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|アフガニスタン|ボールペン1本で生きるカブールの代書屋

【カブールIPS=カルロス・ズルトゥザ】

モハマド・アリフさんは、70才になる今もカブールの街頭で生計を立てている。人口3050万人のアフガニスタンで未だに過半数を占める読み書きができない人々に代わって、様々な書類を用意する代書屋の仕事だ。

「私はアフガン空軍の大佐でしたが、年金だけではとても生活をしていけず、働き続けるしかありませんでした。そこで10年前からこの仕事をしています。」とアリフさんは語った。

大学に通う息子が2人いるアリフさんは、イスラム教徒の祝日である金曜日以外は、毎日朝から晩まで、カブール市内の州政府庁舎前に座って仕事をしている。アリフさんのような代書屋の職場は、庁舎を防護するコンクリート壁から道路を隔てたところに、傘を立て机と椅子を置いただけの簡素なもので、道路に沿ってずらりと一列に並んでいる。

「顧客からの依頼内容は、親戚への手紙の代筆から、時には刑務所にいる親族や知人宛のものまで様々です。しかし依頼の大半は、行政に提出する様々な書類の代筆です。」とここでは最もベテランのアリフさんは、この日の最後の仕事(相続申請に関する書類の代筆で代金約80セント)を終えたところで記者の取材に応じて語ってくれた。

Roughly 82 percent of Afghan girls drop out of school before the sixth grade, partly due to early child marriages. Credit: Najibullah Musafer/Killid
Roughly 82 percent of Afghan girls drop out of school before the sixth grade, partly due to early child marriages. Credit: Najibullah Musafer/Killid

アフガニスタンの識字の現状は、教育省の統計資料「国家識字行動計画」によると、国民の非識字率は66%、女性に限定すれば82%にのぼっている

カリム・ギュルさんも、読み書きができないため、行政手続きが必要なときには、止む無く代書屋の助けを求めている顧客の一人だ。今回ギュルさんが抱えていた問題は、車を売却したものの代金が未払いのままにされたため行政に訴えるというものだった。

「私は子どものときに両親に連れられて東北部のバダフシャーン州からカブールに移ってきましたが、両親は『地元の子どもたちにバカにされるだけだ』と言って、学校には行かせてくれませんでした。」とギュルさんは当時を回想して語った。タジク人のギュルさんはまだ32歳にも関わらず、読み書きを覚えるには「すでに年を取りすぎている」と思い込んでいる。

ギュルさんのような顧客は、通常2~3分も待てば自分の順番が回ってくる。ここでは15人の代書屋が店を構えているが、皆その道の専門家だ。中でもグラム・ヘイダー(65)さんはかつて州庁舎に数十年勤務していたベテランだ。

‘Copyists’ (transcribers) in Afghanistan can earn up to one dollar for each letter or document they prepare for their illiterate customers. Credit: Karlos Zurutuza/IPS
‘Copyists’ (transcribers) in Afghanistan can earn up to one dollar for each letter or document they prepare for their illiterate customers. Credit: Karlos Zurutuza/IPS

「私は8年前に定年を迎えたのですが、生活のために働き続けるしかありませんでした。この年では肉体労働はきついので、公務員時代の技術を生かせるこの仕事は自分にとっては『天職』です。」とカブール出身のヘイダーさんは語った。

「ここでの代書屋の収入は、依頼内容にもよりますが、だいたい1回あたりの報酬は20~100アフガニ(0.3~1.7ドル)です。従って月収には波があります。しかしそれでも、読み書きができない同胞の手助けをして得られる収入は、公務員の平均的な月収203ドルよりは「遥かに良いもの」です。」とヘイダーさんは語った。

すると隣に座っていたシャハブ・シャム(46歳)さんが頷いて、次のように語った。

「私はこの13年間、この代筆業でなんとか生活を維持し、子どもたちを学校に通わせています。アフガニスタンでは全ての人が働けるほど十分な仕事はありません。それに加えて、深刻な汚職の問題があります。つまり、パスポートをはじめとする公的な証明書の申請から、子どもの学校入学、病院やあらゆる政府機関での申請手続きまで、常に賄賂が要求されるのです。」とカブール大学工学部で学位を取得しているシャムさんは語った。

ゼロから取り組んだ非識字問題

Map of Afghanistan
Map of Afghanistan

アフガン監視・汚職対策高等事務所(HOOAC)と国連薬物犯罪事務所(UNODC)の共同調査によると、2012年、アフガン国民の半数が行政への各種申請等に際して賄賂を払ったという。また同調査報告書には、「ほとんどのアフガン国民が、国が直面している最大の難題として、貧困、外的な影響、政府の政策遂行能力といった問題よりも、汚職と不安定さの問題を挙げていた。」と記されている。

しかも興味深いことに、このところ国民の賄賂に対する容認度が、上昇傾向にある。2012年の調査では、68%の回答者が、行政の利用に際して公務員に少額の賄賂を支払うことは容認できると答えている(2009年調査では42%)。

また同様に、回答者の67%が、政府などへの人事採用に際して親族や知人などの「コネ」を使うことは「たまには認められる。」としている(2009年調査では42%)。

レイラ・モハマドさんは、公務員になる機会など想像もできない境遇を生きてきた人物だ。今日のアフガニスタンでは女性の行政職員に出くわすことは、もはや不思議なことではなくなったが、多くのアフガン女性にとって、非識字の問題は依然として乗り越え難い障壁となっている。ブルカを身に纏ったモハマドさんは、日中に3人の子ども(年長の子どもが10歳)を連れて外出した際に暴行をうけた件について、犯人を告発したいと、代筆者に要件を説明した。

アブドゥルラーマン・シェルザイさんは、モハマドさんの訴訟手続き書類への記入を終えると、「連日、こうした訴えを数件耳にします。」と記者の取材に応じて語った。さらにモハマドさんから書類作成料を受け取ると、「問題だらけの大統領選挙プロセスにあまりにも多くの時間が浪費され、国内の多くの企業やビジネスが政府の補助金に依存してきた結果、経済も行き詰ってしまっています。ついには絶望した輩の中には、社会で最も弱い立場にある人々を襲う者もでてきているのです。」と語った。

13年間に亘ったハーミド・カルザイ大統領の任期満了を受けて実施された大統領選挙では、4月5日の第一回投票に続いて6月にはアシュラフ・ガニ元財務相アブドラ・アブドラ元外相の間で、決選投票が実施されたが、大規模な不正疑惑が浮上し、800万票に及ぶ全ての票を再集計する事態となった。

Najibullah Musafer/Killid
Najibullah Musafer/Killid

しかし9月21日には両候補が挙国一致政府の樹立に合意したため、ガニ氏の新大統領就任と、アブドラ氏の(首相職に相当する新設ポストの)行政長官就任が決定した。しかし一方で、独立選挙管理委員会による票の再集計・調査結果が公表されることはなかった。

グラーム・ファルーク・ワルダック教育大臣は、大統領選の経緯について、「アフガニスタンの非識字の問題がなかったら、こうした混乱は起こらなかっただろう。」と指摘したうえで、「しかし一方で留意しておいていただきたいのは、アフガン政府は非識字も問題にゼロから取り組んできたという事実です。僅か12年前、この国の非識字率は実に95%にのぼっていたのですから。」と語った。

またワルダック教育相は、「統計結果を見て将来に楽観的な希望がもてるようになりました。つまり12年前に学校に通っていた子どもはわずか100万人だったのが、現在では1300万人近くに、教員の数も12年前の2万人から20万人に拡大しているのです。2015年には完全就学が達成されるでしょうし、2020年にはアフガニスタンでの完全識字が現実のものとなると見ています。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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世界市民育成を阻害する子ども向けメディアの商業化

【クアラルンプールIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

専門家らによると、子ども向けメディア、とりわけテレビ番組の行き過ぎた商業化が、世界の多様性に対する子どもたちの意識を高め世界市民を育成するための教育と能力構築を目的とした取り組みを阻害しているという。

最近クアラルンプールで開催された「世界子どものためのメディアサミット」の発言者の多くが、子ども向け番組の大多数が商業的な観点から制作されており、教育的なものではないという、「オーストラリア児童テレビ財団」のパトリシア・エドガー元会長の意見に賛同した。

エドガー氏は、9月8日から10日まで開催されたサミットの参加者に向かって「これらの想像性に乏しく低コストで作られたテレビ番組は、商品を売込むことを目的に制作された娯楽にほかなりません。」と指摘したうえで、「効果的な教育番組とは、良い価値観や建設的なメッセージを伝えるものであり、もっとも重要なことは、子どもの社会的・情緒的な発達を促す地元の要素を含んでいることです。」と語った。

エドガー博士は、「子どもを過剰に保護し『空想的な世界』に住まわせるのではなく、子どもが『現実の世界』を理解し、問題に適切に対処する方法を教えることが重要です。」と語った。

