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|グアテマラ|長年にわたる恐怖の警察活動記録がオンラインに

【グアテマラシティ―IPS=ダニーロ・ヴァラダレス】

1960年から96年の内戦期に行われた拷問や強制失踪、殺戮に光をあてることとなる数百万件にのぼる国家警察文書が、米国テキサス大学オースティン校の協力により、まもなくオンラインで利用可能になる。

デジタル文書は、2005年に偶然発見された約8000万件もの膨大な警察管理記録のうち、同大学が修復・整理した約1200万件の資料で、大学構内で12月2日に開催された国際会議(Politics of Memory conference)において初めて公開された。

「グアテマラ国家警察歴史アーカイブ(AHPN)のオンラインデジタル所蔵庫は、まもなく一般の人々に、無条件で利用可能となります。」とAHPNの専門家の一人でもあるアルベルト・フエンテス氏は語った。

 「このオンライン所蔵庫には2種類の情報が収められています。つまり、グアテマラにおける犯罪と暴力関連の事件を記録した資料と、社会統制やとりわけ反体制派政治家を対象とした監視活動の記録です。」とフエンテス氏は説明した。

「私たちは今まで、90万件以上の個人に関する名前や写真、指紋、政治活動を詳細に記録した調査書類を発見しています。」とフエンテス氏は語った。

2005年7月、グアテマラの人権オンブズマン組織「The Procuraduría de los Derechos Humanos」が首都グアテマラシティの北部にある兵器庫で、放棄されていた文書を偶然発見した。記録ファイルは、乱雑に束ねられた状態で、ネズミ、コウモリ、ゴキブリが巣食う何十もの部屋に天井までうず高く積み重ねられていた。そしてその多くが、既に激しく腐敗した状態であった。

この1882年から1997年にわたる警察の管理記録は、左翼反乱勢力と政府軍が36年に亘って戦い25万人の死者を出した内戦において、警察が果たした抑圧的な役割を克明に記録している。

歴史解明委員会によると、これらの資料には治安部隊によって捕えられ、強制的に失踪させられた後、墓標のない墓や秘密墓地(多くの場合、軍事基地内)に遺体を埋められた少なくとも45,000人の記録が含まれている。

国連委任の真実委員会は、内戦で殺害された犠牲者(大半は農村部のマヤ・インディアン)の総数の90%以上がグアテマラ国軍によって殺害されたものと確認した。

2005年に明るみに出た管理記録は、内戦中及び内戦前において国家警察が果たした役割について記録している。AHPNでは、厳重な管理体制を敷いたうえで、2006年から傷んだ記録のクリーニングとデジタル化に取り掛かった。

この管理記録には、逮捕状、調査報告書、身元証明書、尋問記録、無線通信の記録、抑留者とその密告者のスナップ写真、身元不明の遺体の写真、指紋ファイル、さらに日常の品々(交通違反チケット、運転免許証申請書、新制服と職員ファイルの請求書等)や写真と名前を満載した元帳が含まれている。

今までのところ、1300万件の記録がクリーニング、分類の後、デジタル加工されている。

この警察管理記録は、既に内戦中の人権侵害容疑で起訴された元軍関係者を審理しているいくつかの公判で、原則側の証拠として使用されている。

「フェルナンド・ガルシアという労働組合員で学生リーダーに関する公判では、この警察管理記録から667件もの証拠資料が提供されました。」とフエンテス氏は語った。

ガルシア氏は1984年2月18日に失踪した。しかし彼の死に責任がある2人の元警察官に強制失踪の罪で禁固40年の判決が下ったのは、彼が失踪してから実に26年も経過してからのことだった。

フエンテス氏は、AHPNアーカイブの文書はこのほかにも、1978年から85年の間に300人以上の虐殺に関与した疑いがあるエクトール・ロペス退役将軍や、ガルシア氏の失踪に関与した疑いがあるエクトール・ボル元警察署長の逮捕につながる証拠を提供した。

「アーカイブの文書は、司法制度を通じて逮捕状を発行し、容疑者に裁判を受けさせるための証拠品として使われているのです。」とフエンテス氏は語った。

正義が行われることこそが、この窮乏した中米の国に和解をもたらすうえで、極めて重要なことである。

内戦中父を暗殺されたアダ・メルガー氏はIPSの取材に対して「陸軍将校や最高司令部がこの国で行われた数千人もの虐殺や殺人に明らかに関与していたということが証明されてはじめて、私たちはある程度の平和を実感できるのです。」と語った。

虐殺には、軍部が1970年代末から80年代初頭に採用した対ゲリラ焦土作戦の一部としてグアテマラ全国で約440の先住民の村が殲滅させられた事件が含まれている。

「私たちは国を訴えました。なぜなら、父の死は治安部隊による陰謀と確信しているからです。」とメルガー氏は語った。彼女の父ウーゴ・ロナルド・メルガー氏はサン・カルロス大学の法学教授だったが、1980年5月24日にマシンガンで殺害された。

AHPNアーカイブを調べているアダ・メルガー氏は、「この中に当時捕えられて失踪した多くの男女と一致する警察に拘束された人々のリストの存在を証明する貴重な資料が眠っている」と確信している。

また法医学専門家も、AHPNアーカイブの中に失踪者と警察犯罪のミッシングリンクを繋ぐ手がかりを発見している。

「私たちが最初に見た写真は、身元不明の数体の遺体でした。しかしAHPNアーカイブを調べていくうちに、警察はこれらの遺体から採取した指紋も記録していたことが分かったのです。今ではAHPNアーカイブは、内戦中に失踪した人々を捜索する際の、一次情報源となっています。また私たちは、南部のエスクィントラの墓標のない墓に埋められた遺体を特定する多くの記録をアーカイブから発見しています。」とグアテマラ法医学人類学財団(FAFG)のシスタントディレクターであるホセ・スアンスバール氏は語った。

グアテマラ被拘束者・行方不明者家族の会(FAMDEGUA)のアウラ・エレナ・ファルファン氏は、IPSの取材に対して、「AHPNアーカイブは極めて重要な存在です。お蔭で私の家族に関する記録を見つけることができましたし、この件を法廷に訴えるうえで重要な助けとなっています。ただ私たちが心配しているのは、今や調べられる側となった内戦中に抑圧に関与した全ての人々が、このアーカイブの存在を消し去りたいと望んでいることです。」と語った。

しかしAHPNとテキサス大学オースティン校の3機関(Bernard and Audre Rapoport Center for Human Rights、Teresa Lozano Long Institute of Latin American Studies、テキサス大学図書館)の協力のお蔭で、1200万ページに及ぶアーカイブ資料が、今ではオンラインで誰でも閲覧可能になったのである。
同校で開催された国際会議(Politics of Memory conference)によると、このプロジェクトの目的は、グアテマラ国家による抑圧の歴史を既に書き換える助けとなる有力な証拠を提供し始めたこのアーカイブを、世界の研究者、人権活動家、検察官に開放することによって、この歴史的な記録を「グアテマラの歴史の記憶に資する生きたアーカイブ」とすることにある。

「このアーカイブをオンライン化することで、世界中の人々‐失踪した友人や家族を探している人から、国家による抑圧・監視機関について調べている人やグアテマラへの米国の関与について調査している人まで‐この資料を利用して調べることが可能となるのです。」と、フエンテス氏は語った。(原文へ

