ホーム ブログ ページ 229

|中東|「シリアにおけるイスラエルの軍事行動は危険だ」とUAE紙

0

【アブダビWAM】

シリア内戦は周辺地域を巻き込む地域戦争へと発展する兆候を示していたが、1月29日のイスラエル空軍によるシリア領内への爆撃によって、事態は一気に極めて危険な水域に突入した。 

イスラエルの軍事行動は、明らかに国連憲章に違反する侵略行為にほかならない。現時点で爆撃対象が何だったか不明だが、シリア政府は軍事研究施設が破壊されたとしている。また、西側外交筋、反乱軍情報によると、レバノンのヒズボラ勢力向けに武器(地対空ミサイル)を運搬していた車列が爆撃されたという。

 「爆撃対象の真相が明らかになる前の段階でも言えることは、イスラエルは、このような越境攻撃で、極めて危険な一歩を踏み出したということだ。今回の一方的な爆撃は、改めて、イスラエルが中東地域で傑出した軍事大国であり、機が熟したと判断すれば、いかなる法律や道徳の規範も顧みず武力の行使を躊躇しないという現実を、シリア政府並びに反乱勢力双方に突きつけた形となった。」と、アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙「ガルフ・ニュース」紙が2月1日付けの論説の中で報じた。 

また同紙は、「内戦が混迷の度合いを深める中、シリア政府側にはイランの派遣部隊が参戦するようになった。一方、反政府勢力側にも、多種多様な外人部隊が独自の指揮系統を保持、或いは反政府軍連合の指揮下に組み込まれる形で参戦している。そしてそうした反政府軍勢力の中には、様々なイスラム原理主義組織も含まれている。」 

また同紙は、「クルド人勢力も数千人規模の民兵組織をシリア北東部に結成した。しかしこれもシリア各地で多数生まれているとされる反政府戦闘集団のほんの一部に過ぎない。ただし、こうした集団の全容については依然として明らかになっていない。」と報じた。 

さらに「ガルフ・ニュース」紙は、「イラン、イスラエル、クルド人勢力、イスラム原理主義勢力など、様々な勢力がシリア内戦に介入しているが、いずれの勢力も、シリアのために戦っているのではないという点を理解しておくことが重要である。シリア内戦の混乱に乗じて戦闘に参画した各勢力には、内戦の混乱に乗じて影響力を拡大し、事態を収拾する段階で、戦略的に有利な条件を引き出そうという独自の思惑がある。」「こうした外部諸勢力による露骨なご都合主義は、アサド政権との交渉を通じた事態の打開を目指しているシリアの政治家らにとっては深刻な弊害となっている。」と報じた。 

そして「この弊害は、反政府勢力の指導者モアズ・アル・カティブ氏が、1月30日に、条件が整えば(①拘留者を開放すること。②追放されたシリア国民のパスポートを更新すること)アサド政権との対話をする用意があると発表したところ、自らの支援諸勢力からの反発に直面したことによく表れている。」と結論づけた。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

関連記事: 
シリア政府、アレッポ争奪戦にさらに軍を投入 
|シリア|ハマ虐殺事件の背景に怨恨の影

議論の俎上から外れたイランの核計画

0

【エルサレムIPS=ピエール・クロシェンドラー】

イランと「P5+1」(国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国)の協議が、1月末にトルコのイスタンブールで開催されることが予定されているが、これがイランのウラン濃縮計画に関する妥協を巡るリトマス試験紙の役割を果たす機会となるかもしれない。ところが奇妙なことに、現在イスラエルでは、イランの核開発問題は、議論の俎上にのぼらなくなっている。

イランの核開発を巡って、イランと「P5+1」との間の協議が前回行われたのは、昨年6月モスクワにおいてであった。

次回の協議では、双方の妥協がどのような形をとるにせよ、イランに対する制裁を段階的に解除することと引き換えに、イランの主張するウラン濃縮の権利を認め、高濃縮ウランを製造しないとイランが誓約し、中部コム近郊フォルドゥの地下核施設のような閉鎖された施設への国際原子力機関(IAEA)の立ち入りを認める、といった内容が中心になるだろう。

その一方で、米国の「科学国際安全保障研究所(ISIS)」は1月14日、イランは2014年半ばまでに少なくとも核爆弾1発分の物質を製造できるとの見解を明らかにした。

 さらに1月16日には、IAEAが、核兵器関連の実験を秘匿したと疑われているパルチン軍事基地への立ち入りと、核開発計画に関与したイラン政府当局関係者に対する聞き取りについて、イラン当局と会合を行った。

しかしイスラエルでは、1月22日に行われる大統領総選挙に先立つ選挙戦でこの問題はほとんど取り上げられなかった。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相(イスラエル国民は彼のことを「ビビ」と呼んでいる)は、自身の任期中の最大の成果として、イランに対して妥協しない姿勢を貫いたことを誇りとしている。さらに自身の対イラン外交について、(イランに対する)開戦の脅しをかけたことでむしろ戦争が回避され、さらに国際社会がイランに対して圧力をかける動きにもつながった、とみている。

一方ネタニヤフ氏に批判的な人々は、彼は、本当はイランの核施設を攻撃する意図などない「はったり屋」に過ぎないとみている。しかし、「はったり」も、選挙戦における正当な戦術なのである。

ネタニヤフ氏が昨年9月の国連年次総会で行った、イラン核問題について「レッドライン(越えてはならない一線)」を設定すべきだと訴えた演説は、彼の首相としての任期のグランド・フィナーレを飾るものだった。

ネタニヤフ氏は、イランのウラン濃縮のレベルを示した「ルーニー・チューンズ」の導火線付きの球体の爆弾を描いた漫画フリップを示しながら、「(イランは)来春か、遅くとも来夏までには必要なウラン濃縮を終え、数週間もあれば最初の核爆弾を完成できる段階に達する」と警告した。しかしその一方で、イスラエル自身の「レッドライン(=核兵器の有無)」や、レッドラインをイランが守らなかった場合にイスラエルが単独攻撃するか否かについては明言を避けた。

ネタニヤフ氏は、この国連演説のあとにイスラエル本国における人気が急上昇したことを受けて、翌年10月までに予定されていた総選挙の前倒しに打って出た。これにはイランとの対決が予想される二期目を、自ら決める政治日程で再選をめざすというネタニヤフ氏の目論見があった。

