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核軍縮論議再活性化に努力するドイツ

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【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ

ジュネーブ軍縮会議(CD)は、わずか数か国の強国の既得権益のためにただのおしゃべりの場と化してしまった。これらの国の同意がなければ、核兵器廃絶は言うに及ばず、真の核軍縮は現実のものとして見えてこない。

ドイツのヘルムート・ホフマン大使が、すべての核兵器国を含めた[CD参加国の]64か国に対して、核兵器を世界からなくすためにCDを大いに利用しようと熱意をもって呼びかけたのは、こういう背景があってのことである。ドイツは、8月20日からCD議長国をフランスから引き継いた。

ホフマン大使は、CDが核軍縮・不拡散問題に関する新協定を交渉する唯一の常設多国間機関であるべきかという(近年慣例となってきた)論争を行うだけでは実りがない、という的確な指摘を行っている。

 ホフマン大使は、「国連ラジオ」の取材に応じて、「私は、CDがその能力を積極的に利用する、すなわち、その任務を果たすような場であれば、議長として我々の作業を司ることを光栄だと感じることができるだろうと申し上げておきたい。しかし残念ながら、我々が皆わかっているように、CDはこの10年以上、多くの理由によってそのような状態ではありませんでした。」と語った。

また、ベルリンではドイツ外務省が、議長国期間の4週間(8月20日~9月14日)を、「CDの作業に新しい命を吹き込むこと、とりわけ、核分裂性物質の生産と移転を禁止する条約(FMCT)の交渉を速やかに開始する可能性を探ることに使いたい」との意向を明らかにしている。

FMCTは、核兵器あるいはその他の爆発装置のために核分裂性物質をさらに生産することを禁止する国際条約の提案である。しかし交渉は未だに開始されておらず、条文の中身は定義されていない。

世界の二大核兵器国である米国とロシアは、核分裂性物質の定義で意見を異にしている。米国は、核分裂性物質には高濃縮ウランとプルトニウムを含み、Pu-238の割合が80%を超すプルトニウムを含まないとしている。

他方、ロシアの提案では、核分裂性物質とは、兵器級のウラン(U-235の割合が90%以上)と、プルトニウム(Pu-239の割合が90%以上)に限られる。

しかし、どちらの提案でも、民生用や軍艦の原子炉など、非兵器用途で核分裂性物質を生産することは禁止されないことになっている。

したがって、CDで近年新しい条約交渉を始めることができなかったのは驚きに値しない。この一つの理由は、CDの決定は多数決方式ではなく全会一致方式によるためである。各参加国に拒否権があるため、CDの活動は1996年以来機能不全に陥っている。

結果として、4つの主要課題(FMCT、宇宙空間における軍拡競争の防止、核軍縮、非核兵器国に対する消極的安全保証)には大きな進展がみられていない。

CD議長国フランスのジャン=ユーグ・サイモン=ミシェル大使が、CDが作業計画に関する意見の一致に到ることができなかったことを遺憾に思うとの見解を表明したのは、これを念頭に置いてのことである。しかし一方で、テーマ別討議においては、多くの参加国が「相互作用的なやり方で」見解を表明した点も、大使は付加えた。
 
ジュネーブ軍縮会議は、1979年、軍縮に関する国連の中心的な常設機関として創設された。10か国軍縮委員会(1960年~61)、18か国軍縮委員会(1962~68)、軍縮委員会会議(1969~78)など、ジュネーブにあった交渉枠組みを引き継いだ。

CDは、軍縮・軍備管理・不拡散問題を取り扱う世界で唯一の多国間交渉枠組みであり、年間に24週間開催され、会期は3回に分かれている(加盟国がアルファベット順に4週間交代で議長国を務める:IPSJ)。ドイツが議長国となるのは10年ぶりのことで、2012年の第3会期(7月30日~9月14日)の最後の議長国を務めることになっている。

ドイツ外務省筋は、「我が国は、軍縮と軍備管理を積極的に進めてきた。パートナーとともに、CDの行き詰まりを打開すべく、さまざまな取り組みを行ってきた。最近では、オランダと共同で、FMCTに関する技術的準備作業に関するイベントを開催した。」と述べている。

ギド・ヴェスターヴェレ外相は、核軍縮の必要性を繰り返し指摘し、核分裂性物質生産禁止条約を主唱してきた。この点で、ジュネーブでの協議は重要な役割を果たしている。

「ドイツを含む10か国で構成される『軍縮・不拡散友のグループ』は、ジュネーブ軍縮会議の再活性化と核分裂性物質生産禁止条約の交渉開始を繰り返し呼び掛けてきた。しかし、今日に到るまで、一部のCD参加国の妨害的な態度により、この取り組みは功を奏していない。」

行き詰まる交渉

会議の参加者は、何が問題なのかをよくわかっている。しかし、既得権益が交渉を妨げてきた。

CDの今会期では、放射性物質兵器など、新しいタイプの大量破壊兵器やそうした兵器の新しいシステムに関する、国連軍縮研究所(UNIDIR)の準備した背景説明資料を討論の素材としてきた。

この問題は1969年にマルタによって初めて国連総会に提起され、CDはその後、レーザー技術の軍事的応用の可能性の持つ意味について検討することを任務としてきた。

1975年、当時のソビエト連邦が、新型大量破壊兵器・新システムの開発と製造を禁止する国際協定案を国連総会に提出した。

しかし、西側諸国は、特定の大量破壊兵器の禁止に賛同しながらも、将来開発される兵器を特定せずに禁止する包括条約を締結することには反対した。1980年代、放射性物質兵器に関する付属機関がいくつかの作業文書を検討したが、コンセンサスは得られなかった。

議長職を終えるフランスのサイモン=ミシェル大使が指摘したように、1993年以来、付属機関は設置されていない。2002年、ドイツは、新しい脅威という文脈において、この問題を再検討する討議文書を提出した。しかし、その後も、討論はまとまっていない。

包括的プログラム

またサイモン=ミシェル大使は、1980年以降CDの議題であり続けながら、1989年以降は付属機関を要するような問題ではないと見なされてきた、軍縮に関する包括的プログラムの歴史についても概略を述べている。

