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軍事的緊張を高める北朝鮮の核実験

【国連IDN=ロドニー・レイノルズ】

世界の二大核兵器国である米国とロシアの間の軍事的緊張が強まり続ける中、国連は「核兵器なき世界」という長期的な目標のひとつに強くコミットしてきた。

しかし、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が1月6日に初の水爆実験を行ったと発表し、核の難題は以前にもまして厳しくなってきている。

193か国から成る国連総会は、軍備管理・軍縮関連の57本の決議案を採択して、昨12月に2015年の会期を閉じた。そのうち、23本が核兵器関連であった。

核爆発実験を行わないようすべての加盟国に求めたある決議には181か国が賛成したが、北朝鮮だけが反対していた。

潘基文国連事務総長は1月6日の声明で、北朝鮮が6日に発表した地下核実験に対する深い遺憾の意を示した。

「この実験は、そうした行為をやめるよう国際社会が一致して求めていたにも関わらず、数多くの安保理決議にふたたび違反するものです。また、核実験を否定する国際的規範にも強く違反するものです。」

潘事務総長は、「(北朝鮮の)この行為は地域の安全保障を著しく不安定化させるものであり、国際的な核不拡散の取組みを損なうものです。私はこの実験を明確に非難します。そして、北朝鮮に対して、さらなる核活動を停止し、検証可能な非核化に向けてその義務を果たすよう要求します。」と語った。

「私たちは、包括的核実験禁止条約機関準備委員会CTBTO)などの関連国際機関や関連主体との緊密な連携の下、状況を監視し査定しています。」と潘事務総長は付け加えた。

これらの決議に政治的影響力はあったのかというIDNからの質問に対して、NGO「リーチング・クリティカル・ウィル」のレイ・アチソン代表は、「多くの国連総会決議は繰り返しが多く、具体的な進展を求めるというよりも共通の立場の再確認を指向することが多い。」と語った。

アチソン氏によれば、国連総会は一方で、新機軸となる重要な文書をいくつか採択したという。

アチソン氏が指摘したのは、すべての国に対して開かれているがどの国も拒否権を持たない核軍縮に関する公開作業部会に138か国が賛成した決議だ。

「今年この作業部会に参加する国々は、核兵器を禁止する新たな法的文書の要素を検討するためにこの場を活用すべきです。この決議への支持は、この点に関する明確な進展を各国が求めている明白な表れです。」と、アチソン氏は語った。

アチソン氏はまた、核兵器の人道的影響、核兵器の禁止と廃絶に向けた法的ギャップを埋めることを約束した「人道の誓約(=オーストリアの誓約を改称)」、核兵器なき世界への倫理的要請の各決議もまた、単純過半数ではなく、国連加盟国の3分の2以上の支持を得て可決した点を指摘した。

軍縮・軍備管理に関連した国際プロセスを監視・分析しているアチソン氏は、大多数の国々が、核武装国及びその核同盟国に対してついに立ち上がり、核軍縮に向けた協調的な行動に打って出たように見えると語った。

しかし、反核活動家らが高まる核の脅威について警告する中、北朝鮮は「米国による核の脅威と威嚇に直面した我々の生存権を守り、朝鮮半島の安全を確保する自衛策として」水素爆弾を爆発させたと正当化した。

核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は北朝鮮の核実験に関して、「核保有国間の緊張の高まりが、新たな軍拡競争への懸念を強めています。」と語った。

「しかし、冷戦期とは異なり今日では、(核軍拡競争に)関与する主体の数が増えていますし、政治的に不安定な地域も絡んできますので、核兵器が使用されたり偶発的な事故が起こるリスクは高まっています。」とフィン事務局長は語った。

ICANは6日に発した声明の中で、「核兵器は戦争の無責任な手段であり、その使用および保有は、国際社会全体が非難すべき無謀な行為である。」と述べた。

非難に続いて国際社会が行わなければならないのは、化学生物兵器の場合と同く、核兵器を国際的に禁止することである。

今年2月には、加盟国がジュネーブに集まって、核兵器に関するあらたな法の策定についての協議を行う予定だ。

「すべての責任ある国家は、核兵器に関するあらたな法を協議し、この大量破壊兵器を保有しそれに依存することに明確に反対の立場を採り、核兵器を明白に禁止していくべきです。」とフィン事務局長は語った。

アチソン氏は、先月採択された国連決議に言及して、「132か国が、核兵器なき世界に向けた倫理的要請に関する決議への賛成にあたって、核兵器は『集合的安全保障を損ない、核の惨禍のリスクを高め、国際的緊張を悪化させ、紛争をより危険なものにする』という見方で一致しました。」と指摘した。

A view of the General Assembly Hall as Deputy Secretary-General Jan Eliasson (shown on screens) addresses the opening of the 2015 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT). The Review Conference is taking place at UN headquarters from 27 April to 22 May 2015. Credit: UN Photo/Loey Felipe
A view of the General Assembly Hall as Deputy Secretary-General Jan Eliasson (shown on screens) addresses the opening of the 2015 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT). The Review Conference is taking place at UN headquarters from 27 April to 22 May 2015. Credit: UN Photo/Loey Felipe

核兵器の禁止・廃絶に向けた人道の誓約を反映した別の決議での投票では、139か国が全ての関連する利害関係者に対して「核兵器のもたらす容認しがたい人道的影響やそれに伴うリスクに鑑みて、核兵器を絶対悪とみなし、禁止し、廃絶する」ことを求めている。

「これは、国々が国連総会で採るべき重要な立場です。」とアチソン氏は付け加えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ムンバイIDN=バーナード・シェル】

経済協力開発機構(OECD)によると、国際社会が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」への取り組みを開始するなか、29か国で構成される開発援助委員会(DAC)(本部:パリ)に加盟していない国々による資金が、開発協力への資金調達をするうえで、ますます重要な役割を果たしている、という。

近年、困窮している国々に対して譲許的な融資や寄付を行ってきた主要なDAC未加盟国には、中国、ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ共和国があるが、とりわけ中東のアラブ首長国連邦(UAE)は、政府開発援助(ODA)拠出額が、国民総所得(GNI)比(国の経済規模に対してどのくらいの割合をODAとして供与しているかを示す数値)で世界第1位にランク付けされている。

OECDが発表した加盟34か国の最新数値によると、UAEによるODA拠出額は約49億ドル。これは国民総所得比1.17%に当たり、主に欧米先進国から成るDAC加盟国の平均値(GNI比0.3%)と比較しても相当高いレベルである。

援助総額でODA実績を見た場合、最大の拠出国は米国、英国、ドイツ、フランス、日本であるが、国連が2013年に目標指数として打ち出したODAの対GNI比0.7%を既に達成しているDAC加盟国はデンマーク、ルクセンブルク、ノルウェー、スウェーデン、英国のみである。

UAEの地元メディアによると、ドバイ首長のムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム副大統領兼首相は、「世界で最も寛大な援助国の地位を更新できたことは、困難に直面している人々に無条件の支援を行うというUAE建国以来の原則を反映したものです。」と語った。

2015年10月、ムハンマド首長は、年間の拠出金額が2億7220万ドル相当にのぼる、一連の慈善活動・人間開発イニシアチブを確固たるものにするため、新たにグローバル・イニシアチブを立ち上げた。

ムハンマド首長は、自身のソーシャルネットワークのサイトに、「人道支援活動は変化してきており、今日、大規模なグローバル・イニシアチブに求められている課題は、社会的変化を成し遂げるような貢献をすることです。私たちはこの地域(中東)に背を向けることなく、支援の手を差し伸べ、若者の未来に希望をもたらします。」とツイートした。

このイニシアチブは、支援対象の重点をアラブ世界に置いているものの、2025年までに少なくとも116カ国の1億3000万人以上の人々に人道支援の手を差し伸べたいとしている。また同基金は、1億3600万ドルを投じて水不足対策研究所の開設を計画しているほか、中東地域に5億4450億ドルを投じて、医療研究センターや病院の開設計画を進めている。

ムハンマド首長はさらに、「人道支援と開発支援については、技術開発の進歩に対応しその恩恵を活かすとともに、『真の人道主義キャピタルになる」というUAEのビジョンを実現するために組織的に取り組んでいくべきです。」と強調した。

「施しの文化は私たちの社会に深く根ざしたものであり、UAE建国以来歴代指導者が常に育んできた価値観です。この度、我が国のODA実績が国民総所得比で世界第1位になったことについて、私たちは大変恐縮するとともに、嬉しく思っています。」とムハンマド首長は語った。

