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|シリア|「ブラヒミ特別代表には全ての関係者が支援を差し伸べるべき」とUAE紙

【アブダビWAM】

「シリア内戦は、政府軍、反乱軍双方が決定的な勝利を収められない中、泥沼状態が続いている。こうした極限状態の中、数十万人のシリア国民がやむを得ず故郷を逃れて難民生活を余儀なくされており(シリア国内の避難民は150万人以上、トルコやレバノンなど周辺国に逃れた難民も28万人以上:IPSJ)、シリアをとりまく混迷はますます深まっている。」とアラブ首長国連邦の(UAE)の英字日刊紙が報じた。

「だからこそ、ラクダール・ブラヒミ国連・アラブ連盟シリア担当合同特別代表(元アルジェリア外相)の役割が極めて重要なのである。ブラヒミ氏は、和平合意内容を遵守しようとしないシリア政府に憤慨して辞任したコフィ・アナン前国連事務総長に代わり2週間前(9月1日付で)同特別代表職に就任した。」とガルフ・ニュースは9月17日付の論説の中で報じた。

ブラヒミ氏は、自身の任務について「ほとんど不可能に近いもの」と語っており、15日のバシャール・アル・アサド大統領との会談後には、「危機は深まっており、シリアの人々、周辺地域、そして国際社会にとって脅威となっている。」と付け加えた。

 これまで18ヶ月に及ぶ内戦で27,000人が殺害されている。「アサド大統領と一時間会談したところで、問題解決を図ることはできないだろう。従って、ブラヒミ特別代表は、現状よりもより具体的な和平提案を考える必要がある。交渉の行方はアサド大統領に自身の退任を納得させることができるかどうかにかかっているが、簡単にはいかないだろう。アサド大統領は、国民を殺害することで政権を維持していけると確信しているように思われる。アサド大統領は自身が政権を追われることになるという兆候を自身で確信しない限り、自発的に身を引こうとはしないだろう。」と同紙は報じた。

「一方、反政府諸勢力は、シリア国民に対してそれぞれの派閥が示してきた首尾一貫しない政治公約の内容を整理し、より平和共存に向けた新シリア建設に多方面の人々が参画できるものに変えていく必要がある。中でも、現政権の主要ポストを占めてきたアラウィ派を排除するのではなく、迎え入れなければならない。政府側、反政府側双方に対して、共に協力し合っていかなければならないと説得することは至難の技であるが、これこそがブラヒミ氏に託された使命なのである。従って、『全ての関係者が同じ方向で協力する場合のみ実効性がある』と訴えているブラヒミ氏には、シリア制裁を巡って分裂している国連安保理をはじめ全ての関係者からの支援が必要なのである。」とガルフ・ニュース紙は結論づけた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【デリク(北シリア)IPS=カルロス・ズルトゥザ】

「私は自分の言語で読み書きを習いたいんです。」と、シリアのクルド人マナル(21歳)は語った。今日、マナルと30名のクラスメートにとって、生まれて初めてその望みが実現しようとしている。

マナルには教育の機会がなかったわけではない。ダマスカスの北東600キロのところにあるハサカの大学で来年には経済学の学位を取りたい、とマナルはほぼ完ぺきな英語で語った。しかし、ほんの2ヶ月前まで、彼女は母語であるクルド語で書く機会は皆無だった。50年近くに亘ってバース党が権勢をふるってきたシリアでは、クルド語が禁止されてきたからである。

この夏、マナルは、ダマスカスの北東700キロのところにあるデリクの「バダルハン・アカデミー」でクルド語の授業に出席した。ここはこの町にある最近クルド語の授業を取り入れた2校のうちの一つで、週に3回各1時間の授業を無償で受けることができる。授業料は個人の寄付によって賄われている。

 「私は英語が話せるので、クルド語でも使用されているラテンアルファベットに既に慣れ親しんでいました。」と、教室に入る直前に取材に応じたマナルは語った。

放課後に取材に応じてくれたアカデミーのモハメッド・アミン・サーダン校長は、「デリクでの試みはわずか2か月に過ぎないが、シリアのクルド人支配下地域では、以前からこのような試みがなされていた。」と説明してくれた。1年半前にシリアで民衆蜂起が起きた途端にクルド語学校を始めたところもあるという。

「私たちは長年にわたって英語とトルコ語を教えてきました。この機を捉えて、クルド語の授業とはじめ我々民族の歴史、詩、文化を是非とも教えていきたいと考えています。」と著名な作家で詩人でもあるサーダン校長は語った。

学校が殺到する入学申請に対応できるよう、自宅の裏部屋2室を教室として無料で提供することにしたモハメッド・サディク氏は、「クルド民族の大義のために多くの人々が命を落としてきました。私の貢献なんてそれに比べたら何でもありませんよ。」と語った。

今年7月、イラクのアルビル(クルド半自治地域政府の拠点)でシリアの主要クルド人政党間の協定が結ばれ、地域の教育行政は在シリアクルド人の支配的連合である「民主統一党」(PYD)によってなされることになった。現在、教育委員会は大急ぎで数学や歴史などの科目をカリキュラムに追加する作業を進めている。

1963年にバース党が政権を掌握すると、シリア在住のクルド人(情報源により200万人~400万人と見られている)には、アラブ同化政策が強要され、教育現場におけるクルド語教育は禁止された。しかし今日「バダルハン・アカデミー」では600人の生徒がクルド語を学んでいる。クルド語は、インド・ヨーロッパ語族イラン語派に属し、5つの変形型が存在し、そのうち2つ(クルマンジーとソラニー)が広範囲で話されている。クルマンジーは、イラク・クルディスタン北部、カフカース地域、トルコ東部、シリアで話され、ラテン文字で表記される。話者人口は1500万人程度といわれている。一方ソラニーは、イラク・クルディスタンの多くの地域とイラン西部において話され、アラビア語で表記される。話者人口は600万人であるとみられている。クルマンジーとソラニーにはそれぞれ標準語があるが、未だにクルド民族4000万人全体に共通の言語やアルファベットは存在しない。

