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カリブ海諸国、核兵器禁止条約の早期発効を誓う

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

核兵器禁止(核禁)条約が122カ国によって採択されてから約2か月半後の2017年9月20日、ニューヨークの国連本部で同条約が署名に開放された。それ以降、70カ国が署名、23カ国が批准している。条約は、50カ国が署名・批准してから90日後に発効することになっている。

核禁条約は、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)や、世界各地のパートナー組織による10年に及ぶ活動の末に採択された。

このICANの弛みない努力に対して、2017年のノーベル平和賞が授与された。ICANとそのパートナー組織は、条約の早期批准に向けて必ず必要な第一歩として、少なくともさらに28カ国の批准を得るべく、活動を続けている。

ICAN
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プロセスを促進するために、国連核兵器廃絶国際デー(9月26日)の場を利用して、条約へのさらなる署名・批准を求めるハイレベルの式典が執り行われる。さらに今年の場合、7月9日~18日の日程でニューヨークにて開催される「持続可能な開発目標(SDGs)に関する国連ハイレベル政治フォーラム」、とりわけ3日間の閣僚会議も、核禁条約への署名・批准を図るさらなる機会となることだろう。

核禁条約を支持する人々は、条約採択に先立って、核兵器は人間や環境に対して壊滅的かつ広範で永続的な結果をもたらすにも関わらず、包括的な禁止に服していない唯一の大量破壊兵器であると論じた。この新たな条約は、国際法における重大な欠落を埋めるものである。

こうした背景の下、ICANは、核禁条約について議論し、地域的観点から条約を評価し、さらには、核軍縮やグローバル安全保障、人道的な規範の前進に向けた見通しや、条約発効に向けた前進を議論するために、ガイアナ外務省と協力してジョージタウンで「カリブ海地域フォーラム」を開催することになった。

この地域フォーラムには、アンティグア・バーブーダ、ベリーズ、グラナダ、ガイアナ、ハイチ、ジャマイカ、セントルシア、セントクリストファー・ネイビス、セントビンセントおよびグレナディーン諸島、トリニダード・トバゴから成る「カリブ海共同体」加盟国の専門家らが参加した。

「カリブ海地域フォーラム」は、冷戦後最悪とも言われる、核兵器使用の危機が高まる中で開催された。実際、高まる緊張や核兵器の近代化、軍事ドクトリンや安全保障概念における核兵器への継続的依存、高度警戒態勢の維持に加え、核兵器使用の威嚇が、核兵器の意図的あるいは偶発的な使用のリスクを高めている、と6月20日に発表された「ジョージタウン声明」は述べている。

他方、核兵器なき世界に向けた歩みが遅々として進展せず、核軍縮義務、とりわけ核不拡散条約第6条や核軍縮に関するその他の合意された措置や行動義務が引き続き履行されていない現状が、カリブ海地域や国際社会にとって依然として懸念材料となっている、と声明は警告している。

「カリブ海共同体」の加盟国は、つねに多国間主義と核軍縮・不拡散の漸進的なアプローチを強力に支持してきており、平和と安全保障問題に対する全体的なアプローチを主唱し、平和と安全保障、そして開発の間には本来的なつながりがあることを認識してきた。

CARICOM Map/ CARICOM Energy
CARICOM Map/ CARICOM Energy

ジョージタウン声明」は、平和なしに発展はないと同時に、平和は発展の前提条件であることをあらためて強調した。カリブ海共同体は、この原則的な立場を基盤として、「核兵器に関する人道イニシアチブ」に活発に加わり、核兵器が人間にもたらす帰結の問題を核兵器禁止(核禁)条約の必要性と結び付けた初めての地域となった。

カリブ海諸国は、核禁条約の採択につながった交渉プロセスを主導する勢力であり続けた。

「核禁条約は、カリブ海地域諸国も貢献した歴史的偉業だと見なされていた」と声明は指摘する。「カリブ海共同体」の加盟国は、条約にもっとも早く署名・批准した国々である。現在のところ、ガイアナとセントルシアの2か国が批准し、アンティグア・バーブーダ、ジャマイカ、セントビンセントおよびグレナディーン諸島の3カ国が署名している。

フォーラム参加者は、同条約に参加し、早期の発効と普遍的適用に貢献することでカリブ海地域が果たしてきた重要な役割があると指摘した。

「カリブ海共同体」加盟国には、核兵器を保有したり、他の核保有国の核によって守られている国はない。つまり、同共同体のすべての国々が、次のように述べている核兵器禁止条約第1条の禁止事項を遵守しているということでもある。

「締約国はいかなる状況においても次のことを実施しない。

(a)核兵器あるいはその他の核爆発装置の開発、実験、製造、生産、あるいは獲得、保有、貯蔵。

(b)直接、間接を問わず核兵器およびその他の核爆発装置の移譲、あるいはそうした兵器の管理権限の移譲。

(c)直接、間接を問わず、核兵器あるいはその他の核爆発装置、もしくはそれらの管理権限の移譲受け入れ。

(d)核兵器もしくはその他の核爆発装置の使用、あるいは使用をちらつかせての威嚇。

(e)本条約で締約国に禁じている活動に関与するため、誰かを支援、奨励、勧誘すること。

(f)本条約で締約国に禁じている活動に関与するため、誰かに支援を要請する、あるいは受け入れること。

(g)領内あるいは管轄・支配が及ぶ場所において、核兵器やその他の核爆発装置の配備、導入、展開の容認。」

ジョージタウン声明は、ラテンアメリカ・カリブ海地域を国際的に認められた非核地帯とした「ラテンアメリカ・カリブ海地域核兵器禁止条約(トラテロルコ条約、1967年)」にも核兵器禁止条約と同様の条項が含まれると指摘している。

SDGs logo
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したがって、トラテロルコ条約の加盟国が核兵器禁止条約を署名・批准することになっても、国内の履行に関して問題が生じることはない。核禁条約は、核兵器保有に対抗する地域の規範をグローバルな規範に転換することを目指すものだ。

声明はさらに、核禁条約と、核軍縮を前進させようとの努力は、17項目の持続可能な開発目標(SDGs)と169のターゲットを含めた「国連2030開発アジェンダ」の達成に資するものだと述べた。「今後数十年間で約2兆米ドルにものぼるとされる核保有国の核兵器支出は、開発とSDGsの達成のための資金を減らすことになる」と声明は論じている。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

