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社会変化を引き起こす都市暴動

【シカゴIDN=キーアンガ=ヤマタ・テイラー】

ロンドンを初めとして英国中を席巻している都市暴動は、カイロからリスボン、サンチアゴからマディソンまでを覆っている世界的な蜂起の一部分であり、すでに弱められていた公的部門の最後の部分を破壊しようという新自由主義に対して立ち上がったものである。

ロンドンの蜂起は、公的部門縮減の悪影響が有色人種の若者にいかに不平等に降りかかってくるかを示している。あらゆる立場の政治家が暴動参加者を犯罪者呼ばわりし、メディアが略奪と混乱を描く中で問われなければならないことは、「なぜ彼らは自分たちのコミュニティを焼き打つのだろうか?」ということだ。

 その問いに答えるには、1960年代のアメリカの都市暴動の歴史を振り返ってみる必要があるだろう。

1960年代半ば、多くのアフリカ系アメリカ人が、人種差別と警察の人権侵害に対して、全米で立ち上がった。当時なんらかの形でそうした抗議活動に参加した人数は50万人を超えると見られているが、この数値はベトナム戦争に従軍した米兵の総数(553,000人)とほぼ同じである。

デトロイト、タンパ、ヒューストン、シカゴ、フィラデルフィア、プラットヴィル(アラバマ州)という全く背景の異なる全米の諸都市で、蜂起に参加した人々は、米国の民主主義や社会全般に関する基本的な問題を提起した。

事実、こうした蜂起は一時的な不満の爆発に止まらず継続的な現象として全米各地に広がりを見せたことから、ついには連邦政府も政策の転換を余儀なくさせられたのである。その結果、従来は周辺的な政治課題だった都市問題(住宅不足、警察の横暴、教育、失業問題等)を、当時のリンドン・ジョンソン大統領が「国家のもっとも緊急な課題」と位置づけるようになった。

従って、議論の余地はあるが、1960年代の都市暴動は同年代で最も重要な政治イベントとなった。60年代の初めにはわずか6億ドルだった住宅・都市関連予算は、その終わりには30億ドルにまで膨らんだ。住宅・都市開発省も設置された。

このような成果にもかかわらず、現在も依然として、民衆蜂起の経験は否定的なものとして描かれることが少なくない。

たとえば、『デトロイト・フリー・プレス』紙に対する2007年のある投書はこう書いている。

「1967年の長く暑い夏から40年がたった。しかし、その1週間の影響は依然として残っている。すでに始まっていた白人の逃避の流れは洪水のごとくになり、デトロイトは全米でもっとも人種隔離的な都市になってしまった。家々や事務所が焼き打たれたという事実が、暴動の経験として人々の頭の中に残っている。今日、それらの建物のほとんどが壊された。しかし、土地は依然として空き地のままである。」

今日の貧困状況は直接的に60年代の出来事に結び付けられ、都市の衰退を招いた本当の理由(その後40年間の公共政策の貧しさ)は無視されている。

さらに言えば、こうした認識のあり方は、同じく60年代に起こった公民権運動が非暴力的で統制の取れたものであったとの見方と対を成している。

多くの人びとは、「60年代の都市暴動はよいものか、悪いものか」という認識パターンにとらわれているようだ。しかし、それは、民衆蜂起が当時の政治的言説に与えたダイナミズムを低く見るものだ。アフリカ系アメリカ人たちの蜂起は、長らく「見えないもの」とされてきた彼らによる、政治的討議の場への「強引な入場」といえるだろう。

そこで今の英国に戻ってみる。この国において、最後に人種主義や貧困が語られたのはいつのことだろうか。ロンドン暴動の後、この種の議論が世界中で巻き起こることになった。数週間前なら考えられなかったことだ。

もちろん、暴動は長続きしない。アドレナリンは消え、いつかは国家の政治の中に回収されていく。立ち上がった者たちの生活に本当の変化をもたらすためにさらに必要とされているのは、戦略と政治、そして組織化である。(原文へ

※キーアンガ=ヤマタ・テイラーは、『国際社会主義者レビュー』誌の編集委員。

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

水はスマートな都市拡張の命綱(ストックホルム国際水研究所所長アンダース・バーンテル氏インタビュー)

【国連IPS=タリフ・ディーン

2050年、世界の都市に住む人口は、現在の世界全体の人口と同じ60億人にまで拡大するとみられている。このような状況の中で、都市はいったいどうやって水を確保するのか。とりわけ、世界の都市拡大のうち95%を占めるであろうといわれる途上国においてはどうなのか。IPS国連総局のタリフ・ディーン記者が、ストックホルム国際水研究所のアンダース・バーンテル所長に聞いた。

Q:急速な都市化が水の供給に与える影響は今後どれだけ深刻なものになるでしょうか。

A:おそらく、対処すべきより重要な問題は、水がいかに都市の成長に影響するのかということです。それは、都市が今日どのような選択を取るのかということによります。短期的、中期的、長期的にきちんと計画を立てている乾燥地帯の都市は、水不足による災害や経済的な損失を避けることができるでしょう。

 各々の都市は、旱魃や洪水に日頃から備え、いざという時に損失を回避するという賢明な方策を選ぶことができます。また、排水溝から環境汚染物質を垂れ流す代わりに、街中の水を循環、浄化、再利用することで全体として都市に利益をもたらすという選択も可能なのです。

Q:国連は、都市住民を水不足の脅威から守るにあたってどのような役割が果たせるでしょうか。

A:国連はすでに、知見の蓄積や資源の動員において一定の役割を果たしています。それによって都市は、水管理、持続可能な水と衛生施設の改善、災害への耐性向上などを図ることができるのです。

国連ハビタットや国連開発計画(UNDP)、国連国際防災戦略事務局(UNISRD)、国連環境計画(UNEP)、世界気象機関(WMO)、世界保健機関(WHO)などの組織がとりわけ大きな影響力を与えています。

Q:差し迫った災害を避けるために各国政府がすべきことはなんでしょうか。インフラへの投資でしょうか?健全な水管理でしょうか?

