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|視点|根本から世界の飢餓に立ち向かう(ビク・ボーディ僧侶・仏教研究者)

【ニューヨークIDN=ビク・ボーディ】

釈迦は、どのような問題であれ、それを解決しようとするならば、根底にある原因を取り除く必要があると説いた。釈迦自身はこの原則を、生きていくうえでの苦しみを終わらせることに適用したが、私たちの生活の社会的・経済的次元で直面している難題の多くに対応する際にこの同じ方法を使うことができる。

人種的な不公正であれ、あるいは経済的な格差や気候変動であれ、これらの問題を解決するには、表層の下へと掘っていって、問題の根っこから断たねばならない。

オックスファム・インターナショナルが最近出した報告書『飢餓とコロナの増幅』はそうしたアプローチを世界の飢餓に応用したものだ。新型コロナウィルスのパンデミックにより、飢餓の問題は私たちの視野の端っこに追いやられてしまったが、この報告は、新型コロナ感染による死者よりも多くの人々が飢餓によって日々亡くなっていると指摘している。新型コロナウィルスによる死亡は毎分7人であるが、飢餓による死亡は毎分11人だと推定されている。

新型コロナウィルス感染症の拡大により、飢餓による死亡率は以前より高くなった。同報告書によると、2020年、コロナ禍によってさらに2000万人が極度の食料不足に陥り、飢餓に似た状況下で暮らす人々の数は52万人以上と、従来の6倍に増えた。

Oxfam Report: The Hunger Virus Multiplies”

報告書は、飢餓による死亡の究極の原因を3つのCに求めている。すなわち、紛争(Conflict)、新型コロナウィルス(COVID-19)、気候危機(Climate crisis)である。紛争は世界の飢餓の最も潜在的な原因となっており、23カ国の約1億人が危機的な食糧不足、さらには飢餓状態に追いやられている。

紛争は農業生産を寸断するだけではなく、食料の入手を不可能にする。消耗戦になると、紛争当事者が敵方を粉砕する武器の一つとして飢餓状態を意図的に作り出すことがよくある。人道支援の供給を阻止したり、地元の市場を爆撃したり、農場を焼き払ったり、家畜を殺したりすることで、人々を飢えさせ、とくに不幸な境遇にある民間人が食料や水を得られないようにする。

世界の飢餓を加速させている第二の主要因である経済的困難は、コロナ禍によってこの2年間悪化してきた。世界各地でロックダウンが実施され、貧困レベルが上がり、飢餓が急加速した。昨年、貧困レベルは16%増え、17カ国の4000万人以上が深刻な飢餓に直面した。食料生産が減少して、世界全体で食料価格が40%近く上昇したが、これはこの10年で最大の上げ幅であった。

その結果、食料があっても、多くの人にとって入手困難なものとなった。女性や移住を強いられた人々、非正規労働者らが最も厳しい境遇に直面している。その一方で、企業のエリート等はコロナ禍を奇貨として未曽有の利益を上げている。2020年、世界で最も裕福な10人の富は4130億ドル増えた。そして特権的な数カ国に富が集中する傾向は今年も続いている。

世界の飢餓の第三の要因は気候危機である。昨年、気候変動に関連した極端な気候現象が、最悪の被害を引き起こした。前記の報告書によれば、暴風雨や洪水、旱魃といった自然災害によって、15カ国の約1600万人が危機的なレベルの飢餓に追いやられた。報告書は、それぞれの災害が人々を一層厳しい貧困と飢餓に追い込んでいると指摘する。悲劇的なことに、気候変動の衝撃を最も被っている国は、化石燃料消費が最も少ない国々だ。

Photo: The number of people living in extreme poverty has risen in several sub-Saharan African countries and in parts of Latin America and Western Asia. Credit: UN/Logan Abas

仏教の観点からこの世界の飢餓という問題を見た時、オックスファムの報告書で指摘された3つの原因の背後に、究極的には人間の心に発するより深い原因の根っこがあるのではないかと考えている。紛争と戦争、極端な経済的不平等、ますます深刻化する気候災害の基礎には、貪瞋癡(とんじんち)という「根元的な3つの悪徳」、そしてそこから派生する多くのものを見て取ることができるだろう。

人間が心にもつこうした暗いものが、世界全体で完全に消えてなくなることは望みにくいが、飢餓と貧困という相互に結び付いた問題を解決しようとするならば、少なくとも十分な程度に、それらがまとまって表面化することを防がなくてはならないだろう。

究極的には、世界で飢餓が続くのは、誤った政策のせいであるだけではなく、道徳上の過ちでもある。世界の飢餓を大きく減らすには、賢明な政策だけではなく―もちろんそれもきわめて重要だが―経済的不公正や軍事主義、経済破壊の根底を貫いている私たちの価値観を根本から再編成する必要があるだろう。そうした内なる変革なくしては、政策を変えても影響は限定的なものとなり、それに対抗する者たちによって弱められてしまうだろう。

私は、貧困と飢餓をなくすための取り組みの中で、2つの内なる変革が最も重要であると提起したい。一つは、共感を広めること、すなわち、生きるための厳しい闘いに日々直面しているあらゆる人たちへの連帯感を持つ意志。そしてもう一つが、長い目で見た時の「善」とは何かを知的に把握することである。すなわち、私たちの本当の共通善は狭い意味での経済的指標をはるかに超えるものであること、そして、あらゆる人々が輝く条件を作りだした時に初めて誰もが輝くことができることを認識する英知である。

私たちはすでに、オックスファム報告書で示された世界の飢餓原因のそれぞれに対処する方法を持ち合わせている。私たちに必要なのは、先見の明と共感、十分な規模でそれらを実行し促進することのできる道徳的な勇気である。

共感は不可欠である。そしてそのためには、アイデンティティの感覚を拡大すること、つまり、日々困難に直面している人々を、(統計、あるいは遠くの「他者」といったような)単なる抽象的な存在としてではなく、それぞれ固有の尊厳を備えた人間として尊重することを学ぶ必要があろう。そういった人々を、まるで自分のように考える。そして、生き、楽しみ、自らの社会に貢献したいという基本的な欲求を共有する。私たちは、自分達の命が大事であるのと同じぐらい、彼らの命もまた、彼らにとって、そしてまた彼らを愛する人々にとって大事なものあると考えなければならない。