INPS Japan浅霧勝浩

アサド政権後を見据えるイラン

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【ワシントンIPS=バーバラ・スラヴィン】

イランは、バシャール・アサド政権が崩壊した場合でもシリアとの重要な同盟関係を維持しようと、反体制派へのアプローチを試みている。

これまでのところ、イラン政府関係者が、「民主的変革のための全国調整委員会」(NCC)のメンバーと少なくとも2度会合している。首都ダマスカスに本拠を置くNCCは、外国勢力の干渉に反対するとともに、国内改革を通じて9カ月に亘る危機を解消すべきと訴えている。

 新アメリカ財団と中東研究所に所属し、シリアとアラブの民主運動を専門とするランダ・スリム氏は、「イランは、チュニジアのイスラム指導者ラーシド・アルガンヌシ師を通じて、シリア国外に本拠を構える「国民評議会」(SNC)のメンバーにもアプローチをかけています。ただし現時点では、SNCはイランからの誘いに応じていません。」と語った。

1979年のイラン・イスラム革命後、シリアはアラブ世界で唯一同盟関係を維持してきた国であるだけに、アサド政権に対する民衆蜂起は、イランにとっても深刻な危機である。

またシリアは、イランがレバノンのヒズボラ(主なアラブ人シーア派同盟勢力)支援の中継路として、さらにはアラブ-イスラエル和平交渉に反対しイスラエルに対する武力闘争を是認する所謂「抵抗運動勢力の枢軸」の重要な構成メンバーである。

スミソニアンセンター(ワシントンDC)のレバノン・シリア専門家であるモナ・ヤコウビアン氏は、12月7日にアトランティック・カウンシルで開催されたパネルディスカッションにおいて「シリアは、枢軸に参加している唯一のアラブ国家として、地理的な意味合いに止まらず、イデオロギーの側面においても、アラブ世界との架け橋としての重要な役割を果たしてきました。」と語った。

一方、ハマス(ダマスカスに本部を置くスンニ派イスラム勢力)は、同じイスラム活動家を残虐に弾圧しているシリア政権を支援していると見られないようにするため、あえてアサド政権と距離を置いたスタンスをとっている。

もしハマスとアサド大統領が脱落するようなことがあれば、「抵抗戦線」に残るメンバーはイランとヒズボラのみということになり、彼らが従来主張してきた「全アラブ人の権利を擁護する」という看板も失われることになるだろう。

イランの策謀

イランはシリアとの関係をなんとか維持しようと、アサド政権に対して資金・武器援助や、コンピュータ・携帯電話の傍受ノウハウを提供する一方で、反体制派へのアプローチをはかり、時にはアサド大統領を批判する声明も出すなど、多方面にわたる駆け引きを展開している。

あるイラン政府関係者は、匿名を条件にIPSの取材に応じ、「イラン政府は、シリアへの欧州からの観光客が激減している状況に対応するため、シーア派巡礼者に対して、同派の重要な聖地があるダマスカスを訪問するよう、推奨している。」と語った。

それでもなお、アサド大統領が、このますます血なまぐさく、宗派対立が濃厚になってきた国内紛争を乗り越えられるか、疑問を呈する声が広まっている。

国連によると、シリア騒乱における死亡者は5000人を超えており、シリアの支配勢力であるアラウィー派(シーア派の分派)によるスンニ派市民の大量虐殺やその反対のケースが報告されている。

シリア軍の将官(大半がアラウィ-派)クラスの大規模な亡命は見られていないが、一般の兵卒に関しては、多数が持ち場を放棄し、国境を越えてトルコ側に本部をかまえる自由シリア・アラブ軍(Free Syria Army)に参画している。

12月15日、人権団体ヒューマンライツ・ウォッチは、シリア国軍の元兵士たちが、非武装のデモ参加者の射殺や拷問、非合法な逮捕を命令、許可、容認したとして74名の国軍将校や政府高官の名前を特定したと報告した。

ヒューマンライツ・ウォッチは、国連安全保障理事会に対して、犯罪に加担した者への制裁とシリアの事態を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう強く求めている。

アサド大統領と家族に国外亡命を勧める一方で現在の体制の温存を図ろうとする動きもあるが、それでも、アサド政権後に生まれる政権はイランとある程度距離を置くだろう。

パリに本拠を構えるSNCのバーハン・ガリオン氏は最近行われたウォールストリートジャーナルの取材に対して、「もしSNCが政権を獲得したら、シリアとイランの間に特別な関係は存在しない。」と述べている。

またガリオン氏は12月6日のCNNの取材に対して、「国民に明確に拒絶され、今や自国民を拷問にかける存在となった現政権を支援すれば、将来に亘ってシリア-イラン関係を傷つけることになる点をイラン政府が十分に理解していることを望みます。」と語った。

またガリオン氏は、「シリアの人々は、過去に支援したヒズボラが、自由を求める自分たちの戦いに対して、同様の支援で応えてくれていない現実に驚いています。」と付加えた。

政権交代の可能性

SNCのワシントンのメンバーであるMurhaf Jouejati氏は、IPSの取材に対して、「アサド政権後の新政府は、イスラエルとパレスチナ・レバノン・シリア間の係争を交渉を通じて解決する方針を支持するとともに、米国との関係改善を志向するだろう。」と語った。

Jouejati氏は、イラン政府を、「シリア政府に代わってNCCに正当性を付与し支えようとしている」として批判した。また、NCCはシリア国内のデモ参加者から支持を得られていないとして、イランの試みは失敗するだろうと語った。

イランの策略は、自国が核開発プログラムを巡って、国際社会から孤立を深める一方、様々な経済制裁に晒されている中で行われている。

バラク・オバマ大統領は、イラン中央銀行との取引がある外国の金融機関に対して米国の銀行との取引を禁止する法案に署名する用意ができている。

中東の専門家達は、経済制裁の結果、シリア国内のビジネスコミュニティーによるアサド政権支持率は大きく低下しており、さらに多くの一般市民が政権による弾圧に辟易していることから、アサド政権は風前の灯であり、政権崩壊も突然訪れるといった事態も考えられるとの見方を示している。

現在米国務省の顧問をつとめるシリアの専門家フレデリック・ホフ氏は、12月14日に出席した米国議会での証言の中で、アサド政権が今後どの程度存続できるかは予測不可能と指摘したうえで、「アサド政権は、もはや『刑場に向かう死刑囚(dead man walking)も同然だ』と語った。

今後のシリア情勢は、イランのみならず、シリア国内に乱立している各種武装勢力や宗教派閥組織を各々のルートを通じて支援しているサウジアラビアやトルコの動き次第では、さらに悪化する可能性がある。

「結局のところ、これは地域覇権を巡る問題なのです。」と、レヴァント地域の軍事問題の専門家Aram Nerguizian氏は、14日にアトランティック・カウンシルで行った講演の中で語った。Nerguizian氏は、「シリアは(地域覇権を巡って干渉してくる諸国による)代理競争の場となり、従来イラクやレバノンを悩ませてきた内戦に似た国内紛争が顕在化して可能性が高い。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|気候変動|排出削減合意に向けて僅かな前進(ダーバン会合)

【ダーバンIPS=クリスティン・パリッツァ】

中国、南アフリカ、ブラジルの新興諸国は、南アフリカのダーバンで開催中の国連気候変動サミット(国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議:COP17)において、2020年からの法的拘束力がある温室効果ガスの削減義務を受け入れる可能性を示唆した。

気候変動の専門家は、3か国が法的拘束力がある義務を負う可能性を積極的に考慮すると表明したことは、たとえそれがすぐに効果をもたらすものでなかったとしても、今年の気候変動枠組交渉における主要な政治課題の一つの克服に向けた「大きな一歩」となる可能性があると見ている。

