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「世界と議会」2019年夏号(第583号)

特集:日本の進むべき道

咢堂塾設立20周年・咢堂没後65周年記念講演
「日本の進むべき道」/石破茂

特別論文
 自由民権政治家・西潟為蔵の生涯―政治家の矜持/弥久保宏

■歴史資料から見た尾崎行雄
 第1回「尾崎行雄とうなぎの蒲焼」/高島笙

■INPS JAPAN
 アフリカ―鉱物資源の収奪と環境破壊に苦しむ地元住民

■連載『尾崎行雄伝』
 第十三章 文相の舌禍

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
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ロヒンギャ難民の子供たちは学びたい、とUNICEF

745,000人のロヒンギャ難民がバングラデシュに流入して2年が経過した。ミャンマーへの帰国も許されず、後続の難民流入が続く中で、子供たちが直面している諸問題に焦点を当てた記事。(原文へ

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オーストラリアに核兵器禁止条約署名・批准の圧力

【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ

オーストラリア発祥の運動であり、2017年にはノーベル平和賞も受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が、同国は核兵器禁止(核禁)条約を署名・批准すべきであるとする報告書を発表した。

イラン核合意として知られる「共同包括的行動計画」(JCPOA、2015年)や、米ロ間の中距離核戦力(INF)全廃条約(1988年)などの重要な協定が損なわれ、国際的な緊張が強まる中、この報告書は出された。

イラン核合意は、国連安保理の常任理事国である中国・フランス・ロシア・英国・米国にドイツを加えた6カ国および欧州連合とイランとの長い協議を経て署名された。

ICANオーストラリアの代表で報告書を編纂したジェム・ロムルド氏はIDNの取材に対して、「INF全廃条約やイラン核合意が重大な危機に瀕し、核保有国間で軍縮を巡る協議がなされてないなど、核兵器を巡る国際的な法的仕組みが崩壊しつつあります。」と語った。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が6月17日に発表した2019年度版の年鑑によると、2018年には世界全体で弾頭の総数は減少しているものの、すべての核保有国が核戦力の近代化を進めていた。

SIPRIによれば、2019年初めの時点で、9カ国(米国・ロシア・英国・フランス・中国・インド・パキスタン・イスラエル・朝鮮民主主義人民共和国[北朝鮮])が、合計でおよそ1万3865発の核兵器を保有している。このうち、3750発が作戦配備の状態にあり、2000発近くが高度な警戒態勢下に置かれている。

オーストラリアは核兵器を保有していないが、米国との同盟関係に基づいて拡大核抑止ドクトリン(=米国による核の傘)を国家安全保障の要として受け入れる立場をとっている。

ロムルド氏は、「オーストラリアは米国の核戦略を支援する立場で振る舞っていますが、これは変えられるし、変えなくてはなりません。核禁条約はオーストラリアが従来の方向性を変え、核兵器に関する国際法を基盤とした秩序づくりに効果的に貢献するツールを提供するものです。」と語った。

国連で2017年7月に採択された同条約は、現在、署名70カ国、批准25カ国となっている(ボリビアが最近批准した)。50カ国が批准すると90日後に発効するが、それは2020年頃だと予想されている。

オーストラリア外務貿易省の報道官は、同国の政策について「我が国は核禁条約を支持しない。同条約は核保有国を巻き込んでいないし、核不拡散条約(NPT)体制という核軍縮に向けた国際協議の基盤を損なう危険性があるからだ。」と語った。

オーストラリア政府は、核禁条約では1発の核兵器の削減にもつながらず、同国が米国に対して持つ同盟上の義務にも反する、という見解だ。外務貿易省のウェブサイトは、とりわけ2020年NPT再検討会議に向けた取り組みなどを通じたNPTの強化や、地域を横断した12カ国による不拡散・軍縮イニシアチブ(NPDI)での協力を通じて、核軍縮に向けた実際的な措置を主唱し続けると述べている。

ICANの報告書『人道性を選ぶ:オーストラリアが核兵器禁止条約に加わるべき理由』は、核禁条約を巡る懸念や神話を取り上げ、署名・批准に向けた実践的な道筋について提案している。核禁条約に加わることで、核兵器を絶対悪とみなし核兵器を禁止・廃絶するためにオーストラリアが積極的に果たすべき役割について、説得力のある議論を展開している。

先住民族コカタ・ムラ(Kokatha-Mula)の女性スー・コールマン=ヘーゼルタイン氏は、オーストラリア西岸沖のモンテベロ島や南オーストラリアのエミュフィールドマラリンガで英国が大気圏内核実験を始めたころ、まだ3才だった。1952年から63年にかけて行われた12回の大規模な核実験で、同国南部セドゥナ近くのクーニッバを含む広大な地域が汚染された。ヘーゼルダインさんは5人の姉妹、2人の兄弟、親戚とと共に、その場所に住んでいたのである。

「『トーテム1』と名づけられた最初の原爆実験の汚染は広範だった。私の家族の奇形や先天性の障害、地域での乳幼児の死亡、がんや呼吸器・甲状腺の問題は、放射線による汚染が原因だと確信しています。先住民かどうかは関係ありません。この地域の人々は皆、乳幼児の病気や死亡に悩まされてきました。」と68才になるヘーゼルタイン氏は語った。彼女は、核実験以前は、野生の動物を捕えたり、自然の植物を採集したりする健全な生活を送っていたと地域の老人達から聞かされたことを覚えている。

Sue Coleman-Haseldine/ Kessie Boylan
Sue Coleman-Haseldine/ Kessie Boylan

「オーストラリア政府はすべての人々に謝罪すべきです。こんなことが二度と起こらないように、一刻も早く核禁条約に署名すべきです。」と、慢性的な甲状腺障害に苦しむヘーゼルタイン氏は訴えた。

Wikimedia Commons
Wikimedia Commons

ICANの報告書は、米国が広島(1945年8月6日)・長崎(8月9日)に原爆を投下してから74周年に併せて、今週発表された。

戦争防止医師会議豪州支部の代表でICAN運営委員でもあるスー・ウェアハム氏は、「オーストラリアは、核兵器を容認することで、北部准州のパインギャップを核兵器の標的にし、世界の危険に晒しています。」と指摘するとともに、「核攻撃がオーストラリアに向けられるリスクも高まります。」と語った。