しかし、共感それ自体では十分ではない。地球に共に生きる種として、私たちの真の長期的な善とは何かを明確に知っておかねばならない。つまり、成功の尺度として利益や株価だけを見ることを越えて、グローバル政策の目的として、急速な経済成長や投資の回収以上の基準を取らねばならない。代わりに私たちは、社会的連帯や地球の持続可能性といった価値を優先しなくてはならない。

Photo Credit: climate.nasa.gov

そこには、少なくとも、全ての人に対して経済的安全感を提供し、人種やジェンダーの平等を追求し、自然環境を野放図な搾取や商業的利益による破壊から守ることが含まれる。

世界の飢餓への対処法となる政策や事業を支持し続けなければならないのは確かだ。しかし、そうした政策や事業の背後では、自分たちの物の見方や態度に変化が起こっていく必要がある。つまり、人間の善に関する正しい理解、この地球を共有している全ての人々の幸福に対する広いコミットメントである。

自分たちの視野を広げることによって、誰もが輝ける条件を作った時に初めて自分も十分に輝くことができると分かるだろう。広い共感を持って、誰も飢えることのない世界を作る努力をしていきたい。(原文へ

※著者のビク・ボーディは「仏教グローバル救援」の創始者。ニューヨーク、ジェフリー・ブロックで1944年に生まれる。米国上座部仏教の僧であり、スリランカで仏門に入る。現在、ニューヨークやニュージャージーで活動している。

翻訳=INPS Japan

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|ナミビア|ドイツの忘れ去られた大量殺戮(アデケイェ・アデバジョ汎アフリカ思考・対話研究所所長)

【ヨハネスブルクIDN=アデケイェ・アデバジョ】

一部の政治指導者らが国連総会に出席するためにニューヨーク入りする中、9月22日に反人種主義世界会議(ダーバン会議)20周年を記念して開催される「アフリカ系の人々への賠償、人種間の平等」に関する議論は、とりわけ重要である。ダーバン会議では、賠償に関する議論は、かつて帝国主義国としてアフリカ系の人々を奴隷にした欧米諸国によって議論を阻止されたが、今回の20周年会合では、議題として取り上げられることになっている。

これに関して、最近重要な進展があった。今年5月、ドイツ政府は、1904年から08年の間に入植者らがドイツ領南西アフリカ(ナミビア)が犯した大量殺人について、自国によりジェノサイド(大量虐殺)だったと公式に認め、援助事業に11億ユーロ(約1470億円)規模の資金提供を行う方針を表明した。

1884年、ドイツ帝国の鉄血宰相オットー・フォン・ビスマルクがアフリカ南西部の保護領化を宣言した。その後、冷酷な軍事指揮官クルト・フォン・フランソワ大尉が、先住民に対する一方的な虐殺を行った。1904年1月、ドイツ人入植者らの浸透により土地や家畜を奪われた先住民のヘレロ族が、サミュエル・マハレロ等ゲリラに率いられて蜂起し、約100人の白人入植者を殺害した。

9か月後、人間鮫の異名を持つロタール・フォン・トロータ将軍は、土地と家畜を失ったことで向う見ずにも反乱を引き起こした罰として、ヘレロ人そのものの殲滅を命じる通達を出した。その内容は、「ドイツ領内で見つかったヘレロ人は、武装、非武装、老若男女を問わず、抹殺すること。」という過酷な内容だった。

ヘレロ人は各地で勇敢に抵抗したが、ドイツ軍のマシンガン、大砲、銃剣の前に圧倒された。1904年8月のウォーターバーグの戦いでは、ドイツ軍はヘレロ人の抵抗を撃破すると、捕虜を鞭打ち、縛り首などで大量に処刑しながら、逃れるヘレロ人を三方から包囲しつつ、水が乏しいカラハリ砂漠に追い込んで、大半を渇きと飢えで殲滅した。

ドイツ領南西アジア全土で展開された、こうした掃討作戦で生き残ったヘレロ人は、スワコプムント、リューデリッツ、ウィントフックに新設した強制収容所に家畜用列車で移送され、数千人が投打、強姦、奴隷労働のために命を失った。犠牲者の中には、結核、チフス、天然痘の人体実験の対象として感染させられた者もいたことが明らかになっている。また、優生学に基づく政策が適用され、囚人たちは亡くなった血縁者の遺体から肉をそぎ落とし、大釜で煮て頭蓋骨を取り出す作業を強制された。そうして収集された人骨のサンプルは、優生学の研究に資するため、約3000体分がドイツ本国に輸送された。

Main church in Windhoek, Namibia. Christuskirche in Windhoek, of the German Evangelican-Lutheran Church/ Freddy Weber – Own work, CC BY-SA 3.0

同年にヘンドリック・ヴィットボーイに率いられたナマ人の蜂起も、同様の残忍さで鎮圧され、各地で捕らえられたナマ人は、ドイツ軍がシャーク島に新設した絶滅収容所に送られた。1908年までに、推定9万人(ヘレロ人の8割、ナマ人の50%)が、20世紀最初のジェノサイドで殺戮された。今でもナミビアのスワコプムントや首都ウィントフック駅の車両基地の地下には、無数のヘレロ人の遺骸が眠っている。多くのドイツ人や歴史家らは、この大量虐殺が20年後のナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)につながったとの見方に同意している。

追悼と和解

ナミビアには旧宗主国のドイツ軍人等の記念碑はたくさんあるが、ヘレロ・ナマクア虐殺の犠牲者を追悼するものはほとんどない。虐殺が始まって100年目となる2004年当時、ドイツ政府は、左派系学者や議員からの圧力もあり、事件に関する追悼と謝罪の意を初めて表明した。

しかし、ドイツ国内の博物館に保管されていた虐殺の犠牲者らの頭蓋骨が、適切な埋葬のためにナミビアに返還されだしたのは2011年になってからである。また、ベルリンの博物館が、アフリカにおけるドイツの植民地化の歴史に関する展示を始めたのは、2015年にフランク・ウォルター・シュタインマイヤー外相(当時)が、108年にわたる否定と曖昧な態度に終止符を打ち、事件は「戦争犯罪でありジェノサイドであった」を発言してからのことであった。

