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インドで広がる「民主主義の赤字」

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2021年3月23日に「The Strategist」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

エコノミスト・インテリジェンス・ユニットが2月初めに発表した年次民主主義指数で、世界上位5カ国の民主主義国はノルウェー、アイスランド、スウェーデン、ニュージーランド、カナダとなった。北朝鮮は圧倒的な最下位を記録した。インドは、52の「欠陥のある民主主義国」のうちの一つに分類された。インドのスコアは、ナレンドラ・モディ首相が就任した2014年の7.92から2020年は6.61へと低下し、世界ランキングは、27位から2020年の調査対象167カ国中53位へと転落した。報告書では、「当局による民主主義の後退と市民の自由に対する弾圧」や「インドにおける市民権の概念に付きまとう宗教的要素」により、「インドの民主主義規範に対する圧力が高まっている」と論じられている。新型コロナ抑制の努力は、「市民的自由のさらなる侵食をもたらした」。(原文へ 

フリーダム・ハウスは、3月3日に発表した報告書「世界における自由2021」において、インドの評価を「自由」から「部分的に自由」に引き下げた。それによると、インドにおける市民的自由は2014年以降低下し続けており、ジャーナリストへの脅しの増加、人権団体に対する圧力の増大、ムスリムへの攻撃の増加が見られる。2019年のモディ首相再選以来、自由の低下は顕著に加速しており、「インドは民主主義の世界的リーダーとしての役割を担う可能性を放棄し、包摂と全ての人の平等な権利という価値観の構築を犠牲にして、偏ったヒンドゥー・ナショナリストの利益を推進しているようである」。

モディ政権は「選挙制独裁」へと移行したと、スウェーデンのイェーテボリに本拠を置くプロジェクト「バラエティーズ・オブ・デモクラシー(V-Dem)」は3月半ばに発表した世界の民主主義の健全性に関する年次調査において述べている。モディ政権には、治安妨害禁止法を乱用し、品位を低下させた罪もある。インドの国家犯罪記録局のデータによると、治安妨害事件は2016年から2019年までに165%も増加している。最近の例として、22歳の環境活動家ディーシャ・ラヴィの事件がある。彼女は、デリー周辺で行われた農民たちの抗議への関心を高めるため、大胆にも世界の有名人にTwitterで連絡を取ったのである。

「欠陥のある民主主義」「部分的に自由」「選挙制独裁」。三つの定評ある国際的な民主主義評価機関から与えられた、実に不名誉な三つの言葉である。インドの選挙はおおむね自由かつ公正であるが、選挙と選挙の間では民主的、非宗教的、連邦的な領域が縮小していることが懸念の原因となっている。インドの病んだ政治的身体、リベラルかつ多元的な国際ブランドの出血を裏付けるかのように、プラタープ・メータがデリー郊外のアショーカ大学の教授職を辞した。

国民に広く知られた知識人であり、高名な<インディアン・エクスプレス>紙に毎週コラムを執筆し、アショーカ大学の元副学長でもあるメータは、20年以上にわたって代々の政権に対して臆することなく真実を語ってきた、際立った実績を持っている。メータが辞表において説明したところによると、この私立大学の一部の創設者は、メータが大学にとって「政治的負債」になっており、大学の利益のために辞職することが最善であると伝えてきたという。米国および英国の名門大学に勤める約180人の研究者が、これに応じて公開書簡を発表し、臆病にも政治的圧力に屈したことへの悲嘆と落胆を表明した。

S.ジャイシャンカル外相はフリーダム・ハウスとV-Demの報告書に強く反発し3月15日に、「あなたがたは、民主主義か独裁主義かの二分法を用いている。誠実な回答を求めているというなら言おう。それは偽善だ」と述べた。さらに「自ら任じた世界の管理人」が「判断を下す」ための自分たちのルールとパラメーターを「でっち上げて」いるとけなし、彼らは「インドの誰かが彼らの承認を求めないことがどうにも我慢ならないようだ」と言った。腹立ちまぎれの憤怒に満ちた返答は、異論を概して見下すモディ政権の姿勢と一致するが、ジャイシャンカルのような血統、知性、そして外交官を勤め上げるほどの国際的経験を備えた人物にはふさわしくない。

また、それは明白な誤りでもある。国内にも同じような批判を口にする人々はいたし、多くの人はインドのメディアが、権力を持つサルカリ(政府が所有し統制するメディア)、権力にへつらうダルバリ(提灯持ちメディア)、そして、モディへの個人崇拝強化に異を唱えようとする、減少しつつある本物の独立系メディアやジャーナリストに大別できると考えている。いまや、彼らの不満を伝える外国メディアも増えている。1月29日、<ザ・タイムズ・オブ・インディア>紙の社説は、ジャーナリストを刑事告訴することによるメディアへの脅しをやめるよう訴えた。昨年デリーのシャヒーン・バーグ地区で行われた女性主導の抗議活動では、憲法で保障された権利という言葉を用いて包摂的な市民権の要求が明確にされた。

その一方で、インドは世界の、特に西側諸国の承認を切望しており、世界ランキングが上昇する度に(例えば、世界銀行のビジネス環境改善指数のスコア向上など) それを喧伝している。カラン・タパールは<ヒンドゥスタン・タイムズ>紙において、閣僚グループが西側のメディアと世論に影響を及ぼすための97ページにもわたるひな形集を作成したこと、情報省が世界報道自由度指数におけるインドのランキング向上を担当する部署を設立したことを指摘した。

これらの異なる指数にはそれぞれの短所と長所があるが、その手法、データセット、指標は透明性があり、専門家集団による審査を受け、世界中の研究者に広く利用されている。エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの報告書は167カ国を対象とし、フリーダム・ハウスは195カ国と15地域を調査している。そして、V-Demは、1789年以降の202カ国を対象とする世界で最も大規模な、歴史的かつ多面的な、ニュアンスを捉え、再分類した民主主義データセットを作成していると主張している。これら三つが一緒になって、重要な役割を果たしている。特定の時点においてインドと他国を比較した横方向のスナップショットを提供するとともに、特定の国におけるトレンドラインの長期的分析を可能にする。また、包摂的な民主的市民権の枠組みの中で、ガバナンスの水準を向上させようとするインドの市民社会擁護者にとっては、外部の検証を受けた役に立つ手段となる。

世界ランキングに固執しているのはインド政府である。測定結果を収集する人々にとって、インドは重要な国とはいえ一つの国に過ぎない。したがって、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの調査結果が<エコノミスト>誌に完全掲載された際、報告書は、民主的権利と自由が世界的に低下し、全体として2006年の指数導入以来の低スコアを記録したことを嘆いたが、インドには一度も言及しなかった。同様にフリーダム・ハウスも、「自由がない」と評価された国の数が2006年以来最も多くなったと記している。