1月上旬、イスラエルのチャンネル2は、大統領選挙の政見放送開始にあたって、現職首相(ネタニヤフ氏)に関する1時間の紹介番組を放送した。しかし、非常に奇妙なことに、ネタニヤフ氏はこの際の談話の中で、イランについては僅かに1回、しかも遠まわしにしか言及しなかった。

その該当箇所は、ユバル・ディスキン元イスラエル総保安庁長官が、イランに関するハイレベル会合について、煙草やアルコール、高級料理でもてなしての「退廃」だと『イエディオス・アハロノス』紙に述べたのしい批判に対して、ネタニヤフ氏が、「私は真剣な会合を重ねてきたつもりだ。」と言葉少なに反論した場面である。

選挙を前にイラン問題に一旦終止符を打つ

さらにネタニヤフ氏の大統領選挙における宣伝広告を見ると、国連演説の再現さながらに、(爆弾を描いた漫画に代わって)中東の地図を描いたフリップを手にし、「私は当面イランの核開発を防ぐことに成功した。」と落ち着き払って述べるネタニヤフ氏の姿が描かれている。

それでは、ネタニヤフ氏自身が「(イスラエルのみならず世界全体にとっての)最大の生存上の脅威」とまで主張していたイランの核脅威論が、あたかも元から存在しなかったかのように、突如として公の議論から消えてしまったのはなぜなのだろうか。

エジプトとシリアにおけるイスラム主義者の脅威に関するネタニヤフ氏の選挙戦での発言は、今後に向けて何ら新しい戦略的なビジョンを示しているわけではない。しかし、容易に掻き立てられたイスラエル国民の懸念要素は、選挙に際しては、伝統的にイスラエル右派政党に有利に作用してきた。

つまり、「アラブの春」を背景に「ジャングルの中の村(イスラエルを周囲の野蛮な国家に取り囲まれた民主主義の砦に例えたエフード・バラク首相による比喩表現)」に住まねばならないという、「漠然とした不安」や、「パレスチナ人によるテロ」に対する恐怖といった懸念材料がイスラエル有権者の間に十分広まっていたのである。

このようにネタニヤフ氏の再選が既定路線として十分予想された状況下においては、(イラン核問題に関連した)放射性物質の降下や核のリスクといった、さらなる懸念材料をあえて持ち出して、熱気に欠けた選挙戦をことさら盛り上げる必要はなかったのである。

ネタニヤフ氏は、外交のボールが自分の側に投げられると、それを避けてしまうことで知られている。ネタニヤフ政権第一期と同じように、第二期においても、リスクのある和平構想や危険な軍事的企図を引き延ばしたりつぶしたりするものと見られている。この点は、多くのイスラエル国民にとってはむしろ安心材料ではある。

さらにネタニヤフ氏は、イスラエルがガザ地区のパレスチナ人イスラム原理主義勢力ハマスに対して攻撃を仕掛けた昨年11月に、ハマスがイスラエルの都市や村々に対して行ったロケット攻撃の恐怖を、イスラエル国民に改めて思い出させる必要がなかった。

そこでネタニヤフ陣営は、今回の選挙戦に際しては、迎撃ミサイル防衛システム「アイアンドーム」などの防衛手段でイスラエルの防衛能力を強化してきたこと、エジプト国境に沿って建設してきた壁がほぼ完成に近づいていること、さらに、イスラエル軍が占領しているシリアのゴラン高原における防衛線を強化していることなど、イスラエル市民の懸念材料として大きな幅を占めている身近な国境防衛に対する成果に焦点をあてた。

従って、今回の選挙では、戦争と平和をめぐる中核的な課題、とりわけイラン脅威論のような政治スローガンや見せかけの討論は、ネタニヤフ陣営にとって何の意味も持たなかったのである。

それでもなお、イスラエルの選挙戦は、各候補者の政治意図をめぐる煽情的な宣言の応酬で彩られることが少なくない。

それ故、昨年11月にパレスチナの国連における地位を非加盟のオブザーバー扱いに格上げしたことに対して、ネタニヤフ氏がすぐに「懲罰的措置」―激しく物議を醸し出しているヨルダン川西岸「E1」地区のユダヤ人入植地を拡大する計画の復活―を口にしたことは、十分に挑発的なものだと考えられる。

しかし、慎重なネタニヤフ氏が、さらにあえて危険を犯して、イランに対する単独軍事攻撃の脅しまでかけることは、現時点ではありえない。

その理由として第一に考えられることは、再選を果たしたバラク・オバマ大統領の2期目が、予想されるネタニヤフ氏再選の前夜にスタートするという国際政治状況である。ネタニヤフ氏としては、お互いの勝利と第二期の開始という絶好の機会を無駄にしたくはないだろう。

オバマ大統領が(イランやハマスとの直接対話を提唱してきた)チャック・ヘーゲル元上院議員(共和党中道穏健派)を新たな国防長官に選んだことは、(一期目にイランに対する対応を巡って)悪化した[ネタニヤフ氏と]オバマ氏との関係に新しいページを切り開くためには、あまり幸先の良い出来事ではない。しかし、ネタニヤフ氏は、米国大統領の専権事項である国防長官指名人事について敢えて公然と異議を唱えることはしないだろう。

またネタニヤフ氏は、自身の再選後、膨張した米国防予算の再構築に取り組むヘーゲル国防長官が、イスラエルへの軍事援助を削減しないよう要望することになる。

従ってネタニヤフ氏としては、「P5+1」とIAEAによるダブルトラックの対イラン協議の行方を、交渉が妥結しないことを切望しつつ、見守っていかざるを得ない立場にある。しかし、両交渉においてイランとの外交的妥結が失敗に終わった際には、イスラエル単独による戦略策定という事態を回避するためにも、来春を前に、オバマ大統領との間で、対イラン協調戦略について合意することを望んでいる。

またネタニヤフ氏は、彼のイランに対する強硬姿勢の真相が、はたして「はったり」なのか否かという疑問については、彼の功績を著した歴史書の中のオープンクエスチョン(答えのない問い)のままにしておきたいと望んでいる。

翻訳=IPS Japan

関連記事:
|イスラエル‐パレスチナ|「オバマ大統領は約束を果たすか?」とUAE紙

「国の将来はマリ国民に決めさせるべき」とUAE紙

【アブダビWAM】

昨年の4月以降マリ北部を実質的に支配下に置いていた武装イスラム過激派集団が、フランス軍の武力介入によってほぼ一掃された今、国際社会が今後マリ情勢にどのように対処するかが、同国のこれからの方向性のみならず、将来類似の危機が発生した際の対処のあり方を決めることになるだろう。 

