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|気候変動合意|「評価できるが完璧ではない」―太平洋の女性たち

【キャンベラIPS=キャサリン・ウィルソン】

太平洋島嶼諸国の女性たちは、パリで行われた国連気候変動条約第21回締約国会議(COP21)でなされた地球温暖化を抑制するための合意について、途上国と先進国との間の対立によってこれまで特徴づけられてきた問題で世界が連帯した前例なき瞬間であったと歓迎している。しかし、気候変動を自身の生存にとって最大の脅威とみなしている太平洋の小さな島嶼途上国にとっては、威勢のいい言葉に実際の行動が伴なわなければ、成功とは言えない。

「これは大きな前進で、太平洋島嶼諸国の先住民らが一致して行動や正義を要求しなければ、不可能だったと思います。私は将来に関して楽観視しています。」と語るのはキャシー・ジェトニル=キジナー氏だ。キジナー氏は、マーシャル諸島出身の気候問題に関する活動家・詩人で、この歴史的な会合にも出席した。

昨年12月にパリで開催された21回目の会議では、気候変動条約の締約国会議を構成する195か国プラス欧州連合(EU)の利害の間で集中的な協議と妥協が図られた。

太平洋諸島フォーラム事務局(PIFS)のメグ・テイラー事務局長は、「太平洋島嶼諸国が指摘したすべての問題が最終成果・文書に反映されたわけではありませんでしたが、気温上昇幅の1.5度までの抑制、個別要素としての損失・損害の問題、簡素化された気候変動対策資金への大規模なアクセスといった取り組みを追求する重要性が認識され、相当の進展がありました。」と語った。

中部太平洋にある小さな環礁国キリバス(人口11万人)の「キリバス気候アクションネットワーク」のクレア・アンテレア氏は、会議の成果は「評価できるが完璧ではない」と指摘したうえで、新たな気温抑制目標と気候対策資金拡大が特に重要だと語った。

世界気象機関(WMO)は、2016年の世界の平均気温は産業化以前の時代より1度上昇して、史上最も暑い年になると予想している。他方、太平洋島嶼諸国は、今世紀に起こりうるさらなる気温状況、海面上昇、海洋の酸化、サンゴの白化に備えている。多くの島嶼国家における最大海面上昇幅は0.6メートル以上になる可能性があると、「太平洋気候変動科学プログラム」は報告している。

Flag of Marshall Islands
Flag of Marshall Islands

マーシャル諸島では、海面上昇のために「ただの高波でも洪水を引きおこし、セメントや石で造られた防波堤を壊し、家々を完全に破壊します。また、海水の侵入によって運ばれた塩分は作物や食物をダメにするのです。」とジェトニル=キジナー氏は語った。

もっともうまくいった場合でも、キリバスやパプアニューギニアでは気温上昇が1.5度に達する可能性があるが、もっとも温室効果ガスの排出が多い場合、2090年までに2.9度も上昇するかもしれない。

地球温暖化が進めば、パプアニューギニアやソロモン諸島では常食であるサツマイモの生産高が2050年までに5割以上減少する可能性があるとアジア開発銀行では予測している。作物減少の重荷は、地域で作物を育て水を運んでくることに主たる責任を負う太平洋島嶼諸国の女性たちの肩にかかってくるだろう。

太平洋島嶼諸国は、昨年COP21に際して新たな気温上昇の上限1.5度への認知度を高めようとキャンペーンを張った。これは、島々が食物や水、土地の損失のためにますます住みにくい場所になっていく中で、将来の気候変動がもたらす衝撃を和らげ、強制的な移住を減らすためにきわめて重要だと彼らは論じている。

そして、先進国社会における見方の変化を示す兆候として、COP21第2週の間に出てきた「野心連合(Coalition of High Ambition)」において数多くの途上国・先進国がこの問題に関するキャンペーンで太平洋島嶼諸国に加わった。とりわけ、この連帯はメキシコ・ブラジル・ノルウェー・ドイツ・EU・米国等79か国によって示された。

Pacific Islands Map/ Pacific Islands Forum Secretariat
Pacific Islands Map/ Pacific Islands Forum Secretariat

地球の気温上昇を2度に抑制し、さらに0.5度の減少を「追求する努力をする」ことをめざした最終的なパリ協定は、この連合にとっての勝利といえよう。

「『1.5度』は会議開始前には交渉のテーブルにも上ってもいませんでした。だから、それが最終テキストに入ったと聞いた時、安心感で叫んでしまったほどです。とはいえ、文言があいまいな点は心配で、実際に1.5度を達成するには私たちが継続的に圧力をかける必要があります」とジェトニル=キジナー氏は語った。

Kathy Jetnil-Kijiner speaking at the Climate Summit/ ICNP
Kathy Jetnil-Kijiner speaking at the Climate Summit/ ICNP

しかし、太平洋島嶼諸国にとて、異常気象に対処するうえで既に直面している大きな諸問題がこれでなくなるわけではない。小規模な島嶼経済にとって、国際的な気候財源へのアクセスなしに、こうした諸問題への対応は不可能である。今年、島嶼諸国の指導者らは、途上国による気候問題への対応資金として2020年までに毎年1000億ドルを拠出するという公約を国際社会が守るように呼びかけている。この目標は2009年にコペンハーゲンで初めて設定されたものだ。これまでに拠出された金額に関する評価は分かれているが、世界銀行は4月、700億ドルという巨額の不足が生じているとしている。

テイラー氏は、「パリ協定第9条は、島嶼途上国にとって、資金提供は公的かつ無償でなければならないと定めており、2020年以後の気候財源には前向きな面がみられます。」と語った。「グリーン気候ファンド」(GCF)のような財源メカニズムについては、無償供与とすべきか低利子の融資とすべきかについて従来から議論がなされている。

アンテレア氏は、資金が効果的なものであるには、「簡潔な提供方法を通じて草の根の人びとに届くようなものである必要がある」と強調した。

PIFSのテイラー事務局長は、「最終協定で極端な気候と自然災害によって引き起こされる損失・損害が言及されたことは、気候変動の被害を受けている国々が重大な環境汚染を引き起こしている国々に対して責任や補償を訴えるための内容が入っていないにせよ、画期的な一歩となりました。」と指摘したうえで、「しかし、この決定によって、その他の方法を使って他の加盟国の責任を問う国家の法的権利が、減じられたわけではありません。」と語った。

Wikimedia Commons
Wikimedia Commons

しかし、大きな希望となっているのは、排出削減目標を設定し、長期的な監視・再検討のプロセスにこれを付すという法的拘束力のある公約を各国がなした点にある。これにより、再生可能エネルギーへの世界的移行は加速され、地球温暖化ガスの最大の発生源である化石燃料の燃焼はますます困難になるであろう。

「私たちの目標に対して諸政府に責任を取らせるための重要なステップとして、5年ごとの再検討が必要です。」とジェトニル=キジナー氏は強調した。もし各国がこの目標をより良いものにする努力を怠ったならば、地球は、2.7度以上の破滅的な気温状況に向かうことになるかもしれない、と専門家らは結論づけている。

パリでの世界的な合意が示した高揚感が去ったのちに最も緊急となってくる問題は、この高邁な約束をいかに実行に移すのか、という点である。太平洋島嶼諸国の人びとの生活は、まさにその点にかっているである。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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持続可能な開発のために世界市民教育を推進する

太平洋島嶼国の人々が、「オセアニア市民」、「世界市民」について討議

次期国連事務総長選挙戦、本格化へ

【ウィーン/ニューヨークIDN=ジャムシェッド・バルーア】

今年進んでいく潘基文国連事務総長の後継者指名プロセスは、歴史的な次元を帯びている。ノルウェーのトリグブ・リー氏が初代国連事務総長になった1946年以来、計7人がこの国連のトップとして安全保障理事会に指名され、国連総会によって追認されてきた。

