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モーリタニアの反奴隷制活動家とイランの女性人権活動家が受賞

【ジュネーブIDN=ジャムシェッド・バルーア】

「モーリタニアのネルソン・マンデラ」と呼ばれた元奴隷の子孫であるビラム・ダー・アベイド氏と、イランの著名な女性人権活動家シャパラク・シャジャリザデー氏が、重大な人権侵害と闘ってきた勇気を表彰された。

「奴隷制廃止運動再生イニシアチブ」(IRA)の創設者であるアベイド氏は、数多くのモーリタニア国民を動員して、奴隷制と、反奴隷法の適用を政府が怠っていることに抗議している。

アベイド氏は、デモや座り込み、ストライキ、行進を行い、国内外で情報を拡散することで政府に圧力をかけ、奴隷の所有者にその犯罪の責任を負わせ、奴隷制のないモーリタニアの可能性についての意識喚起を図っている。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

モーリタニア政府は、2010年、12年、14年にそれぞれ1年半、最近では2018年に5ヶ月と、頻繁にアベイド氏を収監している。

嫌がらせと収監を受けているにも関わらず、アベイド氏は、奴隷制を禁止するモーリタニアの法執行を強化し、差別に直面している元奴隷やその他のアフリカ系黒人の社会統合と生活の向上のために活動している。

2017年、『タイム』誌はアベイド氏を「世界の最重要人物100人」に選出した。

アベイド氏は2020年の「ジュネーブサミット勇気賞」を受賞したが、イランの著名な女性人権活動家で、屋外でヒジャブを着けなかった罪で収監され、虐待や拷問を受けたシャパラク・シャジャリザデー氏もまた、2020年の「ジュネーブサミット国際女性人権賞」を2月18日のセレモニーで授与された。この賞は、25の人権団体から成る国際的ネットワークが与えているものである。

「この10年間、我が国の政府は、平等のために闘い差別に抵抗したというだけの罪で平和的な人々を訴追し、拷問し、収監するという悪名を得てきました。彼らの勇気を胸に刻み、彼らに成り代わって、この権威のある賞を慎んで、深い感謝とともに受け取ります。」とアベイド氏は語った。

「リベラル・インターナショナル」や「人権財団」など20以上の人権団体とともに会議を主催した「国連ウォッチ」のヒレル・ノイヤー代表は、アベイド氏の受賞理由について「モーリタニアにおいて奴隷制と闘い、自らの自由を犠牲にして数十万人の被害者を擁護した勇敢な行動」のためだと説明した。

「勇気賞」の過去の受賞者としては、元政治囚でチベットの映画監督ドンダップ・ワンチェン氏、収監されたサウジアラビアのブロガー、ライフ・バダウィ氏、ベネズエラの野党リーダー、アントニオ・レデツマ氏、ロシアの反体制派ウラジミール・カラ=ムルザ氏などがいる。

アベイド氏とシャジャリザデー氏の2人の受賞者は、第12回「ジュネーブ人権民主主義サミット」に出席した世界各国の国連の外交官や人権活動家、ジャーナリストなどに対して演説した。

イランのシャジャリザデー氏は「革命通りの少女たち」とか「白い水曜日」とか呼ばれる市民的不服従運動のリーダーになった。彼女が2018年2月にイランの法律に抵抗してヒジャブを脱ぎ逮捕された事件は有名になった。その年、BBCは「世界で最も勇気を与え影響力のある女性100人」の一人にシャジャリザデー氏を選んだ。

シャジャリザデー氏は「この賞にノミネートされてとても光栄です。イランの女性、そして、尊厳を取り戻し、平等のために闘い、人権を擁護するために日々自らの命を危険に晒されている世界各地の女性たちに代わって、世界を変える取組みを継続していこうという勇気がさらに湧いてきました。」と語った。

ノイヤー代表はまた、シャジャリザデー氏の受賞理由について、「自身が収監・拷問・虐待されることになってもイラン女性の人権を勇敢に守ろうとした行動」のためだ、と説明した。

過去の「国際女性人権賞」の受賞者には、性器切除に反対する活動家のニムコ・アリ氏、コンゴでレイプ撲滅の取り組みを進めるジュリエンヌ・ルセンゲ氏、イラク議会のヤジディ派議員ビアン・ダキル氏などがいる。

Geneva Summit for Human Rights and Democracy
Geneva Summit for Human Rights and Democracy

第12回ジュネーブサミットで演説したシャジャザリデー氏は、イラン・中国・パキスタン・キューバ・ロシア・トルコ・ベネズエラから集った反体制派や活動家、犠牲者、政治囚の親族など、世界中で人権擁護のために闘っている他の人々の輪に加わった。彼女たちは、それぞれの国における人権状況の証言者となるだろう。

このイベントは、緊急の状況を世界的課題として取り上げるために国連人権理事会が主要な年次会合を開催する数日前に行われた。「ここは、世界中の反体制派の人々にとってのひとつの拠点だ」とノイヤーは語った。(原文へ

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【ジュネーブIDN=レネ・ワドロー】

国際女性デー(3/8)の提唱者で女性解放運動の母と呼ばれるクララ・ツェトキン女史に焦点を当てた記事。ツェトキン女史は1904年3月8日にニューヨークの女性労働者が婦人参政権を要求してデモを起こしたのを受けて、1910年にデンマークのコペンハーゲンで行なわれた国際社会主義者会議で「女性の政治的自由と平等のためにたたかう」記念の日とするよう提唱した。社会主義の立場による女性解放運動を主導し、ヒトラー政権が誕生するとソ連に亡命した。(原文へ

INPS Japan

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【広島IDN=タリク・ラウフ】

今年の8月6日と8月9日、広島・長崎は原爆投下から75周年を迎える。被爆者に会ったり爆心地を訪問したり、破壊された両都市の惨状を写真で見たりしたことがある者ならば、核兵器がもたらした惨状に衝撃を受け、恐怖を抱かないわけにはいかないだろう。

幸い今日に至るまで、広島・長崎以外に核兵器が戦時に使用された事例はない。広島・長崎への原爆投下は、核兵器のさらなる使用と拡散を予防することが、そして「核兵器なき世界」につながる核軍縮が、なぜ人類とこの地球の生存にとって最も重要な意味を持つのかを、常に私たちに思い起こさせる出来事であった。それは一つの希望であったと言えよう。

核軍備管理の崩壊

残念ながら、過去50年間で辛抱強く積み上げてきた核軍備管理の枠組みが私たちの目の前で崩壊しつつあるなか、世界から核兵器をなくす見通しが遠のいている。2019年8月2日、米国は中距離核戦力(INF)全廃条約から正式に離脱したが、これは同年7月にロシア連邦が同条約の遵守を停止すると発表した時点から予期されていたことであった。INF全廃条約の下では、1991年5月までに射程500~5500キロメートルの弾道ミサイルおよび巡航ミサイル2692基が廃棄された。相互検証の仕組みの下でソ連が1846基、米国が846基を廃棄し、5000発近い核弾頭が作戦状態から外された。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

INF条約の失効によって、米ロ間に残る核軍備管理の条約は、2010年4月8日に署名され、11年2月5日に発効した新戦略兵器削減条約(新START)のみとなった。2018年2月4日までに米ロ両国ともに、配備済みの戦略核弾頭1550発、配備済みの運搬手段(地上発射大陸間弾道ミサイル、海上発射大陸間弾道ミサイル、長距離爆撃機)を700までに抑えるという目標を、検証可能な形で達成した。実際、2019年7月1日には、新STARTの下で、ロシアは運搬手段524に核弾頭が1461発、米国は運搬手段656に核弾頭1365発という状態にあった。

