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|マリ|キリスト教徒もイスラム教徒も―「私たちは皆、テロリストの被害者だ」

【モプティ(マリ)IPS=マルク-アンドレ・ボワベール】

マリ中部のモプティにある福音教会の入り口では、ルーク・サガラ神父が日曜の集会を執り行う中、兵士らが戸口の両脇を固めていた。

こうしたマリ政府軍兵士の存在は、この街が僅か3週間程前まで、シャーリア法を適用しようとする反政府イスラム過激派集団によって占領されていたという事実を物語っている。

サガラ神父はIPSの取材に対して「今は安全です。フランスが介入したので、もうイスラム教徒が私たちを攻撃することはないと思っています。」と述べた。

 モプティの北東60キロにあるコンナに過激派勢力が迫り、マリのディオンクンダ・トラオレ暫定大統領の要請によって、フランス軍が1月11日に軍事介入を行った。当時イスラム過激派は、首都バマコ奪取を目指して勢力を拡大しており、途中の町を次々と占領し、シャーリア法を適用し、キリスト教徒と穏健なイスラム教徒を迫害した。

2012年4月以来、マリ北部では、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQUIM)」、「西アフリカ統一聖戦運動(MUJWA)」、さらに、マリ南東部一帯に住むトゥアレグ人から成るイスラム教集団「アルサン・ディーン」の連合による反政府武力闘争が激しくなってきていた。

伝えられるところでは、これらの反政府勢力は、各地の(イスラム教以外の)宗教施設や教会を破壊し、占領地に極端に厳格なシャーリア法を適用して、公開鞭打ち刑、処刑、手足切断などを行った。

国際人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は、これらの集団が略奪や、少年兵の徴発、女性や若い少女への性的暴行を行っているとして、非難している。HRWのアフリカ上級調査員のコリン・ドゥフカ氏は、2012年4月に取材した際、「この数週間、マリ北部を支配している武装勢力は、誘拐や病院の略奪を行って住民を恐怖に陥れています。」と語っていた。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、この間の混乱によってマリでは国内避難民が25万人に達しているという。モプティは、北部各地から武装勢力の支配を逃れた難民が目指す主要な避難先の一つとなっていた。

マリの人口(1580万人)の5%を占めるキリスト教徒については、ある者はモプティを逃れ、ある者はイスラム過激派の勢力の支配を恐れながらも街に留まった。

モプティのイスラム教導師であるアブドライェ=マイガ師は、IPSの取材に対して、「どの宗教に属していても、過激派から危害を加えられる危険性がありました。私たちは皆、あのテロリストらの被害者なのです。私たちは皆、マリの国民であり、みんな一緒に逃げてきたのです。」と語った。

マイガ師の家族は、反政府勢力の支配下にあった北部最大の街ガオから逃れてきていた。「私の家族は、ガオからモプティに避難してきた際、キリスト教徒の家族を伴っていました。そこで私たちは、このキリスト教徒の家族が過激派の監視を逃れて移動ができるよう、伝統的な(イスラム教徒の)衣装を貸してあげました。」とマイガ師は語った。

すでに解放されたマリ中部の街ディアバリーでは、ダニエル・コナテ神父が、過激派勢力が街から駆逐されてから初めてとなる、礼拝の準備を進めていた。教会の壁に書かれた「アラーこそ唯一の神」という落書きや、床に散乱した銃弾が、つい最近までイスラム過激派勢力がこの地を占領していた事実を生々しく物語っていた。

「過激派らはこの教会を軍事拠点として使用しました。」とコナテ神父は語った。モプティが占領されている間、コナテ神父は家族とともに街から20キロ離れた村に身を隠し、マリ政府軍とフランス軍が過激派勢力を街から駆逐した1月21日以後に、再び戻ってきた。

しかしコナテ神父は、その建物は外観からは礼拝所であることが分らない造りなのに、なぜ過激派が教会だと気づいて襲ってきたか、訝しがっている。

教会に30人の信徒が集まり、「人を裏切るのは神ではなく、神を裏切るのが人」という讃美歌の声とともに礼拝の儀式が始まる中、コナテ神父は「私たちは、この地域の人々の中に、ここが教会だということを過激派勢力に教えた人がいるかもしれないと考えています。」と語った。

地元の人々は、イスラム過激派勢力の中に、かつてディアバリーに駐在した2人の元マリ政府軍の高官を見つけて以来、過激派勢力は一部地元住民の支援を得ていたに違いないと考えている。その結果、かつて平和的に共存してきたモプティの住民は、近隣者同士が互いに疑心暗鬼となっている。

ディアバリーの街が占領されている間、キリスト教徒でカソリック教師のパスカル・トゥレ氏は、街の郊外にある4ベッドルームの自宅に、イスラム過激派勢力に見つかって迫害されることを恐れる27人のキリスト教徒を匿った。

「街では全ての住民がお互いに顔なじみだから、(イスラム過激派勢力に)キリスト教徒の居場所を通報したのが地元住民なのは明白なことのように思えます。」とトゥレ氏はIPSの取材に対して語った。

しかし、トゥレ氏は、裏切り者に対する復讐は解決策にならないと確信している。

自宅に匿っていた人々は、ディアバリーの各々の自宅に帰って行った。「でも、キリスト教徒にとって、街での生活はかつてと同じようにはいかないでしょう。」とトゥレ氏は語った。

一方、紛争前の平和な時代の記憶を頼りに、またかつてのように地域住民が共存して生きていける時代がやってくるとの希望的観測を信じている人々もいる。イスラム教徒の元教師バカリー・トラオレ氏もその一人である。

「イスラム過激派がこの街を占領した際、たしかに標的にされたのはキリスト教徒でしたが、ディアバリーの住民全体が被害者なのです。幸い、過激派らは(間もなく政府軍とフランス軍に駆逐されたため)シャーリア法を適用する時間がありませんでした。もし適用していたら、街の皆が苦しむことになっていたでしょう。しかし彼らは成功しなかった。だから今、私たちは、以前と同じように、同じマリ人として、共存して生きていくことができるのです。」とトラオレ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|エジプト|新体制下でも変わらない警察の虐待

【カイロIPS=キャム・マグレイス】

カイロでの抗議行動の中、エジプト人男性が裸のまま武装警察に通りを引きずり回され殴られる生々しい様子を撮影した映像が公開され、エジプト全土に警察に対する怒りと、改めて警察改革を求める声が高まった。奇しくも、警察改革は、ホスニ・ムバラク前大統領を権力の座から引きずり下ろした2011年の民衆蜂起における主要な要求のひとつであった。

