ホーム ブログ ページ 251

|オプエド|リオ+20はみんなの会議(沙祖康国連経済社会問題担当事務次長)

0

【国連IPS=沙祖康】

沙祖康
沙祖康

国連持続可能な開発会議、いわゆる「リオ+20」は、数十年に一度という貴重な機会です。

6月20日に開会するこの会議には、135以上の国々から、元首・政府首脳、産業界や市民社会の代表など5万人が参加予定で、潘基文国連事務総長は、「リオ+20」を「国連の歴史の中でもっとも重要な会議のひとつ」と呼んでいます。

リオ+20」には国際社会の熱い眼差しが注がれています。かつてないほど相互依存が進んだ70億の人類が暮らす今日の世界では、持続可能な開発のみが、複雑に絡み合いながら地球の存続を脅かしている経済・社会・環境問題に取り組む、唯一の方法なのです。

 持続可能な開発に関する前進とは、飢えに苦しむ数百万の人々の食卓に食事が並ぶことであり、適切な仕事の機会であり、清潔な水へのアクセスであり、きれいな空気を胸いっぱい吸い込むことであり、生命に満ちた森の中で歩くことができるようになるということです。

さらに、持続可能な開発とは、すべての女性が男性と平等な機会を得ることであり、すべての子どもが学校に行く機会を得ることであり、基本的衛生であり、社会的包摂の環境の中で生きることであり、前途ある将来を見据えることができる、ということなのです。

こうした「持続可能な開発」への基礎については、多くの人々が、当たり前のように感じているかもしれません。しかし、現実はどうでしょうか?そのように感じることができるのは、実は恵まれた一部の人々であって、現実には、負担過剰となった世界は、数多くの難題(世界的な経済不況の影響、エネルギー不安、水不足、食料価格の高騰、気候変動や益々頻繁且つ大規模になる自然災害に対する脆弱性等)に直面しているのです。

こうした深刻な現状から、私たちは互いが密接につながった世界に生きているという重要な真実に気づかされるのです。こうした難題は、特定の国や地域だけの問題ではなく、本質的に全ての人類に影響を及ぼすグローバルな問題なのです。

今日の世界では、ある場所で起こった出来事が容易に他の場所に波及します。人類は、あたかも地球が5つあるかのような勢いで資源を消費し、将来の世代のことを考えない生活を送ってきましたが、もはやこうした旧態依然とした生活スタイルを続けていく余裕はなくなっているのです。

「リオ+20」は、他の国連会議とは異なるものです。この会議は、人々の生活の質を犠牲にして新たな規則や法令を施行しようとしているものではありません。むしろ、個人、地域コミュニティー、産業界、政府が、より良い賢明な選択ができるよう、励まし手助けする機会なのです。

私たちの経済、地球、社会の繁栄は、そうした一つ一つの選択が組み合わさって実行されることで、はじめて確保することができるのです。「リオ+20」は、世界の指導者を持続可能な世界(経済・社会・環境面において)に向けてコミットさせつづけるとともに、彼らに人類や地球の福祉を第一義においた選択をさせる、重要な機会を提供しているのです。

多くの支持を集めつつある提案のひとつに、ミレニアム開発目標(MDGs)を補完・強化するものとして、持続可能な開発目標(SDGs)を策定しようという動きがあります。実施可能で計測可能なSDGsは、持続可能な開発に向けたハイレベルな政治的コミットメントを具体的に表現するものとなるでしょう。

私自身は、「リオ+20」では、持続可能な開発と貧困削減という文脈において、グリーン経済を前進させたいと考えています。今日、実に幅広い分野(まともな仕事―とりわけ毎年労働人口に加わる8000万人近くの若者の就労問題、社会保護政策、〈社会的弱者の〉社会への受入れ、エネルギー確保の問題、効率・持続可能性の問題、適切な水管理の問題、持続可能な都市問題対策、海洋の保護と管理の問題、自然災害への備え等)においてアクションが求められているのです。

各国政府は、この会議で、持続可能な開発という目標をもっとも前進させることができる制度的枠組みについて合意する必要があります。またその際、市民社会と営利部門についても役割を与えることが重要です。

まさに、社会の全ての分野が持続可能な開発に向けた実践をしていくことができますし、そうしなければなりません。例えば、ビジネス・産業界は、世界をより良い方向に変革する手助けとなる技術を開発し、環境に優しい職業を創出し、企業の社会的責任(CSR)を通じて、社会に前向きな影響を及ぼすことができます。

また市民社会は、最も弱い立場にある人々の声が政策に反映されるよう政府の責任を追及することができます。さらに科学者は、持続可能性に関わる難題に対して、革新的な解決策を生み出すことが可能です。そして私たち一人一人が、日々の生活の中で、そうした情報に基づいた選択肢を実践することで、持続可能な開発に参画することができるのです。

まさに「リオ+20」は、地球がみんなのものであるのと同様に、みんなの会議なのです。従って、この会議で掲げられる目標、大望やその結果は、全て私たち一人ひとりが共有すべきものなのです。

最後に、「リオ+20」は、将来世代のための会議でもある点を指摘しておきたい。アメリカ先住民の間には、「私たちの土地は、先祖から相続したものではなく、子孫から借りているものなのです。」という有名な格言が伝えられています。

私たちは、創造的な思考を働かせ、前向きなイニシャチブに参画し、自発的なコミットメントを行うことで、将来の世代が誇りに思うような世界の実現に向けたコンセンサスを形成し、共に努力していくことができるのです。そのような未来を創造するために、共に取り組んでいこうではありませんか。(原文へ

※沙祖康(Sha Zukang)氏は、国連事務次長(経済社会問題局長)で、持続可能な開発に関する国連会議(Rio+20)の事務局長。

翻訳=IPS Japan

関連記事:
母なる地球は「所有したり、私有化したり、搾取したりしてはならない」(ゴールドトゥース「先住民族環境ネットワーク」代表)
|麗水世界博覧会|今年の万博は、危機に瀕した海の救済がテーマ

核の飢餓の脅威に焦点を当てる科学者

【ワシントンIDN=アーネスト・コレア】

核軍縮・不拡散の進展にとってマイナスとなる事態が発生した。米共和党のリチャード・ルーガー上院議員が5月8日にインディアナ州で行われた予備選挙で敗北したのである。ルーガー氏は、保守派運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を集める対抗候補に敗れ、11月の上院選で共和党候補として出馬することができなくなった。ルーガー氏は敗北後、無所属候補として出馬する予定もないことを明らかにした。

こうして、他の大半の議員が関与を避けがちな核軍縮関連問題に正面から取り組んだことで広く知られ、尊敬されていたルーガー議員が、連邦議会から去ることになった。こうした政治的に微妙な「核軍縮関連問題」といえば、ちょうど、核による飢餓の重大なリスクに関する警告が発せられたばかりであった。

安全保障や安定、生存に影響を及ぼす決定に焦点を当て、良識ある判断ができる人が少なくなってしまった。

 核の警告

国際的に問題になっていることと言えば、北大西洋条約機構(NATO)による抑止・防衛態勢見直しの議論や、米下院で、第四次戦略兵器削減条約(新START)合意の履行に制限をかける立法が試みられているということ等が挙げられる。

そのなかでもトップにくるであろうことは、地域的な核戦争でさえも(例として挙げられているのはインド-パキスタン間の紛争)、紛争地からかなり離れた国々で生産された農作物にも深刻な影響を与える可能性があるという科学的証拠を示し分析した新しい報告書であろう。

核戦争に直接的に巻き込まれた国では、核爆発の直接かつ広範に影響を受け、苦労して向上させてきた生産性は失われ、作物や農地は放射性物質の塵と化してしまう。今回の報告書が明らかにした警告は、戦闘当事国における帰結に加えて、その他の場所でも広範にわたって悪影響があり、農業の主要生産国も多大な影響を受けるという点である。
 