インドが活力ある民主主義国家であり、世界最大かつ最善の多文化共存の模範であり、多様性と異なる宗教への相互尊重を重視しているという根本的な資質は、国内外におけるインドのアイデンティティーにとって不可欠な要素であり、世界における正当性とソフトパワーの最も深い源泉である。例外的ともいえるインドの民主主義と多元主義への逆行が生じれば、国内では社会的結束が危機に瀕し、国外では国家の評判が損なわれるだろう。これは、公然とウルトラナショナリズムを掲げる政府にとって異様な成り行きといえるだろう。

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、オーストラリア国際問題研究所研究員。R2Pに関わる委員会のメンバーを務め、他の2名と共に委員会の報告書を執筆した。近著に「Reviewing the Responsibility to Protect: Origins, Implementation and Controversies」(ルートレッジ社、2019年)がある。

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【ブリュッセルIDN=ラインハルド・ヤコブセン】

国連が「現在のコロナ禍の状況におけるデータ共有と再利用」に関する革新的なアプローチとして「VODANアフリカ」を推奨している。「ウィルス蔓延データネットワーク」(VODAN)は、新型コロナウィルス感染症に関する情報をその出所となる国から流出させて地元の医師や科学者が利用できない状態にしてしまうのではなく、データを共有することで情報がその国にとどまるようにすることを目指している。

ネットワークには、全ての参加国から、コンピューター科学や医療データ管理の専門家、医師、社会科学者が加わっている。現在、ウガンダ・ケニア・エチオピア・ナイジェリア・チュニジア・リベリア・ジンバブエが参加している。

UNESCO
UNESCO

国連の専門機関である教育科学文化機関(ユネスコ)は、3月3日に発表された報告書『持続可能な開発をつくる:持続可能な開発目標の実現へ』で、VODANアフリカは、新型コロナウィルス感染症のパンデミックデータに関する技術的な革新であると述べている。

「たとえば、ウガンダのカンパラ国際大学の研究の基礎にある原則は『文脈の下での協働』で、データ主権という原則の中で新型コロナウィルスの感染拡大に関するアフリカのデータを管理する多国間のVODANを主導している。」

VODANのグローバル・コーディネーターで、ライデン大学医療センターのプログラムで主任研究員を務めるミリアム・ヴァン・ライゼン 教授は、ユネスコによって認められたことを歓迎した。

「VODANアフリカは、新型コロナウィルス感染症による危機がパンデミック(世界的流行)であると認定された1年前に発足しました。背景にあったのは、リベリアで危機を起こしたエボラ出血熱のデータを扱った経験でした。今日、リベリア保健省はこれに関する完全なデータを保有していません。」

ヴァン・ライゼン 教授は、「これまでのアフリカの経験は、医療データがアフリカから流出したまま取り返せないというものでした。こうしたデータから利益が得られないことから、アフリカではデータ共有への志向は弱いものでした。しかし、VODANアフリカはこの問題を解決したのです。」と語った。

データは地元で保存される。どのようなアクセス形態が認められるのかに応じて、アクセスはあくまで外からなされる。最高度の「EU一般データ保護規則」(GDPR)に従って、データのプライバシーとセキュリティーが確保される。

データに関する問い合わせも可能であるため、このデータはアフリカ大陸における新型コロナウィルス感染症の理解に資するものとなる。

VODANアフリカは、データの蔵置場所でもある診療所内において、リアルタイムでデータ・ダッシュボード(データをまとめて一覧表示するツール)を提供する。リアルタイムダッシュボードは、データが機械読み取り可能になったことで実現したものだ。この技術は、医療の革新に資する新しいスマート技術によって提供される。加えて、集積データへの問い合わせに対しては、診療所が承認し、各国保健省のガイドラインに従っている限りにおいて、対応可能となる。

世界保健機関(WHO)は、2月18日、データが健康の質を向上させる利点に焦点を当てた「SMART」として採択される予定の、医療データの将来に関する提案を行った。

SMARTとは、標準ベースで(S)、コンピュータで読み取ることが可能で(M)、適応力が高く(A)、要件ベースで(R)、実験可能(T)であることを意味する。SMARTガイドラインのアプローチには、文書化、手続き、デジタル医療のツールが含まれ、『ランセット・デジタル・ヘルス』の新しい記事で紹介されている。

WHOは、世界のあらゆる人々が、臨床的で、公衆衛生に関連した、データを基礎とする勧告から完全かつ即時に利益を得られるという未来を思い描いている。SMARTガイドラインは、デジタル時代において、勧告を基礎にした、命を救う介入の継続的な実行を体系化し加速する新しいアプローチである。

WHO

その重要性は、国家のプログラムの中で採用される医療上の介入を行うにあたって、WHOガイドラインが、厳密に試験され勧告を明確化し承認している点にある。WHOでは「適切かつ継続的に適用されれば、ガイドラインによる勧告は命を救うことができる。」としている。

「今日、WHOガイドライン策定の厳密なプロセスは、世界中の人々の健康転帰(疾病の予防や治療の結果として生じる健康状態)を向上させるための一部分にしか過ぎません。」とWHOの主任科学者であるソウミャ・スワミナサン博士は語った。

「ガイドラインの勧告は、テキストからは離れ、具体的に参加国の現場で効果的に適用され、さらに進化し続けるエビデンスに基づ医療が実践されて初めて意味を持ちます。SMARTガイドラインは、デジタル時代の医療システム変革のパイオニアとなるアプローチです。」

VODANアフリカは、ウガンダのカンパラ国際大学が主導し、汎アフリカ学術会議の委員でもあるフランシスカ・オラディポ教授がコーディネーターを務める。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

オラディポ教授は、「新型コロナウィルス感染症が発生してから、Zoomを通じてアフリカ各地の専門家と簡単につながれることがわかり、現在では、アフリカ各地の12の大学と協力して、我々専門家や学生の能力強化に取組んでいます。毎週、Zoomで40人の専門家と会議をしています。このプログラムは、協力を通じて、アフリカに重要な革新をもたらせることを示しました。非常に満足しています。」と語った。

研究グループは、アフリカで進められているデジタル化のメリットをさらに活かすために、そして、イノベーションが十分な専門性に支えられ、アフリカにおいて雇用を生むように、オンラインによる学習カリキュラムの開発に力を入れている。オンラインカリキュラムは、「カンパラ国際大学デジタル学習プラットフォーム」で教員や学生が無料で使えるようにする予定だ。

「我々はアフリカでデジタルを利用した医療や教育への転換を図りつつあり、デジタル経済に組み込まれる若者が利益を得ることになります。このプログラムが非常に評価されていることは喜ばしく思っています。アフリカの民衆に役立つインパクトを生み出すよう、今後も努力していきたい。」と、オラディポ教授は語った。(原文へ

