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|新型コロナウィルス|国連事務総長のグローバル停戦の呼びかけが支持を集める

【ニューヨークIDN=ラドワン・ジャキーム】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長が3月23日、「世界のあらゆる地域における即時停戦」を高らかに呼びかけた。いまや人類全体を脅かしている共通の敵である新型コロナウィルスとの闘いという大きな目的のために武器を置くことを交戦当事者に求めたのである。

停戦によって、ウィルス感染拡大の危機にあって最も脆弱な立場に置かれた人々に人道支援を届かせることができる。新型コロナウィルスは2019年12月に中国・武漢で発生し、現在(4月4日現在)、207カ国以上での感染が報告されている。世界保健機関(WHO)によると、これまでのところ全世界で97万近くの症例、5万人以上の死亡が報告されている。

グテーレス事務総長は、国連のメリッサ・フレミング広報局長が読み上げた記者からの質問に答えて、特使が交戦当事者と協議し、今回の停戦呼びかけを実行に移していくであろうと語った。

政治的解決研究プログラム」(PSRP)のクリスティーン・ベル代表は、3月24日のブログ記事で、「新型コロナウィルス危機は差し迫っているという意味において特異なもの」と述べ、事務総長の停戦呼びかけを歓迎した。

ベル代表はさらに、「もし紛争地域で患者が多く出たら、この呼びかけにも耳を傾けてもらえるのかもしれません。しかし、停戦には合意と外交が必要です。新型コロナウィルスと紛争の問題に同時に対処する創造的な発想が、世界で最も大きな困難を抱える地域において、疾病と戦争による不必要な死を減らす劇的な役割を果たしうる。」と語った。

グテーレス国連事務総長はさらに、交戦当事者に対して、戦闘行為から離れ、不信と敵意を捨て、銃声を消し、砲撃を停止し、空襲をやめるよう訴えた。

これによって、「救命援助を届けるための道」を確保でき、「外交に貴重なチャンス」を与えることができ、新型コロナウィルスに対して最も脆弱な人々が暮らす場所に希望を届け、世界を荒らしている「戦争という病に終止符を打ち、私たちの世界を荒廃させている疾病と闘う」ことができるようになるであろう。

グテーレス事務総長はまた、「新型コロナウィルス対策で歩調を合わせられるよう、敵対する当事者間でゆっくりとでき上がりつつある連合や対話から、着想を得ようではありませんか。」と語った。

今こそあらゆる場所で紛争を停止することで、「女性と子ども、障害をもつ人々、社会から隔絶された人々、避難民など、最も脆弱な立場に置かれた人々」が、トンネルの先の光を見出すことになるだろう。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

最も脆弱な立場に置かれた人々はまた、新型コロナウィルスによる被害を受けるリスクが最も高い人々でもある。紛争地では、既に数が少なくなってきている医療関係者が、しばしば攻撃の対象になっている。難民やその他、暴力的紛争で故郷を追われた人々は、二重の意味で弱い立場に置かれている。グテーレス事務総長は、実際、「ウィルスの猛威は、戦争の愚かさを如実に示している。」と強調したうえで、「紛争を停止し、私たちの命を懸けた真の闘いに力を結集する時が来ています。」と語った。

事務総長のアピールの要点に加えて、PSRPのベル代表は、「私たちは、武力紛争と危機の関係は複雑であり、予測不可能な結果につながることを経験上知っています。しかし、この予測不可能性そのものが予測可能であれば(いわゆる「既知の未知」)、『スマートな』対応が可能なのではないか。PSRPで進行中の研究では、次の11の根本的な認識が、紛争地域における新型コロナウィルスの世界的大流行(パンデミック)に対する最も効果的な対処を考えるうえでカギを握ることを示唆しています。」と語った。

1.技術的な解決の実行は常に政治的なものであり、どのような対処法であってもその効果を予測するには「紛争のレンズ」を通して見なくてはならない。

2.中間レベルの平和構築者には、国と地域社会をつなぎ信頼を構築する独自の能力がある。

3.問題含みの地域では、国をバイパスする柔軟な支援が必要なこともある。

4.危機管理には「平和の配当」がある。

5.紛争当事者は、「危機対応」の名の下で軍事的・政治的利益を得ようとする傾向がある。

6.動員し、政治的・軍事的計算を行う国と非国家武装主体の能力には違いがある。

7.新型コロナウィルスは、現在の和平プロセスに対して、物資確保上の独自の問題をもたらすことになるかもしれない。

8.外交と平和維持が「不在」になるかもしれない。

9.緊急立法は、紛争の危険を伴った対応策である。

10.選挙は特に脅威に立たされており、特定の紛争上の帰結を生む。

11.国際的な法的信頼の欠如。

フィリピン共産党は、グテーレス事務総長の呼びかけを支持する合図として、フィリピン新人民軍に対して、3月26日から4月15日にかけて武力攻撃をやめ防衛態勢に入るよう命じたと発表した。

この反乱軍は、今回の停戦は「新型コロナウィルスのパンデミックと闘うという共通の目的のために交戦当事者に停戦を呼びかけたグテーレス事務総長の訴えに直接応えるものだ。」と述べた。

1985年にノーベル平和賞を受賞した「核戦争防止国際医師会議」のドイツ支部もまた、グテーレス事務総長の世界的な停戦呼びかけを支持した。

IPPNWのスザンヌ・グラベンホースト議長は3月25日、「新型コロナウィルスは、世界的な相互依存と軍事紛争の無責任さを露わにしました。例えば、イエメンやリビア、シリア、アフガニスタンで長く続く戦争・紛争は医療システムを大幅に弱体化させ、数多くの人々を現在のパンデミックに対して脆弱な状態に晒しています。」と語った。欧米諸国が科した経済制裁の悪影響もあるという。そこでIPPNWは、経済制裁の解除を改めて呼びかけている。

中東諸国に加えて、多くのアフリカ諸国でも新型コロナウィルスの感染者数が増えている。IPPNWは、医療システムが脆弱な国々に対する財政支援と国際的連帯を呼びかけている。

The flag of the North Atlantic Treaty Organization (NATO).
The flag of the North Atlantic Treaty Organization (NATO).

WHOの推定によると、2030年までに低所得・中所得国を中心に約1800万人の医療関係者が不足するという。これまでに公約された援助を、現在のパンデミックを理由に取り消すわけにはいかない。

IPPNWは、「武器の転換」という意味合いにおいて、軍事資源を医療や平和的生活といった民生部門に振り向けることを要求している。「新型コロナウィルス問題が、危機で生じた混乱に乗じて、軍事化を進める口実に使われてはなりません。」

IPPNWは、イェンス・ストルテンベルクNATO事務総長が、コロナウィルス感染拡大にも関わらず、「2%目標」に固執していることを厳しく批判した(訳注:NATO諸国は防衛費支出を対GDP比で2%とすることを公約している)。「このお金は緊急に医療部門に投じられるべきです。なぜなら近年、ドイツにおいても、利益志向のために医療関連予算が削減され疲弊してきたのだから。」とグラベンホースト議長は語った。(原文へ

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【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

パンデミックが続く中、西側メディアに広がる「中国恐怖症」に焦点をあてた、カリンガ・セネヴィラトネINPS東南アジア総局長の記事。オーストラリアで放送された60分の報道番組は、早期における実際のWHOと中国当局による(新型コロナウィルス)対応内容を無視した陰謀説をもとにしたもので、大量破壊兵器の保有を巡って西側諸国が軍事侵攻にまで踏み込んだ2003年のイラク疑惑(実際には大量破壊兵器を保有していなかったことが明らかになっている)を彷彿とさせるものだった。事実と冷静さを失った恐怖と不信をかきたてる報道がメディアの間で「(別の意味の)感染症」のように広がりつつある問題に警鐘を鳴らしている。(原文へ

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新型コロナウィルス拡大の中で強行された北朝鮮のミサイル実験について憶測広がる