マナルは、看護師のファティマと同じ机を使っている。ファティマはかつて、教室でクルド語を使ったというだけの理由で1週間の停学処分に処せられた苦い経験を思いだしながら、「(こうしてクルド語を学べるのは)間違いなく重要なことです。とりわけ将来を担う世代にとって極めて重要です。」と語った。

「(シリア当局の目を逃れて)私たちは内緒で、時には(クルド人の)先生ともクルド語で話したものでした。」

今日ファティマは、コピーした文法書と参照したり、ホシャンクのような若いボランティア教師の助けを借りて、クルマンジで正しく書けるよう特訓の日々を送っている。

「(クルド語を教える)教師が必要だと聞いて、迷わずボランティアを申し出ました。私はインターネットや自宅に隠していた本を使って独学でクルド語を学びましたが、クルド語を必要としている同胞が僕のように苦労しなくても済むように、力を貸したいと思います。」とホシャンクは語った。

この地域のクルド人は、第一次世界大戦中の1916年に、当時の大英帝国とフランスが秘密協定で(当時両国の敵国であったオスマントルコ領を)バグダッド鉄道沿いに分割する国境線を確定したことから、今日のトルコとシリアに家族・親戚が離散して生きていくこととなった。終戦後、連合国とオスマントルコが結んだセーブル条約(1920年)で、独立に向けた自治の実施が規定されたが、実施されずじまいに終わった。

インターネット時代が到来すると、シリア政府は、主なソーシャル・ネットワークの使用や当局が危険視したウェブサイトの活用を市民に厳しく禁じてきた。こうした当局による締めつけは、内戦勃発後は不安定なシリア通信事情も相まってさらに悪化の一途をたどった。

しかし、シリアのクルド人は、国境の外にあるトルコでほぼ自由にインターネットにアクセスすることができるため、その利益を享受することができたのである。この点は(国内のクルド人勢力を弾圧してきた)トルコ政府にとっては、まったく意図するものではなかったが、結果的にトルコの通信インフラがクルド人の団結を強める上で重要な貢献を果たすこととなった。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|UAE|20万人以上のロヒンギャ族がKZHF財団の恩恵を受けている

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)のカリファ・ビン・ザイード人道財団(KZHF)は、ビルマのアラカン州で迫害を受けている少数民族ロヒンギャ族に緊急支援物資を届けるプロジェクトの第一フェーズを終了したと発表した。

本プロジェクトは、ビルマでイスラム教徒であるロヒンギャに対する残虐行為が発生したとの報を受けて、カリファ・ビン・ザイード・アルナヒヤン大統領の指示のもと、緊急支援物資を現地のロヒンギャ難民に届けることを目標に開始されたものである。

第一フェーズの間、KZHFは、1300トンの支援物資を国内で購入し、船便でビルマに送り届けたほか、救急車3台を寄贈した。

 KZHFのハジ・アル・コウリ事務総長は、緊急支援の第一フェース終了を発表するとともに、KZHFが、事件が発生してから最もいち早くロヒンギャ救援に駆けつけた団体の一つである点を指摘した。UAEでは、アルナヒヤーン大統領より、国内難民と化したロヒンギャの人々の苦しみを少しでも緩和するよう、いち早く人道支援を実施するよう指示が下されていた。(原文へ

翻訳=IPS Japan 

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勢力ます排外主義に国連が「平和の文化」を強調

【国連IPS=タリフ・ディーン

特定の宗教や移民、マイノリティーに対する不寛容が世界的に勢いを増している中、国連総会が「平和の文化」について討論するハイレベル・フォーラム(193加盟国、国連諸機関、市民社会、メディア、民間セクターなどが参加)を開催する。

このフォーラムの主唱者であるナシル・アブドゥラジズ・アルナセル国連総会議長は、「国連は対話こそが平和への最善の道のりであるという前提のもとに創設された組織」であり、「人類は、文化的多様性や思想の自由が保障された環境の中で、互いの理解を深めることによって、他者への尊敬の念や寛容な心を養うことができるのです。」と語った。

またアルナセル議長は、「国連は、国際社会が異なる信条や宗教から成り立っているという概念を是認しています。しかし今日、世界の一部の地域において、不寛容、外国人嫌い、憎悪を扇動する勢いが増しているのは残念なことです。」と付加えた。

 国連総会は、1999年9月に「平和の文化」に関する国連宣言と行動計画を全会一致で採択している。内容は、生命の尊重、人権の促進、開発への権利、国家主権の完全尊重、紛争の平和的解決、ジェンダー差別の解消などを謳ったものである。

 しかし、それから13年が経過したが、国際社会には引き続き人種や宗教による差別、同性愛嫌悪、移民やマイノリティーに対する差別、そしてとりわけイスラム教徒を標的としたイスラム恐怖症などが蔓延っており、多くの人々が憎悪犯罪の犠牲となっている。

先月、米国ではシーク教の寺院が襲撃され、6人の信徒が銃殺された。加害者は、ターバンをまいた人々をアフガニスタンのタリバン(イスラム教)に連なるものだと勘違いしてこの襲撃事件を引き起こしていた。

また2011年7月には、ノルウェーのウトヤ島で、イスラム教徒と移民を差別するノルウェー国籍の極右の人物(アンネシュ・ブレイビク)によって、ユースキャンプに集っていた77人の若者が殺害される事件が起こっている。

国連総会ハイレベル・フォーラムは、こうした国際社会が直面している現状を踏まえて、1999年に採択された行動計画の履行状況を審議するとともに、平和の文化を推進しようとする国際的な動きをさらに後押しすることを目的として開催されるものである。

本ハイレベル・フォーラムでは、基調講演者として、潘基文国連事務総長、アルナセル国連総会議長、フェデリコ・マヨールIPS理事長(平和文化財団会長)、コーラ・ワイス国際平和ビューロー元会長(ハーグ平和アピール代表)、アンワルル・チョウドリ国連総会議長上級特別顧問などが参加予定である。

