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ムバラク裁判の映像は中東全域に衝撃をもたらした

【アブダビWAM】

「元大統領が一般法廷で裁かれ在任中の業績について一般市民が判定を下すことを許されるというのは中東アラブ諸国では前代未聞のことである。」とアラブ首長首長国連邦(UAE)の日刊紙が報じた。

ガルフ・ニュースは「ムバラク氏の公開審問は開放的な経験である」と題した論説の中で、「30年にわたってエジプトを圧政的に支配してきた人物が法の裁きを受けるために出廷するのを目撃することは開放的な極めて痛快である。」と報じた。

 「世界各地のアラブ人にとって、カイロの法廷に出廷したホスニ・ムバラク前大統領が格子越しに映し出される映像はショッキングであるとともに気分を高揚させる出来事であった。ムバラク前大統領は中東の権力構造の中枢に君臨してきた人物だけに、彼がかつて捏造の嫌疑をかけて政敵を裁いていったと同じ檻に覆われた被告席に出廷を余儀なくさせられる光景はトラウマにも似た複雑な印象を想起させるものであった。」と同紙は報じた。

「ムバラク前大統領と2人の息子は、かつて彼の政敵たちがそうしたように、自らにかけられた嫌疑を全て否定した。しかし少なくとも彼らは法廷に出廷させられ、一般民衆は彼らに対してかけられた嫌疑に関する様々な証拠について裁判での議論を目の当たりにしていくことになるのである。」と同紙は付加えた。

ムバラク裁判は現代アラブの指導者が完全な形で法定の裁きを受けた最初の事例である。ちなみにこれに最も近いケースがサダム・フセインの裁判だが、この場合フセインは2003年に米軍に捕えられ、裁判は米国が実効支配する当時のイラク政権との密接な相談の下に開設されたものであった。チュニジアのザイン・アル=アービディーン・ベンアリ前大統領も今年になって裁判にかけられ有罪を宣告されたが、同紙はサウジアラビアに亡命しているため事実上欠席裁判であった。

ガルフ・ニュースは、8月3日のカイロ法定からの映像は全アラブ世界に強烈なメッセージを発することとなったと強調した。

「そして今回の出来事はアラブ世界をより良きものとした。」と同紙は締めくくった。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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国際原子力機関が核の「ならず者国家」を批判

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国際原子力機関(IAEA)は、7月27日、国連加盟国であるイラン・北朝鮮・シリアの3カ国について、核不拡散条約(NPT)の下での国際的義務に従うことを拒絶し続ける核の「ならず者国家」として名指した。

IAEAの天野之弥事務局長は、3か国を直接名指しして、2009年12月の就任以来、核の検証に関する自身のアプローチは「きわめてわかりやすいもの」であったと語った。

 天野事務局長は、長野県松本市で27日から3日間にわたって開催された「第23回国連軍縮問題会議 in松本」において、「加盟国とIAEAとの間で結ばれた全ての保障措置協定、及び国連安保理決議のようなその他の関連する義務は、完全に履行されねばなりません。」と語った。

現在核兵器保有国には、NPTで公式に認定されている5カ国(米国、英国、ロシア、フランス、中国)と、非公式の核兵器保有3か国(インド、パキスタン、イスラエル)がある。

非公式の核兵器保有3か国は、いずれもNPTの署名を拒否し、IAEAの監視からも逃れている。他方で、公式の核兵器保有5カ国はNPT加盟国である。

北朝鮮は、核兵器を保有していると広く信じられている。イランは核兵器開発計画を積極的に進めていると疑われているが、自身は強く否定している。シリアは、失敗に終わったものの核兵器開発を進めようとしていたことについて非難されている。

イラン・シリア両国はNPTの加盟国である。一方北朝鮮は、2003年1月にNPTを脱退していることから、条約上の義務はないと主張している。

しかし、北朝鮮は、国連加盟国として、IAEAと国連安保理の決議には従う義務がある。

天野事務局長は、「ご承知のように、2009年4月以来、IAEAは北朝鮮においていかなる保障措置も実施できていない」と指摘し、北朝鮮の核計画は「重大な懸念の対象」であると語った。

昨年、北朝鮮が新しいウラン濃縮施設と軽水炉を建設中であると報じられた。

これらの報道が事実ならば「きわめて深刻な事態になる」と天野氏は語った。

天野事務局長は北朝鮮に対し、同国を強く非難し制裁をかけたIAEA総会の決議や国連安保理決議を完全に履行するよう強く求めた。

同じく非難されているイランは、自国の核開発は「平和目的」のみのものであると明確に主張している。

しかし、国連安保理もIAEAもこうした見方を採っていない。
 
天野氏は、「イランは、未申告の核物質や核活動が存在しないとの信憑性のある保証をIAEAが与え、したがってイラン国内のすべての核物質は平和目的であると結論づけるために必要な協力を怠っている」と指摘した上で、イランに対して、「核計画が完全に平和目的のものであるという国際的信頼を勝ち取るために、すべての関連する義務を果たすよう」求めた。

なおシリアについてIAEAは、2007年にデイル・エッゾール(Dair Alzour)で(おそらくイスラエルの空爆によって)破壊された施設は、IAEAに対して申告義務があった原子炉であった可能性が極めて高いとの結論を出している。しかし、実際には申告されなかった。

IAEA理事会は、6月9日、シリアが「保障措置協定上の義務を果たしていない」ことを非難する決議を採択した。

他方でIAEAは、既存の非核兵器地帯の有効性と、中東への非核兵器地帯設置を検討する国際会議を招集する可能性について加盟国と協議している。

しかし、当面は2012年に予定されている『中東非核兵器地帯の設立に関する会議』は、アラブ諸国を席巻している政治的動乱と、それが自国の安全保障に及ぼす悪影響についてイスラエルが懸念しているため、開催が危ぶまれている。

長く待ち望まれたこの会議は、2010年5月に国連本部で開催されたNPT運用検討会議において189の加盟国が承認したものである。

イスラエル政府は、NPT運用検討会議の成果文書を批判する一方で、2012年の会議への参加については、態度を明らかにしていない。


しかし、イスラエルを取り巻く政治環境は、アラブ世界を席巻している民衆蜂起と政治変革の波を受けて、親イスラエル的であったエジプトのホスニ・ムバラク大統領が追放されるなど、ますます敵対的なものとなっている。イスラエルはこうした情勢の変化を受けて、とりわけ自国の安全保障に関する懸念を強めている。

イスラエルは、非公式の場では、核兵器こそが最もよく自国の安全を保証するものであるとの見解を示している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

正義への長く困難な道のり

【ニューヨークIPS=エリザベス・ウィットマン】

フレディ・ペセレッリをはじめとする法医人類学チームの仕事は、人間の骨をその他のもの―靴とか衣服、IDカード―などから分類することだ。彼らが泥にまみれた骨を掘り出すのは、グアテマラのラベルバナ墓地である。ここには、1960年から96年にかけての内戦の間、無数の死体が放り込まれた。

