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日中関係を依然として縛る過去

【ロンドンIDN=リチャード・ジョンソン】

9月15日から16日にかけての週末に中国各地で行われた反日抗議デモは、15年戦争(1931~45)の発端となったいわゆる満州事変から81周年にあたる9月18日にも、北京・上海・広州・成都等で見られた。

中国公安当局による厳重な警備にも関わらず、一部の暴徒化した抗議デモ参加者による暴力・破壊行為により、日系企業や日本車が被害を受けたことが、中国メディア、海外メディアの双方により広く報じられた。

 こうした事態を受けて9月19日、日本の野田佳彦首相は、中国政府がこれらの被害の責任を取るべきであるとの声明を発した。これに対して中国政府は、今回被害を受けた日系企業や日本政府の在外公館は、公安当局や、商務省などの関連政府機関に提訴すべきだと主張した。

識者らによれば、中国では、日本が国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指した2005年以来最大の反日ナショナリズムが噴出しているという。この時は、3月から4月にかけて中国全土で反日抗議行動が広がり、それまでの30年間で日中関係がもっとも冷え込んだ。

報道によれば、中国では、日本政府が「東シナ海」にある沖縄県尖閣諸島(5島と3つの岩礁からなる諸島)の3島(魚釣島、北小島、南小島)を民間人地主から購入し国有化する決定をしたことを受けて、反日的な民衆の怒りが爆発したとされている。同諸島をめぐっては中国と台湾(中国側の呼称は「釣魚島」)が領有権を主張しているが、日本が実効支配している。

日中間の緊張は、石原慎太郎・東京都知事が、民間人が所有する尖閣諸島の3つの島を購入する計画を今年4月に明らかにしてから、高まってきた。その後、日本政府が中国政府による度重なる抗議をよそに、計画を粛々と進めたことから、中国社会に深く根差している反日ナショナリズムに火がつく形となった。

抗議活動で日系企業に被害

「日系企業に対する攻撃は、主要な都市部に限られてはいるものの、資産と従業員の安全へのリスクが高まっていることを示している。抗議活動参加者による日系企業への攻撃によって、すでに多くの企業が中国における営業活動を停止している。中国に広く工場を展開しているキヤノンやパナソニック、トヨタ、ホンダ、日産といった製造業者が、すでに生産を一時停止している。」と英国のリスク分析企業「メイプルクロフト」社は報告している。

さらにメイプルクロフト社は、「セブンイレブンやユニクロといった小売業者が、破壊行為の対象になることを恐れて、店舗を閉めたり、ブランド名を隠したりしているほか、工場や店舗が閉鎖されたことで、サプライ・チェーンを中国に大きく依存している日系企業への投資家の信頼にも悪影響が出ている。このことは、2日間の反日抗議行動を経た9月17日に『日経中国関連株50』(中国で広くビジネスを展開している企業からなる)の指標が前取引日よりも0.3%下がったことに現れている。」と付け加えた。

メイプルクロフト社のリスクアナリストらは、こうした騒乱が長引けば、日系企業だけではなく中国に投資する海外企業全般が影響を受け、結果的に中国のビジネス環境そのものが損なわれることになりかねない、と警告している。9月18日にあらたに暴力的な抗議行動が起こったことで、格付け機関の「フィッチ」は、尖閣諸島を巡る領土紛争が今後もエスカレートしていくようであれば、日本の自動車・技術産業が圧力に晒されることになるだろう、としている。また「フィッチ」は、日産(26%)、シャープ(20%)、ホンダ(20%)、トヨタ(10%)のように、海外市場からの収入の大きな部分を中国に依存している日系企業は、金融面の悪影響に関して高いリスクを有していると指摘している。

また同リスクアナリストらは、今回の日系企業を標的とした攻撃が、他国系列の企業や外国組織にも波及効果を及ぼしている点に着目している。例えば、今回の一連の暴動では、広州にあるイタリア公使館の車両が攻撃されたり、日系企業とは関係ない小売店が破壊されたりしている。

流動的な中国の政治状況

またメイプルクロフト社は、「2012年10月に10年に1度の権力移譲という政治的にデリケートな時期を控えている中国政府にとって、社会的安定を維持するためには、民衆のナショナリズムを注意深く抑制することがきわめて重要な課題になっている」と指摘したうえで、「中国政府が今回の一連の反日抗議活動に暗黙の了解を与えた背景には、中国自身が抱えている国内の社会経済的諸問題(貧富の格差や共産党当局の腐敗問題など)や今年初めに発生した薄熙来氏に関する政治スキャンダル(時期最高指導部入りが有望視されていた元重慶市共産党委員会書記が重大な規律違反があったとして突然失脚した事件:IPSJ)が影響している可能性がある。」と分析している。

日本政府による尖閣諸島国有化に先立って、日中両国の活動家が領有権を主張して島への上陸を図った。尖閣諸島の領有を巡る緊張関係が高まり、それに比例して国内の反日感情が急速に強まるなか、明らかに中国政府には、民衆のナショナリズムをガス抜きする以外にほぼ選択肢はなかった。中国共産党にとっては、重要な権力移譲期を目前に控えて、社会的安定を維持することこそが、最大の課題だったのである。

メイプルクロフト社の分析では、今回引退する中国指導部は、自らの政治的遺産を残す観点から、日本の挑発的行為に対して弱腰とみられることを嫌っている、と見ている。事実、中国主導部の弱腰を非難する批判が、ソーシャル・ネットワークにすでに表れている。

他方で、野放図なナショナリズムとそれに伴う暴力を容認することは諸刃の剣であり、習近平氏が継承するとみられる新指導層にとってもマイナスの影響をもちかねない。内外における権力基盤固めを進めねばならない時期にある習氏は、民衆のナショナリズムに押されて、日本に対する強硬措置を余儀なくされる事態は望んでいない。

またリスクアナリストらは、日本では、野田政権への国内的支持が弱く、一連の事態を受けて右派の影響力が拡大していることから、日本政府が尖閣諸島の領有を巡って妥協する可能性は低いと見ている。また今の時期は、野田政権が消費税の5%増税提案を巡って今年8月に提起された不信任投票を乗り切ってから、国内での支持調達に躍起になっている時期でもある。

野田政権は、尖閣諸島の領有を主張する中国に対して強い姿勢を取ることで、影響力を持つ右派の政治家や政治活動家らからの支持を得られるかもしれない。しかし、そうした支持が得られたとしても、野田首相が今年11月に予定されている総選挙後も続投できるかどうかは不透明である。

他方、中国政府にとっては、日本の政権が頻繁に交代するため、日本の対中政策を測り、前向きな外交戦略を構築することが難しくなっている。そして最近は、不安定な日本の政府がしばしば反中感情を利用して権力固めを行おうとし、日中関係がさらに不安定化する結果を招いているだけに、ますますそうである。

