ホーム ブログ ページ 229

国連人権トップ「テロとの闘いは、拷問・スパイ活動・死刑を正当化しない」

0

【国連IPS=タリフ・ディーン】

拷問、違法な拘禁、戦時捕虜への非人道的な処遇、強制的失踪の禁止などを禁じた様々な人権条約の法的な管理者である国連が、紛争地帯におけるテロとの闘いを根拠に、ますます多くの国が国連の諸条約違反を正当化するようになってきていることを問題視している。

ヨルダン出身のザイド・ラアド・ザイド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は、暗に大国のあり方を批判して、「戦争がそれを許すから拷問するのだ。不快なことだがテロ対策に必要だから自国民に対するスパイ行為を行うのだ…。こうした論理が今日の世界には溢れかえっています。」と単刀直入に語った。

「地域社会のアイデンティティや自分の生活様式がこれまでになく脅かされているから、新たな移民は望まないし、マイノリティを差別するのだ。他人が私を殺そうとするから、他人を殺すのだ…。こういう論理が長々と続いていきます。」

ワシントンDCにある「ホロコースト記念博物館」で2月5日に講演したフセイン氏は、全ての人々にとっての人権と基本的自由への関心に導かれた「深く人々を鼓舞するようなリーダーシップ」を世界は必要としていると語った。

「私たちは、全ての差別、多くの人々からの剥奪、戦争における残虐行為と行き過ぎを禁じるために策定された全ての法と条約を、一切の口実を設けることなく完全順守するような指導者を必要としています。そうして初めて、私たちは、迫りくる重大で一見したところ出口が見えない現在の危機から抜け出すことができるでしょう。」

昨年、米中央情報局(CIA)は、水責めや睡眠の剥奪、身体的苦痛等を伴う「強化尋問技術」をテロ容疑者に対して用いていたとして非難された。

アフガニスタンやイラク、シリア、リビア国内で空爆を実施してきた西側諸国は、数多くの民間人の殺害を「コラテラルダメージ(=予期せぬ巻き添え被害)」だとして正当化し、批判をかわしてきた。しかしこれらの国々は、国連総会や安全保障理事会の場では、人権や民間人の生命がいかに神聖なものであるかについて説き続けているのである。

他方で、ヨルダンやパキスタン、サウジアラビアのように、テロとの闘いの一環として、テロリストを死刑に処したり、ブロガーや反体制活動家らを公開むち打ち刑に処したりすることを正当化している国々もある。

イスラム過激派組織『イラク・レバントのイスラム国(ISIL)』は、同勢力に対する空爆連合にヨルダンが加担しているとしてヨルダン空軍のパイロットを残虐な方法で殺害して、国際的な非難に晒された。

ヨルダン政府は、パイロット殺害への報復として、アルカイダとのつながりがあるとされる2人の死刑囚を即刻処刑した。

あるヨルダン人は、(この政府の措置について)「目には目をだ」と発言したとされる。

昨年12月、国連の193加盟国のうち117カ国が、死刑のモラトリアムを求める国連総会決議に賛同した。しかし、その後も処刑は続いている。

死刑に反対している国連の潘基文事務総長は、「死刑は21世紀にはあってはならないものだ」と述べている。

Mr. Javier El-Hage, International Legal Director Human Rights Foundation

米国の人権擁護団体「人権財団(The Human Rights Foundation)」の法務顧問であるハビエル・エル=ハージュ氏は、IPSの取材に対して、「私たちは、現在と過去における『世界各地にみられる最悪の紛争や残虐行為の原因』との闘いにおいて、国際社会が恩恵を得られるであろう2つの対抗手段、すなわち「よりよいリーダーシップ」「世界的に教育のありかたを見直すべき」をとする、ザイド・フセイン国連人権高等弁務官の呼びかけを称賛します。」と語った。

特に、リーダーシップの問題に関して、ザイド・フセイン氏は、国際人権諸条約を完全順守し、「全ての人々の基本的自由への関心に突き動かされた」指導者が出てくることへの期待を述べた。

一方、教育の問題についてザイド・フセイン氏は、「『偏見や狂信的愛国主義がどのようなものであるか』『それらがどんな悪弊をもたらすのか』『(そうしたプロパガンダへの)盲従がいかに邪悪な目的のために当局によって利用されるのか』について、あらゆる地域の子どもたちが教育される必要があります。」と語った。

「人権高等弁務官が指摘しているように、人類最悪の残虐行為は、国民の一部あるいは多数を代表する頑迷で狂信的に愛国主義的な権威的指導者によって引き起こされたものです。そうした指導者は、反体制的とみなした独立メディアを弾圧して教育と情報の独占を達成することで、急進主義的な経済政策、国民主義的、人種主義的、あるいは宗教的に過激な政策を、少数派やあらゆる種類の反対者の権利を踏みにじる形で推進したのです。」とエル=ハージュ氏は付け加えた。

Wikimedia Commons

たとえば、国家主義的、民族主義的、あるいは宗教的に過激な政策は、ドイツにおいてはユダヤ人に対してソ連においてはウクライナ人に対してトルコにおいてはクルド人に対して、また、南アフリカのアパルトヘイト体制下においては黒人に対して、そして奴隷制廃止までは西側社会の大部分において黒人に対して、採られたものである。

こうした差別主義的な政策は、今日でも依然として、中国においてはウイグル人チベット人に対して、中東各地においては宗教独裁の下でキリスト教徒や少数派のイスラム教徒に対して実行されている。西側民主主義国に親和的なサウジアラビアヨルダンのような国においてもそうだし、親和的でないイランやシリアのような国においてもそうである。

ザイド・フセイン氏は、「国際人権法は、人類による残虐非道の経験を経て生み出されたものであり、再発を防止する救済手段にほかなりません。」と指摘したうえで、「しかし今日、指導者らは往々にして意図的に国際人権法を侵犯する選択をしています。」と苦言を呈した

ホロコースト後の数年間、特定の条約に関する交渉がなされ、人権を擁護する法的義務へと高められました。世界中の国々がそれを受け入れたが、現在は残念なことに、あまりにも頻繁に法が破られています。」

ザイド・フセイン氏は、子どもに対する攻撃や、(ザイド・フセイン氏と同じヨルダン人)同胞であるパイロットのムアズ・カサースベ氏のISILによる野蛮な焼殺などの残虐行為に対する暴力的な報復は、限定的な効果しか生んでいない、と指摘した。

「単にISILを爆撃したり、資金源を断ったりするだけでは、明らかに効果はあがっていません。なぜなら、これらの過激派テロ集団は依然として拡大し、勢力を増しているからです。必要なのは別の種類の戦線、すなわち、思想を基盤とし、もっぱらムスリム指導者やイスラム教国による新たな戦線を構築することです。」

またザイド・フセイン氏は、他の国々における主要な市民権・政治的な権利に対する波及効果について、「多くの国々において、検討不足の、あるいは実に搾取的な対テロ戦略の重圧のもとで、反対意見が述べられる空間が崩壊しつつあります。こうした中、人権擁護活動家からは大きな圧力に晒されています。彼らは、基本的な人権を平和的に擁護しようとするだけで、逮捕・収監、あるいはそれ以上の弾圧を加えられるリスクに直面しているのです。」と指摘した。

UN General Assembly/ Wikimedia Commons
UN General Assembly/ Wikimedia Commons

HRFのエル=ハージュ氏は、IPSの取材に対して、「20世紀を通じて、旧ソビエト連邦と衛星国の指導者らは、単一政党が支配する国家機構を作り上げました。そして強力なプロパガンダ機能を備えたこうした一党独裁体制の下では、オープンな教育や独立のメディアは存在せず、急進的な経済政策が推し進められ、国民の大多数が苦境に陥ったのです。」と語った。

「これらの権威主義的な一党独裁政権下では、大規模な飢餓のような大惨事を引き起こされました。それらは、ウクライナ飢饉のような、特定の少数民族に対する直接的で物理的な抑圧の結果ではなかったものの、基本的人権を否定し、小農や事業主の移動と資源へのアクセス、財産権、情報の自由、他者と協力しあう自由を国が統制することで、彼らが自立できる能力を制限する経済政策が引き起こしたものだったのです。」

「またこれらの国々では、党が大衆を救うという理念を謳いながら、実際にはその大衆の一員である個人を苦しめ、あまつさえ飢餓に陥らせることさえあったのです。」とエル=ハージュ氏は付け加えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:

世界市民教育を通じた人権の推進

「テロとの戦い」に懐疑的なアジア

2015年以後の開発問題―飢餓に苦しむ者の声に耳は傾けられるだろうか?

マーシャル諸島政府の核不拡散訴訟、米裁判所で門前払い

【国連IPS=ジョシュ・バトラー】

核軍縮交渉の開始を怠ったとしてマーシャル諸島政府が米国政府を訴えていた裁判で、米裁判所が訴えを退ける判断を下した。

マーシャル諸島政府は現在、1968年の核不拡散条約(NPT)で義務づけられている核軍縮交渉を履行していないとして、インド、パキスタン、英国国際司法裁判所(ICJ)で訴えている。

しかし、米国はICJの管轄権を受諾していないため、カリフォルニア州の米連邦地方裁判所で米国政府を訴えることとなったものである。

核時代平和財団のデイビッド・クリーガー会長は、「米国は1946年から58年にかけてマーシャル諸島で67回の核実験を行ったが、これは、広島型原子爆弾1.6発を毎日、12年間にわたって爆発させた威力に相当します。」と語った。

マーシャル諸島の住民らには依然として健康被害が確認されているが、米連邦地裁のジェフリー・ホワイト判事は2月3日、NPTに違反して米国による被害がもたらされたというのは「憶測にすぎない」として、申し立てを棄却した。

David Krieger/ NAPF
David Krieger/ NAPF

ホワイト判事はマーシャル諸島政府には原告適格がないとする一方で、裁判所の判決は「政治的問題の原則」による制約を受けると述べた。すなわち、この問題は法的なものではなく政治的なものであるから、マーシャル諸島政府の訴えを判断できない、というのである。

マーシャル諸島政府による訴訟を支援している核時代平和財団のクリーガー氏は、この連邦地裁の判断について、「愚かな決定だ」と批判した。

「判事は誤った判断をしました。マーシャル諸島政府には原告適格があるとの十分な根拠がありますし、これは政治的な問題とみなされるべきではなかったと思います。」

「マーシャル諸島政府は、ある国に核爆弾が投下されるとどんなことになるか、よく分かっています。彼らは多大な被害を受けたのですから、決して『憶測』などではありません。」

マーシャル諸島政府によって提起された複数の訴訟の基礎には、米国をはじめとした核保有国が、核兵器の拡散を防ぐための交渉を誠実に行ってこなかったという事情がある。しかし、米国が核不拡散のための交渉を行わないことは有害だとの主張は「憶測にすぎない」というのがホワイト判事の判断だった。

Flag of Marshall Islands
Flag of Marshall Islands

クリーガー氏は、「マーシャル諸島政府は第9巡回区控訴裁判所に控訴する予定です。」と指摘したうえで、「今回の判決は、米国の国際協定遵守に関する悪しき先例となりました。」と語った。

さらにクリ―ガ―氏はその理由として次のように語った。「米国はICJの管轄権を受諾しておらず、今回の事案の場合、判事は他国には(米国の裁判所では)原告適格がないという判断を下しました。このことは突き詰めると、米国と条約を結ぼうとする国は、今一度再考した方がいい、ということになります。」