この報告書『核の飢餓:10億人が危機にさらされる―限定的核戦争が農業、食料供給、人類の栄養に与えるグローバルな影響』は、「核戦争防止国際医師の会(IPPNW)」とその米国支部である「社会的責任を求める医師の会(PSR)」によって作成された。

IPPNWは、核による絶滅の脅威のない平和で安全な世界を作るという共通の目標を持った、世界63ヶ国に支部を持つ無党派組織の連合体である。PSRは、核戦争・核拡散を予防し、地球温暖化を減速・停止・反転させることを目指した、医師を中心とする米国最大の組織である。報告書の著者であるアイラ・ヘルファンドは、IPPNWの北米副代表であり、PSRの元代表である。)

ヘルファンド氏は、「核による飢餓の暗い見通しは、核兵器に関する我々の見方に根本的な変化をもたらすものです。インドやパキスタンのような比較的小さな核戦力を有する国ですら、地球規模の生態系に長きにわたる悪影響を引き起こし、数億人を10年以上にわたって栄養不良に陥れるという新しい分析結果が出たのです。これは人類史の中でも、前例のない大惨事と言えるでしょう。」と語った。

報告書の著者と報告書作成に関与した機関の信頼性、そしてもちろん報告書の内容が、この報告書を説得力あるものにしている。では、世界の食料安全保障の現在、あるいは、国連食糧農業機関(FAO)が好んで使う言葉でいえば、「食料不安」の現在について考えてみよう。

食料不安

食料不安とは、通常、予測不可能な状況によって、ある特定の年にまとまって、世界の富裕国と貧困国との間で不均等に人間の健康や生命への脅威が広がることである。したがって、食料安全保障および食糧不安に影響を与えたり与えられたりする事柄へのアプローチはさまざまに異なっている。富裕国の人々が肥満が健康に及ぼす影響に取り組んでいる一方で、貧困国の人々は、飢えと、隠された飢え、すなわち栄養不良という難題に直面しているのである。

さらに、気候変動の初期的兆候を含めた気候のパターンや生産性、生産、インフラ、歪められた貿易慣行や投資、これらすべての要素が、直接的、間接的に食料不安に影響を及ぼしているのである。

完全な統計が利用できる最新の2011年には、2006年から08年にかけて経験されたような危機はなかった。しかし、ローマに本部を持つ3つの食料関連機関、すなわち、FAO、IFAD(国際農業開発基金)、世界食料計画(WFP)の長らは、その当時の経験の後遺症が、「2015年までに飢えに苦しむ人々の人数を半分にするというミレニアム開発目標(MDG)達成に向けた取り組みに影響を及ぼしている。」と述べている。

また、「かりにMDGが2015年までに達成されたとしても、途上国で普段から6億人が飢えているという状態は容認できない。」とも警告している。

もし、このように既に蔓延している食料不安が容認されないとしたら、核戦争によって引き起こされるより深刻な食糧危険に対して、国際社会はどのように対処すべきなのだろうか?

10億人が危険に

ヘルファンド医師と農業・栄養問題の専門家チームは、インド-パキスタン間の核戦争を仮定して、それが気候に及ぼす影響を分析した科学者によって作成されたデータを基に研究を行った。「社会的責任を求める医師の会(PSR)」によれば、研究チームは結論として「複数回の核爆発によって大気中に排出された煤(すす)や煙によって多大な影響を受ける農業地帯では、気温の低下や降水量の減少が見られ、それによって食物生産が阻害され、世界的に食料供給が減少、農産物価格に深刻な影響を及ぼすだろう。」と述べている。

より具体的にいうと、ヘルファンド医師らはRSP報告書の中で以下の知見を述べている。

・米国では、トウモロコシ生産が10年にわたって10%低下する。5年目で最大幅の20%減となる。大豆生産は7%低下し、5年目には最大の20%の損失となるだろう。

・中国は中期のコメ生産がかなり減少する。最初の4年間では平均して21%減、次の6年では平均10%減となるだろう。

・その結果として食料価格が高騰し、世界の貧困層数億人が食料を手に入れることができなくなるだろう。
 
中国と米国がこれらの農作物の生産を世界的にリードしていることを考えれば、この明確な判定において、これ以上の想像力を働かせる必要はないだろう。

報告書自体にはこう記されている。

「慢性的な栄養不良状態にある世界9億2500万人の1日あたりの食糧消費量は1750カロリー以下である。つまり、核が引き起こす飢餓により食料消費が10%減るだけでも、この人口集団全体が危機的な状況に陥ることとなる。」

「さらに、予想される穀物生産国からの輸出停止によって、現在は適切な栄養状態にあるが、食料輸入に過度に依存している国々に住む数億人への食料供給が危機に晒されることとなる。核戦争によって引き起こされる飢餓によって影響を受ける人の数は、10億人をはるかに超すことだろう。」

シンガポールの雄弁なる外相であり、先見の明を持った政治戦略家であった故S・ラジャラトナム氏なら、「人はパンのみで生きることはできないが、パンがなければまったく生きることはできない」と言うだろう。言葉としては軽く言われているが、その意味合いは実に重い。

農業は、工業国においてすら、開発と継続的な進歩の源泉となっている。それこそが、ヘルファンド医師らが示した次元において食料生産・流通が破壊されることが、想像を絶する人的被害につながると言って差し支えない理由なのである。つまり、この仮想的な地域紛争とは関係のない多くの国において、長期にわたって死が、そしてその帰結として、社会の崩壊がもたらされるということなのである。

こう考えたらどうか

打ち鳴らされた警告に対して手早く簡単に導き出せる反応は、こんなものだろう。「そう、たしかに危険は存在する。でもそれは、インドとパキスタンが本当に核戦争を行ったら、という話だ。不幸にも両国はインド亜大陸を核の隣国関係に変えてしまったが、これまでのところ、両国とも自制心と責任感を働かせて、核の破壊行為に地域を陥らせないようにしている。必要なのは、国際社会があらゆる手段を使って、両国間の平和を保つことだろう。」

そのとおり。しかし、将来いつか、いずれかに軍事政権が誕生しても、果たしてその政権が自制の絆を打ち棄てるのを思いとどまらせることができるだろうか?さらに、インドとパキスタンは、核能力を持った唯一の地域大国ではない。たとえば、イスラエルも核兵器国だと一般に考えられている。また、世界の紛争地域には、その他にも核を持とうと狙う国々があるのが現状である。

中東を核の危険から解放された地域にするために協議のテーブルにつかせようという試みがなされているが、中東諸国は聞き入れようとしていない。2012年12月に(フィンランドで)予定されている中東非核地帯創設のための国連会議は、延期されそうな情勢である。

核の飢餓から人類を守る真の防護策とは、耳に心地よい歌をキャンプファイヤーを囲んで歌うような、行き当たりばったりの「みんなで平和を守っていこう」式のプロセスではなく、核軍縮に対して世界があらためて正面から向き合うことであろう。

元国連事務次長(軍縮担当)でパグウォッシュ科学・世界問題会議の現議長であるスリランカの外交官ジャヤンタ・ダナパラ氏は、彼の外交生活のほとんどを、核軍縮のメッセージを世界に広めるために費やしてきた。彼は、今日の状況をこのように的確にまとめている。

「科学的証拠は、我々がすでに知っていることを実証的に示しています。つまり、核兵器はこれまでに発明された、遺伝的・生態学的にも無理の影響をもたらす史上最も破壊的な大量破壊兵器である。しかし核兵器は、生物兵器や化学兵器とは異なり、既得権ゆえに依然として違法化されていないのです。」

「9ヶ国が2万530発の核兵器を保有し、なかでも米国とロシアが全体の95%を占めている。この兵器が存在し続けるかぎり、テロリストも含め、核兵器の入手を企図する者は後を絶たないだろう。核兵器が存在するかぎり、意図的であろうと偶発的であろうと、あるいは国家によるものであろうと、非国家主体によるものであろうと、その使用は不可避である。従って、核兵器禁止条約(NWC)を通じて核兵器を完全廃絶することが、唯一の解決策なのである。」