「報告書は、パインギャップが持っているこうした機能を停止する実現可能で現実的な道筋を示している。道徳的にも、そして我々の安全保障の面から言っても、オーストラリアは、核の威嚇ではなく核軍縮の道を選ぶべきです。」

オーストラリアは、米国が建設・維持し米偵察局が運用しするパインギャップ共同防衛施設と、米空軍が運用する地震測定拠点である「共同地質・物理基地」を北部准州に抱えている。

2018年11月の「イプソス・アップデート」によると、世論の79%がオーストラリアの核禁条約加入を支持している。労働党は2018年12月の党大会で、翌年5月の連邦総選挙で勝利したら核禁条約を署名・批准すると公約していた。

ICANの共同創設者でICANオーストラリアの理事でもあるディミティ・ホーキンス氏はIDNの取材に対して、「核軍縮に関する勇気ある立場に回帰し、核兵器の廃絶を巡る新たな建設的対話を行う意思を持つ政府やメディア、民衆が必要です。この問題での行詰まりを打開するためには、新たな政治的意思が構築されなければなりません。世界中の人々が、オーストラリアが核禁条約にどのようなスタンスで臨むのか注目しています。拒絶と党派的立場を超えて問題を前進させることが重要です。」と語った。

Dimity Hawkins/ ICAN
Dimity Hawkins/ ICAN

「この条約を通じて、核兵器を禁止する包括的手段を提供するだけではなく、環境の回復や被害者支援の積極的な義務を伴った形で、核兵器が人間にもたらす問題に対処する道筋が与えられることになります。」と、ホーキンス氏は語った。

オーストラリアは過去に、とりわけ化学兵器の問題に関して、多国間軍縮条約の実現に重要な役割を果たしたことがある。また、米国が依然として反対していた時期に、地雷禁止条約クラスター弾禁止条約にも加わっている。

報告書では、医療機関や国際法曹界の関係者、さまざまな党派の議員、宗教指導者らが、オーストラリアが核禁条約を署名・批准すべきことを訴えている。

元最高裁判事で報告書の寄稿者であるマイケル・カービー氏はIDNの取材に対して、「オーストラリアでは、実際上初めて宗教が公的な空間に入り込み、政治指導者らが公的に祈りを捧げる姿が見られようになりました。私の見解では、彼らの公的な祈り(そして核兵器規制への敵意)を、核備蓄を解体し、その使用や使用の威嚇を禁止する効果的な国際的行動への緊急の関与に転換すべきだと思います。意気軒昂なニュージーランドのように、オーストラリアも核禁条約に署名・批准すべきです。」と語った。

ICAN
ICAN

ニュージーランドに加えて、タイとフィリピンが、米国との軍事協力に支障をきたすことなく核禁条約に署名している。

報告書は、1945年以来核兵器が使用されなかったのは、単に運が良かったからだと指摘している。過激主義者やハッカー、不安定な政治的指導者がいれば、状況は悪化する。

条約支持派は、核禁条約によって軍縮への新たな動きと実際的な道筋が与えられると主張している。核禁条約は、核兵器に関する既存の国際条約、とりわけ、南極条約(1959年)、宇宙条約(1967年)、NPT(1968年)、海底軍事利用禁止条約(1971年)、包括的核実験禁止条約(1996年)、5つの地域的非核兵器地帯条約を補完するものだ。

オーストラリアは、南太平洋非核兵器地帯条約(ラロトンガ条約、1985年)も含めた上記の条約すべての加盟国になっている。(原文へ

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プラスチックを舗装材に変えるタンザニアの環境活動家

【ダルエスサラームIDN=キジト・マコエ、グッドホープ・アマニ】

ダルエスサラーム郊外、ゴンゴ・ラムボトは、蒸し暑い典型的な午後を迎えていた。アブドゥラー・ニャンビさんは、舗装材を作るために、プラスチックごみを鉄と一緒に巨大な金属炉に投げ込む仕事に精を出していた。

黄色のマスクを装着したニャンビさんは、溶けたプラスチックを混ぜる一方で、その上に砂をまき散らし、固めていく。「舗装材を作るためにどんなプラスチックでも使います。」と、黄色いTシャツを汗だくにしたニャンビさんは語った。激しい火がプラスチックを溶かして濃い液体に変え、黒い煙が空に立ち上っている。

「舗装材に十分な強度と防水機能を持たせるために、溶けたプラスチックに特定の割合で砂を加えます。この極めて安価で環境にやさしい技術は、街をプラスチックの脅威から守ることにつながるのです。」とニャンビさんは語った。

SDGs Goal No. 12
SDGs Goal No. 12

この26歳の起業家は、この街のプラスチックごみの管理問題に懸念をもつ若者からなる新興企業の共同保有者だ。昨年発足した「プラスチック・リサイクリング青年組織」(PREYO)という名のこの企業はすでに800トンのプラごみを処理し、建築資材に変えてきた。

煙が立ちのぼるタンザニアの商業都市の環境活動家らは、木材をプラ資源に置き換えることで、急速に進行したタンザニアの森林破壊を抑える狙いで、大量のプラごみを建築資材に変えてきた。

PREYOの別の創設者であるリベラタ・カワマラさん(24)は、環境保護への熱意を抑えきれず、以前の物流の仕事を離れた。この活気に満ちた都市の自然環境を汚す大量のプラごみを拾い、それらを舗装材やプラスチック・フラワー等の建築資材に変えている。

「環境を保護しながら、同時に収入を生むようなことをしたいと常に思っていました。」とカワマラさんは語った。

熱意に駆り立てられたカワマラさんは、都会に散らばるプラごみを清掃し、仕事を創出するとともに、木々の保護に努めている。

政府統計によれば人口440万人、アフリカで最も急成長している都市の1つであるダルエスサラームは急速に都市化している。インフラは不足し、住民の7割は、基本的な生活環境や衛生を欠いた雑居地帯へと追いやられている。

毎日農村地帯から流入する大量の移住者が、すでに老朽化した都市インフラを圧迫しており、プラごみの処理対策の不備といった多くの問題を引き起こしている。プラごみは、景観を汚し、水路を詰まらせ、海を汚染し、多くの人々の生存そのものを脅かしている