アルナセル議長は、先月イタリアのリミニで開催れた会議で行った講演の中で、一部の社会では、文化が対話や人間としての連帯感に繋がる道筋ではなく、分断の原因とみなされている点や、一部の地域では、異なる宗教に属しているという理由で、マイノリティーの人々が、残虐行為や大量殺戮の対象とされている事例(例:ミャンマーにおけるロヒンギャ族)事実、さらに、聖書やコーランが焼かれ、宗教上のシンボルが侮辱の対象となっている問題を指摘した。

「これは私たちが住みたい社会ではありません。私たちは社会の中にある多様性を守っていくべきなのです。私たちが多様性の利点を実感し、グローバリゼーションの産物を全ての人類家族の間で公正かつ調和的に分配しない限り、こうした問題は引き続き頭をもたげてくるのです。」とアルナセル議長は語った。

Nassir Abdulaziz Al-Nasser/ UNAOC
Nassir Abdulaziz Al-Nasser/ UNAOC

またアルナセル議長は、「多民族、多宗教、多言語、多文化の社会は、全ての人類にとっての富の源と見做されるべき」と指摘したうえで、「対話が、平和と発展のために果たす重要な役割を考えれば、国連総会加盟国が『文明の同盟(U.N. Alliance of Civilizations)』(キリスト教を背景に持つ西洋社会とイスラム社会の溝を埋めることを目的に、スペインのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相の2005年の第59回国連総会演説で始まったイニシアチブ。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相が賛同し、同年中に国連の枠組みのもとに発足)という枠組みを国連内に構築した英知を、私たちは正当に評価すべきです。」とアルナセル議長は語った。
 
「文明の同盟」は、文化の相違に根ざす深刻な対立が世界を席巻した時期(米国での同時多発テロ、アフガニスタン、イラクへの米英軍の侵攻、スペインのマドリードでのテロ事件:IPSJ)に創設された。
 
「この新たな枠組みは、国際社会が不寛容のうねりを食い止め、希望と友愛に基づく視点を提示していくための新たな希望として登場したものです。今日、様々なパートナーに加えて、107カ国以上の国連加盟国が『文明の同盟』のグループ・オブ・フレンズに加盟していることは励みになります。」とアルナセル議長は語った。
 
「私は、将来この枠組みへの加盟が普遍的なものとなると期待しています。」とアルナセル議長は語った。
 
「『文明の同盟』は、様々な活動を通じて、私たちの多様性に対するものの見方を転換させるうえで重要な役割を果たしました。このイニシアチブでは、多様性と開発の相関関係に焦点が当てられています。つまり、社会の中の異なるグループ間の調和がなければ、繁栄はもとより持続可能な経済開発を実現するとなど不可能なのは、明らかです。」とアルナセル議長は語った。

「文明の同盟」は、これまで、マドリッド、イスタンブール、リオデジャネイロと会議を開き、昨年12月には第4回フォーラムをカタールのドーハで開催した。

「来年オーストリアのウィーンで開催予定の次回フォーラムでは、今年取り上げた諸問題について、さらに前進が図られることを確信しており、開催を楽しみにしています。」とアルナセル議長は付け加えた。

アルナセル議長は、「異なった宗教が我々を分断することなく、我々をつなぎ合わせて、より平和で寛容な人間家族に向けた架け橋となるような」世界を目指すうえで、「『文明の同盟』には重要な役割があります。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|リビア|「米国領事館への攻撃事件は嘆くべきこと」とUAE紙

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の主要英字紙が、クリストファー・スティーブンス大使を含む4名の米国人が殺害されたベンガジの米国領事館襲撃を嘆く論説を報じた。

クリストファー・スティーブンス大使並びに3名の領事館員が、武装した暴徒がベンガジの米国領事館を襲撃した際に死亡したのは悲劇である。暴徒たちは、米国で制作されたアマチュアフィルムが預言者ムハンマドを冒涜したものだとして、領事館に火を放った。」とガルフ・ニュースは9月13日付の論説の中で報じた。

世界各地における米国務省職員の活動は、米国人が一個人として国内で行っている(或いは行っていない)かもしれないことと無関係である。そして、米国内におけるイスラム教徒を敵視する偏見やプロパガンダに対抗していく正しい手段は、米国内の司法手続きを経て法廷で戦うことである。「もし問題のビデオがイスラム教徒の感情を刺激する意図をもって制作されているとしたら、明らかに間違っている。しかしそれが誤りだとしても、米国の領事館を襲う行為も間違ったものであり、なんの解決策にもならない。」と同紙は付け加えた。

 一方、カリージ・タイムズ紙は、この事件について論説の中で、「リビアは無秩序が支配する混乱期にある。カリフォルニア州を拠点としたイスラエル人映画製作者が作成した冒涜的な作品を巡って米国政府の代理人が殺害されたのは不幸な出来事であった。しかし、米国政府はこの事件に客観的に向き合い、民衆が憤慨している原因を調査しなければならない。重要なことは、政治が介入したりこのような問題を巡って特定の側に肩入れするようなことがあってはならないということである。また今回の事態を誘発した者や暴力に加担した者たちの責任は追求されるべきである。」と報じた。

ナショナル紙は、「リビア米領事館襲撃事件後、双方の過激主義と戦うべき」と題した13日付論説の中で、「(大使らを殺害した)卑劣な連中が影響力を及ぼすことになったのは不幸な事実だ。米国政府はスティーブンス大使並びに3名の領事館員の命が失われたものの、ベンガジで発生したこの挑発に過剰反応することを避ける責任がある。」

双方において過激主義が台頭すれば、その状況から利益を得るのは過激派のみで、敗者は、文化間の平和的な相互理解を志向する人々、ということになってしまう。

「成熟した思慮深い大統領候補ならば、今回の事件に対して自制した行動をとるだろう。はたしてそうした候補がどの程度いるか、今後の展開から明らかになるだろう。」とナショナル紙は報じた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|南米アマゾン|ヤノマミ族虐殺をめぐる謎


