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女性の太陽光エンジニアがザンジバルのへき地の村々を照らす

【ケンドゥワIDN=キジト・マコエ】

闇が迫ると、ナターシャ・マフムード(14)さんは兄とともにパラフィンランプの弱い炎の周りに集まり、燃料を節約するために母がランプを吹き消してしまう前に、急いで宿題を済ませる。

「いつも早く済ませようとしてはいるんです。でも、できない時もある。先生は時々、宿題が終わっていないといって私に罰を与えるんです。」マフムードさんがそう語るかたわら、ランプからの煙が煤けたトタン屋根に立ち上っている。

Map of Zanzibar Islands(highlighted)/ Pubiic Domain
Map of Zanzibar Islands(highlighted)/ Pubiic Domain

ザンジバル北部ケンドゥワ村ディンバニ小学校の生徒であるマフムードさんは、咳の原因になる体に有害な煙を出さないようないいランプを買ってほしいと母親にずっと頼んできた。しかし、母親は言を左右して、夫とそのことを話し合おうとしない。家庭内では、父親が唯一の意思決定者なのだ。

しかし、タンザニア連合共和国から強い自治権を認められているザンジバル諸島(右の地図を参照)の未電化地域に電気を通すことをめざしたプロジェクトの一環として、マフムードさんと兄は間もなく、明るいLED電球の下で毎晩勉強できるようになるだろう。太陽光技術を学んだ女性グループの誘いに応じてマフムードさんの父親が太陽光パネルを家に設置することに同意したからだ。

月にわずか3ドルほどでマフムードさんの父親は村の女性エンジニアを雇い、ミニ太陽光システムを家屋に設置・維持することになった。

「明るい光の下で勉強するのが待ちきれません。体に悪い煙ともお別れです。」とマフムードさんは明るく笑った。

ザンジバルは世界有数の観光地の一つであるにもかかわらず、政府統計によれば、人口の半分が貧困線以下で暮らしており、電気が利用できない。

5つ星の高級ホテルが点在する美しい浜辺から、藁葺屋根の埃っぽい家々が散在し日没後は真っ暗になる村までちょっと歩いてみるだけでも、貧富の差を感じるには十分だ。

「太陽光発電によって僻地の未電化地帯で安く電気が使えるようになり、気候変動をもたらす温暖化ガスの排出抑制につながりますが、同時に、男性優位のザンジバル社会において女性の雇用と収入を増やす手段にもなります。」と語るのは、アフリカ東部で女性のエンパワーメントに関わるインドに本拠がある慈善団体「裸足の大学」の専門家である。

SDGs Goal No. 7
SDGs Goal No. 7

「タンザニアのエネルギー省によれば人口のわずか24%しか電気が利用できないこの国では、女性を支援することでその潜在能力が発揮できるようになり、地域の意思決定に積極的に関われるようになります。」とザンジバルのエンパワーメント・社会福祉・若者・女性・子ども省職員であるマリク・ハミス氏は語った。

「裸足の大学」は、移転可能なスキルや知識を教えることで女性を貧困から抜け出させ、太陽光エンジニアとして生計を立てられるようにすることをめざしている。

同団体はザンジバルの村々の長老たちと緊密に協力しているが、彼らの役割は、村に長く住んでいて、大抵は読み書きができない女性を訓練対象者として推薦することだ。

このプロジェクトは、男性が支配的な仕組みのために賃金労働を見つけられず経済的に困窮する農村女性の高まるニーズに応じるために立ち上げられた。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

ハミス氏によると、プロジェクト対象村落の住民は、家族から離れて暮らし、太陽光工学を学ぶために大学で5か月のコースを受講できる35才から55才の女性2人を選ぶよう依頼される。

彼女らは、卒業すると村に戻り、技術者としての活動をスタートさせる。月60ドル程度の収入を得て、村に太陽光発電を設置していくのである。

「裸足の大学」によれば、ケンドゥワ村のような村出身の女性太陽光エンジニアはこれまでにザンジバルで1000世帯以上を電化したという。

ケンドゥワ村で服の仕立て職人として働くアリ・ヘメド・マブルークさんは、屋根に設置された小さな太陽光パネルが生み出す電気につながった明るいLED電球の下で洋服を忙しく縫っている。より明るく、クリーンで、安全なこの電気のためにマブルークさんが支払う金額は、以前灯油に支払っていた額の半分以下だ。

太陽光発電を得たことは、6人の子どもを持つこの51才の父親にとって好運であった。夜も働けるようになり、家族の収入は月に10ドルほど上がったのである。少し前まで、夜になると仕事はできなかった。

「電気がなかった頃は、たくさんの機会を逃していました。子どもが日没後勉強するためにパラフィンランプを使えば、病気になって、治療にお金がかかるなんてこともあるでしょう。」とマブルークさんは語った。

「裸足の大学」で地域サポートの責任者を務めるアブ=バクル・ハリド・バカール氏は、太陽光エンジニアになる女性を支援することは、貧困を削減し環境を保護する最善の方法であると話す。なぜなら、それによって、クリーンなエネルギーの使用をすばやく促進することができるからだ。

3人の子どもの母であり未亡人でもあるハスナ・フセイン・マカメさんは、家族のための収入を得ることができるようになって、笑顔を取り戻した。

Photo Credit: Barefoot Collage Zanzibar
Photo Credit: Barefoot Collage Zanzibar

マカメさんは、村のための太陽光エンジニアとして数か月の訓練を受け、定期的な収入を得られるようになった。さらに結果的に、香辛料で有名なインド洋に面したこの群島(=ザンジバル諸島)の未電化地帯で、電気を導入する仕組みづくりに関わる今の地位を得たのである。

