ホーム ブログ ページ 251

核兵器に反対しつつも伸び続ける米国の武器輸出

0

【国連IPS=タリフ・ディーン

「『核兵器のない世界』に向けて具体的な措置をとる‐」と誓った米国のバラク・オバマ大統領による発言は、世界中の平和活動家たちから圧倒的な支持を獲得した。 

しかし同時に、オバマ大統領は、通常兵器の販売については(核兵器に対するような)削減の意向について全く触れていない。少なくとも増加し続ける米国製兵器輸出の今年の動向を見る限り、このことは明らかである。 

「今までのところ、オバマ政権は従来の武器輸出政策に関して、殆どメスを入れていない。」と、ジョージタウン大学エドモンド・A・ウォルシュ外交学部平和・安全保障センターシニアフェローのナタリー・J・ゴールドリング女史は語った。

 
ゴールドリング氏は、「戦闘機、ミサイル、軍艦、戦車を含む主だった米軍の武器体系の輸出実績は伸び続けている」と言う。 

「2009年の米国の武器輸出高が空前の規模となることが予想されていることからも明らかなように、要するに、通常兵器の輸出に関しては『平常通り』ということです。」とゴールドリング氏はIPSの取材に対して答えた。 

米国防総省によると、今年末までの米国の対政府武器輸出総額は、2008年の実績が364億ドルであったのに対して、想定された400億ドルを突破すると予想されている。 

2000年代初期の通常兵器の年間平均輸出額は、約80億ドルから130億ドルの間であったが、2009年の前半期の輸出実績だけでも270億ドルに達しており、さらに記録を伸ばす勢いである。 

これら通常兵器の主な輸出先は、エジプト、イスラエル、パキスタン、アフガニスタン、トルコ、ギリシャ、韓国、バーレーン、ヨルダン、タイ、アラブ首長国連邦等の米国と同盟関係にある国々である。 

「この傾向は、歴史的に国防予算の削減圧力に対抗して武器の売却を試みてきた請負業者にとっては朗報と言えるでしょう。」とゴールドリング氏は語った。 

「しかし、このことは同時に、オバマ政権が米国の武器輸出政策の見直しを行うと期待していた人々にとっては悪い知らせと言わざるを得ない。」と同氏は付け加えた。 

一方、世界有数のシンクタンクであるストックホルム国際平和研究所(SIPRI)兵器輸出プログラムのシモン・ベイズマン主任研究員は、「米国防総省提供のデータはやや不明確」と言う。 

ベイズマン氏は、「想定された400億ドルという数字は、はたして2009年度の武器輸出実績額を指すのか、それとも単なる目標額を示したものなのか定かでない。しかしながら、そうは言っても米国の通常兵器輸出額が右肩上がりで伸び続けているのは事実で、それにはいくつかの理由が考えられます。」と語った。 

そしてその理由として、「おそらく最も重要な点は、今日では10年から20年前に比べて先端兵器を大規模に製造できる業者が少なくなっていることだと思います。つまり武器を購入する側の選択肢がより限られているのです。」と語った。 

「米国は、世界で最も進んだ軍事技術と幅広い品揃えを誇る兵器製造国であり、とりわけ人気の新鋭戦闘機や各種航空機、ミサイル、軍事用電子部品といった分野で、基本的に顧客のあらゆる要望に応えることができるのです。」とベイズマン氏は指摘した。 

 またベイズマン氏は、「大手競合相手がかなり限られてきている中で、世界の兵器市場に占める米国の割合は大きくなってきており、今後もその傾向は続くと思われます。」と語った。 
この点に関して良い例が、2009年に諸外国との関連諸契約が結ばれた、統合打撃戦闘機(JSF:米国のロッキード・マーティン社が中心となって開発中の単発単座のステルス性を備えたマルチロール機で、F-35ライトニングII戦闘機のことを指す:IPSJ)開発計画である。前述の米国防総省による400億ドルにのぼる武器輸出想定額には、2009年におけるJSF追加発注額が含まれている可能性がある。 

JSF計画は既に取引額で史上最大の兵器輸出契約となっている。そして、世界市場で他の追従を許さない商品競争力を有していることから、今後さらに大幅な発注増加が見込まれている。 

「JSF計画だけでも、向こう20年以上の期間に亘って米国の武器輸出総額を高いレベルに維持し続けることができるだろう。」とベイズマン氏は付け加えた。 

また、米国製の兵器を伝統的に購入してきたアジア・オセアニア(日本、台湾、韓国、パキスタン、オーストラリア)、中東(サウジアラビア、アラブ首長国連邦)、欧州・近東(英国、トルコ)の国々が、いずれも最近大規模な発注を行った、或いは近く行う予定である点も重要である。 

「金融危機にも関わらずこれらの国々の多くは、軍備費を大幅に増強し、最新の軍装備の発注を計画している。」とベイズマン氏は語った。 

ベイズマン氏は、その理由の一部として、「これらの国々が各々感じている脅威 – 例えば、「テロ」に対する戦争、台頭する中国の近代化、北朝鮮及びイランの核開発計画、長引くアフガニスタン紛争 – に対応しているものです。」と語った。 

例えば、台湾の場合、昨年まで米国からの武器輸入額は低いレベルに留まっていたが、米国との約8年に及ぶ交渉が妥結し、今年には台湾一国で数十億ドル規模の発注を行う予定である。 
一方、サウジアラビアは100億ドル規模を超える米国製武器を発注する計画を発表した。そしてその一部については、既に契約が行われたか或いは2009年-2010年中に行われる予定である。 

それに加えて、米国は、20億から30億ドル規模の「前菜(=米国製兵器)」を手始めに、巨大なインド市場への参入を果たした。関連契約が最近結ばれており、今年中に更なる発注がなされるものと期待されている。 

また、米国は現在イラクに対する主要武器供給国である。(発注計画規模は100億ドル近くに及び、その大半は2009年-2010年に最終決定する予定である。) 

ジョージタウン大学のゴールドリング氏は、「米国防安全保障協力局(DSCA)の記録によると、オバマ政権は、ゆっくりではあるが、新たな武器輸出案件を許可し始めている。」と語った。 

オバマ政権発足から最初の5カ月間に、DSCAは議会に対して合計最大8件の大規模な兵器輸出案件がある旨を通知している。 

しかしその後ペースは加速化し、DSCAは7月だけで、それまでの5カ月分に匹敵する最大8件の更なる大規模兵器輸出案件を報告している。そして8月に入ると同月の最初の1週間だけで、DSCAは更に10件の案件を議会に報告している。 