このイニシアチブは、4つの主要分野(①貧困と病気との闘い、②知識と文化の普及、③コミュニティーのエンパワーメント、④革新の後押し)に焦点をあてた28団体の活動を整理統合する予定である。

イニシアチブは、2025年までに、2000万人の子供たちに対する教育支援と、3000万の人々に対する失明予防・眼病治療を提供する計画である。

ムハンマド首長は、同イニシアチブの設立について、「今日アラブ地域は、深刻な難題に直面しています。だからこそ、私たちはこの地域のために、若者の未来に希望をもたらすような支援を行わねばなりません。また今日の世界を見渡せば、テロリズム、戦争、大量の移民など、国際社会はあらゆるレベルで大きな課題に直面しています。人間開発こそが、こうした諸問題に対する唯一の解決策ですが、そのためには民衆に教育の機会を与え、各々が自身の未来を築けるよう支援の手を差し伸べなければなりません。」と語った。

このイニシアチブでは、引き続き救済事業を継続しながら、200万人以上の人々が今後10年以内に自立して生きていけるよう支援活動を展開していくことになっている。また、今後数年間に亘って若い起業家を支援し、50万人以上の雇用創出を目指している。

なお、知識と文化を普及させる分野に関しては、従来から学校で育んできた生徒たちによる読書文化を引き続き支援するとともに、1000万冊以上の書籍を印刷・配布するほか、様々な言語で記された今日最も重要な25000タイトルの書籍をアラビア語に翻訳する予定である。さらに今後10年の間に5億冊以上の本がアラブ世界で読まれるよう環境を整えていくプログラムを支援する予定である。この分野における真の変革を創出ために、イニシアチブでは、教育、知識、科学分野に総額4億900万ドルを投資する予定である。

このイニシアチブはまた、全般的な開発戦略の枠内で、寛容で異なる文化・文明に開かれた精神で、社会に新しい文化を確立する取組みを展開していく予定である。

MBRGI
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「この目標を達成するために、イニシアチブではこれまでに、透明性が確保された活気あるメディア対話を促進するとともに、コミュニティーが過激主義や、民族、宗教、宗派上の差別から離れて仲良く暮らすことができるよう、1億6300万ドルを超える予算を投じてきました。」イニシアチブは、今後10年間で、100万人以上を対象に、コミュニティエンパワーメントに関する様々な受賞イベントや会議を開催する予定である。

中東地域を開発する全体的なビジョンの一部として、同イニシアチブは、域内の5000人の革新者や研究者を育成してイノベーションと科学者を支援するとともに、中東地域の革新者向けの世界基準の環境を整えるために15億ドルを超える資金を投資する予定である。、

イニシアチブはまた、50,000人の若い起業家を支援して企業家精神を育むとともに、新会社の設立を支援して、向こう数年間で中東地域に500,000件の雇用機会を創出する取り組みを重点的に推進していく予定である。

「これらの取り組みはすべて、失業問題の根絶に向けてほんの少しでも貢献し、アラブの若者達が誤った方向に導かれテロ行為に誘い込まれることを防止するとともに、尊厳をもって生活できるよう支援するという、同イニシアチブの包括的な開発ビジョンの一部です。」と、グローバル・イニシアチブのウェブサイトに記されている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【ローマIDN=ロベルト・サビオ

わずか2日という期間に、民主主義と気候に関してパリから世界へ2つの教訓がもたらされた。メディアは2つを別々の問題として扱っているが、実際には、もはや無視しえない同根の問題によってつながっているのである。それは、「民主主義は衰退しつつある」という問題だ。

すべてのメディアが、フランス地方圏議会選挙(2回投票制)における極右政党「国民戦線(FN)」の敗北について伝えている。「戦闘に勝つことが戦争に勝つことではない」という昔からの見地を述べた者はほとんどいないが、国民戦線がフランスにおいて主流の政党になりつつあることに疑いの余地はない。

この選挙では、旧来からの政治勢力、すなわちニコラ・サルコジ元大統領が率いる共和党を中心とする中道右派連合と現大統領のフランソワ・オランド氏が率いる社会党が再び手を組み、(第一回投票で躍進した)マリーヌ・ル・ペン氏率いる国民戦線の勝利を阻止した。

しかし、(米国と同様に)欧州の右翼勢力が、ノスタルジアと外国人嫌い以上の存在になりつつあることを考えなくてはならない。欧州各国において右翼政党が議席数を伸ばしている背景には、政府に対して不満を募らせている人々(その多くが労働者階級と社会の貧困層が占める)が増加してきている現実がある。彼らはかつてなら左翼政党に票を投じただろうが、福祉体制が衰退し、自身や子供世代における失業率が増大、さらに、市場を優先したがゆえの国家の退潮、拡大する社会の不正義、移民問題の深刻化、国民アイデンティティの喪失、不愉快なまでの汚職に直面して、苛立ちを強めている。

これが「経済的ナショナリズム」とでも呼ぶべき新しいカテゴリーを生み出している。これは、欧州連合であれ、移民であれ、北大西洋条約機構(NATO)であれ、多国籍企業であれ、あらゆる形態の外国からの侵入に対して闘う姿勢を示すものである。旧来の政党は、権力にしがみついて市民が必要とするものを提供せず、責任を負わないエリートによる自己再生産的なメカニズムとみなされている。それは、外国人排斥、ナショナリズム、「古きよき時代」へのノスタルジア、外国勢力や組織にいかなる関与の余地も与えず国家を強化するような経済を求める声、等が混ざり合ったもので、つまり、有権者の間で高まっている様々な不満の受け皿となっているのである。

旧来の諸政党には、こうした有権者の感情を大いに助長してきた責任がある。こうした政党は、政策理念やビジョンよりも、個人の個性を益々重視するようになってきた。旧来型の政党帰属構造は失われ、政策を訴えるよりも、むしろイメージ戦略に近いキャンペーンによる世論掌握のための運動という様相をますます呈してきた。

“Matteo Renzi November 2014 (cropped)” by Partidul Social Democrat from Romania – Victor Ponta si Matteo Renzi la sediul PSD – 13.11 (6). Licensed under CC 表示 2.0 via ウィキメディア・コモンズ

この原稿を書いている今、イタリアのマッテオ・レンツィ首相が、政治的エリートの多くが考えていることを自身の支持者に語っているのが目に入った。レンツィ氏によれば、もはや「左」も「右」もなく、彼の政党(民主党)は、自身が2013年12月に党首になった時の中道左派政党を脱却して「国民政党」に生まれ変わる、というのである。

この「左派」へのアイデンティティの喪失は、右派政治家の成功につながってきた。まずはハンガリー(オルバーン・ヴィクトル政権)で、次にはポーランド(ベアタ・マリア・シドゥウォ政権)で、指導者は「国民」のために行動すると訴え、もはや「左翼」など存在しないと主張しているのである。

次の大統領選が2017年にフランスで行われる際、国民戦線のマリーヌ・ル・ペン党首が再び排除されることになるのかどうかはわからない。2つの旧来型の政党が2回投票制の仕組みを利用した選挙協力で国民戦線候補の勝利を阻止するトリックは、これまでのところ機能しているが、「国民戦線こそが現行選挙制度による真の犠牲者」という印象を国民の中で印象付ける結果を招いてしまった。

他方でオランド大統領は、イスラム国(ISIS)に対して自身が始めたきわめて高くつく戦争という選択とともに、選挙戦に臨んだ。(戦争遂行のため)国内問題に対処するための財源はさらに限られることとなるため、失望した市民が社会党政権に見切りをつけて国民戦線支持に向かうことになるだろう(そして、社会的に排除された若い第二・第三世代のアラブ系市民がISISの元に走るということも付け加えなくてはならない)。

2008年の金融危機以来、すべての欧州諸国で右翼勢力が伸びてきたことを無視するわけにはいかない。そして、左派政権が時流に乗ろうとして右派的な政策を採用してきたことが、かえって従来の支持者を右派支持に走らせる傾向を強める結果を招いてしまった。

もし今日、欧州連合創設のための選挙があったとしたら、その基礎にあった大きなコンセンサスは大部分失われているだろう。そして今日、世界人権宣言を採択することは可能だろうか?