A:まず、問題解決型の思考から、解決策を事前に計画する思考に変えることです。問題解決型とは、水不足が起きるのを待ってからそこに新しい水を供給する、といったやり方のことです。

しかし、今日多くの場所で行われている「水不足に対処するために水を移動する」というやり方は、今後は機能しないでしょう。なぜなら、それは例えれば、体重が増加した際に大き目のベルトを購入することで対処するようなもので、都市にとっても環境にとっても、健全な解決策とはいえないものです。

私たちはこれまで以上に、水に対する投資をしなければなりません。今のままでいけば、水需要は向こう20年以内に地球の供給能力を40%超える可能性があります。大規模に水を使用するほとんど全ての当事者は、一層の効率化につとめるとともに(河川や海の)水質汚染を防ぐための技術や水処理の方法に、さらなる投資ができるはずです。

経済協力開発機構(OECD)は、何よりも電気、輸送、テレコミュニケーション分野を含むインフラ(経済基盤)の新設・改善により多くの資金が必要になるだろうと予測しています。

こうしたインフラへの投資は、長期的な都市の経済成長、美観整備、環境にやさしい雇用創出へとつながります。どのような技術を選択するかは各々の都市をとりまく環境にもよりますが、こうした投資に対する短期・中期・長期における費用対効果は有望なことから、今から行動をおこすことが求められます。

おそらく、持続可能な発展を実現するためにもっとも重視すべきことは、水とエネルギー、食べ物の管理を改善することでしょう。エネルギー生産のための水使用の効率化を図り、水再利用によってエネルギーを生産し、食物利用の無駄を省く機会は無数に存在します。

そうすれば水資源を大幅に節約することが可能となるだけでなく、増加し続ける都市人口を支える能力を向上させ、結果的に都市そのものを活性化することが可能になるのです。(原文へ

翻訳=山口響/IPS Japan戸田千鶴

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|トルコ-イスラエル|「トルコの決定はネタニヤフ政権への警告」とUAE紙

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【ドバイWAM】

「イスラエル大使の追放を決定したことでトルコは中東における威信を高めることだろう。」とアラブ首長国連邦(UAE)紙は報じた。

また日刊紙「ガルフ・ニュース」は、「トルコがイスラエル大使の追放と軍事協力の停止を決定したのは必ずしも驚くにはあたらない。

両国間の緊張は、9人のトルコ人が死亡したイスラエル軍によるパレスチナ支援船強襲事件以前から高まっていた。トルコ政府は、2008年から09年にかけて行われたイスラエル軍によるガザ地区侵攻以来のイスラエル政府の政策に対する怒りを明確に表明していた。」

しかしイスラエル政府がトルコ籍の援助船に乗船していた平和活動家を襲撃したことについて謝罪を拒否したため、トルコ政府としては、国際的に自らの主張の正当性を示すためにも、ネタニヤフ政権との外交関係レベルを引き下げる措置を取らざるを得なかった。トルコもイスラエルも、米国の強力な同盟国である。

 従ってトルコの今回の決定は、マビ・マルマラ号襲撃事件のみが原因ではなかった。ネタニヤフ右派政権は、中東和平問題の平和的解決や既に4年に亘るガザ包囲を緩和することに全く関心がない立場を明確にしてきたことから、他の西側諸国も、時期の違いはあるが、イスラエルとの外交関係格下げを検討してきた経緯がある。

ガルフ・ニュース紙は、「トルコの決定は、イスラエルに対して、国際法に逆らいながら他国にのみ譲歩を期待し続けることはできないとの警告となるものだ。」と強調するとともに、「イスラエルと外交上の対決を演じたトルコは、新たに得た中東における威信を強化することとなった。」と付け加えた。

「トルコ問題の専門家は、今回のトルコ政府の決定が最終的なものではないことを理解している。トルコ政府は常に現実主義の外交政策をとってきており、イスラエルとの軍事協力を再開する可能性も十分ありうる。」と同紙は報じた。

「しかし、暫くの間、トルコは中東のヒーローとしての地位を享受する資格を(今回の決定によって)獲得したといえよう。」とガルフ・ニュース紙は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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|アラブ首長国連邦|慈善家の寄付で多くの囚人が釈放される

【ドバイWAM】

ラマダン期間中にアラブ首長国連邦(UAE)市民から寄せられた善意の支援により、ドバイで拘留中の多くの囚人が再び日常を取り戻せるかもしれない。

「同情者」という呼称以外匿名を希望したある市民がラマダンに際して、ドバイ刑務所宛てに100万ディルハム(約272,000ドル)の寄付を行った。この寄付は借金の返済不履行で収監中の多くの囚人の債務返済に充てられることとなっている。

 ドバイ刑務所には、負債の返済手段に窮した様々な国籍の人々が、不透明な未来に不安を抱きながら収監されていたが、聖なるラマダンに際して、コミュニティーの篤志家からの支援という形で神が彼らに助けの手を差し伸べたのである。先述の市民の他、数名の篤志家がドバイ矯正・懲罰局に対して寄付を行った。

ドバイ矯正・懲罰局の担当者は、ラマダン月に首長国コミュニティーから差し伸べられたこの素晴らしい人道支援を称賛した。彼らの博愛心により多くの囚人(その多くが一家の唯一の稼ぎ手)が釈放されることになるだろう。

「寄付金は囚人の債務返済に充てられ、囚人は釈放され家族との再会を果たすことができます。また、寄付金の一部は、刑期終了後に本国に帰還する航空券代を支払うあてがなく支援者の登場を待っている外国人手稼ぎ労働者に対する支援にあてられます。ちなみに、囚人の多くは、借金がかさんで返済不能状態に陥った結果、裁判所から返済不履行で有罪判決を受けた人々です。」とモハメッド・フマイド・アル・スワイディ矯正・懲罰局長は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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【ベオグラードIPS=ベスナ・ペリッチ・ジモニッチ

何十年にもわたって、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国(旧ユーゴ)は人間の顔をした共産主義国家であった。教育と医療は無料で、雇用は保証され、家や小規模ビジネスの個人所有が認められていた。人びとは、他の東欧諸国に比べて高いレベルの生活を享受し、ビザなしに海外にわたることができ、政府は市民に開かれていた。そして非同盟運動を率いる盟主国として、国際社会において確固たる地位を占めていた。しかし、20年前の6月25日にすべてが終わった。

この日、旧ユーゴで最も先進的なクロアチアとスロベニアの両共和国が一方的に独立したのである。両国は、(現在のセルビア共和国の外に在住する)全てのセルビア人の保護者を自認し「すべてのセルビア人はひとつの国に住む必要がある」とするスロボダン・ミロチェビッチ(当時)を悪の権化だとみなしていた。

「(90年代の内戦で)15万人もの人命を失い、莫大な経済的損失をこうむった今、旧ユーゴに住んでいた2400万人にとって独立して何の利益があったかを語るのは非常に難しい。確かに彼らは自らの国を持ったことを誇りにしています。しかし、旧ユーゴと比べれば、ほぼ全ての国に独立国としてやっていくために不可欠な要素が欠けているのです。」と歴史家のプレドラグ・マルコヴィッチは語った。

現在のスロベニア(200万人)、クロアチア(460万人)、ボスニア・ヘルツェゴビナ(420万人)、セルビア(750万人)、モンテネグロ(65万人)、マケドニア(200万人)は、かつての旧ユーゴとはかなり異なる場所である。ユーゴスラビア内戦で各国を率いた3人の指導者、クロアチアのフラニョ・トゥジマン、ボスニア・ヘルツェゴビナのアリヤ・イゼトベゴヴィッチ、セルビアのミロシェビッチはすでに死亡している。

旧ユーゴの構成国の中で欧州連合(EU)に加盟しているのは、最も経済水準が高いスロベニアだけである(2004年)。クロアチアは2013年に加盟予定、モンテネグロとマケドニアがその次の候補である。一方セルビアは、依然としてEU理事会による加盟候補国承認待ちであり、ボスニア・ヘルツェゴビナは1992円から95年に亘った内戦の被害から未だに回復していない。

