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女性をとりまく深刻な人権侵害の実態が明らかになる

【ベルリンIDN=ユッタ・ヴォルフ】

新たに発表された女性・女児の保護状況に関する報告書によると、性的暴行、差別、人身売買、性的搾取等の人権侵害に晒されるリスクが「極めて高い」国は、全世界197カ国のうち、実に40%以上に及んでいる。

リスク分析を専門とするメイプルクロフト社が出した「女性・女児の人権インデックス(WGRI)」によると、「極めて高い」に分類された国は80カ国で、その内訳は、サブサハラアフリカ地域の33か国、ほぼ全ての中東諸国、北アフリカ地域、及び多くの新興経済国であった。

 その中で「リスクが最も高い」10カ国は、イラン、スーダン、ソマリア、シリア、コンゴ民主共和国、サウジアラビア、アフガニスタン、ブルンジ、ハイチ、ナイジェリアであった。

一方、対極の「リスクが低い」と分類された国は、デンマーク、ベルギー、スウェーデン、カナダ、ニュージーランドを含む全体の僅か5%であった。しかしながら、これらの国々においてさえも、いわゆる名誉関連の犯罪や強制結婚を含む人権侵害は依然として残っている。

また、経済成長が著しい新興経済国において、女性や女児の人権侵害事件に、現地に進出している多国籍企業が巻き込まれるリスクが高い。それに該当する国々は、ナイジェリア、バングラデシュ、パキスタン、フィリピン、中国、エジプト、メキシコ、ロシア、インドネシア、インド、トルコで、いずれの国もWGRIで「極めて高いリスク」に分類されている。

これらの国々で、治安機関その他の関係者による人権侵害に多国籍企業が巻き込まれるケースとしては、性的暴行、雇用上の差別、児童労働、人身売買と性的搾取が挙げられている。
 
WGRIは、重要な調査結果として、石油掘削事業や鉱山、プランテーションといった価値が高い資産を守るために多国籍企業が雇用した、国の或いは民間の治安要員の行状について、言及している。

英国に本拠を置くメイプルクロフト社は、地下資源が豊富なコンゴ民主共和国(DRC)、コートジボワール、シエラレオーネ、ミャンマーを含む政府の統治体制が脆弱な国において、治安要員による強姦事件が頻発している現状に言及している。

WGRIに5年連続で「極めて高いリスク」とランク付けされた国々においては、多国籍企業が、女性の人権侵害事件に巻き込まれるリスクが特に高い。2011年7月、国連の調査ミッションは、コンゴ民主共和国国軍(FARDC)の兵士たちが、2011年の1月から2月にかけて北キブ州マシシ地方のブシャニ村とカランバヒロ村において、1人の未成年者を含む47人の女性に対して、強姦を含む性的暴行を加えていたことを明らかにした。

伝達環境が整っていないことから、これらの国における性的暴力事件に関する正確な数値を得ることは困難であり、数値があったとしても情報源によって様々である。とはいえ、2011年5月、「アメリカ公衆衛生ジャーナル」は、コンゴ民主共和国(DRC)では毎日1,152人の女性と女児が強姦されていると報告した。一方、国連人口基金(UNFPA)は、DRCで過去5年間に強姦された女性と女児の数を20万人と報告している。

性器切除(FGM)を含む人権侵害に最も晒されやすいのが思春期の少女達である。世界の思春期の少女達が置かれている状況に関するデータを集積したウェブサイト「Girls Discovered」(メイプルクロフト社、ナイキ財団、国連財団が共同開発)の2011年版データによると、サブサハラアフリカの多くの国では、FGMを含む様々なジェンダーに基づく暴力が頻発している。例えば、シエラレオーネ、ソマリア、ギニアといった国では、少女の80%から90%がFGMを経験している。

「男女平等の実現は基本的人権であり、開発において最も重要な部分です。企業は、自らのサプライチェーンを通じて、注意深く人権状況をモニタリングし、そうしたリスクを特定・緩和することで重要な役割を果たすことが可能なのです。また企業は、市民社会や国際機関、各国政府とも積極的に協力して、女性や女児の人権擁護を促進するプロジェクトを支援することもできます。」とメイプルクロフト社の分析官であるシオブハン・トゥオヒースミス氏は語った。

「女性・女児の人権インデックス(WGRI)」は、2011年12月10日の「国際人権デー」に発表される予定の年次報告書「人権リスクアトラス第5版」に用いられている23の指標のうちの一つである。この年次報告書は、メイプルクロフト社が、多国籍企業が事業やサプライチェーンを通じて、人権侵害に関与する潜在的なリスクを監視するツールとして開発したものである。

最新のインデックスを見ると、世界全体では、僅かながら女性と女児を取り巻く状況が改善しているのが分かる。つまり、「極めて高いリスク」と次のランクの「高いリスク」のカテゴリーに分類された国が、昨年は156カ国であったのに対して今年は144カ国と8%減少している。しかし本報告書を担当したリスク分析官によると、これはほんの僅かな改善に過ぎず、女性に対する暴力と差別は、引き続き新興経済国や開発途上国において深刻な問題であり続けている。

翻訳=IPS Japan

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|UAE|「砂漠のスーパースター3D」が初公開される

【アブダビWAM】

UAEで初めての3D作品となる映画「砂漠のスーパースター」がアブダビのシネロイヤルカリディアモールにおいて、シェイク・ディアブ・ビン・サイフ・アルナヒヤン殿下、シェイク・シャクブート・ビン・アルナヒヤーン殿下、モナコ公国のシャーロット王女の臨席を得て上映された。

この作品は11月30日まで毎日、デルマモール並びにシネロイヤルカリディアモールにおいて上映される予定である。

 作品は、ラクダのブリーダーとしても知られるシェイク・ディアブ・ビン・サイード・アルナヒヤン殿下の後援を得て、アル・ダフララクダフェスティバル(Al Dhafra Camel Festival)に参加する同殿下を追って撮影したものである。この35分間に及ぶドキュメンタリー映画は、カナダの映画製作会社「3Dカメラカンパニー」との協力のもと、ドバイを拠点に活動しているピエール・アブ―・チャクラ氏が監督した。

作品は、同フェスティバルの中でも最も重要なラクダ美人コンテスト(Al Dhafra Camel Beauty Pageant )の模様を収録しており観光客に対してUAEの砂漠に長年息づいてきた人々の生活と豊かな文化的伝統を紹介することを目的としている(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

|ウクライナ|戦争は選挙を引き起こし、金融危機は選挙を延期する

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【ブダペストIPS=ゾルタン・ドゥジシン】

グルジアとロシアの戦争はウクライナの政争を触発した。深刻な経済危機の打撃とグルジアとの違法な武器取引問題に直面しているウクライナでは、連立与党の崩壊により、次の選挙への思惑が錯綜している。 

