ホーム ブログ ページ 250

オバマ大統領、核なき世界へ向けて国連の支援を求める

【国連IPS=タリフ・ディーン】

9月24日、米国の大統領として歴史上初めて国連安全保障理事会(安保理)の議長席に座ったバラク・オバマ氏の主な動機は、「核兵器なき世界」という彼の野心的で長期の努力を要する目標を推し進める点にあった。 

国連でもっとも強力な機構である安保理は、15ヶ国の全会一致によって採択した決議で、核拡散の脅威への深い懸念と、拡散防止に向けた国際社会の行動の必要性を表明した。

 オバマ大統領は、次の12ヶ月が「この決議と、核兵器の拡散および使用の防止という我々の努力が成功するかどうかに関して、決定的に重要になるだろう。」と語り、明確な時限設定に踏み込んだ。同大統領は、国連安保理の会合に集まった各国首脳に対して、「本日、安保理は、すべての脆弱な核物質を4年以内に凍結するという世界的な目標を是認しました。」と宣言した。 

またオバマ大統領は、すべての国家を支援しつつこの目標に向かって突き進むことを目的とした首脳級会合を、来年4月に米国が開催することを確約した。 

オバマ大統領は、イランと北朝鮮を名指しして、核兵器開発計画を放棄するよう両国に求めたこれまでの国連安保理決議を「完全に遵守」するよう促した。またそれと同時に、「個別の国家を名指しすることが目的なのではない。すべての国が(核に関する)それぞれの責任を果たす権利を擁護するためのものなのです。」と語った。 

しかし、国連安保理会合での議論の雰囲気とは異なり、24日に採択された決議はイランも北朝鮮も名指ししなかった。これに関して、IPSの取材に応じたあるアジアの外交官は、「それはおそらく決議採択に中国とロシアの支持を得るためだったのでしょう。」と語った。国連安保理で拒否権を持つ両国は、従来からイランと北朝鮮を擁護する傾向にある。その主な理由は、核兵器保有国になるかもしれないイラン・北朝鮮に対して中国・ロシアが政治・経済・軍事の各面において利害関係があるからだ。上記の外交筋は、「もしイランと北朝鮮が決議で名指しされたなら、米国は全会一致の決議を得ることはできなかったのでしょう。」と語った。 

しかし、安保理会合では北朝鮮とイランを非難する声明も相次いだ。おそらく、決議自体において両国が名指されないことへの穴埋めだったのだろう。フランスのニコラ・サルコジ大統領は、「我々は現在2つの大きな核拡散の危機、すなわちイランと北朝鮮問題に直面しており、毎年状況は悪くなっている。世界が見つめる中、この2国の問題に取り組まずして、どうしてこのような会合を正当化できようか。」と、明確に不快感を表明した。 

英国のゴードン・ブラウン首相は、イランや北朝鮮などに厳しい制裁を課す一方で、核兵器開発を断念する用意のある非核保有国には民生用の原子力技術を提供するという内容を含む「核兵器に関する世界的な取り決め」を結ぶべきだと提案した。また同首相は、核兵器保有国に対しても、保有核弾頭数を削減する公約を行うよう求めた。 

5つの公式の核兵器保有国―国連安保理の5常任理事国でもある―は、米国、英国、フランス、中国、ロシアである。一方、核兵器保有国だと公式に認められていないのは、パキスタン、インド、イスラエル、北朝鮮である(イランもその仲間入りをしつつある)(「公式に認められていない」とは、核不拡散条約(NPT)においてこれらの国が「核兵器保有国」のカテゴリーに入れられていないことを意味する:IPSJ) 

ニューヨークに本拠がある「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」のジョン・バローズ事務局長はIPSの取材に応じ、「決議を先導した米国のスーザン・ライス国連大使は、決議が特定の国をターゲットにしたものにはならないことを明確にしました。しかし、ロシアや中国との決議策定はもっと早く行うことができたはずです。」と語った。同氏はまた、「私に言わせれば、特定の国を名指しするかどうかは的外れの議論です。決議はすべての国に適用される規範に関するものであり、核不拡散だけではなく核軍縮に関する決議であるべきものです。実際、ある程度まではそうなっています。」と語った。 

したがって、実際の決議は、特定の核拡散状況に焦点を当てたものになっていない。決議はまた、名指しを避けながら、両国が関連の国連安保理決議に従うべきことを明確にしている。「どうして、核軍縮の約束を果たしていない国が名指しされずに、イランと北朝鮮を名指しすべきだなどという議論を行うことができるのでしょう?」とバローズ氏は疑問を呈した。 

世界でもっとも有名な軍備管理・軍縮問題に関するシンクタンクであるストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のイアン・アンソニー研究主幹は、「今回の国連安保理決議は、今後長期にわたって複雑な問題に対処していく国際協力の枠組みを打ち立てたものです。」と評した。「この作業計画を国連安保理が実行する意思を示し続けられるかどうかが、他の国連加盟国が関連の措置において積極的な役割を果たすべきかどうかの一つの判断材料となるでしょう。今後、国連安保理にとっての主要な課題は、経済・金融・気候変動やその他の緊急を要する問題に関連して対処すべき優先順位をめぐる争いがある中で、今回の決議に盛り込まれた一連の措置を実行し続けられるか否かという点にあります。」とIPSの取材に対して語った。 

バローズ氏は、「決議はイランや北朝鮮を名指ししなかったものの、核不拡散という義務を遵守させるために国連安保理が一定の役割を果たしていくことを明確にしています。」と語った。 

しかし、決議は、核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約:FMCT)の交渉が進む間、核兵器保有国が同物質の生産を停止すべきだとの内容を盛りこまなかった。「どうやら、中国がいやがったようです。」とバローズ氏は言う。「南アジアにおいて核分裂性物質を生産停止にすることは、深刻な核軍拡競争を現実に止める効果があり、きわめて重要です。インドとパキスタンは、兵器用の核分裂性物質を現在製造している世界で唯一の国です(イスラエルが生産しているかもしれないが)。しかし、中国はおそらくそのオプションを手放したくないのでしょう。」とバローズ氏は付け加えた。 

SIPRIのアンソニー氏は、「すべての国家が誠実に合意を結んだのではなかったことが明らかになってしまえば、軍備管理が依っている基本原則への重大な打撃となります。」と語った。その原則とは、「それぞれの責任の下で、すべての当事者が自己抑制という合意されたルールを守る」ということだ。 

さらにアンソニー氏は、「テロで甚大な影響を与えることを狙った非国家主体による脅威は、軍備管理においてこれまで論じられてこなかったテーマでした。」と指摘した。同氏は、「軍備管理は、既存合意の遵守に対する信頼性を高め、テロで甚大な影響を与えることをねらった集団がもっとも危険な能力を得ることを阻止することによって、安全保障環境の変化に適用しようと努めてきました。」と語った。24日の国連安保理会合は、米国が多国間枠組みの中で責任あるリーダーシップをとろうと望んでいたことを示している。 

「これは、近年考え出されてきた新しい法的・政治的・技術的な道具立てを、公正かつ包括的、効果的に使うための最善の道です。そうした道具立ての多くは、国連安保理決議の前文に書かれています。」とアンソニー氏は付け加えた。 

オバマ大統領は、今年4月にプラハで行った歴史的な演説において、「核兵器なき世界」について語った。 

バローズ氏は、プラハ演説で語られたある点が今回の決議には欠けていると指摘した。すなわち、安全保障戦略における核兵器の役割の低減の問題である。また、軍備管理/軍縮に関する新しい手法や、その点に関する国連安保理の役割についても落とされている。 