しかし今年は、国連総会議長と安保理議長が12月15日付の画期的な共同書簡の中で、全ての国連加盟国に対して、「男性だけではなく女性も、事務総長職の候補として検討するよう」呼びかけたことから、史上初めて国連事務総長の指名プロセスが全ての国連加盟国に開放されることになるだろう。

「この変化は、国連総会加盟諸国と『70億人のための1人』キャンペーンによる圧力が功を奏したものです。」と、「核兵器なき世界」の達成に向けて国連に焦点をあてたイニチアチブや行動のための新たなプラットフォームであるUNFOLD ZEROは語った。

UNFOLD ZERO

「70億人のための1人」キャンペーンは、世界各地の個人や、アムネスティ・インターナショナルアヴァーズフォーラム・アジアなど750以上の団体から構成されており、合計で既に1.7億人が参画している。「コフィ・アナン前国連事務総長のような著名人をはじめ、私たちの目的を支持する政府も増え続けています。」と同キャンペーンは述べている。

国連高官やその他の専門家らは、国連の指導者を選出するプロセスのさらなる改革を目指して、声を上げている。

次の事務総長に関する重要問題を話し合うため1月18日にパリ政治学院で開かれた「青年・リーダーサミット」で、多くの国連専門家や政治家、NGO関係者らが、次期国連事務総長は、一期限り(おそらくは7年間)の任期にすべきとの「70億人のための1人」キャンペーンの提案に賛同した。

これは、国連総会と安保理の議長が共同の呼びかけを行ってから、次期国連事務総長を巡る重要問題について初めて行われたパネル・ディスカッションだった。

「70億人のための1人」キャンペーンは、「アラブ連盟のアムレ・ムーサ元事務局長が『国連事務総長を大国の圧力から解き放つことになる』任期一期限り・更新なしの方がよいと訴えた」と、この討論をまとめている。

Amr Mohammed Moussa/ Guillaume Paumier
Amr Mohammed Moussa/ Guillaume Paumier

アルジェリアの元外相で国連事務総長の特別代表でもあるラクダール・ブラヒミ氏もまた、新国連事務総長の任期を一期に限るという考え方と、「70億人のための1人」キャンペーンへの一般的な支持を表明した。

任期を一期に限る案への支持を表明している他の国連専門家には、マルティ・アハティサーリ氏(フィンランド元大統領、国連調停者、エルダーズのメンバー)、ジャン=マリー・ゲーノ氏(「国際危機グループ」会長、国連平和維持活動元代表)、ブーク・イェレミッチ氏(国連総会元議長、セルビア元外相、国連事務総長の候補の一人といわれる)、シャウカート・アジズ氏(パキスタン元首相)らがいる。

次の国連の指導者にはどのような資質が不可欠か、との「70億人のための1人」からの問いに答えて、パネリストらは、強国に対峙する勇気のある候補者が成功する、と述べた。この資質は、現在のところ、「70億人のための1人」キャンペーンによる世論調査でトップを走る回答である。

ジャン=マリー・ゲーノ氏によれば、次の事務総長に必要な主な資質は、「リスクを取ることを恐れない人物である」ということだ。「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のブルーノ・スタグノ・ウガルテ氏もこれに賛同して、「(国連事務総長には)真実を語る勇気を持った人間が必要です。国連安保理に対して、安保理が聞きたいことではなく、聞かなくてはならないことを話せる人物を」と語った。

「70億人のための1人」キャンペーンは、ブラヒミ氏が、次の指導者は「明日職を辞しても構わない」と言える人物でなければならず、「国連は、それを牛耳る大国ではなく、それを必要とする小国のために存在している」と語った、とまとめている。

アンゲラ・ケイン国連元事務次長は、人道的危機の問題について国連安保理に注意を促すことを国連事務総長に認めた国連憲章99条を利用すべきだと示唆したと伝えられる。

Angela Kane, UN High Representative for Disarmament Affairs, addresses the 2013 session of the Conference on Disarmament. Credit: UN Photo / Jean-Marc Ferré
Angela Kane, UN High Representative for Disarmament Affairs, addresses the 2013 session of the Conference on Disarmament. Credit: UN Photo / Jean-Marc Ferré

パネリストらはまた、次の国連指導者は、国連における前向きな変化の媒介者にならねばならないと論じた。刺激を与え、ヴィジョンを示し、よいファシリテーターになる。紛争におけるすべての関連主体を関与させる意思を持ち、紛争の発生前にそれを見通す。そして、権力のない人々のために声を上げ、「政治的に有能」で、安保理で対立する利害の橋渡しをする、そのような人物が望まれている。

「70億人のための1人」キャンペーンのある代表は、パネリストに対して、主に個人の能力よりも、むしろ様々な地理的地域の間で事務総長ポストを回していく、いわゆる「地域ローテーション」方式についても尋ねた。

指名は能力に基づくものでなければならないという同キャンペーンの主張に沿って、ブーク・イェレミッチ氏は、今回の選出は、指名を狙っている東欧グループに限られるべきではないと語った。「個人的に言えば、私は、全世界にプロセスを広げるべきと考えています。全ての人にチャンスが与えられるべきで、指名は能力に基づくものでなくてはなりません。」

アンゲラ・ケイン氏は、地域によるグループ枠は、事務総長選出プロセスにおいては、「撤廃するか、無視すべきであり」、任務に「最適な候補者」を選ぶことに注力すべきだと語った。ケイン氏は、既にアフリカ出身者(=ブトロス・ブトロス・ガリ氏とコフィ・アナン氏)に15年も国連の舵取り役を任せてきたのだから、「私たちは既に、地域ローテーションを無視するという前例を作り上げています。」と語った。 

「70億人のための1人」キャンペーンによれば、国連総会のモーエンス・リュッケトフトは、次の3人の候補者を正式に発表している。

スルジャン・ケリム:マケドニア出身。元外相、国連総会議長。現議長が12月15日に立候補を発表。

イゴール・ルクジッチ:モンテネグロ出身。副首相、外相。国連総会議長が1月15日に立候補を発表。

ヴェスナ・ピュジッチ:クロアチア出身。副首相、外相。国連総会議長が1月14日に立候補を発表。

「70億人のための1人」キャンペーンはこれに加えて、オンライン記事をもと他に24人の候補者がいることを明らかにしている。しかし、これらの人物の立候補は国連総会議長によって公的に承認されていないことから、「推測や伝聞の域を超えたものではない。」と同キャンペーンは述べている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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2016年の最重要課題となる核兵器禁止条約

|国連|核軍縮のための新たなオープン参加国作業グループの設置を計画

青年・平和・安全に関する初めての国連安保理決議

核の危機に依然として無知で無関心な若者たち

【国連IDN=ロドニー・レイノルズ】

1945年8月の広島・長崎への原爆投下から70年以上にわたって、平和活動家たちは「核兵器なき世界」に向けた世界的なキャンペーンをたゆみなく続けてきた。

この問題について長期に亘って議論を展開してきた国連は、核軍縮に関する数多くの決議を毎年採択し続けている。

従って国連総会(193か国が加盟)が昨年12月に、2015年の会期を軍備管理・軍縮に関する57本の決議案を採択して締めくくったことは驚くにあたらない。これらの決議のうち、実に23本が核兵器に関するものであった。