「EU加盟は私たちにとって自然な選択肢でした。しかし旧ユーゴスラビア連邦時代と比べてEUにおける我々の声は小さなものと言わざるを得ません。」とスロベニアの経済学者であるジョゼ・メンシンガ-は語った。

社会学者のミラン・ニコリッチは、「1991年から95年にかけての戦争は、人命などの直接的な被害に加えて、共感や連帯、犯罪への非寛容といった価値観を崩壊させてしまいました。しかし世界も1991年から大きく変化しています。私たちは皆、未来を向いていかなければならないのです。」と語った。

旧ユーゴ解体がもたらした多くの壊滅的な結果の中でも、経済危機は特に深刻である。生産力は下がり、輸入依存の経済になってしまった。また、市場経済への転換により大量の失業者を出した。さらに世界的な経済危機が、こうした苦境にさらに追い打ちをかけている。

スロベニアの失業率は、旧ユーゴの中でもっとも低く約10%。しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナでは40%にも達する。生産力は1989年のレベルにいまだ達していない。

旧ユーゴ構成国6か国の対外債務は1710億ドルで、旧ユーゴ時代の240億ドルを大きく上回っている。その内訳は、最も低いマケドニアで25億ドル、最も高いクロアチアは640億ドルにのぼっている。

(スロベニアを除いて)旧構成国における生産レベルは内戦前の最高レベルであった1989年水準(旧構成国の統計学者はこの年をベンチマークに使っている)にまで未だに回復されていない。

「もし内戦がなかったら、ユーゴスラビアはEUにとっくの昔に加盟し、発展のレベルは少なくとも1989年の2倍にはなっていただろう。」とニコリッチ氏は嘆く。

しかし、多くの人びと、とりわけ若者にとっては、こうした嘆きはほとんど意味をなさない。旧構成国の教科書の記述内容はまちまちで、きわめて皮相な歴史しか記述されておらず、若者たちはかつてユーゴスラビア社会主義連邦共和国という国があったこともほとんど知らないのが現状である。

セルビアのKraljevo出身のボジャン・スタンチッチ(22歳)は、クロアチアのアドリア海沿岸地域で最も有名な観光地について聞かれて「ドブロクニクってなに?クロアチアの街だって?それじゃあ外国の街だね。いつか行ってみるよ。」と語った。

しかしより年配の世代については、多くの人々が今でも旧ユーゴへの郷愁の念を抱いている。

クロアチアのザグレブでペンションを経営しているダラ・ブンチッチ(65歳)は、「ベオグラード(旧ユーゴの首都で現在はセルビア共和国の首都)には親族がおり、よく訪れます。ベオグラードには今でも大国の首都を思わせる輪郭が残っています。旧構成国は今は小さな独立国家になったが、友人にはベオグラードを見学にいくように勧めています。それは私たちクロアチア人が独立した祖国をいかに誇らしく思っているかという感情とは別に、ベオグラードが私たちにとっての共通の歴史の一部ということに違いがないからです。」と語った。

「20年前まで、私は2歳のとき以来毎年、2か月間を親族がいるクロアチアの海岸沿いの町で過ごしました。だから私は、旧ユーゴ時代の35年間の内、6年間という年月をクロアチアで暮らしたのです。何者もこうした事実や、古き良き旧ユーゴ時代の思い出を、私から奪うことはできないのです。」とベオグラード出身のサーシャ・ジャクシッチ(55歳)は語った。

旧ユーゴの記憶について報告する。(原文へ

IPS Japan戸田千鶴

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|軍縮|核兵器なき世界には核実験禁止が不可欠

【東京IDN=浅霧勝浩】

国際社会にとって、「核実験に反対する国際デー」が制定されて2周年となる8月29日は、核兵器のない世界に向けたそれまでの進展を喜ぶとともに、目標が達成される前に依然として様々な障害が前途に横たわっている現実を再認識する機会となるだろう。

国連が指摘するとおり、「喜べる理由」とは、それまでに南半球のほぼ全域が、一連の地域条約により、既に一つの非核兵器地帯を形成しているという事実である。

Image: Nuclear-Weapon-Free Zones (Blue); Nuclear weapons states (Red); Nuclear sharing (Orange); Neither, but NPT (Lime green). CC BY-SA 3.0
Image: Nuclear-Weapon-Free Zones (Blue); Nuclear weapons states (Red); Nuclear sharing (Orange); Neither, but NPT (Lime green). CC BY-SA 3.0

これらの非核化条約は、ラトロンガ条約(南太平洋)、ペリンダバ条約(アフリカ大陸)、バンコク条約(東南アジア)、トラテロルコ条約(ラテンアメリカ及びカリブ地域)、アトランティック条約(南極)である。さらに2009年3月には、初めて対象の非核兵器地帯全体が赤道以北に位置する、「中央アジアに非核兵器地帯を創設するセメイ条約」(カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの五カ国が加盟)が発効している。

 「核実験に反対する国際デー」の重要性は、2009年12月2日の国連総会で(この記念日制定を問う)決議64/35号が全会一致で採択されたことからも明らかである。同決議の前文には、「人類の生命と健康への破壊的で有害な影響を回避するために、核実験を終わらせるためのあらゆる努力がなされるべきである。」「核実験の終焉は、核兵器のない世界を実現するための鍵となる方策の一つである。」と記されている。

「核実験に反対する国際デー」が宣言されて以来、その目標や目的に関する数多くの重要な進展、議論、イニシアチブがなされてきた。しかし核軍縮をめぐる今日の状況は、7月28日に長野県松本市で開催された国連軍縮会議に出席した須田明夫軍縮会議(CD)日本政府代表部大使がいみじくも指摘したように、むしろ複雑である。

第23回国連軍縮会議in松本」は、7月27日から29日まで、国連軍縮部(アメリカ・ニューヨーク)・国連アジア太平洋平和軍縮センター(ネパール・カトマンズ)主催で開催され、政府関係者、有識者、シンクタンク、国際機関、NGO、マスコミ関係者等約90名が出席した。この会議は他の国連会議とは異なり、「軍縮・核不拡散問題に対する一般市民の理解と支持を高める方策として」従来から一般に公開されてきている。

国連軍縮会議は1989年以来、毎年日本の地方都市で開催されているが、今回は主要テーマである「核兵器のない世界に向けた緊急の共同行動」の下、議題として「2010年NPT運用検討会議行動計画の実施」、「核兵器保有国による核軍縮に向けた方策」、「軍縮会議と兵器用核分裂性物質生産禁止条約交渉(FMCT)の展望」、「核兵器禁止条約交渉(NWC)に向けた具体的方策」、「平和と軍縮に向けた機運の促進と市民の役割」が話し合われた。

今年の会議では、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、原子力の安全と保安についての議論も焦点の一つとなった。また、開催地の高校生と軍縮・不拡散分野の専門家が軍縮を通じた平和と安全保障を推進する重要性について話し合う特別セッション:「高校生との平和・軍縮トーク」も開催された。

