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アフガン・パラドックス:カブール陥落後の 中国、インド、そしてユーラシアの未来

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョージ・へイン】

近頃カブールの外交関係者の間でささやかれている一つのジョークがある。カブールにおけるガニ政権からタリバン政権への権力移行は、今年のより早い時期にワシントンで行われた政権移行より円滑だったというものだ。それは(いささか)言い過ぎかもしれないが、タリバンがアフガニスタンの首都に入った迅速さに、事態を見守っていたほとんどの人が驚いたのは間違いないだろう。(原文へ 

20年を経て、米国の最も長い戦争を終わらせる決定が当然であったという見解には、議論の余地がない。しかし、問題は、アフガニスタンだけなく中央アジアに次は何が起こるのか、現地の安全保障の欠如に対していかなる措置が取られるかである。“帝国の墓場”からの米国撤退により、誰が勝利し、誰が敗北するのか? 二つの“アジアの巨人”であり、2国関係が近頃悪化の一途をたどっている中国とインドに、どのような影響があるのか?

米国のアフガニスタン撤退の根拠として一般的に言われることは、「副次的戦域」における戦争の「散漫化」を終わらせ、米国政府がその主な関心事、すなわち中国に集中できるようにするために撤退したというものだ。これは、米国の重点がNATOから日米豪印戦略対話(「クアッド」)に移行していることと符合する。2021年3月に開催されたクアッドの初回サミットは、バイデン大統領が就任後初めて主催した国際会議となった。また、近頃のAUKUS協定で原子力潜水艦をオーストラリアに提供し、フランスとの深刻な外交的亀裂をもたらしたことも同じ路線といえる。

アフガニスタンが国際テロの温床となり、中国からの新疆分離を目指すウイグルの民兵組織である東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の基地を再び提供することになれば、中国にとっては頭痛のタネとなる。1996年から2001年までアフガニスタンを支配した前タリバン政権を中国が承認しなかったのも、それが一つの理由であった。しかし、すべての人が示唆するように、中国がタリバンとの合意に達した場合は、両サイドにとって得るものが大きい。アフガニスタンは鉱物資源が豊富である(その価値は最大1兆米ドル)。そのほとんどが銅とリチウムで(“リチウムのサウジアラビア”と言う人もいる)、いずれも中国の電気自動車産業の大きな需要がある。また、中国はアフガニスタンのインフラ建設の多くを受注することも可能になる。もしタリバン政権が安全と法と秩序を保証することができるなら(大きな「もし」だが)、中国の鉱業や建設の企業が続々と進出し、アフガニスタン経済を活性化する大きな役割を果たすことが想像できる。それはまさに、カブールの新体制が必要としていることである。

また、中国とパキスタンが長年にわたる協力関係にあることも、中国政府にとっては一定の利点となっている。パキスタンには、「一帯一路」関連の単一プロジェクトとしては最大となる460億米ドル規模の中国・パキスタン経済回廊(CPEC)が存在しており、そもそもタリバンを結成したのはパキスタンの諜報機関だからである。一方、インドは貧乏くじを引いたと思っているかもしれない。まずハーミド・カルザイ政権に、次いでアシュラフ・ガニ政権にテコ入れしてきたインドは、タリバンとは最初から険悪な関係にあった。インドは、アフガニスタンの将来をめぐって近頃行われている多数当事者交渉の多くから外されており、インド政府が再び現地で外交の足掛かりを築くのは容易ではないだろう。

しかし、より大きな問題は、ケント・カルダーが「スーパー大陸」と呼ぶユーラシアが超高速鉄道や携帯電話通信といった新世紀の技術によって再連結され、構造が変化しつつあることである。タリバンの復活は、過去数十年間にわたって構造を作り変えようとしてきた二つの勢力、すなわちロシアと中国に新たな門戸を開くものである。不穏な前兆を読み取っていたロシア政府は、何年も前からタリバンと連絡を取り続けてきた。カブールのロシア大使館は業務を継続している。元ソ連構成共和国で、新たに独立した「中央アジア5カ国」(カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)が陽の当たる居場所を求めてもがくなか、ロシアと中国の政府は、アフガニスタンがまさに中心に位置するこの地域において自国の優位性を確立しようと競っている。中国の一帯一路は当初、世界で最も急速に成長する地域である東アジアと世界最大の市場であるEUを結び、その一方で、これらの天然資源が豊富な、今まで周縁化されていた新興国を取り込み、それによってシルクロードを再現するという構想だった。

ロシアは当初、一帯一路が自国の縄張りを侵害しているのを見て神経を尖らせていた。しかし、伝統的に世界の地政学的中心と見なされてきた地域において、中国とともに一種の共同統治を確立する手段として、最終的には協力するようになった。ロシアは中央アジアを「近い外国」と見なし、中国は新シルクロードに不可欠と考えているが、上海協力機構(SCO)、集団安全保障条約(CSTO)、ユーラシア経済連合(EAEU)といった多種多様な地域組織がこの地域を再定義しようとしている。

米国のアフガニスタン撤退と、それに先立つキルギスタンおよびウズベキスタンの米軍基地閉鎖は、いまや中国とロシアがより自由に事を進められるようになったということを意味する。インドは、アフガニスタンにすべての卵を入れ、一帯一路を早くから拒絶した結果、中央アジアにおける新たな地域安全保障と経済構造を形成するうえで、立場が弱くなってしまった。とはいえ、インドはSCO加盟国であり、ロシア政府とは昔からのつながりがあるため、完全に蚊帳の外に締め出されたわけではない。