マレーシアのナジブ・ラザク首相夫人であるロスマー・マンソール氏は、子ども向けの番組は、多民族・多宗教社会で生きていくための「信条や態度、行動を形成するような価値のある教訓を教える」内容でなければなりません、と語った。

子ども向けのメディアは、営利目的の商品ではなく教育ツールと見なされるべきというのがマンソール氏の考え方だ。教育者は、子どもたちの反省的で批判的な思考を養い、好奇心を引き起こすための教育ツールとしてメディアを使う技術を習得する必要がある。一方、政府の規制当局や政策立案者は、規制を緩和するよりも、教育・情報番組の質と量を向上させる効果的なツールとして法整備やインセンティブを駆使しながら、メディアコンテンツの充実に取り組んでいく必要がある。

「子どもは、ステレオタイプ化ヘイトスピーチいじめを通じて紛争を生み出している負の側面だけではなく、人間の取組みの最良の部分も見る必要があります。よい番組制作を進めていくことで、子どもたちがメディアの内容に対して自身の心に不快な情緒反応が生じた際の対処能力や、テレビやCMの暴力表現に関して批判的な判断をする能力を育てていくことができるのです。」とマンソール氏は語った。

国連は世界市民育成のための3つの重要な政策領域を指定しており、これらすべてが子どもの教育的・知的発達と関係している。すなわち、①全ての子どもを学校に通わせること、②学習の質を高めること、そして③教育を、「共有の価値」に命を吹き込む変革的なプロセスにすること、である。

今日の子ども向けメディアに対しては、特にテレビ番組について、そうした「共有された価値」こそが、欠けているという批判がある。ただし、子ども向けに作り出す「空想的な世界」の副産物である商品を番組制作者が売るために趣向を凝らすということが「共有された価値」と考える場合は別だが。

「もし良き世界市民であるための素養が、グローバルな正義への情熱と他者への思いやりを意味するのであるならば、幼いころから子どもたちに正しい価値観を教え込むような童話を、漫画や短編映像の形で開発していかなければなりません。」と非政府組織「公正な世界を目指す国際運動」のチャンドラ・ムザファ代表は語った。

ムザファ氏は、世界市民は普遍的な価値観に立脚しなければならないと考えている。ムザファ氏は、「全ての西洋の価値観が必ずしも普遍的という訳ではありません。また同じように、全ての非西洋の価値観が偏狭という訳でもないのです。」「それどころか、私たち自身の宗教や倫理の伝統の中にも普遍的なものが多く含まれています。私たちはこうした普遍的な要素を、地元の言語や芸術形態を通じて再認識し、つなぎ合わせていかなくてはなりません。このプロセスを通して、私たちは地元の文化的アイデンティティを強化していくことになるのです。」と指摘した。

地元の文化的アイデンティティを強化する

地元の文化的アイデンティティを強化するということが、必ずしも国粋主義的になるとか内向きになるということを意味しない。「実際はそれとは全く逆です」と語るのは、アルゼンチンの「IDIEMメディア研究所」のプロジェクト企画者であるアルダナ・ドゥハルデ氏だ。彼女のテレビ制作チームは、国境を越えた共通のアイデンティティに焦点をあてた番組企画を手掛けてきた。これは彼女が「社会的な種類のアイデンティティ」と呼ぶもので、地元の自然や風景に自分を重ね合わせたり、経済成長をとげて後進地域と見られたくないという願望を抱いたり、問題を自分達独自のやり方で解決するといった地元の人々の営みに焦点を当てている。

「物質的なものはそんなに重要ではありません。」「互いの言うことに耳を傾け、自分の感情を隠すことなくオープンな空間で多様なものの見方を扱うような議論を活発に展開する…つまり、真摯な気持ちを表現することが、とても重要なことなのです。」とドゥハルデ氏はIDNの取材に対して語った。

ドゥハルデ氏は、新しいメディア技術とソーシャル・メディアの広がりが、よりよい理解を促進し、若者が平和的な世界市民になるよう教育するような子ども向け番組を制作する多くの機会を与えることになるだろうと考えている。「私たちのプロジェクトは非商業的で非営利なものです。」「番組制作にそれほど費用はかかりませんが、もし子どもたちを信じれば、子どもたちはお互いを信じ、(私たちと一緒に)番組を制作してくれることでしょう。」とドゥハルデ氏は語った。

映画制作者フリードリク・ホルムベルク氏(スウェーデン)はIDNの取材に対して、公共放送の価値を再興させる世界的なキャンペーンを立ち上げる必要があると語った。「異なる声があり、もっと多様性が必要です。メディアは外に目を向けるだけではなくて、内面を見つめなくてはなりません。私たちはグローバルな視野を持つと同時に、地域の特性も考慮して行動できる人間でなくてはならないのです。」と語った。

ホルムベルク氏は、子ども向けメディアは公共投資だと見なされねばならないと考えている。「私たちは、子どもたちを消費者だと考えてはいけません。子ども向けの番組制作には多額の費用が掛かりますが、(国庫から)資金を出す必要があります。」

これは、クアラルンプールのサミットで世界各国からの発言者がしばしば支持した議論である。しかし、公的資金とりわけ、めったに使用されることがない武器を購入するために割り当てられている巨大な予算に政府が比重を置いていることにあえて疑問を呈そうとする人はいないようだった。

IDNはこの疑問を、「公的メディア同盟」(旧コモンウェルス放送協会)のモネーザ・ハスミ代表(パキスタン)に投げかけてみた。するとハスミ代表は、防衛予算の1%を子ども向けの公的放送に振り向けるだけでも、おそらく大きな違いを生み出すだろうと認めた。

ハスミ氏は、「より高度なバランス感覚と教養を身に着け、平和への意識が高い世代を作り出していくためにも、市民のための公共放送を推進することについて語っていかなければなりません。」そして「新しい世代は、より寛容になり、世界には(貧しいがために)自分達より恵まれていない人々がいるという事実を認識するようにならなければなりません。」と語った。

ハスミ氏はまた、パキスタンに住んでいることから、なぜ良き世界市民を作り出す必要があるのかについては、直接見聞きした経験を通して理解できるという。「現在は、生きること自体が非常に困難な時代であり、自分たちが育ってきた世界とは別の世界です。ふとこのことを思うと、怒りがこみあげてきます。」というハスミ氏は、「ありとあらゆるものが商業化されたことによって、私たちの価値観は破壊されてきました。」と語った。

「世の中は商業的な経済、つまり、ひたすら金儲けをし続けること自体を目的とするような経済になってしまいました。ここにはもはや、なされるべきことをするなどというものはありません。私たちは、政府がより多くの武器を作りより多くの人々を殺すのを許容してきました。(しかし)世界には正気でバランス感覚のある人たちがいます。彼らは、(教養があり寛容な)世界市民を育んで行けるような子ども向け番組を制作できるよう、前に進み出て公的メディアに出資しなければなりません。」とハスミ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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世界市民教育を通じた人権の推進

|シリア|教育を受けるために地下に潜ることを強いられる子どもたち

【アレッポIPS=シェリー・キトルソン】

アサド政権軍(政府軍)にほぼ包囲されたアレッポの街に冬はまだ到来していないが、子どもたちは既に冬物のコートをまといニット帽を被って授業に出席している。

寒く湿った地下室に設けられた教室は、政府軍による樽爆弾や空爆の被害には比較的晒されにくいが、既に大半の医師が退去するか殺害されたアレッポの街では、季節性インフルエンザが子どもたちの間で蔓延しないよう厚着をさせる必要に迫られている。

医療措置が必要な場合は、街から北へ延びる危険なルート(反政府勢力にとって残された唯一の補給路)を移動して医療設備が比較的整っているトルコ国境にたどり着くしかないのが現状である。

その地下教室に記者が訪れたのは10月下旬のことだったが、子どもたちは通学途中に、爆撃で吹き飛ばされた店舗群や、かつて衣服店、美容院、婚礼貸衣装店であったであろう辛うじて残った数少ない看板にこの街を一時支配した「イスラム国」のメンバーが黒のスプレー塗料で描いたシンボルを目の当りにすることを余儀なくされている。

「イスラム国」は、再び反政府勢力であるアレッポ市評議会が支配している同市東部の奪取を目論んで攻勢を強めており、現在はアレッポの北北東約30キロの郊外にあるマレアが戦闘の最前線となっている。

また政府軍もアレッポ東部の反政府勢力支配下の地域を完全包囲すべく攻勢を強めており、学校に通う子どもたちは、こうした政府軍がもたらす破壊も日々目の当たりにしている。現在反政府勢力は補給路としてアレッポの北部数キロに及ぶ地域をかろうじて維持しているが、この地域が陥落すれば、政府軍による包囲網が完成してしまうことになる。

2部屋からなる地下教室は、男女共学の小学校として使われている。数人の生徒は爆撃による精神的なショックを受けているように見受けられたが、子どもたちの多くは概して明るく、寒くて狭い教室にぎっしりと並べられた木製のベンチに座っていながらも、突然訪問した記者に屈託のない笑顔を見せてくれた。片方の教室の最前列に座っていた2人の少年にいたっては、肩を組んで高笑いしながら歌いだす始末だった。