 「オバマ政権関係者の発言内容から、彼らも既に、『米国による親善の象徴』及び『2国間及び多国間関係重視の約束』として、米国製武器の売却を活用する誘惑にかき立てられていることが窺えます。」とゴールドリング氏は語った。 

米政府関係者は、過去においても米国製武器の売却が輸入国の国防力増強に貢献すると度々主張してきた。 

「しかし米国の武器供与は、(米政府関係者の主張に反して)軍拡競争や地域における対立国との関係悪化、紛争が勃発した際の人的被害の増大といった、武器輸入の目的である輸入国が直面している脅威そのものを、しばしば増大させてきたように思われます。」とゴールドリング氏は付け加えた。 

政策責任者たちは、過去の行き過ぎを繰り返すのではなく、こうした武器輸出が長期間にもたらしうるマイナス面の影響について計算に入れておかなければならない。 

ゴールドリング氏は、「この因果関係についての立証責任は、こうした武器取引を止めようとする側にではなく、武器を売却する側にあるのです。」と語った。

オバマ大統領は、小型武器・小火器が引き起こしている被害について従来雄弁に言及してきていることから、無秩序に行われている小型武器・小火器輸出が及ぼす不安定作用については、理解しているようである。 

オバマ大統領は既に、小型武器・小火器輸出の分野におけるブッシュ前政権の政策の一部を見直す作業に着手している。 

「米国の安全保障も、この見直し作業を全ての通常兵器を対象に広げていくことによって十分確保できると思います。」とゴールドリング氏は語った。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

│ロシア-トルコ│スルタンと仲直りをするツァー

0

【イスタンブールIPS=ヒルミ・トロス】

この300年間で12回もの戦争を交わした長年の仇敵だと考えられていたロシアとトルコが、最近急速に歩み寄っている。 

先週トルコを訪問したロシアのウラジミール・プーチン首相は、トルコのエルドアン首相と実に20もの協定に署名した。合計で400億ドル相当の取引である。

中でも注目は、ガスパイプラインのナブコサウスストリームは「競合的」ではなく、「相互補完的」だと宣言されたことだ。欧州と米国が支援するナブコは、トルクメニスタン・カザフスタン・アゼルバイジャンの天然ガスをロシアを通過せずに欧州に運ぶ(2014年に供用開始予定)。サウスストリームは、ロシアからトルコ領土の黒海を経由して欧州までガスを運ぶが(2016年開始予定)、そのポイントは、ウクライナを通過しない点にある(現在、ロシアから欧州向けのガスの80%が同国を通過)。 

ロシア・トルコ間の貿易は現在年間380億ドル規模。この8年間で8倍に伸びた。トルコにとってロシアは最大の貿易相手にまで成長した。 

2007年にはトルコで「ロシア文化年」が開かれ、翌年には逆にロシアで「トルコ文化年」があった。トルコへの観光客数は、ドイツに続いてロシアが第2位に入った。 

トルコは欧州共同体入りを50年にわたって望むなど、長らく欧州よりの姿勢を見せてきたが、エネルギー問題は対ロシア外交に新たな次元を持ち込みつつある。 

しかし、英字紙『ハリエット』(Hurriyet)のコラムニスト、ユスフ・カンリ氏は、トルコがロシアに急接近し始めたことで、トルコの地政学上の重要さを欧州が改めて認識することになり、逆に欧州とトルコの距離は縮まるのではないか、との見方を示している。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 

|ブラジル|男性服役者に輪姦された少女の事件は氷山の一角

【リオデジャネイロINPS=ファビアナ・フレシネット

パラ州の刑務所内で、15歳の少女が1カ月にわたり、20人の男性服役者に強姦され続けた。少女は窃盗の疑いで連行されたまま、法的な手続きなしに、拘留されていた。

パラ州のカレパ知事は、同州の刑務所の状況が憂慮すべきものであることを認めた。同事件について十分調査すると述べた上で、同州の市営刑務所132カ所のうち男女別に収監できるのは、6カ所だけであると報道陣に伝えた。

 
ブラジル法務省の統計によれば、女性服役者は5%のみであるが、アムネスティ・インターナショナルは、その比率は上昇傾向にあるとし、政府の対応を早急に求めている。

当局の発表によると、根本的にブラジルの刑務所は過密問題を抱えており、暴力や暴動の原因となっている。1,050カ所の施設は定員26万2千人のところ、42万人を収容している。

アムネスティのブラジル研究者ティム・ケイヒル氏は、「今回の事件は特別なものでなく、我々が受けてきた報告と一致している。多くの女性服役者が性的暴力、拷問、健康管理の欠落など、非人間的状況におかれている。訪問調査で生後11カ月の赤ん坊や病気の幼児が、母親といっしょに収監されているのを見た。手錠をはめたまま、出産した者もある。」とIPS記者に語った。

「当局やメディアはより年少者に刑事責任を問うことを訴えているが、今回の事件で明らかになったように、ブラジルの現状では収監した若者を最低限保護することもできない。刑事責任年齢を下げても、犯罪は減らない。ブラジルの更正制度が服役者を非人間的にし、より多くの暴力的な人間を生み出している。」と同氏は主張する。

超法規的、即時、恣意的処罰に関する国連特別報告者のフィリップ・アルストン氏は、今月ブラジルを11日間訪問し、予備報告で、ペルナンブコ州だけでもこの10ヶ月間に61人が刑務所内で殺害されていると伝えた。「70%が集団による殺害と思われ、その集団の多くが、現在または以前の警察官である。」

国連の拷問禁止委員会でも、ブラジルの刑務所では拷問が「広範囲に渡り、組織ぐるみである。過密、不衛生、高温、暗室、永久収監などの劣悪な条件に加え、暴力が一般化しており、監督がいないため、告発されない。」という報告がされている。

さらに米州人権委員会にも、ブラジル国立司教会議によって、同様の内容が報告され、5つの州において、女性服役者への暴力が認められたと訴えた。

ダ・シルバ内閣も状況改善に動いている。タルソ・ゲンロ法務大臣は、今回の「野蛮な」事件は特別なものでなく、服役施設に対する公的投資が「慢性的に」不十分であったためと述べた。最近立ち上げられた「安全保障と市民権の国家プログラム」によって、パラ州には1200万ドルが拠出され、2カ所の女性用収監施設が建設される。

ケイヒル氏は数十年に渡って、国内外のNGOが、拷問や暴力について訴えてきたことを指摘し、行政の対応は遅いと言う。メディアで注目されたこの事件だけに対応するのでなく、すべてのケースに対応する対策が必要であると訴える。

