
【東京INPS Japan=浅霧勝浩】
国連が制定した「核実験に反対する国際デー(8月29日)」に合わせ、若者や専門家が東京の国連大学に集まり、「グローバル・ヒバクシャ支援のためのユースの役割」と題するフォーラムが開催された。このイベントでは、広島からマーシャル諸島に至るまで、核兵器の生産、使用、実験等によって被害を受けた人々を総称する「グローバル・ヒバクシャ」の声を若者の連帯がどう増幅し、核兵器廃絶に向けた世界的な機運を強めることができるかが強調された。|HINDI|CHINESE|ENGLISH|
このイベントは会議であると同時に、行動への呼びかけでもあった。そのメッセージは明確だ。核の時代は過去の歴史ではなく、いまも世界中の人々の身体、記憶、そして闘いの中に生き続ける危機である。そして若者こそが、その声を未来へと継承していく責任を担わなければならない、と主催者たちは強調した。
青年平和意識調査

このフォーラムは、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、Qazaq Nuclear Frontline Coalition(カザフスタン核フロントライン連合)、創価学会インタナショナル(SGI)、フリードリヒ・エーベルト財団(FES)カザフスタン、マーシャル諸島教育イニシアチブ(MEI)が共催した。
5団体は、1月6日から8月9日の間に米国、オーストラリア、カザフスタン、日本、マーシャル諸島の5カ国で「青年平和意識調査」を実施し、その最終結果を発表した。対象は18歳から35歳の若者で、青年世代が核兵器について、どの程度の知識・認識を持ち、どのような行動を取っているのか、あるいは取ろうと考えているのかを問う調査で、1580人が回答した。
「どの国においても、被爆者の証言を聞いたことのある人は、核廃絶のために行動している割合が高いことが分かりました。」と、SGIユースの中沢大樹氏は語った。「各被害者の証言に耳を傾けることは、単なる記憶の継承ではなく、行動を生み出す触媒なのです。」
同じくSGIユースの阿部百花氏は、彼らの世代にとって被爆者の証言は「核兵器の人間的な代償と、その使用を防ぐ必要性を理解する最も力強い手段の一つ。」であると語った。
カザフスタンの核の遺産を想起

東京とカザフスタン・アルマトイを結んだオンライン対話では、FESカザフスタンのメデット・スレイメン氏が同国の悲劇的な歴史を振り返った。ソ連時代、北東部のセミパラチンスク実験場で456回の核実験が行われ直接影響を受けた人々とその子孫は約150万人にのぼること、そして、被ばくに関するデータはソ連崩壊時にモスクワに持ち去られたため、未だに核実験と被爆の影響に関する検証が困難になっていることを指摘した。「影響はいまだ十分に解明されていません。しかし人々の苦しみは明らかです」と語った。
カザフスタン政府は独立した1991年に実験場を閉鎖し、当時世界第4位の核戦力を自ら放棄した。国連はこの歴史的な決断をたたえ、2009年に8月29日を「核実験に反対する国際反対デー」に制定した。
日本の視点

日本の若者にとって、核の記憶は身近であると同時に遠い存在でもある。広島と長崎は国民的記憶の中心にあるが、オーストラリア先住民や太平洋の島しょ国の人々、カザフ人など他の核被害者の経験はしばしば見落とされてきた。
今年3月、ニューヨークで開かれた第3回核兵器禁止条約(TPNW)締約国会議に参加したSGIユースの二瓶優妃氏は、そのギャップを鮮明に感じたと語った。サイドイベントで、英国の核実験で被曝したオーストラリア先住民の証言を聞いたのだ。
「何の通告もなく一方的に核実験が実施され、先住民という弱い立場から未だに十分な補償をうけることができず、認知度も低いままです。」「日本では広島と長崎が歴史的悲劇として語られる一方で、グローバル・ヒバクシャの証言を聞くと、被害は現に今起こっており、苦しんでいる人が今なおたくさんいることが理解できました。」と二瓶氏は語った。
その気づきは、連帯のあり方を考え直す契機となった。「日本人として、グローバル・ヒバクシャの人々と連携して、本当の意味での核廃絶を目指していきたい。」と二瓶氏は語った。
条約と課題

Youth Community for Global Hibakusha高垣慶太氏は、TPNWの画期的な意義を強調した。同条約はそれまでの核管理条約とは異なり、初めて被害者支援と環境回復を締約国の義務として明記している(第6条・第7条)。同時に高垣氏は同条約に関する課題についても言及した。例えば、核保有国の不参加、政府とNGOの対立、そしてグローバルサウス諸国の多くが資金的に制約を抱えている点だ。「こうした諸課題は現実のものです。しかし、ビジョンもまた現実です。それを実現するために、私たちは努力を続けなければなりません。」と語った。
また高垣氏は、若者の活動を単なる「継承」に矮小化すべきではないと指摘した。「若者は『被爆者の思いを継ぐべきだ』とよく言われます。確かにそれは重要ですが十分ではありません。その前提として、私たち一人ひとりがどのような社会を築きたいのかを決め、その実現に責任を持つことが必要なのです。」と強調した。
カザフスタンからの呼びかけ

在日カザフスタン大使館のアンヴァル・ミルザティラエフ参事官は、カザフスタンは独立以来核兵器のない平和を国の基本的な選択として歩んできたことを指摘したうえで、本日のイベントは核の悲劇を記憶にとどめるだけでなく、未来に向けて行動を促す点で極めて重要だ。」と評価した。
青年平和意識調査で多くの若者が「核廃絶のために行動したいが、どうすればよいか分からない」と答えたことについては、「だからこそ核廃絶のキャンペーンはもっと分かりやすく、気軽に参加できる形にしていくことが重要です。」と指摘した。
「被爆者の証言を伝え続けていくことが、若者の思いを行動につなげる大きな力になります。」とミルザティラエフ参事官は強調した。さらに「青年には3つの力があります。『被害の事実を広める力』、『国境を越えて対話を繋ぐ力』、そして『社会を動かす行動力です』。」と述べ、「カザフスタンと日本、そして世界の若者と共に歩み、グローバル・ヒバクシャを支えながら、核兵器のない未来を築いていく、その実現を私は心から信じています。」と力強く訴えた。
国連大学学長の呼びかけ
国際連合大学学長のツシリッツィ・マルワラ博士もまた、核兵器の被害を受けたすべての人々の声を未来へ引き継ぐ責務があると強調した。国連創設時の誓い「戦争の惨禍から将来の世代を救う」を新たにし、未来を担う世代に対し、先見性と勇気をもって平和のために行動を起こそうと呼びかけた。(原文へ)

INPS Japan
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