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人権問題との闘いは「まるで地雷原」(AIイラン問題担当エリーゼ・アウアーバック氏インタビュー)

【国連IPS=クリスチャン・パペッシュ】

10月18日、国連人権委員会が、イランの人権状況を検討するための会合を開いた。一方、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル(AI)」は、イラン政府が現在及び過去に於ける人権侵害(青少年に対する死刑適用、少数派宗教、民族、同性愛者に対する差別や逮捕等)を認めない限り、これは茶番劇となりかねないと警告している。

 IPSでは、米国AIのイラン問題担当エリーゼ・アウアーバック氏に、イランの人権状況、国際社会の反応、政治的な障害、「アラブの春」のイランへの影響等について聞いた。

Q:イランが国連人権委員会に提出した報告書は10年以上も遅れて出されたものであり、しかも、重要な人権侵害に触れていません。これは茶番でしょうか?

A:茶番とまでは言いませんが、国際社会の懸念には応えていません。国連事務総長もいまやイランに関する報告書を年に2回も出しています。また、特別報告官のアフメッド・シャヒード氏も報告書を出したばかりですが、彼はイラン国内への立ち入りを禁じられています。これらの国連報告書には、イランの人権状況に関する様々な懸念が述べられています。

これに対してイラン政府は、自国の人権状況に向けられた批判は、政治的な動機に基づいて欧米諸国が仕掛けている中傷キャンペーンに過ぎないと反論しています。私が見るところ、イランが提出した報告書の内容は不十分であり、国際社会の懸念に対して真面に応えることを避ける意図で、極めて曖昧に作成されたものと言わざるを得ません。

Q:このところ中東・北アフリカ地域で、多くの革命や蜂起が起こっていますが、こうした「アラブの春」と呼ばれる変革の波はイランに到達するでしょうか?政府の人権侵害に対する蜂起がイランでおこりうるでしょうか?

A:2009年の夏に、きわめて大きな抗議活動がイランでありました。選挙結果の不正を訴えて、数百万という人々が街頭に出てきたのです。この行動こそが、この春のアラブ諸国での抗議活動の先駆けであったという人もいます。

しかし、イラン政府はこの抗議を徹底的に弾圧しました。2009年12月と、その後も散発的に大衆抗議活動がありましたが、現在のアラブ諸国での活動ほどの規模にはなりませんでした。しかし、イランの人々は、大変なリスクを冒して、彼らが見るところの不公正な政府に対して、抗議の声を上げているのは確かです。そしてイラン政府も、さらなる大規模な抗議行動がおきないよう全力で抑えこみにかかっているのです。

Q:2日前、禁固6年、映画製作20年間禁止の判決が下されていた映画監督ジャファル・パナヒ氏(Jafar Panahi)の控訴が棄却されました。彼をはじめとした批判的な人々がイラク国内で活動する余地はあるのでしょうか。アムネスティ・インターナショナルとしては、パナヒ氏のような活動家を支援するためにどんなことをやってきたのでしょうか。

A:パナヒ氏は、祖国を愛しており、イランに留まって活動したいとの意思表示を何度となく行ってきましたが、それでも告発されました。これまでに、2万1000筆の署名を集めています。中には、ショーン・ペンスティーブン・スピルバーグマーティン・スコセッシといったハリウッドの有名人もいます。これをニューヨークにあるイランの国連代表部に届けようとして最初は受け取りを拒否されたのですが、交渉の末にようやく受け取ってもらうことはできました。

芸術的な表現に対する弾圧がイランでは続いており、国内での活動は難しい状況にあります。しかし、イランの人々はきわめて勇敢であり、いかにしてイラン政府を出し抜くかを考えています。

Q:イランの人権状況を改善するにあたって、アムネスティ・インターナショナルが直面している困難は何ですか?その他の国との違いは何でしょう。

A:イランは、活動する上でもっとも難しい国のひとつです。人権状況の規模の大きさとシステムの不透明さという点もあります。それに、我々はイランへの入国を許されないのです。しかし、イラン国内には、我々に状況を報告してくれる多くの人権活動家がいます。

私たちは、私たちのアジェンダと米国政府のアジェンダは無関係であることを明確にしておきたい。私たちがイランの人権状況を批判するのは、人権活動家として発言しているのであって、私たちの関心は人権分野以外のなにものでもないのです。

イランに関する議論は、核兵器開発疑惑や、イスラエルへの敵対疑惑、中東地域への影響行使疑惑など他の問題と絡んですぐに政治化しやすいので、私たちはきわめて慎重にメッセージを発する必要があります。

イランにはきわめて多くの問題があって、まるで地雷原を歩いているかのようです。だからこそ、私たちは、人権分野のメッセージにこだわって、慎重に進まなければならないと思っています。

