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ミャンマーの民主主義の支援には条件がある

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

(この記事は、最初に2021年4月1日に「ジャパンタイムズ」紙に発表され、許可を得て掲載したものです。)

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

ミャンマーは、クーデターと長期にわたる軍政の歴史を持つ。今回の抗議運動の厚み、規模、持続性は、文民政権の復活が不可能ではないことを意味している。一方で、これまでの軍部の残虐性の遺産は、無期限の軍事政権もあり得ることを意味している。

Tatmadawと呼ばれるミャンマー軍は、アウン・サン・スー・チーが2020年11月の圧倒的な再選勝利に乗じて彼女の政党の政治的地位を確固たるものにし、国政から軍の支配を駆逐することを恐れて、行動を起こそうとしたのかもしれない。そのタイミングは、他国がコロナ禍に気を取られている状況や、隣国タイで軍幹部がクーデター後に軍事支配の制度化に成功するなど、世界的に民主主義が後退していることも影響したのかもしれない。(原文へ 

誰が、このリーダーシップの空白を埋めることができるのか? クーデターは、ジョー・バイデン米大統領にとって就任早々の外交政策危機となり、また激化する北京とワシントンの地政学的競争の中心にミャンマーを押し出すことになった。欧米諸国にとって、ミャンマーにおける民主主義と人権を支援することは、自国の美徳を示す低コストな方法でもある。

北京のジレンマは、武力行使を辞さない軍幹部を後押しするのか、断固として反中的な抗議運動の側につくのかだ。ミャンマーにとって中国は歴史的な敵国である。中国のとめどない強大化は、欧米への懸念よりも中国への懸念の方が切迫した問題になったことを意味する。ミャンマーは中国に対し、経済的ニーズを満たす採掘可能な資源を提供し、商業的・戦略的目標を満たすインド洋への足掛かりを提供している。中国外務省は、「ミャンマーで起こっていることに注目しており、状況をさらに詳しく理解しようとしているところだ」と述べるにとどまった。

2021年3月27日、日本の占領に抵抗するビルマ人の運動が1945年に始まったことを記念する国軍記念日に、多くのデモ参加者が兵士により殺害された。デモ隊と軍の衝突の中でも最も凄惨な1日となったこの日、死者の総数は500人を超えた。欧米および日本と韓国からなる12カ国の軍トップは、「職業軍隊は……自国民を傷つけるのではなく守る責任がある」とする異例の共同声明を発表し、ミャンマー国軍に対して暴力の停止を求めた。しかし、首都ネピドーで行われた盛大な軍事パレードには、中国、ロシア、インド、パキスタン、バングラデシュ、タイ、ベトナム、ラオスからの代表が出席し、国際社会の分断を目に見える形で示した。

インドは、クーデターとデモ参加者への暴力に対する不自然な沈黙が国内外に動揺を掻き立てており、パレード出席がそれに拍車をかけた。インドは「深い懸念」を表明し、法の統治と民主的プロセスの進展を求め、ミャンマーの指導者らに意見の相違を平和的に解決するために協力するよう呼びかけた。インドは、ロヒンギャ虐殺に関して当初スー・チー氏が沈黙したことについても、また、軍事政権が彼女を権力の座から追放するクーデターを起こしたことについても、批判に加わらなかった。

ミャンマーは、中国、インドと国境を接している。中国がミャンマーの側につく限り、インドがミャンマーにおける民主主義を支援するには条件がある。インドは地政学的に重要なこの国に対して、直接的で重要かつ具体的な利害関係を有するため外交政策の計算を欧米に外注するつもりはない。さらなる利害要因としては、ミャンマーを本拠地として活動する反インド武装勢力に対する越境攻撃の許可、イスラム・テロを抑止するためのミャンマー国軍との協力、ロヒンギャ難民に対処するためのミャンマーおよびバングラデシュとの協力などがある。

日本はミャンマーに多額の投資を行っており、最大の援助国である。2月のクアッド(Quad)首脳オンライン会議の後、茂木敏充外務大臣はTatmadawに対し、「ミャンマーの民主的な政治体制の早期回復」を要求した。しかし、中国、日本、インドは歴史的に、原則性と慎重性の見地から、国家運営の手段として制裁を用いることに慎重な姿勢を取ってきた。制裁は世界の政治的な相違を兵器化するものであり、大概は効果がなく、時には逆効果である。厳しい制裁は人々に苦痛を与え、ミャンマーを中国に依存する国家にするだろう。

利益や利害関係、価値観の優先順位が異なるため、インド太平洋地域の民主主義国の非公式グループであるクアッドが、民主主義の回復を求めて圧力をかけることは困難になっている。インド自身も、英国、米国、スウェーデンの独立した民主主義評価機関において民主主義の赤字が拡大していると指摘されている。

国連のトップリーダーは、欧米の世界観、手法、役職者が多数派であり、例えばスイスの外交官クリスティーネ・シュラナー・ブルゲナーがミャンマー担当特使を、元米国下院議員トム・アンドリュースがミャンマーの人権状況に関する特別報告者を務めている。こういった理由から、国連は、アジアにおける危機を理解し、アジア人の中に受容力のある人々を見つけ、積極的な紛争解決の役割を果たすためには不十分である。

最大のステークホルダーは、1997年にミャンマーを加盟国として迎え入れたASEANである。ASEANはかつて、欧米の批判と敵意から軍事政権を保護し、国際制裁からの緩衝材を提供した。ASEANは、サイクロン「ナルギス」による被害の後、水面下で密かにミャンマーに外国からの被災者支援の道を開き、ラカイン州の危機を解決するために助力した。そして、ロヒンギャ避難民の帰還をめぐる話し合いを行っている。

軍幹部らはASEANの申し出に反応を示し、制限を緩和し始め、限定的な民主主義の行使を許可したが、その一方で文民政権における軍部の特権的役割を形成した。2人のアジア人国連上級職員も、ミャンマーが孤立状態から脱するために決定的な役割を果たした。パン・ギムン国連事務総長とビジェイ・ナンビアル国連事務総長室官房長である。しかし、一つの国に二つの政府が並行して存在する体制は、自らの矛盾の重みにより崩壊した。

