SDGsGoal3(全ての人に健康と福祉を)ソーシャルメディアと「#ENDSARS」を駆使し、ナイジェリアの階層主義的長老支配の解体を目指す

ソーシャルメディアと「#ENDSARS」を駆使し、ナイジェリアの階層主義的長老支配の解体を目指す

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=メディナト・アブドゥラジーズ・マレファキス】

2020年10月3日、ナイジェリア警察の特別強盗対策部隊(SARS)が被害者を攻撃する映像がソーシャルメディアで拡散し始めた。映像には、射殺された若い男性とレクサスのSUVで走り去るSARS隊員たちが映っていた。この事件は、人々の激しい怒りに火をつけた。ハッシュタグ#ENDSARSは最初の週末には約2800万件のツイートを集め、Twitterトレンドで世界1位となった。2020年10月8日から若者たちが街に出て抗議活動を行い、SARSの廃止を平和的に訴えた。(原文へ 

2017年以降毎年、SARSによる特におぞましい襲撃事件が起こるたびに、Twitterのハッシュタグ#ENDSARSのもとで、部隊の廃止を求めるオンライン上の運動が行われてきた。ナイジェリア政府と警察部隊は、これらの声をあるときは無視し、またあるときは部隊の改革を主張したが、SARS隊員による人権侵害事件は続いてきた。

しかし、今回の抗議のうねりは何もかもが違っていた。2017年以降初めて、#ENDSARSはオンライン上の運動から大規模なオフラインの抗議活動へと発展したのである。著名人たちが平和的デモ行進を街で行うよう呼び掛けたのを受け、10月8日ラゴスで始まったデモは、ナイジェリア南部と東部の他の街にも広がった。その中にはナイジェリア連邦の首都アブジャも含まれていた。

 SARSは、強盗などの凶悪犯罪やサイバー犯罪に対処するため、1992年にナイジェリア警察内に設立された部隊である。しかし、部隊は次第に恐怖の法執行部隊となっていった。アムネスティ・インターナショナルは、2017年1月から2020年5月までの間に、少なくとも82件のSARSによる拷問、虐待、裁判を行わない処刑があったという報告書を発表した。

SARSは15~35歳の若年層をターゲットにし、彼らの服装、運転している車、使っている携帯電話、性的志向、さらには職種に基づいて捜査対象を決めていた。iPhone、高級車、破れたジーンズ、ピアス、ドレッドヘア、あるはタトゥーのある若者は、SARS隊員に制止させられた。若者がその年齢でそのような贅沢品を持っているはずはない、したがってインターネットの詐欺師か武装した強盗のどちらかだと決めつけるのである。正式に逮捕することも具体的な罪名を示すこともなく、SARS隊員たちは無差別に電話を捜査し、“逮捕者”の銀行からのテキストメッセージを調べて口座残高を確認するなどの行為を行っている。彼らは、被害者に銃を突き付けてATMまで連れて行き、持ち金すべてを引き出させてゆすり取ることで知られていた。また、SARS隊員たちは人々を無差別に逮捕、拷問、拘束、殺害し、被害者の自動車、電話、ノートパソコン、カメラを持ち去っていた。

#ENDSARS運動を主導するのは、怒りの矛先を真っ先にSARSに向ける若年層の人々である。しかし、より一般的なレベルでは、警察の残虐行為を終わらせることにとどまらない多くの要求があり、それらを通してナイジェリアの若者たちはこの国の階層主義的な長老支配を解体しようとしている。#ENDSARSの抗議活動におけるこのような最近のうねりは、ナイジェリアにおける若者と年長者の間のアイデンティティー紛争へと変質を遂げた。

若者たちは街頭デモを通して、不満と憤怒をナイジェリア社会の階層主義的な「ステータス・クオ(現状)」にぶつけた。年長者はコミュニティーの問題に関する知恵と知識があるため高く評価されるべきであるという、「権威主義的なにおい」を漂わせる社会の現状である。ナイジェリアの人口約2億人のうち、約1億3500万人は30歳未満である。SARSへの抗議運動が進展するにつれ、多くの若者たちが、ナイジェリアの社会問題の真の元凶は年長者世代である、なぜなら、彼らは臆病にも国家指導者たちに立ち向かうことなく、いつまでも祈って問題を解決しようとしてきたからだと、意見を口にするようになった。一方、年長者と政治エリート層は、若者たちを経験不足でいつも結論を急ぎ、インターネットばかり見て、スマートフォン中毒になっている世代と考えている。だからこそ彼らは、制度的に若年世代が政治参加できないようにしているのである。若者は、未熟であり政治的役職にふさわしくないと見なされている。