【ニューヨークIDN=サントー・D・バネルジー】

国際社会が世界的な新型コロナウィルスの感染拡大との闘いで手いっぱいになる中、北朝鮮による今年初のミサイル発射への対応が制約を受けている。国連安全保障理事会は3月5日に非公開会合を持ったが、決議案に合意できなかった。

しかし、英国・ドイツ・フランス・エストニア・ベルギーが「共同声明」を出し、「北朝鮮が3月1日に実施した弾道ミサイル実験を深く憂慮する」と述べた。

Photo credit: journal-neo.org
Photo credit: journal-neo.org

英国とフランスは安保理常任理事国の2カ国であり、ドイツ・エストニア・ベルギーは非常任理事国である。

共同声明は、「北朝鮮に関する専門家パネルは、同国が核計画及び弾頭ミサイル計画を継続してきた事実に着目してきた。」と述べ、北朝鮮が2019年5月以来、弾道ミサイル実験を14回行ってきたと指摘した。

この2つの常任理事国と3つの非常任理事国は「地域の安全や安定、国際の安全と平和を損ない、全会一致で採択された国連安保理決議の明白な違反となる、こうした挑発的な行為」を非難した。

共同声明は、「引き続き北朝鮮に対して、非核化に向けた米国との協議に誠実に臨み、完全、検証可能かつ不可逆な形で全ての大量破壊兵器と弾道ミサイル計画を廃棄するための具体的な措置を取り、さらなる挑発を控えることを強く求めていく」ことを確認した。

さらに共同声明は「朝鮮半島に安全と安定を達成するにはこの方法しかない。挑発し続ければ、交渉の成功に向けた見通しは損なわれる危険性がある。」と続けた。

安保理が決議案に合意できなかったという背景の下(合意できなかったのは米国・ロシア・中国から異論があったためと報じられている)、先の5カ国は「安全保障理事会がこれまでの決議を完全履行し、引き続き(対北朝鮮)制裁の実効力を維持することが重要だ。」と述べた。

ロシアと中国は、安保理制裁により北朝鮮の民間人に被害が及んでいることを懸念し、制裁の一部を解除することで米朝間非核化交渉の行き詰まりを打開できる可能性があるとの期待を表明してきた。

中ロ両国は2019年12月、北朝鮮に数億ドル規模の収入を与える産業部門に対する制裁を解除するための決議案を提出した。これらの制裁は、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発への資金を断つために2016年から17年にかけて導入されたものだ。北朝鮮は、ミサイル開発・核開発に関して2006年以来、国連の制裁下にあり、安保理はこの間一致して、同国への制裁を強化してきた。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

国連の張軍国連大使は3月2日に記者団に対して、「決議案の文面はまだ交渉の俎上に上ったままであり、様々な見解を受け入れる用意がある。朝鮮半島の状況をさらに改善するためのより良い環境を作り出すうえで、この決議は重要なステップであると私たちは認識している。」と語った。

英国・ドイツ・フランス・エストニア・ベルギーの共同声明は国際社会に対して「安保理が採択した決議に従って履行状況を報告することも含めて、これらの制裁を厳格に執行する義務に従うよう」求めた。

3月21日に北朝鮮が行った2回の弾道ミサイル実験の報に接して、ドイツ外務省の報道官は、この2発の短距離弾道ミサイル実験を「痛烈に」非難した。「今月行われた2回の実験によって、北朝鮮は国連安保理による関連決議の順守義務に再び違反した。これらの実験実施によって、北朝鮮は無責任にも国際の安全を危機に陥れている。」

ドイツ政府は北朝鮮に対して、国際法に基づく責務に従い、とりわけ、さらなる弾道ミサイル実験を控え、北朝鮮が離脱した対米交渉を再開するよう呼びかけている米国の提案を受け入れるよう求めた。

識者らは、2019年2月27・28両日にベトナムで行われた2度目の米朝首脳会談が失敗に終わって以来、北朝鮮は弾道ミサイル活動を再開し、その能力を拡大するための実験を行っているとしている。金委員長が今年の新年演説の冒頭で、「ヤクザのような」米国の制裁と圧力に対して北朝鮮の核抑止力を強化すると述べたことを、識者らは指摘している。

クリストファー・フォード米国務次官補(国際安全保障・不拡散担当)は3月19日の記者会見で、トランプ政権は、シンガポールでの第1回目の米朝首脳会談でなされた約束を「できるだけ早く」履行することを目的とした北朝鮮との作業レベルの協議を開始する「用意も意思もある」と繰り返した。

金委員長は2018年のシンガポールでの首脳会談で、朝鮮半島の完全なる非核化に向けた作業を行うとのあいまいな約束をし、両国首脳は恒久的な和平の構築に向けた関係改善に合意した。しかし、その後2回のサミットと下位レベルの会合では、これらの合意の具体化に向けた進展が見られなかった。

Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain
Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain

国際基督教大学のスティーブン・ナギ上級准教授によれば、北朝鮮による3月のミサイル実験は、新型コロナウィルスの被害が拡大するなか、一部の制裁解除と援助を勝ち取るためにトランプ政権の目を再び北朝鮮問題に向けさせることを狙ったものであるという。

「金外交の失敗を念頭に、世界の目は新型コロナウィルス問題に注がれるようになり、トランプ政権は北朝鮮問題を議論すらしなくなってきている。そこで北朝鮮のミサイル実験は米国に対して、北朝鮮は依然として対応が必要な破壊的な勢力であるとのシグナルを送ろうとした。」というナギ准教授の見解を共同通信は伝えている。

実際、他の外交問題の専門家らも、2期目を狙うトランプ大統領が、11月に行われる大統領選挙に向けて北朝鮮から恥をかかされたくないと思っていると金委員長が考えているはずであり、引き続きミサイル実験が行われることになるだろうと考えている。

しかし、ある外交筋は、新型コロナウィルスの拡大は既に北朝鮮経済に大打撃を与えており、米国に対する挑発を拡大することに疑問を呈している。(原文へ

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教育に関する国連会議が「戦争はもういらない」と訴える

【ニューヨークIDN=ナリン・B・スタスシス】

国連は「戦争の惨害から将来の世代を救う」決意とともに創設された。国連が今年75周年を迎える中、「国連についての教育に関する委員会」(CTAUN)が、韓国国連代表部との共催で「戦争はもういらない」という会議を2月末に開催した。

会場となった国連信託統治理事会会議場には、収容能力いっぱいの673人が集まった。そのほとんどが高校生から大学院生に到る若い学生たちや、現役・退職教員、その他、この問題に関心を持つ人々であった。

会議では、ダボス会議式の討論、授賞式、ショートフィルムなどがあった。そのすべてが「戦争はもういらない」というテーマに関連したものであった。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

韓国の趙兌烈国連大使は、1950年代に戦争の惨禍に巻き込まれた朝鮮半島の歴史について語った。この戦争で生じた家族離散の問題は今日まで朝鮮半島の人々に深い爪痕を残している。

趙大使は、大韓民国の存在自体が「もう戦争はいらない」というメッセージへの生きた証人であり、その悲しい歴史は、韓国が平和の最も強力な擁護者でありつづけている理由である、と指摘した。

ニュースキャスターのキャロル・ジェンキンス氏が司会を務め、グロリア・スタイネム氏とノーベル平和賞受賞者のレイマ・ボウィ氏による力強い対談がそれに続いた。平和を維持し、戦争を終わらせ、女性として平和のあらゆる側面に参加するうえで、女性がいかに貢献しうるかが議論され、対談は盛り上がった。

スタイネム氏は、「宇宙船地球号」においていかにして史上初めて女性の数が男性よりも少なくなったかについて説明した。彼女によれば、これは、男性支配と、場合によっては女性への暴力を奨励する社会によるものだという。