賠償のバランスシート

しかし、虐殺をめぐる賠償を巡っては、ドイツ政府がナミビア政府との間に合意に至るにはさらに6年にわたる交渉が必要だった。今年5月、ドイツ政府は(ジェノサイドの)犠牲者が被った甚大な苦しみに対する責任を認める姿勢を示すために、11億ユーロを「復興と開発援助」資金として、土地改革、農村地域のインフラ整備、ヘルスケア、エネルギー、教育、水、職業訓練といった重要な分野を対象に、向こう30年に亘って拠出することに合意した。

しかし、これらの犯罪は、「現在の基準」に照らしてジェノサイドと認定した、としており、(事実上、欧州諸国に都合が良いように欧州諸国によって作られた)当時の国際法は、アフリカ人の犠牲者に適用されなかったと示唆している。また、これらの援助資金の大半は、主に犠牲となったヘレロ人やナマ人の子孫に裨益するべきとしている。ヘイコ・マース外相は、こうした点を指摘したうえで、「今回の合意は今後いかなる『賠償を求める法的な要求』に道を開くものではない。」と付け加えた。この発言には、ポーランド、ギリシャ、イタリアからナチス・ドイツの犯罪に対する類似の要求がなされることを避けたいという意図が伺える。

ドイツ政府は、共同宣言に「賠償金」という文言を含むことを拒否した。ナミビア政府高官は、ドイツ側から支払がなされることについて、「正しい方向に向けた第一歩」と評したが、ナミビア最大の援助供与国との交渉は対等ではあり得ず、ドイツ側が交渉の主導権を握ったと広く見られている。

この歴史的合意を履行するうえでの難題は、ヘレロ人とナマ人の指導者等に合意内容をいかにして受入れるよう説得するかである。合意を巡っては、大半の先住民指導者が交渉過程に加われなかったとして、声高に批判する声があがっており、中には、今回の合意は真の償いというよりも、「イメージ戦略」とみなすものも出てきている。

オヴァヘロロ伝統機関の指導者であるヴェクイ・クコロ氏とナマ伝統指導者協会のガオプ・イサーク会長は、この二国間合意を「人種主義的な思考に基づくもの」であり「完全な裏切り行為」として非難している。こうした先住民ら反応は、現在のナミビア社会で先住民が引き続き阻害されており、ナミビア政府の腐敗したエリート層が、ドイツからの開発援助資金を公平かつ誠実に履行するとは考えられないとする、政府に対する不信感に根差したものだ。

植民地賠償の今後

ドイツの現代史は、600万人の欧州のユダヤ人を虐殺したドイツ第三帝国の残虐さがしばしばクローズアップされがちだが、戦後ドイツ政府は、イスラエルとユダヤ人諸団体に対して980億ドルの賠償金を支払うなど、最も印象的な修復的正義の実現に取り組んできた。戦後ドイツ政府は、2015年から16年にかけてシリア、イラク、アフガン難民を積極的に受入れ、今日では難民出身者が全人口の17%を占めるなど、地球市民のモデルになろうと努力を傾倒してきた。一方、植民地時代にナミビアで大量虐殺を行った過去について、ドイツ国内で一般に知られるようになったのはごく最近のことで、当時の犠牲者を悼む記念碑は、ベルリンとブレーメンの2か所にしか存在しない。

The Rhodes Colossus: Caricature of Cecil John Rhodes, after he announced plans for a telegraph line and railroad from Cape Town to Cairo./ By Edward Linley Sambourne (1844–1910) – Punch and Exploring History 1400-1900: An anthology of primary sources, p. 401 by Rachel C. Gibbons, Public Domain

一方、かつての植民主義大国であるフランス、英国、ベルギー、ポルトガル、スペインは、各々の国がアフリカ大陸で犯した残虐行為について折り合いをつけていない。例えば、フランスの植民地支配にアルジェリア人が蜂起した独立闘争(1954年~62年)では100万人以上のアルジェリア人が死亡した。また、マダガスカル蜂起(1947年~62年)では、90,000人のマダガスカル人がフランス軍に殺害された。一方、大英帝国植民地でも、セシル・ローズが経営するイギリス南アフリカ会社は、1890年代に先住民が蜂起した際、数千人のンデベレ人とショナ人を虐殺、強姦した。また、1950年代にケニアの独立を求めるマウマウ団の独立運動が発生した際には、英国軍が25,000人のケニア人を殺害し、約10万人のケニア人を裁判の審理もなく、拷問が常態化していた強制収容所に投獄した。

ベルギーは、レオポルド二世がコンゴ植民地を残虐な手法で統治した時代に、当時のコンゴ人口の半分にあたる約1000万人が殺されたことで非難を浴びている。果たして、これら欧州の旧植民地大国は、ドイツの前例に倣って、自らの植民地支配時代に過ちを謝罪し、植民地支配を受けた国々に長らく残る損失を是正する行動をとるだろうか。(原文へ

INPS Japan

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パキスタンのムスリムコミュニティー開発のパイオニアに「もうひとつのノーベル賞」

【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

「アジアのノーベル賞」として知られる「ラモン・マグサイサイ賞」の今年の5人の受賞者のひとりがムハンマド・アムジャド・サキブ博士である。分かち合いと兄弟愛のイスラム的原則を基礎としたパキスタン最大の地域開発ネットワーク「アクワット」の創始者である。

2001年に設立されたアクワットは、無利子のマイクロファイナンスによって数十万という貧困世帯を支援してきた。イスラム法では融資に利子をつけることが禁じられているが、困っている人を助けるために自分の富の一部分を分けておくことを奨励する教えがこのモデルの促進に一役買っている。

「これはまさにイスラムの開発モデルだ。」とパキスタンの国際開発専門家であるファティマ・シャーは語った。「融資が信頼を基盤にしており、共同体の感覚を養う集団的融資のオプションを促進する無利子金融モデルは、イスラムの中核的な価値観に根差したものだ。」

アクワットの中心的な事業である「アクワット・イスラム・マイクロファイナンス」(AIM)は、弱者に対して無利子融資を提供して、彼らが貧困から脱却する持続可能な道筋をつくりだす支援をしている。パキスタン全土400以上の都市に800超の支店を持つAIMは、世界最大の無利子マイクロファイナンス事業だ。