翻訳=山口響/IPS Japan戸田千鶴

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軍縮の美辞麗句の裏で優先される核兵器近代化の動き

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

スタンレー・キューブリック監督の映画『博士の異常な愛情または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』で描かれている異常な状況を連想させるかのように、核保有国の中で核兵器のない未来について積極的に熟考している国はない。それどころか、この恐るべき兵器を使用する可能性が大きくなっている、と新たに発表された報告書は述べている。

 同報告書は、この気がかりな世界的傾向について、「米露間で締結された新戦略兵器削減条約(新START:2011年5月発効)は、おそらくこの20年で最も成果のあった軍縮管理の枠組みと見られているが、条約の中身に関しては米露両国の間にかなりの認識の隔たりがあることから、必ずしも両国が保有する核兵器が大幅に削減されるという結果には結びつかないだろう。」と指摘している。

「核兵器保有国による軍縮を巡る美辞麗句がどのようなものであれ、さらなる大胆な軍縮或いは軍備管理に関する進展が見られない中、様々な状況証拠が示しているものは、『核兵器の近代化と拡大』という新たな時代が到来しているという現実です。」と報告書の著者であるイアン・カーンズ氏は警告している。

カーンズ氏は、この見解を立証するため、(英国以外の)世界の核兵器備蓄量に関するデータや分析を収集するとともに、核保有国の核戦力近代化傾向、宣言政策と核ドクトリン、さらには各国の核保有政策の根拠となっている安全保障上の懸念について考察を加えている。

この報告書は、英国の核政策を検討する超党派の独立委員会「トライデント委員会」のディスカッションペーパーとして作成されたもので、英米安全保障情報評議会(BASIC)から11月初めに出版された。

核兵器保有国は拡大している

1980年代半ば以来、世界の核兵器備蓄量は大幅に削減されたが、一方で核兵器保有国の数は増加している、と報告書は指摘している。「今日、核兵器の総数は20,000発余りを数えるが、世界で最も不安定で紛争が起こりやすい地域にも存在している。東北アジア、中東、南アジアでは深刻な紛争の勃発や核拡散の懸念が取りざたされており、それに伴って核兵器が使用される可能性も高まっている。」

データ分析の専門家が明らかにしたところによると、長期的な核戦力近代化・品質向上プログラムが全ての核保有国において進行している。つまり、米国やロシアのみならず、中国、インド、パキスタン、その他の核保有国においても、向こう10年間に亘って、数千億ドルにも及ぶ予算が核兵器近代化のために計上されている。

近代化された核兵器

ほとんど全ての核兵器保有国が引き続き新型或いは近代化された核兵器を生産し続けている。そして中にはパキスタンやインドのように、従来より小型で軽量の核弾頭を開発することにより、核ミサイルの射程距離を延ばしたり、短距離の攻撃対象に絞ったより戦術的な運用を目指していると見られる国々もある。

また報告書は、核弾頭の戦略的運搬手段について、「ロシア及び米国は戦略核戦力の三本柱である陸・海・空軍戦力(ICBM・SLBM・戦略爆撃機)を長期にわたって維持する立場を改めて表明している。一方、中国、インド、イスラエルは、独自の三本柱を構築しようとしている。中国、インドの場合、射程距離の向上と、地上発射基地の機能向上、並びに核弾頭搭載の原子力潜水艦の建造を主眼とした、大規模な弾道ミサイル開発プログラムが進められている。」

「イスラエルの場合、核巡航ミサイルが搭載可能な潜水艦艦隊(ドルフィン級潜水艦)の増強が図られており、人工衛星打ち上げロケットプログラムと相まって、将来的に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発する道のりを歩んでいるとみられている。」

「パキスタンは急速に核弾頭の備蓄数を拡充するのみならず、新たにプルトニウム生産炉を建設して核分裂性物質の備蓄を進めている。また北朝鮮のように、ミサイル技術の飛躍的な向上を図ろうとしている。」

「最近弾道ミサイル搭載の潜水艦隊の近代化を完了したフランスは、全体の機数は縮小するものの、新型でより機能が向上した戦略爆撃機を空軍核戦力に導入しようとしている。また、潜水艦及び戦略爆撃機に搭載する新型でより強力な核弾頭の導入も進めている。」

こうした調査結果は、バラク・オバマ大統領が、彼の生存中には成しえないだろうとしながらも、核兵器なき世界の実現に思いを巡らせた2009年4月の歴史的なプラハ演説から、3年も経過していない中で公表された。

必要不可欠とみなされている核兵器

とりわけ衝撃的なのは、全ての核兵器保有国において、「核兵器は安全保障上、必要不可欠とみなされており、中には核攻撃に対する抑止という範疇を遥かに超えた役割(=核の先制使用)を安全保障戦略の中に組み込んでいる国もある」という事実である。