「授業は楽しかったです。今では、その時の努力が実を結んでいます。『裸足の大学』は、僻地の村々を電化する上で大きなインパクトを与えてきました。」とマカメさんは語った。

「以前は、社会の中で何の地位もありませんでした。でも、スキルと知識を得て、今ではみんなが私のことを(スワヒリ語でエンジニアを意味する)マンディシ(Mhandisi)と呼んでくれるようになりました。」とマカメさんは語った。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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INPS Japan

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【ニューヨークIDN=タリク・ラウフ

5つの核兵器国やその同盟国と、ほとんどの非核兵器国との間の核軍縮をめぐる対立と分断に加えて、中東の非核兵器及び非大量破壊兵器(WMD)地帯の創設が論争の的となっている。

1995年の核不拡散条約(NPT)再検討・延長会議では、条約の将来をめぐる決断がなされねばならなかった。当時アラブ諸国グループやイランからの支持を得る必要があると考えた、ロシア連邦・英国・米国の3つのNPT寄託国は、中東非WMD地帯化に関する決議を共同提出した。同決議はNPTの無期限延長を認めるパッケージの不可欠の一部分となった。

2000年のNPT再検討会議はイスラエルを名指しし、NPTに非核兵器国として加わり、1995年決議を履行するよう迫った。2010年NPT再検討会議では、2012年までに中東非WMD地帯に関する会議地域会議を開くよう決定したが、米国が一方的にこれを延期し、アラブ諸国やイラン、ロシア連邦、非同盟諸国グループからの非難につながった。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

2015年再検討会議は、国連事務総長の支援の下で2016年までに中東非WMD地帯に関する会議を開くとの提案を米国がカナダ・英国とともに拒絶したために、崩壊した。

2018年、国連総会は、2019年末までに中東非WMD地帯に関する会議を招集するよう国連事務総長に義務づける決議を投票で採択した。NPT再検討会議準備委員会で広まっていた未確認情報によると、一部の西側諸国が裏で動き回って同会議の招集を妨げようとしていたという。一部の国々が依然として、(同会議の開催を求める)アラブ諸国の提案に反対していることはよく知られていることだ。

一般的には、イスラエルに圧力をかけて同会議に参加させることを、米国が主導する西側諸国と欧州連合(EU)諸国が嫌っている。これにアラブ諸国やイラン、非同盟諸国が反発するという構図である。この問題のために、2019年のNPT準備委員会はまたも合意に達することができなかった。アラブ諸国の間にも、そしてイランとシリアとの間にも重大な意見の相違が存在するが、にもかかわらず、中東非WMD地帯化の問題では共通の立場になって連帯しているのである。

この数年で国際関係が急速に崩壊していることを考えると、NPT再検討プロセスを通じて核軍縮に前進をもたらすことに非核兵器国の大半が無力さを感じ、徒労感と不満が高まっていることは驚きではない。

結果として、多くの外交官や専門家らが再検討プロセスの非効率性を非難し、その一方で、悪化する政治的関係や、強硬化する立場、柔軟性の欠如、妥協を生みだす交渉能力の低下、再検討プロセス強化の取り組みの無視といったような、蝕まれている作用についてはほとんど無視されている。

NPT再検討会議は、核兵器に関する法的拘束力のある条約を交渉したり、国際原子力機関(IAEA)保障措置に関する検証措置、あるいは、国際的に対立している政治的問題をめぐって対抗したり、非核保有国によるIAEA保障措置への「遵守」に関連した意見の相違を埋めることを目的としたものではなかった。

とりわけ2014年以降は、NPT再検討プロセスが損なわれ、悪化している。論議における丁寧さと尊重が失われ、NPTを支持する共通の基盤を探ろうとの政治的意志と能力に欠き、いったん決められた措置と行動が守られず、国際法が無視されている。一方で、いわゆる「ルールを基礎とした国際秩序」の保全が持ち上げられ、NPTの一体性と権威を強化すべく協調する能力に加盟国が欠けているということで、再検討プロセスが非難の対象になっている。

かつてタイタニック号の甲板で演奏していたバンドが船の沈没を防げなかったように、外交官らは、再検討プロセスの強化が一貫して無視されていても、それを反転させる能力も意思も示していない。彼らは、従来からの立場を擁護することに固執し、NPT順守を目的とした共通の基盤を探ろうとはせず、1995年・2000年・2010年の各NPT再検討会議の結果から適切な指針を引き出して履行することを怠ってきた。

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第3回準備委員会で議長をつとめたサイード・ハスリン大使(マレーシア)は、マンデートに従って5月3日に議長勧告案(一次案)を各国代表らに配布した。この勧告案は全体としてバランスが取れ、各国の見解を反映したものだった。とりわけ、次のような内容が含まれている。

・条約の各条項の完全履行の再確認、とりわけ、1995年再検討・延長会議、2000年・2010年の再検討会議での従来の公約の再確認。

・核兵器国に対して、新型核兵器の開発を停止し、既存の核兵器の質的向上を図ることを控え、あらゆる軍事・安全保障上の概念・ドクトリン・政策において核兵器の役割と重要性をさらに最小化するよう求める。

包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期の発効を求め、発効までの間、核爆発実験のモラトリアムを維持すること。

・1995年中東決議の目的の完全履行と実現に向けて努力を続け、中東非核兵器地帯・非WMD地帯の創設に関する法的拘束力のある条約を交渉する会議が2019年中に開催される予定であることに留意すること。

