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|ガーナ|カカオから新植民地主義貿易のしがらみに終止符を打つ

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

新植民地的な貿易慣行からの脱却に向けて動き出した西アフリカのガーナの試みに焦点を当てた記事。ガーナが隣国コートジボワールと合わせて世界のカカオ生産の7割を占めるが、チョコレートに対する(アフリカを含む)世界の需要が伸びている(1500億㌦)にも関らず、利益の大半(実に96%)は欧州や米国の企業に留まり、原産地の両国は国内需要に宛てるチョコレートを輸入するという貿易慣行に甘んじてきた。ガーナのアクフォ=アド大統領は昨年スイスを公式訪問した際に、現在の貿易慣行が続き、ガーナ国民が将来的わたって貧困の罠に囚われたままになるのであれば、今後カカオ原料をスイスに輸出しないと発表した。こうした時流の変化に対応してガーナ国内で国産のミルクチョコレートを生産して輸出する動きが出てきており、地元の雇用とディーセントワーク、公正なサプライチェーンに敏感な先進国のミレニアム世代に販路を広げている。また、こうした動きは、今年初めに発効したアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が追い風になることが期待されている。(原文へ

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|視点|コロナ禍に苦しむインド、危機への対処に苦慮(シャストリ・ラマチャンドランIDN上級編集コンサルタント)

【ニューデリーIDN=シャストリ・ラマチャンドラン】

インドで新型コロナウィルスがもたらしている津波のような感染と死は、弱まることなく続いている。中央・各州政府や民衆は、病床や医薬品、人工呼吸器、そしてこの危機を乗り越えるために必要な物資不足と闘い続けている。恐るべき死と、死に逝く者たちの窮状を目の当たりにして、人々の心に恐怖が蔓延している。人々は、新型コロナウィルスが、いつ、どこで、誰にどんな形で襲いかかるのか、もし身近な人が罹ってしまったらどう対処すればいいのかわからず、慄いている。

私は、ジャーナリストとして、いくつかのメッセージ・グループに属している。記者室や省庁、仲間内のグループから、1時間に100件以上のメッセージがまるで紙テープのように飛び交っている。そのほとんどが新型コロナウィルスに関するもので、インド内外で何人亡くなったか、インドを支援するために各国からどれほどの支援物資が寄せられているか、といったものだ。この国は、1947年の分離独立以来で最も暗い、大量死の時代を迎えている。

私は、1350軒から成る集合住宅に住んでいて、いくつかの「ワッツアップ」(WhatsApp)のグループに属しているが、流れてくるメッセージは新型コロナ関連ばかりだ。誰が亡くなった、亡くなりかけている、必死で酸素吸入器を探している、ICUの内・外どちらでも、人工呼吸器のある、あるいはない病床を探している、救急車はどこだ、特定の薬はどこだ、あるいは、食料やお金、物理的な支援、医薬品、オキシメーターはどこだ、死体の埋葬を手伝ってくれるものはあるか、といったメッセージばかりだ。

Image credit: The German Medical Association

「ワッツアップ」「テレグラム」「シグナル」といったOTTグループは、専門家によるものであれ、あるいは、社交・文化団体・クラブ・地域・組織・職場によるものであれ、私の加わるグループすべてで、心を痛めるようなニュースや緊急アピール、新型コロナの攻撃から生き残るために闘っている個人や家族、集団、NGO、独立のワーカーや機関からの必死の呼びかけで溢れている。ツイッターのようなSNSもまた、SOSのメッセージと支援の申し出で埋めつくされている。

ロックダウン、あるいは夜間外出禁止の下での隔離生活においては、食料品や乳製品、果物や野菜、あるいはその他の生活必需品を誰かが戸口まで届けてくれることでホッとできる。幸いなことに、それは、数週間とは言わずとも数日は会っていない隣人ではない。普通の生活を送っていれば、日に何度も出会うような人たちだ。戸口で隣人や友達の誰にも会わないということは、ニュースが、とりわけ良いニュースがもたらされないということだ。

外の世界との接触は、誰かが何か大事なものを私に届ける束の間の冒険の間に直接的な形でなされるか、あるいは、新聞やテレビ、SNSや私の電話に流れてくる大量の動画や画像を通じてなされる。今回のパンデミック下の生活は、スペイン風邪の時代や、インドが1947年に分離独立した際の多数の死傷者や、私が読んだり映画で見たりしたのよりも、はるかに劣悪なものだ。

「インドが分離独立して以来最悪の、これほどの規模の災害にいかにして夢遊状態のまま至ったのだろうか。」と元外交官のラケシュ・スード氏は問うている。彼は、2013年にインド首相の軍縮・不拡散問題特別大使であった人物だ。1947年にインドとパキスタンが英領インド帝国から分離独立した際、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が深まり、数十万人の血が流された。

多くの人々が、分離独立時の暴動とパンデミックの比較に対して眉をひそめるかもしれない。かたや自然災害であり、かたや人為的な紛争だ。しかし、大量死の状況に共通するものは、政府と国家機関の失敗である。これが災害に拍車をかけ、秩序をさらに悪化させて、死者の数が増えることになる。インドを新型コロナの第二波が襲う中、死者の数が増え続けているのは、ウィルス感染のためなのか、無作為のためなのか、或いは、必須の医療サービスが得られないためか、酸素ボンベや吸入器のような生命を救う支援を得られないためか、それとも単に、何らかの医療行為を得られる病床が足りていないせいか、断定することは難しい。

デリーでは、1時間当たり少なくとも10~15人というペースで人が亡くなっている。都市全体が死者と死にゆく者たちのディストピアと化し、歩道や車道にまで、死体を休むことなく燃やし続けるための薪があふれている。テレビやSNS、新聞は、大小を問わずインドの他の都市で人々が経験している同じような悪夢を繰り返し報じている。火葬は一日中続き、濃い煙が薪から立ち昇って、町全体に黒い雲がかかっている。煙を通す鉄のパイプは、しばしば熱で溶けてしまっている。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

デリーでもその他の都市でも、火葬場の外には死体の長蛇の列ができている。あらゆる都市において、火葬場が発表する死体数は、ただでさえ恐るべき数の公式発表の死者数よりもはるかに多い。5月5日、インドの新型コロナによる死者数は24時間で4000人近くにのぼり、世界の半数を占め、感染者数は38万2000人に達した。医療専門家らは、実際の死者・感染者数は公式発表の5~10倍であると述べている。英国の『ファイナンシャル・タイムズ』紙は、死者・感染者数は公式発表の8倍に達するとの推計を発表した。しかし、ある線を越えれば数字は問題ではなくなる。なぜなら、時間によって統計に変換されるそうした数字では、家族や友人、人々の喪失の真実を感じ取ることはできないからだ。