「今後他国の政府も、米国の裁判所による同じような判断に服することになるでしょう。すると、米国が条約に従って行動していないと考える(条約相手)国はどうなるのでしょうか?」

「法的根拠に関する判断を避けることで、米国が本質的に述べていることは、自分たちがしたいことをしたい時にこれからもやるということであり、(米国が)義務を順守するかどうかは世界の他の国々には関係ない、ということになります。」

ICAN
ICAN

クリーガー氏は、本事案が「憶測的な」性格を持っているとの判事の発言は、本質的に、「被害が起きる可能性が証明されるまでの間に核事故や核戦争は起きてしまうということを意味します。」と語った。

「今回の判決が述べているのは、被害が憶測のものでなくなる以前に、何らかの核使用事案が生じるまで国家は待っていなくてはならない、ということです。米国が核軍拡競争を終わらせるための交渉を誠実に行うとの義務を果たしていないと主張することは『憶測に過ぎない』と判事が述べたことは、ばかばかしいことです。」

マーシャル諸島政府は、当初、核不拡散の交渉を怠っているとして、9つの核保有国全て(米国、中国、ロシア、パキスタン、インド、英国、フランス北朝鮮イスラエル)をICJに提訴する意向だった。

International Court of Justice/ Wikimedia Commons
International Court of Justice/ Wikimedia Commons

マーシャル諸島政府は、パキスタン、インド、英国に対するICJ訴訟を継続しているが、「核政策法律家委員会」のジョン・バローズ事務局長は、ICJの強制的管轄権を受諾していない他の国々への訴訟は止まっていると語った。

「マーシャル諸島政府は、他の6か国に対して、管轄権を受け入れ自主的に出廷するよう招請し促しています。これは完全に正規の手続きですが、まだどの国も受け入れていません。」とバローズ氏はIPSの取材に対して語った。

ICJ訴訟における国際チームの一員でもあるバローズ氏は、「中国は出廷しないことを既に明確にしています。」と指摘したうえで、「(それでも)これらの国々は、管轄権の受諾にまだ同意することが可能です。」と語った。

インドとパキスタンに対する予備的な書面がすでに提出され、それに対する反論は今年半ばまでに行われることになっている。また対英国訴訟に関しては、3月に書面が出されることとなっている。

バローズ氏は、今回の米連邦地裁における判断がICJにおける審理に影響を及ぼすかどうかについて懐疑的だ。

「今回の判決は何の影響も及ぼさないと思います。」とバローズ氏は語った。(原文へFBポスト

翻訳=IPS Japan

関連記事:

世界の大国に挑戦する核爆発証言者

核保有国、ウィーンで批判の嵐にさらされる

|オーストラリア|核兵器のない世界を求める核実験の被害者たち

報道の自由度が「大幅に悪化」、とメディア監視団体

【国連IPS=レイラ・レムガレフ】

有力な国際メディア監視団体が、「2014年は世界中で報道の自由が後退する事態が見られた」と警告している。

フランスのパリに本部を構える「国境なき記者団」が2月12日に発表した2015年版『世界報道の自由度ランキング』によると、報道の自由度は世界的に後退傾向にあり、調査対象の180カ国・地域の3分の2が、前年よりランクダウンした。

上位の国は、5年連続1位となったフィンランドを筆頭に、ノルウェー、デンマーク、オランダ、スウェーデンと続き、上位20か国のうち15か国を欧州の国が占めた。一方下位を占めたのは、中国(176位)、シリア(177位)、トルクメニスタン(187位)、北朝鮮(179位)、エリトリア(180位)だった。

「国境なき記者団」のデルフィン・ハルガンド米国代表は、IPSの取材に対して、いくつかの事例について解説した。例えばワースト5位の中国については、「投獄中のジャーナリストが世界最多。さまざまな手段で情報の流通も制限している。」と指摘したほか、アゼルバイジャン(162位)については、「政府は最後の独立系メディアを閉鎖に追い込むなど多元主義の痕跡をほぼ全て排除した。」と解説した。

Delphine Halgand/ Reporters without boarders
Delphine Halgand/ Reporters without boarders

「国境なき記者団」は2002年から各国の報道の自由度を評価したインデックスを毎年発表している。このインデックスは、メディアの質を評価したものではない。

「このインデックスは、多くの国々で報道の自由やジャーナリストが攻撃に晒されている実態を、誰もが知ることができる有効な手段です。例えば、私たちは、「トルコに行ってみたい。」「ベトナムに行ってみたい。」という時、実はこれらの美しい国々では、多くのジャーナリストが標的になっているという事実を知らないことが往々にしてあります。そこでこのインデックスがこの重要な問題を認識する手段となるのです。」とハルガンド氏は語った。

またハルガンド氏は、質的・量的両面の基準を用いるこのインデックスの作成手順や透明性を向上させる目的で、今回初めて多くのデータを公開した、と語った。

2015年版『世界報道の自由度ランキング』は、報道の自由度が2014年に急速に後退した背景について以下の7つの要因を挙げている。

報道統制:「情報統制を強める政権の存在」(東欧、アフリカ、アジア、中東)

北朝鮮、エリトリア、トルクメニスタン、ウズベキスタン(政府がメディア・情報を完全に統制している国家として、他の非民主主義国家がモデルにしている。)中国、イラン、カザフスタン、サウジアラビア、バーレーン(徹底したインターネット検閲、ジャーナリストの逮捕・抑留、虐待)、スリランカ(新聞社を軍隊が包囲)他

紛争:紛争を有利に運ぶ手段として情報戦争を展開している紛争当事者の存在(ウクライナ、シリア、イラク、アフガニスタン、タイ、南スーダン)

メディア関係者は殺害・拘束の直接の標的となっているほか、プロパガンダ活動に協力する圧力をかけられたりしている。

無法な組織:非国家主体による専制君主的な報道統制の存在(ボコ・ハラム、イスラム国、イタリアのマフィア、ラテンアメリカの麻薬組織)

犯罪組織の宣伝活動に利用されることを拒否したジャーナリストやブロガーは口を封じられている。また、北アフリカと中東には顕著な「ブラックホール(非国家主体に地域全体が支配され、独立した情報提供者が全く存在しない地域)が存在する。

神聖を汚す行為:神への冒涜を犯罪と見なす国々の存在(サウジアラビア、イラン、モーリタニア、クウェートなど全世界の約半分の国々)

体制を批判したジャーナリストやブロガーを、政府が神への冒涜と結びつけて厳罰に処す事例や、過激派組織が、神や預言者への敬意が足りないと一方的に断定したジャーナリストやブロガーを標的にする事例が増えている。

抗議デモ取材の危険性:抗議デモを取材するジャーナリストやブロガーに対する暴力事件が増えてきている。

ウクライナ、エジプト、イエメン、香港、ベネズエラ、ギリシャ(治安警察による暴力)。タイ、ハイチ、フランス、ベネズエラ、香港(デモ抗議側からの攻撃)。中国、ベネズエラ(反政府デモ報道の検閲、シャットダウン)。トルコ(抗議デモ現場への立ち入り制限)。

欧州モデルの崩壊:欧州の国々はランキング1位のフィンランドから106位のアゼルバイジャンまで様々。

比較的上位を占める国が多い欧州でも、経済の低迷、社会不安の増大を背景にフィンランド(欧州の上位諸国でも、少数のオーナーへのメディア統合が進み相対的な報道の独立性が低下する傾向にある。)オランダ(国会の撮影を許可制に変更)。ノルウェー(報道は自由だが開発問題の取材が希薄)。デンマーク(年金スキャンダルを告発した活動家を逆に罰金処分に)。ハンガリー(政府機関のメディア干渉)。イタリア(国営放送による自己検閲)。アゼルバイジャン(欧州でも最も多くのジャーナリストを収監)。フランス(有力右翼政党によるメディアの占め出し)。

法律によるメディア規制:非民主的な政権と民主的な政権双方において、国の安全保障、領土保全等を名目にメディア規制・言論弾圧を行う事例が増えている。

タイ、インドネシア、ミャンマー(軍当局によるメディア支配強化)。(米国、英国、フランス(反テロ法制による国民の監視)。ロシア、モロッコ、エジプト、ソマリア、エチオピア(報道内容が領土保全を脅かすとして逮捕・収監)オーストラリア、日本(安全保障に関連して情報検閲体制を強化)

報道の自由度をどのように計測するかは、非常に複雑な課題だ、とハルガンド代表は言う。

「スーダンにおける報道の自由とイタリアのそれは、同一のものではありません。そこで、私たちは7つの基準(①多元主義、②メディアの独立、③自己検閲、④法的支配、⑤透明性、⑥インフラ、⑦ジャーナリストへの暴力)に照らして報道の自由度を評価しています。」

「これは非常に複雑な課題です。最大限に正確さを期すためにも多くの基準に当てはめる必要があります。しかし、そうした努力をしても、当然ながら、(報道の自由を巡る)状況は各国独自のものになります。」とハルガンド代表はIPSの取材に対して語った。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア・コミュニケーション学部の教授で同校のジャーナリズムシンクタンクの所長でもあるチャーリー・ベケット氏は、(報道の自由度を計測する難しさについて)「あるレベルでは複雑ですが、また別のレベルでは極めてシンプルです。」と指摘したうえで、「もしジャーナリストが、投獄されたり、肉体的に傷つけられたりするケースを調べるのであれば、たしかに基本的な報道の自由度を測る尺度にはなります。しかし私としては、例えば偽情報のような、より微妙な問題が気になります。」と語った。

ベケット氏はIPSの取材に対して、「今日のメディアはあまりにも複雑になったため、報道の自由度を計測することも益々困難になってきています。」と指摘したうえで、「私たちは情報が豊富に溢れた世界に暮らしています。しかし、そうした情報や情報源をどのように信頼し、理解するかは、様々な力によって左右されているのです。」と語った。

ベケット氏は、「報道の自由は、もはや検閲や法律、或いはジャーナリストに対する肉体的な暴力という直接的に分かりやすい問題のみでは説明が困難になってきています。」さらに今では、「一人のジャーナリストが殺されると、残りの99人のジャーナリストが、以前よりはるかに言われた通りの行動をするようになるという恐ろしい状況があります。」と語った。

さらにベケット氏は、「たとえ新聞社が何かを出版している場合でも、果たして、ジャーナリストたちが脅迫されているのか、買収されているのか、或いは圧力をかけられているのか、実際にはどのような状況下で出版がされているかは知る由もありません。そしてもう一つのポイントは、もし人々に情報を共有する自由がないならば、自由なジャーナリストがいても意味がないということです。」と語った。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

セルビアを襲うインターネット検閲の洪水

|NATO・ロシア|危険な核陣営間の言論戦

0

【ベルリンIDN=ジュリオ・ゴドイ】

米ロ両政府は、ウクライナ危機を、恐るべき核戦力の強化を正当化する理由として利用している。

そのことは、ドイツの保守系日曜週刊紙『フランクフルター・アルゲマイネ・ゾンターグツァイトゥング』(FAS)が1月25日の1面全部を使って、核兵器に関して「威嚇のジェスチャーを取っている」としてロシアを非難したことからも明らかだ。