映像に写っていたのは塗装工のハマダ・サベルさん(48歳)で、通りに倒れ、ズボンが足首まで引き下ろされた状態のまま、武装警官らに顔面を殴られたり、棍棒で体をメッタ打ちにされていた。サベルさんが動かなくなると、警官らは、うつ伏せのサベルさんを引きずってアスファルトの通りを横切り、装甲車に投げ入れようとした。

 この事件に、野党と人権団体は強く反発し、反対派の弾圧に前任者(=ムバラク前大統領)と同様の残虐な手法に頼っているとして、モハメド・モルシ大統領の責任を追求した。

「確かにショッキングな映像ですが、驚くには当たりません。今の警察はムバラク独裁時代の人々と同じなのですから。警察改革について、真剣な取り組みがなされていないということですよ。」と活動家のモハメド・ファティ氏は語った。

2月1日、大統領府付近で発生した警察と反モルシ派デモ隊との衝突は、周辺の通りに広がり、被害者のサベルさんは、家族と買い物をしていたところを巻き込まれたのである。エジプトではこの事件の一週間前から全国各地で騒乱が相次いでおり、60人近くの死者と数百人を負傷者が出ていた。
 
また、多くのエジプト国民が、警察病院に入院中のサベルさんに嘘の供述をさせたとして内務省を批判している。テレビインタビューの映像に写ったサベルさんは、武装警察は、彼の服を脱がして暴行を加えたデモ隊から救出してくれた。」と主張したが、この供述内容は、今回各テレビ局から公開された暴行の様子を収録したビデオや近くで暴行を目撃した家族の証言内容とは矛盾するものだった。

この事件については、人権弁護士のナセル・アミン氏は自身のツイッターに、「(警察当局が)一市民を公共の場で引きずり回すのは人道に反する犯罪であり、さらに公式な証言として、虚偽の供述を強要するのは暴政にほかなりません。」と書き込んでいる。

サベルさんは、後に自らの証言を撤回し、実際に彼を虐待したのは武装警察であったことを打ち明けている。また、息子のアハメド君は、地元の独立系新聞社「アル・ショロク」紙の取材に対して、「父から電話があり、警察当局が偽りの証言をするよう脅迫したと泣きながら訴えていた。」と語った。

サベルさんに対する暴行を巡る抗議の声は、1月27日にタハリール広場で行われた抗議行動に参加して逮捕された28歳の少年が死亡したニュースが流れたのを契機に、さらに高まりを見せている。検死報告によると、モハメド・エルギンディさんの遺体には、電気ショックと絞殺を加えられた跡のほか、肋骨3本骨折、頭蓋骨陥没、脳内出血が確認された。

モルシ政権は、警察による拷問と暴行疑惑に関する事実関係を調査すると約束した。同大統領は自身のフェイスブックに、「市民の人権と自由を踏み躙ったムバラク時代に回帰することはない。」とのメッセージを掲載した。

しかし人権擁護諸団体は、エルギンディさんの殴打された遺体の顔写真や、サベルさんを暴行する警察当局の映像から、政府の意図は疑わしいとの見方を示している。

エジプト人権擁護の会」(EIPR)は、ムバラク退陣2周年を記念した報告書の中で、「エジプト警察は今なお組織的に暴力や拷問を行使し、時には殺人も犯している。」と指摘している。

また同報告書は、「警察機構の管理体制、意思決定や業務監督のあり方、また拷問、殺人に関与した警察幹部や一般の警察官の更生や更迭など、どの項目を見ても、徹底的な警察改革が行われた形跡はなく、むしろ表面的に改善されたような対応がなされている。」と指摘している。

EIPRによると、モルシ政権発足からこの7か月の間に、エジプトでは警察によって少なくとも十数人の人々が殺害され、11人が警察署内で拷問を受けている。同報告書は、「警察当局の責任が問われることはほとんどない。」と記している。

800人以上が殺害された2011年の革命後に有罪になって刑務所に収監された警察官はわずか2人で、100人以上は無罪判決を受けている。

モルシ大統領の出身母体であるイスラム主義団体「ムスリム同胞団」は、最近の警察による暴行・拷問疑惑と大統領の間の距離を置こうとしている。同胞団の報道官は、「大統領が警察機構から、囚人に対する拷問、虐待や武器の過剰行使、さらに日常的に賄賂を受取る慣習を許容する文化を取り除くには、今しばらく時間が必要だ。」と主張している。

「ムスリム同胞団」法律委員会の委員であるヤセル・ハムザ氏は、昨年12月に俄かに纏められ、賛否両論を呼んだ国民投票で採択されたエジプトの新憲法では、警察当局による暴行事件が生じた場合、「大統領の責任は問えないことになっている。」と語った。

この点は、独立系新聞社アル・マスリ・アル・ヨウム」紙が「新憲法によれば、モルシ大統領は、抗議行動の参加者に対して警察が加えた拷問や殺人に関して何の責任もない。つまり、内政に関して責任を負うのは内閣であり、大統領の責任範囲については、外交問題にのみに限定されると規定している。」とのハムザ氏の解説を掲載した。
 
 しかし、活動家らはこうした議論を受入れていない。中にはモルシ大統領が脆弱な権力基盤を維持するために警察当局の力を必要としていることから、既に警察改革を諦めているのではないかと非難する者もいる。

「警察が得意なことと言えば一つしかありません。エジプト人を殴って辱めることだけです。」と4月6日青年運動のメンバーである先述のモハメド・ファティ氏は語った。

モルシ大統領は、先週テレビ放送された演説の中で、スエズ運河地区で起こった抗議行動を鎮圧した治安部隊を称賛した。そして、「抗議参加者は民主的に選ばれたモルシ政権の転覆を目論む凶悪なムバラク支持者らであった。」と語った。しかし、このデモ鎮圧では、警察の狙撃で殺害されたとみられる見物人を含む数十人が死亡している。

また大統領は、スエズ運河地区に30日間の厳戒令を発し、事実上、治安部隊が恣意的に市民を拘束したり逮捕したりできる広範な権限を認めている。こうした権限は、警察当局がムバラク独裁時代に謳歌していたものである。

ファティ氏は、「モルシ大統領は、警察当局に対して、抗議運動参加者には無制限の武力行使を認める許可を与えてしまっているのです。」と語った。ファティ氏が、サベルさんの事件を記録した映像を見ても、「ショッキングな映像ですが、驚くには当たりません。」答えた背景には、まさにこのような認識があったのである。(原文へ