フォーラムの参加者らは、核禁条約は1968年に署名開放した核不拡散条約(NPT)と何ら矛盾はなく、補完的なものであるとみなし、明確に核兵器を禁止することで軍縮を前進させ拡散の誘因を除去しようとする核禁条約の価値を認識した。

INPS Japan

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【ダルエスサラームIDN=キジト・マコエ】

「エイズではなくA評価を取って卒業しよう」というポスターがダルエスサラーム大学に貼られている。高い成績を得るために自らの性を提供する女子学生たちの暗い現状を物語るものだ。

「先生からデートに誘われました。でも性的関係を持つことを拒むと、報復として成績を下げられました。」と法科学生のヘレナさん(仮名:23歳)は語った。

ヘレナさんはその後勉強に身が入らなくなり、学生としての将来にますます不安を感じるようになっている。

名門校として知られるダルエスサラーム大学は、2018年末に女子学生に対するセクハラ疑惑が報じられて以来、注目を集めている。

ヘレナさんは性暴力の被害に遭った多くの学生に一人にすぎない。彼女は、グループディスカッションに参加するためにバオバブの巨木の下で友人らと車座になっていたが、突然沈黙を破って自身の身に起こったことを語り始めた。

Baobab, Adansonia digitata in Bagamoyo Tanzania / Muhammad Mahdi Karim - Own work, GFDL 1.2
Baobab, Adansonia digitata in Bagamoyo Tanzania / Muhammad Mahdi Karim – Own work, GFDL 1.2

「私は、大学の不正対策部門にこの問題を通報しました。支援を得られるといいんだけど。」とヘレナさんは語った。

女性の人権擁護団体によると、大学全体を覆っている「恥の文化」によって、性的虐待の被害者らが自分の被害を表立って語ることはますます難しくなっているという。

タンザニアの腐敗予防対策局(PCCB)は、女性に対するセクハラを抑止する取り組みの一環として、セクストーション(「性的な行為=SEX」と「恐喝=EXTORTION」を組み合わせた造語)に遭遇した被害者が女性担当者に被害を訴え出ることができる「ジェンダーデスク」を設置した。

このケースの場合、セクストーションとは、ある権威ある地位に就いている人物が、雇用や昇進/進級を望む学生や女性に対して、言葉上の強制を通じて性的な見返りを得る一種の腐敗形態である。

タンザニア政府がジェンダーデスクを設置したのは、ちょうど公務員の間での悪行を追放する名目で倫理ガイドラインを設けてから2年が経過したタイミングだった。女性の権利活動家らは、この動きはジェンダー暴力との闘いにおいて重要な意味を持つ、と歓迎している。

セクストーションは、腐敗と性的搾取が交差するところで起る世界的な現象である。この問題は被害者に肉体的・精神的苦痛を与えるにも関わらず、当局はさまざまな局面において、問題に対処することを怠ってきた。

ディワニ・アスマニPCCB局長は、同局の取り組みは、「男性優位の体制における性的嫌がらせの撲滅を視野に入れて、セクストーションの被害者に正義をもたらすことを目指しています。」と指摘したうえで、「女性たちには、ぜひ性的搾取を伴う不正行為ついて声を上げてほしい、と訴えています。沈黙を破ることで、彼女たちは正義の正しい側に立つことができるのです。」と語った。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

アスマニ局長によると、PCBBは、人々が性的虐待について通報できるように、無料のホットラインを新たに設置したという。

タンザニアではセクストーションは刑罰の対象になるが、法の執行体制は弱く加害者はしばしば罰金だけ払って釈放されてしまうため、抑止には不十分だと活動家らはいう。

タンザニアの「2007年腐敗撲滅法」第25条には、「権限を持つ立場にある者が、その権限の行使において、雇用や昇進、権利、特権、その他いかなる好意的処遇を与える条件として、性的行為、その他いかなる行為をも要求したり強要したりすることは罪に当たり、有罪とされれば、最大500万シリング(約23.6万円)の罰金か最大3年の収監、あるいはその併科を処される。」と記されている。

社会正義のための闘いがアフリカ各地で広がりを見せている。各国政府は女性の人権活動家らと協力して、増加傾向にあるジェンダーに基づく暴力を抑えようとしている。

キガリからアクラ、ナイロビからラゴスに至るまで、当局と女性の人権活動家らが、性的嫌がらせという好ましからざる傾向に対抗するための市民にやさしい仕組みを作り出すことに成功している。

ルワンダでは、女性を虐待から守るため、政府がUNウィメンの協力を得て2005年にジェンダーデスクを立ち上げた。

アナリストによれば、腐敗撲滅法制によってセクストーションを訴追する仕組みは一部整っているが、性差別や性的嫌がらせに関する法律もセクストーションにからむ虐待を対象としているという。

ケニアのジェンダー人権専門家エリアナ・ムブグア氏は「解雇を避けたい部下に性的行為を強要する上司は、性的嫌がらせとセクストーションの2つの行為に及んでいるということになります。」と説明した。

ムブグア氏によれば、性的嫌がらせに関する法律は、多くの場合、職場の問題だけを対象にし、行政処分に限られているという。

「女性の9割が性的嫌がらせを経験しているというタンザニアで、性的虐待の被害者が自らの体験を、訓練を受けた担当者に内密に話すことのできるジェンダーデスクが設置されたことは前進です。」と活動家らは語った。

10年以上前に、タンザニア・エイズ委員会で性的嫌がらせを経験したというダルエスサラームの社会正義活動家レイラ・シェイク氏は、こうした悪行に対して声を上げようと女性たちに呼びかけている。

「女性は、ジェンダー暴力に対して声を上げねばなりません。そうすることで、司法手続き(=正義の歯車)をする道が開かれるのです。」と、シェイク氏は語った。

NAMING, SHAMING, AND ENDING SEXTORTION/ UNODC
NAMING, SHAMING, AND ENDING SEXTORTION/ UNODC

人間の自信を喪失させるセクストーションは、他人の目に触れないところで起き、証拠もあいまいなため、立証が困難だ。問題が広がっているという断片的な証拠はあるが、当局は、被害者に悪いイメージがついてしまうことを恐れて、統計すら取っていなかった。