「核兵器がふたたび前面に」と題されたFASのこの記事は、情報源を明かしていないものの、重装甲戦車から航空機に至るまで、ロシア軍の「核能力を有する(この言葉の曖昧さに注意)」輸送手段の動向を巡って数多くのインシデント(安全保障上問題があった事例)が起こったことを報じている。しかも全てがこの数か月間に起こったことだとされている。

また同紙は、2月5日にベルギーのブリュッセルで開催される北大西洋条約機構(NATO)防衛相会議では、欧州・北米のNATO加盟国や、ウクライナなどの非公式同盟国を標的にしたロシアの核体制分析がテーマになるとまで主張している。

この警告調のFAS記事には、情報源が明示されていない点を除けば、一つの重要な不実記載がある。それは、「ウクライナ危機が2014年に起こるまでは、NATOは核戦力削減の圧力下にあった。」と記載している箇所だ。

現実はその真逆であった。バラク・オバマ米大統領が2009年にチェコの首都プラハで「米国は核兵器なき世界の平和と安全を追求すると信念を持って」表明したにも関わらず、米国政府の主導の下、NATOは2010年に、欧州に配備されている180発の核爆弾「B-61」の実質的な改修作業を開始しているのである。この改修計画の費用は、少なくとも100億ドルに達する。

Lawrence Wittner
Lawrence Wittner

この計画は、実際の核弾頭から研究施設、関連産業に至る米国の核関連施設の大規模な近代化のプロセスのほんの一部分にすぎない。全体としては、10年間で3550億ドル以上の費用がかかるとみられている。しかし、ニューヨーク州立大学の教授で3部作『核兵器との闘い』の著者であるローレンス・ウィットナー(歴史学)氏は、「数多くの新核兵器が製造されてこの近代化プロセスが終わるころには、費用は急増することになるだろう。」と自身のブログの中で指摘している。

またウィットナー教授は、オバマ政権が国防総省(ペンタゴン)に対して、12隻の新規核搭載可能潜水艦、最大100機の新規核搭載可能爆撃機、400基の新規(或いは改修された)地上発射型核ミサイルの製造計画を立てるよう要求している点を指摘している。米議会と国防総省が調査を委託した外部専門家で構成される超党派独立委員会よると、これらの米核兵器の増強のコストはおよそ1兆ドルに達するという。

『ニューヨーク・タイムズ』が昨年9月に報じたように、こうした異例の核戦力増強には多くのオバマ支持者も失望を表明している。同紙は、オバマ大統領にも大きな影響を及ぼした核軍縮に関する著作があるサム・ナン元上院議員の以下のコメントを引用している。「(オバマ氏の核兵器政策)の多くについては、説明するのが困難です。大統領が表明したビジョンは、(それまでの核兵器をめぐる議論に)大きな方向転換をもたらすものでした。しかし、その後のプロセスは、現状維持をはかるものに過ぎませんでした。」実際のところ、オバマ大統領の核拡張政策は、むしろ事態を悪化させてきた。

こうしてみてくると、(NATOが核戦力削減の圧力下にあったとする)FAS紙の主張はきわめて奇妙なものになる。さらに言えば、欧州に配備されているNATO核戦力の近代化方針が、ドイツ外務省が明確に反対する中で採られてきたのである。

「耐用年数延長措置」以上のもの

2010年に承認されたNATO核戦力の近代化は、B-61爆弾の「全面的耐用年数延長プログラム」(LEP)と公式には呼ばれている。これらの核兵器は、すべて米国が主導する軍事同盟の参加国であるドイツ、イタリア、オランダ、トルコに配備されている。

Euromap
Euromap

米国家核安全保障局によると、現在開発4年目にあたるB61-12のLEPには、「老朽化に対応した核・非核両方の部品改修、運用期間延長の実現、核爆弾の安全性・信頼性・保全性の強化が含まれる。空軍の尾翼部品を組み合わせることによって、B61-12は既存の核爆弾B61-3、-4、-7、-10と置き換えられることになる。さらに、B61-12を配備すれば、米国の最後のメガトン級兵器であるB83を退役させることが2020年代半ばから末にかけて可能になる。」

LEPに関する民間の研究者らは、そうした核兵器の近代化は単に「耐用年数延長プログラム」を意味するのではなく、NATOの核能力を大幅に増強することになると指摘している。

米国科学者連盟核情報プロジェクトの責任者で、核兵器に関するもっとも著名な民間専門家のひとりであるハンス・M・クリステンセン氏は、新型核兵器の特徴を見る限り、「LEPは新たな軍事作戦を支援するものでもなく、新たな軍事能力を付与するものでもない」とした米政権の初期の公約は、説得力を持たなくなっている、と指摘している。

それどころか、LEPに関する新たな情報は、(米政権の公約とは)全く逆の内容を示している。

「誘導尾翼を取り付けたことで、B61-12の命中精度が他の兵器と比較して向上し、新たな戦闘能力が付与されることになります。」「米軍当局は、50キロトンのB61-12が(再利用されたB61-4核弾頭とセットで)360キロトンのB61-7核弾頭と同じ標的をたたく能力を得るには、誘導尾翼が必要だと説明しています。しかしB61-7が配備されたことがない欧州では、誘導尾翼が付くことで(B61-12)軍事能力が格段に向上することになるのです。これは核兵器の役割を低減させるという公約には見合わない改善措置と言わざるを得ません。」と、クリステンセン氏は語った。

それに比べ、米国が1945年8月6日に広島に投下した核爆弾「リトルボーイ」の爆発力は13~18キロトンであった。また、その3日後に長崎に投下された核爆弾「ファットマン」の爆発力は22キロトンだった。

Atom bomb dropped in Japan in 1945/ Public domain
Atom bomb dropped in Japan in 1945/ Public domain

2013年10月に行われた米下院公聴会では、B61-12は、1997年に導入された地表貫通型の400キロトン核爆弾「B61-11」や、最大1200キロトンの爆発力を持つ戦略核爆弾「B83-1」と置き換えられることが明らかにされた。

クリステンセン氏は、「B61-12の軍事能力は、最小爆発力のB61-4(0.3キロトン)から1200キロトンのB83-1、さらには地表貫通能力を持つB61-11に至る自由落下核爆弾の標的打撃能力の全体をカバーするものになります。破壊能力がこのように向上すれば、新たな核戦力は、これまでの自由落下爆弾の打撃力全般を網羅したうえに(誘導尾翼の導入により)どこでも攻撃できる精密誘導核爆弾になってしまいます。」と指摘した。

このFASによる記事は、米国や欧州のメディアやシンクタンクによって発表された一連の記事や研究の最新のもので、内容はすべて、NATOからのリークや噂を基礎にしたものである。例えば、広く噂されるところよれば、ロシアは、2014年に同国が併合した(ウクライナの黒海沿いにある)クリミア半島において、短距離弾道ミサイル「イスカンデルM」を配備したという。

この噂の情報源は、インターネット上にある映像で、ロシアの弾道ミサイル発射機がクリミア半島のセバストポリ市街を運ばれていく様子を映し出している。しかし、クリステンセン氏をはじめとした核兵器専門家は、問題の映像に映っているのはイスカンデルMではなく、沿岸防衛用の巡航ミサイル「バスティオンP」(K300P、あるいはSSC-5)であると指摘している。

ブリードラブ将軍とストレンジラブ博士

西側メディアの他の報道は明確に誤認があるというわけでもないが、少なくとも、ロシアの核戦力への警戒を引き起こす程度に曖昧なものである。昨年11月、NATO最高司令官である米国のフィリップ・ブリードラブ(Bleedlove)将軍(核戦争を風刺したスタンリー・キューブリック監督の『ストレンジラブ博士(Dr. Strangelove)[邦題:博士の異常な愛情]または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』と極めてよく似ている名前なのは皮肉だ)は、ロシアはクリミアで基地を強化していると主張した。

General Breedlove/ Wikimedia Commons
General Breedlove/ Wikimedia Commons

他方でブリードラブ将軍は、ロシアの軍事作戦に核兵器の配備も含まれているかどうか、NATOは情報を持っていないことを認めている。

ブリードラブ将軍はその際、「核攻撃能力を持つ」ロシアの戦力がクリミア半島に移動した、と述べただけである。

再び、ハンス・クリステンセン氏の言葉を引用してみよう。「何がクリミア半島に移動されそこに何が貯蔵されているかを巡る不透明性は、非戦略核戦力の抱える特別な問題を示しています。なぜなら、非戦略核戦力は核・非核両方の能力を保持しているため、通常戦力の展開であっても、意図したものか現実のものであるかに関わりなく、(対立陣営によって)核配備のシグナルあるいは核へのエスカレーションとすぐさまみなされる可能性があるからです。」

さらにクリステンセン氏は、「クリミアの状況をめぐる不確実性は、(重要な違いはあるものの)NATOがバルト諸国、ポーランド、ルーマニアに一時的にローテーション配備している核能力を持つ爆撃機をめぐる不確実性と似たところがあります。ロシア政府は現在、NATOによるこうした配備を、ロシアの作戦に対してNATOが投げかける非難をかわすために利用しています。」と語った。

民間専門家らはここでもやはり、こうした作戦に関する議論は誇張されていると考えている。なぜなら、旧ソ連も今日のロシアも、1950年代以降今日まで、クリミア半島に核兵器を配備したことがないからだ。

核兵器に関するレトリックはNATOや米政府に限られたものではない。ブリードラブ将軍の記者会見とほぼ時を同じくした昨年11月、ロシアの『プラウダ』紙が「ロシア、NATOへ核のサプライズを準備」と題する以下の論評を掲載した。「ロシアは今日、ずっと少ない数の戦略核兵器運搬手段でもって、米国と同等の核戦力を保持することに成功している。ロシアの戦略核戦力は米国のそれと比較してもさらに進んでいるのだ。」

冷戦期の困難な時代へ後戻り

かつてソ連共産党の機関紙であったプラウダ紙は、それがまるでプライドの問題であるかのように、さらに次のように報じている。「ロシアの防衛当局がロシアの戦略核戦力を新世代ミサイルで再び武装すると約束している以上、(ロシアと米国の間のギャップは)将来的にさらに拡大するかもしれない。」

ロシアとNATOは合計で1万5000発の核弾頭を保有している。これは世界の核戦力全体の93%に相当する。世界を破滅に陥れ、時代遅れで、維持コストもきわめて高いこの恐るべき能力は、オバマ大統領がプラハ演説で述べたように、「冷戦が残した最も危険な遺産」であろう。

しかしそれでも、米ロ両国はウクライナ危機という目の前の機会を利用して、核戦力の増強を正当化した。これは民間の専門家らにとっては驚くことではない。米国にとっては、ウクライナ危機は悪化した米EU関係の改善を図るまたとない機会だった。両者の関係は、同盟国元首の携帯電話の通話など、ジブラルタルとベルリンの間のすべての電子通信を米国の国家安全保障局やその他の諜報機関が盗聴していた事実が明らかになって、著しく悪化していた。

米国としては、欧州のNATO諸国からB61-12の高価な耐用年数延長プログラムへの無言の支持を取り付けるだけではなく、反対論が根強い「環大西洋貿易投資パートナーシップ」(TTIP)を欧州諸国に受け入れさせ、エドワード・スノーデン氏が亡命するあらゆるチャンスを奪うための大きな危機を必要としていた。

ロシア側としては、核軍備管理に関する米国の別の専門家であるマイケル・クレポン氏が言うように、この危機は、米国に対してまるで懇願するかのような態度を改める機会を提供したと考えている。