核軍縮を、放射性物質兵器や生物兵器化学兵器のような他の分野における軍縮の進展と同時並行的に行うべきものとすべきかどうかということについて、各国の意見は割れている。核軍縮は、他の分野における交渉を前提とすべきではないとの意見の国もある。

CDの文書によれば、一部の国は、大量破壊兵器が非国家主体やテロリストの手に渡ることで破滅的な危険がもたらされることを今会期において強調し、ある(匿名の)国は、大量破壊兵器と同じように、安定と安全保障を脅かす能力を持つ新型の情報通信技術に焦点を当てている。

核不拡散条約(NPT)未加盟で核兵器国であるインドは、核軍縮だけではなく、国際の平和と安全を維持するのに重要なその他の兵器および兵器システムも併せて検討する「包括的軍縮プログラム」を志向している。こうしたプログラムの原則は、普遍的に適用可能かつ関連性を持つものでなければならず、この点において、CDは世界で唯一の多国間軍縮枠組みとして主導的な役割を果たすだろうというのがインドの立場である。

しかし、南アジアの核兵器国でライバル関係にあるインドとパキスタンは、コンセンサスを獲得するという点では、激しく対立している。

フランスは、効果的な国際的管理の下での全面的かつ完全な軍縮はCDの究極目標であり、国連総会がしばしば用いてきた議題であると論じている。核兵器不拡散条約は、フランスがとくに重要だと見なしたものである。

しかし、フランスの代表は、CDの今会期において、核軍縮は、放射性物質兵器や生物兵器、化学兵器などの他の分野における並行的な軍縮や、戦略的文脈の全体的な相互依存関係を抜きにして考えられるものではないと主張した。

また同フランス代表は、「我が国は、30年以上に亘って、人道的な軍縮―人間に特定の害を与えるような兵器の生産を防止あるいは中止することを目的とした条約―に向けた取り組みを行ってきた。フランスはまた、『弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCOC)』の普遍化を呼び掛け、弾道ミサイルの透明化を促進する上でのこの規範の重要性を強調してきた。」と付加えた。

翻訳=IPS Japan
 
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|UAE|ヨルダンに大規模なシリア難民キャンプを設立予定

【アンマンWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)のシェイク・ハムダン・ビン・サイード・アル・ナヒヤン赤新月社(RCA)総裁は9月3日、「UAEはヨルダンのマフラクにシリア難民のためのキャンプを設営する。」と発表した。

シェイク・ハムダン総裁は、4段階からなる難民キャンプ設立計画の第1段階では、2700人のシリア難民を受け入れること、キャンプの運営はUAEの赤新月社とヨルダンのパートナー組織が共同運営する予定である旨を発表した。

「ヨルダンのシリア難民を取り巻く環境は悪化してきており、私たちは人道的な観点から、とりわけ女性と子どもに対して、適切な食料、医療、及び救援活動を速やかに提供しなければなりません。」と、現在ヨルダン国内をURE・ヨルダン移動巡回病院で移動中のシェイク・ハムダン総裁は語った。

 「シリアは私たちにとっても大切な隣人であり、早期の事態正常化とさらなる発展を希望しています。また、難民の方々が、早く祖国に復帰でき、身の安全が保証されるようになることを願ってやみません。」と語った。
 
またシェイク・ハムダン総裁は、UAEの人道支援の方針はこの分野の国際協力を一貫して支持してきた現UAE大統領の意向に基づくもので、人道的危機に直面した際には、支援枠を設けず、あらゆる国を支援対象としている。」と語った。

URE・ヨルダン移動巡回病院は、もともとマフラクを拠点としていたが、シリア難民が直面している窮状を緩和するため、ヨルダン国内各地の難民キャンプを巡回している。(原文へ

翻訳=IPS Japan 

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小島をめぐる対立で日韓関係が悪化(シャムシャッド・A・カーン防衛問題研究所研究員)

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【ニューデリーIDN=シャムシャッド・A・カーン】

韓国の李明博大統領の島根県竹島(韓国名・独島)への突然の訪問が、日韓の外交関係を悪化させている。

李大統領が竹島を8月10日に訪問した数時間後、日本政府は駐韓国大使を召喚する措置を取った。また、日韓首脳が毎年行っている「シャトル外交」を延期し、国際司法裁判所(ICJ)に領土問題をめぐる提訴を検討している。

竹島は、島根県隠岐諸島の北西157キロの日本海(韓国名・東海)に浮かぶ島で、日韓双方が領有権を主張している。韓国側は、新羅王朝時代の512年に独島が韓国に併合されたと主張し、1954年から同島を実効支配している。

 他方、日本側は、竹島は1905年(日本政府は当時無人の同島を、島根県隠岐島司の所管の竹島と閣議決定:IPSJ)から島根県の一部であったと主張している。この岩礁の領有権を巡る論争は、度々日韓外交関係が行き詰まる原因となってきた。最近では、2006年に島根県が2月22日を「竹島の日」と制定したことから、同島を巡る日韓の対立が再燃してきている。

過去において竹島は、日露戦争(1904年~05年)では日本政府のための、そして朝鮮戦争(1950年~1953年)中は米国政府のための一時的な観測所として利用された。そうしたことから、竹島が占める戦略的な位置が、日韓両国の領有論争の火種となっているのかも知れない。竹島の面積は僅か0.08㎡に過ぎないが、領有権を取得することで同島の周り200カイリに排他的経済水域を設定し、同域内の資源を管理することができるようになる。

近年、韓国政府は、竹島を含む近辺の島嶼周辺地域の防衛態勢強化を目的とした鬱陵島の海軍施設拡充をはじめ、竹島近辺の実効支配を強化するための一連の措置を講じている。日本のメディアは、韓国筋の情報として、「韓国政府は鬱陵島の海軍基地拡張について、2017年までの完了を目指している」と報じた。この拡張工事が完成すれば、韓国政府は係争中の竹島周辺の領土・領海の支配に関して、日本政府よりも優位な立場に立つことになる。