カマワラさんによると、彼女の会社がプラスチックから作った丸太の製材や花、ブロックは、プラゴミに対する地域の考え方を変えつつある、という。人口密度の高い地区の住民らが、建築資材としてこれらのリサイクル商品を使用しつつあるのだ。

「地域の反応をみて、とても嬉しく思います。もっと頑張ろうという気になります。」と彼女はIDNの取材に対して語った。

タンザニアはビニール袋の使用を完全に禁止しており、政府は、環境汚染抑制策の一環として、違反者に対する厳しい取り締まりを言明している。

Map of Tanzania
Map of Tanzania

同国の『全国環境統計報告2017年版』によると、ダルエスサラームでは1日あたり4600トン以上のゴミが生まれ、2025年までには1万2000トンまで増えると見られている。

廃棄ペットボトルの回収はますます儲かるビジネスになりつつあるが、市当局には適切なごみ処理を行うための一貫した戦略とメカニズムがない、と識者らは考えている。

「毎日出てくるゴミの管理を小さな会社に頼るわけにはいきません。政府はこの問題に対処するための資源をもっと投じるべきです。」とダルエスサラーム大学のエムロッド・エリサンテ教授(環境工学)は語った。

PREYO設立の構想は、国連が主催した展示でカマワラさんとニャンビさんが出会った2018年初頭に始まった。この展示で彼らは、プラごみを有益な建築資材に転換する技術を披露した。

彼らは、短い会話を交わした後、雇用創出にプラゴミを有効活用するという夢を実現するために、協力していくことにした。

カワマラさんと彼の支援者らは、チームとしての活動を楽しんでいる。ある者はペットボトルやビニール袋を集め、またある者は金属炉を担当している。

カワマラさんによれば、この会社の目的の一つは、煉瓦用の砂の過剰使用を抑制する点にある。プラスチック製ブロックを使えば砂の使用が抑えられ、テメケ地域の土壌劣化を防ぐことができる。

また彼女は、会社では3.5キログラムの舗装材を600タンザニア・シリング(0.25ドル)で製造でき、しかも耐久性に優れ防水性もあるという。

SDGs Goal No. 11
SDGs Goal No. 11

会社が直面している問題の一つは、炉から排出される煙をフィルターにかける機械がないことだ。「煙の問題を最終的に解決できる新しい機械を導入したい。」とカワマラさんは語った。

カワマラさんは、タンザニアの若年層の間では失業問題が深刻化しているので、将来的には、勤勉な若者に雇用を提供するような立場に彼女の会社はなっていくだろうと語った。

PREYOは現在、回収したペットボトル1キロあたり0.12ドルを支払っている。

現在のところ、日産でプラ板が100枚、プラ部品が40~60個といったところだが、高性能加工機械を導入すれば、少なくとも200枚の生産にまで持っていきたいと考えている。

「私は非常に楽観しています。将来は明るいと思っています。」とカワマラさんは語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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米ロ軍縮条約への高まる懸念

【ニューヨークIDN=ジャムシェッド・バルーア】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、『私たち共通の未来を守る』と題した軍縮アジェンダで、核軍縮に向けた対話の再活性化、真剣な協議、共通のビジョンへの回帰を訴えた。

来年、核不拡散条約(NPT)の190カ国以上の加盟国が、2020年再検討会議のためにニューヨークに集う。条約発効50年の節目となる年だ。専門家によれば、この会議を成功させるには大きな難題を乗り越えなくてはならないという。しかしながら、国際的な安全保障環境は悪化の一途をたどっている。

 中距離核戦力(INF)全廃条約からの米国の撤退が発効する8月2日を前に、「憂慮する科学者同盟」(UCS)グローバル安全保障プログラムの共同ディレクターであるデイビッド・ライト氏は、「この歴史的な条約から撤退するのは近視眼的であり、米国とその同盟国の安全保障を長期的には損なうことになるだろう。」と語った。

David Wright/ Union of Concerned Scientists
David Wright/ Union of Concerned Scientists

ロナルド・レーガン大統領とミハイル・ゴルバチョフ書記長が1987年に署名したINF条約は、核あるいは通常弾頭を搭載できる短距離および中距離の地上発射ミサイルと、それらの発射装置を禁止している。

ライト氏はさらに、INF条約の破棄によって「米ロ間の緊張は高まり、安定を損なうような通常型ミサイルの配備競争へと道を開くだろう。」と警告した。

ドナルド・トランプ大統領が無分別に破棄しようとしている歴史的なINF条約によって、射程が500~5000キロまでの範囲の核弾頭及び通常弾頭を搭載した地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルが米ソ合計で2692発削減されたという事実を、ライト氏は強調した。

専門家らは、新型の地上発射型巡航ミサイルの実験という形でロシアが条約違反を犯したようであることは認めている。しかし、米国がポーランドとルーマニアに配備したミサイル防衛システムに関するロシア側の苦情にも一理あると主張している。

このシステムはミサイルを迎撃する目的のものだが、同時に、巡航ミサイルを発射する能力も備えている。そして、こうした発射装置を配備することは条約違反に当たる。米国はロシアとこの問題を協議することで、両国の懸念を解決し、INF条約を救おうとするつもりはないようだ。「ロシアが違反しているから米国の条約脱退は正当化される」という言い分は現状を全体としてみていない、と専門家らは論じている。

THAAD interceptors/ The U.S. ArmyRalph Scott/Missile Defense Agency/U.S. Department of Defense - Successful Mission, Public Domain
THAAD interceptors/ The U.S. ArmyRalph Scott/Missile Defense Agency/U.S. Department of Defense – Successful Mission, Public Domain

ワシントンのシンクタンク「軍備管理協会」のキングストン・ライフ軍縮・脅威削減政策局長は、「トランプ政権は2月に、INF条約なきあとにロシアが禁止されたミサイルや新型ミサイルを追加配備することを防止する実行可能な外交的・経済的・軍事的戦略を持たないまま、同条約から脱退するとの意図を『無謀にも発表してしまった』というのが実情です。そうした戦略もなく、配備する場所も考えずに中距離ミサイルの生産に走るのは意味をなしません。」と語った。