【カラカスIPS=ウンベルト・マルケス】

ベネズエラ南部のアマゾン奥地で7月上旬、先住民ヤノマミ族の80人がブラジルから越境してきた違法金鉱採掘業者(ガリンペイロ)らによって虐殺されたと報じられている。虐殺の生存者3人が報告した。

ベネズエラ最南部のアマソナス州(175,750平方キロ、15の先住民族グループの故郷)で活動しているカトリック教会のホセ・アンヘル・ディバソン司教によると、近年、ブラジルから金の採掘者が違法に越境し、ヤノマミ族と関係を築いて便宜を図ってもらおうとしていたという。しかし、時としてその関係が崩れることがある。同地では1989年から環境保護法が施行され鉱業が禁じられていた。

 8月27日、「オロナミ・ヤノマミ機構」は、アマゾナス州都プエルト・アヤクチョの検察に対して、7月上旬にイロタテリ部落で起こった虐殺の様子について調査するよう要請した。ホロナミの指導者ルイサ・シャチヴェ氏は、森に猟に出ていて難を逃れた3人の生存者の証言として、「ガリンペイロらはイロタテリ部落に突然ヘリコプターで現れ、爆発音と銃声が聞こえたと思うと、彼らの集落(シャボノ集落:巨大な木と藁葺きの円形の家で、中央の広場を囲む形になっており、多くの家族がその中でそれぞれのスペースを割り当てられて一緒に暮らしている:IPSJ)がもう燃えていた。集落には80人のヤノマニ族が暮らしていた。」と検察当局に報告した。

後にイロタテリ部落を訪れた隣の部落(ホコマウェ)の住民も、集落が完全に焼き払われているのを発見。ある家屋では黒こげの死体や骨を見つけた。「オロナミ・ヤノマミ機構」によると、知らせを受けたシャチヴェ氏は、7月27日に、同地域を管轄するベネズエラ陸軍第52部隊に事件の報告を行った。

ブラジル社会環境協会のマルコス・デ・オリヴェイラ氏はベネズエラの日刊紙エル・ナショナルの取材に対して、「負傷したイロタテリ事件の生存者は、国境を越えてブラジル側のヤノマミ族の村落に逃れ、手当を受けた後、親戚がいる部落に引き取られた。」と語った。

世界中の部族の人びとの権利を擁護してきた国際団体「サバイバル・インターナショナル」は9月3日付の声明の中で、「事件が報告された部落はかなりの僻地にあるため、死体を目撃した部族民が最も近い集落に悲劇を伝えるまでに数日歩かなければならなかった。」と述べている。

アマゾナス地域の13の先住民族団体も「ホロナミ・ヤノマミ機構」の告発に連帯を表明し、「オカモ川(オリノコ川の支流)上流のヤノマミ族居住地域は、ブラジルからのガリンペイロの侵入によってこの4年間被害を受けてきた。」と声明で述べている。

先住民族らは同声明の中で、「2009年以来、我々はベネズエラ政府当局に対して、採掘業者らによる暴力や脅迫、女性の搾取、水銀による環境汚染(1グラムの金を採るには通常2グラムから3グラムの水銀が必要とされる:IPSJ)などで多くのヤノマニ族が死亡していると訴えてきた。にもかかわらず、ベネズエラ当局はガリンペイロを追放する効果的な対策やこの地域への侵入を取り締まる計画を策定していない。」と述べている。

その上で先住民らは、「生命・健康・文化的統合が危機に晒されているヤノマミ族の苦境に対処するための取り組みを、ブラジル政府との二国間協力の合意のもとに実施する」よう、ベネズエラ政府に要求した。また彼らは今回の事件が、(ヤノマミ族16人が採掘者に殺された)1993年のハシム虐殺(写真はハシム虐殺の犠牲者の遺灰を収めた壷を抱く生き残ったヤノマミ族の遺族達)から20年近く経過して起こった点を強調した。

1993年の6月と7月、ガリンペイロらがブラジル‐ベネズエラ国境にあるハシムで16人のヤノマニ族を殺害した(当時ニューヨークタイムズ紙は実際の犠牲者は76人に達すると報じた)。虐殺に関与したとみられた24人のうち、5人が有罪宣告を受けブラジル国内で収監された。その後15年にわたる法手続きを経て、ベネズエラ政府は、ヤノマニ族定住地域において監察、管理、保護、ヘルスケアの提供を行うべきとする、米州人権委員会の要求に合意した。

「(今回の虐殺が)ベネズエラ史上初めて先住民の権利が憲法に明記され(ウーゴ・チャベス左派政府の下で)社会主義建設に向けた革命が進行している中で起こったことは、実に腹立たしい。」と先住民と連携して環境保全に取り組む団体の責任者であるルスビ・ポルティージョ氏はIPSの取材に応じて語った。

サバイバル・インターナショナルのスティーヴン・コリー代表は、「全てのアマゾン地域に領土を有する各国政府は、「地域に蔓延った違法採掘、違法伐採、先住民居住地域への違法入植活動を停止しなければなりません。こうした違法活動が、先住民の男女・子どもの虐殺に繋がっているのです。ベネズエラ政府当局は、迅速に犯人に裁きを受けさせ、今後は先住民を殺害すれば必ず罰せらるというメッセージを地域全体に送らなければなりません。違法採掘及び違法伐採はやめさせなければなりません。」と語った。
 
イェクアナ族出身のニシア・マルドナド先住民族相は、9月1日、国営テレビの取材に対して、軍・検察官などからなる政府の調査チームが虐殺があったとされるジャングル奥地にヘリコプターで向かったが、「いかなる殺害が行われたという証拠も発見できなかった。」と語った。

タレク・エル・アイサミ内務・司法相は、9つあるヤノマミコミュニティーのうち7つにコンタクトをとったが、暴力の痕跡は確認できなかった、と語った。また、ヘンリー・ランゲル国防相も、「いわゆる虐殺というものは確認されなかった。これはおそらく数週間前に誤って報道された暴力事件と混同したものかもしれない。」と語った。