病院の光景は火葬場のそれと同等に凄惨なものだ。人々が病院に集まり、数百台とは言わないまでも数多くの救急車や車両が、病床や酸素吸入器、緊急支援を求めて列を成している。この危機にあって、ほとんどの病院やその関係者にとって、対処不可能な状況だ。昨年に始まった新型コロナの第一波では、死者の最大数は、医師や看護師、医療従事者が占めていた。

ナレンドラ・モディ首相が率いる政府は、無策のままこのような状況を招いたとして厳しく非難されている。また同時に、モディ首相の過剰な自信や、公的医療の軽視、第二波を警告した人々への軽蔑から生じた結果でもある。インドを第二波が襲うほんの数日前、モディ首相と保健大臣は、新型コロナウィルスへの勝利宣言を出していたのである。モディ首相は、「世界経済フォーラム」において、新型コロナとの闘いでインドは世界の模範になるであろうとぶち上げた。インドの世界最大のワクチン製造業者が製造した新型コロナワクチンが、インドは「世界の薬局」と高らかに宣言される中、多くの国に輸出されていた。

モディ政権ははうした楽観的な予想に基づいて、商店街や映画館、クラブ、バー、ホテル、レストラン、公共交通機関、職場などあらゆる場所を開け、形式的に繰り返されるコロナ対策は実際には無視された。新型コロナの感染を抑え込んだと自信を深めたモディ首相やその閣僚、党幹部らは選挙戦に突入していった。健康を守る公的な警告は、無視されるだけではなく、打ち棄てられたのである。新型コロナの爆発的感染に対処するために必要な酸素吸入器や病床、病院の能力強化のために始められた対策は放棄された。人工呼吸器を作り、酸素吸入や濃縮の能力を強化する必要性は忘れさられた。病院の能力を強化し病床を増やすのではなく、とりあえず仮に作られていた病床ですら、解体されていった。

政府はまた、ガンジス川河畔で執り行われる宗教的祝祭「クンブ・メーラ」の開催(3月~4月)を許可し、約500~700万人がコロナ対策なしに参加する結果を招いてしまった。クンブ・メーラがスーパースプレッダーになり、数か月かけて感染が広がっていったのではないかと見られている。この状況の中、政府は、特定の時期を示さないまま、第三波の到来を警告している。そして、デリーなどの都市で仮病院が急造される中、医師や医療従事者、医療機器や資材が不足している。世界中から届けられている緊急支援品は、理由が説明されないまま、空港に山積みにされている。

ブラウン大学公衆保健校の学部長であり、グローバル・ヘルスの専門家であるアシシュ・ジャ教授は、『ワイヤー』誌の取材に応じて「自らが任命した科学顧問からの助言を無視したモディ政権こそが、インドが直面している現在の新型コロナウィルス危機をもたらした主な原因の一つである。」と語った。

病院が生存のためのライフラインにはもはやなりえないように、ジャーナリストを含めた前線の労働者にとって、保険というものも実用的なものではなくなりつつある。保険に加入していたとしても、デリーなどの感染拡大地域で感染してしまれば、どこにも行くところはなく、なす術がないままただ横たわって死を待つのみだからだ。患者が必要とする医療品や医療従事者、病床や病院の施設、酸素吸入器、必要な医薬品が何もないからだ。これまでにデリーでは少なくとも52人、インド全土では100人以上のジャーナリストが亡くなった。

第二波によって中央政府はワクチン投与を急いでいるが、ほとんどの州には、予定開始日の5月1日になってもワクチンのストックがなかった。公式説明は現実とはずいぶん違っている。インドが世界最大のワクチン製造国とは言っても、保健省の説明によれば、この国の全人口13億5000万人の1割にあたるわずか1億4160万人しか、ワクチン1回分を受けていない。完全な投与[訳注:2回分の投与]を受けたのは、全人口の2.9%にあたる4000万人超のみである。このペースでは人口全体がワクチンを受けるまでに2年はかかる計算だ。ワクチンの供給は早くて8月、おそらくは12月近くまでかかる。その時までには、コロナが収束しているか、あるいは、破壊と死の限りを尽くした第二波はもう終わっているだろう。

いわゆるワクチンの大量投与計画は、感染予防対策や医療品の供給、インフラ整備、治療対策がそうであるように、まったく混乱している。そしてそのすべてが、需要に全く追いついていない。かずかずの大規模な失策に加えて、中央政府や各州はまた、実際の死者数を隠し、問い合わせに答えず、科学者や医療専門家からのアドバイスを無視し、こうした危機にあって望ましいレベルの対応からあまりにもかけ離れているということで、非難されている。

Shastri Ramachandran

新型コロナウィルスの変異株を発見するために政府が設置した専門家委員会から著名なウィルス学者のシャヒッド・ジャミールが5月16日に辞任したことが、このことを裏書きしている。彼の辞任は、政府のコロナ対応について彼が疑問を呈してから数日後に起こった。ジャミール博士は最近、インドの科学者は「エビデンスを基にした政策決定に対する頑強な抵抗」にあっていると『ニューヨーク・タイムズ』への寄稿で述べていた。低レベルの治験、ペースの上がらないワクチン投与、ワクチン不足、医療従事者増員の必要性など、彼はインドのコロナ対策の問題を指摘していた。「あらゆる措置が、私の知るインドの科学者から支持を得ている。しかし彼らは、エビデンスを基にした政策決定に対する頑強な抵抗にあっている。」と博士は記した。

死者と死にゆく者たちのディストピアのイメージを浮かび上がらせる小説や映画には枚挙にいとまがない。しかし、インドの現実は、フィクションや映画で想像されたり視覚化されたどんなものよりも、筆舌に尽くしがたく暗いものである。欧州における疫病やスペイン風邪がもたらした破滅的な事態に関する最も真正な説明でさえも、新型コロナウィルスの第二波がインドで引き起こした悪夢に対応するための教訓をもたらしてはくれないのである。(原文へ

※著者は、ニューデリーのジャーナリストで、「WION TV」の編集コンサルタント、IDNの上級編集コンサルタント。

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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ブルーエコノミーと小島嶼開発途上国のためにIUU(違法・無通報・無規制)漁業に取り組む