国際女性裁判官協会が2012年に出した「セクストーションを名指し、恥をかかせ、終わらせる」(Naming, Shaming and Ending Sextortion)と題された2012年のパンフレットは、セクストーションに対処する刑事司法システムには世界的に格差があることを指摘する一方、国内法・政策を改善する措置について提案している。

ダルエスサラーム大学のクリス・ピーター・マイナ教授(法学)は、根本的な倫理的価値に違背する性的強要を断罪し、高い地位にある人々に対して、権限を持つ部下に対する性的嫌がらせをやめるよう訴えた。

「誰かを誘惑することは、厳密に言えば法律違反ではないかもしれません。しかし、権限を持つ者は権力を濫用してはなりません。」とマイナ教授は強調した。

マイナ教授は、セクストーションの被害者に対して、表に出て加害者を訴えるよう強く促すとともに、「被害者が加害者を訴えるのを恐れることこそが、セクストーションに対する効果的な闘いを進めていくうえで、最大の障害なのです。」と語った。(原文へ

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植民地時代の反同性愛法が廃止される

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

同性愛を違法(最高で禁錮7年)とする刑法の廃止を支持する判断を下したボツワナ最高裁判所の判決と英国植民地時代に制定された反同性愛法を巡るアフリカの国々の状況に焦点を当てた記事。アフリカで反同性愛法が廃止されたのは今回のボツワナで3例目(アンゴラ、モザンビーク)。同法律を制定した英国では既に廃止されているにもかかわらず、5月にはケニアで従来の反同性愛法を支持する判決が下されるなど、アフリカでは54カ国のうち依然として30カ国以上で同性愛は禁止されており、LGBTIを狙った政府による弾圧や襲撃が頻発している。(原文へ

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【カラチIDN=セハール・ナズ・ジャナニ】

INPSが中央アジア大学と共同で、アジア各地のコミュニケーション・メディア専攻の学生を支援しているメディアプロジェクト。この記事は、パキスタンの学生記者が、同国の女性達に匿名取材し、彼女たちが公には言えない社会的な偏見・差別・虐待の実態を克明にレポートしている。ヒューマンライツ・ウォッチの2017年報告書によると、同国では1000人近い女性が「名誉殺人」で殺害されており、女性の21%が幼児期に結婚を強要されている。イムラン・カーン首相は女性のエンパワーメントを標榜しているが家庭内の慣習という分厚い壁に直面している。(原文へ

INPS Japan

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一杯のエスプレッソがもたらしてくれる未来への希望(マニュエル・マノネレス「平和の文化財団」代表)

【IPSコラム=マニュエル・マノネレス】

コーヒー好き(Coffee aficionados)なら、世界でもっとも優れたカフェのひとつは、ローマの歴史地区にある「サンテウスタチオ(Sant’Eustachio)」だということだろう。1938年以来、多くのコーヒー愛好者、とりわけ熱心なエスプレッソ信者の大半にとって、この店は「外せない」聖地でありつづけている。客が店の外で長蛇の列を成していることも少なくない。

SDGs Goal No. 12
SDGs Goal No. 12

この店のバリスタが淹れるコーヒーの完璧な味と至妙な香りの秘密を巡っては、長年に亘って数々の伝説が語られてきた。一般に、ここのコーヒー豆は薪をくべた火でローストしているということはよく知られている。しかしこの特徴だけでは、味と香りの秘密解明を待ち望むファンの疑問に対する十分な回答とはいえない。中には、この店のエスプレッソのユニークな品質の秘密は、淹れる際に使用する極めて純粋な水にあり、しかもその水は依然として機能している古代の水路から汲んだものだと言う人々もいる。ローマの歴史地区にある多くの建物では未だに古代の水路から水を汲んでいる状況を考えれば、この説は十分可能な範疇に入るだろう。

一方、この味と香りの秘密は特殊なコーヒーの淹れ方にあるという説も根強い。この伝説は、この店に2台あるエスプレッソマシンが配置されている特殊な角度の関係で、有名なコーヒーがどのように作られているのか客からは見れないことが関係しているのだろう。

M. Manonelles

 
しかし、このコーヒー好きのメッカに訪れる客の誰もが気づいていないことは、この店で使われている全てのコーヒー豆が、「アルトロメルカート(Altromerucato)」というイタリアのフェアトレード組織から仕入れたものだという事実だ。まさにカフェ「サンテウスタチオ」には、このフェアトレード組織を通じて、ブラジルエチオピアグアテマラドミニカ共和国ガラパゴス諸島セントヘレナから最高品質のコーヒーが送られてきているのである。

「フェアトレード」の意味とは、通常の市場価格よりも高い公正な価格で商品を仕入れること、生産者の地元の環境・社会を発展させるために、購入者と生産者が長期的な関係を取り結ぶ点にある。カフェ「サンテウスタチオ」が使用する全てのコーヒー豆は、このフェアトレードとオーガニック農法の基準に則って栽培されているのである。またこの場合、フェアトレード製品の買い付けを通じでコーヒーを焙煎する側と生産農家が直接に繋がり、ともに高品質のコーヒーを探求する関係へと発展していった。

この超有名カフェ(ここに通い詰める世界のセレブ顧客は数えきれないほど多い)の事例は、一般に抱かれている誤った認識を見事に覆すとともに、新たな事業のありかたを示している。ここでは、「市場」信奉者が考えているのとは反対に、商品の品質、商業的成功、社会的公正が見事に調和しており、しかも一体となって最高の結果を生み出しているのである。
 
私たちは、将来が見通せず不安に満ちた、経済・金融不安の時代を生きている。こうした中、私たちは、ともすれば無意識に或いは従来からの惰性から、そもそも今回の危機をもたらしたものと同じ手法を盲目的に使って物事に対処しようとする傾向がある。 

ローマの歴史地区を通りぬけて、カフェ「サンテウスタチオ」(語源は古代ローマの聖人Eustace=安定・実り多いの意」を訪問すれば、そこには現在支配的な経済・企業家モデルとは異なる実行可能な選択肢、すなわち人間を重視しそのことに付加価値を認めるモデルもあるのだということを知ることができる。私たちは、手遅れになる前に自分の行動を変えることができる、そんな希望をこのカフェは与えてくれているのではないだろうか。