2010年の映画「グラニート:独裁者の捕え方」(監督:パメラ・イエーツ、パコ・デオニス、ピーター・キノイ:下記映像資料参照)は、内戦時の人道に対する罪を裁くために奮闘するグアテマラ法医人類学財団の動きを追っている。特に焦点を当てているのは、1982年3月から83年8月まで軍事独裁者であったリオス・モントをスペインの法廷で人道に対する罪に問うことを目指す被害者らのたたかいだ。

 1996年、内戦終結に伴って設置された「グアテマラ真実委員会」で、1982年をピークとして起こった虐殺と強制失踪の実態が明らかにされた。「正義責任センター」の推計では、犠牲者は20万人とも言われる。

「グラニート」の監督イエーツは、1982年、グアテマラで映画「山が震えるとき」を撮っていた。米国の支援する軍事独裁に対するゲリラを描いたものだ。

ニューヨークで始まった「ヒューマン・ライツ・ウォッチ映画祭」では、「グラニート」「山が震えるとき」のいずれもが上映されている。

他の映画は、たとえば、アンガス・ギブソン、ミグエル・サラザール監督の「ラトマ」(包囲)。1985年にコロンビアのボゴタで起こった事件がテーマだ。ゲリラによって占拠された「正義の宮殿」を軍が包囲し、94人が死亡、12人が行方不明になった。
 
遺族らは依然として責任者追及の手を緩めておらず、2010年6月、包囲作戦の責任者だったアルフォンゾ・ベガ大佐が禁固30年に処された(未収監)。

これらの映画が私たちに提示する問いは、これだけ多くの罪が犯されながら、なぜ裁きが下されていないのか、ということだ。

ギブソン監督は言う。「裁判と有罪判決だけで裁きが下されたとはいえない」。彼女は、チリのアウグスト・ピノチェト元大統領の例を挙げる。ピノチェトはロンドンで捕らえられスペインに送られたが、そこで裁判にかけられることはなかった。しかし、と彼女は言う。「彼の遺産は破壊されたのです」。

映画を通じてラテンアメリカ軍事独裁の責任を追及し続ける人びとについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

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貧困国が難民受け入れ負担の大半を負っている(アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官)

【ナイロビIDN=ジェローム・ムワンダ】

世界の先進各国は、ことある毎に、途上国からの移民がそうでなくとも堅調でない自国の経済に負担になっていると不平を漏らすが、この度国連は、そうした先進国のステレオタイプを覆す報告書を公表した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、「世界難民デー」にあたる先月20日、「2010年世界の動向レポート」を発表し、難民受け入れの負担を受けているのは、富裕国ではなく、難民の絶対数からも、また、ホスト国の経済規模から見ても、圧倒的に貧困国(全世界の難民の8割が居住)である実態を明らかにした。

 先進44ヶ国への難民申請数はこの10年間で約4割減少した。2001年には62万件、2010年には35万8800件であった。アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官(右写真の人物)は、「近年、世界的な難民申請の動向は変化してきています。」と語った。

難民申請者の出身国をみると、2010年に最も多かったのはセルビア(コソボを含む)出身者で、しかも昨年の18,800人から28,900人へと急増している。この点についてUNHCRは、「セルビアのパスポート保有者に対してビザなし入国を認めた欧州連合(EU)の2009年12月の決定の影響が大きい。」と解説している。

他に多くの難民を出している国は、アフガニスタン、中国、イラク、ロシア、ソマリア、イラン、パキスタン、ナイジェリア、スリランカである。
 
グテーレス難民高等弁務官は、引き続き途上国が難民申請者の大半を受け入れている現状と、中にはリベリアやチュニジアのように、国内問題を抱えながら受け入れ国になっている国もある点を指摘した。

一方先進国の中でもっとも難民受け入れが多いのが米国で、2010年には中国、メキシコ出身の難民申請者が増加したのを背景に5万5000件を記録した。これに続くのがフランスで、4万7800件、主にセルビア、ロシア、コンゴ民主共和国からの難民を受け入れている。その他にドイツ、スウェーデン、カナダがトップ5に入っている。

UNHCRは、難民申請者を「国際社会に保護を求め、難民としての地位が未だ確定していない個人」と定義している。難民申請者は、1951年の「難民の地位に関する条約(Convention Relating to the Status of Refugees)」の基準を満たせば難民として認定される。

UNHCRの「世界の動向レポート」で挙げられた難民受け入れ国の内訳は欧州連合の27加盟国、アルバニア、オーストラリア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、カナダ、クロアチア、アイスランド、日本、韓国、リヒテンシュタイン、モンテネグロ、ニュージーランド、ノルウェー、セルビア、スイス、トルコ、米国、マケドニアである。

同レポートによると、現時点でもっとも多くの難民を受け入れているのは、パキスタン(190万人)、イラン(107万人)、シリア(100万人)である。一人当たりの国内総生産に占める受入難民数でみると、パキスタンが1ドル当たり710人で、最も経済的に負担を負っていることが分かる。これにコンゴ民主共和国の475人、ケニアの247人が続いている。

「こうした国際保護の実態については憂慮せざるを得ません。難民の殺到を恐れる先進国に広がる感情は大げさに誇張されたものか、移民の流入問題と混同したものなのです。一方で現実はずっと貧しい国々が実質的に負担を負わざるを得ない事態に置かれているのです。」とグテーレス氏は付加えた。

全体的に、最新のレポートはUNHCRが設立された60年前とは大きく変化した移民を取り巻く環境を描いている。UNHCR設立当時の取り扱い件数は、210万人で、第二次世界大戦の結果発生した欧州の難民が対象であった。今日UNHCRが受持つ国地域は120カ国を超え、保護対象者も国外への移転を余儀なくされた人々に止まらず国内難民も含まれる。

現在、世界には4370万人の出身地・居住地を追われている人々がいる。この人口を国に置き換えると、コロンビア或いは韓国の全国民、或いはスカンジナビア諸国とスリランカの全ての国民の合計に相当する。

そのうち、内戦による被害者が2750万人、難民が1540万人(うち、パレスチナ関係が482万人)、難民申請者が83万7500人である。ちなみにこれらの数字には、今年発生したコートジボワールとリビアの国内難民は含まれていない。

また同レポートは、いくつかの主要紛争が長引く傾向にあることから、「難民状態の長期化」が近年深刻になってきている問題を指摘している。因みにこの定義(UNHCRの定義で5年以上を指す)に該当する難民の総数は昨年720万人で、2001年以来最も多い人数を記録した。一方、昨年故郷への帰還を果たした難民の数は僅か197,600で、1990年以来最も少ない人数だった。
 
2001年と2010年の統計を比較すると、いずれもアフガン難民が全体の3分の1を占めている他、イラク、ソマリア、コンゴ民主共和国、スーダンからの難民がいずれもトップ10入りしている。この状況についてグテーレス氏は、「将来に希望を見出せない難民があまりにも多すぎます。国際社会は不安定な状況にある難民を無期限に放置することで、彼らを見捨ててしまっているのです。途上国が、難民の受け入れに関して今日のような過重な負担を支え続けることは困難であり、先進各国には難民の再定住受入枠を大幅に見直し、今日の不均衡を是正する取り組みが求められています。それと並行して、難民が帰還できるよう、長引く紛争に終止符を打つべく和平の取り組みを強化する必要があります。」と付け加えた。