親欧米の民主的なユーシチェンコ大統領の「我々のウクライナ」と、ティモシェンコ首相の勢力との対立が、8月のグルジア紛争以来、和解できない状況になっている。経済危機で早期選挙は保留となったが、大統領は来年の選挙で経済危機の責任を首相に負わせたい。

大統領と首相は1年にわたって権力闘争を続けてきたが、ウクライナは経済危機の影響をもっとも受けた国の一つで、国際通貨基金(IMF)は緊急融資を拡大しており、誰もが経済問題を優先すべきだと思っている。国民の80%は3年間で3度目の選挙に反対で、政治家には経済問題に集中してほしい。 

ティモシェンコ首相がグルジア紛争に沈黙し、黒海でのロシア艦隊の活動制限に反対していることを、次の選挙をにらんでロシアの経済的政治的支援を期待した裏切りだと、ユーシチェンコ大統領側は批判している。大統領はウクライナの自治共和国であるクリミアが次のグルジアになるのではないかと懸念している。 

一方で圧倒的に不人気の大統領は、グルジア支持をあまりに素早く表明してロシアとの不要な緊張をもたらしたと非難されている。大統領はグルジア大統領と個人的に親しい。ウクライナ最大の経済相手国であるロシアは、大統領のNATO寄りの姿勢に怒り、政府がグルジアとの違法武器取引を行っていると非難した。 

ウクライナ政府は武器取引を認めて合法性を主張したが、ウクライナ議会の特別委員会はその武器取引が不当に安価で行われ、大統領が関わっていたと断定した。ユーシチェンコ大統領はウクライナ保安庁(SBU)に武器取引を探っている個人の調査を命じている。 

ユーシチェンコ大統領は、ウクライナとグルジアがNATO加盟できないでいたことがロシアを強気にさせてグルジア紛争を招いたとし、早期に加盟を認めるべきだと主張している。だが12月にブリュッセルで開かれるNATOサミットにおいて、政府や議会が揺れ動いているウクライナが加盟を認められる見込みはない。 

グルジア紛争と経済危機の影響を受けるウクライナについて報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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|アルゼンチン|拉致政治犯の子ども、自らの経験を語る

【ブエノスアイレスIPS=マルセラ・ヴァレンテ】

軍事独裁政権時代(1976-1983)に拉致され行方知れずとなった人々の子どもたちのその後の人生を綴った本De vuelta a casa: Historias de hijos y niertos restituidos(帰宅:発見された子どもおよび孫の話)が11月、アルゼンチンで出版された。 

政治犯収容所で生まれたあるいは幼くして両親と共に拉致された後、子どものいない軍人や警察官夫婦に育てられた10人の心境告白を読めば、何故過去を捨て育ての親に背を向ける者がいる一方で、真実を知り肉親に会ってもなお育ての親の苗字を維持し、依然彼らを父さん、母さんと呼ぶ者がいるのか理解できるだろう。

 同本の著者アナリア・アルジェントは、「行方不明になった子どもたちの捜索を行ってきた人権擁護団体“マヨ広場のお婆さん”の活動は知られているが、我々は今では30歳を超えたこれらの子どもたちの本当の苦しみを理解できなかった。彼らの多くは心に葛藤を抱えており、自らの経験を話すことで解放された」と語る。また、同本により、身元に不安を感じている者も真実究明に乗り出すのではないかと話している。 

「マヨ広場のお婆さん」は、これまでに行方不明の子ども93人を探し出したが、真実を知らずに暮らしている者がなお400人いると予測している。 

両親と共に拉致され、その後軍将校夫婦に育てられたククラディア・ポブレーテは、「亡くなった両親の知り合いから話しを聞いて心の扉が開いた」と語った。しかし、彼女は、自宅軟禁の判決が下った育ての親と今も暮らしている。 

「マヨ広場のお婆さん」は、収容所で生まれ、警察官夫婦に育てられていたレッジャルド・トルサ兄弟の居所を突き止めた。当時10歳であった兄弟は、DNAや精神鑑定、長引く裁判を経験。兄弟の1人マシアスは、当時を振り返り「モルモットのようだった」と言う。彼は今でも育ててくれた女性を母と呼び、彼女のことを幸せな子供時代を過ごさせてくれた「人生の支え」と語っている。 

拉致されたウルグアイの労働組合のリーダー、ホセ・デリアの息子カルロスは、アルゼンチンの海軍大尉に引き取られた。カルロスは、同夫妻にとても可愛がってもらったと話す。今は亡き実父と同じ経済学者となったカルロスは、本当の親族と共に育ての親とも良い関係を維持している。「彼らのしたことは間違っていた。しかし、彼らが私を本当の子どもの様に愛してくれたのも事実だ。私の彼らに対する気持ちは変わらないし、背を向けることはできない」と語っている。 

軍事政権の犠牲となった子供たちの心の葛藤について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 


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凍てついた軍縮交渉再開のために(ジョン・バローズ核政策法律家委員会(LCNP)事務局長)

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【IPSコラム=ジョン・バローズ】

2008年以来、「核兵器なき世界」を実現することがいかに望ましいか、それがいかに必要かということが、とりわけ国連の潘基文事務総長や米国のバラク・オバマ大統領など、多くの人々によって声高に語られてきた。しかし、ジュネーブ軍縮会議(CD)は、こうした明確なレトリックの変化からは超然としており、依然として行き詰まりの中にある。

全会一致ルールによって運営されるこの会議は、すべての核爆発実験を禁止する合意のテキストを1996年に生み出してからは、何の交渉も行ってこなかった。

 何の成果も生み出さないCDに対する忍耐は切れつつある。国連加盟国は、10月の間、ニューヨークの国連本部で総会第一委員会に集い、多国間軍縮をいかに再び前進させるかについて、熱を帯びた実質的な議論を繰り広げてきた。そして、第一委員会は、12月初旬には総会で正式に採択されることになる2本の決議を可決した。これらの決議は、国連の中心的な使命のひとつを追求する責任をもつ機関としてのCDの停滞がもし今後も続くようならば、総会が前面に出るということを示唆している。

可能性のある行動は、国連総会が、CDが何らかの成果を出すまで、CDの外で全会一致ルールによらないプロセスを作り出す、というものである。オーストリア、メキシコ、ノルウェーがそのような提案を第一委員会で行い、過半数ではないがかなりの国からの支持を得た。提案によれば、作業部会が以下のような問題に取り組むことになる。核軍縮と「核兵器なき世界」の実現。非核兵器国に対する核兵器不使用の保証。兵器用核分裂性物質の生産禁止条約(FMCT)の交渉。宇宙の兵器化の防止。