INPS Japan

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|UAE|北朝鮮の第三回核実験強行を非難

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)外務省は、北朝鮮が3回目の核実験を強行したことについて、「核実験を繰り返す北朝鮮の行動は、朝鮮半島の平和と安定に向けた努力を台無しにするものだ」と強く非難した。

 UAE外務省は、2月13日に声明を発表し、「北朝鮮は、国連が同国に対してさらなる核実験を行ったり、弾道ミサイル技術を含んだ発射を行ったりすることを禁じた国連安保理決議1718、1874、2087に違反した。北朝鮮は国連安保理決議や核不拡散原則を尊重し、朝鮮半島における緊張関係を高めるような行動は慎まなければならない。北朝鮮政府が推し進めている政策は、結果的に同国の孤立を深めるだけである。」と警告した。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

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「地球破滅の日」を回避する努力

【イスタンブールIPS=ジャック・クーバス

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が、市民や政治家をより積極的に巻き込んで核兵器の世界的禁止をめざす新しい戦略を採用した。

その戦略は、1月26日にイスタンブールで開かれたICANの会議で強調されたものである。

核兵器の拡散に反対し究極的にはその禁止をめざす、68か国・286の非政府組織による共同のキャンペーンであるICANは、核爆発がもたらす帰結について、世論と国家当局の双方により敏感になってもらうことを目指している。

ICANは、言葉だけにとどまらず、この問題に敏感な諸国家を巻き込み、核惨事に対処する具体的な措置を提案する予定である。3月2~3日にはオスロで、ノルウェー政府が他の16か国からの支援を得て開催する軍事的な核の脅威に関する専門家会議に先だって、市民社会によるフォーラムをICANが主催する。

 ICANの欧州・中東・アフリカ地区コーディネーターであるアリエル・デニス氏はIPSの取材に対して、「核不拡散条約(NPT)を実効的にするのは不可能であり、現実的に見て考えられないことだという核兵器国当局の発言を我々は繰り返し聞いてきました。これに対して私たちの立場は、これまでにも他の殺傷兵器を禁止に導いた国際条約があるというものです。つまり国際社会は地雷やクラスター弾の禁止に成功したのだから、核兵器の所有についても確実に禁止できるはずだというものです。」と語った。

ICANは、新しい地政学的環境の下では、いかなる国、核兵器国でさえも核攻撃の標的にされる恐れがあり、それがならず者国家やテロ組織への拡散を促す、と主張している。「1945年以来核兵器は使用されていないが、今日のサイバーテロで核弾頭の爆発は現実的なものになっています。」とデニス氏は語った。

この戦略の中心にあるのは、たった一発であっても核兵器が爆発した場合に人間にどのような影響を及ぼすか、という点である。

ICANは2012年、爆心地域の人口にもたらす短期的・長期的被害に関する報告書を発表した。毎時数百キロメートルの速さに達する爆風は、爆心地の近くにいるすべての人にとって致命的なものであり、通常は、激しい圧力と熱により、瞬間的に蒸発してしまう。それより遠い地点では、被爆者は酸素不足と一酸化炭素の過剰に見舞われ、肺と耳に被害を受け、内出血する。

しかし、放射線被ばくによる影響はより遠い場所でも現れる。身体のほとんどの器官に対して数十年にわたる影響を及ぼし、被爆者とその子孫の遺伝子を損壊する。

こうした主張は、1970年代からこの10年ほどの間に米国政府や研究機関によってなされた調査によって真実であることが裏付けられてきた。米北部の中西部に広がる「穀倉地帯」にある大陸間弾道ミサイル基地に対して中規模の核弾頭3発が撃ち込まれたというシナリオの場合、死者が750~1500万人、重傷者が1000~2000万人と推定された。

生存者に及ぼす影響に対しては、現実的には対処することが困難である。放射能の存在によって4000万人ができるだけ遠方に避難することを余儀なくされるからだ。避難には数週間から数年かかるとみられる。

米国の「穀倉地帯」は農村地帯である。欧州の人口密度は米国の3倍であり、核爆発が起これば人道的により壊滅的な被害が予想される。

2007年に結成されたICANは、核兵器の専門家などから成る運営委員会とジュネーブにある小さな事務局から構成され、国際的な運動やイベントを取り仕切っている。そしてメンバーのNGOは地域における活動を支援している。

ICANの活動は、1968年7月1日にニューヨークで署名された核不拡散条約(NPT)を主張の基礎としている。NPTの批准国は徐々に拡大して189か国になったが、インドやパキスタン、イスラエルは加盟していない。1995年5月には条約が無期限延長された。

NPTの署名国は、核兵器国と非核兵器国に区別される。核兵器国は英国、中国、フランス、ロシア、米国であり、国連安保理の構成国と同じである。

NPT第6条は、「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき」、ならびに、「厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約に向けて誠実な交渉を追求する」と義務づけている。

「軍縮は全面的かつ完全なものでなくてはなりません。1990年代にはこの点に関して条約の文言に多少の曖昧さがありました。しかし、この問題は国際法の中で明確にされたのです。つまり、すべての核兵器国は、あらゆる核兵器を解体するための交渉を開始しなくてはならないのです。」とデニス氏は語った。

米国はこれまで、条約第6条は加盟国に何らの義務も課していないとの解釈を採ってきた。しかし、国際司法裁判所(ICJ)は、1996年7月8日の勧告的意見で、「厳重かつ効果的な国際管理の下ですべての点で核軍縮につながるような交渉を誠実に追求し妥結をもたらす義務が存在する」と述べている。

核兵器国が交渉を始めようとの明確な意思を示さないことから、NGOの決意は確固たるものになった。彼らはICANを結成し、世界中の市民と政治家に核兵器を維持することの脅威を体系的に訴え始めた。

核弾頭の数は冷戦終結時の1990年代初頭の6万発から現在は1万9000発にまで大幅に削減されたが、ICANは、核兵器国による技術近代化が継続的に行われていることを懸念している。

米国の2011年の核兵器関連予算は、前年比10%増の613億ドルに達している。同年における、核兵器を保有している、あるいは保有を疑われる9か国の核兵器予算は、15%増えて1050億ドルとなった。イスラエルは、1958年以来、核保有を肯定も否定もしない「曖昧政策」を採っている。