例えば、核兵器保有国を巻き込んだ軍縮プロセスの開始についての言及がない。核不拡散・核軍縮問題についての下位機構設置の提案もない。核不拡散・核軍縮上の義務違反に対して効果的に対応するための国連安保理改革案も出されていない。さらに、軍縮に関する計画を提案するという、国連憲章に定められた安保理の責任を果たさせるためのステップも打ち出されていない。 

対照的に、核不拡散と反テロ措置については、ずいぶんと詳しく展開されている。 

まとめるならば、決議は、新核兵器保有国の登場やテロリストによる核兵器の取得を防止するための国連安保理の役割については強力な措置を打ち出しており、現在の強調点は、オバマ政権が既存の軍備管理問題の解決を追求する意図があるというメッセージに置かれている。 

「オバマ大統領がプラハ演説で打ち出した公約に見合うようにするには、決議は、核兵器の拡散を抑えこむだけではなく、既存の核兵器保有国が核兵器への依存をやめ、自らが核兵器ゼロに向けて削減していくプロセスを開始する野心的な努力に道筋をつける必要があります。」とバローズ氏は主張した。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

「暴力を増殖させる小型武器」(国連IDP/NGO年次会合)

【メキシコシティーIPS=エミリオ・ゴドイ】

小型武器の不正取引問題は、とりわけメキシコ、グアテマラ、ブラジルといった国々において、都市部の犯罪率を引き上げる元凶となっていることから、ラテンアメリカでは、軍縮問題の中でも特に懸念されている分野の一つである。 

この問題は、「平和と発展に向けて:今こそ核軍縮を!」をテーマに世界75カ国から1700人の代表が参加して開催された第62回国連広報局NGO (DPI/NGO)会議における議題の一つである。

 「これらの小型武器は、莫大な利益を背景に非合法に取引されているもので、一般の犯罪者や犯罪組織が、社会や治安部隊のメンバーを攻撃するために使用している。」と、メキシコのパトリシア・エスピノサ外務大臣は、水曜日(9月9日)に開会した会議の冒頭で語った。今年のDPI/NGO年次会議は、メキシコシティー歴史地区の中心部に近い修道院跡を会場に開催されている。 

麻薬カルテルの活動が社会に幅広くはびこるメキシコにおいては、小型武器の問題は同国政府にとって特に悩みの種となっている。未知数の武器が、米国の合法市場で入手されるか、或いは、中央アメリカからの密輸ルートを通じてメキシコに運び込まれている。 

メキシコ国防省の統計によると、2000年から2006年の間、合計257,993丁の小火器を破壊処分、723丁を紛失、2,367丁が盗難被害、238,838丁を登録、31,931丁が所有者・管轄区の間で移転と記録されている。 

 2006年下旬に就任した保守派のフェリペ・カルデロン大統領は、麻薬密売と戦うためにメキシコ全土に数千人にのぼる兵士を展開した。しかしながら、その後麻薬関連の殺人事件が急増し、非公式統計によると今年8月までに14,000人以上の犠牲者を出した。 

このように多数の犠牲者を出した背景には、麻薬マフィアの火力を大幅に増強した小型武器の存在があった。 

国連の統計によると、世界に出回っている小型武器の総数は5億丁以上で、この数値は、人口換算すると平均で12人に一丁の割合となる。小型武器は1990年以来起こった49の主な紛争の内、46の紛争で主要な役割を果たしている。 

また、世界の小型武器取引の中で合法のものは約半分しかないと推定されている。さらに、合法的に輸出された武器も、行き着く先が闇市場である場合も少なくない。 

国際小型武器行動ネットワーク(IANSA)によると、小型武器の不正取引から上がる純益は年間20億ドルから100億ドルと推定されている。IANSAは1998年に120カ国における800の非政府団体により設立されたネットワークである。 

年間700万丁近いライフルと拳銃が、主に米国と欧州連合において製造されている。 

この問題に取組むため、国連小型武器会議(正式名:小型武器非合法取引のあらゆる側面に関する国際会議)が2001年の7月9日から20日にかけてニューヨークの国連本部で開催された。 

「メキシコでは、武装による暴力と女性への暴力は深刻な問題です。小型武器が暴力を増殖させているのです。」とIANSAのメキシコ代表エクトル・グエラ氏はIPSの取材に対して語った。 

IANSAは、銃器を使用した対女性暴力で有罪となった人々に対して、銃器免許の発給を停止、或いは免許取消しを規定する法律を新たに制定するよう提案している。 

7月下旬に英国のジャーナル誌『犯罪学と刑事司法(Criminology and Criminal Justice)』に掲載された米国、カナダ、スイスの共同研究によると、人口1億700万人を擁するメキシコでは、高い犯罪発生率が、平均余命を半年以上引き下げている。 

このような背景からメキシコ政府は、小型武器貿易に関する合意と、武器の不法取引取り締まりに向けた国際的な努力を積極的に支持している。 

また、『核兵器の拡散問題』が、今週金曜日(9月11日)まで開催予定のDPI/NGO年次会議のもう一つの中心議題である。本年次会議がニューヨークの国連本部以外の地で開催されるのは今回で連続2回目となる。 

播其文国連事務総長は、開会の辞の中で、「今日地球上には、約2万発の核兵器が即時使用可能な状態で配備されています。」と述べ、国際社会に対して核軍縮に向けて努力するよう訴えた。 

「平和なくして開発はありませんし、開発なくして平和が訪れることもありません。核軍縮を進めることによって、その両方を実現する手段を見出すことが可能となるのです。」と播事務総長は語った。 

1991年に米国と当時のソ連の間で結ばれ、両国が保有する戦略核弾頭の上限を定めたSTART(戦略兵器削減条約)は今年の12月で失効する。 

こうした中、9月24日に開催予定の国連安全保障理事会首脳級特別会合(議長:オバマ米国大統領)では、「核不拡散」と「核軍縮」の問題が話し合われる予定である。 

また、2010年5月には、1970年に発効した核不拡散条約(NPT)の次回運用検討会議が、ニューヨークで開催される予定である。 

地雷禁止国際キャンペーンを率いて1997年のノーベル平和賞を受賞した米国の活動家ジョディー・ウィリアムズ氏は、水曜日の記者会見で、「私はあくまで核兵器禁止条約実現を目指すよう働きかけていきます。なぜならば、もし私たちが『最終的な核兵器の廃絶という軍縮議論』に終始する限り、将来的に核兵器が禁止されることは現実にあり得ないからです。」と語った。 

ラテンアメリカとカリブ海地域は、通称「トラテロルコ条約」として知られる、ラテンアメリカ及びカリブ海域核兵器禁止条約の下で、非核兵器地帯となっている。この条約は1967年にメキシコシティーで調印されたもので、メキシコはこの核兵器禁止条約の提案国の1つであった。 

播事務総長は、「国連は『核兵器のない世界』実現に向けた戦略として、核軍縮のありかたについて次のような提案をしています。すなわち、核軍縮は、諸国の安全を強化するものでなければならず、そのためには、新たに開発がなされるかもしれない他の兵器が及ぼす脅威に備える一方で、核兵器の削減が、法的拘束力をもつ信頼できる検証システムの下で、情報公開と透明性を確保した中で実施されなければならないと訴えています。」と語った。 

ウィリアムズ氏は、「もしこの重要な転換期に、市民社会組織が介入して核兵器廃絶に向けた活発な運動を展開しなかったとしたら、(核廃絶に向けた流れを押し進める)機会は失われてしまい、その後には、制御不能な恐ろしい軍拡競争が引き起こされるかもしれない。それは考えただけでも恐ろしい将来の見通しです。」と語った。 

国際小型武器行動ネットワーク(IANSA)のグエラ代表は、今週開催された第62回国連広報局NGO会議は、「全ての武器、とりわけ小型武器に反対する力強い宣言を行って閉会すべきです。」と語った。 (原文へ
 
翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事: 
合意への道遠い小型武器貿易条約 

|日本|「私達には再び経済成長をもたらす小さな政府が必要だ」(河野太郎衆議院議員インタビュー)

0

【東京IPS=M.Murakami】

8月30日に行われた衆議院総選挙では長年与党の座にあった自由民主党(LDP)のベテラン議員の多くが落選し、民主党(DPJ)による地滑り的な勝利と共に歴史的な政権交代がなされた。 

河野太郎氏は、今回の衆議院総選挙で再選を果たした自民党議員の一人である。 

神奈川第15区選出で今回5期目となる河野議員は、現在46歳。国会議員として高い評価を得てきた河野氏は、自民党に対する逆風が強かった今回の衆議院総選挙においても、選挙民の圧倒的な支持を獲得した。 

米国ワシントンDCにあるジョージタウン大学卒の河野氏は、1996年の衆議院総選挙に立候補し初当選を果たした。近年は自民党の体制について歯に衣着せぬ批判を展開して注目を浴びている。自民党内では国会議員を14期務め今年引退した父、河野洋平前衆議院議長と同様、リベラル派を代表する議員である。

 河野氏は、自民党指導部の間に集団的な危機感が明らかに欠如しているとして批判する一方、社会保障制度の改善と政府による無駄な支出の削減の必要性を訴えた。多くの論点について河野氏の政策的な立場は、民主党が提唱しているものに近かった。 

河野氏は今回IPSの取材に応じ、先般の衆議院総選挙における自民党の大敗についてと、民主党が率いる新政権に対する期待について率直な思いを語ってくれた。ここにインタビューの抜粋を紹介する。 

IPS: 先般の衆議院総選挙での自民党の劇的な大敗をどのように見ておられますか? 

河野:これは過去4年間に亘る政府(安倍晋三、福田康夫、麻生太郎首相首班の3代に亘った政権)の失政の結果だと思います。この期間、大臣たちは、経済が失速、失業率が増加、GDPが低下し、自殺率が上昇する中、本来の役割を十分果たしませんでした。 

またこの期間、日本の金融市場も急落し、リーマンショック(昨年の世界金融危機の発端となった米国の名門証券会社、投資銀行の破綻)がそれに更なる拍車をかけました。 

もしこれら一連の政権の大臣たちが十分な対策を講じていたならば、国営漫画喫茶(漫画喫茶店の略で日本式コミックカフェの意味)と批判された巨大なポップカルチャーセンター(国立メディア芸術総合センター)の建設費として117億円もの予算を承認することはなかっただろう、そして日本の状況がここまで悪くなることはなかったと思います。 

IPS:それでは先の3内閣までの自民党政治はむしろよくやっていたと思いますか?一方で、自民党政治に対する一般国民の不満は長年に亘って蓄積されてきたと主張するみかたもありますが。 

河野:4年前の衆議院総選挙で自民党が大勝したことを思い出してください。私は今でも小泉純一郎前首相の改革路線を支持しています。しかし小泉政権の後継である安部首相は、(小泉政権の郵政民営化に反対した)反改革派を復党させ、政府の要職につけました。その時点から政策路線が誤った方向に動き出したと思います。 

IPS:麻生太郎前首相は自民党総裁の辞任を表明しました。そして9月16日には特別国会で新総理大臣が選出されます。自民党議員の中で同氏を首相に推薦することは意味がないと感じている方々が少なくないようですが。
 

河野:衆院選の敗北の責任者でありその結果総裁辞任が決まっている人物に投票する必要はないと思います。 

IPS:自民党は今後野党としての役割を担う訳ですが、最大の課題は何だと思いますか? 

河野:これは自民党にとっての課題だけではありません。今の日本には再び経済成長路線へと導く(国民への現金により手当を計画している民主党の方針とは異なる)「小さな政府」が必要なのです。 

もし自民党が今後存続していくとするならば、自らのアイデンティティーを再定義し、国際社会に対して自民党が目指す理念や政権像を示していかなければなりません。もし自民党が小さな政府を目指すという点でコンセンサスを構築できなければ、希望はありません。 

IPS:マニフェストで喧伝された民主党の政策をどう見ていますか? 

河野:年金改革といった具体的な政策では賛同できるものも見受けられます。しかし、民主党の掲げる労働組合を基盤とした「大きな政府」やそのような政府による「福祉の再分配」といった政策には賛同できません。私は経済発展を取り戻すことに焦点を当てた小さな政府を支持します。 

IPS:民主党新政権は、初めてとなる国政をどのように運営していくと思いますか? 

河野:国政運営は容易にはいかないでしょう。民主党が公約した政策は具体的な財源の根拠がないまま打ち出したものですので、実施には至るのは困難でしょう。民主党はこの点について財政支出の無駄な部分を見直すことで、必要財源を絞りだせるとしています。しかし、遅かれ早かれ民主党は、「子供手当」などの(子供のいる家庭や農家を対象とした)特別手当の支給を諦めざるを得なくなるでしょう。 

IPS:あなたのような自民党の若い世代のリーダーの役割はなんでしょうか?自民党をどのように再生していかれますか? 

河野:私は私自身の信念に沿って行動していきます。もし自民党が正しい方向を進むのであれば、私はその中にあって支持していきます。しかし、党のためというよりも日本の人々のために誠実に使命を果たして参りたいと考えています。私が自民党に属してきたのは、(各党の政策理念を見渡した時に)他に選択肢がなかったからです。しかし自民党に所属するために同党にとどまる必要はないと考えています。今後の党の方向性によっては、離党や新党旗揚げも考えるかもしれません。 

IPS:自民、民主両党の若手国会議員間の交流ネットワークは今後拡大していくでしょうか? 

河野:自民党議員の中には党主流の議員達と考えを異にする人々もいます。またこの状況は民主党側にも言えます。このような両党の議員達が将来におけるさらなる政党間の再編成に向けて動く勢力となるかも知れません。 

今日、結局のところ、自民党と民主党の政策には大きな違いがありません。もし両党がそれぞれの独自性に基づくビジョンと政策を競い合う環境が実現すれば、日本国会はあるべき機能を発揮することができるようになるでしょう。 (原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

│キルギス│新たなる大国間競争が始まる

【ビシュケクIPS=ゾルタン・ドゥジジン】

米軍基地がロシア軍基地からわずか40kmのところに―こうしたことがキルギスでは実際に起こっている。キルギスはいま、列強によるあらたな争いの場なのだ。 

キルギスを含む中央アジア地域では、モンゴル、アラブ、中国、イギリス、ロシアなどの強大な勢力が長らく相争ってきた。そこに新たに加わったのが米国である。 

2001年、アフガニスタンでの戦争に利用するために、首都ビシュケクにマナス空軍基地を設置したのだ。しかし、そこからわずか40kmしか離れていないカントには、ロシアが別の空軍基地を構えている。

 今年初め、キルギスのバキエフ大統領とロシアのメドベージェフ大統領は、ロシアがキルギスに対して20億ドル規模の融資や投資を行う計画を発表し、この直後、キルギスが要求して、いったんは米軍基地の撤退が決まった。 

しかし、米国はマナス基地の使用料を以前の3倍にあたる年6000万ドル支払うことを提案し、米軍基地は一転してキルギスに留まることになった。ただし、米兵の不逮捕特権は以前より弱められ、マナス基地の警護の権利はキルギス軍に与えられることになる。 

米国はさらに、空港インフラ整備に3600万ドル、管制施設整備に3000万ドル、反テロ・麻薬撲滅対策に3000万ドル、再開発計画に2000万ドルなどを投じることを約束した。 