この解決策を国際社会に売り込むのは難しいだろうか?確かに難しいだろう。しかし、こう考えたらどうだろうか?つまり、「もしこれが売れれば、人類にとってものすごい成果が待っている」と。(原文へ)

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
 

関連記事:
|アジア|拡大核抑止の危険性
│印パ関係│歴史的敵対関係を癒す食

|世論調査|イランの核武装に対する反対世論が広がる

0

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

イランの核開発疑惑について、軍事攻撃オプションに対する支持はこの2年の間にいくつかの主要国において低下してきているものの、イランが核兵器を取得することには反対する世論が広がっていることが、5月18日にワシントンで発表されたピュー国際意識調査プロジェクト(Global Attitudes Project-GAP)の最新調査結果によって明らかになった。

21カ国で実施されたこの世論調査報告書は、イランが核開発プログラムの今後についてP5+1(米国、英国、フランス、中国、ロシア、ドイツ)と交渉に臨む5日前に発表された。ただし今回の調査に際しては、一部の質問項目について専門家から、内容が偏っているとの厳しい指摘がなされていた。

 イランとP5+1は、4月14日にトルコのイスタンブールで1年3か月ぶりとなる協議に臨み、(交渉決裂ではなく)バグダッドにおける継続協議に合意したことから、今回の協議では、イランによる20%高度濃縮ウランの停止の可能性など、両者の間である程度の信頼醸成措置が合意されるのではないかとの期待が高まってきている。

また5月20日に天野之弥事務局長がテヘランを訪問する(明らかに、核関連の実験施設があると疑われている軍の施設へのIAEA査察チームの立ち入りに向けた条件交渉が目的である)とした国際原子力機関(IAEA)の発表は、こうした期待感をさらに裏打ちするものとなった。

今年の3月中旬から4月中旬にかけて実施された調査は、ピュー・リサーチセンターが過去12年にわたって毎年実施している国際意識調査プロジェクトの一部である。

今回の調査は、21カ国の26,000人以上を対象に実施されたもので、質問内容はイランやイラン核問題に限らず、幅広いトピックを網羅したものであった。調査結果は数週間から数か月後の発表が見込まれているが、今回ピュー・リサーチセンターは、イランとP5+1によるバグダッド協議に対する国際社会の関心が高いことから、イラン関連部分の調査結果のみを先駆けて公開することとした。

今回の調査対象国はP5+1の6か国に加えて、欧州5カ国(スペイン、チェコ共和国、イタリア、ポーランド、ギリシャ)、イスラム教徒が大半の人口を占める6か国(トルコ、ヨルダン、エジプト、レバノン、チュニジア、パキスタン)、さらに日本、インド、ブラジル、メキシコである。
 
今回の調査内容について批判する人々は、「イランの核計画についてと、それにどう対処すべきかについて尋ねた項目に、証拠がないまま事実と決めつけている部分が含まれている。」と主張している。例えば、イランの核計画は核兵器の開発を意図している(この主張自体が疑わしいのだが)と決めつけている点である。

イラン政府(ごく最近ではイランの最高指導者ハメネイ師による発言も含む)は、同国の核プログラムは、民生使用のみを意図したものであると一貫して主張している。また、米国及びイスラエルの諜報コミュニティーも、もしイラン指導部が核兵器の製造を決断した場合、核開発プログラムの側面(とりわけウラン濃縮の程度)が問題となるが、現時点でイラン指導部は、核兵器の製造に関して判断をしていないとみている。

調査結果を見ると、21カ国中18カ国において、調査対象者の大半にあたる54%(中国、トルコ)から96%(ドイツ、フランス)が、イランの「核兵器入手」に反対していた。例外は3か国で、パキスタンでは、反対意見は僅か11%であった。インドでは、34%がイランの核武装に反対した一方で、51%が意見を明らかにしなかった。チュニジアでは賛否両論がちょうど半々に分かれた。

「イランの核兵器入手に反対」と回答した人々に「それにどう対処すべきか」について尋ねたところ、回答はさらに賛否両論に分かれた。

さらに「核兵器開発を阻止するためにイランに対する国際的な経済制裁を強化する」という対処策について、18カ国において、調査対象者の大半にあたる56%(インド)から80%(米国、ドイツ)が、「賛成する」と回答している。しかし、チュニジア、トルコ、パキスタンにおいては大半が「反対する」と回答している。一方、中国は半数を少し上回る54%が経済制裁強化に賛成、対照的にロシアでは、半数を少し下回る回答者が「反対する」と回答している。

とりわけ注目すべきは、一昨年行った全く同じ質問に対する回答と比較すると、イランへの経済制裁に対する支持が全般的に低下している点である。中でも最も支持が低下したのがロシア(67%→46%)、中国(58%→38%)である。また、トルコはこの1年でイランとの二国間関係が悪化しているにも関わらず、中国に次ぐ3位(44%→34%)となっている。

また、予想通り、「イランの核兵器入手に反対」と回答した人々の間で、「核兵器入手を阻止するための軍事攻撃」への支持率は、経済制裁支持率よりも低いことが明らかになった。

「軍事攻撃をしてでもイランの核兵器入手阻止を優先するか、或いは、イランの核武装というリスクを冒しても軍事衝突回避を優先するか」という選択肢に対して、メキシコ、エジプト、ヨルダン、さらにロシアを除く欧州諸国を含む14カ国において、調査対象者の総体多数或いは過半数にあたる46%(レバノン)から55%(ブラジル)が、軍事攻撃オプションを支持していた。この質問項目の回答については、米国の調査対象者が最も強硬で、他国より圧倒的に多い63%が軍事攻撃オプションを支持していた。

一方、チュニジアでは過半数の69%が、さらに、パキスタン(29%)、中国(39%)、トルコ(42%)、日本(49%)においても総体多数が「軍事衝突回避を重視すべき」と回答していた。

また驚くべきことに、2010年の調査で同じ質問を行った大半の国々において、軍事攻撃オプションに対する支持が低下していた。とりわけこの傾向は、P5+1の6カ国のうち、ロシア(32%→24%)、中国(35%→30%)、フランス(59%→51%)、米国(66%→63%)の4カ国において顕著に表れた。

しかしこの質問項目は、「イランの核武装を防止する軍事行動か核武装したイランと共存するか」という誤った二者択一を調査対象者に迫るものだとして、米国でも多くの専門家の非難を呼んだ。

「イランの核武装を防止する方策には、軍事攻撃オプションに依らないものもあります。」と、「軍備管理協会」のダリル・キンボール事務局長は語った。

またキンボール氏は、「この質問は、軍事攻撃によってイランの核武装を阻止できるという推測に基づいて設けられているが、米国、欧州、イスラエルの軍事専門家の間では、たとえイランの核施設に対する軍事攻撃が行われたとしても、その効果はイランの核プログラムの進行をせいぜい数年遅らせるだけで、イランの核武装そのものを防ぐことはできないという見解で一致している。」点を指摘した。

同様に、メリーランド大学国際政策指向プログラム(PIPA)代表のスティーブン・カル氏は、問題の質問項目について、「外交、経済制裁事案を含む(イラン核開発プログラムに関して)選択肢を提示する世論調査(PIPAが実施したものを含む)の結果をみると、いずれも、軍事攻撃オプションを選択している回答者はごく少数派にすぎない」点を指摘して、批判した。

さらにカル氏は、「核兵器開発を阻止するために、イランに対する国際的な経済制裁を強化することを承認するか否か」と問いかけている対イラン経済制裁に関する質問項目について、「これでは、あたかもイランが実際に核兵器を開発していると示唆しているようなものです。事実、米国の諜報専門家の間で、イランによる核開発の証拠はないという結論が導きだされています。つまりこの質問項目は、そうした専門家の結論に反して、イランの意図を暗黙に示唆するような意見を述べてしまっているのです。」と語った。