Children singing in underground school in Aleppo, October 2014. Credit: Shelly Kittleson/IPS
Children singing in underground school in Aleppo, October 2014. Credit: Shelly Kittleson/IPS

「地下教室の壁は、子どもたちの気持ちを少しでも和ませようと空色に塗ったり、休日を思わせる飾り付けを並べています。」と教諭の一人が説明してくれた。廊下には、漫画の主人公を描いたポスターが数枚貼ってあった。

「教室が開いている時間は週5日、朝の9時から午後1時までです。」とここで講師を務めている元大学5年生(工学専攻)のザクラさんは、IPSの取材に対して語った。

ザクラさんは、ここで算数、英語、理科を担当しているが、一月の収入は約50ドルだという。この学校の教諭は15人全員が女性で、黒い服を体全体に纏っている。顔を出している者もいれば、顔もすっぽり覆い隠している者もいる。記者は、教師らの多くが政府軍支配地域に家族が住んでいることを理由に、彼女らの写真を撮らないよう要請された。

「ここは昨年開校しましたが、(政府軍の)樽爆弾による攻撃が激しくなり親たちが子どもを送り迎えするのが危険になったため、昨年10月から今年7月まで、一時休校にせざるを得ませんでした。」とザルカさんは語った。

ザルカさんは、ある時点でここを辞めてトルコで勉強を続けたいと考えているが、主に経済的な理由から、それがいつ実現できるか見通しがたてられない状況にある。

一方、この学校をはじめ類似の学校は6歳から13歳までの子どもしか受け入れないため、中学生以上の少年少女は自分の裁量で勉強を続けるしかないのが現状である。

アレッポ市評議会の教育部門の代表をつとめているマームード・アル・クディ氏はIPSの取材に対して、「この地域では依然として115の学校が開校していますが、ほとんどの場合、かつて平屋建てアパートだった建物や地下室などの建造物が利用されています。2011年に騒乱が起こる以前は、この地域一帯で約750校の学校がありましたが、今でもその当時の校舎が使用されている学校は20校程度にすぎません。」と語った。

政府軍はこれまでの内戦を通して、反政府勢力支配地域の教育施設と医療施設を標的にしてきた経緯があるため、教室が特定されないよう学校の所在地を秘密にする努力がなされてきた。

またクディ氏は、「バカロレア(大学入学資格試験)に備えなければならない学生は自宅で勉強し、6月末と7月初旬に指定会場に赴いて受験しています。試験会場についてはトルコのガズィアンテプ市から放送されているアレッポ・トゥデイTVを通じて発表され、市内に口コミで広がるとともに、市内各地に試験会場と時間を知らせるポスターが貼り出されます。」と語った。

現在、トルコ、リビア、フランスがバカロレアの結果を認定していますが、昨年この地域からフランスの大学への進学を認められた高校卒業生は僅か5人でした。」とクディ氏は語った。

(アレッポ市評議会支配地域の)カリキュラムの大半は政権側が認定した内容のままだが、アサド家を称賛する『国粋的な』部分については削除されている。また宗教のクラスでは、「アサド政権と戦うことが宗教的な義務」だと教えられている。

「私たちは現在のカリキュラムを、全てのシリア人が望むような、シリア人のために作られたカリキュラムに作り変えたいと思っています。しかし、今はそれを実現する力がありません。今は、新しいテキストを印刷するための資金すら持ち合わせていないのです。」とクディ氏は語った。

クディ氏は「低賃金で働いている教師らの給与は、市当局に十分な資金がないため、必然的に様々な国際団体や民間団体の支援によって賄われています。」と指摘したうえで、「市評議会が教師の年俸として支払えたのは、一人当たり70ドルに過ぎませんでした。しかし教師たちは、彼らの貢献に対する市当局の感謝の気持ちとして喜んで受け取ってくれています。」と語った。

樽爆弾/Stratofor 2014
樽爆弾/Stratofor 2014

クディ氏はまた、原理主義的な信条を持つ両親でも、(評議会が運営している)教育内容に干渉していない点を指摘して、「子どもの教育については、皆が一致団結しています。」と語った。

9月上旬、反政府勢力が政府軍の管轄下にある(樽爆弾を製造している)防空施設に迫ったことから、暫くの間、樽爆弾による反政府勢力地区への攻撃が中断した。しかしその後、政府軍が巻き返し、樽爆弾による攻撃も再開されている。

10月下旬、記者はアレッポ市内の反政府勢力支配地区で、実際に樽爆弾が投下された現場に出くわした。着弾点に到着すると、ちょうど市民防衛隊が瓦礫の下から遺体を取り出しているところだった。まもなくすると小さな子ども3人が瓦礫に埋もれているとの通報が入り、その市民防衛隊のメンバーらは懐中電灯を片手に爆弾で破壊された建物の反対側に急行した。その後、子どもたちは死体で発見された。

爆撃を免れた現場付近の他の建物では、いずれも入口外の階段部分に住民が出てきて混雑していた。かけつけた市民防衛隊員の懐中電灯に映ったものは、樽爆弾の衝撃でコンクリート壁が崩れて生じた土埃にまみれた大人たちと、怯えきった子どもたちの顔だった。

「学校は、子どもたちに少なくとも日常の一部となっている『破壊と死』以外に注意を向け、心を注ぐ機会を与えてくれる存在です。言い換えれば、教育こそが、シリアの未来を切り開く、唯一の機会なのです、」とクディ氏は語った。(原文へ

翻訳= IPS Japan

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核兵器ゼロを待ちわびて

核兵器全面廃絶国際デー」(9月26日)は、核兵器が人類全体に与えつづけている脅威の重みを改めて思い起こさせてくれる機会となった。

「(現在進行中の)シリア及びウクライナの危機を巡って対立している米国とロシアの間では、約2000発の核兵器が警戒態勢にあります。」と語るのは、核兵器廃絶を目指す「平和首長会議」の主要な活動家アーロン・トビッシュ氏である。

まさにイラクとシリアがスマート爆弾による猛攻撃に晒されていたとき、広島・長崎の原爆を生き延びた被害者らは、大量破壊兵器の使用が民間人にもたらす恐るべき影響について指摘していた。

Aaron Tovish/ IPPNW
Aaron Tovish/ IPPNW

「私たちは核兵器を廃絶するための世界的なキャンペーンを強化する重要性を強調しています。主要な目標は、2020年までに核廃絶を達成するための世界的な動きを強化することにあります。」とトビッシュ氏はIDNの取材に対して語った。

米国は向こう30年間で核兵器近代化のために約1兆ドルを、英国はトライデント核ミサイルのために500億ドルを費やす予定であり、冷戦の時代が再び戻ってきたかのようだ。

「私たちは、シリアウクライナの危機があるからといって、核兵器に対するこうした支出は正当化できないということを強調しています。核兵器は気候変動や食料安全保障に対して遥かに大きな脅威となるのです。」とトビッシュ氏は語った。

ジュネーブで開催された、今回初となった「核兵器全面廃絶国際デー」を記念する会議に参加したトビッシュ氏は、来年の原爆投下70周年に向けて、被爆者を世界各地で親子に紹介する「今と過去の対話プロジェクト」(平和首長会議とピースボートによる提携事業)について説明した。

「被爆者」とは、広島・長崎原爆を生き延びた犠牲者のことである。日本の都市に初めて大量破壊兵器を投下する決断を下した米国のハリー・トルーマン大統領は、「最初の原爆は軍事基地である広島に投下されたことを世界は知ることになるだろう。なぜなら、我々はこの最初の核攻撃において、可能な限り民間人の殺害を回避したいと願ったからだ。」と主張していた。

Hiroshima aftermath/ Wikimedia Commons
Hiroshima aftermath/ Wikimedia Commons

しかし歴史家ハワード・ジン氏によると、米戦略爆撃調査団はその公式報告書の中で「広島・長崎は活動や人口が集中しているがゆえに目標として選ばれた」と結論付けているという。

初の「核兵器全面廃絶国際デー」記念イベントを組織したUNFOLD ZERO国連軍縮局(UNODA)は、世界の市民社会が諸政府に対して、完全軍縮と核兵器廃絶という目標を捨て去らないよう圧力をかけなくてはならないという強力なメッセージを発した。

軍縮と核兵器完全廃絶を交渉する多国間機関であるジュネーブ軍縮会議は、この18年に亘って麻痺状態にあり、市民社会がより大きな役割を果たさなくてはならない。「しかし、政治的意思はリーダーのレベルでのみ生まれるわけではないのです。」と国連欧州本部のマイケル・モラー本部長代行は語る。

「政治的意思は民衆の要求によって突き動かされることが多い。地球上から核兵器を廃絶することは単に、高潔な目標であるということではなく、長期的で意味のある国際の平和と安全を保証する究極かつ不可欠の条件ですから、こうした取り組みが必要とされているのです。」とモラー氏はUNFOLD ZEROの会議で参加者に語りかけた。