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

ちょうど1年前、コロナ禍初期の2020年3月23日に、アントニオ・グテーレス国連事務総長は世界的停戦を呼びかけた。彼は、「今こそ力を合わせ、平和と和解に向けた新たな努力を行うべき時だ。そこで私は、今年末までに世界的停戦を実現できるよう、安全保障理事会を中心に一段と強化した国際努力を求める。……世界は、全ての『ホットな』紛争を止めるために全世界的な停戦を必要としている。同時に私たちは、新たな冷戦を防ぐためにあらゆることをしなければならない」と述べた。彼の緊急アピールは、無視されたままである。イエメン、シリア、リビア、エチオピア、そのほか多くの場所で続いている紛争、その紛争への武器供給、かつてないほど膨れ上がった軍事費、にわかに景気づいている武器産業、ほぼ皆無の軍備管理交渉、激化する地政学的対立に目を向けると、「平和と和解に向けた新たな努力」の対極に見える。われわれは、新たな軍拡競争と、おそらくは新たな冷戦のとば口に立っている。(原文へ 

コロナ禍の勃発は実のところ、警鐘であり、世界的協調への要請である。この危機は、国レベルでは解決することができない。コロナ禍の経済的影響を受けて、多くの国々で景気が悪化し、公的予算の負債が増加した状況では、軍事費の戻し入れを期待してもおかしくない。コントラストは、これ以上ないほど明確である。

2021年3月の全国人民代表大会で、習近平中国国家主席は軍に対し、「安全保障がますます不安定化する状況」において常に準備を整えておくよう要請した。中国の軍事費は過去10年間で2倍以上に増加し、今後も増加し続けると思われる。その1週間後、イェンス・ストルテンベルグ NATO事務総長は、「2020年に防衛費は6年連続で増額となり……2020年は2019年と比較して実質3.9%の増加となった」と誇らしげに発表した。リストの圧倒的トップに位置する米国は、2020年に、ライバルと目する中国とロシアの防衛費を合わせた額の3倍近くを支出した。ロンドンの国際戦略研究所が2021年3月に行った調査は、コロナ禍にもかかわらず、軍事費が世界中で過去最高額を記録したことを裏付けた。ボリス・ジョンソン英国首相が言うところの、懐古主義的な「過去最高の防衛費による[……]グローバル・ブリテン」も、他の多くの国々と同様、軍事力を背景にした戦略地政学的外交政策に依存している。英国政府はトライデント用備蓄核弾頭数の上限を引き上げ、180発から260発に増やすことを計画している。これにより、30年かけて徐々に進められた核軍縮プロセスは終わる。1990年代初め以降、全世界の所得に対する軍事費の割合が今ほど高くなったことはない。現在の傾向を考えると、今後さらに軍事費の割合は高くなると予想される。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の新たな調査によれば、武器移転も高水準にとどまっている。米国が依然として最大の武器輸出国であり、全世界に占める割合を37%に拡大し、96カ国に輸出している。米国の武器輸出のほぼ半分が中東向けであり、イエメン内戦で中心的役割を果たしているサウジアラビアが米国からの輸出の4分の1を受け取っている。米国の武器輸出は前報告期間から増加し、その結果、米国と武器輸出額第2位のロシアとの差が広がった。ロシアはいささか気分を害したようで、国営防衛企業ロステックがSIPRIの統計の手法を批判した。世界の輸出額に占めるロシアの割合は、実際にはSIPRIの報告より高いとロステックは主張した。フランスとドイツはいずれも、報告期間中に主要な武器の輸出額を大幅に増やし、輸出額が減った中国を第5位に押しやった。

武器輸出の大部分が危機地域、特に中東に売られているのは驚くべきことではない。危機が世界の武器取引を促進している。世界最大の武器輸入国はサウジアラビアであるが、他の中東諸国も輸入大国である。エジプト、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)、そして、イスラエルとNATO加盟国トルコもそうである。これには、中東の不安定さとともに、地域紛争や地政学的紛争、戦略的利害関係が反映されている。形式上は抑制的な武器輸出規制があるドイツでさえ、大量の武器をサウジアラビア、エジプト、UAE、カタール、さらにはアルジェリアに輸出している。いずれも、民主主義や人道主義の価値(ドイツの武器輸出における判断基準とされるもの)を重視しているとはいえない国々である。

大手武器製造企業は、主に米国、西欧、ロシア、中国に所在しているが、南の発展途上国においても武器産業は徐々にその存在を拡大している。武器製造企業の大躍進は、武力近代化を図る巨額投資の結果である。高所得国の政府は特に、人工知能、自動戦場管理システム、無人ドローン、軍用可能な宇宙技術などの最新技術に投資しているが、核兵器および運搬システムの近代化にも投資している。このような傾向は特に憂慮すべきことである。なぜなら、軍拡競争を阻止する本格的な軍備管理イニシアチブが存在していないからである。

われわれは、バイデン新政権に強力なイニシアチブを期待できるだろうか? 希望の兆しはいくつかある。イラン核合意への復帰や北朝鮮に対する慎重な働きかけであるが、今のところどちらも成果が得られていない。中国との関係は、貿易摩擦が大きな影を落としており、前途洋々とはいえない。雰囲気は対立的である。バイデン政権は「アメリカ・ファースト」から脱却し、欧州とアジアにおいてないがしろにされてきた同盟関係を再構築することに熱心である。そこには、中国の強引な、時に攻撃的な外交政策や、領土問題の解決に用いられる恐れもある強力かつ近代的な軍事力の開発に対する危惧がある。

暗澹とした傾向が見られるが、グテーレス国連事務総長は2020年3月の呼びかけを声高に繰り返すべきである。国連は交渉の場である。その一方で安全保障理事会そのものに問題が内在していることは明らかであり、したがって、国連はそれを解決するべき場である。安全保障理事会の五つの常任理事国は、13,400発の核弾頭のうちほぼ全てを保有し、武器取引の4分の3以上を占め、世界の軍事費の60%以上を占めている。それはたやすいことではない。しかし、東西冷戦時代、相互破壊の差し迫った脅威は今よりいっそう暗澹とした、危険なものだった。バイデン政権が安全保障政策における核兵器の役割縮小を検討している今こそ、そのような国連イニシアチブと「一段と強化した国際努力」を行うべきであろう。現在の傾向が逆転すれば、コロナ禍、気候変動、世界的貧困といった真の世界的問題に対処するために資源を使うことができるようになるだろう。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRIの科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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|国連|ワクチンを世界の公共財に