日本政府の公式見解

Map of Japan
Map of Japan

須田大使は、今回の会議の主要テーマに関する日本政府の見解を説明して、「核軍縮に関する現在の進捗状況についてお話をするとするならば、ここ2・3年にみられたいくつかの重要かつ前向きな動きを列挙することができます。今日における核兵器のない世界に向けた機運は高いといえるでしょう。こうした中、私たちは核兵器廃絶に向けた核軍縮プロセスをめぐる協議を深めていくべきです。」と語った。

また須田大使は、「しかし同時に現実も直視しなければなりません。確かに非核兵器地帯包括的核実験禁止条約(CTBT)への批准国拡大という面では、ある程度の進展が見られましたが、多国間協議を通じた核軍縮の分野では、既に2年以上前になる(バラク・オバマ大統領による)プラハ演説や、昨年5月のNPT運用検討会議以来、ほとんど動きが見られないのが現実です。」と警告した。

須田大使は会議参加者に向かって、「核兵器を削減し最終的には廃絶へともっていくプロセスの中で、核兵器製造目的に使用する基本原料の生産を禁止すること、すなわち原料を遮断(カットオフ)することが、さらなる軍縮を実現するための確固たる不可欠な基礎となるのです。」と語った。

しかしジュネーブにおける軍縮会議(CD)は、まさに兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約:FMCT)を巡ってパキスタンが「同条約は差別的であり隣国インドを利する」とまで主張して反対していることから、(既に15年にわたって)交渉が停滞している。しかし須田大使はFMCTの有効性について、NPT体制の枠外にある国々による更なる核拡散を防止できるほか、「この条約は、少なくとも核兵器保有国に対しても核分裂性物質の生産を禁止し、それに関する査察を受け入れることを義務付けることにより、NPT体制下における(核保有国と非保有国の間の)差別的な構造を緩和することができる」点を指摘した。

須田大使はさらに、FMCTが軍縮プロセスを不可逆的なものとすることによって、世界に存在する核兵器の総量を継続的に削減するための確固たる法的基礎を築くものとなること、そして、核兵器保有国が核分裂性物質の備蓄量を一旦自主的或いはなんらかの理由で削減すれば、再び元のレベルに戻ることはできなくなる点を指摘した。

米国政府の見方

スーザン・バーク米国不拡散担当大統領特別代表は、喜ぶべき理由として、2010年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議で採択された64項目の行動計画と中東に関する決定(中東の非核兵器地帯化を話し合う会議を2012年に開くとした決定)を挙げ、これらが実行されればNPT体制を強化することになると語った。

また軍縮について、バーク特別代表は、新戦略兵器削減条約(新START)が2011年2月5日に米露両国政府間で発効し、合意事項が実施に移されている点を指摘した上で、「米国政府は、引き続き段階的なプロセスを経て、ロシア政府との将来的な合意を目指す中で、戦略、非戦略、配備、未配備を含む全体的な核兵器の数を削減していきたい。」と語った。
 
もう一つの前向きな動きは、6月30日と7月1日にパリで開かれた核兵器国5カ国(米国、英国、中国、フランス、ロシア:いわゆるP5)による、第1回NPT運用検討会議フォローアップ会合である。ここでP5諸国は、NPT運用検討会議最終文書第5項に規定されているステップや行動計画が求めている報告、努力義務を含む、核軍縮という共通の目標にむけた協議を行った。この会合はまた、2009年9月にロンドンで開かれた、軍縮と不拡散に向けた信頼醸成措置に関する会議のフォローアップでもあった。「これらの会議をP5諸国間の通常の対話の枠組みへと発展させるため、P5諸国は第3回会合を2012年(次のNPT運用検討サイクルが開始される)5月にウィーンで開くことで合意しました。」とバーク特別代表は語った。

またバーク特別代表は、米国政府は引き続き包括的核実験禁止条約(CTBT)批准にコミットしており、議会上院と米国民に対して同条約のメリットを説明していること、また、FMCT交渉を前進させるよう、パートナー諸国と引き続き協力していくと断言した。

IAEA
IAEA

国際原子力機関(IAEA)の定例理事会は2010年12月、原子力の平和利用を支持する立場から、IAEA主導で緊急の際に原子力発電に使用する低濃縮ウランを提供する「核燃料バンク」の設立案を承認した。これはIAEA加盟国の原子力発電所に対する燃料供給が紛争による輸送ルートの途絶などでストップし、国際市場での購入も不可能な場合に、IAEAが市場価格での供給を保証するのが目的である。

バーク特別代表によると、米国政府は2015年NPT運用検討会議までに5000万ドルの拠出を表明している「平和利用イニシアチブ」を実施するためにIAEAと密接な協力を行っている。米国は既に80カ国以上が関与するプロジェクトに900万ドル以上を拠出している。このイニシアチブには日本と韓国が資金拠出に同意しているが、米国は引き続き他の国々にも資金拠出を積極的に呼びかけている。

バーク特別代表は、NPT運用検討会議で合意された2012年に中東非核地帯化に向けた国際会議を開催する件について、「まず着手すべきは開催国とファイシリテーターを決定することですが、それはまもなく実現の見込みです。米国は、英国、ロシアとともに2012年の会議を成功させる方策について中東諸国と密接に協議を重ねているところです。」と語り、米国政府として中東会議の成功にコミットしている旨を指摘した。

またバーク特別代表は、(会議のあり方に関する懸念に配慮して)「会議の成功や同様の努力は、外部から押し付けられるものではありません。(2012年の)中東会議の成否は、全ての関連事項について建設的な対話を行える雰囲気作りを、中東域内の国々が積極的に行えるかどうかにかかっているのです。」と語った。

青年ピースフォーラム2011

「第23回国連軍縮会議in松本」(7月27日~29日)に続いて、広島・長崎・沖縄の青年ら900人が集い、「ピースフォーラム2011」が、7月31日、長崎市の原爆資料館・平和会館ホールで開催された。創価学会青年部の代表は、核兵器廃絶に向けた市民社会による一層の努力を呼びかける「3県サミット平和宣言」を発表した。同平和宣言は、世界の指導者が核兵器のもたらす現実を自らの目で確かめるとともに核時代に終止符を打つための「核廃絶サミット」の意義を込め、2015年NPT運用検討会議の広島・長崎での開催を訴えている。

同宣言は、「核兵器は人類の生存権を根源的に脅かす『絶対悪』であり、その廃絶こそが平和の文化構築のために欠かせない。」と述べている。同宣言はまた、核兵器は国際人道法に反するとしたうえで、核兵器禁止条約(NWC)を準備する会議を出来るだけ早く招集するよう訴えている。この宣言は、池田大作創価学会インタナショナル会長が本年の平和提言の中で述べている見解に基づくものである。
 
フォーラムの席上、浅井伸行青年平和会議議長は、田上富久長崎市長に57,000羽を超える「平和の折鶴」を贈呈した。これらの折鶴は、SGIがタイ文化省の協力を得て今年の2月までに同国内20ヶ所で開催した「核兵器廃絶への挑戦」展の来場者の手で、一羽一羽折られたものである。

Tomihisa Taue, Mayor of Nagasaki City, attended the United Nations Conference on Disarmament Issues at the Hotel Buena Vista in Matsumoto City, Nagano Prefectureon July 27, 2011.
Tomihisa Taue, Mayor of Nagasaki City, attended the United Nations Conference on Disarmament Issues at the Hotel Buena Vista in Matsumoto City, Nagano Prefectureon July 27, 2011.