インドネシアの強力なコミットメント

インドネシアは昨年、非同盟諸国を代表して、毎年9月26日を「核兵器全面廃絶国際デー」として記念することを求める決議案を国連総会に提出した。その根底にある目的は、「核兵器なき世界という共通の目標達成に向けた国際的な取り組みを盛り上げるために、核兵器が人類に与えている脅威とその完全廃絶の必要性について世論の意識を高め教育を強化することである。」

非同盟諸国は、この行動によって、核軍拡競争の停止と完全核軍縮を規定した核不拡散条約(NPT)第6条にある、忘れられた「義務」を、核兵器保有国に思い起こさせた。

メキシコのホルヘ・ロモナコ軍縮大使はIDNの取材に対して、「NPTは、非核兵器国が原子力の平和利用の権利を得る代わりに核兵器の取得・開発を放棄し、他方で核兵器国が核軍縮を約束するという、いわゆる『大取引』によってできた暫定的なものに過ぎませんでした。」と指摘したうえで、「非核兵器国はNPTの下で義務を果たしてきましたが、核兵器国は(NPT署名以来40年以上も亘って)公約を果たしていません。」と語った。

Jorge Lomonaco
Jorge Lomonaco

ロモナコ大使は、核兵器が非国家主体の手に落ちる事態を含めて、意図的あるいは偶発的な核爆発が起こる危険性が増していると強調した。ロモナコ大使は演説の中で、「最新の調査結果や科学的研究の成果がますます利用可能になるにつれ、意図的であれ偶発的であれ、核爆発が与える影響に関す議論が活発になってきています。すなわち、(核爆発が)環境や、人間や動植物の健康、気候変動、食料安全保障、開発と経済、人間の強制立ち退き、さらにはその他の開発側面に与える影響についてです。」と述べ、緊急の議論を必要としている主要な課題を列挙した。

メキシコ政府は、ノルウェーやオーストリア等多くの非核兵器国とともに、一発の核爆発がもたらしうる人道的影響に焦点をあてた、世界的なキャンペーンを強化している。

国連で全面的な核軍縮を目指す運動を主導してきたインドネシアは、(核兵器国から)「核兵器なき世界」を確実に実現するという言質をとろうとしている。インドネシアのトリヨノ・ウィボウォ大使は、「核兵器国は、中東の核兵器を廃棄し、軍縮義務を果たしていかなくてはなりません。」と語った。

ジュネーブに本部を置く多国間政治組織の中では最も古いものとなっている列国議会同盟(IPU)(164ヵ国が加盟)は、今年3月に国防計画において核兵器を抑止力として位置づけないよう加盟国の議会に強く求める決議を採択している。

IPUはまた、核物質防護の強化、既存の非核兵器地帯の強化、さらには、新たな非核兵器地帯創設の支援を呼び掛けている。

約70年にわたって、国際社会は核廃絶という課題と格闘してきた。国連総会がロンドンで1946年1月に採択した初めての決議は、原爆の廃棄を求めるものだった。米国と旧ソ連との間の冷戦で軍拡競争が行われたにも関わらず、軍縮交渉を画するいくつかの重要な進展があった。

一方これまでに、より多くの国が、差し迫った二国間・地域紛争における抑止力として機能するという口実の下、核兵器という最も破滅的な大量破壊兵器を取得した。

核抑止という伝染的なドクトリン

二大核兵器国である米国とロシアは、1980年代半ばの冷戦期のピークに保有していた7万5000発にのぼる核兵器備蓄数を、今日では約2万発にまで削減している。「しかしながら、両国には依然として、『詳細かつ長期的で、十分な資金を受けた核兵器近代化計画』があります。一方で両国には、核軍縮を達成するための具体的な計画は存在せず、核兵器禁止条約交渉についても進展がみられていません。」と国連のガブリエル・クラーツ-ワドサック軍縮問題担当は語った。

「潘基文事務総長が『伝染的な核抑止ドクトリン』と呼んできたものが今日まで蔓延っており、核兵器を保有する国は、今や9か国に広がっています。」とクラーツ-ワドサック氏は嘆いた。

ジュネーブ軍縮会議では膠着状態が長年続き、多国間軍縮機関として機能不全に陥ってきたが、一方で市民社会の中から、核兵器を廃絶する必要性について人々の意識を高め教育を強化する有望な動きが出てきている。日本に拠点を置く創価学会インタナショナル(SGI)もその中で重要な役割を果たしている。

また、数ある国々の中で、インドネシアやメキシコ、ノルウェーオーストリアカザフスタンといった国々が、核兵器廃絶に向けたキャンペーンにおいて、協調した役割を果たしている。

核兵器使用がもたらす人道的影響と、それが人道・人権法の下で持つ意味合いに対する関心が世界的に高まり、誓約を果たさないことに対する諸政府への圧力の高まりがみられるが、これらは核軍縮における将来的な進展への扉を開ける前兆といえるだろう。

また、広島・長崎への原爆投下から70年を記念してピースボートが来年の4月から7月にかけて実施予定の、第87回「地球一周の船旅ヒバクシャ地球一周 証言の航海(平和市長会議と提携)」は、核兵器国に対して核をなくすよう圧力をかけるための重要な動きとなるだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙は、ジョセフ・バイデン米副大統領が過激派組織(イスラム国等)との戦いにおけるUAEの役割について事実と異なる発言をしたことを正式に謝罪したのを受けて、「これで誤解は糺され、正しい方向に一歩進むことができた。」と報じた。

「アブダビ首長国皇太子でUAE連邦軍副最高司令官のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン殿下は10月5日、バイデン副大統領から、先般の発言に関する謝罪の電話を受けた。」とガルフ・ニュースは10月7日付の論説の中で報じた。

その中でバイデン副大統領は中東地域の安定と安全の基礎を固めるうえで、UAEが国際社会と密接に連携していることを称賛した。

アンワル・ムハンマド・ガルガーシュ外務問題担当国務大臣は、バイデン氏が2日にマサチューセッツ州での講演で、サウジアラビア、カタールと並んでUAEを名指し「シリアのアサド政権と戦う勢力に対し大量の資金と武器を供与してきたが、それが過激派組織に流れていた」と発言したことについて、「事実と異なりUAEのイメージとこれまでの実績を傷つけるもの」だとして、発言の真意を公式に釈明するよう要求していた。

「UAEと米国は、テロ組織と彼らの逸脱した過激派の信条と戦うことについて見解を共有している友邦国であり、この戦いに勝利するには、中東諸国や国際社会が連携してテロ組織と戦い、包囲、殲滅するとともに、彼らの資金源を断たなければならない。」とガルフ・ニュース紙は報じた。

アブダッラー・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン外相は、第69回国連総会で行った演説の中で、イラクとシリアのテロ組織、とりわけダーイシュ(Daesh、「イスラム国」のアラビア語名称の頭字語)の脅威に対抗する現在の集団行動の重要性を強調した。

アブダッラー外相はまた、「明らかになってきた、こうしたテロ組織による犯罪行為(無差別殺人、集団処刑、無辜の女性や子どもの誘拐)は、国際の平和と安全保障に対する深刻な脅威であるとともに、各国が目指す目標や価値観、さらには開発分野におけるこれまでの成果や人類の文化遺産に対する脅威にほかなりません。」と語った。

UAEは、こうしたテロ組織がイスラム教の名のもとに残虐な非道を繰り返していることを強く非難する。なぜならテロ組織のこうした所業は、イスラムの教えに反するものであり、全ての人々が平和に共存することを謳うイスラム教の穏便なアプローチと矛盾するものだからだ。

また副大統領兼首相兼ドバイ首長のムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下も、「UAEが積極的に支援している反テロ国際包囲網は、イスラム国に対して軍事的に勝利することが可能だし、きっとそうなるだろう。」と宣言した。

「バイデン氏の発言は明らかに事実と大きくかけ離れたものだったが、同氏が率直に過ちを認めたのは喜ばしいことだ。」とガルフ・ニュース紙は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【オスロIPS=ヘルジュ・ルラス】

英国のウェールズで9月4日から5日にかけて開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議において、ロシアからの直接的脅威とNATOがみなすものを抑止する新たな軍事的措置が決められた。その数日前、バラク・オバマ大統領はエストニアでバルト3国の大統領と会談し、「NATO加盟国1国への攻撃は全体への攻撃とみなす。決して孤立させることはない」と有事の際にバルト3国を守る決意を述べた。

2014年初頭以来、ウラジミール・プーチン大統領は、西側首脳が控えるよう事前に警告していた行動をことごとく実行に移している。ロシアは、ウクライナ南部のクリミア自治共和国を占領したうえで併合した。そしてウクライナ東部の親ロシア派分離主義者をけしかけ、実質的な支援を与えている。さらに、ロシア軍の兵士や機材が、ウクライナ軍とますます公然と衝突するようになっている。