人類の歴史の大部分において、ハルフォード・マッキンダーが「世界島」と呼んだユーラシアは、地政学的紛争や闘争の真ん中にあった。20世紀にはユーラシアという言葉はわれわれの語彙から消えていたが、いまや華々しい凱旋を遂げた。キショール・マブバニが「アジアの世紀」になると予想した未来に備えつつも、ユーラシアが視界から遠のくと考えるべき理由はない。その点で、カブール陥落は歴史の些細な事柄以上の出来事といえるだろう。

アフガニスタンの首都がかつて、マルコポーロが旅したシルクロードの主要なキャラバン停泊地であったことを思い出そう。とはいえ、現代のカブールは、中央アジアの広大な土地と険しい山々を越えてもっか構築されつつある新シルクロードのキャラバン停泊地としては、まだ復活していないようだ。

ジョージ・ヘインは元駐中国チリ大使(2014~2017年)および元駐印チリ大使(2003~2007年)であり、現在はボストン大学パーディー国際研究大学院(Pardee School of Global Studies)の研究教授および、ウィルソンセンターのグローバルフェローを務めている。

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AUKUSの原子力潜水艦協定 ―― 核不拡散の観点から

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

(この記事は、アジア太平洋核不拡散・軍縮リーダーシップネットワーク(APLN)の専門家や参加者が豪英米(AUKUS)協定の影響を評価するために行った分析シリーズの一環として、2021年9月17日にAPLNにより最初に発表されたものです。)

【Global Outlook=ジョン・カールソン】

以下は、オーストラリアのために原子力潜水艦を建造・運用する提案について、核不拡散および安全保障措置の観点から概要をまとめたものである。

この提案は原子力推進のみに関係しており、いかなる場合もオーストラリアは核兵器を追求することはない。それは、核不拡散条約(NPT)に基づくオーストラリアの義務に対する違反となる。NPTは、非核兵器国が核兵器を取得すること、核兵器国がそのような取得を支援することを禁じている。NPTのもとで非核兵器国は、自国の領土内または管理下にあるすべての核物質について、それが核兵器に転用されていないことを検認するため、国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受け入れなければならない。(原文へ 

NPTは、非核兵器国が核物質を非爆発的軍事用途に利用することを禁じていない。その主な例が、海軍推進力用原子炉の運用である。核物質をそのような非違法軍事用途に利用する計画がある場合、標準的なNPT保障措置協定では、当該物質が軍事利用されている期間は保障措置を一時停止することが定められている。しかし、非爆発的利用の義務は引き続き適用され、当該軍事利用が終了するとただちに保障措置の適用が再開する。当該国は、当該物質に関する最新情報をIAEAに報告し、最終的な保障措置再開を保証する協定をIAEAと結ぶことが求められる。

この一時停止規定が保障措置を回避し、核物質を核兵器に転用するための抜け穴として利用されないようにすることについては、明らかな懸念がある。IAEAはどのような取り決めを要求するべきか、多くの議論がなされているが、これまでのところ実例はない。今のところ、原子力海軍艦艇を取得した非核兵器国はない。カナダは1980年代に原子力潜水艦を検討したが、それ以上進まなかった。現在ブラジルが海軍用原子炉を計画しているが、まだ研究開発段階である。韓国は原子力潜水艦への関心を示しているが、具体的な行動はまだ起こしていない。オーストラリアが、核物質を使用した海軍の推進システムについてIAEAとの協定を策定する最初の実例となる可能性があるが、実現にかかる時間が長期にわたり、最初の潜水艦が運用開始するのは早くても2040年と予想されるため、確実とはいえない。

海軍推進システムの計画から核物質が転用される可能性は、その計画に関連する核活動の範囲による。ブラジルのように、国が原子炉燃料を濃縮・製造することを目的としている場合、その工程中の転用を防止することが関心事となる。IAEAは、保障措置が一時停止されるのは実際に軍事利用されている物質についてのみで、濃縮工程などの核工程には通常の保障措置が適用される、と示している。燃料設計は秘密である場合があるため、燃料製造については特別な取り決めが必要になる。しかし、機密情報を開示することなく、当該核物質に関する継続的知見を得られるようにする保障措置の方法がある。燃料の装荷と取り出しが監視され、潜水艦が運用可能状態であることが判明している場合は、燃料が転用されていないという十分な保証が確立され得る。

オーストラリアの場合、寿命が原子炉と同等以上の炉心を使用することが想定されている。つまり、オーストラリアは燃料の製造を行わず、原子炉への燃料補給も行わないということである。提供される原子炉にはすでに燃料が装荷されており、30年程度と予想される潜水艦の運用寿命が尽きたときには、潜水艦は原子炉とともに、サプライヤー(今回の場合は米国、あるいは英国かもしれない)に返却されることになる。

この方法を用いれば、海軍燃料の供給の安全保障を確保するために濃縮プラントを運用する必要があると主張する国々について、拡散の懸念を回避することができる。オーストラリアのプロジェクトについては、オーストラリアが燃料の取り出しや転用を行わないことをIAEAに立証することは簡単である。

完璧を期すために、南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)について言及がなされるべきである。この条約は、条約地帯内での核兵器の取得、保有、配備、実験を禁止しているが、原子力船は禁止していない。