「この支出レベルは、核兵器を保有する国々が、すぐには核兵器を廃絶する意図がないことを強く示すものです。こうした国の政府は、他の核兵器国が核備蓄を減らせばすぐにでも自国の備蓄分を減らすといいます。しかしこれは、終わりなき悪循環だと言わざるを得ません。」とデニス氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|イエメン|「この国には建設的な未来への青写真が必要」とUAE紙

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【アブダビWAM】

最近の情勢を見る限りイエメンは混沌状態に陥る危険に直面している。今この国に必要なことは、国内のあらゆる勢力が結集して、イエメンの建設的な未来へと道を開く青写真を描くことだ。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が報じた。 

イエメンが国造りの軌道から外れて暫くになる。国造りは膨大な時間を要するプロセスであり、全ての国内勢力の参画を確保するとともに、再び国に安定をもたらすために共通の明確な目標とそれに至るための具体的な道筋が示されなければならない。しかし、現在のイエメンでは民主化プロセスを開始できるようなアジェンダが打ち出されないまま、膠着状態が続いている。」と「ガルフ・ニュース」は2月11日付の論説の中で報じた。

 とりわけ深刻なのが、国民対話を始めとした民主化プロセスが遅々として進まない「政治空白」に付け込んで、様々な勢力(独立傾向の強い部族長ら、分離独立を志向する旧南イエメンの勢力、アルカイダ系テロ集団等)が自らの影響力を伸ばそうと暗躍している現状である。先般イエメン政府は、同国北西部の反政府勢力に送られようとしていた大量の高性能ミサイルを押収したことを発表した。 

「今日イエメンが多くの危機に直面していることは疑いの余地がない。なかでもとりわけ深刻なのが、脆弱なイエメン政情につけこんで干渉しようとするイスラム原理主義組織などの外国勢力の存在である。このことからもイエメンは、国内諸勢力が危機感を持って共通の未来のために共に前進する必要がある。」(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

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|テロとの戦い|「妊婦が鎖につながれ飢えさせられた」―報告書が明らかにした深い闇

【ニューヨークIPS=ジョージ・ガオ】

米国による「テロとの戦い」については未だに多くが秘密のベールに包まれたままだが、「オープン・ソサエティ正義イニシアティブ」は2月5日、米中央情報局(CIA)が9.11同時多発テロのあとに行った拘束、特別拘置引渡し、拷問などの秘密作戦の対象となった136名のケースを詳細にまとめた報告書を発表し、その一端を明らかにした。

グローバル化する拷問」と題された正義イニシアティブ報告書は、CIAがテロ容疑者を「ブラックサイト」として知られる秘密刑務所に拘束したことを確認している。またCIAが行った「特別拘置引渡し」については、「抑留者を拘留または尋問を目的に外国の政府に引き渡した違法行為」と断じている。

Amrit Sigh
Amrit Sigh

また報告書は、こうしてCIAによって引渡された抑留者は世界各国の秘密刑務所で拷問や暴行を受けており、中には間違って拘留された者や、結果的に何の罪にも問うことができなかった者もいたことを明らかにしている。
 
「オープン・ソサエティ正義イニシアティブ国家安全保障・テロ対策プログラム」の上級法務官で報告書の執筆者アムリト・シン氏は、「まさにそうした(冤罪)事件が問題なのです。個々の内容は極めて憂慮すべきものです。」とIPSの取材に対して語った。

報告書が詳細に記録した136人の1人、ファティマ・ブシャールさんの場合を見てみよう。2004年、CIAとタイ当局はバンコクの空港でブシャールさんの身柄を拘束、鎖で壁に繋ぎ5日間食事を与えないまま監禁したのち、リビアに移送した。この当時、ブシャールさんは妊娠4ヶ月半だった。

「この報告書を執筆した理由の一つは、ブシャールさんのような人々の身に実際に降りかかった事実を世間に公表することが極めて重要だと思ったからです。」とシン氏は語った。

また報告書は、拷問がその違法性に加えて誤った情報を生み出す温床になっているとして、2002年に米国によってエジプトに特別拘置引渡しされたイブン・アルシェイク・アルリビさんのケースを引用している。アルリビさんは、拷問に耐えかねて、イラクやアルカイダ、さらには(イラクによる)生物・化学兵器の使用といった架空の情報を捏造して、尋問官に告白した。

2003年、コリン・パウエル国務長官(当時)は、イラクとの開戦を訴えた国連演説の中で、こうしたアルリビさんの告白内容を引用している。

この報告書は9.11同時多発テロ後に米国が推進した反テロリズム政策を検討する目的で作成されたもので、題辞には2001年に放送されたNBCの番組「Meet the Press」でのティム・ルサート記者によるディック・チェイニー副大統領(当時)のインタビュー内容が引用されている。

そのインタビューでチェイニー副大統領は、「我々は諜報の世界に潜まねばならない。そこでやるべき事の多くは、議論抜きで速やかに実行に移さねばならない。」と述べている。」

また報告書は、CIAに秘密刑務所を提供したり、容疑者の逮捕や移送、抑留者への拷問、CIAへの情報提供などを通じて、秘密工作に共謀した54カ国にのぼる「外国政府」のリストを掲載している。

「この報告書は、米国が国際社会に及ぼしている影響力を如実に物語っています。」「この場合、米国がテロ対策の名目で人権侵害の罪を犯すパートナーを募る影響力を有していることを示しています。」とシン氏は語った。

「抑制と均衡」と「超法規的殺害」

2002年、マヘール・アラールさんはジョン・F・ケネディ空港で米国当局に身柄を拘束された。その後CIAは、アラールさんをヨルダンの首都アンマンに移送、アラールさんはそこでヨルダン官憲の暴行を受けた。アラールさんは、さらにシリアに特別拘置引渡しされ、電線の鞭で殴られたり、電気ショックを使った拷問に晒されながら、墓のような独房に10ヶ月に亘って監禁された。
 
 アラールさんの弁護を担当した「憲法上の権利センター」シニアスタッフのマリア・ラフード弁護士はIPSの取材に対して「私たちはアラールさんを移送して拷問にかけた米政府関係者を訴えましたが、勝訴には至りませんでした。」と語った。

ラフード弁護士は「概ね被告側(米国政府)は、『米国政府が拷問のためにシリアに移送したという原告の主張がたとえ事実だとしても、米国政府の役人を罪に問えない』といういつもの主張を繰り返すのです。」と指摘した上で、「つまり、政府関係者による行動が『国家の安全保障』に関わる場合、『司法の手が届かない』、言い換えれば、起訴するのはほぼ不可能となるのです。」と語った。