スタイネム氏は、「自分が話すのと同じぐらい人の話に耳を傾け、タテ社会ではなくヨコ社会を目指し、事実を尊重することで、『同じであること』よりも『異なっていること』から学ぶことができます。」「平和とは木のようなものです。木は上からではなく下から育ちます。ですから国連を敬い、尊重し、圧力をかけなさい。しかし、国連が何かしてくれるのを待っていてはダメです。行動あるのみです。」と語った。

レイマ・ボウィ氏は参加者らに、「『ノー・モア・ウォー』の本質は、国連の会議場で実現できるようなものではありません。私たちは、自身の行動や、自身のやり方でのみ、次世代を導くことができるのです。」と語りかけた。

創設者のバーバラ・ウォーカー氏を記念する「CTAUN世界市民賞」の今年の受賞者は、この日の対談で何度も名前が挙がっていたコーラ・ワイス氏であった。

「ワイス氏は生粋のリーダーです。」とジェンキンス氏は語った。彼女もスタイネム氏も、ワイス氏こそが安保理決議1325の起草者であると口を揃える。今年でノーベル平和賞に5度ノミネートされたワイス氏は、生涯に亘る平和と教育への貢献から、真の世界市民として、この賞を授与された。

「平和教育と変容を促す教育」の対話は、ユン・ユンヒ氏の発表で始まった。IVECAの創設者・代表であるユン氏は「変容を促す教育」について語った。これは、問題を解決するためには共感と同情、知識、スキルが必要という理解や感覚をもってグローバル社会に生きる意識を持つよう人々の考え方を涵養する教育である。

「平和教育を目指すグローバルキャンペーン」のコーディネーターであるトニー・ジェンキンス氏は、すべての教育を変革して、「暴力の文化」の問題に対処する必要性を語った。

対話のモデレーターで「国連アカデミック・インパクト」の責任者を務めるラム・ダモダラン氏は、会議資料に印刷された、「戦争は二度とごめんだ」と題されるケーテ・コルウィッツ作の版画(1924年)のコピーに言及した。

ダモダラン氏は、「国連が、愛する人々を保護する信託を受けているというのに、国連の193の加盟国が、いったいどうやったら、娘や息子たちを戦争に送り込むことなどできようか。」と語った。

コロンビア大学の学生マーク・ウッド氏が司会を務めた「新技術」に関する対話には、軍備管理協会のマイケル・クレア上級客員研究員、「協調的安全保障グローバルセンター」のエレノア・パウエルズ上級研究員、ジャーナリストとして受賞歴があり、メディア・新技術に関する専門家であるアダオラ・ウドジ氏が参加した。

この対話では、新技術が開発されるスピードの速さが強調された。専門家らは、極超音速兵器やサイバー戦争、宇宙戦争、人工知能(AI)によっていかに戦争に変化が訪れているかを議論した。

Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca

クレア氏は、「将官や政策決定者たちが、道徳や倫理をわきまえずに新技術を積極的に兵器に応用して戦争の道具とし、影響力を増そうとしている」恐れがあると議論した。

こうした影響により、新技術が、あらかじめ埋め込まれたアルゴリズムを用いて、機械自体が戦場の状況と軍事的対応を決定するようになりかねない。この倫理的ジレンマは、人間ではなく機械が、プログラマーの偏見を反映した戦争の意思決定を行っていいのかという疑問を呈することになる。

「女性の平和と安全」と題する対話では、女性問題だけを取り上げて、女性の戦争・紛争体験が男性のそれといかに違うかについて議論された。

女性と平和、安全に関する決議が10本もある事実は、認識の変化を表している。ディナ・レイクハル氏、マリッカ・イエール氏、ヒーラ・ユン氏によるGNWPの「平和とリーダーシップを求める若い女性たち」は、これらの決議に新風を吹き込んでいる草の根団体や市民社会の力を示している。

平和教育の不可分の必要と重要性は、「ノートルダム・クロック研究所」のジョージ・ロペス名誉教授(平和学)によっても確認された。

軍縮に関する議論は、「通常兵器と核兵器で溢れた世界」に関するロペス氏の話から始まった。

中満泉国連事務次長(軍縮問題上級代表)は、アントニオ・グテーレス事務総長の軍縮に関するメッセージに言及し、「国連事務総長として、軍縮に関連する問題を総合して包括的なアジェンダをまとめて公表したのは、グテーレス氏が初めてです。」と指摘した。

中満事務次長は、連携と協力を強化するパートナーシップの必要性と、若者の重要性を強調し、グテーレス事務総長が「若者は変革をもたらす究極の力だ」と述べていることを紹介した。

Mayors for Peace
Mayors for Peace

平和首長会議」のランディ・ライデル専門委員は、核兵器の使用がもたらす影響は、時速400マイルの爆風、太陽の表面と同じぐらいの温度、放射線がもたらす後遺症、世代を超えた遺伝子の変化、飢饉を引き起こす気候変動など、きわめて注目に値するものだと語った。

「ニューヨーク市青年詩人賞」を受賞したキャムリン・ブルーノ氏の目の覚めるようなパフォーマンスが、この対話の最後を飾った。

「法を通じた世界平和」対話の前に、ニュルンベルク裁判で首席検察官を務めたベンジャミン・フェレンチ氏による、心に突き刺さるようなビデオメッセージが流された。ジュッタ・ベルトラム=ノスナゲル弁護士は、フェレンチ首席検察官のリーダーシップによって法が戦争に取って代わったとして感謝の意を述べた。旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷に法廷弁護士として参画したジェイムズ・T・ラニー氏は、軍備縮小や強制的国際紛争解決、様々な執行メカニズムの必要性について語った。

リヒテンシュタイン公国のクリスチャン・ウェナヴェセル大使は、侵略犯罪に関する歴史を短く紹介し、1945年に集い、国連憲章を作った人々が念頭に置いていたのは、将来の世代を戦争の惨害から救うことであったと指摘した。

1945年の国連憲章は、本質的には、他国に対する違法な武力の行使を定義している。これには2つの例外がある。一つは攻撃された場合の自衛であり、もう一つは、特別の場合において、国連安保理が加盟国による武力行使を集団的に授権する場合である。

最後にワイス氏が登壇し、会議を共催した韓国代表部への謝辞を述べたあと、「人類は(基本的に)奴隷制を廃止しました。人類は植民地主義を廃止しました。人類はアパルトヘイトを廃止しました。人類は女性参政権の禁止を廃止しました。ならば、なぜ戦争は廃止できないのか。」と問いかけた。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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停戦によって、ウィルス感染拡大の危機にあって最も脆弱な立場に置かれた人々に人道支援を届かせることができる。新型コロナウィルスは2019年12月に中国・武漢で発生し、現在(4月4日現在)、207カ国以上での感染が報告されている。世界保健機関(WHO)によると、これまでのところ全世界で97万近くの症例、5万人以上の死亡が報告されている。

グテーレス事務総長は、国連のメリッサ・フレミング広報局長が読み上げた記者からの質問に答えて、特使が交戦当事者と協議し、今回の停戦呼びかけを実行に移していくであろうと語った。

Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain
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政治的解決研究プログラム」(PSRP)のクリスティーン・ベル代表は、3月24日のブログ記事で、「新型コロナウィルス危機は差し迫っているという意味において特異なもの」と述べ、事務総長の停戦呼びかけを歓迎した。

ベル代表はさらに、「もし紛争地域で患者が多く出たら、この呼びかけにも耳を傾けてもらえるのかもしれません。しかし、停戦には合意と外交が必要です。新型コロナウィルスと紛争の問題に同時に対処する創造的な発想が、世界で最も大きな困難を抱える地域において、疾病と戦争による不必要な死を減らす劇的な役割を果たしうる。」と語った。

グテーレス国連事務総長はさらに、交戦当事者に対して、戦闘行為から離れ、不信と敵意を捨て、銃声を消し、砲撃を停止し、空襲をやめるよう訴えた。

これによって、「救命援助を届けるための道」を確保でき、「外交に貴重なチャンス」を与えることができ、新型コロナウィルスに対して最も脆弱な人々が暮らす場所に希望を届け、世界を荒らしている「戦争という病に終止符を打ち、私たちの世界を荒廃させている疾病と闘う」ことができるようになるであろう。