しかし、「核兵器なき世界」という目標は、少なくとも現在の世代にとっては、依然として、遠い先の政治的幻影にすぎないのが現状である。

英米安全保障情報評議会(BASIC、本拠ワシントン)が先週発表した新たな調査報告書は、核兵器に関する議論の枠組みを再構成しようと試みたものだった。

数千発の核兵器を受け継ぐことになる次世代の政策立案者は、核軍縮をどのように見ているのだろうか? とりわけ、核兵器に関する政策が過去の世代の遺産にきわめて強い制約を受けているとしたらどうだろうか。

14か月に及ぶプロジェクトの結果をまとめたこの調査報告書は、「さらなる核不拡散・核軍縮をめざす次世代の政策決定者の間で革新的な発想を育み、より多くの人々を巻き込むうえでの出発点となる」ことが期待されている。

「核不拡散措置を強化し、核軍縮を通じてグローバルな安全保障を達成するという共通の責任について、人々の凝り固まった態度と進展がほとんど見られない現状を克服するには、革新的な思考が必要である。」と報告書は論じている。

このプロジェクトは3つの問いを提示している。第一に、核兵器に関する意思決定のサイクルにおいてもっとも影響力を持っているのは誰か、そして、この状況を転換することが可能か否か。

第二に、核に関する議論が、より注目を集める他の政策領域や運動とより緊密に統合されるとすれば、それはどの領域において、いかにして可能か。

第三に、新興の政策立案者や公衆、メディアと核兵器問題とがより強く響き合うようにするにはどうすればよいか、なぜそうなるのか。

調査は、米国と英国において次世代を担う青年層の参加者を対象に行った一連のワークショップの結果である。ワークショップは、課題や、関与のメカニズム、討論で出てくる可能性のある新たな次元、(核兵器と気候変動の関係といったような)他の領域との関係性を把握することを目的としたものであった。

従来、核問題が表の議論に出てくる際、思慮ある議論がなされることはめったになく、むしろ、特定の立場をナイーブだとかタカ派だとかレッテル貼りするために、浅薄で象徴的な議論として特徴づけられる傾向がある。

調査は、新たな声を議論に持ち込むことを呼び掛け、若者世代の政策立案者の登場を促す方法を試みている。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)軍縮・軍備管理・不拡散プログラムの責任者タリク・ラウフ氏はIDNの取材に対して、「BASICの報告書は、核兵器に関する思考と言説が長年の間にいかに陳腐なものになって来たか、そしていかにして世界にとっての主要な危険リストから滑り落ちてきたかに焦点を当てたものです。」と語った。

「報告書は、核軍縮を通じて世界の安全保障を確保することについて、旧態依然とした態度で思考停止状態が続いている現状を打破する必要性から、将来における核兵器政策を、若者世代の安全保障と関心事に、より一層関係づけさせようとする意思に満ちています。結局のところ、こうした次代を担う若者世代は、数千発の核兵器と、数千トンの兵器級核物質を引き継ぐことになるのですから。」と、ラウフ氏は指摘した。

またラウフ氏は、「報告書の重要な内容のひとつは、英国・米国の若者は、自国の核兵器にそれほど関心を持ってはいないが、核保有国がさら増えたり、テロ集団に核が拡散することを懸念しているという点にあります。」と語った。

「この新世代は、お目出度いことに、(彼らが育った)ツイッターやフェイスブックのような仮想の世界には核兵器は何の関連ももってこなかったことから、核保有の現実に無知であり、その結果、関心を持っていないのです。しかし彼らは、事故か或いは非国家主体によるものかは別として、万一核爆発が不幸にも引き起こされることがあれば、否応なしに、眠りからたたき起こされることになりのです。」と、核不拡散条約(NPT)2015年運用検討会議の2014年準備委員会会合議長の元上級顧問を務めたラウフ氏は語った。

ラウフ氏はまた、「主流のメディアにおける核兵器に関する数少ない議論はたいてい、敵対国の[核の脅威に関する]恐怖を煽るものですが、一方で自国の核兵器や関連政策及び支出については無視しています。」と指摘した。

ICAN
ICAN

「この報告書は、若者に対して核兵器に関する教育や情報を早期の段階、まずは学校教育から提供し始めるべきだと勧告しています。この点については『核の瀬戸際における私の旅』と題する回顧録を最近出版したウィリアム・J・ペリー元米国防長官のような、核兵器政策に関する直接の経験を持つ人々の見解や、『博士の異常な愛情』『未知への飛行』『世界を救った男』のような映画に注目することが有益です。」ラウフ氏は語った。

My Journey at the Nuclear Brink by William J. Perry/ Stanford University Press
My Journey at the Nuclear Brink by William J. Perry/ Stanford University Press

「BASICの報告書は、核兵器の問題や人類の存亡に係わる地球規模の安全保障に関して若い世代を巻き込む方法を探るうえで重要な貢献となります。」と、国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)渉外政策調整部検証安全保障政策課長(2002~11)を務めた経験もあるラウフ氏は語った。

BASICのこのプロジェクトで利用された方法は例えば、フォーカス・グル―プの参加、ラウンドテーブルや専門家との対話イベントの開催、14~30歳の欧州の若者を対象にした核兵器に対する意識調査、デジタルツールを用いた関与、若者世代との対面的なネットワーキングなどがある。

報告書の重要な知見には、例えば、核兵器が修正主義国家(=現在の国際秩序に不満を持つ国家)や非国家主体の手に渡った場合に引き起こされる将来への不安を除けば、米英の若者達にとって、核兵器はあまり関連のないものだと見られている点が挙げられる。

「核兵器の問題は、(米英の若者達にとって)普段の意識や視野からは外れた、三面記事からも切り離された話題であり、日常生活との関連付けが難しいというだけではなく、政治や軍事の領域においてもあまり影響のない問題だと見られている。」

前の世代が核兵器に対して大いに有用性と恐怖を見出し、その恐怖を基づく複雑な抑止関係を確立したのに対して、次の世代は、その帰結は自分たちにほとんど関連のない問題だとみなしている、と報告書は結論づけている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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「変革の世代」が、核兵器廃絶の実行を誓う

|視点|核戦争は避けられるか?(ギュンナー・ウェストベル元核戦争防止国際医師会議共同議長)

核兵器の禁止を望む若者たち

CTBTO@20

INPS-IDN covered the symposium ‘Science and Diplomacy for Peace and Security: the CTBT@20’ from January 25 to February 4, 2016 at the Vienna International Centre in Austria – and did an exclusive interview with CTBTO Executive Secretary Dr Lassina Zerbo.

video interview: ‘Ratify Treaty to Ban Nuclear Testing Before Fatigue Creeps in’

国連、2015年以後の開発課題で女性の役割重視

【国連IPS=タリフ・ディーン】

2015年以降の開発課題の完全実行のための集中的な世界キャンペーンを開始した国連は、9月に世界の指導者が採択した17の持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントが不可欠であると明確に主張している。

UN Assistant Secretary-General and UN Women Deputy Executive Director, Lakshmi Puri, intervening at the Women’s Forum on Financing for Gender Equality. Photo: UN Women/ Binyam Teshome Weldehana

そして、国連の潘基文事務総長は、人類の半数を占める女性が「あらゆる領域において(男性と)完全かつ平等な参加者として」扱われるようになるまで、あるいはそうならない限り、国連の開発目標が100%達成されることはないだろうという政治的メッセージを強く発した。

「UNウイメン」のラクシュミ・プリ事務局長代理(国連事務次長補)はこのメッセージを再確認して、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントは持続可能な開発の実現にとって必要不可欠だと語った。

このことは、昨年7月の第3回開発資金会議で採択された「アジスアベバ行動目標」や、9月に国連総会で採択された「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」の成果の中にも強く反映されている。