「その結果、アラールさんの件では明らかに憲法違反(人権侵害)が認められるにもかかわらず、国からの救済措置は一切行われていません。米国内での訴訟は行き詰まり、彼に対する政府の謝罪は未だになされていません。それどころか、アラールさんは未だに政府の警戒リストに載っているのが実情です。」とラフード弁護士は付け加えた。

またラフード弁護士は、超法規的殺人を巡る事件を起訴する際にも同様の問題に直面しているとして、具体例として現在係争中の「アウラキ対パネッタ裁判」(米国政府による無人攻撃機で暗殺された米国籍の市民3人の遺族が政府を起訴した裁判)を挙げだ。

「被告側(元CIA長官のレオン・パネッタ氏デイビッド・ペトレイアス氏他数名)は、司法当局は本件を裁けないとして、訴えを却下させようとしました。」とラフード弁護士は語った。

さらにラフード弁護士は、米国政府における行政と司法のパワーバランスについて問われ、「行政府の相対的な力が益々増大し続けています。その背景には、行政府が力を増す一方で、司法が行政の意見に従う傾向を強めている現状があります。」と語った。

ニューヨーク大学法学部教授で国連の「超法規的・略式・恣意的処刑に関する特別報告者」を務めたフィリップ・アルストン氏はIPSの取材に対して「行政府は、司法から自由裁量権を与えられているのが実態です。」と語った。

「とりわけ司法サイドは、CIAが関与する問題に関しては法の支配を維持する責任を放棄してしまっています。その結果、行政府には、連邦議会による形式的な監督(公文書を見る限りその実態は単なる追認に等しい)に従う義務を除けば、独自に判断する裁量が任されています。」

シン氏はIPSの取材に対して、「今日の国際社会には、間違いなく深刻なテロの脅威が存在しており、適切かつ法に則った対処をしていかなければなりません。しかしテロの脅威が存在するからといって、すでに確立された国内及び国際法から逸脱して良いという根拠にはならないのです。」と語った。

「米国の裁判所は、概ね、(米国政府が関与した)拷問による犠牲者に対して、補償の支払いを却下しています。本来裁判所には、行政による権力乱用を抑制する役割がありますが米国の裁判所はその使命を果たしているとは言えません。」とシン氏は語った。

一方、「憲法上の権利センター(CCR)」は、米国の世論を揺るがしている「米国に差し迫った脅威を与えるアルカイダ系と疑われる米国市民を、米政府が殺害できる法的根拠」とされる司法省の白書について、声明を発表している。

CCRのビンセント・ウォレン事務局長は、この白書について、「(ジョージ・W・)ブッシュ政権の拷問メモと多くの類似性があり戦慄を覚えます。これらの文書は、拷問や超法規的殺人を正当化するために外部の検査を受けることなく作成されたものに他ありません。」と語った。(原文へ

INPS Japan

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北朝鮮、3回目の核実験で国連に反抗

【国連IPS=タリフ・ディーン

[ニューヨーク時間で]2月11日に3回目の核実験を行った北朝鮮は、国連安保理決議を無視し国際社会に反抗している、世界で最も頑強な国のひとつであるイスラエルのたどった道をそのまま歩もうとしている。 

中東のある外交官は、「イスラエルには米国という後ろ盾があり、北朝鮮は揺るぎなき盾としての中国からの保護を受けている」と匿名を条件に語った。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

 それでもなお、北朝鮮の核開発を非難し制裁を強化した、2006年、2009年、2013年の3本の安保理決議は、拒否権を持つ常任理事国である中国の支持を受けている。 

しかし、海軍による封鎖や石油禁輸、中国からの経済援助の打ち切りなどのもっとも厳しい制裁は、これまでのところ安保理決議に盛り込まれていない。 

15の安保理理事国は12日に緊急の会合を開き、予想どおり、核実験を過去3本の決議への「重大な違反」と非難し、北朝鮮を「国際の平和と安全に対する明確な脅威」と断じる声明を発表した。 

安保理は、この1月に3本目の決議を採択した際、北朝鮮がさらなる核実験を行った場合には「重大な行動」をとるとの決意を表明していた。 

しかし、この「重大な行動」がとられるまでには、もう少し時間がかかりそうだ。 

安保理は12日、今後予定される、おそらくはトーンダウンした新決議において「適切な措置に関する作業を即時に開始するであろう」と主張した。 

現在、国連安保理の常任理事国(P5)である米国、英国、ロシア、フランス、中国が公的な核兵器国であり、インド、パキスタン、イスラエルが3つの非公式な核兵器国である。 

3つの非公式核兵器国は、5つの公式核兵器国とはちがい、核不拡散条約(NPT)への署名を拒否している。 

 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のレベッカ・ジョンソン共同代表は、IPSの取材に対して、「核抑止の論理と視点から言えば、北朝鮮の核実験は、(少なくとも)米国に対して、北朝鮮が核弾頭を製造し運搬する能力があることを示す意図でなされたものです。」と語った。 

またジョンソン氏は、「核実験を行ったり核兵器を配備したりする国家を『核兵器国』として扱うのは、まったくの逆効果です。包括的核実験禁止条約(CTBT)やNPTのような集団的安全保障に関わる世界的な条約に従わない国に地位を与えることは、核兵器と核実験を放棄し法律を遵守している180以上の大多数の国々を侮辱するようなものです。」と指摘したうえで、「NPT上の核兵器国であれ、北朝鮮のようにNPT外で核を持とうとする国であれ、核武装国の存在は世界にとって安全保障上の問題に他なりません。」と語った。 

国連が2009年に発行したCTBTに関する権威ある書物『終わらぬ任務』の著者であるジョンソン氏は、核兵器は、弱小国の指導者が自国の経済・社会政策の失敗から国民の目をそらせるために必要なものだと考えていることを、北朝鮮はあらためて示した、という。 

(正式には朝鮮民主主義人民共和国[DPRK]として知られる)北朝鮮が核武装化することを今回の実験は示しているのかという点について、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の核兵器プロジェクト、軍備管理・不拡散プログラムの研究員であるフィリップ・シェル氏は、この実験によって、北朝鮮がP5と同じような完全なる核兵器国になる瀬戸際にまで到達しているとは言えない、と語った。 

 しかし、3回の核実験(1回目は失敗に終わったと見られている)は、北朝鮮の核開発が確実に進展していることを示している、とシェル氏はいう。 

同時に、北朝鮮の最終目標は弾道ミサイルに搭載できる小型核弾頭の開発にあるとみられるが、これまでに実験した核装置の「兵器化」に実際に成功した証拠はまだない。 

またシェル氏は、北朝鮮が長距離ミサイル技術を現在保有しているかどうかは疑わしいと見ている。しかし、先般の多段ロケットの発射成功は、そうした技術習得が少しずつ進みつつあることを示唆している。 