「マリ危機の背景には国内の多くの当事者が複雑に絡んでいることから、国際社会がこれ以上マリ情勢への関与を激化させていくことは、長期的観点に立てば、マリの再建にとって弊害となるだろう。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙「ガルフ・ニュース」が2月2日付の論説の中で報じた。

 フランス軍は、武装イスラム過激派が完全支配していたキダルの空港を奪取後、マリ国軍と協力して、北部の主要都市のトンブクトゥガオの奪還に成功、反政府軍はアルジェリア国境の山岳地帯に逃げ込んだと見られている。ローラン・ファビウス外相は、マリ政府の要請で先月11日以来展開してきた軍事作戦が成功した、と宣言するとともに、「今後はアフリカ諸国が派遣する多国籍軍に(解放した地域の治安維持を)委ねることになります。フランス政府は、マリ政府の要請に応じてこの軍事作戦を成功させるために必要な人員と装備を動員し、反政府軍に対して激しい攻撃を加えました。しかしフランス軍をマリに進駐させる意図は当初からなく、掃討作戦が終了次第、早期に撤退します。」と語った。 

また同紙は、「このような危機の再発を防止するには、国家の統合と統一を維持できるような国の仕組みを作り上げるための長期計画がなければならない。全てのマリ人が国づくりに参加できるような適切な仕組みと財源が確立されない限り、常に内戦の可能性を含んだ反対勢力からの脅威に晒されることになるだろう。」と報じ、一部の過激派組織が国を乗っ取りかねない状況にまで発展した今回のマリ危機から教訓を学ぶべきだと訴えた。 

また同紙は、国連安保理がマリへの平和維持部隊派遣について検討を開始する中、「長期的な観点に立った取り組みが検討されなければならない。外国軍の駐留はあくまでも暫定的な解決策に過ぎず、マリ自身が自国の将来を決めることが急務である。」と報じた。 

「ガルフ・ニュース」紙は、今後も過激派組織が弱小国の混乱に乗じて国を乗っ取ろうとするリスクが十分に存在することから、そのような事態を断固阻止するためにも、アフリカ連合(AU)及び国際社会は、マリに支援の手を差し伸べるべきだ、と結論付けた。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

関連記事: 
米政府、マリ軍事政権に政治から手を引くよう求める

情報不足で困難に陥る難民支援

【ベルリンIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が、情報不足からくる2つの問題に悩んでいる。ひとつは、難民発生国における活動の困難であり、もうひとつは、先進国に難民が集まりやすいという幅広く信じられている「誤解」の問題である。

UNHCRでは、近年のソマリア情勢の悪化により、今年に入って32万人がソマリアから避難したとみている。UNHCRのアンドレイ・マヘチッチ報道官が10月21日に語ったところによると、難民の多くはケニアやエチオピアといった隣国にも向かっているが、アデン湾を超えて対岸のアラビア半島に渡るという危険な行為に出る難民も少なくないという。

今年に入ってからすでに2万人のソマリア難民が対岸のイエメンに到着している。「イエメンの難民受入センター(Reception Center)に新たに到着した難民がUNHCR職員に語ったところによると、旱魃、飢饉、内戦、兵士への強制徴用が、ソマリアを逃れてきた主な原因です。」とマヘチッチ報道官は語った。

 「到着した難民の大半は、イエメンの状況や到着後に直面する現実を認識しておらず、イエメンで職を見つけたり、他の湾岸諸国を目指すつもりでソマリアを後にしていました。」とUNHCRはプレスリリースの中で、情報不足が障害となっている点を指摘している。

UNHCRによると、2011年1月から7月の間、イエメンに到着したソマリア難民の数は月平均1600人であった。しかし、イエメンの国内情勢が不安定になっているにもかかわらず、難民の到着数はその後急増し、8月には4500人、9月には3290人となった。現在、イエメン国内には推定19万6000人のソマリア難民がおり、UNHCRにとって41万5000人を上回ると見られるイエメンの国内難民への対応とともに大きな負担となっている。

「治安の悪化により私たちの救援活動もますます危険かつ複雑なものになってきています。」とマヘチッチ報道官は語った。現在アビヤン県でアルカイダと政府軍の交戦が激化しているため、新たに到着した難民をアデン湾沿いの難民受入センターからカラズ(Kharaz)難民キャンプに輸送する作業が益々困難になっている。このため、UNHCRのイエメン側パートナーであるSociety for Humanitarian Solidarity(SHS)も、交戦地を迂回する遠回りのルートをとったり輸送回数を減らす対応を余儀なくされている。UNHCRは、難民受入センターやトランジットセンターに新たな到着した難民に対して、イエメン情勢と難民キャンプへの移動に伴うリスクについて説明を行っている。

こうしたことから難民の中にはソマリアへの帰国を検討するものもでてきている。UNHCRは自発的に帰国を希望する難民に対して支援するプログラムを持っているが、ソマリアの場合、この支援が適用されるのは比較的政情がおちついている北部のプントランドとソマリランド出身者に限られている。しかしUNHCRの発表によると、イエメンに到着しているソマリア難民の大半は政情が不安定な南部及び中部ソマリア出身者が占めている。また、主にエチオピア人を中心に、ソマリア以外の周辺国からイエメンに到着する数も増加してきている。

さらに、イエメンの情勢不安を利用して、紅海沿岸の一帯では、難民をだましたり強制したりして売り飛ばす輩があとをたたない。こうした人身売買のターゲットは主に湾岸地域での職を求めて入国してくるエチオピア人だが、ソマリア難民が拉致される事件もでてきている。「イエメンの治安悪化により、人道支援チームのパトロール活動が困難になっており、結果的にそうした非合法集団が到着したばかりの難民を先に発見するケースが増えています。また、イエメンに逃れる航海の途中で難民や出稼ぎの女性が性的暴力に晒される被害も幅広く報告されています。UNHCRでは、イエメン側のパートナーと犠牲者に対する医療支援を行うとともにイエメン警察と情報共有してフォローアップにつとめています。」とマヘチッチ報道官は語った。

「難民の多くが先進国に集まりやすい」という誤解

さて、UNHCRの直面するもうひとつの問題は、先述の先進国における「誤解」である。「難民の多くが先進国に集まりやすい」というこの誤った認識が先進国で幅広く信じられている背景には、既存の情報と主流メディアが支配する現在のコミュニケーションの仕組みの問題がある。

