ニュース|視点|ウラジーミル・プーチンの人生の主要な使命は達成された(レオニード・ゴズマン元モスクワ大学教授、野党政治家)

|視点|ウラジーミル・プーチンの人生の主要な使命は達成された(レオニード・ゴズマン元モスクワ大学教授、野党政治家)

この記事は、ロシアの独立系メディア『ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ』が配信したもので、同通信社の許可を得て転載しています。

【Novaya Gazeta Europe=レオニード・ゴズマン

ウラジーミル・プーチン大統領は、米国に勝ち、ロシアがリーダーとなる新たな世界秩序を確立することが自分の使命だと考えているのだろう。しかし、彼は間違っている。彼の使命はロシアを滅ぼすことだったのだ。そして彼はそれをやってのけた。これで、彼は安心して引退できるはずだ。

実際、プーチン大統領はロシアを壊すことしかやっておらず、それ以外のことは何もできていない。落ち込み続ける経済、減り続ける人口、技術開発の遅れの深刻化、徹底的な偽善―これらはすべて彼の統治の結果だ。戦争も、ヴァシーリー・ヴェレシチャーギンの絵画『戦争の結末』を彷彿とさせるような大量虐殺もそうだ。

彼はロシアを破壊した、そうだ。私たちが生まれ育った国は、もう存在しないのだ。
The Apotheosis of War/ By Vasily Vereshchagin - Own work, User:Anagoria, Public Domain
The Apotheosis of War/ By Vasily Vereshchagin – Own work, User:Anagoria, Public Domain

国は領土ではなく、それ以上のものだ。土地はどこへも行かないし、人びとも基本的にはそこに留まるだろう。今日でもロシアからの脱出者は多数派ではない。 国とは、文化であり、生活様式であり、アイデンティティであり、世界における在り方である。国とは、現在と過去をつなぐもの、つまり連続性であり、未来とは、現在のものとかつてのものの両方を指すのだ。

我が国ロシアは、過去に一度、ボルシェビキによって破壊され、消滅しかけたことがある。彼らが十月革命を起こした後には、ある種の無分別なことがまかり通る国になってしまった。しかし、それは、イワン雷帝の治世の時のようなロシア史の最も病的な時期を除けば、ロシアという国家や文化、歴史にはもう何の関係もない。それは、ロシアの歴史と文化の両方を否定し、かつての国を象徴する人々を殺害し追放した。1917年以前に亡くなった人々の記憶を忘却へと追いやり歪曲させたのだ。その後、何十年にもわたって長く苦しい復活劇が繰り広げられたが、完全に復活することはなかった。

今日、それとよく似たことが起きている。つい最近までは、「ロシア」という言葉には、良いイメージも悪いイメージも含まれていた。独裁者ヨシフ・スターリンや強制収容所を思わせる一方で、ロシアの文化、宇宙への飛躍、勝利も連想させた。しかし、それもすべて過去のことだ。かつて「ドイツ」や「ドイツ人」という言葉が、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテや偉大なドイツの科学者ではなく、ナチス親衛隊や狂気のアドルフ・ヒトラー総統、アウシュヴィッツやトレブリンカの焼却場を連想させたように、今日では「ロシア」という形容詞にふさわしいのは、死、破壊、侵略、嘘だけだ。しかも、それは長期にわたっている。

国がなくなってしまった。それだけではない。80年代後半から築いてきたものすべてが破壊されてしまった。ロシア文化はなくなってしまった。そう、ミラノスカラ座のシーズンはモデスト・ムソルグスキーで幕を開け、アントン・チェーホフは世界中のあらゆる劇場で上演されている。かつて、彼らの名の背後には偉大なロシア文化と呼ばれたものが想起されていたかもしれない。しかし今では、詩人のアレクサンドル・プーシキンや作曲家のピョートル・チャイコフスキーは、何かしらの文化的な土壌とは無関係に、彼らの名だけで存在しているかのようだ。それらは存在するが、その背後には何もない。

ロシア軍ももはや存在しない。あるのは、ウクライナに死をもたらす危険な武装集団だ。軍隊は自国を守るのであって、指導者の漠然とした幻想を叶えることのほかに何の目的もないので、隣国で悪事を働くものではない。現代的な軍隊というのは統一されているものであり、私兵で構成されているものではない。現代的な軍隊には規律があり、行き過ぎた行為もあるが、強姦や略奪をした兵士は罰せられる。ほしいままに街を略奪させ、犯罪者の部隊に衛兵の称号を与えて鼓舞するなどしない。