最新の「世界価値観調査」では、民主主義概念が脆弱なものになりつつあると報告している。ますます多くの市民が、もし自分にとっての死活的なニーズを満たすためにより効率的だと考えるならば、非民主的な体制であっても受け入れることだろう。例えば米国では1956年、「軍による統治」という考え方を是認する人は15人に1人に過ぎなかった。今日、この割合は6人に1人である。1980年代以降生まれの世代では、民主主義の下で生きることに最大の価値を与える人は3割しかいない。米国民の3分の1が、自分たちは民主国家に暮らしているとはみなしていない。

米国の次期米大統領選挙戦には少なくとも40億ドルのコストがかかると推定されている。これまでに消費された推定4.68億ドルのうちその半額を、400弱の家族がほぼ支出しているのである。石油王の(チャールズデイビッドコーク兄弟だけでも、10億ドル近くを寄付する予定だと発表している。これでは、自分たちの投ずる票には同等の重みがないと一般市民が感じるのにも無理はない。

国連気候変動サミット

12月12日までパリで開かれた国連気候変動サミット(COP21)についてここで考えてみよう。今回のサミットで合意された「パリ協定」の最も重大な限界は、これが条約ではなく法的拘束力がないという点にある。これは、共和党が多数を占める米議会は気候に関する条約をたちどころに否決するだろうという見通しによっている。共和党の公式の立場は、気候変動など起こっておらず、そのような主張を為す者は、米国のエネルギー部門に対する国際的陰謀を図っている、というものだ。

バラク・オバマ大統領の気候変動への取組みを率先して非難してきた米上院のミッチ・マコーネル共和党院内総務は、「彼(=オバマ大統領)の国際的なパートナーたちがシャンペンの栓を抜く前に頭に入れておいてもらいたいことがある。これは、国内のエネルギー計画を基にした達成不可能な約束事ということだ。計画は違法の疑いが濃く、既に全米で半数の州がその履行停止を求めて裁判に訴え、議会がすでに拒否することを認める法案を可決したものだ。」と語った。

"Sen Mitch McConnell official" by United States Senate - Licensed under Public Domain via Commons
“Sen Mitch McConnell official” by United States Senate – Licensed under Public Domain via Commons

米国民の66%が法的拘束力のある気候変動枠組み条約を支持していることに共和党の上院議員らが気づいていないとみなすことは明らかに不可能だが、彼らの選挙戦への最大の寄付が(エネルギー業界の)コーク兄弟やその仲間によってなされているという事実は、政治家が、それが自身の利益になるとみなせば、自身を現実からいかに切り離すことができるかを如実に示す事例である。そして、(定数100議席の過半数を占める)54人の共和党米上院議員が75億人の人類が望むいかなることでも阻止するという事態は、はたして許されるのだろうか?

パリ協定が意味するものは、各国が自ら決定する目標には何の強制力もないということである。進捗状況に対する最初の評価は2018年になされることになるが、その時国際社会の決定は再び、誰が米国大統領であるかに左右されることになるだろう。共和党の大統領なら米国の立場は一変し、一部の国もまたこの方針転換を歓迎することになるだろう。

実際問題として、私たちが作り出してきたこの混乱状況を反転させるには、恐らく遅すぎるだろう。20年前にベルリンで開かれた最初の国連気候変動会議が気候変動の問題にもっと真剣に取り組んでいれば、何か手を打てる時間はあったのだ。しかし、地球の気温はすでに、産業革命時よりも1度高いのである。各国の行為によって、気温は少なくとも3.7度は上昇するだろう。期待される目標は「上昇を2度以下に抑える」というものであり、この目標はすべての当事者を交渉テーブルにつかせるための方便に過ぎない「政治的な一時しのぎ」だと一般には見られている。

実際のところ、わずか1.5度の上昇でも重大な問題を引き起こすことが明らかになっている。調査団体「気候セントラル」は最近、2度の上昇で2億8000万人が水面下に沈むが、1.5度の上昇では1億3700万人が水没することになるとの予測を発表した。しかし、「上昇2度まで」の合意以前に既にそのうち「1度」を使い切ってしまった私たちは、このスロー・スタートのなかでいかにして上昇を1.5度までに食い止めることができるのだろうか?

Pope Francisco/ Wikimedia Commons
Pope Francisco/ Wikimedia Commons

信じられないことに、気候変動は基本的に技術的な問題だと見られてきた。これは、ある政治的含意を伴うことになる。実際のところ、気候変動の真の問題は、法王フランシスコ回勅が述べているように、正義の問いなのだ。

先進工業国はこの200年間、化石燃料を燃やし続けることによって富を生み出してきた。世界の人口のわずか1割しか占めない国々が、現在大気圏内にある温室効果ガスの6割を排出している。従って、これらの国々は工業化を現在遂げつつある国々に対する「環境負債」を抱えているのである。

国際エネルギー機構は、気候を制御する(上昇を2度に収める)には2020年までに毎年1兆ドルが必要だと試算している。しかし、パリ協定は2020年までに、必要額の10分の1であるわずか1000億ドルを拠出すると約束したに過ぎない。これを増額する公約は一切なく、額は2025年になってようやく見直されるという有り様だ。

もちろん1000億ドルというのは相当な額だが、社会的正義よりも通貨の清廉性の擁護役である国際通貨基金(IMF)は最近、2011年から15年にかけての世界のエネルギー部門への課税後の補助金額は年間30億ドル上昇し、今年は、世界の国内総生産合計の約6.5%にあたる5.3兆ドルもの高額に達するとの報告書を発表した。IMFによれば、これは、新興・低所得国による公共保健などの中核的な社会的・経済的ニーズに対する支出を遥かに上回っている。先進国は、銀行救済のために既に14兆ドルを費やしている。これはまた、先進国が2008年(の金融危機)以降に保健・教育のために投じた費用を上回っている。

COP21はまた、いくつかの関連する問題を無視している。それは、気候変動の犠牲となる貧しい国の人々の人権や救済資金の問題である(国連は、現在のところは国際法に存在しないカテゴリーである「気候難民」が2050年までに2.5億人以上生まれる可能性があると予想している)。

Climate Refugees/ UNHCR
Climate Refugees/ UNHCR

グローバル・ガバナンスの不在

「パリ協定」の矛盾や欠陥をいくらでも指摘し続けることはできるが、明白なのは、私たちには最小限のグローバル・ガバナンスのシステムすらないということだ。気候変動の問題は、世界の多くの市民が感じている不安感をさらに増幅することになるだろう。もちろん、貧しい国々はこの災厄の影響の大半を不当に被ることになる。しかし、先進工業諸国もまた、ライフスタイルの一定の変革を迫られることになるだろう。それなしに政府の行動だけを求めても、私たちが今日知っているような地球を救うことは不可能である。

COP21に参加した政治的アクターがこれをどう見ていたのかを検討してみると興味深い。彼らは、パリ協定は気候を安定化させるという問題を解決することはできないとの認識を含んだ宣言を複数発している。もちろん、これはプロセスの始まりに過ぎず、将来も事態は進展するのだから、楽観的でなければならないとの趣旨の前向きな宣言も出されている。これは、市場が新技術に投資することで強力な役割を果たし、プロセスを加速させるという自信を政治的アクターたちが垂れ流そうとしたためだ。

もちろん、市場は「正義」の問題とは関係がない。変革を生み出す真の力についてはほとんど述べられていない。それは、行動を起こし公共空間を占拠して、手遅れになる前に行動すべきだと諸政府に要求してきた世界中の市民である。こうした市民行動は、ローマクラブによる1972年の宣言「成長への限界」から始まっている。こうした問題が存在するということを政治指導者らが認めるまで45年近くもかかってしまった(2009年のコペンハーゲンでの気候変動会議では、これはまだ議論の段階だった。)その当時でも、歴史的な熱波、氷山の融解、砂漠の拡大、ハリケーンの大規模化などの否定しがたいデータは存在した。しかしこれでも、政治指導者たちが現実に対して(そして民衆に対して)耳を傾け、合意をもたらすのには十分でなかった。私たちは2015年まで待たねばならなかったのである。

Wikimedia Commons
Wikimedia Commons

2050年には、通常の気候レベルから気温が何度上昇しているか私たちは知ることになるだろう。しかし、地球環境の悪化は、私たちが既に感じている不安感を増大させることになるだろう。テロはその最新の一撃に過ぎない。あまりにも長い間、政府は市場がその責任を果たすだろうと期待していたが、その間に、市民の不信感は増すことになる。

