ニュース武器禁止条約(ATT)―国連で最後の交渉へ

武器禁止条約(ATT)―国連で最後の交渉へ

【国連IPS=タリフ・ディーン】

銃による大量射殺事件(サンディフック小学校銃乱射事件)で銃規制に関する議論が米国内でふたたび高まるなか、国連では、2013年3月、武器貿易のルールをつくって紛争予防を目指す「武器貿易条約(ATT)」の制定に向けた交渉が持たれようとしている。

ジョージタウン大学エドムンド・A・ウォルシュ外交政策校安全保障研究センターのナタリー・ゴールドリング上級研究員は、この3月の会議が国連の枠内でATTが協議される最後の機会になるだろうと語った。

 「この機会で交渉がまとまらなければ、対人地雷禁止条約の時と同じように、国連の枠外での条約妥結が目指されるでしょう。」と、1990年代初頭からATT交渉をモニタリングしてきたゴールドリング氏は語った。

ゴールドリング氏は、「ATTの正念場は、果たして交渉妥結によって、武器取引(=通常兵器の国際的な移譲)を規制する強力な国際基準を新たに設定出来るか否かにかかっている。」と指摘した上で、「もしATTの内容が国際人道法国際人権法の強化に資するものになるならば成功で、多くの命を救うことになるでしょう。」と語った。

しかしその一方で、「もしATTの内容が弱い国際基準に過ぎないものになるのであれば、かえって武器取引の現状を悪化させかねない。つまり簡潔に言えば、弱いATTに合意するくらいならば、ATTが発効していない今日の状況のほうがまだましなのです。」とコールドリング氏は警告した。

先日、国連総会は、来年3月18日~28日にATTに関する国際会議を開催するとの決議を賛成133・反対0・棄権17で可決した。

中国、フランス、ドイツ、ロシア、英国、米国という6大武器輸出国はこの開催決議に賛成した。

一方、棄権したのは、多くの中東の国々を含む、バーレーン・ベラルーシ・ボリビア・キューバ・エジプト・イラン・クウェート・ミャンマー・ニカラグア・オマーン・カタール・サウジアラビア・スーダン・シリア・アラブ首長国連邦・ベネズエラ・イエメンであった。

この会議では、年間規模が730億ドルにものぼる世界の武器取引を規制する条約が妥結合意されることが期待されている。米国議会図書館の議会調査局によると、米国政府は2011年だけでも663億ドルにのぼる武器取引の契約を結んでいる

この会議で協議される条約草案は2012年7月以来、各国で検討されてきている。

米国内では、最大の銃支持圧力団体である全米ライフル協会(NRA)が、ATTによって米国内で銃所持ができなるという誤った情報を流布して、ATTへの強硬な反対論を展開している。

ロンドンに拠点を置く国際人権擁護団体「アムネスティ・インターナショナル」のブライアン・ウッド武器調査部長は、来る3月の会議は同組織がパートナー諸団体とともに17年に亘って展開してきた「アームズ・コントロール・キャンペーン」の最終局面に位置付けられます、と語った。

ウッド氏は、このキャンペーンの主な目的は、「世界各地で頻発している武器による暴力や抑圧、紛争で幾度となく人権侵害の矢面に立たされてきた民衆の保護に役立つ強固で法的拘束力を持ったATTを実現することです。」と語った。

またウッド氏は、「武器取引の規制に懐疑的な勢力は、引き続きATTの最終文言から国際人道法や国際人権法との整合性を排除しようと試みるでしょうが、アムネスティ・インターナショナルはパートナー諸団体とともに、人権保護を最も強く打ち出した文言が最終文書に反映されるよう圧力をかけ続けていきます。」と語った。

2012年7月に1ヶ月に亘って行われた交渉では、ATT妥結寸前までいったが、会議最終日に米国代表団が草案を支持しない旨を発表し、ロシア、中国など他の主な武器輸出国がそれに同調したため、時間切れとなり、交渉がまとまらなかった。

NRAは90年代中旬以来、銃火器による暴力を減少させようとする国連の試みに反対してきた。しかし2001年には、国連小型武器会議における「国連小型武器行動計画」成立を阻止しようとして失敗している。

「ATTの締結阻止を目指しているNRAの目論見は、今回も失敗することとなるでしょう。」「そもそもATTは民間人の武器所持に影響を及ぼすものではないのに、あたかもそうであると主張するNRAの試みは、誤解を招くものです。」とゴールドリング氏は語った。

またゴールドリング氏は、「NRAは、ATTに対する挑発的な発言を自らの組織引き締めのために利用しているように思えます。こうした戦術は、彼らの資金集めには有効かもしれませんが、その主張には事実に基づく裏付けがないのです。」と付け加えた。

さらにゴールドリング氏は、「皮肉なことに、NRAがでっち上げの主張に基づいてATTに強硬に反対しているお陰で、米国政府はかえって自由に強固なATTを交渉できる状況にあります。」と指摘した上で、「もしATTが近く米国で批准される見込みが低ければ、強固なATTに反対している上院議員らと妥協を模索する動機はほとんど失われてしまいます。しかし11月の大統領選挙以来、政治環境は大きく変化しています。私は、先般の大統領選で圧倒的な勝利を収めて再選されたバラク・オバマ大統領が、今日の政治環境を追い風に、米国交渉団が今から3月の交渉にかけて強固なATTを支持できるよう強い指導力を発揮することを期待しています。」と語った。

一方、強固なATT締結にとって最大の障害となっているのが、全会一致方式への固執である。現状では、ATT草案を支持できないと表明する国が一カ国でもあれば、条約締結は不可能になる。

「米国政府は、ATTの採択において全会一致方式を維持するよう主張し続けることで、事実上条約採択を巡る拒否権を持ち続けているのです。」とゴールドリング氏は語った。

「しかし全会一致方式への固執は、同時に、ATTに懐疑的なイラン、パキスタン、キューバ、エジプトといった国々を含む全ての国にも拒否権を認めていることを意味し、3月会議の成功の見通しを暗くしているのです。」とゴールドリング氏は付け加えた。

さらに米国政府は、米国内における市民の武器所持を制限することにつながりかねない条項を含む条約は断固として拒否する姿勢を明確にしているほか、ATTの規制対象に弾薬や爆発物を含むことに反対しており、ゴールドリング氏は米国政府のこうした姿勢を「近視眼的」と見ている。

ゴールドリング氏は、「少なくとも、米国がすでにやっているように、すべての国家が武器を輸出する際にそれを追跡することを義務化すべきです。また、ATTが効果的なものであるためには、すべてのタイプの武器移転(輸出だけでなく、輸入、通過、積替、仲介やライセンス生産等の行為を含む)並びに部品・構成要素・弾薬なども含めたすべてのタイプの通常兵器を条約の規制対象に含む必要があります。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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