217th Guards Parachute Landing Regiment 98th Airborne Division (during the first open rehearsal in Alabino)/ The Apotheosis of War/ By Vasily Vereshchagin - Own work, User:Anagoria, Public Domain
217th Guards Parachute Landing Regiment 98th Airborne Division (during the first open rehearsal in Alabino)/ The Apotheosis of War/ By Vasily Vereshchagin – Own work, User:Anagoria, Public Domain

ロシアという言葉は、ピョートル大帝から巨大な軍事力を想像させてきた。今プーチンは、巨大な力など何もないことを全世界に見せつけた。これはロシアの安全保障の観点からしても、すでに危険な状態なことだ。スターリンの冬戦争(フィンランドへの攻撃)の失敗が、ヒトラーのソ連侵攻を促した。NATOの脅威というのはもちろんロシア当局が考え出したことだが、中国やタリバンといった方面からの脅威も非常に現実的だ。近隣諸国が決定的な行動をとり可能性が高くなっている。しかしロシアは、かつては(世界にとっても)軍事的に強い国だったのだが、今はどれだけ奇跡の兵器を描いて見せそうとも、軍事パレードをしようとも、どんな侵略者でも侵入できる領土があるだけだ。

実はロシアには大統領もいない。彼は選挙で選ばれたことに正統性がないと言っているのではない。大統領、王、スルタンというのは、秩序(必ずしも憲法で定められたものではないにせよなんらかの秩序)を維持し、諸外国や自国の人々とコミュニケーションをとる人物のことだ。ロシアの秩序は、憲法と同様、とっくになくなっている。火事が起き、下水管が破裂して汚物が噴出し、公約は何一つ果たされていない。

さらにプーチンはコミュニケーションを拒否している。例えば、G20では、世界に自身の正当性を説明する絶好の機会であったにもかかわらず、参加しなかった。記者会見や憲法で定められた連邦議会での教書演説も取りやめ、新年を迎えるレセプションも中止するなど、彼は自国民とも交流したがらない。つまり、自分に「忠実な人たち」にさえ声をかけようとしないのだ。

クレムリンから、あるいは未知の場所にある地下壕から、誰かが命令しているのだが、大統領はいない。
Leonid Gozman, the co-leader of the Russian Right Cause party in 2008-2011./By Pete Souza of the Official White House Photostream, Public Domain
Leonid Gozman, the co-leader of the Russian Right Cause party in 2008-2011./By Pete Souza of the Official White House Photostream, Public Domain

こうしたことは、ロシア国民だけに起きたわけではない。 プーチンとヒトラー、または、今日のロシアとナチス・ドイツを比べることはあまりにも明白すぎて表層的だし、多くの人がうんざりしていることは私も理解している。けれど冗談ではないのだ。見てみてほしい、行為もレトリックも驚くほど似通っているのだ。 ロシアは今、1944年のドイツ第三帝国に最もよく似ている。その時点では、ヒトラー総統の軍事的敗北はまだ先のことだが、世界が何百年にもわたって知っていたドイツとドイツ文化はすでに消失していたのだ。

そしてこれは奇妙かもしれないが楽観的なアナロジーでもある。ドイツは復活したのだ、何の保証もないが、ロシアにもできるかもしれない。 2022年10月、ロシア国内で開催されたバルダイ会議で、プーチンは「我われにとって、ロシアなき世界などなんのためになるのか。」と発言した。そうして、「ロシアなき」世界が、2022年にウラジーミル・プーチンの尽力のおかげで出現したわけである。(原文へ

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レオニード・ゴズマン。ロシアのリベラル派政治家。レニングラードで生まれ。元モスクワ大学教授。2008年から2011年6月まで政党「ジャスト・コーズ」の共同代表を務めた。2014年9月、声明文に署名し、「ウクライナ領土からロシア軍を撤退させ、ウクライナ南東部の分離主義者へのプロパガンダ、財政、軍事支援を停止すること。」を訴えた。2021年から22年の露・ウクライナ危機の際にも22年1月に反戦の署名をしている。

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