【ポート・オブ・スペインIDN=P.I.ゴメス】

域外の国や多国籍企業の大型船によるIUU(違法・無通報・無規制)漁業 で深刻な被害を被っているカリブ海諸国の水産業の現状と、ブルーエコノミー(ひいてはSDGs第14目標)を推進する観点からカリブ共同体が取り組んでいる対策を概説したパトリック・I・ゴメス アフリカ、カリブ、太平洋諸国機構(OACPS:旧名称ACP)前事務局長によるコラム。(原文へ

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|エチオピア|「紛争に絡んだ性暴力に国際司法裁判所の裁きを」と訴え

【ブリュッセルIDN=ラインハード・ヤコブソン】

エチオピア北部のティグレ州で横行している、紛争に絡んだ女性に対する性暴力犯罪の規模と残忍さが、世界中からの非難を集めている。

欧州・アフリカ対外プログラム」(EEPA)が5月25日に開いたウェビナーがこのテーマを扱ったのは偶然ではない。EEPAは、「アフリカの角」地域における平和構築や難民保護、強靭性(レジリエンス)の問題に特化した、専門知識・出版・ネットワーク化の能力を持ったセンター(本拠ベルギー)である。

このウェビナーの重要性は、女性に対する性暴力がほとんど通報されないという事実にある。国連人口基金は4月、紛争に絡んだ性的暴力の結果として、2万2500人の女性が支援を必要としていると推計した。

犠牲者が「恥」の意識と恐怖心から沈黙を守ってしまうことや、加害者が罰せられにくいこと、さらに行政機関や病院が破壊されている等の要素が複合的に作用して、真相が表沙汰になりにくい状況にある。実際、性暴力に関する報道はあったとしても極めて少なく、報道内容は氷山の一角に過ぎない。

多くの人々が、紛争に絡んだ性暴力について、一つには民間人を標的に虐殺の意図をもって行使される戦争の武器だとしている。

加害者の多くはティグレ州に大規模に展開しているエリトリア兵と言われている。これらの兵士は、エリトリア全土で施行されている無期限奉仕制度の下で軍に徴用された人々で、国連の特別調査委員会は、この制度を実質的な奴隷制の一形態であり「人道に対する罪」に該当するとして非難している。

同委員会は、ティグレ州における性暴力の問題はハーグの国際司法裁判所(ICC)で裁かれるべきだと勧告している。また、ティグレ州に隣接するアムハラ州から派遣されている兵士らや、エチオピア連邦軍の兵士らも加害者として挙げられている。

Photo: Ethiopian federal government’s “final offensive” against Tigray regional forces. Credit: Ethiopian News Agency”

ノーベル賞受賞者でもあるエチオピアのアビー首相は、紛争開始以来ティグレ州におけるエリトリア兵士の存在を否定してきたが、この度一転してこの事実を認め、同州の女性・少女に対する性暴力の加害者である可能性についても言及し始めている。

今回のウェビナーは、リベリアのジェンダー問題担当相であるジュリア・ダンカン=カッセルが司会を務めた。同氏はウェビナーのまとめで、指導的立場にある全てのアフリカの女性に対して、ティグレ州で戦争の武器として横行しているレイプという恐るべき犯罪を阻止するために声を上げようと呼びかけた。

ダンカン=カッセルは、ウェビナーで証言をしたティグレ州の女性に対し、「アフリカの女性は彼女たちの痛みを共有し、アフリカと世界に対して、女性への暴力を根絶するよう訴えています。」また、「現在はアフリカ連合を代表して『アフリカの角』地域への特使を務めるリベリアのエレン・ジョンソン・サーリーフ元大統領は、状況をしっかりと把握しており、そのために米国のリンダ・トーマス=グリーンフィールド国連大使と緊密に協力しています。」と語った。

 彼女はまた、ウェビナー終盤の演説で、「紛争に絡んだ性暴力は止むことなく続いており、アフリカの角地域に広がっています。国際的に協調した圧力と対象を絞った制裁が必要です。これらの犯罪は止めさせなくてはならないし、加害兵士やその司令官は訴追されねばなりません。」と語った。また、ティグレ州に駐留している兵士、とりわけエリトリア駐留軍の全てを撤退させること、エリトリアが国軍を外国の領域に派遣している件を国際司法裁判所に付託することを求めた。また、ティグレ州の全ての当事者がレイプを戦争の武器として使用することへの免責を与えないよう訴えた。

ある欧州議会議員は、開会の基調発言で、ティグレ州でレイプされている女児や女性は8才から72才にまで及ぶと見られていると述べた。レイプは、家族や夫、子どもの面前でなされている。兵士たちによるレイプは数日続くこともあり、犠牲者はしばしば生命に関わる傷を負っている。

この議員は、「こうした組織的なレイプは、全住民や次世代の人々から尊厳を奪い、恐怖とトラウマを植え付けようとするもの」だとしたマーク・アンドリュー・ロウコック国連事務次長(人道問題・緊急支援担当)の発言に言及したうえで、「ノーベル平和賞の受賞者であるエチオピアのアビィ・アハメド首相が、こうした破壊行為や専制、剥奪を指揮しているとは理解しがたいと何度も述べてきました。世界は時として、戦争は男性の領域だとみています。しかし、女性は、その背後にあって男性と同等の、場合によってはそれよりも大きな犠牲を払ってきました。例えば、経済的力の喪失やレイプ、強制的な売春、飢餓、社会的平等における後退といったことが挙げられます。」と語った。

「女性や女児に対する性暴力は、年世紀にも亘って、戦争における武器として用いられてきた。紛争時のレイプが被害女性達にもたらした深刻な被害は明らかだ。そうしたトラウマを抱えた女性たちはルワンダや韓国、旧ユーゴスラビア等に見られるが、これらは前世紀に起こった紛争のほんの僅かな事例に過ぎない。」

「しかし、国際社会の無作為を見ると、私たちは歴史から何も学んでいないのではないかと思わせてしまう。バイデン大統領やG7、国連、EUが、現在起こっている事態を非難し、懸念を表明してきた。」

「しかし、女性達の苦難を終わらせるには、言葉だけでは不十分だ。非難することは大事だが、ティグレ州の人々が今晩安心して眠れるようにするには、十分ではない。」

「協調的な国際的圧力と対象を絞った制裁がなければならない。こうした犯罪を阻止し、加害兵士やその上官は訴追されなければならない。」

今回のウェビナーでは、ティグレ州の女性達が自分たちの苦境について証言した。レイプのうちの3分の1は、数日にわたって、人目につく形で、子どもを含めた家族の面前で行われる集団強姦である。性器が焼かれたり、焼けた棒などの異物を性器に押し込まれたり、親戚のティグレ人女性をレイプするよう強制されたケースもあった。証言によれば、レイプ被害者の幼児を含めた子どももまた、暴力的に殺害されることがあったという。