軍備管理協会の専門家らは、米国防総省が、INF条約で制限されている射程を超える3種の新型ミサイルシステム開発のために、2020会計年度に1億ドル近くを要求していると語った。民主党が多数を占める下院は、ミサイルの必要性に疑問を呈している。下院版の2020会計年度国防授権法案と国防歳出法案は、これらミサイルに関するペンタゴンの予算要求を退けている。

軍備管理協会のダリル・キンボール会長は、「INF条約がない状態で欧州における新たなミサイル競争を防ぐには、米国とNATOによるより真剣な軍備管理構想の策定がなされねばなりません。」と指摘したうえで、「例えばNATOは、ロシアがNATOの領域を攻撃可能なINFが禁止したシステムを配備しない限り、条約が禁止するミサイルやそれと同等の能力を持った核兵器を欧州に配備することはないとNATO全体として宣言することが考えられてます。」と語った。

Daryl Kimball/ photo by Katsuhiro Asagiri
Daryl Kimball/ photo by Katsuhiro Asagiri

UCSのライト氏は、「トランプ大統領の決定の背後には、米国の兵器体系をいかなる形であっても制約を加えるような合意に対する嫌悪があります。しかし米国は、この条約によって、自国のミサイル846基の廃棄に対して、ソ連のミサイルを1846基廃棄させるという成果を上げてきました。INF条約は、30年以上にわたってミサイル戦力の増強を防止してきた合意なのです。条約に依って問題の解決を図るほうが、条約を破棄するよりも米国の安全保障にとってプラスとなる方策です。」と語った。

INFから脱退したことで、新戦略兵器削減条約(新START)が米ロ間の唯一の二国間核軍備管理協定となった。「もしトランプ大統領が新STARTからも脱退するか、失効させる事態となれば、1972年以来初めて、両国が相互に制約のない状態で核戦力を運用することになります。」とライト氏は警告した。

「INF条約に続いて同様に新STARTも失効すれば、このおよそ半世紀で初めて、世界の二大核戦力に対する、法的拘束力があり検証可能な制限がなくなってしまうことになります。」とトマス・カントリーマン元国務次官補(国際安全保障・不拡散担当。現在は軍備管理協会理事会議長)は語った。

スイスの軍縮問題専門家オリビエ・タレネルト氏は、戦略核兵器の配備を制限する合意である新STARTは2021年2月5日に失効すると指摘する。両当事国は、条約を最大5年間延長することができる。

「しかしこれは、核拡散という、ますます広がる深い傷口に絆創膏を張って済ませようとするようなものです。本当に効果的な手当てをしようと思うならば、核軍備管理に関する全く新しい考え方が必要になります。」と、ETHチューリッヒでシンクタンク「安全保障研究センター」を率いるタレネルト氏は語った。

核軍備管理に関する新しい考え方が必要な理由として、タレネルト氏は次の2つを挙げた。

第一に、核軍備管理は将来的に、二国間よりも多国間のものでなければならない。その理由は、冷戦期と異なり、欧州は今日のグローバルな紛争においてもはや主要な役割をはたしていないからだ。代わってアジアの重要性が加速度的に増しており、核軍拡競争に関しても同様である。中国やインド、パキスタンは核戦力については米ロに大きく後れを取っているものの、着実に戦力の増強を進めており、もはや無視できない存在になっている。

「この意味で、中国を将来的に巻き込むとのトランプ政権の考えは的外れではない。米国政府の見方では、そうしたステップは不可避だ。なぜなら、中国は21世紀における大きな問題として、ロシアを上回りつつあるからだ。」

「第二に、将来の軍備管理は、核兵器だけに焦点を当てるわけにはいかない。他の技術が戦略的安定性に影響を及ぼすようになってきている。ミサイル防衛や長射程の通常型精密兵器、対潜防衛、移動型大陸間弾道ミサイルを探知・追跡するシステムなどがそれである。サイバー関連の問題や宇宙の役割が、全体として重要性を増しつつある。」とタレネルト氏は語った。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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キルギスで勉強に没頭するアフガン出身の学生

【ナルン(キルギス)IDN=バギムダート・アタバエワ】

トゥルガンベイ・アブドゥルバキドフ君は、アフガニスタンからキルギスのナルン地域に2年前に移住した16歳の少年である。家族はパミール高原で牛を育て生計を立てていた。電気もまともな医療や教育機関も頑丈な家もなく、文字通りタジク語でパミール(=世界の屋根」)に住むこれらの人々は、アフガニスタンからタジキスタン、キルギスにまたがる事実上の無主の土地に暮らしている。

「僕の家族は遊牧生活をしてきました。」と言うトゥルガンベイ君にとって、最近ナルンに移ってきたのは正解だった。「いつも勉強したかった。それがキルギスで新たな生活をしたいと思った一番の動機でした。」と、トゥルガンベイ君はIDNの取材に対して語った。

トゥルガンベイ君は地元の「専門および継続教育学校」(SPCE)の「アクセス・プログラム」への入学を許された。このプログラムは、社会的に脆弱な立場にある子供を支援することを目的としている。アメリカ評議会から資金援助を受けているため、学費は必要ない。トゥルガンベイ君が編入したプログラムは、英語、IT、地域サービスの3つの科目で構成されている。生徒らはまた、文化的イベントにも積極的に参加し、ボランティア活動を組織化するよう推奨される。

SDGs Goal No. 4
SDGs Goal No. 4

トゥルガンベイ君は、2018年11月にこのプログラムに加わった。自身の年齢から言えば9年生相当になるのだが、6年生に編入することになった。担当教諭の一人であるザリーナ・ティナイベコワさんは、「彼に対する強い先入観はありませんでした。」と指摘したうえで、「(寄宿学校の教員の)誰もが、彼がプログラムについていけるように見守りと支援が必要だと理解していました。私達は教育省から特別な指示を受けて教材を調整し、1年間で彼が2つのクラスを終われるか様子をみたところ、驚くことにやってのけたのです。彼は大変な努力家です。」と語った。