この危機に対する欧米のおおむねの反応は、過去のほとんどの地域的危機に対する反応と同様に、ASEANの非難されるべき点は有効な措置の欠如だというものである。2021年2月1日と3月2日に発表されたASEANの議長声明は、欧米の批判に対してあまりにも弱腰だった。インドネシア、マレーシア、シンガポールは、平和的抗議者への武力行使を最も厳しく非難したが、全てのASEAN首脳が軍幹部への関与が必要であることで合意した。インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、努力の最前線に立っている。結局のところASEANは、閉塞や不作為を批判されるよりも、解決の可能性を模索するためには最も適した話し合いの場なのである。

キショール・マブバニ元シンガポール国連大使が主張する通り、ASEANの弱みこそが強みである。ASEANは、誰にとっても脅威ではなく、誰からも信頼される。ASEANは、危機を調停し、Tatmadawを正当化することなく彼らの関与を引き出すとともに、軍部を疎外することなく政権与党と国民の関与を引き出す主導的な役割を担うべきである。ASEANの周旋により、さまざまな当事者を話し合いの座に就かせ、国連や他のパートナーをファシリテーターとして迎えて、危機から抜け出す道を模索することができるだろう。外部の主要国は、ASEANの主導的役割を支持し、これ以上の流血を招くことなく政権の座を明け渡すよう軍幹部を説得するために協力するべきである。

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、オーストラリア国際問題研究所研究員。R2Pに関わる委員会のメンバーを務め、他の2名と共に委員会の報告書を執筆した。近著に「Reviewing the Responsibility to Protect: Origins, Implementation and Controversies」(ルートレッジ社、2019年)がある。

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コロナ禍を契機とする都市部から地方への逆移住:ツバルの事例

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=キャロル・ファルボトコ/タウキエイ・キタラ 】

コロナ禍の間、太平洋諸島では移住パターンに逆転が見られた。都市の有給雇用が減少するなか一部の地方への移住が増加し、多くの場合は国の政府がそれを奨励した。当初の地方移住の後に都市部に戻る移住者もいたものの、コロナ禍の間に生じたこの都市部から地方への移住は、たとえ一時的現象だとしても、太平洋諸島の人々の間では地方との文化的・血縁的な結びつきというものが、特に外的ショックにさらされた場合にレジリエンスを維持するのに、いかに助けとなるかを理解するうえで参考となる。(原文へ 

ツバルでは、コロナ禍の少なくとも初期に、首都フナフティの島から地方の島々への国内移住が多く見られた。ツバルは、新型コロナの市中感染拡大を免れた数少ない国の一つだ。新型コロナがツバルの検疫の境界を破った場合、ツバルの離島はそれぞれの「ファレカウプレ」(伝統的長老会議)の統治プロセスを通してロックダウンを決定する可能性が高く、その場合、地方の島々のレジリエンスが究極の試練に直面する。

ツバル政府の新型コロナ健康安全保障計画では、主要な柱として、首都在住者が自発的に離島に移住することが奨励された。もし新型コロナが国内に流入すれば、政府は「コロナウイルスの管理および抑制に関する規制」(Management and Minimisation of the Coronavirus Regulation)に基づいて移住を強制することもできた。

ツバルの人々は自発的移住の奨励に応え、多くの人々が速やかにフナフティを離れて首都沖の地方の小島や、親族の絆をたどり、土地の所有権や使用権を主張できるような、より遠い離島へと移住した。これにより、地方から都市部への移住トレンドが突如として逆転した。

ツバルの離島や地方の小島は、資源を共有する習慣があり、食料も現地で調達できるため、新型コロナの国内流入が起こりうる首都から移住してきた人々を支えることができる安全かつ安心な場所として認識され、実際にそうであった。

ツバルの首都人口の4分の1が政府の助言を聞き入れコロナ禍の初期に地方の島に移住し、受け入れ先の地元コミュニティーも彼らを温かく迎え入れたのは、何故なのか? 答えは、ツバルにおける土地、文化、歴史的な移動のプロセスなどがどのように絡み合っているかにある。ツバルで行われている慣習的な制度は、人々がより安全な地方に移住するための広範で革新的な方法を提供しており、それらの地域は平和的かつ効果的にコロナ禍の課題に対処することができる。

土地は、個人が所有するというよりむしろ村落が所有している。コロナ禍以前のフナフティの人口の大部分は、主に雇用のために離島から首都に移住した国内移民からなっていた。首都へ移り住んだ彼らは都市部の土地への慣習的な使用権を持っておらず、したがって、首都の土地の慣習的所有者であるフナフティの先住民と異なり、住居を賃借しなければならない。土地への結びつきが慣習的に強いため、何世代にもわたって他の土地に定住した後も「フェヌア」(故郷の島)に戻る人々がいるのは珍しいことではない。

他にも多くの人は故郷の島に戻ることを夢見ている。これは、やむことのない望郷の思いのためでもあり、故郷の島とその地元社会に対する慣習的な責任感のためでもある。しかしそれは、安心感のためでもある。ツバル人はしばしば、自らのフェヌアを安全な場所と認識しており、例えば戦争やサイクロンの際にはそこに居たいと感じている。コロナ禍の緊急事態で首都を去ることを選んだツバル人の多くにとって、自分か配偶者がフェヌアの結びつきを持つ島を移住先として選ぶのは分かり切ったことだった。親族の絆が強いため、首都から故郷の島に戻る移住者が土地も親族の支援も得られないということは、極めてまれなことである。

国の政府は離島が人口増加に対応できるよう財政的支援を行い、全体的な計画の助言を行ったが、移住する人々の定住と支援は既存の地域的・慣習的な統治制度に委ねられた。親族の土地に住む長年にわたる権利と地場の食料が入手可能であることは、首都からの移住を推奨する政府の計画の成功に不可欠であった。

カイタシ」(一族の土地、文字通り「一体となって食べる」)から食料を調達する権利は、非常に広い範囲の家族、つまりどれほど遠くても血縁関係があるなら誰にでも適用される。したがって、長期にわたって不在だったとしても一族のメンバーであれば、カイタシにおいて既存の住居に滞在し、食料を収集するなど、一族の土地を利用して支援を得る権利の分け前を主張することができ、実際にそうするのである。さらに、帰郷した移住者家族はその広い親族に属する世帯から、より永続的な滞在場所を提供される可能性が高い。

政府の「タラアリキ計画」は、地方への移住を支援するために、食料の安全保障に関する慣行の重要性を認識していた。計画は、慣習にのっとった食料生産、保存、配分活動の強化を推進しており、いずれも、新型コロナウイルスの感染が拡大した海外からの物資供給や人道支援への依存を抑えることを目的とするものだった。