エリトリアの人権活動家セラム・キダネはウェビナーで、ある種の奴隷制のような形で国軍に徴兵された人々が隣国エチオピアのティグレ州に派兵されており、それ自体を「人道に対する罪」とみなすべきだと語った。そのうえで、エリトリアがティグレ州などの外国領土で行っている犯罪について国際司法裁判所に付託するよう国際社会に訴えた。

Ethiopian refugees fleeing clashes in the country’s northern Tigray region, rest and cook meals near UNHCR’s Hamdayet reception centre after crossing into Sudan. Credit: © UNHCR/Hazim Elhag

マリアム・バサッジャは、「『アフリカの角』の平和を求めるアフリカ女性たち」を代表して、アフリカ全体の若い女性がティグレ州の女性たちの味方だと語った。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

ティグレ人人権活動家ミーザ・ギデイは、ティグレ州での女性へのレイプは大量虐殺とみなすべきだと訴えた。「女性達は、ティグレ人だというだけで、民族浄化の対象としてレイプされているのです。国際社会の前に全ての事実が明るみ出てきています。全ての関係者に対して、ティグレ人の無辜の女性たちの叫びに耳を傾けるよう訴えたい。彼女たちは、レイプされているだけではなく、餓死させられてもいるのです。」

「東西女性ネットワーク」(ポーランド)代表のマルゴルザータ・タラジービッツは、「レイプが戦争の武器として使われ、速やかな対処が迫られているティグレ州の状況に対応できるあらゆるツールが国際社会には揃っています。即座に対応すべきです。」と語った。(原文へ

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|ラテンアメリカ・カリブ地域|気候変動会議の成功に向けて前進

【ニューヨーク/サントドミンゴIDN=キャロライン・ムワンガ】

ドミニカ共和国政府が主催して5月14日まで3日間の日程で開催されていたテーマごとのオンライン会議「ラテンアメリカ・カリブ気候ウィーク(LACCW)2021」が、グラスゴーで11月1日から12日まで開かれる国連気候変動会議(COP26)の成功に向けて重要な推進力を生みだしたと伝えられている。

ラテンアメリカ・カリブ地域、アフリカ、アジア太平洋、中東、北米と地域ごとに開かれている気候変動ウィークの重要な目的は、官民の多様な利害関係者が一堂に会して、一つの傘の下で、目的を同じくしながら気候問題に取り組むことにある。

今回の会合で生み出された推進力は、主催国のドミニカ共和国政府、あらゆるレベルの諸政府、民間部門のリーダー、学界の専門家、その他関係者を含めた5000人以上の参加者の対話からきている。

Map of Dominican Republic

約300人の発言者が、30以上の世界的・地域的組織と協力して、83のイベントと、100時間近いライブ発表と討論にオンラインで参加した。

ドミニカ共和国のオルランド・ホルヘ・メラ環境・天然資源大臣は開会挨拶で、「COP26を前にして、私たちは全国的な気候アクションプランの目標を引き上げ、温室効果ガスを27%削減し、パリ協定の目標に従って気候ニュートラルに向かって前進を遂げようとしています。[…]私たちにとっては、気候アクションは単に排出ガス削減を意味するのではなく、来たるべきものに備える必要があるのです。」と語った。

4日間に及ぶオンライン会議は、気候関連アクションの国家計画への統合、気候リスクへの適応、カーボンニュートラルに向けた変革的な機会という3つの主要な領域における行動を促すためのものであった。結果として、ラテンアメリカ・カリブ地域は、グラスゴーでのCOP26に向けて強力な立場を固めるために「また一歩前進」した。

ドミニカ共和国の国家気候変動評議会の副議長を務めるマックス・プーチ博士は、「人間が生きている複雑かつ対立含みの状況の中、楽観すべき理由があります。気候変動の科学的根拠を強固に否定してきた者達は戦いに敗れ、説得力を失いつつあります。他方で、私たちの目前に横たわっている危険に対する認識が高まっています。ますます多くの国の指導者達が、人類共通の運命を守るための方法として気候関連アクションを積極的に取る必要性を認識するようになり、世界市民たちも勢いを得ています。」と語った。

チリの環境相で国連気候変動会議「COP25」の議長を務めたキャロライナ・シュミットは「地域の国々は連帯してCOP26に向かい、遅くとも2050年までのCO2ニュートラルと強靭性の獲得という共通の目標をもって、最大限の努力を行わなくてはならない」と語った。

LACCW2021は、地域及びグローバルな気候関連目標を前進させる重要なプラットフォームを提供している。広範な地域の利害関係者たちは、気候に関するアクションを提示し、COP26を前にして、パリ協定の下で、「自国が決定する貢献」(NDCs)と呼ばれる各国別の強力な気候変動対策の提出に関してその進捗状況を測ることになる。

LACCW2021のさらなる焦点は、国連の「ゼロへのレース、強靭性へのレース」キャンペーンに対して情報を提供し、多国間の気候対策プロセスにおいてあらゆる人々の声が聞かれるようにすることにある。

「NDCsを積極的に更新することがますます重要になっている。NDCsは、持続可能な開発目標(SDGs)とともに、人々の生活の質をいかにして改善すべきかについての明確なビジョンを伴った、コロナ危機後の持続可能でクリーンな形での復興を導く灯となるだろう。」とチリのシュミット環境相は語った。

シュミット氏とCOP26のアロク・シャルマ議長は他方で、全ての国々に対して、「気候野心同盟」の下で成した公約を果たすか、あるいはこの動きに加わるかするように求めた。マドリッドで開催されたCOP25でチリが議長を務める中で始められたこのイニシアチブは、2050年までのCO2排出ゼロ目標に向かって取り組みを進める国家や企業、投資家、都市、地域や、NDCsを更新することを約束している国々を糾合するものだ。

COP26での成功が極めて重要であると強調したパトリシア・エスピノーサ国連気候変動枠組み条約事務局長は「COP26は、気候変動に対処し、パリ協定を履行し、気候対策関連目標を打ち立て続ける我々共通の取り組みにとって、ある種の『信頼性テスト』に他なりません。」と指摘したうえで、「2021年は、各国が厳しい決定を下し、重要な進展を見せる一年でなくてはなりません。同時にこの年は、前例なき機会を提供している年でもあります。なぜなら、各国が、パリ協定に沿う形でコロナ危機から立ち直り、強靭で、持続可能で、環境にやさしい復興経済を構築しようとしているからです。」と語った。