・共同包括的行動計画(イラン核合意)の継続的な履行に対する強力な支持があることに留意すること。

・朝鮮民主主義人民共和国に対して、全ての核兵器と既存の核開発計画を完全かつ検証可能、不可逆な形で廃棄するよう促すこと。

現在の悪化する国際安全保障の状況や、諸国の対立状況を見れば、形ばかりの歓迎を受けた議長勧告案が、各国の多様な立場を適切に反映していないとして5月8・9両日にあらゆる当事者から非難されたことは驚くに値しない。この一次案に対しては、勧告案を「改善」すべく多くの提案がなされた。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

これに対して、サイード・ハスリン議長は9日夜に修正勧告案を配布した。これは事実上、核軍縮に関する文言を強め、核兵器が人間にもたらす帰結について言及し、インド・イスラエル・パキスタンに対して非核兵器国としてNPTに加入するよう求めるものであった。

準備委員会最終日の10日、主に西側諸国が修正勧告案は受け入れがたいとして次々に批判の声を上げた。これらの国々は、(前日あれほど批判したにも関わらず)こんどは議長原案(一次案)こそが、交渉を前進させる基礎になるか、あるいは、採択の対象になるとして、原案をベースに作業を行う用意があると述べて、議場は混乱を極めた。

他方で、多くの(しかしすべてではない)非同盟諸国は修正勧告案に対する賛意を示し、欠点はあるもののそれを容認する姿勢を示した。これらの国々の不満は、核軍縮に関する文言や、IAEAの保障措置に対する追加議定書、イラン核合意と同国の遵守問題、2007年に未申告の原子炉を建設したことに関連するシリアのNPT非遵守問題、中東問題、核保安、北朝鮮の非核化などの事項に関連していた。

サイード・ハスリン議長が、会期を通じて、ユーモアを交えつつ堂々とした対応で事にあたり、準備委員会への信頼性を維持したことは特記しておきたい。しかし、会期の最後の2日間には議長の運命は尽き、本稿で述べたように、議長の勧告案(一次案及び修正案)に対して一部の国々が批判を表明した。

ニューヨーク時間の5月10日午前11時22分、サイード・ハスリン議長は、原案・修正案のいずれに対するコンセンサスも得られないまま、これらを「2020年再検討会議に対する議長勧告」として配布した。

NPT加盟国は再び、グローバルな核ガバナンスの基盤としてのNPTの重要性について2週間も議論し、2020年のNPT50周年の重要性に焦点を当てたあげく、勧告案に合意することに完全に失敗した。「一部の代表団の右脳と左脳は分離しており、急性離断症候群にかかっている!」―ある鋭敏な会議参加者が漏らした口ごもった言葉である。(原文へ

Photo: Chair Syed Hussin addresses the 2019 NPT PrepCom. Credit: Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.
Photo: Chair Syed Hussin addresses the 2019 NPT PrepCom. Credit: Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.

※著者は、国際原子力機関のNPT代表団長を2002年から2010年まで務め、1987年から2019年までのすべてのNPT会合に参加している。本稿の見解は全て個人のものである。

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米国という障害にぶつかりかねないNPT再検討会議

活動家が警告「NPT運用検討会議決裂で世界は核の大惨事に近づいた」

米国でイスラエル擁護派が跳梁

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

ウォールストリート・ジャーナルが「イスラエルによる近年で最悪の国際関係上の失策」と呼ぶなど、パレスチナ・ガザ地区に向かって支援物資を届けようとしていた船団へのイスラエル軍特殊部隊による攻撃に対する国際的な非難が強まる中、米国のいわゆる「イスラエル・ロビー」がイスラエル擁護の強力な論陣を張っている。

彼らが懸念するのは、イスラエルの特殊部隊がトルコの国旗を掲げていたナヴィ・アルマラ号の乗員少なくとも9人を殺害した事件をきっかけに、バラク・オバマ政権がイスラエルから距離を置くのみならず、イスラエル包囲網に加わってしまうのではないかというものである。

 「反中傷連盟」(ADL)のエイブラハム・フォックスマン代表は、「国際社会はイスラエルに対する偏向を持った判断をし、外交的リンチを加えているが、今こそ米国がイスラエル国家と市民の擁護のために立ち上がるべき時だ。」と語った。

「米国は、テロから自国の領土と市民を守るイスラエルの権利を支持するとともに、人道支援を行う「平和活動家」を装いながらハマスを支援しイスラエル軍兵士を攻撃してくる人々に対して、イスラエルが自衛権を行使する権利を有していることを支持する姿勢を国際社会に示さなければならない。」とフォックスマン氏は付け加えた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の報道官は、5月31日に国連安保理議長が出したイスラエル非難声明のトーンが弱められたことを米国に対して感謝したが、イスラエル擁護のネオコンは、オバマ大統領が最大の同盟国イスラエルを裏切って、安保理声明に拒否権を発動しなかったとして盛んに非難した。

ジョージ・W・ブッシュ政権で中東問題の補佐官をつとめたエリオット・アブラム氏は、「Joining Jackals」と題した記事の中で、「我が国はどうして(イスラエルを非難する)安保理議長声明に同意したのだろうか?」と問いかけた。

「オバマ政権は、イスラエルと連帯する明確な方針を持ち合わせていなかったことから、(公海上で民間船の乗務員を殺害したイスラエルを非難した)国連安保理メンバーを向こうにまわしてまでイスラエル支持の姿勢を出したくなかったのだ。」と、現在は外交問題評議会 (CFR)に拠点を置くアブラム氏は、ネオコン系週刊誌に寄稿した記事の中で語った。「なぜなら、オバマ政権がその気になれば、イスラエルを非難する安保理議長声明は阻止できたはずだからだ。」