グテーレス事務総長はまた、「新型コロナウィルス対策で歩調を合わせられるよう、敵対する当事者間でゆっくりとでき上がりつつある連合や対話から、着想を得ようではありませんか。」と語った。

今こそあらゆる場所で紛争を停止することで、「女性と子ども、障害をもつ人々、社会から隔絶された人々、避難民など、最も脆弱な立場に置かれた人々」が、トンネルの先の光を見出すことになるだろう。

最も脆弱な立場に置かれた人々はまた、新型コロナウィルスによる被害を受けるリスクが最も高い人々でもある。紛争地では、既に数が少なくなってきている医療関係者が、しばしば攻撃の対象になっている。難民やその他、暴力的紛争で故郷を追われた人々は、二重の意味で弱い立場に置かれている。グテーレス事務総長は、実際、「ウィルスの猛威は、戦争の愚かさを如実に示している。」と強調したうえで、「紛争を停止し、私たちの命を懸けた真の闘いに力を結集する時が来ています。」と語った。

事務総長のアピールの要点に加えて、PSRPのベル代表は、「私たちは、武力紛争と危機の関係は複雑であり、予測不可能な結果につながることを経験上知っています。しかし、この予測不可能性そのものが予測可能であれば(いわゆる「既知の未知」)、『スマートな』対応が可能なのではないか。PSRPで進行中の研究では、次の11の根本的な認識が、紛争地域における新型コロナウィルスの世界的大流行(パンデミック)に対する最も効果的な対処を考えるうえでカギを握ることを示唆しています。」と語った。

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7.新型コロナウィルスは、現在の和平プロセスに対して、物資確保上の独自の問題をもたらすことになるかもしれない。

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この反乱軍は、今回の停戦は「新型コロナウィルスのパンデミックと闘うという共通の目的のために交戦当事者に停戦を呼びかけたグテーレス事務総長の訴えに直接応えるものだ。」と述べた。

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中東諸国に加えて、多くのアフリカ諸国でも新型コロナウィルスの感染者数が増えている。IPPNWは、医療システムが脆弱な国々に対する財政支援と国際的連帯を呼びかけている。

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Flag of NATO

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IPPNWは、イェンス・ストルテンベルクNATO事務総長が、コロナウィルス感染拡大にも関わらず、「2%目標」に固執していることを厳しく批判した(訳注:NATO諸国は防衛費支出を対GDP比で2%とすることを公約している)。「このお金は緊急に医療部門に投じられるべきです。なぜなら近年、ドイツにおいても、利益志向のために医療関連予算が削減され疲弊してきたのだから。」とグラベンホースト議長は語った。(原文へ

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トランプ政権のイラン核合意からの離脱が裏目に出る

【ウィーンIDN=ラインハルト・ヤコブソン】

国連の核監視機関である国際原子力機関(IAEA)が3月3日に発表したイランに関する四半期報告によれば、前回の報告よりも相当程度に濃縮ウランの量が増している。2019年11月の備蓄量372.3kgから、この2月には1020.9kgまで増えたと『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』誌が報じている。

648.6kgの増加は、2015年7月14日にイランと「P5+1」(中・仏・独・ロ・英・米)が署名した包括的共同行動計画(JCPOA)が設定した備蓄量制限である300kgに大きく違反するものである。この核合意は、2015年7月20日に採択された国連安保理決議2231によって追認されている。

「濃縮レベルは4.5%を超えていないなど、イランの核関連活動のその他の指標には大きな変化がない。JCPOAは濃縮レベルを3.67%に制限している」と『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』は書いている。

Map of Iran
Map of Iran

JCPOAには、イランの核計画に関する合意済の制限について、長期的計画が盛り込まれている。また、貿易や技術、金融、エネルギー分野へのアクセスに関する措置など、イランの核計画に関連したすべての国連安保理の制裁や、多国間制裁、一国による制裁の包括的解除をもたらすものであった。

ニューヨーク・タイムズ』紙は、「イランには核爆弾製造に十分な物質がある。しかし同時に、これまでのところ、イランの最近の行動は、核兵器製造に走るというよりも、トランプ政権や欧州に対して圧力をかける計算づくのものであるようだ。」と報じている。

さらに同紙は、「米国が2015年の核協定を放棄してから初めて、イランは核兵器1発を製造するのに足る濃縮ウランを保有したように見えるが、実際に弾頭を製造し、それを長距離運搬できるようになるまでには、数カ月、あるいは数年かかるだろう。」と報じた。

同紙は明らかにイランの体制支持ではないが、この報道はマイク・ポンペオ国務長官の出鼻を挫くものとなった。ポンペオ長官は3月5日の報道発表でIAEA事務総長に就任まもないラファエル・グロッシ氏が3月3日に発表した2本の報告書について「イラン・イスラム共和国が核物質と核活動を隠匿しているとの重大な懸念を強めるものとなった」と述べていた。

ポンペオ長官は、「イランは核不拡散条約(NPT)の署名国である」と指摘したうえで、「イランには、NPTの保障措置協定に従って核物質をIAEAに申告し、IAEA査察官に対して検証のためのアクセス権を与える義務がある。」「イランがそうした核物質に関する申告を意図的に怠っていることは、核不拡散条約が義務づける保障措置協定の明確な違反だ。イランはIAEAと速やかに協力して、IAEA保障措置の義務に完全に従わねばならない。さもなくば、NPTはただの紙切れ同然ということになる。」と語った。

Mike Pompeo, 70th United States Secretary of State, official photo/ Public Domain
Mike Pompeo, 70th United States Secretary of State, official photo/ Public Domain

ポンペオ長官によれば、IAEAの最新の報告書は、ますます問題含みであるという。その理由として長官は、「イランは過去の核兵器計画について嘘をつき続け、核協定がまとまった際に、こうした過去の行いに関する記録の大部分を秘匿した。民間航空機を撃墜した件に関連する嘘のみならず、新型コロナウィルスの爆発的拡大の規模に関しても真実を隠匿している。イランの過去の秘密の核兵器計画と恥ずべき二枚舌の歴史を考えれば、今日のイランにおけるいかなる未申告の核物質や核活動もきわめて重大な問題だと言えるだろう。」と語った。

経歴の大半を核問題に捧げてきたアルゼンチンの外交官であるグロッシ事務局長は、イランが疑惑のある場所へのアクセスを許可して「IAEAに即時かつ完全に協力すること」が肝要であり、「未申告の核物質および核関連活動に関連した」さらなる疑問に答えることが必要だと語った。

これに対してイランは、IAEAからのさらなる疑問に答えることを拒絶した。なぜなら、過去の核活動に関する疑問に答える義務はすでに果たしているからである。IAEA報告によれば、イラン政府は「過去の活動に関する疑惑については承知せず、そうした疑惑に答える義務はないと述べた」としている。

1年前の3月4日、グロッシ氏の前任者で評判の高かった日本の外交官・天野之弥氏は、IAEA理事会の場で「イランは核関連の約束を果たしている」と発言していた。2019年7月に亡くなった天野氏はイラン政府に対して、JCPOAとして知られる核協定を引き続き順守していくよう求めていた。

イランの核計画に関するIAEAの2019年3月の四半期報告は、この天野事務局長の発言の数日後に公にされたが、イランが核協定の条件に従っていることを示す追加の詳細が盛り込まれていた。報告書によれば、イランの濃縮ウラン備蓄はJCPOAが設定した上限300kgを下回っており、ウラン235の濃縮レベルは、兵器製造目的に必要だとみられる90%をはるかに下回り、3.67%の制限を超えていなかった。