サキブ博士は、アクワットの設立を考えた際、その役割に見合うだけの知的、職業的な準備ができていた。ラホールのキングエドワード医科大学を卒業後、ヒューバート・ハンフリーズ奨学金を得て、アメリカン大学ワシントン校で行政学修士を取得した。1985年から2003年まではパキスタンで公務員として働き、政府の政策は、たとえそう主張していたにしても、貧困層、とりわけ女性を支援するようにはできていないことを認識した。

アクワットは、放棄され廃校状態になっていた公立の学校数百校を譲り受け、4つの地域大学(うち1校は女子校)を設立し、貧しくとも能力のある学生のために総合大学も1校設立した。2015年に開学したアクワット大学は、能力があり学業に励みたいという意思を持ちながら、金銭的な理由からそれが叶わない低所得層の学生に対して奉仕する地域大学である。大学の「学習ハブ」は、しばしば麻薬や売春、暴力に身をやつしている、親のいない子どもたちに対して教育や職業訓練を提供するものだ。

アクワットは女性教育を推進しており、アクワット女子大学のウェブサイトは、大学の哲学として「女子教育への投資なくして国は進歩せず」を掲げている。チャクワルにあるアクワット女子大学は実力主義で入学してきた国中の若い女性の寄宿舎をキャンパス内に備えた大学である。

アクワットは、数十万人の患者に奉仕する医療サービスや、これまでに300万着以上の衣服を配布した「衣服バンク」、差別されるクワジャシラ(トランスジェンダー)の人たちに対する経済・医療・カウンセリングのサービスを提供している。

サキブ博士に2021年の「ラモン・マグサイサイ賞」を授与するにあたって、同賞の理事会は「パキスタンで最大のマイクロファイナンス組織を創設した同氏の姿勢と共感、人間の善行と連帯が貧困根絶の道を切り開くとする同氏の信念、パキスタンの数百万世帯を支援してきたミッションを遂行する決意」に対して同賞を与えた、としている。

サキブ博士はこの賞を、アクワットが支援する貧しい人々とパキスタン国民に捧げる、と述べた。この賞は、アクワットと無利子融資モデルを顕彰したものであり、パキスタン国民の共感と高潔さを認識したものである、とした。パキスタンのイムラン・カーン首相はツイッターで、「アジア最大の名誉」だとしてサキブ博士への祝辞を述べ、「リヤサット・イ・マディナ・モデルにしたがって福祉国家づくりに我々が前進する中にあって、博士の達成を誇りに思う」と書き込んだ。

「アクワットは全体として、その名称にしても、中心的な哲学にしても、イマーン=イフサン=イクラス(公正・親切・誠実)というスローガンにしても、その経済的なアプローチにしても、イスラムの社会的・経済的原則に則っている。アクワットの名は、兄弟愛を意味する『マワカート』(Mawakhaa’t)に由来するが、これは、預言者がメッカからの移民をヤスリブ(メディナ)の社会的・経済的仕組みに統合するプロセスを指し示した原則だ」とファティマーはIDNの取材に対して語った。

アクワットの成功は、利子支払いを基盤にした世界の金融モデルが貧困層の役に立っていないことの一つの証左となっている。「単純に数字だけで見ても、大変なことであることがわかるだろう。2001年に20万パキスタンルピー以下(約3000米ドル)という単純な融資から初めて、現在は、2000万人以上の人々に総額1400億パキスタンルピー超の無利子融資を与えるまでになった。」サキブ博士は、この循環型の社会的取り組みを通じて自身の共感と無私の精神を体現した。彼の哲学は、単に自分自身にとって善きことを成すだけではなく、皆が互いに手を取り合って助けることができるように他者を励まし続けるというところにある。」とファティマーは続けた。

アクワットは、祈りの場を融資の支払いやコスト抑制のために用い、スタッフやクライアントの間でのボランティアを奨励している。借り手を貸し手に変えることも目指している。

アクワット・モデルは時として、同じ南アジアの隣国でありイスラム教徒が人口の多数を占めるバングラデシュでムハマド・ユヌス教授が運営している有名なグラミンバンクと比較されることがある。しかし、グラミンバンク・モデルはマイクロ融資に利子を課している。もちろん、アジア技術研究所ユヌスセンター(バンコク)の所長であるフェイズ・シャー博士が言うように、2つのモデルには共通性もある。「両組織の基本的な機能は、社会的資本と社会的担保を通じて人々に資金を提供するというところにある。資金を手に入れられない人に資金を提供する。それが共通性だ」。

ファイズ博士はIDNの取材に対して、「ユヌス教授はグラミンバンクがイスラム・モデルであると主張したことはない。」と指摘したうえで、「それは単に、時として貯蓄・融資プログラムとみられる融資プログラムだ。社会開発へのコミットメントが動機となっている。グラミンの原則は、グラミンバンクに関わる者はすべて、地域構築や国家構築のプログラムに貢献しているというものだ。一方、アクワットは、イスラムの福祉的財源の一翼に加わりたいとの動機に基づいている。イスラム信仰の原則において表明されるものであり、イスラムの兄弟愛の原則によって動機づけられたものだ。」と語った。

今日、アクワットはパキスタンで最大のマイクロファイナンス組織となり、貧困層に融資を続けている。総計9億米ドルに及ぶ480万件の無利子融資を300万世帯に対して行っているが、償還率は驚きの99.9%である。コロナ禍の中でアクワットは、パキスタン全土100カ所以上で緊急融資・資金供与、食糧支援などを行った。

パキスタン国民であるファイズ博士は、所得の40分の1を、困窮する他者の支援に充てなければならないとする「喜捨」が、イスラム5原則の1つであるという事実を強調した。「国家がこれを行うこともできるが、イスラム教徒にとって、これは個人的な義務でもある。」

「イスラム教徒はさまざまな形で喜捨を行うが、その割合は個人がどれだけのものを所有しているかによって変わり、地域開発や困っている人々の支援のため使われる」とファイズ博士は説明する。「アクワットの精神はイスラムの開発モデルに強固に根差していると言ってよい。それは、現代において、現代的解釈の下で応用されているのだ。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