武力紛争の可能性は低い

メイプルクロフト社は、外交上の報復合戦が両者で続き、地域における企業活動を阻害する可能性があるとみている。しかし、全面的な武力紛争が起こる可能性は極めて低い。尖閣諸島のうち3島を購入し国有化したとの日本の発表に対して、中国は、自らの管轄下にあると主張する特定の海洋線を即座に引いた。

[領海を示す]座標が、日本政府による尖閣国有化2日後の9月13日に国連に提出された。この提出後、中国の漁業当局の船舶や海洋監視船が紛争海域において定期巡視の頻度を増している。

日本のメディアは、9月19日時点で、14隻の中国の非軍事法執行船舶が尖閣諸島周辺海域で巡視を行っており、同海域での中国海洋法執行船舶の数としては過去最大となっている。両国間での海洋摩擦のリスクが高まっていることの証左であり、同海域の漁業や石油・ガス採掘に影響を及ぼす可能性もあるとメイプルクロフト社のレポートは述べている。

またレポートには、「これまで尖閣諸島海域では、紛争の激しさゆえに、外国企業が共同石油・ガス探査を進めることができなかった。とはいえ、紛争の対象となっている島々は日米安全保障条約の対象であると米国が繰り返し表明していることから、中国も日本も、武力紛争の可能性を回避するためにも、外交努力を放棄することはないだろう。」と述べた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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ロシアに新しい機会を提供する中東(エリック・ワルバーグ中東・中央アジア・ロシアアナリスト)

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【トロントIDN=エリック・ワルバーグ】

世界はまるでスローモーションの地震の中を生きているようだ。もし物事が計画どおりに進めば、アフガニスタンとイラクに対する米国の強迫的執着は、早晩、もっとも醜悪な歴史的傷となるだろう。ただしそれは、少なくとも殆どの米国民にとっては、まもなく記憶の彼方に忘れ去られるものだろうが―。

リチャード・ニクソン大統領とベトナムとの関係のように、バラク・オバマ大統領も、「兵士を復員させた」大統領として記憶されることになるだろう。しかし、国内政治の仕組みにこれらの動きを合わせていく慎重な帳尻合わせに読者は気づくことだろう。イラクの動きは、国際面では物事がうまく進んでいることを米国民に見せるものだし(グアンタナモの件は触れてはいけない)、アフガニスタンの動きは、オバマ大統領第二期の最後まで都合よく先送りされて、事態が展開しても―必ずそうなるが―選挙でその影響を受ける心配をする必要がない。

 もちろん、ロシアは米国のアフガニスタン侵攻によって地政学的に時間を浪費し、米国が中央アジアから撤退すれば、地政学的な覇権の地位を獲得することができる。地図があれば見てみるとよい。しかし、米国の触手は伸びたままだ。ロシアが帝国主義に対するオルタナティブとして社会主義を提示し得なくなった今、中央アジアには、新自由主義的なグローバル経済以外に政治的、経済的な真のオルタナティブは存在しない。

遠隔地のキルギスからの米兵と米空軍の撤退を見ておくとよい。すでにしてかなり貧相なキルギス政府の予算と外貨予備にそれが残した穴以外、何もなくなってしまう。ロシアは、旧ソ連と比べて、経済的にも政治的にもはるかに弱体である。米国の弱さからロシアが得るところは大きくない。

くわえて、ロシアも米国も―イランと同じく―タリバンに対抗する現在のアフガニスタン政権を支持している。実際のところ、米国務省と国防総省(ペンタゴン)が明白なことに気づいていない場合に備えて言っておくと、米国がアフガニスタンとイラクに侵攻してもっとも得しているのは、一般に考えられているのとは違って、イランであった。侵攻によって、民族的にはペルシャ系のタジク人がアフガニスタンの政権を握り、イラク侵攻によって現地にできたのはシーア派主導の政権であった。

同様に、米国がイラクに侵攻した際、ロシアは政治的にも経済的にも失点した。米国はサダム・フセイン大統領(当時)の国家債務を帳消しにしたが、損をしたのは米国ではなくロシアと欧州諸国だった。米国はそれ以前の10年間、たまたまイラクに経済制裁を加えており、この措置は米国の政策に同調しなかったかつての同盟国が手ひどい損を被る結果となった。しかし、イラクの政治家が自国の外交政策へのコントロールをふたたび要求し始めれば、ロシアは国際的にみて、イラクにより同調的なパートナーとみなされることになるだろう。

皮肉なことに、多くの面において、政治的な闘技場を調整し、米国の参加するアフガニスタンやイラクなどにおける死闘から離脱するルールを確立するカギを握っているのはイランである。この役割は、核軍縮や米・EU関係、とりわけ、世界の準備通貨としてのドルの継続した地位という、より広い問題に対するより広い意味を持っている。このため、すでに信頼を失ってしまったモスクワの親欧米派ドミトリー・メドベージェフ大統領(当時)が目指していた米ロ世界覇権というあいまい(で無内容な)約束をめぐって、ロシアはイランと友好関係を維持しようとしている。

低調な関係

ソ連崩壊以降の中央アジアと中東に対するロシアの関係は低調なものだった。中東では、パレスチナのハマスと関係を保ち、中東交渉のいわゆる「カルテット」の一員として(他に欧州連合(EU)、米国、国連)、さらなる交渉の条件として、イスラエルが占領地において入植地を拡大しないよう要求してきた。2008年のガザ侵攻は戦争犯罪であるとイスラエルを非難した国連のゴールドストーン報告を支持して、旧ソ連とアラブ諸国との間にあった善隣友好関係を取り戻そうとしているかに見える。

2008年、シリアとエジプトに原子炉供給の提案を行って、アラブ諸国に対する外交的攻勢を開始した。シリアの現在の内戦を通じて、地中海沿いのシリアの港町タルトゥースに軍事的プレゼンスを再確立しようとしている。シリア内戦ではロシアとイランが欧米およびアラブ諸国と対峙する形になり、ロシアは負け組に入ることになるかもしれない。

「権力に飢えたロシアがシリアで悪事を働こうとしている」という欧米の描き方には筋が通っていない。ロシアは、シリアのバシャール・アサド大統領の敵であるアラブ諸国と欧米によって反体制側が公然と武器供給を受け、国民が均等に分断されて厳しさを増す内戦に懸念を持っている。アラブ世界における偽善は驚くべきものだ。湾岸の王制諸国とサウジアラビアは、エジプトの新政府が彼らの内政に「干渉」するいかなる試みもしないことを要求しているが、みずからは、シリアの反体制派をずうずうしくも武装しているのだ。