 しかしインドは引き続きそのような義務にコミットすることを拒否している。

欧州連合(EU)は先週、京都議定書が現在削減義務を課している先進国(議定書に批准していない世界第二位の排出国〈19%〉である米国を除く)だけではなく、南アフリカ、ブラジル、インド、中国の新興国(BASICグループ)を含む全ての主要排出国が、法的拘束力がある削減指標を担う協定に調印し2020年に発効させるという趣旨の「ロードマップ」を提案した。

BASIC諸国はいずれも様々な開発課題に直面しているが、同時に温室効果ガス排出の重要な排出元でもある。主な新興国とその他の開発途上国が排出する温室効果ガスの総量は54%と、既に全体の半分を上回っている(一方、京都議定書が削減を義務づけている先進国の総排出量は全体の27%にすぎない:IPSJ)。そして向こう20年で、新興国・発展途上国による排出量は、全体の3分の2に達すると推定されている。

194カ国が参加したCOP17は12月9日まで開催予定だが、新興国がこのEUロードマップに合意するかどうかという憶測でもちきりである。
 
11月28日に始まった今回の会合では、各国間の要求や期待の間にある深い溝が浮き彫りとなった。そうした中、中国(世界最大の排出国:22.3%)は、自主的に設定している排出削減目標が期限を迎える2020年以降について、法的拘束力を持つ地球温暖化対策枠組みに参加する意思表示を初めて行い、各国の注目を浴びた。中国は当初、EUロードマップはハードルが高すぎると主張していたが、今ではとりわけEUとの間に妥協点を模索し始めているようだ。

中国代表団の団長を務める解振華・国家発展改革委員会副主任は、「しかし中国の参加には前提条件があります。先進国は(2012年末に第一約束期間が切れる)京都議定書の第二約束期間に合意しなければなりません。そして(第二約束期間終了後)各国の約束実行・行動状況の評価を行い、その結果に基づいて中国は2020年以降の合意内容について交渉を開始する用意があります。」と語った。

中国は法的拘束力がある枠組みへの参加に関して、5つの前提条件を提示した。この中には、先進国による京都議定書と第二約束期間への合意のほか、途上国が気候変動問題に対処していくための300億ドルの早期資金と2020年までの毎年1000億ドルの長期資金の支援約束を実行に移すべきとの要求が含まれている。

また中国は、本会合でグリーン気候基金(GCF)の始動に合意すること、また、2009年のコペンハーゲン会合で合意され昨年のカンクン会合で気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCC)に組み込まれた一連の合意事項(技術移転、気候変動への適応、排出コミットメントを検証する新ルール等のイニシアチブ)を実行に移すよう求めている。

農業と生物多様性の分野で地球温暖化の深刻な被害に晒されている南アフリカとブラジルも、EUロードマップに関心を示した。

南アフリカのエドナ・モレワ水環境問題大臣は、「EUロードマップについては好意的に見ています。しかし、我が国は中国と同じく、法的拘束力をもついかなる合意に関しても、参加するかどうかを検討する際には前提条件を設けたい。」と語った。

南アフリカの次席交渉担当のXolisa Ngwadla氏は、「我が国は法的拘束力をもつ合意に向けて努力していきたい。我が国が国際舞台において可能な範囲内でいかに真剣に取り組もうとしているかは、UNFCCの第4条1項及び第2条の文脈の中で理解されているものと認識しています。」と語った。

UNFCCの第4条1項は、各国の国内総生産(GDP)規模に基づく「共通だが差異ある責任」に言及する一方で、第2条は、「生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ、経済開発が持続可能な態様で進行することができるような水準で大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」-つまり、気候変動による深刻な悪影響に晒されている国々にとって重要な点に言及している

「また我が国の将来におけるコミットメントは、先進国が今後、資金支援、技術移転、キャパシティビルディングにおいてどの程度実行するかを見て判断することとなります。」とNgwadla氏は付加えた。

一方南アフリカとは対照的に、ブラジルは、法的拘束力をもつ枠組みでも、それが科学的な根拠に基づく地球温暖化対策に有効なものであるならば、参加を検討するに当たり前提条件は設けないと語った。

ブラジルの首席交渉代表のルイス・アルベルト・フィグエイレド大使は、「我が国は今日にでも国際的に法的拘束力が伴う文書に合意する用意があります。しかし、それに値する文書がないのです。合意文書は、気候変動対策として科学的根拠に基づく有効なものでなければなりません。つまり我々は、採択そのものを目的とするような法的拘束力をもつ文書には同意できないのです。」と語った。

現在ブラジルは、国内で独自の排出削減目標を設定し法制化している。フィグエイレド大使は、こうした独自のコミットメントはいずれ深化させていかなければならないと指摘した上で、「我々はこうした試みをより積極的に打ち出していかなければならないと理解しています。こうした自主的な活動のみでは、通常、科学的根拠に基づく国際的な対応レベルには及ばないと考えています。ブラジルは将来における気候変動と戦う国際的な取り組みに積極的に参加して役割を果たす方針です。」と語った。

世界132カ国からなるG77/中国交渉ブロックの一員として、ブラジルはダーバン会合が12月9日に閉幕する前に京都議定書の第二約束期間を採択するよう後押しをしている。またブラジルは、途上国が気候変動に対応できるよう先進国が早期資金及び長期資金を支援するグリーン気候基金(GCF)の始動に同意するよう働きかけている。

BASIC4カ国の交渉団は、南南協力は経済的な側面のみならず、気候変動サミットにおいて決定をしていくためにも重要であること、そして新興国同士相互の立場を支持していくと繰り返し指摘している。

しかしBASICの4番目のメンバーであるインド(世界第4の排出国:4.9%)は他の3か国と足並みを揃えていないようだ。インドは法的拘束力を伴う排出削減枠組みへの署名は考えていないとしてEUロードマップにも反対の意思を繰り返し表明している。

インドは、2020年までにGDP 当たりの排出量を2005年比20%から25%削減するとしている独自の目標を実施することで十分との立場を表明している。インドの首席交渉代表のJ.M.マウスカール氏は、「一人当たりの二酸化炭素排出量が世界で最少レベルの我が国としては、さらなる厳しい排出制限目標は必要ないのです。インドは主要排出国ではないのですから。」と語った。

またマウスカール氏は、「インドは『相互保障』の部分について交渉する用意があります。カンクン合意における緩和プレッジでは、2020年までの途上国による自主的な削減行動プレッジの方が先進国による削減目標プレッジよりも絶対量で上回っていました。つまり途上国や新興国ではなく、先進国こそが自らのコミットメントについて一層の努力を行うべきなのです。」と語った。

インドは、工業先進国、とりわけ米国が温室効果ガス排出削減について明確なコミットメントをおこなっていない点について批判した。「我々は京都議定書の第二約束期間についてほとんど進展が見られていないことについて深く憂慮しています。」とムスカール氏は語った。

京都議定書締結国のロシア(世界第三の排出国:5.4%)は、南アフリカ、中国、ブラジル、インドとBRICS経済ブロックを形成しているが、(カナダ、日本と同様に)同議定書の第二約束期間の議論に関しては明白に拒否する意向を示している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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大多数のイスラエル人は核兵器のない中東を支持