これらテーマのすべてはすでにCDで取り扱われているものだが、65の参加国による作業をたった1ヶ国の反対によって止めてしまえる構造のために、うまく機能しなかった。加盟国の多数―その多くは「南」の諸国だが―は、完全なる核軍縮に関する交渉を優先してきた。しかし、安全保障理事会の五大国(中国、フランス、ロシア、イギリス、アメリカ)はこれを拒否した。1990年代、多数の国々は、軍備管理の歩みを止めないために、「FMCTについては交渉に入り、他の事項については討議に留める」という西側核保有国の立場をしぶしぶ受け入れた。だが、作業は始まらなかった。

パキスタンは、自国の核戦力を拡張する時間を稼ぐために、2009年以来、FMCTの交渉入りを阻止してきた。2000年代中盤には、交渉を止めていたのは米国だった。ジョージ・W・ブッシュ政権が、FMCTは検証不可能であるとの根拠なき立場をとっていた頃のことである。それより以前には、中国とロシアが、宇宙の兵器化防止の問題に関する交渉を同時に開始すべきだと主張して、米国の反対を招いていた。

交渉に成功した多国間軍縮条約の歴史は、「全会一致の罠」にはまらないようにすることの必要性を教えている。1963年の部分的核実験禁止条約(正式名:「大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約」)と1968年の核不拡散条約(NPT)の場合は、核兵器を保有するすべての国家が交渉に参加したり、当初の条約加盟国になったわけではなかった。非参加国も遅れて参加するようになったのである。インドからの強い反対を押し切って1996年の包括的核実験禁止条約を採択したのは国連総会であり、CDではなかった。

[核戦力の]透明性と検証に関する不定期の会議を持つという初めての試みが、五大国によって2009年から始められている。これは歓迎すべき動きである。しかしこれは、将来の核軍縮交渉は、国連の場というよりも、核兵器国によってリードされる可能性を示唆している。これは望ましいことではない。なぜなら、世界的な賛同のみが生み出すことのできる正当性と実効性を欠いたゆるい合意ができるにすぎないからである。全会一致ルールによって麻痺したCDはこれまで15年間も機能してこなかったのだから、国連を中心としたプロセスこそ機能しなくてはならない。

コンセンサス形成に関する柔軟性に加え、同時にひとつ以上の多国間措置に取り組むアプローチが必要である。これが、オーストリア・メキシコ・ノルウェー提案のもうひとつのメリットである。米国とその同盟国は、「核兵器なき世界」の実現は漸進的なアプローチでなければならないとの立場を強固に保ってきた。しかし、FMCT交渉が終わらなければ他の多国間合意に取り組むことはしないと言えば、それは、核兵器の時代を終わらせる決定的な行動を無期限に先送りするということに他ならない。

FMCTの交渉には時間がかかる。発効となればなおさらである。さらに、五大国が現在考えているように、それはたんに将来の兵器用核分裂性物質の生産を禁止するに過ぎない。昔からの核大国である米国、ロシア、英国、フランスにはすでにして大量の兵器級物質の備蓄があり、FMCTの予定するような生産禁止では、これらの国々の軍事的能力にはほとんど何の現実的な効果ももたらさない。

したがって、漸進的なやり方はやめ、統合的かつ同時並行的に複数の軍縮措置に取り組むやり方を採らねばならない。諸国は、核分裂性物質の生産禁止、核兵器の不使用、核兵器の削減に関する同時交渉を行うか、あるいはその準備を進めるべきである。あるいは、それらをひとつの交渉の枠組みの中に包括することである。

もしCDが作業を再開する方途を今後も見出しえないとするならば、国連総会が責任を取り、軍縮への新たな道筋を切り開いていくべきである。(2011) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

※ジョン・バローズ氏は、ニューヨークに本拠を置く核政策法律家委員会(LCNP)の事務局長で、『核の混乱か協力的安全保障か―米国のテロ兵器、グローバル拡散の危機、平和への道筋』(2007年)の共編者。

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|中国|独身者のお見合いパーティーは益々必要となるだろう

【北京IPS=クラリッサ・セバグ・モンテフィオーレ】

1億8千万人の未婚人口を抱え、男女間格差が拡大し続けている中国では、11月11日の「独身デ

―」に合わせて、数万人の独身男女が多彩なお見合いイベントに参加した。しかしこうした活発な婚活イベントの存在自体が、かえって独身者を取り巻く環境が益々複雑で困難になっている中国社会の現状を浮き彫りにしているのかもしれない。

Singles looking for spouses at a match-making party in Shanghai. Credit: Nicola Davison/IPS
Singles looking for spouses at a match-making party in Shanghai. Credit: Nicola Davison/IPS

 中国では日付にある4つの「1」は、独身者を指す一般的な表現で、北京語では「光棍節(bare sticks day)」として知られおり、さらに今年が100年に1度の下二桁に「1」が2つ並ぶことから、特に縁起がよい「スーパー独身デー(11/11/11)」とされた。

上海中心部から西へ30キロの郊外にあるテムズタウン(富裕層向け英国風ニュータウン)では、1万人以上の独身者がお見合いパーティーに参加した。その3分の2は女性が占め、子どもの結婚を熱望する4000人の両親も会場に駆けつけていた。

このイベントを主催した上海結婚仲介協会の代表は、上海日報の取材に対して、「私たちは混乱を避けるため、登録を締め切らなければなりませんでした。」と語った。
 
また上海日報は、「参加者の大半は高学歴・高所得層で、相手にも自身に近い条件を求めたためにこれまで結婚相手を見つけられなかった女性たちである。」と報じた。

人口統計によると、中国は一人っ子政策とそれに伴う歪な出生率のために、2020年までには男性人口が2400万人も女性人口を上回るとみられている。

しかし中国の独身男性の大半は、貧しい農村に暮らしている。これは農村では、農地の労働力として、また両親の老後を世話する存在として、男児が女児よりも重視されているからである。2010年に実施された第6回国勢調査によると、出生時の男女比は女性を100とすると男性が118.6であった。

にもかかわらず、経済的に豊かな都市部においては、独身女性の数が増加している。これは、彼女たちの間で、夫探しよりも自身の職業やライフスタイルを優先する意識が強いからである。

