地域アジア・太平洋欧米豪民主主義諸国の制裁でフィジー中国に接近

欧米豪民主主義諸国の制裁でフィジー中国に接近

【スバIPS=シャイレンドラ・シン】

民主選挙で選出されたライセニア・ガラセ首相に対する軍事クーデターを受けて米英豪民主主義諸国が発動した対フィジー制裁は、新軍事政権をアジア隣国、特に中国に接近させることになるかもしれない。

南太平洋大学の元講師ガネシュ・チャンド氏は、「制裁は、フィジーというよりクーデター実行者を標的としたものであるが、この措置で軍事政権はオーストラリア、ニュージーランド、英国、米国といったこれまでの貿易相手国に背を向けることになるのではないか」と語る。

同氏は、1987-2000年に起こったクーデターを例にあげ、ラツ・サー・カミセセ・マラおよびカラセ暫定政権は、新たな市場/投資を求めて「北寄り政策」を取ることで西側制裁に対抗したと指摘する。

軍司令官フランク・バイニマラマ准将は既に、オーストラリア、ニュージーランドを非難し、軍事介入に警告を発している。その一方で、昨年訪問を果たし、最近は南太平洋において積極的外交を展開している中国を誉めそやしている。

チャンド氏はIPSに対し、「西側勢力の制裁は、貿易関係の恒久的停止、大型投資の被害を避けたいとの思いから、限定的なものになるのではないか」と言う。

同氏はまた、「西側は同地域へのアジア勢力進出を注視。特に米国は中国の影響力拡大を警戒している」と語った。

オーストラリア、ニュージーランドからの2006-2007年支援(6億2百万ドル)は留保され、軍事協力の停止、クーデター関係者の渡航も禁止されていることから、関係は冷え込み、軍部が指名したジョナ・セニラガカリ首相は、怒りに満ちた挑戦的態度を示している。

セニラガカリ首相は、新政権はアジア諸国との関係強化を目指すとして、「1987年のクーデター時も当時のラトゥ・マラ首相とこれら諸国を訪れた」と語っている。

1987-1990年のマラ暫定政権は、日本の国連安全保障理事会メンバー就任、中国のWTO加盟を支持。中国は、フィジー軍に180万ドルの支援を行うと共に、日本の対フィジー支援も増加した。

またマレーシアとの政治/貿易関係も強化され、クーデター時代に形成された両国の関係は維持されている。チャンド氏はIPSに対し、フィジーおよび太平洋地域の輸入は、過去20年間で欧州世界からアジアへ大きく移動しているという。同氏は、「これはフィジーの意図的政策転換というより、アジア経済が急成長し、殆どの日用品生産で欧州諸国と競争できるようになったことが原因」と語る。

また、「輸出業者は民間セクターであり、価格に比して価値の高いところに集まる。アジア諸国はそれができるようになってきているのだ。オーストラリア、ニュージーランドは、民主選挙後は全面的に関係復活を図るだろうが、暫定首相の語るところでは、それには2年かかる」と言う。

この間、オーストラリア、ニュージーランドは、所謂「スマート制裁」により軍事政権隔離を図っていくだろうが、経済および対フィジー投資に害を及ぼすような経済制裁を加えることはなさそうだ。

オーストラリアの対フィジー輸出は、年間6億ドル。これはフィジー全輸入の46%強に当たる。一方オーストラリアの対フィジー輸入は年間約4億ドル。これは、フィジー全輸出の23%強に相当し、オーストラリアはフィジー製品最大の輸入国となっている。

チャンド氏によれば、関係国のビジネス界は一様に貿易制裁に反対。特にオーストラリア、ニュージーランドは、利害関係の大きい観光セクターに注意を払っているという。

「公式レベルで観光抑制の司令がでれば、経済に大きく影響するだろう。これは、個人観光および国際会議ツアーに害を及ぼす。法と秩序を考慮しなければ、観光業界の抗議は避けられまい」と同氏は言う。

観光はフィジーの最大産業であり、2005年には訪問者54万9千人、1人当り514米ドルの外貨獲得を記録している。

オーストラリアは南太平用地域の主導者としての地位保持を欲しており、外交筋は中国の影響力拡大を警戒している。オーストラリア外交官は、中国は外交ミッションの数ではオーストラリアに及ばないが、世界最多の外交官を同地域に配置していると見ている。

オーストラリア国防アカデミーのジョン・マクファーレン氏によると、中国外交官の流入に伴い南太平洋地域への中国民間ビジネス参入(不法あるいは犯罪行為も含まれる)も増え、国営/民間企業3千社強が企業登録を行っているという。

フィジーは、他の太平洋諸島国同様、「1つの中国政策」を承認。北京政府との緊密関係を築いており、中国移民の増加に伴い北京政府の支援も大幅に増加している。

チャンド氏は、「同地域における中国の影響力拡大を危惧する米国は、オーストラリアに対して最終的に、フィジー政府および市民の隔離政策は機能しないとの強いメッセージを発するだろう。米国は国務省の年次報告を通じ、間接的ではあるが既にその旨明らかにしている」と言う。

また、「米国は遅かれ早かれオーストラリアに対し、同国のフィジー(および太平洋)政策は地域諸国を西側の影響から遠ざけていると知らせることになろう。中国は既に、諸手を上げ、小切手帳を掲げて西側諸国の肩代わりをしようとしているのだから」と言う。

オーストラリアは、ソロモン諸島およびパプア・ニューギニアに対する干渉政策により両国から「再植民地化」との非難を受けるという厄介な外交問題から抜け出したばかりである。(原文へ


翻訳=IPS Japan


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