新STARTは、ウラジーミル・プーチン大統領とドナルド・トランプ大統領が条約を延長しない限り、2021年2月5日に失効する。もし延長がなされないようなことがあれば、米ロ間にはこの半世紀以上で初めて二国間核軍備協定が存在しない状態になり、危険な核軍拡競争が再燃する可能性が高くなる。

ソ連/ロシアと米国間の核軍備管理の歴史で初めて、既存の協定が失われるだけではなく、この10年間で初めて、両国が新たな措置に向けた協議を行っていない状態が生まれることになる。両国は核戦力を近代化し、宣言的政策及び運用面の両方で、核兵器使用の敷居を下げ続けている。

さらに、包括的核実験禁止条約(CTBT)は、1996年に署名開放されて以来24年間、発効していない。2017年の核兵器禁止条約は、核抑止に依存し続ける38カ国によって不必要に拒絶され、核軍縮に向けた効果的な措置を履行しようとしている圧倒的多数の国連加盟国の取り組みに強く反対している。

兵器級核分裂性物質の検証可能な生産禁止に向けた国際条約の交渉や、宇宙空間における兵器化防止に関する条約交渉も始まっておらず、核軍縮に関連するその他の公約の多くも果たされないまま、核の危険性が同時に増す状態になっている。

二国間及び多国間の核軍備管理の枠組みや土台が、2002年の米国による弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退や、5大核兵器国(米国、ロシア、英国、フランス、中国)による、1995年、2000年、2010年のNPT再検討会議で合意された核兵器削減に関する公約の不履行によって、損なわれている。

また、「EU3カ国+3カ国」とイランによる「包括的共同行動計画(JCPOA)」から米国が脱退し、それを受けてイランがウラン濃縮に関する制限から段階的離脱する事態につながっている。これは、中東の安全保障情勢の不安定化をもたらし、新たな戦争の可能性を高めている。

一部の核保有国のドクトリンが、核兵器の先制使用或いは紛争の早期段階における使用を考えるようになってきている。米国防総省の新たな核兵器指針である「核作戦」(2019年6月11日)は、「核兵器の使用は、決定的な帰結への条件と戦略的安定の回復をもたらすかもしれない」と述べている。他方ロシアの軍事ドクトリンは、北大西洋条約機構(NATO)の通常戦力の優位に対抗すべく「紛争鎮静化に向けたエスカレーション」を想定している。すなわち、紛争の早期段階における限定的な核使用のことである。南アジアではインド・パキスタン両国が地域紛争に核兵器の使用を考慮に入れている。

核兵器使用について議論される際の語彙が都合よく『消毒された(sanitized)=きれいな言葉』にされているのは、気持ちの良いものではない。水爆戦争による破壊とそれが人間や環境に及ぼす帰結は軽視され、「核抑止」という『消毒された(anticeptic)=冷たい』概念に取って代わられる。

暗い現実は、9つの核兵器国の1万4000発以上の核弾頭が、14カ国の100カ所以上に配備されているということである。核兵器が使用される危険性は増しており、核弾頭13万発以上分に相当する1400トン(140万キログラム)の兵器級ウランと500トン(50万キログラム)の兵器級プルトニウムが備蓄されている。一発の核弾頭のために高濃縮ウランは25キロ以下、プルトニウムは8キロ以下あればよいことを覚えておこう。

例えば、ウィリアム・ペリー元米国防長官のような多くの識者が、「今日の世界においては、偶発、事故、あるいは意図的な核使用でさえも、その危険性は冷戦最盛期よりも大きくなっている。」という見解を示しているが、これは驚くべきことではない。ミハイル・ゴルバチョフ書記長とロナルド・レーガン大統領が首脳会談で合意した「核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならない」という共通認識は、今日の指導者らや核戦争計画立案者の頭にはない。今年、『原子力科学者会報』は、私たちがいかに核の大惨事に近づいているかを示す時計を「真夜中まで100秒」にセットした。これは、冷戦期のどの時期よりも大惨事に近づいていることを示している。

冷戦が終焉して、1990年初頭には「平和の配当」や「新世界秩序」について多くが語られた。国際安全保障においては核兵器の役割を低減することが確実とみられ、1995年には核不拡散条約(NPT)が無期限延長され、1996年にはCTBTが採択され、2000年と2010年のNPT再検討会議ではそれぞれ、5つの核保有国が核軍縮への「明確な約束」に合意し、行動計画にも合意した。にもかかわらず、なぜこのような暗い状況下にあるのかと問う人もあるかもしれない。

その根本的な理由は、NPT上の核保有国が、NPTとその1995年・2000年・2010年再検討会議の枠組みの下で合意された核軍縮の公約を果たしていないことにある。なかでも米ロ両国は、冷戦最盛期から8割以上核戦力を削減したと主張する一方で、核戦力の近代化と核使用の敷居を下げることに執心し、発射可能な作戦状態に1000発以上の核弾頭を配備している。

「核軍縮のための国際環境を整備する(CEND)」か、それとも、「決して軍縮しない国際環境を整備する(CEND)」か。[訳注:両者の頭文字を取るといずれもCENDとなる。前者はCreating the Environment for Nuclear Disarmament、後者はCreating the Environment to Never Disarmである]

NPTは2020年に50周年を迎えるが、今年の重要なNPT再検討会議が失敗に終わるのではないかとの警鐘がすでに鳴らされている。NPTの文脈の下における核軍縮に立ち返ってみると、いくつかの対立するアプローチが提示されている。NPTの非同盟運動(NAM)諸国は三段階から成る「行動計画」を主唱し、西側諸国は「ステップ・バイ・ステップ」アプローチを採用している。さらに、これを微修正したものとして「核不拡散・軍縮イニシアチブ」(NPDI)が「ブロック積み上げ」アプローチを呼びかけ、また別のグループである「新アジェンダ連合」(NAC)は「核軍縮を前進させる」アプローチを支持している。また、スウェーデンは「踏石(ステッピング・ストーン)」アプローチを主張し、米国は「核軍縮のための国際環境を整備する」(CEND)という新たな概念を推進している。

Photo: Chair Syed Hussin addresses the 2019 NPT PrepCom. Credit: Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.
Photo: Chair Syed Hussin addresses the 2019 NPT PrepCom. Credit: Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.

こうした様々なアプローチが2018年・19年会期の準備委員会会合でぶつかり合い、これらの対立する見方が、NPT50年を画する2020年再検討会議で前面に出てくるであろう。

虹・蝶・ユニコーン

米国はこれまでに2回のCEND会合を開催し、4月初めに第3回を予定している。出席した外交官の多くは、米国の招待を「断れない」という理由からの出席であったが、中には、疑問はあっても置きざりにされては困るからという理由であったり、あるいは、CENDはNPTを救う「天の賜物」だとの考えに心酔して米国の忠実な先兵のような立場をとっている者もいる。

しかし、CENDアプローチを冷静に見てみると、この構想は、核軍縮の「環境」と「条件」に関する焦点と責任を、核保有国から非核兵器国に移そうとするものだと言えよう。実際のところ、現在提示されているCENDアプローチは、「決して軍縮しない国際環境づくり」の大義を打ち出すものとなっている。というのも、すでに合意された核軍縮の公約の履行についても、(低威力)核兵器の早期使用に関する運用ドクトリンについても、CENDは俎上に載せていないからだ。

