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SDGs達成の手段としてのスポーツ

【ジョージタウン(ガイアナ)IDN=デズモンド・ブラウン】

コモンウェルス(英連邦)が発行した新しいガイドブックが、スポーツへの投資によって、急増する保健関連コストを抑え、教育や社会の一体性、ジェンダー平等を促進することができると述べている。

持続可能な開発目標に対するスポーツの貢献度を高める』と題されたガイドブックの勧告はカリブ海地域にとって重要なものだ。というのも、この地域では、慢性病や感染症が個人や地域社会に深刻な被害を及ぼしており、生活の質が下がり、地域の開発にとってますますマイナス要因になりつつあるからだ。

例えばガイアナは、国内総生産(GDP)の平均4.6%を毎年保健関連に使っているが、これは人口1人あたり200ドルに相当する。

Enhancing the Contribution of Sport to the Sustainable Development Goals/ Commonwealth Secretariate

国連の「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」の17項目の持続可能な開発目標(SDGs)などの重要な開発目標を達成するうえでスポーツが成しうる貢献を評価したこのガイドブックは、4月6日の「開発と平和のための国際スポーツデー」に合わせて発行され、スポーツをツールとして利用することで、保健や教育、社会的包摂、ジェンダー平等のグローバルな目標を達成する支援を国々に行うことを意図した政策的な処方箋を示している。

スポーツが多大な影響を及ぼしうる領域のひとつが、公衆衛生の改善である。

西半球で慢性病の猛威に最も晒されているのがカリブ海地域である。汎アメリカ保健機構(PAHO)は「カリブ海地域は心臓病による死亡率が最も高く、米州での糖尿病による死亡者数の上位5カ国を占めている。」と指摘している。カリブ共同体(CARICOM)の国々の中では、心臓病が死亡原因としては最も多い。ガンや心臓発作、糖尿病、HIVのようなその他の疾病が主要な死亡原因である。

コモンウェルスのガイドブックは、運動不足が原因で世界全体で毎年300万人以上が死亡しており、すべての保健関連コストの1~4%を占めていると述べている。行動的なライフスタイルを取ることには利点があるにも関わらず、男性の5分の1、女性の4分の1が、「週に75~150分の運動を行う」とする世界保健機構(WHO)の「運動に関するガイドライン」が定める最小限度に到達していない。

ガイドブックは、例えば、学校でのスポーツ・体育に一定の教育予算を割り当てること、スポーツや運動のための緑地を街中に確保する規制を行うこと、民間・市民社会とのパートナーシップで新たなスポーツ施設の建設資金をまかなうこと、ダンスや軽い運動のための「ミニ公園」をつくることを勧告している。

また、スポーツ施設が女性・女児にとって安全で利用しやすいものにすること、さまざまな経歴を持った人びとが体を積極的に動かすよう指導にあたるコーチやボランティアなどの訓練、スポーツを基盤とした起業や企業活動を加速する取り組み、スポーツに参加するすべての子どもたちの安全確保のための措置を採ることも勧告している。

ガイドブックは、スポーツにおける腐敗と搾取が続くようであれば、スポーツへの投資の効果は相殺されると厳しく警告し、公的資金を受け取る条件として、よいガバナンスと児童の保護に関する国際的基準を満たす義務があるとスポーツ関連団体に対して訴えている。

Athletes participating at the Launch of the 4th International Day of Sport for Development and Peace. Tahl Leivovitz (left) and Kanak Jha, USA Table Tennis demonstrate their abilities in the UN Visitors Lobby

コモンウェルスのガイドブックは、英ダラム大学のイアン・リンジー博士とトニー・チャップマン教授に加え、スポーツの専門家や団体、オーストラリア、ボツワナ、シエラレオネ、ザンビアの政府関係者によって作成されたものである。

これは、国家のスポーツ政策がSDGsの実施との連携が取れたものにするために2016年8月に行われた「コモンウェルススポーツ閣僚会議」でなされた30カ国以上による歴史的公約を受けて作成された。

コモンウェルス事務局の「開発と平和のためのスポーツ」責任者であるオリバー・ダッドフィールド氏は、「質が高く包摂的なスポーツを利用し参加できるようにすることで、人々の健康と教育を向上し、社会的障壁を打破し、究極的には公的資金を節約することができます。」と語った。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

「このガイドブックは、スポーツと体育が持続可能な開発の実施に資するとする証拠がある領域について、諸政府に幅広い政策上のオプションを提示しています。私たちが打ち出した勧告は、開発ツールとしてのスポーツの可能性を発揮することをめざしたものです。」

他方で、4月11日にCARICOMの本部があるジョージタウンで開催された会議で、CARICOM事務局長であるアーウィン・ラロック大使と、国際サッカー連盟(FIFA)のジョヴァンニ・インファティーノ会長が、若者の成長と社会全体に対してスポーツが重要な役割を果たしているという認識で一致した。

若者を前向きな取り組みに向かわせる支援を行いうる社会的投資としてスポーツは重要であると強調したラロック氏は、「カリブ共同体は、開発プロセスの総合的な性格にかんがみてスポーツを重要な要素とした『人的資源開発戦略』の策定を予定しています。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ジュネーブIDN=ジャムシェッド・バルーア】

国連の枠内で独立して軍縮に関する研究を行っている国連軍縮研究所(UNIDIR:ジュネーブ)は、「広島長崎への原爆投下以来、核兵器が使用されていないからといって、そのこと自体が、今後も核兵器がほぼ使用されないと考える根拠にはなりえない。」と警告している。

1945年8月6日と9日に米国が原爆を投下した広島と長崎は、核兵器の使用が人間に及ぼす恐るべき影響を今日に伝える日本の被爆都市であり、こうした大量破壊兵器が再び使われるようなことがあれば残虐な帰結が待っていると警鐘を鳴らし続けている。

広島・長崎の惨劇がその後繰り返されていないという事実をもってしても、人類を悩ませ続けている核兵器のリスクに関する将来への不安が取り除けるわけではない。『核兵器のリスクを理解する』と題された報告書は、核兵器のリスクに対する理解を困難にしている要素について、「核兵器が抑止ドクトリンにおいて果たす決定的な役割や、複雑なシステムの相互作用、『想定外』の事態が起きる可能性、備蓄核弾頭の老朽化に伴う影響等に関連した未知数が、考えられる。」と指摘している。

ジョン・ボリー氏、ティム・コーリー氏、ウィルフレッド・ワン氏が編集したこの報告書は、「核抑止は、それが機能しないと証明されるときまでは機能する。」と論じたうえで、「核兵器には(核爆発の)リスクは本来備わっているものであり、運が尽きれば、壊滅的な結果を招くものになる。抑止理論を現実に適用することで加速する軍備競争は、それ自体が尽きることがないダイナミズムを生み出す。とりわけ不安定な社会状況にある国で兵器が生産されればされるほど、核兵器がテロリストによって奪取されたり使用されたりする可能性が高くなる。」と指摘している。

Kim Jong Un, with what North Korea claims is a miniaturized silver spherical nuclear bomb, at a missile factory in early 2016. /Wikimedia Commons.