こうした批判について、ピュー国際意識調査プロジェクト副ディレクターのリチャード・ワイク氏は、IPSの取材に応じ、「私たちが実施している他の世論調査の場合と同じく、この調査で採用した質問項目は、話題となっている諸問題についての人々の意見を調査することを目的としたものであり、質問の中身についても、世論の推移を把握し分析するために、過去の質問と似たものになっています。」と説明した。(原文へ

INPS Japan

関連記事:
脅迫をやめて、対話を始めるべきだ(ヨハン・ガルトゥング・トランセンド平和大学学長)
国連の査察機関、2003年以前のイラン核兵器研究について詳述する

|NPT準備会合|長崎市長、核なき世界の実現を訴える

0

【ベルリン/ウィーンIDN=ジャムシェド・バルアー】

「皆さん、一人の人間として、核兵器の非人道性について改めて考えてみてください。」長崎市長で平和市長会議副会長の田上富久氏は、2015年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議に向けてウィーンで開かれた第1回準備委員会のNGOセッションで各国代表らを前に、こう呼びかけた。

平和市長会議は、1945年8月の米国による原爆投下で20万人以上の女性・子供・老人が犠牲となった長崎市及び広島市の市長によって1982年に設立された国際機構で、現在では世界5000の都市(域内人口50億人)が加盟している。当時の原爆攻撃を生き延びた被爆者は、今でも放射能による様々な後遺症に苦しんでいる。

また第1回準備委員会(4月30日~5月11日)に先立ち、4月28日、29日の両日には「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」会議が開催され、関連諸団体の代表が2015年NPT運用検討会議に向けた戦略作りや各々が準備している計画等について意見交換を行った。オーストリア外交アカデミーで開催されたこのNGO国際会議は、「核兵器なき世界」という目標を共に支持するオーストリアノルウェー両政府と、東京に本拠を構える仏教組織創価学会インタナショナル(SGI)が後援した。

Tomihisa Taue/ IAEA ImagebankPhoto Credit: Yamagishi Hisashi / Ciy of MatsumotoIAEA Imagebank - 01890127 | Flickr - Photo Sharing!, CC BY-SA 2.0
Tomihisa Taue/ IAEA ImagebankPhoto Credit: Yamagishi Hisashi / Ciy of MatsumotoIAEA Imagebank – 01890127 | Flickr – Photo Sharing!, CC BY-SA 2.0

 事実、広島市の松井一実市長は、2015年NPT運用検討会議の広島誘致の可能性を、従来から模索してきた(帰国報告)。広島誘致案のメリットは、核兵器保有国の首脳を世界で初めて原爆が投下された都市に招聘して核廃絶へ向けた議論ができる点にある。田上長崎市長は、第一回準備委員会に参加した各国代表らを前に行った演説の中で、この広島市のイニシャチブを支持して、「…核兵器の脅威に完全な終止符を打ち、核兵器なき世界を作り出すために協議する場として、被爆地広島よりも適切な場所があるでしょうか?」と語りかけた。

また田上市長は、5月2日に開かれたNGOセッションで各国代表らを前に、「2010年における実績が示しているように世界全体で1兆6300億ドルもの巨額な資金が安全保障という名目で軍事支出に費やされており、しかもその結果、世界はより危険な場所になってしまっています。これは、極めて馬鹿げたことではないでしょうか。今こそ、私たちはこの危険な状況から自らを解放する強い意志を示す時ではないでしょうか。」と訴えかけた。

田上市長は美辞麗句を並べていたのではない。事実、2010年NPT運用検討会議において全会一致で採択された最終文書には、核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果を引き起こすとして深い懸念が表明されており、全ての加盟国が国際人道法を含む国際法を順守する必要性を再確認している。
 
しかし核兵器を巡る議論は、引き続き、いわゆる国家利益や軍事力の均衡、軍事技術の有効性に関する議論に終始している。田上市長はこの点を批判して、「核保有国の代表が核兵器の真の恐ろしさを認識しているのか疑問に思っています。」と語った。

そのうえで田上市長は、「核兵器使用の壊滅的な人道的結果について、国益の視点ではなく人間の視点に立ち戻らせてくれる被爆者の声に耳を澄ましてほしい。被爆者がどうして核兵器のない世界の実現を必死で訴えているのか理解する必要があります。」と訴えた。

2015年のNPT運用検討会議に向けて開かれた第1回準備委員会に合わせて、日本から数名の被爆者がウィーンを訪れた。また、準備委員会の会場となった国連ウィーン本部(ウィーン国際センター)と市庁舎で原爆展が開催された。

田上長崎市長が、「私たちには、核兵器なき世界を将来の世代に引き継ぐ責任があります。」と熱烈に訴えた背景にはもう一つの切実な理由がある。2010年NPT運用検討会議において、第1委員会(核軍縮)から議長に提出された最初の原案には、核兵器国に対して、核兵器なき世界を実現するために具体的な努力を行うことを義務付け、その上で潘基文国連事務総長に核廃絶のための法的仕組みも含めた行程表(ロードマップ)を作るための国際会議を2014年に開催する権限を委ねるという画期的な方策が含まれていた。

この原案は、潘事務総長が2008年に発表した核兵器禁止条約(NWC)への言及を含む「核不拡散・軍縮に関する5項目の提案」に触発されたもので、審議のテーブルに上程された際には、世界は核廃絶という目標にようやく近づいているように思われた。

しかし、最終文書にはNWCへの言及はあるものの、国連事務総長による2014年の「核兵器廃絶ロードマップ会議」の開催を求めた部分は削除された。結局、最終文書には、核兵器なき世界の実現を望むという明白な意思が全会一致で示されたにも関わらず、それを実現するためのいかなる具体的な時間的枠組みも方策も、記載されなかったのである。

ロードマップ会議

平和市長会議は、直ちに準備作業に着手し、このロードマップ会議を早期に開催するよう求めている。2012年2月、ラテンアメリカとカリブ地域の33カ国の政府代表団は、特定の時間枠の中で核廃絶に向けた措置を段階的に進めていくプログラムを協議するハイレベル国際会議を招集するために、努力していく方針を表明している。

また田上長崎市長は、核兵器国の指導者らに、市民社会及び国際社会の声に耳を傾けるよう呼びかけるとともに、「2015年のNPT運用検討会議が(核廃絶に向けた)ロードマップ会議実現に向けて動き出すきっかけとなり、NWCを妥結するコンセンサスを得る場となるよう、今回の準備委員会で努力してほしい。」と強く訴えた。田上市長はさらに、「2015年のNPT運用検討会議では、『核兵器のない世界』がどのような時間的枠組みの中でいかにして実現されるか明確に示されると確信しています。」と語った。

そのような時間的な枠組みは、実に現実性を帯びたものである。これまでも各国は条約締結を通じて、核兵器の配備、生産、取得、保有、及び管理を禁止する核兵器禁止地帯を創設してきた。政治的な意志さえあれば、こうした核兵器禁止地帯を増やしていくことも、核兵器のない世界実現に向けた具体的な方策なのである。

今年は、そのような核兵器禁止地帯を中東地域に創設することをテーマにした国連会議が開催されることになっている。また北東アジアでも、北朝鮮による核開発問題に直面して、核兵器禁止地帯を創設する重要性に対する認識が国際社会に広がってきている。田上市長は、世界の政治指導者らに対して、「このような核兵器禁止地帯を共に広げていき、核兵器のない世界という目標に近づいていこうではありませんか。」と呼びかけるとともに、彼らがNPT第6条に規定されている軍縮履行義務について、一層努力するよう求めた。

2010年NPT運用検討会議では、日本を含む42カ国が軍縮と核不拡散教育の重要性を強調した。こうした経緯から、日本政府は今年8月に長崎市において国際会議「軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラム」を開催する予定である。同フォーラムには世界各地から多くの市民社会組織、政府代表、専門家が集い、活発な議論が展開される見込みである。(原文へ


翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

米政府、マリ軍事政権に政治から手を引くよう求める

【ダカールIPS=ソウレマネ・ガノ】

ジョニー・カールソン米国務省アフリカ副長官(右上写真)は、「3月22日に政府を打倒したマリ軍兵士達には、政権を掌握する権利も、同国が現在直面している人道危機や安全保障問題に対処できる力もありません。」と語った。

またカールソン副長官は、「マリ共和国で21年間続いた民主政体が、祖国や人民の福祉よりも自らの利益を優先する少数の反乱兵士達により、打倒されてしまいまいました。このクーデターにより、マリの領土的一体性が危機に瀕し、結果的に国土の半分にあたる北部を(トゥアレグ族等による)反乱勢力に奪われてしまいました。さらに経済は後退し、深刻な旱魃に見舞われている北部への政府の対処能力も低下しています。」と語った。

さらに副長官は、「反乱軍を指揮しているアマドゥ・サノゴ大尉と彼が率いる『民主主義制定のための全国員会(NCRDS)』のメンバーは、兵舎に引き上げるとともに、憲法に基づく統治政体を復帰させなければなりません。」と、5月16日に行われたアフリカ全土を網羅した遠隔地間会議(テレ会議)において語った。

 「民主政体への復帰プロセスが早ければ早いほど、マリは地域及び国際社会における同盟諸国の支援を得て、クーデター以降被ったダメージを早期に修復することができるでしょう。」

またカールソン副長官は、条件が整いさえすれば、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が計画しているロジスティクス面での支援、及び、ECOWAS軍のマリ国内における展開について、米国政府として支持する意向である旨を明言した。

さらに副長官は、「米政府は、ECOWAS事務局(ナイジェリアのアブジャ)の役割を高く評価しており、現議長のアラサン・ワタラ(コートジボワール大統領)氏とダニエル・カブラン・ダンカン(同国外相)氏がこれまでECOWASを統率してきた手腕に大いに信頼を寄せています。」と語った。

一方ワシントンDCではビクトリア・ヌーランド国務省報道官が、「米国政府は、もしECOWASによるマリの民主政体と憲法に基づく法の支配の復活が遅れるようなことになれば、問題は同国一国の問題にとどまらず、地域全体に悪影響が及びかねないと懸念している。」と語った。
 
報道官はさらに、「もし憲法により正当と認められた政府と治安部隊が(対話を通じ、国民の納得も得、さらに軍の協力も確保する形で)再び一つになれなければ、北部(アザワド)を実効支配している(イスラム)過激派やテロリストと戦うなど到底おぼつかないと言わざるを得ません。」と語った。

こうした米高官の一連の発言について、ダカールに本拠を置くムリムム・アフリカコンサルティング(コミュニケーション・政治戦略コンサル企業)のアブドゥ・ロー所長は、「米国がマリの政治状況を打開していくうえで、ECOWASが主要な役割を担うことを期待している様子が窺えます。」と語った。

「要するに、カールソン副長官は、ECOWASに指導的役割を担わせることで、同組織の機能強化を図りたいのです。米政府はこうした態度を示す背景には、ECOWASがその信頼性を高める必要に迫られている事情があるのです。」

ロー所長は、この点について、「ECOWASは、多くの弱小国家を加盟国に抱えている事情に加えて、加盟国各国の軍が近年政治への発言力を強化しており、さらにイスラム原理主義勢力が域内各地に台頭していることから、近年影響力が徐々に弱体化しているのです。」と説明した。

「今日の混乱を招いた原因は、マリの政治指導者に戦略的なビジョンが欠けていたことに他なりません。今日マリでは、軍事政権とATT支持勢力(アマドゥ・トウマニ・トゥーレ前大統領支持派)、政界リーダーたちが三つ巴となって政治主導権を争っていますが、現在マリにとって最も重要な課題は、国土の領土的一体性をいかに確保するかということなのです。」

サノゴ大尉は依然としてマリの暫定政権の任期(憲法の規定により5月22日に期限を迎える)を1年延長するというECOWASの提案に反対し続けており、対案として、全国会議を開催して移行期の政権を率いる新大統領を指名することを提案している。

この提案について、5月16日にアビジャンを訪問したディオンクンダ・トラオレ暫定大統領(前国会議長)は、「それでは問題の解決にはなりません。そもそも全国大会の開催など、4月6日にバマコでECOWASと軍事政権が調印した枠組合意に含まれていなかったのです。」と語った。

トラオレ暫定大統領は、憲法の規定通り、40日期限が切れる際に、ECOWASと軍事政権は再度会合し、次のステップを話し合わなければなりません。」と語った。アビジャンの外交筋によるとECOWASの閣僚級使節団が5月21日か22日にバマコを訪問予定とのことである。

マリのトゥーレ前大統領は、3月22日に起こったクーデターにより政権の座を追われた。当時トゥーレ政権は、トゥアレグ族が1月にマリ北部で開始した反乱鎮圧に苦慮していた。クーデターに参加した兵士たちは、このトゥアレグ族による反乱に終止符が打てない政府の不手際をクーデター決行の動機の一つとしている。しかし皮肉なことに、トゥアレグ反乱勢力は、様々なイスラム過激派組織とともに、クーデターによって生じた中央政府の政治空白の隙を利用して、マリ北部の制圧に成功した。

クーデター後、ECOWASと軍事政権の合意に基づき、トラオレ前国会議長が暫定政権の大統領に任命された。トラオレ氏は暫定政権を率いて、憲法による統治を完全復活させる任務を担っている。

しかし軍事政権はECOWASとの合意に署名したにもかかわらず、暫定政権樹立後も政治の実権を手放そうとせず、ECOWAWの一部の決定に対して強く抵抗している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

|UAE|来月、第2回海賊対策国際会議がドバイで開催

0

【ドバイWAM】

6月27日、28日両日にドバイで開催予定の第2回海賊対策国際会議(アラブ首長国連邦主催)には世界各地から政府高官、安全対策専門家、国連、国際海事機関、その他の関連諸機関の代表が参加する予定である。

今回の会議では、「海賊行為に対する地域の対応:官民連携と国際的な取り組みを強化する」というテーマの下、海賊による船舶襲撃の被害(船員の人質問題を含む)に対するこれまでのグローバルな取り組みをいかに発展させるか、また、ソマリア沖などで海賊行為が発生する根本原因に対する緩和策をいかに強化するか等が協議される予定だ。

 UAE外務省とドバイ・ポーツ・ワールド共催によるこの会議は、海賊行為が地域の平和、安全、繁栄に及ぼしている脅威により良く対処していくために、官民連携のあり方を強化していくことを企図している。

会議の公式ウェブサイト(www.counterpiracy.ae)がアップデートされたので、招待客及び参加者はここでオンライン登録ができる他、全ての関連情報を入手することができる。

またこのサイトには、講演予定者をはじめ、海賊行為対策分野の学識経験者や専門家がこの会議のために作成した研究報告書や論文が掲載されるので、参加者は事前に会議当日の議論に備えることができる。

今回の会議は昨年UAEのイニシャチブで開催された第1回海賊対策国際会議の成果を踏まえたものである。第1回会議では、世界各国の政府及び産業界双方から、海上・陸上において、海賊対策に具体的に取り組んでいくという前例のないコミットメントを引き出すことに成功した。

国際海事局(IMB)によると、2012年の第1四半期における海賊被害は、ソマリア人海賊によるものだけでも43件にもぼっており、140人を超える船員が(その多くが過酷な環境の下で)引き続き海賊によって捕らわれた状態にある。また、IMBの試算では、海賊行為が国際貿易にもたらしている被害は、年間120億ドルにのぼると見られている。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

│金融│デモ参加者がロビンフッド金融課税を要求

Wikimedia Commons
Wikimedia Commons

【国連IPS=ジョアンナ・トレブリン】

5月18日、数多くの人々が金融取引に対する課税(FTT=いわゆる「トービン税」或いは「ロビンフッド税」)を求めて、シカゴでデモを行った。18日、19日にワシントンDCの郊外キャンプ・デービッドで開かれた主要国首脳会議(G8サミット)にあわせて行われたもので、参加者はG8首脳に対して、米国及び世界の経済を回復する手段として年間数千億ドルもの税収が見込めるFTT税を導入するよう要求した。

