ニュースアーカイブ核なき世界という「理想郷」を現実に

核なき世界という「理想郷」を現実に

【IDNベルリン=ラメシュ・ジャウラ】

それは、理想のように聞こえる。しかし、それは、まさにエルンスト・ブロッホの哲学の精神の中にあるものであり、日蓮仏法の教えにある「具体的な理想」である。前者の考えは、すべての形の抑圧と搾取の排除を描いている一方で、後者は、平和の文化が暴力の文化を凌駕することを可能にし、核兵器やその他の大量破壊兵器のない世界を含む、持続可能な人間の安全保障実現への道を開くための、人間精神の変革を描いている。

 創価学会インタナショナル(SGI)が主催する「暴力の文化から平和の文化へ―核兵器廃絶への挑戦展」は、その目的の実現に向けたツールである。SGIは、13世紀の日本の僧侶・日蓮の教えで、人生を肯定する仏法を信奉する団体であり、東京に本部を置き、世界中に1200万人の会員を擁している。

 
この展示は、2007年、SGIが、創価学会第2代戸田城聖会長による原水爆禁止宣言50周年を記念して制作したものである。特に青年への意識喚起を目的として、2007年9月8日、平和市民フォーラムの際に、「核兵器廃絶のための民衆行動の10年」の開幕行事として、初めて公開された。これまで、ジュネーブの国連欧州本部、ウェリントン市の国会議事堂(ニュージーランド)、オスロ市庁舎、国連ウィーン本部等27か国地域、220都市以上で開催。最近では10月7日-10月16日、オープニングに出席した池田SGI副会長が「平和の都市」と称えたベルリン(ドイツ)にて開催された。

Photo: Dr. Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.

池田SGI会長は同展に寄せたメッセージの中で、ノーベル賞を受賞した核戦争防止国際医師会議の支部であるIPPNWドイツと、国際協力評議会(GCC)との共催で開催された10月のこの展示の重要性に触れながら、「東西冷戦の対立を乗り越えて、新たな歴史を刻み続けておられるベルリン」と呼びかけた。

SGIは、IPPNWとICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)と共に、展示開催の目的である、核廃絶の運動をリードする団体である。今回の展示は、1961年10月、池田会長がベルリンを訪問し、ドイツ分断の象徴であり、市を二分したブランデンブルク門の前に立ってより、50年後に開催されることになった。

氏の訪問の2か月前に建設されたベルリンの壁は、東西冷戦の対立の最前線を象徴するものであり、兵士や戦車が居並ぶ風景は、心を深くかき乱す忘れられない光景であった。

その壁は長い間、撤去は不可能と考えられていた。しかしながら重要なことに、一般の民衆の力によって、それはついにとり壊されたのであった。池田氏は、全廃不可能であると信じられている核兵器も同様に、目覚めた民衆の力によって必ずや取り払われると確信している。

ヨーロッパの安定と平和的な統合の推進を担ってきたドイツが果たすべき役割は大きいと、氏は展示のオープニングメッセージで述べている。氏は、ドイツが、未来の挑戦において重要な役割を担うと確信している。

ゲッティンゲン宣言

池田氏は、「世界の政治的状況は、真の意味での平和の秩序が生じるよう、根本的に変革されねばなりません」との、冷戦時代に核兵器の脅威を訴え抜いたカール・フリードリヒ・フォン・ヴァイツゼッカー氏の言葉に言及した。

ゲッティンゲン市のマックス・プランク医学研究所の部長でもあったヴァイツセッカー氏が中心となって推進されたゲッティンゲン宣言は、2012年に55周年を迎える。

18人の核物理学者によって署名されたこの宣言は、核兵器を保有しようとするドイツ軍の計画に強い懸念を表したものだ。彼らは、専門家に知られている事実が一般の人々に十分に知られておらず、公に指摘せざるをえないと感じていた。

宣言は次のように述べている。「(ドイツ軍が得ようと計画した)戦略核兵器は、通常の核兵器と同じ破壊力を持つものである。戦略的という意味は、人間の居住地だけでなく、水上における軍隊との戦闘に対しても使用されることを示している。すべての戦略核兵器一つ一つは、広島を破壊した最初の原爆と同様の効果をもつ。」