また、タラアリキ計画は、全体的なレジリエンス計画の一環として慣習的な知識に基づく慣行を取り入れている。計画では、教育の責任を負うのは教育省だけにとどまらず、家族や島の地域社会も部分的に教育の責任を担うことになっている。コロナ禍の影響で学校教育が中断された結果、ツバルの若者たちは、慣習的な食料調達の慣行に新たに触れ、参加するようになった。それは、親族とともに行う場合もあれば、魚の保存、プラカ芋の栽培と施肥、ココヤシ樹液の収穫など、特定の技能開発を目的とする地域での研修会で学ぶ場合もある。

緊急事態の間、地域住民の一致協力を確実にするために、島ごとのファレカウプレによる慣習的な統治が行われた。都市の暮らしに慣れた新住民を定住させるにあたって、彼らは、より「オラ・ツ・トコタシola tu tokotasi)」あるいは「カロ・バオkalo vao)」(個別化されたライフスタイル)に慣れているといった課題は確かに存在する。また、新住民が増えたことにより、離島の天然資源への負荷は増大しただろう。とはいえ、食料安全保障の問題は報告されなかった。このことは、慣習的制度が十分に機能していたことを示している。

ファレ・ピリ」とは、隣人の問題を自分のこととして扱い、したがって隣人を家族として扱うことを意味する。ファレ・ピリを通して、親族と土地を共有する責任は、親族ではないけれど健康を守るために首都の島を離れたいと思う他者へも拡大適用されるようになった。フナフティ出身者も初めて、首都沖の小島の土地をこれまで土地利用権のなかった非出身者の人々にも利用できるようにし、必要とする限りその土地に家を建て、食料を育てて収穫できるようにした。

コロナ禍の間に地方への移住が増えた太平洋島嶼国はツバルだけではない。文化や地理の特性は明らかに異なるものの、ツバルほど地方との慣習的な結びつきが強くない国でさえ、恐らくは、地域全体のレジリエンスを醸成するうえで慣行は重視されていると思われる。これは、例えば、宗教的指導者が地域社会の話し合い、調停、問題解決を奨励することなどで達成される可能性がある。

人々が地方に移住する際、特に国の政策的な支援がある場合は、衰退あるいは休止していた慣行が復活することもある。新しい状況に合わせて修正される慣行もあるだろう。また、ターゲットを絞った訓練プログラムにより、食料安全保障といった特定の目的のために慣行を活用することも考えられる。全体的に見て、コロナ禍によって生じた都市部から地方への移住は、太平洋諸島の人々にとって地方との文化的・血縁的結びつきがレジリエンスの維持にどれだけ助けとなるかを理解するうえで有益だということである。

キャロル・ファルボトコは、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の科学研究員およびタスマニア大学のユニバーシティ・アソシエートである。
タウキエイ・キタラはツバル出身で、現在はオーストラリアのブリスベーンに居住している。ツバル非政府組織連合(Tuvalu Association of Non-Governmental Organisation/TANGO)というNPOのコミュニティー開発担当者であり、ツバル気候行動ネットワークの創設メンバーでもある。ツバルの市民社会代表として、国連気候変動枠組条約締約国会議に数回にわたって出席している。ブリスベーン・ツバル・コミュニティー(Brisbane Tuvalu Community)の代表であり、クイーンズランド太平洋諸島評議会(Pacific Islands Council for Queensland/PICQ)の評議員でもある。現在、グリフィス大学の国際開発に関する修士課程で学んでいる。

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英軍兵士に略奪された「ベニン・ブロンズ」を巡る返還議論

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

英国が1897年にベニン王国(12~19世紀末までナイジェリア南部の海岸地帯に存在した国)を軍事占領した際に略奪した文化財(通称:ベニンブロンズ)を、ナイジェリアに返還する動きに焦点を当てた記事。近年、略奪した文化財は元の国に返還するべきだという声が世界的に高まっており、英国でも国教会や一部の大学、博物館で略奪品の返還論議が出てきている。(原文へ

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アフリカ自由貿易地域が人々を極度の貧困から救い成長を加速する

【ブラワヨ(ジンバブエ)IDN=バサニ・バファナ】

長らく待ち望まれていたアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が1月1日に発効した。規模的には世界で最大の自由貿易地帯となる予定であり、アフリカの貿易新時代が約束されている。

世界銀行によれば、アフリカ全体の自由貿易協定は、大きな改革と貿易促進措置が伴うならば、2035年までに圏内の総収入を4500億ドル増やし、3000万人を極度の貧困から救う可能性がある。自由貿易地帯は、完全に運用がなされるようになると、12億人規模の市場となり、GDPの合計は2.5兆ドルとなる。

コーク大学ビジネススクール(アイルランド)経済学部の経済学教授であるウィム・ノード博士はこう説明する。「貿易は経済成長と繁栄をもたらす最大のエンジンの一つです。なぜなら、国々は貿易を通じて生産を特化し、消費を多様化することができるのですから。」

生産の特化は、学習やイノベーション、より高い生産性を可能にする。これらを財と交換することで、経済的に独立している場合に達成可能なレベルと比べても、消費と福祉のレベルは高くなる。

「自由貿易地帯は、市場アクセスへの障壁を引下げ、市場を大規模化し、消費者により多くの選択肢を与え、企業に競争圧力を与えて生産性を上げることで、これらの効果を強化することになるだろう。」とノード教授はIDNの取材に対して語った。以下がその抜粋である。

Q:貿易政策はいうに及ばず、アフリカ各国の経済の違いがあって、依然としてアフリカには多くの障壁があることを考えるならば、今回の自由貿易圏が、アフリカにおける貿易をどのように調和させることになるでしょうか?