ブラジルの刑務所問題が、少女輪姦事件で注目を集めている。(原文へ

翻訳/サマリー=INPS Japan浅霧勝浩

|ブラジル|男性服役者に輪姦された少女の事件は氷山の一角

【リオデジャネイロINPS=ファビアナ・フレシネット

パラ州の刑務所内で、15歳の少女が1カ月にわたり、20人の男性服役者に強姦され続けた。少女は窃盗の疑いで連行されたまま、法的な手続きなしに、拘留されていた。 

パラ州のカレパ知事は、同州の刑務所の状況が憂慮すべきものであることを認めた。同事件について十分調査すると述べた上で、同州の市営刑務所132カ所のうち男女別に収監できるのは、6カ所だけであると報道陣に伝えた。

 ブラジル法務省の統計によれば、女性服役者は5%のみであるが、アムネスティ・インターナショナルは、その比率は上昇傾向にあるとし、政府の対応を早急に求めている。 

当局の発表によると、根本的にブラジルの刑務所は過密問題を抱えており、暴力や暴動の原因となっている。1,050カ所の施設は定員26万2千人のところ、42万人を収容している。 

アムネスティのブラジル研究者ティム・ケイヒル氏は、「今回の事件は特別なものでなく、我々が受けてきた報告と一致している。多くの女性服役者が性的暴力、拷問、健康管理の欠落など、非人間的状況におかれている。訪問調査で生後11カ月の赤ん坊や病気の幼児が、母親といっしょに収監されているのを見た。手錠をはめたまま、出産した者もある。」とIPS記者に語った。 

「当局やメディアはより年少者に刑事責任を問うことを訴えているが、今回の事件で明らかになったように、ブラジルの現状では収監した若者を最低限保護することもできない。刑事責任年齢を下げても、犯罪は減らない。ブラジルの更正制度が服役者を非人間的にし、より多くの暴力的な人間を生み出している。」と同氏は主張する。 

超法規的、即時、恣意的処罰に関する国連特別報告者のフィリップ・アルストン氏は、今月ブラジルを11日間訪問し、予備報告で、ペルナンブコ州だけでもこの10ヶ月間に61人が刑務所内で殺害されていると伝えた。「70%が集団による殺害と思われ、その集団の多くが、現在または以前の警察官である。」 

国連の拷問禁止委員会でも、ブラジルの刑務所では拷問が「広範囲に渡り、組織ぐるみである。過密、不衛生、高温、暗室、永久収監などの劣悪な条件に加え、暴力が一般化しており、監督がいないため、告発されない。」という報告がされている。 

さらに米州人権委員会にも、ブラジル国立司教会議によって、同様の内容が報告され、5つの州において、女性服役者への暴力が認められたと訴えた。 

ダ・シルバ内閣も状況改善に動いている。タルソ・ゲンロ法務大臣は、今回の「野蛮な」事件は特別なものでなく、服役施設に対する公的投資が「慢性的に」不十分であったためと述べた。最近立ち上げられた「安全保障と市民権の国家プログラム」によって、パラ州には1200万ドルが拠出され、2カ所の女性用収監施設が建設される。 

ケイヒル氏は数十年に渡って、国内外のNGOが、拷問や暴力について訴えてきたことを指摘し、行政の対応は遅いと言う。メディアで注目されたこの事件だけに対応するのでなく、すべてのケースに対応する対策が必要であると訴える。 

ブラジルの刑務所問題が、少女輪姦事件で注目を集めている。(原文へ) 

翻訳/サマリー=INPS Japan浅霧勝浩

|米印関係|原子力協力の商業化以前にそびえるハードル

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ】

ヒラリー・クリントン米国務長官は、7月20日、前ブッシュ政権がインドと結んだ米印原子力協力(2国間民生用原子力協力協定)を前進させるための協議をニューデリーで開始した。しかし、推定100億ドル相当の協定に署名する前に、多くの障害を乗り越えなくてはならないのは明らかである。 

ロバート・ブレイク米国務次官補(南アジア担当)は先週、協定は「米国の企業にとって大きな機会を提供し、100億ドル相当にものぼる輸出をインドにもたらすことになる。」と語った。


しかし、インド議会での法案審議が原子炉や原子力技術などの輸出商機の前に立ちふさがる。法案は、米国の原子炉製造業者に事故の際の免責を与え、そのことによって保険加入を可能とするものである。 

「デリー科学フォーラム」の中心人物プロビール・プルカヤスタ氏は、「インドの原子炉運転業者にのみ責任をかぶせて米国の製造業者を免責することは受け入れがたく、人権活動家や議会の野党によって批判されることになるだろう。」とIPSの取材に対して語った。 

プルカヤスタ氏は、インドのエネルギー需要を満たすために原子力を使用することに反対ではないとしつつも、メガワットあたり約560万ドルと同氏が推定する原子力発電のコストに懸念を示した。 

GE=日立やウェスティングハウスのような米企業はすでに、フランスのアレバSAやロシアのロスアトム社のような企業と競争関係にある。しかし、アレバやロスアトムは完全国営あるいは半官半民であるため、国家免責が与えられている。 

米国製原子炉の建設候補地としてすでにアンドラ・プラデシュ州とグジャラート州の名が挙がっているが、米国製原子炉から発生した使用済み燃料をどのように再処理するかをめぐって、今週末からウィーンで米印当局間での協議が始まることになる。 

インドへの原子力技術販売を可能とするため両国が昨年署名した協定では、(核実験による制裁から)30年のときを経て、使用済み燃料の再処理が行われることになる特別保障措置施設が建設されることになっている。 

インドは、この協定によって、国際原子力機関(IAEA)による査察を容認する民生用核施設において米国の核技術を利用することができるようになる。軍事施設は除外されたが、これは、インドの軍事用核計画を原子力発電と分離する適切な保障措置が存在しないとの理由で軍備管理関係者から出ていた反対論において、きわめて重要なポイントになっていた。 

協定を進めるため、ブッシュ政権は、核取引に関わる特別の権利をインドに与えることを、45カ国からなる原子力供給国グループ(NSG)に認めさせた。NSGは昨年9月、「NSG加盟国は、原子力関係の軍民両用機器・物質・ソフトウェア・関連技術を、平和目的でかつIAEA保障措置がかけられた民生用核施設で利用するために、インドに移転することができる」と決定した。 

しかし、G8諸国は、7月はじめにイタリアのラクイアで行われた主要国首脳会議(サミット)において、核不拡散条約(NPT)に加盟していない国への濃縮・再処理の技術・機器の移転を禁止すると宣言した。インドは、不平等であるとの理由で、NPTへの署名を一貫して拒んでいる。 