各国から「無国籍者」として報告される人々の数は、2004年以降増加し続けている。しかしUNHCRは、各国が採用する定義や調査手法等の違いにより、正確な実情を把握するのが困難と指摘している。例えば、昨年の「無国籍者」の総数は350万人で、この数値は2009年の総数の半数と激減しているが、これは主にいくつかのデータ提出国が調査手法を変更した結果であることが判明している。ちなみに、「無国籍者」に関する非公式な総数は1200万人近くと見積もられている。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

|北朝鮮-中国|人妻として売られる脱北者達

【ソウルINPS=アン・ミヨン】

脱北して中国側の国境の街に逃れる北朝鮮人の数は増加しており、女性の数が男性を上回っている。「過去数年間で中国に脱北した北朝鮮人の数は約200,000人に及ぶがその7割を女性が占めている。」と自らも亡命経験があり現在は脱北した同胞の人権擁護にあたっているキム(Kim Tae Jin)氏は語った。

北朝鮮の男性の場合、現地に不案内なことから警察当局に密告され北朝鮮に送還されるリスクが高いため脱北を躊躇するものが少なくない。キム氏は、「さらに、少ない仕事を中国人と競っても北朝鮮の男性にほとんど勝ち目がないのです。」と語った。

対照的に北朝鮮の女性たちは、若い者であれば、国境地帯の中国側農村で農夫の嫁として売られたり、より年配の者は、レストランやカラオケルームなどで働いている。「私たちは、脱北した北朝鮮女性の約80%が中国人男性に売られているとみています。彼女たちは、中国に越境後は、北朝鮮への強制送還を恐れるあまり、どんなにひどい扱いをうけても声を潜め、命令に従う傾向にあるのです。」とキム氏は語った。

 そうして花嫁として売られた女性の中にはなんとかその境遇から逃れて韓国までたどり着いた者もいる。「中国人の夫は、いつも私を買うためにいくら払ったかしつこく言ってきました。当時私は彼の所有物であるかのような錯覚を覚えたものです。」とある脱北者の女性は語った。

報告によると15歳前後の北朝鮮人の少女達が花嫁として売られている価格は、体調にもよるが、1人当たり3000元から10,000元(463ドル~1500ドル)である。

「中朝国境地帯の中国側の村々を訪れた時、中国人農夫に嫁がされた十代の北朝鮮人の少女たちの集団をしばしば見かけました。彼女たちは和気あいあいと肩を寄せ合って生活していました。彼女たちにしてみれば、他に選択肢がないのです。つまり、北朝鮮の国境警備兵に捕まって本国に強制送還されるのが、彼女たちにとってはなによりも恐ろしいのです。」とキム氏は語った。

しかし中国でのあまりにも過酷な現実に直面して、あえて帰国を考えた女性たちもいた。「私は中国に脱北したものの、中国では辱めを受け、恐怖と屈辱に満ちた体験をしました。そうした生活の中で、北朝鮮の故郷を懐かしくさえ思ったものです。祖国での生活は飢えとの闘いでしたが、少なくとも市民という立場がありました。でも中国では、私は自分の存在を消して愚かな女を演じなければなりませんでした。」とヨウ(Yoh Su-Wa)氏は語った。ヨウ氏は中国に4年滞在したのち韓国への亡命をはたした。
 
北朝鮮での女性の立場は厳しいものである。北朝鮮政府は、230万人の国民に食糧を確保するよりも核兵器開発やミサイル実験を優先しており国は困窮を極めている。それにもかかわらず、北朝鮮の女性は、あらゆる障害に立ち向かう強い意志を持った勇敢な人物であることが期待されている、と脱北者達は語った。

「大黒柱の父親に甲斐甲斐しく尽くす母親や妻といった伝統的な家庭のイメージに反して、北朝鮮の家庭では母親が主導権を持っていることが多い。」と脱北者達は付け加えた。
 
1990年代の飢饉で北朝鮮の食糧配給制度は崩壊したため、女性たちは飢えから家族を守るため街頭にでざるを得なかった。北朝鮮各地に闇市がたち、市民はあるものすべてを持ち出して売り買いをした。家庭への配給が減り続ける中、生き延びるためには、闇市で持てるものを売るか、物々交換で食糧を手に入れるしかなかった。

北朝鮮では、国営工場が相次いで閉鎖し殆ど稼働していない中で、大半の男性たちは収入の術を失っている。そしてそうした男たちに代わって通常女性が一家の主な稼ぎ手となっている。

「おそらく父は、一生懸命働いても働かなくても均等に配給がなされる共産主義の制度に慣れてしまっていたのだと思います。闇市で行商するのは恥ずかしいと考えていたようです。」と2000年代初頭に韓国へ亡命したリー(Lee Sung-Min)氏は語った。

韓国への亡命を果たした女性の多くは、ビル清掃やウエイトレス、家政婦等の仕事を見つけている。「男性よりも女性の方が韓国での新たな環境により早く適応している傾向にあります。」とキム氏は語った。

一方、韓国に亡命した男性たちは女性たちよりも就職に苦労している。キム氏によると、たとえ就職できても、すぐに辞めるものが多いという。「北朝鮮出身の男性たちは、努力や結果次第で異なった扱いをする韓国の労働文化に馴染めないのです。」とキム氏は語った。

ソウルで脱北者への支援に取り組んでいるオンヌリキリスト教会のリー(Lee Hoon)牧師は、「北朝鮮から長く過酷な旅路を経てソウルにたどり着いた脱北者は、いわばその過程で片腕を失ったようなものなのです。そのような状態で建築現場で働いても韓国人男性には到底かなわず、辞めざるを得ないということになるのです。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan戸田千鶴

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五大国が核軍縮について協議

【ロンドンIDN=トニー・ロビンソン】

国連安全保障理事会で拒否権を持つ五大国(米国、英国、中国、フランス、ロシア:いわゆるP5)が6月30日と7月1日の両日パリで会合を持ち、地球の生存と関係する大問題について協議した。その問題とは、核軍縮のことである。

この会合は、2010年5月にニューヨークで開かれた核不拡散条約(NPT)運用検討会議と、2009年9月にロンドンで開かれた、軍縮と不拡散に向けた信頼醸成措置に関する会議のフォローアップとして開催された。

 核兵器保有五大国は、予想どおり、NPT体制と2010年NPT運用検討会議での行動計画への無条件の支持を再確認した。パリ会合での明確な成果としては、ロンドンで2011年内に技術専門家会合を開いて検証問題の議論を継続するとしたこと、2012年5月に次のNPT再検討サイクルが始まるときにウィーンで再度会合を持つと決めたことであろう。

今回の会合では主に透明性と相互信頼の問題が協議された。確かに望む条約なら何でも署名することが可能である。しかし、西側が人権や資源の支配をめぐって好戦的な態度を取っていることを考えれば、軍縮が検証措置によって証明されなければ、中国やロシアがみずからの核抑止力を放棄することはないだろう。なぜなら、その核抑止力こそが、米国に対する唯一の交渉材料として機能するように見えるからである。この点については、北朝鮮の例を見ればわかりやすい。