トゥルガンベイ君はその年を首席で終えた。SPCEの英語教師アイヌラ・アラカエワさんは、「彼は私のグループで一番活発な生徒の一人でした。」と語った。他の生徒との違いを聞かれると、アラカエワさんは、好奇心と人懐っこさを挙げた。「技術を早く習得するので驚いています。コンピューターの作業やビデオ製作が好きで、既に写真やビデオを編集するスキルを身につけました。好奇心と向上心の賜物だと思います。」と語った。

トゥルガンベイ君の話は、紛争が燻るこの地域に暮らすミレニアム世代の多くにとって、珍しい話ではないかもしれない。しかし、変化にひるむことのなかった彼の経験から学ぶことはあるかもしれない。

この地域を移動してきた人々の歴史は、キルギス民族が16世紀にパミール高原北部に移動し始めた数世紀前に遡れるだろう。そしてキルギス人の第2波は1920年代から30年代にかけてこの地に移住してきた。彼らはソ連がキルギスを支配してから行われるようになった家畜の強制徴発を逃れてきた人々だった。

英国領インドとロシア領中央アジアとの間の緩衝地帯としてワハーン峡谷がアフガニスタンに与えられてから、政治的境界がパミール高原のキルギス人を2つの大きな集団に分断してしまった。それらは、現在のタジキスタンに住む6万5000人以上の大集団、それに、ソ連が干渉しなかったアフガニスタンに住む2000人という小集団であった。

Location map for Pamir mountains/ Wikimedia Commons
Location map for Pamir mountains/ Wikimedia Commons

昨年10月17日の深夜、ナルンの自治体と地元住民らが街のメイン広場に集まった。彼らは、アフガニスタン出身の6家族を新たな家庭に受け入れた。地元メディアが彼らの窮状について報道し、自治体が家屋を提供すると約束した。しかし、約束はすぐには果たされなかった。公共住宅の提供が微妙な問題になってくるにつれ、人々は、アフガニスタンとの責任の分担、適切な書類の必要性、文化的同質性と差異をめぐって議論した。

当時地元の人々の意見は割れていた。支援を表明する人がいる一方で、移民が望ましい効果をもつか懐疑的な人もいた。パミール高原に住んでいた人々が地元の気候や生活様式、文化、技術に適応できないという考えもあった。彼らの意見は、結局正しかった。ナルンへの移住を望んで来た者のうち約3分の1が、パミール高原に戻っていったのである。

まったく異なる世界から来たトゥルガンベイ君は、難題に積極的に立ち向かい、自分の夢を実現するために一生懸命に勉強した。学校のカリキュラムを調整するというキルギス教育省からの特別な指示の結果、彼はチャンスを掴み、大成功を収めた。

著名な学者・研究者であるウソン=アサノフ氏にちなみ名づけられたこの学校でトゥルガンベイ君の担任を務めるザリーナさんは、「初めから、彼はよくしゃべり、好奇心の塊でした。ナルンの子供達と比べると、彼は外向的で、他人に直言するのを恐れませんでした。学校に来た時から本当によく質問をします。」と語った。

「僕にとって一番難しかったのは、技術に慣れることではなく、キリル文字の読み書きに慣れることでした。」とトゥルガンベイ君は語った。彼はキルギスに来てからいまだにアラビア文字を使っている。ノートを取ったり、レポートを書いたり、電話を使う段になり、それらをキリル文字に変換するのである。

この宗教的に寛容な国で、彼は、学校の外でいくつかの問題に直面した。乗り越えるのが難しい問題もあった。イスラム教徒の一家であり、コーランを基本的な決まり事とみなしている社会から来たトゥルガンベイ君の目には、クラスメートの行動や生活様式は異質なものに見えた。時としてそれは、あまりに大きな違いだった。限られた時間の中、彼は敬虔なイスラム教徒として1日に5回祈りを捧げる義務を何とか果たした。学校でうまく理解できないことがあると、彼はより多くを学び、質問をした。

Map of Kyrgistan
Map of Kyrgistan

マドラサでの勉強を続けたい」と語ったトゥルガンベイ君は、この夏を有意義に過ごすために、キルギスの別の街であるカラバルタにあるマドラサで学んでいる。「彼はおおらかで辛抱強い若者です。彼は誰にでも、特に女子に助けの手を差し伸べてくれるから、クラスメートからの信頼も厚い。友達は尊敬の念を込めて彼を『ベイケ』(キルギス語で「お兄ちゃん」)と呼んでいます。」とザリーナさんは語った。

トゥルガンベイ君は信心深く穏やかな若者だが、より世俗的な場でも、大人数の前でひるまずに歌ったり演じたりする。地元の劇場で最近あったイベントでも、英語に訳されたキルギスの歌『ウランベクの家族』を歌い、英語で観客に挨拶もした。

「むかしアフガニスタンで通っていた学校は家から遠かった。でも、私たちの社会では教育は軽視され選択肢にすら入っていません。小さな子供達は父親を手伝って牛を育てる。だから将来の仕事はもう決められているようなものでした。」とトゥルガンベイ君は語った。

パミール高原とキルギスの生活は随分違っているが、トゥルガンベイ君は日常の習慣で1つだけ変えなかったことがある。それは、自ら学び、学ぼうとする他人をも助ける習慣だ。

彼がかつて通っていたアフガニスタンの学校と違って、ここでは本もたくさんあり、インターネットも使え、様々な教科を学ぶことができる。自分が幸運だったと彼はわかっている。ナルンの子どもたちにとってはこれが普通のことだから、その価値を忘れるかもしれない、とトゥルガンベイ君は気づいている。しかし、彼の故郷では、人々は文明から隔絶され、知識と食料に飢えた生活を送っている。

彼は今、教育が新たな扉を開き、自身の過去や宗教的信条を捨てることなく新たな文明に入ることができると感じている。「理科や英語、ロシア語だけではなく、神学のような精神的な学問分野も勉強したいです。マドラサでの勉強も続けたい。また、私は常日頃から多くを分かち合いたいと思っているし、教師は次の世代に直接影響を与えられるので、教師になってリーダーを育てていきたい。」とトゥルガンベイ君は語った。(原文へ

Overlook of Naryn, Kyrgyzstan from the south/ By Pmelton87 - Own work, CC BY-SA 4.0
Overlook of Naryn, Kyrgyzstan from the south/ By Pmelton87 – Own work, CC BY-SA 4.0

※筆者は、中央アジア大学(キルギス)でメディア研究を専攻する学生。キルギスの特派員としてIDN・インデプスニューズのインターンシップをしている。

翻訳=INPS Japan

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INPS-IDN Special Coverage of High-Level Political Forum

IDN-InDepthNews, flagship agency of the International Press Syndicate group and its partner, the Global Cooperation Council provided an in-depth extensive coverage of the 2019 High-level Political Forum (HLPF) on sustainable development convened under the auspices of the Economic and Social Council (ECOSOC), from July 9 to July 18, 2019 – including the three-day ministerial meeting from July 16 to July 18, and the High-level Segment of ECOSOC on July 19 in ECOSOC Chamber.