しかし、問題がないわけではない。ソ連崩壊以降、イスラム系暴力集団の国内での活動が活発になったとされている。米国によるアフガニスタン・パキスタンでの戦争のために、「より安全な」中央アジア諸国にテロリストが流れてきているとの懸念もある。 

他方で、トルコと中国がキルギスへの影響力を強めつつある。 

トルコは教育分野への投資が多い。すでに、キルギス・トルコ大学(マナス)とアタトゥルク・アラ・トゥー国際大学の建設を支援している。 

キルギスの量販市場を席巻しつつある中国への地元住民の評判はあまりよくない。2004年から06年にかけて、中国からの輸入は3倍の16.4億ドルまで伸びた。中国人貿易商たちが乗ったバスが焼き討ちにあったとの情報もある。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 

なぜ核兵器を廃絶するのか(梅林宏道)

0

【IPSコラム=梅林宏道】

「なぜ核兵器廃絶なのか?」この素朴な問いが最先端の問題になっているように思われる。広島、長崎の原爆投下を経験した日本においては、核兵器のもたらす非人道的な惨害が核兵器廃絶を求める深い願望として存在している。しかし、これだけでは「核兵器のない世界」のビジョンを描くには不十分だ。核兵器廃絶の努力は、より平等で、公正で、人間的な地球社会を創り出そうとする挑戦に強く結び付くものでなければならない。 

米国で新たに反核イニシアチブが始まり「核兵器のない世界」という概念が現実的な目標として再浮上したことで、私は改めてこの「なぜ」という問いに直面した。 

貧困や気候変動といった問題に対するグローバルな取組みは、あたかも人間社会が律せられるべき暗黙の規範に導かれているかのように、当然のことと考えられる傾向にある。しかし核兵器廃絶運動は、それとは対照的に、国の安全保障との関連から個別兵器の問題の枠組みに閉じ込められがちである。核廃絶の問題は、倫理上の、グローバルな人間にかかわる問題として見られないのである。従って、核廃絶運動を成功させるためには、私たちは思考基盤において、より広い空間に出る必要がある。

Hiromichi Umebayashi

 私は10年前に元英国海軍中佐のロバート・グリーン著「核兵器廃絶への新しい道」を日本語に翻訳したが、それ以来ずっと気にかかっている問題があった。そこには、200年前の奴隷制度廃止運動と核兵器廃絶運動とのアナロジーを語る中で、「ただ奴隷制度の残酷さのみを語るのではなく、それを法的問題として語ることによって、奴隷制度廃止運動は成功した」という趣旨が述べられていた。 

グリーン中佐の研究から教訓として学んだことは、国内法、国際法にかかわらず重要な法律を制定させた政治意志の背景には、人類が経験した時代時代の苦しみや苦悩が刻まれているという事実であった。そして、そのような法律には、制定過程で妥協を強いられたとしても、新たな時代を切り開く取組みにおいて活用できる法的規範、語法、概念体系が含まれていることを学んだ。 

兵器を禁止・制限する国際諸条約の前文には基本的な法規範や原理が謳われている。しかし核兵器を制限する諸条約とその他の兵器に関するものとでは、その内容が大幅に異なっている。生物兵器禁止条約、化学兵器禁止条約、対人地雷禁止条約、そして最近のクラスター弾禁止条約には、「禁止は文明世界の当然の要件であり、人間の良心が命じる法に従うものである」として、人道的、道徳的根拠が明確に解説されている。一方驚くべきことに、核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)のような核兵器に関する諸条約では、事情が全く異なるのである。 

生物・化学兵器禁止条約にあるこれらの規範を読んだ読者は、これらすべては、核兵器の禁止・制限にとっても当然の規範として記述されるであろうと想像するに違いない。しかし、それは全くない。NPTやCTBTのどこにも、同様の人道的・道徳的規範に関する記述はないのである。はたしてこのように脆弱な法的立場で、「核兵器のない世界」が実現できるのだろうか。 

核兵器が上記のような規範状況に留まっている理由は明らかである。それは核兵器保有国の参加を確保するためにはそのような婉曲語法が必要だからである。しかしこのような手法を受入れている限り、国際社会は、核兵器の本質とそれが人類の未来の世代に及ぼす影響を踏まえた法規範を確立することに失敗するかもしれない。そうなれば、「核兵器のない世界」を、人類社会にとってより良い世界としてビジョンを描くことはできないだろう。 

従って、私たちが取り組むべき第一の課題は、たとえ核保有国が、核兵器の未曾有の脅威に見合った倫理規範を規定しているがゆえに受け入れなかったとしても、なお有効であるような国際的な法律文書を確立する道を探求することである。 

その方向性を示唆する試みとしては、レベッカ・ジョンソン女史が最近の論文(「軍縮外交」2009年春季号)の中で議論している、核兵器の使用・威嚇を禁止する条約案がある。ここでは、市民社会と同志国家が協力し合う、いわゆる「オタワプロセス」が有効なアプローチになるだろう。 

また私たちは、今日の世界がいかに軍事力を背景とした威嚇外交によって歪められているか、そしてその最たる事例が核兵器使用の威嚇であったという事実を、詳細に明らかにしてゆく必要がある。国連憲章に謳われている「人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係」(第1条第2項)や「差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重する」(第1条第3項)といった規範は、核兵器の恐怖が支配する世界においては、決して実現をみることはないだろう。「核兵器のない世界」に向けた道のりは、人類がそのような規範が体現される新たな人道社会を思い描くことを可能にするようなものになるべきであろう。(原文へ) 
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

※梅林宏道はNPO法人ピースデポ(平和資料協同組合)の創設者・特別顧問。工学博士(磁性物理学専攻)。 



関連記事: 
|軍縮|国連会議で核廃絶が焦点に(第21回国連軍縮会議in新潟) 
緊急性を増した核軍縮(ミハイル・ゴルバチョフ) 
致命的な後遺症を残したイスラエル・レバノン紛争

|軍縮|国連会議で核廃絶が焦点に(第21回国連軍縮会議in新潟)

0

【東京IDN-InDepth News=浅霧勝浩】

もし「核兵器のない世界」を、現実からかけ離れた単なる夢で終わらせないとするならば、核兵器保有国は、来年5月にニューヨークで開催予定の歴史的な核不拡散条約(NPT)運用検討会議において、政治的な意思、リーダーシップ、及び柔軟性を発揮しなければならない。 

これは日本の本州北西部に位置する新潟市を舞台に、米国、中国、フランス、ドイツ、日本、中東諸国を含む21カ国から約90人の政府関係者や研究者らが参加して3日間に亘って開催された国連軍縮会議における結論である。国連軍縮会議は、89年以降、毎年日本で開催されており、今回で21回目となる。

 この年次会合は、国際社会が直面している差し迫った安全保障問題や軍縮関連の問題について率直な対話や意見交換を行うことができる重要な公開討論の場と考えられている。また会合では、アジア・太平洋地域の国々に関わる軍縮及び核不拡散の問題についても検討がなされている。 

今回の軍縮会合は、「新潟から世界へ:核兵器のない世界に向けた新しい決意と行動」をテーマに、国連軍縮部と国連アジア太平洋平和軍縮センターの主催(新潟県、新潟市、外務省の協力)で、9月24日に予定されている国連安全保障理事会首脳級特別会合まで4週間をきるタイミングで開催された。 

米国のバラク・オバマ大統領は、同首脳級特別会合において議長を務め、国連における最もデリケートな問題の中から、「核不拡散」と「核軍縮」の問題を取り上げる予定である。 

スーザン・バーク米大統領特別代表(核不拡散担当大使)は、初日のセッションにおける講演の中で「核兵器のない世界」実現を目指すオバマ大統領の決意を再確認し、「米国単独では無理だが、(各国を)主導することはできる」と語った。 

