SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)国連事務総長「軍事費の増大は優先順位の誤りを示す」

国連事務総長「軍事費の増大は優先順位の誤りを示す」

国連事務総長が世界の軍事費に関する報告書を発表する直前、イスラエルがカタールの首都ドーハでハマス関係者を標的とした攻撃を行ったというニュースが入った。アントニオ・グテーレス事務総長は「この攻撃は、平和の構築よりも戦争遂行に遥かに多くの資金が注がれているという厳しい現実を浮き彫りにしている」と述べた。
【国連IPS=ナウリーン・ホセイン】

世界の軍事費は20年以上増加を続け、2024年には全5地域で急増し、過去最高の2兆7000億ドルに達した。だがこの増大は、持続可能な開発努力から資金を奪い、すでに逼迫している財政状況にさらなる圧力を加えていると国連とそのトップは警告している。

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グテーレス事務総長は加盟国に対し「世界の安全と開発を守るためには、外交と多国間主義を優先すべきだ。」と訴えた。彼の新しい報告書『私たちに必要な安全保障:持続可能で平和な未来に向けた軍事費の再均衡』は、軍事費が増大する一方で開発資金が減少している実態を詳述している。

地域紛争と軍事優先の拡大

緊張と紛争が高まる中、各国は安全保障を軍事力と抑止力で確保しようとしている。紛争当事国に隣接する国々が「紛争波及の外的リスク」を抑えるため軍事費を増やす傾向も報告書は指摘している。

軍事費の対GDP比も上昇し、2022年の2.2%から2024年には2.5%に拡大。2024年に100カ国以上が軍事費を増額し、上位10カ国で世界支出の73%を占めた。欧州と中東での伸びが顕著で、アフリカは全体の1.9%にとどまった。

一人当たりに換算すると、2兆7000億ドルは世界の誰もが334ドルを負担する規模である。これはCOVID-19ワクチン総支出の17倍、アフリカ全諸国のGDP合計に相当し、OECD開発援助委員会(DAC)加盟国が2024年に拠出したODAの13倍である。国連の年間予算の750倍にもなる。

UN Secretary-General António Guterres (left) address reporters in New York at the launch of his new report on global military spending in 2024.  Credit: Naureen Hossain/IPS
UN Secretary-General António Guterres (left) address reporters in New York at the launch of his new report on global military spending in 2024.  Credit: Naureen Hossain/IPS
開発資金のギャップ拡大

一方で開発資金は軍事費に追いつかず、ODAも減少傾向にある。持続可能な開発目標(SDGs)の年間資金ギャップはすでに4兆ドルに達し、今後6兆4000億ドルに拡大する恐れがある。SDGsの2030年達成はますます遠のいている。

報告書はまた、軍事費増加により各国予算の社会投資配分が削減され、教育・医療・クリーンエネルギー分野に悪影響を及ぼしていると指摘する。1億ドルあたりの雇用創出数は軍事分野で1万1000件に対し、医療分野では1万7200件、教育では2万6700件と、社会部門の方が効率的だという。

国連高官の警告

報告書発表の場で、中満泉・国連軍縮担当上級代表は「軍事化が開発より優先される体系的不均衡が世界的に進んでいる。」と述べた。「人間中心で国連憲章に根ざした新しい安全保障のビジョンが必要です。国境ではなく人々を守り、制度や公平性、地球の持続可能性を優先するビジョンです。」と語った。

国連開発計画(UNDP)の徐浩良・事務局長代行も「世界は分断が深まり、ODAは減少し、人間開発の進歩は鈍化している。しかし開発こそ安全保障の原動力であり、多国間の開発協力は有効に機能する。」と強調した。

彼は、人間開発指数の伸びが過去2年間で著しく鈍化していると警告し、この30年間で積み上げてきた進歩が逆行する恐れがあると述べた。

軍事費が生む負担と代替可能性

軍事費は先進国・途上国双方の債務負担を増すが、とりわけ途上国への打撃が大きい。国内資源が開発から軍事に振り向けられるだけでなく、国際援助も減少しているためである。低・中所得国では軍事費が1%増えると、ほぼ同程度の公衆衛生支出が削減される傾向が見られる。

グテーレス事務総長は、政府が国民保護や差し迫った脅威への対応といった正当な安全保障責任を担うことを認めつつも、「軍事費だけでは持続的な安全は得られない」と強調した。

「人々への投資こそが暴力への第一の防衛線です。軍事費の一部を教育・医療・エネルギー・インフラに回すだけで、重大な欠落を埋めることができます」と述べた。

「過剰な軍事費が平和を保証しないことは明らかです。むしろ軍拡競争を煽り、不信を深め、安定の基盤から資源を奪っています。」と警鐘を鳴らした。

国際社会への5つの提言

報告書は、軍事費の是正と外交的対話を促進するために次の5点を国際社会に提案している。

  1. 紛争の平和的解決と信頼醸成措置を優先し、軍事費増大の根本原因に2030年までに取り組む。
  2. 軍事費を軍縮議論の中心に据え、軍備管理と開発の連携を強化する。
  3. 軍事費の透明性と説明責任を高め、加盟国間の信頼構築と国内財政の健全性を強化する。
  4. 開発資金の多国間協調を再活性化する。
  5. 人間中心の安全保障と持続可能な開発を推進する。
イスラエルのドーハ攻撃を非難

報告書発表直前、イスラエルがハマス幹部を標的にドーハで空爆を行った。カタールはイスラエルとハマスとの停戦交渉における主要な仲介者の一つとされる。グテーレス事務総長はこの攻撃を「カタールの主権と領土保全に対する明白な侵害」と非難した。「この攻撃は、平和の構築よりも戦争遂行に遥かに多くの資金が投じられているという厳しい現実を示している。」とグテーレス事務総長は重ねて述べた。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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