金融の中心地上海では、独身女性の数は、成人女性人口の実に20%に及んでいる。

2010年の人口調査によると、上海における未婚女性の増加率(2.2%)はこの十年間で、未婚男性の増加率(1%)を上回っている。

モダンなライフスタイルにもかかわらず、こうした「剰女(=売れ残り)」(中国で一般に27歳以上の未婚女性を指して使われている侮蔑的な表現)達は、結婚を迫る家族からのプレッシャーに晒されている。また35歳を超える独身女性は、しばしば手に届かない存在という意味で「天高(high as heaven)」と言及されている。

富が成功の基準とされるこの国では、婚活に臨むこうした女性にのしかかるプレッシャーは益々大きなものとなっている。例えば、女性にアパートや車が提供できないような男性は、結婚相手としての候補にすらならないのである。

主催者の話によると、先述のテムズタウンのお見合いパーティーに参加していた女性で、最も多い年齢層は30歳から35歳であった。

「私は運命を信じているの。できるだけ早く私に合った運命の人と巡り合いたいわ。このイベントはそういった意味で私にとってはチャンスなの。」と劉さん(24歳の)は語った。彼女は「剰女」にならないように向こう数年で夫を探し当てたいと考えている。

「結婚へのプレッシャーは、両親からのものなの。今は、ブラインドデートが最も手っ取り早く効率的に男性に会う方法だわ。」と劉さんは語った。

一方北京では、2000人を上回る独身者が、ジェネリックシティセンター内の大きな部屋で、中国最大のオンラインデート運営会社「Jiayuan.com」(登録会員数4700万人)が主催したお見合いイベントに参加した。会場では、参加者をリラックスした雰囲気に和ませるプログラムとして『3分間スピードデート』や『ギネス世界記録、最も長いキスリレー』等が行われた。

主催者のQu Wei副社長は会場でIPSの取材に応じ、「今日では、多くの剰男・剰女が、家族や友人、社会からのプレッシャーにストレスを感じて暮らしています。参加者の多くは忙しすぎて、普段の生活の中で異性と出会う機会がないのです。そこで我々がカジュアルな雰囲気の中でこうした独身者同士が出会える機会を提供しているのです。」と語った。

粋なスタイルで参加していたキャリアウーマンの劉さん(33歳)は、来て見たもののあまり期待はしていないと語った。

「もしこれからデートするとしたら結婚を前提にしたものとなるでしょ。とりあえず参加してみたけれど、あまり過剰な期待はしていないわ。だって、悪い風評もたくさん聞いていますから。」

「私は30代の人間的に円熟した、生活が安定した男性を探しているの。最低でも専門学校を卒業していて、まともな経済基盤を備えている人。外見は気にしないわ。」

中国人民大学人口研究所長の段成荣教授は、既に2億人近くに達している中国の独身者人口は、さらに増加し続ける勢いだと指摘した上で、「将来、中国に独身者がずっと増えるというのは事実です。その最大要因は主に経済的なものといえるでしょう。今日、女性は、結婚の条件として、男性が既に家を持っていることを期待します。しかし一方で、そうしたプレッシャーには限界もあります。なぜなら、女性も、持ち家付の男性が見つからないといって永遠に独身を通すわけにもいかないわけですから。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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【カンパラIPS/SNS=モーゼス・セルワギ】

ここは東アフリカのウガンダにある病院。ここでは、プライドと自尊心を喪失し、深いトラウマに苛まれている男性のレイプ被害者達が治療を受けている。彼らは、自らの身に降りかかったこの恐ろしい犯罪について、率直にその時の経験を語ってくれた。

John is one of the victims of male rape in the Democratic Republic of Congo who was brave enough to speak out about his horrifying experiences. Credit: Moses Seruwagi
John is one of the victims of male rape in the Democratic Republic of Congo who was brave enough to speak out about his horrifying experiences. Credit: Moses Seruwagi

「以前は、レイプというと被害者は女性のみだと思っていました。今となっては、私は自分自身が分からなくなってしまいました。肛門と膀胱に常に痛みを感じますし、特に膀胱は水が内部に溜まって膨れ上がっているように感じます。自分がもはや男性だとは思えないのです。自分が将来、子どもを儲けるかどうかも分からないのです。」と、コンゴ民主共和国(DRC)から逃れてきた27歳の難民男性(ジョン=仮名)は語った。彼は、内戦や部族間闘争が続くアフリカ大陸各地で数千人規模に及ぶと考えられている男性のレイプ被害者の一人である。

 2009年1月14日、ローラン・ヌクンダ司令官に忠誠を誓う反政府勢力(人民防衛国民会議:CNDP)がコンゴ民主共和国北キブ州のジョムバ村を襲撃した。そこで6人の少年を含み10人の村人を拉致し、略奪行為を強制したのち、ビルンガ国立公園のジャングルの中にある基地に連れ去った。ジョンはその際に拉致された少年の一人である。

「私たちは9日間捕らえられていました。その時、武装勢力の指揮官が私と性交渉したいと言い出したのです。私は何を言っているのか理解できませんでした。すると指揮官は私を縛り上げるように兵士に命令し私をレイプしたのです。そのあと、9人の兵士が入れ替わり立ち替わり私をレイプしました。私の下半身は血まみれになり、ショックで意識を失いました。こうした行為が9日間にわたって繰り返されたのです。他の拉致された人たちの運命も同じでした。そしてこの虐待で少年の一人は死んでしまいました。」とジョンは語った。

それから2年経過し、ジョンは数十人の男女レイプ被害者とともに、ウガンダの首都カンパラにある難民法プロジェクト(RLP)と呼ばれるトラウマカウンセリングセンターで治療を受けている。彼らは、DRC、スーダン、ソマリア、エチオピア、エリトレア、ブルンジなどアフリカ各地の紛争を抱えた国々より逃れてきたレイプ被害者である。

RLPは10年前に開始されたウガンダの名門校マケレレ大学法学部による福祉活動で、スタッフがレイプ被害者の治療と精神面のケアを行っている。トラウマカウンセリングセンターはオールドカンパラと呼ばれる市北部の丘の上にあるコロニアルスタイルの住居用建物にあるが、地元ウガンダではその存在がほとんど知られていないのがユニークな点である。

男性のレイプ被害者のケアを担当しているRLPのサロメ・アティム氏は、今年初めから受け入れた男性のレイプ被害者のケースが約30件、主に紛争地帯から逃れてきた人達だったと語った。「彼らは自らの経験について話をしてくれた数少ない人たちです。ずっと多くの被害者が重い口を閉ざしたまま苦しんでいるのです。」
 