アントニオ・グテーレス難民高等弁務官は、2011年6月に「2010年世界の動向レポート」を発表した際、「今日の難民の動向と国際保護の状況について憂慮すべき誤解が広がっています。難民の殺到を恐れる先進国に広がる感情は大げさに誇張されたものか、移民の流入問題と混同したものなのです。一方で現実はずっと貧しい国々が実質的に負担を負わざるを得ない事態に置かれているのです。」と語った。

同レポートは、難民受け入れの負担を受けているのは、富裕国ではなく、難民の絶対数からも、また、ホスト国の経済規模から見ても、圧倒的に貧困国(全世界の難民の8割が居住)である実態を明らかにしている。具体的には、パキスタン(190万人)、イラン(110万人)、シリア(100万人)がもっとも多くの難民を抱えた国なのである。

一人当たりの国内総生産に占める受入難民数でみても、パキスタンが最大の受入国で1ドル当たり710人である。これにケニアの475人、コンゴ民主共和国の247人が続いている。一方、先進国で国内に最も多い難民人口を抱えるドイツ(59万4000人)でさえ、一人当たりの国内総生産に占める受入難民数は17人である。

また同レポートは、UNHCRが設立された60年前とは大きく変化した移民を取り巻く環境を描いている。UNHCR設立当時の取り扱い件数は、210万人で、第二次世界大戦の結果発生した欧州の難民が対象であった。今日UNHCRが受持つ国地域は120カ国を超え、保護対象者も国外への移転を余儀なくされた人々に止まらず国内難民も含まれている。

グテーレス氏は、2011年上半期の先進国における難民申請の動向をまとめた報告書に言及して、「2011年は私が難民高等弁務官に就任して以来、かつてない難民危機の年となっています。しかし難民の大半が近隣諸国に逃れたことから、今までのところ難民申請が先進国に及ぼす影響は予想を下回っています。」と語った。

10月18日に発表された同報告書によると、今年1月から6月までの期間における難民申請者数は19万8300人で、昨年の同時期16万9300人を上回った。しかし難民申請数は通常下半期にピークを迎えるため、UNHCRでは2011年の難民総数を、過去8年で最高となる42万人と予想している。

UNHCRのプレスリリースには、「今年は西アフリカ、北アフリカ、東アフリカで深刻な難民危機が発生し、チュニジア(4600人)、コートジボアール(3300人)、リビア(2000人)等の難民申請数が増加しました。しかし、全体で見れば、先進国への難民申請の割合は限定的なものとなっています。」と記されている。

今回のUNHCR報告書で難民の出身国として上位にランクされている国々は、アフガニスタン(1万5300件)、中国(1万1700件)、セルビア(1万300件)、イラク(1万100件)、イラン(7600件)で、以前の調査結果と比較して概ね変わっていない。

難民申請を受けた先進国を地域別にみると欧州が最大の受入れ地域で全体の73%を占めている。また、難民申請数が大きく減少したのはオーストラレーシア(オーストラリア、ニュージーランドおよびその付近の南太平洋諸島の総称)のみで、昨年の6300件に対して今年は5100件にとどまった。

一方国別にみると、先進国の中でもっとも難民受け入れが多いのが米国で、2011年上半期の実績が3万6400件となっており、これにフランス(2万6100件)、ドイツ(2万100件)、スウェーデン(1万2600件)、英国(1万2200件)が続いている。なお、欧州で難民申請数が減少したのは北欧諸国のみであった。一方、北東アジア(日本と韓国)においては、難民申請数が昨年前期実績の600件から今年前期には1300件と2倍以上に伸びている。

「上半期の先進国における難民申請の動向」は、UNHCRが「国際難民デー」(6月20日)に合わせて発表する「世界の動向レポート」の内容を補完するものであり、2011年版の内容は、世界の80%の難民を受け入れているのが途上国である現実を伝えている。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

関連記事:
貧困国が難民受け入れ負担の大半を負っている(アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官)
経済情勢悪化で移民への見方厳しく(IPS年次会合2011)
|ソマリア|「私は息子が生きていると思って一日中運んでいたのです」

海洋論争の解決方法は国際調停にある

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙は、フィリピン政府が、中国が実効支配を強めている南シナ海、南沙諸島のスカボロー礁を巡る領土問題について、国連海洋法条約に基づき国際仲裁裁判所に提訴したことについて、「賢明な措置だ」と賞賛するとともに、「この措置は、UAEに帰属する島々(アブムサ島、大トンブ島、小トンブ島)を不法占拠し続けているイランに対しても、良き先例になるだろう。」と報じた。

1月22日、フィリピンのアルバート・デル・ロサリオ外相は、スカボロー礁領有を巡る中国との紛争について、国際仲裁裁判所に提訴し、国際司法の判断に委ねると発表した。

 スカボロー礁周辺海域は、良好な漁場であり、海底には莫大な天然ガスが埋蔵している可能性が指摘されていることから、中国による領有権の主張と実効支配の強化は、フィリピンのみならず、ブルネイ、マレーシア、ベトナム、台湾との領有権問題へと発展している。またこの地域(東アジア)では、同様に海洋権益と島の領有権を巡って、中国と日本(尖閣諸島問題)、ロシアと日本(北方領土問題)、の対立がある。

「フィリピン政府の要求を国連海洋法条約に回付する判断は、正当なものだ。これこそが、南シナ海や東シナ海で領土問題を抱えている全ての国々がとるべき解決策だ。」とガルフ・ニュースは1月26日付の論説の中で報じた。

「近年、スカボロー礁周辺では、フィリピン、中国及び領有権を主張している国々のあいだで、相手国の漁民を拿捕したり、軽武装の法執行船を威嚇的に運用したり、疑わしい国家主権説を根拠に島に上陸して国旗を掲げる等の試みが繰り返されてきた。」