プリ氏は、「こうした成果は、ジェンダーギャップの解消に向けた投資の増加を通じたものを含め、ジェンダー平等とすべての女性・女児のエンパワーメントを達成することを自らに強く義務づけています。」と指摘した。

アジスアベバ行動目標の最初のパラグラフは「我々はジェンダー平等と女性のエンパワーメントを達成するであろう」と宣言している。

「『2030アジェンダ』は、ジェンダー不平等が、国内及び国家間の不平等を含むあらゆる不平等の源泉であると認識する一方、SDGsではジェンダー平等の達成を単独の目標として掲げています。」とプリ氏は語った。

17のSDGsには、飢餓貧困の根絶健康な生活の確保ジェンダー平等の達成、グローバル環境の保護、持続可能なエネルギーの確保などが含まれている。

これらの目標は2030年までの達成が期待されている。

昨年初めに開催された、権力と意思決定権を持つ女性に関するハイレベルイベントで演説した潘事務総長は、この数十年に比べて、今日の世界ではずっと多くの女性が政治分野で活躍していることを認めた。

「しかし、進展はあまりに遅く、スピードにもばらつきがあります。」と潘事務総長批判した。

潘事務総長は、「どの国にも女性の完全な平等はなく、女性は国会議員の5人に1人しかいません。また世界で女性の国家指導者は20人しかいないのです。」と指摘した。

潘事務総長はまた、「国会に女性が全くいない国が世界には5つあり、8か国には女性閣僚が全くいません。さらに女性は、余りに多くの国々で、家庭内暴力や性器切除、その他の形態の暴力に苦しんでいます。」と指摘したうえで、「こうした行為は個人にトラウマを、社会にダメージを与えています。」「現在世界的に横行している女性・女児に対する暴力を終わらせないかぎり、人権の擁護や開発の進展はありえません。」と語った。

プリ氏は、「私たちは、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントという真の約束と可能性を実現し、彼女たちの人権を実現する100年に一度の、これまでで最大の機会を手にしています。」と語った。

「これまでで初めて、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの本質性が『アジェンダ2030』の中で認識され再確認されました。世界193か国の元首級の会合で採択された『アジェンダ2030』は、『人類の半分を占める女性に完全な人権と機会が与えられないかぎり持続可能な開発は不可能だ』と述べています。」とプリ氏は指摘した。

「さらに、ジェンダー平等はますます『実現可能なミッション』見なされるようになってきている。献身的で、包括的で、変革的なSDGsの第5項は、ジェンダー平等の約束の達成を謳うだけではなく、すべての女性・女児をエンパワーし、誰も置き去りにしないということを明記している。」

「アジェンダ2030」の履行のあらゆる側面において、ジェンダーギャップ解消のための投資の急拡大、ジェンダー平等機関の強化、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの系統的な主流化への約束がなされている。

SDGs for All Logo
SDGs for All Logo

「女性・女児に対するあらゆる形態の差別を法律・慣習上廃絶し、女性への暴力を終わらせることは、持続可能な開発の目標である。同様に、女性の未払いケアワークや、経済的・政治的・公的生活における平等な参加とリーダーシップ、性と生殖に関する健康・権利への普遍的なアクセス、資源や経済的エンパワーメントへの所有と管理に価値を与え、それらを提供することも、持続可能な開発の目標となります。」とプリ氏は付け加えた。

「履行と変化のペースを上げ、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを現世代の間に達成するとの約束もあります。『プラネット50/50』を2030年までに達成し、ジェンダー平等にまで高めるのです。」とプリ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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メディアやジャーナリストは、世界市民の育成につながる環境を整えるうえで重要な役割を果たす。国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)は、この観点から、12月14日から15日にバンコクでアジアの学者・メディア関係者が参加して開催されたシンポジウムを承認し資金提供を行った。参加者らは、紛争よりも調和を促進し、世界市民の育成に役立つメディアを創出するような21世紀のジャーナリストを訓練するために、旧来からのアジア人のコミュニケーション作法をいかに利用しうるかについて検討した。

【バンコクIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

「マインドフル(=周囲に気を配るの意)・コミュニケーション」ブームが現在米国を席巻しているが、ここバンコクに集ったアジアの学者やメディア関係者らは、旧来からのアジア人のコミュニケーション作法を、紛争よりも調和を促進するメディアを創出するような21世紀のジャーナリストを訓練するためにいかに利用しうるかについて検討した。

チュラロンコーン大学の大学院でコミュニケーション・アートを専攻した元ジャーナリストで、現在はタイ北部で「森の僧侶(町や村の寺に住む僧侶ではなく、瞑想を実行するために静寂な場所を求めて歩く僧侶)」でもあるプワドル・ピヤシオ・ビック師は、シンポジウムの開会講演の中で、「欧米で実践されている『マンドフルネス』には『やや問題があります。』なぜならそれは、主に個人のレベルでストレスから解き放たれるために使われているからです。」と指摘した。

「欧米におけるマインドフル・コミュニケーションの実践は世俗的であろうとするため、いかなる宗教的な価値も含めずに実践されています。しかしそのような実践にはパナ(智恵)が伴っていなくてはなりません。この道徳的な智恵なしでは、たとえ実践したところで、社会を正しい方向へと導くためには十分なものとはならないでしょう。」

ビック師は、ジャーナリズムへの実践的なアプローチとして、仏教の根本には苦しむ者への思慮(=同苦の精神)によって苦しみを取り除く必要性を説いていることから、分断と紛争を煽らなくてもある問題について報じることはできる、ということを説明した。

東南アジア諸国連合(ASEAN)統合に向けたマインドフル・コミュニケーション」と題されたシンポジウムは12月14日・15両日、チュラロンコーン大学コミュニケーション・アート学部がユネスコの「コミュニケーション開発のための国際プログラム」(IPDC)との協力で開催した。この集まりは、アジアの古代からの仏教、ヒンズー教、儒教の哲学からの思想や概念、考え方を統合したアジアの新たなジャーナリズム養成カリキュラムを発展させるプロセスの一環である。

UNESCO
UNESCO

もう一人の基調講演者で著名なタイの社会活動家スラク・シバラクサ氏は、マインドフルネスに固執すればマイナスの結果が生まれる可能性もあると警告した。シバラクサ氏はまた、マインドフルネス・トレーニングが米国の企業経営者の間で流行っていることを指摘したうえで、「この訓練に倫理的訓練が伴っていなければ、一層利益を追求する無謀な行動を導きかねません。シラ(倫理)や貪欲、憎しみ、思い違いについて学ぶことが、持続可能な開発に向けたマインドフル・コミュニケーションのために必要です。」と論じた。

シンポジウムでは多くの発表者が、「アジアの哲学的思想は2000年前と同じく今日でも有効だが、現在の『マインドフル・コミュニケーション』ブームに見られるように、その起源に十分な考慮が払われることなく、欧米の知的社会で利用されている。」と指摘した。同時に、アジアの若者たちもまた、近代的ないかなるものも欧米を起源とし、自分たちの古くからの哲学は近代的な生活様式を形成するうえで無関係であるという誤った考えに囚われたまま成長している。

Dr. Binod C. Agrawal
Dr. Binod C. Agrawal

ヒムギリ・ジー大学(インド)元副学長のビノッド・アガルワル博士は、「途上国」のためにジャーナリズムのカリキュラムを組もうというユネスコのかつての試みは、「アプローチにおいて概して欧米的であり、欧米で追求されてきた理論的・イデオロギー的観点を組み込もうとするものだった」と指摘した。アガルワル博士はまた、この問題について、もっぱら欧米で教育を受け、こうした知識をアジアの知的社会に無批判に持ち込もうとしたアジアの知識人を、とりわけり厳しく批判した。