米ロ間の核をめぐる言論戦の犠牲となった、いわゆる「ナン=ルーガー協力的脅威削減法」の突然の終了に関して、クレポンはこう書いている。「冷戦終結から四半世紀が経過し、米ロ関係は再び困難な時を迎えている。(ナン=ルーガー)プログラムは今や、ロシアのウラジミール・プーチン大統領や米議会両院の多数によって不必要かつ不適切なものとみなされている。ロシアはもはや何かを懇願する側ではなく、米議会ももはや寛容ではいられなくなっている。」

ナン=ルーガー法は、アゼルバイジャンやベラルーシ、グルジア、カザフスタン、ウズベキスタンなど旧ソ連領内に配備されていた旧ソ連の核戦力を保全し解体することを目的としたものであった。

或いは、「カーネギー・モスクワ・センター」の所長であり、ロシアの著名な平和研究者の一人であるドミトリ・トレーニン氏の言葉を引用するならば、「2014年初頭にウクライナで起こった危機は、1989年のベルリンの壁崩壊に始まるロシア・西側関係の時代を終わらせてしまった。危機によって、両者間の総じて協力的な局面は終わりを告げた…。替わって、ウクライナ危機は、かつての冷戦期の敵対国間における厳しい競争、さらには対立の新たな時代の幕開けとなった。」両者は実際のところ、核兵器で武装する以上の状況になっているのである。(原文へ

関連記事:

「核兵器なき世界」に向けて正念場の2015年

日本、米国の核態勢見直しに際して、自制を表明する

|核兵器ゼロ|前途に横たわる果てしない旅路

ニュージーランドが強固に核兵器禁止を擁護

【ワシントンIDN=ニーナ・バンダリ】

太平洋の小さな島国であるニュージーランドが、国際的な軍縮論議において、大国を相手に独自の主張を貫いている。同国は約30年にわたって非核政策を積極的に推進し、「オーストラリア・NZ・アメリカ相互安全保障条約(通商アンザス条約)」の当事国でありながら、核兵器を搭載したり原子力を動力源とする米国艦船の入港を禁止してきた。

ニュージーランドは、米国、オーストラリアと並んで、3国間の安全保障取り決めと協力の枠組みとして1951年に調印されたアンザス条約の当初からの締約国の一つである。

Anti-nuclear demo in New zealand/ CND

しかしニュージーランドは、フランスが1960年代半ばから南太平洋(フランス領ポリネシア)で核実験を実施するようになると反発を強めていった。さらに1983年、米国の原子力フリゲート艦「テキサス」が入港すると、激しい抗議運動が起こり、それは一般市民を広く巻き込んだ反核運動へと発展していった。こうして80年代半ばにピークを迎えた反核世論は、その後のニュージーランドにおける外交政策と、アイデンティティを形成することとなった。

「当時の反核運動は、専門家、地域集団、学生、宗教者、非宗教者、若者・老人が参加した極めて広範にわたった運動でした。多くの意味において、この運動の多様で非階層的な性格が、その訴える力と強さの源泉でした。ひところ、ニュージーランドには300以上の地域活動家のグループが存在していました。」と『平和、権力、政治:ニュージーランドはいかにして非核化したか』の著者マリー・リードビーター氏は語った。

Sinking of the Rainbow Warrior/ News Zealand Herald
Sinking of the Rainbow Warrior/ News Zealand Herald

なかでもニュージーランド国民の世論を決定的なものにしたのは、1985年7月に起きた核実験抗議船「虹の戦士(レインボウ・ウォーリア―)号」爆破事件だった。これは、環境保護団体「グリーンピース」の旗艦船で、フランスによる核実験への抗議活動に参加していた「虹の戦士号」がフランス諜報機関による爆破工作で沈められた事件である。

当時のデビッド・ロンギ首相は、「核兵器によって攻撃されるよりも危険なことが一つだけあります。それは核兵器によって守られていることです。」と語った。1987年、ロンギ首相の労働党政権は「ニュージーランド非核地域、軍縮、軍備管理法」(これによりニュージーランドの国土と領海は、非核兵器および非原子力推進艦艇地帯となった:IPSJ)を制定した。

「この法律は現在、ニュージーランド国民の心理に深く浸透しており、将来的にこれを廃止しようという政党はありません。現在与党の国民党も、この法律を廃止することはないと明言しています。」と、労働党のメリヤン・ストリート元広報(軍縮・軍備管理)委員長はIDNの取材に対して語った。

David Lange/ The Right Livelihood Award

緑の党(世界問題担当)のケネディ・グラハム議員も同じ意見だ。「ニュージーランドの非核立法に関しては、超党派的な合意があります。」とグラハム議員は語った。

米国はニュージーランドによる核兵器禁止を覆そうとはしていないが、過去5年間、同国との防衛・戦略的関係の再構築を目指す動きを始めている。2010年11月、米国のヒラリー・クリントン国務長官(当時)と、ニュージーランドのマレー・マカリー外相(当時)が、両国間の新たな戦略的関係についての枠組みを提示したウェリントン宣言に署名した。

さらに両国は、2012年6月、海洋警備や大量破壊兵器の拡散阻止、テロ対策、海賊対策等の防衛協力取決めをさらに強化したワシントン宣言に署名した。この取決めの下で、ニュージーランドは、世界最大の海軍演習であるリムパック(環太平洋合同演習)と、米豪との合同軍事演習への参加を決めた。

作家で研究者のニック・マクレラン氏は、こうした動きについて、「ニュージーランドの立場については、あまり美化しないよう慎重であるべきです。なぜならその立場は少しずつ変化しているからです。ウィキリークスエドワード・スノーデン氏が最近暴露した、アンザス同盟と、『5つの目条約』としても知られる5か国から成るUKUSA協定に関する情報は、英国、カナダ、そして(ニュージーランドを含む)アンザス同盟国が信号の諜報を共有していることなど、ニュージーランドの関与を浮き彫りにしているのです。」と語った。

ニュージーランドには、タンギモアナとワイホパイの2か所に信号傍受基地がある。リードビーター氏は、「UKUSA協定については、透明性が欠けていることや、他国へのスパイ行為、更には戦争への貢献の片棒を担ぐことになりかねないことから、私はニュージーランドが参加することに反対です。」と語った。

アンザス同盟国は、フランスをオブザーバーとする「4か国防衛調整グループ」の一部でもある。それでは、核の傘に加われとの米国からニュージーランドへの圧力は改めて強まっているのだろうか?

「米国は、ニュージーランドの非核法制は立ち入れない領域であることを理解しており、その問題を回避しながら関与しています。また米国は、ニュージーランドをこの地域の核不拡散・軍縮領域におけるリーダーだとみなしており、バラク・オバマ大統領は、核兵器がテロリストの手に落ちる脅威に関する保安会議にニュージーランドを招待しています。」と、ニュージーランドの核不拡散・軍縮議員連盟の元議長でもあるストリート氏はIDNの取材に対して語った。

潜在的な危機

ニュージーランドで100%ピュア」観光キャンペーンは、ニュージーランドが非核地位を貫いていることと部分的には関係しており、これによって同国のクリーンでグリーン(=無公害な)イメージはさらに高められている。原子力発電は利用しておらず、現地で事故が起きる可能性はきわめて低い。

しかし、ストリート氏はこう警告する。「現実における最大の危険は、ニュージーランドの領海を通って核物質(オーストラリアからの劣化ウランイエローケーキなど)が輸送される時でしょう。これまで予防策はなく、そうした船舶に事故が発生した場合、我が国は危険な状況に晒されることになります。これに対する予防策を講じるには、危険物品・物質に対する新たな立法が必要となります。」

ニュージーランド政府は、オーストラリア政府とは対照的に、核兵器の人道的影響に焦点を当てる取り組みを熱心に進めてきた。2014年10月までに、ニュージーランドが主導して作成した核兵器の人道的影響に関する国連声明に155か国が署名している。

ジェフリー・パルマー元首相は2014年11月、「核の悪夢」という寄稿文の中で、「国連加盟国の間でニュージーランドの取組みへの支持が広がっていることを考えると、国際協定を通じて核兵器の違法性を確認する時機が来ていると思います。現在、ニュージーランドは国連安全保障理事会の非常任理事国のメンバーであり、ペダルに足をかけて核軍縮の大義を強力に推進できればいい。」と述べている。

国際司法裁判所は1996年の勧告的意見の中で、「核兵器の破壊力は、空間にも時間にも閉じこめておくことができない。核兵器は、あらゆる文明と地球上の生態系の全体を破壊する潜在力をもっている。」と述べている。

今日、ニュージーランドでは反核運動がそれほど盛んではない。しかし、世界の反核活動で活動する一部の中核となるような人々がいる。

Kate Dews/ ODT

30年にわたって核廃絶を訴えてきたケイト・デュース氏は、IDNの取材に対して、「1987年のニュージーランド非核地域、軍縮、軍備管理法を実行するために何をすればよいか政府に勧告することを目的とした『軍縮・軍備管理諮問委員会』に委員を送り込んでいるいくつかのグループが、全国規模でも地域でも存在します。一部のグループは軍縮大使や政府高官と定期的に面会し、核廃絶や、地雷・クラスター弾・劣化ウラン兵器の禁止、武器貿易条約等の今日的な軍縮問題に関してリーダーシップを取るよう訴えています。」と語った。

さらにデュース氏は、「ニュージーランド国民は、『核の傘』の下で核抑止を支える役割を受け入れることはないだろう。その論争はすでに決着がついており、ニュージーランドの若者たちは自国の非核政策を誇りに思っています。」と付け加えた。そしてその根拠として1986年の世論調査結果を挙げた。同世論調査によると、ニュージーランド国民の92%が核兵器に反対し、69%が核艦船の寄港に反対し、国連を通じた核軍縮の推進にニュージーランドが努力することに92%が賛成し、一方で88%が非核兵器地帯の推進を支持していた。

Tim Wright/ ICAN
Tim Wright/ ICAN

オーストラリアでも、その後の世論調査を見ると、圧倒的に核兵器を拒否していることがわかる。「しかし、我が国の政府は米国に配慮してこれらの究極の大量破壊兵器を禁止する条約という考え方に依然として反対しています。私たちは、ニュージーランドが80年代にやったように、軍事ドクトリンにおいて核兵器にいかなる役割も与えることがないように、そして、核兵器禁止を目指す世界的な取り組みに加わるように政府に求めています。」と、「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)豪州支部長のティム・ライト氏はIDNの取材に対して語った。

オーストラリアは南太平洋非核地帯条約の加盟国であり、ニュージーランドと同じように、1986年南太平洋非核兵器地帯法という非核法制を有している。「しかし、豪州法(そして条約そのもの)では米国の核艦船が豪州の港に入るのを阻止することができず、豪州が拡大核抑止(=米国の核の傘に依存する)の政策を維持するのを止めさせることもできません。」とライト氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

「核兵器なき世界」実現を妨げる非核オーストラリア

未来の世代を維持するカギを握る軍縮

米国に依存する太平洋の島嶼国が、核兵器保有国に挑む

|イラン核協議|オバマ政権と・米議会の対立が、国際的に波及

0

【ワシントンIPS=ジャスミン・ラムジー】

イラン核問題に関する協議が今年中に最終合意に達するかどうかは予測困難なことだが、主要な国際主体の多くが、イランに対する制裁を強化すべきとの米国議会内からの議論に巻き込まれている。