報告書はまた、「核抑止は『コミットメント・トラップ』というパラドックスも生じさせている。」と指摘している。報告書の著者らは、米国とその同盟国が北東アジアで直面している脅威、とりわけ北朝鮮からの脅威を米国の核の傘で抑止しようとしても、北朝鮮の態度を変えることはできない(=核使用の威嚇は機能しない)とみている。かといって、北朝鮮に対して核を使用することは核抑止の精神そのものに反することから実行されない。つまり、「核使用というオプションは信憑性に欠け、不必要なもの」と論じている。

報告書はまた、「しかし、米国の核の傘を弱めれば、敵国によるさらなる冒険主義や同盟国への核の拡散を引き起こしかねない。この難問を解くには、安定的で、協調的で、ビジョンを持ったリーダーシップを必要とする。しかし、主要国がますます内向きになる中、今日、この種のリーダーシップは悲しいほどに欠如している。」と論じている。

UNIDIRの研究は「核兵器と核兵器システムへの相当規模の投資とその近代化は、意図的あるいは不注意による核爆発の可能性を減じるのではなく、むしろ高めている。」と結論付けている。

報告書のその他の知見は以下のようなものだ。

・核兵器プログラムに伴う秘密主義は、核爆発のリスクに関する評価を行ったり説明責任を果たしたりするうえで障害となっている。

・過去に核攻撃を警告するシステムの誤作動を確定し解決した事例では、いずれも人間による判断が重要なカギを握った。自動化されたシステムにより依存すれば、過剰な自信につながり、(核戦争につながる)新たな脆弱性を生み出すことになりかねない(「隠れた相互作用」の問題)。

・技術の進歩は、核爆発を実際に引き起こすためにテロリストやその他の集団が実際の兵器を直接入手する必要性を低めていることを示唆している。

・核爆発のリスクは核兵器に本来的に備わっている特徴である。このリスクを完全に除去する唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶することだ。

この研究は、すべての国家に対して、既存のグローバルな核不拡散・軍縮レジームを履行する努力を強化すること、学者や民間部門のような市民社会と連携することも含め、国内の安全・安全保障・保安の文化を強化すること、より透明性を確保し、コミュニケーション及びその他の信頼醸成措置の強化を通じて、国際安全保障環境における緊張状態に対処すること、を求めた。

ICAN
ICAN

著者らは、核保有国が「報復攻撃を引き起こしかねない誤認を避けるために、とりわけ外国に配備されているものに関して、既存の核備蓄と運搬システムに関する情報を交換する努力にあらためて焦点を当てる」ことを促している。

同研究はさらに、「核弾頭を搭載したミサイルの警戒レベルを低めたり、『警告即発射』態勢を解除することも含めて、危機状況における政策決定者の決定時間を引き延ばす行動」を取ることを求めた。

UNIDIRの報告書は、核保有国に対して、事態を一層曖昧にしかねない空中発射巡航ミサイルのような新たな核運搬システムの開発を控えること、核オプションの敷居を下げたり限定的核戦争の実行可能性を示唆したりするようなレトリックの使用を避けること、核兵器システムのあらゆる層における脆弱性を査定するサイバー安全保障を強化するために段階的なアプローチを取ることを求めている。

核保有国はまた「安全上の考慮を優先し運用上の不確実性を徹底的に調査するために、国内の核兵器施設に対する一定の独立した監視・統制レベルを確保」し、「非民生事業における核分裂性物質の83%を含めた核セキュリティー政策を拡充すべき。」と報告書は訴えている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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化学兵器は決して使用されてはならない(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮担当上級代表)

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【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ】

国際法と普遍的に受け入れられた文明的な振舞いに関する現段階の規範に照らせば、大量破壊兵器の使用は、いかなる主体によるものであっても人類の良心に反するものであり、容認できるものではない。

最近シリアで使用されたという化学兵器が誰の手によるものかはまだはっきりしていない。しかし、この劇的な出来事の犯人探しに奔走していると、時として、こうした残虐で無差別的な効果をもつ大量破壊兵器が一部の国家の兵器庫あるいは秘密の倉庫に依然として存在するという驚くべき事実があいまいにされてしまう。

Map of Syria
Map of Syria

2013年と14年、化学兵器がダマスカスやアレッポなどシリア国内の数か所で使用された。国際的な圧力の下で、シリアは化学兵器禁止条約の締約国になり、化学兵器備蓄の廃棄に向けた道が切り拓かれた。化学兵器禁止機関(OPCW)やその他の国際機関が査察官や専門家を現地派遣して、シリア政府から申告された備蓄を検証しその廃棄を監視した。

米国政府は、化学兵器は100%廃棄されたと断言した。しかし、備蓄の一部が査察官の目から隠されている可能性や、シリア国内で対立する武装集団がそれを奪取した可能性が取りざたされていた。致死的な少量の化学物質が、査察官や監視衛星の目を逃れて秘密の研究所で製造されていた可能性さえある。

数週間前、シリアのイドリブ州ハーン・シャイフーンで致死性の化学物質が放出されて80人以上が殺害された。中には多くの子どもがいた。少なくとも他に100人がその被害を受けた。2つの超大国(=米国とロシア)とシリア政府、反政府諸集団が、化学兵器攻撃の責任をめぐって批難の応酬をした。その出所がどこで、誰が保有していたものであれ、6年間もの内戦が行われていたこの国の現状で兵器を追跡することは困難だ。誰が化学兵器を保有し、なぜ、どのようにしてそれが使用されたのかを確認する徹底した中立的な調査が必須だ。

しかし、政治的な対立と不和、主な主体間の信頼感が欠如しているために、信頼性が高く異論のない結論に到達することは極めて困難だ。意図的であれ偶然であれ、化学兵器の使用は絶対に容認されるべきではなく、首謀者は処罰されるべきだ。国連と関連機関の下で確立された多国間構造は、そうした兵器の使用に関する申し立てと事例に対処するうえで適切なチャンネルとなる。

化学兵器の使用規制に向けた国際的な取り組みの背景には、人道的な理由がある。このきわめて成功した取り組みの歴史的な起源は、フランスとドイツが毒ガス弾を禁止することに合意した17世紀に遡る。1874年、「戦争法規に関するブリュッセル宣言」では、毒あるいは毒を使用した兵器が禁止され、1899年のハーグ会議では毒ガスを詰めた投射物が違法化された。それでもなお、第一次世界大戦時には、化学兵器によって10万人が殺害された。