「領土問題の解決には、国際仲介裁判所による国際法に基づく調停こそが最善の方策である。イラン政府は、自身が不法占拠しているアラビア湾のUAE帰属領土3島に関する取り扱いについて、この点を十分認識すべきである。」とガルフ・ニュース紙は報じた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:
|UAE|ドバイ皇太子と米国大統領が二国間関係と中東の安全保障問題を協議
南シナ海と中国の海軍戦略(ロジャー・ベイカー米民間情報機関ストラトフォー東アジア専門家)
日中関係を依然として縛る過去

|世界未来エネルギーサミット|中東エネルギー危機のトンネル抜け、光明見出す

【アブダビIPS=タリフ・ディーン】

ヨルダンのラニア・アル・アブドラ女王は、アブダビで同時開催されたエネルギーと水に関するサミットで演壇に立ち、出席した世界の政財界リーダーに向かって「私は、エネルギー需要の9割以上を輸入に依存している国を代表してここに参りました。」と語りかけた。

アブドラ女王は、「中東アラブ世界は、石油資源に恵まれた地域であるにもかかわらず、明らかに深刻なエネルギー危機に直面しています。」と指摘し、次のような例を挙げた。

World Future Energy Summit

 「ガザ地区では停電が日常茶飯事であり、イエメンでは街灯の下でしか勉強することができませんが、女子にはそうした選択肢すらありません。スーダンでは、助産婦は出産が日のあるうちに済むことを祈らざるを得ない状況です。またイラクでは、停電があまりにも頻繁に起こるため、バグダッドのアルダキリ病院では、薬を一定温度で保管できなくなり、やむ無く貴重な薬を処分したのです。」
 
一方でアブドラ女王は、「しかし、トンネルの中にあっても、一条の光を見出すことができます。」と述べ、その根拠として、「持続可能なエネルギー政策を目指すアブダビ首長国の大胆なビジョンが、サミットをホストしたこの国(アラブ首長国連邦:UAE)を変革し、中東全体の励みとなっているのです。」と語った。(基調講演の映像

1月15日から17日にかけて、「第6回世界未来エネルギーサミット(WFES)」と「第1回国際水サミット(IWS)」が同時開催され、世界の政財界のリーダーやエネルギー・水問題で影響力を持つ専門家ら30,000人以上が参加した。アブドラ女王は、フランスのフランソワ・オランド大統領等とともに、サミットで基調講演者をつとめた一人である。

また両サミットは「アブダビ持続可能性週間」の一環として開催されたもので、いずれも国営の多角的再生可能エネルギー企業「マスダール」が主催した。

マスダール最高経営責任者(CEO)のスルタン・アーメド・アル・ジャベール博士は、各国代表団を前に、「UAE(確定石油埋蔵量で世界5位)の指導者は、水は石油よりも重要だと考えています。」と述べるとともに、「世界の指導者は、水問題とエネルギー問題に対して、同等の関心を払うべきです。」と訴えかけた。

さらにジャベール博士は、「こんにち、私たちが水を取り扱うには、その汲み上げ、処理、輸送に要するエネルギーも必ず考慮せざるを得なくなっています。また同様に、エネルギーを利用するためには、その掘削・生成に要する水を考慮しなければなりません。」と指摘した上で、「もはや私たちは、水とエネルギーの間にある密接な相互依存関係を過小評価できなくなっています。」と語った。

「現在、世界のエネルギー消費の約7%が水のためであり、世界の水の50%がエネルギーのために使用されています。そしてこの相互依存関係は、時間とともに今後益々拡大していくでしょう。」とジャベール博士は付け加えた。

また両サミットは、エネルギーと水関連の有力企業(シエル、カナディアン・ソーラー、スタトイル、スウェーデンエネルギー庁、三菱重工業、アブダビ国営原子力エネルギー公社、エクソンモービルを含む)にとって、自社の製品を展示し世界市場に技術を売り込む絶好の機会でもある。

再生可能エネルギー源の中で、もっとも伸びているものは何かとの質問に対して、インドのバンガロールに本拠を置く「オーブエナジー社」(太陽光発電の大手)のダミアン・ミラー会長は、「パーセントで見れば、これまでのところ、旧来の再生可能エネルギー源とみられている水力発電に比べて、風力発電が新たな再生可能エネルギー源として大きく伸びています。」と語った。

次にこの分野で最も進歩を見せた国はどこかとの質問に対して、ミラー会長は「ドイツです。」と答えた。また、主にマイクロクレジット(小規模融資)を通じて太陽光発電を大幅に普及させた国の一つとして、バングラデシュを挙げた。

ドイツエネルギー機関(DENA)のステファン・コーラー理事長によると、2011年のドイツにおいて、最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合は12.5%、さらに、総電力消費量に占める割合は20.3%であった。ドイツ政府は、総電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合を2020年までに35%、さらに2050年までに80%とする目標を掲げている。

トレド大学(米オハイオ州)のナギ・ナガナサン教授(機械工学)によれば、主要な再生可能エネルギー技術(太陽光、風力、バイオ燃料)の中でこの2年間で最も伸びたのは、発電力を大幅に向上させた一方で、発電モジュールの単価引き下げに成功した太陽光発電であるという。

「今では多くの地域において、太陽光発電の方が、従来の発電形式よりも低価格になっています。また風力発電の方が従来の発電形式よりも安く上がる場合も少なくなく、近年風力発電装置の設置が急速に拡大しています。」とナガサナン教授は付け加えた。

また、バイオ燃料の世界においても、リグノセルロース系バイオマスからのバイオ燃料のように、食糧と競合を起こさないバイオ燃料、技術開発が進められている。

同大学のアルヴィン・コンパーン名誉教授(物理学、天文学)は、IPSの取材に対して、「こうしたエネルギー技術の可能性を活用していく上で、今後も地理的・社会的関連が重要な役割を果たしていくだろう。」と指摘した上で、「今後最大の課題は、政府、電力産業、大学が、地球のより美しい自然環境を実現するために、こうした新たな電力源を最大限に生かす政策をいかに協力して策定するかです。」と語った。

風力も太陽光も断続的なものであるため、風力・太陽光発電は、蓄電技術や既存の発電方式と組み合わせることで、最大の能力を発揮する。

コンパーン名誉教授はこの点について、「移動手段の電化がますます進む中、車に搭載したバッテリーをスマートグリッド(多様な発電方法と電力機器を組み合わせて、電力の需給バランスの変化に柔軟に対応できるようにした電力網)に接続するといったことが考えられます。」と語った。