Patricia Espinosa Cantellano / By Mozamaniac – Own work, CC BY-SA 4.0

LACCW2021は3つの領域に焦点を当てた。①主要な経済部門の行動を国家計画に組み込む。②気候変動のリスクに対応し、強靭性を身につける。③変革の機会を捉えて、地域を、低排出で高度に強靭な発展の軌道に乗せる。

約4000人がLACCW2021のテーマ別オンライン会合に登録をした。政府閣僚、多国間組織の高官、非政府組織に加え、先住民族のリーダーや若者、市民社会からの参加もあった。

オヴァイス・サルマド国連気候変動枠組み条約事務次長は、「ラテンアメリカ・カリブ地域でこの4日間にわたって開かれた実りのある集まりは、気候変動の緊急性が非常によく理解されていることを示しています。ラテンアメリカ諸国が気候対策に取り組みつつコロナ禍にも対処している様子に感銘を受けました。」と語った。また、「COP26まであと半年、私たちは重要な局面に立っています。」と指摘した。

また、「多くの国が、パリ協定の下における各国別の気候変動対策である『自国の決定する貢献』(NDCs)を新たに策定するか、あるいは更新しており、今年は、パリ協定上の目標に到達する軌道に国際社会が乗っているかどうかを確定する年でもあります。LACCW2021を通じて推進力が生まれ、将来もっと多くのことができるという可能性も見えてきました。従って、COP26は成功するとの楽観的な感触を得ています。」と語った。

3日間にわたって、中心的な主催者が、世界共通の気候変動という難題に対処するために肝要なテーマについて議論を主導した。

世界銀行は、各国の措置と経済全体におけるアプローチを検討して、統一的な対策を目指し、持続可能で環境にやさしい復興に向けた国別の計画を作成しようとしている。

国連開発計画は、気候・強靭性開発に向けた統合的なアプローチに関する部会を開き、気候リスクと気候変動の解決策が複数の部門を再形成しつつある現状について検討した。

国連環境計画の部会では、新しい未来の姿や行動、技術、そこに到るために必要な資金を追求する変革的な機会をつかむというテーマで議論を行った。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

LACCW2021の最終日には、COP26の議長が、軽減・適応・資金の掘り起し・連携という、COP26に向けた英国の4つのテーマに関して検討するイベントを開いた。

COP26の「気候対策アクションに向けた媒介」キャンペーンの一環として地域で決められるNDCsの能力構築から、自然に基礎を置いて解決を図ろうとする先住民族との対話、学術研究・イノベーション・気候関連金融に関する議論に至るまで、多くの議論がなされた。

COP26ラテンアメリカ・カリブ地域大使のフィオナ・クラウダーは「LACCW2021は、私たちが直面する課題と、パリ協定の目標を達成する機会について検討し、ラテンアメリカ・カリブ地域で排出ゼロに向かっていくことを可能にした。」と語った。

COP26への次なるステップとしては、国連気候変動枠組み条約の補助機関であり、5月から6月にかけて開かれる「気候変動会議」や「アジア太平洋気候ウィーク」、7月の「アフリカ気候ウィーク」がある。これらを受けて、11月にグラスゴーでCOP26が招集される。(原文へ

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尾崎行雄生誕160周年を迎えて

【東京IDN=石田尊昭

「尾崎行雄と憲政記念館」

国会議事堂の向かい側にある憲政記念館は、もともとは憲政の父・尾崎行雄を記念する「尾崎記念会館」として建てられたものである。今から約60年前、同館の建設に向け、尾崎行雄記念財団が全国に寄付を呼びかけた。超党派の国会議員・地方議会議員、経済界、労働界、教育界、全国の小中学生、海外日系人など幅広い層から浄財が寄せられ、さらに天皇陛下の御賜下金を得て1960年に完成。同時に衆議院に寄贈された。

正門を入ると、議事堂に向かって立つ尾崎行雄の銅像が出迎えてくれる。その凛とした姿は当時も今も変わらない。ただ、国会を見つめるその眼差しは、ますます厳しさを増しているようにも思える。
 

■憲政の父・尾崎行雄

尾崎行雄は、1890年の第1回総選挙から第25回まで連続当選し、60年以上にわたり衆議院議員を務めた。その当選回数と議員在職年数は、日本の議会史上、未だ誰にも破られていない偉大な記録である。だが、憲政記念館にある尾崎の銅像も展示物も、単に尾崎の記録を褒め称えるためのものではない。尾崎行雄の思想と行動を冷静に見つめ直し、その中から現代に生かすべきものを見つけ出すことが重要だ。

尾崎は、立憲政治の確立を唱え続けた政治家である。特権的勢力が思うがままに振る舞う「人の支配、力の支配」ではなく、憲法に基づく「法の支配、道理の支配」を主張した。立憲政治の最大の目的は、この「法の支配」を通じて、国民の生命・財産・自由その他の権利を保障することにある。それを実現する最善の方法は、尾崎曰く「人民から代表を出して、その代表がつくった法律による以外は税金を課したり使ったりできず、また牢に入れることもできないようにすること」である。その代表は有権者の投票によって選ばれるため、立憲政治は「有権者中心の政治」であると尾崎は言う。

立憲政治の確立に向けて政党・政治家のあるべき姿を説いた尾崎は、同時に、政治家を選ぶ「有権者のあるべき姿」を説き続けた。

■尾崎行雄の政党観

尾崎は、立憲政治を「立法部の多数を基礎とする政党内閣」が行う政治であるとし、政党の役割を重視した。藩閥・軍閥勢力を排するには近代的な政党組織が必要であると考え、政党のあるべき姿、公党の精神を説くとともに、自らがそれを実践していった。

尾崎は目まぐるしく所属政党を変えている。そして最も長く過ごした期間は「無所属」だった。政党を転々とし、また設立・解散、脱党・復党を繰り返す尾崎は変節漢と非難された。だがこれは、自身の利害得失や感情・しがらみに基づいた行動ではなく、公党としてのあり方、国家国民本位の政策実現を求めた結果である。

尾崎は、亡くなる4年前(1950年)、次のような短歌を詠んでいる。

 「国よりも党を重んじ
   党よりも身を重んずる人の群れかな」

70年前の歌が現在の日本に当てはまるとすれば、国民にとっては悲劇以外のなにものでもない。選挙が近づくたびに、他の政党に移ったり、新たなグループを立ち上げたりする議員が必ず出てくる。また政党の離合集散も繰り返される。そうした行動は必ずしも悪いこととは言えない。問題は、彼らが一体何を目指し、どういう動機で動いているか、ということだ。