バラク・オバマ大統領は、一般教書演説において、交渉が進行している間は、新たなイラン制裁法案には拒否権を発動すると繰り返し述べた。

オバマ大統領は1月20日に下院議会で行った一般教書演説の中で、「今この時期に我が国の議会が新たに制裁法案を通せば、これまでの外交努力の失敗を保証するのも同然です。つまり、米国は同盟国から孤立し、これまでのイラン制裁体制の維持が困難となり、イランは再び核計画を始動させることになるでしょう。それでは道理にかないません。」と語った。

「イランとの外交交渉にチャンスを与えよ」とのオバマ政権の主張は、(今年3月末までの枠組み合意、6月末の最終合意を目指して)イランと核協議にあたっている「P5+1」(米国、英国、フランス、中国、ロシア+ドイツ)の主要メンバーが連名で寄稿した翌日の『ワシントン・ポスト』に掲載されたオプエドでも繰り返された。

フランスのローラン・ファビウス外相、英国のフィリップ・ハモンド外相、ドイツのフランクヴァルター・シュタインマイアー外相、欧州連合のフェデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表は、「イランに対する核関連の追加制裁など、交渉のこの重要段階で新たな障壁を設けることは、この重大な時期における私たちの努力を危機にさらすことになる。」と1月21日の紙面で述べている。

David Cameron/ Wikimedia Commons

また同オプエドには、「現段階で新たな制裁を課せば、これまで制裁を効果的に行ってきた国際的連携にひびを入れることになるかもしれない。」「新たな制裁は、我々の交渉上の立場を強めるよりも、むしろ現時点では後退させることになってしまうだろう。」と述べられている。

英国のデイビッド・キャメロン首相は1月16日、ホワイトハウスでオバマ大統領と行った共同記者会見で、「確かに、今朝数人の上院議員と接触しました。午後にもあと1、2人と話をするかもしれません」と述べ、米上院の議員らと接触し、現段階でイランに対する追加制裁を慎むよう求めたことを認めた。

またキャメロン首相は、「現時点でのさらなる制裁、あるいはそれを示唆することは、交渉を成功に導くうえでマイナスだというのが英国政府の判断です。また、イランと対峙していくうえで非常に意味のある国際的な結束も崩しかねません。」と語った。

オバマ大統領の一般教書演説の翌日、下院のジョン・A・ベイナー議長がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対して2月11日の米上下両院協議会で(イラン核問題について)演説するよう要請したと報じられている。ネタニヤフ首相は以前からオバマ政権の対イラン政策に反対する立場を明らかにしていることから、ベイナ―下院議長のこの動きはオバマ大統領の政策に対する反撃だと、専門家筋はみている。

ネタニヤフ首相は要請を受け入れたが、日程を3月3日に変更した。著名なイスラエル・ロビーである「アメリカ・イスラエル公共問題委員会」(AIPAC)がワシントンで行う会議にも参加する予定だ。

ホワイトハウスを頭越しに行われた今回の招聘はオバマ政権にとっては驚きであった。ホワイトハウス報道官は、(大統領は)選挙運動中の外国の指導者とは会談しない長年の慣行と原則を引き合いに出して(イスラエルの選挙は3月に行われる)、ネタニヤフ首相が米国滞在中、オバマ大統領は面談しない意向であることを明らかにした。

ネタニヤフ首相はイラン核問題に関する最終解決の内容について強硬な立場をとるよう一貫して米政府に進言してきた。例えば、イラン国内においてウラン濃縮を一切認めないなど、イラン側に受け入れられる見込みのない提案がそれだ。このネタニヤフ首相招聘問題について、クリントン政権で北大西洋条約機構(NATO大使をつとめたロバート・E・ハンター氏は、「招聘を受け入れたことに関してネタニヤフ氏が非難されるいわれはありません。もし誤りがあるとすれば、それは下院議長の側です。」と指摘したうえで、「もし、ネタニヤフ首相の訪米によって、米議会に対するイスラエル・ロビーの政治力に支えられ、制裁法案に対するオバマ大統領の拒否権発動を乗り越えるだけの支持(3分の2)を上院で得ることに成功したならば、その後の核協議崩壊という可能性のみならず、イランとの戦争の可能性が増すという事態に対する責任は、ベイナー下院議長と仲間の肩に重くのしかかることになるだろう。」と語った。

しかし、対立の中心となっている、マーク・カーク上院議員(共和党)とボブ・メネンデス上院議員(民主党)、さらには、ボブ・コーカー上院外交委員会委員長(共和党)が提案した法案が大統領の拒否権発動を阻止しうる多数の賛成を得て立法化されるかどうか、現時点でははっきりしない。

カーク=メネンデス法案は2013年に提案されたが、オバマ政権は、議会で民主党が多数を占めていたため、立法化阻止に成功してきた。しかし、11月4日に実施された中間選挙では共和党が勝利したため、今年1月から共和党が米議会両院で多数を占めている。

政府の現職および元高官らも、現時点における追加制裁については反対の声を上げるようになってきている。

ジョン・ケリー国務長官は1月21日のCBSニュースで、「イスラエルの諜報が米国に伝えたところによれば、イランに対して新規の制裁を展開することは、交渉プロセスに対して『手榴弾を投げ込む』に等しい、とのことだ。」と語った。

John Kerry/ Wikimedia Commons
John Kerry/ Wikimedia Commons

ヒラリー・クリントン前国務長官は、ウィニペグ(カナダ)で開催されたフォーラムで行った新規の制裁に反対する演説のなかで、「成果が上がるかどうか見きわめる前に、何を好んで自ら率先して交渉を頓挫させるようなことを望むだろうか?」と問いかけた。

デイビッド・コーエン米財務次官(テロリズム・金融諜報担当)は『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に「新たな制裁は現時点では必要ないと考えている。(米議会が)現時点で新たな制裁を科してしまえば、たとえそれが発動時機を先送りしたものだとしても、(イランとの)包括協定を成功させる可能性を高めるのではなく、むしろ壊してしまうことになるだろう。」と語った。

オバマ大統領の拒否権発動予告とベイナー下院議長のネタニヤフ首相招聘を受けて、闘いはまだ終わっていないが、元々はカーク=メネンデス法案を支持していた民主党の一部共同提案者ですら、オバマ大統領に同調する姿勢を見せ始めている。

リチャード・ブルメンソール議員は、「ポリティコ」紙の取材に対して、「いかなる議会による行動も今は控えるべきだとの(オバマ大統領の)強力な主張について、真剣に考えているところだ。」「両党の議員らと協議している。オバマ大統領と政権のメンバーらが訴えている点に関して、現在彼らは自らの立場を検討し、再考しているところだと思う。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:

非核中東への努力を続けるエジプト

|視点|核時代から太陽光時代への平和的移行(ヘーゼル・ヘンダーソン「倫理的市場メディア」代表・未来学者)

捏造されたイラン核危機

開発・平和のカギを握る世界市民教育

【パリIDN=A・D・マッケンジー

不平等とともに過激主義が世界中の関心事となる中、平和と持続可能な開発をもたらすうえで教育の果たす役割は大きい、と識者らは指摘している。

「教育は公共財であり、政府にはそれを提供する道義的責任があります。しかし、私たちが直面している問題は、教育を駆使していかに平和で持続可能な社会をもたらすのかということです。」とインドに本拠を置く「途上国研究センター」のピーター・デソウザ教授は語った。

UNESCO
UNESCO

1月28日から30日にかけてフランスのパリで開催された第2回国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)世界市民教育フォーラムで基調報告を行ったデソウザ氏は、IDNの取材に対して、「より良い市民を作り出すという教育の真の目的に関して言えば、世界は『戦いに敗れる』危険をはらんでいます。」と指摘したうえで、「私たちは、かつて女性運動や環境運動によって人間の考え方や価値観がいかに変わりうるかを目の当たりにしてきました。今こそ、活動モードに入り、勢いのある教育運動を起こす必要があります。」と語った。

またデソウザ氏は、現在の教育をめぐる国際的な言説は、残念ながら「企業の望む方向」、或いは(デソウザ流に言うところの)「ダボス的なやり方」に流されてしまっているという。「ダボス」というのは、スイスで毎年開かれている世界経済フォーラムのことで、ここには経済・政治・芸能の世界から「グローバル・エリート」たちが集結する。デソウザ氏は「このことが、(教育を巡る言説にも)覇権的な要素を蔓延らせ悪影響を及ぼしているのです。」と語った。

さらにデソウザ氏は、「教育は、ビジネス・チャンスが目的となって、ますます企業の都合で振り回されるようになっています。その一方で、公立学校は人々の関心から外れ、不平等が拡大しているのです。」と語った。

フォーラムにおける2つの主要テーマは、2015年以降の開発アジェンダにおける世界市民教育と、それが「平和で持続可能な社会」を構築していくうえで果たす役割であった。

またユネスコ関係者によると、今回のフォーラムにおける討論は、現在策定中で5月に韓国で開催される「世界教育フォーラム」で採択予定の「ポスト2015教育行動枠組み」につながる「具体的なインプット」を打ち出すことが期待されているとのことだった。

新時代の新たなスキル

Irina Bokova/ UNESCO/Michel Ravassard - UNESCO - with a permission for CC-BY-SA 3.0
Irina Bokova/ UNESCO/Michel Ravassard – UNESCO – with a permission for CC-BY-SA 3.0

ユネスコのイリナ・ボコヴァ事務局長は、フォーラムの開会挨拶の中で、「世界は『新時代の新しいスキル』を求めています。」と、世界から集まった250名の参加者に語りかけた。

ボコヴァ事務局長は、「教育とは単に情報や知識を伝達するためのものではなく、より『平和で、公正で、包摂的で、持続的な』世界に貢献できるような価値観や能力、態度を与えるものです。」と指摘した上で、「私たちのビジョンを研ぎ澄まし、世界市民教育を私たちの活動、つまり、貧困を削減し、社会的包摂を進め、全ての社会のニーズに持続可能な方策で応え、平和の文化を創り出すという活動全体の文脈の中に位置づけねばなりません。」と語った。

またボコヴァ事務局長は「教育は、文化間の尊重と理解を育成し、『多様性を最大限尊重する』ことを学習者に教え、若い人々のエネルギーを全ての人々の利益になるように仕向けることができるものです。」と、強調した。

今回のフォーラムは、3人の若い過激派が17人をパリで殺害した1月7日のテロ事件からちょうど3週間後に始まった。犠牲者には、預言者ムハンマドに関する論争の的になっている漫画を掲載した風刺週刊誌『シャルリ・エブド』で働く9人のジャーナリストが含まれている。

そうした暴力の陰で、過激主義と闘い、文化間・宗教間対話を促進するうえで教育が果たす役割に関する議論はとりわけ重要性を持っている。フォーラム参加者らは、世界市民教育に向けた長期的な政策を策定するなかで、教育者に加えて若者の全面的な参加を呼び掛けた。

世俗的な価値観

チュニジアのNGO「アル・バウサラ」の代表で創設者のアミラ・ヤヒャウイ氏は、いかにして多様な価値観が混在する世界で共存していくか、とりわけ、宗教的信条と関連付けながら「laicite」(世俗的価値)について若い人々を教育する必要がある、と強調した。