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

最新の調査報告書が、各国が自国民優先でワクチンを抱えこもうとする「ワクチン・ナショナリズム」に向けた流れが強まっていることに対して警鐘を鳴らしている。報告書は、新型コロナウィルスワクチンの供給を独占することで富裕国は経済的破壊をもたらそうとしているが、その被害は途上国にとどまらず、ほぼ同様に深刻な被害が富裕国も直撃することになると警告している。

富裕国で今年半ばまでにワクチンが行き渡り、途上国の大部分がそこから排除されていたとしても、世界経済は、日本とドイツの国内総生産(GDP)の合計を上回る年間9兆ドル超を失うことになるだろうと、同報告書は予想している。そしてこの経済損失の半分近くは、米国やカナダ、英国といった富裕国が吸収することになる。

また別の最新研究では、ワクチン・ナショナリズムによって、新型コロナウィルスワクチンの分配が不平等になり、GDP換算で年間最大1.2兆ドルの損失を世界経済にもたらすことになると推計されている。これは、たとえ一部の国が国民に免疫を与えることに成功したとしても、世界のあらゆる地域で新型コロナウィルスがコントロールされていない限り、コロナ禍に伴う世界経済への損失が増え続けていくからだ。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

ランド研究所によるこの報告書の著者らは、「新型コロナウィルス感染症とその経済的影響に伴う損失は世界全体で年間3.4兆ドルにも達する可能性がある。その内、欧州連合が被る損失は年間9830億ドル(GDPの約5.6%相当)、英国が被る損失は年間1450億ドル(GDPの4.3%相当)、そして、米国の損失は4800億ドル(GDPの約2.2%相当)になる。」と述べている。

自国中心主義的な行動が避けられないとしても、世界全体でワクチンを提供しようとの経済的インセンティブはある。報告書は、過去の推計に基づいて、低所得国にワクチンを提供するには250億ドルかかるとした。

米国、英国、欧州連合やその他の高所得国は、貧困国へのワクチン提供を拒んだ場合、年間合計で1190億ドルを失う可能性がある。「これらの高所得国がワクチン提供の資金を拠出すれば、ベネフィット(便益)対コスト(費用)の比率は4.8対1となる。つまり、高所得国は、1ドルの費用を負担するごとに4.8ドルのリターンがあるということだ。

こうした数字が意味するところは明白である。しかし、国連のアミナ・J・モハメド副事務総長は、「この1年間、会食をしたり、抱擁し合ったり、学校や仕事に行くという、私たちが人との関わりの中で好んでやってきたことができなくなってきている。」と語った。

Amina J. Mohammed/ UN Photo
Amina J. Mohammed/ UN Photo

同時に、数多くの人々が愛する誰かを失ったり、自らの生活を壊されたりしている。世界保健機関によると、世界で250万人以上が新型コロナウィルス感染症のために死亡した。新型コロナウィルスワクチンは、この死の連鎖に歯止めをかけ、変異株の登場を妨げ、経済を再活性化して、パンデミックを終焉させる希望をもたらすであろう。

「力を合わせて初めて、パンデミックを終わらせ、新しい希望の時代を切り開くことができます。」と、モハメド副事務総長は語った。国連は、こうしたことを背景に、世界中で新型コロナウィルスワクチンの公正かつ平等な利用を呼びかける「オンリー・トゥゲザー」という新たなグローバルキャンペーンを始めた。

このキャンペーンは、医療従事者や最も脆弱な立場にいる人々から始めて、全ての国において新型コロナウィルスワクチンの予防接種を行き渡らせるためのグローバルな協調行動の必要性を強調するものだ。

モハメド副事務総長は、ワクチン開発に向けた前例のない世界の科学界の努力によって、新型コロナウィルスに打ち勝つ希望が出てきたと指摘した。実際、公平にワクチンを分配するための国際的な枠組み「COVAXファシリティ」を通じて、史上最大規模のワクチン供与事業が進行中で、最貧国の一部も含めて世界全体で数多くのワクチンが提供されようとしている。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は3月11日、キャンペーン開始にあたって、「一部の先進国がワクチンの大多数を独占しようとしている。」ことへの懸念を示し、「新型コロナウィルスワクチンは世界の公共財とみなされるべきだ。」と強調した。

さらに、「新型コロナウィルスワクチンは『誰でも、どこでも』利用可能なものでなくてはなりません。今年の危機は、大波のような苦難をもたらしました。しかし私たちは、『オンリー・トゥゲザー』の取り組みによって、パンデミックに終止符を打ち、我々のよく知る日常へと戻ることができます。」と語った。

現在の新型コロナウィルスワクチン供給量では、医療従事者と社会的弱者など(途上国の)人口の一部をカバーできるに過ぎない。したがって、COVAXファシリティでは、2021年末までに、参加国の人口の3割近くにまでワクチンを投与できるように準備を進めている。しかし、このペースは新型コロナウィルスワクチンの8割近くを独占している富裕国10か国の現状と比較すれば、著しく見劣りする。こうした富裕国の中には、今後数カ月で全人口への予防接種を完了する見通しの国さえあるのだ。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

世界保健機関、GAVIアライアンス、国連児童基金(ユニセフ)、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)が共同で主導するCOVAXファシリティには190の参加国がある。新型コロナウィルスワクチンを最も必要とする人々に今年末までに投与を完了するには20億ドル以上が必要だ。

国連は、COVAXファシリティに新たな資金を獲得することが極めて重要だが、余剰ワクチンの流用や技術移転、生産ライセンスの提供、知的財産権申し立ての一時停止などの手段によって、新型コロナウィルスワクチンの供与を大幅に増やすことも可能だと考えている。

「もし世界の科学者らが安全かつ効果的なワクチンをわずか7カ月で開発することができたのなら、世界の指導者らは、これと同じく、歴史的な速さでもって、地球上の全ての人々にワクチンを届けるために製造を加速する資金を提供することを目標とすべきです。」と国連のメリッサ・フレミング事務次長(グローバルコミュニケーション担当)は語った。(文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ニューデリー|クンドゥーズIDN=デヴィンダ・クマール】

国連安保理が3月14日の審議で、アフガニスタンで民間人を意図的に狙った襲撃が急増している事態を「最も強い言葉で非難」するなか、同国東北部のクンドゥーズ市では、女性活動家らが市内各地の親戚や隣人、住民の軒先を訪問して、2つの質問をして回っていた。それらの質問は、「あなたにとって和平プロセスはどのような意味を持ちますか?」「その中にあなた自身の役割があるとしたらどのようなものでしょうか?」というものだった。

国連安保理は、2020年9月にアフガニスタン和平協議が開始されてから数カ月の間に民間人を狙った襲撃が増加していることに深い懸念を示すとともに、「持続可能な平和は、永続的かつ包括的な停戦を目的とした、アフガン人主導のアフガン人自身による、誰もが参画できる平和プロセスを通じてのみ実現が可能だ。」と認めた。