戦後、国際社会と市民社会からの強い反応を受けて取り組みが再開され、1925年のジュネーブ議定書では、窒息性ガス、毒性ガス、またはそれに類するガスを、戦争の手段として使用することが禁止された。しかし、化学兵器の開発・生産・保有は禁止されなかった。そのため多くの国々が、非締約国に対して使用するか、化学兵器攻撃に対する報復に使用しうる大量の備蓄を保有していた。研究も継続され、その結果、強力な神経ガスが開発されて、備蓄リストに加わることになった。

国際社会において化学兵器の使用・製造・備蓄が違法化され、その備蓄の廃棄を締約国に義務づけた強力な条約が実現したのは、ようやく1997年になってからのことであった。

ハーグに本部を持つOPCWは、そうした化学兵器の破壊を検証し、新たな化学兵器の開発を予防する一方で、正当な国家安全保障上の排他的な利益を擁護する、透明性を確保した信頼できる制度を担保している。しかし、化学兵器禁止条約の採択によって最終的に実現した包括的な禁止は依然として普遍的なものではなく、備蓄の廃棄ペースは想定よりも遅い。化学兵器禁止条約の締約国は192カ国あり、2016年末までに世界の備蓄の9割が廃棄されたと報告されている。

世界には、化学兵器生物兵器核兵器という3つのカテゴリーの大量破壊兵器が存在する。そのすべてが、過剰に残虐で、戦闘員も無辜の民間人も区別せず破壊する無差別な効果を持った恐怖の兵器である。化学兵器と生物兵器はすでに国際条約によって禁止されている。

国際社会は、核兵器を違法化する条約を交渉するための長く待ち望まれた多国間の取り組みを始めたばかりだ。9つの核保有国すべてとその同盟国は、このイニシアチブには参加せず、自らが望ましいと考える状況において、時として核兵器を保有していない相手にすら核兵器の使用を考慮に入れる時代遅れの軍事ドクトリンに固執している。

Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.
Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.

核の対立は、それがどこで発生するかに関わらず、気候や人口全体にも壊滅的な影響を及ぼす。今こそ、私たちは、大量破壊兵器のこの最後のカテゴリー(=核兵器)を廃絶することによって、この歴史的任務を完遂すべき時だ。(原文へ

※セルジオ・ドゥアルテは、国連軍縮問題担当上級代表(2007~12)。核不拡散条約第7回締約国運用検討会議(2005年)議長。職業外交官としてブラジル外務省に48年間勤務。オーストリア、クロアチア、スロバキア及びスロベニア、中国、カナダ、ニカラグアでブラジル大使を務める。また、スイス、米国、アルゼンチン、ローマにも駐在した。

翻訳=INPS Japan

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「世界と議会」2017年春号(第576号)

特集:地方政治と人間学

■尾崎財団設立60周年記念・咢堂塾公開講義
 「論語と佐藤一斎『言志四録』」/長峯 基

■地方議会議員の声
 ・小池劇場、激動の都政は何処へ向かうのか?/両角 穣
 ・江東区に見る地方自治の課題について/鈴木 清人
 ・報徳思想の発祥地・神奈川から考える私的教育論/武田 翔
 ・スポーツによる地域振興を実現するために/黒崎 祐一

■特別掲載
 「東京市長時代の尾崎行雄」

■特別論文
 国会における「女性活躍」に関する考察/橋本 晶代

■財団だより

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

|スリランカ|紅茶農園が干ばつを背景に環境意識の転換を迫られる

【ラトナプラIDN=ステラ・ポール】

リルヒナの製茶工場で稼働している十数台の機械から発している耳をつんざくような回転音を聞くと、頭に激しい一撃を食らわされたような気になるが、この工場で働くビヒタ・マドゥラさんやラジャカクシミ・チャンドラクマールさんにとっては心地よい音楽のようなものだ。

騒音をあげ黒い煤を吐き出しているこの機械は、彼女たちにとっては最も肝心なこと、つまり「今日も一日働くことができた」という事実を象徴するものだ。マドゥラさんは、シャベルで茶葉を巨大な煎り釜に投入しているチャンドラクマールさんを見ながら、「これが私たちにとっての日常です。」と語った。いずれも40代のマドゥラさんとチャンドラクマールさんが安堵しているのには理由がある。紅茶生産大手「ディルマー」社のカワッテ・農園が保有するリルヒナ工場は、スリランカで屈指の優良茶葉生産企業だからだ。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

しかし、スリランカ全土を見れば、紅茶産業は、干ばつ、日照り、豪雨、土地の劣化、土壌の喪失、茶葉価格の急落、生産量の低下、移住労働、相次ぐ工場閉鎖といった数多くの難問に直面している。

スリランカの紅茶産業は年間で3億8800万キログラムの紅茶を生産し、外貨だけでも16億ドルを稼ぎ出している。しかし、スリランカ輸出開発委員会(EDB)によると、この4年間で製茶業は着実に衰退しているという。その主な理由は、日照りや、平均を下回る降雨量、そして干ばつである。

スリランカ政府と世界食糧計画(WFP)が合同で出した報告書によると、2016年の降雨量はこの30年間の平均を23%も下回っていた。結果として、スリランカは30年間で最悪の干ばつに見舞われている。

政府と国連人道問題調整事務所(OCHA)による別の報告書では、スリランカの25県のうち17県で、100万人以上が長引く干ばつの影響を現在受けているという。

スリランカ気象庁によると、国連気候変動枠組条約の基準で「厳しい」と表現される今回の干ばつは2016年初頭に始まった。日照りが繰り返され、エルニーニョ現象によってさらに事態が悪化している。全土で気温が急上昇し、スリランカの主要な紅茶生産地であるラトナプラでは、例年の平均気温27度よりも6度以上も高い平均33度を記録した。

この結果、農業部門全体に被害が広がり、主要作物の収穫が減少している、と食糧農業機関(FAO)は報告している。FAOの統計では、水不足のために、作物収穫面積が通常の80万エーカーから30万エーカーにまで縮小している。

紅茶開発委員会によると、紅茶生産部門では2016年の茶葉収穫量が11%減少し、この7年で最悪であった。今年1月、生産量はさらに15.3%も落ち込んだ。

紅茶農園では、水量の低下に加え、干ばつの影響により土地の劣化と土壌喪失が進行している。こうした状況は、「中央高地とその他の辺境地域に適切な土地・水管理を導入し、土地の劣化を最小に止め、土地・水の生産性を向上させる」ことを約束したスリランカの「約束草案(INDC)」に反映されている。

紅茶生産者から中部州マスケリヤで持続可能な土地管理の指導者に転じたマヘンドラ・ペイリス氏は、「従来ここでの紅茶の栽培方法は、化学合成除草剤や殺虫剤を過剰に使用するなど、きわめて環境に有害なものでした。土壌の質や周辺の環境に気を使う者など以前は誰もいませんでした。つまり、土壌喪失や土地劣化はこうした慣習の副産物といえます。」と説明した。