たとえ地球上の写真を1平方メートルごとに衛星で撮っていたとしても、検証措置がいかにして可能なのかを想像することは難しい。五大国のすべてが、合法で十分なレベルの通常兵器技術を保有している。中国、ロシア、米国には、地球上のあらゆる場所に対して爆弾投下が可能なロケットを制作する宇宙計画があり、欧州にも南米からロケットを打ち上げる独自の宇宙計画がある。

アフガニスタンで実際に使用できるまでに開発が進んでいる米国の無人機技術は、運搬技術がますます先端化していることを示している。そしてもちろん、P5のすべてが、それぞれがまさに軍事用途で開発してきた原子力発電所で生産される、爆弾用の核物質を保有している。

これらすべての要素が手元にあるとすれば、世界のすべての国がNPTに100%従っていたとしても、新たに核兵器を製造するのに数ヶ月以上はかからないだろう。40ヶ国以上がすでに原子炉を保有しているか、今後保有する計画を持っている。

P5による議論のもうひとつの領域は、条約からの脱退という問題である。NPT第10条は、国連へ3ヵ月前に通告すれば、条約から脱退することができると定めている。ただし、「自国の至高の利益を危うくしていると認める異常な事態についても記載」することが条件である。

この条項をこれまでに発動したのは北朝鮮だけだが、P5にとっては他国がこれに追随することがないようにすることが至上命題である。この点についてイランに対するメッセージは明確である。イランが原子炉を開発しており、ウラン濃縮技術が核爆弾製造可能なレベルに達しているとすれば、イランがみずからのエネルギー政策は安全なものであるとの意図を明確にするかどうかに関わらず、同国が北朝鮮と同じ方法で自国の安全保障を担保しようと試みている意図を疑う国はないだろう。

イランの動きはNPTにとって大きな制約となっている。というのも、サウジアラビアのトゥルキ・ファイサル王子がつい最近、英国でのある会合において、もしイランが核兵器を開発するならサウジアラビアもそれに続くとNATOに通告したのである。

NPT

NPTの重要性は、それが、核科学の平和目的と軍事目的の微妙なバランスの上に成り立っている点にある。石油や石炭、ガスの供給に限界があることを見越して、制御された原子炉の中で膨大な量のエネルギーを放出させるポテンシャルは、アルベルト・アインシュタイン博士がE=mc2という等式を発見して以来、世界全体が何とかして利用しようと試みたものである。

唯一の問題は、ウランによって生み出された核エネルギーの副産物が、核兵器にとっては不可欠の要素となるプルトニウムであるという点である。

NPT創設時に取り組まれた問題は、核兵器を作るだけの量のプルトニウムを集積することを否定しながら、いかにして加盟国に核エネルギーへの「権利」追求を認めるのか、ということだった。

こうしたパラドックスのなかから、三本柱として定式化されるNPTが生み出されることになる。三本柱とは、1)P5以外の国への核兵器の不拡散(第1条・第2条)、2)既存の核兵器国による軍縮(第6条)、3)核エネルギー追求の「権利」である(第4条)。

NPTが交渉されたのは1960年代のことである。つまり、スリーマイル島やチェルノブイリ、福島第一の原発事故が、放射性物質が原子炉の格納容器を突き抜け人類の制御から逃れるときに引き起こされる恐怖を見せつけ、世界の意識をかき乱すはるか前のことである。そしてまた、原子力産業が米国をはじめ各国で巨大なロビー勢力に成長するはるか前のことである。

現在190ヶ国がNPTに加盟している。しかし、P5よりも後に核クラブに加入したインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の4ヶ国のすべてが、NPTに加盟していない。世界の核軍縮交渉が困難に陥っている所以である。

三本柱

NPTの三本柱に関して、世界は今どういう位置に立っているのだろうか?

◆不拡散:1970年には5ヶ国のみが核兵器製造能力を持つ地点にいたが、その後、核兵器国は全部で9カ国になった。インド(1974年)、パキスタン(1998年)、北朝鮮(2006年)があり、核保有を否定も肯定もしないが実際には保有していると広く考えられているイスラエルがある。

さらに、5つのNATO諸国(ベルギー・オランダ・ドイツ・イタリア・トルコ)が、NPT第1条・第2条に違反して、米国の核兵器の自国領土への導入を認めている(核兵器共有政策)。イランの意図に関する疑いは残っているが、本稿執筆時点では、イランが実際に核保有に至る段階に近づいていると考える者はいない。

◆核エネルギー:国際原子力機関(IAEA)によると、29ヶ国が原子力発電所によってエネルギーを生み出しており、さらに18ヶ国が原子力発電所の計画、建設、調査段階にある。

◆軍縮:約6万5000発の核弾頭―そのそれぞれが日本に落とされた2発の核爆弾より格段に大きい破壊力を持つ―と相互確証破壊(MAD)というドクトリンの存在した冷戦の高揚期からソ連崩壊以降にかけて、核弾頭の数は減ってきた。現在世界の弾頭数は約2万2000発で、その9割を米国とロシアが保有している。

核軍縮の進展を妨げているものは、核兵器製造がひとつの巨大産業になっているという事実である。「グローバル・ゼロ」によれば、今後10年間で、核兵器だけのために1兆ドルもの資金が費やされるだろうという。これは莫大な額であり、核兵器産業の関係者なら、この状況をなんとか長続きさせようと必死になるであろう。

CTBT

P5パリ会合は、核爆発実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)を議題とした。P5のうち、米国と中国はまだ同条約を批准していない。イランとイスラエルは署名だけは済ませているが、インドやパキスタン、北朝鮮は、署名すらしていない。

バラク・オバマ大統領は、CTBT批准を2008年の大統領選の公約の一つにした。配備されている核弾頭の数を減らす新STARTの批准を共和党優位の上院で勝ち取るための条件として、核兵器近代化計画に1850億ドルもの出費をオバマ政権が強いられたことを考えると、彼の2期目中に予想されるCTBT批准に向けた努力がいったいどれだけのものと引き換えにされるのか、考え込まざるをえない。

FMCT

P5パリ会合で関心を集めたもうひとつの条約は、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)である。これは現在、軍備管理・軍縮問題を話し合う国際機関であるジュネーブ軍縮会議(CD)の議題になっている。

CDは過去に、生物兵器や化学兵器を禁止する条約の確立に向けた議論の場になったこともある。現在はFMCTを交渉する任務が与えられているが、パキスタンが作業プログラムへとつながるすべての動きを拒絶している。

非核中東

最後に、P5パリ会合は、非核地帯を中東に設立するための2012年の会議開催に向けて取られているステップを歓迎した。地球のほとんどの地域はすでに非核地帯で覆われており、1995年のNPT運用検討会議以来、中東の非核地帯化は常に議題であり続けてきた。イランはしばしばこうした方向性を主唱し、2010年5月のNPT運用検討会議で、この行動計画[訳注:2012年に中東非核地帯化に向けた国際会議を開くこと]が合意され、イスラエルに非核兵器国としてNPTに加わるよう呼びかけられたことは、驚きであった。