国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、UNAMAの支援を得たアフガニスタン女性ネットワーク(AWN)がこの冬に3カ月に亘ってクンドューズ市で実施した個別訪問プログラムを通じて、約1500人のアフガン人女性が、平和に関する意見を表明した。彼女たちの多くが、メディアへのアクセスがなく、外の世界と隔絶された自宅に籠る生活を送っていた。

戸別訪問調査員が集めた女性たちの意見は、全国レベルに届けるとともに、アフガニスタン和平交渉チームの女性メンバーと共有すべく、まずは首都カブールのAWN本部とUNAMAに提出された。一方、AWNのクンドゥーズ支局は、女性達の意見を、同州の市民社会組織や人権擁護団体と共有した。

Map of Afghanistan
Map of Afghanistan

AWNクンドューズ支局長で活動家のマルザ・ルスタミさんは、「この調査の目的は、自宅に閉じこもる生活スタイルゆえに外の世界との繋がりが僅かか或いは皆無な環境に置かれている女性達を関与させていくことでした。」と説明した。そして、「私たちは、彼女たちが、現在行われているアフガニスタン和平交渉に対して抱いている期待や不安など様々な見解に耳を傾けました。この調査は、和平交渉の先にある最終合意は、全てのアフガン人の意見を反映したものであるべきという私たちの強い信念に突き動かされて実施しました。」と語った。

調査に応じた女性の多くが、国の重要な問題について自身の意見が求められるという経験は人生で初めてのことだった、と調査員に語っていた。

彼女たちには、回答用紙に名前を提供するか匿名にするかの選択肢が与えられていた。

クンドューズ市第二地区在住の専業主婦ナシマさんは、「私たちが望んでいるのは平和です。和平交渉の当事者は、私たちが平和に暮らせるように、戦闘を終わらせることに合意すべきです。」というシンプルなメッセージを伝えた。

シャリファさんは、「和平を語りながら殺し合う現状は何の解決にもなりません。暴力をやめ停戦が守られない限り、和平を語り合っても無益な試みだと思います。」と語った。

夫と子供たちをタリバンに殺害された未亡人のマリアムさんにとって、平和は復讐よりも重要だという。「もしタリバンが暴力を止め、平和を受入れるならば、私は彼らを赦し、夫と子供たちを奪った報いを求めない用意があります。」

他にも調査に応じた多くの女性たちが、永続的な平和とあらゆる人々を対象にした開発が実現するのであれば、マリアムさんのように進んで加害者を赦すつもりだという意見を述べている。

アフガニスタン全土を通じて、多くの人々が、和平交渉の妥結が最終的に数十年に亘った戦争の終結につながることを期待している。しかし一方で、和平交渉に多様で幅広い層からの参加が十分確保されていない現状を、引き続き懸念しているアフガン人も少なくない。とりわけ若者と女性は、和平交渉に十分関与できていないことが、最終的な合意がなされても、若者と女性の権利は顧みられず不利益を被るのではないかと懸念している。

Photo: The July 7-8 talks between the Taliban and Afghan delegates in Doha. Credit: MEMR

UMANAは、和平交渉を含む政治、社会、経済などあらゆる生活面における、女性の参画とリーダーシップを支援している。

クンドゥーズ市にあるUNAMAの現場事務所は、和平交渉と和平プロセスに多様な意見を取り込もうとするアフガン政府の取組みの一環として、AWNとの連携のもとにこの調査キャンペーンを計画した。とりわけ、調査対象として、自宅が街の中心地から遠く離れているとか、教育を十分受けていない、あるいは地元の社会規範等の理由から、従来から脇に追いやられてきた女性たちに注目した。

この調査キャンペーンは、メディアパートナーであるウラノステレビやクンドューズラジオが、各々のソーシャルメディアも活用しながら、番組で取り上げたことから、調査に応じた女性達の声は、20万人以上の視聴者に届けられた。(原文へ

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国連のYouth4Disarmamentが「10億の平和の行為」特別賞に選ばれる

【ニューデリーIDN=デヴィンダー・クマール】

軍縮は、「将来の世代を戦争の惨禍から救う」という目標をもって、国連憲章に規定された集団的安全保障システムの中心的な要素である。国連創設と広島・長崎への原爆投下から75年を迎えるにあたって、国連軍縮局は「軍縮を75単語で若者チャレンジ」キャンペーンを開始した。8月12日の「国際青少年デー」に始まって9月26日の「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」まで続いた。

キャンペーンは、13~18歳の中高生、19~24歳の大学生・大学院生、25~29歳のキャリアの浅い若者と年齢層を3つに分け、13~29歳の若者の参加を求めた。

キャンペーンを通じて、世界の若者たちは、軍縮が自分や自分のコミュニティーにとって何を意味するのかを75の単語で表現するように求められた。62カ国から198件の応募があった。

国連軍縮局が2019年に立ち上げた別のキャンペーンである「#Youth4Disarmament」は、軍縮・不拡散分野において若者を関与させ、教育し、エンパワーすることを目的としたものだ。

国連軍縮担当事務次長・上級代表の中満泉氏は、「このキャンペーンは、若者のリーダーシップと行動が、人々を勇気づけ、集団的な平和と安全を守る上で肝要なものであることを大いに示しています。」と指摘したうえで、「史上最大規模の世代である現在の若者は、大量破壊兵器や通常兵器の拡散も含め、その脅威を削減する変化をもたらすための意識を喚起し、新しいアプローチを生み出すうえで、極めて重要な役割を担っています。」と語った。

「#Youth4Disarmament」は、「10億の平和の行為」によって、2020年の「ベスト連携構築プロジェクトに選ばれている。800万件以上の平和活動の中から選ばれた他の11のプロジェクトとともにノミネートされたものだ。

ピースジャム財団」が主催する世界市民のキャンペーンである「10億の平和の行為」は、「一つの平和の行為とは、地域や学校、職場、組織の中で平和を広げる思慮に富んだ活動であり、世界平和をもたらす上で肝要な『10億の活動領域』の一つ以上に影響を与えるべく行われているもの。」と説明している。2014年に開始したこのキャンペーンは、2021年までに10億の活動を達成するという大胆な計画を推進しており、これまでに171か国で8298万7610件の活動が生み出されている。

このキャンペーンは、一度にひとつの「平和の行為」という形で、一般の人々に世界を変える力を与えるものだ。ノミネートされた活動を選考できるのは、気候変動問題で活躍しているグレタ・トゥーベリ氏など、過去の受賞者だけである。

今年のイベントに関連して、インドの大学生らが、彼らのコミュニティーや個人レベルにおいて、ジェンダーが兵器の効果にどう影響を与えるかについて意見を出すよう、国連アジア太平洋平和軍縮地域センター(UNRCPD)から求められた。