マスケリヤ茶農園の元管理人だったペイリス氏は「今や干ばつにより土壌喪失が一層加速し、茶の木にストレスを与え、土壌の栄養が失われています。これにより、紅茶の生産量と収入が減る可能性が高まっているのです。」と語った。

シャシ・カラ氏(37)は中部州ヌワラ・エリヤ県のベアウェル茶農園で働いている。茶葉を1日19キロ摘んで、日給は750ルピーだ。しかし、今シーズンは労働者が摘んだ茶葉の平均量が15キロを下回ることも少なくないという。「以前には50キロ摘んでいた人もいましたが、今では毎日の割り当て量をこなすので精一杯です。」とカラ氏は語った。

Shashi Kala – a tea worker at the Bearwell tea estate in western Sri Lanka’s Sabaragamuwa province – one of the plantations that has adopted sustainable land management measures to plug draining of its profits. /Stella Paul, INPS.
Shashi Kala – a tea worker at the Bearwell tea estate in western Sri Lanka’s Sabaragamuwa province – one of the plantations that has adopted sustainable land management measures to plug draining of its profits. /Stella Paul, INPS.

「つまり、収穫量が減っても茶農園の経営者は労働者に同じ賃金を支払わねばならず、その分利潤に食い込むことになります。」とラトナプラの自然保護家ギリ・カドゥルガムワ氏は語った。

損失を抑えるために一部の紅茶農園では賃金が切り下げられ、労働者による集団抗議や集団離脱に発展している。このため、この2年で20以上の紅茶工場が閉鎖に追い込まれた。「労働者の離脱に多くの経営者が頭を悩ませています。」とベアウェル茶農園の管理者ディルシャンカ・ジャヤティラケ氏は語った。

危機が広がる中、多くの紅茶農園が、「熱帯雨林同盟認証」を申請するようになってきている。熱帯雨林同盟は、未来に目を向けている農業、林業、観光業の事業家たちと協力して、自然資源を保護し、森林共同体の長期的な経済安定性をもたらす活動を行うとともに、世界各地で増加している良識ある消費者のコミュニティにこれらの事業家を結び付ける活動を展開している団体で、「熱帯雨林同盟認証」は、環境・社会・経済面の持続可能性のシンボルとして国際的に認知されている。

Rainforest Alliance Verified Mark/ Rainforest Alliance
Rainforest Alliance Verified Mark/ Rainforest Alliance

スリランカ「熱帯雨林同盟」のカドゥルガムワ代表は「これまでのところ、ベアウェルやカハワッテ、ワタワラのような主要な生産者も含め、スリランカ国内で78の農園が認証を受けています。」と語った。

熱帯雨林同盟は現在、国連環境計画地球環境ファシリティ、地方政府と組んで、土地劣化を防ぐことを目的とした持続可能な土地管理プロジェクトに取り組んでいる。

このプロジェクトをリードする指導者のひとりであるマヘンドラ・ペイリス氏は、「認証を受けるためには「持続可能な農業ネットワーク(SAN)」が策定した厳格な社会・環境基準(農場の労働力の福祉や環境の改善等)を満たさなければなりません。」と語った。

環境改善措置には例えば、合成除草剤・殺虫剤の使用をほぼゼロあるいは完全にゼロにすること、水資源の保全、農園や工場での水リサイクル、非再生可能エネルギー源の最小限度での利用、農園内での植樹によるCO2吸収量の向上などが含まれてなくてはならない。

カハワッテ農園の管理人ジャナカ・グナワルデネ氏は、「気候変動と紅茶農園の環境基準にますます敏感になっているバイヤーの信頼を得るためにこの認証は有効です。」と指摘したうえで、「認証を取得して以来、コロンボでの茶葉のオークションで当農園の製品が高値を獲得することができるようになりました。実際、先週のオークションでは当園の紅茶に680ルピーの値が付いたのですが、これはスリランカで最高値でした。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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米国政府の国連人口基金への分担金停止判断に疑問噴出

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、国連人口基金(UNFPA)への資金拠出を停止するとした米国政府の決定に対して、「極めて残念」と深い遺憾の意を表明するとともに、ドナー諸国に対して、同基金が重要な任務を継続できるように支援を強化するよう要請した。

リベラル系カトリック団体「選択の自由を求めるカトリック教徒たち(CFC)」は、「国連人口・開発委員会第50回会期(4月3日~7日)と同じ週にこの決定を発表したことは、「国連が持続可能な開発のために家族計画の重要性を検討している中で、女性たちの顔を平手打ちするような(=侮辱する)ものだ。」と述べ、米国によるこの決定を強く批判した。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

CFCのジョン・オブライエン代表は、「アフリカの角の飢饉からシリア危機まで、世界各地で女性が未曾有の危機の矢面に立たされ最大の犠牲者となっているなかで、このような決定がなされるのは、カトリックの社会正義の観点から見て、とりわけ残酷だと考えます。」「ドナルド・トランプ大統領は、国連人口基金の影響力に対する理解ではなく、自身の大統領選出に貢献した極右キリスト教徒の有権者に報いる観点からこのような決定をしたように思えます。」と語った。

これは、トランプ大統領が発表した国連に対する米国の分担金削減策の第一弾である。1985年の制定以降共和党の歴代大統領が利用したケンプ・カステン修正法案を引用した米国務省の覚書は、UNFPAが中国において、「強制 妊娠中絶、不妊手術などのプログラムを支援または協力して行っている。」と主張している。

同修正法案は、強圧的な堕胎や不本意な不妊手術を支援する組織への対外援助を禁じている。ロナルド・レーガン、ジョージ・HW・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュの共和党歴代大統領が、この法案を根拠にUNFPAへの資金提供を拒んできた。

CFCは、資金拠出停止の決定を伝える国務省の発表は「UNFPAが中国で強制的中絶や本人の同意によらない不妊手術を支援していると誤って述べている。」と指摘した。

UNFPA
UNFPA

「こうした主張はまったく見当違いです。」と同団体の声明は述べた。CFCは14年以上前、宗教指導者らによる独立代表団を中国に派遣し、同国におけるUNFPAの影響について調査したことがある。この報告書によると、完全に自発的で非強制的な家族計画政策に中国が移行するうえでUNFPAは大きな役割を果たしていた。

CFCはまた、すべてのドナー国に対して、女性たちをエンパワーし、女性やその家族が発展の道筋に到達・留まることができる家族計画について決定できるよう取り組んでいるUNFPAを支援するよう呼びかけた。

英国海外開発研究所(ODI)は「国連機関の中では、全世界の女性のうち推定3人に1人に影響を及ぼしていると言われる性暴力やジェンダーに基づく暴力に取り組む事業を支援するうえで主要な役割をUNFPAが果たしている。」としている。

UNFPAは4月4日に発表した声明のなかで、米国務省の主張を「誤っている」と否定したうえで、同機関の全ての活動が「抑圧や差別を受けずに自らの意思決定を行えるよう個人とカップルの人権(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を推進するものだ。」と訴えた。

UNFPAは米国を「信頼のおけるパートナー」と呼び、米国政府および米国民からの支援は長年にわたり、「防ぐことのできる死や障害から、何万人もの母親の命を救うために役立てられてきた。」と述べた。

例えばUNFPAは昨年、妊娠・出産期にある女性2340人以上を死から救い、1250件以上の瘻孔(フィスチュラ)手術を支援した。

グテーレス国連事務総長は報道官を通じた声明の中で、「米国の決定はUNFPAの活動の性格と重要性に関する誤った認識を基にしている。」と指摘したうえで、「分担金削減は弱い立場の女性・女児やその家族の健康に『壊滅的な影響』を及ぼしかねません。」と述べた。

General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.
General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.