イスラエルのネタニヤフ首相率いるリクード党と世界観を共有するネオコンの中には、オバマ政権が今回の危機に際して無条件にイスラエルを擁護しなかったことから、イスラエルは将来もっと攻撃的な行動に出ることになると示唆する者さえいる。

アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ルービン氏は、ナショナル・レビュー・オンラインに、「もしオバマ大統領が、カイロやベイルート、テヘラン、アンカラの歓心を買おうとしてガザ船団事件に関してイスラエルを見せしめにすることが米国の利益になると考えているのであれば、イスラエルの指導層は、米国はもはやイスラエルの安全を守る気がないと判断し、いかなる問題についても、とりわけイランによる核開発問題について、自らの手でことを処理しなければならないと考えるようになるであろうことを理解しておかねばならない。」と書いている。

またルービン氏は、「つまり、もし米国政府がここでイスラエルに対して厳しい態度をとるならば、それはすなわち、イスラエルがイランを攻撃する青信号が点されたに等しい。」と付け加えた。

こうしたイスラエルの心理は、6月1日付ウォールストリート・ジャーナル紙に掲載されたイスラエルの大手新聞イディオット・アハロノット(Yediot Aharonot)のローネン・バーグマン記者のコラムによく描かれている。バーグマン氏は、イスラエル特殊部隊の作戦を「無責任なもの」としたうえで、その背景には、世界がイスラエルというユダヤ人国家を敵視しているとする「脅迫観念」が同国の指導者層と国民の間で支配的となっている現状を反映したものだと指摘している。

またバーグマン氏は、イランの核開発計画に言及して、「疲弊し孤立しながらもイスラエルがなお、敵国(=イラン)に対して先制攻撃で、しかも取り返しがつかない手段を含む大打撃をもたらす能力を有している現実を考えれば、イスラエルがこのような「不健康な」思考にとわられている現状に深く憂慮せざるを得ない。」と語った。

ネオコン達が、オバマ政権がイスラエルと距離を置いた場合の地政学的代償について脅迫的に警告を発する一方で、ロビイストと米議会内の親イスラエル議員達は、5月31日にガザ沖約100キロの公海上で未明に起こった事件について、イスラエル政府側の見解を擁護する姿勢を見せた。

彼らは、作戦に参加したイスラエル特殊部隊は当時ペイントボールライフルと拳銃しか装備しておらず、船舶の乗員が鉄棒、ナイフ、その他の固いものを振り回して襲ってきたため、自衛の対応を取らざるを得なかったと主張した。

「イスラエル兵には、ナイフやこん棒を武器にリンチを行おうとする暴徒から自らの生命を守る当然の権利があります。」と、米下院外交委員会の共和党委員長イレーナ・ロス=レーティネンは語った。

両者の武器を含めて、イスラエル側が主に同国防軍(IDF)が配布した短いビデオ映像を元に主張している説明内容については、船上にいた約600名の多くが証言の中で異議を唱えている。彼らは、船をイスラエルに曳航された後、約24時間に亘って外部との連絡がたたれた状態で監禁されたのち、国外追放処分を受けた。

またイスラエル側の主張には、(イスラエル軍に)公海上で攻撃に晒された船上の人々の自衛権について考慮されていない。この点について、Media MattersのM.J.ローゼンバーグ氏は、「イスラエルの言い分は、あたかも車乗っ取り犯が、警察に対して、運転手が座席下のバールを取り出して自分に殴りかかってきたと不平を言っているようなものだ。」と語った。

またイスラエル擁護団体は、メディアと一般大衆の注目を、彼らの言う「テロリストと関係がある、イスラム系過激派集団」というイメージに集中させようとしてきた。すなわち、トルコに拠点を置く「過激派集団」、「インサニ・ヤルディム・バクフィ」( IHH)が、(今回襲撃を受けた)「マビ・マルマラ」号を購入し、3年間にわたるイスラエルによるガザ封鎖を突破するために8隻で出港した船団を後援しているというものである。

また、アメリカ・イスラエル広報委員会(AIPAC)は、5月31日、9.11同時多発テロ後に機密解除となった中央情報局(CIA)レポートにIHHが、テロ要員を雇い、アルカイダを含むテロリストグループの活動を支援している15組織のうちの一つに挙げられていると指摘したレポートを発表した。

またAIPACは、他のレポートの中で、「IHHはアルカイダによるロサンゼルス国際空港襲撃爆破計画において重要な役割を果たしていた」とする「著名なフランス人対テロ捜査官」による証言を引用した。

「しかし、このCIA報告書が書かれた90年代中頃には、IHHがボスニアやチェチェンで戦士を集めたこともあったが、現在は、ガザやハイチ、アフリカ諸国など100カ国以上において人道支援活動を行っている。」と6月1日付『ニューヨーク・タイムズ』は報じた。そして、イスラエルに拿捕されたいずれの船舶からも、各種棒きれとキッチンナイフの他には、武器らしきものは何も発見されなかった。

また、右派シオニスト団体「ザ・イスラエル・プロジェクト」(TIP)は、メンバーを動員して、それぞれの地域の政治家、メディアを対象したイスラエル支持を求める電子メールによる働きかけを行っている。6月1日午後の僅か2時間の内に、ここIPSワシントン支局にもイスラエルが主張する事件経過を支持するよう求めるTIPメンバーからの電子メールが20件近く寄せられた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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【ニューヨークIDN=タリク・ラウフ