報告書は、IAEAは「訪問が必要なイラン国内のすべての場所」へのアクセスを確保されていると述べていた。

天野事務局長はまた、平和的な核活動を監視する取り組みに関連して情報を評価するIAEAの独立性がいかに重要であるかを擁護しつづけた。彼は、IAEAは「分析を行い、中立で、独立で、客観的な方法で行動する。」と強調していた。

天野事務局長の3月4日の声明は、IAEAの検証作業を指図しようとする一部の国々の企図に対する反撃であるが、そうしたことはこれが初めてではなかった。「もしそうした試みが、核検証作業においてIAEAに事細かい指図を出し圧力をかけようとするものならば、それは逆効果であり、きわめて有害である」と述べ、「独立で、中立で、事実に即した保障措置の履行が、IAEAの信頼性を維持する上で重要だ」とした。

天野事務局長は特定の国名を挙げることを避けたが、イスラエル当局がIAEAに対して、イランの未申告サイトを訪問し、イスラエルが2018年1月にイランの記録保管所から盗み、のちにIAEAと共有した文書に関するフォローアップを行うよう繰り返し求めていた事実があった。9月の国連総会でイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、過去の核兵器計画に関連した資料や文書をイランが保管しているとイスラエルの諜報当局が認識するサイトを訪問するよう、IAEAへの特別の呼びかけを行った。

これらを考え合わせると、『ニューヨーク・タイムズ』紙が強調するように、より介入的な査察を求める知見と要求は「米国政府とイラン政府間の膠着状態を新しい領域へ持ち込む」ものだと言える。

トランプ米大統領が「ひどい協定だ」としてイラン核協定から離脱した決定は、今のところ裏目に出ている。イランは、ウラン生産に対する核協定の厳格な制限に従っていたが、今や備蓄を再び増やし始めている。イランの指導者らは、IAEAがこれらの違反行為を記録するのをあえて認めているようであり、このことは結局、イランがトランプ大統領の圧力キャンペーンに対抗しているのだという事実を強く印象付けることになる。

IAEA
IAEA

IAEA就任直後のワシントンでのインタビューでグロッシ事務局長は、「この状況はパラドックス以外のなにものでもありません。なぜなら、私たちが検証しているのは、本来検証すべき合意の履行義務を段階的に停止している状況なのだから。」と語った。

専門家らは、これまでの情報からは、イランの行動は漸進的なものであり、実際に核爆弾製造に走ろうというよりも、欧州各国政府やトランプ政権にプレッシャーをかけるための計算された行動であるとみている。(原文へ

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【コロンボIDN=パリサ・コホナ

歴史的に欧米諸国は、非白人世界は言うまでもなく、中国に対して常に曖昧な態度をとってきた。その振る舞いは、恐れ、疑念、興味、不安、優越意識、さらには不相応な競争相手に抱く強い嫌悪の感情さえ入り混じったものだった。

こうした態度は、恐らく、19世紀に中国(清帝国)を訪ずれた宣教師や外交官、商人らが著した文献を基にした認識によるものだろう。彼らは西洋キリスト教社会の圧倒的優位を確信して中国を訪れたが、そこで見たものは、自分たちの先入観に当てはまらず、西洋のやり方を進んで受け入れそうもない豊かな社会だった。

Dr Palitha Kohona, former Ambassador and Permanent Representative of Sri Lanka to the United Nations, and former Foreign Secretary.

事実、中国人は自分たちの価値観を守った。西洋人が抱くこうした偏見は今も健在で、利己的な評論家や政治家は事あるごとに中国について尾ひれをつけた発言をしてきた。それは今日世界の脅威となっている新型コロナウィルス(COVID-19)の大流行の最中でも変わらない。

マルコ・ポーロの1271年から1295年に及ぶシルクロード旅行記と当時カタイと呼ばれた元朝の中国がいかに豊かで壮大であったかという話は、当時の西洋人には、概ね信じ難い空想の世界として片づけられた。東方見聞録(驚異の書、エル・ミリオーネとしても知られる)は、懐疑的な西洋人に謎めいた文化と非白人・非キリスト教世界の内情を紹介したものだった。その中には、巨万の富、西洋よりも優れた制度、モンゴル帝国の広大な版図が含まれており、中国、インド、日本、その他のアジア諸国や町を西洋世界に紹介した初めての文献であった。

その後何世紀にもわたって、西洋で根付いた中国に対する共通の認識は、概ね無理解に基づくものだが、警戒し疑念を持って対応すべき信用できない別世界の人々で、いつも苦しみ貧困に喘いでいるというイメージである。

中国と中国人に関する偏見が最近息を吹き返しつつある。ニュース報道や急ごしらえで編集された電子媒体のメッセージを含む多くの解説が、ここぞとばかりに、汚らわしく信用できない「チャイナマン(中国人やアジア人を現す蔑称)」のイメージを復活させている。

Mosaic of Marco Polo, Municipal Palace of Genoa: Palazzo Grimaldi Doria-Tursi/ By Salviati -, Public Domain

自己陶酔している欧州や米国に、洗練され複雑かつ強力な文化が数千年に亘って東方に存在してきたことをほぼ確信させるのに、2百年の歳月とジョセフ・ニーダム氏のような知の巨人による労作や多くの大学による研究が必要だった。こうした研究のお陰で、今日西洋社会で当然と考えられているものの多くが、すなわち、、火薬、絹、茶、陶磁器、コンパス、鋳鉄、鋤、あぶみ、印刷、脱進器、パスポート(モンゴル語でパイザ)等が、西洋よりも数世紀も前に中国で知られていたことが分かっている。

シンガポール元国連大使のキショール・マブバニ教授によると、1840年当時の中国は世界の生産高の25%以上を担う非常に裕福な国だった。しかしこの生産高の割合は、その後の列強諸国による植民地収奪と清朝の衰退により2%以下にまで落ちこむことになる。

今日再び頭をもたげつつある、恐ろしいほど人種偏見に満ちた「黄禍論」は、19世紀に西洋社会で広がった概念である。とりわけこの概念は義和団の乱が勃発した際に、欧米で広く使われるようになった。義和団は1900年に勢いを増し首都北京に入場した。

蛮行を推奨したドイツ皇帝ヴィルヘルム2世

Head and shoulders portrait of Kaiser Wilhelm II by Court Photographer T. H. Voigt of Frankfurt, 1902./ Thomas Heinrich Voigt, Public Domain
Head and shoulders portrait of Kaiser Wilhelm II by Court Photographer T. H. Voigt of Frankfurt, 1902./ Thomas Heinrich Voigt, Public Domain

1900年7月、ヴィルヘルム2世は兵士たちにいわゆる「フン族演説」を行い徹底した蛮行で中国人を抑えつけるよう次のような激を飛ばした。「欧州を出立して中国に出征するドイツ帝国の兵士は、『フン族』のように中国人(義和団か民間人の違いに関わりなく)に残虐行為の限りを尽くして義和団の乱を鎮圧せよ。…敵と相対する際、敵を木っ端みじんに粉砕せよ。情けは一切不要。捕虜にする必要はない。汝の手に落ちるものは、汝らの意のままに扱うがよい。1000年前のフン族を従えたアッティラ王が、その名をいまだに世に残酷な響きでもって轟かせているように、ドイツの名を同じように1000年中国人に知らしめ、二度と舐めた真似ができないようにせよ。」

ドイツ皇帝は遠征軍を指揮するアルフレート・フォン・ヴァルダーゼー元帥に対して、中国人は「生まれつき犬のように臆病でありながら卑怯な連中だ」として、残虐に対処するよう命じた。皇帝の側近であるフィリップ・オイレンブルク侯爵は友人に宛てた手紙の中で、皇帝は義和団にドイツ公使クレメンス・フォン・ケーテラー男爵が殺害された復習に、北京を徹底的に壊滅させ、全住民を殺害したいと希望している。」と記している。しかしドイツ軍が到着する前の1900年8月に、ロシア軍、日本軍、英国軍、フランス軍、米軍からなる連合軍が北京を陥落させた。