大量に使用することが可能な戦略核兵器は、全体としてはるかに大きな破壊力を有することになると物理学者たちは指摘した。これらの戦略核兵器は、近年開発された「戦術的核兵器」や水素爆弾と比べるとその破壊力が小さいというに過ぎなかった。

同宣言はさらに続けて、「財産や生命に対する戦略核兵器の破壊効果がどれほど甚大になりうるかについて、想像することはできない。今日、戦略核兵器は小さな町を破壊することができる。水素爆弾は、ルール市の産業地区規模の地域を、人間が住めない状況にすることが可能である。水素爆弾による放射能によって、ドイツ連邦の全人口を、今日にも死滅させることができる。私たちには、この脅威から多くの人々を守ることが実質的に可能であるかどうかはわからない。」としていた。

戦略核兵器

同宣言にもかかわらず、米国は「核兵器共有政策」の一環として、ドイツや他のヨーロッパ諸国に戦略核兵器を配備した。これは、独自の核兵器開発プログラムを中止させて米国の核の傘の庇護の下に置こうと同盟諸国を説得するために、1950年代に始まったものである。

ドイツに加えて、米国の戦略核はベルギー、英国、イタリア、オランダといった国に配備された。7千発以上がヨーロッパに設置された70年代をピークに、その後は劇的に減少している。確かな情報筋によれば、2007年の終わりにはわずか350発が残るのみとなっている。

この戦略核の減少は、先代ブッシュ大統領とゴルバチョフ大統領が91年に発表した、「冷戦後の大統領核イニシアチヴ」に起因している。このイニシアチヴは、ヨーロッパにおける両国の戦略核の大幅な削減を求めていた。

07年1月には、米空軍は、定期的に核兵器の査察を受ける基地のリストから、ラムスタイン米軍基地(ドイツ)を除外した。アメリカ科学者連盟の核情報プロジェクト代表のハンス・クリステンセン氏は、冷戦中同基地に配備されていた130の戦略核が、恒久的に取り除かれたかもしれないとしている。

もしそうであるなら、ドイツは現在、ビュッヘル空軍基地のみを米国の核兵器配備基地として有していることになる。NATOおよび米国は、何発の核兵器が配備されているかについて一切の情報公開を行なっていないので、ドイツにおける戦略核の正確な数は確認されていない。しかし、ビュッヘルには現在20発があると見られている。

戦略核兵器の撤去の問題は、ドイツ政府内で何年も議論されてきた。しかし2009年10月、新任のギド・ヴェスターヴェレ外相(連邦民主党)は、ドイツから核を撤去するとの決意について疑いの余地を残さなかった。外相は、ドイツの新政権は米国のバラク・オバマ大統領の核兵器なき世界を目指すとのビジョンを支持すると述べた。

同時に、「オバマ大統領の言葉を信じて、冷戦の遺物ともいうべき、ドイツに残存している核兵器が最終的に撤去されるよう、同盟諸国との協議に入る」とも述べた。この考えはアンゲラ・メルケル首相(キリスト教民主同盟)によっても確認された。しかし核兵器はドイツ国内に存在し続けている。


「私たちは暴力の文化を打倒できる」

こうした逆行ともいうべき現状に対抗する意味で、ドイツ連邦議会議員のウタ・ツァープフ氏(社会民主党)は、今回の展示のタイトルが「私たちは暴力の文化を打倒できる」とのメッセージを示そうとしていることが「素晴らしい」と評している。ツァープフ議員は、議会の軍縮・軍備管理・不拡散小委員会の議長を務めている。

核兵器なき世界は確かにまだすぐには実現しない。また、新しいNATOの戦略にも明らかなように、平和は人間精神の中に根をおろすこともできていない。それにもかかわらず、「核兵器という非人道的な存在を廃絶するために、この展示が示すようなことに取り組むのはもっともなことである」と彼女は語った。