かつて国連難民高等弁務官も務めたグテーレス事務総長は、150以上の国・地域で活動しているUNFPAが命を救う現場を「私自身の目で見てきた。」と語った。

「選択の自由を求めるカトリック教徒たち(CFC)」の声明は、「UNFPAは150カ国以上で避妊手段の重要な提供者となっており、結果として世界中で妊産婦死亡率の大幅低下に寄与している。」と指摘したうえで、「UNFPAへの資金提供を拒むトランプ政権の決断は、世界全体で数百万の弱い立場の女性を傷つけることになるだろう。」と述べている。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

ODIニコラ・ジョーンズ首席研究官は「UNFPAが困難な状況下にある女性・女児を含めて、妊婦の健康と家族計画をグローバルに支援する上で重要な役割を果たしていることを考えると、同機関から資金を引き揚げるとの米国の決定はきわめて憂慮すべきもの」であり、「資金の引き揚げは、年間数百万人もの女児の健康と未来を危機に陥れている、早期かつ強制的な児童婚と女性性器切除の慣行を終わらせる主導者としてのUNFPAの重要な役割を危険にさらすことになるだろう。」と語った。

UNFPAは、他の国連機関と同じく、諸政府からの自発的分担金に依存している。2015年、同基金は9億7900万ドルの拠出を受け、米国は第4位のドナー国であった。デヴェックスによると、(民主党政権下の)米国は、「コア予算」および「ノンコア予算」の組み合わせを考慮に入れながら、UNFPAに毎年およそ6900万ドルを拠出していたという。

BBCは、米国務省の声明を引用して、「2017会計年度にUNFPAに割り当てられていた資金は『グローバル保健プログラム』の会計に移転され、事業は組み直される」と報じた。国務省によれば、同会計は、途上国で家族計画や母子保健、リプロダクティブ・ヘルス関連を支援するために米国際開発庁(USAID)が使用することになるという。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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党略政争を排す(石田尊昭尾崎行雄記念財団事務局長)

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Mr. Takaaki Ishida
Mr. Takaaki Ishida

【東京IDN=石田尊昭】

「国の存続繁栄と国民の幸福」――。明治・大正・昭和の三代にわたり国会議員を務めた尾崎行雄の取り組みは、常にそれを目指したものでした。

武力を否定せず強硬論を唱えた頃の尾崎も。逆に、国際協調と軍縮を唱えた頃の尾崎も。また、個人の生命・財産・自由その他権利の重要性を説きつつも、普通選挙は時期尚早だとして選挙権拡大に消極的だった頃の尾崎も。そして、民主主義・立憲主義の重要性を説くと同時に、大日本帝国憲法という欽定憲法の下で立憲政治を実現しようとした頃の尾崎も。

一見、変節に見えたり、相対立する思想が混在し矛盾した行動に見えたりもしますが、いずれも、内外情勢の現実を冷静に見極めながら、国の存続繁栄と国民の幸福のために、その時々で最適な手段を考え抜いた結果といえます。

自分のためでも政党のためでもなく、国家国民のために、今の政治が議論・決断すべきことは何か。

以下は、第二次大戦終結後、危機に直面する日本において、党利党略で動く政治と、付和雷同する国民に対し、尾崎が投げかけた厳しい言葉です。


70年を経た今の政治はどうでしょうか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「党略政争を排す」

 今日各政党がやっていることは政策の争いではなく、党略本位の政争である。これほど悪いことはないのだが、国民は案外平気で眺めている。敗戦で国が生きるか死ぬかの瀬戸際に立っている時だから、くだらぬ政争はやめて生産高を増すことに総がかりで努力すべきだ。現在のように消費的な喧嘩ばかりしていては問題にならない。野党の側でも内閣を倒すことだけは知り、後継内閣を作ることは知らない。

 先頃も幣原内閣を倒しはしたが作ることはできず、倒した内閣の外務大臣を迎えてようやくこれを組織し、そのうえ自由・進歩の両大政党は彼らが打撃し打倒した内閣の首相と外相を迎えて総裁とした。これでは政変の意味は全然ないのだが、国民も政党も平気である。あたかも古家を無理に壊し、古材木を集めて前より悪い家を作ったようなものだ。馬鹿馬鹿しい限りである。

 今は政争を中止して挙国一致救国政権を確立し、兎に角危機を突破すべきである。政争に没頭し、ストライキ騒ぎをやっているのは自滅の手伝いをやっているものといってよい。それには純真な青年が奮然躍起して、国を救う以外方法はなかろうと思われる。老人は昔の習慣や癖がぬけず、政党の争いをすぐ感情でやる。青年の純情と熱意だけが頼みである。

 しかるに地方によっては唯一の頼みである青少年までもがゼネストに参加したり、内閣打倒運動に協力したりしている。しかもろくにその理由も理解せず、漫然とやっている者が多いようだ。

 政治家は国家の存亡をよそに党争をやっている。資本家と労働者は喧嘩をする。都市と農村は軋轢している。今度の選挙は日本が更生復興するか否かを決する意味もあるので、どうか立派な選挙を行なってもらいたい。特に青年諸君に躍起してもらいたく熱願する次第である。

1947年(昭和22年)『咢堂清談』より

Ozaki Yukio with his son Yukiteru and daughter Yukika visiting cherry trees by Tidal Basin Wshington D.C. in June 1950./ Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio with his son Yukiteru and daughter Yukika visiting cherry trees by Tidal Basin Wshington D.C. in June 1950./ Ozaki Yukio Memorial Foundation

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【ニューヨークIDN=ロドニー・レイノルズ】

主な核保有国4カ国を含む40カ国以上が示し合わせて参加を拒否したにも関わらず、核兵器を禁止する国際条約の交渉を目的とした国連会議は、世界で最も危険な大量破壊兵器を廃絶する法的拘束力のある文書の策定を目指す史上初の試みにおいて、大きな突破口を作り出した。

