ニュース米選挙戦で致命的な問題になる核戦争

米選挙戦で致命的な問題になる核戦争

【ニューヨークIDN=ロドニー・レイノルズ】

米国大統領選が熱を帯びるなか、人類の生存そのものを巡る問題が、激しい論争を引き起こす主要な課題になってきている。それは、意図的あるいは不慮の核戦争の脅威が迫っているという問題だ。

11月8日には、米国民は実質的に2人の候補者の間で選択をすることになる。一人は、民主党候補で元国務長官のヒラリー・クリントン氏、もう一人は、共和党候補でニューヨーク出身の自称大富豪実業家ドナルド・トランプ氏である。

クリントン氏は、米国の核戦力近代化を含む、まもなく任期を終えるバラク・オバマ大統領の核政策を受け継ぐと約束しているものの、自制的な態度を保っている。他方で、トランプ氏は米国による核兵器の使用に関して「無謀」だとか「抑制不能」だとか言われてきた。

ある懐疑的な人物が指摘したように、「トランプ氏には確固とした政見も、政策に関する理解力も、15分後に翻さないいかなる一貫した立場も持ち合わせていないと言われている。彼は少なくとも7回、所属政党を変えている。」

『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、クリントン氏は、「ツイートで釣れるような人物に核兵器を委ねることはできません。」と発言したと伝えられている。

米科学者連盟」核情報プロジェクトの責任者で核兵器に関するもっとも著名な民間専門家のひとりであるハンス・M・クリステンセン氏が8月4日の『ニューヨーク・タイムズ』に寄せたコメントによれば、最高司令官としての米国大統領は、広島型原爆1万7000発以上の破壊力を持つ925個もの核弾頭を発射する決定をわずか数分の間に下すことができるという。

他国(日本)に対する核攻撃を命令した唯一の大統領は、ハリー・トルーマンである。第二次世界大戦の最終盤、1945年8月のことであった。

米国が関与し得る核シナリオについて、ワシントンDCを拠点とする「公共情報精度向上研究所」 のノーマン・ソロモン事務局長は、IDNの取材に対して、「核兵器に関する問題が大統領選の主要候補者によって一貫性のある形で論じられ、かつ大きく取り上げられるかどうかについては、確信が持てません。」と語った。

ソロモン事務局長はさらに、「ドナルド・トランプ氏は恐ろしいほどに無謀なレトリックを用いていますし、ヒラリー・クリントン氏は、今後30年で1兆ドルをかけて新世代の核兵器開発を始めるという、オバマ政権の極めて無責任な方針を継承する意思表示をしています。トランプ氏は狂気を漂わせる一方で、クリントン氏は社会学者のC・ライト・ミルズ氏が『狂気の現実主義』と呼んだものの典型です。」と指摘した。

「クリントン氏はワシントンで支配的な主流のコンセンサスの範囲内にとどまっています。従って、従来のメディア通念からいえば、彼女は合理的で責任感があるということになります。事実、核兵器近代化計画へのクリントン氏の支持は、ある種の狂気を体現していますが、同時に米国で最も強力な政治勢力が『冷静な合理性』とみなすものの範疇に収まっているのです。」

「クリントン氏に関して特に危険なのは、さらなる米国の核開発・配備に対する彼女の支持が、ロシアへの好戦的なアプローチと結びついていることです。東への勢力拡大を続けてきた北大西洋条約機構(NATO)がロシア国境にまで近づき、ロシア政府が国の安全に関わるとみなすものに対してそれとなく脅威を及ぼしているなかで、こうしたことが起こっているのです。」とソロモン事務局長は訴えた。

「もし核兵器政策に関して公的論議に対する首尾一貫性のある建設的な寄与があるとすれば、それは、民主党や共和党の大統領候補者以外のところからくるだろう」と、『よく分かる戦争―われわれを死に導く大統領と政治評論家』の著者であるソロモン氏は語った。