このG8宣言は「濃縮・再処理に関する施設・機器・技術の拡大に伴う核拡散上のリスクを低減する」努力と、「濃縮・再処理に関する物品・技術の移転に関する規制メカニズムをNSGが強化し続けていること」を歓迎した。 

しかし、宣言は、2008年11月にNSGの専門家グループで策定された濃縮・再処理の物品・技術に関する規制強化の提案は「有益かつ建設的」であるとし、NSG加盟国に対して「各国ごとに」それを実行するよう求めた。 

米国がG8の一角を占めているため、バラク・オバマ政権がインドをNPT非加盟国として扱おうとしているのではないかとの恐れがインド国内で広がっている。しかし、プラナブ・ムカジー財務相は、「IAEAとの特別保障措置協定があるのだから、G8がどのような立場を取ろうとも我々は気にしていない」と7月13日にインド国会で述べて、火消しに回った。 

インドが今後30年間で少なくとも1750億ドルを原子力発電に費やそうとしていること、1974年に核実験を実行した直後から、原子炉供給・核技術・核燃料供給の面で国際社会から制裁を受けながらも自ら技術開発を進めてきたことが、交渉上のインドの強みになっているとの分析もある。 

他方、米国の主要な原子炉メーカーであるウェスティングハウスとGEに関する懸念もある。というのも、これらのメーカーが、インドと核協力協定を結んでいない日本との関係が深いからである。ウェスティングハウスは日本の東芝が所有しているし、GEは日立と組んで世界中で原子力プロジェクトを推進している。 

7月19日、独立のシンクタンク「イマジンディア研究所」は次のような声明を発した――「日本とインドが核協力協定を結ばないかぎり、ウェスティングハウスとGEがインドとビジネスを行うことが難しくなるのではないかと強く懸念している」。 

同研究所の声明によれば、東芝と日立が日本政府から特別の許可をもらわないかぎり、「GEとウェスティングハウスがインドの核ビジネスに関与する能力が著しく削がれることになる」という。 

しかし、米企業と核ビジネスを行うことへの最大の反対論は、ユニオン・カーバイド社の不誠実な態度を問題にする活動家からのものかもしれない。同社は、1984年12月にインドのボパールで3800人を死に到らしめた、イソシアン酸メチル流出事件を引き起こしている。これは、史上最悪の産業災害といわれている。 

6月、27人の米下院議員が、ユニオン・カーバイド社がボパールに所有していた資産を2001年に継承したダウ・ケミカルズに対して書簡を送った。跡地の土壌と周辺の水源を浄化することに加えて、事件の被害者に医療・経済支援を行うよう求めたものである。 

書簡には、「市民からの要求と世界からの抗議が繰り返しなされているにもかかわらず、ユニオン・カーバイド社は災害に関する刑事事件の被告としてボパール地裁に出頭することを拒み続けています。」と書かれている。 

全国反核運動連盟(NAAM)の呼びかけ人であるS.P.ウダヤクマール氏は、「ボパールで起きたことを考えると、原子力事故が起こった際に米国の原子炉製造業者を免責する立法を行おうとするいかなる動きにも反対します」と語った。 

NAAMはとくに、原子炉の運転業者に事故の責任をかぶせる一方で製造業者を免責する「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」をインドが批准することに反対している。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

冷戦期の核抑止構想を修正

0

【エルサレムIPS=ジェロルド・ケッセル】

曖昧さ――特に今日のイランイスラム共和国の政情不安を鑑みるとき、同国の核兵器開発疑惑に関心を寄せている全ての人々にとって、この言葉が「合言葉」となるだろうか? 

イランの「核パズル」(=核兵器開発疑惑の真相)を解くには、先週死亡したロバート・マクナマラ国防長官(当時)の下で公式採用となった、冷戦当時における米国の国防方針を振り返ってみる価値があるだろう。マクナマラ長官の就任期間に、「相互確証破壊」という核抑止構想が一般に知られるようになった。これは米国及びソ連(当時)政府の双方が、一方が核兵器を使えば最終的にお互いが必ず破滅する、という状態を理解している(従って双方が核兵器の使用を抑制する:IPSJ)ことを指している。

 「おそらくイランはイスラエルとの間に同様の核抑止関係を構築することを目指している。」と、イスラエルのテレビ局「チャンネル2」のエフード・ヤーリ氏は推測する。ヤーリ氏は、イスラエルの安全保障当局内に「信頼できる情報源」を持っているとして知られている人物である。 

ヤーリ氏は、「イランは民生用核開発計画を諦めないだろう。それどころか、核兵器開発の野心についても意図的に曖昧な態度をとり続けている。」「彼らは、核専門家が『限界点』と定義する核爆弾製造能力を取得するポイントに到達するまで曖昧な立場をとり続けるだろう。」と語り、イランが民生用の核関連ノウハウを核兵器開発へと転用できる最終段階まで行き着くことを躊躇しないだろうとの見方を示した。 

しかしイランのこの態度は、まさにイスラエルが「我が国は中東最初の核保有国にはならない。」と宣言しつつ数十年に亘って核開発に対する態度を曖昧にしてきた政策と酷似するものである。イスラエルは、同国が既に数十基の核弾頭を配備する核保有国ではないかとの非難をかわすためにこの主張を貫いてきた。 

イランのマームード・アフマディネジャド政権は、今日に至るまで、改良を加えたミサイル計画を挑発的に誇示する一方で、核開発に関しては、イランがそのノウハウを取得する正当な権利を有しているとのみ主張し、民生用核開発計画を軍事転用するレベルに移行するか否かという点については明確な発言を避ける方針を維持してきている。 

このイランの込み入った核戦略に対する米国の態度は、バラク・オバマ大統領が米ロ2国間の枠を超えて世界の核廃絶を目指すと表明しているにもかかわらず、曖昧なままである。 

この米国の曖昧な態度は、イラン核問題へのイスラエルの対応に関する米国の懸念について、オバマ大統領とバイデン副大統領が各々見解を述べた際に明らかとなった微妙なニュアンスの違いに表れている。バイデン副大統領はABCテレビの番組で、もしある主権国家が他国の脅威に晒されていると認識している状況下で、「米国がその国に対して何が出来るか、出来ないかといった要求をすることはできない。」と発言した。 

バイデン氏のこの発言が、イスラエルに対してイランの核施設への空爆を容認したものではないことを、イスラエル政府は理解できたであろう。しかし、その点を明確に否定する必要性を感じたオバマ大統領は、翌日CNNの番組で、米国の空爆容認疑惑について「そのようなことは全くない」と断言した。 