前代未聞の行動

李明博大統領
は2008年の就任以来、日韓関係を強化しようとし、「日本は韓国にとってもっとも親密な同盟国」とまで語っていた人物だけに、大統領自身による突然の竹島訪問という前代未聞の行動は、日韓両国の多くの政治アナリストからも驚きをもって迎えられた。李大統領は、今年6月にも、結果的には国内世論の反発で延期を余儀なくされたものの、軍事分野を軸とした日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の署名に尽力したばかりであった。

日韓双方の識者らは、今回の竹島訪問は、概して李大統領の国内政治上の計算からなされたものだと見ている。朝日新聞は社説の中で、「…李大統領の竹島訪問は、竹島問題をはじめとする外交問題ではなく、むしろ韓国の国内政治に対する関心を動機としたもののようだ。」と報じている。また同紙は、「李大統領が来年2月末の任期満了に向けた準備に取り掛かる中、実兄や側近らがスキャンダルで相次いで逮捕される事態が発生した。また、韓国国内には、ますます広がりつつある所得格差に対する不満が広がっている。」と付加えた。

一方、韓国日報も社説の中で、「野党各党は、李大統領の独島訪問は、近親と側近が関与した不祥事を受けて厳しくなった国内世論をなだめるために行った『政治ショー』に過ぎないとして、冷ややかに見ている。」と報じた。そして、「我々は、李大統領の独島訪問が政治的動機に基づいているどうかは分からない。大統領は、『我が国領土』のどこにでも自由に訪問できるのだから。」と付加えた。

愛憎併存

日韓関係を過去20年に亘る長期的な視点から見ると、李大統領の竹島訪問という行動も必ずしも驚くには当たらない。日韓関係は、多くの蜜月と疎遠を経ながら、歴代韓国大統領の任期最後の年には、決まって関係が冷え込むパターンを繰り返してきた。韓国の評論家オ・テキュ氏は、1990年代の金泳三大統領時代からの日韓間の「愛憎」関係を分析し、韓国大統領任期の最終年に日韓関係が悪化する「最終年シンドローム」の存在を指摘している。デキュ氏は、李明博大統領についても、今回の竹島訪問のずっと前から、同様の現象が起こることを指摘していた。
 
しかし、今回の「最終年シンドローム」が及ぼした影響は長期に亘りそうだ。日本政府は、竹島問題を国際司法裁判所(ICJ)に提訴する決意を固めたようだ。日本政府は過去にも1954年と62年に竹島問題をICJに共同で付託するよう韓国側に提案したが、韓国政府が拒否した経緯がある。


当時、日本政府は日韓関係への悪影響に配慮して、IDJへの単独提訴は思いとどまった。しかし、今回の李大統領による竹島訪問を受けた玄葉光一郎外務大臣の一連の発言から、日本政府はICJへの単独提訴を行い、韓国に対して国際的な調停を受け入れるよう、外交圧力をかけていく決意のようだ。ICJ規定では、領土問題に関する審理を行うには、紛争当事国双方がICJにおける審理に同意していることが条件となっている

影響

李大統領の竹島訪問に続く日韓間の外交的睨み合いは、両国間はもとより東アジア地域全体の協力関係にも影響を及ぼすだろう。今後短期的には、日韓間の経済関係に悪影響が出るだろう。中断したままの日韓EPA(経済連携協定)についても、近年交渉再開に向けた協議が進められていたが、今回の問題で見通しは不透明になった。

また、中国を含めた三国間での自由貿易協定の交渉についても、日本政府が韓国との「シャトル外交」延期を示唆していることから両国間の高官レベルの交渉がなくなる可能性があるため、影響があるだろう。

また、安全保障関係では、日韓両国が2011年1月より下地作りを進めてきた2つの軍事協定-日韓物品役務相互提供協定(ACSA)と軍事情報包括保護協定(GSOMIA)-の締結の行く末にも影響を与えそうだ。

日韓両国は、「慰安婦問題」など歴史認識をめぐる対立によって、緊張関係が高まってきていた。そこに李大統領による竹島訪問で領土紛争が新たに加わってきた。今後日韓間の歴史問題や領土紛争がどのようになるかは不透明な状況である。

しかしこうした問題を巡る日韓間の対立が長引けば、共通の安全保障上の脅威に対応するために想定されてきた安保協力を含む幅広い分野に影響がでてくるだろう。日韓両国は、従来より平和と安定という共通の目標を持つとたびたび表明してきたが、両国間の歴史問題と領土問題がエスカレートするようなことになれば、そうした目標は妨げられ、東アジア全体の安全保障環境にも影響が及ぶことになるだろう。

翻訳=IPS Japan

※シャムシャッド・A・カーンは、防衛問題研究所(IDSA、ニューデリー)研究員。

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|イスラム協力機構|UAE国連大使、ロヒンギャの人権保護を訴える

【ジュネーブWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)のオバイド・サレム・アル・ザービ大使(ジュネーブ国連常駐代表)は、「UAE政府は、ミャンマーで進行しているロヒンギャに対する人権侵害(殺人、脅迫、強制退去、家屋や村の放火)を非難する。」と語った。

ビルマにおける人権状況について協議するために28日にジュネーブで開催されたイスラム協力機構(OIC:1969年設立。イスラム諸国57カ国で構成)大使級会合に出席したザービ大使は、「UAEは、OICのイニシャチブ支援を通じてミャンマーにおけるロヒンギャ迫害を止めさせ、彼らの権利を保護するための措置を講じるよう、率先して国際社会に対し強く訴えかけてきました。また、UAEは、国連人権委員会に対してロヒンギャが直面している人権状況を協議する臨時会合の開催を呼びかけています。」と語った。

 同OIC大使級会合では、アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官が、ビルマにおけるロヒンギャの人道的状況に関するプレゼンテーションを行った。

またザービ大使は、ビルマにおけるロヒンギャ迫害問題について調査する委員会を設置し、同国に特使を派遣するとしたOIC第4回臨時首脳会合(8月14日~15日:メッカ)の決定を支持すると語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|南アフリカ|「パレスチナ占領地」製品の表記義務付けを決定