翻訳=INPS Japan
 
※マニュエル・マノネレスは、平和文化財団(バルセロナ)ディレクター。

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|カメルーン|SMSで母子の命を救う

【ヤウンデINPS=ンガラ・キラン・チムトム】

「この喜びはなんとも表現できません。」カメルーン極北州ラグド出身のマルセリン・ドューバさんは、生まれて間もない孫を抱きながら、記者の取材にこう答えてくれた。

「もしあの医師が現れなかったら、きっと、この子と私の娘である母親は命を落としていたところでした。」ドゥーバさんは満面の笑みを浮かべて語った。

その医師とはパトリック・オクウェン氏のことで、国連人口基金(UNFPA)が支援している「モバイルヘルス(M-Health)プロジェクト」のコーディネーターである。M-Healthプロジェクトは、モバイル技術を活用して各地のコミュニティーに、医療・ヘルスケアサービスを「最も必要な時に」提供できるシステムを構築している。

Dr. Okwen Patrick Mbah
Dr. Okwen Patrick Mbah

世界保健機関(WHO)は、医師・看護婦に対して、一日当たり最大10人の患者を診察するよう推奨している。しかしカメルーン医師会のテタンエ・エコエ副会長は、「カメルーンにおける医師と患者の比率は、全国平均で医師一人当たりの患者数40,000人、さらに極北州や東部州のような僻地の場合は患者数50,000人近くになります。」と語った。

ドゥーバさんの娘サリー・アイシャトゥさんに陣痛が始まったのは、ちょうどオクウェン医師が数か月前に導入されたばかりのSMS(ショートメッセージサービス)のシステムを試している時だった。

ラグド病院にいたオクウェン医師と医療スタッフの元に、アイシャトウさんからのSMSが入った。この時点でアイシャトウさんは陣痛が始まって既に48時間が経過していたが、依然として赤ん坊が子宮内にとどまっていた。

「この番号がSMSを受信すると、コンピューターのサーバーが発信元のGPS信号を探知し、救急車のドライバーにグーグルマップ上に表示した位置を目指すよう指示をだします。また同時に医師に対しては病院に出勤するよう、看護婦には分娩に備えるようそれぞれ指示が出されます。こうして、直ちに関係者による患者の受け入れ態勢が稼働するのです。」とオクウェン医師はIPSの取材に対して語った。

オクウェン医師と救急車のドライバーは、SPG情報をたどってアイシャトウさんの自宅に急行した。自宅に入ると、アイシャトウさんがぐったりと倒れており、意識も殆ど失いかけていた。急いで搬送したところ、病院では手術室の受入れ態勢が整っており、直ちに緊急手術が施された。

8分後、アイシャトウさんは無事体重4.71キロの男の子を出産した。助産師のマノウ・ジャカオウさんはIPSの取材に対して、「その時の嬉しさと言ったら、なんと表現していいか分かりません。本当に感動で興奮しましたし、至福のひと時を過ごしました。導入されたこのシステムは本当に素晴らしいものです。この革新技術がなかったら、きっと私たちは母子が命を落とすところを、なすすべなく見守ることになっていたでしょう。」と語った。

手術から2時間後、アイシャトウさんは意識を回復し、生まれた赤ちゃんに(母子の命を救ってくれた医師にちなんで)オクウェンと名付けた。

ユニセフによると、カメルーンでは、出産の際に死亡する妊産婦の数は10万人あたり670人である。また同統計によると2012年、カメルーンにおいける乳児死亡率は1000人当たり61人だった。

「多くの女性が出産関連の問題が原因で死亡しています。つまり、命を生み出す最中に命を落としているのです。私たちはこの現状を憂慮していますが、モバイル技術の登場で、アフリカの女性にも希望の光がさしてきました。」とオクウェンさんは語った。

「今日のアフリカでは大半の女性が電話にアクセスできるようになりました。女性自身が携帯を持っていたり、あるいは夫や近隣の住民が持っています。ですから、女性が電話一本で救急車を呼べる方法を確立することができれば、アフリカの女性にも希望をもたらすことができるのです。」とオクウェンさんは説明した。

オクウェンさんは、「このモバイルヘルスプロジェクトを通じて、これまでに約100人の女性に様々な支援(情報提供、避難、病院訪問手配、出産、帝王切開等)の手を差し伸べてきました。」と語った。

このプロジェクトは、現地のフラニ語(フルフルディ語)で「希望」を意味する「ツザモウンデ」と呼ばれている。

ラクド市のママ・アバカイ市長は、「プロジェクトの効果は広範囲に及んでいます。」と語った。

SDGs Goal No. 9
SDGs Goal No. 9

「農村部の女性たちは、コミュニケーションギャップにより、緊急時の対応や支援が困難なことから、多くの命が失われるなど、これまで苦しい思いをしてきました。しかしこのシステムがあれば、電話一本、あるいは、一通のSMSを送るだけで、命を救ってくれる関係者が動員されるわけですから、全く素晴らしいとしか言いようがありません。」とアバカイ市長はIPSの取材に対して語った。

カメルーン保健省のマルチナ・バイエ博士は、「極北州の女性の大半は、ヘルスケアサービスへのアクセスがほとんど無なかったため、このモバイルヘルスプロジェクトは、素晴らしい救済になっています。」と指摘したうえで、このプロジェクトをカメルーンにおける「医療提供システムの革命」と呼んだ。

2010年の人口調査によると、極北州の人口は約3百万人で、その52パーセントが女性であった。

「私たちはこのモバイル技術を、是非ともカメルーンの他の地域でも活用したいと思っています。」とバイエ博士は語った。(原文へ

INPS Japan

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核兵器廃絶に向けて、NPT崩壊を食い止めよ(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表、パグウォッシュ会議議長)

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

核不拡散条約(NPT)が発効してから来年の3月で50周年を迎えるが、その歴史と再検討サイクルから教訓を学ぶよい機会となることだろう。

この条約が50年存在した中で得られた経験を、国際社会のあらゆる当事者が真剣に受け止めねばならない。核軍縮の進展は、既存の軍縮・不拡散枠組みのさらなる崩壊を防ぐきわめて重要な要素だ。