ニューヨークの国連本部で開かれていた核不拡散条約(NPT)2020年再検討会議第3回準備委員会は、核軍縮のペースと程度をめぐって、合意に達せずに終了した。

4月28日から5月10日まで開催されていた準備委員会には150カ国が議論に加わり、一般討論(各国の代表による意見表明)では106件の発言がなされた。これに続いて、3つのクラスターでは時として繰り返しになるような多数の発言がなされた。3つのクラスターとは、(1)核軍縮と安全の保証、(2)核の検証(IAEA保障措置)、非核兵器地帯、中東・北朝鮮・南アジアなどの地域問題、(3)原子力の平和的利用、NPT再検討プロセス、条約の脱退問題、である。

2020年は、1970年にNPTが発効してから50周年、1995年に同条約が無期限延長されてから25周年となる。191の加盟国を持つNPTは、核不拡散・核軍縮・原子力の平和利用の領域をカバーする核のグローバル・ガバナンスの礎石だと広くみなされている。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

核兵器の拡散を予防し、その保有を9カ国(保有順に米国・ロシア・英国・フランス・中国・イスラエル・インド・パキスタン・北朝鮮)にとどめてきたことは、NPTの大きな成果だと考えられている。もっとも、イスラエル・インド・パキスタンの3か国はNPTに加盟したことがなく、北朝鮮は2003年に脱退している。

2020年にNPT発効50周年を迎えるにあたって、多くの西側諸国は、農業や発電、人の健康維持、海水の淡水化などの形で核エネルギーの広範な平和利用に成功してきたことや、国際原子力機関(IAEA)の検証能力の強化に焦点を当て、核兵器の廃絶に失敗してきていることからは目を逸らそうとしている。

他方、アジアやアフリカ、ラテンアメリカの多くの非核保有国は、核兵器の時代に終止符を打つというNPTの約束は、依然として果たされていないと指摘している。

NPTの会合では、一般的に言えば、各国はいくつかの国家グループに分かれる。最大のものは、122カ国を要する非同盟諸国(NAM)グループだ。他には、欧州連合(EU)・北大西洋条約機構(NATO)・カナダ・米国を含む西側諸国にオーストラリア・日本・韓国・ニュージーランド加えた西洋・その他の諸国グループ(WEOG)、ロシアやベラルーシ、ハンガリー、ポーランドなどからなる東側グループがある(その一部はEUやNATOに加入してもいるが)。

加えて、問題別に、ブラジル・エジプト・アイルランド・メキシコ・ニュージーランド・南アフリカから成る新アジェンダ連合(NAC)、オーストラリア・カナダ・チリ・ドイツ・日本・メキシコ・オランダ・ナイジェリア・フィリピン・ポーランド・トルコ・アラブ首長国連邦から成る核不拡散・軍縮イニシアチブ(NPDI)、オーストラリア・オーストリア・カナダ・デンマーク・フィンランド・ハンガリー・アイルランド・オランダ・ニュージーランド・ノルウェー・スウェーデンから成るウィーン10か国グループ、チリ・マレーシア・ニュージーランド・ナイジェリア・スウェーデン・スイスから成る(核兵器の)「警戒態勢解除」グループ、中国・フランス・ロシア・英国・米国の「P5」、アラブ諸国グループなどがある。

こうして、さまざまな考え方を追求する国家グループに複雑に分かれ、全会一致の合意に到達することがますます難しくなっている。

準備委員会の任務は2つある。ひとつは、次の2回の準備委員会の日程や手続き面のルール、作業プログラムの内容、再検討会議議長の決定を含めて、次の再検討会議に関する手続き的合意を行うこと、もうひとつは、核不拡散・核軍縮・原子力の平和利用という条約の三本柱や、非核兵器国への安全の保証、地域問題などに関連して「勧告」を行うことである。

今年の準備委員会は、以前の会合と同じく、手続き面での合意には何とか達し、ラファエル・グロッシ大使(在ウィーン国際機関アルゼンチン政府代表部)が2020年再検討会議の議長に就任することを原則的に承認した。しかし、以前と同じように、諸国は意見の大きな違いを埋めることができず、再検討会議を拘束するものでないにも関わらず、その「勧告」に関してすら合意することができなかった。

今日の国際社会の残念な現状や政治的・軍事的紛争、単独行動主義に有利となる多国間主義の後退、偏狭な国益の追求に関して、多くの懸念や主張が聞かれた。

しかし、かつてローマの街が燃え盛る中、議員らがつまらないことにうつつを抜かしていたのと同じく、今日の外交官も、核軍備管理が完全に崩壊する様を手をこまねいて見ているだけで、危険な核軍拡競争が起き、核兵器の偶発的・意図的使用の危険が増す方向へと道を切り開いているようだ。

核兵器が議論の中心にある。1975年の第1回NPT再検討以来、そしてその後の5年に一度の会合では、分断と対立の焦点は、条約第6条に規定された核軍縮問題であった。5つの核保有国とその同盟国は、軍縮を国家安全保障・国際安全保障の考慮や、通常兵器などの他の種類の兵器の軍縮とリンクさせてきた。

他方で、一般的には、非核兵器国のほとんどがNPT第6条の履行を重視する傾向にある。西側諸国は、長年にわたって、軍縮の達成に関して「ステップ・バイ・ステップ・アプローチ」あるいは「ブロック積み上げ型」を主唱してきた。すなわち、NPTに続いて包括的核実験禁止条約、次に兵器用核分裂性物質生産禁止条約、その後にまた別のステップが続くという想定である。他方で、非同盟諸国は、包括的核兵器禁止条約を通じた核兵器の完全廃絶に向けた、段階的かつ時限を規定した枠組みを提唱してきた。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

2017年7月に122カ国の賛成で採択された核兵器禁止条約の主導国は、今回の準備委員会の軍縮問題クラスターの発言で同条約に中心的に言及することを避ける賢明な策を採った。これによって、準備委員会が核兵器禁止条約によって「ハイジャックされた」と主張したかった同条約の強硬な反対勢力は、批判することができなくなってしまった。