これらのクリーンエネルギー問題は、世界の若い頭脳にとって魅力的な課題である。コンパーン名誉教授は、「今回の『世界未来エネルギーサミット』においてもこうした課題と機会が議論の焦点となるだろう。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:
|UAE|国家戦略資源としての地下水の重要性が強調された
再生可能エネルギーの導入を図る太平洋諸国
|リオ+20|仏教指導者、より持続可能な世界に向けたパラダイム・シフトの必要性を訴える

|アルジェリア|「襲撃事件はこの地域に暗い影を落とした」とUAE紙

【ドバイWAM】

 「アルジェリア南東部イナメナスの天然ガス関連施設がテロリスト集団に襲撃された事件は、今後この地域にさらなる暴力と不安定要因を拡大させる可能性を含んでおり、危険である。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が警告した。

この事件は隣国マリで進行中の出来事と連動していることから、事態の収拾とともに、長期的な展望に立った解決策を講じることが重要である。」とガルフ・ニュースは報じた。

 「先週の16日、イスラム過激派武装勢力の一団がアルジェリア南東部イナメナスの天然ガス関連施設を襲撃・占領した。その際、外国人プラント作業員が殺害され、数十人が人質にとられた。(1月24日現在、犠牲になった外国人は日本人9人を含む8カ国39人にのぼった:IPSJ)。」
 
「襲撃を行った武装組織『イスラム聖戦士血盟団』は、声明の中で『今回の犯行動機は、マリのアルカイダ系グループに対する(フランス)の軍事介入にある』として、即時攻撃停止を要求した。これに対してアルジェリアのダフ・ウルドカブリア内相は、『アルジェリアは決してテロリストの要求に屈しないし、あらゆる交渉を拒否する。』と語った。」

「これらの一連の予期せぬ出来事は、アルジェリアのみならず近隣諸国にとっても危険な兆候である。犯行グループの行動が、隣国マリにおける出来事と連動していた事実は、この地域(北アフリカ・マグレブ地域)に類似した組織が活動を展開ており、相互に協力し支えあっている可能性を示唆している。」と同紙は報じた。

「従って、各国の関係当局は、アルカイダの拠点が再びこの地域に復活しないよう、連携していく必要がある。従来、北アフリカ・マグレブ地域では、各国によるイスラム原理主義勢力を封じ込める徹底した対策が取られていたため、アルカイダ関連勢力は影を潜めていた。しかし、アラブの春によりアルジェリア、エジプト、リビアの長期独裁政権が崩壊し、政治空白が生じると、アルカイダにつながる各種グループが息を吹き返し、地域全体にとって深刻な脅威となってきている。ひとたび過激主義の拠点になってしまえば、暴力の拡散が、膨大な費用と人的被害をもたらすことは明らかであることから、アルジェリアをはじめこの地域のどの国も、規模や範囲にかかわらず、こうした武装組織による勢力拡大を許容することはできない。」と結論づけた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:
米政府、マリ軍事政権に政治から手を引くよう求める
|アザワド|最後のアフリカ国境戦争が抱えるジレンマ(ウィリアム・G・モスリー・マカレスター大学教授)
民衆蜂起がアルジェリアに拡大

|米国メディア|選挙、暴力、天災が2012年報道の首位を占める

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

権威あるティンドール・レポートが発表した最新の報道年次報告によると、2012年の間に米3大ネットワーク(ABC, CBS, NBC)が取り扱ったイブニングニュースで首位を占めたのが、大統領選挙(1位)、米国内及び中東における暴力事件(2位)、米国を襲った天災に伴う事件(3位)であることが明らかになった。

また同レポートによると、ロンドンオリンピックと英王室関連のニュースが、シリア内戦関連のニュースを除いて、いかなる国やニュースよりも大きく取扱われるなど、2012年は英国が注目を大きく浴びたことがわかった。

 年間で海外報道のトップを占めたシリア内戦関連の報道時間は461分で、3社合計総放送時間の約3%を占めている。米国ではこれら3大ネットワークによるイブニングニュースが、国民の大半にとって最も重要なニュース情報源となっている。
 
ロンドンオリンピックと英王室関連の報道時間は、シリア内戦関連報道とほぼ同じの377分であった。これはシリアの次に海外報道で首位を占めた「ベンガジにおける駐リビア米国大使と3名の駐在員の殺害事件(163分)」と「アフガニスタンにおける戦闘関連の報道(158分)に関する報道時間の合計を上回っている。

なお、これらのニュースを除けば、海外関係のニュースに関しては最低限か或いは全く取り上げられていなかった。ティンドール・レポートは、過去20年以上に亘って、3大ネットワークで平日に放映されるイブニングニュースの内容を統計にして蓄積している。 

メキシコについては、移民問題と麻薬関連の話題が議論を呼んでいるにもかかわらず、集計によると、3大ネットワークが2012年に放送した時間は合計で44分に過ぎなかった。しかしそれでもラテンアメリカのどの国よりも遥かに取り上げられていた。

ティンドールの創設者で発行人のアンドリュー・ティンドール氏は、「(震災後の復興が遅々として進んでいない)ハイチや(ベネズエラのウーゴ・)チャベス大統領の病気と選挙に関するニュースはほとんど報じられませんでした。また、コロンビアについては、大統領警護隊(シークレット・サービス)によるスキャンダル以外では、全く報じられていません。」と指摘した。

コロンビアのカルタヘナで行われた米州首脳会議で、バラク・オバマ大統領の警護隊員11人が夜にホテルへ売春婦を連れ込んだとされるスキャンダルについて、3大ネットワークは54分を割いて報じた。この報道時間は、メキシコ関連の全報道時間を10分上回っている。

またティンドール氏は、「同様にアフリカのサブサハラ地域についても、昨年新たに誕生した南スーダンや、『神の抵抗軍』の指導者ジョセフ・コニーの逮捕を目的としたビデオキャンペーン『Kony2012』について割かれた報道時間は2012年を通じて僅か30分以内に留まっています。」と語った。

オバマ政権が高らかに宣言したアジア・太平洋重視の外交政策や同地域における緊張の高まりについても、3大ネットワークの関心は最低限のものに留まった。

米国経済に深刻な影響を及ぼし、今も依然として高いリスクをもたらしているユーロ圏危機に関する報道は、総計で87分だった。この数値は、英国王室関連に割かれた報道時間の4割減に過ぎない。

「私たちは、グローバル化する経済と文化の中に生きています。最新年次報告の結果が示しているのは、アメリカ人が相互依存を深める世界の現状を理解する能力が、いかに主流メディアによる表面的でかすめるような海外報道により阻害されているかという現実です。」と、ジョージ・ワシントン大学のロバート・エントマン教授(コミュニケーション・国際問題)は指摘した。