またバーク大使は、核軍縮に向けた米国の戦略について、「米国は核兵器の備蓄量を削減することで(核兵器が有する)軍事的な役割の比重を低下させていきます。そして他の核兵器保有国に対しても同様の削減策をとるよう要請していきます。」と説明した。 

 「さらに、米国は現在ロシアと交渉中の第一次戦略兵器削減条約(START1)に替わる新条約には、法的に拘束力のある検証機能を盛り込むことを目指しています。その目的は、新条約を実質的に機能させるものにするためです。」とバーグ大使は付け加えた。 

日本政府を代表して歓迎の挨拶に立った浅野勝人官房副長官は、オバマ米大統領が「米国は核兵器のない世界に向けた具体的な措置を取る」と述べた4月のプラハ演説を挙げ、「世界で核軍縮の機運が高まっています。今こそ協調する時です。」と訴えた。 

「核兵器のない世界」のビジョンを行動に 

ハナロア・ホッペ国連軍縮部長兼軍縮担当上級代表次席は、開会発言の中で、「核兵器のない世界を実現するには、核兵器保有国と非保有国の双方が共に努力していく必要があります。」と語った。 

今回の会議では、「核兵器のない世界」のビジョンを具体的な行動に移す方法が模索された。 

協議された具体的な行動には、大幅な核兵器保有量削減を目標とした準備的な措置、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効に向けた取組みの強化、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉の推進等が含まれる。 

「現存の核兵器が及ぼす脅威や、核兵器の拡散、非国家の所有というリスクは、国際社会の平和と安全にとって最も憂慮すべき課題です。」とホッペ国連軍縮部長は語った。 

川口順子元外務大臣は、現在の国際情勢について、「米ロ両国が核兵器削減に向けた交渉を開始するなど、核軍縮を取り巻く最近の情勢は数年前とは対照的なものとなっています。」と指摘した。 

「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の共同議長を務める川口元外相は、核軍縮に向けた取組みのあるべき方向性について、「私たちは核兵器を保有する諸国間の信頼醸成を促進するとともに、法的拘束力を持って検証できる国際ルールを策定し、それぞれの地域が置かれている安全保障環境を反映した議論を展開していく必要があります。」と自らの信念を語った。 

2010年5月の核不拡散条約(NPT)運用検討会議で議長を務めるフィリピンのリブラン・カバクチュラン駐アラブ首長国連邦大使は、広島に本拠を持つ日刊紙『中国新聞』の取材に対して、「NPT運用検討会議の成功には、政治的な意志とリーダーシップが必要です。私はその機運が高まっていることを嬉しく思います。」と、NPT運用検討会議の行方について前向きな見通しを示した。 

カバクチュラン大使はとりわけ、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を追求するオバマ大統領について「大統領の意欲は、NPT運用検討会議への追い風となっている。」と高く評価した。 

また同時に、カバクチュラン大使は、過去のNPT運用検討会議での合意事項が進展していない現状が「締約国の間で不満を招いている」と指摘し、来年の会議ではNPTの3分野(核軍縮、不拡散、原子力の平和利用)全てにおいて議論を進展させる必要性を強調した。 

それらの合意事項には、「中東非大量破壊兵器地帯」の創設や、「核兵器保有国による、核兵器廃絶の明確な約束」を含む13項目の核軍縮措置が含まれる。 

新潟会議では、来年5月の核不拡散条約(NPT)運用検討会議の展望の他にも、朝鮮半島の非核化から軍縮におけるメディアや市民社会の役割まで、幅広い話題について協議が行われた。 

北朝鮮 

中国政府代表者は、現在進められている朝鮮半島の非核化に向けた外交努力について言及し、「中国の役割に注目するというよりも、むしろ米国、韓国、日本、中国、ロシア間の共同努力によって(朝鮮半島の非核化を)目指すべきです。」と語った。 

「中国はこれまでも、そしてこれからも(半島の非核化という)目標達成に向けた役割を果たしていきます。しかし、他の6カ国協議参加国の重要性や米国との直接対話を望む朝鮮民主主義人民共和国の希望についても十分考慮しなければなりません。」と中国外交部軍備管理軍縮局の江映峰副処長は語った。 

朝鮮民主主義人民共和国は北朝鮮の正式名称である。 

核拡散防止に取り組むカザフスタンのカナット・B・サウダバエフ国務長官は、基調講演の中で、「核兵器保有国は、核兵器削減に取り組むことによって、核廃絶に向けた取組みの手本を示さなければなりません。」と語った。 

サウダバエフ国務長官は、カザフスタンがかつて旧ソビエト連邦の構成国であった過去に言及し、「我が国はソ連時代に繰り返し行われた核実験により深刻な被害を受けました。私たちはその経験から自主的に核廃絶に向けた道を歩き始めたのです。核兵器保有国は、核軍縮に取組むことで、率先して手本を示さなければなりません。」と会場の参加者に訴えた。 

核の傘 

日本共産党の日刊紙「赤旗」によると、今回の軍縮会議では、「核の傘」の問題についても協議が行われた。日本は、米国の「核の傘」による安全保障上の保護を受けている。 

川口元外相は、「北朝鮮の『深刻な脅威』に直面している日韓両国が、自国の安全を不安定化させることなしに、どのように『核の傘』の役割を減らせるだろうか」と発言した。 

川口元外相は、核抑止をなくすのに資する条件として、安全保障情勢の好転と核兵器以外の兵器への依存等を挙げ、それらが達成されるまでは「核の傘」が必要であるとの見解を述べた。 

ニュージーランドの市民団体の代表からは、「非核保有国に対して核攻撃を行わない」とする「消極的安全保障」に法的拘束力を持たせ、「核の傘」から離脱すべきだとの発言があった。 

同代表は参考事例として、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間でも、ベルギーやイタリアなどの国々が、非核ニュージーランドのように「核の傘」からの離脱を図りつつある現状を指摘した。 

今回国連軍縮会議を初めてホストした新潟市は、第二次世界大戦末期、広島、長崎、小倉と並んで米軍による核爆弾投下候補地となっていた都市である。国連軍縮会議はこれまで、京都市で6回、世界初の原爆投下地である広島市で3回、札幌市で3回、長崎市で2回、仙台市、秋田市、金沢市、大阪市、横浜市及びさいたま市で各1回開催されている。 

篠田昭新潟市市長は、オバマ大統領が核廃絶を国家目標として宣言した後のタイミングで新潟市が今回の国連軍縮会議の会場となったことに満足の意を表明し、「今この時期に、新潟の地においてこの問題を協議できることは意義深いことです。」と述べた。 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

関連記事: 
|軍縮|エジプト、米国の「核の傘」を拒絶する

│タジキスタン│古きよきソビエト時代を懐かしむ

【パミール山脈IPS=ゾルタン・ドゥジジン】

ソ連の崩壊によって、タジキスタン東部は忘れされられた土地になった。ソ連のなかでもっとも貧しい共和国から、世界でもっとも貧しい国のひとつになってしまったのである。独立国家になったことで、国家所有の農場や灌漑施設、鉱山、交通網、エネルギー工場は失われ、人々はふたたび遊牧生活を余儀なくされている。 

東部のパミール高原があるゴルノ・バダクサン県は、国の半分の土地を占めているにもかかわらず、人口はわずか3%程度。 

パミール高原は、19世紀には「世界の屋根」と呼ばれていた。かつて、シルクロードを利用する商人たちが通過し、のちには、この地をめぐって地政学的な角逐を繰り広げるロシアと英国のスパイたちが通り過ぎていった。

 パミール高原を通っている唯一の道路は、1930年代初頭にソ連軍が建設したパミール・ハイウェイである。この道路は現在かなり老朽化が進み、使っているのは、アフガン北部からケシやヘロインを運ぶ業者ぐらい。なかには、かつてのシルクロードを「ケシ・ハイウェイ」と呼ぶ者もいるぐらいだ。 