9月5日のクーデターで大統領が拘束されたギニア情勢を分析した記事。政府による弾圧、亡命、投獄などを経験してきたアルファ・コンデ大統領(83歳)は「ギニアのマンデラ」を自称してきたが、自身が政権を獲得すると、憲法を書き換えて自らの3選を可能にし、反対派の大量投獄、審理前の謎の死亡など前任者同様の独裁的傾向を強めていた。ギニアは、鉄鉱石、金、ボーキサイト等天然資源が豊富な一方で、国民の半数以上が貧困線以下の生活を送り、約2割が極貧状態にある。特に飢餓は深刻で230万人の子供が栄養失調、25.9%の国民が慢性的な栄養失調に喘いでいる。クーデターは非難されるべきだが、民主的に選ばれた大統領が必ずしもより良い統治をするとは限らない。(原文へFBポスト

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毎年約400万人が感染し児童を中心に約13万人の命を奪ってきたコレラ(ビル・ゲイツは「世界最長のパンデミック」と呼んでいる)は、開発途上国の難民キャンプやスラムなど人口が密集した衛生環境が劣悪で清潔な水や医療へのアクセスが困難な場所で流行する。先進国の大手企業が供給してきた従来の高価なワクチンに代わって、安価な経口コレラワクチン開発・普及に尽力し、ロヒンギャ難民キャンプでのアウトブレイク防止に貢献したパングラデシュ人科学者フィルドウジ・カドリ博士に焦点を当てた記事。彼女は今年、「アジアのノーベル賞」といわれるマグサイサイ賞を受賞した。(原文へ

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Former Ambassador of Sri Lanka and Ex-ACP Secretary General Join to Support as Advisors

BERLIN (IDN) — The Non-profit global media agency International Press Syndicate, with IDN-InDepthNews as its flagship, had invited two renowned international relations practitioners and diplomats to join it to support its global mission and outreach activities. We are pleased to announce that the former Sri Lankan career Ambassador A.L.A. Azeez and the former Secretary General of the Organization of ACP States Ambassador Dr. P.I. Gomes have accepted our invitation.

 Ambassador Azeez, who joins us on October 1, 2021, will support us as “Multilateral Diplomacy Advisor” and Dr. Gomes “Advisor for the African, Caribbean and Pacific States”. Mr. Azeez will have an additional charge as “Editorial Coordinator” for South Asia and Middle East.

Ambassador Azeez chaired in 2014 the Group of 77 (G-77) in Vienna in its 50th anniversary, followed by his election as the President of the General Conference of International Atomic Energy Agency (IAEA). He also took on leadership roles within the UNIDO and the CTBTO and chaired as well the Multilateral Diplomatic Committee in Vienna. In 2017, he contributed to the renegotiation of Sri Lanka’s access to the EU GSP + benefit after the country had lost it in 2010.

According to informed sources, it involved a complex process which required active follow-up on international conventions; nuanced, sensitive, but extensive negotiations; and confidence and consensus building which he and his team piloted successfully at the experts’ level. In Geneva, Ambassador Azeez chaired several multilateral conferences, which led to consensus outcomes on some of the most intractable issues, which included, inter alia, UN Human Rights Council’s Social Forum and UNCTAD’s Trade and Development Committee (2018), and WHO’s Global Coordination Mechanism on Non-Communicable Diseases (NCDs) and the Conference of States Parties to the International Convention on Cluster Munitions (2019).

Ambassador Dr. P.I. Gomes designated as our Advisor for the African, Caribbean and Pacific (ACP) States served as Secretary-General of the Group of ACP States for five years until February 29, 2020. The 79-nation inter-regional body officially became the Organisation of African, Caribbean and Pacific States (OACPS) on April 5, 2020. Dr Gomes was previously Ambassador of the Republic of Guyana to the EU in Brussels. He was also accredited to the Government of Italy, the FAO and WTO during the years 2005 until 2015 when he joined the ACP as Secretary-General. He brings with him a wealth of knowledge and expertise as a top negotiator and consensus-builder.

The International Press Syndicate which had followed Ambassador Azeez’s professional path closely since 2011 has taken the view that his innovative perspectives and insights on varied global and regional challenges; this clarity of thought; his accessibility, outreach and public diplomacy; and strategic leadership and consensus-building abilities are among assets that are too invaluable to be laid to rest after his retirement from Sri Lanka’s public service.

It is especially so at a time when the media and the world at large need creative thinkers, who can help others see the blind spots in the evolving international and regional geo-strategic landscape. Our decision to offer the position of Multilateral Diplomacy Advisor with an additional charge as Editorial Coordinator rests on this recognition and assessment made.

Ambassador Gomes will contribute to our thematic discourses on regional and international issues and provide substantive advice on trade and development related matters as concerns African, Caribbean and Pacific regions. He will also guide us in our outreach activities and network-building.

Ambassador Azeez will have the freedom to comment on multilateral and regional issues; guide our institution in its work and performance and assist other media institutions/think tanks which seek inter-agency support, with critical inputs, strategic mapping and capacity-building; lead thematic colloquium and interactive dialogues on issues of global and regional concern; advise on multilateral issues, public diplomacy, and global policy. We have a number of governmental and non-profit partners who will be delighted to have his advice on a wide range of multilateral issues. [IDN-InDepthNews – 12 September 2021]

Photo: Ambassador A.L.A. Azeez (left) and former ACP SG Dr. P.I. Gomes (right).

|視点|「対テロ戦争」の正当性を疑うとき(ジョン・スケールズ・アベリー理論物理学者・平和活動家)

【コペンハーゲンIDN=ジョン・スケールズ・アベリー

2001年の9・11同時多発テロから20年が経過し、混乱のうちにアフガニスタンからの撤退を図る米国の状況を見ると、いわゆる「対テロ戦争」の正当性を疑うことは適切なように思える。対テロ戦争を名目に開始された米国の20年に亘る一連の戦争では、約200万人以上が殺害され、3700万人が家を追われ、8兆ドルという莫大な戦費が費やされた。

もしこれらの戦争がテロの脅威を削減するためのものだとしたら、目的は果たせなかったと言えよう。なぜなら、米軍が民間人の頭上に投下した爆弾は、新たなテロリストを生むことになったからだ。一方、戦争の目的が軍需産業を儲けさせるものだとするならば、「対テロ戦争」は所期の目的を達成したと言えるだろう。

John Scales Avery

しかし果たしてテロの脅威とは現実のものだろうか。それとも、群れを追いやる犬の鳴き声のようなものだろうか。一方、食料の安全保障が脅かされつつあることや、壊滅的な気候変動が迫っていることは、極めて現実的な問題だ。既に1100万人の子供達が栄養失調と貧困関連の問題が原因で毎年命を落としている。また、第三次世界大戦が勃発して、人類文明や地球の生態系が消滅してしまう脅威も現実のものだ。

