INPS Japan/ IPS UN Bureau Report|国連|安保理の議席を占める戦犯・軍事侵略者たち

|国連|安保理の議席を占める戦犯・軍事侵略者たち

【国連IPS=タリフ・ディーン】

4月1日からロシアが、アルファベット順の交代制により1カ月間の議長国として、国連安全保障理事会を主宰している。

しかし、戦争犯罪や国連憲章違反で告発された国が、国連で最も強力な政治機関のメンバーや議長になるのは、ロシアが最初でもなければ唯一の事例でもない。

サンフランシスコ大学の政治学教授で中東研究のコーディネーターを務めるスティーブン・ズーンズ氏は、安保理における政治駆け引きについて幅広く執筆しているが、IPSの取材に対して、「米国はベトナムとイラクで戦争犯罪を犯しながら安保理議長を務めたことがあります。」と語った。

「よって、ロシアが安保理議長に就任することは、この意味で前例がないとは言えません。確かに軍事力によって奪取した領土を違法に併合した国(=ロシア)が国連安保理の議長国になるのは初めてのことでしょう。しかし、米国がイスラエルとモロッコによる軍事力で奪った領土の違法な併合を公式に認めていることを考えると、こうした行動が問題ないと考えているのはロシアだけとは思えません。」とズーンズ氏は語った。

国際刑事裁判所(ICC)はこれまでにも、スーダンのオマル・ハサン・アル=バシール、ユーゴスラビアのスロボダン・ミロシェビッチ、リビアのムアンマール・カダフィなど、複数の政治指導者を戦争犯罪や大量虐殺で訴えてきた。

記者会見で、戦争犯罪を犯した加盟国が国連安保理を主宰するという異常事態について問われたファルハン・ハク事務総長副報道官は、記者団に「安保理議長国を安保理加盟国がアルファベット順で交代するという安保理の規則を含め、安保理創立以来行ってきた方針はよくご存じだと思います。」と語った。

ハク副報道官は、ICCの発表を前に、「これ以上何も言うことはありません。」と付け加えた。

しかし、驚くべき新展開として、ICCは3月17日先週、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を戦争犯罪で告発し、マリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子供の権利担当)とともに、逮捕状を出した。

17日の発表によると、昨年ロシアに侵攻された戦禍のウクライナから、国連憲章に反して子供たちを不法に移送した罪で起訴された。

ICCを創設したローマ規程に加盟していないロシアは、この逮捕状を却下した。

先週発表された声明の中で、ICCのカリム・カーン主任検察官は、「独立した調査に従って私の事務所が収集・分析した証拠に基づき、予審室は、プーチン大統領とマリヤ・リボワベロワ女史が、ローマ規程第8条(2)(a)(vii)と第8条(2)(b)(viii)に反する、ウクライナ占領地からロシア連邦への不法送還・移送の刑事責任を負うと考える合理的根拠があると確認している。」と語った。

ICC事務局が確認した事件には、孤児院や児童養護施設から連れ去られた少なくとも数百人の子どもたちが強制送還されたことが含まれている。「これらの子どもたちの多くは、その後、ロシア連邦で養子縁組に出されたと我々は申し立てている。ロシア連邦では、プーチン大統領が出した大統領令によって、ロシア国籍の付与を早めるための法改正が行われ、ロシア人家庭に養子に出されることが容易になっている。」

Karim Asad Ahmad Khan was elected on 12 February 2021 as the new chief prosecutor of the International Criminal Court (ICC). Credit: UN Photo/Loey Felipe
Karim Asad Ahmad Khan was elected on 12 February 2021 as the new chief prosecutor of the International Criminal Court (ICC). Credit: UN Photo/Loey Felipe

シカゴ世界問題評議会のトーマス・G・ワイス特別研究員(グローバル・ガバナンス担当)は、IPSの取材に対して、国連報道官の発言は完全に正確であると語った。

「安保理の持ち回り議長を阻止した前例はありません。このことは、安保理が構築された異常構図を示す最も新しい兆候に過ぎません。とはいえ、ICCによるウラジーミル・プーチンへの不名誉な逮捕状が出たことで、恐らく安保理の席はロシア大使にとって居心地がよくないものとなるだろう。」とワイス氏は指摘した。

「ブーチン氏がすぐにハーグの国際法廷に立つ可能性は極めて低いが、国際的な圧力は増すばかりである。スロボダン・ミロシェビッチの事例を想起すべきだろう。」

「昨年、国連総会で人権理事会から無情にも追放されたときと同様、ロシア政府はこの展開に非常に不満を抱いています。ロシアを追放したこと(或いは2011年に追放したリビアのケース)は、他の国連機関(安保理以外)にとって、重要な前例となりました。ロシア政府は孤立することを嫌い、そのために今回の決定に反対したのです。」とワイス氏は語った。

最大の「もしも」は、ソ連が崩壊した1991年12月まで遡る。それは、ロシアが自動的に国連におけるソ連の席に就くことが問題視された瞬間だった。

「ロシアは既に30年間の国家運営の実績があるのだから、(ウクライナのゼレンスキー大統領はそうだが)それを疑問視することはできません。移行がスムーズに行われたことに安堵するのではなく、あのとき疑問を呈していれば、と思うしかないのです。」と、ラルフ・バンチ国際研究所の名誉所長でもあるワイス氏は語った。