UNRCPDは、アジア太平洋地域の43カ国で活動することを任務としている。実質的支援の提供や、サブリージョナルからグローバルレベルにわたる活動の調整、それらの活動に関する情報の共有などを通じ、アジア太平洋地域の平和、安全保障・軍縮の目標を達成できるよう、地域の各国を支援している。

大学生たちは、インドの市民団体「プラジュニャ財団」と「サンスリスティ」主催の「ジェンダーと平和」をテーマにした第4回講演会(ウェビナー)に参加していた。

UNRCPDの関係者らは、軍縮や不拡散、軍備管理のプロセスがジェンダーのような領域といかに関わっているのかについて、参加者の注意を促した。こうした認識が、より効果的な政策や事業、プロジェクトの遂行を促進するのである。

実際、国連安保理が約20年前に決議1325(2000)を採択した際に、ジェンダーと武力紛争の関連に焦点を当てた政策と活動が開始されている。

この画期的な決議は、紛争の予防や解決、平和交渉、平和構築、平和維持、人道支援、紛争後の構築における女性の重要な役割を再確認したもので、平和と安全の維持と促進のためのあらゆる努力における女性の平等な参加と完全なる関与の重要性を強調した。

国連安保理決議1540(2004)に関するUNRCPDのプロジェクト・コーディネーターであるスティーブン・ハンフリーズ氏は、核兵器などの大量破壊兵器は本質的に無差別的なものであるが、放射線は女性に特有の影響を与えることが知られていると説明した。

電離放射線は、細胞内で化学変化を起こしDNAを傷つける高エネルギーの放射線だ。原子力発電所の事故や核兵器によって高いレベルの電離放射線が発せられる。

核軍縮と核不拡散における進歩を追求するには、いわゆる「ジェンダー目線」でものを見て、多様な声に耳を傾け、権力関係のジェンダー編成を変えていくことが必要だとハンフリーズ氏はしめくくった。

決議1540の重要性は、全ての加盟国が、とりわけテロ行為に使用する目的をもって核兵器や化学兵器、生物兵器、及びその運搬手段を開発・取得・製造・所有・輸送・移転・利用しようとする非国家主体に対するいかなる形態の支援も差し控えるべきであると決定している点にある。

同決議は、とりわけテロ行為に使用する目的をもってこれらの兵器やその運搬手段を非国家主体に拡散させることを予防する効果的な措置を採るために、適切な法律を制定し実行することを全ての国家に義務づけている。

国連軍縮局によると、市民社会と民間部門は、決議1540の履行に重要な貢献を成すことができる。国連軍縮局は、市民社会や民間部門、産業部門との積極的なパートナーシップを促進して、この決議の目的を満たすための国別、国際的取り組みを支援している。

Izumi Nakamitsu/ UNODA
Izumi Nakamitsu/ UNODA

国連軍縮局は2012年、ドイツと協力して、「国連安保理1540に関する国際・地域・サブ地域産業組織会議」を開催した。核・化学・生物・金融・運輸・宇宙部門の産業団体や民間企業が参加した。

2013年1月、国連軍縮局はオーストリアと協力して、決議1540に関する初の市民社会フォーラムを開催した。フォーラムには、南北アメリカ、アジア、東欧、西欧、中東、北アフリカ、アフリカ南部と世界各地から45の市民団体が集まった。

また、効果的かつ協力的なパートナーシップの事例として、ジョージア大学の国際貿易・安全保障センター、同大の公共・国際問題大学校と国連軍縮局の間のものが挙げられる。同センターは「1540コンパス」と題する11番目の出版物を発行した。非国家主体への大量破壊兵器の拡散とテロリズムを予防する国連安保理決議1540の効果的な履行に関する見解・コメント・アイデアを披露する学術誌である。

ハンフリーズ氏の発言の後、2021年1月に発効し、この20年以上で初の多国間軍縮条約となった核兵器禁止条約の意義と履行に関して、学生らと実のある議論が交わされた。

軍事化の人的、経済的コストについてもまた、イベントの中で話し合われた。

国連の「軍縮に向けたユースチャンピオン」は、将来を見据えて、「#Youth4Disarmament」キャンペーンの立ち上げをイベントの参加者に宣言した。これは、現在の国際安全保障の課題、国連の機能、積極的な参加の仕方について専門家から学ぶために、世界各地の若者をつなぐためのプロジェクトである。(原文へ) 

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【トロントIDN= ジャスティン・ポドュール】

農作物取引を自由化する新法巡って農民らによる大規模な抗議デモに発展しているインド農業が抱える構造的な問題点を分析したジャスティン・ボデュール氏による視点。大英帝国による植民地支配以前のインド(清帝国治下の中国の場合も同じ)では、凶作に際して為政者が可能な限り国民に最低限の食料を無償で提供する仕組が存在していたが、英国がこれを廃し食料を国際市場と連動した商品として徴収したために、その後の大英帝国領インドでは、必ずしも食料不足が原因ではなく、「貧しいから餓死する」大規模な飢饉が頻発した。ポデュール氏は、独立後のインドは大英帝国時代のような大規模な飢饉は回避してきたが、1億9500万人の栄養不足人口(世界の25%)を抱え、過去5年間に364,000人の農民が自殺する状況のなかで導入されようとしている新法は、数百万人の農民を破滅させ、インドを空腹を抱えた国(Country of humger)から、再び飢餓の国(country of famine)に逆行させることになりかねないと警鐘を鳴らしている。(原文へ)FBポスト

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再選を目指すグテーレス氏の対抗馬として女性有力候補をたて、前回史上初めて実現した国連事務総長選出プロセスの透明性と公開性を確保しようと取り組んでいる草の根キャンペーンに焦点を当てた記事。5年前の事務総長選挙では、従来密室(=国連安保理5カ国)で決められてきた慣行への非難が高まった結果、国連総会決議69/321に基づいて国連総会の関与を深め、すべての候補者たちを国連総会に招いて、加盟国および市民社会との「非公式対話」が行われるなど、史上初めて選挙プロセスが公開議論された。しかし、今回は、安保理の支持を得ているとされるグテーレス氏の再選が確実視される中、再び5大国間の利害調整で事務総長が決められる旧来の慣行に戻るのではないかという懸念が広がっている。(原文へ) FBポスト

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岐路に立つ安保理事会:気候の「 安全保障問題化」か、安全保障の「気候問題化」(Securitisation or Climatisation)か?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=チェザーレ・M・スカルトッツィ】