サバイバル・インターナショナルは、こうした政府側発表について「私たちは、政府の調査チームが、虐殺が行われた地域に到達さえしていないと考えています。このような状況下では、事実関係が分別を持って立証されるまでに(もし立証されればだが)長い時間がかかるのは、当たり前のことです。」と述べている。

オカモ川上流域で活動している宣教師のように虐殺の起こった地域に詳しい人々は、イロタテリ部落に到達するには歩いて数日を要すると述べている。

報道によればガリンペイロスらは、こうしたジャングルの奥地に到達する手段としてヘリコプターを使っており、上空から発見されないよう、森の木々を伐採せず、隠れ蓑にして採掘活動を行っているという。

ヤノマミ族は狩猟・採集を主な手段として生活しているラテンアメリカ最古の先住民の一つで、ベネズエラ南部の一部とブラジルのロライマ州とアマゾナス州が接する地域に、約20,000人が暮らしている。彼らがここアマゾン熱帯雨林地域に暮らし始めたのは約25000年前に遡るといわれている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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「国際食糧価格が再び歴史的な高騰」と世銀が警告

【ワシントンIPS=キャリー・バイロン】

世界銀行が8月30日に発表した統計によると、ここ数か月下落傾向にあった世界の食糧価格が一転して再び高騰している。7月の価格は前月より10%高く、世界で取引されている食料品価格の動きを示す世銀の食料価格指数も7月は前年同期比で6%の増となっている。

ジム・ヨン・キム世界銀行総裁は、「食料価格の高騰で数百万の人々の健康と生活が脅かされている」とし、「特に影響を受けやすいのはアフリカや中東だが、穀物価格が高騰している他の国々の人々への影響も大きい」と懸念を示した。

この統計(世銀の四半期報告書「フードプライスウォッチ」)によると、7月は前月よりも、トウモロコシと小麦の価格は25%、大豆は17%上昇した。その結果、穀物価格全体では、最近の価格ピーク時である2011年2月よりも1%上回っている。

 キム総裁は、世銀がこの状況を受けて過去20年で最大レベルの農業支援体制をとっている点を指摘したうえで、「この歴史的な食糧高騰に直面して、多くの家庭が子ども達の通学を控えさせ、栄養価のより低い食糧の摂取を余儀なくされています。危機的な状況を回避するためにも、世界各国の政府は、最も影響を受けやすい人々を保護するための政策やシステムを強化しなければなりません。」と語った。

ここ数か月間、食料問題に関するNGOなどは、ほぼ危機的レベルに達した食糧価格の再高騰問題に対する国際機関や各国政府の反応の鈍さを批判していた。「オックスファム」のコリン・ローチ氏は、「今回の世銀レポートは、食糧価格の急激な変動に対する行動が緊急に求められているという警鐘を各国政府に鳴らしたものといえるが、彼らが聞く耳を持つかどうかはわからない」と語った。

8月27日、国連食糧農業機関(FAO)のジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ事務局長は、G20に対して、食糧価格高騰に対する協調行動を求めたが、G20は、米国の9月の作物統計が発表されるまでは様子見の姿勢を取ることを決めた。

これに対してローチ氏は、「G20は、食料価格の上昇が制御不能となり、より多くの人々が飢餓に追い込まれる前に、今こそ行動を起こさなければなりません。とりわけ世銀報告書が、食料価格が引き続き変動しやすく高止まりになると警告している中で、G20がこのような様子見の態度を示している現状は、全く受け入れられるものではありません。」と警告した。

持続可能な農業政策の復活が鍵

今日、米国と欧州の一部を席巻している旱魃に対する懸念が高まっている。米国はトウモロコシと大豆の世界最大の供給国であることから、米国一国の旱魃状況の結果によっても、世界の穀物備蓄や食糧価格は、壊滅的な影響を受ける可能性がある。

8月中旬現在で、米国政府は国内1800近くの郡を、厳しい旱魃による被災地と分類した。今年の旱魃は、たとえ間もなく収束したとしても、多くの穀物について既に今年の収穫分を台無しにしてしまっている。

7月下旬までに、米国産トウモロコシの4分の3近くが、公式に極不良(Very Poor)から普通(Fair)と評価された。5月の時点では記録的なトウモロコシの豊作が予想され、多くの人々が、その余剰穀物で枯渇した諸外国の食糧庫を支援できると期待していただけに、6月以降の不作は思わぬ展開であった。

最新の世銀報告は、食料価格が2008年以降高止まり傾向を示す一方で、今年も昨年に引き続き作況が不安定な状況が続いている深刻な現状を浮き彫りにしている。

2008年には複合的な要素が重なり合って、突如歴史的な食糧価格の高騰と食糧不足が発生し、世界的に深刻な状況に陥った。当時、突然の展開に驚いた政策責任者も多く、これが契機となって、それまで20年に亘った農業部門に対する世界的な投資削減傾向が逆転されることとなった。

「2008年に現出した食糧価格高騰の問題は、とりわけ開発途上国を悩ませ続けています。その後、農業に対する投資の必要性が見直されてきましたが、それらは高度な技術を中心とした長期的な研究に偏っており、180度の発想転換が必要です。」と、ワシントンDCに本拠を置く「ワールドウォッチ研究所」のNourishing the Planet(地球を養う)プロジェクト責任者であるダニエル・ニーレンバーグ氏は語った。

ニーレンバーグ氏は、2008年危機後に復活した農業政策において見過ごされているものは、「機能すると既に私たちが知っていること」だと言う。つまり、雨水や自然の肥料を使った持続可能な農業に目を向けることである。また、ニーレンバーグ氏は、近年軽視されてきた、各国ごとの穀物及びその他食糧の備蓄政策を復活すべきだと指摘した。