ある発言者が述べたように、コミュニケーションに関するアジアの学者は、15世紀にグーテンベルクによって聖書がドイツで印刷されたことにマスメディアの端は発すると教える一方で、それよりも600年も前に、印刷された言葉を通じてアジア全体に仏教が伝播するのに一役買った「金剛般若経」を中国人が印刷したという事実を無視している。

アジアのメディアは、この地域の紛争につながりかねない南シナ海での対立に関する欧米メディアの注目に無批判に追随する一方で、地域に大きな経済的進歩をもたらし、アジア全体で協力と繁栄をもたらす可能性がある、中国提案の「海と陸のシルクルート」プロジェクトへのリップサービスを行っている。

センセーショナルな取り上げ方を止めて、根本に迫る

マレーシアの元外交官アナンダ・クマラセリ博士(人間開発・平和財団)は、ジャーナリストを「脱文化化(de-culturalise)」する必要があると考えている。クマラセリ博士は、「メディアは問題をセンセーショナルに扱い、欲望と消費主義を煽ることによって、人々の心情に影響を及ぼしているのです。」と指摘したうえで、「つまり問題は人間が作り出しているものですから、人間の精神がどのようなものかを理解しなくてはなりません。そしてそのためには、(センセーショナルに取り扱うのではなく)問題の根本に迫るよう、ジャーナリストを訓練する必要があるのです。」と語った。

圓光大学宗教研究センター(韓国)のパク・ガンス教授は、北朝鮮報道に関して同じような傾向が韓国メディアにあると指摘した。「韓国メディアはいつも北朝鮮の核兵器については報じますが、両国間の家族再会や経済関係のような問題については無視しています。」と述べ、「(韓国)メディアはこれらの問題をより深く理解する必要があります。」と付け加えた。

Supaporn Phokaew/ Chulalongkorn University
Supaporn Phokaew/ Chulalongkorn University

チュラロンコーン大学コミュニケーション・アート学部のスパポーン・フォカウ教授も同じ意見だ。彼女は、仏教の教えの基本的な側面である、生きとし生けるものに対する情けと共感という観念に関する知識を持つことで、ジャーナリストは、(自分たちが報道する)対象に対する深い共感を持つことができるでしょう。」「私たちは学生に読み書きの能力は教えていますが、耳を傾けるスキルは教えていません。マインドフルなコミュニケーションの実践として、他人に深く耳を傾けることを教え始めなくてはなりません。社会とつながっていくためには他人に耳を傾けなくてはならないのです。」と論じた。

人権に対する欧米の信条もまた、アジアの学者らからは大いに批判を浴びた。彼らは、「欧米諸国が独善的な解釈による『個人の権利』概念を傲慢に適用したことから中東に混乱が引き起こされ、『アラブの春』は『憂鬱な寒い冬』に変質してしまった。」と論じるとともに、「デンマークフランスで発生した預言者ムハンマドの風刺画をめぐるテロ事件を例に挙げながら、言論の自由にも限界がある。」と指摘した。学者らはまた、「こうした欧米の信条は、アジアにおいては批判的に検討されねばならない。」と論じた。

欧米の既存のジャーナリズムモデルと置き換わるソーシャルメディア

王立ティンプー大学(ブータン)のドルジ・ワンチュク渉外部長は、欧米からの良いものは、「私たちのニーズと価値観に見合う形で」アジアで適用可能だと考えている。ワンチュク氏は、ブータン王国の国是である「国民総幸福量」(GNH)は「価値観を伴う開発」であると説明した。ワンチュク氏はまた、「欧米ジャーナリズムの『第四の権力』モデルは、異なったものの見方や社会的相互作用を生み出しつつあるソーシャルメディアの隆盛によって、急速に姿を消しつつあります。アジアのメディアは、商業モデルというよりも、充足感(contentment)を基礎にしたモデルの発展を目指すべきです。」と論じた。

ワンチュク氏は、充足感を基礎としたメディアモデルを「中庸の道」だと呼んだ。「ブータンは、幸福、共同体、共感、ブータン社会の中核的価値観を称揚するジャーナリズムの形態を作り上げつつあります。『中庸の道』のジャーナリズムは、ニュースを、商品ではなく社会財として発展させていきます。そうすることで、ジャーナリズムは、紛争や対立、商業主義を肥やしにするのではなく、共同体の発展、コンセンサスの形成、幸福の増進に資する役割を果たしていくことができるのです。」とワンチュク氏は語った。

オープンな議論と討論は健全な人間社会にとって不可欠なものだが、マレーシア人で「仏教チャンネル」のリム・クーイ・フォン代表は、「それには責任が伴っていなくてはならない」と論じた。フォン氏はまた、「この点については、仏教の哲学から学ぶべきことは多いが、同時に、1990年代の『アジア的諸価値』論議に見られたような、権威的な支配エリートに対する批判の矛先をそらす手段として使われることを避けなくてはならない。」と指摘した。

リム氏はまた、「アジアの声の底流にあるのは、自由で個人主義的なエートスが、過度に法遵守的で、攻撃的で、消費主義的な態度と結びついた場合、アジア社会の伝統的な諸価値、すなわち、社会の調和や家族や権威の尊重、とりわけ、権利の主張よりも義務や責任の強調といったことに抵触するのではないかという深い懸念があるのです。」と指摘したうえで、「『アジア的諸価値』の代表と『西洋リベラリズム』の擁護者は、互いから学び、ある意味では補い合うことができるのではないでしょうか。」と語った。

倫理と徳

タイの作家で詩人のクニイン・チャンノングスリ・ハンチャンラッシュ氏は、「責任とアカウンタビリティは、道徳的行い(シラ)・精神の平静(サマディ)・洞察(パナ)という仏教実践の三原則において鍛えられた心に自然に宿るものです。」と論じた。

ハンチャンラッシュ氏はまた、「マインドフルネスは、実践によって生み出される特質です。」と指摘するとともに、「コミュニケーションにとってマインドフルネスとは、実際のコミュニケーション行為が起こる以前の、感情・偏見・動機など、自分の心の中に湧き上がってくる探求のことです。それは、何かに反応するというよりも自らが決定できる『知ること』の領域に他なりません。」と語った。

ベトナムのあるカトリック学者は、ASEAN社会に対してマインドフルなジャーナリズムを提示するにあたっては注意が必要で、それが宗教的な概念だと見られないようにしなければならない、との見解だ。「仏教徒以外の人々に対してこの概念を納得させようとする場合、他の宗教的な伝統にも反映されている倫理や徳に結び付けられる必要があります。」と論じた。

パク教授は、「倫理や徳はアジアの伝統の重要な部分です。仏教だけではなく儒教哲学においてもこれらの実践は立派な位置づけを与えられています。」と語った。教授はまた、道教の哲学者・荘子の言葉を引用しつつ、「対立的なスタイルのジャーナリズムは、より協力的で問題解決を志向するスタイルのジャーナリズムに転換することが可能です。」と論じた。

Wikimedia Commons
Wikimedia Commons

韓国仏教テレビネットワーク(BTN)のハヤカワ・エミ氏は、これをいかに実践に移しうるかについて具体的な事例を示した。2014年4月に韓国でフェリー転覆事故が起こった際、韓国放送公社(KBS)は死者の数や救助作戦、死体袋や人々が悲しむ様子を集中的に報じたが、BTNは仏教社会がいかに生存者の安全な帰還を祈り、家族の救済計画を練り、癒しのプロセスに役立ったかに焦点を当てた。