2021年2月23日、国連安全保障理事会(UNSC)は、気候変動と安全保障の問題に関するハイレベル公開討論を開催した。英国の国連常駐代表により開催されたこの会合は、気候変動が国際安全保障にもたらす脅威に対処するためのUNSCの役割を定義することを目的とする一連の公開討論およびアリア・フォーミュラ会合(非公式会合)の直近回である。10年にわたる議論にもかかわらず、UNSCはいまなお一連の「概念」と「手続き」の問題について意見が割れており、本稿で示すように、気候変動に関するUNSCの役割を定義することができずにいる。(原文へ 

UNSC内での議論から、二つの際立った、しかし重なり合うトレンドが浮かび上がってきた。第1は気候の「安全保障問題化」、つまり、気候変動を社会環境的な問題ではなく国家安全保障上の問題として捉え直すことである。トレンドとしての「安全保障問題化」は地球温暖化を政治問題化し、それを実存的な脅威として描く。その目的は、気候の緊急事態に対処するための通常と異なる行動指針(防衛装置の使用を含む)を正当化することである。もう一つのトレンドは、安全保障の「気候問題化」、つまり、安全保障政策、戦略の策定また実践において、気候変動を主流に位置づけていくことである。ルシール・メルテンス(Lucile Maertens)が2021年にInternational Politics誌で発表した論文において主張したように、UNSCはこの「安全保障問題化」のプロセスから「気候問題化」のプロセスへと移行している最中である。しかし、そうする間も、依然として「安全保障問題化」として提起される事例が発生し、理事国間に分断をもたらしている。

「安全保障問題化」は厄介な問題をはらんでいる。なぜなら、気候変動に関する議論を、UNSCの任務と正当性に異議が申し立てられている分野の議題へと誘導するからである。気候が本当に脅威の増幅要因で、国際平和を損なうのであれば、UNSCは拘束力のある決議を出し、予防措置を講じる任務があるということになる。したがって、英国、米国、フランスといった理事国が地球温暖化を「安全保障上の実存的危機」と表現する場合、彼らは実際には気候変動をUNSCの責任とするための前提条件を作り出しているのである。しかし、このような「安全保障問題化」の推進と対照的な立場を取るのがロシア、中国、インドである。彼らは、気候変動が紛争の主な原因であるという点に異議を唱えており、そのような捉え方をすることは将来的な解決を妨げると主張している。

注目すべきは、紛争と気候変動の結び付きに関する科学的証拠には、いくぶん一貫性がないことである。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、第5次評価報告書において、「まとめると、研究により温暖化と武力紛争との間に強い正の関連性があるとは結論付けられていない」と評価している。実際、少数の理事国が積極的立場を取っているにもかかわらず、UNSCは全体として、地球温暖化の安全保障上の影響に対処することにかなり慎重である。これまでのところ、可能性の範囲で、気候変動の悪影響と国際平和および安全保障との間に仮説的な関連性があるかもしれないと認めているのみである。また、UNSCはいくつかの文書において、紛争は多面的な現象であり、一つの変数(すなわち、気候)に単純化することはできないと明記している。しかし、UNSCにおけるいつもの政治的論議においては、このようなニュアンスはしばしば影が薄くなり、気候と社会・環境的紛争との間の複雑な関連性を誤まって解釈する、センセーショナルな過度の単純化に押しのけられてしまうのである。

英国の事例が、「安全保障問題化」の危険をよく示している。2月23日の公開討論に先立って英国が配布した意見書は、気候変動、国家の脆弱性、暴力的紛争の間の相関関係に言及することにより、UNSCが予防措置を講じることを主張した。この単純な相関関係はその後の公開討論でさらに単純化され、ボリス・ジョンソン英首相はたとえ話を修辞技法として用いて、気候変動が紛争を引き起こす可能性をさらに劇的に表現した。例えば、ジョンソンは、「ふるさとが砂漠化したために路上生活を強いられ」、その後「なんらかの武装集団に加わり」、「暴力的過激派の良いカモになる」若者について考えるよう促した。あるいは、別の例を挙げ、「干ばつのためにどんどん収穫が減り、より丈夫な作物であるケシに乗り換える」農家について考えるよう主張した。どちらの例も国際安全保障の脅威となると、彼は言った。過激主義もケシも、最終的には「われわれのあらゆる都市の街路」に入り込むからだという。

英国が示した例は心をつかむが、根拠がない。暴力には常に複数の原因があることを無視しているだけでなく、気候変動への適応的対処がポジティブな調整と協調をもたらす場合も多いことを考慮に入れていない。UNSCにおける一部の政治的発言に見られる、気候と安全保障の関連性をあまりにも単純化するこのような姿勢は、最終的には、恐怖心の利用や「安全保障問題化」を非難する人々に格好の材料を提供することになる。このような非難は、ひいてはUNSCの正当性を損ない、安全保障の「気候問題化」という健全なプロセスを弱体化する。

「安全保障問題化」への抵抗として、ロシア、中国など数カ国の理事国が、UNSC以外の場所、恐らく多国間フォーラムのほうが気候変動の問題により有効に対処できるだろうと提案している。もしそうなれば、それは全員にとっての損失となる。平和と安全保障は、環境的要因を考慮に入れて初めて持続可能なものとなり得る。例えば、平和構築は将来志向のプロセスであり、気候変動に目をつぶるわけにはいかない。実際、気候問題に取り組むことへの抵抗があるにもかかわらず、UNSCはすでに、いくつかの決議(決議番号2349240824232429)に気候変動への考慮を盛り込んでおり、関係する各国政府や機関に対して、リスク評価に気候変動を組み込むよう求めている。

しかし、これらの決議が標準というわけではない。例えば、2020年3月の南スーダンに関するUNSC決議には、同国が地球温暖化の悪影響に大いにさらされているにもかかわらず、気候変動への考慮は盛り込まれなかった。UNSCは気候変動に対処するためのベンチマークや基準をいまだに持っていないため、このような不一致は驚くべきことではない。この方向で作業を重ね、ドイツおよび「気候と安全保障を守る有志グループ(Group of Friends of Climate and Security)」は、2020年に気候変動を取り扱うことを可能にするための行動計画を理事会で提案した。この計画では特に、「気候と安全保障に関する特使」の任命、気候変動に関する定期報告、気候に配慮した平和構築が要請された。残念ながら、UNSCはこの行動計画をまだ採択していない。というのも、一部の理事国がこれをUNSCの責任の危険な拡張と見なしているからである。

結論として、UNSCは岐路に立っていると思われる。紛争と気候の関連性に関するハイレベルな政治討論は、何の結論も出せずにいる。それどころか、理事国との関係を悪くし、UNSCの正当性を弱体化させている。その一方で、平和維持と平和構築における現実的かつ具体的な側面への適切な対処が行われていない。したがって、理事国が今後、気候変動の潜在的脅威を憶測するよりも、気候変動による現実的な安全保障上の影響への対処に向けて取り組むことが望まれる。言い換えれば、UNSCは「安全保障問題化」をさらに抑制し、「気候問題化」をさらに促進する必要があると思われる。