CENDアプローチは、現在の国際環境は核軍縮にとって望ましいものではないとの立場を採っている。冷戦期の不信の最中で多くの重要な多国間・二国間の核軍備・核軍縮条約が(NPTも含めて!)結ばれたことを考えると、こうした見解は健忘症のなせる業だと言えよう。

したがって、CENDアプローチは、「虹や蝶、ユニコーンを夢見て、魔法のような外観を作り出し、核軍備管理の新しいファンタジーの世界につながる妖精の粉をふりまくかのようなもの」とみるのが適切であろう。(訳注:この例えは、虹と蝶、ユニコーンを体の一部に持ち、魔法を操る猫が主人公の米国のアニメ「Rainbow Butterfly Unicorn Kitty」が念頭にあるものと思われる。)

ある米高官は最近、NPTの枠組みで核軍縮を支持する人々を「薄暗い電球のようなもの」と称した。要するに、ひどく愚かで、彼らの態度は「愚鈍と狂気の混合」だと言いたいのであろう。言説のレベルが、かつてここまで低下したことはなかったし、こうした非難が公に投げつけられることもなかった! 高官らが明らかに精神のバランスを崩し、言説のレベルがどん底にあるとすれば、2カ月後に開催されるNPT再検討会議において核兵器国と非核兵器国との間に共通の立場を探るには、明らかによくない兆候である。

CENDアプローチの「虹・蝶・ユニコーン」を信じることが、世界を核の破壊の危険から救う道ではない! NPTの枠組みでの核軍縮の義務を忠実に果たすことが、救済への唯一の道である。

NPT50周年:2020年のニューヨークから2021年のウィーンへ

新型コロナウィルス(COVID-19)が大流行の瀬戸際にある。軍備管理関連の高官も、平静さを失う瀬戸際にあるのだろうか。 4月27日から5月22日にかけてニューヨークで開催予定の、条約50周年でもあるNPT再検討会議が、世界的な会議の開催で実績のある歴史的都市ウィーンでの来年の開催に延期される可能性を真剣に考慮に入れておかねばならないだろう。会議延期によって、文明的な開催地を提供できるのみならず、望むらくはより政治色が薄い環境で、より冷静に核軍縮の問題を検討できる環境が与えられることになるはずだ。

「核兵器なき世界」は未だに見果てぬ夢であるが、私たちはフランシスコ教皇の呼びかけを思い起こす必要がある。広島を訪問したフランシスコ教皇は、世界の大国が核兵器を放棄すべきだと明確に要求した。核兵器の使用と保有はともに「非道徳的」な犯罪であり、危険な浪費と断じたのである。

昨年11月の広島でのフランシスコ教皇の嘆きを思い起こそう。「戦争のための最新鋭で強力な兵器を製造しながら、平和について話すことなどどうしてできるでしょうか。紛争の正当な解決策であるとして、核戦争の脅威で威嚇することに頼り続けながら、どうして平和を提案できるでしょうか。この底知れぬ苦しみが、決して越えてはならない一線を自覚させてくれますように。」(文へ

※タリク・ラウフはかつて、国際原子力機関(IAEA、ウィーン)核検証・安全保障政策局長、核不拡散条約(NPT)に対するIAEA代表代理を務める。

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トランプ政権のイラン核合意から離脱が裏目に出る

【ウィーンIDN=ラインハルト・ヤコブソン】

国連の核監視機関である国際原子力機関(IAEA)が3月3日に発表したイランに関する四半期報告によれば、前回の報告よりも相当程度に濃縮ウランの量が増している。2019年11月の備蓄量372.3kgから、この2月には1020.9kgまで増えたと『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』誌が報じている。

648.6kgの増加は、2015年7月14日にイランと「P5+1」(中・仏・独・ロ・英・米)が署名した包括的共同行動計画(JCPOA)が設定した備蓄量制限である300kgに大きく違反するものである。この核合意は、2015年7月20日に採択された国連安保理決議2231によって追認されている。

「濃縮レベルは4.5%を超えていないなど、イランの核関連活動のその他の指標には大きな変化がない。JCPOAは濃縮レベルを3.67%に制限している」と『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』は書いている。

Map of Iran
Map of Iran

JCPOAには、イランの核計画に関する合意済の制限について、長期的計画が盛り込まれている。また、貿易や技術、金融、エネルギー分野へのアクセスに関する措置など、イランの核計画に関連したすべての国連安保理の制裁や、多国間制裁、一国による制裁の包括的解除をもたらすものであった。

ニューヨーク・タイムズ』紙は、「イランには核爆弾製造に十分な物質がある。しかし同時に、これまでのところ、イランの最近の行動は、核兵器製造に走るというよりも、トランプ政権や欧州に対して圧力をかける計算づくのものであるようだ。」と報じている。

さらに同紙は、「米国が2015年の核協定を放棄してから初めて、イランは核兵器1発を製造するのに足る濃縮ウランを保有したように見えるが、実際に弾頭を製造し、それを長距離運搬できるようになるまでには、数カ月、あるいは数年かかるだろう。」と報じた。

同紙は明らかにイランの体制支持ではないが、この報道はマイク・ポンペオ国務長官の出鼻を挫くものとなった。ポンペオ長官は3月5日の報道発表でIAEA事務総長に就任まもないラファエル・グロッシ氏が3月3日に発表した2本の報告書について「イラン・イスラム共和国が核物質と核活動を隠匿しているとの重大な懸念を強めるものとなった」と述べていた。

ポンペオ長官は、「イランは核不拡散条約(NPT)の署名国である」と指摘したうえで、「イランには、NPTの保障措置協定に従って核物質をIAEAに申告し、IAEA査察官に対して検証のためのアクセス権を与える義務がある。」「イランがそうした核物質に関する申告を意図的に怠っていることは、核不拡散条約が義務づける保障措置協定の明確な違反だ。イランはIAEAと速やかに協力して、IAEA保障措置の義務に完全に従わねばならない。さもなくば、NPTはただの紙切れ同然ということになる。」と語った。

Mike Pompeo, 70th United States Secretary of State, official photo/ Public Domain
Mike Pompeo, 70th United States Secretary of State, official photo/ Public Domain

ポンペオ長官によれば、IAEAの最新の報告書は、ますます問題含みであるという。その理由として長官は、「イランは過去の核兵器計画について嘘をつき続け、核協定がまとまった際に、こうした過去の行いに関する記録の大部分を秘匿した。民間航空機を撃墜した件に関連する嘘のみならず、新型コロナウィルスの爆発的拡大の規模に関しても真実を隠匿している。イランの過去の秘密の核兵器計画と恥ずべき二枚舌の歴史を考えれば、今日のイランにおけるいかなる未申告の核物質や核活動もきわめて重大な問題だと言えるだろう。」と語った。

経歴の大半を核問題に捧げてきたアルゼンチンの外交官であるグロッシ事務局長は、イランが疑惑のある場所へのアクセスを許可して「IAEAに即時かつ完全に協力すること」が肝要であり、「未申告の核物質および核関連活動に関連した」さらなる疑問に答えることが必要だと語った。

これに対してイランは、IAEAからのさらなる疑問に答えることを拒絶した。なぜなら、過去の核活動に関する疑問に答える義務はすでに果たしているからである。IAEA報告によれば、イラン政府は「過去の活動に関する疑惑については承知せず、そうした疑惑に答える義務はないと述べた」としている。

1年前の3月4日、グロッシ氏の前任者で評判の高かった日本の外交官・天野之弥氏は、IAEA理事会の場で「イランは核関連の約束を果たしている」と発言していた。2019年7月に亡くなった天野氏はイラン政府に対して、JCPOAとして知られる核協定を引き続き順守していくよう求めていた。