犠牲者の多くは自分たちを助けようとしてくれている医者や医療従事者に同性愛者ではないかとのレッテルを貼られるのを恐れてレイプ体験について語ろうとはしない。例えばソマリアのようなイスラム教国におけるレイプ被害者は、社会から犯罪者としてのレッテルを貼られるのを恐れてしばしば自身の経験について語るのを拒否する傾向にある。

「多くのアフリカ社会では同性愛の問題はタブー視されているため、被害者のジレンマをより深刻にしています。しかし、カウンセリングの結果、中には自らの経験について話をしようと考える犠牲者もいるのです。」とアティム氏は語った。

「一般に同性愛に対する認識が低く、同性愛者の話は聞こうとしない傾向があります。また、男性同士の性交は一般に犠牲者が同意の上の行為だと考えられがちなのです。また彼らは病院に治療にいくと医者から『それではあなたは同性愛者なのですね。』と声をかけられさらに傷つくことになるのです。だから彼らは重い口を閉ざしてしまう。私たちは時間をかけて彼らが自らの経験について話せるようになるようにカウンセリングしているのです。」とアティム氏は語った。

アティム氏の患者(ピエール=仮名)はDRCのブカブ市の学生だった。しかし2004年のある日、彼の一家が住む地域を支配しようとしていた多くの民兵組織の内の一つが、彼の自宅を襲撃し、彼と父親、そして兄弟が民兵に輪姦された。

「兵士の制服を着た一団が私の家に入ってきました。彼らは父の手足を縛りあげました。彼らはまた、兄の服を脱がし、私に兄と性交するよう命令したのです。私は拒否しました。」とピエールは当時の状況を思い出しながら語っているうちに泣き崩れた。

アティム氏に支えられて気持ちを持ち直したピエールは、「彼らは私の服を脱がすと、私の性器を小枝の間に挟み、繰り返し叩きつけました。さらに私の両足を押し広げると兵士が一人づつ抑えつけた体勢で、残りの兵士が入れ替わり立ち替わりレイプしていきました。」と語った。

アティム氏によると、ピエールはRLPに入ったとき自殺願望が強い患者で、それ以来、専門医による精神面のケアを受けている。

男性をレイプという手法は、多くの紛争地帯において戦争遂行のための兵器として幅広く行われている。また、刑務所においても男性のレイプは行われている。しかし、女性のレイプに対する注目が注がれている影で男性へのレイプ問題はほとんど報道されていないのが現状である。知られていることは、こうした男性のレイプ被害者は、回復過程で恐ろしい諸問題に直面しているというということである。

野球帽で顔を隠して取材に応じてくれたジョンは、未だにレイプによる傷が治っていないことから歩くのに苦労しているという。「長い距離歩けば、肛門から血が流れ出してきます。また、キャッサバのような硬い食材を食べると、排せつ時に直腸が外に飛び出してくるのでトイレに行くのに苦労しています。」(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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中東非核地帯を巡る交渉の舞台はフィンランドへ

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【カイロIDN=バヘール・カーマル】

中東から核兵器を手始めに大量破壊兵器を根絶しようとする試みは、未だ解決の見通しがたたないまま、既に40年の歴史を刻んでいる。こうした中、フィンランド政府が突如、「中東非大量破壊兵器地帯創設に関する国際会議(=中東会議)」をホストする決断をしたことから、国際社会の注目は、来年フィンランドを舞台としたこの試みの行方に注がれることとなった。

国連がホスト国の発表を行ったのは2011年10月14日だが、この時期はちょうど、中東諸国を席巻している「アラブの春」が、主にチュニジア、エジプト、リビアにおいて新たな運動のピークを示すとともに、イエメンやシリア等において独裁政権に対する民衆蜂起が続いている最中と重なった。

またこの決定がなされた時期は、おりしもアラブ世界のいくつかの主要国において、域内で唯一の核保有国であるイスラエルに対する抗議運動の波が高まりを見せている時期と重なった。イスラエルの核弾頭の保有数は、インドとパキスタンの保有核の2倍以上にあたる210~250基以上と伝えられている。

 こうした民衆の抗議運動は、8月末から9月初旬にカイロのイスラエル大使館が襲撃されイスラエル国旗が燃やされた事件で最高潮を達した。また、反イスラエル抗議集会は、チュニジア、ヨルダン、モロッコでも開かれた。

一方、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が率いるイスラエル極右政権は、国内においても、社会政策や、食糧・サービスコストの高騰、さらには高い失業率に反対する大規模な民衆の抗議運動に直面している。

パレスチナ国家の承認を求める動き

そうした中、パレスチナ暫定自治政府は9月に国連総会に出席し、パレスチナの独立主権国家としての承認を求める国連加盟申請を行った。しかしイスラエルと米国がこの動きに断固たる反対の立場を表明し、米国は必要に迫られれば拒否権を発動することも辞さないと明言したことから、中東における緊張はさらに高まることとなった。

「緊張が高まっているこうした情勢は、中東非核地帯の実現に向けて駒をすすめようとしているフィンランド政府にとって、決して追い風となるものではありません。」と、匿名を条件に取材に応じたあるエジプトの元核問題専門家は語った。

「今や中東には新たな状況が生まれています。エジプトや(あるいはまもなく)シリアといった主要国で登場しつつある民主体制が、前任の独裁政権が長年してきたように『主人の声―米国の声』に従うと期待すべきではありません。」と、1995年、2000年、2005年、2010年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議の準備にも積極的に関与した経験を持つ同専門家は語った。

石油資源に恵まれ、動乱の中で覚醒しつつある中東地域は、世界の重要地域の中で、核兵器の配備が未だに禁止されていない唯一の地域といっても過言ではない。ちなみに大陸を含めて他の地域を見れば、ラテンアメリカ・カリブ地域、南太平洋地域、東南アジア地域、中央アジア地域、アフリカ大陸が既に非核地帯となっている。

困難なミッション

開催予定時期が「概ね2012年」とされる中東会議のファシリテーターに任命されたヤッコ・ラーヤバ外務事務次官に課せられた任務は、極めて困難なものになると思われる。

中東会議の開催は、2010年NPT運用検討会議(5月3日~28日に開催)の決定によるもので、1960年代から中東非核地帯の創設を提唱してきたエジプト政府は、アラブ諸国、トルコ、非同盟運動加盟諸国、及び北欧をはじめとするいくつかの欧州諸国の支持を背景に、この項目を最終決議に盛り込むために中心的な役割を果たした。

NPT運用検討会議に先立つ期間、エジプト政府は、様々な会合の機会を通じて、「長年紛争に苦しんできた中東地域は非大量破壊兵器地帯としなければならない」とする過去40年に亘る同国の主張を改めて繰り返した。