AUKUS加盟国は、NPTに基づく各国の義務を全面的に遵守するとともに、「……グローバルな不拡散と厳格な検証基準における長年のリーダーシップを反映する形で、国際原子力機関と協力し協議しつつ、この努力を行うこと」を誓約している。

ジョン・カールソンは、ウィーン軍縮不拡散センター(VCDNP)の非滞在型シニアフェローである。

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【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン】

米英両国が手を結んでオーストラリアに原子力潜水艦を提供する三国間協定(AUKUS)の締結を受けて、反核活動家らは、協定が地域における新たな核大国の登場につながるとの懸念を示した。

スコット・モリソン豪首相は、三国は「新たに強化された三国間安全保障パートナーシップ」に合意したと述べ、新協定は「国内で原子力を推進したり、核兵器を取得したりする動きにつながるものではない。」と断言した。

しかし、豪州自然保護財団(ACF)は、もし政府が核兵器禁止条約に署名・批准すれば、首相の言葉にも信用が置けるだろうと述べた。

「もしそうしなければ、核兵器保有へと将来的にこっそりと横滑りしていく扉は開けているということだ。」と同財団は警告した。

核禁条約はこれまでに50カ国以上が批准して発効済だが、豪州は未加盟のままである。

オーストラリア・コンサベーション財団のデイブ・スウィーニー氏は、「米英とのこの新防衛協定には依然として不明な点が多いが、原子力潜水艦は、環境や安全保障の面で(豪州の港や造船所、海洋に対して)懸念をもたらすものであり、オーストラリアにとって深刻な意味を持つ重大な動きだ。」と語った。

他方、12隻のディーゼル型潜水艦を総額660億ドルで豪州に供与する予定だったフランスは契約を反故にされて激怒している。フランスと英米との間に政治的な対立が起きる可能性もある。

Prime Minister of Australia Scott Morrison/By The White House, Public Domain

AUKUS取り決めはまた、中国が南シナ海におけるプレセンスを主張し、その領土主張を台湾にまで広げる中で、米国によって完全に武装され装備の提供を受けた豪州が太平洋における海軍バランスを均衡させようとする取り組みの一環だと見られている。

英国の「アクロニム軍縮外交研究所」のレベッカ・ジョンソン博士はIDNの取材に対して、(スコットランドのグラスゴーで10月31日から11月12日にかけて予定されている)国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が近づく中、「この原子力潜水艦協定は、地球が直面している本当の安全保障、環境上の問題から危険なまでに乖離しているものだ。」と語った。

ジョンソン博士は、原潜は本質的にまるで「かくれんぼ」のような軍事的ゲームのためのものであり、核戦争の危険を増すものだと語った。

「フランスとの契約を破棄した豪州の決定は対中防衛を念頭になされたものだが、地球温暖化が毎年深刻になる中、これはまるで12隻の原潜『タイタニック号』が海底に叩きつけられようとしているときに、椅子でのんびりと座って議論に明け暮れているようなものだ。」とジョンソン博士は警告した。

ブリティッシュ・コロンビア大学(バンクーバー)公共政策大学校リュー・グローバル問題研究所長で、「軍縮・グローバル・人間安全保障問題」の教授を務めるM・V・ラマナ教授はIDNの取材に対して、AUKUSパートナーシップと、原子力潜水艦への移行を図る今回の提案は、中国との緊張関係を悪化させ、すでに起こっている軍拡競争をさらに加速させることになろうと語った。

ラマナ教授はまた、「この決定によってより多くの国々が競争に引き込まれることになる。中国指導部は包囲網が強化されたと感じるだろう。という意味では、今すぐにというわけではないが、戦争がより近くなったと言えよう。」と指摘したうえで、「機微の軍事技術を共有するという今回の決定が与えるもう一つの影響は、既に弱体化している不拡散体制をさらに損なう点にある。」と語った。

「ブラジルの例にみられるように、非核兵器国が原潜を開発することには常に懸念があった。潜水艦の推進力となる原子炉の濃縮ウランやプルトニウムを追跡することは困難だからだ。これらの原潜が海洋に出た場合、その居場所はわからなくなり、例えば国際原子力機関が追跡することができなくなる。高濃縮ウランを燃料とする原潜を移転することは、その他の国々にとってのきわめて悪い前例になるだろう。」とラマナ博士は指摘した。

ジョンソン博士は、いっそう危険なウランを燃料とする潜水艦を取得するために英米と手を結んだことで、地域と国際の安全が危機にさらされ、外交的・協力的解決策を見つけることが困難になると語った。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

豪州は、核不拡散条約(NPT)や、ラロトンガ条約のような他の南太平洋諸国との安全保障取り決めに違反するという道を駆け下るのではなく、核兵器禁止条約に署名し履行することでその利益をよりよく実現することができるはずだ。英国やフランス、中国、米国に関しても同様であろう。

「私たちは目を覚まし、地球が焼け焦げている臭いをかぐべきだ。核戦争につながりかねない脅威をエスカレートするのではなく、集合的な人間の安全保障に重きを置いて、気候変動によるメルトダウンを防ぐべく地球温室効果ガスを大幅に削減することにより多くの資源を割くべきだ。」とジョンソン博士は主張した。

インドネシアのディノ・パティ・ディジャラル元駐米大使は「アングロサクソン系3か国の内の1か国が、インド太平洋地域で軍事的な騒ぎを起こしているというのが、現在の構図だ。」と語ったとされる。