これは、きわめて興味深い見通しを与えてくれる。イスラエルは広く核兵器国だと考えられているが、「あいまい政策」を長らく採ってきた。2010年のNPT運用検討会議は、イスラエルを名指しして条約署名を求めた。これはイスラエルにとって驚きであり、[再検討会議の]最終合意は「著しく欠陥があり偽善的なものであり」、「中東の現実と、中東と世界全体が直面している真の脅威を無視するもの」だという政府声明が出されることになった。

同声明は、「イスラエルは、NPT非加盟国として、イスラエルに対して何の権限もないこの会議の決定に拘束されることはない。この最終決定はゆがめられたものであり、イスラエルはその履行に加わることはできない」と結論付けている。

これは2010年に起こったことである。それ以降、イスラエルを取り巻く環境は相当に変わっている。「アラブの春」がチュニジアとエジプトの政府を崩壊させ、リビアとシリアでは内戦が起こり、バーレーンやイエメンなどでは民衆からの絶え間ない抗議活動が続いている。

P5は2012年に中東非大量破壊兵器地帯化に関する会議を開くために米国・ロシア・英国がとった措置を歓迎したが、会議が実際開かれるかどうかはまだわからない。

市民社会

しかし、各国政府がいっこうに軍縮交渉を始めようとしないことに業を煮やした市民社会は、圧力をかけ続けるための活動を続けている。約200の反核団体からなる核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、P5パリ会合に合わせて、6月25日を「2011年核廃絶の日」と宣言し、市民の意識を高め世界の関心をフランスでの会合に向けさせるよう25ヶ国でイベントを行った。

1984年のノーベル平和賞受賞者であるデズモンド・ツツ師は、圧力をかけ続けるよう市民社会に呼びかけた。「プロジェクト・シンジケート」に掲載されたコラムでツツ師はこう書いている。「我々は、一部の国だけが核兵器を持つことが正当であり他国がそれを持とうとすることは許容されないという核のアパルトヘイトのシステムを許してはならない。そうしたダブル・スタンダードは、世界の平和と安全の基礎にはなりえない。NPTは、五大国が核兵器に永久に固執することを認める免状ではない。国際司法裁判所は、核兵器の完全廃棄に向かって核兵器国が誠実に交渉に臨む義務があると判示しているのである。」

ツツ師はさらに、「都市を丸ごと破壊するとの脅しがいかに非人道的であるかということを各国政府が認めるようになるときが来るであろう。こうした兵器は不必要であり、暴力の支配ではなく法の支配が至高のものと認められ、協力こそが国際平和をもっともよく保証するものであるような世界を目指して、彼らはともに努力するようになるであろう。」と付け加えた。

これは「反核の春」への呼びかけである。人々は耳を傾けるであろうか?残念ながら、メディアが核の惨禍に注目するようになるまでは、答えはおそらく「ノー」だろう。

60年代の核の愚行に向かう時代の中で、ジョン・F・ケネディ大統領は、核兵器廃絶への動きを生み出すべく、国連でこう演説した。「今日、地球上のあらゆる生物が、この地球がもはや住める場所ではなくなってしまう日のことを考えざるを得ない。老若男女が核の『ダモクレスの剣』の下で生きている。その剣はきわめて細い糸だけで吊るされており、偶然にか勘違いによってか、あるいは狂気によってか、いつでも断ち切られてしまうようなものである。戦争の兵器は、それが私たちを滅ぼしてしまう前に、廃絶されねばならない。」

この演説から50年後、核はまだこの世界にある。核のホロコーストの脅威も消えていない。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【イスタンブールWAM】

リビア情勢をめぐる「連絡グループ」の第4回外相級会合が7月15日にイスタンブールで開催され、参加各国は、リビア反政府勢力であるリビア国民評議会(NTC)を同国の正当な統治組織として承認することで合意した。

TNCはカダフィ政権と対峙していくために従来より財政支援を求めていたが、今回の決定によって今後「連絡グループ」による財政支援が可能となる。

 今回の「連絡グループ」外相級会合は、アラブ首長国連邦(UAE)とトルコの外相が共同議長を務め20数カ国の加盟国・国際機関が参加して開催された。同日発表された最終コミュニケの中で、「連絡グループ」は、カダフィ政権に対する軍事作戦を継続する必要性を強く訴えた。

「連絡グループ」は、リビアの民主化移行プロセスをリードしているNTCの役割を歓迎するとともに、全てのリビア人を対象とした支持基盤拡大を目指すNTCの努力を支持する意向を示した。また、全ての関係者に対して、リビア国民の最も幅広い支持を得た新体制への平和的な権力移行を可能にする観点から、暫定政府の設立に向けた方策を検討するよう強く促した。

また「連絡グループ」は、参加各国・国際機関に対して、NTC支配下の組織に炭化水素の輸出を可能にするメカニズムの活用や、リビア国民のための凍結資産の活用、或いは国連安保理決議の関連条項に則ったNTC支援の担保としての凍結資産の活用等、既存の関連法規の枠内でNTCに対する実質的な財政支援を行うよう求めた。

「これに関して『連絡グループ』とNTCは、移行期間の中、リビア国民のために凍結中のリビア海外資産を協力して活用することに同意した。」と最終コミュニケは述べている。

また、会合の参加者たちは、こうした財政支援スキームをより安定的なものとするためにも、NTCが原油生産と輸出を再開できるよう各国の支援が欠かせない点を強調した。

またトルコのアフメット・ダーヴトオール外相(下の写真の人物)は、同日の記者会見で、次回会合を国連本部で開催し、リビア国民への支持と彼らの要求について協議する旨を明らかにした。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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│エジプト│民衆蜂起後、太陽光プロジェクトが再始動

【カイロIPS=ビビ=アイシャ・ワドバラ】

カイロはうだるような暑さだ。日影に入っても36度はある。エアコンのファンは街中でうなりを上げ、国の電気網に負担を与えている。昨夏、この都市では停電や断水が頻繁にあった。電気使用量は、2009年から13.5%増の2600メガワットに達している。

かつて古代エジプト人は太陽神ラーを崇拝した。それから数千年の時を経て現代エジプト人もようやく太陽エネルギー源を活用する重要性に気付きつつある。年間を通じた太陽光の熱射量では世界有数のエジプトであるが、ここにきてゆっくりではあるが、太陽光の利用に向けて踏み出している。

A woman lights a kerosene stove in a stairwell in Darb el Ahmar, Cairo, to heat water. Solar heating does away with this unsafe practice. Credit: SolarCITIES

カイロから南に100kmのクライマート(Kuraymat)で、120メガワットを発電するエジプト初のハイブリッド発電所の計画が進んでいる。太陽光で20メガワット、天然ガスで100メガワットを生産する。プラントは2010年12月に稼動予定だったが、何度か延期になり、1月25日に民衆蜂起が起こったことでさらに延期になった(下記の世界銀行製作の映像資料を参照)。