創価学会のイニシアチブを歓迎しつつ、田上市長は「広島と長崎の人々だけが核兵器に反対する声をあげるのではなく、同様の気持ちを持つ世界中の多くの人々の声を結集することが大事です。その意味で、タイの人々が思いをこめたこれらの折鶴を受け取ることができ、本当に嬉しく思います。」と挨拶した。

また今年のピースフォーラムには、長崎総合科学大学(NIAS) 長崎平和文化研究所の大矢正人所長、「長崎の証言の会」代表委員の広瀬方人氏、その他、核兵器廃絶に向けた活動を展開している市民社会組織の代表が参加した。

創価学会の広島、長崎、沖縄の青年平和会議と女性平和文化会議は、1989年以来ほぼ毎年8月、一堂に集い、青年の手で平和運動を推進する諸行事を開催してきた。また彼らは長年にわたって核兵器の脅威に関する数多くの意識調査を行ってきた。

日本で800万世帯以上を擁する仏教系NGOである創価学会は、50年以上にわたって核廃絶に向けた取り組みを行ってきた。2007年、SGIは「核兵器廃絶へ向けての民衆行動の10年」キャンペーンを開始し、世論を喚起し、核兵器のない世界に向けて行動する世界的な草の根ネットワークの形成を支援している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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すべての形態の平等に銃を向けた男(ウテ・ショープ)

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ムスリムを極端に嫌っていただけではない。彼は、多文化主義を忌み嫌い、女性を嫌っていた。それが、彼の自称「マニフェスト」を貫く赤い糸である。

アンネシュ・ブレイビク[7月22日にノルウェーで起きたテロ事件の容疑者]のイスラム教への敵視は、国家人民主義、原理主義的なキリスト教の考え方に由来している。彼の目的は、男性が女性の上位に、白人が非白人の上位に、キリスト教徒がイスラム教徒の上位に来る階層的な秩序を、崩壊の危機から救うことにあった。

ブレイビクは、男女平等と「ジェンダーの主流化」を達成し男性のアイデンティティーを抹消しようとする「全体男女同権主義」の撲滅を訴えるブロガー”Fjordman”を自身の思想的模範と仰いて、自称「マニフェスト」の中に同氏の主張を数多く引用している。離婚、経口避妊薬、同性愛…これらはブレイビクにとって、神の天罰が下るべき憎悪の対象であった。

Norwegian terrorist Anders Behring Breivik’s fake police ID (forged police identification card) in plastic bag as evidence item on display at 22 July Information Center in Regjeringskvartalet, Oslo, Norway. / By Wolfmann – Own work, CC BY-SA 4.0

【ベルリンIDN=ウテ・ショープ】

 ブレイビクは、伝統的な家父長的家族秩序を守って、「ベビーブーム」を再興する必要があると考えていた。「女性は、大学の学士号以上をとってはならず、外界から孤立した「性特別区」を創設せねばならない―彼はそのように考えていた。

マルクス、レディー・ガガ、メンズ・ヘルス誌

ブレイビクは、「フランクフルト学派の『文化的マルクス主義』が、多文化主義への道を開き、『全体主義的な』ラディカル・フェミニズム(急進的男女同権主義)を呼び込んだ、と主張している。マルクスはブルジョア家庭を破壊し、『女性コミュニティー』の建設を切望した。ヴィルヘルム・ライヒヘルベルト・マルクーゼらが、女性上位の社会を作り上げた。結果として、『欧州文化の女性化』がいまや『完成の域に達している』」と主張している。

また、「男性優位の最後の砦である、警察、軍隊も今や脅威に晒されている。それでも物足りないかのように、『メンズ・ヘルス(Men’s Health)』誌のような男性雑誌でさえも、『女性化された男性』を公開している、また、ハイディ・クルム、マドンナ、レディー・ガガのような人間は「人種の混交」と道徳の最悪の弛緩を体現する人びとである。」との主張を展開している。

ブレイビクはまた、若い女性の性行動を判断基準に欧州諸国を「性道徳」に基づいてランク付けしている。それによるとノルウェーを最低ランクに、マルタ(かつてテンプル騎士団の本拠地があったところ)を最高ランクに位置づけている。彼は性病というテーマにもとらわれている。それは、彼の母親と血のつながらない姉妹が性病に冒されていたことと関連しており、「私の姉妹と母親は私と私の家族を恥にさらしただけではなく、自分たち自身も恥じていた。男女同権主義者達が引き起こした性革命の影響で、私の家族は崩壊したのだ。」と書いている。それにしても、ブレイビクはなぜ女性だけを悪者扱いするのであろうか?

コントロールを失うことに対する恐怖
 
 
ブレイビクの自称「マニフェスト」には、事態の成り行きについて制御できなくなることを極端に恐れている彼自身の心理が反映されている。彼は、性的関心、柔軟さ、男性アイデンティティーの解体は全て女性化(feminization)がもたらしたのとみなしている。まさにこの点に、詳細に違いはあっても、ナチス(国家社会主義)、急進イスラム主義、その対極にあるイスラムを敵視する保守勢力等、全ての独裁的・全体主義的なイデオロギーに共通して見られる核心部分をみてとることができるのである。

クラウス・テーヴェライトは代表作『男たちの妄想』の中で、20世紀初頭の右翼「義勇軍」やナチス信奉者の心理を支配した「(女性との)肉体的混合」に対する病的な恐れを分析している。当時彼らは、「銃を持つ女性」を恐れたものが、ブレイビクにとってこの恐れの対象は「男女同権主義者」に変化している。かつてナチスは、「男らしくない」ユダヤ人を軍隊的な男らしい役割モデルを衰退させた元凶とみなした。今日、ノルウェーでこれにあたる偏見の対象がイスラム教徒と男女同権主義者ということになる。

モハメド・アタの鏡像

おそらくブレイビクは女性に対するある種の嫉妬を抱いているのだろう。彼の自称「マニフェスト」には、あらゆる犠牲を払っても「名誉」を守ろうとするムスリム戦士に対する深い賞賛の気持ちが随所に記されている。「名誉」こそ「最も重要なもの」とブレイビクは記している。

ブレイビクは、言葉や写真で自らを厳格な修道士にたとえているが、彼の姿は皮肉にもイスラム原理主義に殉じた(9・11同時多発テロの首謀者とみなされている)モハメド・アタのそれに近づいている。アタもまた、極端に女性を恐れ、集団虐殺を招く「純潔のカルト」を喧伝していた人物である。またブレイビクは、アタと同じく、自身を公共の大儀のために殉じる「殉教者」とみなしている。
 