「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)は、「大量破壊兵器の禁止や海洋法の例にあるように、条約がしばしば、非締約国の行動をも変えることがあります。」と述べ、たとえ核兵器国の参加がなくとも核兵器禁止条約は非常に大きな影響力を持つようになる、との予測を示した。

Elayne Whyte Gómez (Costa Rica) on the negotiation of a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons/ UN Web TV
Elayne Whyte Gómez (Costa Rica) on the negotiation of a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons/ UN Web TV

国際社会は、いずれも大量破壊兵器である生物兵器に関しては1972年に、化学兵器に関しては1992年にそれぞれ禁止条約を採択し、これに、対人地雷(1997年)やクラスター弾(2008年)のような無差別殺人兵器の廃絶が続いている。

核兵器禁止条約交渉会議の議長をつとめているエレイン・ホワイト大使(コスタリカ)は3月30日、いったん条約ができあがれば核保有国も最終的には参加するのではないかと記者らに期待感を示した。最終的な交渉(第2会期)は6月15日から7月7日にニューヨークの国連本部で開催が予定されている。

3月27日から31日まで開催された今回の交渉会議(第1会期)は、参加者数の点からいっても大きな成功であった。国連の193加盟国のうち132カ国が参加し、加えて、220以上の市民団体が積極的に参加した。また、80カ国・3000人以上の科学者(ノーベル賞受賞者28人を含む)が、国連への公開書簡で「核兵器禁止」を支持した。

ホワイト議長に手交された書簡は「科学者には核兵器に関する特別な責任があります。なぜなら、核兵器を開発し、その影響が最初に考えられていたものよりずっと恐ろしいことを発見したのは他ならぬ科学者だからです。」と述べている。

2001年にノーベル物理学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学(MIT)のウォルフガング・ケタール教授は「核兵器は人類に対する真の脅威だと考えています。この脅威を削減する国際的な合意が必要です。」と語った。

現在、米ロ両国で約1万4000発の核兵器を保有しているが、その多くが高度な警戒態勢下にあり、通告後数分で発射可能な状態にある。

米国フレンズ奉仕委員会(AFSC)平和・経済安全保障プログラムの責任者であり「国際平和・地球ネットワーク」の共同呼びかけ人でもあるジョセフ・ガーソン氏はIDNの取材に対して、「『なせばなる』という進取の精神と、政府・市民社会間の協働の深さには目を見張るものがあり、これは長年にわたる平和運動の活動と組織化のたまものです。」と指摘する一方で、「しかし、世界は正反対の方向をめざす勢力によって駆り立てられています。」と警告した。

ガーソン氏は、韓国や日本からオランダやドイツに至るまで、「『核の傘』に依存する国々の政治勢力が、私たちが知っている生命全てを絶滅させることができる国々と連携し続けるのではなく、核兵器禁止条約を選択するよう自国政府に圧力をかける必要があります。」と語った。

一部の北大西洋条約機構(NATO)加盟国、あるいはアジアにおける米国の同盟国が核大国への依存を放棄したならば、核兵器なき将来に向けて大きな弾みが生まれるだろう、とガーソン氏は指摘した。

ガーソン氏は同時に、「(核兵器禁止)条約が交渉され、採択・発効したとしても、核保有国が自国の核戦力を廃棄する結果に直ちにつながるとの見通しがあるわけではありません。」「21世紀の次世代核兵器と運搬手段を開発するために想像を絶するような多額の予算を費やしている核保有9カ国は、署名・批准していない(核兵器禁止)条約は自国には適用されないと主張するだろう。」と語り、冷静な見方をする必要性も指摘した。

米国は、北朝鮮との対立に関して、先制攻撃も含めた「あらゆるオプションがテーブル上にある」との姿勢を示している。

NATOがロシア国境沿いまで拡大し、ウクライナ危機が起こる中で、米ロ関係は冷戦期の核対立に近いところにまで回帰している。インドとパキスタンは互いを威嚇しつづけており、ブルッキングズ研究所は、挑発的な軍事演習の際の事故や計算違いが、容易に制御を越えてエスカレートする可能性が高い、と警告している。

軍備管理協会(米ワシントン)のダリル・G・キンボール会長は、世界の核保有国が国連核兵器禁止条約交渉会議をボイコットしたとしても、「この前例のない新たなプロセスは、核兵器の非合法性をより明確にし、その使用に対する法的・政治的規範を一層強化することにつながるだろう。」と指摘したうえで、「これは核兵器なき世界という目標とも整合し、『核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、誠実に交渉を行うこと』を全ての加盟国に義務づけた核不拡散条約(NPT)第6条とも整合する意義のある目標です。」と語った。

今会期の交渉に参加した132カ国のすべてが、「核兵器なき世界」という一つのビジョンを共有している。核兵器禁止条約の策定に向けた活動を主導している市民団体の一つであるICANは、意見の違いが出ることが予想されるものの、提案されている条約のほとんどの要素に関して多くの国々の間に広範な合意が存在する、と3月31日に発表した声明で語った。

ICAN
ICAN

会合の締めくくりにあたってICANのベアトリス・フィン事務局長は、「国際法における法的空白を埋め核兵器を禁止することを目指した私たちのキャンペーンにおいて、今週、胸を躍らせるような進展がありました。また、誰も核兵器禁止条約の締結に反対する勢力に気を取られることはありませんでした。条約草案を詳細に検討するのを楽しみにしています。」と語った。

ホワイト議長は、6月15日から7月7日までの交渉最終ラウンド(第2会期)において議論される条約案を5月後半か6月初頭までに議長案として提示するものと見られている。

終了したばかりの第1会期では、核兵器禁止条約の原則と目標ならびに前文に焦点が当てられた。核兵器の保有・開発・実験・使用、さらに、これらの行為に関して他国を支援することの禁止が内容として盛り込まれる予定だ。

4つの主要核保有国であり、国連安保理の常任理事国でもある米国、ロシア・英国・フランスが条約の反対勢力を率いている。他に、イスラエル、オーストラリア、日本、韓国も反対の立場だ。

国連総会が2016年10月に核兵器禁止条約に向けた交渉開始を定める決議を採択した際、残りの核保有国である中国・インド・パキスタンは採択を棄権し、北朝鮮は禁止条約に賛成票を投じた。

驚くべきことに、高見澤将林軍縮会議日本政府代表部大使は、「核兵器国が参加しない形で条約を作ることは、国際社会の亀裂と分断を一層深めるだけの結果に終わるだろう」と発言した。

核による破壊の影響に苦しんだ唯一の国の代表である高見澤大使は「我が国は、引き続き、核廃絶のための具体的かつ効果的な措置の積み上げを追求し、核廃絶を可能にする安全保障環境の整備に努力していきたい。」と発言した。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、提案されている文書が核不拡散条約(NPT)を強化し、核兵器の完全廃絶に世界をより近づけること、核軍縮と「全面的かつ完全な軍縮という我々の究極の目標」に対して重要な貢献を成すことを期待すると表明した。

General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.
General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.