国連総会決議2028(XX)を振り返るところから始めてみよう。1965年に全会一致で採択されたこの決議は、NPTに至る交渉の基礎となる原則を示したものだ。同決議によれば、交渉される条約は、(1)いかなる形においても、直接的であるか間接的であるかを問わず、核兵器の拡散を認めない。(2)核保有国と核非保有国との間の責任の受諾可能な均衡を保つこと、(3)全般的かつ完全な軍縮、とりわけ、核軍縮の達成に向けた一歩とすべきこと、といった原則が示されていた。

これらの原則が条約の文言にどのように反映されて、そしてどのように実効性を持ってきたかについては、今日に至るまで、さまざまな当事者が異なる見解を持っている。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

NPTが発効して50年。振り返ればその履行を巡るいくつかの問題に関する加盟国間の意見の相違が、常に交渉の行方に影を落としてきた。このような状態がもたらした影響は、これまで9回開催された再検討会議のうち5回において、最終文書の実質的な勧告に関してコンセンサスが得られなかったという結果に表れている。ほとんどの場合において、そうした文書には共通の立場よりも意見の不一致が記録されている。

にもかかわらず、再検討会議の歴史は、軍縮の進展に関する実質的な合意は実際に可能であることを示している。2000年の再検討会議では、「13項目の実際的な措置」と、核兵器国による核軍縮達成への「明確な約束」に全会一致が見られた。2010年の再検討会議では、核兵器廃絶に向けた意味のある措置を含んだ「行動計画」の採択に成功し、1995年の中東に関する決議に従って、中東に非大量破壊兵器地帯を創設するための行動をおこすよう勧告したのである。

その方向での具体的な措置が実行に移される見通しこそが、1995年にNPTの無期限延長が合意された際のきわめて重要な要素であった。残念ながら、これらの合意を実際に履行する政治的意思は、実際には見られなかったといってよい。2010年再検討会議はまた、核爆発がもたらす「壊滅的な」帰結に関する、加盟国全会一致による懸念も記録している。

残念ながら、これまでの会議と同じように、今年の4月29日から5月10日まで開かれた第3回準備委員会は、ふたたび、来年4月27日から5月22日までニューヨークの国連本部で開催されるNPT再検討会議に対する実質的な勧告を採択することなく終了した。各加盟国の頑なな態度に加えて、加盟国間の新たな不信とあからさまな敵対が加わって、実質的な勧告を含んでいた議長修正案への支持は得られなかった。

議長であるマレーシアのサイード・ハスリン大使は、過去の準備委員会の例に倣って、自らの権限と責任において、「2019年準備委員会議長の考察」と題する明晰な報告書を配布した。加盟国が最低限合意できるであろう内容を簡潔に集約したと見られる内容である。

Ambassador Syed Mohamad Hasrin Aidid photo: Katsuhiro Asagiri/ INPS
Ambassador Syed Mohamad Hasrin Aidid photo: Katsuhiro Asagiri/ INPS

過去の再検討サイクルでは、準備委員会の議長が、議論の結果に関する自身の見解を配布するという策に打って出たこともあった。しかし、こうしたやり方は、そうした文書の内容と位置づけをめぐって激しい議論を時として引き起こし、準備会合における議論の性格と目的に関する明確な共通了解が存在しないことを思わせた。

議長の「考察」

議長の「考察」に含まれている点の多くには、間違いなく一般的な賛同が寄せられるだろう。とりわけ、NPTが核軍縮・不拡散の基盤であること、こうした考えは維持・強化されなくてはならないという加盟国の信念に言及した部分である。条約が戦略的な安定に寄与している点や、軍縮・不拡散・原子力の平和的利用の間のバランスが重要であることも強調された。

議長文書は、軍縮の柱の履行に関するさまざまな見解を架橋する必要性を認識している。これは実際、加盟国の圧倒的多数の見解でもある。準備委員会で実質的文書に合意できなかった以上、「考察」の建設的なアプローチが再検討会議での議論と検討を導くよう望むばかりである。

2019年の第3回準備委員会は、アルゼンチンのラファエル・マリアーノ・グロッシ大使を2020年(=第10回)再検討会議の議長に選出することを含め、手続き面での勧告には合意することができた。グロッシ大使は、すでにある課題に関して条約加盟国とただちに協議に入る意向を示した。

準備委員会は、再検討会議への議題提案と組織面の問題について勧告を採択した。こうして、有能な議長と事務局によって任務が遂行されたことで、2020年再検討会議の成功に向けた道が切り拓かれた。

過去の準備委員会の歴史を振り返ると、さまざまな加盟国間の根底にある大きな相違が、手続き的な問題をも時として引き起こすことがあった。たとえば、2004年の第3回準備委員会では2005年再検討会議の議題について合意することができなかったが、これが05年再検討会議失敗の一因となっている。

その際の主な対立点は、それ以前の再検討会議の最終文書についてどれをその年の再検討会議で考慮に入るべきかという点であった。2週間の不毛な議論の後、あまりにも明らかなことを議題への脚注に付け加えるという形で、事態は解決された。すなわち、各国代表には、再検討に関連すると思われるいかなる問題をも提起する権利がある、という内容であった。

同様に議題案に合意するのが困難な場面は2007年にもあった。しかし、その時は、短い議論の後に、2005年再検討会議の時と同様の解決策が見出された。それ以来、その後2回の再検討会議に向けた準備委員会サイクルでは、同じ罠にはまることを回避し、必要な手続き的勧告に関してタイムリーな合意を見た。この種の問題で、将来の準備委員会での作業が妨げられるべきではない。

しかし、実質的な内容については、かなりの数の加盟国の間で、50年経過しても核兵器国が具体的なNPT上の核軍縮措置を取ることを怠っているという不満がある。(核兵器国の軍縮義務を規定した)NPT第6条の履行という約束を果たしていないというこうした認識が、核兵器の廃絶を目指した核兵器禁止条約(=核禁条約)の交渉を提案し国連総会で採択(2017年)するという動きにつながった。

Civil Society Applauds UN nuclear ban treaty adoption 7th July 2017. Credit: Clare Conboy | ICAN.
Civil Society Applauds UN nuclear ban treaty adoption 7th July 2017. Credit: Clare Conboy | ICAN.