しかし、西側のロシアへの警告はウクライナ関連に止まってはいなかった。すでに数か月前の段階で、NATOの主要人物やメディアが、ウクライナの事態を(ウクライナと同じくロシアと直接国境を接し国内にロシア系住民を抱える)バルト3国ポーランドの状況と直接結び付けて論じ始めていた。NATOは、非加盟国であるウクライナに対するロシアの攻勢に対して、憶測のみに基づいて、ロシアの脅威を受けているとNATOが主張している加盟国の領域に軍事的資源を移動させるという対抗策をとったのである。

しかしNATO首脳会議参加者の中で、自己充足的預言をNATOが発することになるかもしれないと警告した者はいただろうか? あるいは、ロシアとエストニア、ラトビアリトアニア間の緊張が、ロシアの脅威を誇張した結果として強まるかもしれないと考察するような先見の明を持つ者はいなかったのだろうか?民族主義が高まっている今日の世界においては、明確な理由なくして、敵対的な意図を想定すべきではない。

西側諸国の指導者の中には、自らを、ひいてはNATOを、平和や人権、民主主義を求める理想的な勢力だと見なしている者がいることは疑いの余地がない。しかし現実には、NATO諸国、すなわち西側諸国は、通常戦力・核戦力双方の意味において、世界で最も強力な軍事力を備えている。

NATOはこれまで他の核武装国と直接対峙したことがなく、自らの政治軍事的な拡大傾向を温存したまま今日に至っている。しかし、ロシアが相手となると、西側の自己に関する誤った認識が、破滅的な総力戦を引き起こしかねない。

東西冷戦が終結して以来、西側諸国は、東欧の旧ソ連圏のかなりの部分を公式にその影響下に組込んできた(右下の「NATOの東への拡大図」を参照:IPSJ)。この間、覇権主義的な考えを持つようになった西側指導者は、こうしたNATOの東への拡大を、もはや過去の遺物となったロシアとは関係のない、当然のこととみなしてきた。

NATO拡大が90年代に始まった当時、人類の未来とは、自由と、民主主義、そして自由市場に基礎を置く「西側諸国が理想とする未来」を意味するものだった。その一方で、「勢力圏」などという考え方は、「反動的」で、ロシアのプーチン政権のような権威主義的な勢力に代表されるような、「他者の特質」とみなされた。彼らの認識によると、「西側の影響」とは、「勢力圏」の概念には当てはまらない別のカテゴリーであり、天賦のものとまでは言えないにしても、当然の帰結だと考えられたのである。

NATO's Eastward  Expansion/ Der Spiegel
NATO’s Eastward Expansion/ Der Spiegel

ロシアでは、西側が「プロパガンダ」とみなす報道をとおして、西側諸国に対するある先入観(=バイアス)が明確に広がりつつある。一方西側では、ロシアにおいてほどメディアに直接指示を与える必要性はないものの、ある種の文化的な教化を通じてロシアに対するバイアスがかけられている。つまりそれは「西側は、明らかに正しい価値の擁護者であり、因果関係などというものはなく、悪はどこからともなく湧いて出るもの。」という示唆である。つまり西側メディアによれば、ロシアの全ては悪であり、欺瞞的であり、信頼に値しない存在として描かれる。一方、ロシアにおいては、このことが否定しがたい被害妄想をロシア人の心理に増幅させているのである。

西側の指導者は、宗教的寛容の雰囲気の中で、(急進的な)イスラム教の中心的な教義を理解しようと懸命に努める一方で、プーチン氏を認知的不協和を生じさせてきた「容認できる」ブギーマン(気になる恐ろしい人物)と見なしてきた。一方、西側の「リベラル派」と言われる人々は、少なくともひとつの文化的な産物を、正当な憎しみの対象として例外化してきた。それが、ロシアの政治文化であり、その土壌から生み出される独裁者のイメージである。

問題は、ロシアとNATOの指導者は、文学者の集まりで慣れない拳を交わして病的に殴り合う酩酊詩人とは明らかに異なるという点だ。彼らはそのように行動しているかもしれないが、実際には、(核兵器で)人類の文明全てを瞬時にして消滅させることができる、現実に組織化された政治支配体制の「顔」となっている人々なのである。

西側の指導者は、間違いなく自らの権力が徐々に弱まってきていると感じていることだろう。今日の世界では、遠く離れた国で自国の国益のために、新たな国家建設を企図するなどということは、もはやできなくなっている。全能、或いはパラダイムの終焉は、明らかにトラウマを残すものであり、冷静に現実を受け入れることは難しいものだ。しかも、西側の政治力の衰退は、軍事力そのものの弱体化を伴ったものではない。

Richard Nixon/ Wikimedia Commons
Richard Nixon/ Wikimedia Commons

この状況は、NATOをして(リチャード・ニクソン政権がベトナム戦争末期に外交方針として採用したとされる)「狂人理論」に走らせる誘因となっている。つまり、挑発されれば、自ら被る損害を顧みず、圧倒的な反撃を行うことを厭わないと(=合理的な判断に対して狂ったような行動をとる)と敵に思い込ませることで、敵の譲歩を引き出そうとする外交理論である。

しかしウクライナに関して言えば、西側よりもロシアのほうが国益にとって遥かに大きなリスクを抱えている。従って、これまでの動きが示している通り、ロシアが既得権益を手放すことや、自国や同盟勢力(ウクライナの親ロシア派)の敗北を許容することは決してありえない。バルト諸国についても、米国やその他のほとんどのNATO諸国よりも、ロシアにとってより多くの利害がかかっている。

というのも、ポスト冷戦期においては、ロシアはナショナリズム以上のイデオロギーを保持していないからだ。ロシアのもっとも野心的な領土的主張は、たとえ反対に遭わなかったとしても、ロシア民族国家の地理的な外縁でとどまっている。

だからといって、ロシアのナショナリズムが、ウクライナを越えて(ロシア系住民を抱える他の国々における)不安定要素にはならないということではない。確かに紛争の種は潜んでいる。ロシア系人口を一部に抱えるバルト諸国は今やNATOに加盟しており、NATOは「狂人理論」が制度化した一形態である。従って、NATOとロシア双方が相手側の反応を見誤る危険性は、十分にある。

現在進行中の駆け引きがいかに危険なものであるか西側が理解しているとする意見は少ない。NATOとロシアは、ともに核武装した勢力/国家である。かつて東西冷戦期には、双方の分別ある指導者が等しく理解していた暗黙のルールがあった。つまり、核保有国同士は、決して互いに戦争をしてはならず、仮に紛争が勃発したとしても双方の代理国間の紛争に止めておかなければならないというものである。今日双方の指導者は、こうした(冷戦期の)知恵を再認識しなければならない。

NATOは、ロシアとの対立を収め、ウクライナに関して妥協し、米国が熱心に進めようとしている政策に従わない方策を見出すことに集中すべきだ。米国は、紛争をエスカレートさせ、NATOブロックを通じて防衛予算を増大させ、バルト諸国により多くの兵を送り出そうとしている。たとえNATOが宥和政策を打ち出したとしても、そのスタート地点が愚かな拡大主義だったとすれば、美徳にも悪徳にもなりうる。

既に、軍事的手段が、NATO・ロシア間の紛争において機能し始めている。そしてさらなる軍事介入を求める声さえある。ロシアをこれ以上望ましくない方向―民族的拡張主義―に押しやってしまう前に、西側の政治家は、双方の軍事力において核兵器が最終手段であることを想起しておかねばならない。

幸運なことに、プーチン大統領は相当分別があるようで、西側指導者の多くに対してより理性的な対応を見せている。従って、プーチン大統領とアドルフ・ヒトラーナチスドイツ総統を無責任に比較することは多くの点において誤っている。それは、ヒトラー総統が原爆を保有していなかったということだけが特別な理由ではない。(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ジュネーブIPS=ラヴィ・カントゥ・デヴァラコンダ】

世界中で紛争がエスカレートし人権侵害が蔓延る中、「人権教育」を広げることは容易なことではない。しかし、日本の非政府組織が「世界市民教育」のアプローチを通じてインパクトを与え始めている。

9月8日に始まった国連人権理事会の年次会合において、人権教育を拡大する継続的なキャンペーンの開幕の意味で、2つのサイドイベントが開かれた。

UNHRC
UNHRC

その第一弾は、国連人権高等弁務官事務所による「人権教育への権利」と題したウェブサイトの改訂版出版イベント(9月10日)。さらに16日には、メディア関係者やジャーナリストを対象にした人権教育に関する特別ワークショップが開催された。

このワークショップは、核兵器廃絶や持続可能な開発、人権教育に取り組んでいる日本に本拠を置く非政府組織「創価学会インタナショナル」(SGI)が議長を務める「人権教育学習NGO作業部会」によるイニシアチブである。

「『人権教育・学習に関するNGOワークンググループ』と『人権教育及び研修プラットフォーム』を代表する7か国が、メディア関係者とジャーナリストのために人権教育に関するワークショップを開いたのは今回が初めてとなります。」と人権教育学習NGO作業部会の議長を務める藤井一成氏は語った。

