視点・論点セルジオ・ドゥアルテ兵器を鋤に、危機を機会に(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮担当上級代表)

兵器を鋤に、危機を機会に(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮担当上級代表)

【ニューヨークIPS=セルジオ・ドゥアルテ

米国における主要金融機関の倒産とともに数年前に始まった危機は、いまや欧州に飛び火し、世界のその他の地域を脅かすようになった。健全な経済・財政政策や時宜を得た内需拡大策によってこれまでのところは被害を免れてきたアジアやラテンアメリカの新興国も、いまや、二次被害を受けつつある。

国際社会が金融不安と先行き不透明な状況に直面しているにも関わらず、引き続き数億ドルもの巨費が、さして成果を挙げていない軍事作戦に毎日消費され続けている。そうした中、その他にも様々な不穏な兆候が顕在化してきている。紛争地域の中には、戦闘作戦行動が終結しつつあるところもあるが、緊張の根本原因は取り除かれておらず、予測不能の帰結をもたらしている。

かつて強大な力を背景に各地の戦争に関与してきた国々では、本国へと撤退する圧力を感じている一方で、国家の安全保障体制を維持するためとして、次世代の殺戮兵器を設計・実験し、最終的には開発・配備するための新たな財源が割り当てられている。同様に一部の国々は、外国からの現実或いは想像上の脅威に対抗する破壊手段を得るために、乏しい国家財源のかなりの割合を防衛費に傾ける意志を固めているように見受けられる。

 国連の潘基文事務総長がかつて表現した「抑止という感染的なドクトリン」は、冷戦期の2つの敵対国家(=米国とソ連)だけのもつ特徴ではもはやなくなっている。もしある国が、自国には核の「保険」―自国の核戦力を指してある元首相がこう言ったことがある―を保持する権利があると考えるならば、他国にのみ同様の必要性を感じても追随しないよう期待するというのは無理があるだろう。

国際会議において二国間あるいは多国間の軍備管理協定を締結しうる日々が過ぎ去ってしまったかのように見えるのは残念なことである。過去の協定は、効果的な軍縮をもたらしてはいないとしても、少なくとも、軍拡競争の最も危険な側面を抑え込み、軍縮に向かったさらなる進展の可能性を示すことによって、ある程度の正気を保ってきた。国連が何十年も前に設置したこの多国間協議機関(=ジュネーブ軍縮会議)は、もうかれこれ15年にわたって、核軍縮と不拡散の両面において、何らかの重要合意に向けたほんの僅かの前進すらもたらすことができなかった。人類は、他の種類の大量破壊兵器、すなわち、化学兵器生物兵器の全面禁止という、これまでの成果をさらに追求するという能力も意思も失ってしまったかのようだ。

冷戦のピーク時に比べて核兵器の数はかなり減っているものの、実際の廃絶、あるいは、核を保有する国の軍事ドクトリンにおける核の重要性が低減されたかといえば、あるとしてもほんの僅かの進歩しか達成されていない。世界はますます財源を通常兵器の生産に振り向けている。そのうちのかなりの部分が違法なブローカーの手を通じて最貧国での紛争で使用され、民衆の生活を改善する機会を脅かしている。

世界が兵器に費やしている費用は合計で、約1.7兆ドルに達しているが、これはおそらく、先進諸国が金融状況を改善するために投下してきた費用とほぼ同じである。

しかし、今のところ少なくとも、すべてが失われたというわけではない。識者らは、本当の意味で時代を一歩先へと前進させた仕組みはすべて、国際関係における深刻な危機の中から生まれたものであると指摘している。最近の歴史では、重要な国際合意が、大きな紛争や大規模な破壊、深刻な対立のあとに実現している。具体的な事例としては、(最初の戦時国際法のひとつである)ハーグ陸戦条約、後に不運な結果となった(第一次世界大戦後の)国際連盟の創設、そして(第二次世界大戦後の)国連連合の創設がそれにあたるといえよう。

しかし、人類は、大きな戦争や同じような大惨事が起こるのを手をこまねいて待つ必要はない。この数十年の中で成し遂げた進歩はいずれも、惨事が現実に起こる前に何か手を打たなければならないという、時宜を得た認識の結果として実現したものである。具体的な例を挙げれば、米ソ超大国による、際限のない軍拡競争の狂気には終止符が打たれなければならないという認識であり、拡散は抑えられなければならないという認識であり、少なくとも、もっとも有害で無差別的な通常兵器は禁止されねばならないという認識であり、原子の力を平和利用にのみとどめる方法が模索されねばならないという認識であった。

現在の金融危機と、安全保障・軍縮・開発・環境の問題に対処する国際構造の行き詰まりとが合わさった効果によって、新しい認識が生まれてくる可能性もある。たとえば、富裕国は、自らの資産と福利が、天然資源と同じく、永久に続くものではないことにすでに十分に気付いている。従って、先進諸国は、全ての人々の利益になるように、賢明な解決策を目指して貧困国とともに力を生み出していくべきなのである。もっとも多くの武器で武装した国家は、自らの領土を要塞に変え、さらに高度な破壊方法を生み出したところで、自らの安全を高めるどころか、むしろ危険に晒すことになると気づくべきである。

より厳格な財政政策によって、世界中の軍事予算をかなり削減することができるはずである。おそらく、もっとも重要なことは、第二次世界大戦や冷戦は完全に終焉したのだと認識する国際システムにおいて協力することができれば、いかなる危機も解消することができるということを、富の多寡や政治力・軍事力の多寡に関係なく、すべての国家が最終的に理解すべきだということである。それは今からでも決して遅すぎるということはないのだ。

セルジオ・ドゥアルテ氏はブラジル大使で、元国連軍縮問題上級代表。

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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