プロジェクトをすすめる国家機関の「新再生可能エネルギー機構」(NREA)によれば、技術を提供していたのはドイツのフェロシュタール( Ferrostaal )とフラグソル( Flagsol )だったが、民衆蜂起の影響でエジプトを離れてしまったという。現在プラントは最終調整段階にあり近日中の稼動開始を目指して準備中だ。

さらに、100メガワットの太陽光プラントが2017年供用開始を目指してコムオンボ(Kom Ombo)で、他にセメント工場のための200メガワットのプラントと民間部門のための1000メガワットのプラントも計画が進んでいるという。

これは、2020年までに再生可能エネルギーの割合を20%に増やすというエジプト政府の目標に沿ったものだ。太陽光はこのうち3分の1程度を産出することが目指されている。

一般庶民がこうした大規模発電プロジェクトの恩恵を、直接的に感じられることはほとんどないが、NREAとイタリア環境省がエジプト西部の砂漠地帯で共同実施したプロジェクトは、地域住民の生活を一変させている。アイン・ザハラ(Ain Zahra)村、ウム・アル・ザヒル(Umm al Saghir)村は西部砂漠地帯の奥地に位置するため未だにエジプトの電力網が到達していない地域である。しかし昨年12月にプロジェクトで太陽電池パネルが設置されたことで、村内の家庭、学校、モスク、病院に電気が通った。プロジェクトが開始されて約半年が経過するが、NREAの職員が今でも現地に村人に止まり技術指導を行っている。

こうした大規模プラントの他に、カイロ貧民街地区を対象にした太陽光電化プロジェクト(ソーラーシティ)も進行している。これは米国国際開発庁(USAID)の資金支援(25,000ドル)を得た小規模プロジェクトで、各家庭の屋根に取り付けられた太陽光パネル(プロジェクト全体で合計35パネル)で、たとえば温水なら家族10人が余裕で利用できる1日200リットルが供給できる。

貧困地区では、過熱装置を持てない家庭が多く、灯油ストーブで水を沸かす作業が女性の仕事となっている。とりわけ冬季には灯油ストーブの取り扱いが原因の事故が多く報告されている。しかし、プロジェクトに参加したアム・ハサイン氏(70歳)の家では、ソーラーパネルのお蔭で、家族は危険な湯沸し作業から解放された。

ムスタファ・フセイン氏は、この小規模電化プロジェクトを高く評価して「政府の電化計画は我々民衆からかけ離れたところで進められています。一方、このプロジェクトでは、私も含めて地域コミュニティーを知っている人間が地域と人々を直接巻き込むことができるのが素晴らしい点だと思います。」と語った。

しかしこのプロジェクトの問題はコストである。太陽光パネル1ユニットを導入するのに678ドルかかるが、導入しようとしている地域の平均年収は610ドルしかない。隣国のチュニジアでは、太陽光パネルの取得に政府による低利の融資を利用することが可能だが、エジプトにはそのような支援体制がない。エジプトでは依然として化石燃料の価格が安く、太陽光エネルギー関連の製品についても国内市場に競争が存在しないことから、再生可能エネルギーの普及を妨げる構造的な問題が存在するのである。

NREAのカリッド・フェクリー研究開発部門長は、輸入資材にかかる高い関税が太陽光発電の高コストにつながっていると話す。「海外の投資家はぜひエジプトに直接投資してほしい。たとえ政情がまだ安定していなくとも。」とフェクリー氏は語った。

エジプトにおける太陽光発電導入の取り組みと課題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan戸田千鶴

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「核兵器なき世界」を目指すパグウォッシュ会議とドイツ

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【ベルリンIDN=ジャムシェド・バルアー】

ベルリンでは、今年に入って2度目となる核軍縮に焦点をあてた国際会議が開催されたが、世界の安全保障にとって深刻な脅威となっている何万発にものぼる核兵器の廃絶に向けた重要な足がかりになったかもしれない。

ドイツが国連安全保障理事会の議長国に就任した7月1日、43カ国から現職及び元政策立案者や専門家約300名が参加して、第59回科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議:「軍縮と紛争解決への欧州の貢献」が開催された。なお、今回の会議(7月1日~4日)には、NATO-ロシア関係に焦点をあてる特別シンポジウム(サイモン財団シンポジウム)が初日に催された。

これに先立つ4月、同じくベルリンで、地域横断的な非核兵器国10ヶ国による「核軍縮・不拡散に関する外相会合(ベルリン会議)」が、ギド・ヴェスターヴェレ外相の呼びかけで開催された。

 その際、オーストラリア、カナダ、チリ、ドイツ、日本、メキシコ、オランダ、ポーランド、トルコ、アラブ首長国連邦の10カ国外相は、成果文書「ベルリン声明」の中で、「2010年NPT運用検討会議において合意された、特別会議の2012年における開催に向けた要請に従い、中東における非核兵器及びその他の非大量破壊兵器地帯の創出を促進する決定的重要性」を強調した。
 
ヴェスターヴェレ外相は、パグウォッシュ会議の参加者に向かって、「これ(ベルリン声明)こそが、『核兵器なき世界』の実現に向けて取り組んでいるドイツ政府の姿勢を示すものです。」と語った。会場には米露の軍備管理交渉を担う重要人物であるロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官やローズ・ゴットモーラー米国務長官補佐官も参加しており、各々核兵器削減のさらなるステップについて意見を述べた。

今回のパグウォッシュ会議には、世界の主要地域から多くのオピニオンリーダーが参加したが、その中には、8名の現役閣僚、4名の元諜報機関のトップ、数名の現職国会議員の顔ぶれも見られた。

ヴェスターヴェレ外相は、「NATO加盟国内において、ロシアとの次回軍縮交渉の議題に準戦略核兵器(=戦術核)を加えたいという要望があります。核兵器の脅威から解放された世界、すなわちグローバルゼロの実現こそが、私たちの長期的な目標なのです。そして私たちは、今後も常に、通常兵器の削減を含む、より大きな文脈の中でこうした努力を継続していきます。」と語った。

ヴェスターヴェレ氏は、2009年10月に成立したドイツ中道右派連立政権で外相に任命される前から、ドイツ国内及び外国双方において、核軍縮を進めることが重要な目的と考えてきた。

ドイツ国内における核軍縮とは、つまりベルリンの壁の崩壊、冷戦の終焉、ドイツ再統一から20年が経過するにもかかわらず米国がドイツ領土に保持し続けている約20発の核兵器を撤去することである。また外国における軍縮とは、バラク・オバマ大統領が2009年4月のプラハ演説で実現にむけた努力を公約した「核兵器なき世界」の実現に向けて着実な前進を図っていくことである。

人類への脅威

ヴェスターヴェレ外相は、「核兵器は、たとえ民主主義国家の管理下にある場合でも、怠慢や乱用による誤使用が決してないとは保障できないのです。」と語り、核兵器が人類にとって脅威となるのは必ずしも権威主義体制の国家が保有した場合に限らないと指摘した。