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙は、南アフリカ共和国が新たに導入した輸入政策について、「イスラエル占領下にあるパレスチナの人々の苦難に光をあてる重要な政策」と賞賛した。

パレスチナの人々は、依然としてイスラエルの占領下での暮らしを強いられているが、全ての基本的人権を享有している。イスラエル政府が彼らの権利の多くを奪ったからといって、パレスチナの人々が今日の窮状から脱する希望までもが閉ざされてしまっている訳ではない。」と英字日刊紙「ガルフ・ニュース」は8月24日付の社説の中で強調した。

 同紙は、南アフリカ政府による今回の決定は、おそらく非常に長期に亘って、パレスチナ人に大きな影響を及ぼすことになるだろう、と指摘した。

南アフリカ政府は22日、イスラエル占領下のパレスチナから輸入された全ての製品に「パレスチナ占領地(Occupied Palestinian Territory)」と書かれた商品タグを付けることを承認した。ガルフ・ニュース紙の説明によると、この政府の決定は、商品の製造国がイスラエルではないことを、消費者が認識できるようにするためだという。

ジミー・マニ報道官は記者会見で、「商品タグの義務付け措置は、国連が1948年に(イスラエル、パレスチナの境界として)画定したラインを支持し、この国境を越えたいかなる占領地もイスラエル国家の領土として認めない我が国、南アフリカ共和国の立場と一致するものだ。」と語った。

「南アフリカ共和国の決定は、何が合法で何が非合法なのかを明確に区別した極めて重要な措置である。つまり、この措置によって、農産物の輸出に従事するパレスチナ人の活動は合法である一方、彼らの土地を占領し生活手段を奪う(イスラエル政府の)行為は非合法だということが、示されることになるのである。」とガルフ・ニュース紙は報じた。

南アフリカ共和国が導入した今回の措置は、イスラエル占領下にあるパレスチナ人の苦境に改めて焦点をあてることになることから、極めて重要である。

「この措置は、犠牲者の苦境を決して忘れないというメッセージを消費者が共有できる効果を期待できることから、今後同様の措置が採られるようグローバルな取り組みがなされるべきだ。」とガルフ・ニュース紙は強く訴えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|米国|干ばつで明らかになる「非論理的な」水管理

【ニューヨークIPS=カルロタ・コルテス】

この夏米国の大半を見舞っている大干ばつは、都市化の進展や人口増加等により、ますます大きな負荷がかかっている水資源を、よりよく管理する必要性を物語っている。

8月10日、米農務省は、世界全体の4割を占める米国のトウモロコシ生産は、今年は予想より17%減になり、来年の食料価格全体は3~4%押し上げられるであろうと発表した。

 しかし、ミズーリ大学エクステンション校(ブルームフィールド郡)の農業・農村開発専門家ヴァン・エアーズ氏は、今後も灌漑システムは拡張され続けるだろうとして、次のように語った。「私は20年前にミズーリ州南東部に移り住んだ当時、灌漑農地はおよそ30万エーカー程度でした。しかし今では灌漑農地は100万エーカーを超えています。今後もこの傾向は変わらないでしょう。」

 
しかし今年の場合、主な問題は、ミズーリ州南東部の農家は、干ばつのため予想以上に多くの水を田畑に引き入れなければならなかった点である。その結果、灌漑システムの一部は機能不全に陥った。

「作物の生育期を通じてこんなにも深刻な干ばつに見舞われるとは、誰も予想できなかったと思います。」とエアーズ氏は語った。

今年7月の米国は歴史上もっとも暑く、平均気温は20世紀全体の平均より華氏3.3度高い華氏77.6度(摂氏25.3)であった。このため、米海洋大気局(NOAA)の米国立気候データセンター(NCDC)が7月に行った発表によると、短期間でも中程度以上の干ばつに見舞われた地域は全米の約55%に上った(これは1956年12月に記録した58%以来最悪の数字)。中でも深刻あるいは極度の干ばつに見舞われた地域は、6月には33%に拡大した。

この状況に対して、米下院は8月2日に総額3.83億ドルに及ぶ畜産業・農業緊急旱魃支援パッケージを可決した。2012年度農業災害支援法では、農家による旱魃への取り組みを支援するため、期限切れの緊急畜産支援等のプログラムを延長する予定である。

また、バラク・オバマ大統領は8月7日、旱魃の被害に晒されている地域に対する新たな支援策(約3000万ドル規模)を発表した。また州レベルでも対策の動きが出てきている。ミズーリ州ではジェイ・ニクソン知事が、農家や家畜生産者に水を供給するための緊急のコスト分担事業を立ち上げ、これまでに3712件の支援要請が受理され、約1870万ドル相当の支援が行われた。

しかし、こうした緊急支援は、引き続き今後も予測しうる将来にわたって水不足に影響を及ぼしていくであろう気候変動や異常気象といったより大きな問題に対する、あくまでも一時しのぎの対処療法にすぎない、と環境保護者らは見ている。

アメリカン・リバーズ」の南東地域代表ゲリット・ジョブシス氏は、「水供給不足の問題に対する私たちのアプローチが非論理的である」という意味を込めて、これを「非論理的サイクル」(hydro-illogical cycle)と呼んでいる[IPSJ注:「hydrological」(水文学/水理学上の)という言葉の後半にある「logical」(論理的な)という部分を「illogical」(非論理的な)に変えた造語]。

これは、干ばつが起こるとパニックを起こし、(緊急支援を行うだけで)将来の水不足に備えた予防措置をとらない。そして再び雨が降れば、次の干ばつが起こるまで杜撰な水管理を旧態依然と続けてしまう、という事態を指している。

「このような非論理的なアプローチは、非効率のサイクルそのものであり、これに終止符をうたなければなりません。」とジョブシス氏はIPSの取材に応じて語った。

ジョブシス氏は、「水の効率的利用」と「水の保全」を分けて考える必要があると力説する。前者は水の無駄遣いを減らすことに主眼を置いた概念なのに対して、後者は水使用そのものに制限をかけようとするものである。