シェル氏はまた、北朝鮮がNPTから脱退した事実を指摘した(一部の加盟国は脱退の事実を認めていないが)。さらに、北朝鮮は、CTBTには署名も批准もしていない。 

しかし、国連安保理決議1718、1874、2087は、北朝鮮に対して、さらなる核実験を行ったり、弾道ミサイル技術を含んだ発射を行ったりすることを禁じている。シェル氏によれば、これらの決議は事実上、法的拘束力があるものである。他方で、北朝鮮はこれらの国連安保理決議を差別的なものだとみている。 

ジョンソン氏は、P5がこれまで行ってきたすべての核実験に比べれば、自国が行った核実験など取るに足らないものだという北朝鮮の主張について、「もっともらしく聞こえるがナンセンスです。連続殺人犯やその他の犯罪者が行ってきた大量殺人と比べると、自分がしていることは、時々人を殺しているに過ぎないと主張する殺人者を許すことがあるでしょうか?もちろんそんなことはありません。」と語った。 

ジョンソン氏は、「それぞれの殺人行為が犯罪であるように、それぞれの核実験もまた、国際条約や国際法、また、世界の安全保障を確立するために集団的になされた合意に違反するものなのです。」と語った。 

「国際社会が核実験禁止条約を制定できていない段階で他国が行った犯罪行為(=核実験)が免罪になっているからといって、同じことを繰り返してよいという言い訳にはなりません。」とジョンソン氏は語った。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 
 
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【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が、先日アブダビ郊外のアル・アインで発生した事故のような悲劇を今後繰り返さないためにも、大型トラック運転手に対する適切な訓練の実施と車輌の定期点検を徹底するよう呼びかけた。

 UAE紙「ナショナル」は、2月4日にアル・アインで起きたコンクリートミキサー車とバスの衝突事故(バスに乗っていたアジア系労働者ら46人のうち、22が死亡、24人が負傷)について、6日付の論説の中で、「大型トラック運転手に対する適切な教育訓練と車輌に対する定期点検がなされていれば事故は防ぐことができていたはずだ。」と報じた。

また同紙は、「交通安全キャンペーンは、危険運転行為に対する罰則を含む、道路交通法の執行をはじめ、輸送インフラの拡充、そして最終的にはドライビング文化を変えることを目指した多面的な取り組みである。これら全ての分野においてUAEの取り組みは成果を上げてきたが、今回の事故で大型車輌と乗用車輌の安全基準の向上については、対策が十分でないことが明らかになった。」と報じた。

一方、「ガルフ・ニュース」は、「今回の惨事を契機に全ての人々が事故の原因をよく振り返り、教訓を学ばなければならない。とりわけ運送業に携わる人々は、安全運転を心がけるとともに労働者を職場に輸送する車輌に対して専門的かつ定期的なメンテナンスを行う必要性を改めて認識する必要がある。乗客の安全は優先事項であり、ドライバーは、どんなに予防策を講じても十分すぎることは決してない。自身のみならず他者に対しても強い責任感を持って車輌の整備と安全運転の徹底を心がける運転手のプロ意識が、不可欠である。」と報じた。

翻訳=IPS Japan

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制裁でアジアの核廃絶は達成できない

【シンガポールIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

1月22日の国連安全保障理事会による対北朝鮮制裁拡大決議に対して、北朝鮮が核実験再開の脅しをもって応えたことと、東南アジア諸国連合(ASEAN)が昨年11月のサミットにおいて、核兵器5大国を東南アジア非核兵器地帯条約(SEANWFZ)の付属議定書へ署名させることに失敗したことは、グローバル経済の中心として急速に台頭しているアジア地域が直面している「核の脅威」を象徴する出来事だった。

 こうした動きの中心に位置づけられるのが、バラク・オバマ政権によるアジア・太平洋地域への「ピボット(軸足)」政策あるいは「リバランス(再均衡)」政策である。アジア地域では、これは経済あるいは政治的な再関与というよりも、むしろ安全保障問題であるとの見方が強まってきている。

この政策が2年前に発表されて以来、南シナ海での中国の領有権主張に関して同地域では緊張が高まっている。アジアの一部の専門家のあいだでは、米国が日本やフィリピン、ベトナムといったアジア諸国をけしかけて、中国と対立させようとしているのではないかと疑問を投げかける向きもある。

北朝鮮の最近の動きに関しては、数世紀に亘った欧米諸国への経済的従属から立ち上がってきたアジアにとっては、核の対立の脅威の方が(すぐに起きるわけではないとはいえ)よほど心配である。

2012年11月にカンボジアで開催された第21回ASEANサミットで、予定されていたSEANWFZへの署名にロシア・フランス・英国の3核兵器国が同意しなかったのは、アジアにおける対中対立の激化が主要な原因であったかもしれない。フランスは自衛権に関して、英国は「新たな脅威と展開」に関して、ロシアは外国船・航空機が非核地帯を通航する権利について、それぞれ留保を述べた。米国もロシアと同じような懸念を表明した。
 
SEANWFZの概念は、ASEANの当初の5加盟国(タイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシア)がクアラルンプールでASEAN平和・自由・中立地帯(ZOPFAN)宣言に署名した1971年11月27日にさかのぼる。ASEANが追求したZOPFANの最初の主要な要素が、SEANWFZの創設であった。

しかし、当時は東南地域における政治環境が整わなかったことから、そうした地帯の創設が公式に提案されたのは、1980年代も半ばになってからのことであった。ZOPFANに関するASEAN作業部会で10年にわたって交渉と草案作りが行われたのち、SEANWFZ条約は、ASEANの全10加盟国が1995年12月15日にバンコクで署名し、2年後に発効した。同条約の付属議定書に関する協議がASEANと核兵器5大国との間で2001年5月から行われていたが、何の進展もみられなかった。

条約が提示した規則と条件のうち主要な要素は、核兵器を開発、製造、受領、保有、管理しないこと、核兵器を配備しないこと、条約地帯内外のいずれにおいても核兵器を実験あるいは使用しないという署名国の義務である。

さらに議定書は、核兵器国に対しても、条約の条項に従い、加盟国に対して核兵器を使用したり使用の威嚇を行ったりしないよう義務づけている。中国はかねてより議定書批准の意思を示していたが、他の4核兵器国は条約の地理的範囲を批准への障害として挙げていた。条約地帯は地帯内の加盟国の領土、大陸棚、排他的経済水域をカバーしている。