またヴェスターヴェレ外相は、独裁政権の管理下にある核兵器の潜在的脅威について、「権威主義体制の国家が最もやっかいな存在になるのは、自ら核兵器をコントロールしようとするときです。これについてはイラン、北朝鮮が最も顕著な事例といえます。しかしこの問題はより大きな文脈の中でとらえなければなりません。」と語った。

また同外相は、2010年NPT運用検討会議における最終合意に言及して、「10年間に及んだ停滞の後、新たな10年を刻む節目の年に、しっかりとした足取りで軍縮プロセスの再開に漕ぎ着けることができました。また昨年夏には、クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)が発効しました。そしてNATOも新たに採択した戦略概念の中で核兵器なき世界を目標として掲げました。さらに米露両国は、戦略核兵器の削減を合意した新START条約を締結したのです。」と語った。

「これは皆さんのような専門家にとって良いニュースということに止まりません。これは人類にとって素晴らしいニュースなのです。軍縮は、人類にとって、気候変動との戦いと同じくらい重要な任務なのです。」とヴェスターヴェレ氏は付加えた。

ヴェスターヴェレ外相は、「ドイツ政府の平和と安全保障に対する政策は、深く国際連合を基軸に据えたものです。世界の諸問題に対する処方箋は、健全な国際法に立脚した強力な国連の枠内にあって欧州の強力なリーダーシップを発揮していくことです。国連は国際的な安全保障と正当性の礎としての信用を保持していくために、21世紀の現実に適応していく必要があります。」と言明した。

またヴェスターヴェレ外相は、「国連安保理には、アフリカ、南米、アジアが十分に代表されていません。」と述べ、国連安保理枠の拡大を目指すG4(日本、ドイツ、インド、ブラジル)のイニシアティブについて暗に言及した。最近は、南アフリカ共和国がこのグループの5番目の加盟国として度々言及されるようになっている。

ヴェスターヴェレ氏の副官で外務副大臣のベルナ―・ホイヤー氏は、会議前夜の6月30日に講演し、翌日に予定されているサイモン財団シンポジウム:「NATO-ロシア関係における核兵器の役割を縮小させる」に言及して、「核兵器の更なる削減という私たちの共通の政治目標は、相互の信頼関係と対話を育むことによってのみ実現が可能となるのです。」と語った。

ホイヤー外務副大臣は、10年に及んだ停滞の後にコンセンサスを見たNPT運用検討会議、新STARTの締結、NATOの新戦略概念採択に言及し「2010年は、軍備管理にとって素晴らしい年でした。」と語った。

「しかし私たちはこうした成果に満足していてはなりません。私たちは今こそ未解決の問題に焦点を当てなければなりません。NATO-ロシア間に横たわる具体的な諸問題をおざなりに片づけてしまうことはできません。問題の所在を明確に示し、適切な解決法を見出す努力をすることが重要なのです。」とホイヤー外務副大臣は語った。

NATOロシア間の「問題」

解決策を必要とする「諸問題」には、核兵器の削減、通常兵器配備の制限に関する議論の再活性化、NATOとロシア双方がメリットを見出せるミサイル防衛システムの構築などがある。

ホイヤー外務副大臣は、「リスボンサミットで採択されたNATOの新戦略概念によると、NATO加盟諸国は欧州に配備されている核兵器のさらなる削減にむけた環境を創出していく用意があること表明しています。しかし同時に、規模ではNATOを遥かに上回るロシアの備蓄核との不均衡の問題に取り組む必要性について指摘しています。」と語った。

「残念ながら、最近のロシア政府による公式見解をみるかぎり、ロシアは戦術核兵器に関する協議にはあまり関心を持っていないとの意思表示を明確にしています。しかしロシアが拒否しているからといって、私たちが、少なくとも将来における核軍縮プロセスを開始するための具体的な提案さえも議論できないということにはならないはずです。」

「一つの考えは、1991年および92年の米ロ大統領核イニシアティブ(PNI)を復活させることです。」とホイヤー外務副大臣は語った。非戦略核(=戦術核)兵器は、同イニシアティブが発表された1990年代初頭以来、米露間の軍備管理交渉の対象となっていない。従って、今後の新START条約のフォローアッププロセスの中で、戦術核の問題を採り上げることは、政治的、技術的な側面も含めて、複雑かつ難しい試みとなることは明らかである。

「まずは取り掛かりとして、私たちは軍備管理に関する透明性の向上と信頼醸成に焦点を当ててはどうでしょうか。1991年および92年の米ロ大統領核イニシアティブ(PNI)における公約は、今まで説明責任や検証の対象となったことがないだけに、戦術核問題を採り上げる際にはさらなる障害になるかも知れません。しかし私たちはそうしたリスクを恐れずに(戦術核の削減交渉に向けた)動きを始めるべきです。」とホイヤー外務副大臣は語った。

パグウォッシュ会議

パグウォッシュ会議の会長で元国連軍縮担当事務次官のジャヤンタ・ダナパラ氏は、会議の重要性を強調して「パグウォッシュ会議は、核兵器の突出した役割を減らし、核軍縮を促進することに焦点をあてています。」と語った。

会議開催前、ダナパラ会長は、「(7月1日に開催した)サイモン財団シンポジウムは、さらなる核兵器削減への道を開く、より幅広い安全保障問題に取り組む緊急性を示すとともに、2010年NPT運用検討会議後に失われていた核廃絶への機運を再び取り戻すものとなるでしょう。欧州の事例は重要であり、世界の他地域における核の脅威を低減するうえでプラスの影響をもたらすことができるのです。」と語った。

パグウォッシュ会議事務局長のパオロ・コッタ・ラムシーノ氏は、「紛争を外交的に解決する気概を持った人々が集まるこの世界的会合は、ベルリン市からインスピレーションを受けるでしょう。それはベルリンの壁を崩すことができたという事実が、南アジア、中東、朝鮮半島など世界各地でなお直面している難題についても私たちに解決できる可能性があるという希望を抱かしてくれるからです。」と語った。
 
またラムシーノ事務局長は、「今回の(第59回)会議をドイツパグウォッシュグループであるドイツ科学者連盟(VDW)との協力で開催できたことを大変嬉しく思います。VDWは、長年にわたり、科学と社会が交差する領域でおこる様々な難題を解決に導くリーダー的な役割を果たしてきました。」と語った。

今回の会議がそのような期待に応えられたかどうかは誰にも分からない。しかし会議のパネル出席者たちは、タリバンとの対話がアフガン情勢の好転につながるか否かといった話題や、イランの核開発計画、インド・パキスタン間の緊張緩和、アラブの春、イスラエル-パレスチナ紛争の進捗状況、大量破壊兵器の廃絶、福島第一原発事故後の核エネルギー政策等、今日的な重要問題について協議した。
 
パグウォッシュ会議は、世界が冷戦の最中にあった1957年、カナダのノバスコティア州のパグウォッシュに政治的分断をこえて科学者たちが集まり、社会が直面している核兵器の危険性を引き下げる方法を協議したことに始まる。この会議は、1955年に発表されたラッセル=アインシュタイン宣言での呼びかけを受けて創設されたものである。同宣言に名前を冠したことが、アインシュタインの生前最後の公的な活動となった。