グローバル・ポリシー・フォーラムのジェームズ・ポール元専務理事は、IPSの取材に対し、「ウクライナにおけるロシアの軍事作戦は、国際の平和と安全保障について多くの疑問を投げかけています。必然的に、この議論は国連で激論を生むことになりました。」と指摘したうえで、「多くの西側諸国政府(および市民の中のリベラルな『理想主義者』ら)は、制裁や孤立化を通じてさまざまな方法でロシアを罰し、それによってロシアが軍を撤退させ、ウクライナにおける戦略的目標を放棄することを望んでいます。」と語った。

「ロシアは4月に国連安保理の議長として毎月の持ち回りの席に着くことができないはずだ、と提案する人もいます。」

UNSC/ UN photo
UNSC/ UN photo

「しかしこうした主張は、現在、ロシアの違反行為を糾弾している西側諸国による軍事史に対する無知と、国際問題や世界で最も強力な国家主体の働きについての知識不足を露呈するものにほかなりません。」と、「狐と鶏:国連安保理における寡頭制と世界権力」の著者でもあるポール氏は語った。

「もし国連安保理が、国際法を破り、他国を侵略し、主権国家の境界線を強制的に変更し、選挙で選ばれた政府の転覆を画策する理事国に対して、持ち回りの議長職を公平に拒否していたら、(少なくとも西側諸国を含む)すべての常任理事国は議長職を失っていただろう。」とポール氏は語った。

ICCの逮捕状に対する国連事務総長の反応を問われたステファン・デュジャリック国連報道官は3月17日、記者団に対し、「これまで何度もここで述べてきたように、国際刑事裁判所は国連事務局から独立しています。我々はICCの行動に対してコメントすることはありません。」と語った。

プーチン大統領がジュネーブ、ウィーン、ニューヨークのいずれかの国連施設に入ること、あるいはアントニオ・グテーレス事務総長と会うことが許可されるかどうかを問われ、デュジャリック報道官はこう答えた: 「なぜなら…ご存じのように、渡航の問題は他の人にも関わるからです。一般的なルールとして、事務総長は目の前の問題に対処するため、相手がだれであれ話す必要がある人物と話すことになります。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアソシエイト国際司法ディレクター、バルキーズ・ジャラー氏は、「ICCの発表は、2014年以来ウクライナでロシア軍が犯した犯罪の多くの犠牲者にとって重大な日となった。」と語った。

ICC
ICC

「これらの逮捕状により、ICCはプーチン氏を指名手配し、あまりにも長い間、ロシアによるウクライナ戦争の加害者を増長させてきた不処罰を終わらせるための第一歩を踏み出したのです。」

ジャラー氏は、「この逮捕状は、民間人に対して重大な犯罪を犯す命令を出したり、容認したりすると、国際刑事裁判所の監獄に入れられる可能性があるという明確なメッセージを送っています。」と指摘した。

「国際刑事裁判所の令状は、虐待を行ったり、それを隠蔽したりしている他の人々に対して、地位や階級に関係なく、法廷に立つ日が来るかもしれないという警鐘を鳴らすものです。」

ポール氏はさらに、「暴力的で強力な国家が存在する世界において、国連は、戦争当事国をまとめ、外交と紛争解決を促進することができるので、有用です。」「ロシアへの処罰を求める人々は、米国は自国の利益を追求するためにこれまでに何度も軍事力で他国の主権を侵害しているため、(公平なルールが施行されれば)通常の処罰を受けることになることを認識すべきです。」と、指摘した。

イラク戦争は、国連のルールや安全保障理事会の決定を無視する米国の典型的な例であるという。米国のベトナム戦争やアフガニスタン戦争も、このタイプの戦争としてさらに注目を浴びているなど、数十の事例がある。

「英国もフランスも、国際法に反して強力な軍隊を使い、脱植民地化に対する血なまぐさい戦争や、旧植民地の鉱山や石油資源などへのアクセスを確保するための軍事介入を行ってきました。」

イスラエルと共同でエジプトに対して仕掛けたスエズ戦争は、このジャンルの典型であった。ロシアや中国も、ロシアのアフガニスタンへの介入やコーカサス地域での数々の戦争など、軍事作戦や介入を繰り返してきた。

「領土保全の原則を訴えることで有名な中国は、チベットを併合し、隣国のベトナムと何度も戦争を繰り返してきました。つまり、安全保障理事会の常任理事国は、国際法の基準を作るということに関しては、非常に悪い実績しかないのです。(背後に大国の支持を得た)より小さな国でさえも、侵略行為を行ってきたのです。その例として、イスラエル、トルコ、モロッコがすぐに思い浮かびます。」とポール氏は語った。

チャバ・コロシ国連総会議長がプーチン大統領と会談する意思があるかという質問に対し、同議長のポーリーン・クビアク報道官は記者団に対し、「コロシ議長はロシアを含む総会全加盟国を代表しています。彼はプーチン大統領との会談について、これまでもそして現在も意欲的です。」と語った。(原文へ

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