IAEA Director General Yukiya Amano. Credit: D. Calma/IAEA
IAEA Director General Yukiya Amano. Credit: D. Calma/IAEA

イランの核計画に関するIAEAの2019年3月の四半期報告は、この天野事務局長の発言の数日後に公にされたが、イランが核協定の条件に従っていることを示す追加の詳細が盛り込まれていた。報告書によれば、イランの濃縮ウラン備蓄はJCPOAが設定した上限300kgを下回っており、ウラン235の濃縮レベルは、兵器製造目的に必要だとみられる90%をはるかに下回り、3.67%の制限を超えていなかった。

報告書は、IAEAは「訪問が必要なイラン国内のすべての場所」へのアクセスを確保されていると述べていた。

天野事務局長はまた、平和的な核活動を監視する取り組みに関連して情報を評価するIAEAの独立性がいかに重要であるかを擁護しつづけた。彼は、IAEAは「分析を行い、中立で、独立で、客観的な方法で行動する。」と強調していた。

天野事務局長の3月4日の声明は、IAEAの検証作業を指図しようとする一部の国々の企図に対する反撃であるが、そうしたことはこれが初めてではなかった。「もしそうした試みが、核検証作業においてIAEAに事細かい指図を出し圧力をかけようとするものならば、それは逆効果であり、きわめて有害である」と述べ、「独立で、中立で、事実に即した保障措置の履行が、IAEAの信頼性を維持する上で重要だ」とした。

天野事務局長は特定の国名を挙げることを避けたが、イスラエル当局がIAEAに対して、イランの未申告サイトを訪問し、イスラエルが2018年1月にイランの記録保管所から盗み、のちにIAEAと共有した文書に関するフォローアップを行うよう繰り返し求めていた事実があった。9月の国連総会でイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、過去の核兵器計画に関連した資料や文書をイランが保管しているとイスラエルの諜報当局が認識するサイトを訪問するよう、IAEAへの特別の呼びかけを行った。

これらを考え合わせると、『ニューヨーク・タイムズ』紙が強調するように、より介入的な査察を求める知見と要求は「米国政府とイラン政府間の膠着状態を新しい領域へ持ち込む」ものだと言える。

IAEA就任直後のワシントンでのインタビューでグロッシ事務局長は、「この状況はパラドックス以外のなにものでもありません。なぜなら、私たちが検証しているのは、本来検証すべき合意の履行義務を段階的に停止している状況なのだから。」と語った。

IAEA
IAEA

トランプ米大統領が「ひどい協定だ」としてイラン核協定から離脱した決定は、今のところ裏目に出ている。イランは、ウラン生産に対する核協定の厳格な制限に従っていたが、今や備蓄を再び増やし始めている。イランの指導者らは、IAEAがこれらの違反行為を記録するのをあえて認めているようであり、このことは結局、イランがトランプ大統領の圧力キャンペーンに対抗しているのだという事実を強く印象付けることになる。

専門家らは、これまでの情報からは、イランの行動は漸進的なものであり、実際に核爆弾製造に走ろうというよりも、欧州各国政府やトランプ政権にプレッシャーをかけるための計算された行動であるとみている。(原文へ

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子どもの現状に専門家が懸念

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

生態系の劣化や気候変動、それに、過度に加工されたファーストフードや甘い飲み物、アルコール、タバコの消費を促す搾取的なマーケティング慣行によって、世界の子どもや若者の健康と未来が差し迫った脅威に晒されていると指摘する、画期的な報告書が発表された。

世界の子どもと若者の保健専門家40人以上からなる委員会が作成したこの報告書は、「子どもたちが気候危機の崖っぷちに立たされており」、「子どもの健康や環境、未来を適切に守っている国はない」と指摘している。

世界保健機関(WHO)、国連児童基金(ユニセフ)、『ランセット』誌が招集したこの委員会は、持続可能な開発目標(SDGs)の中心に子どもを据えた、「新たな世界的啓発運動」を呼びかけている。『世界の子どもたちの未来のゆくえ(原題:A Future for the World’s Children?』と題されたこの報告書は2月19日に発表された。

「子どもと若者の健康は過去20年間で改善した一方で、現在の進歩は停滞しており、今や逆行しようとしています」と、同委員会のヘレン・クラーク共同委員長は語った。クラーク氏は1999年から2008年までニュージーランドの第37代首相を、2009年から2017年までは国連開発計画(UNDP)の代表を務めた人物である。

クラーク氏は、「発育不良や貧困といった代替指標を取ってみると、低・中所得国の5歳未満児約2億5000万人は、発達阻害と貧困の代理指標から、自分の能力を最大限に伸ばせないリスクがあると推定されています。しかし、より懸念されることは、世界のすべての子どもが今、気候変動と商業的圧力による脅威に実際に直面しているということです。」と語った。

Former Prime Minister of New Zealand Helen Clark/ By Global Commission on Drug Policy , CC BY-SA 4.0

クラーク氏はまた、「各国は子どもと若者の健康へのアプローチを徹底的に見直し、今日の子どもだけでなく、将来引き継がれる世界を守らなければなりません。」と語った。

報告書には、180カ国の新しいインデックスが記載され、子どもの豊かさが比較できるようになっている。具体的には、子どもの生存と幸福をはかる指標として保健、教育、栄養、持続可能性の代理指標として温室効果ガスの排出量、そして公平性や所得格差を含んでいる。

報告書はまた、子どもが健康的な生活を支援するために最貧国もより多くのことを行う必要があるが、特に富裕な国々による過剰な二酸化炭素排出は、全ての子どもの未来を脅かしているとしている。もし、現在の予測どおり、2100年までに地球温暖化による気温上昇が4度を超えると、海面上昇、熱波、マラリアやデング熱などの病気の蔓延、栄養不良により、子どもたちに壊滅的な健康被害をもたらすことになるとしている。

インデックスは、ノルウェー、韓国、オランダの子どもたちが生存と幸福の可能性が最も高いことを示しているが、一方で、中央アフリカ共和国、チャド、ソマリア、ニジェール、マリの子どもたちはその可能性が最も低くなっている。しかし、1人当たりの二酸化炭素排出量を加味した場合、それら上位の国は下位に転じる。例えば、ノルウェーは156位、韓国は166位、オランダは160位となる。これら3カ国は、2030年の目標よりも人口1人当たりのCO2排出量が210%も多い。米国、オーストラリア、サウジアラビアは最も排出量の多い10カ国の中に含まれている。

「最貧国のいくつかは二酸化炭素排出量が最も少ない国のひとつであるものの、その多くは急速に変化する気候により最も厳しい影響に晒されています。子どもたちが生き延び、成長するためのより良い条件を国が整えていくことで、世界の子どもたちの未来は犠牲にはなりません。」

委員会の共同委員長であるセネガルのアワ・マリ・コールセック保健・社会活動大臣は、「人道的危機、紛争、自然災害によって開発が妨げられている国々で暮らす人々は世界に20億人以上いますが、いずれの国でも、気候変動との関連する問題が増えてきています。」と指摘したうえで、「最貧国のいくつかは二酸化炭素排出量が最も少ない国々であるにもかかわらず、その多くが急速に変化する気候により最も厳しい影響に晒されています。子どもたちが生き延び、成長するためのより良い条件を国が整えていくことで、世界の子どもたちの未来は犠牲にはなりません。」と語った。