ブレイビクは、男女間や社会の幅広い階層や民族間において高いレベルの平等が実現している今日のノルウェー社会にあって、欧州の歴史の中で国民国家の興隆を背景に軍隊階級組織の中で育まれてきた「男らしさの模範」が消失しつつあると嘆いている。

軍事訓練は、兵士が殺戮という「仕事」を遂行できるように、自らの感情を完全に封じ込め肉体を支配できるよう鍛えあげることを目的としている。そこでは感情移入は「女性的なもの」すなわち弱さと臆病を象徴するものとみなされ、封殺の対象となるのである。これが世界のほぼ全ての軍隊及び専制的なイデオロギーが追求するパターンであり、「コントロール狂(control freak)」のブレイビクもこのパターンに分類できる。
 
しかし欧州諸国の中で、どうしてノルウェーのような国から、ブレイビクのような「殉教者」が生まれてしまったのだろうか?ノルウェーは、バイキングの時代(8世紀~11世紀)以降、他国に戦争を仕掛けたことはなかった。事実スカンジナビア諸国では、男女間の平等を図ることが、男性優位主義と「戦士の英雄視(Heldenkriegertum)」に対する最大の防御と考えられてきた。しかし、こうした政策も、個々の病理に対しては、必ずしも効果が無いということは明らかである。

しかし比較的平等主義的な社会が確立したノルウェーでは、暴力と支配妄想に囚われたブレイビクのような人物は孤立した存在とならざるを得ず、ブレイビクは結局、単独で凶行に及ぶ決断をしたのだ。(原文へ

※ウテ・ショープは、ドイツ在住のフリーのジャーナリスト。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|パレスチナ|独立を巡る国連採決に合わせて大規模抗議行動を計画

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【ベイト・ウマールIPS=メル・フライクバーグ】

ヨルダン川西岸地区(ウエストバンク)のパレスチナ人民委員会の主要メンバーが、国連でパレスチナを国家として承認するかどうかの決議採択が行われる9月に、イスラエル占領当局に対する大規模なデモ・不服従行動をおこす計画を進めている。

「私たちは大挙して街に繰り出し、イスラエルの違法な入植地につながる道をすべて封鎖し、入植地でデモを行う予定です。しかし、これらは全て非暴力的な抗議行動として取り組む予定です。」とベイト・ウマール(Beit Ummar:ウエストバンク南部ヘブロンから11キロ北の街)の人民委員会の主要メンバーであるムサ・アブマリア氏は語った。

「私たちはイスラエルによる占領について、国際社会や世界のメディアの注目を徐々に集めるよう創意工夫を凝らした戦略を練ってきました。パレスチナ問題をとりまく形勢が有利に展開している今日、欧米の支援者と連携しながら、パレスチナ人の苦境に対する国際社会の理解を一層広めていく活動を行っていきます。」とアブマリア氏は付加えた。

イスラエル政府、諜報機関、治安機関当局は、国連総会は圧倒的多数の加盟国がパレスチナの独立を支持すると予想しており、9月の採決に合わせてパレスチナ人が起こすであろう抗議行動に備えて、着々と準備を進めている。

 イスラエル政府は、パレスチナ人との大規模衝突に備えて治安部隊の軍事訓練を実施する一方、大急ぎで欧州各国を歴訪し、イスラエル政府の言う「欧州の一流諸国」からパレスチナの独立動議に反対票を投じるよう協力を引き出す外交工作を進めている。

イスラエル政府は、国連加盟国のうち約140カ国を占める「途上国或いは第三世界の国々」はパレスチナの独立に賛成すると見られることから、政治・経済的により強力な立場の加盟国がイスラエル側に賛同することを期待している。

パレスチナ暫定自治政府(PA)による9月の国連総会に向けた動きに懸念を深めたイスラエル政府は、決議が通るようなことがあれば1993年のオスロ合意の破棄を含め、一連の政治的対抗策をとる用意があるとの脅しをかけている。

しかしパレスチナ側は9月に向けて着々を準備を進めている。

先週、ベイト・ウマールに、パレスチナ諸派から横断的に1000人以上の活動家や指導者が集まり、3日間にわたってイスラエルの占領に終止符を打つための戦略作りを話し合った。これはパレスチナ自治政府やハマス指導部とは独立した動きであり、政治的に画期的な出来事であった。会議は3つの村で開催され会期中の金曜日には、イスラエルの違法入植地政策に対する大規模な抗議デモがおこなわれた。

この会議の中で、ハマスファタハパレスチナ解放人民戦線(PFLP)、パレスチナ解放民主戦線(DFLP)などの代表が、9月にウエストバンク全域で、大規模な市民的不服従運動(civil disobedience campaigns)を行うことで合意した。

「私は諸派の指導者たちにこう言ったのです。もしあなた方が、パレスチナの解放よりも党派の利益を優先するのならば、この会議に参加する必要はありません。しかしあなた方がもし、パレスチナの解放と、ウエストバンクガザ地区の政治的・地理的統一に向かって運動する決意でしたら、私たちは全面的に支援しますと。」とアブマリア氏はIPSの取材に応じて語った。

ファタハの主要メンバーでウエストバンク人民委員会指導部のユニス・アラール氏は、「今回の会合で、全てパレスチナ諸派の指導者から支持の確認を取ることができました。これにより、今のような散発的な抗議行動とは異なり、各指導者の合図で、数千人単位の大規模な抗議行動がパレスチナ全土で展開されることになります。」と語った。

またアラール氏は、「イスラエルは非暴力的な市民蜂起を何よりも恐れています。彼らは、パレスチナ人が暴力に訴えることを望んでいるのです。そうすれば、これまでもそうだったように、優勢な軍事力で弾圧することができるからです。しかし私たちは、非武装の抵抗を貫徹していくつもりです。」と語った。そして、「イスラエル当局は、いままで通常そうしてきたように、高速催涙ガス弾を直接パレスチナ人の頭部に投げつけたり、実弾による射撃を行って少なくとも数人の死者をだすように挑発してくるでしょう。」と語った。

ウエストバンクで計画されている抗議行動の中には、政治的なテーマを掲げた自転車ラリーやその他のデモ行進がある。ウエストバンクのナビサレー村では、村人がエジプト革命時のスタイルにあやかって、隣接するユダヤ人入植地ハマミシュによる継続的な土地収奪に抗議するテント村を設置している。

人民委員会は、大規模行進や抗議活動の他にも、並行してイスラエル製品のボイコット運動や抗議行進を計画している欧州の草の根諸団体との連携を進めている。

アブマリア氏は、「もし現在のパレスチナ指導部が近い将来、人々を積極的に引っ張っていかない事態が起こったとしても、私たち自身が自力で革命を組織するだろう。」と語った。事実、過去においても1987年に勃発した第一次インティファーダの際には、亡命中のパレスチナ解放機構(PLO)が、パレスチナ各地で推移した現地の展開に追従せざるを得なかった先例がある。