核禁条約推進派は条約の発効を積極的に促進し、しかる後にこの条約が実定国際法の仲間入りをすると期待している。一方、これまで核禁条約に反対してきた人々がより合理的な態度を示すとすれば、それは、NPTに盛り込まれた核不拡散の公約を強化するものとして、また同時に、核禁条約を嘲る人々が公言している核軍縮という目的を達成する道筋として、核禁条約の存在と意義を少なくとも認識する、というものになるだろう。

禁止条約はNPTと矛盾するものではない。核禁条約は、包括的核実験禁止条約(CTBT)や非核兵器地帯の設立と相まって、加盟国の不拡散へのコミットメントを強化するものだ。また、依然として禁止されていない、最後かつ最も恐るべき大量破壊兵器に対する国際社会の圧倒的多数の拒絶を強調するものでもある。こうした明白な現状を見るならば、核兵器禁止の提案が常に核保有国からの頑強な抵抗にあってきたことは、理解に苦しむ。

不安な兆候

主要な核保有国の間の二国間協定の構造が崩壊する危険な兆候が現れてきた。軍縮と不拡散に関する多国間フォーラムにおいては、20年以上も明確な成果が上がっていない。軍備管理の分野で合意された規範は、一方的な決定によって拒絶され、取って代わられている。化学兵器禁止条約の検証システムに対する信頼性が疑問に付されている。また、(未発効とはいえ)CTBTが設定した基準に対して、根拠のない疑いが向けられている。

主要な核兵器国は、さらなる軍備管理と軍縮につながるような共通了解をもとめて互いに交渉することに興味を失っているようだ。まもなくすると、世界最大の核兵器保有国(米国とロシア)間での核兵器の規模と配備に関する法的拘束力のある制約が存在しなくなってしまうと懸念されている。一部の核兵器国における競争と革新的な技術応用が軍事力に新たな能力を付与し、危険な軍拡競争が再来している。

中東非大量破壊兵器地帯の創設に関して進展が見られないことが、来る再検討会議で再び大きな障害となることだろう。2020年再検討会議で成果が得られる可能性は過去の会議にもまして低いというのが識者等の一致した見方である。

国連事務総長が招集した賢人会議による最近の報告書は、核軍縮をめぐる停滞は維持できるものではなく、核の秩序が崩壊することはどの国にとっても利益とはならない、と結論付けている。実際、報告書は「軍縮における対立が激しさを増し、異なる見解を持った諸国が主要な問題に関して互いに意味のある交渉を持つことが難しくなっている」と警告している。

NPTの目的の達成を進展させるのではなくむしろ先送りにしてしまいかねない最近の提案や立場に対して出されている懸念は、理解しうるものだ。第3回準備委員会では、数十年にわたって促進されてきた「ステップ・バイ・ステップ」アプローチの主唱者ですら、このやり方では結果を残せないと考え始めていることが明らかになった。

現時点では、核軍縮に向けた好ましい環境を創出するために一部の国々による多国間協議を行うという提案が、いかにして進展をもたらしうるのかについて見通すことは難しい。彼らの感覚では、好ましくない状況は、NPTを含めた軍縮・不拡散分野の既存の枠組みの概念や協議、採択の妨げにはならなかった。

NPT加盟国は、過去の教訓に注意を払うだけではなく、現在の兆候にも気を配らねばならない。グローバルな集団的平和・安全保障枠組みがさらに悪化し、ひいては、NPTの信頼性と安定性にも影響を与えるような、明白かつ火急の危険が存在する。すべてのNPT加盟国が義務を果たすことが、この点で肝要である。

第3回準備委員会の議長がその「考察」において、さまざまな国々の間において、対立点よりも一致点の方が多く存在すると指摘していることがここでは重要だ。これらを架橋することがいかに困難であっても、加盟国は、オープンかつ包摂的、透明性を確保した対話を求める議長の勧告を心にとめ、2020年再検討会議とそれ以降には、そうした精神でもって会議に臨まねばならない。

Photo: Chair Syed Hussin addresses the 2019 NPT PrepCom. Credit: Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.
Photo: Chair Syed Hussin addresses the 2019 NPT PrepCom. Credit: Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.

NPTのすべての加盟国が、2回連続で再検討会議を失敗に終わらせてはいけないと強く望んでおり、軍縮・不拡散分野での国際合意構造の信用と信頼を損じるようなマイナスの結果を避けるために誠実に協力しなくてはならない。それ以外の道は、受け容れることができない。(原文へ

※セルジオ・ドゥアルテ大使は、「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」の議長で、元国連軍縮問題上級代表。2005年核不拡散条約再検討会議の議長を務めた。

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ジェノサイドからアフリカのファッションステージへ―ルワンダ女性がいかにして生活とファッション産業を成り立たせているか

【キガリINPS=エイミー・ファロン】

1994年のルワンダ虐殺が起こるまで、サラーム・ウワマリヤさん(58歳)の大学教授の夫は、妻と8人の子どもを養う一家の稼ぎ頭だった。当時ウワマリヤさんは、収入を補うため、近くの市場で野菜を売っていた。

ところが多くのルワンダ人と同じく、1994年の4月から約100日間に亘っておよそ100万人のツチ族と穏健派フツ族が殺害されたルワンダ虐殺によって、ウワマリヤさんの人生も大きく変えられた。彼女はこの虐殺の中で、夫と2人の子ども、両親、叔父・叔母を殺されたのだ。

Centre César(シーザー・センター)/Ubuntu Edmonton

しかしウワマリヤさんは、地元や海外で販売され、アフリカで行われるファッションショーにも使われる服を制作する仕事にありつけたことで、徐々にだが、生活の再建を果たしている。

首都キガリ近郊キミロンコ地区に「シーザー・センター」というコミュニティーセンターが2005年にでき、アヴェガ村の住人を対象にした支援プログラムが始まったおかげで、ウワマリヤさんは新たに服飾制作の技術を身に着け、家族を養えるまでになった。

「私は(大虐殺で)家族や財産など全てを失い、それまでの人生が一変しました…それは言葉では説明できません…。」とウワマリヤさんはIPSの取材に対して現地のキンヤルワンダ語で語った。