ロシアは、自国領域におけるチェチェンでの悲劇的な内戦を依然として戦っており、ムスリムも交渉のテーブルにつかせるようにしなくてはならない。1600万人のムスリム(人口の12%)を抱えるロシアは、イスラム協力機構への参加にも関心を示している。シリアを内戦に落ち込ませまいとするロシアの努力によって、コーカサス地方などのイスラム分離主義者に対する得点稼ぎはまだできていないが、つかの間の平和のために、シリアあるいはロシア連邦の蚕食を許すようなことはない。

ソ連解体後のロシア

ソ連解体後のロシアでは、ユダヤ系の金融・経済勢力が、銀行・産業エリートと「コーシェル・ノストラ」[IPSJ注:ユダヤ系マフィア]の両面において重要性を持っているため、イスラエルはロシア指導層から好意的な取り扱いを受けることができた。イスラエルのアビグドル・リーバーマン外務大臣は、ソ連から1978年に移住してきたロシアのユダヤ人だった。

イスラエルはまた、終わる気配のないムスリムの蜂起と、ロシア内におけるコーカサス独立の夢を利用して、モスクワが強硬な立場をとってイスラエルに圧力をかけないようにしてきた。ロシアにとっては厄介な隣国であるグルジアにはチェチェン系の反乱勢力が匿われており、グルジアのミハイル・サーカシビリ大統領はイスラエルと米国の軍事顧問を使っている。もちろん、イスラエルがロシアに圧力をかけることは米国にとっても有益だ。これが、米国とイスラエルが新しい帝国の「中心」として機能する現在の「グレイト・ゲーム」の核心的な特徴である。

この時代を「新しい冷戦」と呼ぶのが一般的なのだろう。しかし、歴史はそれ自体を繰り返すことはない。9・11以降の世界政治には間違いなく新たな緊張が生まれている。あらたな攻勢に出た米国が、ロシアを含めた世界に対する覇権の主張に失敗していることで、米国内には国粋主義の火の手が上がっている。

さらに拡散した冷戦

米国サイドでは、ロシアは単なるソ連の再来であり、世界の共産主義支配というソ連国家保安院会(KGB)の目標を隠すための策略であると目されている。もう少しまともな判断力を持つオバマ派の間では、それは、米国・イスラエルによる新しい帝国の中心(「1個半の帝国」)によって支配された「さらに拡散した冷戦」だと考えられている。ここでは、同盟は便宜的に組み替えられる。地平に現れた新たな対抗手は、イラン・トルコ・エジプトを筆頭とした、より分別があり互いに連携するようになったイスラム世界である。

イラン政府を転覆するという米・イスラエルによる希望は、この「1個半の帝国」に最後に残された唯一の共通目標である。しかし、これはイスラエルが運転席に座っている限りにおいての共通目標だ。イスラエルはイランを、イスラエル自身にとってではなく、「大イスラエル」と地域の支配にとっての存在上の脅威とみなしている。イランは、イスラム諸国家に対して第三の道を示す強力な模範であり、中東の覇権国としてイスラエルへのライバル関係に立つ国である。

新しく生まれた「アラブの春」諸国の中ではエジプトだけがイスラエルにとっての心配の種である。エジプトとイランが協力し始めたらどうなるか。そこにシーア派支配のイラク、トルコ、ロシアが加わって、ロシアが4か国と友好関係を結び、世界政治で共通目標を追求し始めたら。突如として、中東の闘技場は、まったく違った様相を呈するだろう。

新しいユーラシアの闘技場

米国がロシア・中国と組んでイランを抑えにかかる合理的な政策を採れば、ぐらつくドルを救うか、あるいは少なくとも、新たな国際通貨へと整然と移行する準備をするチャンスが米国に与えられるかもしれない。もし、ロシア・中国・イランが米・イラン間の現在の核危機を平和裏に収め、トルコからの承認も得、イスラエルを核不拡散条約に加盟させる決意を持つならば、新しいユーラシアの闘技場の形成へと道が開けることになるかもしれない。もし米国がアフガニスタンから撤退すれば、パキスタンとインドも同様に手を引くことだろう。

これが、現在の「グレート・ゲーム」の様相を一変させる出来事の連鎖を生み、ロシア・インド・イラン・中国枢軸が生まれ(すでに2001年以来、ロシア・インド・中国首脳会談は毎年開かれている)、パキスタン、アゼルバイジャンアルメニア、イスラエルは、それぞれの地域紛争を、新しい、それまでとはまるで異なったグレート・ゲームの外側で解決することになろう。米国の利害も顧慮されはするが、米国が自らの望む同盟づくりを強制したり、そうした余裕を与えられることはないであろう。イランはついに、地域の正当なプレーヤーとしての地位を認められる。一方、もし米国が、自ら生み出した中東での危機から名誉ある撤退を図ることに失敗したならば、たんに自らの衰退を加速させるだけの結果に終わるだろう。

ロシアは、反シオニスト的なソ連の継承者として中東全体で持たれている好意的な記憶を継承する。ロシアは今や、中東だけではなく世界の非同盟諸国において、主義を持ったパートナーとして長期的な信頼を獲得するチャンスを得た。そして、帝国の残滓に対して、非帝国的な要塞を築くことになるだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

※カナダ人のエリック・ワルバーグは、中東、中央アジア、ロシアを専門とするジャーナリストとして世界的に知られる。トロント大学、ケンブリッジ大学で経済学を修める。1980年代以降、東西関係に関する文章を書く。国連のアドバイザー、作家、通訳、講師として、旧ソ連とロシア、ウズベキスタンに居住した経験を持つ。現在は、カイロで最も有名な『アル・アフラム・ウィークリー』のライター。著書に『ポストモダン帝国主義―地政学とグレート・ゲーム』等がある。

|シリア|「ブラヒミ特別代表には全ての関係者が支援を差し伸べるべき」とUAE紙

【アブダビWAM】

「シリア内戦は、政府軍、反乱軍双方が決定的な勝利を収められない中、泥沼状態が続いている。こうした極限状態の中、数十万人のシリア国民がやむを得ず故郷を逃れて難民生活を余儀なくされており(シリア国内の避難民は150万人以上、トルコやレバノンなど周辺国に逃れた難民も28万人以上:IPSJ)、シリアをとりまく混迷はますます深まっている。」とアラブ首長国連邦の(UAE)の英字日刊紙が報じた。

「だからこそ、ラクダール・ブラヒミ国連・アラブ連盟シリア担当合同特別代表(元アルジェリア外相)の役割が極めて重要なのである。ブラヒミ氏は、和平合意内容を遵守しようとしないシリア政府に憤慨して辞任したコフィ・アナン前国連事務総長に代わり2週間前(9月1日付で)同特別代表職に就任した。」とガルフ・ニュースは9月17日付の論説の中で報じた。