しかし、2018年のNPT準備委員会で米国が新たな要素を持ち込んだ。「核軍縮の条件を作る(CCND)」提案がそれで、1995年、2000年、2010年のNPT再検討会議での合意を回避する狙いがあった。

米国はさらに、「ステップ・バイ・ステップ」のアプローチは既に成果なく失敗に終わっており、すべての核保有国を巻き込んだ核兵器のさらなる削減を導く条件と環境を創出するには完全に新しいやり方が必要だという認識に基づいて、昨年の提案をさらに改訂した「核軍縮のための国際環境を整備する(CEND)」という新たな提案を行った。

これまで米国のやりかたに無条件で従ってきた同盟国は、「ステップ・バイ・ステップ」「ブロック積み上げ型」「踏石(ステッピング・ストーン)」アプローチを頑強に支持してきたが。単独行動主義に彩られた米国の新提案を受けて、動揺を隠せないでいた。こうした様子は、あたかも蝶やユニコーンが現れて、新しい時代と海図なき核軍備管理の新世界に導いてくれる魔法をかけてくれることを夢見ているかのようだった。(原文へ)(PDF版

※著者は、国際原子力機関(IAEA)のNPT代表団長を2002年から2010年まで務め、1987年から2019年までのすべてのNPT会合に参加している。本稿の見解は全て個人のものである。

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北欧の「2030世代」がSDGに取り組む

【レイキャビクIDN=ロナワ・ヴィール】

国連が「アジェンダ2030」と持続可能な開発目標(SDGs)を採択してから2年目の2017年9月5日、北欧諸国が共同で「2030世代」プログラムを立ち上げた。北欧の公的な協力を通じてアジェンダ2030の履行を加速しようとの目的だ。

2020年12月までの予算192万5000ドルがプロジェクトに割り当てられた。

北欧閣僚会議(NCM)のプロジェクト・オフィサーであるファニー・レフラ氏は、このプロセスは実際には「ヘルシンキで討論会が開かれた」2016年秋に始まっていると語った。当時、SDGsの第12目標(持続可能な消費・生産)に焦点を当てることが決められたが、持続可能な消費・生産の下支えになる活動がSDGsの他の目標(第5、6、7、8、13、14、15、17目標)と関連付けられるべきであるとされた。青年会議の構想も、このときに生まれている。

「2030世代」の当初の目標の一つは、変革の担い手として、アジェンダ2030の履行に子どもや若者が果たす重要な役割を強調するというものであった。「2030世代」のウェブサイトには「今日の子どもや若者のための持続可能な将来を保証するための積極的な努力が強調され、アジェンダ2030に関する北欧の取り組みの中でとりわけ彼らが重要な対象集団と目された」と記されている。

Location of the Nordic countries/ Public Domain
Location of the Nordic countries/ Public Domain

変革の担い手として若者の役割を強調する方針は、いくつかの活動につながっている。その一つは、北欧閣僚会議の現在の議長国であるアイスランドで開かれたNCM会合に付随して同国で開催された会議である。「持続可能なライフスタイルを牽引する若者たち」というテーマのこの会議(レイキャビク会議)では、ラウンドテーブルや、北欧各国の環境関連閣僚との質疑応答、アイスランド教育相や同国首相、NCMのポーラ・レトマキ新事務局長との短い対話などがあった。

モデレーターを務めたルンド・ギュンシュタインドッティル氏とセーバル・ヘイギ・ブラガソン氏はこの会議を「若者を引き付ける対話」と呼び、会議を収録した動画を2019年7月に開かれる「持続可能な開発目標に関する国連ハイレベルフォーラム」で上映する予定だと語った。

レトマキ事務局長は、北欧の全5カ国(スウェーデン・デンマーク・ノルウェー・フィンランド・アイスランド)が、CO2の実質排出ゼロを目標とした声明を2019年1月に発している、と会議参加者に指摘した。この声明には、SDGの第12目標や若者に関連して、「気候変動による個別の影響を緩和する方法に関する情報提供を強化し、既存の消費者情報の枠組みと取り組みを利用し、気候にやさしい消費者行動に関する意識喚起において若者組織に明確な役割を与えることで、『北欧共通の声』が気候問題への意識が高い消費者の選択を促すことになるだろう。」と述べられている。

レトマキ事務局長はまた、「実際、北欧諸国は、各国別でもそうだし、北欧全体の協力を通じても、持続可能性に関しては既に多くのことを行っています。そうした事例の1つに、『北欧スワンエコラベル』があります。これによって、この30年間、消費者は環境にやさしい選択をすることが容易になりました。」と語った。

「もうひとつの事例は、循環経済の発展に資する取り組みを行う北欧のベンチャー企業を支援するイノベーション加速プログラム『ループ』だ。」

レトマキ事務局長は、「北欧の平均的な人々と同じレベルの消費を世界全体の人々がしたら、地球が4つ必要になります。しかし、地球は一つしかありません。だから私たちは努力しているのです。」と問題の背景を説明した。

2007年から11年までフィンランドの環境相だったレトマキ事務局長は聴衆に対して、多数の若者が参加したある会議で受けた質問について披露した。若者たちは「あなたたちは、変化を起こす最初の世代になるのか、それとも、そうしなかった最後の世代になるのか。」と問うていた、というのだ。

今回の会議では、いまや世界的な現象になった「気候スト」を始めたスウェーデンの学生活動家グレタ・トゥーンベリ氏がビデオを通じた短いプレゼンを行い、同じような点を指摘した。