イスラエル政府筋によると、バイデン発言の背後にイスラエルの関与はなかったとのことである。 

米国首脳の相次ぐ発言に対してイスラエル当局はその後数日間、「ノーコメント」を通してきたが、週末になってベンヤミン・ネタニヤフ首相の安全保障顧問ウージー・アラド氏が、インタビューに答える形で率直な見解を述べた。 
彼は「ハアレツ」(Ha’aretz)紙に対して「イランは既に、核開発段階における『引き返しのきかない一線』を越えている。その一線とは、自前で核燃料を生成するサイクルを完成する能力を獲得した段階と定義できるだろう。それは言い換えれば、他国に依存することなく核分裂性物質を生産するために必要な要素を全て手中にした段階を指す。イランは現在その段階にある。」「イランが全ての核関連の技術を既に修得したかどうかは分からないが、ほぼその段階にある。」と語った。 

またアラド氏は、「しかし、イランはまだ核兵器を使用できるところまで到達していない。そこに至るまでには、イランはさらに困難な壁を克服しなければならない。国際社会は自らの意思でイランの核武装を止めさせる十分な時間がある。…明らかに(国際社会は)十分な対応をしてこなかった。とられた対応策も、タイミングが遅すぎるか、内容があまりにも不十分なものばかりであった。現実問題として、イランを阻止することはまだ可能である。しかし、イランは危険水域として設定した『一線』を既に超えている。」と付け加えた。 

アラド氏は、「イランが核兵器国となるのを認める時ではないのか?」との質問し対して、「懸念されているのは、イランの核武装が契機となってあたかもダムが決壊するように一気に中東諸国の核武装化が進むという事態です。冷戦中に世界が核武装したソ連や中国と共存したように、今後も核武装したイランとの共存が可能と考えるのは間違っています。それは問題の本質が、単にイラン一国の核武装ではなく、中東地域全体の核武装という点にあるからです。」と答えた。 

アラド氏はまた、「イスラエル人でない中東専門家たちの間でも、もしイランが2015年に核保有国になれば中東全体が2020年には核武装化されるだろうとみている。まさに複数の核保有国が競合する中東地域は悪夢に他ならない。世界のエネルギー資源が眠る緊迫した不安定な地域に、5・6カ国の核保有国が存在する場合、核兵器の存在が地域の安定をもたらすどころか、著しく不安定にさせることになる。核武装した中東地域は、まさに逆さに立てられたピラミッドのようなものだ。」と語った。 

さらにアラド氏は、「イランと取引したければ必ず軍事オプションを用意しておかなければならないというのが安全保障の専門家たちの見解だ。その軍事オプションがより信頼のおける具体的なものであればあるほど、実際に使用する可能性が低くて済む。事実、軍事オプションを用意していないものが、結局は軍事力に訴えなければならない状況に追い込まれる傾向にある。」と付け加えた。 

アラド氏が述べた見解は、従来イラン核問題に関して我々が耳にしてきたものと比べるとより率直で具体的なものである。つまりイスラエルは、イランの核武装化を阻止することで、冷戦期に一般化した核抑止論「相互確証破壊」に対する修正を加えたいと考えている。また、おそらく少なくとも、核開発の意図を曖昧にして国際社会を欺いてきた自らの核兵器開発政策をイランが踏襲しないよう手を打つ必要があると考えている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事: 
フランス、核軍縮に関する立場は曖昧

UAEと中国、観光協力協定に署名

【ドバイWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の観光・商業マーケティング省(DTCM)と中国の観光局(BTA)が、観光関連の経験を互いに共有し、相互協力の範囲を拡大するための協定を締結した。 

DTCMのカリッド・ビン・スラエム大臣とBTAのチャン・フイガン局長が、DTCM本部において「観光協力覚書に署名した。チャン局長は5名の代表団のトップとして、初めてドバイを訪れていた。

 スラエム大臣は高級代表団を歓迎し、観光開発・促進を目的としたDTCMの政策やプロジェクト、ドバイ観光の海外での宣伝などについて中国側に説明した。UAEは中国3都市に出先機関を置いている。 

大臣はまた、中国のような拡大可能性のある市場を開発するためにDTCMが立ち上げたさまざまな事業や、観光エキシビションやロードショーにDTCMがいかに関与してきたかについて強調した。 

チャン氏は、目を奪われるようなドバイの成長ぶりや、UAEの観光産業全体、とりわけホテルのサービスのレベルの高さに感心したと述べた。 

また、UAEへの中国人観光客は伸びているが、それは主に、両国間の航空便数が増えたこと、ドバイの投資環境がよくなったことが原因だとの見方を示した。 

両国は、「観光目的対象国」(ADS: Approved Destination Status)合意によって、両国間の観光客の往来が増え、観光業界がおおいに伸びるであろうと考えている。 

この協定によって、観光開発や観光投資機会に関連した政策の情報を公開できるようになり、往来の拡大の障害となる問題を見定めてそれを解決する方法を提案し、観光エキシビションや観光フェスティバルなどにおいて観光関連等の企業の参加を促進することができるようになる。 

2007年に、UAE・中国両国は、観光目的対象国に関する了解覚書に署名していた。2008年、DTCMは上海・北京・広州の3都市に代表事務所を開設した。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 
 

|カンボジア|数十年の時を経てS-21刑務所の生存者が語る真実

【プノンペンINPS=ロバート・カーマイケル】

「私は手錠をかけられ床にうつ伏せになって横たわるよう命じられた。」と老人は裁判官に向かって証言した。 

「看守たちは棒の束を持ってきて床に放り投げました。棒の束は床に落ると大きな音が響きました。そして好きな棒を選ぶように言ったのです。私は彼らに、『兄弟、たとえどれを選んでもその棒で私を殴るのだろう。それならどれにするかは君次第だよ。』と応えました。」

 これらは、カンボジア特別法廷(ECCC)として知られる現在公判中の国連支援の裁判において、ポルポト時代を生き延びたボウ・メン氏が先週プノンペンで終日に亘って行った悲惨な証言のほんの一部である。 

ボウ・メン氏はトゥール・スレン(S-21)刑務所と呼ばれた重警備刑務所において拷問された際の経験について語った。民主カンプチアとして知られるクメール・ルージュ政権に国家の敵と目された人々は、1975年から同政権が崩壊した1979年までの間、S-21刑務所に収監され、拷問のうえ惨殺された。 