ブラヒミ氏は、自身の任務について「ほとんど不可能に近いもの」と語っており、15日のバシャール・アル・アサド大統領との会談後には、「危機は深まっており、シリアの人々、周辺地域、そして国際社会にとって脅威となっている。」と付け加えた。

 これまで18ヶ月に及ぶ内戦で27,000人が殺害されている。「アサド大統領と一時間会談したところで、問題解決を図ることはできないだろう。従って、ブラヒミ特別代表は、現状よりもより具体的な和平提案を考える必要がある。交渉の行方はアサド大統領に自身の退任を納得させることができるかどうかにかかっているが、簡単にはいかないだろう。アサド大統領は、国民を殺害することで政権を維持していけると確信しているように思われる。アサド大統領は自身が政権を追われることになるという兆候を自身で確信しない限り、自発的に身を引こうとはしないだろう。」と同紙は報じた。

「一方、反政府諸勢力は、シリア国民に対してそれぞれの派閥が示してきた首尾一貫しない政治公約の内容を整理し、より平和共存に向けた新シリア建設に多方面の人々が参画できるものに変えていく必要がある。中でも、現政権の主要ポストを占めてきたアラウィ派を排除するのではなく、迎え入れなければならない。政府側、反政府側双方に対して、共に協力し合っていかなければならないと説得することは至難の技であるが、これこそがブラヒミ氏に託された使命なのである。従って、『全ての関係者が同じ方向で協力する場合のみ実効性がある』と訴えているブラヒミ氏には、シリア制裁を巡って分裂している国連安保理をはじめ全ての関係者からの支援が必要なのである。」とガルフ・ニュース紙は結論づけた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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言語の自由を見出したシリアのクルド人

【デリク(北シリア)IPS=カルロス・ズルトゥザ】

「私は自分の言語で読み書きを習いたいんです。」と、シリアのクルド人マナル(21歳)は語った。今日、マナルと30名のクラスメートにとって、生まれて初めてその望みが実現しようとしている。

マナルには教育の機会がなかったわけではない。ダマスカスの北東600キロのところにあるハサカの大学で来年には経済学の学位を取りたい、とマナルはほぼ完ぺきな英語で語った。しかし、ほんの2ヶ月前まで、彼女は母語であるクルド語で書く機会は皆無だった。50年近くに亘ってバース党が権勢をふるってきたシリアでは、クルド語が禁止されてきたからである。

この夏、マナルは、ダマスカスの北東700キロのところにあるデリクの「バダルハン・アカデミー」でクルド語の授業に出席した。ここはこの町にある最近クルド語の授業を取り入れた2校のうちの一つで、週に3回各1時間の授業を無償で受けることができる。授業料は個人の寄付によって賄われている。

 「私は英語が話せるので、クルド語でも使用されているラテンアルファベットに既に慣れ親しんでいました。」と、教室に入る直前に取材に応じたマナルは語った。

放課後に取材に応じてくれたアカデミーのモハメッド・アミン・サーダン校長は、「デリクでの試みはわずか2か月に過ぎないが、シリアのクルド人支配下地域では、以前からこのような試みがなされていた。」と説明してくれた。1年半前にシリアで民衆蜂起が起きた途端にクルド語学校を始めたところもあるという。

「私たちは長年にわたって英語とトルコ語を教えてきました。この機を捉えて、クルド語の授業とはじめ我々民族の歴史、詩、文化を是非とも教えていきたいと考えています。」と著名な作家で詩人でもあるサーダン校長は語った。

学校が殺到する入学申請に対応できるよう、自宅の裏部屋2室を教室として無料で提供することにしたモハメッド・サディク氏は、「クルド民族の大義のために多くの人々が命を落としてきました。私の貢献なんてそれに比べたら何でもありませんよ。」と語った。

今年7月、イラクのアルビル(クルド半自治地域政府の拠点)でシリアの主要クルド人政党間の協定が結ばれ、地域の教育行政は在シリアクルド人の支配的連合である「民主統一党」(PYD)によってなされることになった。現在、教育委員会は大急ぎで数学や歴史などの科目をカリキュラムに追加する作業を進めている。

1963年にバース党が政権を掌握すると、シリア在住のクルド人(情報源により200万人~400万人と見られている)には、アラブ同化政策が強要され、教育現場におけるクルド語教育は禁止された。しかし今日「バダルハン・アカデミー」では600人の生徒がクルド語を学んでいる。クルド語は、インド・ヨーロッパ語族イラン語派に属し、5つの変形型が存在し、そのうち2つ(クルマンジーとソラニー)が広範囲で話されている。クルマンジーは、イラク・クルディスタン北部、カフカース地域、トルコ東部、シリアで話され、ラテン文字で表記される。話者人口は1500万人程度といわれている。一方ソラニーは、イラク・クルディスタンの多くの地域とイラン西部において話され、アラビア語で表記される。話者人口は600万人であるとみられている。クルマンジーとソラニーにはそれぞれ標準語があるが、未だにクルド民族4000万人全体に共通の言語やアルファベットは存在しない。

マナルは、看護師のファティマと同じ机を使っている。ファティマはかつて、教室でクルド語を使ったというだけの理由で1週間の停学処分に処せられた苦い経験を思いだしながら、「(こうしてクルド語を学べるのは)間違いなく重要なことです。とりわけ将来を担う世代にとって極めて重要です。」と語った。

「(シリア当局の目を逃れて)私たちは内緒で、時には(クルド人の)先生ともクルド語で話したものでした。」

今日ファティマは、コピーした文法書と参照したり、ホシャンクのような若いボランティア教師の助けを借りて、クルマンジで正しく書けるよう特訓の日々を送っている。

「(クルド語を教える)教師が必要だと聞いて、迷わずボランティアを申し出ました。私はインターネットや自宅に隠していた本を使って独学でクルド語を学びましたが、クルド語を必要としている同胞が僕のように苦労しなくても済むように、力を貸したいと思います。」とホシャンクは語った。

この地域のクルド人は、第一次世界大戦中の1916年に、当時の大英帝国とフランスが秘密協定で(当時両国の敵国であったオスマントルコ領を)バグダッド鉄道沿いに分割する国境線を確定したことから、今日のトルコとシリアに家族・親戚が離散して生きていくこととなった。終戦後、連合国とオスマントルコが結んだセーブル条約(1920年)で、独立に向けた自治の実施が規定されたが、実施されずじまいに終わった。

インターネット時代が到来すると、シリア政府は、主なソーシャル・ネットワークの使用や当局が危険視したウェブサイトの活用を市民に厳しく禁じてきた。こうした当局による締めつけは、内戦勃発後は不安定なシリア通信事情も相まってさらに悪化の一途をたどった。