「人類が直面している生存上の脅威である気候変動という難題に対応すべく民衆が活気づけられたのと同じように、軍縮を支持する民衆の意識を喚起し動機づける新しい道筋を見出さなければなりません。」とグテーレス事務総長は語った。

英国のマシュー・ライクロフト国連大使は、主要な核保有国はその核戦力の規模を縮小し続けており、「この交渉は世界的な核軍縮の効果的な進展につながることはないと考えている。」ことを理由に、核兵器禁止条約交渉会議に参加しないと記者らに語った。

米国も同様に、ボイコットについて強硬な姿勢を示した。ニッキー・ヘイリー国連大使は記者団に「私の家族のために、核兵器なき世界ほど望んでいるものはありません。しかし、私たちは現実的にならねばなりません。」「北朝鮮が核兵器の禁止に合意すると信じる人がいるでしょうか。」と問いかけた。

核時代平和財団」の事業責任者リック・ウェイマン氏はこのヘイリー国連大使の発言について、「大きな役割の反転が起こっています。ヘイリー大使が国連総会会議場の外で抗議活動をする一方で、世界中の市民社会組織が支援する世界の国々の多数が、核兵器を禁止する条約の交渉を開始しようとしているのです。」と語った。

ウェイマン氏はまた、「核時代平和財団は、これからも核兵器禁止条約を交渉する誠実な取り組みを支持し、核兵器を永久に持ち続けようとする核保有国の試みに反対していきます。」と宣言した。

同財団によれば、想定される新条約では、核兵器の使用・保有・開発及びそれらの行為に関して他者を支援することを締約国に法的に禁じ、既存の不拡散・軍縮レジームと協調し、無差別兵器に反対する規範を強化し、軍縮義務を満たす手法を諸国に提供するものになるだろうという。

United Nations Conference in New York to negotiate "a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading towards their total elimination". /Soka Gakkai.
United Nations Conference in New York to negotiate “a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading towards their total elimination”. /Soka Gakkai.

軍備管理協会は将来を予想して、条約を効果的なものにしようとすれば、それは、(a)核兵器の保有、核共有計画、開発、生産、実験に関連した行為を禁止し、(b)NPTを含め、核兵器関連の特定の活動を禁止あるいは制限した既存の条約と整合性があるものであり、(c)核兵器を現在保有するか、核保有国と同盟を組んでいる国々が、この新たな核兵器禁止条約の完全な加盟国となる前に同条約を支持できるようなものでなくてはならない、と述べた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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宗教コミュニティーが核兵器禁止を呼びかけ

【ニューヨークIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

宗教コミュニティーは、世界の被爆者の声に耳を傾けるよう呼びかけるとともに、ニューヨークの国連本部で「核兵器の完全廃絶につながるような、法的拘束力のある文書」について交渉する国連会議の必要性を強調してきた。

ICAN
ICAN

国連核兵器禁止条約交渉会議2日目の3月28日に発表された共同声明は、20以上の団体および個人が賛同しており、核兵器の使用・保有・開発・製造・入手・移転と配備の禁止、ならびに、それら禁止行為に関わる、誘導・奨励・投資ならびに支援の禁止を「条約の文言に明確に示す」よう求めている。さらに、その新しい法的取極は、「核兵器の全廃義務を提示するものであり、またその達成のための枠組みを提供するもの」とするよう求めている。

同声明はまた、「この新しく制定される法的取極が、核兵器使用によってもたらされる人道的被害を防ぐことに、その根本の正当性がある」と説明している。

この法的取極めがもつ「明確な正当性」とは、広島・長崎の人々が経験した苦しみを「他の人々や家族、そして社会に再び訪れることがない事」を確実にすることにある。「核兵器の人道的影響が全ての核軍縮に関する努力の中心に据え置かれるべきである。」と、同声明は宣言している。

宗教コミュニティーはさらに、「核軍縮に導く交渉を誠実におこないかつ完結させる義務を果たすよう」、全ての国がこの交渉に参加するよう呼びかけ続ける必要性を強調した。

ニューヨークの国連本部で開催された国連核兵器禁止条約交渉会議の第一会期(3月27日~31日)に120カ国が参加する中、ドナルド・トランプ政権の国連大使であるニッキー・ヘイリー氏は3月27日、国連安全保障理事会で拒否権をもつ英国とフランス、さらに、ロシアの脅威を感じている東欧の多くの同盟国と共に、交渉会議に対する抗議行動を行った。

安保理五大国(P5)の残りの2か国であるロシアと中国は、この抗議行動には参加しなかった。しかし、この両国とも、オーストリア・ブラジル・メキシコ・南アフリカ共和国・スウェーデンが主導して2016年10月に初めて開催が発表された今回の国連核兵器禁止条約交渉会議には参加していない。

「核兵器を憂慮する宗教コミュニティー」と題された共同声明は次のように述べている。「1945年8月に広島と長崎が最初の核攻撃を受けて以来、核兵器がもたらす悲惨な結末は、その廃絶の必要性を示してきました。1945年以降、人類は核兵器による黙示録的な破壊の影のもとで暮らし続けることを余儀なくされています。ひとたび核兵器が使用されれば、人類文明のこれまでの成果が破壊されるだけでなく、現世代は傷つき、将来の世代も悲惨な運命へと追いやられるのです。」

United Nations Conference in New York to negotiate "a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading towards their total elimination". /Soka Gakkai.
United Nations Conference in New York to negotiate “a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading towards their total elimination”. /Soka Gakkai.

同声明には次の宗教団体が賛同している。世界各地のパックス・クリスティの組織、世界教会協議会、ノルウェーキリスト教協議会、創価学会インタナショナルムスリム平和フェローシップ核軍縮のためのキリスト教者キャンペーンフランシスコ会行動ネットワーク英国のクウェーカー教徒修道女会指導者会議(LCWR)、世界ボシュニャク会議、ユニテリアン・ユニバーサリスト協会メノナイト中央委員会国連事務局、サウンド・ヴィジョン、世界宗教者平和会議

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

「私たちの信仰が掲げる価値観は、安全と尊厳の中で人類が生きる権利を求めています。私たちは、良心と正義の要請があることを信じ、弱き者を守る義務、未来の世代のために地球を守る責任感に誇りを持つべく努力しています。」と共同声明は述べている。

宗教コミュニティーは、核兵器はこうした価値観や約束事を蔑ろにするものであると確信している。国家の安全保障や国家関係の安定、あるいは政治的惰性といったいかなる理由をもってしても、核兵器の存在、ましてやその使用を正当化することはできない。核兵器がもたらす壊滅的な人道上の結末は、それがいかなる状況においても二度と使用されてはならないことを求めている。