エジプト政府が繰り返し述べているように、歴代のエジプト政権は、1961年以来、核兵器及び全ての大量破壊兵器一般(核兵器・生物・化学兵器)に関して「明確で一貫した立場」を堅持してきた。また、消息筋によると、(ムバラク後の)エジプト暫定政権もこの方針を支持している。

カイロ文書

またエジプト政府は、NPT運用検討会議に出席予定の全ての関係国・機関宛に書簡(カイロ文書)を提出し、その中で、「(今年の)NPT運用検討会議は、従来の中東非核化決議を確認した1995年の(国連)決議について、その後全く進展がなされていないことを遺憾とすべきである。」と訴えた。

この国連決議によって、中東から核兵器と大量破壊兵器を根絶するための交渉を行い、非核地帯と宣言するための確固たる足場が確保された。2010年NPT運用検討会議直前の4月26日、エジプト外務省の報道官は、「エジプト政府は従来から国際会議の場や、考え方を共有する国々、とりわけアラブ・アフリカ諸国や欧州諸国の一部と中東非核地帯設立という目標実現に向けた協議を重ねてきました。」と強調した。

エジプト外務省は、イスラエルが中東で唯一NPTを拒否する国であることを十分認識しつつ、「全ての国がNPTに加盟するよう」呼びかけた。報道官は、「エジプト政府は、NPT運用検討会議への参加を通じて、全ての国がNPTに加盟するよう働きかけていきたい。」としたうえで、「イスラエルはNPTへの加盟を拒否することで、中東の平和と安全を危機に陥れ、実効性のないものにしてしまっています。」と強調した。

国連会議の呼びかけ

エジプト政府は、同書簡の中で、中東の全ての国が参加して中東非核化への合意を目指す国際会議を2011年までに開催すること、また、決議に法的拘束力を持たせるため、会議は国連主催とすることを呼びかけた。しかし、NPT運用検討会議は、決議内容が法的拘束力を持たない勧告にとどまる「国際会議」を開催することを決議した。「これでは2012年のフィンランドにおける中東会議の成果(=牙を抜かれた赤ちゃん虎)にあまり期待はできません。」と、あるアジアの外交官は匿名を条件に語った。

イスラエルによる拒絶

イスラエルは、欧州の多くの国々の支持と米国の力強い支援を背景に、自国の核兵器廠についていかなる国際機関にも明らかにしないという政策を堅持している。イスラエルは自国の軍事用核政策を極秘扱いすると共に、意図的にNPTへの加盟を拒否し続けている。

中東非大量破壊兵器地帯を設立する試みに、イスラエルが反対の立場にあることを知らしめる手段として、ネタニヤフ首相は、バラク・オバマ大統領が2010年4月13日・14日にワシントンで開催した核安全保障サミットへの参加を拒否した。またネタニヤフ首相は、昨年ニューヨークの国連本部で開催されたNPT運用検討会議への出席も拒否した。

重要な必要条件

中東非大量破壊兵器地帯構想の根本部分についてエジプトがどのように考えているかについては、エジプト情報省(SIS)が作成し、NPT運用検討会議開催の1週間前に配布された公文書に記されている。

その序文には「(中東)地域の平和と安定に向けたエジプトのビジョンは、パレスチナ問題の公平で公正な解決や、国際的な正当性を有する全ての決議を完全履行といった原理原則に立脚している。」と記されている。

エジプトの明白な立場:

-(中東の)いかなる国も、大量破壊兵器を保有することで安全が保障されることはない。安全保障は、公正で包括的な平和合意によってのみ確保される。

-中東非核地帯構想及びイスラエルの「軍事優勢主義」の立場に関して、イスラエルからの「前向きな対応」を引き出せなければ、アンバランスな中東の安全保障状況は一層悪化する。

-中東非大量破壊兵器地帯の設立を呼びかける中で、エジプト政府は、域内のいかなる国に対する差別的或いは不公平と考えられる措置を拒否する。

-エジプト政府は、いかなる武器や国も特別扱いすることを拒否する。また、中東域内のいかなる国に対しても特別な地位を譲許することを拒否する。

-中東における大量破壊兵器武装解除を行うプロセスは、国際社会による包括的な監督、とりわけ国連とその専門機関のもとで実施されなければならない。

-エジプト政府は、中東の非核化を求めたいくつかの国連決議、とりわけ1981年に採択された国連安保理決議487号の履行を要求する。

米国の核の傘を拒絶する

2010年NPT運用検討会議が開催される遥か前に、エジプト政府は、中東包括和平案の一部として米国政府が核攻撃から中東地域を守るとした提案を拒否した。実質的に米国の「核の傘」を提供するとしたこの提案はバラク・オバマ大統領の前任者であるジョージ・W・ブッシュ大統領によってなされたと伝えられている。

米国による「核の傘」の起源は米ソ冷戦時代に遡り、通常、日本、韓国、欧州の大半、トルコ、カナダ、オーストラリア等の核兵器を持たない国々との安全保障同盟に用いられるものである。また、こうした同盟国の一部にとって、米国の「核の傘」は、自前の核兵器取得に代わる選択肢でもあった。

事実、2009年8月18日、5年ぶりに訪米したホスニ・ムバラク大統領(当時)は、「中東が必要としているのは、平和、安全、安定と開発であり、核兵器ではありません。」と主張した。

ムバラク大統領はそうすることで、1974年以来エジプト政府が国是としている「中東非核地帯」設立構想をあくまでも推進する決意であることを改めて断言した。

またムバラク大統領は、首脳会談に先立つ8月17日、エジプトの主要日刊紙アル・アハラムとの単独インタビューに応じ、「エジプトは中東湾岸地域の防衛を想定した米国の『核の傘』には決して与しません。」と語った。

核の傘ではなく平和を

「米国の『核の傘』を受け入れることは、エジプト国内に外国軍や軍事専門家の駐留を認めることを示唆しかねず、また、中東地域における核保有国の存在について暗黙の了解を与えることになりかねない。従って、エジプトはそのどちらも受け入れるわけにはいかないのです。」とムバラク大統領は語った。

ムバラク大統領は、「中東地域には、たとえそれがイランであれイスラエルであれ、核保有国は必要ありません。中東地域に必要なものは、平和と安心であり、また、安定と開発なのです。」と断言した。「いずれにしても、米国政府からそのような提案(核の傘の提供)に関する正式な連絡は受けていません。」と付け加えた。

同日、エジプト大統領府のスレイマン・アワド報道官も、米国の「核の傘」について論評し、「『核の傘』は、米国の防衛政策の一部であり、この問題が取り沙汰されるのは今回が初めてではありません。」と語った。