さらに再生不能資源が枯渇して経済が崩壊する脅威や、不安定な部分準備銀行制度に関連した脅威も現実のものだ。これらはいずれも、私たちの未来に対して現実の脅威だが、これらと比べれば、テロの脅威は極めて小さなものに過ぎない。

今日の世界では数百万人が飢え、数百万人が予防可能な病気で命を落とし、数百万人が戦争の犠牲者になっている。こうした膨大な犠牲者の数に比べれば、テロの犠牲者は遥かに少ないと言わざるを得ない。毎年交通事故で亡くなる人々の数と比較すれば、テロの犠牲者の数はほぼ見えなくなるほど少ない。

9・11同時多発テロの公式説明は事実ではない

9・11同時多発テロの公式説明は事実ではなく、米国政府が終わりなき対テロ戦争と国内において市民権を縮小する措置を正当化するために、大惨事を実際よりも悪く仕向けたことを裏付ける強力な証拠が公開されており、真相を知ろうとする者は誰でもインターネットで調べることが可能だ。

しかし世界貿易センター攻撃に関する公的説明に異議を唱えるものは少ない。定義上、公的説明を受入れる者は立派な市民ということになり、異議を唱える者は、「左翼」で「おそらくテロリスト同調者」ということになる。ジョージ・W・ブッシュ大統領が述べた通り、文字通り「敵か味方か。」に分類されることになる。

イラクとアフガニスタンの戦争

9・11同時多発テロに対するブッシュ大統領の反応は、これでイラクに遠慮なく侵攻できるか補佐官らに尋ねるものであったようだ。元テロ対策大統領補佐官のリチャード・クラーク氏によると、ブッシュ大統領は9・11後、主要攻撃目標としてイラクに執着していたという。

9・11同時多発テロの9日後、英国のトニー・ブレア首相がホワイトハウスに大統領のプライベートディナーに招待されていた。同席していたクリストファー・メイヤ―駐米英国大使によると、ブレア首相はその席でブッシュ大統領に対して「標的はあくまでもタリバンとアルカイダであり、そこから逸れてはなりません。」と語った。するとブッシュ大統領は、「トニー。あなたのおっしゃるとおりです。まずはこれ(タリバンとアルカイダ)に対処しなければなりません。しかし、アフガニスタンをかたづけたら、イラクに戻らなければなりません。」と回答したという。マイヤー大使によれば、「アフガニスタンに加えてイラクと戦争になる可能性に直面しても、ブレア首相は抗議しなかった。」という。

2002年の夏、ブッシュ大統領とブレア首相は電話でイラク問題を協議した。ヴァニティ・フェア誌が報じたところによると、通話記録を読んだディック・チェイニー副大統領府の高官は以下のように述べている。「記されていたことは何が起ころうと、サダム(フセイン)は去らなければならない。つまり彼らはイラクを攻めてフセイン政権を倒す。正しいことをしようとしているのだ、と。ブレア首相に対して説得は必要ないようだった。つまりブッシュ大統領がブレア首相に参加を求めるシーンはなかった。私は2人のやり取りを読んで、『OK。翌年私たちが何をすべきか理解できた。』と思ったのを覚えている。」

2002年6月1日、ブッシュ大統領は米国の新政策を発表したが、それは従来の米外交政策から逸脱するのみならず、国連憲章と国際法を毀損するものだった。ブッシュ大統領は、ウェストポイント陸軍士官学校の卒業式で演説し「米国は、将来我が国に危害を及ぼす可能性があるいかなる国に対しても、先制攻撃をしかける権利を有している。」「テロの脅威が現実化するまで待ったら、待ちすぎだ。」と述べ、世界の3分の1にあたる60カ国がこのカテゴリーに該当すると示唆した。

米国やいかなる国であろうと先制攻撃で戦争を開始できる権利があると主張することは、国連憲章のとりわけ第1章第2条3項及び同4項に違反する。これらの条項には、「すべての加盟国は、国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない。」「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」と明記されている。

国連憲章はまた、加盟国が武力攻撃を受けている場合には、安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間、当該国に個別的又は集団的自衛の固有の権利を認めている。

対テロ戦争の名目で行われてきた殺人と拷問

冷戦の終焉に伴い、米国の巨額の軍事予算を正当化する新たな名目が必要となった。そこで見出されたのが「対テロ戦争」である。そこでは、テロ行為がたとえ国家によるものではなく個人の犯行で、戦争ではなく警察力による対処が適切だったとしても、それは顧みられず、テロを支援したとして一国全体が糾弾され、軍事侵攻作戦が実施された。

さらに、個々のテロ容疑者に対しては、例えば、無人航空機(ドローン)を用いた超法規的殺害が実行に移された。また大規模な拷問プログラムが立ち上げられ、「対テロ戦争」にはあらゆる手段が許されるとした言い訳で正当化された。

もちろん、ドローン攻撃で無実の民衆を殺害し、容疑者に拷問するプログラムを実施したことは、テロリストの削減に寄与するどころか、より多くのテロリストを生み出し、彼らの過激主義を強める結果になった。しかし、「対テロ戦争」の真の目的が、テロの根絶ではなく、肥大化した巨額の軍事費を正当化することだった政府はこのことを意に介さなかった。

この記事は、米国による「対テロ戦争」を厳しく批評したものだが、米国には多くの善人がいる。軍産複合体(や新興実業家等)から流れるカネが多くの腐敗政治家を支配しているが、改革派が反撃に出ている。私たちは、米国のみならず世界各地で、改革派のもとに団結して、軍国主義と闘わなければならない。(原文へ

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人類の生存を危機にさらす核兵器と気候変動

「テロとの戦い」に懐疑的なアジア

核軍縮を促進するあらたな若者のオンラインサイト

【ジュネーブIDN=ジャムシェッド・バルーア】

世界の若者たちが平和と核軍縮のために立ち上がり、数多くの革新的なアクションに取り組んでいる。核兵器廃絶を目指すグローバルネットワーク「アボリション2000」の青年ワーキンググループは、若者のアクションの間で協力を図り、国連などの主要な軍縮フォーラムに若者の声を持ち込んでいる。同グループは「ユース・フュージョン」という核なき世界を目指す新たなオンラインの枠組みと若者のアクションプランを立ち上げた。