19 June 2019 : 2019 EITI Global Conference..OECD Headquarters, Paris..Photo : © Hervé Cortinat / OECD

2030年までの1人当たりの二酸化炭素排出量の目標達成や、子どもの豊かさの指標においても順調(上位70以内)に進んでいる国は、アルバニア、アルメニア、グレナダ、ヨルダン、モルドバ、スリランカ、チュニジア、ベトナム、ウルグアイのみである。

また、本報告書は、有害なマーケティングが子どもにもたらす明らかな脅威についても強調している。データによると、一部の国々ではテレビだけでも1年間で3万件もの広告が見られているが、米国では2年間で電子たばこ広告の若者への露出が250%以上増加し、到達人数は2400万人以上に達している。

委員会の著者の一人であるアンソニー・コステロ教授は、「業界の自主規制は失敗しました。オーストラリア、カナダ、メキシコ、ニュージーランド、米国などにおける研究は、自主規制では子どもに広告を届ける商業的能力は妨げられていないことを示しています。例えば、オーストラリアの自主規制に業界が署名しているにも関わらず、子どもや若者の視聴者は、たった1年間で、テレビで放映されたサッカー、クリケット、ラグビーを見ている間に5100万件のアルコール広告に晒されていました。そして、現実はさらに悪い状態かもしれません。というのも、子どもをターゲットにしたソーシャルメディア広告やアルゴリズムの大幅な増加に関するデータや数字がほとんど手元にないためです。」と語った。

ジャンクフードや糖分の多い飲料の商業マーケティングの子どもへの露出は、不健康な食品の購入や過体重および肥満につながっている。子どもの肥満の驚くべき増加には、自己利益的なマーケティングが関わっている。肥満の子どもと若者の数は、1975年の1100万人から2016年には1億2400万人と11倍も増えており、個人や社会全体課された代償は莫大なものとなっている。

ランセット』誌のリチャード・ホートン編集長は、「今が絶好の機会です。証拠も揃っています。そしてそれを実現するツールも私たちの手中にあるのです。国家元首から地方自治体、国連の指導者から子どもたち自身に至るまで、この報告書を発表した委員会は、青少年の健康を守る新たな時代を生み出すよう呼びかけています。これを実現するには勇気と決意が必要です。まさに私たちの世代にとっての最大の試金石となるでしょう。」と語った。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

ユニセフのエンリエッタ・フォア事務局長は、「気候危機から肥満や有害な商業マーケティングに至るまで、世界中の子どもたちは、ほんの数世代前には想像しえなかった脅威と闘わなければなりません。」と指摘したうえで、「今こそ、子どもの健康について再考するときです。子どもの健康を全ての政府の開発課題の最上位に置き、あらゆる検討事項よりも子どもの幸福が優先されなければなりません。」と語った。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、「この報告書は、世界の政策決定者らが、えてして子どもや若者に対する義務を怠っていることを示しています。つまり、子どもの健康や人権、そして彼らが生きていくこの地球を守れていないのです。」「私たちはこの報告書を、子どもの健康と発達に投資し、子どもたちの声を聴き、子どもの権利を守り、子どもたちに適切な未来を作るよう各国に求める警鐘としなくてはなりません。」と語った。(文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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アフリカにおけるデジタルエコノミーの動向を分析した記事。国際連合貿易開発会議(UNCTD)によると2017年現在アフリカのオンライン買物客は2100万人(その半数がナイジェリア、南アフリカ共和国、ケニアが占める)。これは、アフリカの全人口に占める割合としては依然小さいが2014年以来毎年18%の伸びを示しており、世界平均6%を大幅に上回っている。今年7月に運用が開始されるアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)がデジタルエコノミーを大きく伸ばす契機となるだろう。(原文へ)

米国のイラン核合意離脱に困惑する関係諸国

【イスタンブールIDN=バーンハード・シェル】

イランは、正式には「包括的共同行動計画」(JCPOA)として知られる核合意に伴うウラン濃縮について、今後は制限を順守しないと発表したことで、バッシングを受ける事態となっている。この宣言によって、イランの行動・意図や核合意の将来に対する疑念が出てきた。

「これらの問題を最もよく理解するには、イランが核活動を平和目的に限ると約束したJCPOAの構造を見る必要があります。」と指摘するのは、「核脅威イニシアチブ」(NTI)のアーネスト・J・モニツ共同議長兼CEOである。

モニツ氏は「Q&A」の中で「第一に、イランの核活動には、一部には時限的な、一部には恒久的な制限が課されています。第二に、これがより重要な点だが、イランは他に類のない権限を認められた国際査察官が監視する独自の包括的な検証体制の下に置かれています。」と解説している。

NTI Co-Chair and CEO Ernest J. Moniz./Photo by Katshiro Asagiri

モニツ氏は、イランの今回の発表がカセム・ソレイマニ司令官殺害への反応だとする一般的な見方を否定した。「タイミングはソレイマニ司令官の殺害と偶然に一致したものです。米国がJCPOAから一方的に離脱してからちょうど一年経過した2019年5月には、ハサン・ロウハニ大統領が、イランは一部の約束からの逸脱措置を開始し、その他のJCPOA参加国が制裁解除を実行しない限り、60日毎に追加の核合意逸脱措置を実行していくと発表しました。」

モニツ氏はさらに、「イランは、欧州3カ国(フランス・ドイツ・英国)と欧州連合がその後とった一連の措置は『不十分』だと考えています。イランの『5回目かつ最終』の発表は予想通り1月5日になされました。」と語った。

国際社会に対して、「イラン核問題に対処するための外交努力を再活性化すべき。」と訴えているモニツ氏は、「英国・フランス・ドイツが『紛争解決メカニズム』を発動させたことは、この目的にかなうものとなるかもしれない。しかし、これは危険な賭けだ。」と語った。

他のイラン専門家も同様の見方だ。「イラン核合意の紛争解決メカニズムを発動したことで、英国・フランス・ドイツはイランを交渉のテーブルに引き戻そうとしている。しかし、かえって事態を悪化させる可能性もある。」と、コラムニストでイラン・中東問題に関する外交政策アナリストのサヘブ・サデギ氏がフォーリン・ポリシー誌への寄稿文の中で述べている。

モニツ氏は、「米国は、少なくとも、欧州の同盟国やロシア・中国と協力して、イランがこれ以上核活動を拡大しないよう圧力をかけていく必要があるだろう。JCPOAが今後どうなるかは別として、合意の中核的な要素(①相当な長期にわたってイランの核燃料サイクルに明確な制約を課していること、②最高レベルの国際的監視・検証体制をこれに組み合わせていること)は、将来の取決の重要な基盤であり続けなければなりません。」と語った。

EUのジョセップ・ボレル外相は、別の重要な側面を強調して、「欧州は、もしこの合意を延命させようとするのならば、イランがそこから利益を引き出せるようにしなくてはなりません。」と語った。さらには、2月8日発行の『プロジェクト・シンジケート』紙に寄せた記事の中で「もしイラン核合意を存続させたいのならば、イランが合意の完全順守に復帰すれば同国の利益になるようにしなくてはなりません。」と述べている。

スペイン社会労働党出身のボレル氏は1月、フランス・英国・ドイツの3カ国から、紛争解決メカニズムを発動させたとの通告を受けた。ボレル氏は、「EUは核合意に関する紛争解決までの時限を無期限に延期し、国連安保理にこの問題を付託したり新たな制裁を発動したりすることを回避する。」と語った。