ウィム・ノード(WN):自由貿易圏は、投資やイノベーション、起業を刺激します。従ってAfCFTAは、アフリカ諸国にとっては朗報であり、歴史的な機会を提供するものとなるでしょう。各国の経済が異なっていることは問題となりません。実際、各国の経済が異なっているからこそ、福祉における利得を得るうえで貿易がより重要になってくるわけです。

アフリカのほとんどの国の規模は比較的小さく、地球上のどの地域よりも内陸国が多いことを念頭に置かねばなりません。したがって、貿易障壁を除去することは、例えば大規模な沿岸国と比べるよりも、アフリカにおいてより大きな意味を持つのです。

Q:アフリカ大陸自由貿易圏は、アフリカの産業化に対してどのような機会を提供するでしょうか。

WN:多くのアフリカ諸国は、2000年以来、小さな基盤からの出発ではありますが、産業(工業)成長の軌道に乗っています。この流れは前向きなものです。労働経済学研究所(IZA)のペーパーで私は、アフリカの産業化には3つの型があると論じました。

AfCFTAはこの流れを強化することになるでしょう。(1)(例えば3D技術やIT、デジタル化などを基盤とした)先進的な工業が起こっている国(南アフリカ、ケニア、ナイジェリアなど)ではその規模が拡大し、(2)基本的な労働集約的な工業(家具製造など)が存在する国(タンザニア、エチオピアなど)では、(規模の経済の原理によって)AfCFTAがない時に比べて長期にわたって競争力を維持することができ、(3)製造の維持にとって必要な高度に生産的なサービス部門(対企業サービス、物流、運輸など)が伸びつつある国(モーリシャス、ボツワナなど)では、効率性や専門性がさらに上がって、アフリカ諸国の製造業者にも国境を越えてより容易にサービスを提供することができるようになるでしょう。

Q:アフリカ諸国は、デジタル化を利用しながら、環境に配慮した工業化と多様化を通じて、いかにして急速な経済成長を達成することができるでしょうか?

WN:2015年のパリ協定とその後の締約国会議(COP)は、富裕国が国際的な資金調達メカニズムを創設して、途上国が気候変動に対応しその影響を軽減する支援を行う必要性を強調しています。

かなりの資金がこの目的のために利用可能になっています。アフリカは、ひとつのブロックとして、産業への投資を支援するためにこの資金を利活用する取り組みを強化すべきでしょう。TRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)に関してもまた、先進国は途上国への技術移転を公約しています。しかし、これは、それほど速いスピードで、あるいは効果的には進んでいません。ここでもまたアフリカは、一つのブロックとして、気候関連技術へのアクセス促進を求めて、公約を果たすように先進国に要求していかねばなりません。

最後に、産業発展の最も重要な要件は、安価なエネルギー・電気へのアクセスです。アフリカ大陸全体で電気網を発達させる必要があります。このために、原子力発電への投資をアフリカ全体で行って、温室効果ガスを出さずに信頼性のあるエネルギーを確保しなくてはなりません。デジタル技術は、これらすべての投資を下支えするにあたって、中心的な役割を果たします。

Q:アフリカはいかにして債務問題に対処し、財政の持続可能性を確保するための革新的な資金調達を促進できるでしょうか?

WN:原則的には、アフリカ諸国は借り入れる必要がありますね! アフリカは債務を積み上げるべきです。なぜなら、アフリカの人口は伸びていますし(債務支払いのための担税能力がある)、資本形成が比較的低い現状を考えると、ハイリターンをもたらす投資機会も多くあるからです。唯一の要件は、借り入れた資金を賢く投資し利用することです。すなわち、拡大する生産能力の強化に投資するということです。そうすれば、各国の財政状況は持続可能なものとなるでしょう。

私は、いわゆる「革新的資金調達」を支持しているわけではありません。債務担保証券のような破壊的な金融イノベーションがグローバル金融危機を引き起こしたことを思い起こしてみるべきです。単純な経済原則が依然として最善なのです。つまり、資金を借り入れ、その資金を生産的な活動に配分し(飽くなき利益を追求する大企業やその関連組織の幹部に対してではなく)、これらの投資がもたらす成長を増大させることで、債務を返済していくということが重要です。(原文へ

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世界の貧困層に最も深刻な打撃を与えるコロナ禍

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

新型コロナウィルス感染症のパンデミックは、世界の最も貧しい国々に極めて深刻な状況をもたらしている。60以上の国連機関および国際機関が発表した「持続可能な開発に向けた資金調達報告書2021」は、コロナ禍によって持続可能な開発目標(SDGs)の達成がさらに10年は遅れることになると警告している。パンデミックのために世界経済はこの90年で最悪の景気後退を経験しつつある。

このことは、最も社会的に弱い立場の人々に特に悪影響を与えている。推定1億1400万人が職を失い、約1億2000万人が極度の貧困に陥った。

Photo Credit: UN Photo/ Kibae Park

「このパンデミックで明らかになったのは、各国が世界の相互依存関係を無視して自らを危険に晒している現実です。コロナ禍が引き起こす災害に国境はなんの意味も持ちませんから。分裂する世界は、すべての人々にとって災厄以外のなにものでもありません。途上国がこの危機を乗り越えるために支援をすることは、道徳的に正しいことでもあり、あらゆる国の経済的自己利益にも適うことです。」と、国連のアミナ・モハメド副事務総長は語った。

パンデミックに対するバランスを欠いた対応のために、既に拡大していた国家内や国家間の人々の格差や不平等がさらに拡大している。史上最大規模の16兆米ドルの景気刺激策によって最悪の事態は免れたが、その額のうち2割以下しか途上国に投じられていない。3月25日に発表された先の報告書によれば、今年1月までの時点で新型コロナウィルスワクチン接種が開始された38カ国のうち、9カ国以外は先進国であるという。

また、同報告書によれば、後発開発途上国とその他の低所得国の約半分が、コロナ禍以前から債務危機に喘いでおり、コロナ禍で税収が減ったことから債務のレベルが急上昇している。したがって、次のような措置を速やかに実施する必要がある。

・ワクチンナショナリズムを拒絶して、「コロナ対策への公平なアクセスを加速するための世界規模の協働の枠組み」(ACTアクセラレーター)が2021年に必要とする資金の調達ギャップ(200億ドル超)をなくすために資金提供を拡大すること。

・政府開発援助の対GDP比0.7%目標を達成し、途上国、とりわけ後開発途上国に対して新たに譲許的融資を行うこと。

・流動性を提供し、債務救済支援を行うことで債務危機を回避し、途上国が新型コロナウィルスやそれが経済・社会にもたらす悪影響に対応できるようにすること。

「富裕国と貧困国との間の格差拡大はきわめて退行的なものであり、速やかに方向を正さねばなりません。」と、この報告書を作成した劉振民国連​経済社会問題担当事務次長は語った。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No.3

「各国が、金融面での平常を保つためだけではなく、自らの開発投資するためにも支援を受けられるようにすべきです。コロナ後により良い社会を構築するために、官民部門がともに、人的資本、社会的保護、持続可能なインフラと技術に投資しなくてはなりません。」