またジョブシス氏は、「米南東地域では、歴史を通じて長い間、水があるのが当然と考えられてきたが、この40年の間に、都市化の進展と人口増加により、水資源への負荷が益々大きなものとなっている。」と指摘した上で、この地域では、水の効率的利用に焦点を当てる方が、問題の根本的解決に繋がると語った。

ジョージア州アトランタでは、まさにこの点(水の効率的利用)に焦点をあてた取り組みが行われている。「アメリカン・リバーズ」の南東地域水供給ディレクター補佐のベン・エマニュエル氏は、「私たちは、まず地域のコミュニティーが今ある水供給量の中で、水の効率的利用やその他の手段を通じて最大限の節水努力がなされるようになるまでは、原則として新たな貯水池の建設に同意しないことにしています。」と語った。

この地域の人口は約400万人で、一日当たり約6億5200万ガロンの水が消費されている。「アメリカン・リバーズ」は、様々な節水対策を通じてアトランタ都市圏全体で3億から4億ドル相当の節約が可能であり、新たなダム建設は必要ない、と推定している。

またエアーズ氏も、同じく深刻な干ばつに見舞われた米中南部においても、より効率的な水の供給管理を行う必要性があると考えている。主に灌漑システムに着目しているエアーズ氏は、「既存の灌漑システムを効率的に運用することが最も重要です。」と語った。

しかし今回干ばつの被害がそれほど深刻でない地域においても、水の供給管理体制を向上される必要がある。ワシントン州ヤキマ盆地における試みが良い例だろう。

この地では、2009年以来全ての利害関係者(環境保護論者、農家、ヤキマ先住民居留区、ワシントン州、連邦政府)が参加して協議を重ねた結果、総合開発計画に関する一般合意に漕ぎ着けた。

「アメリカン・リバーズ」のワシントン州自然保護ディレクターのマイケル・ガリティ氏は、IPSの取材に対して、「水保全と水の効率的利用は、ヤキマ盆地総合開発計画(Yakima Basin Integrated Plan)の重要な部分です。」と語った。

しかし目標を達成するには、(水保全と水の効率的利用以外にも)地下水管理の向上や既存ダムの修復といった、総合計画に組み込まれているその他の要素も実施に移られなければならない。

環境保護者らは、こうしたさまざまな措置に共通するものは、シンプルだと考えている。つまり、「干ばつを予測することはできないが、それに対する準備をすることはできる。」ということである。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|UAE|ボランティア「大使ら」がシリア難民とイド・アル=フィトルを祝う

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)のザイード・ギビング・イニシアチブが派遣したボランティア「大使ら」が、ヨルダンの難民キャンプに身を寄せているシリア難民たちとともに、イド・アル=フィトル(ラマダンの終了を祝うイスラム教の祝日)を祝った。

ボランティア「大使ら」は、内戦悪化で家を後にした子供たちのためにイド・アル=フィトルならではのイベントを催し、子どもたちの笑顔を誘った。

このイニシャチブは、2009年にシェイカ・ファティマ(アラブ女性連合会と家族開発財団)会長の後援を得て開始された「百万人ボランティアキャンペーン(One Million Volunteers Campaign)」の監修のもとに実施されたものである。

また一連の祝祭行事は、アラブ女性連合会、在ヨルダンUAE大使館、UAE赤新月社、並びにヨルダン側関係団体の共催で開催された。

ボランティア「大使ら」は、各地の難民キャンプを訪れ、祝いの言葉とともに子供たちに贈り物をプレゼントして廻った。

アラブ女性連合会のノーラ・アル・スワイディ事務総長は、「私たちの大使であるボランティアらはイド・アル=フィトルを祝う数多くの行事を実施することで、人道に基づく慈善活動の良いモデルとなっている。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|アジア|「日中両国は、危険なナショナリズムを鎮めるべき」とUAE紙

【アブダビWAM】

「ナショナリズムと経済的利益は、とりわけ、先の大戦の記憶が生々しい東アジアでは危険な取り合わせである。」「政府による軍事的な威嚇が紛争に発展する可能性もある。」と、アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が報じた。

「日中政府は、国内の政治状況に関わらず、国民感情を鎮静化させ、両国間の領土問題を国際的な仲裁に付託し、恒久的な解決をめざさなければならない。東アジアという世界有数の緊張地帯において、その他の方法を模索することは、余りにも大きなリスクを伴うことになる。」と、ガルフ・ニュース紙は「東シナ海の無人諸島の支配を巡る日中間の対立」と題した論説の中で報じた。

 尖閣諸島の領有権を巡る日中間の対立は、ついに両国からの抗議者が、それぞれ尖閣諸島に上陸するという事態に発展した。最近の事例では、日本からの抗議者が島に上陸し、日章旗を振りかざした。これに対して、中国国内のいくつかの都市で抗議デモが発生した他、中国政府は、この行動を非難する声明を発した。この事態に対して、日本政府は、多くの外交的・経済的損害をもたらしかねない中国との衝突を避けるため、問題の鎮静化に努めている。

ガルフ・ニュース紙は、「領有権の主張は戦争と歴史によって捻じ曲げられたものであり、日中両国の他にも台湾も領有権を主張している。またそれぞれの主張は、危険なナショナリズムと結びついて、事態をますます不安定なものとしている。」と報じた。

一方同紙は、「係争中の諸島の周辺海域には、紛争当事国の経済発展及びエネルギー安全保障にとって極めて重要な原油と天然ガスが眠っている。」と解説した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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インド・パキスタンの核軍拡競争を止めるには

【トロントIDN=J・C・スレシュ】

南アジアで長く対立関係にあるインドとパキスタンは、世界で最も活発な核軍拡競争を繰り広げている。インドは100発程度の核兵器を生産したと推定され、パキスタンは、それを上回ることはないが、ほぼ同量の核を保有しているとみられている。

しかし、核専門家のハンス・M・クリステンセン氏とロバート・S・ノリス氏によると、パキスタンは、他のどの国よりも速いペースで兵器級核分裂性物質の備蓄を進めており、2020年代には、その備蓄量が核兵器200発分にも到達するおそれがある。