この時期、15000人以上が同刑務所に送られ生き残ったのはほんの一握りの人達だった。 

1980年代初頭に撮影された有名な写真にはS-21刑務所を生き延びた7名が建物前で互いに腕を組んで立っている。以来、4名が既に他界した。 

彼らが生き残れた唯一の理由は、S-21刑務所長の「ドッチ同志」が利用できると認めた技術を持っていたからだった。 

先週、その生き残った3人に、人道に対する罪に問われているドッチ(本名:カン・ケ・イウ)の裁判で自らの経験について証言する機会が巡ってきた。ドッチはもし有罪になれば終身刑に処されることとなる。 

彼らの証言は約200万人のカンボジア人が殺された1975年から1979年の恐怖の時代の記憶を生々しくよみがえられることとなった。 

3人は、1970年代のカンボジアというクメール・ルージュ政権支配下の恐怖の時代に翻弄された、ごく普通の人々である。逮捕時、ボウ・メン氏は農業組合で農機具を作る仕事に、そして彼の妻は水田で稲作に従事していた。 

ボウ・メン氏は、法廷での証言で、「1977年中旬に夫婦そろって逮捕され、S-21刑務所に収監された」と語った。彼の妻は刑務所到着時に引き離され、その後2度と再会することはなかった。彼は写真を撮られ、服を脱がされたうえ、元小学校(=S-21刑務所)の教室だったところに他の囚人と共に鉄棒に繋ぎとめられた。 

「その部屋には30人から40人が収容されていました。私の近くの部屋の隅に背の高い白人の外国人が収監されているのを見ました。彼も私たちと同じ薄い粥の配給を受けていました。私たちには米は殆ど与えられず、私は当時痩せ細り、体力が殆どありませんでした。」とボウ・メン氏は語った。 

証言台に立った3名とも耐えられないほどの食料と水の不足、そして動物以下の扱いをうけたことを語った。S-21刑務所の囚人は、当然のこととして、殴打、鞭打ち、電気ショック等の拷問に晒された。 

拷問の目的は専ら囚人たちが「犯したはずの罪」を自白させるさせることでした。1977年中旬から1978年にかけて別々に逮捕された3名の証言者の容疑は、いずれも政府転覆を狙ってCIAかKGBに参画したというものだった。 

当時の独裁主義体制下では、S-21刑務所に収監されたことはすなわち有罪を意味していた。従って、囚人たちにとって自らの無罪を証明する機会は無きに等しいものだった。囚人に与えられた唯一のオプションは「罪を自白するか」(その後結局殺されることとなるが)或いは当時の言葉で云う「粉砕されるか」(=惨殺されるか)しかなかった。 

ボウ・メン氏が法廷で述べたように、自分がなぜ逮捕されたのか質問することは全く無意味だった。クメール・ルージュ体制の下で「革命組織(オンカー)」と呼ばれた党幹部達は、決して判断を間違えない、全てを見通し、全てを知る全能の存在とされていたからだ。 


ボウ・メン氏は、「私は(看守に向かって)『私も妻も孤児なんです。私たちがどんな間違いを犯したのでしょうか?』と問いかけたところ、彼らは『そのような質問は必要ない。知っての通りオンカーにはパイナップルのように多くの眼があるのだ。そもそもお前が間違いを犯していなければ、オンカーがお前を逮捕することはないのだ。』と言っていた。)と証言した。 

S-21刑務所において地獄の18か月を生き延びたボウ・メン氏は、先週証言台に立った他の2人の元囚人と同じく、無実の罪により逮捕・収監された人物である。 

ヴァン・ナト氏は今日カンボジアで最も有名な画家であるが、証言台に立ったナト氏は「民主カンプチアは私から人間の尊厳を奪った」と語った。 

ナト氏は、S-21刑務所で60人の囚人が大きな部屋の中でどのように鎖で繋がれていたかについて語った。囚人たちの死は日常茶飯事だったが、夜遅く死体が取り払われるまで生きた囚人と鎖でつながれたまま放置された。一日の食料は僅かティースプーン3杯ほどの薄い粥で、ナト氏が収監後約1ヵ月間そのような環境でなんとか生き延びていたある日、看守に呼び出された。その時、彼は看守の呼び出しは殺されることを意味していると知っていたので生きる望みをあきらめた。 

しかしナト氏は殺されなかった。それはドッチ所長がナト氏の画家としての腕前について評判を耳にしたからだった。当時オンカーは指導者(ポル・ポト)の肖像画を制作する人材を必要としており、結果としてナト氏はボウ・メン氏と共に巨大なキャンバスに向かって肖像画を描く仕事に従事させられた。 

3人目の証言者で機械工のチュン・メイ氏(79歳)は、彼がどのように逮捕されS-21刑務所に連行されていったかについて語った。また、刑務所での拷問に耐えられず、ありもしないKGB/CIAの陰謀に加担したと自白させられたことについても語った。 

しかしメイ氏は、殺されるどころか、彼のミシンを修理できる技術がドッチ所長の目にとまり、生き延びることが許された。ドッチ所長は当時機械修理ができる人材を必要としており、メイ氏はミシン、水道管やタイプライター等を修理する仕事に従事させられた。 

3人の男たちは、民主カンプチアに侵攻したベトナムが支援する解放軍が1979年1月7日にプノンペンを陥落させた後、S-21刑務所から釈放された。 

3人の生存者が失ったものは、当時のカンボジアに降りかかった大惨事の縮図と言えるものだった:ボウ・メン氏の妻はS-21刑務所でドッチ所長の指揮の下ほぼ確実に殺害されたと見られている。チュン・メイ氏の妻と4人の子供はクメール・ルージュの手により殺害された。ヴァン・ナト氏の妻はクメール・ルージュ時代を生き延びたが、夫妻の2人の子供たちは死んでしまった。 

3人のうち、いずれも当時の経験を忘れられるものはいないが、裁判で証言できたことで、心の負担をある程度軽減することができたようだ。ボウ・メン氏は裁判官に向かって「私はようやくカンボジア特別法廷(ECCC)の証言席に立つことができました。ECCCは私に正義を見つけることができるのです。私は、その正義がたとえ100%でなく60%であっても十分幸せなのです。」と語った。 

ヴァン・ナト氏もECCCに対する希望を表明した。「私は今日この裁判の証言に立って若い世代の人々に私の苦境や経験についてお話をする機会があるとは夢にも思っていませんでした。私はこのような機会を頂いたことを大変名誉なことと思っていますし、これ以上のことは望むべくもありません。私の唯一の希望は、当時亡くなった人達に対する正義がなされること。それこそがこの法廷ができることだと思います。」と語った。 

それでもクメール・ルージュ時代を生き延びた多くの人々は、「なぜ私がこのような酷い目に逢わなければならなかったのか?」というおそらく最も重要な疑問に対して満足のいく回答を得られることはないだろう。 