8カ国からなる連合軍は、義和団事件への復讐として北京を略奪した。その際街中で横行した強姦、略奪、放火の規模は、西洋の近代軍隊にとって中国人は人間以下とみなす認識を示すものだった。略奪の光景について、あるオーストラリア人作家は、「北京の通りで繰り広げられている恐ろしい光景を見よ。…汚れて引き裂かれたボロ布を纏った人々、あらゆる卑猥で不道徳な蛮行が横行している街に響く阿鼻叫喚、こうした光景を自分の国に当てはめて想像できるだろうか…うっ!なんとおぞましいことか。」と記している。

Peoples of Europe, guard your dearest goods./ By Hermann Knackfuss - Self-scanned, Public Domain
Peoples of Europe, guard your dearest goods./ By Hermann Knackfuss – Self-scanned, Public Domain

当時西洋人が抱いていた東洋人に対する優越意識や強い嫌悪感や疑念は、大抵は意識のレベルにとどまっているものだったが、こうした際に突然表に出てくることも稀ではなかった。こう振り返ると、西洋文明も、ただの上辺だけのもののように思えてならない。

新たに高まる中国嫌い

このような歴史や西洋列強が中国にもたらした幾多の困難にも関わらず、中国は自力で発展を遂げ、今では世界第2位の経済大国の地位を築き上げた。それにも関わらず、西洋世界や東洋の一部の国々は、中国や中国人をこれまでと同じ歴史的な不信の目で見ている。

Map of China
Map of China

「シノフォビア」(中国という国や人々、あるいは在外中国人や食生活を含む中国文化を嫌う感情)は未だに残っているが、新型コロナウィルスの流行以来、息を吹き返し、欧米社会では植民地や帝国主義の遺産、さらには世代を超えた人種差別と相まって再び広がりを見せている。今日、欧米メディアや系列局は、その度合いは様々だが、視聴者の中国嫌いに取り入ろうとしている。新型コロナウィルスの流行で表面化した一層根深い偏見や、中国政府や国民、彼らの食習慣をすぐにでも進んで非難しようとする姿勢は、中国人を悪魔扱いしてきた長い歴史に見られる兆候である。

2020年1月26日、オーストラリアで最も購読者数が多い2紙、すなわち、メルボルンの「ヘラルド・サン」紙が「中国ウィルスのパンダモニアム(中国のパンダと地獄絵図/悪魔の巣窟を意味するパンデモニアムをもじった造語)」というヘッドラインを掲載した一方で、シドニーの「デイリー・テレグラフ」紙が「チャイナ・キッズ(アジア人の蔑称チャイナマンをもじった表現)は自宅待機」というヘッドラインを掲載し、これに抗議し謝罪を求める51,000件以上の請願が両新聞社に寄せられるという事態に発展した。世界にはまだまだ良心的な人々が健在だ。

フランスでは、「ル・クーリエ・ピカード」紙は、1月26日付の表紙にマスクをつけたアジア人女性を「イエロー・アラート(黄色い警告)」というヘッドラインと共に掲載した。同紙はまた、「イエロー・ぺリル(黄色い禍)」と題した論説も掲載した。とりわけ「黄色い禍」というのは歴史的にいわく付きの表現だけに、フランス在住のアジア人からの非難を浴び、彼らの中から「私はウィルスではない(#JeNeSuisPasUnVirus)」というハッシュタグキャンペーンが起こった。こうみると、西洋世界のリベラル(自由主義)というものも、表面的なものではないか、と誰もが思い始めるだろう。

ロンドンの中華街をはじめ英国における中国系ビジネスは、例年だと旧正月の買い物客で賑わう時期だが、新型コロナウィルスが流行し始めてからは、食品や不衛生な職場習慣からウィルス感染するという風評が広がり、買い物客が激減した。概して、あらゆる公共交通機関で、反中国人感情が広がった。

新型コロナウィルスの流行以来使用されているこうした人種差別的な解説は、世界保健機構(WHO)が国際社会に対して創立以来義務付けている公約を順守するよう改めて要請しているにもかかわらず、なかなかなくならないでいる。1月30日、WHO緊急委員会は、感染症対策を実施する際に偏見や差別を助長しないよう警告した国際保健規則(IHR)第3条の原則に留意するよう、全ての国に対して勧告する声明を発表した。

18世紀末に英国が清朝との関係を構築しようとした最初の継続的な試みは、当初は拒絶されたものの、主に両国間の貿易に焦点を当てたものであった。英国はその後150年間にわたって、中国が諸外国との関係で最も苦難を強いられた多くの出来事(阿片戦争、円明園略奪、1900年の義和団事件後に中国に課した賠償金、北京の略奪や強姦、植民地として中国に割譲させた香港の統治等)に関与してくことになる。中国人はこの時代を「屈辱の世紀」と呼んでいる。

1997年に香港が中国に返還されて以来、香港では民主化を求める抗議の声があがっている(英国はこの動きへの関与を認めていない)が、英国の対中政策は、かつての対決姿勢から徐々に関与政策に主軸を置くものに変化してきた。中国経済が英国経済を凌駕し、英国は中国との関係を見直す必要に迫られている。両国の役回りは逆転し、今では英国が中国政府に懇願する立場になっている。

中国からのキャッシュフローを切望する英国

ブレグジットに伴う先行き不透明なジレンマを抱える英国政府は、これまでにもまして中国からのキャッシュフローを確保したいと考えている。評論家らは、英国政府は今後中国資本をどれだけ必要としているかを理解しており、既に中国に対する批判を控えるようになっている、とコメントしている。

英国人の中国人に対する優越意識は、阿片戦争の勝利に始まった。英国は、広東に対する艦砲射撃で数千人を殺傷した後、中国側に穿鼻草約(合意には至らなかった)を押し付けた。その後1842年に結ばれた南京条約により戦争は終結したが、英国はこの条約で香港の割譲と5つの港の開港(これにより英国は自由に中国人に阿片を売る権利を獲得した)を中国に認めさせた。

英国は1843年には中国に虎門寨追加条約を締結させ、領事裁判権を獲得するとともに片務的最恵国待遇を認めさせた。さらに1856年から60年に勃発した第二次阿片戦争では、第8代エルギン伯爵(エルギンマーブルを英国に持ち帰った人物)が大英帝国を代表して天津条約に署名している。さらに1860年10月、北京を占領した英仏連合軍は、皇帝の離宮円明園を略奪し焼き払い、中国政府に新たに北京条約を締結させた。その結果、英国は香港の対岸にある九龍半島の割譲と北京への外交官の駐留件を獲得したほか、その後数年の間に清朝各地(漢口〈現在の武漢〉、高雄、淡水〈現在の台北〉、上海、厦門)に領事館を開設していった。

Looting_of_the Yuan Ming Yuan pavilion by Anglo-French forces in_1860./ By Godefroy Durand – L’Illustration, 22 December 1860, Public Domain

米国における反中国感情は、少なくとも中国人移民が米国に流入しはじめ、最初の大陸横断鉄道の建設に大きく貢献した19世紀中ごろから存在する。鉄道建設では数千人の中国人労働者が犠牲になった。1960年代以降、中国人移民に対する偏見や衝突はさらにエスカレートし1882年には、中国人移民の移住や国籍取得を禁ずる人種差別的な中国人排斥法(1943年に廃止)が制定された。

米国人が抱く中国人に対する偏見の起源は、中国に滞在中の米国人商人や宣教師、教師、外交官が、自分たちが遭遇した「不可思議な人々」について、本国に送り続けた侮蔑的な報告書に見ることができる。こうした見方が北米から出たことがない米国人に伝わり、黄禍論がまことしやかに語られる誘因となった。その後反中国感情は米国社会に生き続け、冷戦期のマッカーシズムにも認めることができる。