チェザーレ・M・スカルトッツィは、東京大学の博士候補生で、気候変動と安全保障について研究している。また、Global Politics Review誌の編集長および、社会科学・研究・イノベーション協会(Association for Social Sciences, Research and Innovation)の理事も務めている。近年の著作一覧はこちら(https://scartozzi.eu/)。

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新START延長も核兵器の近代化競争つづく

【トロント/ワシントンDC・IDN=J・C・スレシュ】

米国がロシアとの間で結んでいる新戦略兵器削減条約(新START)を2026年2月4日まで延長することを米国のジョー・バイデン大統領が決めて、軍備管理の専門家らは胸をなでおろしたが、ペンタゴンは「これは核兵器拡散にさらなる制約を課すためのロシア・中国とのより大きな協議の始まりに過ぎない」としている。

ペンタゴンは、米国国防総省の本部が入った建物の名称である。ペンタゴンの名称は、米軍の象徴として、国防総省とそのリーダーシップを指すものとして使われている。

The Pentagon, headquarters of the US Department of Defense, taken September 2018/ By Touch Of Light – Own work, CC BY-SA 4.0

米統合参謀本部副議長のジョン・E・ハイテン空軍大将は、オンラインで開催された2月26日の米空軍協会航空宇宙戦シンポジウムで、ロシアとの新STARTは「核兵器に制限を課し、その履行を検証する手続きがある点で、望ましいものだ。」と語った。

新STARTは、ロナルド・レーガン、ジョージ・H・W・ブッシュ両大統領が開始した、米ロの戦略核戦力を検証可能な形で削減する二国間プロセスを継続するものだ。新STARTは、1994年に発効した第一次戦略兵器削減条約(START I)以来、米ロ間で初の検証可能な核軍備管理条約となった。

「戦略攻撃兵器のさらなる削減・制限に向けた措置」に関する条約として公式に知られる新STARTは、2011年2月5日に発効した。元々の有効期限は2021年2月5日までの10年間で、双方が合意すれば5年間の延長が可能だった。

ハイテン大将は、米ロ両国ともに2018年2月5日までに条約の定める制限以内に戦略核を削減し、それ以来、制限を順守していると語った。その制限とは以下のようなものである。

・配備済みの大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、核兵器搭載能力を持つ重爆撃機の合計を700基機以内。

・配備済みのICBM、SLBM、核兵器搭載能力を持つ重爆撃機に搭載した戦略核弾頭の合計を1550発以内。各重爆撃機は、この場合、戦略核弾頭1発と換算する。

・配備済みおよび未配備のICBM発射基、SLBM発射基、核兵器搭載可能な重爆撃機の合計を800基機以内。

核兵器を運搬する能力のあるICBM、重爆撃機、潜水艦が、米国の核戦力の三本柱である。

「核の三本柱は、ロシアや中国、また、ある程度までは北朝鮮やイランを抑止して、米国やその同盟国に対して核攻撃をさせないために重要なものだ。」と統合参謀本部副議長のジョン・E・ハイテン空軍大将は語った。

U.S. Air Force, Gen. John E. Hyten, 11th Vice Chairman, Joint Chiefs of Staff, poses for a command portrait in the Army portrait studio at the Pentagon in Arlington, Va., Nov. 27, 2019. (U.S. Army photo by Monica King)

第二次世界大戦中の1942年1月に戦略面の調整強化を図るために創設された統合参謀本部は、以来、米国の軍事計画の中心にあり続けてきた。

しかし、新STARTの延長は「核兵器拡散にさらなる制約を課すためのロシア・中国とのより大きな協議の始まりに過ぎない。」核魚雷や核巡航ミサイル、海上発射弾道ミサイルのような新兵器をロシアは開発しつつあり、米国防総省はこれらを「米国にとっての脅威であり、新STARTの規制を受けないもの」と捉えている。

ハイテン大将は次に中国問題に言及して、「中国は世界で最も急速に軍備強化を進めている核兵器保有国だ。地球上のどの国よりも速いペースで新型核兵器を生産している。新たな運搬プラットフォームも構築しつつある。また、新しい施設や航空機、様々な種類のミサイル、そして我々が防護手段を持たず、かつ核兵器を搭載可能な極超音速兵器を生産しつつある。」と語った。

「そして、中国との間ではいかなる形でも軍備管理協定が存在しておらず、彼らの核ドクトリンがどうなっているのかも窺い知ることはできない。これは非常に難しいところだ。」とハイテン大将は付け加えた。

米国防総省は、ロシアは核兵器の近代化プロセスを完了しつつあり、中国はその最中にあるが、米国は未だに緒に就いたばかりという問題認識を持っている。

米国は、ロシアに対抗するために信頼性の高い海上発射巡航ミサイルを持ち、新STARTによっては規制を受けないままロシアが製造し続けている低出力核兵器と戦術核兵器に対抗するために、潜水艦に搭載できる少数の低出力核兵器を持つ必要がある、とハイテン大将は語った。

Hypersonic Technology Vehicle HTV-2 reentry (artist’s impression)/ By David Neyland, Public Domain

「三本柱への投資を継続し、敵国の能力を注視し続ける必要がある。なぜなら、我々は核の対立と核戦争を避けたいと考えているからだ。それを避ける唯一の方法は、敵方を抑止することだ。」とハイテン大将は語った。

これは「質的な意味での核軍拡競争が進行中」であるとみなしうる明確な証拠であり、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が警告していることである。『ブルームバーグ』のアンドレアス・クルース論説委員は「核の大惨事の危険が迫っている」と警告している。

実際、ペンタゴンは、「ロシアと中国が能力の高いシステムをそれぞれに開発している」という認識の下、近代化計画の中で極超音速兵器に最も力を入れている。

極超音速兵器は、超高層大気(8万~20万フィート)を、音速を遥かに超えるマッハ5以上の速度で飛翔することができ、防衛側が予測不能な形で攻撃を加えることができる。

米国防次官(研究・工学担当)室で極超音速兵器の責任者を務めるマイク・ホワイト氏は「超高度における作戦は、航空防衛と弾道ミサイル防衛との間に空隙を生み出す」とオンライン開催の米空軍協会航空宇宙戦シンポジウムで語った。

この部署は、変革的な戦争遂行能力を開発・実施する極超音速兵器近代化戦略を策定している。ホワイト氏は、この戦略は、戦術的な戦場において、死活的な重要性を持つ海上・沿岸・内陸部の標的を、自らの損害を最小化しつつ、長距離を移動し、極めて短い時間の中で叩く通常型極超音速攻撃兵器を空・陸・海に展開することを要素としていると説明した。(原文へ) 

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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