「問題の複雑さゆえに、もっと多くの時間が必要だという合意がある。したがって、期限は延長した。」とボレル氏は1月24日の声明で述べている。

ロウハニ大統領は2月3日のボレル氏との会談で、米国が核合意から離脱し対イラン制裁を再開した際、EUが合意を尊重しなかったことを批判した。ロウハニ大統領は一方で、「イラン・イスラム共和国は、今でも問題解決に向けて欧州連合と協力をする用意があり、EUが約束を完全順守するならば、イランは合意に復帰するであろう。」とも述べている。

2019年5月、イランは、米国の合意離脱と、欧州連合がイラン経済を制裁から守るための行動をとらなかったことへの対応として、2か月毎に核合意からの段階的な逸脱措置を開始した。

アンナ・ザウアーブリー氏は2月10日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙への意見記事のなかで、ドイツ・フランス・英国が2019年1月に設置した「貿易取引支援機関」(INSTEX)は「米国からの戦略的自立を目指す欧州の必死の努力が不毛であることを示す最たる例の1つだ。」と述べている。

ドナルド・トランプ大統領が2018年5月にJCPOAから離脱して以来、「欧州諸国は適切に対応すべく苦慮を重ねてきた。」しかし、結局その努力は無駄であった。なぜなら、米国が発動した二次制裁がもたらした多大な影響力は、米国市場とドルの力、さらには「金融取引システムを法的・実質的に支配できる米国の能力」に裏打ちされたものだったからである。

ザウアーブリー氏は、中東問題を専門とする政治・経済コンサルタント会社「オリエント・マターズ」(ベルリン)の経営者で外交政策専門家のデイビッド・ジャリルバンド氏の言葉を引用して、「あるレベルでは、ほとんどすべての企業が米国と何らかのつながりがある。」と語った。

Trump ending U.S. participation in Iran Nuclear Deal. Credit: White House.
Trump ending U.S. participation in Iran Nuclear Deal. Credit: White House.

ある企業が米国市場で活動していないとしても、もし取引先の銀行や保険会社、あるいはその保険会社を支えている再保険会社は米国で活動していることだろう。「結果として、米国で活動していない企業であっても、影響を受けることになる。」

ザウアーブリー氏はまた、「つまり、国際関係において『戦略的自立』を得たい欧州にとってカギを握るのは、独立した金融取引を行う能力を得ることです。」と語った。

イランは声明の中で、「核合意の範疇に留まる」とする一方で、核合意での約束から「部分的に」逸脱する措置をとっていることを明らかにした。イランは、そうした措置を元に戻すこともできる、としている。イランは、核活動を通じて得た経験を「元に戻す」ことはできないにしても、関連機器を撤去・解体したり、核物質を移出或いは希釈したりすることは可能だ。

前出のモニツ氏は、「イランはこれまでのところ、核合意に伴う主な要素は順守しています。すなわち、核兵器開発に必要な特定の非核活動に関するものも含めて、厳格な検証・監視措置に従っています。もしイランが核合意の『破棄』あるいは核兵器製造に走ることがあるとすれば、検証体制によってその初期の兆候を捉えることが可能です。」と語った。

イランで日々活動に従事している国際原子力機関(IAEA)の査察官からの報告によれば、イランは濃縮レベルを高めてはいるが極めて限定的である。ただ、より高性能の遠心分離機で作業を拡張している。とはいうものの、IAEAが引き続きイラン国内に留まっていることから、イランが既知のあらゆる核関連施設と物質を動員することになる核開発までの「最悪のケース」は、この国連の核監視機関に発見されることなくして起こり得ないとみられている。

モニツ氏は、「核兵器の製造に利用可能なプルトニウムに関して、イランはプルトニウムの分離を禁止した核合意の制限を順守しているほか、中国・英国と協力して、兵器用プルトニウムを製造できないようにするために新型研究炉の設計を変更しています。」と断言した。

モニツ氏はまた、「イランが核合意以前に建設していた原子炉には、年間1発ないし2発の核爆弾を製造できるプルトニウムを生産する能力がありましたが、JCPOAの発効によりその後原子炉の一部は解体されています。」と強調した。(原文へ

INPS Japan

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湖面縮小が進むチャド湖周辺で人道危機が広がる

【ラゴスIDN=レオン・ウシグべ】

アフリカ大陸中央部に位置するチャド湖は、かつてアフリカ最大の淡水湖として3000万人の生活を潤していた。しかし、気候変動や過放牧、農業用水の過度の使用等により、湖面が急速に縮小し、1963年から2001年までの間に実に95%の面積を失った。砂漠のオアシスが砂漠へと変貌しつつあるなか、チャド湖に接するカメルーン、チャド、 ナイジェリア、ニジェールでは、1000万人以上が人道支援を必要とする深刻な状況に陥っている。(原文へFBポスト

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【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ】

核軍縮支持者で著名な仏教哲学者が、「誰もが尊厳をもって安心して生きられる持続可能な地球社会を築く」ための4つの重要なイニシアチブを提言した。イニシアチブは以下の主要項目(①核兵器禁止条約に対する支持構築、②多国間の核軍縮交渉、③気候変動と防災、④戦争や自然災害などによって日常を奪われた子どもたちの教育)を網羅している。

これらのイニシアチブは、創価学会インタナショナル(SGI)池田大作会長による2020年平和提言に詳述されている。「人類共生の時代へ 建設の鼓動」と題する今年の平和提言は、池田会長が1983年に平和提言の発表を始めてから38回目にあたるもので、原文の日本語版は、創価学会の創立90周年とSGI発足45周年を記念して1月26日に発表された。

池田会長は広島と長崎への原爆投下から75年にあたる2020年に核兵器禁止条約を発効させることを強く訴えている。「これにより、2020年を人類が核時代と決別する出発年としていきたい。」と池田会長は述べている。

The Hiroshima Peace Memorial, commonly called the Atomic Bomb Dome or A-Bomb Dome is part of the Hiroshima Peace Memorial Park in Hiroshima, Japan and was designated a UNESCO World Heritage Site in 1996. /Tim Wright.
The Hiroshima Peace Memorial, commonly called the Atomic Bomb Dome or A-Bomb Dome is part of the Hiroshima Peace Memorial Park in Hiroshima, Japan and was designated a UNESCO World Heritage Site in 1996. /Tim Wright.

核兵器禁止条約は、2017年7月の採択以来、これまで80カ国が署名し、35カ国が批准を終えている。条約発効に必要な50カ国の批准を実現するには、あと15カ国がこれまでより早いペースで署名と批准を行わなければならない。

池田会長は、条約の発効を受けて、ヒバクシャや市民社会が参加する「核なき世界を選択する民衆フォーラム」を広島か長崎で開催するよう提案している。

池田会長は、フォーラムで協議する主要テーマは「生命に対する権利」とし、国際人権法の観点から核兵器の非人道性を浮き彫りにする議論を深めていってはどうか、と述べている。そして、このフォーラムを、「核兵器の禁止によって築きたい世界の姿について、互いの思いを分かち合う場」にしていくことを提案している。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の国際運営団体の1つであるノルウェー・ピープルズエイドの昨年の報告書によると、核兵器禁止条約を支持する国々は135カ国にのぼっている。さらに、核保有国や核依存国の自治体の間でも、条約への支持を表明する動きが広がっている。

多国間交渉

池田会長が具体的な提案を行っている2つ目の項目は、核軍縮を本格的に進めるための方策についてである。池田会長はとりわけ、4月27日から5月22日にかけてニューヨークの国連本部で行われる核不拡散条約(NPT)再検討会議で、2つの合意を最終文書に盛り込むことを呼びかけている。

Photo: Chair Syed Hussin addresses the 2019 NPT PrepCom. Credit: Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.
Photo: Chair Syed Hussin addresses the 2019 NPT PrepCom. Credit: Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.

