SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)|視点|「対テロ戦争」の正当性を疑うとき(ジョン・スケールズ・アベリー理論物理学者・平和活動家)

|視点|「対テロ戦争」の正当性を疑うとき(ジョン・スケールズ・アベリー理論物理学者・平和活動家)

【コペンハーゲンIDN=ジョン・スケールズ・アベリー

2001年の9・11同時多発テロから20年が経過し、混乱のうちにアフガニスタンからの撤退を図る米国の状況を見ると、いわゆる「対テロ戦争」の正当性を疑うことは適切なように思える。対テロ戦争を名目に開始された米国の20年に亘る一連の戦争では、約200万人以上が殺害され、3700万人が家を追われ、8兆ドルという莫大な戦費が費やされた。

もしこれらの戦争がテロの脅威を削減するためのものだとしたら、目的は果たせなかったと言えよう。なぜなら、米軍が民間人の頭上に投下した爆弾は、新たなテロリストを生むことになったからだ。一方、戦争の目的が軍需産業を儲けさせるものだとするならば、「対テロ戦争」は所期の目的を達成したと言えるだろう。

John Scales Avery

しかし果たしてテロの脅威とは現実のものだろうか。それとも、群れを追いやる犬の鳴き声のようなものだろうか。一方、食料の安全保障が脅かされつつあることや、壊滅的な気候変動が迫っていることは、極めて現実的な問題だ。既に1100万人の子供達が栄養失調と貧困関連の問題が原因で毎年命を落としている。また、第三次世界大戦が勃発して、人類文明や地球の生態系が消滅してしまう脅威も現実のものだ。

さらに再生不能資源が枯渇して経済が崩壊する脅威や、不安定な部分準備銀行制度に関連した脅威も現実のものだ。これらはいずれも、私たちの未来に対して現実の脅威だが、これらと比べれば、テロの脅威は極めて小さなものに過ぎない。

今日の世界では数百万人が飢え、数百万人が予防可能な病気で命を落とし、数百万人が戦争の犠牲者になっている。こうした膨大な犠牲者の数に比べれば、テロの犠牲者は遥かに少ないと言わざるを得ない。毎年交通事故で亡くなる人々の数と比較すれば、テロの犠牲者の数はほぼ見えなくなるほど少ない。

9・11同時多発テロの公式説明は事実ではない

9・11同時多発テロの公式説明は事実ではなく、米国政府が終わりなき対テロ戦争と国内において市民権を縮小する措置を正当化するために、大惨事を実際よりも悪く仕向けたことを裏付ける強力な証拠が公開されており、真相を知ろうとする者は誰でもインターネットで調べることが可能だ。

しかし世界貿易センター攻撃に関する公的説明に異議を唱えるものは少ない。定義上、公的説明を受入れる者は立派な市民ということになり、異議を唱える者は、「左翼」で「おそらくテロリスト同調者」ということになる。ジョージ・W・ブッシュ大統領が述べた通り、文字通り「敵か味方か。」に分類されることになる。

イラクとアフガニスタンの戦争

9・11同時多発テロに対するブッシュ大統領の反応は、これでイラクに遠慮なく侵攻できるか補佐官らに尋ねるものであったようだ。元テロ対策大統領補佐官のリチャード・クラーク氏によると、ブッシュ大統領は9・11後、主要攻撃目標としてイラクに執着していたという。

9・11同時多発テロの9日後、英国のトニー・ブレア首相がホワイトハウスに大統領のプライベートディナーに招待されていた。同席していたクリストファー・メイヤ―駐米英国大使によると、ブレア首相はその席でブッシュ大統領に対して「標的はあくまでもタリバンとアルカイダであり、そこから逸れてはなりません。」と語った。するとブッシュ大統領は、「トニー。あなたのおっしゃるとおりです。まずはこれ(タリバンとアルカイダ)に対処しなければなりません。しかし、アフガニスタンをかたづけたら、イラクに戻らなければなりません。」と回答したという。マイヤー大使によれば、「アフガニスタンに加えてイラクと戦争になる可能性に直面しても、ブレア首相は抗議しなかった。」という。

2002年の夏、ブッシュ大統領とブレア首相は電話でイラク問題を協議した。ヴァニティ・フェア誌が報じたところによると、通話記録を読んだディック・チェイニー副大統領府の高官は以下のように述べている。「記されていたことは何が起ころうと、サダム(フセイン)は去らなければならない。つまり彼らはイラクを攻めてフセイン政権を倒す。正しいことをしようとしているのだ、と。ブレア首相に対して説得は必要ないようだった。つまりブッシュ大統領がブレア首相に参加を求めるシーンはなかった。私は2人のやり取りを読んで、『OK。翌年私たちが何をすべきか理解できた。』と思ったのを覚えている。」

2002年6月1日、ブッシュ大統領は米国の新政策を発表したが、それは従来の米外交政策から逸脱するのみならず、国連憲章と国際法を毀損するものだった。ブッシュ大統領は、ウェストポイント陸軍士官学校の卒業式で演説し「米国は、将来我が国に危害を及ぼす可能性があるいかなる国に対しても、先制攻撃をしかける権利を有している。」「テロの脅威が現実化するまで待ったら、待ちすぎだ。」と述べ、世界の3分の1にあたる60カ国がこのカテゴリーに該当すると示唆した。

米国やいかなる国であろうと先制攻撃で戦争を開始できる権利があると主張することは、国連憲章のとりわけ第1章第2条3項及び同4項に違反する。これらの条項には、「すべての加盟国は、国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない。」「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」と明記されている。

国連憲章はまた、加盟国が武力攻撃を受けている場合には、安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間、当該国に個別的又は集団的自衛の固有の権利を認めている。

対テロ戦争の名目で行われてきた殺人と拷問

冷戦の終焉に伴い、米国の巨額の軍事予算を正当化する新たな名目が必要となった。そこで見出されたのが「対テロ戦争」である。そこでは、テロ行為がたとえ国家によるものではなく個人の犯行で、戦争ではなく警察力による対処が適切だったとしても、それは顧みられず、テロを支援したとして一国全体が糾弾され、軍事侵攻作戦が実施された。

さらに、個々のテロ容疑者に対しては、例えば、無人航空機(ドローン)を用いた超法規的殺害が実行に移された。また大規模な拷問プログラムが立ち上げられ、「対テロ戦争」にはあらゆる手段が許されるとした言い訳で正当化された。

もちろん、ドローン攻撃で無実の民衆を殺害し、容疑者に拷問するプログラムを実施したことは、テロリストの削減に寄与するどころか、より多くのテロリストを生み出し、彼らの過激主義を強める結果になった。しかし、「対テロ戦争」の真の目的が、テロの根絶ではなく、肥大化した巨額の軍事費を正当化することだった政府はこのことを意に介さなかった。

この記事は、米国による「対テロ戦争」を厳しく批評したものだが、米国には多くの善人がいる。軍産複合体(や新興実業家等)から流れるカネが多くの腐敗政治家を支配しているが、改革派が反撃に出ている。私たちは、米国のみならず世界各地で、改革派のもとに団結して、軍国主義と闘わなければならない。(原文へ

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