藤井氏は、人権教育キャンペーン強化のための支援を結集するため、ジュネーブの人権団体のなかで活動してきた。「人権教育の促進を通じて、SGIは、そもそも人権侵害が引き起こされないような人権文化を育んでいきたいと考えています。」と、藤井氏は9月16日に開催されたワークショップの後でIPSの取材に対して語った。

「人権擁護は国連憲章の中心的な目的だが、人権侵害が起こらないように防止することも同じように重要です。」と藤井氏は主張した。

藤井氏は、「人権文化」を育成するという池田大作SGI会長の主要なメッセージを引用しながら、「人権や核軍縮、持続可能な開発に関するSGIの主要な目標を達成するためにNGOの間で連帯をつくりだすことを目的として活動しています。」と語った。

今期(9月8日~26日)の人権理事会では、世界の様々な場所で悪化している紛争問題に取り組んでいる。「人権の観点からすれば、国際社会が即時かつ緊急に取り組むべき問題は、ますます相互に結合しつつあるイラクとシリアの紛争(イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の問題)に対処することです。」と新たに国連人権高等弁務官に就任したゼイド・ラアド・ゼイド・アル・フセイン氏は語った。

「とりわけ、宗教的・民族的集団、(強制的徴用や性的暴力に晒される危険性がある)子どもや(厳しい制約の対象になってきた)女性を保護するために、献身的な努力が緊急に必要とされています。」とアル・フセイン氏は人権理事会での初演説で語った。

またアル・フセイン氏は、「私の前任者(ナバネセム・ピレイ氏)が一貫して強調してきたように、第二のステップは、重大な人権侵害や国際犯罪に関して事実解明・説明責任を確実に果たすことです。なぜなら、免責すればさらなる紛争と人権侵害につながり、復讐がはびこり誤った教訓が学ばれることになるからです。」と語った。

Soundus, a young girl being treated in hospital for injuries from Israeli shelling of Gaza (August 2014). Credit: Khaled Alashqar/IPS
Soundus, a young girl being treated in hospital for injuries from Israeli shelling of Gaza (August 2014). Credit: Khaled Alashqar/IPS

ヨルダン王室出身のアル・フセイン氏は、危機の根本的な原因、とりわけ、「民衆の大部分から公民権を奪う腐敗し差別的な政治体制と、市民社会という独立した主体を抑圧したり暴力的に攻撃したりする指導者」の問題に人権理事会が取り組むよう求めている。

アル・フセイン氏は、とりわけ最近のガザ危機の中で1473人の民間人(うち501人が子ども)を含む2131人のパレスチナ人と71人のイスラエル人の犠牲者を出しているイスラエル・パレスチナ紛争の根底にある「一貫してある差別と免責」を終わらせる必要性を強調した。

また今期の人権理事会では、国連の「持続可能な開発目標(SDG)」を通じて取り組まれる予定の基本的な経済・生活上の権利、世界中の移民の置かれている窮状、難民や移民の収監(米国における子どもの事例を含む)といった問題が議論される予定だ。

「明らかに、多くの人権侵害や、先住民族の置かれている窮状は、持続的に取り組んでいく必要のある主要な問題です。」「しかし、いつも紛争の只中に巻き込まれているメディア関係者やジャーナリストの人権教育に対する意識を喚起することは重要です。」と藤井氏は語った。

Mohammed Omer/ IPS
Mohammed Omer/ IPS

メディア関係者とジャーナリストによるワークショップの公開討論では、記者らが個人的な経験を共有しただけではなく、イラクなどの国において従軍取材をする場合、紛争の中でいかに人権を守れるかについて明確な基準を求めようとした。

「これは取り組むべき重要な課題です。なぜなら、占領軍の部隊に従軍しているとき、ジャーナリストが人権を尊重するのは困難だからです。」と「青年平和構築者連合ネットワーク」代表のオリバー・リッツィ・カールソン氏はIPSの取材に対して語った。

藤井氏は、世界市民教育を展開していくために今後なすべき取り組みについて、「人権教育では、キャンペーンを強化しいくつかの人権団体を糾合することで具体的な進展が見られました。市民社会の中での連帯が進み、私たちの取組みに対する加盟国の認知度が高まっていく中で、目に見える結果が生まれています。ちなみに、アムネスティ・インターナショナルやSGIなど14のNGOからなる連合体『HR2020』が昨年結成されたことは、キャンペーンを強化するうえで重要な一歩となっています。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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依然不透明な中東非核地帯化への道

【国連IPS=タリフ・ディーン】

紛争で引き裂かれた中東地域に非核兵器地帯(NWFZ)を創設する提案は、4年にもわたって交渉入りが引き延ばされたあげく、依然として不安定な状態に置かれている-もしかすると、事実上死に体になっているかもしれない。

しかし、核軍縮の強力な主唱者である国連の潘基文事務総長は、この提案を再生する決意をみなぎらせている。

潘事務総長は、第69回国連総会(9月16日に開会)での年次報告書の中で、「私は、中東非核兵器・非大量破壊兵器地帯創設に関する国際会議を招集するという約束を果たすために、引き続き全力を尽くすつもりです。」と語った。

潘事務総長は、「そうした(非核兵器)地帯を創設することは、核不拡散条約(NPT)の存在意義を保つためにも、『最も重要』なことです。なぜなら非核兵器地帯は、核軍縮・不拡散体制の強化に、そして、地域的・国際的安全保障の向上に資するからです。」と語った。

既存の非核兵器地帯は、中央アジア、アフリカ、モンゴル、東南アジア、南太平洋、ラテンアメリカ及びカリブ海地域、南極、宇宙空間に設定されており、いずれも法的拘束力を伴う国際条約によって規定されている。

しかし軍事的に問題を抱えた中東地域では、イラク、シリア、リビア、イエメン、パレスチナが不安定化するなど政治危機が地域全体に広がっているなか、非核兵器地帯を創設するという長年に及ぶ提案も、今後一層厳しい局面を迎えることになるかもしれない。

2010年のNPT運用検討会議で義務づけられた「中東非核兵器地帯創設に関する国際会議(中東会議)」を開催するという提案は、来年4月の開催が予定されている2015年NPT運用検討会議までに実行されないかもしれない。

反核運動家らによれば、その場合、NPT運用検討会議そのものが危機に陥るかもしれないという。

フィンランド政府は、「中東会議」の実現に向けて積極的な役割を担ってきたが、会議開催に対する米国政府による暗黙の反対に遭い、事態は行き詰っている。米国は、中東における最大の同盟国であるイスラエルの非核化に会議全体の関心が向かってしまうのは好ましくないとの考えを表明している。

エルサレムに拠点を置く『パレスチナ・イスラエル・ジャーナル』の共同編集人で中東の核開発情勢に詳しいヒレル・シェンカー氏は、IPSの取材に対して、「最近のガザ・イスラエル戦争は、一見したところ、「中東会議」の開催をさらに困難にしたように見えますが、実際のところは、(会議開催に向けて)前進できる新たな機会が開かれたと言えます。」と指摘した。

エジプト政府は、主要な仲介者として、イスラエル・ハマス間の停戦合意を成立させるうえで重要な役割を果たした。また最初の停戦合意で取り扱われなかった問題を扱うその後の交渉についても、引き続き中心点な役割を担っている。

シェンカー氏によると、悲劇的な暴力の応酬が続く最近の中東情勢の中で、エジプト、イスラエル、ヨルダン、サウジアラビア、湾岸諸国、そしてマフムード・アッバス大統領率いるパレスチナ自治政府の間に、原理主義組織ハマスに対する共通の戦略的利害が形成されつつあるという。現在ハマスは、イラクやシリアで活発に活動している(同じくスンニ派)原理主義勢力「イスラム国」との連携を模索しているとみられている。

シェンカー氏は「形成されつつあるこうした(対ハマス)非公式連合から、今後新たな中東地域の安全保障のあり方を模索しようとする機運が生まれる可能性があります。ただし、そうした展開が実現するには、停戦を超えた様々な取り組みと、イスラエル・パレスチナ紛争全体を解決するための真剣な交渉が再開される必要があります。」と語った。

ニュージーランド全国軍縮諮問委員会のボブ・リグ前議長は、IPSの取材に対して、「これまでに、「中東会議」を招集しようとする多くの試みがありました。しかし、中東非核兵器地帯の創設は、国際管理の下でイスラエルの核戦力を破壊することを前提とすることになるため、ことごとく実現に至りませんでした。」と語った。

「核兵器能力の取得は、イスラエルのベン・グリオン初代首相の主要課題であり、イスラエル政府はそれ以降一貫して核兵器能力の保持を、安全保障政策の中心に位置付けてきました。」と、反核活動家で化学兵器禁止機関(OPCW)の元主任編集者でもあるリグ氏は語った。