例えば、持続可能かつスマートなインフラへの投資は、リスクを低減し、将来的な衝撃に対して世界をより強靭にする。それは成長を生みだし、多くの人々がより良い生活を送ることを可能にし、気候変動対策にもなる。

例えば、今後2年間で700~1200億ドル、その後年間200~400億ドルを割り当てれば、パンデミックが再発する可能性は著しく下がる。コロナ禍によって既に数兆ドル規模の経済的損害が発生したのとは対照的だ。

しかし、先進国とは異なり、ほとんどの途上国にはそのような投資を行う余地がない。

報告書は、この難題に対処する方法を以下のようにいくつか勧告している。

・超長期(50年以上)の金融を途上国に対して固定金利で行う(現在の歴史的な低金利の活用)。

・持続可能な開発への投資ツールとして、公的な開発銀行を有効活用する。

・投資連鎖に沿った短期的なインセンティブをなくし、SDGウォッシング(SDGsに取り組んでいるように見えて実態が伴っていない状態)のリスクを軽減することによって、持続可能な開発との連携に向けて資本市場の方向性を変える。

報告書はさらに、リスクに関する説明が十分になされていない開発は持続可能ではなく、危機への対応を、リセットの機会であり、「将来の脅威に対する防護のなされた」グローバル・システムとして捉えるべきだと強調した。

国際金融の枠組みの格差、あるいは不適切な政策が、コロナ禍において開発への金融をしばしば妨げる一方、以前の防護策では、部分的にはリーマンショック後の改革による金融・銀行システムという一部のシステムを保持することにしかつながらなかった。今日の危機から学んだ教訓によって、今後強靭な社会を構築するにあたっての改革を描くことが可能になる。

Portrait of Deputy Secretary General Amina J. Mohammed. Official Portrait

報告書はさらに以下の点を勧告している。

・法人税の課税逃れに対抗し、有害な課税率引き下げ競争を減らし、違法な金融の流れに対処する技術を有効活用するために、デジタル経済に対して課税するグローバルな解決法を見つける。

・企業が社会や環境に与える影響に対して責任を取らせ、金融規制の中に環境リスクを織り込むグローバルな報告枠組みを創設する。

・巨大デジタルプラットフォームの市場の力を弱めるべく、反トラスト規制のような規制枠組みを再検討する。

・ますますデジタル化する世界など、変化するグローバル経済の現実を反映した形で労働市場や財政政策を刷新する。

モハメド副事務総長は、「軌道を変えるには、ゲームのルールを変えなくてはなりません。今回のパンデミック危機以前のルールに依存していたのでは、この一年で明らかになってきた同じ落とし穴に再び陥ることになりかねないのです。」と語った。(原文へ

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未曽有の危機に直面する世界に希望の光:仏教指導者からの提言

ネパールは明らかになりつつある第四次産業革命の動向を注視している

【カトマンズIDN=マニシュ・ウプレイ】

第四次産業革命の波に乗り遅れている大半の開発途上国が直面している課題に焦点を当てた記事。第四次産業革命を推進する先端デジタル生産(ADP)技術に直接関連する国際特許の9割、輸出の7割を10の経済圏(米国、日本、ドイツ、中国、中国台湾省、フランス、スイス、英国、韓国、オランダ)が独占しており、ADP技術に積極的に取り組んでいる経済圏は40あるものの、残りの大部分の国々は、技術革新からほぼ締め出されているのが現状である。(原文へ

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ミャンマー、「保護する責任」の履行を世界に訴える

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2021年4月6日に「The Strategist」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

私は、この記事を書くことを予想せず、意図せず、希望もしなかった。ミャンマーにおける現在の危機と増え続ける市民の死者数に関連づけて「保護する責任(R2P)」について書くようにとの要請を、私は丁重に断ってきた。ターニングポイントとなったのは、R2Pを掲げる横断幕、Tシャツ、傘を携え、この記事に掲載された写真のように徹夜のキャンドルデモを行う人々の姿である。それらの映像は私の良心を動かした。また、世界の良心を揺さぶるべきである。(原文へ 

説明させて欲しい。冷戦終結後、多くの人道的危機が勃発し、ルワンダ虐殺からNATOによるコソボへの一方的な軍事介入、東ティモールにおける国連が承認した平和維持活動まで、ケース・バイ・ケースでさまざまな対応がなされた。一定しない対応、ばらつきのある結果、その後の論争は、国境内および国境を越えた武力行使が合法的かつ正当である状況に関して、世界のコンセンサスがいかに揺らいでいるかを示している。

コフィ・アナン国連事務総長は、かつて国連平和維持活動を担当していた時に発生したルワンダとスレブレニツァの虐殺により、自らも良心の呵責に苛まれ続けてきた。その彼の呼びかけに応じ、2000年、新たな規範枠組みを模索する国際委員会がカナダの主導により設置された。委員会は、元オーストラリア外相ギャレス・エバンスとアルジェリアの元外交官モハメド・サヌーンを共同議長とし、そのほかわれわれ10名が委員に就任した。当委員会は、大量虐殺に対する国連を通した世界の対応における中心的な組織化原理として、R2Pを策定した。われわれは国家主権を再定義し、主として国家自身が担う責任であるが残りは国連が担うものとした。

中核となるR2Pの原則は、2005年世界サミットにおいて全会一致で採択され、正式な国連方針となった。以来、この原則は継続的に明確化され、洗練され、三つの柱の文言として言い換えられてきたが、2011年に国連が承認してNATOが主導したリビアへのR2P介入の後、人気を失った。国連はR2Pの原則に基づいて意図したとおりの対応を行ったが、NATO主要国は国連の承認を乱用し、ミッションを文民保護から体制転換に変えてしまったのである。

しかし重要な点として、R2Pとは、一部の指導者が誤った行動をし、市民の反対勢力を弾圧するような不完全な世界において、良心に衝撃を与える残虐行為に対応するよう要請に基づいて呼びかけるものであり、R2Pの原則そのものに深刻な疑義が生じたことはない。R2Pは依然、一人一人の憤りを共同の政策的救済へとつなげるために容易に利用できる規範的手段である。われわれは当初から、人道的介入と異なり、R2Pは介入国の権利や特権よりも被害者の人身保護ニーズを優先することを根拠として、R2Pを提唱したのである。

居心地の良い西側の大学の研究者たちは、R2Pを新植民地主義的な白人勢力が、腹黒い地政学的・商業的な動機を人道上の問題としてカモフラージュするために用いる道具だとして批判し続けている。R2P原則の履行を世界に求めるミャンマーからの写真は、被害者自身による、考え得る限り最も痛烈な反撃である。