数日前、ノーベル賞受賞者のポール・クルーグマン氏が『ニューヨーク・タイムズ』に「醜きものに力を与える」と題したコラムを寄稿した。そこで彼は、ドナルド・トランプ氏とマリーヌ・ル・ペン氏の人気がなぜ高まっているのかを次のように分析している。「…この醜きものは、表面上は突然に見える事態の変化に恐れをなしてようやく動き始めた守旧派によって力を与えられたものだ。(今や彼らは)自らが作り上げた怪物に直面している。」

しかし私たちは、かつて「救世主」とされた人物が力を持ち、民主政府の権力を奪った同様のプロセス(=ワイマール共和国におけるヒトラーの台頭:IPSJ)を忘れるわけにはいかない。ベルリンの壁崩壊以来、私たちは制御不能の強欲の時代を生きている。私たちは今や、恐怖と不安の時期に入りつつある。恐怖と強欲は民主主義の柱をなすものではないという点で、私たちは一致すべきだ。(原文へ

※ロベルト・サビオ氏はOther Newsの発行者、INPS顧問、国際協力評議会(GCC)顧問。このIDN記事はOther Newsとの共同配信によるもの。

INPS Japan

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「イスラム国は絶望した若者らが駆け込む聖域となっている」(タルミズ・アフマド元駐サウジアラビアインド特命全権大使)

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【IPSオピニオン=タルミズ・アフマド】

ISIS(イラクとシャームのイスラム国)に参画する多くのアラブ人青年らにとってのISISの魅力とは、自らの歴史と伝統に基盤を置く大義の下に参加したいという彼らの希望を満たしながらも、中東地域全体でアラブの独裁者らに闘いを挑んでいる点にある。」

昨年、自らをカリフと称するアブ・バクル・バグダディは、モスルにあるモスクの壇上から集会の参加者に演説を行い、「イスラムの土地へのヒジュラ[移住]は義務的なもの」であるとして、全てのイスラム教徒に対してISISへの移住を呼び掛けた。

バグダディは自らの領土を「アラブ人と非アラブ人、白人と黒人、東洋人と西洋人がみな兄弟であり、ひとつの旗と目標の下に、彼らの血は交わり一つになる」ような場所だと述べた。

この呼びかけに応じた人々の数は驚くべきものだった。ISISには20万人の兵士がおり、そのうち3分の1が既に戦闘を経験済みだという。そのほとんどはイラクやシリアの出身だが、少なくとも3万人は80か国から集まった外国人だという。うち7000人が、女性2500人を含む欧州出身者である。

トルコ・シリア国境の監視が緩かった昨年までは、数百人の若い新参兵がISISに加わるために毎日国境越えをしていた。ほとんどが15~20歳で、女性の場合でも、最低年齢はそれを少し上回る程度だった。男たちには月給500~650ドルが支払われている。婚姻局が結婚を促進し、相談部局が結婚生活の諸問題を取り扱っている。

ISISへの入隊勧誘がほぼオンライン上で行われていることは驚くにあたらない。ISISは最新のソーシャルメディアと非常に能力の高いIT専門家を使い、キック(Kik)やワッツアップ(WhatsApp)、スカイプといった非常に探知しにくいツールを通じて複数言語でそのメッセージを発信している。(「ムスリムブック」と呼んでいる)自らのフェイスブックやスマートフォンのアプリ、イラク駐留の米兵が標的となったビデオゲームなども使っている。

「デジタル国家」

アラブの著名な評論家アブデル・バリ・アトワン氏は、デジタル技術が占めるこうした中心的な役割に関して、ISISは「デジタル国家」だと述べている。インターネットなしでは兵士を雇うことも、領土征服も成しえなかっただろう。

ほとんどの兵士は、例えば、「聖戦(ジハード)のない人生なんか考えられない」といったタイトルの勧誘映像を通じて、引き寄せられてくる。この映像は、さまざまな出自を持つ3人の過激派戦士(ジハーディスト)を登場させ、戦闘の状況について語らせたり、ISISでの生活がいかに快適なものかを語らせたりしている。あるジハーディストは「ジハードに参加する光栄ほど、鬱屈した状況への薬はない」と語っている。ISISは単に戦士を集めているだけではなく、様々なスキルを持った人々を歓迎する。「それぞれに役割はある」―映像はそう呼びかける。

ここで投影されるメッセージには2種類のものがある。つまり、①(「ジハーディ・クール」と呼ばれる)若者たちの俗語を使いながら、集団の「兄弟愛」に焦点を当て、ISISが青年たちが「属する」に値する場所であることを訴えるものと、②人質や敵集団との戦闘や殺害に焦点を当て、ジハーディストの最高の貢献として「殉教」を称賛するものである。

女性に向けられたメッセージも同様に二分法を反映している。一つは、料理のレシピや、特定の食料の慢性的な不足、季節替わりの際の温かい衣服の必要といったことに触れるものであり、もう一つは、彼女らの夫の殉教や敵兵の殺害を称賛するものである。敵兵の東部がペットの子猫と並べて表示されてすらいるのだ!

数多くの新兵参入、その多様な背景を考えると、ISISに加わる動機は幅広いものだと言ってよいだろう。中核的な小集団にとっては、主な誘因は宗教的なものを動機としている。彼らは、自分たちはイスラム教のためのジハードに従事していると信じており、「カリフの領土」の創設に歓喜している。ユダヤ人が数百年にわたって聖地を望んできたように、自分たちもカリフの領土を望んできたのだという。あまりに長きにわたって敗北と絶望の日々が続いたのち、自分たちは新たなイスラムの領域を建設するパイオニアとなったのだと自負している。

この集団のまた別の人々は、スンニ派の教義を熱心に標榜するISISのアプローチに好意的に反応している。つまり、多くのスンニ派イスラム教徒の間では、反シーア派感情が根強く、シーア派はイスラム教徒ではなく、(シーア派の大国)イランの指導の下に全てのイスラム国家が乗っ取られようとしていると考えている。

こうした感情は、数百万のフォロワーを持つソーシャルメディア上で聖職者が書く過激な言葉に強く煽られている。

しかし、ISISに加わる若者らの間で、宗教的な熱意が動機となっている者はほとんど見られない。フランスで活動する米国人学者スコット・アトワン氏は、「(ISISに加わるため)シリアに向けて出国する一部の青年らは、ダミーとして(!)コーランを持参しているのです。」と指摘した。つまり、ほとんどのこうした若いISIS新兵にとっての誘因は、(カリフが支配するイスラム国を建設するという)世界的に重要な計画に自身が参加するという冒険心と同志愛である。アトワン氏は、ISISの中核的なグループの多くが、宗教や地政学には無関心な「社会の主流から取り残された、はみ出し者たち」であると見ている。彼らは今や、「世界を変革し救う極めて魅力的な任務」に就いており、「栄えある大義のために同志に加わる喜び」を感じているのだという。

Graffiti in Cairo showing police brutality. Credit: Cam McGrath/IPS
Graffiti in Cairo showing police brutality. Credit: Cam McGrath/IPS

イスラム教とジハードの研究を専門とするフランスの学者オリビエ・ロイ氏も、アラブの若者がISISに惹かれることに宗教的動機はないというアトワン氏の見解に賛同している。ロイ氏は、「こうした青年らにとって、ISISへの参加は、自分たちを親の世代から分け隔てている深いジェネレーション・ギャップ(世代的隔たり)の表れであり、ごく短期間に急激な社会変化を経験したため、イスラム社会ではこのギャップ(隔たり)はより大きなものになっている。」と指摘した。

欧州では、アラブ系の若者が、社会の最底辺にいる自分たちの生活や、文化的な根無し草の状況、嘲りとイスラム憎悪の対象となってきた経験から、親の世代を非難している。彼らが反社会的な暴力行動に走る傾向は、19世紀フランスの無政府主義者や、近年ではドイツ赤軍派のものに近いものを認めることができる。

ISIS幹部の大部分を構成する中東出身のアラブ人にとって、各々の社会に対して募らせてきた疎外感は、不透明で説明責任が全く果たされず、政治的な意思決定プロセスに彼らが参加する門戸が完全に閉ざされたままの政治体制に起因するものだった。