「ジャーナリストには、(人類の抱える)巨大な(開発の)問題に対処するうえで、共同体や世界の宗教指導者らが重要な役割を果たしうるということを伝える重大な役割があります。ジャーナリストは、グローバル経済において弱く貧しい人々に利益を与える新しい倫理的価値への関心を呼び起こし、世界的な金融危機を避けるには自分たちのライフスタイルを皆が変えることが必要だと指摘すべきです。」と、パク教授は論じた。

マインドフルなジャーナリズムの実践は宗教的ではなく世俗的な実践であると論じるハンチャンラッシュ氏は、肯定的なつながりとしての個人への共感と尊重は、文化と信条の美しきモザイクとしてのASEAN共同体の創出において必要不可欠であると考えている。「ユーザーのマインドフルネスによって、マスコミという強力なツールは、非利己的で建設的な社会の構築における効果的な主体となることが可能です。」とハンチャンラッシュ氏は論じた。

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【フェズ、ウジダ、ナドール(モロッコ)IDN=ファビオラ・オルティス】

欧州に渡りたいサブサハラ地域のアフリカ住民たちがかねてより通路としてきたモロッコが、欧州連合(EU)に向けた移民の流れを制限し、依然として渡航を望む人々の希望を打ち砕く国家戦略を実行しつつある。

人々が故国を離れて移民となり、より良い暮らしを求めて危険なルートを辿り、命を危険にさらすのには、数多くの理由がある。

コートジボワール出身のアブドゥル・カリメさん(19歳)がモロッコに2013年に着いたときはまだ10代の青年だった。それ以来、フェズ市の主要駅に隣接する非公認居住地にある貧相なテントで暮らしてきた。

SDGs Goal No.10
SDGs Goal No.10

「貧しさから故国を離れました。お金はなかったし、支えてくれる家族もいません。一人ぼっちの私は、故郷の街を離れ、ヨーロッパに行って生活しようと思いたったのです。」とカリメさんはIDNの取材に対して語った。

読み書きができないカリメさんは、英国に行くことを夢見ている。モロッコはあくまで「通過点」だ。

モロッコでの生活は、カリメさんのような非正規移民にとっては厳しい。合法な仕事に就けないことは、移民がこの北アフリカの国に着くと直面する多くの困難のひとつだ。

「食べるものがありません。」とカリメさんは言う。「あらゆるところで仕事を探していますが、見つかったためしがありません。現金収入のためならどんな仕事だってするよ。」

カリメさんは、法的な在留資格を持たずにモロッコに住んでいる数千人のサブサハラ出身のアフリカ人のひとりだ。彼は、在留資格を申請したが、許可取得に必要な基準を満たしていなかった。

移民の通過地となり、2000年代初頭以降外国人住民の数が増えてきたモロッコは、EUへ渡る非正規移民の取り締まりを強化してきた。

国連の「すべての移住労働者とその家族の権利の保護委員会」がモロッコに関して2013年に出した報告書は、公法02-03(2003)改定の必要性を指摘している。同法は、公的には「モロッコ王国への外国人の入国および滞在、非正規出国、非正規入国」について規定するものである。

モロッコの「国家人権委員会」もまた、同国の移民政策の変更を求めている。欧州大学研究所の「移住政策センター」によれば、国家人権委員会が求める改革の中には、「非正規移民に対する警察の暴力やモロッコ国境への強制連行の停止、非モロッコ国民に対する差別の是正、司法や基本サービスの利用を認めること」が含まれているという。

移住に関するグローバルな政策がその結果として策定された。それは主に、難民や移住、人身売買、社会への統合に焦点を当てたものだった。

2014年に実行された大規模な「正規化措置」は、厳しい条件を伴うものだった。違法在留の状況にある人々は、2年以上にわたって適正な労働契約を結んでいる、或いは、モロッコに5年以上継続して居住しているといった、多くの条件を満たさねばならなかった。

カリメさんは、当局に提示できるような継続した仕事に就いておらず、彼の申請は却下された。

カリメさんとは違い、セネガル出身のカディジャ・トゥレさん(25歳)は申請が認められた幸運なひとりだが、正式な書類の発行を待っている状態だ。

彼女は夫と共に3年前にダカールを発ち、幸運にもフェズの工場で定職に就くことができた。その代り、トゥレさんは、安い宝石を街頭で売るために街中をあちこち歩き回っている。

Border Spain-Morocco, by Melilla/ Ongayo – Own work, GFDL

「海を渡ってヨーロッパに行くなんて…安全に渡航する方法があるなら別だけど、どうかしているわ。インシャラー(神の御心のままに)。それより、私はここ(モロッコ)で働くための法的な権利を手に入れたい…。できれば故郷のセネガルに留まっていたかったけど、あそこでは仕事がなかったの。」とカリメさんは嘆いた。

ナイジェリア出身で2人の子どもを持つ父親ノウサ・オムシゴさん(52歳)は、イスラム過激派組織「ボコハラム」による脅迫を逃れて17年前にモロッコに移ってきてから、厳しい生活を強いられている。

オムシゴさんは、モロッコ在留のほとんどの期間を違法滞在者として過ごし、2014年にようやく正規の在留資格を得るが、それで彼が抱える問題がすべて解決したわけではなかった。

オムシゴさんは、アルジェリアとの国境に近いウジダ市で、風が強く雲の垂れ込めた寒い日にIDNの取材に応じてくれた。彼は、スーパーマーケットの入口に立ち、道行く人々に小銭を乞うていた。

「私はモロッコの在留資格を持っており、今ではこの国の市民です。しかし、ここでの生活は厳しいです。私はこうしてお金を請い、そこから食べ物を買い、家賃を払っています。私の妻もナイジェリア出身で、一緒にここに住んでいます。彼女は一度ヨーロッパに渡ろうとしましたが、スペインで捕まり、強制送還になりました。」

「ここでの生活は厳しくもう疲れはてました。国に帰りたいです。」と言うオムシゴさんは、「もしお金があったらナイジェリアに家族を連れて帰りたい。」と語った。

2014年9月までに、モロッコには8万6000人の外国人がおり、サブサハラ出身のアフリカ人がこの多数を占めていた。非正規状態にあるこれらの人びとの推計はさまざまであるが、政府による正規化措置は、約2万7600件の申請のうち、非アラブのアフリカ諸国出身者からの2万1500件の申請を取り扱っている。

「いま持ち上がっている問題は、この『正規化』段階の次をどうするかということだ。」と語るのは、首都ラバトから約500キロのウジダを本拠とする「モロッコ人権機関」(OMDH)のプロジェクト・アシスタントであるラティファ・ベナメールさんだ。

「移民を社会に統合することは大きな挑戦です。新たな移民戦略は、職業訓練のような、移民コミュニティーの特定のニーズに対応したものになっていません。」

「この場所はアルジェリア国境に近いので、毎日、人が入って来ます。アルジェリア・モロッコ国境は閉鎖されているため、彼らはブローカーに金を払わなくてはなりません。こうしたほとんどの人がヨーロッパに渡ることを夢見ています。」とべナメールさんは語った。

1979年に設立されたモロッコで最も古い人権擁護団体である「モロッコ人権協会」(AMDH)の活動家サイード・カダミさんは、新しい政策には懐疑的だ。

カダミさんは、スペインの飛地領メリリャに程近いナドールで活動している。ここでは、しばしばスペイン領に入ろうとして数百人の移民がフェンスを越えようとしている姿が見られる。