ディジャラル元大使はまた、「『外部の者』は地域の国々の望み通りに行動することはないという中国が示している見方を補強することになってしまう。」と指摘したうえで、「心配なのは、このことが現在においても将来においても不必要な軍拡競争を引き起こしてしまうかもしれないということだ。」と語った。(原文へ) 

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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NGOs、コンゴ熱帯雨林の伐採再開を阻止するようドナー国に訴える

【ナイロビIDN=デヴェンドラ・カマラジャン】

英国グラスゴーで第26回気候変動枠組条約締結国会議(COP26)が約一か月後に開幕するなか、コンゴ民主共和国により世界第二の広さを誇るのコンゴ熱帯雨林に対する商業伐採が9年ぶりに再開される見通しを巡って、ドナー国に働きかけを行っている市民社会の動向を取材した記事。(原文へ

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気候政策に影を落とす米国の軍事主義

【ニューヨークIDN=メディア・ベンジャミン】

バイデン大統領は就任後初となる国連総会で、外交重視による国際協調路線への復帰と、気候変動問題で世界をリードしていく姿勢をアピールした。しかし、圧倒的に突出した軍事費(2位~10位の軍事費の合計を上回る15兆ドル)が社会支出予算を圧迫し、国民皆保険制度の欠如や子供の貧困、インフラ整備の遅れ等、米国内の現状は他の先進国より大きく立ち遅れている。気候変動対策についても、欧州と比べて10~15年遅れているのが現状だ。軍事予算が深刻な足枷となっている米国の予算構造を分析したメディア・ベンジャミン、ニコラス・デイヴィス氏による視点。(原文へ

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軍事紛争・内戦が広がる中、国連が「平和の文化」の尊さを広める

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン

国連は、76年前の創設以来、国際の平和と安全の維持という主要な任務に力を入れてきた。

しかし近年、国連の任務は、平和維持、平和構築、核軍縮、予防外交、さらに最近では「平和の文化」にまで広がってきている。

前国連事務総長の故コフィ・アナン氏は「平和の文化」について古典的な定義を述べている。「長年をかけて、紛争当事者を引き離すために平和維持軍を送り込むだけでは不十分だということを理解するに至りました。紛争によって破壊された社会で平和構築を行うだけでは不十分です。また、予防外交を行うだけでも不十分です。これらはすべて極めて重要な任務ですが、私たちが望むのは永続的な成果。つまり、必要なのは『平和の文化』なのです。」

New Year’s 2021- United Nations Secretary-General, António Guterres”

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は9月7日にオンラインで開かれた「平和の文化に関するハイレベルフォーラム」で各国代表に向かって、「国連が創設されて以来、世界の平和と安全に対するこのように複雑で多次元的な脅威に直面したことはこれまでにありませんでした。このような重大な危機に直面して、グローバルな協力と行動のための本質的な基礎として『平和の文化』に向かって取り組むことがこれまで以上に重要になっています。」と語った。

グテーレス事務総長はさらに、「『平和の文化』という概念は、バングラデシュの外交官で元国連高官であるアンワルル・K・チョウドリ氏が20年以上前に主導したイニシアチブに起源があります。」と語った。

各国の大使は、1999年9月13日に全会一致かつ留保なしに国連総会が採択した「平和の文化に関する宣言・行動計画」へのコミットメントを示すために、2012年以来、毎年ハイレベルフォーラムに参加してきた。

Beatrice Fihn

今年のハイレベルフォーラムでは、「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長が基調講演を行った。同氏は「平和の文化」フォーラムの基調講演者で6人目のノーベル平和賞受賞者である。フィン事務局長はこの点に関して、「講演者全員が女性のノーベル賞受賞者であることを誇らしく思います。」と語った。

1997年の歴史的な総会決議を主導したチョウドリ大使は代表らに向かって、「多くの人々が、『平和』と『平和の文化』を同じようなものとして扱ってきました。しかし、一般的に理解される『平和』と『平和の文化』との間には微妙な違いがあります。」と指摘した。

「実際、平和について議論するとき、他者、すなわち、政治家や外交官、その他の実務家がイニシアチブをとるだろうと想定するでしょうが、『平和の文化』について議論する際は、最初の行動は私たちの中から起こるということです。」チョウドリ大使は、「平和の文化グローバル運動」の創始者であり、元国連事務次官である。

20年以上にわたって、チョウドリ大使は「平和と非暴力を自らの一部とし、自らの人格とし、そして人類という存在の一部とすることを目的とした」平和の文化の前進に寄与してきた。

1997年、他の大使らと行動を共にしたチョウドリ大使のリードで、国連総会の特定かつ独自の議題として「平和の文化」を採用するよう、当時選出されたばかりのコフィ・アナン事務総長に書簡が送られた。

高い交渉上のハードルを越えて新しいアジェンダがこうして合意され、毎年の検討に付するために新たな項目が総会に割り当てられた。

総会はまた、2000年を「平和の文化国際年」とする決議を採択し、2001年から2010年までを「世界の子どもたちのための平和と非暴力の文化の10年」とする決議を1998年に採択している。