パグウォッシュ会議の重要性は、1995年に同会議とその創設者の一人ジョセフ・ロートブラット氏が、「国際政治で核兵器が果たす役割を減らし、長期的にはそうした兵器を廃絶することに努力した」としてノーベル平和賞を共同受賞したことで広く認められた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩



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【ベルリンIDN=カリーナ・ベックマン】

国連の難民機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、自然災害や武力紛争によって地域社会全体が破壊され、希望が失われた場合、信仰が被災者や難民にとって一縷の望みであると認める重要な一歩を踏み出した。

UNHCRは、ジュネーブで行われた3日間にわたるNGO年次協議会のうち1日を費やし、世界中の「信仰を基盤とした団体(FBO)」の活動と経験に焦点を当てた。これは、UNHCRの60年の歴史上初めてのことである。

UNHCRはその目的を、「保護を提供するFBOの活動の性質、規模、影響へのより良い理解と認識形成のため」「UNHCRと国際的なNGOが、いかに各国地域のFBOとの協力関係を改善し、保護の強化につなげていけるかを検討するため」としている。

このことを念頭において、6月28日の開会パネルディスカッションでは、各国の紛争地域や被災地で活動する、4つの異なる宗教(キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、仏教)を背景としたFBOの参加を得て、地域社会に独自の関係を有するこうした団体が、市民の保護にあたり、いかなる強みを持ち、いかなる役割を果たす位置を占めているかについて検討した。

 
パネラーとして、「人道フォーラムインドネシア」のヘニング・パルラン代表、「スーダン教会評議会」緊急支援・復興・開発局(ERRADA)のケディアンデ・アケック代表、ヘブライ移民支援協会のエンリケ・バービンスキー南米局長、創価学会平和委員会の河合公明事務局長が参加した。

UNHCRは、参加者に配布した背景資料の中で、FBOのセッション開催の理由について、「信仰は、紛争や災害によって危険にさらされた人々の生活において重要な役割を果たしていますが、西洋的人道主義はこれまで、主に世俗の非宗教的価値観によって形成されて来ており、信仰の影響を看過したり軽視したりする傾向があり、それどころか、個人的信念の領域を超える信仰の役割については、危険視していました」と論じた。

さらに、「しかしながら信仰は、紛争地帯や被災地の地域社会に深く根をはり、生活の中で大きな役割を果たしています。信仰は、人々がトラウマを乗り越え、人間性を取り戻し、決意の拠り所となり、最もつらい時に、励まし、慈しみ、慰め、希望を与えるのです」としている。

さらにUNHCRは、「パキスタン・アフガニスタンからスーダン、ソマリア、ビルマ、フィリピンにいたる世界各地の民衆蜂起の渦中であれ、自然災害や武力紛争であれ、FBO(地元の団体を含む)は、危険に晒されたコミュニティーの保護に関して重要な役割を果たしてきました」とも論じている。

生存者のエンパワーメント

河合氏とともに、今回のNGO年次協議会に参加した創価学会インタナショナルの寺崎広嗣・平和局長も、こうした見方を共有している。寺崎氏は、「エンパワーメント(励ましの力)は、被災者自らの手による救援活動をも可能にします。それにより人道援助は効果的かつ持続的なものになるのです。FBOには、こうした貢献ができる強みがあります」と語った。

創価学会は、日本全国の会員の支援もあり、本年3月11日のマグニチュード9の地震(東日本大震災)ならびにその30分後に襲った記録的な津波災害に迅速に対応し、緊急支援を行った。津波により福島県にある第一原子力発電所が損傷を被り、炉心融解などの問題が起こった。

河合事務局長は、分科会の中で、200人を超す参加者に向けて、「6月22日の時点で、死者約1万5千人、行方不明者約7千人、避難所や仮設住宅への避難者は約11万人にのぼりました」と報告した。

また河合氏は、「全域が壊滅状態になった町村も多くあります。6月5日の時点で、約39万人のボランティアが救援活動に携わりました。宗教団体をはじめ様々な団体も救援活動に携わっております。創価学会も、そうした団体の一つです。被災地には多くの学会員が居住しており、多くの会館もあります」と述べた。

東京に向かう途上、ベルリンでインタビューに応じた寺崎氏は、「私も実際に東北の被災地に行きましたが、池田大作SGI会長が被災者に贈った“いかなる苦難も心の財は壊せない”等の言葉を被災者の口から何度も伺いました。確たる生命観、精神性に基づく励ましの力こそが、FBOが貢献できる顕著な役割であると思います」と語った。

河合氏は、UNHCR年次協議会の中で、創価学会の地域組織は、被災者の喫緊のニーズに対応する救援活動に取り組み、各地の会館における避難者の受け入れと救援物資の供給を行った、と報告。「東北地方と茨城・千葉両県内にある合計42会館で、約5千人の避難者を受け入れました。また、会員宅が、地域の避難者の受け入れを行うとともに、在宅避難者への救援物資供給の中継地点の役割を果たした場合もあります」と述べた。

また創価学会は、一般の避難所への救援物資の供給も行った。河合氏は「創価学会には、各地に地域密着型のネットワーク組織があります。このネットワークを通して、直接の被災はしていないものの、複合的かつ不安定な状況によって生活環境が大きなダメージを受けた在宅避難者に対し、支援を提供することができました。今回の大震災によって、居住地域の多くでインフラが完全に破壊されたことにより、物資の入手が困難な状況に陥ったためです」と述べた。

三本柱

UNHCRのFBOとの協議からもうかがい知ることができたが、キリスト教とイスラム教のFBO間に緊張関係があることは、いまや公然の秘密である。SGIのような仏教団体が、共通の目的のために両者を橋渡しする役割を果たせるかとの問いに対して、寺崎氏はそのような可能性を否定しなかった。

寺崎氏は、この質問はかつて池田SGI会長が述べた次の言葉、「これまでの複雑な歴史を背景にもつ場合、1対1の対話が難しい場合があります。この場合、一人加わることで『かなえ』となり、対話の足場ができます。仏教はあらゆる意味で『対話』によって成立しており、差異を乗り越え共存することの価値を教えています」を想起しました、と語った。

この観点から、寺崎氏は「SGIは対話のフォーラムを豊穣にするという点で貢献ができるのはないかと信じるものです。今回のUNHCRのNGOとの年次協議会は、まさにSGIを含め、さまざまなFBOが交流することによって、新たな視点をお互いに見出すよい機会になったのではないかと思います。そして重要なことは、こうした対話の機会を継続して議論を深めていくことにあると思います」と述べた。
 
6月28日にアントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官が「今年初頭以来、多くの危機が重なってきた。その多くが全く予想しえなかったものであり、多くの人々が故郷を追われることになった。しかし、(同時に)過去からの危機もまだ継続している」と報告していることからも、対話の必要性はますます重要となっている。

グテーレス氏が言及しているのは、最近のコートジボワールの紛争や、現在進行中の北アフリカ・中東の民衆蜂起、アフガニスタン・イラク・ソマリア・スーダンの不安定な状況のことである。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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