 しかも、インドとパキスタンは、軍事・核兵器に関して漸進的な信頼醸成措置を採るための協議を長年続けてきたにも関わらず、地域の軍拡競争は止まらず、二国関係もしばしば軍事衝突を含む緊張関係に陥ってきたという事実がある。

インドとパキスタンは、核に関して事故が起きた場合に互いに通報することに合意している。両国は互いの核施設を攻撃しないことを約束し、年に1回、関連施設のリストを非公開で交換している。しかし、こうした限定的な保証措置も、両国間の軍拡競争を止めるには至っていない。

インドは今年初め、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の域にほぼ到達する射程を持つミサイル「アグニ5」の発射実験を大々的に宣伝して行った。
 
またインド軍は、核弾道ミサイル搭載の潜水艦を完成させるまであと1年ほどだとみられている。潜水艦「アリハント」号が就航すると、インドは核の三本柱[IPSJ注:大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、長距離爆撃機のこと]を手中に収め、陸海空いずれからも核兵器を発射する能力を手に入れることになる。

一方パキスタン軍も、核弾頭を搭載可能な短距離ミサイルを多数開発しているが、専門家らは、こうした兵器はインドの通常兵器による攻撃に対抗することを目的としていると見ている。もしインドがパキスタンに越境攻撃を仕掛ければ、この核兵器が使われることになるかもしれない。

より野心的なアプローチが必要な時

こうした背景のもと、「新しく、より野心的なアプローチが必要な時」だと考え始めている米政府関係者や専門家らがいる、と「グローバル・セキュリティ・ニュースサービス」のレイチェル・オズワルド記者は報告している。

ヘンリー・L・スチムソン・センター」が7月31日に開催したフォーラムの出席者らは、二国間協議を再活性化し、数年に及ぶ和平プロセスを優先事項とすべきとのシグナルを送るためにインドとパキスタン両国が採れる象徴的な措置について、いくつか提案を行っている。

初期に採れる象徴的な行動としては、両国の元首による相互訪問や、地域の自然災害発生時の人道支援提供などを挙げている。

カーネギー財団核政策プログラムの副ディレクター、トビー・ダルトン氏は、上記のフォーラムにおいて、「何かに向かってゆっくり積み上げていくというよりも、基礎から根本的に変えようと努力すべきです。」と語った。因みにダルトン氏による「新しいアプローチ」とは、インドとパキスタン両国の指導者らが、二国間和平協議において、非常に表立った個人的な役割を担うことに優先順位を置く、ということである。

ラホール宣言」に調印された1999年2月が、南アジアのライバルである両国間の永続的な平和への見通しがもっとも開けた時期であった。ダルトン氏によれば、その後、パキスタンのナワズ・シャリフ首相とインドのアタル・ビハリ・バジパイ首相(いずれも当時)による首脳会談が開かれた。

オズワルド氏が指摘するように、両国はラホール宣言において初めて、弾道ミサイル実験に関する事前通告を互いに行い、通常兵器・核兵器に関する相互の信頼を高めるためのオプションを検討する二国間協議を開催することを約束した。南アジアと、前年に印パが行った核実験によって警戒心を高めていた米国にとって、この協約は大きな安心感を与えた。

ラホール・プロセス

「ラホール・プロセスは今日までの信頼醸成措置の頂点でした。当時それは、現実にパラダイムシフトを引き起こす可能性があると考えられていました。」とダルトン氏は語った。しかし、ラホール首脳会談からわずか3か月後、パキスタン軍がカシミールのインド支配地域に越境侵入した。それに引き続いて勃発した戦闘で二国間関係は壊れ、両国はあらためて兵器開発に邁進することになった。

ダルトン氏によれば、通常兵器・核兵器をめぐるその後の信頼醸成措置に関する協議は概して中間レベルの官僚によって行われ、指導者レベルは経済問題に専念してきたという。

カーネギーの核専門家らは、印パ両国の指導者らが信頼醸成措置にあまり大きな個人的関心を示してこなかったため、交渉は「事なかれ主義の官僚」に委ねられ、「協議それ自体目的となり、何か意義あることを始める」ものとはならなかった、と指摘している。

またダルトン氏は、多年にわたる両国間の和平プロセスを通じて、二国間貿易の増加、軍ホットラインの定期的利用、弾道ミサイル実験通知メカニズムの順守など、いくらか前向きな成果もあがっている、と指摘した。

「グローバル・セキュリティ・ニュースサービス」は、インドとパキスタン和平プロセスは、テロ問題やカシミールの地位問題、天然資源をめぐる紛争など二国間の隔たりの多い問題と、核問題を同時に扱おうとしてきたと強調している。和平プロセスは、最近では、パキスタンに拠点を持つ過激派がインドの都市ムンバイでテロ事件を起こした2008年11月に停止した。その後協議は2011年まで再開されることはなかった。

過去における複合的対話では、核兵器使用につながりかねない戦略的な誤解の可能性を低減するという問題も取り扱ってきた。

「南アジア専門のある米国務省関係者が匿名で語ったところでは、インドとパキスタンの安全保障関係を安定化させることができる『踊りの振り付け』があるという。しかしこの件に関して公に語ることを許されていないこの官僚は、その振り付けとは何かについて明示しなかった」と「グローバル・セキュリティ・ニュースサービス」のオズワルド記者は記している。

「通常兵器と核兵器をめぐる信頼醸成措置が同じ傘のもとで協議されるべきかについては、インドとパキスタンの間で意見が割れている」とオズワルド記者は記している。「一方では、両者は必然的に結びついているとの考えがあり、他方で、両者は別物であり、別物のままにしておくのがよい、とみなす考えがある」と上記の米国務省官僚は語った。

専門家らによれば、通常戦力で優位に立つインドは、核兵器に関する対話を別枠とし、他の問題から切り離そうとする傾向にあるという。他方パキスタンは、核兵器と通常兵器の問題は直接的に連関しているとみなしている。両者を分離すべきとの主張は、もし別の危機が勃発した場合、核問題に関する両国間の連絡が途絶えることがなく、非常にコストの高くつく誤解の可能性を低減することができる、というものである。