1999年9月13日、国連は「平和の文化に関する宣言・行動計画」を採択した。国境や文化、社会、国家を超えた記念碑的な文書であった。

「規範を設定したこの歴史的文書を全会一致で採択することになった9カ月に及ぶ交渉をリードすることができたことを光栄に思います。」とチョウドリ大使は語った。

これまでの進展についてチョウドリ大使はIDNの取材に対して、「9月7日に行われた『平和の文化』に関するハイレベルフォーラムで私は、パネルディスカッションの議長として、『平和の文化』は、本当の意味での持続可能な平和を人類が獲得するための普遍的な任務として、世界レベルにおいても各国レベルにおいても残念ながら適切な認知を未だに受けていないということを繰り返し申し上げました。」と語った。

今後の見通しと、国連で「平和の文化」概念を前進させる計画についてチョウドリ大使は、「1999年に全会一致、留保なしで採択された『平和の文化に関する宣言・行動計画』は、国連の画期的な文書であり、国連自身が、国連システムを通じて平和の文化を保持し、その履行を内面化すべきです。国連事務総長が平和の文化を彼のリーダーシップの課題にしなくてはならないということは、その方向における無関心があるということなのでしょう。事務総長の関心と関与を保ちつづけねばなりません。」と語った。

Ambasssdor Anwarul Chowdhury

また、国連の諸機関、少なくともそのほとんどが、日常的な問題解決、あるいは問題削減とでも言うべき「アクティブ・アジェンダ」に忙殺されている、とチョウドリ大使は言う。

「つまり、国連自らが採択した『平和の文化』計画において、国連がもっている利用可能なツールを用いて持続可能な平和という長期的かつ先見の明がある目的を実行する機会には欠けているということです。例えれば、仕事に行くための車が必要で車を持ってはいるが、その運転の仕方には興味がないという人に似ていますね。」とチョウドリ大使は指摘した。

他方、趣意書によれば、今年のハイレベルフォーラムのテーマは、「とりわけ、ワクチン接種の平等化、デジタル格差の解消、女性の平等・エンパワーメントの促進、若者の力の育成など、強靭な復興に向けて社会の全ての部門をエンパワーする多様な方法を探求し議論するプラットフォームを提供すること」であると説明されている。

長年にわたって、平和の文化の範囲は拡大し、より意義のあるものになってきた。同概念は関連する問題を含んで拡大し、さまざまな解決策がこのアジェンダの下で採択されている。

今年のハイレベルフォーラムは、すべてを覆い尽くし不安定化させる終わりなきコロナ禍のもたらすきわめて大きな難題に国際社会が直面する中で開催された。

復興への取り組みがなされる中、世界の大部分は依然として、新型コロナウィルスやその変異株との生と死をかけた戦いを強いられている。不平等と人権侵害が、さまざまな形態と次元で拡大している。

ヘイトスピーチ、過激主義、外国人排斥が、ほとんどの場合において暴力を伴いつつ拡大している。その中でも特に、台頭しつつある「ワクチンナショナリズム」が、新型コロナウィルスを世界で制圧しよとする取り組みを妨げている。

したがって、諸国家や社会、地域に「平和の文化」を浸透させることが絶対に必要なのだ。とりわけ若者に対して、共感、寛容、包摂、世界市民、すべての人々のエンパワーメントを通じて「平和の文化」を促進することが重要だと趣意書は述べている。(原文へ

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【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

国連総会会期中に開催された「第1回国連食料システムサミット(9/23)」に対する市民社会等の批判を分析したカリンガ・セレヴィラトネINPSJ東南アジア総局長による記事。同サミットは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成のためには持続可能な食料システムへの転換が必要不可欠だという、アントニオ・グテーレス国連事務総長の考えに基づき150ヶ国超が参加して開催された。しかしIDNの取材に応じた市民社会や農業協同組合の代表者らは、同サミットについて、「世界の食料生産額の8割以上を占める家族農業、小規模農業グループらが訴えてきた人権や土地収奪の問題は議題の中心にならず、土地の集積、農業のサプライチェーンの独占、バイオテクノロジーを含む食の工業化を推進する企業と関連団体が、準備段階から意思決定に多大な影響を及ぼしてきた。」として厳しく非難している。(原文へ

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原子力潜水艦: 核拡散への影響を低減するために

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョン・ティレマン 】

オーストラリアは原子力潜水艦を導入する決定を発表し、その際当然ながら、このプロジェクトが核兵器の獲得ではなく動力源の獲得を目的としていること、オーストラリアは核物質や核技術の不拡散、安全、セキュリティを確保する最高水準の保障措置を継続することを強調した。(原文へ 

原子力潜水艦技術の導入は、核不拡散条約(NPT)に加盟する非核兵器国としてのオーストラリアの立場や南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)に基づくオーストラリアの義務と十分に両立する。

また、国連の核監視機関で、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)とオーストラリアが締結した保障措置協定とも、おそらく両立するだろうが、何らかの“取り決め”をIAEAと交渉してまとめる必要があるだろう。

バイデン大統領は、プロジェクトがIAEAとの「協力と協議」のうえで実施されるとことさらに強調した。

これは非常に心強いことだが、世界の不拡散努力は法的義務の技術的遵守をはるかに超えている。オーストラリアの防衛力獲得、特に長距離精密打撃ミサイルの開発やもっかの原子力潜水艦獲得の動きは、明らかに地域の軍拡競争と世界の拡散圧力に拍車をかける。ミサイル技術については、ミサイル技術管理レジームにおいて多国間対応が展開されるだろう。また、IAEAは、加盟国が参加する年次総会を今週開催(9月20日~24日)することになっており、すでに潜水艦に関する発表の検討を行っている。