マレーシアの政治学者で「公正な世界に向けた国際運動」の代表であるチャンドラ・ムザファ博士は、SEANWFZを起草・署名したASEAN諸国は賞賛されるべきだが、一方で、「核兵器5大国はいずれも、自国の核の優位を何としてでも保持しようとしており、『自衛権』を巡る主張は、たんなるカモフラージュに過ぎない。」と述べている。

「英国とフランスは米国の同盟国であり、米国は、さまざまな軍事的・外交的動きを通じて、中国封じ込めという課題を強化しています。したがって、この欧州の2つの米同盟国がアジアにおける米国の地位を支えようとしているとしても、驚くには値しません。」とムザファ博士はIDN-InDepthNewsの取材に対して語った。

非政府のアクター

アジア諸国が自国市場への米国のアクセスの条件として、核兵器5大国による非核兵器地帯条約の付属議定書への署名を求めるべきか否かという点に関して、ムザファ博士は、「ASEANとその他のアジア諸国は、外部の大国に対して要求をする前に、核兵器の制御と廃絶に向けた強い集団的な誓約をまず示すべきです。しかし現時点ではそのような誓約は存在しません。これが、アジア諸国が、拡大しつづけるアジア市場へのアクセスの条件としてバンコク条約への署名を核兵器5大国に求めようとはしていない理由です。」と語った。

ムザファ博士の見解は、アジア地域の諸政府は核大国に条約署名を迫ることができず、それを実現する協調的なキャンペーンを起こすのは非政府の主体でなければならないというものだ。「究極的に言えば、アジアの大陸から現在および将来の核兵器を除去できるのは強力な市民運動だけです。」とムザファ博士は語った。

オーストラリアの元外相で、「核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)」の座長を務めるギャレス・エバンス氏は、2012年10月にアイスランド大学で行った講演の中で、「核軍縮がアジア太平洋地域で達成可能であるという約3年前の楽観論は消えてしまった。」と嘆いた。
 
 「もし、現在の核兵器国が、彼らの主張通り不拡散に真剣に取り組んでおり、他国が核クラブに加入してくることを真面目に阻止しようというのならば、とりわけ生物兵器のような他の大量破壊兵器や通常兵器に対して自らやその同盟国を守るための手段として核兵器の保有を正当化し続けることなどできないはずです。」「世界中が偽善を嫌っています。人生全般と同じように軍備管理の分野においても、他人に自分の言うようにやれと要求することは、自分が率先して実行していることをやるよう依頼する場合と比べると、説得力に欠けるものなのです。」とエバンス氏は論じた。

エバンス氏はまた、「テロリストは、核兵器の標的となるような領土や産業、人口、常備軍を通常は持っていません。」と述べ、多くの核兵器国が主張するようなテロリストに対する核兵器の抑止効果はないと指摘した。

2012年9月13日、APLNは、その前年には明らかに、核軍縮に向けた世界的・地域的取り組みの中に見られた政治的意思が消えてなくなってしまったことへの深い失望を表明した。この声明には、アジア太平洋地域14か国の政治、外交、軍事、科学のリーダー25人が署名した。

オーストラリア国立大学核不拡散軍縮センターのラメシュ・タクール所長は、『ジャパン・タイムズ』への寄稿で、「すべての核兵器国による核戦力の更新、近代化改修、規模や破壊力の増強に向けた計画は、どの核兵器国も核軍縮に真剣に取り組んでいないことを示している。」と指摘した上で、「核兵器を所有している、または所有しようとしている国家、あるいは、核戦力の規模を拡大しその質を向上させようとしている国家は、国際的な非難にさらされるべきだ。」と記している。

戦術核

しかし、核兵器を国際的な非難の対象にするどころか、一部の論者は、この数ヶ月の間に出版されたアジア地域の刊行物の中で、北朝鮮の脅威に対応するために、ジョージ・H・W・ブッシュ政権が1991年に撤退させた朝鮮半島への戦術核の再配備を検討するよう米国に求めるべきだという主張を表明している。

「韓国領土の戦術核は、北朝鮮に対する米国の核の傘の信頼性を高め、韓国民衆に米国の安全保障上のコミットメント再確認させることになるだろう。」と『グローバルアジア』に寄せた評論で主張したのは、韓国統一研究院のチョン・ソンフン上級研究員である。

チョン氏は、「北朝鮮が長距離ミサイルの開発を継続するにつれ、北東アジアの同盟のダイナミクスは、1950年代末の欧州のそれに似てくることになろう。」そして、「ソ連が最初にスプートニク・ミサイルを打ち上げ、大陸間弾道ミサイル時代の幕が開かれた時、西欧の同盟国は、米国が、米本土へのソ連の攻撃を恐れて、同盟の安全保障から米国の安全保障を切り離すのではないか、と恐れた。同じような切り離しへの懸念が韓国で広がり、日本にも波紋を広げるだろうと考えられる。そうした強まる懸念を打ち消すためにも、韓国に戦術核を再配備することは不可欠である。」と論じている。

しかしアジアの緊張緩和にあたって、中国が重要な役割を果たすかもしれない。新しい政権の下で、中韓関係は改善するものと期待されている。最近選出された韓国の朴槿恵大統領はすでに北京に特使を送り、中国共産党の新しい総書記を務める習近平氏は、北朝鮮に関する6か国協議の再開を呼び掛けている。

朴大統領は、よりタカ派的だった前任者よりも北朝鮮に対して融和的な姿勢を取るとしているし、『コリアン・タイムズ』によれば、中国の習総書記は北朝鮮の核兵器開発に反対すると述べたという。

上海の復旦大学アメリカ研究センターのシェン・ディンリ所長は、もし米国がアジア太平洋地域における安定と平和を望んでいるのならば、その実現のために中国と協力しなくてはならない、と述べている。

シェン氏は『チャイナ・デイリー』の評論の中で、「集団で中国を攻撃することでバランスを回復しようとすれば、東アジアの安定は崩れ、最終的には反撃を食らって米国自身の国益にも損害が及ぶかもしれない。」「これまでのところ、米国は事実を無視し、正誤を取り違え、米国と直接の関係にない紛争に首を突っ込んでいる。」と論じている。