こうした若者たちは、この5年間、「アラブの春」によって生まれた希望が潰され、こうした政治秩序を維持するために暴力が振るわれるのを目の当たりにしてきた。

ISISに参画する多くのアラブ人青年らにとってのISISの魅力は、自らの歴史と伝統に基盤を置く大義の下に参加したいという彼らの希望を満たしながらも、地域全体でこうしたアラブの独裁者らに闘いを挑んでいる点にある。従ってこれは、自分たちが英雄的な中核の役割を果たし、歴史的重要性をもつ企図に関与しているという、アラブの若者たちの感覚に訴えるのである。

従ってISISは、絶望した人たちが駆け込む聖域となってしまっている。ISISが青年らを惹きつけている危険な魅力を弱めることができるとすれば、それは、民衆に自由と尊厳を与えるような政治秩序の改革が中東において実現した時のことだろう。(原文へ

※タルミズ・アフマドはインドの元外交官。インドの駐サウジアラビア大使(2000~03、10~11)、駐オマーン大使(2003~04)、駐アラブ首長国連邦大使(2007~10)。外務省退職後は、ドバイでのエネルギー企業に勤める。

翻訳=IPS Japan

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巨大慈善団体は開発問題にどう影響を与えているか

【国連IDN=ロドニー・レイノルズ】

世界の開発政策は「巨大企業」だけではなく「巨大慈善団体」によっても影響を受けるようになってきている、と最近発表された報告書が警告した。

「とりわけ重要な領域として、貧困撲滅、持続可能な開発、気候変動、人権擁護などの国際的な政策論議において、慈善団体が影響力をもつアクターになってきている。」

「過去および現在の言説および意思決定プロセスにおけるこうした団体の影響力の程度は、他の民間アクターの影響力と全く同等か、場合によってはそれを上回ることもある。」

グローバル政策フォーラム」(GPF、ベルリン)が出版した報告書『慈善団体の力と開発:誰が課題設定をするのか』は、イェンス・マルテンス氏とカロリン・ザイツ氏が共同執筆したものである。

同報告書によると、世界的な巨大財団、とりわけロックフェラー財団ビル&メリンダ・ゲーツ財団などが、その資金助成の規模、人脈、積極的な政策提言を通じて、国際機関や諸政府の課題決定や支出の優先順位の決定において、大きな役割を果たすようになってきている、という。

「これまでは、慈善団体は世界の開発において積極的な役割を果たしているという比較的好意的な見方が、諸政府や国際機関の間であった。」

報告書の共著者でGPF事務局長のマルテンス氏は、「慈善財団、とりわけゲーツ財団やロックフェラー財団、国連財団は、単に主要な資金提供者であるだけではなく、複数の利害関係者によるグローバルなパートナーシップを背後から動かしています。」とIDNの取材に対して語った。

「『子どものワクチンイニシアチブ』『結核撲滅同盟』『ワクチンと予防接種のための世界同盟』『栄養を向上させよう』(SUN)のような、こうしたパートナーシップの多くは、これらの財団によって始められたものです。」と、マルテンス氏は指摘した。

しかし、とりわけ保健部門におけるグローバル・パートナーシップと大規模財団の急成長は、個別に分断され、しばしば調整を欠いた解決策をもたらしている。

Jens Martens/ GPF

「こうした傾向は、国連やその専門諸機関の組織的な弱体化に結びついているだけではなく、各国レベルでの統合された開発戦略の履行にもマイナスとなってきました。」とマルテンス氏は指摘した。

「私たちはこの報告で、各国政府や国際機関の間に企業的慈善団体の積極的な役割に対するしばしば無条件の信頼があることを批判しました。」

7月に発表された「第3回開発資金国際会議」の成果文書、通称「アディスアベバ行動目標」では、諸政府が慈善団体の急速な成長を歓迎した。しかし同時に、透明性と説明責任の向上も求め、地元の事情に適切な考慮を払い、各国の政策や優先事項との連携を図るよう、慈善団体のドナーに対して訴えている。

「諸政府と国連は、主な慈善財団、とりわけビル&メリンダ・ゲーツ財団の拡大する影響力を緊急に評価し、そうした団体の活動の意図的および非意図的なリスクと副次的影響を分析してみる必要があります。」とマルテンスは訴えた。

12月9日付の『ニューヨーク・タイムズ』記事「億万長者の政治家」によれば、12日に終了した気候変動パリ会議に到着したゲーツ氏は、「政府はクリーン技術に対する研究開発費を増やすべきだ。」というメッセージを残したという。

ゲーツ氏は、新たな種類の電池と原子炉に関する研究を開始するために、自身の財産から約10億ドルを投資してきた。

『ニューヨーク・タイムズ』によれば、ゲーツ氏は「率直に言えば、気候変動に関する交渉でこれまで研究開発がいかなる方法や形式においても議題にあがってこなかったことに少し驚いている。」と語ったという。

GPFの調査報告書は、2013年6月に国連信託統治理事会で開催された「注目すべきイベント」について詳しく記している。このイベントは、招待客150人以上が集った第2回「フォーブズ400慈善サミット」である。

国連の潘基文事務総長が開会のあいさつを行い、ビル・ゲーツ氏やボノ氏、ウォーレン・バフェット氏といった著名な慈善活動家が参加し、クレジットスイスがスポンサーとなった。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

雑誌『フォーブズ』によると、「世界の富のうち0.5兆ドル近くを合計で保有する」参加者らは、「自分たちの富や名声、起業の能力を使っていかにして貧困を根絶できるか」を討論したという。

このサミットを受けて同誌は、「起業家は世界を救う」というタイトルで慈善問題特集号を発行している。

GPFの調査報告書は、国連本部でのこのイベントは、世界の開発政策・実践において慈善活動家とその財団の影響力が急速に拡大していることの象徴だとしている。

貧困から気候変動に至る世界の問題を解決するために彼らのビジネス上のノウハウと資源を利用する能力は賞賛され、自らの予算や責任に対する負担を軽減したい各国政府によって利用される形になっている。

こうした傾向は、世界の保健・疾病対策や栄養・食料・農業分野において特に顕著だ。

この両方の分野において、ロックフェラー財団とビル&メリンダ・ゲーツ財団の2つがとりわけ活発に活動しており、この調査では特に焦点が当てられている。

全体状況

調査報告書は「世界の財団の状況全体の中でこれらの財団はどう位置づけられるだろうか?」と問うている。

財団は、種類、目的、資金調達の方法、主要テーマ、地理的範囲、優先事項、アプローチ、政治的方向性において異なっている。

世界レベルで活動するもの、地域レベルで活動するもの、全国あるいは地方レベルで活動するものなど、さまざまである。

世界的な焦点を持った財団の中では、気候変動の科学からグローバル・ガバナンス、貧困・飢餓の削減に至るまで、広い範囲の領域をカバーしている。

これらの活動は、資金提供から、自身の運営・政策提言活動、新たな形態のベンチャー慈善活動まで、幅広い。

「しかし、これらが共有しているのは、今日の世界が直面している大きなグローバルな課題は、政府だけで解決することはできず、これらの財団の創設者らの多くがビジネスの世界で開拓してきたのと同じような、市場を基盤にした技術的アプローチによって最もよく解決しうるという固い信念である。」

こうしたアプローチは、とりわけ世界レベルで活動する巨大慈善団体の活動を、その初期の頃から特徴づけている、と報告書では述べている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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開発財源として未開拓な軍事支出

【国連INPS=タリフ・ディーン】

持続可能な開発目標(SDGs)が昨年9月に世界の指導者らによって採択され、国連はこの財源として必要な数兆ドルを血眼になって探している。ところが、いまだに開拓されていない豊かな財源があるのだ。それは、世界の軍事支出である。

SDGサミットで演説したカザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、すべての国連加盟国に対して、軍事支出の1%をSDGsの財源として活用するよう求めた数少ない―おそらくは唯一の―国家元首であった。

Address by His Excellency Nursultan Nazarbayev, President of the Republic of Kazakhstan
Address by His Excellency Nursultan Nazarbayev, President of the Republic of Kazakhstan

しかし、この呼びかけに対しては、ほとんど、いや全くと言っていいほど反応はなかった。欧州や中東でのテロ攻撃の増加によって各国が軍事支出を減らすどころか増やすことが予想される現況にあっては、特にそうだ。

国連の推計では、世界での貧困や飢餓の根絶など、SDGsを実行しようとすれば、年間3.5~5兆ドル(約432~676兆円)の巨額の資金が必要となる。他方で、昨年の世界の軍事支出は1.8兆ドル(約243兆円)以上ある。