「私は15歳の時から政治活動に関わり同年に初めてイスラエル当局によって投獄されました。私には多くのコンタクトがありますし、現在起こっていること、パレスチナ人が考えていることが理解できるのです。私はパレスチナの独立が実現し民族の自由を獲得するまで決して活動をやめません。」とアブマリア氏は語った。(原文へ

翻訳=山口響/IPS Japa戸田千鶴


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パキスタン、核分裂性物質生産禁止条約に強硬に反対

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【トロントIDN=J.C.スレッシュ】

兵器用核分裂性物質の生産を禁止する世界的な条約(カットオフ条約:FMCT)を支持すべきとの国際的な圧力が高まる中、パキスタンがまるで高波の中の岩のように強硬に抵抗している。パキスタンは、米国が後押しするこの条約交渉について、唯一の多国間軍縮交渉機関で、行き詰まりを見せているジュネーブ軍縮会議(CD)以外のところですすめられるいかなるプロセスにも参加を拒否すると警告し続け、かたくなな反対姿勢を貫いている。

敵対国であるインドと原子力協力協定と締結しながら、パキスタンと同種の協定に入ることを拒否した米国の決定に衝撃を受けたパキスタンは、欧米核保有国の政策を「差別的である」と批判しており、ジュネーブ軍縮会議の長年にわたる行き詰まりを打開しようとしている国連の潘基文事務総長の意見にも耳を貸そうとする気配はない。

 潘事務総長は、ニューヨークでの国連総会において、行き詰まりを見せているジュネーブ軍縮会議を打開するための方策として、有識者パネルや総会アドホック委員会の創設、国連会議の開催を提案した。

日本の長野県松本市で「第23回国連軍縮会議in 松本」が開催されていた7月27日、潘事務総長は国連総会で演説し、「私たちは、信頼の危機が高まる中こうして集まりました」と語った。

この国連総会は、2010年9月に国連本部で開催された国連事務総長主催軍縮会議(CD)ハイレベル会合のフォローアップとして開催されたものである。「長きにわたって、国連の多国間軍縮機関、とりわけジュネーブ軍縮会議は失敗に終わってきた。」と潘事務総長は語った。

1979年に国際社会にとっての、唯一の多国間軍縮交渉機構として設置されたジュネーブ軍縮会議は、主に核軍拡競争の終結と核軍縮の促進、核戦争の防止、宇宙における軍備競争防止に取り組んできた。

「もし(ジュネーブ軍縮会議において)意見の相違が埋まらないならば、すでに述べてきたように、有識者パネルの任命を検討することになるかもしれません。あるいは、国連総会のアドホック委員会、または国連の会議において国家間の交渉を行ってもよいかもしれません。」と潘事務総長は語った。

潘事務総長は、国際社会は多国間主義を決して放棄してはならないと主張し、軍縮問題に取り組むためには、少数国の利益を図ることではなく、全体の利益を促進することが目標に置かれるべきだと語った。

「もしジュネーブ軍縮会議の行き詰まりが今後も打開できないならば、国連総会にはこれに介入する義務があります。ジュネーブ軍縮会議をいつまでも1・2カ国による人質状態においておくことはできません。懸念があれば交渉を通じて解消すべきです。世界は(FMCTの制定と採択に向けた交渉が)前進することを望んでいます。もう先送りはやめ、この長い停滞のサイクルにピリオドを打とうではありませんか。」と、潘事務総長は語った。

米国は国連事務総長を支持
 
米国はこの国連事務総長の方針を支持している。ローズ・ゴットモーラー米国務長官補佐官は、7月27日の国務省での報道発表において、「今日、軍備管理と軍縮の他の領域で大きな前進が見られているだけに、たった1カ国の反対によって、ジュネーブ軍縮会議が再び機能不全に陥り、長く待ち望まれた目標(核分裂性物質生産禁止条約:FMCTの制定と採択)に向かって交渉を開始することさえできないでいるのは、一層遺憾なことです。」と語った。
またゴットモーラー補佐官は、「米国政府は、できればFMCTをジュネーブ軍縮会議の場において交渉することを望んでいます。我々は、今年のジュネーブ軍縮会議に合わせる形で、FMCTに関する技術的議論を進めていこうとする日豪両政府の動きを歓迎しています。この活動は、生産的、実質的かつ教育的でありました。しかし、このことをもって、ジュネーブ軍縮会議が行き詰まっており、2年前より全く進展がないという事実が曖昧にされることがあってはなりません。」と付け加えた。

またゴットモーラー補佐官は、「国連安保理常任理事5か国とその他の関連パートナー国が、国連総会が9月に招集される前にさらなる協議を行う計画です。」と指摘した。

さらにゴットモーラー補佐官は、「有識者パネルやジュネーブ軍縮会議それ自体、あるいはその他の交渉舞台において、ジュネーブ軍縮会議改革の可能性を評価し、国連軍縮委員会の改編について示唆するところがあるかもしれません。」と語った。

ゴットモーラー補佐官は、考えうる検討内容として「ジュネーブ軍縮会議において合意された作業内容に年を越えてどう継続性を持たせるか、たとえば、合意された作業計画を自動的に次年も継続審議にすること」、「全会一致ルールの乱用を防ぎつつどうやって国家安全保障を守るか」、「ジュネーブ軍縮会議の拡大がジュネーブ軍縮会議の効率性を増すことになるのかどうか、普遍的な軍縮目標の実効性を守り、国家の安全保障上の懸念を尊重し守る一方で、どうやってその目標を審議し交渉を進める機構の中に乗せていくのか」といったことを挙げた。

「警告書」

国連事務総長と米国のこうした動きに反応して、パキスタンのラザ・バシール・タラール国連次席代表は、65カ国からなるジュネーブ軍縮会議の外部においてFMCT交渉に入ることへの「警告書」を発表し、「パキスタンは、そのようなプロセスに加わることもないし、そうしたプロセスの結果として出てきた条約への加盟を検討することもない。」と語った。

タラール次席代表は、パキスタンのこれまで2年間の方針を踏襲する声明の中で、「これらの政策は、権力と利益によって国際的な不拡散という目標を犠牲にすることで、我々の地域(南アジア)における核分裂性物質備蓄の非対称性をさらに強めるものです。」と主張した。

またタラール次席代表は、「残念なことに、こうした政策は、原子力供給国グループ(NSG)の反対にあうこともなく継続されてきています。NSG加盟国の中には、核不拡散条約(NPT)を最も熱心に支持している国々や、『ジュネーブ軍縮会議において進展がないこと』を最も厳しく批判している国々が含まれるにも関わらずです。」と語った。

さらにタラール次席代表は、「列強は、ジュネーブ軍縮会議の改革、さらには機能不全に陥ったこの機構を廃止するというオプションまで検討し、すべての国家に事実上の拒否権を与えて前進を妨げる全会一致方式の意思決定ルールを非難していますが、ジュネーブ軍縮会議が機能不全に陥っている真の理由は、核兵器保有国の中に公正かつバランスの取れた形での交渉に入る政治的意思を持たない国が存在する点にあるのです。」と語った。

「ジュネーブ軍縮会議が直面している問題は、組織上、あるいは手続き上のものではありません。むしろ、最も強力な国の利益に奉仕する形でのみ交渉が進むという明確なパターンがあるのです。」とタラール氏は語った。