【ワシントンIPS=ミッチェル・プリトニク】

イスラエルのユダヤ人の大多数は、たとえそのために自国の核兵器を放棄するということになっても、核兵器のない中東を支持するだろう。

これは、イスラエルのユダヤ系とパレスチナ系市民を対象に別々に実施した世論調査から明らかになった、最も驚くべき結果である。

12月1日にブルッキングス研究所から発表されたこの世論調査は、メリーランド大学のシブリー・テルハミ教授が11月に実施したもので、質問内容は、「アラブの春」から、米国に対する認識やイスラエル‐パレスチナ紛争の今後への希望など多岐にわたっている。

これによると、ユダヤ系イスラエル人の90%が、「イランは核兵器を開発すると思う」と回答した。もし選択肢が2つしかない(イスラエルとイラン双方が核武装か、核放棄か)ならばどちらを選択するかとの問いに対して、63%が「双方とも核兵器を保有しない方が望ましい」と回答した一方で、「双方が核武装したほうがよい」と回答したのは僅か19%だった。

 イランの核関連施設を攻撃するという考えについて、ユダヤ系イスラエル人回答者の43%が「支持する」と回答し、「反対する」と回答した41%を僅かに上回った。一方、アラブ系イスラエル人で攻撃を「支持する」と回答したのは僅か4%で、実に68%が攻撃に「反対する」と回答した。

また今回の世論調査で、ユダヤ系イスラエル人の大半は、「アラブの春」はアラブ世界に民主主義をもたらさず、従ってイスラエルに悪影響を及ぼすだろうと考えていることが明らかになった。

「アラブの春」がイスラエルにどのような影響をもたらすかという質問に対して、「事態は好転するだろう」との回答が僅か15%だったのに対して、「概ね悪影響を及ぼすだろう」との回答が51%にのぼった。一方、21%が「影響はない」と回答している。

しかし、「もし『アラブの春』がアラブ世界に民主化をもたらしたとしたら…」との仮定を付加えた質問に対しては、44%が「事態は好転するだろう」と回答した一方で、22%が「概ね悪影響を及ぼすだろう」と回答した。なお、「影響はない」との回答は28%だった。

イスラエル人コラムニストのナフン・バルネア氏は、テルハミ教授の世論調査の結果について、「イスラエルの人々は、『アラブの春』がイスラエルへの敵意を増幅させるものだと警告する政府発表やメディア報道に接して、恐怖心を抱いているのです。」と指摘した。

イスラエルのパレスチナ市民に対して行われた世論調査の結果は、いくつかの重要な問題について、1年前の結果とは大きな変化を示している。
 
現在イスラエルの管理下にあるアラブ/パレスチナ人の街を新パレスチナ国家に引き渡すことに賛成するかとの質問に対しては、「認める」との回答が17%にとどまったのに対して、78%が引き渡しを「認めない」と回答した。これは、58%が「認めない」、36%が「認める」と回答した2010年の調査結果と比べると明らかな変化が見てとれる。

また、パレスチナ難民がかつて追われた土地に帰還する権利の問題についても、今回の調査結果から、妥協に向けた明らかな変化が見られた。2010年の調査では、57%のアラブ系イスラエル市民が帰還の権利について「妥協の余地はない」、28%が『重要な問題だが妥協点を模索すべき』、11%が「あまり重要な問題ではない」と回答していた。

しかし今回の調査では、過半数が入替り、57%が妥協することに「賛成」、34%が「反対」、そして「あまり重要でない」との回答は、僅か5%にとどまった。

テルハミ教授は、この問題について、アラブ系イスラエル市民の世論がどうして大きくシフトしたかについては分からないとしつつ、「家族の中に土地を追われ難民となった経験を持つ者がいる家庭では、そうでない家庭と比べて、はるかに強く妥協に反対する傾向が見られた。」とコメントした。

また今回の調査で、イスラエル在住のアラブ系市民の地位に関しては、アラブ系市民とユダヤ系市民で対照的な見方をしていることが明らかになった。双方とも過半数の回答者(アラブ系:52%、ユダヤ系57%)が、「アラブ系市民は、法的にはユダヤ系市民と対等とされているが、構造的、社会的差別が存在する」と考えていたのに対して、36%のアラブ系市民が、実態は「アパルトヘイト下の(白人と黒人の)関係」と同じだと回答している。

ユダヤ系市民でそのような見解を持っていたのは僅か7%で、33%のユダヤ系市民は、アラブ系とユダヤ系市民の関係は平等との見方を示した。なお、アラブ系市民でそのような見解を示したのは3%にすぎない。

また大半のユダヤ系市民は、パレスチナ紛争が近い将来に解決するとは期待していないことが明らかとなった。向こう5年以内に紛争が解決すると回答したユダヤ系市民は僅か6%にとどまっており、49%が「決して解決しない」、42%が「最終的には解決するだろうが5年以上かかる」と回答している。

またユダヤ系市民の間では、イスラエルが「ユダヤ人の国家」として承認されるべきという点で幅広いコンセンサスが存在する。しかしこの点は、パレスチナ暫定自治政府が従来から断固として拒否している点でもある。今回の調査では、ユダヤ系市民の39%が、「ユダヤ人の国家」としての承認を、和平交渉やユダヤ人入植活動停止の前提条件だと回答している。また、40%が「ユダヤ人の国家」としての承認を、パレスチナとの最終和平合意の一部として受け入れると回答している。一方、「ユダヤ人の国家」として承認を要求する考えに賛同しないと回答したユダヤ系市民は僅か17%であった。

しかし「イスラエルを『ユダヤ人並びに全てのイスラエル市民の祖国』と定義することを受け入れるか否か」との質問に対しては、ユダヤ系市民の25%が反対したものの、71%が「受け入れる」と回答した。

またユダヤ人市民の66%が、現政権が1967年当時の国境と合意済の妥協点に沿ってパレスチナ側との包括的な和平を達成すべく、「もっと努力すべき」(その反対意見は31%)と回答している。この結果は、ベンヤミン・ネタニヤフ政権のこの問題に関する対応について、ユダヤ系市民の間で不満が高まっていることを示している。

さらに47%のユダヤ系市民が、イスラエルとパレスチナの「2国共存案(通称2国間解決案)が崩壊したら、「殆ど変化なく現状が続くことになる」と回答した。一方、34%は、「長期にわたる紛争につながるだろう」と回答した。

テルハミ教授は、「アラブ世界では、大半の人々が2国間解決案が崩壊すれば、何年にも亘る激しい紛争がおこると考えている。」と指摘した。

また今回の調査により、イスラエルのアラブ系市民は、「アラブの春」に対する態度や、トルコのエルドアン首相をアラブ世界のニューリーダーのモデルと見ている点で、他のアラブ世界の人々と概ね見解を同じくしていることが明らかとなった。

一方、アラブ系イスラエル人とアラブ諸国のアラブ人の間で、大きく意見が分かれたのが、最近の中東における米国の役割に対する認識である。ここ数カ月で中東地域に最も建設的な役割を果たした国を2つ挙げるよう求める質問に対して、アラブ諸国の回答者の間では、米国は3番目(24%)にランクされたのに対して、アラブ系イスラエル人の間では、米国は1番(45%)にランクされた。

次期大統領選挙が近づく中、バラク・オバマ大統領にとって、ユダヤ系イスラエル人からの支持率が昨年の41%から今回54%に上昇したのは心強いニュースだったかもしれない。しかし、オバマ政権の中東政策に対する評価は、「希望が持てる」という回答が22%だったのに対して「がっかりさせられた」という回答が39%にのぼるなど、概して低いままであった。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

│キューバ│ローマ法王訪問に向けた環境づくり進む

【ハバナIPS=パトリシア・グロッグ】

ローマ法王のベネディクト16世が来春にキューバを訪問する計画が進んでいる。これによって、キューバ政府とカトリック教会の関係改善が図られるのではないかと期待されている。