国家国民のための政策実現を求めての行動か、それとも、ただただ自身の当選、自己保身を求めての行動か。与野党問わず、国家・社会のあり方と政策を提示し、論争・競争するのが政党(公党)の役割だ。「公」ではなく「私」のために、政策実現よりも自己保身のためになされる数合わせや離合集散は、国民の政党不信、政治家不信を助長させるだけである。

尾崎が目指した公党のあり方―「金や数の力、親分子分のしがらみ、個人の利害」ではなく「道理と政策」で競い合える政党を育むことを今一度、政治家も有権者も考える必要があるだろう。

■憲政記念館リニューアル

冒頭に述べた憲政記念館は、来館者一人一人が、我が国の議会政治の歴史とともに、尾崎の信念や生き方を振り返り、有権者として(あるいは政治家として)自らの行動に役立てていく場でもある。この憲政記念館は、来年(2022年)からリニューアル工事に入り、2026年度中に完成する予定である。現在の敷地に国立公文書館と合築となるが、現記念館のデザイン・特徴を継承し、尾崎の銅像も現在の形のまま館内に設置される予定である。ちなみに、来年4月からは、国会参観バス駐車場横(現記念館の向かい側)に「憲政記念館・代替施設」が開館する。そちらにもぜひご来館頂きたいが、何よりも、「尾崎記念会館の面影」を残す現記念館に、今年中にお越し頂き、60年の歴史に思いを馳せて頂ければ幸いである。(現在、同館では「憲政記念館ふりかえり展」を開催中)

以上は、尾崎の選挙区・伊勢を中心に咢堂精神の普及に努める「NPO法人咢堂香風」の機関紙『咢堂香風』(2021年6月30日発行)に掲載された文章に加筆したものです。

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北大西洋条約機構、対ロ・対中対策にシフトへ

【ブリュッセルIDN=ロバート・ジョンソン】

「私たちが現在経験しつつあるものは、北大西洋条約機構(NATO)の脳死だ。」と、2019年9月の『エコノミスト』誌のインタビューで明け透けに語ったのは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領である。欧州は「崖っぷちに立っている」と語るマクロン大統領は、地政学的な勢力として自ら戦略的にものを考え始める必要性を説いた。でなければ、「自らの運命をもはや支配できなくなる」からだ。

これはドナルド・トランプが米国の大統領に就いてから2年後のことである。この不穏な情勢を背景にNATOのイェンス・ストルテンベルク事務総長は、「NATO再検討グループ」を結成した。座長にはドイツのトーマス・デメジエール元国防省と米国のウェス・ミッチェル元国務省高官が就任した。これはまた、NATOが直面する脅威とそれへの対処能力を概観した「戦略的概念」が2010年以来改定されていないことを念頭に置いたものだった。

1949年のNATO創設以来、「核抑止」がNATOの相互安全保証と集団的防衛の中核にある。この1949年に出された最初のNATO「戦略的概念」は「例外なく、あらゆる種類の兵器によって、可能な限りすべての手段を用いて、即時に戦略的爆撃を実行する能力を確保する」必要性に触れている。

NATO Member States

2010年の「戦略的概念」も2012年の「抑止・防衛態勢見直し」も、30カ国からなる現在のNATOは可能な限り最小の戦力レベルで安全保障を追求し、軍備管理・軍縮・不拡散を目指すことを約束すると述べている。

米国は1953年7月にNATOに核兵器の提供を公約し、1954年9月に欧州に初の戦域核兵器を配備した。1960年代に核不拡散条約(NPT)の交渉が始まった時点ですでに有効であったNATOの核共有協定は、最終合意されたNPTの文言の先駆けとして、米ソ間で秘密裏に認知されていた。

英国もまた、現在の潜水艦のみを基盤としたシステムと、連続航行抑止(常時1隻が海洋パトロールしている抑止態勢)を含め、その核戦力をNATO同盟国の防衛のために50年以上に亘って提供し続けている。

NATOは、東西冷戦が最も激しかった時期と比べれば、地上配備の核兵器を9割以上も削減し、欧州に配備された核兵器も削減することで欧州同盟諸国の核兵器への依存度を低減させてきた、と強調している。

NATOは、2016年のワルシャワサミットで、軍備管理と軍縮の進展には、現在の支配的な安全保障環境を考慮に入れなくてはならないとの見解を示し、ロシアが近年攻撃的な態度を取り軍備を拡張している以上、軍縮に向けた適切な環境は存在しないと認識している。

ブリュッセルで開催された2018年のNATOサミットでは、各国元首が再び、「核兵器が存在する限り、NATOは核同盟でありつづける」と述べて、これまでの長年にわたる核抑止依存を再確認した。

ストルテンベルク事務総長が設置した「NATO再検討グループ」は『2030年のNATO:新しい時代に向けた連帯を』と題する報告書を2020年11月20日に発表した。この報告書は「ロシアの攻撃的な行動、テロの脅威、サイバー攻撃、新しく破壊的な技術、気候変動が安全保障に与える影響、中国の勃興」といった今日および将来の課題について焦点を当てている。

Secretary of State Michael R. Pompeo meets with NATO Secretary General Jens Stoltenberg, on the margins of the NATO Ministerial, at the U.S. Department of State in Washington, D.C., on April 3, 2019.

報告書は、「依然として攻撃的なロシアや中国の勃興といった体系的な対立関係への回帰」や新しく破壊的な技術(EDTs)、同時にNATOが直面している国境を越えた脅威やリスクによって特徴づけられる「より厳しい戦略的環境」のもたらす必要にNATOが対応していくことを謳った。

報告書は、NATOはロシアに対して「抑止と対話の二面作戦」を続けることを望む、と述べた。つまり、NATOは、ロシアの「脅威と敵対的な行動に対して、ロシアの攻撃的行動の変容と国際法遵守への回帰を妨げている『いつものやり方』に戻ることなく、政治的に連帯し、決意をもって、一貫した形で対応すべきだ。」ということだ。

同時にNATOは、ロシアとの平和的共存を協議し、ロシアの態度に建設的な変化が見られる場合は好意的に対応する用意があると述べた。加えて、NATOの二重戦略は、「ロシアによる攻撃」、さらには「ハイブリッドな形態のロシアの攻撃」に関しても、そのコストを上げることにつながり、同時に、軍備管理とリスク低減措置を協議するための政治的影響力の強化にも資することになろう。

また、NATOは、中国の国家的能力や経済的勃興、指導者の語るイデオロギー的な目標に関する評価を基盤として、中国という安全保障上の脅威に対して、時間や政治的資源、行動を費やす必要がある。