オーストラリアは、発表についてIAEAに報告済みで、ラファエル・グロッシーIAEA事務局長から「原子力による海軍の推進力に関するオーストラリア、英国、米国の三国間協力に対するIAEAの見解」と題する、適切な言葉で表現された声明が出された。「事務局長は、3カ国が早期の段階でこの状況をIAEAに報告していたことを指摘する。IAEAは、その法的任務に従って、かつこれらの3カ国それぞれがIAEAと締結した保障措置協定に沿って、3カ国とともにこの問題に取り組む」。

 IAEA理事会は、オーストラリアの発表時に会合を開いていた。当然ながら、中国の王群IAEA大使は辛辣なコメントを発し、これを「核拡散行為にほかならない」と評した。

ロシアも、ミハイル・ウリヤーノフIAEA大使のツイートという形で、「#米国の不拡散政策に戦略変更があったようだ。米国は何十年にもわたって #HEU (高濃縮ウラン)を他国から返還させ、あるいは返還を支援してきた。しかし、いまや米国政府(と英国政府)は、最も扱いに注意を要する技術と物質を #オーストラリアに拡散させることを決定した」と反応した。悪意はあるが、まったく的外れでもない。原子力推進に舵を切ったオーストラリアに対し、米国は、長年他の密接な同盟国には供与を断ってきた技術を提供する気満々で応えたのである。

ウィーンにおけるオーストラリア外交のタイミングは、これ以上ないほど悪かった。総会は、イランの核開発計画に対する制限再開の努力、北朝鮮による違法な核活動再開に関する決定的な公開情報に基づくIAEAの所見、苦境に立つNPTの延期されている50周年記念会議をめぐる環境の改善に集中するはずだったのである。

高濃縮ウラン(HEU)を燃料とする原子力装置がオーストラリアの核兵器獲得を可能にすることはないと保証するために、単純で非常に効果的な方法があると、一部の専門家は主張する

 しかし、取り決めの交渉は慎重を要し、また今後の前例となるものであるが、拡散という代償も伴うだろう。

1970年代初め、IAEA加盟国はNPTの検証規定を実施するモデル保障措置協定を取り決めた。モデル保障措置協定第14条は、海軍推進システムのような、核物質の非違法軍事利用の問題を取り上げている。当時、イタリアとオランダがこのような技術に関心を表明していた。

しかし、2カ国の関心は薄れ、1987年まで新たな計画は浮上しなかった。IAEAの歴史を編纂したデヴィッド・フィッシャーは、当時の反応をこう振り返った。「20年近く、イタリアとオランダの計画については音沙汰がなかった。……NPTの抜け穴は空文化しつつあった。しかし、1987年、カナダ政府が原子力潜水艦の小艦隊を取得する計画であるという驚くべき発表を行った。……NPT、IAEA保障措置、そして核不拡散全般を強力に支持する国によってなされたという点で、発表はなおさら意外なものだった。」[David Fischer, History of the International Atomic Energy Agency, IAEA, Vienna (1997) pp.272-3] オーストラリアの発表も、同じように受け止められているに違いない。多くの人にとって安心なことには、カナダは、わずか2年後に原子力潜水艦という選択肢を放棄した。

現在、他の二つのNPT非核兵器国が原子力推進の導入を計画中である。最有力候補のブラジルと、その歴史的な核のライバルであるアルゼンチンである。ブラジルはフランスと協力協定を結んでおり、その第2段階は原子力船の建造となっている。

オーストラリアと異なり、ブラジルは自前の濃縮能力を有しており、その能力の一部を潜水艦計画に活用することを構想している。これは、民生活動と軍事活動の混合につながる可能性がある。その結果、検証が困難になり、拡散が急増する恐れが生じる。

 過去30年、全世界で民生用途における兵器級高濃縮ウランの使用撤廃を目指す、米国主導の強力な動きがあった。

拡散の恐れを緩和する一つの方法は、潜水艦の燃料を兵器に適さない低濃縮ウランに限定することであろう。フランスは、自国の潜水艦の一部に低濃縮ウランを使用しており、ブラジルも低濃縮ウランを使用するつもりであることを宣言している。

米国は、より濃縮度の低いウランの利用を模索しているが、現在のところは高濃縮ウラン(HEU)のみを利用していると考えられており、オーストラリアにはHEUを燃料とする原子炉が提供されると思われる。HEUの利点は、原子炉の燃料補給が不要なこと、つまり潜水艦の寿命に比して燃料が十分長持ちすることである。しかし、オーストラリアがHEUに依存すれば、イラン核合意の主要項目の一つである高い濃縮度を禁じる規範確立の努力を損なうものとなる。

より広範には、オーストラリアが潜水艦の原子力推進を導入すれば、この技術の導入を望んでいる他の国々は当然ながら黙っていないだろう。日本は、原子力推進の船舶への応用を早期から唱えていたが、その技術を潜水艦計画に利用することは控えていた。韓国もこの選択肢に関心を表明しているが、これまでのところ米国政府に拒否されている。