イラン要因

アワド報道官は、中東地域に向けられた米国の「核の傘」疑惑についてコメントし、「そのようなものは形式においても内容においても全く承認できない。今は米国の『核の傘』疑惑について話題にするよりも、むしろイランの核開発問題について、欧米諸国・イラン双方による柔軟性を備えた対話の精神を基調として、取り組むべきです。」と語った。

アワド報道官はまた、「イランは、核開発計画が平和的利用を目的としたものであることを証明できる限り、他のNPT締結国と同様、核エネルギーの平和的利用から恩恵を受ける権利があります。」と付け加えた。

これらの背景を振り返れば、どの国も中東会議のホストを名乗り出ず、ファシリテーター役を引き受ける人物がこれまで出てこなかったことにも表れているように、フィンランドが中東会議をホストすると発表するまでの道のりには、多くの障害が立ちふさがっていた。

はたしてフィンランドは、他の国々が何十年にも亘って成しえなかった成果を得られるだろうか?(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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人権問題との闘いは「まるで地雷原」(AIイラン問題担当エリーゼ・アウアーバック氏インタビュー)

【国連IPS=クリスチャン・パペッシュ】

10月18日、国連人権委員会が、イランの人権状況を検討するための会合を開いた。一方、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル(AI)」は、イラン政府が現在及び過去に於ける人権侵害(青少年に対する死刑適用、少数派宗教、民族、同性愛者に対する差別や逮捕等)を認めない限り、これは茶番劇となりかねないと警告している。

 IPSでは、米国AIのイラン問題担当エリーゼ・アウアーバック氏に、イランの人権状況、国際社会の反応、政治的な障害、「アラブの春」のイランへの影響等について聞いた。

Q:イランが国連人権委員会に提出した報告書は10年以上も遅れて出されたものであり、しかも、重要な人権侵害に触れていません。これは茶番でしょうか?

A:茶番とまでは言いませんが、国際社会の懸念には応えていません。国連事務総長もいまやイランに関する報告書を年に2回も出しています。また、特別報告官のアフメッド・シャヒード氏も報告書を出したばかりですが、彼はイラン国内への立ち入りを禁じられています。これらの国連報告書には、イランの人権状況に関する様々な懸念が述べられています。

これに対してイラン政府は、自国の人権状況に向けられた批判は、政治的な動機に基づいて欧米諸国が仕掛けている中傷キャンペーンに過ぎないと反論しています。私が見るところ、イランが提出した報告書の内容は不十分であり、国際社会の懸念に対して真面に応えることを避ける意図で、極めて曖昧に作成されたものと言わざるを得ません。

Q:このところ中東・北アフリカ地域で、多くの革命や蜂起が起こっていますが、こうした「アラブの春」と呼ばれる変革の波はイランに到達するでしょうか?政府の人権侵害に対する蜂起がイランでおこりうるでしょうか?

A:2009年の夏に、きわめて大きな抗議活動がイランでありました。選挙結果の不正を訴えて、数百万という人々が街頭に出てきたのです。この行動こそが、この春のアラブ諸国での抗議活動の先駆けであったという人もいます。

しかし、イラン政府はこの抗議を徹底的に弾圧しました。2009年12月と、その後も散発的に大衆抗議活動がありましたが、現在のアラブ諸国での活動ほどの規模にはなりませんでした。しかし、イランの人々は、大変なリスクを冒して、彼らが見るところの不公正な政府に対して、抗議の声を上げているのは確かです。そしてイラン政府も、さらなる大規模な抗議行動がおきないよう全力で抑えこみにかかっているのです。

Q:2日前、禁固6年、映画製作20年間禁止の判決が下されていた映画監督ジャファル・パナヒ氏(Jafar Panahi)の控訴が棄却されました。彼をはじめとした批判的な人々がイラク国内で活動する余地はあるのでしょうか。アムネスティ・インターナショナルとしては、パナヒ氏のような活動家を支援するためにどんなことをやってきたのでしょうか。

A:パナヒ氏は、祖国を愛しており、イランに留まって活動したいとの意思表示を何度となく行ってきましたが、それでも告発されました。これまでに、2万1000筆の署名を集めています。中には、ショーン・ペンスティーブン・スピルバーグマーティン・スコセッシといったハリウッドの有名人もいます。これをニューヨークにあるイランの国連代表部に届けようとして最初は受け取りを拒否されたのですが、交渉の末にようやく受け取ってもらうことはできました。

芸術的な表現に対する弾圧がイランでは続いており、国内での活動は難しい状況にあります。しかし、イランの人々はきわめて勇敢であり、いかにしてイラン政府を出し抜くかを考えています。

Q:イランの人権状況を改善するにあたって、アムネスティ・インターナショナルが直面している困難は何ですか?その他の国との違いは何でしょう。

A:イランは、活動する上でもっとも難しい国のひとつです。人権状況の規模の大きさとシステムの不透明さという点もあります。それに、我々はイランへの入国を許されないのです。しかし、イラン国内には、我々に状況を報告してくれる多くの人権活動家がいます。

私たちは、私たちのアジェンダと米国政府のアジェンダは無関係であることを明確にしておきたい。私たちがイランの人権状況を批判するのは、人権活動家として発言しているのであって、私たちの関心は人権分野以外のなにものでもないのです。

イランに関する議論は、核兵器開発疑惑や、イスラエルへの敵対疑惑、中東地域への影響行使疑惑など他の問題と絡んですぐに政治化しやすいので、私たちはきわめて慎重にメッセージを発する必要があります。

イランにはきわめて多くの問題があって、まるで地雷原を歩いているかのようです。だからこそ、私たちは、人権分野のメッセージにこだわって、慎重に進まなければならないと思っています。

翻訳=山口響/IPS Japan戸田千鶴

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軍縮の美辞麗句の裏で優先される核兵器近代化の動き

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

スタンレー・キューブリック監督の映画『博士の異常な愛情または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』で描かれている異常な状況を連想させるかのように、核保有国の中で核兵器のない未来について積極的に熟考している国はない。それどころか、この恐るべき兵器を使用する可能性が大きくなっている、と新たに発表された報告書は述べている。

 同報告書は、この気がかりな世界的傾向について、「米露間で締結された新戦略兵器削減条約(新START:2011年5月発効)は、おそらくこの20年で最も成果のあった軍縮管理の枠組みと見られているが、条約の中身に関しては米露両国の間にかなりの認識の隔たりがあることから、必ずしも両国が保有する核兵器が大幅に削減されるという結果には結びつかないだろう。」と指摘している。