したがって、何もしないことは、最も基本的なレベルの共通の人間性に対する恥ずべき裏切りをまた一つ重ねることになる。信頼できる有効なR2P行動を求める声は、動員規範としてのR2Pの力が、困窮国の市民社会においていかに深く浸透し、根を下ろしているかを明確に示している。それ以上に重要なことに、被害者たちはR2Pに、国際社会の行動がミャンマーの地で起こっていることに異議を唱え、変化をもたらす可能性を見ているのである。

非道な行為を目の前にした沈黙は人道に反することであり、ミャンマーの軍隊「Tatmadaw」による周到かつ大規模な殺傷力の行使に対する対応として、非難だけでは不十分である。

多くの人々は、R2Pについて二つのよくある間違いをする。R2Pの第1の柱は、危機に瀕した集団を保護するために必要な場合は、国家が武力の行使を含む行動をとることに言及している。第2の柱は、国家がR2P能力を構築するための国際支援を、その国家の同意に基づいて行うことである。第3の柱は、その国家が保護する責任を果たす能力または意志がない場合、あるいは国家自身が残虐行為の加害者である場合、部外者が段階的な強制的措置を講じる状況を想定している。しかし、第3の柱でも平和的手段を優先しており、武力の行使は本当に最後の手段として検討するのみである。

恐らくTatmadawは、抗議運動の幅広さ、深さ、粘り強さに驚きを覚えているだろう。彼らが大量虐殺に打って出るような結束力や意志を持っているかどうかは分からない。したがって現時点では、文民統治の復活の可能性を排除できないものの、軍部による過去の暴虐の遺産を考えると軍政が無期限に続くこともあり得る。この微妙なバランスにおいて、部外者がどうやって国内の政治・軍事勢力を動機付け、重要な唯一の地域組織であるASEANを説得して、行動を起こさせることができようか?

国連安全保障理事会の常任理事国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)は、安全保障に関する決定を安全保障理事会の中にとどめ、総会を締め出すことに集団的な既得権を有している。しかし、以前も書いたように、総会は近年、事務総長の選出、国際司法裁判所判事の選出、核兵器禁止条約の採択において、次々に安全保障理事会からの独立性を示している

安全保障理事会が膠着状態に陥った場合、総会決議377(V)に基づく「平和のための結集」という形式のもと、国連総会が会合を開いた前例がある。このように、安全保障理事会の地政学的な影響力に対抗するために、全ての加盟国が参加する国連総会に付与された独自の正当性を行使することは、われわれの2001年委員会報告書で提言されたが、2005年世界サミット成果文書では無視された。今こそ、それを救済し、発動すべき時かもしれない。ASEANは、危機を緩和するために調停を主導し、周旋を行い、Tatmadawを正当化することなく彼らの関与を引き出すとともに、Tatmadawを疎外することなくアウン・サン・スー・チーと彼女の国民民主同盟の関与を引き出し、また、安全保障理事会がR2Pという厳粛な責任を放棄した場合には決議377(V)に基づいて議題を総会に提起するべきである。

現在の混乱状態で、ミャンマーに外国の軍事介入があれば、人道的危機を大幅に悪化させるだろう。そのようなことは、検討の対象にもするべきではない。しかし、国連のツールボックスにはほかにも利用できる、そして利用するべき道具がある。これには、決議を用いた外交的非難、軍の幹部と事業に対象を絞った制裁、武器の禁輸、国際刑事裁判所(ICC)への付託などがある。ICCへの付託の脅しは、これ以上の流血を招くことなく政権の座を明け渡すよう司令官らを説得するために活用できるのではないだろうか。

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、オーストラリア国際問題研究所研究員。R2Pに関わる委員会のメンバーを務め、他の2名と共に委員会の報告書を執筆した。近著に「Reviewing the Responsibility to Protect: Origins, Implementation and Controversies」(ルートレッジ社、2019年)がある。

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世界的なパンデミックが不平等を悪化させている

【ワシントンDC IDN/IMF blog=ダビット・アマグロベリ   ヴィトール・ガスパール   パオロ・マウロ】

新型コロナウィルスのパンデミックは、格差の悪循環に拍車をかけている。このパターンを打破し、豊かさを実現する上で誰もが公平な機会を得られるようにするために、各国政府は、ワクチン接種を含む医療や教育などの基本的な公共サービスへのアクセスを向上させ、再分配政策を強化する必要がある。

大半の国では、そのためには歳入を増やし歳出の効率性を高めることが必要になるだろう。そうした改革は透明性と説明責任の強化で補完することが必須である。それによって政府に対する全体的な信頼を高め、より結束の強い社会づくりに寄与することができる。

Photo source: The JHU Hub – Johns Hopkins University

以前から存在していた格差が、新型コロナの影響を深刻化させた。基本的なサービスへのアクセスに格差があることが、健康状態に差が出る一因となっている。国際通貨基金(IMF)の研究によれば、医療へのアクセスを病床数で間接的に測ったところ、医療へのアクセスが悪い国では新型コロナウイルス感染症による死亡率が、感染者数や年齢構成から予測される死亡率よりも高くなっている。同様に、IMFの分析は、相対的貧困率が高い国でも感染率と死亡率が共に高くなっていることも示している。

それと同時に新型コロナが、格差の拡大を招いている。その一例が児童の教育だ。IMFの分析では、広範な休校措置がとられたことで2020年に失われた教育機会は、先進国では学年の4分の1と試算されるところ、新興市場国や発展途上国ではその2倍だった。貧困家庭の児童はとりわけ大きな悪影響を受けている。IMFの試算によると、新興市場国や発展途上国では最大600万人の児童が2021年に学校を中退する可能性があり、生涯にわたりその悪影響を被りかねない。

また、今般のパンデミックは最も脆弱な層に最も深刻な打撃を与えている。低技能や若年の労働者が高技能職種の労働者よりも多く失業の憂き目にあっている。同様に、不利な立場におかれている民族集団や、インフォーマルセクターの労働者もより深い痛手を負っている。そして新型コロナの影響が最も大きかったホスピタリティ産業や小売業で高い比率を占める傾向にある女性もまた、貧困国では特に、著しい悪影響を受けている。