Amira Yahyaoui/ UNESCO
Amira Yahyaoui/ UNESCO

またヤヒャウィ氏は、「子ども時代を過ごす権利を奪われた」紛争地帯の子どもたちの窮状にもっと注目し、生存権についての教育がなされるべきだと訴えた。また、教育対象はそうした子どもたちに限らず、親や祖父母に対する教育も同様に重要だと指摘した。

「もし、ある女の子に兄弟とは平等でないと教えるのがその母親だとしたら、どうやって、この不平等に対抗する教育ができるでしょう。」とヤヒャウィ氏は問いかけた。

ユネスコによれば、世界市民教育(GCED)の目的は、「人権や社会正義、多様性、ジェンダー平等、環境の持続性への尊重を基盤とし、それを涵養(かんよう)するとともに、さらに責任ある世界市民になるべく学習者を力づけるような価値観や知識、スキルをあらゆる年代層の学習者に授けること。」である。

また世界市民教育は、「全ての人々にとってより良い世界と将来を推進する権利と義務を実現する能力と機会」を学習者に授けるものでもある。またそれは、子ども、若者、大人と、すべての年齢層を対象としたものでもある。

「世界市民教育は多様な方法で提供されうるものですが、ほとんどの国における主要な方法は、公的な教育制度を通じたものでしょう。」と政府関係者らは語った。そうして諸政府は、世界市民教育という概念を既存のプログラムの一部として統合することもできるし、或いは、別個の課題とすることも出来る。

「世界市民」という価値は長年にわたって考えられてきたものだが、ユネスコは、「国連事務総長が「グローバル・エデュケーション・ファースト・イニシアチブ(GEFI)」を2012年に開始して以来、勢いが増してきた」としている。GEFIは、「世界市民の育成」を、「全ての子どもに学校教育を」と「学習の質の向上」に並ぶ3つの主要な任務の一つととらえている。

Global Education First Initiative
Global Education First Initiative

この分野におけるユネスコの取り組みの一つに、「全ての人への尊重を教える」というプロジェクトである。これは、「教育における、或いは教育を通じた差別に対抗する」ために、ブラジルと米国が2012年に共同で開始したものだ。これに関する取り組みが、現在、ブラジルやケニア、コートジボワールなどの国々で行われている。

ユネスコは、韓国に拠点を置く「ユネスコ・アジア太平洋国際理解教育センター」との協力で、世界市民教育に関する情報センターを新たに設置した。

Chernor Bah/ GEFI
Chernor Bah/ GEFI

フォーラムでは、(セクシュアリティや保健教育を含めた)多領域に亘る議論が時として圧倒的で反復的だったが、問題の重要性は、必然的に本質的なものであった。このことは、学者や政策立案者、NGO、国連諸機関に交じって多くの若者がフォーラムに参加していた事実にはっきり見て取ることができる。

西アフリカのシエラレオネ生まれで、GEFI青年グループの議長であるチェノール・バー氏は、「いかにして世界市民教育の成果を測定し国際的パートナーシップを形成するか等、2015年以降の教育をめぐる課題に関する具体的な提案が出された今回のフォーラムは、有益なイベントでした。」と語った。

「私たちにはお互いに対する責任があり、人間性は、国籍や民族、宗教的信条よりも重要なものです。」とバー氏はIDNの取材に対して語った。「アフリカの諺にあるように、あなたがいるから、あなたのお陰で私があるのです。(=ウブントゥ)それこそが、世界市民であるということの本当の意味なのだと思います。」(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:

|世界市民|徐々に展開する新しい概念

|シリア|教育を受けるために地下に潜ることを強いられる子どもたち

Global Citizenship Education Seen as Key to Development and Peace

By A. D. McKenzie | IDN-InDepth NewsAnalysis

PARIS (IDN) – With inequality as well as extremism a growing concern around the world, education has a crucial role to play in contributing to peace and sustainable development, experts say.

“Education is a common good, and it’s the moral responsibility of governments to provide it. But the challenge we now face is how to use education to have peaceful and sustainable societies,” said Peter deSouza, professor at the India-based Centre for the Study of Developing Societies A keynote speaker at the Second UNESCO Forum on Global Citizenship Education that took place January 28 to 30 in Paris, deSouza told IDN that the world ran the risk of “losing the battle” regarding the true aims of education to produce better citizens.

“We need to move into campaign mode and have a powerful movement for education now because we’ve seen with the women’s movement and with the environmental movement how minds and values can change,” he said in an interview on the sidelines of the conference.

He argued that the international education discourse was unfortunately being driven by corporate sway, or what he called the “Davos way”, referring to the annual World Economic Forum in Switzerland that brings together “global elites” from the business, political and entertainment sectors. This produces a “hegemonic and detrimental discourse”, deSouza said.

“Education is becoming more and more corporate driven, with business opportunity being the aim, but in the meantime public schools are falling off the radar and inequality is increasing,” he added.

At the conference, the two main themes were global citizenship education in the post-2015 development agenda and its role for building “peaceful and sustainable societies”.

The discussions were expected to result in “concrete inputs” to the emerging Framework for Action on Education post-2015 that will be adopted at the World Education Forum in May, being held in the Republic of Korea, officials said.

“New skills for new times”

Opening the discussions, UNESCO Director-General Irina Bokova told the 250 participants from around the globe that the world needed “new skills for new times”.

She said that education was not just about transmitting information and knowledge, but also about providing the values, capabilities and attitudes that can contribute to a more “peaceful, just, inclusive and sustainable” world.

“We must sharpen our vision and place global citizenship education in the context of all our work – to eradicate poverty, to enhance social inclusion, to respond sustainably to the needs of all societies, to build a culture of peace,” Bokova said.

She emphasized that education could help foster greater respect and understanding between cultures, give learners “tools to make the most of diversity” and also “harness the energy of young women and men for the benefit of all”.

The conference began exactly three weeks after the January 7 attacks in Paris in which 17 people were killed by three young militants. The victims included nine journalists who worked for Charlie Hebdo, a satirical weekly newspaper that had published controversial cartoons of the Prophet Muhammad.

In the shadow of such violence, discussions on the role of education in the fight against extremism, and in promoting intercultural and interfaith dialogue were of particular significance. Participants called for the full engagement of youth, alongside educators, in developing long-term policies for global citizenship education.

Secular values

Amira Yahyaoui, president and founder of the Tunisian NGO Al Bawsala, stressed that young people needed to be educated about how to live together in a diverse world, and especially about “laicité” (or secular values) in relationship to religious beliefs.

She also called for more attention to the plight of children in conflict-torn regions who “no longer have the right to childhood”, saying that these youngsters must be taught the “right to survive”. She said that educating parents and grandparents was fundamental as well.

“When it’s a mother who explains to a girl that she is not equal to her brother, how can you educate against this inequality?” she asked.

According to UNESCO, the aim of global citizen education (GCED) is to “equip learners of all ages with those values, knowledge and skills that are based on and instill respect for human rights, social justice, diversity, gender equality and environmental sustainability and that empower learners to be responsible global citizens.”

GCED also gives learners “the competencies and opportunity to realise their rights and obligations to promote a better world and future for all”, and it is aimed at all ages: children, youth and adults.

Although global citizenship education can be delivered in a variety of ways, the main method in most states will be through the formal education system, officials said. As such, governments can integrate the concept either as part of existing programmes or as a separate subject.

The values of “global citizenship” have been in consideration for some time, but UNESCO explained that it has “gained momentum since the launch of the UN Secretary General’s Global Education First Initiative (GEFI) in 2012, which has identified ‘fostering global citizenship’ as one of its three priority areas of work, along with access to and quality of education”.

Among the UNESCO measures in this area is the “Teaching Respect for All” project, launched jointly with Brazil and the United States in 2012 to “counteract discrimination both in and through education”. Work on this is being carried out in Brazil, Kenya, Ivory Coast and other countries.

The organization has also created a clearinghouse on GCED, in cooperation with the Asia-Pacific Centre of Education for International Understanding.

While the numerous areas of discussion (which included sexuality and health education) were at times overwhelming and repetitive during the conference, the significance of the issues seemed inescapably real. This was underscored by the presence of many young people among the academics, policy makers, NGOs and UN agencies participating.

Chernor Bah, the Sierra Leone-born chairperson of the Youth Advocacy Group of GEFI, said the meeting was important because it raised concrete proposals for the post-2015 education agenda, such as how to measure the outcomes of GCED and build international partnerships.

“We have a responsibility to one another, and our humanity is more important than our nationality, ethnicity or religious beliefs,” Bah told IDN. “As the African saying goes – I am because you are. And that’s what being a global citizen is really about.” [IDN-InDepthNews – January 30, 2015]

Peter deSouza | Photo Credit: UNESCO K. Holt

2015 IDN-InDepthNews | Analysis That Matters

|視点|パリの大量殺傷事件―欧州にとって致命的な落とし穴(ロベルト・サビオIPS創立者)

0

【Othernews=ロベルト・サビオ】

かつて文明の揺籃の地であった欧州大陸が、イスラム教に対する聖戦という落とし穴へと、やみくもに突き進んでいる様を見るのは辛い。しかも僅か6人のイスラム過激派テロリストがその引き金になるのに十分だったという現実に、思わず暗澹たる気持ちになる。

Je suis Charlie/ Wikimedia Commons

しかしそろそろ、世界を席巻した「私たちはシャルリー・エブド」という熱狂から目を覚まし、事実を検証するとともに、私たちが実は少数の過激派の術中にはまり、彼らと同じような思考に染まろうとしている現実を理解すべき頃合いだろう。なぜなら、「西側欧米諸国とイスラム教の間の対立が今後さらに先鋭化すれば、その先には世界を巻き込むより悲惨な結末が待っているからだ。

まず一つ目の事実は、イスラム教が全人類の23%にあたる16億人の信徒を擁する、世界で2番目に大きな宗教という点だ。その内、アラブ人の信徒数は僅か3億1700万人に過ぎない。世界でイスラム教徒が人口の大半を占める国は49カ国にのぼるが、その3分の2近く(62%)がアジア・太平洋地域に位置している。事実、中東・アラブ地域のイスラム教徒よりもインドとパキスタンのイスラム教徒(3億4400万人)の方が多いのだ。また、インドネシア一国だけでも、2億900万人のイスラム教徒がいる。

ピュー・リサーチ・センターは、イスラム世界に関する調査報告書の中で、イスラム教の戒律の順守や見解については、中東よりもむしろ南アジア地域の方が、より過激な傾向にあると指摘している。例えば、「犯罪者に対して厳しい刑罰で臨むべき」と回答した者は、中東・北アフリカで57%だったのに対して南アジアでは81%であった。また、「イスラム教を棄教したものを死刑にすべき」と回答した者は、中東では56%だったのに対して、南アジアでは76%にのぼっている。

従って、今日欧米諸国との紛争にとりわけアラブ人が関与している特異性の背景には、明らかに(イスラム教そのものというよりも)中東の歴史が関っている。以下にその4つの理由を解説しよう。

一つ目の理由は、全てのアラブ諸国が(かつての欧州植民地帝国或いは列強諸国による)人工的な創造の産物であるという点だ。第一次世界大戦中の1916年5月、フランスの外交官フランソワ・マリ・ドニ・ジョルジュ=ピコ氏と英国の中東専門家マーク・サイクス卿が、ロシア帝国とイタリア王国の支持のもとに会談を重ね、大戦終結後のオスマン帝国領(現在の中東地域を含む)の分割に関する秘密協定をとりまとめた(サイクス=ピコ協定)。