しかし、シリアのクルド人は、国境の外にあるトルコでほぼ自由にインターネットにアクセスすることができるため、その利益を享受することができたのである。この点は(国内のクルド人勢力を弾圧してきた)トルコ政府にとっては、まったく意図するものではなかったが、結果的にトルコの通信インフラがクルド人の団結を強める上で重要な貢献を果たすこととなった。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|UAE|20万人以上のロヒンギャ族がKZHF財団の恩恵を受けている

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)のカリファ・ビン・ザイード人道財団(KZHF)は、ビルマのアラカン州で迫害を受けている少数民族ロヒンギャ族に緊急支援物資を届けるプロジェクトの第一フェーズを終了したと発表した。

本プロジェクトは、ビルマでイスラム教徒であるロヒンギャに対する残虐行為が発生したとの報を受けて、カリファ・ビン・ザイード・アルナヒヤン大統領の指示のもと、緊急支援物資を現地のロヒンギャ難民に届けることを目標に開始されたものである。

第一フェーズの間、KZHFは、1300トンの支援物資を国内で購入し、船便でビルマに送り届けたほか、救急車3台を寄贈した。

 KZHFのハジ・アル・コウリ事務総長は、緊急支援の第一フェース終了を発表するとともに、KZHFが、事件が発生してから最もいち早くロヒンギャ救援に駆けつけた団体の一つである点を指摘した。UAEでは、アルナヒヤーン大統領より、国内難民と化したロヒンギャの人々の苦しみを少しでも緩和するよう、いち早く人道支援を実施するよう指示が下されていた。(原文へ

翻訳=IPS Japan 

勢力ます排外主義に国連が「平和の文化」を強調
|イスラム協力機構|UAE国連大使、ロヒンギャの人権保護を訴える
|UAE|ザイード人道財団、モーリタニアと人道支援について協議する

勢力ます排外主義に国連が「平和の文化」を強調

【国連IPS=タリフ・ディーン

特定の宗教や移民、マイノリティーに対する不寛容が世界的に勢いを増している中、国連総会が「平和の文化」について討論するハイレベル・フォーラム(193加盟国、国連諸機関、市民社会、メディア、民間セクターなどが参加)を開催する。

このフォーラムの主唱者であるナシル・アブドゥラジズ・アルナセル国連総会議長は、「国連は対話こそが平和への最善の道のりであるという前提のもとに創設された組織」であり、「人類は、文化的多様性や思想の自由が保障された環境の中で、互いの理解を深めることによって、他者への尊敬の念や寛容な心を養うことができるのです。」と語った。

またアルナセル議長は、「国連は、国際社会が異なる信条や宗教から成り立っているという概念を是認しています。しかし今日、世界の一部の地域において、不寛容、外国人嫌い、憎悪を扇動する勢いが増しているのは残念なことです。」と付加えた。

 国連総会は、1999年9月に「平和の文化」に関する国連宣言と行動計画を全会一致で採択している。内容は、生命の尊重、人権の促進、開発への権利、国家主権の完全尊重、紛争の平和的解決、ジェンダー差別の解消などを謳ったものである。

 しかし、それから13年が経過したが、国際社会には引き続き人種や宗教による差別、同性愛嫌悪、移民やマイノリティーに対する差別、そしてとりわけイスラム教徒を標的としたイスラム恐怖症などが蔓延っており、多くの人々が憎悪犯罪の犠牲となっている。

先月、米国ではシーク教の寺院が襲撃され、6人の信徒が銃殺された。加害者は、ターバンをまいた人々をアフガニスタンのタリバン(イスラム教)に連なるものだと勘違いしてこの襲撃事件を引き起こしていた。

また2011年7月には、ノルウェーのウトヤ島で、イスラム教徒と移民を差別するノルウェー国籍の極右の人物(アンネシュ・ブレイビク)によって、ユースキャンプに集っていた77人の若者が殺害される事件が起こっている。

国連総会ハイレベル・フォーラムは、こうした国際社会が直面している現状を踏まえて、1999年に採択された行動計画の履行状況を審議するとともに、平和の文化を推進しようとする国際的な動きをさらに後押しすることを目的として開催されるものである。

本ハイレベル・フォーラムでは、基調講演者として、潘基文国連事務総長、アルナセル国連総会議長、フェデリコ・マヨールIPS理事長(平和文化財団会長)、コーラ・ワイス国際平和ビューロー元会長(ハーグ平和アピール代表)、アンワルル・チョウドリ国連総会議長上級特別顧問などが参加予定である。

アルナセル議長は、先月イタリアのリミニで開催れた会議で行った講演の中で、一部の社会では、文化が対話や人間としての連帯感に繋がる道筋ではなく、分断の原因とみなされている点や、一部の地域では、異なる宗教に属しているという理由で、マイノリティーの人々が、残虐行為や大量殺戮の対象とされている事例(例:ミャンマーにおけるロヒンギャ族)事実、さらに、聖書やコーランが焼かれ、宗教上のシンボルが侮辱の対象となっている問題を指摘した。

「これは私たちが住みたい社会ではありません。私たちは社会の中にある多様性を守っていくべきなのです。私たちが多様性の利点を実感し、グローバリゼーションの産物を全ての人類家族の間で公正かつ調和的に分配しない限り、こうした問題は引き続き頭をもたげてくるのです。」とアルナセル議長は語った。

Nassir Abdulaziz Al-Nasser/ UNAOC
Nassir Abdulaziz Al-Nasser/ UNAOC

またアルナセル議長は、「多民族、多宗教、多言語、多文化の社会は、全ての人類にとっての富の源と見做されるべき」と指摘したうえで、「対話が、平和と発展のために果たす重要な役割を考えれば、国連総会加盟国が『文明の同盟(U.N. Alliance of Civilizations)』(キリスト教を背景に持つ西洋社会とイスラム社会の溝を埋めることを目的に、スペインのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相の2005年の第59回国連総会演説で始まったイニシアチブ。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相が賛同し、同年中に国連の枠組みのもとに発足)という枠組みを国連内に構築した英知を、私たちは正当に評価すべきです。」とアルナセル議長は語った。
 
「文明の同盟」は、文化の相違に根ざす深刻な対立が世界を席巻した時期(米国での同時多発テロ、アフガニスタン、イラクへの米英軍の侵攻、スペインのマドリードでのテロ事件:IPSJ)に創設された。
 
「この新たな枠組みは、国際社会が不寛容のうねりを食い止め、希望と友愛に基づく視点を提示していくための新たな希望として登場したものです。今日、様々なパートナーに加えて、107カ国以上の国連加盟国が『文明の同盟』のグループ・オブ・フレンズに加盟していることは励みになります。」とアルナセル議長は語った。
 