Map of Morocco
Map of Morocco

「移民政策は失敗しています。ここナドールでは何も変わっていません。」とカダミさんはIDNの取材に対して語った。「警察や政府の移民に対する扱いは相も変わらずで、逮捕が続いています。移民は警察の手で苦しんでいるのです。モロッコ政府は安全な場所や住むところを保障せず、ただ国境のフェンスから移民を遠ざけようとしているだけなのです。」

モロッコが国際社会に売り込もうとしているイメージは、「快適な滞在地」であり、「移民が定住したい場所」、というものだが、モロッコに到着する移民の目標は、ここを越えていくことであり、いわゆる「ボサ」(Bosa)になることだ。

「ボサ」とは、あらゆる障害を乗り越えてついにEUへのフェンスを越えることができたサブサハラ出身のアフリカ人を指す、くだけた言い方だ。

「私が見るところ、人々はここに留まろうとはしていません。ここには彼らの居場所がないのです。」とカダミさんは語った。(原文へ

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ルワンダ国際戦犯法廷が21年に亘る審理を経て歴史的役割を終える

【INPSニューヨーク=編集部】

ルワンダで80万人を上回る被害者(大半がツチ族、それに一部穏健派フツ族トゥワ族も犠牲になった)を出したルワンダ虐殺に責任を有する者たちを追訴すべく国連が21年前に設置したルワンダ国際戦犯法廷が、人道に対する罪を断罪した45件にのぼる判決を経て全ての審理を終え、昨年末の12月31日に解散した。

ルワンダ国際戦犯法廷は、第二次世界大戦終結直後のニュルンベルク裁判並びに極東国際軍事裁判以来、一国の元首を断罪した初めての国際法廷となった。同法廷は虐殺事件後に暫定首相に就任したジャン・カンバンダ氏を虐殺に関与したとして1998年に終身刑に処した。

Jean Kambanda/ UNICTR

1994年11月8日に設置された同国際法廷はまた、集団殺戮(ジェノサイド)の罪を犯した者に有罪の判決を下した史上初の国際法廷となった。同国際法廷を設立した国連安保理は、同法廷を解散するにあたって、「正義への強いコミットメントと、今後も免責と闘っていく」決意を再確認するプレス声明を発表した。

同国際法廷はまた、レイプを刑事国際法において定義し、大虐殺を行う手段と認めた初めての国際法廷でもあった。さらに画期的な点としては、集団殺戮に参加する民衆を煽る放送を行ったメディア関係者の罪も本国際法廷で初めて断罪された。

同国際法廷では、タンザニアのアルーシャ市における21年に亘る審理を通じて、約3カ月に亘ってフツ族強硬派らによって引き起こされたルワンダ虐殺に参加したとして終身刑を最高刑に61人に対して有罪判決が言い渡された。一方、14人が審理の結果無罪を言い渡され、10人が本国の裁判所に送致された。

起訴された中には、軍や政府の高官、政治家、実業家、聖職者、民兵組織の指導者、メディア責任者等が含まれている。同国際法廷は、「100日に及んだ流血の日々の中で...想像を絶する暴力が国(=ルワンダ)を覆い尽くした..殺害による死亡率はナチス・ドイツによるホロコースト政策ピーク時の実に4倍の規模である。」と指摘している。

ルワンダ国際戦犯法廷は、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷とともに、集団殺戮、人道に対する罪、戦争犯罪、個人と上官責任に関する法整備の充実を図るなど、信頼のおける国際司法制度を確立するうえで、先駆的な役割を果たした。

国連安保理のプレス声明は、「ルワンダ国際戦犯法廷は、国内の和解プロセス、平和と安全の回復、加害者に対する免責との闘い、さらに、とりわけ大量殺戮に関する国際刑事司法の発展に多大の貢献を果たした。」と称賛した。

同プレス声明はまた、2010年に決定した同法廷の国際残余メカニズムは、同法廷の終了によって指名手配犯に免責の可能性が生じることがないよう確実にする上で不可欠である点を強調するとともに、全ての国家に対し、9名の指名手配犯の逮捕および起訴を実現するよう同国際残余メカニズムおよびルワンダ政府と協力していくことを求めた。

「ルワンダ国際戦犯法廷は、21年間の間に、5800日に及ぶ審理を実施し、93人を起訴したほか、55の一審判決、45の控訴判決を下しました。また審理に際しては、想像を絶する極めて衝撃的な経験について勇気を振り絞って語った3000人を超える人々による力強い証言に耳を傾けました。」とヴァウン・イェンセン裁判長は、国連安保理に対して語った。(原文へ

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2016年の最重要課題となる核兵器禁止条約

【ベルリン/ニューヨークIDN=ジャムシェッド・バルーア】

核兵器なき世界の達成にむけた国連総会のオープン参加国作業グループは、持続可能な開発目標とともに、2015年が翌年に積み残した重要な課題である。

国連総会はまた他にも多くの重要な決議を採択している。139か国が「核兵器の禁止・廃絶に向けた法的欠落を埋める」ことを誓った。144か国が「いかなる状況の下でも」核兵器が二度と使用されないことが人類の利益にかなうと宣言した。132か国が核兵器は「本来的に道徳に反するもの」だと述べた。

A view of the General Assembly Hall as Deputy Secretary-General Jan Eliasson (shown on screens) addresses the opening of the 2015 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT). The Review Conference is taking place at UN headquarters from 27 April to 22 May 2015. Credit: UN Photo/Loey Felipe
A view of the General Assembly Hall as Deputy Secretary-General Jan Eliasson (shown on screens) addresses the opening of the 2015 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT). The Review Conference is taking place at UN headquarters from 27 April to 22 May 2015. Credit: UN Photo/Loey Felipe

国連総会は12月7日、核兵器なき世界を達成するための「法的措置や法的条項、規範」を起草する作業グループを設置するための投票を行った。138か国の支持を受けたこの新たな国連機関は、核兵器を即時に禁止する条約の諸要素を考案する取り組みに注力すると広く期待されている。

作業グループの創設は、2015年5月22日に終了した核不拡散条約(NPT)運用検討会議最終文書草案で勧告されていた。「軍備管理協会」が指摘するように、この提案は、核軍縮に進展がみられないことに多くの国が不満を抱いていたことから出てきたものだ。

NPTの文書によると、作業グループの目的は、「法的条項あるいはその他の取り決め」を含めた、NPT「第6条の完全履行のための効果的措置を特定」し、そのことをコンセンサスを基礎に行うことにあった。第6条の下では、条約締約国は「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、誠実に交渉を行う」ことになっている。

国連によれば、作業グループは「多国間核軍縮交渉の前進に寄与する可能性のあるその他の措置に関する勧告に実質的に対処する」ことになるという。そうした措置には次のようなものが含まれるが、それに限られるわけではない。

(a)既存の核兵器に伴うリスクに関連した透明化措置。

(b)偶発的、計算違い、未承認、あるいは意図的な核兵器爆発のリスク削減と排除のための措置。

(c)あらゆる核爆発によって引き起こされる様々な人道的帰結の複雑さとその間の相互関係についての意識を高め、理解を深めるための追加的な措置。

日程はまだ固まっていない。しかし、作業グループは2016年にジュネーブで最大15日間の会合を持つことになる。現実的な進展をもたらすために、作業グループは厳密なコンセンサス・ルールに縛られない。その実質的な作業及び合意された勧告について、次の10月に国連総会に報告書を提出することになっている。

国際組織や、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)などの市民団体も参加の招請を受けている。ICANのベアトリス・フィン事務局長は、「核兵器を禁止する条約の要素を策定する真摯な現実的作業がいよいよ始まります。大多数の国はこうした行動を支持しているのです。」と語った。