French diplomat Francois Georges-Picot and Mark Sykes/ Wikimedia Commons
French diplomat Francois Georges-Picot and Mark Sykes/ Wikimedia Commons

従って今日のアラブ諸国は、フランスと英国が中東地域の民族、宗教、或いは歴史的背景を一顧だにすることなく地図上に国境線を引き、互いの勢力圏を分断定義した結果誕生した国々なのだ。中にはエジプトのように歴史的なアイデンティティを保持できた国もあったが、イラク、サウジアラビア、ヨルダンアラブ首長国連邦といった国々ではそれさえ叶わなかった。今日、人口3000万人におよぶクルド人が未だに自らの国を持てず中東の4カ国(トルコ、シリア、イラク、イラン)に分断された状態に置かれている問題のルーツは、まさに、この欧州列強による中東分割にあることを、想起しておく価値はあるだろう。

2つ目の理由は、欧州列強が、そうして打ち立てた新国家に、息のかかった人物を王や首長に据えた点だ。当時、こうした人工国家を経営していくには、強権による支配を必要とした。そこで、これらの国々では、当時欧州で進行していた民主主義のプロセスとは全く合わない政治体制が敷かれ、民衆の政治参加は建国当初から完全に欠如することとなった。つまり中東諸国では、欧州列強の承認のもと、「時」が事実上「封建時代」で凍結されたのである。

さらに3つ目の理由として、欧州列強がこれらの国々に対して、産業開発や地元民衆の真の発展に資するような事業に一切投資を行なわなかった点が挙げられる。一方、欧州列強は石油採掘権については、外国企業に独占させた。その結果、石油輸出の恩恵がアラブ人に享受されるようになったのは、第二次世界大戦後の、非植民地化プロセスが進展してからのことだった。

こうして第二次大戦後に欧州列強が去った時、アラブ諸国には、いかなる近代的な政治体制もインフラ設備も、地元の管理体制も皆無な状態だった。

最後に、より現在の問題に関る点だが、4つ目の理由として、欧州列強が残していった中東の支配者らが一般民衆に対する教育や医療を顧みなかった中で、代わりに敬虔なイスラム教徒らが、政府が提供しないサービスを提供する役割を担ってきた点が挙げられる。そうしたイスラム系慈善組織が設立した神学校や病院のネットワークは、その後中東各国で大きく発展したことから、複数政党制が導入されると、こうした草の根の実績がイスラム系政治団体の正当性と民衆支持の基盤となっていったのだった。

それだけに、中東の2カ国を例に挙げると、エジプトやアルジェリアでは、イスラム系政党が選挙で勝利し、その勢いを止めるには、欧米諸国の黙認のもとで軍事クーデターを引き起こすしか手段がなかったのである。

もちろん長年に亘る歴史をこの限られた紙面に凝縮して説明しようとすれば、当然ながら内容は表面的なものとなり、欠落している点も多々出てくることは避けられないだろう。しかし、今日の中東地域全体を覆っている民衆の怒りと不満がどのようなものか、そして、それらがいかにして貧困層の人々の「イスラム国」への関心を惹きつける結果となっているかを理解するには、この容赦なく要約した中東の歴史プロセスが役に立つだろう。

私たちはこうした歴史的な背景を忘れてはならない。なぜなら中東では、たとえ歴史に疎い若者でも、イスラエルによるパレスチナ占領という現実から、欧米によるアラブ支配の歴史を常に思い知らされる構図があるからだ。とりわけ米国のイスラエルに対する無条件の支援は、アラブ人の間では屈辱の歴史を永続化する行為と受け止められている。また、歯止めがかからないイスラエルによるユダヤ人入植地の拡大は、パレスチナ国家樹立の可能性を事実上不可能にしている。

Map of Israel
Map of Israel

昨年7月から8月に勃発したイスラエル軍によるガザ空爆に際して、欧米諸国の反応は形式的な抗議に終始するものだった。このことはアラブ世界では、「欧米の意図は結局のところ、アラブ民衆を抑えつけ、本来排除されるべき腐敗して正当性が疑われている中東の支配者らとの同盟関係のみに関心がある」という明らかな証左だと受け取られた。また、ピュー・リサーチ・センターも指摘しているとおり、欧米諸国のレバノン、シリア、イラクへの絶え間ない干渉や、各地で展開している無人攻撃機による爆撃作戦は、イスラム教徒の間では、イスラム教を抑え込もうとする欧米諸国の歴史的な政策の一環だと広く受け取られている。

また私たちは、イスラム世界にはいくつかの内部対立があること記憶にとどめておくべきだ。なかでも最大のものが、スンニ派シーア派の対立である。しかし中東アラブ地域ではスンニ派イスラム教徒の少なくとも40%がシーア派を同じイスラム教徒とはみなしていないのに対して、アラブ地域以外ではこの傾向が希薄になる。インドネシアでは、自身をスンニ派と自認した人々は僅か26%にとどまり、実に56%の人々が自身を「ただのイスラム教徒」と回答していた。

アラブ世界で、人口の大半を占めるスンニ派住民がシーア派住民を同じイスラム教徒として認め、両者のコミュニティーが共存してきた国は、イラクレバノンのみである。中東地域における両派対立の構図は、全イスラム教徒の僅か13%にあたるシーア派が多数を占めるイランと、スンニ派が多数を占めるサウジアラビアを軸に展開しており、両国の指導者が対立を掻き立てている。

「イスラム国」の前身組織でイラクを活動拠点とした「メソポタミアの聖戦アルカイダ機構」は、当時の指導者アブムサブ・ザルカウィ(1966~2006)の指揮の下に、シーア派住民への攻撃を執拗に繰り返すことで、イラク社会の二極化(それまで共存してきたスンニ派住民とシーア派住民間の対立と暴力の連鎖)と、首都バグダッドのスンニ派住民(約100万人)に対する民族浄化の悲劇を引き起こした。その際、シーア派の住民や武装組織による報復の対象となり、家族や財産を奪われたスンニ派住民の多くは、同じスンニ派の「イスラム国」(そもそもシーア派住民を攻撃してこの悲劇を引き起こした張本人)に保護と求めた。過激なカリフ制の復活を謳い欧米のみならずアラブ世界全体と対立している「イスラム国」がイラクで多くのスンニ派住民を引き付けている背景にはこのような皮肉な事情がある。

さて、オタワロンドン、そして今回のパリと、欧米で発生した全てのテロ事件には、奇妙な共通点がある。つまり、実行犯はいずれもアラブ地域出身者ではなく犯行が行われた国出身の若者で、居場所を転々とし、職につかず社会から孤立していた人物であった。また、いずれも10代を通じで全くと言っていいほど信仰心に篤い人物ではなかった。さらに、犯人のほぼ全員が、過去に司法当局の世話になっていた。

犯人がイスラム教に改宗し不信心者を殺せという「イスラム国」の要求を受け入れたのは犯行の僅か数年前のことだった。現世の将来に絶望していた若者は、これにより自分の人生に意義を見出し、殉教者として天国で重要な位置を得られると考えたのだ。

こうしたテロ事件をうけて、近年欧米諸国では、イスラム教そのものを敵視する動きが高まってきている。1月7日版の「ニューヨーカー」誌は、「イスラムは宗教ではなくイデオロギーだ」とする感情的な記事を掲載した。イタリアでは、右派で移民排斥を訴えている政党「北部同盟」のリーダーであるマッテオ・サルビーニが、イスラム世界との対話を進めているとしてローマ法王を公然と批判したほか、政治評論家のジュリアーノ・フェッラーラがテレビ番組の中で「我々は聖戦を戦っている」と宣言した。

パリの大量殺傷事件に対する欧州(と米国)の全般的な反応は、フランソワ・オランド大統領が言う、「極端なイデオロギー」が引き起こした結果として非難するものだ。

しかし一方で、アンゲラ・メルケル首相が先般反対の立場を表明した、右派ポピュリスト団体「PEGIDA(西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人)」がドレスデン(イスラム教徒の人口は2%)で行った反移民デモ行進も、高まる反イスラムの潮流という「極端なイデオロギー」を示すものだ。Pegidaの標的はドイツへの亡命を希望している200万人の難民(大半がイラク人とシリア人)で、「彼らの真の意図は戦争からの逃避ではない」等と主張して、昨年10月から毎週ドイツ各地で反移民集会を開いている。

一方で欧州各国を網羅した調査報告書によると、移住者の圧倒的多数が、移住先の経済にうまく溶け込んでいる。国連の報告書も、欧州における人口減少問題との関連から、今後欧州諸国が今日の社会福祉体制を維持し、国際社会において競争力を維持していくためには、2050年までに少なくとも2000万人の移民を受け入れる必要があると結論付けている。しかし、今日欧州各地で発生している現実は、それに逆行するものである。

また今日欧州では、政府を解散に追い込んだスウェーデン民主党や前回の地方選で25%の得票率を獲得し、更なる躍進を狙うフランス国民戦線の例にみられるように、排外主義的なナショナリズムを掲げる右派諸政党が、英国、デンマーク、オランダ等、各地で勢力を伸ばしている。

Marine Le Pen/ Wikimedia Commons
Marine Le Pen/ Wikimedia Commons

今回パリで発生したテロ事件は、言うまでもなく極悪非道の犯罪であり、如何なる意見の表明も、民主主義に欠かせないものだが、一方で、今回の事件以前にシャルリー・エブド紙を実際に読んでその挑発の程度を確認したことがある者は極めて少なかったという事実も、踏まえておくべきだろう。ガーディアン紙のタリーク・ラマダン氏が1月10日付の論説の中で指摘しているように、シャルリー・エブド紙は、「表現の自由」を主張する一方で、2008年に社員の漫画家がニコラ・サルコジ大統領(当時)の子息とユダヤ人女性の結婚を風刺した作品を反ユダヤ的だと非難された際には、その社員を解雇している。

シャルリー・エブド紙は、世界におけるフランスの優越性とフランス文化の優位性を擁護する声であり、読者数はごく限られたものだった。そしてそうした読者も(異なる文化や宗教間の尊重と協力を基礎とした世界観とは真逆の)挑発的な内容を売りにして獲得したものだった。

そして今、「私たちはシャルリー・エブド」の大合唱が起こっている。しかし、世界の二大宗教間の衝突を先鋭化させれば、決して些細な出来事では終わらないだろう。私たちは、犯人がイスラム教徒であろうがなかろうが、テロと戦わなければならない(私たちは、ノルウェー人でキリスト教原理主義者のアンネシュ・ベーリン・ブレイビクが、イスラム教徒がいない祖国を訴えて同胞のノルウェー市民91人を殺害した事件のことを忘れてはならない。)

しかし私たちは今や致命的な落し穴にはまり込み、イスラム教への聖戦を押し進め、結局は圧倒的な大多数を占める穏健なイスラム教徒までが追いつめられ、やむなく武器をとって戦う…という、まさにイスラム過激派が望むシナリオへと突き進んでいるのだ。

欧州諸国の右派諸政党が、こうした社会の急進化から恩恵を被る状況は、実は、イスラム過激派らにとっては歓迎する事態なのだ。イスラム過激派は、世界を戦いに巻き込み、その中で独自のイスラム教(つまりイスラム教であれば何でも良いわけではなく、スンニ派の教義を彼らが独自に解釈したもの)を唯一の宗教として打ち立てることを夢見ているのだ。これに対して、私たちは、本来ならこうした過激派を孤立させる戦略を採用すべきなのに、(彼らが望む)対決策に手を染めているのだ。

さらに言えば、アラブ世界で現在起こっていることと比べれば(例えば、シリア一国だけでも昨年だけで50,000人が命を失った)、これまで欧米諸国で命を失ったテロの犠牲者の数は、ニューヨークの9・11同時多発テロ事件のケースを除いて、ごく小さい規模でとどまっている。

私たちは、実は「世界規模の悲惨な衝突を創り出そうとしている」ということに気づくことなく、なぜこうもやみくもに落し穴に向かって突き進んでいこうとするのだろうか?