2020年の世界人権デーに立ち上げられた、若者個人と団体のためのこのネットワーキングの枠組みは、軍縮や平和、気候問題、持続可能な開発をつなげ、コロナ禍からの回復を図りつつ、若者のアクションと世代間対話を目指すものである。学生や活動家、熱心な層に情報を提供し、教育し、つなげ、参加を促す。

Jayathma_Wickramanayake

そうした中、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、8月12日の「国際青少年デー」に寄せたメッセージで、「全ての人にとっての包摂的で公正、持続可能な開発を基盤にした世界をつくろうというなかで、若者に発言権を保証するよう、すべての人々に求める」と述べた。「ユース2030」は国連のこの戦略を表現したものだ。2017年6月に26歳で事務総長の若者問題特使に任命されたジャヤタマ・ウィクラマナヤケは、国連の活動を若者に近づける活動を続けている。

「ユース・フュージョン」は国連軍縮局の「#Youth4Disarmament」と協力して、1991年8月29日の「核実験に反対する国際デー」を記念した。この日は、カザフスタン共和国のヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領のイニシアチブによって、国連総会で全会一致で採択されたものだ。この歴史的な決定は強い政治的なメッセージを送っており、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)の採択につながる国際的な取り組みを生んだ。2021年は、セミパラチンスク核実験場閉鎖から30年を迎える。

「ユース・フュージョン」は、8.29キロ、あるいはそれと同等の10,900歩をウォーク/ランニングする「#StepUp4Disarmament」を若者に呼びかけている。

Nursultan Nazarbayev/ President.am, CC BY-SA 3.0″

このキャンペーンは、運動を通じて核実験が健康に及ぼす被害への関心を高め、あらゆる年齢の人々の健康を図る持続可能な開発目標の第3目標を促進することも目指している。

「ユース・フュージョン」は、スイスのクリエイティブ・スタジオ「ドクマイン」と組んで、映像・オンラインプラットフォーム「核のゲーム」をプロモーションしている。「核のゲーム」は、核の歴史と、核兵器・核エネルギーのリスクと影響に関する動画であり、オンラインのプラットフォームでもある。非政府組織や反核活動家、若者のリーダーらとともに、東京五輪の開会式が行われた7月23日に立ち上げられた。

進行中のプロジェクトの一環として、「ユース・フュージョン」は、世代間対話と、平和・軍縮分野で長く活躍してきた人たちの経験から若者が学ぶことの重要性を強調している。「この点で、私たちは、尊敬に値し、そのリーダーシップや成果、アイディア、知恵に対してインターネットと私たちの活動を通じて着目してきた『ユース・フュージョンの先達』(Youth Fusion Elders)に敬意を表したい」と今回のプロジェクトチームでは述べている。

『ユース・フュージョンの先達』は、ブルース・ケント、ウタ・ザプ、モーエンス・リュッケトフト、アナ・マリア・セット、トールゲン・ムカメジャノフ、アンドレアス・ニデッカー、シシリア・エルワージーである。

ケント氏は、キリスト教と多様な社会的・政治的活動の接点で常に活動してきた、生涯を平和運動と社会変革に捧げてきた人物である。ザプ氏はドイツの国会議員を23年務めてきた。リュッケトフト氏は、第70代国連総会議長であり、デンマーク社会民主党の重鎮。アナ・マリア・セット教授は著名な物理学者で、パグウォッシュ会議に参加し、ラテンアメリカから科学技術分野の女性の声を長らく伝えてきた。

ムカメジャノフ氏は詩人で、交響曲やオペラ、室内楽、映画音楽、劇や歌、恋愛映画、ポピュラーな楽器音楽などを手掛けてきた。「ネバダ=セミパラチンスク」社会運動にも積極的に参加している。民衆の反核抗議の国歌にもなっている「ザマン・アリ(時代よ)」のような歌の作者でもある。また、「文化を通じた平和」国際協会の会長、「世界精神文化フォーラム」の共同議長、「世界芸術文化アカデミー」の会員でもある。

アンドレアス・ニデッカー教授(医学博士)は著名なスイスの医師であり、核軍縮活動家、「バーゼル平和オフィス」会長、それに、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の初期のメンバーでもある。エルワージー博士はこの40年、非暴力手段による平和構築と紛争解決に身を捧げてきた。「オックスフォード研究グループ」「ピース・ダイレクト」「ライジング・ウーマン・ライジング・ワールド」などの有名な活動の創始者であり、ノーベル平和賞にも3度ノミネートされたことがある。

Semipalatinsk former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

「ユース・フュージョン」のウェブサイトにはブログや記事もあり、核軍縮の様々な側面を探求し、この問題に関する広い視野を読者に提供している。こうしたブログや記事は、若いボランティアチームや「ユース・フュージョン」のスタッフが作っており、世界中の若い書き手や学術的探求心のある人々からの投稿を募っている。

Zhou Enlai during the Chinese Civil War./ By Unknown author -, Public Domain

「カーネギー・清華グローバル政策センター」(北京)で、カーネギー国際平和財団核政策プログラムの上級研究員を務めるトン・ツァオ博士とのインタビューがそうした記事の一つである。ツァオ博士は、中国の核先制不使用政策と軍縮政策についての経験を語っている。

ツァオ博士は「中国の核先制不使用政策は、周恩来毛沢東といった中国第一世代の偉大な指導者によって確立された。彼らの支持があったために、核先制不使用は中国の伝統的な核戦略の中核的な要素となった。つまり、中国第一世代の政治指導者のもつこうした独自の権威ゆえに、その後数十年にわたって指導層が代わっても、長年にわたって先制不使用政策が守られてきたのだ。」と指摘した。

ツァオ博士はさらに、「中国が長年にわたって先制不使用を採用してきたために、中国の核・軍事戦略に沿って核兵器を開発・配備する計画を策定する方向性にも影響を与えてきた。要するに、中国は核兵器の先制使用はしない。敵の核攻撃があって初めて、核兵器を使用することになる。」と語った。(文へ) 

