地域アジア・太平洋|フィリピン|「超法規的殺害」に国連が命綱

|フィリピン|「超法規的殺害」に国連が命綱

【バンコクIPS=マルワン・マカン・マルカール】

左派傾向の思想を持つ政治家や活動家を抹殺しようとする非人道的な一連の事件に関わったとしてフィリピン軍部を糾弾することで、国連の使節団は命の危険に晒されている多くの人々に命綱を投げかけたようである。 

国連の超法規的殺害に関する特別報告者であるフィリップ・アルストン氏は、21日にマニラで発表された声明の中で、フィリピン国防軍(AFP)は、この東南アジアの国、フィリピンで起きた政治的殺害について、その多くが「AFPにほぼ間違いなく起因する」にもかかわらず、「ほとんど完全否定という状態を変えようとしない」と述べた。 

さらにアルストン氏は、殺害事件の捜査が不十分であり、適切な「法医学的」措置をとらないことが多いとして、フィリピン国家警察を非難した。特に捜査の甘さを指摘し、そのために「虐殺者」あるいは「死刑執行人」と呼ばれていて最近退役したホビト・パルパラン陸軍少将が、自身が勤務していたフィリピン諸島北部の中部ルソン地方などで起きた大量の超法規的殺害への関与に対する嫌疑を回避してしまったと語った。 

マニラの全国ネットのテレビ局であるグローバル・メディア・アーツ(GMA)は、「AFPの指揮官が、徹底的な内部調査に乗り出すのではなく、パルパラン少将に対する執拗で広範囲の疑惑は根拠がないものだと安心させるために少将自身に3度も電話しているようでは、まだまだ前途多難であることは明らかだ」というアルストン氏の発言を報じた。 

パルパランがフィリピンの左派に対して抱いている見解は、広く知られている。昨年は「左派の活動には嫌悪感を持たなければならない」とフィリピンのメディアに語った話が報道された。それ以前にも、「合法的な存在ではあるが、非合法の活動を行なっている」などと述べて合法的な左派活動家に対する自身の悪感情を正当化したと伝えられていた。 

オーストラリア出身のアルストン氏は、繰り返される政治的殺害を10日間にわたって調査した後、コメントを発表した。地元の人権グループは、グロリア・マカパガル・アロヨ大統領が2001年に就任して以来、殺害された人々は830人を超えたという。犠牲者には、ジャーナリスト、弁護士、裁判官、僧侶、労働組合員、草の根の活動家、人権擁護者に加えて、360人以上の左派活動家が含まれている。 

「アルストン氏が毅然として取り組んだことで、アロヨ政府が広めた主張の誤りと虚偽が明らかにされた」と、フィリピン最大の左派連合「バヤン」のレナト・レイエス事務局長は、IPSの取材に応じてマニラから語った。「これがさらに、特に殺害を続けさせ容認してきた軍の役割に対策を講じるため、政府に対して何か手を打つよう圧力をかけるにちがいない」。 

「これで政府が責任を否定する余地は劇的に少なくなり、アルストン氏が3ヶ月を費やして最終報告書を発表するときには、よりいっそう厳しくなるだろう」とアロヨ政権を批判する人々はいう。左派のバヤン・ムラ党に所属するテディ・カシーニョ下院議員はIPSのインタビューに応えて、「アルストン氏のコメントは客観的で公正だ」と語った。「政府は超法規的殺害についての責任を否定できず、調査結果を認めなければならない」。 

国連の使節団がフィリピンの左派活動家に投げかけた命綱は、感謝の念で受けとめられている。AFP通信社によると、アルストン氏は、左派に対する支持が強い地域で国民の支持を得るために行なったフィリピン政府の反乱対策作戦が、「左傾組織を中傷し、そうした組織の指導者を恫喝しよう」とする試みを招いたと語った。「いくつかの事例では、そのような恫喝がエスカレートして超法規的処刑となった」。 

アルストン氏のコメントは、他の批判的報告書と同調して、殺害される政治家の多さを釈明するために当局が主張する議論を退けた。たとえばフィリピン軍は、非合法化されたフィリピン共産党(CPP)の軍事部門である新人民軍(NPA)の内紛に責任を負わせようとしてきた。 

国連使節団の調査結果はまた、元最高裁判事のホセ・メロ氏が主導した、政治家殺害を調査するために政府が任命した委員会の調査結果を明らかにするようフィリピン政府に対して圧力を加えるものと期待されている。委員会は昨年、アムネスティ・インターナショナルなどの人権監視組織がフィリピン軍の一部が相次ぐ流血事件に関与していると糾弾し、政府に対する批判が高まった際に設立されたものである。 

しかしながら現在の左派に対する弾圧行為は目新しいものではない。1980年代末のフィリピンでも、左派活動家やCPPの支持者を弾圧する公式に容認された動きが見られた。人権活動グループによると、その弾圧の際には、暗殺者は覆面をつけてバイクに乗った男たちで、580人を超える人々が狙撃された。 

さらにさかのぼり、1940年代、50年代にも、左派の議員と活動家が、国家が背後にある暴力的な弾圧のターゲットになったことがあった。 

結局のところ、フィリピン政府が反対者を黙らせようとする試みには、現在も過去も類似した点がある。「殺害が反対派を抑える政府の手段のひとつになっている」と地元人権グループ「カラパタン」のルース・セルバンテス広報担当者はIPSの取材に応じて語った。「政府は左派活動家の政治の領域への参加に反対している」。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 


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