キューバ司教会議(COCC)のホセ・フェリックス・ペレス・リエラ事務次長は、IPSの取材に対して、「喜びと希望に満ち溢れています。ローマ法王のキューバ訪問は、キューバ人の間の一体感を高めるとともに、和解も促進することになるでしょう。」と語った。

 また、宗教学が専門のエンリケ・ロペス・オリバ教授は、ラウル・カストロ国家評議会議長とハバナ大司教のハイメ・オルテガ枢機卿が昨年会談したことを踏まえて、「ローマ法王のキューバ訪問は、国家と教会の関係を新たな段階へと進める契機となる可能性があるだけに、大変重要な出来事になるでしょう。」と語った。

キューバ司教会は、今回のローマ法王庁の発表について、「全てのキューバ人の母なるマリア様からの恵みにほかありません。」と歓迎の意を表明している。キューバ国内では、昨年8月から年末までの予定で、「エルコブレ聖母」像(La Virgen de La Caridad del Cobre)の巡回が行われている(キューバ革命後はじめてのこと:IPSJ)。
 
この聖母像は、普段はキューバの南端の県の一つ、サンティアゴ・デ・クーバ(ハバナの東861キロ)から12キロ郊外の大教会堂(básilica)に安置されている。布衣装を着て幼子を抱えたこの聖母像は、1612年に、島の北岸にあるニペ湾に浮かんでいるところを、インディアンの兄弟フアンとロドリゴ・デ・オヨスと黒人の少年フアン・モレノによって発見された。伝説によると、この聖母像が乗っていた板には「私は、この島の住民を保護するマリア」と刻まれていたという。来年は聖母像発見400周年となり、キューバ人、外国人を問わず多くの巡礼者が聖地エル・コブレを訪問することが見込まれている。

「特に来年は聖年にあたる年ですから、ローマ法皇が巡礼に来訪されるには素晴らしい機会だと思いますし、大変嬉しく思っています。(現在行われている)聖母像の全国巡回はキューバ国内における信徒の信仰心を深める上で重要な役割を果たしていると思いますし、ローマ法王の来訪に向けたよい環境作りができつつあると思います。」とペレス・リエラ司祭は語った。


ベネディクト16世の前の法王であるヨハネ・パウロ2世は、1998年1月にキューバを訪問したことがある。 ヨハネ・パウロ2世 フィデル・カストロ国家評議会議長(当時)と会談し、それまで必ずしも容易ではなかった国家とカトリック教会との間に架け橋を築くことに成功した。

その後カストロ議長は、2006年に体調を崩して現役を退く前に、その前年に法王となっていたベネディクト16世に少なくとも2度にわたって招待状を出していたが、訪問は実現していなかった。

フィデルの後を継いで執政しているラウル・カストロ議長は、オルテガ枢機卿、COCCのディオニシオ・ガルシア総裁と2010年5月に長い会談を行い、カトリック教会と国家の関係改善について話し合っていた。この会談の結果、2003年に一斉検挙され米国の陰謀に加担して国家転覆を図ったとして厳しい判決を受けた(「 黒い春事件」)最後の57人を含む100人以上の政治囚が釈放されている。ちなみに今回釈放された元政治囚の大半はキューバを離れることに同意している。

ラウル・カストロ議長は、キューバ共産党第6回大会への報告の中で、政治犯釈放交渉においてカトリック教会指導部が果たした役割を高く評価するとともに、彼らとの交渉は「相互に尊重し合い、誠実さと、透明性を確保したものであった。」と力説した。またカストロ議長は、「この対話を通じて、私たちはキューバの歴史及び革命プロセスにおいてもっとも重要なレガシー、すなわち『国としてのまとまり』を強化することを選択したのです。」と語った。専門家は、カストロ議長のカトリック教会に対するこうした方針は、今後も引き継がれていくだろうと見ている。

ロペス・オリバ教授は、ローマ法王のキューバ訪問は、オルテガ枢機卿による従来の努力を後押しする効果があると指摘して、「キューバ政府に対する対話者として、カトリック教会内におけるオルテガ枢機卿の地位を固めることになるだろう。」と語った。オルテガ枢機卿は教会法に従って75歳になった際、ハバナ大司教の職を辞したいと願い出たが、バチカン法王庁が慰留した経緯がある。

また、ロペス・オリバ教授は、「オルテガ枢機卿は、キューバ内外の反対勢力からは、『カストロ政権に対して融和的すぎる』として批判の対象となってきました。しかし、ベネディクト16世がキューバを訪問することで、オルテガ枢機卿は教皇の支持を得ていることが内外に示されることになるのです。」と語った。

さらにロペス・オリバ教授は、「ローマ法王のキューバ訪問は、在外のキューバ人カトリック教徒、とりわけ米国在住のキューバ人のキューバ国家に対する態度を変えることになるかもしれません。」と語った。こうした在外キューバカトリック教徒の多くが、来年の聖母像発見400年祭には、エルコブレ大教会堂への巡礼にキューバを訪れると見られている。(原文へ

翻訳=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

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メコン川流域の不法地帯警備に中国が介入

【バンコクIPS=マルワーン・マカン-マルカール】

中国は、軍閥や麻薬密輸者が跋扈している東南アジアの一角(=メコン川上流地域)に武装巡視艇を派遣する意向である。中国はメコン川を通じて5か国(タイ、ビルマ、ラオス、カンボディア、ベトナム)と接している。

中国の『人民日報』ウェブサイトによれば、タイ北部のチェンセンと中国雲南省の關累をむすぶ河川輸送ルート(対象の保護船舶は約130隻)を5隻の中国巡視艇が警備するとのことである。

 ラオス、タイ、ビルマ三国の国境が交わる岩だらけの山岳地帯は、麻薬密輸で有名な「黄金の三角地帯」と呼ばれており、メコン川もここを通っている。「中国の巡視艇は、これらの国々を行き来する中国、ラオス、ビルマ、タイの合法的な貨物輸送を警備する予定です。」と、メコン川を交易に利用している中国人船主協会のFang Youguo事務局長は述べている。

中国は10年前にタイ、ラオス、ビルマとメコン上流域における大型船舶の航行を可能にする浚渫工事に合意し、この地域への戦略的な足場を獲得することに成功した。

現在ではタイ(チェンセン)から中国(雲南)へのメコン川輸送ルートは、セメント、鉄、果物、石油など、年間15億ドル以上の物資を取り扱っている。一方、中国からは、にんにく、玉葱、リンゴ、タイ市場向けのプラスチック製品等を積載した船がタイに航行している。

今回の中国政府の決定は、2隻の中国貨物船が何者かによって襲われ、中国人乗組員13人が殺害されるという10月5日の事件をきっかけとしている。

当初タイ軍特殊部隊は、ビルマの少数民族シャンの麻薬密売組織のリーダーNor Khamを容疑者として挙げていたが、10月末までには、タイ警察は9名のタイ軍兵士を容疑者に指名した。

一方11月上旬にはメコン地域のラオス領でカジノを経営している中国人実業家Zhao Wei氏の名が容疑者として浮上した。Zhao氏は、中国人顧客を呼び込んでいた彼の違法賭博場を手入れした中国官憲とトラブルを起こしていた。

中国人船員が殺害されたこの事件は、中国国内で大きな反響を呼び、中国政府は警備体制が整うまで、中国向け河川輸送を一時停止する措置をとった。陸上通商ルートと共にメコン河川を通じた輸送ルートは、中国と南に隣接した各国とのユニークな協力関係を構築することに貢献している。

