【サンタバーバラ/東京INPSJ=浅霧 勝浩】
核時代の幕開けから80年を迎えた2025年3月12日・13日、世界各地の平和活動家、外交官、教育者、被爆者が「希望の選択」シンポジウムに出席し、核兵器廃絶への新たな決意を共有した。シンポジウムは、核時代平和財団(NAPF)と創価学会インタナショナル(SGI)の共催により、サンタバーバラ市のウエスト音楽アカデミーで開催された。

2001年に刊行された、NAPF創設者デイビッド・クリーガー氏とSGI会長・池田大作氏による対談集『希望の選択』をテーマに、核廃絶の倫理的・戦略的緊急性があらためて提起された。
「これは単なる遺産ではありません」とNAPF会長のイヴァナ・ニコリッチ・ヒューズ博士は語った。「私たちは彼らの歩みを継承し、核の脅威のない世界を築くためにここに集まっています。」
SGI平和運動局長の相島智彦氏は、両者の対談を目の当たりにした経験に触れ、「彼らの対話は、単なる理念の共有ではなく、現実的な解決策に根ざした行動への呼びかけだったことが最も印象的でした」と語った。
核抑止への警鐘
基調講演では、ピュリッツァー賞最終候補の記者で『核戦争:一つのシナリオ』を出版した作家のアニー・ジェイコブセン氏が、「核抑止が破綻したらどうなるのか?」という問いを投げかけた。米国政府関係者から得た機密情報に基づく洞察をもとに、「核戦争はどのように始まっても、最終的には完全な破壊で終わる」と警告した。
続くパネルディスカッションでは、プリンストン大学のリチャード・フォーク名誉教授、社会的責任を果たすための医師団ロサンゼルス支部(RSR-LA)のジミー・ハラ博士、アメリカン大学のピーター・クズニック教授、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のメリッサ・パーク事務局長が登壇。ヒューズ博士の進行のもと、核政策の転換を訴えた。

翌日には、「抑止から軍縮へ:未来への道」と題するセッションが行われ、SGI軍縮・人権担当ディレクターの砂田智映氏が司会を務めた。砂田氏は、核兵器が国家の安全保障政策に組み込まれている現状に警鐘を鳴らし、「核兵器禁止条約(TPNW)第3回締約国会議では、核抑止そのものが生存への脅威であると確認された」と報告した。
2017年のTPNW国連交渉会議で議長を務めたエレイン・ホワイト元コスタリカ国連大使は、「意見の異なる者とも誠実に対話を続けることの重要性」を強調した。
証言に耳を傾ける

長崎の被爆者である和田征子さん(日本被団協)はビデオメッセージで登壇し、「被爆の現実を語り継いでほしい」と訴えた。
米国の「ダウンウィンダー(風下住民)」で甲状腺がんを患ったメアリー・ディクソンさんは、「私たちは意図的に被曝させられました。マーシャル諸島、カザフスタン、ポリネシアなどの犠牲者にも正義が必要です」と語った。
「核使用と核実験の遺産:正義への呼びかけ」と題されたセッションでは、SGI国連事務所軍縮プログラム・コーディネーターのアナ・イケダ氏が、被爆者や核実験被害者の健康・差別・心理的影響に関する証言を紹介。「核の正義とは、核の使用・実験・威嚇がいかなる状況でも正当化されないという意識を社会に根づかせること」と語った。
カザフスタンのセミパラチンスク旧核実験場での世代を超えた健康影響については、トグジャン・カッセノヴァ博士が研究成果を報告した。
キリバス代表およびYouth for TPNW代表として参加したクリスチャン・シオバヌ氏は、被害者支援と環境回復のための国際基金設立を提案。赤十字国際委員会(ICRC)のヴェロニク・クリストリー氏は、人道の視点から軍縮の必要性を訴えた。

気候正義との交差点
「気候と核の正義の交差点:若者の力で変革を」と題された最終パネルでは、SGI軍縮プログラム・コーディネーターの堀口美幸氏が司会を務めた。
NuclearBan.USのアンドゥイン・デヴォス氏は、気候危機への不安から核軍縮運動に参加した経緯を語り、「核兵器に費やされる資源を気候対策に回すべきだ」と訴えた。
若手活動家のケヴィン・チウ氏とヴィクトリア・ロク氏は、核政策に若者の声を反映させる重要性を共有。堀口氏は「地球は祖先から受け継いだものではなく、子どもたちから借りている」というアメリカ先住民の言葉と、「希望とは若さの別名である」との『希望の選択』の一節を引用し、若者が理想を掲げて時代を切り開く力を象徴するものとして紹介した。

文化がもたらす変革
映画監督アンドリュー・デイヴィス氏とアーティストのステラ・ローズ氏は、芸術が意識を変え行動を促す力について語った。「芸術は単に真実を映すだけでなく、それを感じさせ、行動へと導くものです」とデイヴィス氏。
シンポジウムの宣言文でも、連帯と創造性を通じた平和の促進と、文化的関与の役割が強調された。
閉会宣言:「希望」を選ぶ
シンポジウムは、「希望の選択」宣言の採択で締めくくられた。終末時計が「午前0時まで残り89秒」と迫る中、「核兵器のない世界は、意識的で集団的な選択によってこそ実現する」と強調。「私たちは絶望ではなく、希望を選ぶ」と宣言された。(英文へ)
「希望の選択」宣言の要約
「希望の選択」宣言では、核兵器廃絶への緊急性が改めて強調された。宣言は、核抑止の論理が安全保障ではなく破滅をもたらすリスクであると断じ、核の使用・威嚇・実験がいかなる状況でも正当化されないとの倫理的立場を明示している。
さらに、核のない世界は「選択」の問題であり、連帯、創造性、市民社会の力を通じて築くべきものであると呼びかけた。文化や芸術の力にも言及し、想像力と共感を育む表現活動が、核兵器のない未来を築く鍵であると認識された。
宣言は、「希望を選ぶことは、責任ある行動を選ぶことであり、未来を信じることである」との言葉で結ばれている。(宣言の全文はこちらへ)
This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).
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