【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】
米国が戦争から逃れた何万人ものウクライナ人を迎える準備をしている一方で、アフリカやカリブ海諸国からの難民の多くは、レイプや拷問、任意逮捕などの虐待を受ける不安定で暴力的な祖国へ送還されている。これは人種的偏見だろうか。あるアフリカ系難民はそう考えている。
カメルーン・アメリカ評議会の主要メンバーであるウィルフレッド・テバさんは、米国への 亡命を試みた自らの体験を振り返って、「当局は黒人のことなど気にも留めていない」と語った。
「米国には多くのカメルーン人がいて、まだ拘留中だったり、国境で立ち往生している人もいます。もし私が強制送還されたら、刑務所に入れられ、拷問され、殺されるかもしれない。人間として、私の命も重要(my life matters too)なのです。」とテバさんは語った。
テバさんは現在、オハイオ州コロンバスに住んでいる。彼は英語を話すカメルーン北西州・南西州の人々がフランス語圏の中央政府から迫害の対象となっている西アフリカのカメルーンから逃れてきた。
英語圏の人々による分離独立闘争となったカメルーン内戦*では、多くの人々が殺され、100万人以上が避難民となっている。
人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2月の報告書で、カメルーン人が米国への入国を許可されない場合に直面する危険について列挙している。そのリストには、恣意的な逮捕や拘留、拷問、レイプ、恐喝、国民IDの没収、親族に対する虐待などが含まれている。
HRWは、「カメルーンで害をなす強制送還」と題する149ページの報告書(関連映像)の中で、「多くの亡命希望者が、米国で拘束されている間に医療放棄やその他の虐待を受けたと報告している」と記している。
HRWの難民研究者であるローレン・サイベルト氏は、米国政府が信憑性のある亡命申請をしているカメルーン人を送還したこと、また送還前や送還中に既にトラウマを抱えている人々を虐待したことを非難している。
1カ月前、ジョー・バイデン大統領は、米国は10万人のウクライナ難民を歓迎し、すでに米国にいる別の3万人にウクライナ国籍を持つ滞在者についても一時保護資格(TPS)の対象に追加すると発表した。
しかし、戦争から逃れたウクライナ人には米当局から連帯感が示される一方で、有色人種の亡命希望者はメキシコや収容施設、あるいは自国に戻って待機を余儀なくされている。
国土安全保障省のアレハンドロ・マヨルカス長官は、カメルーン人や他のアフリカ国籍の亡命希望者に対するTPSを再検討していると語った。TPSは6カ月から18カ月間合法的に滞在を続け、労働許可を与えるものだ。
「移民差別に反対するカトリック」の立ち上げを支援したリサ・パリオ氏は、TPSプログラムは危険から逃れる何百万人もの難民を保護するのに大いに役立つが、歴史的に十分に活用されておらず、過度に政治的な影響を受けていると語った。
有色人種に対する偏見は、ツイッターに投稿された欧米のニュース報道にも見られる。CBSニュースの外国特派員のチャーリー・ダガタ氏は、ウクライナからのリポートで、「失礼ながら、ここウクライナはイラクやアフガニスタンのように何十年も紛争が続いている場所とは違います。比較的文明化し、ヨーロッパ的な都市で、今回のようなことが起こるとは予想もできないような場所です」と語った。また、ウクライナの元次長検事であるデヴィッド・サクヴァレリゼ氏はBBCのインタビューで、ロシアの攻撃によって「青い目とブロンドヘアーのヨーロッパ人が殺されているのを見ると、非常に感情的になる」と発言した。
一方、ロシアがウクライナに侵攻したとき、東部の都市ドニプロで医学を学んでいたジンバブエ出身のコリーヌ・スカイさん(26歳)は、4日かけてルーマニアに退避して以来、ウクライナから依然として出国できずに困窮しているアフリカ出身者を支援するために、Black Women for Black Livesとgofundmeを通じて、募金活動を続けている。(原文へ)
INPS Japan
*カメルーン内戦:元イギリス委任統治領だった、英語話者が多い北西州と南西州の2州で南カメルーン連邦共和国(アンバゾニア共和国)の名のもと中央政府からの分離独立を求めている。南カメルーンの分離独立運動の背景には、1982年のビヤ大統領就任以来、フランス語話者が中央政府の要職を占め、フランス語圏がインフラ整備で優遇され経済格差が開いていることへの不満がある。国際社会の関心が薄いことにノルウェーの人権団体が警鐘を鳴らしている。
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