トゥーンベリ氏は飛行機での移動を認めていないため、自身が出席することはかなわなかったが、会議のために用意した声明のなかで、「私たち若者は未来であり、私たちは生存上の危機である気候変動の危機に直面しています。私たち若者はこの危機を発生させたわけではなく、危機のある時代に生まれてしまったわけだが、それでも、この影響を最も受ける世代なのです。これは不公平です。」と述べている。

彼女は、変革の必要性を強調して、「私たちは、年長世代に対して、これまで行ってきたこと、或いは今も私たちにし続けていることについて、責任を取るよう要求する必要があります。そして、私たち自身も行動する必要があるのです。必要な行動がないまま過ぎる一日は失敗であり、そうした1年は完全なる大惨事となります。だからこそ、私たちは、今こそ何らかの行動に移らねばならないのです。」と述べた。

レトマキ事務局長も同じ趣旨の発言をした。「若者は行動を求めています。私も含めて、政治家や企業人、利害関係者は、彼らの声を真剣に受け止めねばなりません。気候変動の負担を若者に負わせてはならないのです。必要な変化を起こす立場にいる人々がこれを実行し、解決に導かねばなりません。」

北欧閣僚会議のレフラ氏は、「トゥーンベリ氏は、スウェーデンで政治家へ気候変動問題に対する積極的なアクションを求めた気候ストライキ『未来のための金曜日』を始めたが、これまでに『2030世代』が彼女と何らかの形で協力してきただろうか? そうではありません。しかし、気候ストライキに関しては、まだ特に計画はないものの、今後若者が変革の担い手として『2030世代』プログラムの活動の中で継続的に関与することになるだろう。」と語った。

アイスランドのギュドミュンドゥル・インギ・グドブランドソン環境相とカトリン・ヤコブスドッティル首相が学生気候ストライキの主催者らと会合を持つ意向であることが会議の参加者らに伝えられた。ノルウェーのオラ・エルヴェストゥエン気候・環境相もまた、気候ストライキに対応して一連の会合を立ち上げると述べた。

北欧閣僚会議や「2030世代」とは別に、アイスランドとフィンランドでは、SDGsに向けた活動に関して若者の評議会が設置されている。

北欧閣僚会議は、若者に焦点を当てる観点から、「2030世代」の活動の一環として「再生2030」(ReGeneration 2030)運動の若者らと3回のサミットを開くことを決めた。

「再生2030」は、北欧・バルト三国の15~29才の若者による活動である。オーランド諸島で毎年1回開かれるこのサミットでは、メッセージと持続可能な解決策を履行し、それらを政治家や学者、利害関係者、その他の指導者らに提出している。第1回のサミットは2018年に開催された。

2019年のサミットは「気候を変える、ライフスタイルを変える」をテーマに、SDGsの第12目標第13目標に着目する。

「再生2030」は「持続可能なライフスタイルを牽引する若者たち」会議の主催団体の一つであり、会議への参加は30才以下の若者に制限されていた。

ヤコブスドッティル首相は今回のレイキャビク会議の閉会の挨拶で、「子どもや若者たちは、世界の仲間たちと同じように、この数週間にわたって毎週金曜日にレイキャビクでデモを行い、将来世代のための気候変動への真の行動を要求しています。将来はあなたたちのものであり、あなたたちはそれを実現し、手にしつつあります。私たちは、あなたたちを失望させたくありません。」と述べた。(原文へPDF |スペイン語

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古代シルクロードの要衝、近代的な観光開発に踏み出す

【ブハラ(ウズベキスタン)IDN=カリンガ・セネビラトネ】

ブハラ市は、アジアとアラブ世界や欧州を繋ぐシルクロードにおいて、交易上の要衝であった。ウズベキスタン政府が2016年に外国人観光客に対する規制を撤廃し、シルクロードに対する世界的な関心が高まる中、2000年の歴史を持つブハラは中央アジアの主要な観光地を目指す方針だ。

ブハラは、ペルシアやインド、中国、ロシアから訪れる商人らによって栄え、10世紀から17世紀にかけてのシルクロード発展の中で人気の中継拠点となった。

ブハラはまた、学問・宗教・文化の中心地でもあった。古くは8世紀にまで遡るペルシア文化の影響を色濃く残す、よく保存されたイスラム都市の典型と言ってよいだろう。

SDGs Goal No. 4
SDGs Goal No. 4

ペルシア式の大規模なマドラサ(イスラム神学校)の建物群は、1993年にユネスコの世界文化遺産に指定されて以来、修復措置が取られてきた。こうしたマドラサはイスラム学問のための場所ではなく、アートギャラリーや土産物店、レストラン、劇場として機能している。おそらくこれは、旧ソ連時代からの流れであろう。

地元投資家や、とりわけトルコやロシアからの多くの外国人投資家が、かつてのマドラサ式を模倣した小さなホテルを旧市街に建設している。

地元の元文化人類学者エリザベタ・ネクラソワ氏は、この古代都市で観光インフラばかりが整備されることをあまり歓迎しているわけではない。ネクラソワ氏は、「ブハラは、年間数百万人の観光客を誘致できるだけのポテンシャルを備えてはいますが、観光開発は単に観光客が落とすカネだけではなく、民衆と文明が育んできた豊かな文化的知恵を伝えるものでなくてはなりません。例えば、ブハラには140カ所以上の文化的な見所がありますが、観光客を惹きつけ教育的効果もある場所を、さらに絞り込む必要があります。」と語った。