オーストラリアは、確かに原子力潜水艦を望まざるを得ない安全保障上の理由があるかもしれない。しかし、緊張関係を管理し、核リスクを低減する既存の構造が脆弱であるか、または存在しない状況では、それが地域の軍事競争を悪化させることを認識しなければならない。これまでのところ、オーストラリアの外交がそのようなリスクを阻止できていないのは明らかである。オーストラリアは伝統的に、NPTとIAEAを主要な柱とする核不拡散体制を断固として支持してきた。オーストラリアの外交は、不拡散規範や規則に基づく国際秩序などに原子力潜水艦導入がもたらすダメージを最小限に抑える権限を与えられる必要がある。不拡散体制のもつグローバルな要素を引き続き支持しつつも、オーストラリアはいまや、信頼醸成措置と予防外交により、地域のパートナーとともにインド太平洋が直面する増え続く核の脅威に集中的に取り組まなければならない。

ジョン・ティレマンは、アジア太平洋核不拡散・軍縮リーダーシップ・ネットワークのシニアアソシエイトフェローである。元外交官であり、ハンス・ブリックスおよびモハメド・エルバラダイIAEA事務局長もとで官房長を務めた。

INPS Japan

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オーストラリアの原子力潜水艦は核拡散のパンドラの箱を開ける恐れがある

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=タリク・ラウフ】

数年前、原子力潜水艦(SSN)隊を手に入れるという“血迷った”ともいえる渇望に苦しんだ後、オーストラリアはついに、中国に対抗して新たに結成されたAUKUS(オーストラリア、英国、米国)というパッとしない名称を冠された同盟の下、バイデン政権から8隻のSSNを約束された。

アフガニスタンでの不名誉な失敗により、この苦悶する国を再び残忍なタリバンの抑圧下に置くことになったばかりだというのに、バイデン政権は、つい最近のアフガニスタン撤退に続き、オーストラリアにSSNと関連技術を供給するという無分別な決定によってグローバルな核不拡散体制に杭を打ち込んだ。(原文へ 

問題点

米国(および英国)の原子力潜水艦が燃料として使用しているのは、最長33年間交換不要な濃縮度93%〜97%の高濃縮ウラン(HEU)で、核兵器に使用されるものと同じ濃度である。それに対し、フランスの原子力潜水艦は濃縮度5%〜7.5%の低濃縮ウランを燃料にしており、平均して約10年で燃料補給が必要であるが、兵器級濃縮ウランは必要ない。

原子力による船舶推進技術、軍艦用原子炉の設計、また、それらの燃料の同位体組成および量は極秘事項となっている。1987年にカナダがSSNの取得を検討した際、考えられる調達先としてはフランス(リュビ/アメティスト級)と英国(トラファルガー級)の2カ国があった。

英国の場合、英国がSSN(米国の設計による原子炉と核燃料を用いる)を建造してカナダに供給するには米国議会の承認が必要になると、カナダは伝えられた。船舶推進用原子炉の設計と核燃料情報は、高度な機密分類の対象として扱われる。この秘密保持要件があるため、カナダは核不拡散条約(NPT)保障措置協定(INFCIRC/164)に基づいて国際原子力機関(IAEA)に詳細な情報を提出することができず、それによりカナダにおけるIAEA保障措置制度に抜け穴あるいは欠落が生じてしまう。かなり(おそらく詳細不明)の量の海軍核燃料向けHEUが、SSNに使用するために保障措置の対象から外されることになり、また30年以上後に艦から取り出された使用済み燃料も機密扱いとなる。そのためIAEAは海軍用途のHEUの量や同位体組成を測定することも、検証することもできなくなる。

オーストラリアの原子力潜水艦(SSN)

AUKUSの下で米国がオーストラリアにSSNおよびSSN技術を提供することに同意した今、議会の承認が必要になるだけでなく、オーストラリアはNPT保障措置協定(INFCIRC/217)に基づいて海軍の原子力推進用途のHEUの量と同位体組成を申告することができなくなるだろう。そのため、海軍の原子力推進に使用される相当量のHEUがIAEA保障措置(報告および検証)の対象外に置かれるという意味で、オーストラリアはブラックホールを生み出すことになる。したがって、筆者の見解においてオーストラリアは、「[IAEA]事務局は、申告された核物質が平和的原子力活動から逸脱している兆候を認めず、また、未申告の核物質や原子力活動の兆候を認めなかった。これに基づき、事務局は[オーストラリア]について、すべての核物質が平和的活動に留まっていると結論した」(強調は筆者による)とする、オーストラリアに対するIAEA保障措置「拡大」結論を得る資格はないはずである。

IAEA保障措置協定追加議定書は、未申告の核物質や原子力活動がないことに関する「拡大結論」について規定している。したがって、明確かつ正確にいえば、オーストラリアが海軍用核燃料に関する情報およびこれへのアクセスをIAEAに提供しないのであれば、IAEAはこの追加議定書INFCIRC/217/Add.1に基づいてオーストラリアに拡大結論を認めることはできないはずである。

これは、非常に悪い前例となる。なぜなら、ブラジルは長年にわたり海軍原子力推進の研究開発計画を引き合いに出してIAEAと追加議定書を締結することを回避し続けているからである。イランは、ウラン濃縮活動が必要なひとつの理由は原子力潜水艦を取得する可能性であると主張している。

オーストラリアと他のAUKUS加盟2カ国は、オーストラリア海軍が原子力潜水艦隊を取得する意図についてIAEA事務局長に伝達した。それは、いずれオーストラリアが自国のNPT保障措置協定の第14条を発動し、海軍用核燃料に用いる相当量の高濃縮ウランを保障措置の対象外とすることを意味している。したがって、「この協力の重要な目的は『核不拡散体制とオーストラリアの模範的な不拡散実績の両方の強み』を維持することであり、『今後数カ月間にわたってIAEAと協力していく』」というAUKUS加盟国の主張は、よく言っても矛盾語法である。