「事実、この展示が示すような楽観主義が必要です。なぜなら、世界はいまだ武器や核兵器にあふれているからです。確かに核軍縮が進み、冷戦の間も核兵器の数は減少しました。今ようやく、STARTⅡによる一歩が進んでいます。」

「2010年5月のNPT再検討会議の好ましい結果も、楽観主義の理由となっています。事実、その行動計画は核兵器を完全に廃絶するための道を示しています。(中略)包括的核実験禁止条約が発効することも重要です。米国、ロシア、中国といった核大国の実験停止だけでは十分ではありません。超大国によって批准された条約だけが、将来核兵器がこれ以上製造されないことへの確証を与えるのです。」しかし、この目的が達成されるまでには多くの道のりが残っている。

2010年11月、リスボンでのサミットにおいて、NATO諸国は今後の10年間のロードマップとなるであろう新戦略コンセプトに合意した。米国のオバマ大統領が、核兵器なき世界へのビジョンと核兵器への依存を減少させることの必要性を明らかにした後、NATOを形成するドイツ、ベルギー、オランダは、ヨーロッパから米国の戦略核兵器を撤去することを求めた。

しかし、新戦略コンセプト発表に続く多くの議論にもかかわらず、新文書については前進がなく、いたずらに時間が経過する中、かえって次のように述べるに至った。「NATOは核兵器なき世界の条件を生み出すというゴールを目指す。しかし、核兵器が世界に存在する限り、NATOは核の同盟であることを再確認する。」

しかし、ヨーロッパの市民社会やいくつかの政府から、欧州における米国の核兵器の未来について、NATOの防衛・抑止見直しの一環として討議を行なうべきとの圧力が強まっている。この見直しは新戦略コンセプトの改定についての議論に続いて行なうとされており、2012年5月までに終了の予定となっている。

「真の安全保障」

NATOでの議論の結果が懸念されるが、今日、人類は圧倒的に深刻な挑戦に直面していることは議論の余地がない。貧困や環境破壊から、深刻な失業や経済的不安定といった問題であり、全ての国々の協調が必要とされる。

池田SGI会長は、展示のオープニングメッセージの中で、「(人類共通の課題に立ち向かうために)必要な人的・経済的資源を犠牲にしてまで核兵器を維持することの愚かさが、今、一層明らかになっております。あくまで必要とされるのは、『安全保障』であって、『核兵器の保有』ではありません」と述べた。池田SGI会長は、1983年以来毎年、平和・軍縮などを目的とした提言を発表してきている。

2011年の国連への提言で池田SGI会長は、核のない世界へ、以下3つの挑戦を進めることを呼びかけた。

一、われら民衆は、核兵器の脅威に対する唯一の保証は廃絶以外にないとの認識に基づき、すべての保有国が全面廃棄を前提とした軍縮を速やかに進める体制を確保する。

一、われら民衆は、どの国の行動であろうと「核兵器のない世界」という目的に反する行為を許さず、一切の核兵器開発を禁止し防止する制度を確立する。

一、われら民衆は、核兵器は人類に壊滅的な結果をもたらす非人道的兵器の最たるものであるとの認識に基づき、核兵器禁止条約を早期に成立させる。

さらに「第1の柱となる『全面廃棄を前提とした核軍縮の推進』については、全保有国の参加による国連での対話や交渉の枠組みを定着させる必要があると思います」と訴えた。

国連の潘基文事務総長の「核不拡散・核軍縮に関する国連安保理サミット」を定例化させることを呼びかけた提案について、池田SGI会長は、「安保理サミットの定例化にあたり、『安保理の理事国メンバーに限らず、非核の道を選択してきた国々の代表が討議に参加できるようにすること』と、『核問題に関する専門家やNGOの代表が意見表明する場を確保すること』を求めたいと思います」と述べた。

そして、「2015年のNPT再検討会議を広島と長崎で行い、各国の首脳や市民社会の代表が一堂に会して核時代に終止符を打つ『核廃絶サミット』の意義を込めて開催することを検討すべきであると訴えたいのです。」と訴えた。

もしこれが現実となれば、これまで理想郷であった核廃絶が、現実味を帯びてくるであろう。

IPS Japan

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