「今回の旱魃経験から希望の兆しを見出すとすれば、それはおそらく、欧米諸国が多くのアフリカ農民が旱魃と闘う知恵として実践してきた持続可能な知恵に改めて着目できるのではないかという点です。今こそ、欧米諸国が開発途上国に関心を向ける良い機会です。途上国の農民には多くの学ぶべきものがあるのです。」とニーレンバーグ氏は語った。

変わりゆく農業

ニーレンバーグ氏は、現在進行している状況の全貌が理解されるまでに、少なくとも1年はかかるだろうと見ている。一方、専門家の中には、今日の状況はおそらく新たな日常になるのではないかと示唆する者もいる。

地球政策研究所のレスター・ブラウン氏は、IPSの取材に対し、「私たちは豊かな時代から欠乏の時代への過渡期に差し掛かっているのではないかと感じている。」と語った。

ブラウン氏は、その背景として、世界の人口が急激に増えていることだけではなく、人びとがより豊かな食生活を目指すようになっているという事実にあると指摘した。この10年間だけでも、世界の穀物需要は年間2100万トンから4100万トンにまで伸びた。

近年、とりわけ2008年の経済危機に向けて、バイオ燃料需要が穀物備蓄に及ぼす影響が幅広く感じられたものだが、ブラウン氏によると、バイオ燃料需要は既に下落傾向にあるという。

「最も一般的なバイオ燃料であるエタノール問題を別に考えたとしても、私たちが直面している大きな問題は、世界中で30億もの人々の食糧需要、とりわけ中国において肉需要が急速に伸びるてきている現実である。」とブラウン氏は語った。

一方、長年に亘って、肥沃な土地が世界各地で益々不足してきている実態が明らかになってきている。さらに今日では、世界3大穀物製造国である中国、インド、米国をはじめ、世界各地で灌漑用水の不足が顕在化してきている。

ブラウン氏は、「私たちが知っている形態の農業は、1万1千年にも亘って驚くほど気候が安定した時期に発達したもの、すなわち、気候体系の中で最大の収穫を挙げるようデザインされたシステムだということを理解する必要があります。」と指摘した上で、「しかし今日、この気候体系が変化しつつあります。つまり気候が常に不安定な時代に突入しており、年を経るごとに気候体系と農業体系が、お互いに少しずつ調和を保てなくなってきているのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【アブダビWAM】

「テログループを追跡し国際テロ組織アルカイダその他の武装反乱勢力を撲滅する行為は正当なものである。しかしだからといって、その過程で無辜の人々の命が奪われることは決して許されることではない。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が報じた。

「このまま民間人の死者が増え続けると、政情不安は益々深刻化し、アルカイダに対する戦争の目的そのものが頓挫しかねないことになるだろう。犠牲者の多くは、米軍が反政府武装テロリストを抹殺する手段として採用した作戦上の手法(ドローン攻撃=無人攻撃機による攻撃)が実施に移された状況の中で命を落としているのだ。」とガルフ・ニュース紙は9月7日付の論説の中で報じた。

 「米軍はテロリストと認定された個人を追跡・抹殺する手段として、イエメンを含む様々な国で無人攻撃機を利用する方針を打ち出している。しかし、ドローン攻撃は、一方で効果が確認されているものの、誤爆・巻き添えなど、ターゲットを捕捉・殲滅する過程で、周りの無関係な住民を無差別に巻き込んできたことから、厳しい批判に晒されている。」と同紙は付加えた。

9月2日、アルカイダのメンバーを狙ったとみられるドローン攻撃が行われ、女性を含む13人の市民が殺害される事件が発生(イエメン中部ラッダ地区で、無人機が車列を空爆し、アルカイダメンバーとみられる10人と、同乗していた女性3人が死亡。標的であったとされるアルカイダ幹部アブドゥラフ・ダハブ容疑者は生きているという:IPSJ)し、イエメン各地で抗議の声が上がっている。アブド・ラッボ・マンスール・アル=ハーディー大統領(右下写真参照)も、この事態を受けて、事態を究明するための調査を命じた。イエメンでドローン攻撃を実施しているのは米軍のみである。

「イエメンをアルカイダをはじめとした武装テロ組織の拠点にさせないためにも、アルカイダとの戦いは重要である。しかしこの戦争は戦いの性質からいっても、長期に亘るものであるとともに、各関係諸機関間の密接な連携が不可欠である。そして何よりも、民間人の安全確保を最優先することが重要である。そしてそれは(同国で唯一ドローン攻撃を実施している)米国の責任なのである。」とガルフ・ニュース紙は強調した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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母になることを強いられるニカラグアの少女妊婦たち

【マナグアIPS=ホセ・アダン・シルバ】

13歳で妊娠したカルラ(仮名)はすべてを失った…1年目の中学生活も、家族も、恋人も、そして自分の幸せも。彼女は、ニカラグアの首都マナグアの路上で1年間物乞いの生活をした末に、若い母親のためのシェルターに保護された。

彼女の生活が一変したのは2006年12月のこと。小学校の教員にレイプされたカルラが妊娠3か月であることを母親が発見したのだ。母はカルラをベルトで打ちすえ、家族をもう一人養う余裕はまったくないと言って、家から追い出した。

 身重のカルラは隣人の家に身を寄せたが、食事を与えられず、街頭でお菓子を売ったり、バスの停留所で物乞いをしてしのいだ。お金やドラッグ、食べ物と引き換えに体を売ることを求める男たちからの嫌がらせに悩まされる日々だった。カルラはやがて出産したが、赤ちゃんは呼吸器不全による死産だった。

カルラは当初、国際的な子ども支援団体「コブナント・ハウス」(本部:ニューヨーク)のラテンアメリカ支部である「カーサ・アリアンザ(Casa Alianza)」によって保護された。その後15才で学校併設のシェルターに移り、そこで美容術を学んだ。現在19才のカルラは、美容部門で働きながら、彼女が「私の命を救ってくれ、私にも人権があることを教えてくれた所」と呼ぶシェルターで、今度はボランティアとして、かつての自分と同じような境遇にある若い母親たちに支援の手を差し伸べている。