アヴェガ村は150世帯750人の小さな村である。カナダの慈善団体「ウブントゥ・エドモントン」の支援で設立されたこのコミュニティーセンターでは、大虐殺の影響を受けた村人を対象に、機械整備、シルクスクリーン印刷、裁縫などに関する職業訓練プログラムを受講できる。またセンターでは、小中学生を対象にした教育里親プログラムを実施しているほか、ウワマリヤさんが勤務している縫製工場や保育園(左写真)も運営している。現在、「シーザー・センター」のサービスを受講している村人は一週間に85人以上にのぼるという。

Day care program at Centre César/ Ubuntu Edmonton
Day care program at Centre César/ Ubuntu Edmonton

「ここで(縫製技術を)学べたおかげで生活が一変しました。これで収入が得られ、自分や子どもたちの生活を向上できたのだから。」とウワマリヤさんは語った。彼女は今ではドレスを1枚縫うごとに3000ルワンダフラン(4.44ドル=約446円)を稼ぐことができる。ちなみに1枚縫うのに2日と掛からないそうだ。「シーザー・センター」では、縫い子には、フェアトレード価格で報酬が直接支払われる仕組みになっている。

このセンターの縫製工場では、2人のベテラン仕立屋が工業用機械を使って、縫い子たちの技術指導にあたっている。この部門で唯一の男性スタッフでもあるエディソン・ハテゲキマナさん(右写真の右端の人物)はその一人で、ウワマリヤさんを1年にわたって指導した。ウワマリヤさんは、訓練期間を振り返って「でも、そんなに難しくはなかったわ。」と語った。

ここではウワマリヤさんを含む約20人の女性が部屋いっぱいにひしめき合うように、来る日も来る日も、熱心にドレスやジャケット、ズボン、バッグ、エプロン、パジャマなどを縫っている。

現在彼女たちが縫っている製品の多くは、ルワンダの新進気鋭のデザイナー、コロンベ・ヌドゥティエ・イトゥゼ氏(上の写真右端の人物)の手になるものだ。

興味深いことに、地元住民の能力活用の可能性をイトゥゼ氏に示唆したのは、今は彼女の海外パートナーになっているカナダのジョアンヌ・セントルイス氏(左の写真の人物)だった。

セントルイス氏は、カナダの「セントルイス・ファッション」や「ドリーミーズ・ラウンジウェア」のデザイナー兼CEOで、イトゥゼ氏とは2010年の「ルワンダ・ファッション・フェスティバル」で出会った。イトゥゼ氏は2011年、ルワンダで最初のファッションブランドの一つとなる「INCOイキュサ」を立ち上げた。

「私はセントルイス氏の製品が本当に素晴らしいと思ったものですから、どこで縫製したのか尋ねたのです。するとこちらの(祖国ルワンダ人の)女性たちが作っていると教えてくれたのです。」とイトゥゼ氏はIPSの取材に対して語った。

またイトゥゼ氏(右の写真)は、「私は早速ここ(シーザー・センター)を訪ねてみました。その時点で彼女たちは既に十分かつ基本的な縫製技術を身に着けていました。セントルイス氏がそれまでに何人かを指導し、その縫い子たちが他のメンバーに技術を伝えていたのです。そこで2012年から、私の全ての作品はここで縫製してもらっています。以前は街の仕立屋と仕事をしていましたが、ここの女性たちの才能には本当に感心しています。常に研鑽を積み、どんどん技術レベルが上達しているのです。とりわけ大量の注文に対処する際には、彼女たちほど頼りになる存在はありません。」

今日、ウワマリヤさんと同僚たちが縫製した服は、ルワンダの首都キガリにあるイトゥゼ氏の店とカナダのトロントから110キロの街にあるセントルイス氏の自宅兼店舗で売られている。

「収入にもなりますし、カナダの人々のために服を作っていると思うとわくわくします。今の課題は隙間(ニッチ)ビジネスの機会を見つけて発注数を増やすことです。そのためにも、もっと多くの人達やファッションデザイナーと提携していきたい。」とウワマリヤさんは語った。

Clothes made in Ruwanda/piper carter

イトゥゼ氏とセントルイス氏が、国際展開している大手デパートに自分たちがデザインした製品の売込みを積極的に行っていることから、ウワマリヤさんのこうした望みは、意外に早く実現するかもしれない。

イトゥゼ氏とセントルイス氏は、昨年9月、共同で「DODAファッションハウス」をオープンさせた。DODAとは、キンヤルワンダ語で「縫う」という意味である。

また両氏は(「シーザー・センター」がある)キガリ近郊キミロンコ地区に別の縫製施設を所有している。ここでは最終的に専従職員を4人雇用し、女性を14人増員して研修プログラムと製造作業を開始する予定だ。そして5年後には、商業被服、デザイン、縫製機械整備、マーケティングの訓練コースを提供したいと考えている。もし実現すれば、ファッション専門学校がないルワンダで、この試みは大きな第一歩となるだろう。

再び「シーザー・センター」に話を戻そう。ここでスーパーバイザーを務めているアラン・ラシャイディ氏は、慈善団体にはセンターの所有権をアヴェガ村の住民に移すとこまでやってほしいと考えている。「このセンターは、最終的には村人が所有するセンターとならなければなりません。おそらくそれには10~15年くらいかかるでしょう。」と指摘したうえで、「現在、センターを持続可能で財政的に自立できるような体制作りをすすめています。」と語った。

「私たちが(このセンターの運営を)始める前のアヴェガ村の状況はあまりにも深刻な課題が山積みでとてもうまく説明できません。村にはHIVに罹っている人々がいますし、当時は村にフードバンクさえありました。」「それから10年が経過し、もちろん100%良くなったというわけにはいきませんが、生活は改善されてきました。」とラシャイディ氏は語った。

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【ニューヨークIDN= プムズィレ・ムランボ‐ヌクカ 】

「UNウィメン」のプムズィレ・ムランボ‐ヌクカ事務局長による視点。最新の調査に基づいて、各国の家庭支援策(伝統的な核家族像に基づく)が実態からかけ離れている現状を指摘し、是正するよう求めている。世界では両親と子どもからなる世帯は全体の1/3に過ぎない。母子家庭は1億世帯以上にのぼりひとり親世帯の84%を占めている。他の1/3が主にサブサハラアフリカと南アジアに多い大家族世帯が占めている。また、家庭で最も弱い立場にある女性・女児が直面が様々なリスク(毎年1200万人にのぼる児童婚、毎日137人が殺害されている2017年の統計)に直面している。INPS/IDNはUNWOMENのメディアコンパクトの加盟メディアです。(原文へ