ネクラソワ氏はさらに、「開発事業の大半が進行している旧市街には、約100カ所の貯水槽と水を地域コミュニティーに運ぶ地下運河体系から成る古代からの水道システムがあります。これは旧市街の新たな観光スポットになる可能性があります。この街独自の作りや歴史に観光客を誘う新たなガイドブックが必要なのです。」と語った。

SDGs Goal No. 8
SDGs Goal No. 8

春は、桑の木に紅白のみずみずしいマルベリーが豊かに実る時期である。ブハラでは、旧市街の運河や通路に沿って「野生」のマルベリーが群生しており、地元の人々も観光客も、道すがらマルベリーを摘んで食べることができる。

ネクラソワ氏は、「ブハラにはかつてシルクロードが繁栄した時代に遡る興味深い歴史があります。この歴史に、この交易路がなぜシルクロードと呼ばれてたのかを観光客に伝える興味深いストーリーをつなげることができるのです。例えば、この古代都市にはかつて多様な独自のバザール(市場)が点在し、それらを発掘することが可能です。こうした歴史的な遺構を、シルクロードを再興しようとする現在の取り組みとうまく結びつける興味深いストーリーを構築すれば、観光客の関心を惹くことが可能です。」と語った。

ウズベキスタンは、近隣の中央アジア諸国と共同で、欧州のシェンゲン・ビザに似た「シルクロード・ビザ」の導入を検討している。同国は2017年、電子ビザシステムと、多くの欧州・アジア諸国市民向けのビザなし渡航制度を導入し、昨年の観光客は450万人以上と、それ以前の2倍に伸びた。

Photo by Kalinga Seneviratne | IDN-INPS

しかし、観光客のほとんどは首都のタシケントとムガール・イスラム文化揺籃の地であるサマルカンドを訪問している。ブハラはタシケントから列車で約8時間もかかる。近年、日本から導入した新幹線が開通し、移動時間は半分になった。

ブハラには、かつての文化・交易の中心地として、色とりどりの民族舞踊や細密画、人形など観光客を魅了するものが数多くある。旧市街の中心には、「アルク」と呼ばれている1500年の歴史を持つ土煉瓦でできた要塞があり、見事に修復されたマドラサや、美しい彫刻が施されたカラーン・ミナレット(尖塔)、そして精巧に積み上げた煉瓦で作られた世界で最も美しい建物群の一つであるサマニ霊廟に囲まれている。これらは、この古代イスラム都市の豊かな建築美を示すものである。

SDGs Goal No. 11
SDGs Goal No. 11

5月から9月にかけての観光シーズンには、 ナディール・ディヴァンベギ・マドラサが毎晩美しく彩られる。日中には土産物街なのだが、夜になると食事を楽しめる劇場に変わる。90分に及ぶ色とりどりの民族音楽・舞踊や中央アジア砂漠地帯のファッションショーをブハラ・フィルハーモニー・民族センターで観ることができる。

音楽は、インド・ラジャスタン州の民族音楽に非常によく似ている。「私たちは政府に雇用され毎日練習を積み重ねています。観光シーズンには毎日約500人の前でパフォーマンスをしています。」とグループのあるメンバーはIDNの取材に対して語った。

ブハラにはまた、起源がペルシアの写本が盛んに作られた10世紀に遡る、細密画芸術を育んできた歴史がある。この古い都市には多くのアートギャラリーがあり、その多くがアトリエも併設している。

Credit: Kalinga Seneviratne | IDN-INPS
Credit: Kalinga Seneviratne | IDN-INPS

地元の大学で8年間、細密画を教えているフェルズ・テムロフ氏は、ブハラで自らのアトリエ兼店舗を経営している。テムロフ氏は、「この仕事は教鞭をとるよりも面白いですね。いろんな人が来るし、海外に行く機会もあります。これまでに、フランスで2回、モスクワで3回、ウィーンで1回、展示会を開きました。ブハラ芸術はとても有名で、観光客もやってくるし、これで生計も立てられます。」と述べる一方で、あまりにも多くの人々が観光客需要を当て込んでこのビジネスに参入している現状に不満を抱いていた。

紙人形もまた地元名産品の一つであり、親指と人差し指を使った人形劇が繰り広げられる。父親から紙人形の作り方を習ったというファルーク・アクメドフ氏は、「3家族・17人でこの人形劇団を運営しています。」と語った。

観光シーズンには、この伝統工芸を学びに観光客が店を訪れる。アクメドフ氏の父親は紙人形を使った3分間のライブショーを実演してみせている。客はアトリエで自ら作った人形を50~100ドルで買うこともできる。「これは年間を通じてできる仕事ですが、私たちはオフシーズンにも人形を作っています。」とアクメドフ氏は語った。

Credit: Kalinga Seneviratne | IDN-INPS

細い路地沿いに住む多くの旧市街の住民らは、観光客向けの商売を始めるよう勧める政府に従って、家を増築している。

ソ連時代には政府所属のプロカメラマンだったシャフカート・ボルタエフ氏は、現在は年金暮らしだ。古い自宅の2階に3部屋を増築し「ホームステイリゾート」を作り上げた。フェイスブック上の5000人の友達を活用して、ビジネスを宣伝している。

ソ連崩壊後は厳しい時代でした。でも、今は政府が観光産業を奨励しており、新しい機会が生まれています。」と語るボルタエフ氏は、ブハラの昔ながらの写真を展示するギャラリーを開設し、そこでポストカードも作っている。

「私は人に会うのが好きで、写真業界で出会った知人を通じて観光客を呼び込み、ここに泊まってもらおうと思っています。クリエイティブな人たちにここに来てもらって、セミナーを開き、この古代都市やこの地域の面白いところを勉強していってほしいですね。」と楽観的な調子でボルタエフ氏は語った。(原文へPDF

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