国連の「持続可能な開発解決ネットワーク」(SDSN)は、貧困を根絶しようとするだけでも年間1.4兆ドル(約189兆円)かかるとしている。世界の環境保護、健康の改善、質の高い教育ジェンダー平等持続可能なエネルギーなど、他の目標はここには含まれていない。

国際平和ビューロー(IPB、本部ジュネーブ)のコリン・アーチャー事務局長は、「世界の軍事予算を使うオプションがまたもや検討すらされなかったことは残念です。」とIPSの取材に対して語った。

アーチャー氏はまた、「『戦争なき世界』というビジョンのために邁進する300以上の加盟組織を抱えるグローバルなネットワークであるIPBは、10年以上もこの問題を取り上げてきています。」と指摘したうえで、「こうした観点は、来年ベルリンで開催される大きな国際会議で展開されることになります。」と語った。

IPBは、加盟国が軍事予算を毎年10%減らし、それを2030年までのSDGsの期間に社会・環境面の支出に振り向けるよう求めるキャンペーンを行っている。

「この設定は、穏健派やリアリストを参加させるための十分に練られた穏健な数字になっています。」とアーチャー氏は語った。

この提案の現実性についてアーチャー氏は、「これまでに、数多くの国連決議(1987年の国連軍縮開発特別総会)、多くの優れた演説(ドワイト・アイゼンハワー大統領など)、多くのリップサービス、いくつかの優れた分析(ルース・シバードストックホルム国際平和研究所シーモア・ヘルマンなど)がありましたが、実行には移されませんでした。」と語った。

東西冷戦期には、核危機の緊急性に圧倒されて、支出問題は語られなかった。もっとも、その核危機自体は、部分的には軍事支出によってもたらされたものではあるが。

ICAN
ICAN

この問題には長い歴史があるが(19世紀半ばにまでさかのぼることもできるが、実際上は第一次大戦後)、「軍事支出に関するグローバルキャンペーン」(GCOMS)が、世界規模で組織された最初のものであろう。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2014年の世界の軍事支出国トップ6は、米国(6100億ドル)、中国(2160億ドル)、ロシア(845億ドル)、サウジアラビア(808億ドル)、フランス(623億ドル)、英国(605億ドル)である。

Dwight Eisenhower/ Wikimedia Commons
Dwight Eisenhower/ Wikimedia Commons

先週、英国政府は軍事予算の拡大を発表して、これまでの削減方針を反転させた。デイビッド・キャメロン首相は、今後10年間で軍事予算を180億ドル増加させることを明らかにした。

アイゼンハワー大統領は1953年4月、米国新聞編集者協会での有名な演説で、「製造される銃の一丁、就役する戦艦の一隻、発射されるロケットの一発が、究極的には、飢餓に苦しみ食べ物を与えられない人々や、寒さに苦しみ服を与えられない人々からの盗みとったものを意味するのだ。」と指摘したうえで、「武装する世界は、単にカネを消費しているだけではなく、労働者の汗を浪費し、すべての科学者の知性を浪費し、子どもたちの希望を浪費しているのです。」「これは、いかなる真の意味においても、正しい生き方とは言えない。戦争の暗雲が立ち込めるなか、人類は鉄の十字架に磔になったも同然です。」と警告した。

軍事支出の一部だけでも、どうすれば開発の資金源に振り向けることができるか、という問いに対してアーチャー氏は、「これは複雑な問題です。私は、議員やマスメディアにプレッシャーをかける強力な市民社会の運動が必要だと考えています。こうした運動こそIPBが苦労して育んでこようとしてきたものです。また、ほとんどの国において、現在よりも左寄りの政府へ政権交代することが恐らくは必要となるでしょう。」と語った。

さらにアーチャー氏は、「巨大な既得権益があり、すべての外部からの脅威に対して軍事的に防衛することをよしとする傾向のある、強力で(しかも成長しつつある)国家主義的な文化が存在します。」と指摘した。

しかしイラクやアフガニスタン、リビアなど(西側諸国が近年軍事介入に踏み切った)数多くの破壊的な冒険がもたらし結果を目の当たりにして、(西側諸国の)世論は少なくとも懐疑的になっている。

IPBは、「世界は巨額の資源を防衛部門につぎ込み、食料や保健、教育、雇用、環境といった基本的ニーズに対する支出をかなり抑えてきた。」と指摘した。

“T-90 tanks during the Victory parade 2012” by Kremlin.ru. Licensed under CC BY 4.0 via Commons

ほとんどの国において、防衛予算と、社会・開発関連予算との間の不均衡は、驚くべきものだ。

しかし、世界を経済危機が襲い、世界の世論が過剰な軍事支出に反対しているにも関わらず、支出の優先順位において諸政府が大胆な転換を図ろうとする兆しは、ほとんど見られない。

この提案を推進するために誰がリードすべきかという問いに対してアーチャー氏は、「国連の潘基文事務総長は『世界は過剰に武装されているが、平和への資金は足りない』と発言しています。しかし、潘事務総長はあまりにも多くの難題を抱えているうえに、これらの軍事大国に立ち向かうにはあまりにも弱い存在です。」と語った。

アーチャー氏によれば、国連軍縮局(UNODA)も潘氏の意見に肯定的であるという。しかし、UNODAも軍縮交渉の流動的な状態に飲み込まれている。

国連総会は毎年この件で決議を採択しているが、実効的な措置がとられていない。「従って、実質的には、市民社会こそが立ち向かっていかなければなりません。」とアーチャー氏は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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「世界と議会」2015年秋冬号(第572号)

特集:日本の議会政治の未来


■尾崎財団会長就任記念講演
「議会政治の未来‐尾崎行雄と歴史に学ぶ」/大島理森

■咢堂塾講義録
「政治と人間学‐論語に学ぶ」/長峯 基

■NPO法人咢堂香風
第20回咢堂読書感想文コンクール

■連載『尾崎行雄伝』
第三章 文筆生活

■第十三回「尾崎行雄(咢堂)杯演説大会」ご報告

■IPSJ
国連の報告書、テロ対策での女性の役割に注目

■咢堂塾ブックオブザイヤー2015

■財団だより-尾崎咢堂記念館・特別展記念講演会

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

青年・平和・安全に関する初めての国連安保理決議

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

国連安全保障理事会が青年・平和・安全に関する決議を採択した。平和構築と暴力的過激主義に対抗するうえで青年男女が果たす役割に終始焦点をあてた史上初の安保理決議である。

ヨルダンが提出した同決議は、平和促進と過激主義の撲滅に若い平和構築者たちを関与させる緊急の必要性について、これまでになく認識が高まっていることを表している。12月9日に採択された同決議は、青年と青年中心の組織を、暴力的過激主義を退散させ永続的な平和を促進する世界的な取り組みにおける重要なパートナーとみなしている。

The new Choucha transit camp near the Tunisian town Ras Adjir, on the border with Libya.

同決議は、約6億人の青年が、脆弱かつ紛争に影響された環境に暮らし、とりわけ若い男女の間で高まる急進主義と暴力的過激主義の傾向を食い止めるという難題に直面している現状において採択されたものだ。

決議は、あらゆるレベルにおける意思決定への青年の包摂的な代表を確保し、青年と協力して紛争の予防と解決のためのメカニズム作りを提案する方法を検討するよう、あらゆる加盟国に求めている。

決議はまた、和平交渉や平和構築の取り組みに青年を巻き込むよう求めることで、正式な和平プロセスに青年を参加させる機会が限定的にしかない状況に対応している。

決議は、青年の間の急進主義と暴力的過激主義の拡大につながるような条件や要因に対処することの重要性を強調した。また、暴力的過激主義を予防しそれに対抗するうえで、若い男女が良い手本として果たすことのできる重要な役割についても留意している。

Hisham Allam/IPS

決議2250号の採択について、国連事務総長の青少年問題特使であるアフマド・アルヘンダウィ氏は「これは、青年に対する圧倒的に否定的な見方を変え、平和構築における青年の重要な役割を認識させようとする私たちの集団的な取り組みにとって大きな前進になります。」と指摘したうえで、「青年はあまりにも長きにわたって、暴力行為の加害者か或いは被害者として見られてきました。国連安保理はこの決議で、暴力的過激主義に対抗し世界各地における平和構築の取り組みを支持するうえで青年がなす重要な貢献について認めたのです。」と語った。