フォックスニュースCNNMSNBCといったケーブルテレビチャンネルも今日では重要なニュース情報源として幅広く認知されてきているが、3大ネットワーク(ABC, CBS, NBC)の平日のイブニングニュースの視聴者数は、依然としてケーブルテレビ視聴者総数の約7倍にのぼり、両者の視聴者総数は2000万人を上回っている。

ティンドール・レポートが集計対象としているABC、CBS、NBCの3大ネットワークは国内/国際ニュースに年間合計約15,000分を、あるいは夜の30分ニュース番組のうち約22分を費やしている。前回の大統領選挙の年(2008年)の際と同じく、2012年も大統領選挙関連の報道が全体の15%を占める2016分でトップとなった。ティンドール・レポートは、「選挙期間中に国内関連の報道が増える分、海外報道に割かれる時間が犠牲に傾向にあるが、2012年も例外ではなかった」と分析している。

さらに個々のトピック毎に2位以下を見ていくと、「シリアにおける暴力」(461分)、「ハリケーン・サンディ」(352分)、「ロンドンオリンピック」(246分)、「連邦赤字を巡る党派間の論争」(206分)が続いている。なお、「リビア危機」は8位、「アフガニスタン」は10位、そして「英国王室」関連報道は、国内・海外報道総合トップ20の中の16位だった。

天災関連の報道では、「ハリケーン・サンディ」以外では4つのトピック、すなわち「全米各地に発生したトルネード被害」、「夏に西部を襲った山火事」、「年初の大寒波」、「昨年8月にカリブ海地域と米国のメキシコ湾地域に甚大な被害をもたらしたハリケーン・アイザック」がトップ20入りした。

3大ネットワークは、これらの天災関連のトピックに合計で年間報道時間全体の約7%にあたる1000分近くを割いている。しかし、「ハリケーン・サンディ」が報道される以前の段階で、こうした天災と気候変動の関連性を追求する報道は全く見られない。

「しかも、該当する報道は、ハリケーン・サンディ関連報道の一週目に、海面上昇と地球温暖化の関連性を取り扱った1コマのみで、この気象コーナーの視点は、他ではほとんど報じられませんでした。」と、ティンドール氏は語った。
 
一方、欧州の大寒波、オーストラリア・ブラジル・中国・フィリピンの洪水、アフリカサヘル地域の旱魃といった全米以外の天災を取り扱ったトピックについては、3大ネットワークでは、せいぜい2次的な取り扱いを受けるに留まった。

また、北極及びグリーンランドを覆っている氷が予想を上回るペースで溶けている現象を3大ネットワークが取り上げた報道時間は、合計で僅か9分であった。

カリフォルニア大学サンディエゴ校のダン・ハリン教授(コミュニケーション)は、気候変動に関するトピックが3大ネットワークの報道に欠落している点について、「もう長年に亘って状況は変わっていません。『ハリケーン・サンディ』は、この問題についてなにがしかの議論をはじめる契機になったようですが、報道全体をみるかぎり、依然として気候変動に関する議論は驚くほど欠落しています。」と語った。

純粋な海外報道(明白な米国の外交政策の視点を含まなかったもの)では、「シリア情勢」がトップを占め、2位が英国関連の2つの報道(「ロンドンオリンピック」「エリザベス女王即位60周年記念」)、3位は「エジプトの政治的混乱」(93分)であった。エジプトは、ムバラク大統領が失脚した2011年版の集計では2位にランクインし、放送時間も今回より5倍長かった。

海外報道6位は「イタリア豪華客船沈没事故」で、以下、「イスラエルーパレスチナ紛争(主にイスラエル軍によるパレスチナ侵攻)」(76分)、「2011年東日本大震災・津波のその後」(45分)、「ギリシャ反緊縮デモ」(38分)、「イラン核開発疑惑」(37分)、「パキスタンの女子就学キャンペーン」(34分)が続いている。

「(3大ネットワークの海外報道だけを見ると)米国以外の世界では、あたかもオリンピック・ゲームと王室の儀式や暴力しかないかのような印象を受けてしまいます。もちろんこうしたトピックに注目するのは当然ですが、世界にはもっとはるかに重要な出来事が起こっているのです。」と、エントマン教授は指摘した。

また、メディア報道の公平さ正確さを求める監視機関FAIRのピーター・ハート解説者は、「米国のニュース放送で報じられる世界情勢は、極めて範囲が限られたものと言わざるを得ません。昨年英国王室にかなりの注目が注がれたことは、米国の企業メディアが海外ニュースについて何が重要だと考えているかを、よく物語っています。」と指摘した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:
|米国メディア|2011年の海外ニュース「アラブの春」が首位を占める
|インタビュー|紙媒体は墓場に向かっているのか?(シェルトン・グナラトネ博士・ミネソタ州立大学名誉教授)

|UAE|国家戦略資源としての地下水の重要性が強調された

【アブダビWAM】

アブダビ環境庁(EAD)は、今週アブダビで開幕した第一回国際水サミット(IWS)において、地下水の問題を取り上げ、UAEの長期的な持続可能性及び国民の福祉全般にとって地下水が果たしている極めて重要な役割について議論した。

現在アブダビでは、農業や林業を含む様々なニーズを、大半が再生不能資源である地下水に依存している。また地下水は、新鮮な飲料水として戦略的に備蓄されている。

地下水資源は、(人口過剰、農業と経済の成長、持続不可能な消費パターンなどのさまざまな要因によって)益々大きな圧力に晒されている。EADは、首長国の環境保護を付託された政府機関として、戦略資源であるアブダビの地下水保全・保護に優先課題の一つとして取り組んでいる。


 
水不足の問題は、世界経済フォーラム(WEF)においても、深刻なグローバルリスクとして焦点があてられた。WEFが発行している「グローバルリスク報告書」には、世界の有識者が、50のグローバルリスクについて、発生の可能性とインパクトの両面から評価した総合ランキングが記載されている。これによると、「水供給危機は」はインパクト部門で2位、発生の可能性部門で5位であった。一方、「食糧不足危機」もインパクト部門で3位を占めており、水と食の安全保障が相互に密接に関わっている現実を浮き彫りにしている。