「10月5日(の殺人事件)については多くの人々が関心を持ち、怒りと共に真相究明を呼びかける声が高まっています。治安問題は、地域協力を安定化する上で極めて重要な問題です。」とコラムニストのDing Gang氏は大手日刊紙「グローバルタイムス」に寄稿している。

中国政府は、タイ、ラオス、ビルマ各政府に、事件の捜査を強化するよう圧力をかける一方、国境地帯の共同警備を可能にする四カ国協定を10月31日に結んだ。

国際人権 NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(本部・ニューヨーク)の中国担当上級調査員であるニコラ・ベクイリン氏は、IPSの取材に対して、「これは(中国が)この地域の支配的な勢力になろうとしている意思表示なのです。」と語った。

「正義が勝つためには、犯人と扇動者を追い込み、法の裁きを受けさせなければならない。『黄金の三角地帯』をとりまく複雑な状況を考えれば、国境を越えた多国間の捜査と連携が重要である。」と先週中国の英字日刊紙「チャイナ・デイリー」は論説の中で報じた。

しかしこのような新協力体制のレトリックが、無法が蔓延る「黄金の三角地帯」で機能するかどうかはこれからの課題である。警察を含む従来の地域協力体制の下では、密輸、射殺問題に対して有効な成果を上げられずにきた経緯がある。

メコン川と国境をまたがる犯罪は、関連各国による最善の努力にも関わらず、引き続き大きな問題である。この地域の犯罪例には、麻薬関連のものの他に、ゆすり、強盗、発砲事件があります。」と国連薬物犯罪事務所(UNODC)東アジア・. 太平洋地域センターのゲイリー・ルイス所長は語った。

「黄金の三角地帯の中には人里離れて、立ち入りが困難な場所が多々あり、メコン流域全般を警備するのを極めて困難にしています。こうした環境が犯罪組織に理想的な活動拠点を提供しているのです。」とルイス所長は語った。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、9月に発表した報告書の中で、「黄金の三角地帯」を流れる全長4880キロのメコン川を、ビルマのシャン州で製造されたメタンフェタミン錠剤の主要な密輸ルートとなっている点を指摘している。この内容は、黄金の三角地帯がかつて世界最大の麻薬・ヘロインの密造地帯であったことを髣髴とさせるものである。

「黄金の三角地帯の密輸業者や軍閥は、麻薬取引から利益を得ていないときは、メコン川を航行する中国船舶から、『保護手数料』と称して金品を脅し取ってきました。」とシャン族の通信社で編集長をつとめるクエンサイ・ジャイエン氏は語った。

「彼らは、長年に亘って貨物船を襲って荷物を奪い取ってきました。中には、停船を拒否したことから撃ち殺された中国人船員も少なくありません。」とジャイエン氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

|リビア|「過去の失敗は繰り返してはならない」とUAE紙

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【アブダビWAM】

「リビア人は過去の失敗や落とし穴を避けるべきだ。暫定国民評議会(NTC)には、全ての囚人が適正な法の手続きに則って裁かれるよう保証する義務がある。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が報じた。

ガルフ・ニュースは12月3日付の論説の中で、「最近国連がリビアの革命勢力による捕虜の扱いに関する報告書を公表したが、内容は驚くべきものだ。」と報じた。

「現在捕虜の総数は7000人で、弁護士の接見も許されない状況で拷問や虐待を受けているものも少なくない。」と同紙は報じた。

また同紙は国連報告書の以下の部分を引用している:「暫定国民評議会(NTC)は、捕虜の管理・監督権を軍の部隊から、正式な国の担当組織に移行させる手続きを進めているが、囚人を拘束する規則の整備や虐待の防止、拘束期限が切れている囚人の釈放問題など、すべきことはまだたくさんある。」

 「リビアは長年に亘ったカダフィ独裁政権の崩壊を受けて、大規模な再建プロセスの渦中にある。しかしだからと言って、不正を許容する余地があってはならない。」とガルフ・ニュース紙は強調した。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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国連の査察機関、2003年以前のイラン核兵器研究について詳述する

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【ワシントンIPS=バーバラ・スラヴィン】

イランの核開発疑惑に関する最新の国際原子力機関(IAEA)報告書は、2003以前にイランが核兵器製造に関する幅広い研究を行っていたとする有力な証拠を提供している。しかしその後どの程度作業が継続されたかについては明確に示していない。

IAEAは11月8日、10以上の加盟国やイランの核開発事業に関与したことがある外国人科学者から提供された情報を含む「幅広い独立情報源」を引用しながら、「イランは、1990年代末から2003年まで、『核起爆装置の開発に関する』様々な活動を行っていた。」と述べた。

 通常のIAEA報告書に添付された14ページに亘る付属文書に詳述されている内容は、IAEAや国際社会がイランに対して、(核兵器開発疑惑に関する)より明確な回答や、核関連施設への一層のアクセスを要求するうえで、十分な攻撃材料となるものである。しかし、イランが実際に核兵器を製造したことを示すものは、記されていなかった。
 
今回のIAEA報告書には、新たな情報として、「イランは、核弾頭製造に必要なウランメタルの製造実験や、高性能爆薬を使った起爆実験、さらに中距離弾道ミサイル(ハジャブ3)に装着する小型核弾頭の研究を行った。IAEAが入手した衛星写真によると、イランはテヘラン郊外の(パルチン軍事)施設に、起爆実験を行うための鋼鉄製大型コンテナを設置している。」と記されている。

「こうした活動は、核不拡散条約(NPT)の規定の下で平和的な核利用に専念するとしてきたイラン自身の公約に違反するものであり、イランには説明責任がある。」とIAEAは主張している。

一方報告書は、イランが、ナタンツにウラン濃縮工場、さらにアラクに重水製造プラントと原子炉の建設を進めていることをIAEAに説明し、少なくとも一時的に核開発計画を停止したとされる2003年以後の状況については、あまり触れていない。

この点について報告書は、「IAEAがイランの核開発の状況を把握できる能力は、2003年末以降、イランに関する情報入手がより困難となったため、限定的なものとならざるを得なかった。」と認めている。

従って、IAEA最新報告書の内容は、批判が強い2007年の米国家情報評価(NIE)の内容に概ね一致するものである。NIEは、米政府の各省庁にまたがる16情報機関が、外交安全保障の主要課題について総意をまとめたもので、2007年半ばの段階で、イランが核兵器計画を再開していない見込みは「中程度の信頼性がある」と分析していた。

今回のIAEA報告書を受けて、早速保守派グループは、イラン中央銀行に対する制裁と「全てのオプション‐つまり軍事攻撃を意味する‐」を視野に入れた、より厳格な対策を新たにイランに対して講じるべきとの要求をはじめた。

主要ユダヤ組織会長会議のリチャード・ストーン議長とマルコム・ホーンライン副議長は、「(IAEA報告書によって)核兵器開発に関するイランの意図や方向性について、もはや疑念の余地はなくなりました。イランは核兵器開発を急速に進めているのです。」「報告書の内容は明らかであり、『全てのオプション』を含んだ迅速、かつ包括的な対応策を求めています。」と語った。