国連開発計画(UNDP)のヘレン・クラーク総裁は「この決議は、平和や安全に関するものなど、今日の世界的な課題に国際社会が適応していく際に青年が果たす重要な役割を認めたものです。」「青年らに好意的な環境や機会があれば、彼らが新たなエネルギーや革新、楽観主義をもたらしてくれるでしょう。」と語った。

Helen Clark/ UNDP
Helen Clark/ UNDP

国連人口基金(UNFPA)のババトゥンデ・オショティメイン事務局長は「この決議は、青年らが自らの潜在能力を十分に発揮し平和と安全を実現する努力を支援する投資を進めることが重要であることを認めたものです。」と語った。

オショティメイン事務局長は、この「歴史的」な安保理決議の文言を具体的な行動に移行していくよう呼び掛けた。「UNFPAは、この目的を達成するために引き続き、青年や加盟国、その他のパートナーと協力していくことを約束します。」と、オショティメイン事務局長は語った。

オスカル・フェルナンデス=タランコ事務次長(平和構築支援)は、「国連安保理は、決議2250号の採択で新たな歴史を刻みました。持続可能な平和を構築し国際の安全を守るうえで青年には肯定的で建設的な役割があるという認識は、国際社会が暴力を撲滅し、包摂的で平和な社会を作り上げようとする方法に転換をもたらすことになるだろう。」と指摘したうえで、「青年男女は常に平和を構築し社会を和解させようと弛みなく努力を続けてきており、この決議によって、彼らの活動に対して本来あるべき承認が与えられることになります。」と語った。

青年や青年の平和構築団体、市民社会団体は、長年にわたって、持続可能な平和を構築し過激主義を予防するためにグローバルな政策枠組みを確立して青年を巻き込むよう、国連に呼びかけてきた。

この呼びかけは、最近では、1万人以上の青年の平和構築者が参加して8月に初開催された「若者、平和、安全に関するグローバルフォーラム」で採択された「アンマン青年宣言」に結実している。同宣言は、青年を中心とした取り組みやプログラムに対する組織的な支援を行う必要性を訴えている。

青年を中心とした取り組みの重要性は、広島・長崎を灰燼に帰した原爆投下から70年を記念して広島で3日間に亘って開催された「核兵器廃絶のための世界青年サミット」でも強調されている。

8月のこのサミットの参加者は、「あなたも、私たち『変革の世代』と共に声をあげ、行動を呼びかけよう。私たちは、核兵器が私たちの生命を、未来の世代を脅かし続けているのに、何もせずにいることを拒否する。さあ、私たちと一緒に行動して、変革を起こそう!」とする誓いを発表した。

「変革の世代」として、彼らは次のことを誓った。

International Youth Summit on Nuclear Abolition in Hiroshima/ International Press Syndicate
International Youth Summit on Nuclear Abolition in Hiroshima/ International Press Syndicate

・仲間の意識を広く啓発するために、自らが知識を学び、自信をつける。

・活動する上で多様性が重要であることを自覚し、ジェンダーの視点が軍縮に影響を与えることを自ら学んでゆく。

・各自の地域社会や国で行動を起こし、声をあげ、核廃絶を求める。

・核兵器の非人道性や、被爆者・核実験被害者の体験を周囲と共有する。

・核廃絶運動への参加を周囲に促し、活動する全員の一致団結を築く。

・すべての国家に、核兵器を禁止・廃絶する国際条約の交渉開始を呼びかける。

・各自の国の議会に、核兵器の製造・投資・実験・配備・威嚇・使用を禁止および違法化する国内法制の整備を呼びかける。

この誓いは250人が参加した公開フォーラムで発表された。サミットの共同議長であるリック・ウェイマン氏(核時代平和財団)とアナ・イケダ氏(創価学会インタナショナル)が、アフマド・アルヘンダウィ氏に「青年の誓い」を手渡した。

アルヘンダウィ氏は「平和を可能にする世代になろう。この青年サミットは、青年は、平和や、核兵器なき世界を求めているという強力なメッセージを世界に送っており、世界はこれに耳を傾けるべきだ。」と語った。

決議2250の採択について、リベリアで平和構築に取り組んでいる青年中心のNGOの代表であるグウェンドリン・S・マイヤーズ氏は、「青年・平和・安全に関する国連安保理決議は、平和や安全の問題に対する青年らの意義ある関与を正当化し、とりわけリベリアやアフリカ、世界のその他の場所における平和を定着させる取り組みを加速することになるでしょう。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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再生可能エネルギーは「新興アジア諸国」で成長を持続させる

【クアラルンプールIDN=クリシャン・ダット】

アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議(11月18日~19日)で21加盟国の首脳らがマニラ宣言の中で強調していた点―複数の経済的・環境的優先事項を組み合わせた持続可能な開発の必要性―が、新たに発表された報告書においても繰り返し指摘されている。同報告書は、2015年および今後の5年間で「新興アジア諸国」経済の力強い成長を予想している。

経済協力開発機構(加盟34か国)の開発センター(本部:パリ)が、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)、アジア開発銀行研究所と共同で作成した報告書『東南アジア、中国、インドの経済概況』は、「新興アジア諸国」と命名された東南アジア諸国、中国、インドの将来の発展にとって再生可能エネルギーが「大きな役割を果たしそうだ」としている。

報告書によると、新興アジア諸国の実質成長率は、2015年に6.5%、2016~20年の平均で6.2%になると予想されている。世界経済の平均成長率は、2016年に3.3%、2017年に3.6%と予想されている。

OECD Development Center

報告書は、中国では経済成長の鈍化が続くが、インドではこの地域で最も高いレベルとなる高い成長率を維持するものと予想している。東南アジア諸国連合(ASEAN)の成長率は、2015年に4.6%、2016年から20年の平均年率は5.2%になると見られている。ASEAN5カ国の中ではフィリピンとベトナム及びCLM諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)が、ASEAN地域の成長を牽引すると予想している。概して個人消費が成長全体への最大の寄与要因になると報告書は見ている。

この力強い勢いを維持するために、アジア地域は中国の鈍化する成長の問題に対処する必要がある。報告書は、「中国の状況が、地域全体の成長の見通しや、米国の金融政策正常化の影響、新興アジア諸国の生産性の伸びの鈍化といった課題に影響を与え続けるであろう。」と警告している。

報告書はまた、特別テーマとして、地域統合の強化が、堅調な成長を維持するうえでいかに重要であるかについて、取り上げている。

Rintaro Tamaki Deputy Secretary-General of OECD

11月20日にマレーシアで開催された「ASEANビジネス・投資サミット」でこの報告書を発表した経済協力開発機構(OECD)の玉木林太郎事務次長は、「この地域は、依然として国内および国外のリスクに晒されています。成長を堅調に維持するには、地域統合を強化することが不可欠です。また、地域統合に関するより適切な指標の改善とピア・ラーニング・政策対話を強化することによって、地域の課題により効果的に取組むことが可能になり、ASEAN統合の流れを加速していくことが可能となるでしょう。」と語った。

報告書は、2016年から20年の課題における重要な政策領域として、「グリーン成長」と「持続可能なエネルギー」、「民間部門の成長」を指摘している。

OECD開発センターのマリオ・ペッジーニ所長は、「地域統合においてグリーン成長および民間企業の成長といった点は重要で、地域統合の深化により大きな便宜が得られる領域である。」と指摘した。

報告書は、「新興アジア諸国はこの数十年で顕著な経済成長を達成したが、一方で深刻な環境問題も伴っていた。また、地域統合のさまざまな側面の中で、市場の統合の問題が他の問題を犠牲にする形であまりに大きな注目を集めてきた。」と指摘したうえで、「生態系の限界を上回ることなく、共通のよりよい生活とさらなる平等を達成すべく、現在の開発パターンの方向を変えるには、持続可能性目標のバランスをシフトすることが必要だ。」と述べている。また、「発電分野における地域協力の強化を通じたものなど、再生可能エネルギー源の利用を増やすことが、複数の経済的・環境的優先事項を統合したグリーン成長戦略の中核的な要素にならなければならない。」と指摘している。

報告書は、拡大する需要を満たすために、再生可能エネルギーが有する高いポテンシャルを利用するようアジア諸国に促している。そしてそれは、「関税や非経済障壁が統合を鈍化させ、効率性向上の機会を阻害することを考慮に入れなくてはならない。」と述べている。