報告書はさらに、「NATOは、2030年に向けて中国の重要性が増してくる世界にアプローチする政治戦略を策定しなくてはならない。NATOは、その構造全体でもって中国からの挑戦を受け止め、中国に対するNATO諸国の安全保障上の利益のすべての側面について検討する諮問機関を設置することを検討すべきだ。」と述べている。

中国の技術開発の持つ意味合いについて評価し、連合国軍最高司令部の欧州管掌範囲における集団的防衛や軍事態勢、強靭性に影響を与える可能性のあるあらゆる中国の活動に対して防衛する取り組みをNATOは強化しなくてはならない。

NATOがブリュッセル(ベルギー)の本部で6月14日に開催する予定のサミットは「欧州と北米の間の連帯を体現するものとしてのNATOを強化するまたとない機会になるであろう。」と、NATOの報道発表では述べられている。(原文へ

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アフリカとの貿易関係を深めるロシア

【モスクワIDN=ケスター・ケン・クロメガー】

プーチン政権は、アフリカを今世紀最大のフロンティア市場と捉えて、2019年には史上初のロシア・アフリカサミットを開催。かつてアフリカ諸国の独立闘争支援や開発援助を積極的に展開した(ロシアの前身である)ソ連時代のポジティブなイメージを梃にしながら、安全保障面の協力や留学生の受入れ、民間投資・貿易促進を積極的に後押ししている。これは近年拡大しつつあるロシアーアフリカ間の貿易・投資の動向を取材した記事。アフリカでは、世界貿易機関(WTO)創設以来最大の自由貿易協定といわれる、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)協定が、今年初めに運用を開始している。(原文へ

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再生可能エネルギーはグローバルなエネルギー転換の柱だ

【レノ(米ネバダ州)IDN=J・W・ジャッキー】

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、風力や太陽光などさまざまな再生可能エネルギーが2050年までに世界の電力供給の中心を占めるようになるとの最新の分析を明らかにした。3月16・17両日に「ベルリン・エネルギー転換対話」でIRENAが発表した「世界エネルギー転換展望」要覧で論じられている。

現在加盟数163か国(162カ国と欧州連合)をかかえるIRENAは、持続可能なエネルギーの将来に向けて移行しようとする国を支援する世界的なエネルギー変革のための政府間組織で、国際協力の主要なプラットフォーム、中核拠点、再生可能エネルギーに関する政策、技術、リソースの集積所として、あらゆる形の再生可能エネルギーの広い適用と持続可能な使用を推進する主導的な役割を果たしてきた。

「気候投資プラットフォーム」への貢献の一環として、IRENAは、再生可能エネルギー関連プロジェクトの実現を支援する用意がある金融機関や開発機関、民間投資家に対して、地域毎にまとめられた特設のポータルを通じて適切なプロジェクトへの参加を呼びかけている。

SDGs Goal No. 7
SDGs Goal No. 7

気候変動に対処するには、2050年までにエネルギー需給の脱炭素化を達成する必要がある。この動きは、世界的なエネルギー転換に重大な影響を及ぼし、エネルギー部門の脱炭素化にあたって、電気が重要な要素となることを意味する。

国際社会は2015年9月に開催された国連のサミットで、17項目からなる持続可能な開発目標(SDGs)という世界共通目標を2030年までに達成することを決めた。すべての人に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保することは、SDGsの第7目標に明記されている。また、気候変動とその影響に立ち向かうために緊急対策を取ることは、SDGsの第13目標にあたる。

急速な炭素削減に向けた代替手段は利用可能であるが、2021年以降もクリーン・エネルギーが成長する見通しである。再生可能エネルギー、電化、省エネが、エネルギー転換の中心に据えられることが理想だ。以下、エネルギー転換を加速させることができる3つの要素について説明していく。

持続可能性と社会経済的なバランス

奇妙に聞こえるかもしれないが、エネルギー転換と経済成長の相互関係は、エネルギー転換指数(ETI)で高位にある国において重大な課題に直面している。実際、指標が存在する115カ国の中で、ランキングを上げ、かつ経済成長も成し遂げた国は全体の半数以下であった。さらに、原油価格高騰の懸念が高まるなど、先進国は多くの問題に直面している。

この10年ほどで、先進国の世帯では電気料金が25%増加した。同じ期間に、経済成長と環境の持続可能性、開発分野において前進がみられたのは途上国の40%にも満たなかった。

エネルギー転換をバランスよく進めるには、安全とエネルギーへのアクセス、経済開発、持続可能な管理を達成しなくてはならないことを指導者は理解する必要がある。エネルギー転換の特定の要因にのみ力を入れることは、世界的な不平等の原因となり、気候変動に関する目標の不達成につながるからだ。

教訓の共有

クリーン・エネルギーに関して言えば、欧州・北欧諸国は、政治的コミットメントの強さや統合的な電力市場、持続可能性実現に向けた強力な規制政策のために、高い実績を誇っている。これらの国々の規制政策は、エネルギーを転換する革新的な技術の採択を中心としたものだ。興味深いことに、中国やインド、ブラジルといった新興国も、再生可能エネルギー源を強化し、エネルギーの集中的な使用を減らし、グローバルなエネルギーアクセスを拡大している。

しかし、エネルギーの転換プロセスにはまだかなりの格差がある。この格差を急速に埋めるために、国家間の協力が最も優先されねばならない。エネルギー転換指数(ETI)で高位にある国は、その規制とイノベーションについて、新興国と知見を共有しなくてはならない。

地方レベルで言えば、各国政府は、地域コミュニティーを持続可能なプロジェクトに巻き込みながらクリーン・エネルギーへの移行を図ることが可能だ。例えば、クリーン・エネルギーに関する教育によって、太陽光や地熱、風力に関する関心を高め、新システムの開発に向けた余地を生み出すことができる。 

移行を通じた強靭化

IRENA

この10年間のエネルギー転換は不均等な形でしか生じていない。ETIのランキングを上げたという意味では、115カ国中わずか13カ国しか達成していない。新型コロナ感染症のパンデミック(世界的大流行)による債務危機とシステム的な衝撃が、エネルギー転換のロードマップに影響を及ぼしている主な要因だ。

不可逆的な進展を促進し、今後ありうるリスクを抑えるために、各国は、経済・政治・社会的実践においてエネルギー転換の公約とロードマップを守らねばならない。そうすることで、再生可能エネルギーの利用を促進し、CO2排出燃料を減らし、規制の枠組みを改善することができる。