この時期、「黄禍論」という概念は、新聞王ランドルフ・ハーストが所有する米国の新聞各紙を通じて一般に普及した。また、当時著名な再臨派教会の牧師でアングロイスラエリズムの信奉者でもあったG.G.ルパートは、1911年に「黄禍論:東洋対西洋」を出版し、その中で、聖書のヨハネ黙示録16章12節に記されている「日の出るほうから来る王たち」に基づいて、中国、インド、日本、朝鮮が将来英国と米国を攻撃するが、イエス・キリストが彼らを阻止するだろう主張した。

1870年の帰化法は黒人の市民権を認めた一方で、中国人をはじめとするアジア人は、アメリカ社会に同化できないとして除外された。中国人移民は、選挙権や裁判で陪審員と務める権利も否定された。また、数十の州が外国人土地法を通過させて、市民権を持たない人々が土地を取得することを禁じた。

Editorial cartoon showing a Chinese man, surrounded by luggage labeled
Editorial cartoon showing a Chinese man, surrounded by luggage labeled

とりわけ、プレッシー対ファーガソン裁判で少数意見を述べたジョン・マーシャル・ハーラン最高裁判事でさえ、中国人について「私たちとあまりに違うためにアメリカの市民になることが認められない人種が存在する。その人種の人は、わずかの例外をのぞいて、わが国から絶対に締め出されている。たとえば中国人と呼ぼうか。」と述べている。

中国に対するトランプ政権の不可解な敵意

トランプ政権は中国に対して不可解な敵意を示してきたが、一方で、内政面で権威主義的な傾向を強め、海外で自己主張を強める中国政府の動向に、多くの国々が警戒感を募らせている。欧米諸国は反撃するアジア人に馴染みがない。

政権内で最も中国を声高に非難しているマイク・ポンぺオ国務長官は、「医療専門家を(中国に)入国させるのにあまりにも多くの時間がかかった。もっと協力的であってしかるべきだ。」と述べ、新型コロナウィルスが広がった際の中国の対応には明らかに透明性が確保されていなかったとして非難した。

この指摘は明らかにプロパガンダを意識したものだったが、これはそのまま、次第に米国内で脅威を増しつつある新型コロナウィルスの拡散に対する米国政府の一貫性を欠いた対応にも当てはめることができよう。

対中強硬派が非公式な話として、新型コロナウィルスが中国共産党の正当性を弱めると述べているが、これは恐らく、はかない望みに過ぎないだろう。

国際的に公衆衛生上の緊急事態が発生している最中にこのような敵意に満ちた発言がなされたのは残念なことだ。まもなく西側メディアは、トランプ政権が中国に同情していない点を取り上げるとともに、WHOによる明確な説明があるにもかかわらず、中国政府の対応は、透明性に欠け、高圧的で、医療対応が遅い等と批判する記事を書き立てた。また、プロパガンダを目的とする批判的で侮蔑的な映像も電子メディアを通じて大量に拡散した。

しかし今や、中国が新型コロナウィルスの拡散を制御したかにみえる一方で、欧米諸国で深刻な被害が広がるに至り、西側メディアは、報道の従来の論調を変えるようになってきた。つまり、昨年12月に中国が新型コロナウィルスの拡散に直面した当時にみられたような厳しく、軽蔑的で無情な論調は影を潜め、今ではよりバランスのとれた報道が主流になってきている。

中国が、欧米の経済、政治モデルに従うことなく世界の主要な経済・軍事大国として台頭したことが、明らかに今日の反中国感情の背後にあると思われる。中国の台頭は、米国のような国々の犠牲の上に成り立っているとみなされてきた。

2019年4月、クリストファー・レイ連邦捜査局(FBI)長官は、米上院の公聴会で、中国は「(米国)社会全体にとっての脅威」と述べた。また2019年5月には、米国務省のキロン・スキナー政策立案局長は、中国は「今後アメリカは史上初めて、白人国家ではない相手(中国)との偉大なる対決に備えていく。」と語った。もちろん、スキナー局長は、かつ米国の覇権に挑み、1945年に原爆攻撃を受けた日本のことを忘れていたようだ。1980年代、米国の怒りは、盛んに経済的な影響力を伸ばしていた日本に向けられていた。

こうした米国の立場は、ときに矛盾し説明が困難なものに思えるかもしれない。かつて国連安全保障理事会で拒否権を行使できるメンバーとして中国(当時は中華民国)を推したのは米国である。中華民国は、太平洋戦争時、米国の対日戦争に協力していた。米国は、国連安保理で既に拒否権を持っていた欧州3カ国との均衡を持たせるために、欧州以外の国(=中華民国)の参加を望んだのだろうか。当時、米国は中華民国との間では、両国の影響力を持つ個人や宣教師同士の効果的な繋がりがあった。蒋介石総統は、キリスト教メソジスト派の信者であった。はたしてこのような要素が当時の米国政府の考え方に影響力をおよぼしただろうか。

しかし、米中関係は毛沢東率いる共産党が中国大陸を席巻し、蒋介石を台湾に追いやるようになると急速に悪化した。さらに共産党政権の中国は、軍事的にも朝鮮半島における米国の野望を挫いた。朝鮮戦争時、米国の政策責任者の間では、中国を核攻撃する考えが俎上に上っている。また、ベトナムでは、中国による対北ベトナム政府支援が、米国が後ろ盾となっていた南ベトナム政府を1975年に最終的に敗北に追いやった重要な要素であった。

米中関係は、リチャード・ニクソン大統領、ヘンリー・キッシンジャー国務長官の時に、ソ連を牽制するという共通の利害が合致して、中国との関係修復がなされたが、中国に対する疑念は依然として水面下で燻っていたようだ。中国は、西側との関係改善を利用して米国や西側諸国からの投資と技術移転を求め、史上最も印象的な奇跡的経済発展を成し遂げた。中国はさらに、そこから得た莫大な富を活用して、伝統的な勢力範囲を大きく超えて外交的な影響力を遠くはアフリカにまで伸ばす広域経済圏(一帯一路)の構築を目指している。

中国は、欧米諸国にとって主要な経済の競争相手となった。しかし残念なことに、この事態は欧米諸国、とりわけ米国に対する脅威として、公然と解釈されている。欧米の政策立案者にしてみれば、世界を舞台にヨーロッパ(=白人、キリスト教文化)でない競争相手がいるという現実は、考えるだけで不安をかきたてるものなのだろう。米国はありとあらゆる手段を用いて、中国を非難し対抗する姿勢を示し始めた。米国はまた、中国とロシアを戦略的競争相手と見なし始めており、その結果、気前の良い中国との関係から恩恵を得ようとする国々は、米中関係を不安要因として意識しなければならなくなった。

中国を非難する武器として使われる新型コロナウィルス騒動

Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain
Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain

そうした中、新型コロナウィルス問題が、中国を非難するもう一つの武器として用いられるようになった。米シンクタンク「外交問題評議会」のデビッド・フィドラー(インディアナ大)教授は、「私たちは、異なる政治目的のために虚報を流布させることでウィルスの大流行を兵器化するという現象を目の当たりにしている。この大流行は、兵器化の動きが地政学上の変化とつながっている点で特異なものだ。つまり、台頭する中国の力と影響力に対する恐れが中国の疫病対応を批判する論調を形成し拡大している。新型コロナウィルスの流行は、アフリカで流行しているエボラ出血熱の場合と異なり、次第に過酷さを増す米中間の権力政治のバランスと絡んでいる。」と述べている。

米中間の関係悪化は実に残念であり、いずれの国にとっても利益にならないばかりか、この点については、国際社会全体にとっても同様だ。米国と中国にはいずれも、両国や世界のためになる協力ができる大きな潜在能力がる。しかし、歴史や、一般庶民の不安を利用する野心的な政治家が抱く根深い疑念が、大多数の人々を知らず知らずのうちに不幸な衝突に巻き込む悲惨な状況を引き起こしかねない。(原文へ