両国が信頼醸成措置協議をマンネリ化したものだと感じているとの懸念もある。「この協議は、長いこと議論が行きつ戻りつしている」と前出の米国務省官僚は語った。

インドは、2011年12月の協議で、長年にわたって維持されてきた事前通知体制に巡航ミサイルを追加しようとしたと伝えられている。しかし、ダルトン氏によれば、パキスタンは、別の問題で譲歩を得ることをこの件への同意の条件にしようとしたという。結局、巡航ミサイルを事前通知に含むとの協議妥結は発表されなかった。

複合的アプローチ

ウェンディ・チェンバレン元駐パキスタン米大使は、漸進的な信頼醸成措置と、宣伝効果が高く政治的に象徴的な措置を含む「複合的なアプローチ」が効果的だとフォーラムの参加者に訴えた。

現在は「中東研究所」の所長であるチェンバレン氏は、エジプトの故アンワール・サダト大統領が1977年に行ったイスラエルへの歴史的な訪問のような、壮大な意思表示が必要だと語った。この訪問の2年後、現在でも両国関係を律している平和条約が締結された。

しかしチェンバレン氏は、南アジアにおいては、国内の支持基盤を固めていかなければ、こうした措置だけでは不十分なものにとどまってしまう、と語った。インドと将来に亘る交渉をまとめようとした如何なるパキスタンの指導者も、国内の強力な軍部の支持を得る必要があった、とチェンバレン氏は語った。
 
インドのマンモハン・シン首相は、今年末までにパキスタンを訪問したいとの意向を明らかにしている。ジェフリー・ピャット米国務次官首席補佐(南アジア担当)は、こうした訪問は「よい象徴的な行動」になるだろう、と語った。また、その他重要な動きとして、パキスタン政府が、同国を経由したインド製品のアフガニスタンへの輸送を許可するのではないかとの期待が高まっている。パキスタンはこれまで、インドがアフガニスタン情勢に関与を強めることに警戒感を示してきた。

米上院外交委員会のスタッフであるマイケル・フェラン氏は、漸進的で、信頼を強化するような行動が、和平プロセスへの関心と資源を持続するには必要であると指摘し、「象徴的な要素だけでは、それを持続することになりません。」と語った。

スチムソン・センターの南アジアプログラム長であるマイケル・クレポン氏は、永続する平和(あるいは「両国によるタンゴ」)への両国の希求に留意しつつ、どちらか一国が和平交渉をリードしなくてはならない、と語った。ただしクレポン氏は、インドとパキスタンのどちらかが、その任にあたるべきかについては述べなかった。

「タンゴは、両者がいずれもリード役に回ろうとすると、美しくみえない。リード役と、ついていく役との両方が必要である。ついていくだけの強さを備えた当事者が必要なのです。」

一方ピャット氏は、インドとパキスタンは、「経済面で後押しすることがどうしても必要です。」と指摘した。

「おそらく、1998年以来のもっとも戦略的な変化は、商業的な関わりへの態度において起きた変化でしょう。今や両国は、お互いの貿易関係を増やすことによる経済的利得が大きいこと、逆にその方向に進まないことによる機会費用は高くつくであろうことに気づいているのです。」とピャット氏は付加えた。

ダルトン氏は、米国が中東和平プロセスでみせたような仲介役としての役割を南アジアで果たす余地は小さいとみている。これは、米国が「パキスタンにおいて信頼のおける相手」だとみられておらず、あまりにインド寄りだと考えられているためである。

「我々は等距離外交を標榜していますが、実際そうは見られていません。米国は、とりわけこの10年間は、インド寄りだったといわざるを得ません。」「パキスタンはこれに懸念を持ち、不安感を増大させたため、パキスタンが永続する平和のために必要な大きなリスクを伴う一歩を踏み出す可能性は後退したのです。」とチェンバレン氏は語った。

ダルトン氏は、国際原子力機関(IAEA)が、米国に替わって、地域の原子力安全訓練セッションの推進役として、インドとパキスタン保障関係の正常化に重要な役割を果たすことができるかもしれない、と考えている。南アジアにおける核惨事を回避するという共通の目的のために、両国の科学者を糾合することによってこれは成しうるかもしれない。

「インドとパキスタンの双方が、いかなる国よりもIAEAの方を信頼しているようだ。」とダルトン氏は語った。

ダルトン氏は、ソ連崩壊後、米ロ両国の科学者が協力して脆弱な[旧ソ連の]核兵器と核物質の封じ込めを行った経験を挙げた。この協力と、両国技術陣の間にその後生まれた親近感は、米ロの関与強化への道を切り開くうえで、次第に上のレベルへと広がりを見せたのである。

翻訳=IPS Japan


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「我々はみな母なる大地に根差している、ただそれを忘れているだけだ」

【国連IPS=イザベル・デグラーベ】

ティオカシン・ゴストーズさん(Tiokasin Ghosthorse)の記憶の中に残っているのは、ラコタ(スー)族の居留地を1973年から76年にかけて襲った米連邦政府による「恐怖の支配」の時期である。

これは、ラコタ族による72日間に及んだウーンデッド・ニー(Wounded Knee)占拠に続いて起こったもので、米連邦政府の連邦捜査局(FBI)、米連邦保安局、先住民問題局の警察などが、米国の先住民族集団と対峙した。その結果、FBIによる厳しい監視が続くことになった。

 サウスダコタ州シャイアンリバー居留区で育ったゴストーズさんは、当時を振り返って、「当時はみんな、政府と白人たちを恐れていました。長い髪をして、先住民族の言葉をしゃべっていると、嫌がらせを受けました。また政府やインディアン問題局に抵抗すると迫害されたのです。」と語った。

「それでも先住民の人々は政府の不当なやり方に対して立ち上がりました。しかし先住民の人々が抵抗すればするほど、政府による嫌がらせも酷くなり、ついには住民らを過激派やテロリストに変貌させていったのです。」

「当時私たちは部族の歌を歌うことも、自分たちの言葉を話すことも、祈ることさえも許されなかったのです。」と、ゴストーズさんは語った。

ゴストーズさんは現在、世界放送協会(WBAI、米ニューヨーク州のコミュニティーラジオ)の「ファーストボイス・先住民族ラジオプログラム」の司会を務めている。チェダーフルート(杉の木で製作したフルート)の名人でもあるゴストーズさんは、ラジオの持つ伝達力と音楽という共通の言語を駆使した活動を展開している。