IDN reports looked closely at diverse aspects of the 2019 HLPF overarching theme: Empowering people and ensuring inclusiveness and equality. This comprised the set of the following six Sustainable Development Goals:

Goal 4. Ensure inclusive and equitable quality education and promote lifelong learning opportunities for all

Goal 8. Promote sustained, inclusive and sustainable economic growth, full and productive employment and decent work for all

Goal 10. Reduce inequality within and among countries

Goal 13. Take urgent action to combat climate change and its impacts

Goal 16. Promote peaceful and inclusive societies for sustainable development, provide access to justice for all and build effective, accountable and inclusive institutions at all levels

Goal 17. Strengthen the means of implementation and revitalize the global partnership for sustainable development. [INPS-IDN – July 2019]

Collage by Katsuhiro Asagiri, INPS-IDN Multimedia Director

|アフリカ|鉱物資源の収奪と環境破壊に苦しむ地元住民

【ハラレIDN=ジョフリー・モヨ】

10年以上前、トビアス・ムクワダさんは、中国からダイヤモンドを求めてきた掘削業者に自宅を跡形もなく取り壊されてしまった。今年74歳になるムクワダさんは、今なお、あの時の中国人商人らが自分たちのことを覚えていて、いつかまともな家を提供してくれることを夢見ながら、自分たちで建てた粗末な藁葺屋根の掘立小屋に家族と住んでいる。

しかし、貧困にあえぐムクワダさんと家族にとって、それは甘い夢なのかもしれない。

ジンバブエのロバート・ムガベ元大統領は2016年、中国のダイヤモンド採掘業者に対して、東部の高地から退去するよう命じた。

「中国人はダイヤモンドを掘削するために家を壊すと言って、私たちを追い出しました。新しい家を建ててくれるという約束でしたが、ほんの一部の人しかそうしてもらっていません。彼らは私たちの土地にあるダイヤモンドで手っ取り早く儲けた一方で、私たちは貧困のどん底に落とされたのです。」と、ムクワダさんはIDNの取材に対して語った。

SDGs Goal No. 12
SDGs Goal No. 12

中国系企業「アンジン」は2016年2月、ムバダ・ダイヤモンド社とともにジンバブエ政府からの退去処分を受けた。特別免許が失効しているということが理由だった。それに先立って、当時のムガベ大統領は、ダイヤモンドの大規模な流出・密輸に関わっているとして、両企業を非難していた。

エマーソン・ムナンガグワ新大統領に政権交代した現在でも、ジンバブエの豊かなダイヤモンド鉱床を巡る問題は収まる気配がない。今年になって、別の中国系採掘業者への門戸が再び開かれたからだ。

海外企業によるジンバブエ産ダイヤモンドの流出により、数十億米ドルもの歳入が失われた。ムガベ元大統領は、93歳を祝うテレビインタビュー(2016年)で、同国はダイヤモンド採掘の収入150億ドルを失ったと語った。

こうした略奪が横行する中、ムクワダさんのような多くのジンバブエ国民は、豊かな宝石資源が埋もれた土地に住んでいながら、貧困にあえいでいる。

しかし、アフリカ大陸の各地で海外企業が鉱物資源を奪う中で貧困に苦しんでいるのは、ムクワダさんのようなジンバブエ国民だけではない。

ザンビアでは、アニル・アガルワル氏のような銅採掘王(英国の資源大手「ベダンタ・リソーシズ」社を保有するインドの億万長者)が多額の徴税逃れをしていると政府から非難されている。ザンビアのドラ・シリヤ情報相は5月、首都ルサカで記者団に対して「同企業には30億1000万クワチャ(=約251億8千万円)の税金支払い義務がある。」と語った。

Map of Zambia
Map of Zambia

しかし、南に国境を接するジンバブエと同じく、約1800万人の人口を抱えるザンビアも、深刻な貧困問題と闘っている。世界銀行によると、ザンビア国民の貧困率は60%で、そのうち、一日1.25ドル以下で生活している最貧困層は42%にもなる。

ザンビアは鉱物資源が豊かであり、特に銅は国の外貨収入の75%以上を占め、2017年には61億ドルだった。同国はアフリカで第2の銅生産国であり、米国の「2015年地質調査」によると、世界第8位の埋蔵量を誇る。

しかし、ザンビアに対する海外投資家と包括的大採掘プロジェクトは、貧困線以下で暮らす人々の生活にほとんど効果をもたらさなかった。

ザンビアの経済学者らは、長年にわたって採掘してきた地元の人々に還元しようとはしない海外企業に事業を斡旋してきた政府を非難している。

「腐敗した政府閣僚らは、海外企業に採掘を許可する前に、数百万ドルとは言わないまでも、数万ドル規模の賄賂を手にしています。一方で、鉱物を簒奪された貧しい地域コミュニティーには何の恩恵も与えられません。」と、ルサカの民間エコノミスト、デイビッド・ムワンサ氏は語った。

長年にわたり貧困に打ちひしがれてきたモザンビークのようなアフリカの国々で、海外採掘企業が来てから事態が大きく好転した国はほとんどない。

最近、モザンビークのある高官が、一部の海外採掘企業に対して、貧困を悪化させ環境破壊を進めているとして、国内からの退去処分を課した。

モザンビーク・マニカ州のロドリゲス・アルベルト州知事は5月、中国と南アフリカの金採掘企業の営業停止処分を発表して、「私たちは、こうした会社に対して容赦はしません。もし彼らが対応しないなら会社を閉鎖するのみです。我が国の資源が、呪い(=長期にわたる貧困をもたらす原因)になることなど受け入れられません。」と語った。