しかしイラン核開発計画に関する主要な側面については、何年も前から知られているものであり過去のIAEA報告書においても議論されてきている。

元IAEAの査察官で、現在は、米シンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)の所長を務めるデイビッド・オルブライト氏は、IPSの取材に対して、「『イランに対する圧力が功を奏し』、IAEAが『構造化された』プログラムと呼んでいた核兵器開発を、イランが2003年段階で停止していたとの新たな証拠に接し、勇気づけられました。イランが自国のミサイルに装着可能な信頼性が高い核弾頭の開発に成功しなかったと知ることは、重要なことです。なぜならその時点で実際に開発が停止していたということは、私たちの立場をずっと安泰なものにするからです。」と語った。

さらにオルブライト氏は、「しかし、イランは核兵器の製造方法やそれを信頼性の高いものにするために克服しなければならない問題点も知っているのです。」と付加えた。

報告書の主張の中で、2003年以降のイランによる核開発疑惑とされる部分については、論拠に乏しいものである。例えば、「イランは2004年以降に、核爆発につながる連鎖反応を引き起こすために必要な『中性子起爆装置』の製造を試みた。」との情報を提供したのは、IAEA加盟の僅か匿名の1か国にすぎない。

また、「イランは2008年と2009年に、信頼性が高い核爆弾を製造するための次のステップとなる、核装置のコンピュータ・シュミレーション(通常の爆破による衝撃波が、核装置の中核部にある球状燃料をどのように圧縮するかを検証するもの)を行った」との情報提供をおこなったのは、IAEA加盟の匿名の2か国であった。

「新たに詳述された報告が含まれているものの、今回の報告書が伝えている全体像は、以前に聞いたことがあるものばかりです。(核兵器開発の兆候を示す)新たな場所だとか実験分野に関する情報は全く示されていません。」と、軍備管理協会のダリル・キンボール事務局長は語った。

この報告書はIAEA理事国(35ヶ国)に配布され、まもなく内容がメディアにリークされた。これに対しイランは現時点では反応を示していない(その後、マームード・アフマディネジャド大統領は、「イランは核兵器を必要としない。IAEAの報告は米国の主張の代弁に過ぎない。イランは核計画で絶対後退しない。」(イラン国営放送)と反論した:IPSJ)。イランは過去においても、IAEAが調査をある程度実施していることは認めつつも、「偽造文書を根拠にイランと対峙している」としてIAEAを非難したことがある。

バラク・オバマ政権は、報告書の内容を慎重に検討し、対イラン制裁のさらなる強化を含めて、外交的解決に一層努力していく意向を表明した。
 
この報告書の中で最も憂慮すべき個所は、保障措置の対象となるイランのウラン濃縮施設について記された冒頭の部分であった。報告書は、「イランはゆっくりではあるが着実に核濃縮作業を継続しており、今日では既に5%まで濃縮したウラン235を5トン近く、そして20%まで濃縮したウラン235を74キロ近く保有している。この備蓄量は、兵器級ウラン(濃縮度90%以上)に変換された場合、核爆弾数個を製造するに十分な量である。」と指摘している。

報告書は翌週に予定されているIAEA定例理事会を前に発表された。これをうけて同理事会は紛糾することが予想される(同理事会は18日、イランに対し核兵器開発疑惑の解明を強く求める決議を賛成多数で採択した。しかし欧米が主張した国連安全保障理事会への付託や、イランに対する強い非難は、ロシアと中国の反対で見送られた:IPSJ)。

「最も重要なことは、イランが核兵器開発疑惑について明らかにすることです。もしイランがこれに取り組むならば、核濃縮活動がこれほど問題視されることもなくなるでしょう。」とオルブライト所長は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)のシェイク・アブダッラー・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン外務大臣によると、湾岸協力会議(GCC)の全加盟国(アラブ首長国連邦・バーレーン・クウェート・オマーン・カタール・サウジアラビア)は域内経済ブロックを創出すべく共同して経済システムの構築を進めており、来年までには成果を出したいと考えていると語った。

アブダッラー外相は12月6日・7日にアブダビで開催予定のGCC首脳会議に先立って開かれた第117回閣僚級会合の開会式で挨拶に立ち「今日私たちは、GCC各加盟国の国境の枠を超えて湾岸地域全体にとって脅威となっている諸問題に直面しており、問題解決には加盟各国が積極的に意見交換し健全な対応策が練られる必要がある。そのためにもGCCを通じて湾岸諸国として統一したアプローチがはかられる必要がある。」と語った。

同閣僚会議には他のGCC加盟国から外務大臣が出席した。

「湾岸地域は現在様々なデリケートかつ複雑な政治問題に直面しており、私達は地域及び国際情勢さらに各加盟国の指導者の意向を踏まえながら議論を尽くして問題解決のための共通の立場を見いだしていく必要があります。」と同外相は語った。

今回の閣僚級会合で協議された政治議題は、パレスチナ問題、イランが実効支配中でUAEが直接交渉か国際司法裁判所を通じた平和的な解決を求めているUAEの3島(大・小トンブ島とアブムサ島)領土問題、レバノン、イラク、スーダン、ソマリア問題である。また同会議では、バーレーンが提案している包括的GCC長期開発計画(2010~25)や域外諸国や他の経済ブロックとの自由貿易交渉、関税同盟、統一した都市開発戦略、災害対策センター構想、メディア戦略、イエメンとの協力問題、その他、閣僚級委員会から提出された報告や勧告について協議が行われた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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【大連IDN=浅霧勝浩】

中国東北部の遼寧省に位置する大連市と、日本の北九州市は、公害抑制と環境浄化に、ともに積極的に取り組んできた自治体として知られている。かつて1960年代から70年代にかけて、両都市は、重化学工業を中心とする工場から排出される産業公害により、深刻な環境汚染に直面していた。しかしその後大きな変貌を遂げ、今日では、持続可能な開発のため、地球温暖化抑制にも協力して取り組むまでになっている。

従って、2007年、2009年、2011年の夏に世界経済フォーラム「ニュー・チャンピオン年次総会」の開催地となった大連市が、今年10月19日から26日にかけて、「第1回低炭素地球サミット2011(LCES-2011)」をホストしたのは驚くにあたらない。

TTA Delegation after the welcome Ceremony/ Katsuhiro Asagiri
TTA Delegation after the welcome Ceremony/ Katsuhiro Asagiri

 
「サマーダボス会議」としても知られる「ニュー・チャンピオン年次総会」は、アジアで最も著名なビジネス会合であり、中国政府との密接な協力、とりわけ温家宝国務総理の強力な後押しを得て、2007年に設立された。

第1回低炭素地球サミット」は、中国国家外国専家局情報研究所中国国際貿易促進委員会大連市分会が共催し、「エコ経済をリードし、調和した自然に戻ろう」というテーマのもと、8日間に亘って開催された。主催者の発表によると、中国のほか米国、カナダ、ドイツ、インド、日本など57カ国から専門家や企業代表者、政府関係者など4,000人余りが参加した。
 
低炭素経済」に移行する必要性は、とりわけ2009年にコペンハーゲンで開催された国連気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)以来、国際社会で広く認識されてきているが、大連の「低炭素地球サミット」の重要性は、まさに「低炭素経済」と産業について、研究者、企業代表者、政府関係者など幅広い分野の専門家が情報交換をし、地球温暖化防止への課題解決に向け、多角的な議論を行うプラットフォームを提供したことであった。

Mahatoma Gandhi/ Wikimedia Commons
Mahatoma Gandhi/ Wikimedia Commons

インドから参加した、アミティ大学地球温暖化生態学研究所のJ.C.カラ事務総長は、数名のサミット参加者の感想を代弁して、「かつてマハトマ・ガンジーが『地球はすべての人間の必要を満たすのに十分なものを与えてくれるが、貪欲は満たしてくれない。』と述べたように、低炭素社会の実現を目指すこのサミットは、極めて重要な試みだと思います。」と語った。