"Beijing smog comparison August 2005" by Bobak - Own work. Licensed under CC BY-SA 2.5 via Wikimedia Commons
“Beijing smog comparison August 2005” by Bobak – Own work. Licensed under CC BY-SA 2.5 via Wikimedia Commons

報告書は、「メコン川における水力発電は進展しており、地域全体に対して輸出できる発電能力を備えた将来性のある電源である。」としている。しかし、「環境問題に対処する必要があり、国境を越えた懸念に対応するために共同の解決策を見出す必要がある。」と指摘している。

報告書の著者らは、膨大な再生可能エネルギー源を、責任をもって利用することにより、アジアは経済成長の加速を経験することが可能だと述べている。

同時に報告書は、カンボジアやラオス、ミャンマー、インドネシア、フィリピンのような一部のASEAN諸国では、電力供給の少なさが発展上の大きな壁になっているという事実を強調している。アジア地域のほとんどの国において、電気を利用できる人口の間ですら、単位人口当たりの消費はOECD加盟国の平均を大きく下回っている。

報告書は、ASEAN全体で、2009年から30年の間に電力需要は毎時2300テラワット増加すると予測している。毎時1テラワットは、年間を通じて約114メガワットを持続的に供給することに相当する。環境への破壊的な影響を引きおこさずにこうした巨大な電力需要を満たすには、発電のための再生可能エネルギーの大規模な利用が必要になるだろうと報告書は論じている。

ASEAN5カ国にシンガポールを加えた諸国の再生可能エネルギーの発電能力のポテンシャルは、2009年当時のASEAN地域の全電力需要を1.8倍上回ると推定されていると報告書は続ける。この膨大な再生可能エネルギーのポテンシャルは未開発のままである。

水力と地熱は比較的よく開発されているが、風力や太陽光、バイオマスなどその他のエネルギー源はほぼ手つかずのままだと報告書は述べている。

地域の障壁が、再生可能エネルギー源の開発を進める上で重要な阻害要因になっている。再生可能技術の取引における自由化や、イノベーション・技術移転の地域協力など、地域の経済統合を進めることが解決策となる。これらは、アジア地域で再生可能エネルギーを促進するうえで重要な役割を果たすことができる、と報告書は述べている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ベルリンIDN=ユッタ・ヴォルフ】

ある男が通学途中の9歳の少女に性的暴行を加えHIVに感染させた。ジンバブエ警察は当初犯人を逮捕したが、間もなく密かに釈放した。その理由は―その男が賄賂を支払ったから―である。

この事件は決して例外的なものではない。「トランスペアレンシー・インターナショナル」は報告書『民衆と汚職:2015年アフリカ調査』の中で、「警察と民間部門が最も汚職にまみれているケースがしばしばある」と指摘している。「こうした話は毎日のように耳にする。多くの国で、どんなに恐るべき悲惨な犯罪であっても、警官を買収して、なかったことにできる。それは単に金額の問題である。」と述べている。

実際、汚職によってアフリカ人の5人に1人が影響を受けていると報告書は述べている。「驚くべきことに、昨年、7500万人近くが賄賂を払った。中には警察や裁判所による罰則を逃れるためのものもいたが、多くの人々は、本当に必要としている基本的サービスを利用するために賄賂の支払いを余儀なくされていた。」

Transparecy International
Transparecy International

「トランスペアレンシー・インターナショナル」は、この最新のアフリカ版の「グローバル汚職バロメーター」の調査のために、「アフロバロメーター」と協力して2014年3月から15年9月にかけて、サブサハラ地域28か国に在住の4万3143人を対象に聞き取り調査を実施した。彼らは、自国における汚職の実態について自身の経験やそれに関する認識について質問された。

「大多数のアフリカ人が、汚職は増加傾向にあると認識しており、政府は汚職対策に失敗していると考えている。また、多くが、汚職に対抗して行動するにはあまりに無力だと感じている。シエラレオネやナイジェリア、リベリア、ガーナの市民は、自国における汚職の規模について最も悲観的だ。」と報告書は述べている。

この調査結果は同時に、汚職の蔓延に対処するうえで成果を上げていると見られる、この地域の少数の国々にも焦点を当てている。こうした国々では、人々はほとんど賄賂を払わず、市民は汚職撲滅に貢献していると感じている。

報告書によると、ボツワナやレソト、セネガル、ブルキナファソの市民は、同地域の他の国の市民と比べて、最も肯定的な見方をしている。

報告書の主要な知見は、汚職撲滅に関して高い成果を挙げている一部の国がある一方で、汚職撲滅にほとんど成果を上げていない多くの国があり、その格差が広がっているということだ。

「トランスペアレンシー・インターナショナル」はこの知見の中に、汚職に対処することは可能だという希望のメッセージと、ほとんどのアフリカ諸国が汚職の波に対抗することに失敗しているという残念なメッセージの両方を読み取っている。

報告書はその主な知見を以下のようにまとめている。

1.回答者の過半数(58%)が、汚職がこの1年で増加傾向にあると回答している。これは、5人に4人以上(83%)が、汚職が増えていると答えた南アフリカの場合、特にあてはまる。

2.政府の汚職撲滅の取組みに関して市民の過半数が肯定的な見方を示した国はなかった。他方で、28か国のうち18か国の政府が、大多数の回答者によって、汚職撲滅に失敗していると見られている。

3.調査は、社会の10の主要な機関と集団においてどの程度の汚職があるかを尋ねている。地域全体をみると、警察と企業幹部が最も高いレベルの汚職を示している。警察は一貫して高い汚職度だと見られているが、過去の「トランスペアレンシー・インターナショナル」による「グローバル汚職バロメーター」(GCB)調査と比較してみると、企業幹部に対する強い否定的(=汚職度が高いという)見方があったことは、新しい現象である。

4.サブサハラ地域で過去12か月の間に公共サービスと関わりを持った人の42%が賄賂を払っていた。とりわけ10人に7人近くが賄賂を払っていたリベリアで状況は最悪だった。アフリカ大陸全体では、貧しい人々は裕福な人々の2倍の割合で賄賂を支払っており、都市部の方が農村部より賄賂が横行しやすい傾向にある。

5.6つの主要な公共サービスの中で、警察および裁判所と接触を持った人々が最も賄賂を支払っていた。これは過去の「トランスペアレンシー・インターナショナル」の調査結果と一致し、市民の安全や「法の支配」のために必要不可欠なこれら2つの機関において汚職対策が進展していないことを物語っている。

6.この地域の人々は、普通の人々が汚職対策に寄与できるかどうかに関して、意見が割れている。回答者の半分以上(53%)が「可能」だと答え、38%が「不可能」と答えている。問題が発生したときに通報したり、賄賂を要求された時に断ることが、人々ができる最も効果的な対処法である。しかし、賄賂を支払った人のうちわずか1割しか、通報していない。

7.にもかかわらず、汚職をなくしていくことは可能だ。自国の公的機関における汚職のレベルは低いと市民が感じ、汚職が減りつつあるとみられている国が一部にはある。ボツワナやレソト、セネガル、ブルキナファソの市民の見方は、特に好意的なものだ。

汚職は発展と経済成長にとっての大きな阻害要因になりえ、政府と公的機関の応答責任に対する民衆の信頼感を弱めるものだ。報告書は、それぞれの国に存在する汚職に力を合わせた措置で対抗する取り組みを進めるよう諸政府に求めている。

たとえば、腐敗した企業人に関する立法の強化・執行や、アフリカ大陸からの大量の違法な資金流出を抑えるマネーロンダリング防止策を講じることなどがある。これによって、利益を生むこうした行為を白日の下にさらすことができれば、企業に対する否定的な認識の問題に対処できるかもしれない。

諸政府は、公的機関を、より透明で、応答的で、汚職のないものにしていく上での市民社会の役割を促進するため、市民の知る権利や内部告発者保護を法制化するよう求められている。

「トランスペアレンシー・インターナショナル」は、罰則規定と短期的・中期的な構造変化とを統合した改革を促進することで、すべてのレベルにおける警察汚職の問題に取り組む継続的かつ深いコミットメントを示すよう、諸政府に求めている。ささいな汚職をつぶしていくことは、社会で最も脆弱な人びとが置かれている状況を即座に改善することにつながる。

『2015年アフリカ調査』はまた、アフリカ連合やその加盟国は、その汚職撲滅条約で創設された再検討メカニズムを履行するために必要な政治的意思を示し財政措置を講じるべきだと強調している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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