世界銀行によれば、モザンビークの人口約3100万人のおよそ半数が貧困層であるという。

昨年発表された世界銀行の報告書「世界の富の推移2018:持続可能な未来をつくる」は、海外企業の野放図な金属・石油・ガスの採掘によって、いかにアフリカがより貧しくなっているかについて明らかにした。多国籍企業によってアフリカの天然資源が大量に毀損していることが示されたのである。

The Changing Wealth of Nations 2018./ The World Bank Group

報告書によれば、海外からの直接投資誘致を狙ったアフリカの短絡的な「開発政策」が、非生産的なものとなってしまったという。とりわけ、資源が豊富な国にとっては、天然資源の毀損が他の投資によって埋め合わされていることはほとんどない。

海外採掘企業の餌食と化している人口約8700万人のコンゴ民主共和国に目を向けると、カタンガ州がダイヤモンドや金、タンタルといった希少鉱物を含む豊富な天然資源を有している。

カタンガ州では当時のローラン=デジレ・カビラ大統領と、後にはその息子のジョセフが、国際的採掘企業に採掘の許可を与えたことから、21世紀に入るころから採掘ブームが始まった。その後年を重ねるにつれて、この仕組みの下で、コンゴ民主共和国のエリート層と、採掘企業が莫大な利益を享受したが、貧困に喘ぐ住民には何も与えられなかった。

国連の調査によると、カビラ政権は1999年から2002年にかけて「国家採掘部門の少なくとも50億ドルの資産の所有権を民間企業に移したが、国庫には何の補償もなかった」という。

トレサー・モナイド氏のようなコンゴ民主共和国の開発問題専門家からすると、人口の多いこの国の鉱物資源は、多くのコンゴ国民にとって、「恵み」というよりもむしろ「呪い」といった存在になっている。「政治家は数百万ドル規模の賄賂を手にし、めったに税金など払うことのない海外採掘企業に豊かな天然資源を二束三文で売り払ってしまいました。この国の状況は病的だ。」とキンシャサを拠点にする独立系開発専門家モナイド氏は語った。

he New Colonialism: Britain's scramble for Africa's energy and mineral resources/ War on Want
he New Colonialism: Britain’s scramble for Africa’s energy and mineral resources/ War on Want

『ファイナンシャル・タイムズ』の調査報道記者トム・バーギス氏によれば、「コンゴ民主共和国の失われつつある富、荒れ狂う暴力と最悪の貧困という組み合わせは、偶然に起こったものではなく、アフリカ全体を襲っている大惨事の1つのパターンとなっている。」

貧困問題の解決を目指すイギリスのNGO「欠乏との闘い」が2016年に出した報告書『新たな植民地主義:アフリカのエネルギー・鉱物資源にたかるイギリス』によれば、アフリカ大陸は、天然資源、とりわけ戦略的なエネルギー・鉱物資源を略奪しようとする壊滅的で植民地主義的な侵略に新たに直面しているという。

報告書で挙げられた事例の一つは、モロッコが占領している西サハラのガスと石油を狙う動きである。モロッコは1975年以来、西サハラの大部分を占領している。人口の大部分は武力によって追放され、その大半にあたる16万5000人が依然としてアルジェリアの砂漠地の難民キャンプで生活している。

西サハラのケースは、多くの人が自分の国で不法占拠者となる状況に追い込まれた典型だ。これは、ジンバブエでムクワダさんのような多くの貧しいアフリカ人を、手段を選ばない方法で、自らの土地から追い出した海外採掘企業を引き寄せた、鉱物資源の呪いである。

「私たちには、鉱物資源ではなく貧困しかありません。」と、ムクワダさんは語った。(原文へPDF

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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世界の人口、2050年までに100億人に到達と予測:SDGsへのあらたな挑戦

【ニューヨークIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

今日の世界の人口は77億人だが、10年も経たないうちに約85億人に、さらに2050年には100億人になり、世界人口の増加の過半はごく僅かな国で発生すると国連報告書で明らかにされた。

国連経済社会局人口部が発行した『世界人口推計2019年版』は、世界の人口変動パターンと見通しについて包括的な見方を提供している。報告書は、世界の人口は21世紀末に110億人にも達する可能性があるとしている。

加えて、一部の国で人口が急速に伸びるのに対して、他の国では減少している。同時に、世界では高齢化が進み、平均余命が伸び、出生率が下がっている。このような世界人口の規模と分布の変化は、「誰も置き去りにしない」を標榜する持続可能な開発目標(SDGs)の達成に重要な影響を及ぼすことになる、6月17日に発表されたこの報告は述べた。

World Population Prospects 2019/ UNDESA
World Population Prospects 2019/ UNDESA

劉振民国連事務次長(経済社会担当)は、「この報告書は、何を目標に行動や介入をすべきかを示したロードマップです。最速の人口増加が見込まれるのは最貧国であり、これらの国々では、貧困の根絶(SDGs第Ⅰ目標)、不平等の是正(第5・10目標)、飢餓・栄養不良への対策(第2目標)、保健・教育システムの対象範囲と質の向上(第3・4目標)を推進して『誰も置き去りにしない』取り組みを行う上で、人口増加はさらなる問題をもたらしています。」と語った。

報告書によれば、インド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア連合共和国、インドネシア、エジプト、米国(予測される人口増が多い順)の9カ国において、現在から2050年までの間の世界の人口増加の過半が発生するという。インドは2027年ごろ、中国を抜いて世界で最も人口が多い国になるとみられる。

サハラ以南地域の人口は2050年までに倍増すると予測される(99%増)。2019年から2050年までの間の人口増加率が低下するとみられる地域は、オーストラリアとニュージーランドを除いたオセアニア(56%増)、北アフリカ・西アジア(46%)、オーストラリアとニュージーランド(28%)、中央・南アジア(25%)、ラテンアメリカ・カリブ海地域(18%)、東・東南アジア(3%)、欧州・北米(2%)が挙げられる。