さらにリグ氏は、「イスラエル政府は、いかなる文脈においても、核兵器の保有を公式に認めることに消極的ですが、実際に『中東会議』が開かれることになったとしても、意味のある議論を行える根拠がありません。」と指摘したうえで、「イスラエルの核武装化を支援した西側諸国は、イスラエルの核兵器について決して言及しないことで沈黙の陰謀に加担しており、問題を複雑化しているのです。」と語った。

例えば、米国のジミー・カーター元大統領は、イスラエルが核兵器を保有していると発言したことで、米国の政治家やメディアからの厳しい非難に晒された。

アボリション2000」調整委員会の委員で「核時代平和財団」ニューヨーク支部のアリス・スレイター支部長は、IPSの取材に対して、「(国際社会が)『中東会議』を開催するとの公約を果たそうとする努力がないなかでは、NPTの将来的な実効性を危惧せざるをえないと警鐘を鳴らした潘基文国連事務総長の先週の発言は、極めて的を射たものだった。」と語った。

「1970年に発効したNPTは、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置について、さらには厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束すると定めています。」とスレイター氏は指摘した。

NPT member states/LLPI
NPT member states/LLPI

これまでに3カ国を除き、5大核兵器国(英国、ロシア、米国、フランス、中国)を含む世界のすべての国がNPTに署名している。

インドとパキスタン、イスラエルのみが、条約に加わることを拒否し、核兵器取得に走った。

「なお北朝鮮の場合は、『原子力の平和利用』に関して各国の不可侵の権利を認めた条約上の規定を利用する形で、核兵器の製造を可能にする民生技術を入手し、後にNPTから脱退しています。」とスレイター氏は語った。

NPTは、25年の期限付きで導入されたため、発効から25年目の1995年に再検討・延長会議が開催され、条約の無条件・無期限延長が決定された。

シェンカー氏はIPSの取材に対して、米国が積極的に関与しないかぎり、『中東会議』は招集されないだろう、との見通しを示した。

11月の中間選挙の結果がどうあれ、バラク・オバマ大統領には、自身のノーベル平和賞受賞を正当化し、2009年のプラハ演説で宣言した「核兵器なき世界」というビジョンを前進させるという遺産を築くために、まだ2年という月日が残されることになる。

シェンカー氏は、「中東会議」を2015年のNPT運用検討会議前に開くことができなければ、NPTの運用状況を検討する加盟国の能力が削がれ、条約プロセスや関連の不拡散・軍縮目的が阻害されるかもしれないと潘国連事務総長が警告を発したことは、時宜にかなっていました。」と語った。

またシェンカー氏は、「このプロセスを前進させるために使える主要なツールのひとつに、2002年にベイルートで開催されたアラブ連盟サミット会議で創設され、その後何度も再確認されている『アラブ平和イニシアチブ』(API)があります。」と語った。

APIは、イスラエルがヨルダン川西岸ガザ地区東エルサレムの占領を止め、イスラエル国家と並んでそれらの場所にパレスチナ国家の建設を認めることを条件として、イスラエルを承認し、アラブ世界全体との関係を正常化すると提唱している。

シェンカー氏は、「APIは中東地域に新しい平和と安全の枠組みをもたらす基礎になりうるものです。」と指摘したうえで、「すべての関係者が外交的知恵を絞って2010年NPT運用検討会議で義務づけられた『中東会議』を招集できれば、この新たな平和と安全の地域的枠組みに向けて前進するための一つの要素となり得ます。そして今日中東で新たに芽生えつつある戦略的『連携』は、この会議を招集する基礎になりうるのです。」と語った。

また、イラン核計画に関する交渉が成功すれば、「中東会議」招集に向けたもう一つの建設的な基盤になりうる。

スレイター氏は、IPSの取材に対して、「来たる2015年NPT運用検討会議において何らかの成果がもたらされる見通しは暗く、既に権威を大きく傷つけられ、しばしば蔑ろにされてきたNPTに何が起こるかはっきりしません。また、最近ガザとイスラエル間で起こった悲劇的な出来事が、公約であるはずの『中東会議』への参加に消極的だったイスラエルの態度に変化をもたらすか否かを予測することは困難です。」と指摘したうえで、「このような状況だからこそなおさら、国際社会がかつて化学兵器生物兵器を禁止してきたように、交渉を通じて核兵器を法的に禁止しようとする有望で新たな取り組みを支援する意義は、これまでよりも一層大きくなっているのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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奴隷貿易についての「沈黙を破る」

【INPSパリ=A.D.マッケンジー】

今年のアカデミー賞作品「それでも夜は明ける(Twelve Years a Slave)」の大ヒットによって、多くの人々が奴隷制の残虐さに目を向け、世界史におけるその時代について議論がなされるようになった。しかしこの映画は、大西洋を挟んで400年間に亘って行われた奴隷貿易についての「沈黙を破り」、それがもたらした今日まで続く歴史的な帰結に「光を当てる」多くの取組みの一つに過ぎない。

今月パリで20周年を迎えた「奴隷の道プロジェクト」(国際連合教育科学文化機関〈ユネスコ〉文化越境事業)もそうした取組みの一つで、世界各地の学校で奴隷制と奴隷貿易に関する教育の普及を推し進めている。

Slave Route Project/ UNESCO
Slave Route Project/ UNESCO

ユネスコ文化局で「奴隷の道プロジェクト」を担当しているアリ・ムーサ・アイエ氏(対話のための歴史と記憶課長)は、「奴隷制と奴隷貿易の歴史について、国際社会がせめてできることは、教科書に明記することです。奴隷制がもたらした帰結に苦しんでいる人々に対して、この歴史を否定することはできません。」と語った。

このプロジェクトは、奴隷制と奴隷貿易の犠牲となった数百万人にのぼる人々を追悼するために国連本部で建設が進められている記念碑「Ark of Return(帰還の方舟)」(2015年3月に完成予定)を後押しする動きの一つである。

ユネスコはまた、アフリカ系の人々が歴史的に被ってきた人権侵害に取り組むことを目的とした「アフリカ系の人々のための国際の10年」(2015年~2024)」にも関与している。「アフリカ系の人々に対する理解、正義及び開発」をテーマとした国連の10年は来年1月に正式に開始される予定である。

「この取り組みの目的は、罪悪感を生み出すのではなく和解を達成することにあります。」「私たちは、歴史から教訓を学び、自らの社会をより良く知るために、歴史をこれまでとは異なった、より多元的な視点から知る必要があります。」とムーサ・アイエ氏は語った。

彼は、中にはこうした取り組みの趣旨に疑問を呈し、むしろ奴隷制の遺産は過ぎ去った問題だと考えたい人々がでてくるのを承知している。ムーサ・アイエ氏は、「国際機関は、各加盟国に対して自らの過去の行為とその結果について調査するよう強く求めるうえで先導的な役割を担うことができます。」と指摘したうえで、「あらゆる種類の人々が奴隷制に苦しめられる一方で、あらゆる種類の人々が奴隷制から利益を得ました。それは今日の世界においても、多くの人々が、現代の奴隷制から利益を得ている構図と同じです。」と、語った。

ユネスコによると、「奴隷の道プロジェクト」の活動は、この問題を国際的な関心事に高め、2001年に南アフリカで開催された『人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に反対するダーバン世界会議』で、奴隷貿易と奴隷制が『人道に対する罪』と位置付けられるうえで重要な役割を果たしたという。

また同プロジェクトでは、奴隷制と奴隷貿易の実態を伝える記録や伝承の収集・保管、関連著作の出版支援、歴史的遺跡や記憶のための場を特定する活動等を通じて、「記憶の道程(Itinerary of Memories)」を打ち立てようとしている。

一方、多くのアフリカ系の人々にとって、奴隷制の遺産に関する認識を高めるための一層の取組みが必要とされている。旅行会社「ブラック・パリ・ツアー」を経営しているアフリカ系アメリカ人実業家で、在外アフリカ人がパリに残した貢献に着目しているリッキー・スティーブンソン氏は、IPSの取材に対して、「今日の社会に依然として根強く残っている奴隷制の影響について、各国において、そして国際的な議論がなされるべきです。」と語った。

Ricki Stevenson
Ricki Stevenson

「私たちは、人々の命が奪われ、投獄され、個人の権利や教育を受ける権利が否定される全ての国々において、黒人のみならずあらゆる人々が引き続き人種差別の犠牲になっている現実について、沈黙を破らねばなりません。米国、フランスをはじめ全ての欧州諸国は、数百万人のアフリカ人を残虐で非人道的な方法で拉致し奴隷化することによって、想像を絶する規模の富を得たのです。」

「これらの国々は、アフリカ人奴隷の強制労働の上に富を成し、都市を拡張し、経済を発展させました。その一方で、奴隷にされた黒人は、あらゆる基本的人権を剥奪され、動物以下の扱いを受けたのです。今日私たちは、ウォール街の富や多くの大手企業、保健会社、海運会社、銀行、民間の一族や教会までもが、かつての奴隷制と何らかの関わりを持っていること学んでいます。