「核兵器保有国による軍縮を巡る美辞麗句がどのようなものであれ、さらなる大胆な軍縮或いは軍備管理に関する進展が見られない中、様々な状況証拠が示しているものは、『核兵器の近代化と拡大』という新たな時代が到来しているという現実です。」と報告書の著者であるイアン・カーンズ氏は警告している。

カーンズ氏は、この見解を立証するため、(英国以外の)世界の核兵器備蓄量に関するデータや分析を収集するとともに、核保有国の核戦力近代化傾向、宣言政策と核ドクトリン、さらには各国の核保有政策の根拠となっている安全保障上の懸念について考察を加えている。

この報告書は、英国の核政策を検討する超党派の独立委員会「トライデント委員会」のディスカッションペーパーとして作成されたもので、英米安全保障情報評議会(BASIC)から11月初めに出版された。

核兵器保有国は拡大している

1980年代半ば以来、世界の核兵器備蓄量は大幅に削減されたが、一方で核兵器保有国の数は増加している、と報告書は指摘している。「今日、核兵器の総数は20,000発余りを数えるが、世界で最も不安定で紛争が起こりやすい地域にも存在している。東北アジア、中東、南アジアでは深刻な紛争の勃発や核拡散の懸念が取りざたされており、それに伴って核兵器が使用される可能性も高まっている。」

データ分析の専門家が明らかにしたところによると、長期的な核戦力近代化・品質向上プログラムが全ての核保有国において進行している。つまり、米国やロシアのみならず、中国、インド、パキスタン、その他の核保有国においても、向こう10年間に亘って、数千億ドルにも及ぶ予算が核兵器近代化のために計上されている。

近代化された核兵器

ほとんど全ての核兵器保有国が引き続き新型或いは近代化された核兵器を生産し続けている。そして中にはパキスタンやインドのように、従来より小型で軽量の核弾頭を開発することにより、核ミサイルの射程距離を延ばしたり、短距離の攻撃対象に絞ったより戦術的な運用を目指していると見られる国々もある。

また報告書は、核弾頭の戦略的運搬手段について、「ロシア及び米国は戦略核戦力の三本柱である陸・海・空軍戦力(ICBM・SLBM・戦略爆撃機)を長期にわたって維持する立場を改めて表明している。一方、中国、インド、イスラエルは、独自の三本柱を構築しようとしている。中国、インドの場合、射程距離の向上と、地上発射基地の機能向上、並びに核弾頭搭載の原子力潜水艦の建造を主眼とした、大規模な弾道ミサイル開発プログラムが進められている。」

「イスラエルの場合、核巡航ミサイルが搭載可能な潜水艦艦隊(ドルフィン級潜水艦)の増強が図られており、人工衛星打ち上げロケットプログラムと相まって、将来的に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発する道のりを歩んでいるとみられている。」

「パキスタンは急速に核弾頭の備蓄数を拡充するのみならず、新たにプルトニウム生産炉を建設して核分裂性物質の備蓄を進めている。また北朝鮮のように、ミサイル技術の飛躍的な向上を図ろうとしている。」

「最近弾道ミサイル搭載の潜水艦隊の近代化を完了したフランスは、全体の機数は縮小するものの、新型でより機能が向上した戦略爆撃機を空軍核戦力に導入しようとしている。また、潜水艦及び戦略爆撃機に搭載する新型でより強力な核弾頭の導入も進めている。」

こうした調査結果は、バラク・オバマ大統領が、彼の生存中には成しえないだろうとしながらも、核兵器なき世界の実現に思いを巡らせた2009年4月の歴史的なプラハ演説から、3年も経過していない中で公表された。

必要不可欠とみなされている核兵器

とりわけ衝撃的なのは、全ての核兵器保有国において、「核兵器は安全保障上、必要不可欠とみなされており、中には核攻撃に対する抑止という範疇を遥かに超えた役割(=核の先制使用)を安全保障戦略の中に組み込んでいる国もある」という事実である。

そうした国とは、カーンズ氏によれば、ロシア、パキスタン、イスラエル、フランス、並びに、「ほぼ間違いなく」北朝鮮である。一方、インドの場合、生物・化学兵器による攻撃を受けた場合には、報復手段として核兵器を使用する権利を保持するとしている。

事実、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)が指摘しているように、「他国からの核兵器の使用や威嚇に対して核兵器の役割を抑止に限定(核兵器の先制不使用)しているのは中国のみで、他の全ての核保有国は、程度の差こそあれ、核兵器以外の脅威に対しても、核兵器を使用する選択肢を保持する立場をとっている。」

非難の応酬

また報告書は、「いずれの核兵器保有国も、他国の核兵器及び通常戦力の開発状況と比べて自国の戦略的、潜在的脆弱性を指摘することで、自らの核兵器近代化・品質向上計画を正当化している。」と述べている。

ロシアは、自国の核兵器開発プログラムは、中国が通常兵力においてロシアより優位にある現状に対する懸念に加えて、米国の弾道ミサイル防衛構想(BMD)や「通常兵器による迅速なグローバル打撃(CPGS)」構想に対する懸念に対処するためのものであると主張している。

中国は、自国が進めている核兵器近代化・品質向上計画について、米国が同様の計画を推進しており、インドにも同様の計画があるとして、正当化する立場をとっている。一方、インドは核開発計画を推進する動機の一部として、パキスタンと中国の軍事的脅威に対する恐れがあると主張している。パキスタンは自国の核兵器開発計画を擁護する理由として、インドが通常兵力においてパキスタンを圧倒している現状を挙げている。そして南アジアから遠く離れたフランスは、世界で「増え続ける」核備蓄に対する対抗策として核兵器の近代化政策を是認する立場を表明している。

非戦略核兵器

また報告書は、核保有国の中に、仮想敵国より通常戦力で劣っている部分を補完する戦力として、非戦略核(=戦術核)兵器を重視している国々もある点を指摘している。

「戦術核兵器は、通常兵力で劣勢にある国に、敵対国に対して全面的な核攻撃に至らない程度で緊張を高めさせ、抑止力を発揮する選択肢を提供する軍事カードと考えられている。」と報告書は述べている。この状況は、冷戦期の北太平洋条約機構(NATO)による核ドクトリンの諸相を反映している。

従ってロシアやパキスタンのような国においては、核兵器は軍事計画の中で実践に使用する役割が割り当てられている。ロシアでは、これは核デスカレーションドクトリンという形をとっている。またパキスタンでは、核武装をほのめかしつつも、敵対国、主としてインドの軍事立案者を混乱させる意図から、あえてその点を曖昧にしている。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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