元画家のボウ・メン氏は「協同組合では妻と私は毎日懸命に働いていました。今振り返っても当時私がどのような失敗を犯したのか思い当たらないのです。」と語った。 (原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩 

関連記事: 
クメール・ルージュ裁判で画家が当時の看守と対面に 
|コロンビア|暴力に満ちた世界で希望となる子どもたち

|フランス|核軍縮に関する立場は曖昧

0

【パリIPS=アレシア・D・マッケンジー

北朝鮮が米国に対して自国の「核抑止力」を強化すると威嚇する中、核開発を巡る国際的な論戦に拍車がかかっている。その中にあってフランスのような国々がとっている立場は、一部の専門家達の間で「曖昧」で「偽善的」とみられている。 

フランスと英国は、西ヨーロッパにおける核保有国である。フランスの公式な立場は核兵器の備蓄量を削減し核実験は停止すべきというものだが、ニコラ・サルコジ政権は、未だ核廃絶を目指すとの公約は行っていない。 

しかし一方で、サルコジ大統領は外国の特定の国々が核兵器を開発することについては認めない立場をとっている。彼は6月に米国のバラク・オバマ大統領と行った共同記者会見の中で、北朝鮮とイランに対して核兵器開発をしないよう警告を発した。 

サルコジ大統領は、5月の北朝鮮による核実験を非難した後、「イランには、民生用に原子力エネルギーを活用する権利があるが、それを転換して核武装する能力を獲得することは認められない。」と語った。 

しかし専門家の中には、このようなフランスの立場を、表裏のある偽善的なものとみている人々もいる。 

「こうした主張は全て偽善的です。」とフランスの主要反核連合Sortir du Nucleaire Network(841団体が加盟)のスポークスマン、ピエール・エマニュエル・ベック氏は語った。

 
「民生用核開発計画を核兵器から切り離すことはできません。例えばフランスがリビアのような国々に原発施設を売却した段階で、核爆弾開発がそう遠くない未来に続くであろうということは、誰もが知っていることです。」と、ベック氏はIPSに対して語った。 

「フランスは『曖昧な』立場をとっている。」と、ベック氏は付け加えた。サルコジ大統領はフランスの核弾頭を削減したいと考えているが、フランス政府は、米ロ両国が膨大な核兵器の備蓄を維持し続け、一方でイランや北朝鮮のような「政情不安」な国々からの脅威が存在する中で、核軍縮に踏み切ることに慎重な態度を示している。 

フランスは、昨年9月までに空中発射の武器を全体の3分の1削減し、保有する核弾頭数を約300発までに減らしたと主張している。 

サルコジ大統領は、世界の軍縮は、相手方が兵器を削減すれば自らも兵器の削減に応じるとする「相互主義」に基づいて行われるべきと述べているが、専門家の中にはこの考え方を「受け入れられない」として批判するものもいる。 

またフランス政府は、同国は当初の5大核保有国の中で唯一、核実験場と核分裂性物質製造施設を自ら放棄した国だと主張している。この点について他の核保有国は具体的な対応を明らかにしておらず、来年5月に開催予定の核不拡散条約(NPT)運用検討会議を前に状況は益々不透明となっている。2010年NPT運用検討会議は、前回の5年前の会議と同様、核軍縮を求める人々にとって失望に終わる可能性がある。 

「議論が現在のようなレベルで留まっている限り、核軍縮は近い将来実現しそうにない。核兵器保有能力を持つということは力の象徴であり、各国は経済援助を含む多くの要求事項を満たす交渉手段として核カードを行使しているのです。」と、ベック氏は語った。 

「北朝鮮、イラン、イスラエル、インド、パキスタンといった『新核保有国』は、今後も核開発計画を推進する権利を主張し続けるとみられるが、これらの動きに対する当初の5大核保有国(フランス、英国、中国、米国、ロシア)の態度は不十分な点が多い。」と専門家達はみている。 

「北大西洋条約機構(NATO)加盟国の殆どの国民は、自らの政府が引き続き核兵器の使用を容認しているという現実を理解していないのです。」と、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)の共同議長であるウタ・ツァプフ氏は語った。PNNDは、核兵器政策に関する最新の情報を政策責任者に提供している国際ネットワーク組織である。 

またツァプフ氏は、「NATO加盟国の国民はまた、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコといった加盟国は今でも米国の核兵器を有事には使用する目的で配備し続けている現実を理解していない。」と語った(フランスは今年になってNATOに43年ぶりに復帰した)。 

「核兵器は地雷やクラスター爆弾と同様、無差別、非人道的、不道徳且つ非合法なものです。全ての核兵器は禁止され破棄されなければなりません。」とツァプフ氏は付け加えた。 

Sortir du Nucleaire Networkによると、フランスの団体の中にも、政府が民生用原発事業を縮小し、より多くの資金を再生可能エネルギーに投資すべきと考えているところがいくつかある。フランスでは消費エネルギーの約80%を国中に建設された59の原発施設から得ている。 

ジャンルイ・ボルロー(Jean-Louis Borloo)エコロジー・エネルギー・持続的開発相によると、フランス政府は2011年までに国内各県に太陽エネルギー発電施設を建設予定である。しかし、この計画が同国の原発政策にどのような影響を与えるかは今のところ未定である。 

 フランス政府は、189カ国が締結しているNPT運用検討会議に向けた準備段階で、自国及び欧州パートナー諸国の核政策に関する原則の輪郭を描こうとしている。 
 
サルコジ大統領は、6カ月毎に交代する欧州連合の議長国をフランスが務めた際、核軍縮に向けた欧州連合提案をまとめた書簡を潘基文国連事務総長に送った。 

昨年12月に記されたその書簡には、「欧州は、それがたとえテロとの戦いであれ、大量破壊兵器の拡散防止や方向性を是正するためであれ、或いは危機管理のためであれ、平和のために行動することを望んでいます。そしてそれが軍縮問題、とりわけ核軍縮の問題であっても欧州の姿勢は変わりません。欧州諸国は、その内2カ国の主要加盟国が核兵器所有国であることから、核軍縮の問題に対して特別な関心を持っています。」また、「欧州提案には、包括的核実験禁止条約(CTBT)の締結と検証体制の確立、そして透明性を確保し国際社会に開かれた形での核実験施設の一刻も早い放棄が含まれている。」と記されている。 

サルコジ大統領は、「欧州連合は、放射性物質の生産を即時一時停止すると共に、核兵器製造のための放射性物質生産を禁止するための交渉を開始することを要求している。」と語った。 