スティーブンソン氏は、「中には奴隷制の遺産が今日にも息づいているなど理解しがたいと考えている人がいることは知っています。」と指摘したうえで、「米国で暮らしたことがない人が、その国で黒人として生きることがいかに困難な難題であるかを理解できるとは思えません。(人種差別は)全ての黒人男性、女性、そして子どもたちが人生のどこかの時点で直面したか、或いはこれから直面せざるを得ない日常生活の恐ろしい一部なのです。」と語った。

Slave Trade (1650-1860)/ Slavery site
Slave Trade (1650-1860)/ Slavery site

一方、政治批評家らによると、フランスでは、国粋主義の台頭を背景に、人種差別主義や排外的な文化が広がりつつあるという。例えば、奴隷制を人道に対する罪と認定した2001年の法律「トビラ法」の制定に尽力したクリスチャーヌ・トビラ司法大臣は、ソーシャルメディアや一部の出版物による人種差別的な描写の標的となっている。

Christiane Taubira/ Wikimedia Commons
Christiane Taubira/ Wikimedia Commons

「奴隷の道プロジェクト」20周年記念式典で演説したトビラ司法相は、彼女の闘争は「憎しみ」との戦いだとしたうえで、今日国際社会が直面している課題は、搾取のために人々を分断している世界的な要因を理解することです、と語った。

トビラ大臣はまた、「私たちはこの種の非人道的な行為を、受入れることはできません。」と指摘したうえで、「無名の犠牲者らは、単なる犠牲者だったのではなく、圧倒的な暴力に苦しみながらも「その時代を生き抜いた人々であったり、文化の創造者や芸術家であったり、抵抗運動に身を投じた人など、様々な人がいたのです。」と語った。

またフランスでは、一部の地方自治体や個人が、文化や記憶プロジェクトを通じて、大西洋奴隷貿易においてかつてフランスが果たした積極的な役割に焦点をあてる活動を進めている。またフランス北西部の港町で18世紀に奴隷貿易で繁栄したナントでは、2012年に奴隷貿易の犠牲者を追悼する記念碑が建設された。

歴史家によるとフランスが関与した奴隷貿易の4割(約45万人)は、当時アフリカから強制連行した奴隷をアメリカ大陸各地に送り出すための積替え基地として機能していたナントの港を経由したという。しかし、奴隷制廃止の記念碑設立につながった「沈黙を破る」運動が活発になるまで、奴隷制で潤ったナントの過去の歴史については、長年にわたってひた隠しにされてきた。なお、英国ではリバプール市国際奴隷制度博物館(2007年)を、そしてカタールとキューバも奴隷制の歴史をテーマとした博物館を設立し、ユネスコとの提携プロジェクトを進めている。

「奴隷の道プロジェクト」のスポークスマンを務めているジャズ音楽家のマーカス・ミラー氏は、音楽を使って人々に奴隷制の問題について考えてもらう機会を提供している。アフリカの音楽家らとのコンサートをパリで開催予定のミラー氏は、IPSの取材に対して、「奴隷になることを強制された人々と、数世紀に及んだ残虐行為に終止符を打とうと彼らと共に奴隷制と闘った人々が示した抵抗と粘り強さに焦点をあてていきたい。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【国連IPS=ゲオルグ・ケル】

相当多数の企業がより良い世界のために投資を行っているような時代を、私たちは想像することができるだろうか? つまり企業が、経済的な意味合いだけではなく、社会的にも、環境的にも、倫理的にも、長期的な価値に奉仕するような世界を―。10年以上前ならそうした世界を想像することすらできなかったが、今は世界的な運動が進行中だと自信を持って言える。

1990年代末までに、なんらかの行動をとる必要性は明白だった。多くの意味において、世界の多くの地域が、国際投資・貿易の急拡大に伴う成長と機会から取り残されているようだった。コフィ・アナン国連事務総長が1999年のダボス会議で財界指導者らに対して「グローバル市場に人間の顔を与えるための、共有された価値と原則のひとつのグローバルな協定」を国連との間に結ぶよう提案した背景には、このようにグローバル化の進展によって企業と社会の間の関係が脆弱になり様々な危険を孕んでいた現実があった。

2000年の立ち上げ時には40企業で始まった「国連グローバル・コンパクト」は、今日では140か国から・8000の企業(先進国と途上国双方の企業で、ほぼ全ての産業部門・産業規模にまたがり、従業員数は約5000万人におよぶ)の署名にまで膨らんでいる。

各参加企業は人権を尊重・支援し、適正な労働環境を確保し、環境を保護・回復し、良質のコーポレート・ガバナンスを実施することを公約したうえで、その進捗状況を公開している。これに加えて、4000におよぶ市民社会からの参加団体は、企業に公約内容に関する説明責任を求めたり、共通の目的のために企業とパートナーを組むといった重要な役割を担っている。

今日、「国連グローバル・コンパクト」には100の国別ネットワークがあり、同じような考えを持つ企業を集めて現場で行動を促進したり、普遍的な原則と責任ある企業行動を定着させる取り組みを進めている。このネットワークは、グローバルな規範や問題のプラットフォーム、国別の枠組みにおけるキャンペーンを根付かせるために重要な役割を果たし、地域の活動や意識を加速させるための重要な基盤を提供している。

世界中の企業が、持続可能性をますます重要視していることは明らかだ。現実には、環境、社会、ガバナンス面での問題が最終的な収益に影響を及ぼしている。つまり、市場の混乱、社会不安、自然環境破壊は、サプライチェーンや資本の流れ、従業員の生産性を通じて、ビジネスに大きな影響をもたらしている。

私たちはまた、一般民衆がかつてないほど政府や民間部門にその行動に対する説明責任を負わせる力を身に着けた、高度な透明性が要求される世界に住んでいる。単にリスクを軽減するだけでは不十分であり、ビジネスを展開している地元コミュニティに対して積極的に貢献するよう求められていると企業が認識するようになるなど、根本的な変化が起きている。

リスクよりも企業の行動を促しているのは、グローバル化することによって生まれる機会の方である。経済成長の主軸が「西」から「東」へ、そして「北」から「南」へと移行するにつれ、益々多くの企業が、従来の資源の利用者から市場の構築者へと変貌を遂げてきている。

責任ある企業は、極端な貧困や、教育の不足、ジェンダー不平等、環境の劣化といった複雑な問題に直面すると、破綻した社会では繁栄できないと考え、自らを長期的には対等の利害関係者であると見なす。これが、企業と社会の共有の価値を創り出す解決策に寄り添い、ともに投資する企業行動を促している。

また、企業と社会の相互依存性も高まっている。企業は、保健や教育から、地域投資や環境保護にいたるまで、かつては公的部門の限られた仕事だと見なされていたような領域において、より積極的に貢献するよう期待されている。実際、最高経営責任者(CEO)の6人のうち5人は、世界的に優先順位の高い問題について企業が主導的な役割を果たすべきだと考えている。これはきわめて望ましい動きだ。

これまでに大きな進展がみられるが、取組むべき課題は未だに山積している。どこの企業も、持続可能なことに対しては一層の貢献が求められる一方で、持続可能でないことはやめるよう求められている。持続可能性が企業文化や企業活動のDNAとならなければならない。重要なのは、まだ行動していない企業、とりわけ変化に対して積極的に反対している企業に働きかけることである。

このイニシアチブを本格的に稼働させるためには、企業インセンティブ構造に持続可能性の価値を取り込むようにしなくてはならない。諸政府は、企業に好意的な環境を作り、責任ある企業行動にインセンティブを与えねばならない。金融市場は短期的投資をやめ、投資行動において長期的なリターンが根本的な基準となるように変わらねばならない。企業によるよい環境、社会、ガバナンスのパフォーマンスが支持され、利益を生むとの明確なシグナルが必要だ。

今年、諸政府と国連が2015年までに持続可能な開発目標の策定を進める中、企業には、社会に対する誓約に関して「義務を果たす」大きな機会が待っている。この2015年以後の開発アジェンダには、すべての主要なアクターを行動に駆り立てる力がある。民間部門がその中で果たす役割は大きい。

これらの開発目標やターゲットは、企業が自らの持続可能性に関する進展具合を評価し、グローバルな優先事項と関連した企業の目標を打ち立てるような枠組みにつながるかもしれない。この機会は、企業にとっての価値のみならず、公共の利益を作り出すうえでも重要である。

将来はどのようなものになるであろうか? 持続可能性の新たな時代を達成するための下地はできている。よいニュースは、グローバル市場の大多数を占める見識ある企業が、問題解決の一部であろうとする意志を持ち前進していることである。持続可能性を追求するとの企業指導者の決定は、状況を一変させることができる。私たちは漸進的ではなく革新的な変化へと進むことができる。そのなかで、責任ある企業は善を生み出す力となることが示されるだろう。(原文へ

※ゲオルグ・ケルは、企業よる自発的な持続可能性に対する取り組み機関としては世界最大の「国連グローバル・コンパクト」事務所長。

翻訳=IPS Japan

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