半遊牧民生活をしているアジズさんは語る――「ソ連時代にはいろんな食べ物が店にあったし、燃料も安かったし、バスや道路の状況もよかった」。傍らでは、アジズさんの妻が、ヤクのミルクで作ったバターとヨーグルトをごく粗末な機械を回しながら作っていた。 

スターリンが好きだったってわけじゃない。でも、みんなソ連時代を懐かしんでるんだ。信仰の自由はなかったけど、食べ物と仕事はあった」。 

遊牧民の生活が営めるのは夏だけだ。寒い冬には、近隣の街に退避して暮らす。しかし、この間買うことができるのは、法外な値段で売っている輸入のクッキー、パン、チョコレートバー、魚や肉の缶詰(たいていは賞味期限切れ)ぐらいだ。 

エネルギー不足も深刻である。そのために、運営できなくなる学校や病院も相次いでいる。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan 

|パキスタン|「タリバン掃討作戦は効果がでてきている」とUAE紙

0

【ドバイWAM】

「内戦が続くパキスタン北西辺境州に130万人のパキスタン難民が帰還を果たしたことは、国軍による対タリバン軍事掃討作戦が効果を挙げている証拠である。」とアラブ首長国連邦(UAE)の主要日刊紙は、本日の論説で報じた。 
ドバイに本部を置く『ガルフ・ニュース(Gulf News)』紙は続けて「総数230万人にのぼる難民が来年の3月までに同地域へ帰還予定で、それによって近年で最大の国内難民を出した内戦に一区切りがつくこととなる。」 

「より重要なことは、国軍が治安を回復する中で難民の軍への信頼が回復されつつあることである。そうしたなかユースフ・ラザー・ギーラーニーパキスタン首相は、タリバン民兵に対する作戦は成功したと宣言した。」 

「タリバン勢力の軍事力及び影響力は、国軍による継続的な攻撃のみならず地域住民の抵抗に晒される中で徐々に弱まりつつある。」

 「パキスタン人タリバングループTTP(Tehrik-e-Taliban)の幹部スポークスマンであるマウルヴィ・オマールの逮捕はパキスタン政府にとって重要な前進となったほか、TTPリーダーのバイツッラー・メスード師死亡報道のあと、次席指導者のファキール・モハンマド氏が新指導者を名乗るなどTTP内部で対立が深まっているようである。また、タリバン民兵たちの集団投降も相次いでいる。」 

ガルフ・ニュース氏は論説の最後に「パキスタン政府は軍事面に留まらず良い統治(good governance)の面でも取り組みことで、これらの有利な状況を活かしていかなければならない。」と締めくくった。 

翻訳=戸田千鶴/IPS Japan浅霧勝浩

アフリカが世界最大の非核大陸となる

【カイロIDN-InDepth News=ファリード・マハディ】

アフリカは面積、人口においてアジアに次ぐ世界第二の大陸であるが、今や域内に約10億人が居住する53カ国からなる世界最大の非核大陸となった。 

このニュースは、イランの核開発疑惑の動向に目を奪われている殆どの主流メディアに注目されることはなかったが、世界最大級のウラニウム産出量を誇る地域の非核化に関する問題であり、重要な出来事である。 

事実、国際原子力機関(IAEA)とアフリカ連合(AU)は8月中旬、欧州及び中国資本の多国籍企業がアフリカにおいて合法及び非合法な手段でウラニウム採掘を盛んに行っているとの報道が飛び交う中、アフリカ非核地帯化条約(NWFZ:通称ペリンダバ条約)の発効を発表した。これにより、南半球の全地域が非核地帯となった。

 ペリンダバ条約の発効に向けた手順は、ブルンジが7月15日に28番目の批准国となったことで完了した。因みにこの条約の最初の批准国はアルジェリアとブルキナファソで、条約署名の2年後にあたる1998年に批准している。 

ペリンダバ条約は、核兵器の不拡散を検証するため、全ての締結国に対してIAEAとの「包括的保障措置協定」を締結することを義務付けている。これらの協定は核不拡散条約(NPT)に関連して締結が義務付けられている諸協定に相当するものである。 

また、同条約は締結国に対して「核物質及び核関連施設や機器を盗難や不正使用から防護するために、最高水準のセキュリティーを適用すること。また、非核地帯内の核施設に対する武力攻撃の禁止」を義務付けている。 


非核兵器地帯 

ペリンダバ条約の発効によってアフリカ大陸は正式に非核兵器地帯と宣言された。1995年6月にヨハネスブルクとペリンダバで草案が作成され、1996年4月11日にカイロで署名開放された(アフリカ諸国42カ国が調印。28か国の批准が発効要件とされた:IPSJ)。この条約の名称は南アフリカ共和国(南ア)プレトリアの西に位置するハートビースプールト・ダム近郊にあるペリンダバ原子力研究所に因んで付けられたものである。 

ペリンダバ原子力研究所は、南ア原子力公社が運営する同国の主要な核研究センターで、1970年代には南ア政府による核爆弾の開発と製造、それに続く備蓄の舞台となった場所である。 

モハメド・エルバラダイIAEA事務局長は、「アフリカ非核地帯は、ラテンアメリカ、カリブ海地域、東南アジア、南太平洋、中央アジアにおける非核地帯に準じる重要な地域レベルの信頼醸成、安全保障措置であり、核兵器のない世界に向けた我々の努力を後押しするものである。」と宣言した。 

またエルバラダイ氏は、「ペリンダバ条約が核科学技術を平和目的のために活用することを支持していることを歓迎し、そのような核技術の活用がアフリカ大陸の経済・社会開発に寄与すると確信している。」と語った。 

非核化への遠き道のり 

アフリカを非核地帯とする試みの起源は、1964年7月17日から21日にカイロで開催された当時のアフリカ統一機構(OAU)(2002年にアフリカ連合に発展改組:IPSJ)首脳会議に遡る。その際、加盟国首脳達はアフリカ非核地帯を設立することを決定した。 

カイロに集ったアフリカ各国の首脳達は、「国際連合主催の下で締結される国際合意を通じて核兵器の製造及び同技術を駆使する能力を取得しないことを約束する」用意があるとの宣言を行った。 

その際、アフリカ各国の首脳達は、自らの立場を「非核地帯が、核兵器の水平的拡散(非核国が核兵器開発に乗り出すことによって核保有国が増えること)及び垂直的拡散(核保有国が自分らの安全保障戦略で核兵器に対する依存度を高めながら核戦力の質的・量的増強を図ること)を防止する最も効果的な手段のひとつである」とした1975年12月11日の国連総会決議をはじめとする全ての関連合意に基づくものとした。 

アフリカ諸国の首脳達はまた、「核兵器のない世界構築という究極の目標達成に向けてあらゆる手段を講じる必要があり、全ての国々がその目標に向けて貢献する義務がある」との信念を強調した。 

彼らはまた、「アフリカの非核化は、核不拡散管理体制を強化し、核エネルギーの平和的利用における国際協力を促進するとともに、包括的かつ完全な軍縮に向けた歩みを促し、地域及び国際社会の平和と安全保障を向上させることと確信している」との声明を述べた。 