IWSで登壇したラザン・アル・ムバラクEAD長官は、アブダビは地下水の使用に関して既に「転換点」に達しているとの見方を改めて表明した。
 
UAEの皇太子で国軍副最高司令官のムハンマド・ビン・ザイード・アール・ナヒヤーン殿下は、UAE並びに世界の福祉を確保することを目指した持続可能なビジョンの一環として、2012年1月18日に国際水サミットを立ち上げた。「UAEにとっては石油より水の方が大切です。」との大胆な発言の背景には、歴史的に石油に依存してきたUAE経済が、今では、水問題を国家戦略の最重要課題に据えている現実がある。

UAE政府は、既に農業や公共の場で水の使用を最小限に抑える種々の新たな解決策を実行に移している。UAEでは2012年の間、温室の普及や水耕法の活用により水耕農産物の収穫高が前年比で12%増大した。またアブダビでは、多くの実験農場において、地下灌漑を含む給水量を節約できる様々な灌漑技術の検証が行われている。

アル・ムバラク長官は、「私たちは、UAE全土で実施した地質調査結果に基づいて、国内でどこに最も肥沃な土地が存在しているかを把握しています。これを水資源に関する知識と照合させ、使用された一滴一滴の水が、最大限に農産物の収穫に繋がるよう、パートナーと協力して取り組んでいきます。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:
|UAE|真の慈善事業は、民族や宗教の違いに左右されない
|アラブ世界|「水危機に対する対策が急用」とUAE紙
|UAE|日本政府、ドバイとの関係強化を模索

チャド軍、マリ北部の戦闘に加わる

【ニアメIPS】

アフリカ地域で最も戦闘経験が豊かなチャド軍が、1月22日、マリ北部をイスラム武装勢力の支配から開放するために戦っているフランス及びアフリカ諸国の軍隊と合流するため、待機していたニジェールの首都ニアメから北上を開始した。 

この一年間、マリ国土の3分の2を占める北部は、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQUIM)」、「西アフリカ統一聖戦運動(MUJWA)」、「アルサン・ディーン」所属のイスラム武装勢力の実効支配下にある。これらの勢力は、支配地域に厳格なイスラム法を適用する一方で、住民に対する人権侵害を行っている。

 ニジェール人学生のブバカル・ティジャニさん(国際関係論専攻)は、18日にチャド軍が二アメに到着する報に接して「現在のところ、チャド軍がアフリカ最強の軍隊です。彼らは、常に実践で鍛えられてきた誇り高い兵士たちなのです。僕はチャド軍に敬服しています。」と興奮気味に語った。 

チャド政府はマリ北部でイスラム武装勢力と戦っているフランス及びマリ国軍を支援するため、最終的には2000人規模の兵士を配置する予定である。また、すでにマリ支援軍を派遣している西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)も、最終的に兵士を増派する予定である。 

ロイター通信社によると、チャド軍はマリの首都バマコを通過せず直接マリ北部の戦闘地域に入るため、1月22日にマリ国境から約100キロのテイラベリ県ウアラムに向かう道路に沿って北上した。 

チャド軍の勇猛さについて前評判が高いマリでは、チャド軍の参加により今般の危機が早期に収拾するのではないかとの期待が高まっている。 

チャド軍は、これまでマリ北部の気候と酷似した半乾燥地帯を舞台に数多くの国内反乱勢力を鎮圧してきた実績があり、砂漠戦を数多く経験してきている。またチャド軍は、1983年から87年にかけて戦われた反政府軍及びそれを支援したリビアとの戦争にも勝利し、カダフィ大佐のリビア軍に大きな損害を与えた(チャド内戦トヨタ戦争)。 

チャド軍の総数は3万人で、これまで度々周辺諸国の内乱鎮圧に参加してきた。つい最近も、中央アフリカ共和国政府の要請で政府支援軍を派遣し、反政府勢力「中央反乱同盟」(SELEKA)と戦った(今年1月11日に停戦合意」IPSJ)。 

またチャド軍は、空軍戦力としてスホーイ戦闘爆撃機6機とMi17及びMi24攻撃ヘリコプターを実戦投入する能力を擁している。 

チャド軍関係者は、18日になってAFP通信に対して、「我々の部隊は3機のチャド航空機(トウマイ・エア・チャド)に分乗してチャドを発った。なお、戦車はC-130輸送機、ピックアップトラックはアントノフ輸送機で輸送された。」と語った。 

新たな戦線? 

1月19日にニアメで開催された、マリ北部への軍事介入が地域に及ぼす影響について協議した会議において、主催した市民社会組織「オルタナティブ・ニジェール」のムーサ・チャンガリ事務局長は、フランス軍とマリ国軍に追い詰められているテログループを補足するため、ニジェール北部に第二戦線を構築する可能性について言及した。 

また、ニアメに本拠を置く「実験室での研究と社会的なダイナミクスと、ローカルの開発に関する研究(LASDEL)」のオリヴィエ・デ・サルダン研究員は、会議の中で、「マリ北部とニジェール北部は隣接しており、麻薬テロリストが(マリの)次に狙うのはニジェールではないかとの懸念がニジェール国民の間で広がっています。」と語った。 

ニジェール軍については、その有効性についてチャド軍のような名声は聞かれない。マリ-ニジェール国境を越えて侵入してくるAQUIMやMUJWA戦闘員との戦闘を度々経験しているにもかかわらず、ニジェール政府が「アフリカ主導マリ国際支援ミッション」(AFISMA)に派遣する兵士は500名に留まっている。そうした背景からも、「(ニジェールへの)チャド軍の増強は歓迎です。」とサルダン研究員は語った。 

一方、チャド軍の参加を巡っては2つの懸念事項が持ち上がっている。そのひとつは、チャド軍にかけられている民間人に対する人権侵害容疑に関わるものである。人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、2008年にチャド軍が中央アフリカ共和国の内紛に介入した際の人権侵害に関する証言を集めている。 

2つ目は、軍事介入がチャド本国に及ぼす影響についてである。アーノルド・ベルクストレッサー研究所(本部:ドイツフライブルク市)の政治学者ヘルガ・ディコウ氏は、ドイチェ・ヴェレラジオの番組において「すでにボコ・ハラムは、チャドの(イドリス・)デビ大統領に対して、チャド軍をマリに派兵すれば、チャド本国の安定が脅かされることになるとの脅しをかけています。」と語った。ボコハラム(別名:ナイジェリアのタリバン)は、現在ナイジェリア北部に勢力を展開しているイスラム系テロ組織で、マリのAQUMとの繋がりがある。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

原文へ