宗教コミュニティーは、本来あるべき正常な精神と人類が共有する価値の名のもとに、声を挙げている。また、これまでに発明された史上最悪の兵器を禁止するための協議を歓迎するとともに、おぞましい死の恐怖をもって人類を人質にとる非道を拒絶している。また、この交渉会議を開始する勇気を示した世界の政治指導者らを称賛している。そして、交渉に参加しない国の政治指導者たちが、自国の立場を見直し、少なくとも6月15日~7月7日に開催される交渉会議(第2期)に誠実に参加するよう、強く訴えている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

ドナルド・トランプ大統領が発表した2018年会計年度(2017年10月-18年9月)予算案については、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、国連分担金の削減計画を強く批判する一方、米国国内でもユダヤロビー団体のリーダーが、「外交に対する危険な偏見」を示すものであり、「米国とイスラエル、いずれの国民の利益にもならない」と警告している。

Jeremy Ben-Ami (J Street founder and president), appearing at J Street at Seattle Town Hall/ Joe Mabel, CC BY-SA 4.0

こうした痛烈な批判を展開しているのは「Jストリート」のジェレミー・ベンアミ会長である。Jストリートは、「プロ(=親)イスラエル、プロ・ピース」を掲げ、「イスラエルが安全で、民主的で、すべてのユダヤ人の故郷であることを望むユダヤ系米国人のロビー団体である。

トランプ大統領の2018会計年度の予算案は、外交や対外支援関連の予算を削減する一方で、イスラエルへの軍事支援に31億ドルを充てている。

ベンアミ会長は声明の中で、「この予算案は、もし実行されれば、米国の影響力と安全を損ない、世界中の弱い立場の人々に無数の苦しみを与えることになるだろう。」と指摘したうえで、「世界のリーダーとしての米国の役割とイスラエルに関心をもつすべての人々が、この予算案に厳しく反対すべきだ。」と警告した。

一方、グテーレス事務総長は、テロ対策関連支出を拡大し国防費を540億ドル引き上げるとしているこの予算案に関して、3月16日にステファンドゥジャリク報道官を通じ、「テロに効果的に対処する必要性は認めるものの、それには軍事支出以上のものが必要です。」と懸念を示した。

グテーレス事務総長はさらに、「紛争予防や紛争解決、暴力的過激主義への対抗措置、平和維持活動、平和構築、持続可能で包摂的な開発、人権の向上と尊重、人道的危機への適時の対応を通じて、テロの根本原因に対処する必要もあります。」「国際社会は、強力で効果的な多国間システムによってはじめて対処できるような、大きな世界的難問に直面しています。国連はこれに関して根幹となる柱であり続けている。」と述べている。

グテーレス事務総長はさらに、「米国およびその他の加盟国と、共通の目標と価値を追求するために、より費用対効果が高い組織へと国連を改革する最善の方策について議論する用意がある。」と強調している。

国連が目的にかない、最も効率的で費用対効果がある結果を出すようにするために、グテーレス事務総長は2月14日、自身が昨年に国連事務総長に指名された際に提示していた、国連事務局の平和安全保障分野の戦略、機能、構造の改革を進めるため、内部審査チームを発足させると発表した。

2月14日に国連事務総長室が発表した声明によると、国連で数多くの要職を歴任したタムラート・サミュエル氏がチームを率いる。内部審査チームは、6月までに事務総長に勧告を提出することになっており、国連加盟国や関連機関との協議プロセスが始まることになる。

グテーレス事務総長は、こうした内部審査の成果が出るまでの間、平和・安全保障分野で活動する高官らの任務は来年4月1日まで維持されると述べた。

米国の国連拠出金の規模は、国連の一般予算の22%および、再検討の過程にある16件の平和維持活動関連予算の28%以上にあたる。グテーレス事務総長は、同声明のなかで、「最大の財政支援国として、米国が長年にわたり国連に行ってきた支援に感謝しています。私は、国連が目的にかない、最も効率的で費用対効果がある結果を出せるよう国連改革に取り組んでいきます。」と約束するとともに、「しかし、急激な財政削減が行われた場合、臨時の措置を採らねばならず、それは長期的な改革努力の効果を損なうことになるだろう。」と付け加えた。

General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.
General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.

ベンアミ会長は、トランプ大統領の2018会計年度の予算案は、外交や対外支援関係を削減する一方で、イスラエルへの軍事支援に31億ドルを充てていると指摘し、この削減は「無責任で危険なもの」と警告した。

「この予算案の青写真は、(トランプ政権の)孤立主義的な世界観と、多国間外交を犠牲にして問題解決のために軍事力に依存する傾向を体現しています。私たちは、すべての政党の議員に対して、死活的な支援分野における強権的な予算削減を拒否すべきだと強く訴えています。」とベンアミ会長は語った。

長年にわたって、Jストリートを含む多くの親イスラエル団体が、米国の対外援助予算が全体として削減される中でも、対イスラエル支援だけは例外として扱うよう論じてきた。しかしベンアミ会長は3月16日に発表した声明の中で、「私たちはあらゆる政治組織における親イスラエル派に対して、米国の対イスラエル支援という従来の枠を超えて、対外支援全般を再び活発にするために共闘していくよう呼びかけています。」と述べている。

ベンアミ会長はその理由として、「すでに他の先進国よりも対GDP比で下回っている米国の対外支援をさらに弱めることは、イスラエルの安全保障も同様に損なうことになる」と論じている。

予算案は、国務省や国際開発事業関連の予算を28%という壊滅的な幅で削減し、国連や人道支援、文化交換プログラムについても大胆に削減している。

「これによって、すべての米国民・イスラエル国民に影響を与える戦略的重要性を持つ問題に関しても、同盟国や国際社会と協調して活動する米国の能力に深刻な影響が出てくるだろう。もっとも基本的な『人間対人間』というレベルにおいて、世界と米国との絆は失われることになる。」とベンアミ会長は警告している。

ベンアミ会長はさらに、「近年の諸事例から明らかなように、外交には、軍事行動にかかる費用のほんの一部だけで、付随する人的被害を伴わずに、米国に対して国家安全保障上の大きな見返りをもたらす能力があります。」「わが国は依然として、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)が2003年に行った不必要かつ壊滅的なイラク侵攻のつけを支払わされています。一方、イランとの多国間合意でその核開発の牙を抜いたバラク・オバマ大統領の決断からは、この先長年にわたり利益が得られることだろう。」と述べている。

ベンアミ会長は、元統合参謀本部議長のマイク・マレン提督の次の言葉を引用している。「外交は、全体的に調整された戦略の一部として、米軍の関係する現実の軍事紛争の可能性を減ずることによって、コスト削減に寄与するというのが私の固い信念です。[外交にかかる予算の]削減幅が大きくなれば、軍事作戦により時間がかかり、もっと多くの人命がリスクにさらされることになる。」(原文へ

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