さらに運動側はG8サミットに続く5月18日から22日までの期間を「ロビンフッド税グローバル行動週間」と位置づけ、世界各地でFTT導入を求めるロビー活動を展開した。FTTの導入については、食料への権利に関する国連特別報道官のオリヴィエ・ドシュッテル氏(Olivier De Schutter)をはじめとする多くの国連人道専門家が支持を表明している。 

 米国では、労組やシンクタンク、環境・保健・消費者保護などの団体、金融改革ロビー団体などが、「ウォール・ストリート(金融エリート)はメイン・ストリート(世間一般)に利益を還元せよ」というロビー活動を各地で展開している。FTTを求める声は1930年代からあり、当時は著名な経済学者のジョン・メイナード・ケインズ氏もFTTの導入を積極的に訴えた一人であった。

同名のスローガンを掲げた活動団体のウェブサイトには「米国政府は、銀行を救済したことで、膨大な財政赤字への対処と、経済援助や地球温暖化対策へのコミットメントを果たすために、多額の資金を必要としている。」と記されている。

金融取引税(FTT)は、株式や債券、商品、投資信託、デリバティブなどの売買に対して課税し、教育や保健、環境などのグローバルな公共財のために使おうという構想で、課税率が異なるいくつかバリエーションが提案されている。中でも、もっとも有力なものは、株式や債券取引に対して0.1%、デリバティブ取引に対して0.01%の税金をかけるという案である。

FTTによってG20諸国からあがる税金は、もっとも低い税率でも480億ドル、税率を上げれば2500億ドルにも達すると見込まれており、これだけの税収があれば、長引く経済、金融、燃料、気候変動、食料危機に対処するための費用さえ相殺することが可能となる。

FTTはNGOだけが主唱しているのではない。昨年11月にフランスのカンヌで開かれた主要20か国・地域(G20)会合では、ドイツ、フランス、スペイン、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ、エチオピア、アフリカ連合がFTT支持を表明した。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、FTT導入には欧州連合(EU)27ヶ国の合意が必要であると1月に表明したが、フランスのニコラ・サルコジ大統領は、「我が国がまず他国によるFTT導入を見極める姿勢を採ったならば、金融取引に対する課税はいつまでたっても実現しないだろう。」と語り、EU及びG20による合意を待つことなくフランス一国だけでも導入する意思を示していた。(もっとも、サルコジ氏はその公約を果たさないまま先週大統領任期を終えた。次期のフランソワ・オランド大統領もFTT支持である)。

また国連の人権専門家も、FTTを、各国政府が国内在住の人々の人権を保護していくための実際的な手段と考えている。

極度の貧困と人権に関する国連特別報告官のマグダレナ・セパルヴェダ氏(Magdalena Sepulveda)は、「各国政府は、富裕層や金融部門が身分相応な税負担を担うよう、富の再分配に果たす税制度の役割を再考する時にきています。」「金融部門が相応な税負担ができない限り、残りの社会全体がその付けを払い続けることになるのですから。」と語った。

またドシュッテル国連報道官は、「食糧価格は過去5年間に2度も危険なほど高騰し、現在その事態がいつ再発してもおかしくない状況にあります。」と警告したうえで、「FTTには、投機に拍車をかけて食糧価格の安定を脅かし世界的な危機を引き起こす元凶となってきた短期資金の流れを抑制する効果が期待できるのです。」と語った。

世界の金融取引課税論議について報告する。(原文へ

INPS Japan

関連記事:
|ODA|開発援助の歴史的停滞
|労働|世界中で、労働者たちはまともな仕事を要求している

|パレスチナ|ナクバから64年目の記憶

0

【リフタ(エルサレム)IPS=ピエール・クロシェンドラー】

「私の人生の原点はそこにあります。当時私は8歳の少年でしたが、あの家から『アッラーフ・アクバル(Allahu Akbar)』という礼拝を呼びかける父の声が、村全体に響いていたのをよく覚えています。」とヤコブ・オデフさん(72歳)は、高い丘の上に立つ廃屋を指差しながら語った。

64年経った今も、パレスチナ人にとってリフタの村はナクバ(「大災厄」)を想起させる象徴的な場所である。ナクバとは、イスラエル建国に際して採られたパレスチナ人追放政策で、オデフさん一家も含め、数十万人のパレスチナ人がイスラエル軍兵士により住み慣れた家を追われた。

イスラエルの西エルサレムと、イスラエル占領下の東エルサレムの境に点在するリフタの村は長年放置され廃墟となっている。多くのパレスチナ人にとって、リフタは失われた土地とパレスチナ人が置かれている窮乏を象徴する存在である。

 イスラエル独立戦争が勃発する前、この村は、500戸(3000人)が平和に住む裕福で牧歌的な場所であった。オデフさんは子供時代の記憶を懐かしそうに想い起して「噴水と庭園、モスクとオリーブ畑、楽しそうに歌って踊る村の人たち…それが私の世界でした。」と語った。

「どうしたら、1948年2月のあの忌まわしい日を忘れられるでしょう…私たちはその日突然イスラエル兵に包囲されたのです。今でも、その時のシオニストのギャングたちの銃声が聞こえてくるようです。」とオデフさんは語った。

近隣のデイル・ヤシンの村がイスラエル民兵に襲撃され100名以上が殺害されたという話が伝わると、リフタの村にパニックが広がった。「父親は、突然弟と妹を抱え上げると、家族揃って家を後にしました。私たちは急いで谷を渡り山をよじ登って逃れたのです。私たちが持ってこられたのは、心の中の思い出だけでした。」とオデフさんは当時を振り返った。

ナクバから数週間の内に、2000年の歴史を持つリフタの村は一人の住民も残らない廃墟と化した。オデフさんは、「間もなくして私たちは難民となったのです。」と語った。1年以内に、それまでパレスチナ人が人口の大半を占めていた土地は新たにイスラエル領土となり、他国に逃げないで残ったパレスチナ人は、少数派住民として自らの土地に対する権利も否定されることになった。

リフタではパレスチナ人が去った空き家の屋根や床には、事実上二度と人が住めないようにするため、大きな穴が空けられた。今日までオデフさんをはじめ、元リフタの住民で村に戻れたものはいない。しかし元リフタの住民たちは、いつの日か故郷に戻るという夢を決して諦めてはいない。オデフさんは、「私はパレスチナのリフタに再び自由に住める権利を取り返すまでは、1948年に起こったことを忘れも許しもしません。」と語った。

毎年ナクバの日(5月15日)になると、パレスチナ人達はかつて追われた故郷の家の鍵を高くかざし、故郷への「何者も否定できない帰還権」を認めるよう訴える。
 
 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNWRA)によると、中東全域に登録されている数だけでも400万人を超えるパレスチナ人が、難民として長年に亘って十分な権利を保障されない生活を強いられている。

一方大半のイスラエル人は、パレスチナ難民が要求している「故郷への帰還権」の問題をイスラエルという国家に対する「生存上の脅威」として受け止めている。彼らは、パレスチナ人の主張を認めて数百万人に及ぶパレスチナ難民を受入れれば、ユダヤ人がマイノリティになってしまい、イスラエルという国家が内部から崩壊してしまうと主張している。

こうした声についてオデフさんは、「ムスリムにも、ユダヤ人にも、キリスト教徒にも十分な場所はあるのです。私たちはかつて祖父たちがそうであったように、この地で共存していかなければならないのです。」と語った。

オデフさんの人生はパレスチナ人が歩んできた奪われた歴史を体現したものである。ナクバで家を追われて間もなく、オデフさんの父親は失意のうちに他界した。オデフさんの一家はその後東エルサレムに再定住した。