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn

メキシコが主導した作業グループ設置のための決議はその前文で、「ほぼ20年に亘って国連の枠組み内で多国間核軍縮交渉の具体的な成果は見られない。」と述べている。また、核武装国間の緊張の高まりという「現在の国際情勢」は、核兵器の廃絶を「より緊急の」課題にしている、としている。

核武装国でもある、中国・ロシア・英国・米国・フランスの国連安保理5常任理事国は、作業グループの創設に反対した。

5常任理事国は11月に発表した共同声明でその見解について説明している。ICANによれば、声明は、「禁止のような文書」は「NPT体制を損なう」と述べているが、どうしてそうなるのかについては説明していない、という。

5常任理事国は、「厳密なコンセンサス・ルールに縛られた「適切な任務を持った」作業グループなら支持した可能性があった。」と指摘したうえで、「しかし、そうした取り決めでは、議長の任命や議題の採択など、提案されたすべての行動や決定を5常任理事国が集団あるいは個別で阻止することを許してしまう。非核国により大きなフリーハンドを与えたメキシコの手法は「分断を招くもの」だと5常任理事国は批判している。

決議に関する投票に棄権した国の中には、国内に米国の核兵器の配備を認めているドイツがある。ドイツは、国連が作業グループにすべての加盟国の参加を求めているにも関わらず、部会は「包摂的」でないとして棄権した。特定の状況下での核使用は認められると考えている日本とオーストラリアもまた、あいまいな説明によって棄権した。

核兵器を保有しているとされるインドとパキスタンは、作業グループはジュネーブ軍縮会議(CD)の存在をないがしろにするものだと論じた。CDは、1978年の第1回国連軍縮特別総会の結果として、79年にジュネーブに創設された国際社会の唯一の多国間軍縮交渉フォーラムである。

ICAN
ICAN

20年近くにわたって停滞しているCDは、世界の3分の2の国々を排除している(そのほとんどは途上国)。CDは2016年の第1会期(1年に3会期開催される)は1月25日から4月1日の間に開催される予定である。

ICANによれば、作業グループ設置に関する国連総会決議の投票は、2013年から14年にかけて3回に亘って開催された「核兵器の人道的影響に関する会議」の成功の結果であるという。

「これらの会議の結果、諸政府や市民社会の間に、核兵器を禁止する条約の交渉を今こそ始めるべきだという期待が高まってきました。今年5月のNPT運用検討会議の失敗は、実際に行動を起こす必要性をさらに明確に示しました。」とICANは述べている。

「人道的見地から明白に容認できない兵器の禁止を無期限に遅らせることはできません。」「こうした行動に反対しつづける一部の国はあるでしょう。しかし、だからと言って私たちが歩みを止めることはないのです。私たちは既に、その他の無差別で非人道的な兵器(=生物・化学兵器等)を違法化してきました。今こそ、最悪の兵器を違法化すべき時です。」(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【東京IDN=高橋一生】

貧困緩和は、1970年代初頭以来、開発協力の議題にときどき挙げられてきました(1973年のロバート・マクナマラの宣言では、世界銀行の使命は2000年までに貧困を撲滅することでした。1976年には人間の基本的ニーズの充足のための方法Basic Needs Approachが開発援助委員会DACにて採択されました。)。開発委員会の大きな課題は、この目的を実現するための効果的な方法を見つけることでした。

しばらくの間、この問題はイデオロギーの問題、成長と分配の間の選択の問題として考えられていました。イデオロギーの観点からのこの政策の最後の試みは、1996年のDACの政策宣言でした。「21世紀を形作る:開発協力の貢献。」貧困緩和に着目し、この政策の意図は、先進国の支配的な政治環境に冷戦直後対応することでした。

1990年代半ば、15の欧州連合(EU)メンバーのうち10カ国以上では、第三の道体制という名の下で社会民主主義政党が政権を握っていました。アメリカは左翼の民主党が政権を執り、ビル・クリントン大統領は欧州の第三の道の年次総会に出席していました。

日本は(当時最大の政府開発援助供与国)で、社会党の村山首相が率いる連立政権でした。ODAコミュニティーは、 自分たちの政策をできるだけ政治のトレンドに関連させ、各国でODAの予算を確保しようとしました。しかし、10年も経たないうちに、政治環境は事実上保守側に代わり、すべての主要な先進国において、DACは無関係な政策となりました。

DACの宣言は国連に託されました。国連は2000年のサミットで採択されるMillennium Development Goals(ミレニアム開発目標)に関する宣言の草案を準備しなければなりませんでした。このように、ミレニアム開発目標(MDGs)は、最初から他の対象向けに作られたDAC宣言のカーボンコピーだったのです。

しかし、2001年の911アメリカ同時多発テロ事件の発生後、先進国の保守政権は、開発協力への政治的反応を突然変化させました。彼らは貧困が国際的テロの根本原因だと判断したのです。そのため、開発協力は貧困の緩和に焦点を当てることが重要でした。2002年、MDGsは保守的な政府にすらテロと戦うための重要なツールであると認識されました。この瞬間から、貧困緩和は、国際レベルで、イデオロギーの問題ではなく、広範囲に土台となる政策目標となりました。

様々な本格的な試みが国際的開発コミュニティーの中で追及され、貧困問題を緩和し、可能であれば、実際的に解決しようとしています。DEVNET Japanは、この問題へのアプローチを歴史的状況を念頭に苦心して練り上げて参りました。

DEVNET Japanのアプローチは、貧しいけれど潜在的に才能のある発展途上国の若者を先進国の産業的要求と組み合わせ、教育的・財政的付加価値を彼らに提供し、彼らが自国の発展のための原動力となるという持続可能な方法です。まずは最初の具体的な活動としては、ラオスに焦点を当てることとなるでしょう。ラオス側は、ラオス国内で教育する若者の人選を行い、教育を受けさせることで若者たちを日本の状況に適応させることができるでしょう。DEVNET Japanは、日本の大部分の地域において地域の企業や農家と協業する認可を得ており、これらの若者を日本でさらに教育することで、地域の企業や農家に適合するように訓練を十分に受けさせ、彼らひとりひとりに研修のための適切な場所を見つけます。彼らは働き、実践的スキルを身に着けるための訓練を受けます。同時に、DEVNET Japanにより定期的に広範囲な分野に関する教育をさらに受けます。彼らは訓練され、教育され、そのスキーム(枠組みを伴った計画)により、彼らはスキルや教育だけでなく、財政的基盤も確実に取得します。これらはラオスにおいて利用され、手はずが整い、彼らは、適切な企業や農家で雇われるか、または新しく起業します。この体制のコストは利害関係者全員でシェアしますので、経営は自己持続型となります。DEVNET Japanは多くの構成要素をこのスキームのために組み立てて来ただけでなく、やがてそれらが運用されることに自信を持っています。評価の仕組みもこの体制において組み込まれるため、絶えず改善して行くことでしょう。

このシステムは、他の国にも広がり、DEVNETのアプローチは「貧困緩和へのDEVNET のアプローチ」として認識され、これはイデオロギー時代後のもっとも実際的な試みとなるでしょう。市民社会と企業との組み合わせにより、(国内・国外)の公共部門が補助的役割としてもっとも困難な地球問題に対処し、21世紀型の国際開発協力に道を開くことでしょう。(原文へ

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|インタビュー|貧富の差を埋めることに失敗すれば、21世紀はひどい暴力に終わるだろう(フィリップ・ドゥスト=ブラジ元フランス外相、国連事務次官、UNITAID議長・創設者)2015年以後の開発問題―飢餓に苦しむ者の声に耳は傾けられるだろうか?