IAEA理事会にとって、「IAEAは、その法的義務に沿って、また、同機関と各国の保障措置協定に従って、この問題について彼ら[AUKUS]と関与していく」ことは深刻な懸念事項のはずである。というのも、海軍用のHEU燃料を保障措置の対象外とするパラグラフ14の規定がオーストラリアのみに適用され、英国と米国には適用されない(後の2カ国は核兵器国である)という点で、これはあまり意味がないからである。

IAEA理事会にとって責任ある唯一の方向性は、オーストラリアがパラグラフ14の規定を発動し、原子力潜水艦隊に用いる大量のHEUをIAEA保障措置の対象外にした場合、保障措置に及ぼす悪影響についてオーストラリアに警告することである。IAEA理事会は、オーストラリアや他のNPT非核兵器国がパラグラフ14の規定を発動することを申請した場合、それを拒否するだけの十分な分別を備えているだろう。むしろ理事会は、2005年の少量議定書の元の規定を取り消したように、INFCIRC/153 (Corr.)および関連するすべての保障措置協定のパラグラフ14の適用を無効にする責任ある決定を行うべきである。

AUKUSの下でオーストラリアがSNNを調達することは、特にアルゼンチン、ブラジル、カナダ、イラン、日本、サウジアラビア、韓国といった非核兵器国も、原子力潜水艦を取得して核燃料(低濃縮ウランおよび高濃縮ウラン)をIAEA保障措置の対象外にしようとすることによって、核拡散というパンドラの箱が開く恐れがある。これは、すでに新技術による課題に直面しているIAEA保障措置(検証)制度を弱体化させ、核物質が核兵器に転用される可能性をもたらすだろう。オーストラリアにSSNを供給するというAUKUSの決定は、徒労になるだけでなく、地域と世界の安全保障に深刻な脅威をもたらしかねない。

タリク・ラウフは、以前、国際原子力機関(IAEA)で事務局長直属の検証・安全保障政策課長(Head of Verification and Security Policy Coordination Office, reporting to the Director General)を務めた。また、過去にカナダ議会国防委員会および外交委員会の顧問を務めた。本記事は、個人的見解を表明したものである。

Veteran Journalist Thalif Deen Takes Over as IDN Advisor

By Ramesh Jaura

BERLIN (IDN) — Veteran journalist Thalif Deen has been appointed IDN-InDepthNews Advisor on Nuclear Non-proliferation and Arms Control Issues & Senior Writer at the United Nations. IDN is the flagship of the Non-profit global media agency International Press Syndicate. He has been covering the United Nations since the late 1970s.

Beginning with the Earth Summit in Rio de Janeiro in 1992, he has covered virtually every major UN conference: on population, human rights, the environment, sustainable development, food security, humanitarian aid, arms control and nuclear disarmament.

As the former UN Bureau Chief for Inter Press Service (IPS) news agency, Deen was cited twice for excellence in UN reporting at the annual awards presentation of the UN Correspondents’ Association (UNCA). In November 2012, he was on the IPS team which won the prestigious gold medal for reporting on the global environment—and in 2013, he shared the gold, this time with the UN Bureau Chief of Reuters news agency, for his reporting on the humanitarian and development work of the United Nations.

A former information officer at the UN Secretariat, he served twice as a member of the Sri Lanka delegation to the UN General Assembly sessions. His track record includes a stint as deputy news editor of the Sri Lanka Daily News and senior editorial writer on the Hong Kong Standard.

As military analyst, Deen was also Director, Foreign Military Markets at Defense Marketing Services; Senior Defense Analyst at Forecast International; and military editor Middle East/Africa at Jane’s Information Group. He was a longstanding columnist for the Sri Lanka Sunday Times, U.N. correspondent for Asiaweek, Hong Kong and Jane’s Defence Weekly, London.

A Fulbright scholar with a Master’s Degree (MSc) in Journalism from Columbia University, New York, he is co-author of the 1981 book on “How to Survive a Nuclear Disaster” and author of the 2021 book on the United Nations titled “No Comment – and Don’t Quote me on That”—and subtitled ‘from the Sublime to the Hilarious’, both of which are available on Amazon: https://www.rodericgrigson.com/no-comment-by-thalif-deen email: thalifdeen@gmail.com tmd30@caa.columbia.edu

IDN carries a few excerpts from Deen’s book on the link https://www.indepthnews.net/dont_quote_me

“Working at the UN during the most dramatic events of our timefrom the pursuit of war and peace in the Middle East to the humanitarian disasters in Africa and Asia, this book provides an insider’s view on what went on behind the ‘glass curtain’ during a period of extraordinary turbulence,” writes Roderic Grigson in a book review.

No Comment is told through a series of news stories, interviews, anecdotes, and personal recollections. This compelling page-turner is held together by flashes of surprising humour and an overarching third world focus and point of view.

Though the book’s scenes are scattered, they are individually memorable, evoking amazement and laughter in the same breath. Deen’s colleagues know him “as a raconteur, often entertaining guests at various functions and parties with stories from his vast array of yarns, and this comes through his narrative in abundance”. [IDN-InDepthNews — 19 September 2021]

Collage: Title of ‘No Comment’ (left) Thalif Deen (right)