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国連、包括的核実験禁止条約発効へ圧力

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

サイバー技術や核技術の近代化競争が勢いを増す中、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、包括的核実験禁止条約(CTBT)を「核実験を完全に終わらせる世界の取り組みの中心」と呼んだ。事務総長の代理で中満泉・国連軍縮問題上級代表が読み上げた声明では、核実験が人間に引き起こす苦しみと環境への災害から将来世代を守る力がCTBTにはあると述べている。

グテーレス事務総長によれば、CTBTは核不拡散に対する貴重な貢献ともなっている。「核軍拡競争に歯止めをかけ、新兵器の開発に対する強力なバリアとなるものだ。」

声明は、9月8日の「核実験に反対する国際デー(IDANT)」を記念し促進するハイレベル総会において出された。国連総会はまた、国際的な核軍備管理枠組みにおけるCTBTの重要な役割を強調した。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

CTBTは、誰がいつどこで行う核爆発についても完全に禁止している。1996年9月24日に署名開放されたCTBTへの支持はほぼ普遍的な支持を得ているが、まだ条約は発効していない。こうした中、グテーレス事務総長は「条約を批准していない国は、速やかに批准するよう」求めた。

185カ国が条約に署名し、そのうち核保有国のフランス・ロシア・英国を含む170カ国が批准している。しかし、核技術を持った特定44カ国の署名・批准がCTBT発効の要件となっており、そのうち中国・エジプト・インド・イラン・イスラエル・北朝鮮・パキスタン・米国がまだ批准していない。インド・北朝鮮・パキスタンは署名すらしていない。「附属書2」記載の国で最後に条約を批准したのはインドネシアである(2012年2月6日)。

CTBTは国際監視システム(IMS)という独自の検証制度を備えている。これは、地震波・水中音響・微気圧・放射性核種という4つの技術を用いて、核爆発が探知されることなく実施されることがないようにするものであり、現在、302の認証施設が世界中で稼働している(システムが完成すると337施設になる)。

包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)の事務局長として初めて国連総会で演説したロバート・フロイド博士は、CTBTは、署名開放以来25年間、核実験に反対するほぼ普遍的な規範を打ち立てることに成功してきたと述べた。

Robert Floyd, CTBTO Executive Secretary/ CTBTO

フロイド氏は、ドイツのウォルフガング・ホフマン氏(在任1997~2005)、ハンガリーのティボール・トート氏(在任2005~2013)、ラッシーナ・ゼルボ氏(在任2013~2021)につづく、CTBTO4代目の事務局長である。今年5月にCTBT加盟国によって選出され、8月1日に任期が始まった。

フロイド氏はかつて、大量破壊兵器を規制する様々な条約を履行する豪州の国家機関である保障措置・不拡散局の局長を務めていた。核爆発を探知するCTBTの国際監視システムの23施設を監督する任務も含まれていた。

「核実験に反対する国際デー」は、核爆発の影響を想起し、CTBTへの支持を表明するために2009年に国連総会によって創設された。カザフスタンが旧ソ連のセミパラチンスク核実験場を1991年に閉鎖した日であり、ソ連が1949年に初めて核実験を行った日でもある。

フロイド氏は、ハイレベル会合に対する9月8日の声明で「この重要な日を記念するにあたって、核実験により悲劇的な影響を被った人々の声に耳を傾け続けることが重要だ。」と語った。

フロイド氏はまた、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領が30年前、「大胆かつ先見性のある行動で」、ポリゴンの名称で知られるセミパラチンスク核実験場の閉鎖を決める大統領令に署名したと語った。

Nursultan Nazarbayev, president of Kazakhstan in Brasilia 2007.

その2週間前、フロイド氏は旧セミパラチンスク核実験場の爆心地に立ったばかりであった。フロイド氏は、「ポリゴンで450回以上の核実験が行われ、爆発力の総量は広島原爆2500発分にもなった。人間の健康と環境に及ぼした影響の規模が完全に理解されることはないかもしれない。」と指摘したうえで、「セミパラチンスクや私の国(=オーストラリア)を含む世界各地の核実験場周辺で被爆したコミュニティーにとって、その痛みと苦しみは、野放図な核実験の時代の悲しい遺産となっている。」「しかし、核戦争によって引き起こされるであろう、もっと大きい苦しみと損失を見失ってはならない。それは人類という集団のあらゆる層を引き裂くことになる。」と語った。

そのうえでフロイド氏は、次のようなことを求めた。

・核実験の破壊的な帰結を世界が再び被ることがないようにすること。

・核のリスクを低減し、核戦争を予防すること。

・核不拡散・軍縮を前進させる具体的な行動を起こすことによって、将来世代のためにより安全な世界を構築すること。

カザフスタンのムフタル・トレウベルディ副首相兼外相とフロイドCTBTO事務局長の共同声明は、すべての国々に対して、核爆発のモラトリアム(凍結)を続けるよう求めた。

CTBTO

声明はまた、「条約をまだ署名あるいは批准をしていない国々に対して、すみやかに署名・批准するよう求める。その批准が条約発効要件となっている附属書2の残り8カ国に対して、国際の平和と安全を支持するこの重要な措置を取ることによって、核不拡散・軍縮へのコミットメントを示すよう求める。」「私たちは、核軍縮を前進させ、将来世代のためのより安全な世界を構築するために、今こそ包括的核実験禁止条約を発効させるべき時だと訴える。」と述べている。(原文へ

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【ニューヨークIDN=メディア・ベンジャミン】

アフガン復興費として米議会が認めた1440億ドルの内、880億ドルが今般早々に瓦解したアフガン治安部隊の訓練・装備・人件費に使われ、155億ドルがアフガニスタン復興担当特別監察官が指摘したところの「(復興目的以外の)途方もない無駄」に費やされ、かろうじて2%未満が開発目的使用されたことが明らかになっている。極度に腐敗したアフガン政権の下では、全人口の4分の3を占める農村部は開発支援の恩恵はほとんど受けておらず、米軍支配下の終わらぬ戦争と政府の腐敗に将来を絶望した一般国民の不満が、タリバン急拡大の下地になっていたと見られている。米国と西側同盟国は人権・民主主義の名の下にアフガン政府資金と国際機関の援助凍結を進めているが、これは結果的に(これまでも援助がほとんど届かなかった)極貧と新型コロナウィルス感染症第3波に晒されているアフガン国民に飢餓と人道危機をもたらすことになると警告している。(原文へ

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