*視点の内容は著者個人の見解であり、必ずしもIDN-INPSの編集方針を反映したものではない。

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【ドーハ/カブールIDN=バーンハード・シェル】

米国とタリバンが2月29日に画期的な取り決め(=和平合意)を結ぶはるか以前から、アフガニスタンの女性や若者、地域社会の指導者や宗教指導者らは和平の実現を強く望み、真剣に備えてきた。

今回の取り決めは、18年以上に及ぶ米国の最も長い戦争の終結させる土台を設定し、ドナルド・トランプ大統領が約束通り米軍の撤退を開始できるようにするものだ。米軍と同盟国軍は2001年以来アフガニスタンに駐留している。

国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)が2019年、20年と主催してきた一連のイベントは、平和を促進し、様々な分野の相当数の人々が意思決定に参画できるようにすることを目的としている。これらの取り組みの結果は、3月10日に首都カブールで開始するアフガン内部協議において役に立つと見られている。

UNAMA代表で、アフガニスタン担当国連事務総長特別代表の山本忠通氏は、カタールの首都ドーハでの米国・タリバン合意の署名後に、「すべての利害関係者が、戦争の終結に向けて、真の、具体的なステップを目指さなければなりません。」と語った。

ニューヨークでは、国連のドゥジャリク報道官が、「アントニオ・グテーレス事務総長は、アフガニスタンの民衆と政府を支援するという国連の公約を、これまでも繰り返し表明してきている。」と語った。

グテーレス事務総長は、「『和平を望むアフガニスタンの人々の確固たる希望』は、女性と若者を意味ある形で参加させた包摂的なアフガン人主導のプロセスを通じて実現されることを希望します。」と、語った。

彼らにはいつでも参加の用意がある。和平プロセスにおける女性の役割に関する会合では、1月13日に「平和のパイオニアとしての女性」という宣言が採択され、アフガニスタンに和平をもたらす上での、女性の実質的な関与と参加を呼びかけた。

アフガン西部の州都ヘラートで終日開催されたUNAMA後援のイベントには、約100人の女性活動家、政府関係者、市民団体関係者らが地域全体から集った。1年に及ぶ和平と安全に関する協議を経た今回の議論は、バードギース、ゴール、ファラー、ヘラートなど各地の1000人以上の女性から提出された勧告に焦点を当てたものとなった。

WOMEN AS PIONEERS OF PEACE/ UNAMA

ヘラートのアブドゥル・クァヨム・ラヒミ知事やモネサ・ハッサンザデー副知事を含む参加者らは、女性が社会の中心に立ち、女性の役割と権利が和平の取り組みやその後の協定の中で反映され守られるようにすべきだとの呼びかけを、改めて行った。

ラヒミ知事はさらに、「和平プロセスに女性がいなければ、和平はありえません。」と語った。

アフガニスタン国民議会のマスーダ・カロキ議員は、「すべての女性は、このチャンスを逃すことなく、和平プロセスに参加するために立ち上がり、勇気を出してほしい。」と訴えた。

アフガニスタンの和平、安全、安定を促進する上で若者が果たせる決定的な役割は、国連が2019年を通じてアフガン北東部で主催した一連のイベントによって強化されてきた。これらのイベントを通じて、数百人の若者が、同国が直面している最も緊急な課題に関して自らの声を届けることができた。

クンドゥーズ州にあるUNAMAの地域事務所が主催した一連のイベントにおいて、地域全体から集まった若者たちが、各々の地方の平和構築における若者の役割について議論し、アフガニスタンの開発問題により実質的に関与していく方法について話し合った。

参加者らは、それぞれのイベントにおける幅広い議論の中で、紛争の予防・解決における強力な変革の担い手としての若者の可能性を認識しただけではなく、あらゆる和平の取り組みと全国的な意思決定プロセスに若者を巻き込むことの重要性を強調した。

大学講師で、昨年バダフシャーン州で開催されたオンライン・イベントに参加したサラフディン・カジザーダ氏は、「若者を関与させない和平の取り組みは長続きしません。」「若者の声に耳を傾け、若者がアフガニスタンの平和と安定を創り出す取り組みに参加することが肝要です。」と語った。

人権を促進し擁護する上で地域のリーダーたちがもつ役割についても、国連がアフガニスタン南東部のカズニー州で行ったイベントで強調された。

約40人の宗教学者や女性人権活動家、ジャーナリスト、その他の地域指導者らが2月初旬に一日かけて開催されたシンポジウムに集い、市民社会が、人権への意識を高め、人権を守るより良いメカニズムを導入することで、コミュニティーをいかに効果的にエンパワ―することができるかについて話し合った。

参加者の一人アブドゥル・モサウィール・オメール氏は、「犯罪者に人権侵害をさせないような堅実な措置が必要です。」と述べ、「法の支配」の強化し、人権を擁護し人権活動家を支援する現実的なメカニズムを導入することを呼びかけた。

その他の活動家らは、アフガン南東部の地域で直面している問題、たとえば女性に対する暴力や、武力紛争の結果として起きた人権侵害などの多くの問題を強調した。

議論が教育問題に及ぶと、参加者らは、学校への投資と、人権、とりわけ女性の人権に関するコミュニティーの意識向上を図る取り組みを呼びかけた。

SDGs Goal No. 4
SDGs Goal No. 4

「アフガニスタンは教育にもっと注目すべきです。」「教育のない社会では、人権の問題に対処することは難しい。」と、市民活動家のワキル・アシュラフィ氏は語った。

アフガン南部や全土で和平と和解を促進しようとする宗教指導者や地域指導者の取り組みは、2019年を通じて国連が後援した一連のイベントによって強化され、数百人のウラマー(イスラム教法学者)や部族の長老たちが、こうした状況に対処するための最善のアプローチについて議論した。

部族の指導者のひとりアゼーム・カーン・サマンダール氏はUNAMAの聞き取りに対して、平和の擁護者としてのウレマーは、歴史を通じてずっとそうだったように、今後も連帯を説き平和実現ために尽力するだろう、と語った。

国連後援の会合に常連のサマンダール氏は、「私たちは各地のコミュニティーで会合を開き、和平プロセスに関する様々な見解を表明してきました。」「アフガン人は、考え方が異なっていても、平和を希求しているという点では、だれもが一致しています。」と語った。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

地域の長老ハジ・ニーマスラー氏も同じ考えだ。「地域住民とのかかわりや私的な会話でいつも上がってくるのは、アフガンに平和をもたしてほしいという要求や希望です。この国の誰もが暴力にうんざりしており、平和な時代の到来を望んでいるのです。」

アフガニスタンのウレマーは、地域に道徳的・倫理的基準を設定するうえで重要な役割を担っている。彼らは、平和の調停者として活動し、社会のあらゆるレベルにおいて尊重され、個人や地域の決定に対して影響力を持っている。

伝統的には、地域のもめごとは彼らの介入によって解決されてきた。この伝統は今でも続いている。公式な司法権が及ばないアフガン南部の一部地域ではとりわけそうだ。

今年初め、ヘルマンド州における討論の一つで、学者(マウラウィー[イスラム教学者に対する尊称])のオバイドゥラー・アクンザダ氏は、あらゆるアフガン人には、平和を創出し構築していく宗教的義務があると指摘した。「争っている兄弟たちの仲立ちをするのは、ムスリムとしての義務です。」「もし私たちが平和を作り出すことに貢献しないなら、平和は決して実現しないだろう。」とアクンザダ氏は語った。

UN Backed event in Helmand/ UNAMA
UN Backed event in Helmand/ UNAMA

ヘルマンド州やカンダハール州で開かれた他のフォーラムでは、参加者らが対話や公的議論の重要性について強調した。マウラウィーのモハマド・ダウード・モダケク氏は、「対話を継続し、勢いを持続させる議論がもっと必要です。なぜなら、変化はゆっくりかもしれないが、(アフガニスタンで)より多くの人々が平和について議論し、どうやったら自分たちが関与できるか議論するようになっているからです。」と語った。(原文へ

INPS Japan

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