カルラには、危険に晒されている子供や青少年への支援を行っているNGOの紹介で取材を行ったが、彼女のような事例は、事情に関わらず中絶を一切認めていないニカラグアで、大きな割合を占めるようになっている。
 
人口580万人のニカラグアでこの10年間に公的な医療体制の中で生まれた子どもは130万人だが、このうち36万7095件は少女によるものであり、さらに17万2535件は14才以下の少女によるものである。つまり、出生のうち13%が14才以下の母によるものだということになる。

世界的な子ども支援団体「プラン・インターナショナル」ニカラグア支部のオスマニー・アルタミラーノ博士によれば、ニカラグアにおける若年妊娠の問題は依然として深刻だが、改善しつつあるという。

「2000年現在、出産全体に占める思春期の少女の割合は31%でした。ニカラグアにおける十代妊娠の割合は、依然としてラテンアメリカ最悪であると同時に世界最悪レベルではあるものの、以前より改善してきています。」とアルタミラーノ博士は語った。

ラテンアメリカ・カリブ地域人口センターが2007年に発表した報告書によると、ニカラグアにおける十代の妊娠率はラテンアメリカで最悪の数値であった。

ニカラグアにおける出産年齢(10歳~49歳)人口は女性人口全体の65%を占めており、そのうち37%が10歳から19歳の少女である。

アルタミラーノ博士は、ニカラグアにおける10代の妊娠問題の背景には、貧困の再生産サイクルがあるという。貧困下にある少女たちは子どもを産むのに必要な身体が十分出来上がっておらず、赤ちゃんも低体重であることが多い。また博士は、そうした少女達の47%が義務教育を終えておらず、事実上教育を受ける権利を失った状態に置かれている現状を指摘した。

「彼女たちの多くは、専門的な訓練や経験を一切受けていないため、不利な条件の仕事を探さざるを得な立場に追い込まれます。一方、家族に見放されて通りに投げ出され、結果的に性的搾取の犠牲者になるケースも少なくありません。」とアルタミラーノ博士は語った。

世界保健機関(WHO)が2009年に発表した統計によると、毎年15歳から19歳の1600万人の少女が出産しており、この数値は世界における総出産数の11%を占めているという。

マナグアでストリート・チルドレンの保護に取り組む団体「キンチョー・バリレーテ協会」のカルラ・ニカラグア氏によれば、2011年に行われたある調査で、マナグアの十代の妊婦のうち60%が、親せきや同級生、隣人、さらには父親によって性行為を強要されたと答えたという。

ニカラグア社会では、妊娠・出産することは当然だという考えがあり、女性は出産を法的に強要されるという背景があるという。同国では、依然として、いかなる理由があっても妊娠中絶は法的に禁止されている。

ニカラグアでは、14才未満の子どもと性的関係を持つことは、たとえ本人の同意があったとしても、レイプとみなされ、12~15年の懲役を科すと法定している。しかし、2011年に発表された報告書「ニカラグアにおける性暴力に関する統計」によると、レイプ被害者の約40%は、司法制度を利用できる状態にはなかった。

この報告書では、政府の法医学研究所(IML)と国家警察婦人・子供課(the Comisaría de la Mujer y la Niñez)の記録が比較検討された。

同報告書は、IMLが2011年におけるレイプ被害者の法医学検査データとして総計4409件を報告しているのに対して、国家警察婦人・子供課は、検察官に取り上げられた僅か2047件しか記録していなかった。

IMLの記録によると、法医学検査が行われた少女達の85%が未成年の少女であった。そのうち、36.5%が、13歳から17歳の少女達、49%が12歳以下の少女達であった。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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核軍縮論議再活性化に努力するドイツ

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【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ

ジュネーブ軍縮会議(CD)は、わずか数か国の強国の既得権益のためにただのおしゃべりの場と化してしまった。これらの国の同意がなければ、核兵器廃絶は言うに及ばず、真の核軍縮は現実のものとして見えてこない。

ドイツのヘルムート・ホフマン大使が、すべての核兵器国を含めた[CD参加国の]64か国に対して、核兵器を世界からなくすためにCDを大いに利用しようと熱意をもって呼びかけたのは、こういう背景があってのことである。ドイツは、8月20日からCD議長国をフランスから引き継いた。

ホフマン大使は、CDが核軍縮・不拡散問題に関する新協定を交渉する唯一の常設多国間機関であるべきかという(近年慣例となってきた)論争を行うだけでは実りがない、という的確な指摘を行っている。

 ホフマン大使は、「国連ラジオ」の取材に応じて、「私は、CDがその能力を積極的に利用する、すなわち、その任務を果たすような場であれば、議長として我々の作業を司ることを光栄だと感じることができるだろうと申し上げておきたい。しかし残念ながら、我々が皆わかっているように、CDはこの10年以上、多くの理由によってそのような状態ではありませんでした。」と語った。

また、ベルリンではドイツ外務省が、議長国期間の4週間(8月20日~9月14日)を、「CDの作業に新しい命を吹き込むこと、とりわけ、核分裂性物質の生産と移転を禁止する条約(FMCT)の交渉を速やかに開始する可能性を探ることに使いたい」との意向を明らかにしている。

FMCTは、核兵器あるいはその他の爆発装置のために核分裂性物質をさらに生産することを禁止する国際条約の提案である。しかし交渉は未だに開始されておらず、条文の中身は定義されていない。

世界の二大核兵器国である米国とロシアは、核分裂性物質の定義で意見を異にしている。米国は、核分裂性物質には高濃縮ウランとプルトニウムを含み、Pu-238の割合が80%を超すプルトニウムを含まないとしている。