ペリンダバ条約の発表に際して、アフリカ諸国の首脳達は「非核地帯化条約がアフリカ諸国を核攻撃から守る」と確信している点を強調した。 

また同条約は、締結国に核廃棄物の投棄を禁じていることから、アフリカを放射線廃棄物やその他放射性物質による環境汚染から保護することになる。 

しかしながら、アフリカ諸国の首脳達は同時に、NPT第4条を厳格に順守していく意向を表明した。 

平和的利用が絶対条件 

NPT第4条は、「全ての締結国が等しく、核エネルギーを平和目的のために開発、研究、及び生成、活用する不可譲の権利を有している」ことを認めている。 

同条項はまた、締約国が原子力の平和的利用のため設備、資材並びに科学的及び技術的情報を最大限交換することを不可譲の権利として認めている。 

また、カイロに集ったアフリカ各国の首脳達は、アフリカ諸国の持続可能な社会経済開発のために、平和利用を目的とした核エネルギーの開発と実用的な適用を目的とした地域協力を推進していく決意である旨を強調した。 

豊富なウラニウム資源と核廃棄物 

アフリカは世界有数の豊富なウラニウム鉱床を有する地域である。多くの工業先進国がアフリカの鉱物資源一般に、特にウラニウム資源に深く依存している。例えばフランスの場合、国内58か所の原子力発電所を稼働し続けるため、ニジェールのウラニウム資源に完全に依存している。 

アフリカにおける他のウラニウム産出国は、アルジェリア、ボツワナ、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン、ガンビア、ギニア、マラウィ、モロッコ、ナミビア、タンザニア、ザンビアである。 

しかしながら、アフリカはそれと同時に、東南アジアと並んで世界最大の放射能性及び毒性廃棄物の投棄地域と報道されている。 

ソマリアは核廃棄物の主な投棄地域で、同国近海の海賊活動もこの不法活動に関連しているとの疑惑も報じられている。 

アジア、ラテンアメリカにも広がる非核化地帯 

事実、類似した非核化条約が南アメリカ(トラテロルコ条約)、南太平洋(ラトロンガ条約)、東南アジア(バンコク条約)及び南極(アトランティック条約)においても発効している。 

さらに中央アジアに非核兵器地帯を創設するセメイ条約(カザフスタンのセメイの旧名はセミパラチンスク:IPSJ)が、今年の3月21日に発効した。この条約にはカザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの五カ国が加盟している。 

セメイ条約(中央アジア非核地帯条約)は、中央アジアの旧ソ連加盟諸国で構成されたこの種のものとしては最初のものであり、北半球における最初の非核地帯である。また同条約には中央アジアならではの環境問題を取り扱った項目が含まれている。 

これら中央アジアの5カ国には、旧ソ連時代に核兵器関連施設が建設され、いずれの国も当時の核兵器製造や実験を起因とする深刻な環境被害に直面している。 

アフリカ非核地帯化条約と同様、中央アジア非核地帯条約も締結国による、域内における核爆発装置の開発、製造、貯蔵、取得、及び所有を禁止している。 

このように地域レベルで発効に漕ぎつけている非核化条約の動きは、核兵器の廃絶を目指して活動を展開している世界の市民社会にとっての一里塚となっている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事: 
|軍縮|エジプト、米国の「核の傘」を拒絶する

エジプト、米国の「核の傘」を拒絶する

0

【カイロIDN-InDepth News=ファリード・マハディ】

今週開催された米国・エジプト首脳会談においては、中東をめぐる米国の「核の傘」という亡霊がつきまとった。5年ぶりとなるエジプトのホスニ・ムバラク大統領の訪米に向けた準備段階で、同大統領と側近の高官は、中東包括和平案の一部として米国政府が核攻撃から中東地域を守ることを提案しているとする疑惑を、きっぱりと否定していた。 

米国による「核の傘」の起源は米ソ冷戦時代に遡り、通常、日本、韓国、欧州の大半、トルコ、カナダ、オーストラリア等の核兵器を持たない国々との安全保障同盟に用いられるものである。また、こうした同盟国の一部にとって、米国の「核の傘」は、自前の核兵器取得に代わる選択肢でもあった。

Hosni Mubarak and Barak Obama/ IPS
Hosni Mubarak and Barak Obama/ IPS


消息筋によると、ムバラク大統領はオバマ大統領との8月18日の首脳会談に際して、「中東に必要なものは平和、安全、安定と開発であり、核兵器ではありません。」と主張した。 

ムバラク大統領はそうすることで、1974年以来エジプト政府が国是としている「中東非核地帯」設立構想をあくまでも推進する決意であることを改めて断言した。 

またムバラク大統領は、首脳会談に先立つ8月17日、エジプトの主要日刊紙アル・アハラムとの単独インタビューに答え、「エジプトは中東湾岸地域の防衛を想定した米国の『核の傘』には決して与しません。」と語った。 

「米国の『核の傘』を受け入れることは、エジプト国内に外国軍や軍事専門家の駐留を認めることを示唆しかねず、また、中東地域における核保有国の存在について暗黙の了解を与えることになりかねない。従って、エジプトはそのどちらも受け入れるわけにはいかないのです。」とムバラク大統領は語った。 

ムバラク大統領は、「中東地域には、たとえそれがイランであれイスラエルであれ、核保有国は必要ありません。中東地域に必要なものは、平和と安心であり、また、安定と開発なのです。」と断言した。「いずれにしても、米国政府からそのような提案(核の傘の提供)に関する正式な連絡は受けていません。」と付け加えた。 

同日、エジプト大統領府のスレイマン・アワド報道官も、米国の「核の傘」について論評し、「『核の傘』は、米国の防衛政策の一部であり、この問題が取り沙汰されるのは今回が初めてではありません。ただし今回の場合、問題が中東との関連で取り沙汰されている点は新しいと言えます。」と語った。 

事実、中印国境紛争が最も緊迫した時期(ちょうど米国が1962年10月のキューバ危機に直面した時期と重なっていた)、ジョン・F・ケネディ政権は、中国から自国を防衛するため米国の軍事支援を求めざるを得ないと考えていた当時のインド政府に対して、非公式に米国の「核の傘」の提供を申し出たことがある。 

アワド報道官は、現在浮上している中東地域に向けられた米国の「核の傘」疑惑についてコメントし、「そのようなものは形式においても内容においても全く承認できない。今は米国の『核の傘』疑惑について話題にするよりも、むしろイランの核開発問題について、欧米諸国・イラン双方による柔軟性を備えた対話の精神を基調として、取り組むべきです。」と語った。 

アワド報道官はまた、「イランは、核開発計画が平和的利用を目的としたものであることを証明できる限り、他の核不拡散条約(NPT)締結国と同様、核エネルギーの平和的から恩恵を受ける権利があります。」と付け加えた。 

「このイランに対する取り組みには、2重基準との誹りをかわすためにも、同時並行で、イスラエルの核能力の実態解明に向けた真剣な取り組みが伴わなければなりません。」とアワド報道官は強調した。(エジプト政府は、核兵器保有国のイスラエルに対し、NPTに調印し、国際原子力機関の監視を受けるよう国際社会が圧力をかけることを求めている:IPSJ) 

これら一連のムバラク大統領の報道官による発言は、「中東非核地帯」設立を目指して35年に亘ってエジプト政府が取り組んできた方針に一致するものである。ムバラク大統領は、1990年4月、このイシニアチブを更に推し進めるべく、守備範囲を更に拡大した「大量破壊兵器フリーゾーン」構想を新たに提案している。 

このエジプトの取り組みは殆どのアラブ諸国の支持を獲得し、最近でも22カ国のアラブ諸国で構成するアラブ連盟のアムレ・ムサ事務局長がこのイシニアチブの正当性を改めて是認する発言を行った。 

ムサ事務局長は7月5日、「中東の非核化は必ず実現しなければならない問題です。」と宣言した。 

「中東非核地帯」構想へのアラブ諸国の支持は、米国、イスラエル、欧州諸国がイランの核兵器開発疑惑を問題視するようになってから、特に湾岸地域のアラブ諸国において益々強まっている。 