国際平和・地球ネットワーク」の共同呼びかけ人で、「国際平和ビューロー」の理事でもあるジョセフ・ガーソン氏は8月4日、IDNの取材に対して、「選挙戦を通じて、ドナルド・トランプ氏の無知や、民衆や状況に対する冷酷なアプローチ、情緒の不安定さについての疑問やそれに関する恐怖について語られることが多くなってきました。」と語った。

「ある外交政策アドバイザーが行ったブリーフィングの際に、トランプ氏が、危機や戦争に際して、『米国はなぜ核兵器を使うことができないのか?』と繰り返し訪ねたというジョー・スカーボロ氏(米国のテレビ・ラジオキャスター)による報道は、こうした恐怖を裏付けるもののように思えます。」と広島で取材に応じたガーソン氏は指摘した。

予想どおり、トランプ氏はこの報道内容を否定した。

「トランプ氏はそれ以前にも、米国の核兵器の『三本柱』が何か知らないと明言したうえで、イスラム国(ISIS)に対して核兵器を使用する可能性を排除しませんでした。」とガーソン氏は語った。

核兵器使用の可能性を巡るトランプ氏の問題発言をとりあげたこの報道は、ウィリアム・ペリー元米国防長官が、今は冷戦期よりもむしろ核兵器が使用される可能性が高まっていると警告している時期になされたものである。

「これまでのトランプ氏の発言を考えると、これは実際にありそうなことです。」とガーソン氏は警告した。

「核兵器について既に長らく知られていること、つまり、①人類と核兵器は共存できないこと、②たった一発の核兵器でも都市に対して使われたならばその爆発が引き起こす人道的帰結にまともな対応をすることが不可能であること、③核攻撃はいうに及ばず、海上における小規模な事件であっても、全面的かつ地球破壊的な戦争へと発展しかねないこと、を考え合わせると、トランプ氏の発言は、(1964年のハリウッドの風刺映画「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」に出てくるドクター・ストレンジラブ博士の核の狂気を彷彿とさせるものです。」

「ここ広島でも、そして『核軍縮に関する公開作業部会』(OEWG)の重要な第3会期(8月5日、16~19日)が開催されるジュネーブでも、トランプ氏の発言は、地球上の普通の人々や活動家、政府高官らを震え上がらせることでしょう。」

ガーソン氏は、「トランプ氏の言動は既に、米国の行く末に関する疑問と恐怖を引き起こしています。」と指摘したうえで、「さらに悪いことに、彼の言葉は核兵器拡散への圧力を強め、攻撃的な米国を抑止するために核戦力を開発する必要があるとの見方を強化してしまうことになります。」と語った。

こうなると、核兵器が今世紀ではなく「数世紀後に」廃絶できると語った女性、ヒラリー・クリントン氏と彼女のアドバイザーらがトランプ氏の発言や彼に関する報道内容をいかに自らの選挙戦に活用していくか、クリントン陣営の動向をこれまで以上に注視して見守る必要がある。

ガーソン氏は、「現在の状況は、かつて1964年の大統領選挙戦で、リンドン・ジョンソン民主党候補の陣営がバリー・ゴールドウォーター共和党候補に対して効果的に用いた、タンポポの花びらを無邪気にカウントしながらむしり取る少女のイメージと核爆発へのカウントを重ね合わせた広告を打つのが適切な状況に思えてきます。」と語った。

「それはトランプ氏の選挙戦にとってのとどめの一撃になるかもしれません。」

「私たちは、ジョー・スカーボロ氏が彼の番組で言及した『ある外交政策アドバイザー』が、自ら名乗り出てトランプ氏の核兵器使用の可能性を巡る疑惑の発言内容について、実際のやりとりを公表する勇気を持つことを願うばかりです。もしそうすればこの専門家は職を失うことになるかもしれませんが、同時に人類を救うことにもなるのです。」とガーソン氏は強調した。(原文へ

翻訳=INPS Japan

関連記事:

|NATO・ロシア|危険な核陣営間の言論戦

大統領令による「オバマ核ドクトリン」の実施に支持を

2016年核セキュリティサミット:オバマ最後の努力(ジャヤンタ・ダナパラ元軍縮問題担当国連事務次長)

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken