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世界大会が核兵器廃絶と気候変動対策を呼びかけ

【ニューヨークIDN=サントー・D・バネルジー】

1月23日、『原子力科学者会報』誌は「世界終末時計」の針を「真夜中(=地球と人類の滅亡)まで100秒」にセットすると発表した。13人のノーベル賞受賞者たちによる、核兵器と気候危機の実存的危険についての劇的な警告であった。

4月25日、新型コロナ危機の中、1000人以上の平和活動家、気候変動活動家、社会運動家が集まって、「世界大会:核兵器廃絶、気候危機の阻止と反転、社会的経済的正義のために」を初めてオンラインで開催した。

Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain
Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain

この会議は元々、4月27日から5月22日にかけニューヨークの国連本部で開催される2020年NPT再検討会議に合わせて対面形式で開催される予定であった。しかし、再検討会議そのものが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)により2021年に延期となった。「にも関わらず、対面会議を準備していた参加者のエネルギーとモチベーションは失われていなかった。」とある識者は語った。

このオンライン会議は、より平和かつ公正で、責任のある世界を希求する様々な活動を糾合する出発点になった。一連の目的に向けて「弛みなく努力し続ける」参加者のコミットメントが示されたことが、その証左である。

そうした目的には、軍備競争の停止と核兵器の廃絶を求めた核不拡散条約(NPT)第6条の即時履行が含まれている。同様に重要なのは、核兵器のない世界への重要かつ補強的措置としての核兵器禁止条約(TPNW)の早期発効である。

会議の参加者らはまた、NPT締約国が合意した中東非核・化学・生物兵器地帯の早期確立を求める動きへのコミットメントを強調した。

また、南アジア、北東アジア、欧州を含む世界のすべての地域で紛争と軍備競争を停止する地域的な緊張緩和のプロセス達成に向けた努力を、参加者らはさらに継続していく。

世界的軍縮と兵器産業労働者の正当な転職、紛争を減らし紛争の平和的解決に役立つ緊張緩和政策もまた、参加者らが自身で設定したもう一つの目標である。

参加者らは、軍事予算を世界的に大幅削減し、資金を人間のニーズを満たし環境を守るために転用するよう呼びかけた。また、「持続可能な開発目標(SDGs)を、資源を軍事中心から平和へと再配分する努力の中心に据えることは、軍縮によってのみ実現できる。」と付け加えた。

SDGs logo
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今回の世界大会の共催団体である国際平和ビューロー(IPB)は、軍事費が増加する一方、保健関連予算は新型コロナウィルスのパンデミックに対処するのに不十分なレベルにとどまっていると指摘し、こうしたコミットメントの重要性を強調した。

ストックホルム平和研究所(SIPRI)によれば、2019年の世界の軍事費は計1兆9170億ドルで過去最高額を更新した。2018年からの増加率は3.6%で、世界の人口一人あたり252ドルを負担していることになる。

「こうした軍事費の増加は、一部の者にだけ利益を与え、世界が破滅する可能性を高めるグローバルな軍拡競争が起こっていることを示している。とりわけ欧州・北米・アジア・オセアニアにおいて軍事産業のロビー活動が効果を上げていることを浮き彫りにしている。北大西洋条約機構(NATO)の軍事費だけでも1兆350億ドルにおよび、世界全体の軍事費の54%を占めている。」とIPBは指摘した。

世界大会の参加者らはまた、いくつかの根本的な変革も要求した。国連憲章が明らかにした20世紀のビジョンを実現することもその一つだ。

「われわれは、瞬時に地球を破壊する核兵器と核戦争、気候変動により静かに進む破壊、環境の荒廃、パンデミックの脅威など、存続に関わる難題に直面している。軍事増強は欧州でも世界各地でも劇的に強まっている。」と声明は述べている。

さらに声明は以下のように続いている。広島と長崎への原爆投下と、世界に広がった「二度と繰り返すな」の叫びから75年、我々は、被爆者の警告を決して忘れてはならない。

第二次世界大戦の終結と「ファシズムを、戦争を繰り返すな」の誓いから75年、われわれは、確固としてこの決意を守り続けなければならない。

戦争に終止符を打つために国際連合を創立してから75年、国連憲章と誓約を守らなければならない。

核軍備競争の停止と核軍備撤廃の達成を目的とするNPTの発効から50年、その誓約を果たさなければならない。

数百万の人々が新型コロナウィルスに感染し、何十万の人々が亡くなるなかで、この疫病のパンデミックは各々の国の、そして国際的なシステムの脆弱さ、政策的失敗、深刻な国際協力の欠如を浮き彫りにした。

「だが、危機の中には好機も存在する。このパンデミックはまた、将来の避け難い疫病の蔓延にどう備えるか、また、核兵器や気候変動の脅威をどう逆転させるべきかを描き出している。」

われわれは、強権的政府の増加と極右急進主義やファシズムの脅威の伸長に直面している。

非民主的で独裁的な政治が世界中のますます多くの国で影響を強め、政治的風潮を支配し、少数民族や移民の人々の命を危険に陥れている。もっとも基本的な民主的権利さえ脅かされ、民主主義は深刻な危機のただ中にある。

声明はさらに、「政府、企業、-そして個人も- が、あたかも環境悪化が簡単に是正できるかのように、あるいは別の惑星に移住すれば済むかのように、激しく地球を貪っている現実に直面している。人間が創った気候変動は、生命と生存にとって日々の脅威となっており、その他の環境破壊がわれわれの共存や、人間、その他の動物、植物の未来の形を脅かしている。」と述べている。

Image credit: GreenBiz
Image credit: GreenBiz

「これらの変化から恩恵を得られる者はほとんどおらず、他方で、地球に住む圧倒的多数の人々は影響を受け、苦しめられている。戦争と不正義と地球規模の環境災害によって、何百万人もの難民が生み出されている。」(原文へ

INPS Japan

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戦争犯罪抑止については限られた成果

【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

国際刑事裁判所(ICC)がどの程度戦争犯罪の抑止になっているかについて、具体的な事例を検証しながら今日直面している課題を分析した記事。今後のテストケースとして、明らかな戦争犯罪を犯している当事者を国連安保理で拒否権を持つ大国が支援している事例(シリアのアサド政権をロシアが支援、イエメン政府を米・英が支援)等が挙げられる。(原文へ

INPS Japan

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|視点|中道派のガンツ氏は、いかにして右派のネタニヤフ首相を蘇らせることになってしまったのか(ラムジー・バロウド パレスチナ・クロニクル編集者)

【マウントレイクテラス、ワシントンIDN=ラムジー・バロウド】

イスラエルの「青と白」連合の指導者、ベニー・ガンツ氏によるベンヤミン・ネタニヤフ首相が率いる政府に参加するという決定は、マキャベリ主義的な動きを意図したものだったが、今後何年にも亘って、イスラエル社会の政治的枠組みを不安定化させることになりそうだ。

衝撃的な動きの中で、ガンツ氏は3月、危険な政治的妥協案を結び、これにより、彼は、与党リクードと「青と白」連合の両党を含む挙国一致内閣を組織する序章として、クセネトの議長になることとなった。しかし、この動きは最悪であることが証明された。

Map of Israel
Map of Israel

ガンツ氏がネタニヤフ首相と手を組む意思を表明し、これにより信任されていない首相に救いの手を差し伸べるやいなや、彼が率いてきた「青と白」連合はあっという間に分裂することになった。

「青と白」連合は、2019年4月の総選挙を争うために結成されて以降、足元が揺らいできた。ガンツ氏(イスラエル回復党)やヤイール・ラピド氏(イェシュ・アティッド)、モーシェ・ヤアロン氏(テレム)など、連合の指導者らは、共通のイデオロギー的基盤ではなく、共通の敵ネタニヤフ首相を失脚させたいという、燃えたぎる願望によって主に結束していたようだ。

ネタニヤフ氏は在任期間が最も長い首相で、その期間は縁故主義や汚職の時代と無縁ではない。自身の政治的生き残りを確実にするために、極右政府連立パートナーに対していつでも譲歩できるネタニヤフ氏は、実現可能な政治的ビジョンで国に貢献することはほとんどなかった。

何年にもわたり、ネタニヤフ氏の政敵は首相の行き過ぎた行為に対する対抗勢力にはほとんどなってこなかった。ネタニヤフ首相がイスラエルの右派の有権者の支持獲得に成功した一方、いわゆる左派は、時には、イスラエルの選挙結果や世論調査で誤差の範囲を少し超える程度しか占められないほどにまで弱体化した。

これを物語る例が、イスラエルのチャンネル12が4月に行った世論調査だ。結果によると、調査日時点でイスラエル国民が総選挙で投票したとすると、この国の歴史ある労働党(同国建国時の政党)はクネセトで1議席も獲得しないことになる。

今から考えてみると、ガンツ氏と彼による連合には、自分たちを「中道派」とブランディングする以外の選択肢はなかった。1年前に連合を組んだ際、彼らは不満を抱いているイスラエル人の様々なグループに訴えかけることを目指していた。つまり、政治的行き詰りと、経済格差に幻滅した右派有権者たち、強い野党勢力として復活する上で、伝統的な左派の力には信頼を失ってしまった左翼、無党派層、中道派の有権者などだ。

ガンツ氏と彼の連合の計算は、イスラエルの有権者が1年足らずの間の3度の選挙に登場し、かつては不可能に思えたミッション、つまり、ネタニヤフ首相追放の動きに活気を与えたように、メリットがあることは証明された。

最近の3月の選挙では、「青と白」連合はクネセトで33議席を獲得し、単独で組閣するには足りないものの、クネセトを掌握し、最終的には組閣できる比較的安定した連立を組むには十分な地盤を獲得した。

この数年間で初めて、ネタニヤフ首相の政治キャリアは終わったように思えたし、重大な「汚職の嫌疑」をかけられている首相が、刑務所とは言わないまでも、裁判所に姿を見せる日が来るように思えた。

しかし、ガンツ氏はジレンマに直面し、これは結局、ネタニヤフ氏と挙国一致内閣を組むという一見奇矯な判断へとつながることになった。

リクード党を排除した政権を組むためには、「青と白」連合はクネセトの第3政治勢力、ジョイント・リスト(連帯候補)の元に結集したアラブ諸政党を取り込まなければならなかった。

ジョイント・リストがガンツの不安定な連合(この中には、イスラエル我が家アヴィグドール・リーベルマン氏など、イスラエルで最も悪名高い反アラブ政治家なども含まれていた)に参加することをいとわない姿勢を示したにも関わらず、ガンツ氏はその可能性を避けるために、「青と白」連合の党首としてあらゆる手を使った。

イスラエルにおける人種差別は最悪の状況にあり、アラブ諸政党に対するいかなる政治的譲歩も、多くのイスラエル人から、2018年7月に採択された愛国主義的な新法「ユダヤ人国家法」に明記された「国のユダヤアイデンティティ」に対する裏切りとしてみなされたことだろう。

ガンツ氏は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)で譲歩を強いられたかのように装った形で、ネタニヤフ氏と非常事態政府を組織し、アラブ・ジョイント・リストを除外することに同意した。

Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain
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3月26日、ガンツ氏はクネセトの議長に指名され、突然辞任したユーリ・エデルスタイン前議長に代わるとともに、新政権の構成に関して、ネタニヤフ氏のリクード党と交渉する場を設けた。

ガンツ氏が自身の決断がもとらす副次的影響を予期していたかどうかは重要ではない。なぜなら彼は意識的に、イスラエルのアラブ社会がこの国の意思決定プロセスに参加する道筋をつけたイスラエルのユダヤ人政治家になるよりも、むしろ悪魔と取り引きする選択をしたからである。

3回連続の選挙や、ますます右傾化するこの国の中道派の政治的論調を分断しようとする必死の試みなど、ガンツ氏が取り組んできたことの全ては、大きな音を立てて崩れた。彼の「青と白」連合のパートナー、イェシュ・アティッドやテレムはクネセト準備委員会に対して正式にガンツ氏の派閥から離脱することを申請し、認められた。

もし今イスラエルで選挙が行われれば、力を取り戻したリクード党が40議席を獲得するのと比較して、ガンツ氏の党がわずか19議席しか獲得できないというのは、驚くべきことではない。

最終的に自分に有利に働くパワーバランスを利用して、ネタニヤフ首相はその政治的立場を強固なものにし、裁判官の選任を強く要求し(これにより、将来訴追されても身を守れるようになる)、首相の座に就く資格をはく奪する決定を阻止する権利を要求している。

Knesset Israel 61 years./ By צילום: איציק אדרי, CC BY 2.5

ガンツ氏とネタニヤフ首相が合意に達せなかったことを受けて、組閣作業は、今度はクネセトに移った。21日以内に組閣できなければ、イスラエルは4度目の選挙を行うことになり、与党リクード党とその連合が確実に、圧勝するだろう。

イスラエル政治の「中道派」を復活させた立役者が、最終的にこれを破壊することにもなったのは皮肉なことだ。これにより、ガンツ氏はネタニヤフ氏の政治生命を延命し、結果的にイスラエル右派による権力支配を強化してしまったのだ。(原文へ

INPS Japan

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|新型コロナ|欧州は基幹産業の主導権を取り戻さなければならない

【マルセイユIDN=カミール・ルスティッチ】

新型コロナウィルスのパンデミックが、中国に過度に依存してきた従来のグローバルサプライチェーンの欠陥を露呈し、欧州諸国の間で、戦略物資の独立した生産体制の再構築と、特定の国への依存回避、そしてオフショアリングからニアショアリング(生産拠点をより欧州に近い拠点に移す)へと移行する動きが出ている現状を分析した記事。(原文へ

INPS Japan

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世界が直面している緊急の保健課題

Special Focus on the COVID-19 Pandemic

From the Chief Editor’s Desk

IDN, the flagship of non-profit International Press Syndicate, launched an intensive journalistic coverage focussing on COVID-19 in February 2020. By the end of May 2020, we carried nearly 130 in-depth news features, analyses and viewpoints.

Contributors were from the network of INPS-IDN journalists, other professional journalists and experts from around the world.

They dealt with the impact of devastating pandemic worldwide. A growing number – running into several million – were infected. Several hundred thousand died.

The COVID-19 pandemic has had far-reaching consequences on the spread of the disease itself and efforts to quarantine it. As the SARS-CoV-2 virus has spread around the globe, concerns have shifted from supply-side manufacturing issues to decreased business in the services sector.

The pandemic caused the largest global recession in history, with more than a third of the global population being placed on lockdown. While the monetary impact on the travel and trade industry is yet to be estimated, it is likely to be in the billions and increasing.

As the pandemic spread, global conferences, including those by the United Nations, and have been cancelled or postponed.

In fact, the UN Headquarters in New York and the UN elsewhere, particularly in Vienna and Geneva, have been closed until further notice. Press conferences by the Secretary-General and briefings by his spokesman as well as other senior UN officials have been taking place online.

European leaders, in particular, have been predicting a ‘new normal’ once the COVID-19 subsides. But they have not explained whether a possible new normal would put an end to humanity’s ruthless exploitation of the planet Earth. More than one IDN analysis addresses the vital issue of restoring harmony between human beings and nature in its entirety – and this for the benefit of both. [INPS-IDN – 31 May 2020]

Please visit https://www.indepthnews.net/index.php/sustainability/covid-19 for our full coverage.

Photo: Collage by Katsuhiro Asagiri, INPS-IDN, Multimedia Director.

延期されたNPT再検討会議成功への予期せぬ可能性とは

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ】

NPT加盟国は、2020年NPT再検討会議の議長内定者による忍耐強い調整努力と、多くの国々、とりわけ非同盟諸国(NAM)による慎重な状況判断、さらに国連軍縮局からの支援を得て、再検討会議を延期し「状況が許し次第、2021年4月までに」開催することを決定した。

Sergio duarte
Sergio duarte

新型コロナウィルス感染症の急速な拡大を受けて、延期は不可避であった。この決定により、手続き的な問題、とりわけ会議の日程と開催地をさらに協議する余地が生まれた。一部の加盟国は再検討会議をできるだけ早く開催することを望み、適切な開催地に関する意見も割れていたが、結局は常識が勝った。延期の決定は、不必要な対立を避けることを念頭に再検討会議にいかに最良のアプローチをするかという問題について検討を加える数カ月の猶予を与えることになった。

世界が新型コロナウィルス感染症の破壊的な影響を緩和しようと努力する中、NPTが避けようとしている、核戦争を含もより危険な大惨事について、私たちはじっくり考えざるをえないだろう。核兵器の使用がもたらす影響についてはよく知られており、改めて強調する必要はないだろう。つまり核爆発の影響は国境で留まることがなく、既存のリソースでは人道上の影響に十分に対処できず、人的被害の重大さと規模は、不可逆的な環境破壊と相まって、地球上の生息環境に終わりを告げるものとなるかもしれないのである。

従って、現在のパンデミックによる被害の拡大は、あらゆる人々に影響を及ぼし、結果として共通の解決策を必要とするリスクと問題に対処するために諸国間のより深い理解と協力が不可欠という教訓にすべきだろう。NPT再検討会議によって条約の効果を強め、平和と安全への不可欠の貢献を強めることは、以前にもましてタイムリーかつ緊急の課題となっている。

実質的な側面を見ると、2021年のNPT再検討会議で円滑に望まれる結果をもたらすために、今後数カ月で建設的な話し合いを進めていかねばならない議題がある。昨年の準備委員会は、それ以前の4回の会議と同様に、最終文書を全会一致で採択することなく終わった。

核軍縮・不拡散をめぐる現在の全体状況を見ると、2005年再検討会議の準備段階で支配的であった雰囲気に近いものが感じられる。2004年に開かれた第3回準備委員会では、加盟国間の相互不信と強い敵意を背景にした厳しい意見対立によって、必要な手続き的決定に至ることができなかった。

これにより2005年再検討会議では、会期の大半以上が議題の設定という手続きをめぐる対立に浪費され、意味のある実質的な作業を始めることすらできなかった。しかしこの失敗から、同様の事態が繰り返さることは避けたいという政治的気運が高まり、2010年再検討会議において意欲的な最終文書(行動計画)が採択される大きな要因となった。

その後、核爆発によって引き起こされる「壊滅的な帰結」に対する重大な懸念が、「核兵器の人道的影響に関する会議」が各国や専門家らが集って3回にわたって開催される原動力となった。そしてこれらの会議の結論が、のちの核兵器禁止(核禁)条約の交渉と採択に必要な推進力を与えた。核禁条約のNPTとの関係性やその目標への貢献については、政治的隔たりを超えて理解されねばならない。

Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN
Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN

また、差し迫った実質的な問題は、来るべき2021年再検討会議に向けた準備において、緊急の検討を必要とする。2015年再検討会議が最終文書に合意できず失敗に終わった原因は、中東非大量破壊兵器地帯の創設に関する国際会議の開催を巡る対立であった。中東諸国は、中東情勢の悪化や、主要プレーヤーによる無関心をよそに、この問題を国際的な関心の最前線に留まらせるべく、2019年11月にニューヨークで会合を開いた。

2021年再検討会議が、このデリケートで、しかし極めて重要な問題にどうアプローチするのか、特別な関心が払われねばならない。なぜなら、中東から核兵器を含むすべての大量破壊兵器を撤去し、中東を非大量破壊兵器地帯とするという、いわゆる中東決議が全会一致で採択された1995年NPT再検討・延長会議以来、この問題で何の前進も見られないことが各国を悩ませ、NPTへの信頼性を毀損しているからである。

この5年間、国際的環境は改善してこなかった。それどころか、世界はより予測不能で不安定になり、さらには、自己中心的な態度や政策に傾く危険な兆候を示している。主要な核兵器国、とりわけ最大の核保有国間でのハイレベル協議が再開されることが、2021年再検討会議の成功に必要な信頼を取り戻すうえで肝要になってくる。

新戦略兵器削減条約(新START)が来年の2月に失効する前に(すなわちNPT再検討会議以前に)、同条約の延長の合意が得られれば、既存の核戦力削減に向けた二大核保有国の意思を示すよいシグナルとなるであろう。

しかし、そうした核削減はそれ自体が目的とみなされてはならない。むしろそれは、NPT第6条(締約国による核軍縮交渉義務)の公約と明確に調和したしたものとみなされ、実行に移されねばならない。同じように、他の核兵器国も、抑制的な措置を強化し、地域の対立を回避し、核兵器の完全廃絶という目標を支持・前進させるべく協働しなくてはならない。

事故や計算違いによって引き起こされる核戦争のリスクを下げる建設的な提言が様々な方面からなされている。例えば、NPT上の5つの核兵器国は、「核戦争に勝者はなく、けっして戦われてはならない」とする、ロナルド・レーガン大統領とミハイル・ゴルバチョフ書記長による分別のある声明を2021年再検討会議で再確認することを支持すべきだ。

それに関して、これまでも議論の俎上に上ってきたことは、核兵器先制不使用の約束であり、あるいは、核戦力の戦略的即応態勢を合意によって弱めるということである。これらの措置はとりわけ理性的かつ責任感のある提言であり、真剣な検討を加えるに値する。

NPT内には諸国やグループ間の激しい対立があるが、NPT体制を維持することについては共通の利益との認識がある。つまりNPT体制を維持することで各国は、核エネルギーの平和利用を促進しつつ、新たな国々が核兵器を取得することを予防し、核兵器の廃絶を推進するうえで、引き続き主要な役割を果たすことができるからである。

しかし、NPTは「解決済の話」ではない。NPTは、それが掲げる3つの目標を達成するうえで、最適であると見なされて初めて生き残れるダイナミック構造である。核兵器の水平的な拡散(他国への拡散)を抑えることができたという認識のみでもって、NPTの「ミッションを達成」したという身勝手な主張が罷りとおってはならない。残り2つの目標である、原子力の平和利用や、効果的かつ法的拘束力のある核軍縮措置の進展においても、同様の成果が望まれているのである。

過去の再検討会議では、多くの加盟国が、条約の成果に対する不満をたびたび表明してきた。このパターンが悪化すれば、一部の加盟国が条約第10条1項に認められた権利を行使して条約から離脱することにつながりかねない。これは重大な危機を引き起こす。なんとしても防がねばならない。しかし、それに対する答えは、条約に規定された脱退条件を厳格にすることではなく、NPTが例外なくすべての条項に関して誠実に成果をもたらすとの信頼感を高め、すべての加盟国の利益に資すると証明することである。

1960年代半ばには、核兵器を取得する国の数を抑えようという、NPTの元々の推進者(米ソ両国)の利益が共通していたため、両国は相互不信と敵意をいったんは脇に置き、18カ国軍縮委員会と国連総会を通じた共同の条約起草を取り仕切るために協力したのである。

当初、かなり多くの国々がNPTをすぐに批准することに抵抗を示していたが、次第に、核兵器開発を放棄することが自らの真の利益になるのだという理解が広がっていった。こうした国々は、条約を遵守するために、取り引きのもう片方の条件である核軍縮が実行される限りにおいて、自らの義務を法的拘束力あるものとして受け入れた。しかし、核軍縮という目標が長きにわたって回避され遅らされるにつれて、NPTへの不信感はますます高まってきた。

この5月でNPTが発効してから50周年を迎える。条約発効以来、NPTは、軍備管理分野で最も加盟国の多い条約となり、核不拡散体制の礎石であるとの正当な認識が広がってきた。しかし、現在までのところ、核兵器の存在による脅威を廃絶するという点において、NPTは期待された効果を挙げてきていない。第6条の軍縮義務があるにも関わらず、核兵器国は継続的に核戦力を強化し、新型でより性能のいい破壊兵器を製造してきている。彼らは、必要な限りにおいてこうした核戦力を維持し、適切な場合においてそれを使用するとの決意を繰り返し口にしている。

NPTの非核兵器国が、核軍縮義務が無視されてきたことについて、ますます苛立ちを露わにしていることは無理もない。こうした不満は、2017年に国連で採択され、核兵器の廃絶を最終的に目指す核禁条約の交渉と採択の成功につながっている。この新条約は、核兵器のいかなる使用であっても、それが人間や社会、環境に与える帰結は国際法の下で容認できるものではなく、諸国間の文明的な行動基準に反するという、国連の大多数の国々の確信を表明したものであった。

Jayantha Dhanapala
Jayantha Dhanapala

画期的な1995年のNPT再検討・延長会議の議長であったジャヤンタ・ダナパラ大使は、その著書『多国間外交とNPT:あるインサイダーの回顧』でこう述べている。「究極的には、自己満足を打破する最善の方法は、条約の基本的な正当性あるいは公正さに対する加盟国間の信頼のうちに見て取ることができる。[…]多くの加盟国の中には、NPTの基本的な取引構造は、多くの論者が長年指摘してきたように、結局のところ差別的なものであるとの考えが根強い。ならば、ようやく勝ち取られてきたこの取引構造が劣化してしまわないように、加盟国は何ができるであろうか?」

これこそが、NPTの全ての加盟国が直面している緊急の課題なのである。(原文へ

※著者は、元国連軍縮問題上級代表で、現在はパグウォッシュ会議議長。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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再び非大量破壊兵器地帯への軌道に乗る中東諸国(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表、パグウォッシュ会議議長)

|新型コロナウィルス|市民運動の要求受け、ブラジルでベーシック・インカム実現

【サンパウロIDN=ペドロ・テレス】

僅か3週間でブラジル全土に広がった草の根運動に呼応して議会が可決した法律により、新型コロナウィルスがもたらす経済的影響に対処することを目的としたベーシック・インカムを数千万人のブラジル国民が受け取り始めた。

新型コロナウィルスの感染拡大は、多くの危機と同じく、世界中で、しばしばより苛烈な形で、社会的・経済的不平等を際立たせている。4月13日時点の公式統計で感染者2万727人、死亡者1124人を記録しているブラジルでは(実際の数値はこの12倍に上ると見られる)、最も貧しく社会の主流から取り残された人々が最悪の影響を受けている。自らの健康と生活を守るための富と資源に欠けているからだ。

普遍的なベーシック・インカムに関する数十年に及ぶ議論を反映し、世界でも最も不平等な国ブラジルにおける感染拡大の影響を受けて、同国の160以上の市民団体が、3月に「私たちの望むベーシック・インカム」という運動を立ち上げて、理論を実践に移したのである。

SDGs Goal No. 1
SDGs Goal No. 1

3月20日に立ち上げられた同運動は、すぐさま50万人以上の市民と影響力のある3000人のSNS発信者の支持を得た。また、「ブラジル・ベーシック・インカム・ネットワーク」「黒人人権連合」「経済・社会的責任を求めるエートス研究所」「ノッサス」「社会経済研究所」の主要5団体からの支持も得た。

キャンペーンでは、ブラジルの国会議員に詳細な政策提言がなされ、これを受けて彼らが法案を提出した。法案は3月30日までに、一部修正を受けたのち、上院・下院において全会一致で可決した。その3日後にジャイル・ボルソナーロ大統領が署名した。大統領はそれ以前、最も脆弱な立場にある市民の収入補填に関して、今回の法案よりはるかに限定的な政策を提案していた。

4月9日までに、ブラジルの最低賃金の半分超に相当する600レアルの第一陣の支払いが始まった。最大5900万人の低所得層のブラジル国民が直接に、さらにその2倍の人々が間接的に利益を受けることになるが、全体では国民の半数以上が受益者になる。ベーシック・インカムの支払いは少なくとも3カ月は続くが、成立した法案によれば、延長も可能だ。

100 Brazilian reals/ Wikimedia Commons
100 Brazilian reals/ Wikimedia Commons

「ブラジル・ベーシック・インカム・ネットワーク」のレアンドロ・フェレイラ代表は「明確かつ効果的なベーシック・インカムを訴える私たちのキャンペーンが、議会が可決し現在実行されている決定に強く影響を与えたことは疑いの余地がありません。」と語った。

フェレイラ代表はまた、「ベーシック・インカムは、最もそれを必要とする人々を直接的かつ無条件に支援することで、実行に移されました。当初は現在の危機に対処する政策的オプションとして登場しましたが、その後どうなろうとも、政策として保持されるべきです。」と語った。

Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain
Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain

多くの活動家や専門家、政治家らは今や、緊急措置としてのベーシック・インカムは、新型コロナウィルスの感染拡大が収まったとしても恒久的なものになるものと期待している。また、現在の法律で規定された基準を満たす人にだけ限定されるのではない普遍的な制度になることも期待されている。重要なことは、新法ができたことで、ベーシック・インカムがブラジルにおいてひとつの権利として確立し、いくら政府がそれを望んだとしても、その権利を取り上げることが難しくなったということだ。

数千万人のブラジル国民を貧困から救うこの画期的な成果は、危機がなければ達成が困難あるいはほぼ不可能であったはずの政策変化を市民社会が推進する政治的空間を現在の危機が押し広げたことを示している。不平等やその帰結をめぐる緊急行動の必要性に人々の目が向けられた時、政治家は大胆な行動を求める民衆の呼びかけを無視できなくなる。

ブラジルの新たなベーシック・インカム法は、極右政権の下ですら、不平等と闘う政策を要求する民衆の力をまざまざと見せつけた。またこれは、新型コロナウィルス危機の最中にあって、ベーシック・インカムだけではなく、普遍的な医療政策や、平等をめざすその他の主要な政策を要求することで、社会の基本的な方向性を見出す機会を市民社会が見つけうることを明確に示した事例でもある。今後も不平等との闘いは続いていく。(原文へ

※著者のペドロ・テレス氏は、活動家を政治家として当選させることを目指すブラジルの独自政治運動「活動家集団」の共同創設者であり、運動の協同活動である「国会代理」任務の事務局長をサンパウロで務める。計14万9000票を得て選出された8人の活動家が、同国最大の州議会において共同事務所を構えている。

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【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

新型コロナウィルス感染症の世界的な大流行(パンデミック)がもたらした前向きな結果があるとすれば、生物多様性の保護と、食用野生動物の世界的な売買禁止に関する理解が高まることかもしれない。新型コロナウィルス感染症が、野生動物が食用に売られていた中国・武漢の「ウェット・マーケット」から始まったと考えられていることから、中国政府が野生動物の売買を禁止し、これを執行可能な国際法にすることを目指す国際的なキャンペーンが勢いを増している。

武漢をはじめ、中国やベトナム各地に無数にある「ウェット・マーケット」では、オオカミの子どもやサンショウウオ、ワニ、サソリ、ネズミ、リス、キツネ、ハクビシン、カメなどが生きたまま食用に売られている。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

しかし、国際メディアが使用している「ウェット・マーケット」という言葉には危険が潜んでいる。なぜなら、清潔な衛生管理で知られるシンガポールをはじめアジア全土に点在する実際には野生動物が売られていない市場も、同様の名称で呼ばれているからだ。そもそもウェット・マーケットの語源は、店主が衛生上の理由から毎朝食材を陳列する前に市場の屋台を洗浄したことに由来している。

こうした「ウェット・マーケット」で売られている食品はスーパーよりも価格が安く、時として新鮮であるため、貧困層が日々の買い物のために訪れている。「国際環境開発研究所」(IIED)は最近のブログ投稿で、「ウェット・マーケット」を名指しで批判するよりも、急増している野生生物の取引に目を向けるべきだと指摘した。「畜産された動物よりも野生動物の方がウィルスの宿主になりやすい」とエリック・フェーブル氏とセシリア・タコーリ氏はブログで述べている。

食用を目的とした野生動物の合法・違法取引は、数十億ドル規模の利益を生む産業となっており、生物多様性に対する最大の脅威の一つに数えられる。新型コロナウィルス感染症が拡大する以前から、環境保護活動家やウィルス学者は、生物多様性の破壊と新型ウィルス出現の危険性について警告してきた。なぜなら、「開発」を口実に森林を破壊して、道路や鉄道建設、農場や居住地の拡大が推し進められた結果、人間が野生生物に直接触れることが多くなってきているからだ。

2008年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン生態系・生物多様性学部の研究チームが1960年から2004年の間に発生した335の病気を確定したが、そのうち少なくとも6割が動物由来のものであった。

Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain
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この30年にパンデミックに発展したほぼ全ての感染症は、動物から人間に感染した病原菌を原因とするものであった。1996年のエボラ出血熱、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、2012年の中東呼吸器症候群(MARS)、2013年の鳥インフルエンザはすべて、動物や鳥から人間に感染したウィルスが原因である。