1978年、「アメリカ・インディアン信教自由法」が施行され、ようやく米国の先住民コミュニティーにも、先祖伝来の信教に則った精神活動を行う法的な権利が保障された。

しかし今日に至るまで、米国の先住民による精神活動を巡っては、連邦政府と先住民コミュニティーの主張が対立したまま、泥沼の様相を呈している。

先住民族らが神聖なる土地に対する権利と先祖伝来の精神的な生活様式を守る権利を訴えているのに対して、米連邦政府は、おもに石油や天然資源に対する権利を確保したい思惑から、その主張を認めていない。

今年、先住民族の権利に関する国連特別報告官のジェームズ・アナヤ氏が米国において12日間に及ぶ調査を行ったが、米連邦政府は、1930年代にさかのぼる法律を根拠として、土地の所有権を主張していた。

「十字架ならどこにでも持ち運んで建てられますが、先祖伝来の作法に則って鷲の羽根を埋めようということになると、当局を相手に相当な手続きを覚悟しなければなりません。当局は、私たちの先祖伝来の慣習に対しては、上から見下した態度で臨み、私たちの主張に耳を貸そうとしません。米国の先住民の文化が絶えようとしているようにみえるのはこのためなのです。」と、ゴストーズさんは語った。

ゴストーズさんは14歳のとき、様々な疑問を胸に、答えを求めてシャイアンリバー居留地を後にした。

「どうして白人の生活様式が基準にならなければならないのか?どうしてそれが文明化したということになったり、新しい或いはより向上した生活様式ということになってしまうのか?…」結局、ゴストーズさんは、こうした疑問に対する回答が、先住民に対する捻じ曲げられたイメージに基づいて作り出されているものだということに気づいた。

ファーストボイス・先住民族ラジオプログラム

ゴストーズさんは、こうした世の中一般の先住民族に対する捻じ曲げられたイメージについて、先住民の文化と考え方を復興させ、現代と伝統的な要素が交じり合う先住民の生活様式を正確に反映させたいと考えている。

「私が担当している先住民族ラジオは、こうした私たちの思いを広く世界に向けて伝えていく重要な手段の一つだと考えています。」と、ゴストーズさんはIPSの取材に対して語った。

ゴストーズさんは、政府が吹聴してきた先住民族に蔓延する肥満やアルコール中毒といったトピックばかりを取り上げ、問題の根本原因に迫らない米国の主流メディアに批判的である。ゴストーズさんは、一つの文化に異なる文化を押しつけ続けることから生じる弊害を認めようとしないのは、狭い視野に他ならないと感じている。

ゴストーズさんは、米国市民の全国平均を遥かに上回る貧困・失業率など、先住民の置かれている現状を示す衝撃的な統計を指摘する一方で、ラコタ居留地の先住民の人生には貧困にまつわる話だけではないことも、強調している。

「先住民をとりまく現状は実に悲しいものがありますが、一方で先祖伝来の文化をよく調べ、存続させる努力を展開している人たちもいます。このように居留地では各地に伝統文化を保存したり、復興を目指す動きが見られます。しかしこうした側面は、殆ど話題に上りません。」とゴストーズさんは語った。

ゴストーズさんは、先住民族が直面している厳しい現実を隠そうとはしない。ラコタ居留地では、若者の自殺が高い比率を示しており、さらに近年は心中事件も多発し、多くの遺族を悲しみの淵に追いやっている。しかし一方で、「若者らの中には、積極的に伝統儀式に参加し、祖先伝来の作法を受け継ごうと努力しているものや、先人がかつてしていたように、居留地の各地から野生の食料(苺や各種野菜等)を調達して家の前に菜園を作るものも見受けられます。彼らは、そうした野生の食料が生えている場所や菜園にそうした植物を植える際に歌う伝統的な歌も知っているのです。」とゴストーズさんは語った。

「こうした若者らには2つの知性―つまり米国社会における知性と伝統的なラコタ社会における知性-が共存しています。彼らは生き残っていくために、私の世代と母の世代双方の遺産を継承しているのです。」とゴストーズさんは語った。

音楽という共通言語

ゴストーズさんは、音楽が持つ共通言語こそが、異文化間の相互理解を促進していくとともに先住民文化が存続していくうえで、重要な役割を果たすと確信している。

またゴストーズさんは、チェダーフルートの名手として、アメリカ先住民の伝統楽器の復興に重要な役割を果たしてきた。

ゴストーズさんは、ラコタ族の文化を伝える手段として、欧州の現代楽器と先住民族の楽器の融合を図るなど、積極的に音楽を活用している

「音楽はラコタ族の言語のように、私たちの『心の言語』を引き立ててくれます。これは理屈や頭で考えるものではなく、感覚的なものなのです。」と、ゴストーズさんは語った。

「ラコタ語には、支配や排除に相当する言葉が存在しません。そして音楽はそれぞれの文化における語彙を反映させることができるのです。私たちは、先住民族と欧州の楽器を組み合わせることで、2つの音の融合を図っているのです。」とゴストーズさんは語った。

その結果、二つの楽器は融合し、どちらかが他方を支配するような関係に立たず、むしろ互いに影響を与え合い、引き立てあっている。

ゴストーズさんは、彼の音楽の中に流れる先住民音楽の響きを通じて、「聴衆に自らのルーツを感じてもらえるような演奏を目指したい」としている。

「演奏を聞いてくれた人々の多くが、音楽の中に何か太古の雰囲気を感じる、といってくれます。つまり、私たちは皆、母なる大地に根差しているのです。たんに、自分たちがいかに先住性を持っているかを忘れてしまっているだけなのです。」とゴストーズさんはIPSの取材に対して語った。

ゴストーズさんは、「音楽は、私たちに、母なる大地に寄生する存在ではなく、母なる大地と共に生きていく人間としての同義的責任があることを気づかせてくれいます。」と語った。(原文へ

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