翻訳=INPS Japan

translated by Katsuhiro Asagiri

関連記事:

危ういスンニ・シーア間の宗派対立(R.S.カルハ前駐イラクインド特命全権大使)

すべての形態の平等に銃を向けた男(ウテ・ショープ)

|オプエド|ガザに盲いて(ジャヤンタ・ダナパラ元軍縮問題担当国連事務次長)

|オーストラリア|核兵器のない世界を求める核実験の被害者たち

【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ

先住民族コカタ・ムラ(Kokatha-Mula)の女性スー・コールマン=ヘーゼルタイン氏は、オーストラリア西岸沖のモンテベロ島や南オーストラリアのエミュフィールドマラリンガで英国が大気圏内核実験を始めたころ、まだ3才だった。

1952年から63年にかけて行われた12回の核実験は、スーの家族や近所の人々が住んでいたクーニッバを含む広範な地帯を汚染した。

Wikimedia Commons
Wikimedia Commons

「核実験が始まった時、地域にはアボリジニの人々が住んでいました。実験場近くでは多くの人々が死に、様々な重病に侵されました。『トーテム1』と呼ばれた最初の原爆被害は広範囲にわたり、『黒い霧』についての証言が数多くあります。このせいで多くの人が死に、視力を失い、重い病気に罹ったのです」とスーは語った。核実験が始まる以前は、獲物を獲り自然の果物を採集する健康的な生活を送っていたと、お年寄りたちが語っていたことをスーは覚えている。

オーストラリア非核連合(ANFA)の会合に出席した際に放射性降下物について知ったスーは、「地域のお年寄りたちは、『ヌラーボー(Nullarbor)』という雲のことについて話してくれましたが、それはマラリンガでの核実験による放射性降下物だったのです。私たちは爆心地にいたわけではないのですが、雲はひとところにとどまっていませんでした。風に乗ってどこへでも運ばれていたのです。癌になって亡くなった人たちもいましたが、それ以前私たちは癌などというものは知りませんでした。」と、当時を思い出して語った。

アボリジニの人々はANFAの前身にあたる「反ウラン連合」を1997年に立ち上げた。オーストラリア、とくに先住民族の居住地域において進行中あるいは予定されている核開発に懸念を持つNGOがこれに加わった。

Sue Coleman-Haseldine/ MFA

アボリジニにとって土地は彼らの文化の基盤である。低木の食物がおそらくは汚染されていると聞いてスーはショックを受けた。スーはIDNの取材に対して、「自然は食べ物を得るスーパーマーケットであり、薬を手に入れる薬屋であり、それを維持することは私たちの信条なのです。アボリジニであるかどうかは関係ありません。この国のこの地域に住んでいる全員が、家族の中での早すぎる病気や死についての悲しい経験を抱えているのです。癌はその最たるものですが、甲状腺疾患を患っている人々も少なくありません。」と語った。

不妊、死産、先天性異常等の問題は核実験時の方がよく起こっていたが、今日でも、スーのような人々は、その地域で現在もある放射能汚染や世代間で引き継がれる遺伝子の変化と、自分たちの健康状態の間には何かの因果関係があるのではないかと疑っている。スーは、核兵器が永遠に禁止され、核兵器を製造できるウランを地下に埋めたままにしてほしいと考えている。

Uran/ Wikimedia Commons
Uran/ Wikimedia Commons

昨年、諸政府や国連機関、市民社会からの参加者がオスロ(ノルウェー)に集い、「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)を初めて開催した。その成果を受けて、2月にはメキシコ政府が主催し、ナヤリットで146か国が参加した第2回会議が開かれた。10月には、国連加盟193か国のうち155か国が国連総会に提出された「核兵器の人道的帰結に関する共同声明」を支持した。そして、第3回「核兵器の人道的影響に関する国際会議」は12月8日・9日にウィーン(オーストリア)で開かれ、158ヵ国の政府と市民社会の代表が、スーの心を打ち砕くような証言に耳を傾けた。

識者によれば、核兵器を違法化し廃絶する法的拘束力のある国際条約の交渉を始めるべきだとの機運が高まっている。核兵器が人間に及ぼす影響に関する意識を高め、核兵器が二度と使われないようにするための世界的な取組みが近年再び広がりをみせている。

冷戦の終結以来、米国とロシアは核弾頭の数をかなり削減してはいるが、現在でも推定1万7000発の核兵器が存在している。

「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)豪州支部のティム・ライト支部長は「核兵器禁止条約を支持すると誓約した圧倒的多数の国々に、今こそオーストラリアも加わる時だ」と語った。

ICAN豪州支部は「核の傘はいらない」というユーチューブのビデオを制作して、核兵器の容認を止め防衛政策における核兵器を拒絶するよう全ての「核の傘国家」に求めるメッセージの発信を始めている。ビデオは1万6000回再生された。「とりわけ、冷戦を知らない若い世代の人々のために、面白く、分かりやすい形で拡大核抑止について議論を始めたかったのです。」と、ICAN豪州支部キャンペーン拡大担当のゲム・ロムルド氏は語った。

オーストラリア国民の8割が核兵器禁止条約を支持

赤十字が最近行った調査によると、8割のオーストラリア国民が核兵器の使用を禁止する法的拘束力のある条約を支持しているという。実に88%が、核兵器が人間に及ぼす壊滅的な被害を考慮に入れれば、核戦争における勝者はいないと回答している。

ICRC
ICRC

国際赤十字・赤新月運動は、1945年8月に核兵器が広島・長崎で初めて使用されて以来、核兵器に対する深い憂慮を表明してきている。

核兵器が人間に及ぼす影響は、ある空間や時間に限られるものではない。放射線被ばくは、広い範囲にわたる健康や農業、天然資源に対して、数世代に及ぶ影響を及ぼす。

アデレード(オーストラリア南部)で1970年に生まれたローズマリー・レスター氏は、寝たきりになっていた自分の父親が、オーストラリア放送協会(ABC)のラジオで核物理学者のアーネスト・ティタートン卿がマラリンガについて語ったインタビューを聞く姿を覚えている。

アリニジャラ・ウィルララ(北西)天然資源管理委員会の理事であるローズマリーはIDNの取材に対して、「声を荒げる父の声が聞こえてきました。部屋に入っていって、どうしたのと聞くと、私が生まれるよりもずっと前、父がまだ少年だった頃に起こったことについて話してくれました。マラリンガの核実験について聞いたのは、その時が初めてでした。」と語った。

彼女は、核実験の結果として自分の父親や祖父母、親族が病気になったことを、自分の経験として知っている。彼女自身も2005年、強皮症と呼ばれるごく稀にしか発生しない全身性自己免疫疾患だと診断されている。

「その頃、ウラン採鉱やそれが環境に及ぼす被害、そしてそれが何に使われるのかということについては、認識がありませんでした。父と祖父母が活動家になり、核産業に対して積極的に抗議・発言・教育して活動を進め、『ヌガナンパ・ヌグル』(私たちの国)を守る必要性を感じていたことが今ではよく理解できるのです。」とローズマリーは語った。彼女は今、将来の世代のために、英語とピジャンジャジャラヤンクニジャジャラ語の両方で記録・提供できるオーラル・ヒストリーが必要だと考えている。

1984年、オーストラリア政府は、放射線被ばくと放射性物質・毒物の処理から人々を守るために取られた措置について地域で懸念が高まっていることを受けて、マラリンガ王立委員会を設置し核実験について調査することにした。

「秘密のファイルは、核実験から50年後の2003年まで開示されませんでした。プルトニウム239をはじめウラン、ベリリウムといった有毒物質が核実験場周辺一帯に散らばっていることがよく知られています。毒物は土壌に含まれており、その塵はあらゆる方向に舞い散り、周辺住民は呼吸を通じて体内に取り込んでしまっているのです。また、人々が摂取するこの地域の低木の食物すら汚染されているのです。」とローズマリーは語った。彼女は、これだけ汚染されているにもかかわらず、この地域は安全であり、観光を促進すべきだと言う人たちがいることに、愕然としている。

元核実験場を浄化する責任はオーストラリア連邦政府にある。原子力エンジニアで、政府によるマラリンガ浄化事業の元顧問であるアラン・パーキンソン氏はABCテレビの取材に対して、「浄化基準以上の汚染が未だに見られる地帯は100平方キロを超えます。プルトニウム239がそれで、2万4000年経過してもその内の半分は依然として存在しているでしょう。」と語っている。

責任を取る

ローズマリーは、核実験の遺産である深刻な影響に関してオーストラリア連邦政府に責任を取ってもらいたいと考えている。「多くの人々が(核実験の)直後に亡くなりましたが、慢性的な健康問題や癌、障害を抱えたまま生きている人々もいます。鬱は言うまでもなく、精神的な喪失感とトラウマがあり、心理的・社会的障害を患い、愛する人たちの命が失われていくのを目の当りにしてきているのです。核実験は、私たち(アボリジニ)の文化を破壊し、民衆をさらに社会の端に追いやってきたのです。」とローズマリーは語った。

核廃絶を主張する人々は、諸政府に対して、こうした被害状況における政府の役割を認識し、ウラン採鉱を止めるよう求めている。ANFAの最近の会合では、約4万発の劣化ウラン弾がオーストラリア軍の訓練で使われたと報告された。核実験による世代を超えた健康被害だけではなく、劣化ウラン兵器の使用記録やその影響についても、ANFAは認識している。

「オーストラリア政府は、核実験・放射性物質降下地帯における環境被害に関する調査に資金を供出すべきです。そして、ファースト・ネイションズの人々(アボリジニ)に謝罪し、被害を受けた個人に賠償し、健康に問題のある人々を支援するためにパイリング・トラストのあり方を再検討すべきです。」とローズマリーはIDNの取材に対して語った。

マラリンガ・パイリング・トラストは、核実験によって土地への立ち入りができなくなったマラリンガおよびスピニフェックスの旧来からの地主に対して、オーストラリア政府が準備した補償金を管理するために設置された機関である。

識者らは、将来の「核兵器なき世界」の実現を目指す(核実験の被害を受けた)生存者らの正義を求める闘いに、ウィーン会議が新たな弾みを与えたと考えている。(原文へ

※ニーナ・バンダリは、シドニーを活動拠点にする特派員。国際通信社IPS及びIDNをはじめ、オーストラリア内外の様々な出版物に寄稿している。

IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

核保有国、ウィーンで批判の嵐にさらされる

言語に絶する負の遺産を残す核兵器

|軍縮|「核兵器をターゲットに」