またシェン氏は、二期目に入ったオバマ政権に対して、「アジア太平洋地域の権力シフトはもはや止めることができず、米国はただその流れに身を任せ、新興勢力の正当かつ合理的な要求を尊重することができるだけであり、地域の主要紛争の公正かつ適切な解決策を探る支援ができるに過ぎない」ことを理解すべきだと述べている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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すべてが不明瞭な原子力計画

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ】

約5年前にインドが世界の原子力産業に迎え入れられたとき、経済成長のエンジンとなる石炭などの化石燃料への依存からこの国はすぐに脱却することになるだろうと多くの人々が考えた。

インドには、19基の原子炉から4000メガワットを発電する国産の原子力産業があり、1974年にインドが核実験を行って以来、米国が主導してきた(軍事目的に使用される可能性のある原子力関係設備やその構成要素)禁輸措置に対抗していた。

 また、189か国が加盟する核不拡散条約(NPT)への署名を拒否していることも、インドの国際的孤立の原因であった。しかし、2008年9月、47か国から成る原子力供給国グループ(NSG)がインドに特別の免除を与え、原子力取引に参加できるようになった。

禁輸を解かれたインドの原発推進派は、長いインド亜大陸の海岸線に沿って海外からの投資で一連の「原子力工業団地」を造成し、2020年までには新たに40ギガワットの発電能力を追加できると予想した。

しかし、彼らが見落としていたのは、(原子力発電所の建設によって)伝統的な暮らしが奪われることを恐れる農民や漁民からの激しい反発や、地震が原子力発電所施設に及ぼす可能性、そして、著名な知識人らによる最高裁を巻き込んだ原子力計画への挑戦であった。

「長い海岸線沿いに多くの原子力発電所を建設するという計画が問題にぶち当たっているのは、疑問の余地がありません。」と語るのは、米プリンストン大学の「核将来研究所」と「科学及び世界安全保障プログラム(PSGS)」のメンバーに指名されている物理学者M・V・ラマナ氏である。

「資源をめぐる紛争が激しさを増しているなか、原子力発電所の新規建設の動きに対する反対運動は将来的にますます強まるばかりだろう。たとえば、水不足は毎年厳しさを増しています。」とラマナ氏はIPSのメール取材に対して語った。

「漁師はすでに、多くの開発計画によって暮らしを脅かされています。たとえば、工場や発電所から海に流れ込む排水は重要な問題です。」とラマラ氏は語った。
 
現在、フランスの原子力企業「アレバSA」が9900メガワットの原発を建設している西部マハラシュトラ州ジャイタプールや、ロシア製原発が完成間近の南部タミル・ナドゥ州クダンクラムで、激しい抗議活動が起こっている。

ラマナ氏は、「すでに稼働した核施設によって立ち退きを迫られた人々への取り扱いは、きわめて不十分なものです。」と指摘し、立ち退きが大きな問題となっていると語った。

それでは、原子力推進派の人々は、高まる国内の反対に対してどう対処すればよいのだろうか?

ラマナ氏は、「まず、原子力推進派の人々は、インド国民には、彼らの野心的な計画と民主主義との間の選択があることを理解しなくてはなりません。」「クダンクラムとジャイタプールでこれだけ長い期間に亘って激しい抗議行動が起こっているということは、声を上げるその他すべての方法が人々に閉ざされていることを意味しているのです。」と語った。

さらに最近懸念が持ち上がってきているより大きな問題は、著名な地震学者らが地震活動に弱いと指摘しているジャイタプールにおいて、福島原発型の事故が起こる可能性である。

インドの著名な地震学者であり、バンガロールにあるインド天体物理学研究所の教授であるビノッド・クマール・ガウル氏は、ジャイタプール周辺の土地調査には重大な欠陥があると指摘している。

ガウル氏によると、ジャイタプールの立地は、1967年に起こったマグニチュード6.4のコイナガル地震で大きなヒビが入ったコイナダムからわずか110キロしか離れていないという事実がきわめて重要であるという。

また、1524年には、ジャイタプールから北100キロの西岸を巨大津波が襲っている。しかし外海の断層や遠隔地の地震によって津波が起きる可能性は、現在の研究では検討されていない。
 
 ガウル氏は、「ジャイタプール原発の地震に対する安全性を図るにあたっては、科学的調査を通じた判定を行うことが重要です。最近日本で起こった地震(=東日本大震災)は、原子力発電所を設計するにあたっては、あらゆる可能性を考慮に入れなくてはならないことを示しています。」「そして同じように重要なことは、周辺住民の懸念を和らげるために、その科学的調査の結果を公にすることです。」とIPSの取材に対して語った。

ラマナ氏は、秘密主義的な核エネルギー省(DAE)は、国の原発計画について、国民全体と、とりわけ、原発の建設予定地周辺の住民との誠実かつオープンな議論を行う時期に来ています、と語った。

「DAEは、原子炉は『100%安全』だとか、原発事故の可能性は限りなくゼロに近いなどといった、科学的に妥当でない立場を捨て去る必要があります。どの原子炉でも、たとえ小さなものではあっても、事故が起こる可能性はゼロではないのです。」「また、原子炉を建設すれば、放射性汚染物質や温水の排出により、環境に影響が及びます。つまり、議論のテーマは、環境への影響が存在するか否かではなくそれがどの程度のものなのかということなのです。」とラマナ氏は語った。

またラマナ氏は、「もし地元住民が原発施設を拒否するなら、DAEは建設計画を取り消すべきなのです。」と付け加えた。

DAEは、クダンクラムでの抵抗を主導している「反原子力国民運動」(PMANE)が呼びかけている公開協議に入ることを避け続けている。

PMANEを1988年以来率いてきたS・P・ウダヤクマール氏は、「反原発を訴える私たちの運動にとって、福島第一原発事故は、大いに追い風になりました。原発の危険性に対する人々の理解は着実に高まっています。」と指摘した上で、「公の議論を行うことの重要性は、福島第一原発事故以降、とくに増しています。」と語った。

「市民社会が公開討論を繰り返し求めているのだから、首相が介入して、危険で費用の高いエネルギーオプションの意義と役割について国中で議論を起こすべきです。」とグリーンピース・インド支部で原発反対運動を進めてきたクルナ・ライナ氏は語った。

インドの野心的な原子力計画に対する最大の挑戦は、2011年10月、原発の安全審査と費用対効果分析が行われるまではすべての原発建設を凍結するよう求めて、著名人らがインド最高裁に嘆願書を提出したことでもたらされた。

彼らは、裁判所への訴えで、原子力計画はインド憲法で保証されている「生命への基本的権利」に反していると主張している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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