グローバルなエネルギー転換のプロセスは始まったばかりだが、政策決定者や投資家、消費者、イノベーターには、持続可能性に関する目標を達成するために必要なことを行ってほしい。

社会経済的なバランスや持続可能性に関するバランスを向上させ、規制政策やイノベーションに関する教訓を共有することで、各国はグローバルなエネルギー転換を促進することができる。各国政府は、強靭さを身につけ、生態系やセクターを超えた協力を促進すべきだ。(原文へ

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|視点|経済と社会のデジタル化を加速させる新型コロナウィルス(カヴェー・ザヘディ国連アジア太平洋経済社会委員会事務局次長)

【バンコクIDN=カヴェー・ザヘディ】

私たちは決定的な瞬間を生きている。新型コロナウィルスの感染拡大がもたらす壊滅的な影響は世界のあらゆる場所に及んでいる。この時期を振り返ってみた時に、歴史が「コロナ以前の世界」と「コロナ後の世界」に分割されてしまったことに気づくだろう。

「ポストコロナ」の世界を決定づける特徴の一つは、私たちの生活のあらゆる側面を貫いている、デジタル化による社会変容ということにあろう。主席技術官なら、経済と社会のデジタル化を予測不能なペースで推し進めた新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)が、自分たちの任務を完了させてしまったというかもしれない。

資料:www.hec.edu/en
資料:www.hec.edu/en

デジタル化による社会変容はデジタル技術の興隆と共に進行してきた。こうした技術は、各国政府が空前のペースと規模で社会保護措置を実行する上で、支えとなってきた。e-保健やオンライン教育を可能にし、企業がデジタル金融やe-コマースを通じて経営を存続させ取引を続けることを可能にしてきた。

しかし、各国がポストコロナに向けた再建に取り掛かりつつある中で、私たちが直面している最も深刻な問題のひとつは、現在身近で起きているデジタル化による社会変容が、アジア太平洋地域の国々で、極端な格差を広げないようにすることであろう。

もし、「誰も置き去りにしない」という持続可能な開発目標(SDGs)の公約を果たそうとするならば、「包摂」こそが、デジタル化による社会変容の中心に据えられねばならない。とりわけ、「包摂」という目的を、インターネットのアクセス、デジタル関連スキル、デジタル金融、e-コマースというデジタル経済の4つの中心的基盤の中に埋め込む必要がある。

おそらく読者は、この記事をノートパソコンか携帯電話で読んでいることだろう。つまり、デジタル世界へのアクセスがあるということだ。そうしたアクセスがない状態でコロナ禍を生きていくなど、想像もつかないことだ。しかし、残念なことに、アジア太平洋地域に暮らす20億人以上の人々にとっては、それが現実なのである。

そして、その20億人の中には、社会的に最も弱い立場の人々が含まれる。たとえば、東アジアと太平洋地域の学生の約20%、南アジア・西アジアの学生の約40%は、昨年、リモート学習を利用することができなかった。このことは、世代間格差と貧困を永続化させてしまう効果を持つことだろう。

Asian businessman standing and using the laptop showing Wireless communication connecting of smart city Internet of Things Technology over the cityscape background, technology and innovation concept/ Image source: Talent & Organization Blog for Financial Services

デジタル格差に対応するために、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)が進めている「アジア太平洋情報スーパーハイウェイ構想」が、①インフラの接続性、②効率的なインターネットのトラフィックとネットワーク管理、③e-強靭化、④ブロードバンド環境の安価な整備という4つの相互に関連した柱に焦点を当てている。

しかし、インターネットのアクセスを確保するだけでは十分ではない。アジア太平洋地域ではデジタル関連スキルの格差がますます拡がりつつある。アジア太平洋地域でデジタル経済の分野で最も先進的なトップ10カ国においては、人口の9割以上がインターネットを利用している。今世紀の初め、この割合は25%程度だった。対照的に、ワースト10カ国においては、インターネット利用者は2000年当時が1%で、現在でもわずか20%にとどまっている。

これに対応して、UNESCAPが運営している「アジア太平洋情報通信教育訓練センター 」では、政策決定者や女性・若者を対象に、需要主導型教育訓練プログラム提供して、デジタル関連スキルを身につけさせている。

デジタル金融に関しては、電子決済の利用者が最近増えつつあるものの、男女間の格差が続いている。加えて、東アジアと太平洋地域では、女性が主導する起業において、1.3兆ドルもの資金ギャップが発生している。

また、アジア太平洋地域が世界のe-コマース取引の4割以上を占め、世界のe-コマース市場を主導しつつあるが、内訳をみればこれらの利得は域内のごくわずかの市場によって主導されているという問題がある。

これに対してUNESCAPが実施している「女性起業媒介プロジェクト」では、コロナ禍でより厳しい状況に直面している女性起業家を支援するために、革新的なデジタル金融とe-コマースの解決策を生み出すことで、彼女たちの抱える問題に対処しようとしている。例えば、「デジタル家計簿アプリ」や「アグリテック解決法」のような取り組みを通じて、幅広いデジタル金融やe-コマースソリューションをサポートし、女性起業家が少しでも生き残っていけるような包摂的オプションを提供している。今日までに、このプロジェクトを通して7000人以上の女性起業家が資金提供を受け、民間資本5000万ドル以上を活用した。

Responding to the COVID-19 Pandemic: Leaving No Country Behind/ UNDP

「包摂」は、まちがいなく、包摂的なデジタル経済の中核的な基礎を築くことに焦点を当てたESCAPの技術・イノベーションをめぐる活動の中心理念である。

ESCAP、アジア開発銀行、国連開発計画が最近出した報告書『新型コロナウィルスへの対応:どの国も置き去りにしない』は、コロナ禍においてデジタル技術が果たした中心的な役割とコロナ後の社会再建において果たしうる役割を強調した。しかし、報告書は、全ての人々に安価で信頼性の高いインターネットを提供し、コロナ後の社会再建で中核的な役割を果たすデジタル経済の核心部分にアクセスできるような取り組みを各国が進めない限り、デジタル化は、国内及び国家間における経済・社会開発の格差を拡大することになりかねないことを示している。

デジタルによる社会変容は間違いなく起こるが、その方向性は定かではない。各国政府や市民社会、民間部門は、デジタル技術が経済だけではなく社会や環境にも好影響を与え、「包摂」を中心的な理念とするように、互いに協力しなくてはならない。そうして初めて、持続可能な開発目標における前進を加速させるデジタル技術の変革的なポテンシャルを発揮させる機会を得ることができるであろう。(原文へ

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