その若者たちがいわゆるインターネット中毒を駆使して正義を求めた時、彼らの要求は、高圧的な態度、暴力、侮蔑をもって迎えられた。ナイジェリア政府や政界の役職者に代表される年長者およびエリート層は、長老支配と払われることが当然の敬意という長年の伝統に則ってこの要求に対応したのである。最初は、この抗議運動を若年世代のいつもの騒ぎとして無視した。次に、SARSに代わる新たな警察部隊(特殊武装戦術部隊―SWAT)の設置を発表するなど、いつもの口先だけの改革を示し、いかにも丁寧そうな姿勢を示した。抗議者たちは使い古された策略に引っ掛からなかったため、次に待っていたのは暴力的な弾圧だった。2020年10月20日、抗議のデモが始まって12日目に政府は軍を出動させ、平和的抗議者への発砲を命じ、ラゴスで約12人の抗議者を殺害した(これは公式な数字に過ぎない)。

ナイジェリアにおけるSARSへの抗議活動は、既存の規範に異議を唱え、社会変革を求める手段として、ソーシャルメディアをいかに活用することができるかを示している。デジタル技術を活用することによって運動のリズムが変わり、毎年繰り返されるオンライン上の無駄話だったものが、ナイジェリアの長年の歴史の中で最も効率的かつ心をつかむ、若者主導の運動へと変貌を遂げたのである。運動の分散的な構造には、明確なリーダーシップは見られなかった。レッキにある料金徴収所といった、若者たちが集まる具体的な場所を計画するために、日々Twitterが利用された。ソーシャルメディアは、ラゴスの抗議活動の映像や進捗報告を共有するためにも利用された。その後に、ナイジェリア南部の他の地域にも抗議活動が広まった。ソーシャルメディアは、世界の著名人、政治家、外交官、メディア企業、その他の人々の注目を集めるためにも利用された。それはナイジェリア政府の面目を失わせ、抗議者やその要求に反応して注意を向けざるをえなくさせた。また、一時期、ナイジェリア国内の主流メディアは抗議活動を報道していなかったため、ソーシャルメディアは抗議運動に関する数少ない情報源の一つとなった。

デジタル技術も抗議活動への資金提供に重要な役割を果たした。現地のテクノロジースタートアップは、ほとんどが若者によって所有・経営されており、クラウドファンディングや寄付へのリンクによって運動を支援した。その結果、運動のために38万米ドルを超える資金が集まった。

ENDSARS運動を前にしても、政府の姿勢は変わらなかった。例えばブハリ大統領は、ラゴスでの虐殺を認めることを拒否した。なぜなら、抗議活動は(体制においても、効果においても)年長者とエリートを敬うというナイジェリアの文化を打ち砕いたからである。若者が正義を求め年長者やエリートの行為に疑問を呈することは予期されていなかったため、ENDSARSは年齢に基づくヒエラルキーという伝統的秩序に楯突き、それを容認しない権力に逆らう運動となった。

#ENDSARS運動のこのようなうねりは悲劇的な結末を迎えたが、ナイジェリアの若者たちは、ソーシャルメディアが社会運動を組織するための決定的な力になり得ること、そして年長者がいつも最善の解決をもたらすわけではないことに気付いた。若者たちはいまや、「老人が座ったまま見られるものを、子どもは屋根に上っても見ることができない」ということわざに対する答えを持っている。若者たちは、“ドローン”を使ってそれを見ようと決意したのだ!これは覚醒であり、将来、真の改革を模索するために必ずや生かすことができるだろう。

メディナト・アブドゥラジーズ・マレファキス博士は、ACAPSの情報アナリストである。マレファキス博士は、テロリズムと人道的避難民に関する研究を専攻し、チューリッヒ大学とナイジェリア防衛大学で国際関係学の博士号を取得した。マレファキス博士の研究上の関心は、テロリズム、暴力的過激主義、宗教的原理主義、人道的避難民(難民および国内避難民)、社会的および暴力的紛争、紛争後の再定住、社会復帰、再統合である。

INPS Japan

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