6月、サルコジ大統領はイランについて言及した中で、「私達はイランとの平和と対話を望んでいます。また私達はイランの開発を支援したいとも思っています。しかし、私達は核兵器の拡散は望みません。」と語った。 (原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

フランス、核軍縮に関する立場は曖昧

【パリIPS=アレシア・D・マッケンジー】

北朝鮮が米国に対して自国の「核抑止力」を強化すると威嚇する中、核開発を巡る国際的な論戦に拍車がかかっている。その中にあってフランスのような国々がとっている立場は、一部の専門家達の間で「曖昧」で「偽善的」とみられている。

フランスと英国は、西ヨーロッパにおける核保有国である。フランスの公式な立場は核兵器の備蓄量を削減し核実験は停止すべきというものだが、ニコラ・サルコジ政権は、未だ核廃絶を目指すとの公約は行っていない。

しかし一方で、サルコジ大統領は外国の特定の国々が核兵器を開発することについては認めない立場をとっている。彼は6月に米国のバラク・オバマ大統領と行った共同記者会見の中で、北朝鮮とイランに対して核兵器開発をしないよう警告を発した。

サルコジ大統領は、5月の北朝鮮による核実験を非難した後、「イランには、民生用に原子力エネルギーを活用する権利があるが、それを転換して核武装する能力を獲得することは認められない。」と語った。

しかし専門家の中には、このようなフランスの立場を、表裏のある偽善的なものとみている人々もいる。

「こうした主張は全て偽善的です。」とフランスの主要反核連合Sortir du Nucleaire Network(841団体が加盟)のスポークスマン、ピエール・エマニュエル・ベック氏は語った。

 
「民生用核開発計画を核兵器から切り離すことはできません。例えばフランスがリビアのような国々に原発施設を売却した段階で、核爆弾開発がそう遠くない未来に続くであろうということは、誰もが知っていることです。」と、ベック氏はIPSに対して語った。

「フランスは『曖昧な』立場をとっている。」と、ベック氏は付け加えた。サルコジ大統領はフランスの核弾頭を削減したいと考えているが、フランス政府は、米ロ両国が膨大な核兵器の備蓄を維持し続け、一方でイランや北朝鮮のような「政情不安」な国々からの脅威が存在する中で、核軍縮に踏み切ることに慎重な態度を示している。

フランスは、昨年9月までに空中発射の武器を全体の3分の1削減し、保有する核弾頭数を約300発までに減らしたと主張している。

サルコジ大統領は、世界の軍縮は、相手方が兵器を削減すれば自らも兵器の削減に応じるとする「相互主義」に基づいて行われるべきと述べているが、専門家の中にはこの考え方を「受け入れられない」として批判するものもいる。

またフランス政府は、同国は当初の5大核保有国の中で唯一、核実験場と核分裂性物質製造施設を自ら放棄した国だと主張している。この点について他の核保有国は具体的な対応を明らかにしておらず、来年5月に開催予定の核不拡散条約(NPT)運用検討会議を前に状況は益々不透明となっている。2010年NPT運用検討会議は、前回の5年前の会議と同様、核軍縮を求める人々にとって失望に終わる可能性がある。

「議論が現在のようなレベルで留まっている限り、核軍縮は近い将来実現しそうにない。核兵器保有能力を持つということは力の象徴であり、各国は経済援助を含む多くの要求事項を満たす交渉手段として核カードを行使しているのです。」と、ベック氏は語った。

「北朝鮮、イラン、イスラエル、インド、パキスタンといった『新核保有国』は、今後も核開発計画を推進する権利を主張し続けるとみられるが、これらの動きに対する当初の5大核保有国(フランス、英国、中国、米国、ロシア)の態度は不十分な点が多い。」と専門家達はみている。

「北大西洋条約機構(NATO)加盟国の殆どの国民は、自らの政府が引き続き核兵器の使用を容認しているという現実を理解していないのです。」と、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)の共同議長であるウタ・ツァプフ氏は語った。PNNDは、核兵器政策に関する最新の情報を政策責任者に提供している国際ネットワーク組織である。

またツァプフ氏は、「NATO加盟国の国民はまた、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコといった加盟国は今でも米国の核兵器を有事には使用する目的で配備し続けている現実を理解していない。」と語った(フランスは今年になってNATOに43年ぶりに復帰した)。

「核兵器は地雷やクラスター爆弾と同様、無差別、非人道的、不道徳且つ非合法なものです。全ての核兵器は禁止され破棄されなければなりません。」とツァプフ氏は付け加えた。

Sortir du Nucleaire Networkによると、フランスの団体の中にも、政府が民生用原発事業を縮小し、より多くの資金を再生可能エネルギーに投資すべきと考えているところがいくつかある。フランスでは消費エネルギーの約80%を国中に建設された59の原発施設から得ている。

ジャンルイ・ボルロー(Jean-Louis Borloo)エコロジー・エネルギー・持続的開発相によると、フランス政府は2011年までに国内各県に太陽エネルギー発電施設を建設予定である。しかし、この計画が同国の原発政策にどのような影響を与えるかは今のところ未定である。 

 フランス政府は、189カ国が締結しているNPT運用検討会議に向けた準備段階で、自国及び欧州パートナー諸国の核政策に関する原則の輪郭を描こうとしている。 
 
サルコジ大統領は、6カ月毎に交代する欧州連合の議長国をフランスが務めた際、核軍縮に向けた欧州連合提案をまとめた書簡を潘基文国連事務総長に送った。

昨年12月に記されたその書簡には、「欧州は、それがたとえテロとの戦いであれ、大量破壊兵器の拡散防止や方向性を是正するためであれ、或いは危機管理のためであれ、平和のために行動することを望んでいます。そしてそれが軍縮問題、とりわけ核軍縮の問題であっても欧州の姿勢は変わりません。欧州諸国は、その内2カ国の主要加盟国が核兵器所有国であることから、核軍縮の問題に対して特別な関心を持っています。」また、「欧州提案には、包括的核実験禁止条約(CTBT)の締結と検証体制の確立、そして透明性を確保し国際社会に開かれた形での核実験施設の一刻も早い放棄が含まれている。」と記されている。

サルコジ大統領は、「欧州連合は、放射性物質の生産を即時一時停止すると共に、核兵器製造のための放射性物質生産を禁止するための交渉を開始することを要求している。」と語った。

6月、サルコジ大統領はイランについて言及した中で、「私達はイランとの平和と対話を望んでいます。また私達はイランの開発を支援したいとも思っています。しかし、私達は核兵器の拡散は望みません。」と語った。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:
ドイツ、核兵器は持たず共有するだけ