格差の連鎖を断ち切るには、事前分配政策と再分配政策の両方が必要となる。前者では、政府は人々に基本的な公共サービスや良質な雇用へのアクセスを保証する。そうすることで、政府が税や所得移転によって再分配を行うよりも前に所得格差を削減することが可能になる。

教育、医療、幼児期発達への投資は、これらのサービスへのアクセス向上に、ひいては生涯にわたる機会の確保にも強力な効果を発揮しうる。例えば、各国政府が教育への歳出を対GDP比で1%増やせば、最富裕層と最貧困層の家庭の間に見られる児童の就学率格差を3分の1ほど解消できる可能性がある。歳出額を増やすことに加えて、いずれの政府も歳出の非効率性を減らすことに注力すべきだ。特に貧困国では歳出の非効率性がかなり高くなっている。

コロナ禍によって、迅速に発動可能で生活困窮家庭にライフラインを提供できる優良な社会的セーフティネットの重要性の高さが明らかになった。高額な社会支出は、十分な支援を提供し、社会の最貧困層全体を対象にしてはじめて、貧困削減に効果を発揮する。信頼性の高い個人識別番号制度を用いて社会政策用の包括的登録簿を構築して維持することは、良い投資だ。これらの要素を、電子決済や、銀行口座へのアクセスが限られている場合にはモバイルマネー給付などの効果的な分配の仕組みで補完するのが理想的だろう。

Photo: Downtown Johannesburg is deserted. Credit: Kim Ludbrook/EPA

基本的な公共サービスへのアクセスを向上させるには追加資源が必要となるが、これは、国の事情に応じて、全体的な徴税能力を強化することで動員できる。多くの国では、財産税や相続税をさらに活用できるかもしれない。また、政府が個人所得税の限界税率の上限を引き上げる余地がある場合もあり、税の累進性を向上できるかもしれないが、そうでない場合には資本所得課税の抜け穴をなくすことに重点を置いてもよい。

さらに各国政府は、高所得世帯の個人所得税に追加して臨時の新型コロナ復興支援税を徴収することや、法人所得に対する課税の刷新も検討可能だろう。新興市場国・発展途上国では特に、社会支出の財源を得るために、消費税による歳入増を図れる可能性がある。くわえて、低所得国による資金調達、また、各国独自の税・支出改革を国際社会が支援することが必要となるだろう。

強力な公的支援が必要

多くの雇用を生む包摂的な回復を下支えしつつ、公共サービスへのアクセスを拡大することと、所得ショックからの保護を強化することを約束する包括的な政策パッケージの策定を各国政府は検討すべきだろう。一部の国では、増税により資金調達を行って基本的なサービスへのアクセスを向上させることを市民が力強く支持してきたが、こうした支持は今般のパンデミックを受けて一層拡大する公算が大きい。米国で最近行われたある調査によれば、感染したり失業したりして自分自身が新型コロナの影響を受けた人は、より累進性の高い課税を好むようになっている。

こうした政策を中期的な財政枠組みの中に位置づけ、透明性や説明責任を強化する措置によって補完すべきだ。歳出の効率性の顕著な改善も必要である。過去のパンデミックの経験は、失敗した場合の代償が大きいことを示している。政府に対する信頼がすぐさま失われて分断の深刻化につながる可能性があるからだ。各国政府が、必要なサービスを届け包摂的な成長を促進するために断固たる措置を講じていけば、そうした流れを阻むことができ、社会の結束を固める上でプラスに働くはずだ。(原文へ

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北東アジアの安定的平和の構築へ日本が担う不可欠な役割

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ケビン・P・クレメンツ】

トランプ大統領の「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」という対立的な外交政策は、米国とその同盟国を、相互の衝突、そして中国との衝突が避けられない状況に置いた。その政策は、米中競争に過度の外交的関心と一般の関心を集め、リベラルな世界秩序を損なう状況を生み出し、それによって米国は自らがその価値に疑義を生じるようになった。また、各国を主要国の“味方”か“敵”と決めつけたために、世界的問題に取り組む包括的解決を見いだそうとする国家や同盟国への支援はほとんど提供しなかった。要するに、われわれの共通利益の推進にはほとんど役に立たず、高度な不信と予測不能性を生み出したのである。(原文へ 

トランプ政権は、写真に撮られる機会(米朝首脳会談などのように)では絶好調だが、具体的な成果という点では低調だった。例えば、彼の一方的な対中貿易戦争のせいで、アジア地域における米国の友好国と同盟国は、中国との2国間貿易関係を再検討し、再調整することを強いられた。中国の貿易相手国は全て、中国のこれまでの人権問題と自国の経済的依存度を勘案しつつ苦渋の政治的選択をせざるをえなかった。その結果、全体的には、過去4年の間に中国の経済力、政治力、軍事力は弱まるどころか、概して強まった。

トランプの型破りで予測不能な外交政策により、オーストラレーシア(オーストラリア、ニュージーランド、南太平洋島嶼国)、東アジア、東南アジアのほとんどの国は、米国との関係で維持できるものを維持しつつ、中国との関係をこれ以上悪化させないよう、積極的というよりかなり受動的な外交を行わざるをえなくなった。これがどこよりも顕著に表れたのが北東アジアであり、トランプの政策により米国と日韓との同盟関係は実質的に弱体化した。トランプは、オバマ時代の「アジア回帰」をあからさまに見下し、日米安全保障条約の核心的重要性に関する安倍首相の助言を拒絶したことにより、国際社会における米国政府の立場を低下させた。トランプの対中強硬姿勢を喜んだ北東アジアの国は台湾だけである。

また、トランプ政権下で日本、韓国、台湾の利害が徐々に乖離していくことにも、ほとんどあるいはまったく注意が向けられなかった。そのため、北東アジアの全ての国が、トランプの「アメリカ・ファースト」なナショナリズム、そして北東アジアにおける一貫した米国の政策とリーダーシップの欠如がもたらした政治的および安全保障上の空白に対応するため、独自の、より自立した国家戦略、地域戦略、グローバル戦略を策定しなければならなかった。

トランプ政権下の米国は信頼できるパートナーではないことを韓国政府と日本政府が悟ったとき、両国は、先を争って自国の新たな外交的役割を定義し、地域におけるリーダーシップを取ろうとした。その結果、地域のパワーバランスに興味深いシフトが生じた。過去4年の間に、中国は優勢を維持し、韓国は中国に接近し、日韓関係は悪化している。