オデフさんはその後クウェートのフィルムライブラリーで働き、ベイルートの学校で法律を専攻したのち、パレスチナ解放人民戦線に加盟した。そしてオデフさんが27歳の時、第三次中東戦争が勃発し、イスラエルはオデフさんの家族が再定住していた東エルサレム(当時はヨルダン領)も征服した。

東エルサレムに舞い戻ったオデフさんはイスラエルの占領に抵抗する運動に身を投じた。その後、イスラエル当局に捕まり、テロ活動を行ったとして、人生三回分の終身刑を宣告されて収監された。そして1985年、イスラエルとパレスチナ勢力間の捕虜交換で解放された。

オデフさんは、現在は人権活動家としてリフタの記憶を保存する管理人を自認している。

ナクバでは約500のパレスチナの村が破壊された。今日確認できる村の痕跡は、たいていテラス跡や白カビの生えた石、草が生い茂った墓地跡、野生化したイチジクの古木やサボテンが生い茂った石の壁等である。

1959年、リフタ一帯の土地は自然保護区に指定された。そしてイスラエル土地当局の都市計画担当者は、リフタを、当時イスラエルの芸術コミュニティーとして知られていたエイン・フッド(Ein Hod)保護地区に匹敵する高級住宅地に作り替えようとした。

しかしこの動きに対して、リフタの元住民とイスラエル人の人権団体が抗議に立ち上がり、建設計画差し止めを求める訴えを地区裁判所に提出した。その結果、今のところ、建設計画は棚上げとなっている。

オレフさんは、「私たちは、リフタをすべての人に開かれた歴史的な博物館として現状のまま保存するよう求めています。当局はどうしてこの文化遺産を破壊して高級住宅地を開発したがるのでしょう。リフタは歴史の証人として保存されるべきなのです。」と語った。

イスラエル人が一般にパレスチナ人の過去の記憶を国家に対する脅威と捉えているのに対して、パレスチナ人はその喪失を嘆き、美化し、その復興を熱望する傾向にある。

オデフさんは、「パレスチナ人か、キリスト教徒か、ユダヤ人か、イスラム教徒か、そういったことが重要なのではありません。大切なことはこの占領に終止符を打ち、一つの民主的な国家を作り上げることなのです。」と語った。それから小さな声で、「歴史はいつまでも間違った方向に向かい続けるということはないでしょう。」「歴史は時として方向を失って乱れることがありますが、きっとイスラエル人はその過ちを繰り返すことを許さないでしょう。」と呟いた。

オデフさんはそう言い残して、心の故郷(home)から数キロ離れた今の「家」に帰っていった。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:
|イスラエル-パレスチナ|和平が遠のく中で平和の灯を守る人々
|パレスチナ|「アッバス議長、主権国家としての国際承認を目指す」
ヘッドラインの向こうにあるヒューマンドラマを映し出すフィルム・フェスティバル

|ハーグ国際法廷|ラトコ・ムラジッチ被告の裁判始まる

0

【ドーハIPS/Al Jazeera】

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ内戦時(1992年~95年)に、数々の戦争犯罪と大量虐殺を指揮したとして告発されているラトコ・ムラジッチ元セルビア人武装勢力司令官(70歳)の裁判が、オランダ・ハーグの国連旧ユーゴスラビア国際法廷で始まった。

5月16日、同法廷の検察官による冒頭陳述が行われたが、ムラジッチ氏が16年に亘る逃亡の末にセルビアで捕えられ、ハーグに護送されてから公判が開始されるまで、約1年が経過していた。

ムラジッチ被告は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ内戦時の1995年に同国東部のスレブレニツァで7千人を超えるムスリム男性・少年を1週間に亘って虐殺した事件を指揮したなどとして、戦争犯罪、人道に対する罪など11件で起訴されている。


ダーモット・グルーム検察官は、「我々は被告が起訴された全ての犯罪について、ムラジッチ氏の有罪を明確に立証する証拠を提示していくことになるだろう。」と語った。

またグローム検事は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ内戦が勃発した1992年当時を振り返って、「国際社会は欧州に位置する(ボスニア・ヘルツェゴヴィナの)村々で大量虐殺が進行している事態を信じられない思いで目の当たりにしました。」と指摘するとともに、「ムラジッチ氏と部下の兵士たちは、スレブレニツァで数千人を虐殺する頃までには、殺人の技術を十分に磨く訓練ができていたのです。」と語った。

老いても挑発的な被告

濃い灰色のスーツとネクタイといういでたちで法廷に現れたムラジッチ被告は、入廷の際、両指を立てたり、手を叩く素振りをした。

傍聴人でぎっしり埋まった一般傍聴席では、検察官が冒頭陳述をしている間、ある犠牲者の母親が「ハゲタカめ!」と何度もつぶやいていた。

しばらくすると、ムラジッチ被告と傍聴席のムスリムの女性の眼が会い、(女性が被告に対し、手首を交差して手錠を掛けられたような仕草を見せたところ)被告が彼女に向かって自らの片手を首の上で横一文字に滑らせる(喉を切り裂くような)ジェスチャーをする場面があり、アルフォンス・オリー首席裁判官が、「不適切なやり取りをしないよう」注意するとともに短い休会を宣言する一幕もあった。

「ラトコ・ムラジッチ被告からは、90年代前半の彼のイメージに付きまとう体格のよいがっしりとした、威圧的な印象は得られませんでした。」とハーグからレポートしたアルジャジーラのバーナビー・フィリップス記者は語っている。

フィリップス記者はそれと同時に「しかしながら、高齢にもかかわらず元司令官の挑発的な態度は変わっていません。被告が『NATO法定』と呼ぶこの法廷を見下し、侮辱している様は、法廷を傍聴している人ならだれでも感じたことでしょう。」と語った。

スレブレニッツァ事件の犠牲者の母親達を代弁しているアクセル・ハーゲドルン弁護士は、「多くの遺族がハーグまで足を運びました。彼女たちは、ムラジッチ氏が実際に被告席に立たされるのを目の当たりにしてやっと安堵したのです。」と語った。

またハーゲドルン弁護士は、「ムラジッチ被告は、昨年身柄を拘束された頃と比べるとずいぶん健康そうに見えます。私たちはムラジッチ被告に公判を生き抜いて禁固刑に服してほしいと望んでいますから、これはいいことだと思っています。」「またムラジッチ裁判は、スレブレニッツァ事件の遺族にとって、国連の責任を問うもう一つの裁判を実現するために、有利に働くと考えています。」と語った。

今年の4月、オランダ最高裁は、「スレブレニッツァにおける大量虐殺を防げなかったとして国連を起訴することは、オランダの法律では不可能」との裁定を下した。しかし、同事件の遺族の弁護団は、欧州人権裁判所への提訴を計画している。

「遺族が提訴を計画している裁判とムラジッチ裁判は、ともにスレブレニッツァ村の人々の命を国連が守れなかったという意味で相互に密接に関連しています。」とハーゲドルン弁護士は語った。

原告は、せっかく開かれた公判がムラジッチ被告の健康問題で中断するのではないかと危惧している。ムラジッチ被告は、潜伏中に少なくとも脳卒中を一回患っているほか、昨年10月には肺炎で入院している。
 
セルビア勢力の指導者であったスロボダン・ミロシェヴィッチ(元セルビア共和国大統領)の場合、評決が纏まる前の2006年に心臓発作により収監先の独房で死去している。

最大の虐殺者

裁判所の外では、「スレブレニツァの犠牲者のために正義の裁きを!」等のプラカードを掲げた群集が集会を開いていた。

昨年5月にセルビア北部で身柄を拘束されたムラジッチ被告は、スレブレニッツァ事件にほかにも、1万人以上の死者を出したといわれる44カ月に亘ったサラエボ包囲事件の責任を問われている。

ムラジッチ被告は昨年6月に開かれた予審では、自身にかけられた嫌疑を「馬鹿げた不愉快なもの」として罪状認否を拒否した。そして、「私はボスニアのセルビア人指導者として、自分の祖国と人々を守っただけだ」と主張した。その結果、国連旧ユーゴスラビア国際法廷は規則に基づいて、ムラジッチ被告が大量虐殺など11件の起訴事実について無罪を主張したとみなす手続きをおこなった。