全世界の出生率は、1990年の女性1人あたり3.2人から2019年には2.5人へと低下し、2050年までにはさらに下がって2.2人になると予測されている。2019年時点での女性一人当たりの出生率は、サハラ以南地域(4.6人)、オーストラリアとニュージーランドを除いたオセアニア(3.4人)、北アフリカ・西アジア(2.9人)、中央・南アジア(2.4人)であり、依然として2.1人を上回っている。1人当たり2.1人という出生率は、移民の流入がないという条件下で、長期的に見て人口減少を引き起こすことなく世代交代を実現するために必要な水準である、と報告書は述べている。

World Fertility Rate/ UNDESA
World Fertility Rate/ UNDESA

サハラ以南地域のほとんどの国と、アジアやラテンアメリカ・カリブ海地域の一部の国では、最近になって出生率が低下したことで、生産年齢人口(25~64才)が他の年齢層よりも早いスピードで増加している。

これは、「人口ボーナス」と呼ばれる著しい経済成長が期待できる機会が訪れていることを示唆している。この「人口ボーナス」から利益を得るには、各国政府がとりわけ若者のための教育や医療に投資し、持続可能な経済成長を生みだす環境づくりをしなくてはならない。

上記の調査では、最貧国の人々の平均年齢は世界全体よりも7才低い。1990年には64.2歳、2019年には72.6歳だった平均余命は、2050年にはさらに77.1歳まで伸びるとみられている。国々の間の寿命の差はかなり縮まってきたが、それでもまだ隔たりは大きい。

2019年現在、後発開発途上国の平均余命は、主に子どもと妊産婦の死亡率が高止まりしていることに加え、暴力や紛争、さらにはHIV蔓延による影響の継続により、世界全体を7.4歳下回っている。

報告書のもう一つの注目点は、世界の人口が高齢化しており、とくに65歳以上の年齢層が急速に拡大しているということだ。

2050年までに、世界の人口の6人に1人(16%)が65歳以上となる。2019年は11人に1人(9%)であった。65歳以上の人口の割合が2019年から2050年までの間に倍増する地域は、北アフリカ・西アジア、中央・南アジア、東・東南アジア、ラテンアメリカ・カリブ海地域である。

2050年までに、欧州と北米地域に暮らす4人に1人は、65歳以上となる可能性がある。2018年には、歴史上初めて、世界全体で65歳以上の人口が5歳未満の子どもの数を上回った。80歳以上人口は、2019年の1億4300万人から2050年には4億2600万人と、3倍に増えるとみられている。

生産年齢人口の減少は、社会保障制度に財政圧力をかけている、と報告書は述べている。

生産年齢人口の65歳以上人口に対する割合を示す「潜在扶養指数」が世界中で低下している。日本が最低で、1.8となっている。また、欧州とカリブ海地域を中心とする29カ国では、すでに潜在扶養指数が3以下となっている。2050年までには、欧州・北米、東・東南アジアをはじめとする48カ国で、指数が2を下回るとみられている。

こうした低い数値は、高齢化が労働市場と経済実績に及ぼす潜在的な影響のほか、多くの国が高齢者向けの公的医療、年金および社会保障制度を構築、維持しようとする中で、今後数十年で直面することになる財政圧力を如実に示している。

報告書はさらに、ますます多くの国で人口が減少していると指摘する。

2010年以来、27の国と地域で人口が1%以上の減少を示している。この原因として、低い出生率が続いている点が挙げられる。また場所によっては、低い出生率の人口規模に対する影響が、高い移民流出率によってさらに強まっている。

2019年から2050年にかけ、55の国と地域で人口が1%以上減少すると予測されるが、うち26の国と地域では、10%以上の人口減少がみられる可能性もある。例えば中国では、2019年から2050年にかけて人口が3140万人と、約2.2%の減少を遂げるものと予測されている。

報告書によれば、一部の国では、国際移動が人口変動の大きな要因となってきた。

2010年から2020年にかけ、14の国と地域で移民が100万人を超える純増となる一方、10カ国ではこれと同規模の移民流出が生じるとみられている。最も大規模な移民流出の中には、移民労働者に対する需要(バングラデシュ、ネパール、フィリピン)、または、暴力や治安悪化、武力紛争(ミャンマー、シリア、ベネズエラ)を主因とするものがある。

ベラルーシ、エストニア、ドイツ、ハンガリー、イタリア、日本、ロシア連邦、セルビアおよびウクライナでは、この10年間で移民が純増となり、死亡率と出生率の差によってもたらされる人口減少が部分的に相殺される見込みであるという。

「こうしたデータは、2030年を達成期限とするSDGsのグローバルな進展をモニタリングするために必要な根拠に欠かせない要素となります。」と、ジョン・ウィルマス国連経済社会局人口部長は語った。

SDGs logo
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またウィルマス部長は、「SDGsの進展状況をモニタリングするための指標のうち『世界人口推計』のデータに依存するものは、全体の3分の1を超えている」と付け加えた。

今回の報告書は、国連による26回目の世界人口推計・予測の主な結果を示すものである。報告書には、過去の関連する人口動向について入手可能なあらゆる情報の詳細な分析に基づき、235の国と地域について1950年から現在までに行われた推計の最新情報が盛り込まれている。

最新の評価では、1950年から2018年までに行われた延べ16900回の国勢調査の結果のほか、人口動態登録制度や2700回に上る各国の代表的な標本調査で得られた情報を用いている。2019年の改訂は、現在から2100年までの人口予測も提示し、全世界、地域および国内のレベルで起こりうるか、起こる公算が大きい幅広い結末も提示している。(原文へ

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【ナグプールIDN=OFMI】

スリランカの極右団体の本部をドイツ大使が訪問したことを巡る諸議論を報じた記事。リンドナー大使は世界最大級のボランティア団体を訪問したとしているが、ヒンズー至上主義を掲げる「民族義勇団(RSS)」は、過去にユダヤ人をはじめとする国内少数民族の迫害を進めたナチス・ドイツの政策を賛美たり、マハトマ・ガンジーの暗殺者も輩出した武闘派団体の側面ももっている。最近では、ノルウェー連続テロ事件を引き起こしたアンネシュ・ブレイビクがRSSの思想を礼賛していたほか、2002年に2000人以上のイスラム教徒が虐殺された暴動を主導したとみられている。South Asian OutlookとIDNのコラボ記事第8弾。(原文へ

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