例えば日本は、韓国が米国に対して批判的で、北朝鮮寄りで、反日的であると考えている。一方、韓国は、どうしたら日本政府の敵対姿勢を解きほぐし、より友好的な関係を築くことができるか途方に暮れたままである。このような日韓関係、そして北朝鮮と中国に対する懸念がもたらした結果の一つとして、日本はアジア太平洋地域における新たな、これまでよりやや自立した役割を定義しようとし始めている(おそらく戦後初めてのことだ)。日米の安全保障関係が日本の外交政策の中心であることは変わりないが、日本政府はひそかに、北東アジアにおけるリベラルな貿易および政治秩序を推進し、維持する役割を担い始めている。また、日本政府が自国の利益にとって重要と思われる主要な地域組織や多国間組織を、米国政府より積極的に支援していることも注目に値する。

例えばトランプが環太平洋パートナーシップ協定から離脱したとき、協定を救出したのは日本である。安倍首相は他の全ての加盟国を引き留め、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)と名称を改めた。これは、いわゆるアジアの世紀にとって極めて重要な基礎である。パートナーシップには英国も加盟を申請し、バイデン大統領も再加盟の意向を示唆している。ただし、その場合には米国の条件ではなく日本の条件に従うことになるだろう。

日本はまた、米国がアジアから徐々に手を引いていることで生まれた経済的ギャップを埋めるための方策を取り始めている。なかでも、東南アジアと南太平洋への経済援助を中国の2倍以上に引き上げ、ASEAN諸国の間で日本は「友好的」かつ「信頼できる」という評判を獲得した。

しかし、おそらく日本の最も重要かつ自立したイニシアチブ(インド、米国、オーストラリアの支援を受けた)は、「自由で開かれたインド太平洋」構想とクアッド会合であろう。この構想は2007年の“アジアの民主主義の弧”を推進する日本の努力に端を発しているが、すぐに安全保障に関する側面が強くなった。安倍首相は2017年に4カ国対話の構想を再提案し、クアッドは、冷戦時代の古い安全保障体制を補完する、あるいは日本の一部政治家の頭の中ではそれに取って代わるもののようになった。中国は、クアッドを中国封じの努力と見ている。実際そうではあるが、それはまた、米国任せにするのではなく、インドと日本が“リベラルな民主主義的秩序”を守りながらアジアにおけるリーダーシップの役割を担うことができる枠組みを提示している。日本とインドがリベラルな民主主義の最良の事例といえるのかと疑義を呈することもできようが、民主主義的価値への両国のコミットメントには疑いの余地がない。そのため、一部の評論家は、ドナルド・トランプの選出以来、アジアにおける民主的かつ本物の“リベラルな”リーダーは米国ではなく日本だという見解を示している。

もしそうであるなら、なぜオーストラリアやニュージーランドをはじめとする他の国々は、この4年間、急速に支配を強める中国にばかり注目する代わりに、日本、台湾、韓国を公然と支援し、関係を深めるための努力を強化してこなかったのかと問う必要がある。中国に注目するのと同じ程度に日本、韓国、台湾、インドに注意を払っていたら、オーストラレーシアの政治家たちは、北東アジアと南アジアにおける多様な利害、ニーズ、懸念をはるかによく理解できていただろう。例えば、日本は経済面で中国に依存しすぎており、安全保障面で米国に依存しすぎていると考える日本人は大勢いる。したがって、今こそ、より自立した外交政策に向けて少しずつ前進するよう、日本の同盟国や志を同じくする国々が促し、奨励し、冷戦後の21世紀における地域安全保障を確保する方法を改めて考え直すべき時である。

バイデン大統領は近頃、「バイデン政権の外交政策は、米国が再びテーブルの上座につき、同盟国やパートナーと協力して世界的脅威に対する共同行動を起こす立場になることを目指す」と述べた。しかしながら、米国がもう少し謙虚になり、円卓で対等のパートナーとして自分の役割を果たすことができれば、より建設的ではないだろうか。アジアでないがしろにしてきた同盟国から学び、競争的関係よりも協力的関係を築くことを願い、中国に関する本当の大仕事は北東アジアの国々が行うことで、米国はそれに協力する立場であることを認めることができないだろうか。その点で、われわれは皆、日本から学ぶことが多くある。

もし日本が現在、地域におけるリーダーシップをこれまで以上に担うことに意欲的であるなら(日本の外務省にはトランプ以前の“正常な日米関係”に戻り、地域における米国の最も従順な同盟国に戻りたいと考える者がいるため、これは少し厄介である)、米国、オーストラリア、インド、カナダ、ニュージーランドが、バイデン政権下での米国の“復帰”とともに、日本の新たな指導的役割を認め、強化することが不可欠である。アジア太平洋の歴史において、今こそ、地域全体にまたがる信頼、信用、紛争解決のメカニズムをいかに構築するかを改めて考える必要がある時である。今や米国とこの地域の“西側諸国”は、地域がわれわれに何を語っているかに耳を傾けるべき時であり、米国の絶対的政治支配を目指すトランプ的願望を覆すべき時である。米国がどれほど戦略を練っても中国の興隆を止めることはできず、いっそう悪いことに、われわれを軍事紛争へと押しやる恐れがある。今こそ、アジアの近隣国との対等なパートナーシップを結ぶべき時であり、われわれ皆が21世紀のアジアに平和と安定をもたらす方法を見いだそうと努力するべき時である。特に、クアッドが中国を抑え込むための新たな“冷戦”体制にならないことが重要である。ルールに基づく世界秩序というクアッドのビジョンを補足するものとして、予防外交、紛争防止、協働的問題解決のための地域安全保障メカニズムを構築するべきである。

これまで米国が率いてきたリベラルな世界秩序は、変わらなければならないのかもしれない。しかし同様に、中国も変化することが同じぐらい重要である。なぜなら、権威主義的な中国共産党の方針に導かれることは誰も望んでいないからである。われわれのアジアのパートナーは、実に長年にわたってなんとかこの現実に対処してきた。いつまでも“味方”や“敵”の陣営に引き入れられるのではなく、彼らの声に耳を傾け、力を合わせて取り組み始めようではないか。外交政策はゼロサムではないし、そうであるべきではない。日本が戦後の“平和主義的”伝統を今後も進めていくことができるなら、日本が東西の懸け橋として積極的な役割を果たし、相互の理解を形成し、地域の国家間の不満を非暴力的に解決できる方法を編み出してはいけない理由などない。

ケビン・P・クレメンツは、戸田記念国際平和研究所の所長である。

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