他方、ロシアの提案では、核分裂性物質とは、兵器級のウラン(U-235の割合が90%以上)と、プルトニウム(Pu-239の割合が90%以上)に限られる。

しかし、どちらの提案でも、民生用や軍艦の原子炉など、非兵器用途で核分裂性物質を生産することは禁止されないことになっている。

したがって、CDで近年新しい条約交渉を始めることができなかったのは驚きに値しない。この一つの理由は、CDの決定は多数決方式ではなく全会一致方式によるためである。各参加国に拒否権があるため、CDの活動は1996年以来機能不全に陥っている。

結果として、4つの主要課題(FMCT、宇宙空間における軍拡競争の防止、核軍縮、非核兵器国に対する消極的安全保証)には大きな進展がみられていない。

CD議長国フランスのジャン=ユーグ・サイモン=ミシェル大使が、CDが作業計画に関する意見の一致に到ることができなかったことを遺憾に思うとの見解を表明したのは、これを念頭に置いてのことである。しかし一方で、テーマ別討議においては、多くの参加国が「相互作用的なやり方で」見解を表明した点も、大使は付加えた。
 
ジュネーブ軍縮会議は、1979年、軍縮に関する国連の中心的な常設機関として創設された。10か国軍縮委員会(1960年~61)、18か国軍縮委員会(1962~68)、軍縮委員会会議(1969~78)など、ジュネーブにあった交渉枠組みを引き継いだ。

CDは、軍縮・軍備管理・不拡散問題を取り扱う世界で唯一の多国間交渉枠組みであり、年間に24週間開催され、会期は3回に分かれている(加盟国がアルファベット順に4週間交代で議長国を務める:IPSJ)。ドイツが議長国となるのは10年ぶりのことで、2012年の第3会期(7月30日~9月14日)の最後の議長国を務めることになっている。

ドイツ外務省筋は、「我が国は、軍縮と軍備管理を積極的に進めてきた。パートナーとともに、CDの行き詰まりを打開すべく、さまざまな取り組みを行ってきた。最近では、オランダと共同で、FMCTに関する技術的準備作業に関するイベントを開催した。」と述べている。

ギド・ヴェスターヴェレ外相は、核軍縮の必要性を繰り返し指摘し、核分裂性物質生産禁止条約を主唱してきた。この点で、ジュネーブでの協議は重要な役割を果たしている。

「ドイツを含む10か国で構成される『軍縮・不拡散友のグループ』は、ジュネーブ軍縮会議の再活性化と核分裂性物質生産禁止条約の交渉開始を繰り返し呼び掛けてきた。しかし、今日に到るまで、一部のCD参加国の妨害的な態度により、この取り組みは功を奏していない。」

行き詰まる交渉

会議の参加者は、何が問題なのかをよくわかっている。しかし、既得権益が交渉を妨げてきた。

CDの今会期では、放射性物質兵器など、新しいタイプの大量破壊兵器やそうした兵器の新しいシステムに関する、国連軍縮研究所(UNIDIR)の準備した背景説明資料を討論の素材としてきた。

この問題は1969年にマルタによって初めて国連総会に提起され、CDはその後、レーザー技術の軍事的応用の可能性の持つ意味について検討することを任務としてきた。

1975年、当時のソビエト連邦が、新型大量破壊兵器・新システムの開発と製造を禁止する国際協定案を国連総会に提出した。

しかし、西側諸国は、特定の大量破壊兵器の禁止に賛同しながらも、将来開発される兵器を特定せずに禁止する包括条約を締結することには反対した。1980年代、放射性物質兵器に関する付属機関がいくつかの作業文書を検討したが、コンセンサスは得られなかった。

議長職を終えるフランスのサイモン=ミシェル大使が指摘したように、1993年以来、付属機関は設置されていない。2002年、ドイツは、新しい脅威という文脈において、この問題を再検討する討議文書を提出した。しかし、その後も、討論はまとまっていない。

包括的プログラム

またサイモン=ミシェル大使は、1980年以降CDの議題であり続けながら、1989年以降は付属機関を要するような問題ではないと見なされてきた、軍縮に関する包括的プログラムの歴史についても概略を述べている。

核軍縮を、放射性物質兵器や生物兵器化学兵器のような他の分野における軍縮の進展と同時並行的に行うべきものとすべきかどうかということについて、各国の意見は割れている。核軍縮は、他の分野における交渉を前提とすべきではないとの意見の国もある。

CDの文書によれば、一部の国は、大量破壊兵器が非国家主体やテロリストの手に渡ることで破滅的な危険がもたらされることを今会期において強調し、ある(匿名の)国は、大量破壊兵器と同じように、安定と安全保障を脅かす能力を持つ新型の情報通信技術に焦点を当てている。

核不拡散条約(NPT)未加盟で核兵器国であるインドは、核軍縮だけではなく、国際の平和と安全を維持するのに重要なその他の兵器および兵器システムも併せて検討する「包括的軍縮プログラム」を志向している。こうしたプログラムの原則は、普遍的に適用可能かつ関連性を持つものでなければならず、この点において、CDは世界で唯一の多国間軍縮枠組みとして主導的な役割を果たすだろうというのがインドの立場である。

しかし、南アジアの核兵器国でライバル関係にあるインドとパキスタンは、コンセンサスを獲得するという点では、激しく対立している。

フランスは、効果的な国際的管理の下での全面的かつ完全な軍縮はCDの究極目標であり、国連総会がしばしば用いてきた議題であると論じている。核兵器不拡散条約は、フランスがとくに重要だと見なしたものである。

しかし、フランスの代表は、CDの今会期において、核軍縮は、放射性物質兵器や生物兵器、化学兵器などの他の分野における並行的な軍縮や、戦略的文脈の全体的な相互依存関係を抜きにして考えられるものではないと主張した。

また同フランス代表は、「我が国は、30年以上に亘って、人道的な軍縮―人間に特定の害を与えるような兵器の生産を防止あるいは中止することを目的とした条約―に向けた取り組みを行ってきた。フランスはまた、『弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCOC)』の普遍化を呼び掛け、弾道ミサイルの透明化を促進する上でのこの規範の重要性を強調してきた。」と付加えた。

翻訳=IPS Japan
 
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