地域アジア・太平洋バイデン政権がとり得る対北朝鮮三つの政策

バイデン政権がとり得る対北朝鮮三つの政策

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2020年11月30日に「ハンギョレ」に最初に掲載されたものです。

【Global Outlook=チャンイン・ムーン 】

非核化強制か、漸進的非核化か、あるいは安定維持か?

ジョー・バイデンの次期米国大統領就任がほぼ確実となった今、世界の目は再び米国に向けられている。人々はバイデンの施政方針について憶測を巡らせている。彼はドナルド・トランプの「アメリカ・ファースト」主義から脱却し同盟国を重視するとともに、国際社会における多国間主義を回復させると約束しているからだ。しかし、韓国の人々にとって最大の関心事である北朝鮮の核問題について、バイデン政権がどのような政策を採用するかは、ほとんど未知数である。(原文へ 

すべての決定をトップが下す北朝鮮の政策決定システムを考えると、トランプのトップダウン方式が見どころを作ったことは否定できない。たとえそれが、具体的な結果を出さなかったとしてもだ。

しかし、バイデンの物の見方は違う。彼は何度も、北朝鮮が実務者協議の場で非核化に向けた実際の進捗状況を示した場合のみ、首脳会談を検討すると口にしている。これは、有望であると同時に懸念材料でもある。

とはいえ、バイデン陣営は北朝鮮の核問題に関する政策をまだ具体的に示していない。オバマ政権の8年間とトランプ政権の4年間における政策の進展を詳細に検討した後に、具体的な政策が浮かび上がるだろうと思うしかない。

その過程では、三つの対立する視点からバイデン政権内で精力的な議論が交わされるだろう

第1の視点は非核化パラダイムであり、北朝鮮が米国から制裁解除を得るには、その前に核兵器を撤廃しなければならないとするものだ。この視点の基本的前提は、体制保証を優先する北朝鮮政府が核兵器を簡単に手放すことはまずないというものである。したがって、北朝鮮にこの選択肢を検討させる唯一の方法は、多面的な強制的戦略を実行することである。

そのような戦略には、韓国および日本との3カ国協調を通して軍事的包囲網と経済制裁を強化し、韓国、中国、日本、ロシアとの5カ国協調を通して外交的に孤立させ、隠密作戦と心理戦を通して金正恩(キム・ジョンウン)体制を弱体化させることによって、北朝鮮政府に最大限の圧力をかけることが必要である。

非核化パラダイムを支持するグループには、強硬派の外交専門家や北朝鮮問題の専門家がおり、そのひとりであるブルッキングス研究所のジョン・H・パクは、バイデンの政権移行チームの一員である。

 第2の視点は核兵器管理、あるいは、漸進的非核化とまとめることができる。つまり、北朝鮮との対話は、一連の同時交換の原則に基づいて構想されるべきであるという視点である。この立場の推進者は、北朝鮮を核保有国として認めることはできないものの、米国は、北朝鮮が現時点でその能力を保有しているという現実に交渉戦略の焦点を向ける必要があると主張する。

漸進的非核化の提唱者は、北朝鮮が核とミサイルの開発を凍結するだけでなく、寧辺(ヨンビョン)核施設の一部を閉鎖すること(キムが、トランプとのハノイ会談で提案したように)と引き換えに、米国は少なくとも限定的な形で、制裁を緩和し関係を正常化し、北朝鮮の安全を保証することによる相応の措置を取るべきだと主張する。そのような予備的措置を通して信頼を醸成したうえで、米国と北朝鮮は交渉の席に着き、北朝鮮の核施設、核物質、核兵器を漸進的かつ検証可能な形で撤廃していくためのロードマップを策定するべきだと、提唱者は言う。

この視点は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権の立場と類似していると見てよいだろう。これは、ウィリアム・ペリー元米国防長官をはじめとする民主党寄りの北朝鮮交渉のベテランや、より年の若いバイデン陣営の核拡散問題専門家が好むアプローチである。

完全非核化は非現実的と考え安定性の維持を選択する人々も

最後に、北朝鮮の核問題は、安定性の維持を目的として管理すべきだと考える人々がいる。バイデン陣営の主流をなす外交専門家はこのカテゴリーに入る。彼らは北朝鮮が近い将来核兵器を放棄する可能性は低く、軍事行動によって武装解除させることはできないと指摘したうえで、最善のアプローチはとにかく北朝鮮を懐柔することだと言う。

懐柔派の視点は、状況に応じたさまざまな出方があることを意味する。すなわち、北朝鮮が非核化に関心を示したら、米国は交渉を行って適切に対応するべきであり、北朝鮮が挑発してきたら米国は報復するべきである。北朝鮮が現状維持を選ぶのなら、米国は敵対的な無関心をもって臨むべきということである。

結局のところ、この視点は、オバマ政権の「戦略的忍耐」と大きく変わらないのかもしれない。そこには、時は自分たちに味方するという米国主流派の自信と、北朝鮮の核問題を優先度の低い事項として扱う傾向が表れている。

以上三つの視点のどれをバイデン政権が採用するのか、何ともいえない。ただ、ひとつ明白なのは、北朝鮮の行動によってバイデン政権の選択が変わり得るということである。

北朝鮮が交渉への意思を忍耐強く示すなら、現在は少数派の見解である漸進的非核化への支持を得ることができるかもしれない。その場合、バイデンは1991年の「ペリー・プロセス」を範に取って、高位の人物を北朝鮮政策調整官に指名し交渉を加速化させる可能性もある。

北朝鮮が再び実験や発射を行えば選択肢は消えてなくなる

しかし、北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を行えば、非核化パラダイムと戦略的忍耐の視点が勢いを増し、2017年北朝鮮危機の再現につながる恐れもある。そこに、北朝鮮の現行の選択がいかに重要であるかが表れている。

バイデンは北朝鮮政策に取り組みつつ、韓国と密接に連絡を取り合うつもりであることを繰り返し強調している。だからこそ、北朝鮮は自制心を働かせ、すみやかに韓国との対話を回復させる必要がある。

 バイデン政権の下では、ソウルがワシントンへの近道となり得る。北朝鮮が現状への冷静な理解に基づいて、状況を好転させる道を見いだすことを心から願う。

チャンイン・ムーン(文正仁)は、核不拡散・核軍縮アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク共同議長。延世大学名誉特任教授として、韓国大統領統一・外交・安全保障特別補佐官、「グローバル・アジア」誌編集長、カリフォルニア大学サンディエゴ校国際政策・戦略研究大学院クラウス特別研究員を務める。戸田国際研究諮問委員会(TIRAC)のメンバー。

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