2月2日、中国共産党の最高意思決定機関である、習近平国家主席が率いる中央政治局常務委員会は、野生動物を食用に販売することを中国全土で禁止する声明を発表した。

「我々は市場の管理を強化し、違法な野生生物取引に対する厳格な禁止と取り締まりを行い、公衆衛生上のリスクを元からコントロールしなくてはならない」と声明は述べた。しかし、国際メディアの報道によると、こうした野生動物市場の一部が再開されていることから、中国政府がこうした禁止命令をどこまで徹底させる意思があるのか疑問視する声も上がっている。

他方、野生動物市場を禁止する国際的なキャンペーンが勢いを増している。米国を本拠とし、植物由来の予防的医薬を促進する団体である「責任ある医薬品を求める医師委員会」(医師会員1万2000人)は米国政府と世界保健機関(WHO)に対して、野生動物市場を禁止すべきとの署名運動を開始した。

米国で菜食主義を訴えるニュースサイト「リブカインドリー・メディア」によると、署名にはすでに、イエール大学医学部の心臓医で脂質学が専門のエリック・J・ブラント氏、ハーバード大学医学部のミシェル・L・オドノヒュー教授ら225人が賛同しているという。

請願書の署名賛同者らは、野生動物市場は、欧州や米国にも存在し、中国にだけあるのではないと指摘している。医師らは請願書のなかで、「野生動物市場はコロナウィルスにとっては『赤じゅうたん(=手厚く歓迎する環境』のようなものだ」と指摘したうえで、「たった一つの野生動物市場(=湖北省武漢市の華南海鮮市場)を中国で閉鎖できなかったことが、世界中で無数のビジネスを閉鎖に追い込み、膨大な数の死者と経済的大混乱を引き起こす事態につながった。」と述べている。

『ガーディアン』紙(ロンドン)によると、国連生物多様性条約事務局のエリザベス・マルマ・ムレマ事務局長代理もまた、パンデミックを将来的に防ぐために野生動物の売買を世界的に禁止するよう訴えている。ただし同時に、意図しない帰結ももたらすと警告を発している。

Photo: Downtown Johannesburg is deserted. Credit: Kim Ludbrook/EPA
Photo: Downtown Johannesburg is deserted. Credit: Kim Ludbrook/EPA

ムレマ事務局長代理は、「とりわけアフリカにおいては、低収入の農村地帯などの地域があることを忘れてはなりません。これらの地域では、野生動物の売買が数多くの人々の生活を支えています。従って、これらの地域にとっては、代替策がない限り、野生動物の違法な取引が始まってしまう危険性があるのです。…いかにバランスをとり、いかにして将来的な違法取引の抜け穴を塞ぐかを考える必要があります。」と述べている。

2019年10月、米国の『サイエンス』誌の記事が、生物が多様な熱帯地域において野生動物の取引が拡大しており、そのために最大8775種が絶滅の危機に瀕していると指摘した。記事は、野生動物の売買を止めるために、事後的は対応ではなく、先回りした積極的な措置を求めている。

米国のメディアが中国での野生動物の販売再開を報じる中、リンゼー・グラム米上院議員が中国に対して野生動物の売買禁止を求めている。同議員は4月初め、「世界全体の安全のために、これらのウェット・マーケットを閉鎖するよう中国政府に求める」書簡に賛同するよう他の上院議員らに呼び掛け、駐米中国大使に送付した。

オーストラリアのスコット・モリソン首相は4月3日のラジオ・インタビューで、野生動物を売買する問題の市場を「中国のウェット・マーケット」と呼び、全面的な禁止と世界的な取り締まりを行うよう呼びかけた。モリソン首相の呼びかけは、2カ月にわたったウィルス撲滅のための封鎖措置を経て、中国各地で野生動物の売買が再開されたと豪州メディアが広く報じたことに応じたものであった。

『スピルオーバー:動物の感染と次なるパンデミック』の著者であるデイビッド・クアメン氏は、「食用の野生動物の売買を世界的に食い止めるようとするならば、何よりも人間の行動と生物多様性の破壊というより大きな状況に注目しなくてはなりません。」と語った。

クアメン氏は、最近の『ニューヨーク・タイムズ』紙によるインタビューのなかで、「我々は多くの動植物が生きる場である熱帯雨林やその他の自然を侵略しています。そして、それらの生き物の中に多くの未知のウィルスが潜んでいるのです。」と語っている。

「我々は木を切り倒し、動物を殺したり捕えたりして、市場で売りさばいています。生態系を阻害し、自然の宿主からウィルスをたたき出しているのです。そうなれば、ウィルスは新しい宿主を必要とします。そしてしばしば、人間が新たな宿主になってしまうのです。」とクアメン氏は指摘した。(原文へ

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【ニューヨークIDN=J.ナストラニス】

新型コロナウイルス感染症のパンデミックから派生する、開発途上国に押し寄せかねない「巨大な貧困の波(=約5億人が貧困に陥る)」を警告するとともに、開発途上国における社会的セーフティネットを早急かつ劇的に拡大する必要性を訴えた国連最新報告書に焦点を当てた記事。今後国際社会は、気候変動と紛争予防に主眼を置きつつ、1990年以降初めて貧困が世界規模で増大する局面に対処していかなければならない。(原文へ

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【ベルリンIDN=ジュッタ・ウォルフ】

1910年にノーベル平和賞を受賞した世界最古の平和団体ある「国際平和ビューロー」(IPB)が、医療や社会ニーズに対応するために軍事費を「大幅に削減」するよう訴えている。3月27日に署名運動が開始された請願書は、今年9月15日の国連総会初日に総会に提出される予定だ。