その一つ目は、「多国間の核軍縮交渉の開始」に関する合意で、2つ目は、「AI(人工知能)等の新技術と核兵器の問題を巡る協議」に関する合意である。

池田会長は、米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)の延長を確保したうえで、多国間の軍縮交渉の道を開くことが肝要と考えている。

新STARTは2021年2月に期限を迎えるが、現在協議は難航している。もし中距離核戦力(INF)全廃条約に続いて新STARTの枠組みまで失われることになれば、およそ半世紀ぶりに両国が核戦力の運用において相互の制約を一切受けない状態が生じることになる。「この空白状態によって、核軍拡競争が再燃する恐れがあります。」と池田会長は警告している。

さらに、この空白状態は、今後小型の核弾頭や超音速兵器の開発が加速することで、局地的な攻撃において核兵器を使用することの検討が現実味を帯びかねない。ゆえに、新SATRTの5年延長を確保することがまずもって必要となる。

池田会長はこうした考えを念頭に、NPT再検討会議での議論を通じて、核兵器の近代化に対するモラトリアム(自発的停止)の流れを生み出すよう提案している。「各加盟国は、次回の2025年の再検討会議までに、多国間核軍縮交渉を開始するとの合意を図るべきではないでしょうか。」と池田会長は述べ、以下の試案を提示している。

「新STARTの5年延長を土台にしたうえで、米国、ロシア、英国、フランス、中国の5カ国による新たな核軍縮条約作りを目指し、まずは核軍縮の検証体制に関する対話に着手する。」

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

そして、これまで米国とロシアが実際に行ってきた検証での経験や、核兵器国と非核兵器国25カ国が参加して5年前から継続的に行われてきた「核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPMDV)」での議論も踏まえながら、国連常任理事国5カ国(英国、フランス、中国を含む)が核軍縮を実施するための課題について議論を進めていく、というものである。

「こうした対話を通じて得られた信頼醸成を追い風にして、核兵器の削減数についての交渉を本格的に開始することが望ましいのではないかと思います。」

多国間の核軍縮の機運を高めるために、池田会長は、冷戦終結の道を開く後押しとなった「共通の安全保障」の精神を顧みるよう提案している。

「共通の安全保障」は、核抑止が失敗した場合に引き起こされる大量破壊に対する反応として、欧州の政治指導者らの考え方や政策から生まれたもので、東欧諸国との和解政策を推進した西ドイツのヴィリー・ブラント首相と彼の政策が例として挙げられる。

1985年の歴史的な米ソ首脳会談では、ミハイル・ゴルバチョフ書記長ロナルド・レーガン大統領は、「核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならない。」という点で意見の一致を見た。

2018年5月にアントニオ・グテーレス国連事務総長が発表した軍縮アジェンダは、「人類を救うための軍縮」を呼びかけている。作成に携わった国連の中満泉軍縮担当上級代表は、その発表翌日に行ったスピーチで、軍縮と安全保障との関係について、以下のように述べている。

Photo: Izumi Nakamitsu/ by Katsuhiro Asagiri | INPS
Photo: Izumi Nakamitsu/ by Katsuhiro Asagiri | INPS

「軍縮は、国際平和と安全保障の原動力であり、国家の安全保障を確保するための有用な手段である。…軍縮はユートピア的な理想ではなく、紛争を予防し、いついかなる時、場所であれ、紛争が起こった際に、その影響を緩和するための具体的な追求である。」

池田会長はまた、「こうした互いが勝者となるウィンウィンの関係を基盤として、今こそ、NPT第6条が求める核軍縮の誠実な履行を力強く推進していくべきです。」と述べている。

NPT第6条は各締約国に対して「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うこと」を義務付けている。

池田会長は2020年NPT再検討会議で、核関連システムに対するサイバー攻撃や、核兵器の運用におけるAI導入の危険性に関する合意を目指すよう求めている。同会議が「これらの危険性に対する共通の認識を深め、禁止のルール作りのための協議を開始することが望ましい。」と池田会長は述べている。

そのような禁止のルール作りの必要性は、「サイバー攻撃は…核兵器の指揮統制だけでなく、早期警戒、通信、運搬など多岐にわたるシステムに危険が及ぶ恐れがある。最悪の場合、核兵器の発射や爆発を引き起こす事態を招きかねない。」という事実によって明確に示されている。

気候変動と防災

気候変動は、「人類の命運を握る根本課題」である、と池田会長は述べている。気候変動の影響は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の取組みを土台から崩しかねないものとなっている。「青年たちの現実変革への思いが、不屈の楽観主義と相まった時の可能性は計り知れないものがあると思えてなりません。」

SDGs logo
SDGs logo

池田会長は、この観点から、2030年に向けてユース気候サミットを毎年開催するよう提案するとともに、気候変動の問題に関わる意思決定への青年の参画を主流化させるための安保理決議を採択するよう呼びかけている。

「気候変動を巡って取り組みが迫られているのは、温室効果ガスの削減だけではありません。異常気象になる被害の拡大を防止するための対応が待ったなしとなっています。先月(2019年12月)マドリードで行われた気候変動枠組条約の第25回締約国会合(COP25)でも、この2つの課題を中心に討議が進められました。」と池田会長は述べている。

池田会長は気候変動と防災に関するテーマに特に焦点を当てた国連の会合を日本で行うことを提唱している。世界の人口の4割は海岸線から100キロ以内に住んでおり、その地域では気候変動の影響によるリスクが高まっている。日本でも人口の多くが沿岸地域で暮らしている。

これを踏まえて、池田会長は「中国や韓国をはじめ、アジアの沿岸地域の自治体と、気候変動と防災という共通課題を巡って互いの経験から学び、災害リスクを軽減するための相乗効果をアジア全体で生み出していくべき」と、考えている。

2020年は、北京行動綱領が採択されて25周年にあたる。第4回世界女性会議で発表された同行動綱領は、ジェンダー平等の指針を明確に打ち出している。そこにはこう記されている。

「女性の地位向上及び女性と男性の平等の達成は、人権の問題であり、社会正義のための条件であって、女性の問題として切り離して見るべきではない。それは、持続可能で公正な、開発された社会を築くための唯一の道である。」

このジェンダー平等の精神は、防災においても欠かせない。災害にしても、気候変動に伴う異常気象にしても、インフラ整備などのハード面での防災だけでは、レジリエンスの強化を図ることはできない。そこで池田会長は、「ジェンダー平等はもとより、日常生活の中で置き去りにされがちであった人々の存在を、地域社会におけるレジリエンスの同心円の中核に据えていく。」ことが強く求められると述べている。

危機に直面した子どもたちの教育

最後に池田会長が第4の提案として述べているのが、紛争や自然災害などの影響で教育機会を失った子どもたちへの支援強化である。「次代を担う子供たちの人権と未来を守ることが、持続可能なグローバル社会を作るうえで要石となると考えています。」と池田会長は述べている。

Photo: Children from the Central African Republic in the 2014 photo at Primary School 1 in UNHCR Mole Refugee Camp, Democratic Republic of the Congo. Photo: UNHCR/Sebastian Rich
Photo: Children from the Central African Republic in the 2014 photo at Primary School 1 in UNHCR Mole Refugee Camp, Democratic Republic of the Congo. Photo: UNHCR/Sebastian Rich