「私は、将来この枠組みへの加盟が普遍的なものとなると期待しています。」とアルナセル議長は語った。
 
「『文明の同盟』は、様々な活動を通じて、私たちの多様性に対するものの見方を転換させるうえで重要な役割を果たしました。このイニシアチブでは、多様性と開発の相関関係に焦点が当てられています。つまり、社会の中の異なるグループ間の調和がなければ、繁栄はもとより持続可能な経済開発を実現するとなど不可能なのは、明らかです。」とアルナセル議長は語った。

「文明の同盟」は、これまで、マドリッド、イスタンブール、リオデジャネイロと会議を開き、昨年12月には第4回フォーラムをカタールのドーハで開催した。

「来年オーストリアのウィーンで開催予定の次回フォーラムでは、今年取り上げた諸問題について、さらに前進が図られることを確信しており、開催を楽しみにしています。」とアルナセル議長は付け加えた。

アルナセル議長は、「異なった宗教が我々を分断することなく、我々をつなぎ合わせて、より平和で寛容な人間家族に向けた架け橋となるような」世界を目指すうえで、「『文明の同盟』には重要な役割があります。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の主要英字紙が、クリストファー・スティーブンス大使を含む4名の米国人が殺害されたベンガジの米国領事館襲撃を嘆く論説を報じた。

クリストファー・スティーブンス大使並びに3名の領事館員が、武装した暴徒がベンガジの米国領事館を襲撃した際に死亡したのは悲劇である。暴徒たちは、米国で制作されたアマチュアフィルムが預言者ムハンマドを冒涜したものだとして、領事館に火を放った。」とガルフ・ニュースは9月13日付の論説の中で報じた。

世界各地における米国務省職員の活動は、米国人が一個人として国内で行っている(或いは行っていない)かもしれないことと無関係である。そして、米国内におけるイスラム教徒を敵視する偏見やプロパガンダに対抗していく正しい手段は、米国内の司法手続きを経て法廷で戦うことである。「もし問題のビデオがイスラム教徒の感情を刺激する意図をもって制作されているとしたら、明らかに間違っている。しかしそれが誤りだとしても、米国の領事館を襲う行為も間違ったものであり、なんの解決策にもならない。」と同紙は付け加えた。

 一方、カリージ・タイムズ紙は、この事件について論説の中で、「リビアは無秩序が支配する混乱期にある。カリフォルニア州を拠点としたイスラエル人映画製作者が作成した冒涜的な作品を巡って米国政府の代理人が殺害されたのは不幸な出来事であった。しかし、米国政府はこの事件に客観的に向き合い、民衆が憤慨している原因を調査しなければならない。重要なことは、政治が介入したりこのような問題を巡って特定の側に肩入れするようなことがあってはならないということである。また今回の事態を誘発した者や暴力に加担した者たちの責任は追求されるべきである。」と報じた。

ナショナル紙は、「リビア米領事館襲撃事件後、双方の過激主義と戦うべき」と題した13日付論説の中で、「(大使らを殺害した)卑劣な連中が影響力を及ぼすことになったのは不幸な事実だ。米国政府はスティーブンス大使並びに3名の領事館員の命が失われたものの、ベンガジで発生したこの挑発に過剰反応することを避ける責任がある。」

双方において過激主義が台頭すれば、その状況から利益を得るのは過激派のみで、敗者は、文化間の平和的な相互理解を志向する人々、ということになってしまう。

「成熟した思慮深い大統領候補ならば、今回の事件に対して自制した行動をとるだろう。はたしてそうした候補がどの程度いるか、今後の展開から明らかになるだろう。」とナショナル紙は報じた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|南米アマゾン|ヤノマミ族虐殺をめぐる謎


【カラカスIPS=ウンベルト・マルケス】

ベネズエラ南部のアマゾン奥地で7月上旬、先住民ヤノマミ族の80人がブラジルから越境してきた違法金鉱採掘業者(ガリンペイロ)らによって虐殺されたと報じられている。虐殺の生存者3人が報告した。

ベネズエラ最南部のアマソナス州(175,750平方キロ、15の先住民族グループの故郷)で活動しているカトリック教会のホセ・アンヘル・ディバソン司教によると、近年、ブラジルから金の採掘者が違法に越境し、ヤノマミ族と関係を築いて便宜を図ってもらおうとしていたという。しかし、時としてその関係が崩れることがある。同地では1989年から環境保護法が施行され鉱業が禁じられていた。

 8月27日、「オロナミ・ヤノマミ機構」は、アマゾナス州都プエルト・アヤクチョの検察に対して、7月上旬にイロタテリ部落で起こった虐殺の様子について調査するよう要請した。ホロナミの指導者ルイサ・シャチヴェ氏は、森に猟に出ていて難を逃れた3人の生存者の証言として、「ガリンペイロらはイロタテリ部落に突然ヘリコプターで現れ、爆発音と銃声が聞こえたと思うと、彼らの集落(シャボノ集落:巨大な木と藁葺きの円形の家で、中央の広場を囲む形になっており、多くの家族がその中でそれぞれのスペースを割り当てられて一緒に暮らしている:IPSJ)がもう燃えていた。集落には80人のヤノマニ族が暮らしていた。」と検察当局に報告した。

後にイロタテリ部落を訪れた隣の部落(ホコマウェ)の住民も、集落が完全に焼き払われているのを発見。ある家屋では黒こげの死体や骨を見つけた。「オロナミ・ヤノマミ機構」によると、知らせを受けたシャチヴェ氏は、7月27日に、同地域を管轄するベネズエラ陸軍第52部隊に事件の報告を行った。

ブラジル社会環境協会のマルコス・デ・オリヴェイラ氏はベネズエラの日刊紙エル・ナショナルの取材に対して、「負傷したイロタテリ事件の生存者は、国境を越えてブラジル側のヤノマミ族の村落に逃れ、手当を受けた後、親戚がいる部落に引き取られた。」と語った。

世界中の部族の人びとの権利を擁護してきた国際団体「サバイバル・インターナショナル」は9月3日付の声明の中で、「事件が報告された部落はかなりの僻地にあるため、死体を目撃した部族民が最も近い集落に悲劇を伝えるまでに数日歩かなければならなかった。」と述べている。

アマゾナス地域の13の先住民族団体も「ホロナミ・ヤノマミ機構」の告発に連帯を表明し、「オカモ川(オリノコ川の支流)上流のヤノマミ族居住地域は、ブラジルからのガリンペイロの侵入によってこの4年間被害を受けてきた。」と声明で述べている。