この点について、タラール氏は、「ジュネーブ軍縮会議では、すでに機は熟していると思われることについても交渉に入ることができないのです。すなわち、列強の安全保障上の利益を脅かしたり損なったりしないような合意内容についてしか交渉できないという明確なパターンが存在するのです。」と指摘し、具体的な例として、生物・化学兵器禁止条約、包括的核実験禁止条約(CTBT)を挙げた。

タラール氏はさらに続けて、「同じことがFMCTについても言えます。大量の核兵器、それに(すぐに核兵器に転用可能な)核分裂性物質を備蓄した列強にとって、これ以上核分裂性物質は必要ないわけですから、将来の核分裂性物質生産のみを禁止する条約を締結する準備が整っているということです。つまり、このアプローチは列強にとって『ノーコスト』であり、自国の安全保障を脅かしたり損なったりしないパターンを踏襲しているのです。」と語った。

これらの理由により、パキスタンは、核問題で選択的かつ差別的な取り扱いを受けることに「強固に反対」しているのである。「他の関連諸国にとってノーコストな取り決めのために、自国の基本的な安全保障上の利益を損なう用意のある国はありません。」とタラール次席代表は指摘したうえで、軍縮機構を活性化するための「誠実かつ客観的なアプローチ」を作り出すために採られるべきステップについて言及した。

例えば、核軍縮を最重要課題として、公正かつバランスの取れた形でジュネーブ軍縮会議において主要議題を検討すること、また、非核兵器保有国に対する消極的安全保障(=核兵器の使用禁止措置)に関する法的拘束力ある取り決めを作り上げること等を挙げた。

FMCTはもし採択されれば、兵器級の核分裂性物質に課せられた既存の制約に、法的拘束力ある国際取り決めを加えることで、核不拡散規範を強化することになるだろう。この条約は、核兵器あるいは他の核爆発装置用核分裂性物質の生産を禁止する一方、非爆発目的のプルトニウムや高濃縮ウランには適用されない。また、トリチウムのような非核分裂性物質にも適用されない。さらに、既存の核分裂性物質の備蓄分も禁止の対象とならない見込みである。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

|エチオピア|世界遺産地域の開発で諸部族が危機に

【ナイロビIDN=ジェローム・ムワンダ】

東部アフリカが過去60年で最悪といわれる旱魃にみまわれ、数百万人が苦しむ中、エチオピア政府が同国内でもっとも豊かな土地を地元の部族から奪い、外国の企業に譲り渡そうとしている。

世界中の部族の人びとの権利を擁護する団体「サバイバル・インターナショナル(サバイバル・インターナショナル: SI)」の調査によると、エチオピア南西部オモ川沿いの肥沃な土地が、イタリア・マレーシア・韓国の企業に貸与され、輸出用作物の栽培が進められている。また、貸与用の土地を少なくとも24万5000ヘクタールまで拡大し、広大な輸出用砂糖黍プランテーションにする計画もある。SIによると、エチオピア政府は諸部族を「遅れた」人々と見なしており、彼らの自給自足の農耕、遊牧、狩猟というライフスタイルを改めさせ、プランテーションの労働者に変換する「近代化」政策を推進する意向である。

 しかし、「下オモ谷」(Lower Omo Valley)には約90,000人の諸部族(ボディ族、ダサネッチ族、カロ族、クェッグ族、ムルシ族、ニャンガトム族)が、長年に亘る伝統・慣習を守りながら土地がもたらす恵みに依存して生活している。ここには草地、火山帯など手付かずの美しい土地が広がっており、数千年前にはさまざまな文化や民族集団が出会う場所であったと考えられている。

オモ川の定期的な氾濫は地域の生物多様性をより豊かにする。雨量の少ないこの地域で諸部族の人びとが食料を確保するには、この氾濫こそが必要なのである。

この地域に普段は居住していない部族(ハマー族、チャイ族、トゥルカナ族)も、他の諸部族との取り決めによって、とりわけ食糧不足の時期には平原に入って食料を確保することができる。

しかしながら、SIによると、政府が多くの土地を部族から奪うにつれ、部族間の資源争いが近年激しくなってきた。さらに火器の導入で部族紛争はより苛烈なものになった。
 
さらにエチオピア政府は、オモ川沿いにアフリカ大陸最大規模となるギベ第3ダム(Gibe III)を含む一連のダム建設と、数百キロにわたる灌漑用水路の建設を計画している。SIは、この計画が進められれば、オモ側の水系が変化し諸部族が生活の基盤としてきた地域の生態系を変えてしまう、と警告している。つまり、ダムが川の氾濫を減らし、土地の肥沃さがなくなってしまうのである。

2006年7月、エチオピア政府は、イタリアの企業「サリーニ建設」とダム建設の契約を結んだ。しかし、業者の選定に際しては同国の法律の規定にも関わらず競争入札はなされなかった。また、この建設承認当初には環境アセスメントが終了しておらず、事後的にアセスメントが承認されたのは2008年7月のことであった。しかもアセスメントを実施したイタリアの会社CESIにはエチオピア電力公社のみならず「サリーニ建設」も支払いを行っていることから報告書(環境や諸部族への影響は殆どなく、むしろポジティブと結論)の中立性が疑われている。一方、独立専門家によるアセスメントによると、水量の激減により下流の生態系が大きな影響を受け、河川の枯渇と河川沿いの森林が消滅する危険性が指摘されている。「このことは、従来の自然洪水がもたらす肥沃な土が失われることを意味し、少なくとも下流に住む100,000人の諸部族が食糧難に直面することになる。」とSIは警告している。こうした事情を背景に、国際人権団体のグループが2008年、人権問題の見地からダム建設に反対するオンラインキャンペーンを開始した。

2011年8月現在、建設は3分の1まで進行しているが費用は当初予算の14億ユーロから大きく膨れ上がっている。

一方エチオピア政府は、開発に反対する勢力との対話の道を断ち、弾圧を強めている。部族民が反対意見を口にしたり、外部の人間やジャーナリストに訴えないよう、違法な投獄、拷問、女性に対するレイプなどの手段を駆使している。その結果、部族民達は政府に対する恐怖の中で日々を生きねばならない状況にある。

しかし、下オモ谷は、考古学的・地理的重要性を有しているということでユネスコの世界遺産に指定されている地域である。エチオピア政府は、このような土地の開発を許そうとしている。

「サバイバル・インターナショナル」のスティーブン・コーリー代表は、「オモ谷の部族の人びとは『遅れた』人びとでもないし、『近代化』を必要としてもいません。彼らは、土地を取り上げようとしている多国籍企業と同じく、21世紀の一部なのです。悲劇なのは、彼らを肉体労働者に変えてしまえば、他の多くのエチオピア人がそうであるように、ほぼ確実に彼らの生活の質を低下させ、彼らを飢餓と窮乏の淵に追いやってしまうことになるのです。」と語った。

エチオピアにおける世界遺産地域の開発問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

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