イランはこうした欧米諸国からの嫌疑を全面的に否定し、同国の核開発プログラムはあくまでも平和的利用と原子力発電を目的としたものであると主張している。一方、米国、イスラエル、欧州諸国は、イランに核兵器開発を許さないとして一歩も譲らない構えである。 

このような欧米諸国の強硬姿勢は、イランの核武装は望まないものの、その他の事態収拾策を望むロシア、中国の姿勢とは対照的である。アラブ諸国も、欧米諸国が主張するイランの核兵器開発意図について、どちらかと言えば疑念を抱いている。 

欧米の見方については国際原子力機関(IAEA)の天野之弥新事務局長(12月1日就任予定)が暗に異議を唱えている。天野氏は、新事務局長選出後の7月3日、記者団に対して「イランが核兵器を開発する能力を取得しようと試みているとの動かしがたい証拠は見当たりません。」と語った。 

ロイターのシルヴィア・ウェスタール記者による「イランが核武装を試みているとの見解をお持ちですか?」との質問に対して、ベテラン外交官で核不拡散問題の上級専門家でもある天野氏は、「この問題に関するIAEAの公式記録を見ても、そのような疑惑を裏付ける証拠は一切見当たりません。」と答えた。 

2日後の7月5日、アラブ連盟のムサ事務局長は、クウェートの日刊紙『アル・アンバ』との単独インタビューで、「イランは中東地域にとって現実的な脅威か?」との質問に対して、「イランが軍事目的の核開発計画を行っていると証明できる書類化された証拠は何もありません。」と答えた。 

「(中東には)核兵器を保有する国は1つしかありません。それはイスラエルです。」と、ムサ事務局長は強調した。 

イスラエルは60年代半ばに核兵器開発を開始したが、同国の歴代政府は、核兵器の保有に関して、意図的に肯定もしなければ否定もしない政策をとってきた。 

それにも関わらず、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、イスラエルを2009年1月現在における核弾頭配備数で世界第6位の核兵器大国とランク付けしている。 

SIPRIのデータによると、イスラエルが配備している核弾頭数は、安保理常任理事国の5大国(米国、ロシア、英国、フランス、中国)に次ぐ80基で、インド(60~70基)、パキスタン(60基)の配備数を上回っている。 

またSIPRIによると、北朝鮮は、使用可能な核兵器を保有しているかどうかについては不明だが、既に若干数の核弾頭を組み立てるには十分なプルトニウムを生成していると考えられている。 

イスラエルは、米国、ロシア、英国、フランス、中国と異なり、1968年に署名開放された核不拡散条約(NPT)に加盟していない。 

しかしながら、イスラエルは、今年1月の時点で総計23,300発超と見積られている世界の核弾頭を保有している8カ国の一角を構成している。このSIPRI発表の核弾頭数には、「即時使用可能核弾頭」、「非現役予備核弾頭」、活性及び不活性の「備蓄核弾頭」、及び解体待ちの「退役核弾頭」が含まれている。 

「インド、パキスタン両国も、イスラエル同様、NPT未加盟の事実上の核兵器保有国であり、引き続き、核弾頭を搭載可能な新型ミサイルシステムの開発と核分裂性物質の生成能力強化に取り組んでいる。」とSIPRIは報告している。 

しかし、SIPRI発表の核弾頭数については、疑問を呈する声も上がっている。例えば、ジミー・カーター元米国大統領は、「イスラエルは150基ないしそれを上回る数の核弾頭を保有している。」と主張している。 

エジプトの高名なジャーナリスト、作家、政治評論家で、故ガマール・アブドゥン・ナセル、故アンワル・サダト両大統領の側近として顧問を務めたモハメド・ハサネイン・ヘイカル氏は、イスラエルは200基の核弾頭を保有していると語っている。 

米国に本拠を置く軍備管理協会(ACA)は、効果的な軍備管理政策に対する公衆の理解と支援を促進する目的で1971年に設立された無党派のシンクタンクであるが、イスラエルの保有核弾頭数は75基から200基と見積もっている。 

一方、エジプト軍諜報筋はイスラエルが保有する核弾頭数を230基から250基の間と見積もっている。 

イスラエル政府は、これらの報告や数値に関して否定(も肯定も)していない。 

アラブ諸国の支持を集めているエジプトの中東非核地帯化イシニアチブは、イスラエルが域内唯一の核兵器保有国として、中東地域全体の脅威となっている現実を踏まえたものである。 

匿名を条件に記者の取材に応じたエジプト政府高官は、「我々は常々、中東地域で唯一の明らかな核兵器国(イスラエル)を特別扱いしている米国には、未だ核兵器の開発をしていないイランに対して、核開発計画を中止するよう要求する正当性は持ち合わせていないと主張してきた。」と語った。 

また同政府高官は、「ムバラク大統領はオバマ大統領との会談の席でこの議論を持ち出しました。エジプトは、もし米国がイスラエルに圧力をかけて核兵器廃棄に持ち込んでいたならば、イランの潜在的な核開発の野望を止めさせる上で、正当かつ強固な立場を構築できていただろうと常々明言してきたのです。」と語った。 

また同政府高官は、ムサ事務局長が最近述べた声明に言及した。「中東の非核化は必ず実現しなければならない問題です。イスラエルの核兵器の存在は、核不拡散の原則を破り、非核保有国を核開発に走らせる原因となっているのです。」 

エジプト外務省のハッサム・ザキ報道官は今週初旬に行った公式声明の中で、「エジプトは、政府のあらゆるレベルで、また、国際会議などあらゆる機会を捉えて『中東地域は非核兵器地帯と宣言されるべき』と一貫して論じてきました。」と語った。 

ザキ報道官は、米国・エジプト首脳会談は、核軍縮を協議するのに相応しいタイミングで開催された点を指摘した。オバマ大統領は4月5日、チェコ共和国の首都プラハで行った演説で、「核兵器のない世界」の実現に向けて取り組んでいくことを誓った。 

7月6日、米国のオバマ大統領は、ロシアのメドベージェフ大統領との間に、向こう7年以内に双方の備蓄核兵器の一部削減を目指した共同文書に署名した。 

このモスクワ合意は、大陸間弾道ミサイルと潜水艦発射ミサイル双方を含む戦略核弾頭を削減対象としたもので、今年12月に失効する第1次戦略兵器削減条約(SART1)の後継条約について骨子を合意したものである。 

米国・エジプト首脳会談は、また、核兵器廃絶に向けた重要なステップとして世界的な核軍縮キャンペーンが展開されている最中に開催された。 

核兵器廃絶を目指す世界的な核軍縮運動「グローバルゼロ(Global Zero)」キャンペーンは、政治や軍事、経済、宗教、市民活動など、様々な政治路線を横断的に網羅した有識者およそ100人の署名人によって、昨年12月にパリで創設された。 

このキャンペーンは、「グローバルゼロ宣言」の中で運動の目的を、「2大核兵器大国(世界の核兵器の95%を保有する米国とロシア)が、段階的かつ検証を伴う削減システムの確立を通じて、世界の核兵器廃絶に向けた包括的合意を実現できるよう運動を通じて支えていくこと。」としている。 

現在グローバルゼロでは、段階を踏んだ核廃絶を実現していくための政策立案を進めており、世界的なメディア、オンラインコミュニケーション、市民社会組織を通じた幅広い一般民衆による支持態勢の構築に取組んでいる。 

グローバルゼロの署名人は、2010年上旬に数百人の各界の指導者を集めて、同キャンペーンのヨルダンのヌール王妃が「核の狂気(the nuclear folly)」と呼ぶ「核兵器」の廃絶をテーマとしたグローバルゼロ世界サミットを開催すると発表している。(原文へ) 
*編集:ラメシュ・ジャウラ

翻訳=IPS Japan