先住民族らは同声明の中で、「2009年以来、我々はベネズエラ政府当局に対して、採掘業者らによる暴力や脅迫、女性の搾取、水銀による環境汚染(1グラムの金を採るには通常2グラムから3グラムの水銀が必要とされる:IPSJ)などで多くのヤノマニ族が死亡していると訴えてきた。にもかかわらず、ベネズエラ当局はガリンペイロを追放する効果的な対策やこの地域への侵入を取り締まる計画を策定していない。」と述べている。

その上で先住民らは、「生命・健康・文化的統合が危機に晒されているヤノマミ族の苦境に対処するための取り組みを、ブラジル政府との二国間協力の合意のもとに実施する」よう、ベネズエラ政府に要求した。また彼らは今回の事件が、(ヤノマミ族16人が採掘者に殺された)1993年のハシム虐殺(写真はハシム虐殺の犠牲者の遺灰を収めた壷を抱く生き残ったヤノマミ族の遺族達)から20年近く経過して起こった点を強調した。

1993年の6月と7月、ガリンペイロらがブラジル‐ベネズエラ国境にあるハシムで16人のヤノマニ族を殺害した(当時ニューヨークタイムズ紙は実際の犠牲者は76人に達すると報じた)。虐殺に関与したとみられた24人のうち、5人が有罪宣告を受けブラジル国内で収監された。その後15年にわたる法手続きを経て、ベネズエラ政府は、ヤノマニ族定住地域において監察、管理、保護、ヘルスケアの提供を行うべきとする、米州人権委員会の要求に合意した。

「(今回の虐殺が)ベネズエラ史上初めて先住民の権利が憲法に明記され(ウーゴ・チャベス左派政府の下で)社会主義建設に向けた革命が進行している中で起こったことは、実に腹立たしい。」と先住民と連携して環境保全に取り組む団体の責任者であるルスビ・ポルティージョ氏はIPSの取材に応じて語った。

サバイバル・インターナショナルのスティーヴン・コリー代表は、「全てのアマゾン地域に領土を有する各国政府は、「地域に蔓延った違法採掘、違法伐採、先住民居住地域への違法入植活動を停止しなければなりません。こうした違法活動が、先住民の男女・子どもの虐殺に繋がっているのです。ベネズエラ政府当局は、迅速に犯人に裁きを受けさせ、今後は先住民を殺害すれば必ず罰せらるというメッセージを地域全体に送らなければなりません。違法採掘及び違法伐採はやめさせなければなりません。」と語った。
 
イェクアナ族出身のニシア・マルドナド先住民族相は、9月1日、国営テレビの取材に対して、軍・検察官などからなる政府の調査チームが虐殺があったとされるジャングル奥地にヘリコプターで向かったが、「いかなる殺害が行われたという証拠も発見できなかった。」と語った。

タレク・エル・アイサミ内務・司法相は、9つあるヤノマミコミュニティーのうち7つにコンタクトをとったが、暴力の痕跡は確認できなかった、と語った。また、ヘンリー・ランゲル国防相も、「いわゆる虐殺というものは確認されなかった。これはおそらく数週間前に誤って報道された暴力事件と混同したものかもしれない。」と語った。

サバイバル・インターナショナルは、こうした政府側発表について「私たちは、政府の調査チームが、虐殺が行われた地域に到達さえしていないと考えています。このような状況下では、事実関係が分別を持って立証されるまでに(もし立証されればだが)長い時間がかかるのは、当たり前のことです。」と述べている。

オカモ川上流域で活動している宣教師のように虐殺の起こった地域に詳しい人々は、イロタテリ部落に到達するには歩いて数日を要すると述べている。

報道によればガリンペイロスらは、こうしたジャングルの奥地に到達する手段としてヘリコプターを使っており、上空から発見されないよう、森の木々を伐採せず、隠れ蓑にして採掘活動を行っているという。

ヤノマミ族は狩猟・採集を主な手段として生活しているラテンアメリカ最古の先住民の一つで、ベネズエラ南部の一部とブラジルのロライマ州とアマゾナス州が接する地域に、約20,000人が暮らしている。彼らがここアマゾン熱帯雨林地域に暮らし始めたのは約25000年前に遡るといわれている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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「国際食糧価格が再び歴史的な高騰」と世銀が警告

【ワシントンIPS=キャリー・バイロン】

世界銀行が8月30日に発表した統計によると、ここ数か月下落傾向にあった世界の食糧価格が一転して再び高騰している。7月の価格は前月より10%高く、世界で取引されている食料品価格の動きを示す世銀の食料価格指数も7月は前年同期比で6%の増となっている。

ジム・ヨン・キム世界銀行総裁は、「食料価格の高騰で数百万の人々の健康と生活が脅かされている」とし、「特に影響を受けやすいのはアフリカや中東だが、穀物価格が高騰している他の国々の人々への影響も大きい」と懸念を示した。

この統計(世銀の四半期報告書「フードプライスウォッチ」)によると、7月は前月よりも、トウモロコシと小麦の価格は25%、大豆は17%上昇した。その結果、穀物価格全体では、最近の価格ピーク時である2011年2月よりも1%上回っている。

 キム総裁は、世銀がこの状況を受けて過去20年で最大レベルの農業支援体制をとっている点を指摘したうえで、「この歴史的な食糧高騰に直面して、多くの家庭が子ども達の通学を控えさせ、栄養価のより低い食糧の摂取を余儀なくされています。危機的な状況を回避するためにも、世界各国の政府は、最も影響を受けやすい人々を保護するための政策やシステムを強化しなければなりません。」と語った。

ここ数か月間、食料問題に関するNGOなどは、ほぼ危機的レベルに達した食糧価格の再高騰問題に対する国際機関や各国政府の反応の鈍さを批判していた。「オックスファム」のコリン・ローチ氏は、「今回の世銀レポートは、食糧価格の急激な変動に対する行動が緊急に求められているという警鐘を各国政府に鳴らしたものといえるが、彼らが聞く耳を持つかどうかはわからない」と語った。

8月27日、国連食糧農業機関(FAO)のジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ事務局長は、G20に対して、食糧価格高騰に対する協調行動を求めたが、G20は、米国の9月の作物統計が発表されるまでは様子見の姿勢を取ることを決めた。

これに対してローチ氏は、「G20は、食料価格の上昇が制御不能となり、より多くの人々が飢餓に追い込まれる前に、今こそ行動を起こさなければなりません。とりわけ世銀報告書が、食料価格が引き続き変動しやすく高止まりになると警告している中で、G20がこのような様子見の態度を示している現状は、全く受け入れられるものではありません。」と警告した。

持続可能な農業政策の復活が鍵

今日、米国と欧州の一部を席巻している旱魃に対する懸念が高まっている。米国はトウモロコシと大豆の世界最大の供給国であることから、米国一国の旱魃状況の結果によっても、世界の穀物備蓄や食糧価格は、壊滅的な影響を受ける可能性がある。