IPBは、請願書とベルリン本部から出された声明のなかで、「国際社会は毎年1.8兆ドルを軍事費に支出しているほか、今後20年間で新型核兵器に1兆ドルを費やす予定だ。」と述べている。

世界で行われている軍事演習だけでも毎年10億ドル以上が使われており、世界の主要経済大国では、武器の生産、輸出ともに増加傾向にある。これらの国々だけで世界の軍事支出の82%、武器輸出のほぼ全て、核兵器保有の98%を占めている。

Image source: SIPRI

これらの国々とは「G20」のことで、IPBは、「世界の軍拡競争における主要プレイヤーの利益を糾合する共通基盤」と呼んでいる。G20はまた、軍事研究にも数十億ドルにのぼる多額の費用を使っているが、IPBは、これらを医療や人間のニーズ、気候変動と闘うための研究に投じることが望ましいとしている。

世界の軍事支出は、冷戦終結時と比較して5割も増加しているうえに、北大西洋条約機構(NATO)は加盟国に対して、さらなる拠出金の増額を求めている。こうしたなかで、「G20はこうした事実を隠蔽することなどできない。」とIPBは指摘している。

G20首脳(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ共和国、トルコ、英国、米国、欧州連合)は、議長国サウジアラビア主催でオンラインの首脳会合を3月26日に開き、世界的に流行している新型コロナウィルス対策について協議した。

IPBは、G20声明が「このパンデミックに取り組むには、グローバルな行動や連帯、国際協力がこれまでになく必要であり、国際社会がいかに相互に結びつきかつ脆弱であるかを改めて痛感させるできごとであったこと」を明記しながら、にもかかわらず、こうした考え方を世界平和の実現のためには適用できなかった点に注目している。

「国際社会にとって、軍備増強は誤った道である。なぜなら軍拡は緊張を煽り、戦争や紛争を引き起こす可能性を高めるほか、既に強まっている核兵器を巡る緊張をさらに悪化させるからだ。にもかかわらず、核兵器の拡張と核軍縮を管理するための政策的枠組みは、無視されるか、さらに弱体化させられている。」と声明は述べている。

IPBはこの文脈で、「原子科学者会報」が今年2月に発表した「世界終末時計」について言及している。世界終末時計は、この70年の歴史で「真夜中(=地球と人類の滅亡)」に最も近い、「真夜中まで100秒」に設定された。新型コロナウィルスの拡大で時計の針はさらに真夜中に近づけられることになろう。

Bulletin of the Atomic Scientists

IPBは世界の指導者に対して、軍縮と平和を政策決定の中心に据え、核兵器禁止条約が目指している核兵器の禁止を含めた、軍縮に向けた新たなアジェンダを策定するよう呼びかけている。

「そうしなければ、将来における感染症の世界的大流行(パンデミック)と闘い、貧困や飢餓を根絶し、教育や医療を全ての人々に提供し、持続可能な開発目標(SDGs)を2030年までに達成するための闘いにおいて、自らの手を縛ってしまうことになる。」とIPBは訴えている。

経済を大きく改革し、利益ではなく人間に最大の価値が置かれ、とりわけ気候変動の危機という生態学上の難題への対処がなされグローバルな社会正義が追求されるような経済を実現する上で、軍縮はカギを握っている。

「軍縮や、世界的な社会契約ともいえるSDGsの履行、新しいグローバルなグリーン・ピース・ディールによって、新型コロナウィルスの感染拡大という難題に対処できるようになる。」とIPBは論じている。歴史は、こうした危機にあっては民主主義が何よりも重んじられねばならず、権威主義化しつつある諸国に対して、民主主義が擁護されねばならないことを示している。

IPBは「平和の文化」を呼びかけている。これは、世界各地の民衆に対する支援を確実にするためのグローバルな戦略、グローバルな社会契約、グローバルな協力の必要性を強調する平和的な道である。

IPBは「医療ストレス」の問題について、医療インフラへの投資を怠ってきた結果「医療システムはその限界に達し、英雄的な活動をしている前線の医療従事者は大きなプレッシャーの下に置かれている」と指摘している。世界保健機関(WHO)は、世界の医療従事者が2030年までに1800万人不足することになると警告している。

将来への教訓は、以下のように明らかだ。

・医療は、老若男女、世界のあらゆる地域に暮らす全ての人々にとっての人権である。

・医療と看護は、民営化を通じた利益追求のために予算削減や優先順位を下げる対象にしてはならない。

・全ての医療従事者にとっての、まともな労働環境と、教育・研修への継続的な投資の必要性。

IPBは「時が過ぎるにつれて、危機の全容が明らかになってきている。」と指摘したうえで、今こそグローバルな社会契約が必要な時だと主張している。国際労働機関(ILO)は2500万人の雇用が失われる可能性があるとみている。これは、2008年の金融危機を上回る規模だ。

さらに、「ワーキングプア」が相当程度増加することが見込まれる。さらに3500万人が影響を受けかねない。労働者の収入損失は3.4兆ドル規模に及ぶ可能性がある。

これこそが、雇用や収入、公共サービス、市民の福祉を守る経済措置と資源のために、世界や地域・国家レベルでの労働運動の取り組みをIPBが支持する理由である。

「人々の雇用を守るためには産業界の努力を要する。また、産業界が政府から得られると約束された支援に関しては、雇用や所得の保障に関する社会契約を彼らが遵守することが前提となるべきだ。」と国際平和ビューローは述べている。(原文へ) 

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