グリーン・エコプロジェクト

日本から参加した東京都トラック協会(大髙一夫会長)の遠藤啓二環境部長は、環境分野における日中協力の歴史を踏まえて、中国やその他の国々においても効果が期待されている「グリーン・エコプロジェクト」に関する発表を行った。
 
グリーン・エコプロジェクトには、4つの重要な側面があります。すなわち、①持続可能性、②コスト削減、③収拾したデータの正確性、そしてなによりも、④ドライバーの『やる気』を持続する活動であるという側面です。また重要な要素として、プロジェクトにはエコドライブ教育が組み込まれています。優良ドライバーの会社はトップランナーとして表彰され、やる気を引き出すよう配慮されています。またプロジェクトには上司もドライバーと同等の立場で参加し、1年間に7回のセミナーが提供されています。」と遠藤氏はサミット参加者に語りかけた。

また遠藤氏は、エコプロジェクトの成果について、「プロジェクトへの参加企業数は増加し続け、2011年7月時点で、530社以上の企業と12,214台以上の車両が参加しています。加えて、燃料消費もこの4年間で減少しました。それは、546台の大型タンクローリーに積載できる量に匹敵し、金額に換算すると1,440万ドル(1,000万ユーロ)に相当します。」「この省エネで、22,888トンのCO2排出削減がなされました。これは杉の植樹に換算すると1,635,000本に相当します。また交通事故も4年間で4割減少しています。」と報告した。

その上で遠藤氏は、「このプロジェクトは、国民経済の面だけでなく、社会全体に対しても大きな成果を上げていると言えます。」と結論付けた。そして、「次のステップは、各車両タイプ毎に、省エネデータベースを構築することです。」と今後の抱負についても語った。

Mr. Keiji Endo of TTA/ TTA
Mr. Keiji Endo of TTA/ TTA

日本では、デジタルタコグラフやドライブレコーダーのように、エコドライブをサポートする多くの先進的な装置が利用可能である。しかし、遠藤氏が発表の中で強調したように、グリーン・エコプロジェクトの最大の特徴は、巨額の投資も高度な技術も必要としない点にある。必要なのは、「運転管理シート」と呼ばれる1枚の紙と鉛筆だけである。これだけで、環境を守り、燃料コストを削減し、交通事故を減らし、従業員間での意思疎通の円滑化を図れるのである。
 
米国から参加した石油探索企業大手シュルンベルジェ株式会社のムルタザ・ジアウディン顧問は、遠藤氏の発表について、「良い政策決定を行う上で最も重要なことは、正確なデータを集めることです。しかし代表値を得るのは至難の業です。多くの場合、データ集積のプロセスは必要以上に複雑になりがちで、参加もなかなか得られないものです。遠藤氏が紹介した『グリーン・エコプロジェクト』の優れている点は、それがシンプルでありながら極めて効果的だということです。すなわち、このプロジェクトでは、代表値の集積が可能なだけでなく、適切に参加者の『やる気』を引き出す仕組みが出来上がっており、プロジェクトに関わる全ての人々に満足できる状況(win-win situation)を創出している点が素晴らしいと思います。」と語った。

日本から参加した株式会社アスアの間地寛社長はIDNの取材に応じ、「このプロジェクトは、高価な機器を利用することなく、紙とペンがあればすぐに取り組めることを考えると、中国や他の国々でも十分応用が可能だと思います。」と語った。

また間地氏は、「遠藤氏が講演の中で指摘した通り、グリーン・エコプロジェクトは、小さな取り組みでも大勢で取り組めば、環境対策において大変大きな成果が得られるという良い事例だと思います。」と付け加えた。

日中環境協力

また、北九州市出身の間地氏は、「『第1回低炭素地球サミット』の会場を大連市としたのは、適切な選択だと思います。」と語った。大連市は、戦前は(1906年から日本が太平洋戦争に敗れた1945年まで日本の満州経営の中核となった)南満州鉄道株式会社の本社が置かれていた場所であり、戦後は北九州市と門司港を通じた長年に亘る交流の歴史を持っている。一方、大連市とその周辺地域には、20世紀、とりわけ戦争史の観点から、日中両国による重要な史跡が点在する地域である。

日中環境協力に関する報告書によると、大連市は1979年5月に北九州市と姉妹都市提携を結んだ。以来、大連市環境保護局と、北九州市環境保護局並びにKITA((財)北九州国際技術協力協会)は、交流を深めてきた。「大連市からの環境保護研修生は、北九州市で環境保護に関する認識を深めるとともに、関連分野の技術や管理スキルを大いに高めて帰国した。」と報告書に記されている。

1997年、橋本龍太郎首相(当時)は、日中国交正常化25周年の節目に訪中した際、環境保護分野における日中協力の推進(「21世紀に向けた日中環境協力」構想)を提唱し、その一環として「環境対策モデル都市」を中国国内に1つか2つ選定するよう中国側に提案した。

李鵬国務院総理(当時)は、橋本提案を支持し、日中環境協力は国レベルで推進されることとなった。報告書には、「(自治体レベルで日中環境協力を従来から進めてきた)大連市は、北九州市の支援を得て積極的にキャンペーンを展開し、『環境対策モデル都市』の一つに認定されることに成功した。」と記されている。

国際協力事業団(現独立行政法人国際協力機構:JICA)は、1996年から2000年まで「大連環境モデル地区計画」(北九州市が提案しJICAが共同で実施)を支援した。日中の専門家は、この開発調査事業を通じて、大連市の環境改善計画のマスタープランとなる「環境モデル地区開発調査報告書」を共同で策定した。

「モデル地区」開発事業は、大連市の環境改善に貢献したのみならず、報告書が指摘しているように、環境保護に取り組む企業にも恩恵を与えるものであった。

この日中環境協力パートナーシップにとって、幸いだったことは、北九州市が、東京都と上海市のちょうど中間に位置し、公害抑制とリサイクル技術において日本で最も先進的な自治体であったことである。事実、北九州市は「世界の環境首都」を自認している。

北九州市は、1960年代、外で干していた洗濯物がいつも黒く汚れることに危機感を抱いていた戸畑区三六町の主婦たちが立ち上がった、戦後日本で最初の公害反対運動が起こった地でもある。今日、北九州市は、大連をはじめとした姉妹諸都市に対して、水質浄化に関する助言を行っている。
 
1992年、北九州市は、ブラジルで開催された地球環境サミットにおいて、それまでの環境問題への取り組みが評価され、世界各地の11の自治体と共に「国連地方自治体表彰」を受賞した。また日本国内においても、若松区に北九州エコタウンを建設し、環境対策及びリサイクルへの取り組みにおいて最も先進的な取り組みを進めている。

Green Eco Project
Green Eco Project

また北九州市には、北九州国際会議場と西日本総合展示場を擁する「西日本産業貿易コンベンション協会」があり、とりわけ環境や教育に関する国際会議を積極的に開催している。また、八幡東区にはスペースワールドというテーマパークや、JICAが運営する研修施設(JICA九州国際センター)がある。

こうした北九州市の足跡について、経済協力開発機構(OECD)は、「『灰色の街』から『緑の街』へ変貌を遂げた都市」として高く評価し、国際社会に紹介した。一方大連市も、2001年、北九州市との長年に亘る環境協力の成果が評価され、中国の都市では初めて、国連環境計画(UNEP)の「グローバル500」を受賞した。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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