子どもの権利条約は今年9月に発効30周年を迎える。今や国連の加盟国数よりも多い196カ国・地域が参加するこの条約は、世界で最も普遍的な人権条約となっている。

子どもの権利条約は、全ての子どもに教育を受ける権利を保障する加盟国政府の義務を明記しており、条約の発効時には約20%に及んでいた、小学校に通う機会を得られていない子どもの割合は、2019年には10%以下にまで減少した。しかしその前進の一方で、紛争や災害の影響を受けた国で暮らす子供たちの多くが深刻な状況に直面している。

国連児童基金(ユニセフ)は子どもたちにとって、学校の存在は、日常を取り戻すための大切な空間であると強調している。学校で友達と一緒の時間を過ごすことは、紛争や災害で受けた心の傷を癒すための手助けにもなっている。

こうした問題を踏まえて、2016年の世界人道サミットで設立を見たのが、ECW(教育を後回しにできない)基金である。池田会長は、ユニセフが主導するECW基金の資金基盤の強化を図るよう呼び掛けている。

SGIは192カ国と地域で、平和、文化、教育を推進しているコミュニティーを基盤とした仏教徒のネットワークである。1983年から毎年、池田会長は、SGI創立記念日にあたる1月26日に、世界の諸問題に対する仏教徒としての視点や解決策を提供する平和提言を発表している。(原文へ

INPS Japan

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世界政治フォーラムを取材

監視・検証を伴う核軍縮へ向けて

【ニューヨークIDN=ラドワン・ジャキーム】

核兵器のない世界の実現に向けて国際社会が弛まぬ努力を続ける中、検証体制とその方法論が、これからの核軍縮活動を正確に監視・検証するという複雑な問題を理解する上で極めて重要となる。核軍縮活動は今後、各国を以前よりもさらに介入的な検証に従わせる方向にむかうものとみられている。

米国とロシアが実際に行ってきた検証での経験をはじめ、「核軍縮の検証に向けた国際パートナーシップ」(IPNDV)、国連安保理5大国(米国・ロシア・英国・フランス・中国)や関心をもつ諸国との対話から学ぶことで、核兵器禁止条約が規定する効果的な核兵器の禁止に貢献することが可能だ。

IPNDV

25カ国以上の参加を得て2014年12月に始まったIPNDVは、米国務省が「核脅威イニシアチブ」(NTI)と協同して行っている官民パートナーシップで、核兵器国・非核兵器国双方の能力を強化し、核軍縮の監視・検証問題に対処する技術的解決策を生みだすことを目的としている。

核兵器の数は、この30年間で、冷戦期のピーク時の約7万発と比べると、推定約1万4500万発と大幅に減少してきた。軍縮の専門家によれば、これだけの削減を可能としたのは、軍備管理条約の順守状況を互いに検証する能力を各国が高めたことにあるという。

核不拡散条約(NPT)に盛り込まれた目標である核兵器の更なる削減と核軍縮の前進に向けて強固な基盤を築くために、核兵器のライフサイクル(核物質の生産・管理,核弾頭の製造・配備・保管,削減・解体・廃棄等)を通じた監視・検証問題の正確な評価がきわめて重要だ。

NPT第6条は各締約国に対して、「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うこと」を義務づけている。

IPNDVは、2015年3月の初会合以来、核軍縮検証のための多様な国際プログラムを構築して新境地を開いてきた。IPNDVの構成国・団体は互いに協力して、核軍縮検証に伴う問題点とそれに対処する方途や技術を特定するうえで、貴重な成果をあげてきた。

第1フェーズ(2015年~17年)の焦点は、「基礎的解体シナリオ(Basic Dismantlement Scenario)」と呼ばれる、14ステップある核兵器解体プロセスのうち、ステップ6~10、すなわち解体施設に核兵器を受入れたところから解体後に核物質、爆発物質、構造材に分けて貯蔵するところまでの検証を対象としたものだった。

IPNDVは、「このパートナーシップは、核軍縮の検証という中核的な難題を解くためのアプローチを理解し発見する上で大きく貢献してきた。」として、第1フェーズの成果を「厳しい課題はあるものの、将来の核兵器廃棄プロセスにおいて安全、セキュリティー、及び機微情報の管理をうまく行いつつ、核兵器解体を多国間で監視することが可能な、潜在的に適用可能な技術、インフォメーションバリア、査察手順が準備できる。」と結論付けている。

Monitoring and verification activities, as identified by the IPNDV, for the key steps in the process of dismantling nuclear weapons/ Australian safeguards and non-proliferation Office
Monitoring and verification activities, as identified by the IPNDV, for the key steps in the process of dismantling nuclear weapons/ Australian safeguards and non-proliferation Office

IPNDVの第1フェーズは、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催された2017年11月の第5回総会をもって完了した。

第2フェーズ(2018年~19年)では、将来の核軍縮検証を支え、演習やデモンストレーションといった目に見える活動を通じて示していくために、効果的かつ実践的な検証オプションの理解を深化させた。

IPNDVは、技術者や政策集団、学界を含めた広範な核軍縮検証コミュニティへの関与と働きかけを強めている。加えて、ニューヨークの国連本部で2019年4月29日から5月10日まで開催された2020年NPT再検討会議第3回準備委員会において、「核軍縮検証に関する国連政府専門家会合(GGE)」およびNPT加盟国と、作業結果を共有した。

昨年12月3~5日にカナダ・オタワで開催された第7回IPNDV総会には、24カ国に欧州連合を加えた89人が集まり第2フェーズを完了、第3フェーズの計画過程に入った。

第7回総会では、IPNDVの知見を「机上から実践へ」持ち込むための実践的な活動や技術的デモンストレーションも行われた。参加者らは、第3フェーズ(2020年~21年)において対処すべき技術のギャップや政策課題に焦点を当てた。第3フェーズに関しては、3月18~19日にスイス政府主催で立ち上げシンポジウムが開催され、IPNDVのこれまでの活動と、広範な核軍縮検証におけるその位置づけを検証することになっている。

4月27日から5月22日にかけてニューヨークの国連本部で開催されるNPT再検討会議にわずか数週間先立つ形でシンポジウムと展示が開かれることは重要な意味を持つ。なぜなら、IPNDVの第1フェーズと第2フェーズの知見は、核軍縮検証における技術の可能性と限界、実践的な軍縮検証の演習とデモンストレーション、核軍縮の広範な文脈におけるIPNDVの作業に関連しているからだ。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

今年1月に発表されたIPNDVの「第2フェーズ概略報告:核軍縮検証における机上から実践への移行」は、核兵器の申告を検証の問題や、核兵器削減の検証、検証技術に焦点を当てている。

12月にオタワで開催された第7回総会以降、IPNDVの参加者は、カナダで初めて原子炉が設置された歴史的場所である「チョークリバー研究所」を訪問し、兵器級核物質の有無を検証する実験技術のデモンストレーションを見学した。これは、核軍縮検証プロセスにおいて極めて重要な任務である。

チョークリバーでのデモンストレーションは、第2フェーズで行われた全5回の実践的演習・技術デモンストレーションの一環であり、核兵器解体サイクルの全体を通じて応用可能な技術と手順を確定するIPNDVの能力を高めることを目的としていた。

第2フェーズでは、演習とデモンストレーションに加えて、国家申告や条約の限界など、その他の監視・検証上の考慮をいかに見極めるかを追求したものであった。

これらの活動は、多国間での核解体検証は可能であるとした第1フェーズの知見を最終的に補強するものであるが、まだまだ課題は多い。特定の国の核兵器事業に特有の外部要因や安全・危機管理情報の流出を防ぐために、ツールや政策、手続きに関連した検証オプションの柔軟な適用が必要とされることだろう。(原文へ) 

INPS Japan

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