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米国民は、もし挑発されれば核攻撃を容認か

【ニューヨークIDN=ロドニー・レイノルズ】

バラク・オバマ米国大統領が5月27日に歴史的な広島訪問(米国による日本に対する1945年の核攻撃では20万人以上の死傷者がでた)を果たした際、彼は(原爆投下が)人間にもたらした破壊について謝罪もしなければ、史上初めてで、かつ唯一の(広島と長崎に対する)核兵器使用を正当化することもなかった。

しかし、オバマ大統領は、米国が1兆ドル(約110兆円)以上を投入して核兵器の近代化を続ける一方で、核兵器なき世界への呼びかけを繰り返した。約束とその実行との間のギャップはますます広がるばかりである。

意図はいいとしても、数多くの人々を殺戮しかねない将来の核戦争に、私たちは近づいているのか、それとも遠ざかっているのだろうか?

『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は5月19日の紙面で、ひとつの未来予想図として、「私たちは再び核兵器を投下するのか?」という、より現実味のある問いを発している。

スタンフォード大学国際安全保障・協力センターの政治学教授で上席研究員のスコット・D・セーガン博士と、ダートマス大学行政学准教授のベンジャミン・A・バレンティーノ博士は、1945年と2015年7月に行われた2つの調査を見ると、米国民は将来の核攻撃に対して容認的であると指摘した。

Scott D. Sagan/ Stanford University
Scott D. Sagan/ Stanford University

広島・長崎への原爆投下から1カ月後の1945年9月に「ローパー」社が行った世論調査によると、全国の回答者の53%が、米国は「私たちがそうしたように、2つの都市に対して2発の核爆弾を使用すべきであった」と回答していた。

原爆投下70年に合わせて実施された2015年7月の次の世論調査では、米国による核攻撃を支持したのが28%であったのに対して、32%が「核の示威的攻撃に対して支持を示した。」

記事を執筆した2人の学者は、こう結論付けている。「私たちの調査では、将来の大統領やその補佐官らが彼らのオプションをどの程度重視するかについては分からない。しかしそれは、米国の世論に潜む衝動について不安にさせる何かを明らかにしている。すなわち、私たち米国民は、挑発を受ければ核兵器の使用をタブーとは見なしていないようだ。また、民間人を戦時における意図的な攻撃の対象にし、ましてや大量の犠牲者を出すことはないとの約束は、表面的なものに過ぎない。」

今日、1945年と同じように、「米国民は、戦争という試練の時にあって核兵器の使用を検討するかもしれない大統領を止めることはなさそうだ。」

オバマ大統領の広島訪問の直前、オリバー・ストーン氏ノーム・チョムスキー氏、ダニエル・エルズバーグ氏など70人以上の著名な学者や活動家らが、核軍縮に向けた具体的なステップを発表するようオバマ大統領に求める書簡に署名した。

クウェーカー派の平和団体「アメリカフレンズ奉仕委員会」のジョセフ・ガーソン氏は、「米国は、向こう30年間に次世代の核兵器とその運搬手段のために1兆ドルをつぎ込もうとしています。」と語った。

Joseph Gerson
Joseph Gerson

「オバマ大統領はこのような出費を中止し、米国の核兵器備蓄量削減を発表することによって軍縮外交を再活性化させ、プラハで約束しそして核不拡散条約が規定している核兵器なき世界を作るための交渉をロシアのウラジミール・プーチン大統領に働きかけるべきである。」とガーソン氏は語った。

オバマ大統領に宛てた書簡で、この70人の活動家らは、米国による1945年8月の広島・長崎への原爆投下は、数十万人の子どもや男女を一瞬にして無差別に焼き殺した、と述べている。

1945年末までに、主に民間人から成る21万以上が亡くなった。広島にいた90%以上の医師や看護婦が原爆によって死傷したと書簡は述べている。

生き残った被爆者やその二世・三世も、原爆の身体的、精神的、社会的な影響によって苦しみ続けている。遺伝子の損傷によって将来世代に引き起こされる健康上の影響については、依然として分かっていない部分が多い。

今日、そのほとんどが広島・長崎級原爆よりもはるかに強力な爆発力を持つ1万5000発以上の核兵器(その内94%を米国とロシアが保有)が存在し、人類に許しがたい脅威をもたらし続けている、と書簡は記している。

Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB
Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB

「それにもかかわらず、現在いかなる軍縮協議も進行していないし、予定されてもいない。」

昨年、『原子科学者紀要』は、「世界終末時計」の針を「真夜中の3分前」に進めた。「野放図な気候変動、グローバルな核兵器近代化の動き、過剰な核戦力」と世界の指導者の不作為によって、「人類の生存にとって、極めて大きく、否定できない脅威」がもたらされていることを根拠にあげている。

7年前のプラハで、「『核兵器を使用した唯一の核兵器国として、米国には行動すべき道義的責任がある。従って今日、私は、核兵器なき世界の平和と安全を追求する米国の公約を、明確に、確信を持って述べる』と宣言して、あなたは世界中の人々に希望を与えました。」と先の書簡は述べている。

「しかし、それとは逆に、あなたの政権の下で米国は、核戦力におけるあらゆる種類の核弾頭を近代化するために今後30年間で1兆ドルを支出し、近い将来において、潜水艦・地上発射ミサイル・爆撃機から成る核兵器の運搬手段を改修・更新することを計画しています。」

「広島を訪問した初めての米国の現職大統領として、あなたは、プラハで主張した道義的責任を示す歴史的な機会を手にしています。」

ICAN
ICAN

この目的のために、「私たちは、誠実さと具体的な暫定措置を示すために、米国の核戦力を大胆に削減し、ロシアにも同じ行動を要求することを求めます。なぜならば、既存の核兵器のうちほんの一部でも使用されたならば、『核の冬』が発生し、地球全体を飢餓に陥れる重大な気候変動を引き起こしかねないからです。」

「私たちは、米核戦力を更新し核兵器施設を改良整備するための1兆ドル・30年の計画をキャンセルし、この資金を人間のニーズを満たすために振り向けるよう求めます。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

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