、イランを非難した。

ネタニヤフ首相はまた、単独軍事行動を取るという従来からの威嚇を改めて繰り返して「私は手遅れになるまで待つつもりはありません。」と述べた。

そのうえでネタニヤフ首相は、「P5+1」に対して、核濃縮作業の全面停止、コム近くの地下濃縮施設の閉鎖、既存の濃縮ウラン備蓄の海外への移送、をイランに要求するよう求めた。

さらにこれらの要求について、「制裁の段階的強化によって裏付けられる必要があります。もし制裁の効果がないときは軍事行動をとる準備があることをイランに知らしめなければなりません。そうして初めて、制裁にイランの目を向けさせることができるのです。」と語った。

米国の専門家らは、先月のイラン大統領選挙の結果が、明確に穏健派や改革主義的な有権者の支持を背景としたロウハニ師の選出に終わったことを、驚きと警戒を含んだ楽観主義で迎えていたが、ネタニヤフ首相は、このロウハニ師を評して、「羊の皮をかぶったオオカミだ。」と語った。

またネタニヤフ首相は、ロウハニ師の外交的手腕と戦略的目的についても言及し、(ロウハニ師は)「笑顔で核兵器を作る人間だ。」と語った。

オバマ政権の中にはこうしたネタニヤフ発言を快く思わない向きもある。ある政府関係者は匿名を条件に、「このCBSニュースによる(ネタニヤフ首相の)インタビューはあまりよい効果を生まなかった。」と語った。

たしかに、7月1日にイランに対して新たな経済制裁を課したばかりのオバマ政権は、ロウハニ政権が発足する8月4日から少なくとも1か月以内の9月に行われると予想される次の「P5+1」との交渉以前に追加制裁を行うことに反対する意向を、ロウハニ師選出以来密かに伝えている。

米国政府高官らは、先週末の記者会見で、4月にカザフスタンのアルマトイでイランと行った前回の交渉で提示した提案に対する公式の反応を米国と「P5+1」パートナー諸国が受け取らないかぎり、新たな譲歩をする用意はない、と明らかにした。

「P5+1」は前回の交渉で、イランが20%ウラン濃縮を停止し、20%濃縮ウランの備蓄を海外移送することと引き換えに、信頼醸成措置(CBMs)として、金・レアメタル取引、及び石油化学輸出の一部に対する制裁を解除することを提案している。

同高官らは記者団に対して、この提案は「条件を飲むか飲まないか二者択一を迫る」といった類のものと見るべきではなく、もしイラン政府がより包括的な合意を求めているのならば、「P5+1」側も検討する用意がある、と語った。

その際、ある高官は、「もしイラン側がイエスと言えば、我々もCBMに関心があるが、より大きなことを議論してもかまわない。」「もしイランが20%(濃縮ウラン)に関する3つの措置全てに関心があるが、制裁もさらに解除してほしいというのなら、(我々の反応は)『そちらの目的は何か?これが見返りに我々が望むことだ』と言うだろう。それが交渉というものだ。」と語った。

高官らはまた、オバマ政権は「P5+1」の枠内でイランとの二国間直接協議を呼び掛けてきたが、イラン政府はそれまでのところこの提案を無視してきている、と強調した。

「二国間協議には価値があると我々は考えている。」「できるだけ適切な方法で努力を強化したいと思う。」とある高官は語った。

ロウハニ師は選挙期間中、対立候補のサイード・ジャリリ氏が率いる現在の交渉チームは柔軟性に欠けていると批判した。ロウハニ師は、当選後初めての記者会見で、米国との関係は「癒すことが必要な古傷」だと述べたが、二国間協議については言及しなかった。

イランの核計画と米国との二国間関係について最終的な決定権を有すると考えられている最高指導者アヤトラ・ハメネイ師は、米国政府との直接協議の価値については懐疑的な立場を示してきたが、一方で完全否定もしていない。

一方、イスラエル・ロビーがかなりの影響力を持っている米議会においては、ここ数週間、ネタニヤフ首相のタカ派的発言に共鳴する声が聞かれるようになった。

今月初め、共和党が多数を占める下院外交委員会の委員46人のうち1人を除く全員が、ロウハニ師の当選にも関わらず、既存の対イラン制裁の抜け穴をふさぎ制裁を追加することで、イランへの圧力を強化するよう求める書簡をオバマ大統領に送った。この書簡は、下院においては、ロウハニ政権が始動する前にさらなる制裁案を通す動きが出てくることを予測させるものである。

しかし同時に、チャールズ・デント下院議員(共和、ペンシルバニア州)とデイビッド・プライス下院議員(民主、ノースカロライナ州)が共同提出したオバマ大統領への超党派書簡は、「ロウハニ師の当選が、イラン核計画に関する検証可能で執行可能な合意に向けた進展への真の機会となるかどうかを試してみないのは誤りだ。」と警告している。

このデント=プライス書簡は、米政府は「ロウハニ師の主張する『和解と和平の政策』に反対するイラン体制内の強硬派に対して、ロウハニ師の立場を弱めるような行為」は避けるべきだ、としている。

これまでのところ、定員435人の下院において決して少なくない61人の議員が、この書簡に署名している。

オバマ政権の関係者は、こうした取り組みにも関わらず、次の「P5+1」協議の前に下院が新たな制裁を承認するかもしれないが、上院は恐らくそれに追随しないだろう、と語った。

29人の専門家と元政府高官らが7月15日に発表した書簡の内容は、デント=プライス書簡の内容と共鳴するもので、米国政府はロウハニ大統領誕生というせっかくの「大きな機会」を無駄にすべきではないという点を強調している。

(本記事の冒頭で触れた)「全国イランアメリカ協議会」が発表したこの書簡には、「この機会が真の結果を生み出すかどうかはわからない。しかし、米国、イラン、そして国際社会には、我々の目前にある機会を逃したりつぶしたりする余裕はないのである。」と述べられている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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