ムラジッチ被告は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ内戦時の犯罪を裁くために国連が設立した特別法廷で裁かれる最後の主要人物である。

「彼こそ世界に例を見ないバルカン半島最大の大量虐殺者に他なりません。」とムニラ・スバチッチ氏(65歳)はAFPの取材に応じて語った。彼女は、1995年7月にスレブレニツァがボスニアのセルビア人勢力の手によって陥落したとき、22名の親族を殺されている。

これから特別法廷の一般傍聴席でムラジッチ被告の初公判を傍聴するというスバチッチ氏は、「私はムラジッチの眼を見据えて、自分が犯した罪を後悔しているか彼に直接ただすつもりです。」と語った。

16日のムラジッチ裁判の初公判はバルカン半島でも複雑な感情が入り混じった反響を呼び起こした。1992年から95年に亘った軍事包囲で数千人の犠牲者を出したサラエボでは、街の各地に大型スクリーンが設置され、初公判の模様が生放送で中継された。

「私は、今度のムラジッチ公判を通じて、ムラジッチをセルビア人の英雄だと考えてきた人々が認識を改め、彼が単なる卑怯な犯罪者に過ぎなかったということを知る機会となってほしいと願っています。」と、「サラエボ包囲で殺害された犠牲者の遺族の会」のフィクレット・グラボヴィッツァ会長は語った。

またグラボヴィッツァ会長は今日セルビア人が大半を占めるスルプスカ共和国(セルビア人共和国)に言及して、「たとえムラジッチが公判を生きながらえて判決を受けたとしても、スレブレニツァやセルビア人共和国内の数百に及ぶ地で虐殺された被害者にとっては、ほんの僅かな慰めにしかならないだろう。」と付加えた。

ムラジッチ側による法定工作

内戦後、ボスニア・ヘルツェゴヴィナは、ボシュニャク人(ムスリム人)とクロアチア人主体のボスニア・ヘルツェゴヴィナ連邦と、セルビア人主体のセルビア人共和国という2つの構成体から成る連合国家となった。

先週ムラジッチ被告の弁護団は、「アルフォンス・オリー首席裁判官が別の裁判でムラジッチ被告の元部下たちに有罪判決を下した経験があることから、ムラジッチ被告に対しても偏見を抱いている恐れがある」として、同裁判官の排除を求める申し立てを行った。しかし、テオドール・メロン裁判長は、根拠が不十分だとして弁護団の要請を却下した。

ムラジッチ被告は、2008年に逮捕された後、ムラジッチ被告と類似した罪で起訴され、公判も半ばまで進んでいる元セルビア人勢力指導者のラドバン・カラジッチ氏と同じ刑務所に収監されている。

ムラジッチ被告の弁護団は5月14日夜、検察側の資料開示に関するミスにより、十分に準備をする時間が得られなかったとして、公判の6カ月延期を申し立てた。

これについてグルーム検事は、16日、「妥当な延期要請については反対しない。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:
|セルビア|ムラジッチ逮捕で和解とEU加盟への期待が高まる
過去の残虐行為の歴史を政治利用してはならない(トーマス・ハマーベルグ)

母なる地球は「所有したり、私有化したり、搾取したりしてはならない」(B・K・ゴールドトゥース「先住民族環境ネットワーク」代表)

0

【国連IPS=エイリーン・ジェンケル

「数百年にもわたって、先住民族の権利や資源、土地が搾取されてきました。しかし、各国政府が長年の懸案だった過去の搾取を事実と認め、先住民族が献身的な努力を傾けている現在においても、なおそうした搾取は続いている。」と2011年に発表された「マナウス宣言」の中で、先住民の代表たちは述べている。

この宣言は、今年6月に開かれる「持続的開発に関する国連会議」(通称「リオ+20」)の準備の一環として出されたものである。IPSでは、会議を前にして、30年以上にもわたってアメリカ大陸の先住民族の権利のために闘い、「先住民族環境ネットワーク」の代表も務めるトム・B・K・ゴールドトゥース氏へのインタビューを行った。以下、その要旨である。

Q:6月の「リオ+20」会議であなたは先住民族を代表して演説を行うことになっていますが、伝えたいことは何でしょうか。

A:グリーン経済や持続可能性に関するテーマ討論では、カネを中心とした西洋の見方と、生命を中心とし、母なる地球の神聖さとの関係を重視する我々先住民族の考え方との違いがあきらかになりました。

 先住民族の多くが、母なる地球を所有や私有化、搾取のための資源とのみ考え、それによって市場を通じて金銭的見返りを得ようとする現在の経済的グローバル化のモデルを深く憂慮しています。

この開発モデルの下で、先住民族は土地から追い出され、文化や母なる地球との精神的な関係を剥奪され、生命を維持する自然を破壊されてしまいました。

人類と今日の地球が存続していくためには、人類と母なる地球および自然界との関係を再定義した新たな法的枠組みが確立されなければなりません。

そしてそうした枠組みの中で、私たちは、人権を中心としたアプローチや生態系のアプローチ、文化に敏感で知を中心としたアプローチを組み合わせる必要があります。

私たちは、まず人類間の平等を実現してはじめて、自然との間にバランスを確保することができるのです。

リオ+20において各国政府は、自然の商品化と金融化を支持するようなグリーンエコノミー政策を注意深く見極めるとともに、「自然は神聖なもので売り物ではないこと、そして、母なる地球の生態系には独自の環境保全・保護能力が備わっている」という認識に始まる新たな法的枠組みを共同で作り始めなければなりません。

先住民コミュニティーの土地所有を全面的に認めることこそが、世界の豊かな生物及び文化の多様性を保護していくうえで最も効果的な方策なのです。

Q:今日の先住民族の生活にとって最大の脅威は何でしょうか。そしてそれにどう対処できるのでしょうか。

A:世界各地の先住民は、持続可能な生態系、生物多様性が辛うじて残っている最後のホットスポットに生活し、危機に瀕した環境の保全に貢献しています。

しかし破壊的な鉱物採取産業が先住民族の伝統的な土地に侵入してきています。現実に気候変動をもたらしている常軌を逸した石油採掘やエネルギー開発は、南から北まで世界各地の先住民族の生活に直接的な影響を及ぼしています。

先住民は、持続可能な開発に大きく貢献することができます。しかし、そのためには持続可能な開発を可能にするための全体的な枠組みが推進されるべきだと考えています。

人権を侵害する開発は、本質的に維持できないという理解を踏まえて、リオ+20では、持続可能な開発の在り方として人権に主眼を置いたアプローチが採択されなければなりません。

そのためには、とりわけ、先住民と持続可能な開発に関するあらゆるレベルの政策・プログラムの根拠となる「先住民族の権利に関する国連宣言」を、持続的開発のための主要枠組みとして機能させなくてはならないと思っています。

Q:最近、NGOの中には、1992年のリオでの合意がひっくり返されて、ビジョンを追求するためにリーダーシップをとる国がなくなってしまったという批判があります。新しい取り組みを導き出す希望が依然としてあるでしょうか。

A:気候の混乱、不安定化する金融、生態系の破壊のために、世界には1992年の合意をひっくり返すという選択肢はありません。

世界の指導者らは、1992年のリオ地球環境サミットに先住民族が積極的に参加したこと、先住民族が同時並行的に作り出したプロセスの中で「カリオカ先住民族宣言」が出てきたことを忘れてはなりません。

アジェンダ21は、先住民が持続可能な開発において果たす重要な役割を認めた「カリオカ先住民族宣言」の条文を受入れ、先住民族を(アジェンダ21を推進する)主たるグループとして認定しています。リオ+20では、1992年のリオ地球環境サミットが先住民に対して行った公約が再確認されなければなりません。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:
|アマゾン|世界の穀倉地帯から雨がなくなるかもしれない