8月中旬現在で、米国政府は国内1800近くの郡を、厳しい旱魃による被災地と分類した。今年の旱魃は、たとえ間もなく収束したとしても、多くの穀物について既に今年の収穫分を台無しにしてしまっている。

7月下旬までに、米国産トウモロコシの4分の3近くが、公式に極不良(Very Poor)から普通(Fair)と評価された。5月の時点では記録的なトウモロコシの豊作が予想され、多くの人々が、その余剰穀物で枯渇した諸外国の食糧庫を支援できると期待していただけに、6月以降の不作は思わぬ展開であった。

最新の世銀報告は、食料価格が2008年以降高止まり傾向を示す一方で、今年も昨年に引き続き作況が不安定な状況が続いている深刻な現状を浮き彫りにしている。

2008年には複合的な要素が重なり合って、突如歴史的な食糧価格の高騰と食糧不足が発生し、世界的に深刻な状況に陥った。当時、突然の展開に驚いた政策責任者も多く、これが契機となって、それまで20年に亘った農業部門に対する世界的な投資削減傾向が逆転されることとなった。

「2008年に現出した食糧価格高騰の問題は、とりわけ開発途上国を悩ませ続けています。その後、農業に対する投資の必要性が見直されてきましたが、それらは高度な技術を中心とした長期的な研究に偏っており、180度の発想転換が必要です。」と、ワシントンDCに本拠を置く「ワールドウォッチ研究所」のNourishing the Planet(地球を養う)プロジェクト責任者であるダニエル・ニーレンバーグ氏は語った。

ニーレンバーグ氏は、2008年危機後に復活した農業政策において見過ごされているものは、「機能すると既に私たちが知っていること」だと言う。つまり、雨水や自然の肥料を使った持続可能な農業に目を向けることである。また、ニーレンバーグ氏は、近年軽視されてきた、各国ごとの穀物及びその他食糧の備蓄政策を復活すべきだと指摘した。

「今回の旱魃経験から希望の兆しを見出すとすれば、それはおそらく、欧米諸国が多くのアフリカ農民が旱魃と闘う知恵として実践してきた持続可能な知恵に改めて着目できるのではないかという点です。今こそ、欧米諸国が開発途上国に関心を向ける良い機会です。途上国の農民には多くの学ぶべきものがあるのです。」とニーレンバーグ氏は語った。

変わりゆく農業

ニーレンバーグ氏は、現在進行している状況の全貌が理解されるまでに、少なくとも1年はかかるだろうと見ている。一方、専門家の中には、今日の状況はおそらく新たな日常になるのではないかと示唆する者もいる。

地球政策研究所のレスター・ブラウン氏は、IPSの取材に対し、「私たちは豊かな時代から欠乏の時代への過渡期に差し掛かっているのではないかと感じている。」と語った。

ブラウン氏は、その背景として、世界の人口が急激に増えていることだけではなく、人びとがより豊かな食生活を目指すようになっているという事実にあると指摘した。この10年間だけでも、世界の穀物需要は年間2100万トンから4100万トンにまで伸びた。

近年、とりわけ2008年の経済危機に向けて、バイオ燃料需要が穀物備蓄に及ぼす影響が幅広く感じられたものだが、ブラウン氏によると、バイオ燃料需要は既に下落傾向にあるという。

「最も一般的なバイオ燃料であるエタノール問題を別に考えたとしても、私たちが直面している大きな問題は、世界中で30億もの人々の食糧需要、とりわけ中国において肉需要が急速に伸びるてきている現実である。」とブラウン氏は語った。

一方、長年に亘って、肥沃な土地が世界各地で益々不足してきている実態が明らかになってきている。さらに今日では、世界3大穀物製造国である中国、インド、米国をはじめ、世界各地で灌漑用水の不足が顕在化してきている。

ブラウン氏は、「私たちが知っている形態の農業は、1万1千年にも亘って驚くほど気候が安定した時期に発達したもの、すなわち、気候体系の中で最大の収穫を挙げるようデザインされたシステムだということを理解する必要があります。」と指摘した上で、「しかし今日、この気候体系が変化しつつあります。つまり気候が常に不安定な時代に突入しており、年を経るごとに気候体系と農業体系が、お互いに少しずつ調和を保てなくなってきているのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|イエメン|「ドローン攻撃は効果があるというよりもむしろ害となっている。」とUAE紙

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【アブダビWAM】

「テログループを追跡し国際テロ組織アルカイダその他の武装反乱勢力を撲滅する行為は正当なものである。しかしだからといって、その過程で無辜の人々の命が奪われることは決して許されることではない。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が報じた。

「このまま民間人の死者が増え続けると、政情不安は益々深刻化し、アルカイダに対する戦争の目的そのものが頓挫しかねないことになるだろう。犠牲者の多くは、米軍が反政府武装テロリストを抹殺する手段として採用した作戦上の手法(ドローン攻撃=無人攻撃機による攻撃)が実施に移された状況の中で命を落としているのだ。」とガルフ・ニュース紙は9月7日付の論説の中で報じた。

 「米軍はテロリストと認定された個人を追跡・抹殺する手段として、イエメンを含む様々な国で無人攻撃機を利用する方針を打ち出している。しかし、ドローン攻撃は、一方で効果が確認されているものの、誤爆・巻き添えなど、ターゲットを捕捉・殲滅する過程で、周りの無関係な住民を無差別に巻き込んできたことから、厳しい批判に晒されている。」と同紙は付加えた。

9月2日、アルカイダのメンバーを狙ったとみられるドローン攻撃が行われ、女性を含む13人の市民が殺害される事件が発生(イエメン中部ラッダ地区で、無人機が車列を空爆し、アルカイダメンバーとみられる10人と、同乗していた女性3人が死亡。標的であったとされるアルカイダ幹部アブドゥラフ・ダハブ容疑者は生きているという:IPSJ)し、イエメン各地で抗議の声が上がっている。アブド・ラッボ・マンスール・アル=ハーディー大統領(右下写真参照)も、この事態を受けて、事態を究明するための調査を命じた。イエメンでドローン攻撃を実施しているのは米軍のみである。

「イエメンをアルカイダをはじめとした武装テロ組織の拠点にさせないためにも、アルカイダとの戦いは重要である。しかしこの戦争は戦いの性質からいっても、長期に亘るものであるとともに、各関係諸機関間の密接な連携が不可欠である。そして何よりも、民間人の安全確保を最優先することが重要である。そしてそれは(同国で唯一ドローン攻撃を実施している)米国の責任なのである。」とガルフ・ニュース紙は強調した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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