そうした国とは、カーンズ氏によれば、ロシア、パキスタン、イスラエル、フランス、並びに、「ほぼ間違いなく」北朝鮮である。一方、インドの場合、生物・化学兵器による攻撃を受けた場合には、報復手段として核兵器を使用する権利を保持するとしている。

事実、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)が指摘しているように、「他国からの核兵器の使用や威嚇に対して核兵器の役割を抑止に限定(核兵器の先制不使用)しているのは中国のみで、他の全ての核保有国は、程度の差こそあれ、核兵器以外の脅威に対しても、核兵器を使用する選択肢を保持する立場をとっている。」

非難の応酬

また報告書は、「いずれの核兵器保有国も、他国の核兵器及び通常戦力の開発状況と比べて自国の戦略的、潜在的脆弱性を指摘することで、自らの核兵器近代化・品質向上計画を正当化している。」と述べている。

ロシアは、自国の核兵器開発プログラムは、中国が通常兵力においてロシアより優位にある現状に対する懸念に加えて、米国の弾道ミサイル防衛構想(BMD)や「通常兵器による迅速なグローバル打撃(CPGS)」構想に対する懸念に対処するためのものであると主張している。

中国は、自国が進めている核兵器近代化・品質向上計画について、米国が同様の計画を推進しており、インドにも同様の計画があるとして、正当化する立場をとっている。一方、インドは核開発計画を推進する動機の一部として、パキスタンと中国の軍事的脅威に対する恐れがあると主張している。パキスタンは自国の核兵器開発計画を擁護する理由として、インドが通常兵力においてパキスタンを圧倒している現状を挙げている。そして南アジアから遠く離れたフランスは、世界で「増え続ける」核備蓄に対する対抗策として核兵器の近代化政策を是認する立場を表明している。

非戦略核兵器

また報告書は、核保有国の中に、仮想敵国より通常戦力で劣っている部分を補完する戦力として、非戦略核(=戦術核)兵器を重視している国々もある点を指摘している。

「戦術核兵器は、通常兵力で劣勢にある国に、敵対国に対して全面的な核攻撃に至らない程度で緊張を高めさせ、抑止力を発揮する選択肢を提供する軍事カードと考えられている。」と報告書は述べている。この状況は、冷戦期の北太平洋条約機構(NATO)による核ドクトリンの諸相を反映している。

従ってロシアやパキスタンのような国においては、核兵器は軍事計画の中で実践に使用する役割が割り当てられている。ロシアでは、これは核デスカレーションドクトリンという形をとっている。またパキスタンでは、核武装をほのめかしつつも、敵対国、主としてインドの軍事立案者を混乱させる意図から、あえてその点を曖昧にしている。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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【ベルリンIDN=ザンテ・ホール】

原子力エネルギーの放棄や核兵器の廃絶が語られているが、それだけでは十分ではありません。それらは私たちを結びつけている『核の連鎖』とも言うべき大きな生産の連鎖の中の、目に見える生産物に過ぎないのです。そしてこの核の連鎖は、私たちが一般に認識しているよりも遥かに深刻な危害をもたらすものなのです。

核の連鎖の入口は、原子力エネルギーと核兵器共通の原料である「ウランの採掘」です。

そして次の連鎖は「ウラン濃縮」です。遠心分離技術でウラン濃縮が行われますが、ウランが発電に使われるか核兵器開発に使われるかを規定するものは、単に濃縮段階の問題にすぎないのが実態です。

 
私たちが何を信じようが、ウランが何の目的に使用されるかについて100%確信を持つことは不可能です。例えば、イランの核開発疑惑をめぐる問題は、核技術の使用を巡って不信がいかに緊張関係を高めるかを示している事例です。ウラン濃縮の動きを巡る政治的な対立が高まれば、戦争さえ引き起こしかねないのが現実です。

ウラン濃縮の副産物は、濃縮ウランを得た後に残される「劣化ウラン」から製造されるウラン兵器です。ウラン兵器は、例えば、ボスニアイラクアフガニスタンといった紛争地で使用され、人々の健康や環境に深刻な被害を及ぼしました。

核連鎖の次にくるのが「原子炉」です。核原子炉は電気を製造するのみならず、使用済核燃料棒を再処理することでプルトニウムを分離することが可能です。

核兵器は、高濃縮ウラン或いはプルトニウムを原料に製造されているのです。

核兵器が存在する限り、広島・長崎への原爆投下や核実験の事例にみられるように、常に使用されるリスクが存在するのです。

そして、核の連鎖の最後に来るのが「核廃棄物或いは放射性降下物」です。

核の連鎖は私たちの暮らしと密接に繋がっている

核の連鎖に連なるこれらの要素は、いずれも放射能を排出することから健康と環境にとって極めて危険な存在です。いずれの生産過程からも自然界に数百年から数千年にわたって残存する放射性廃棄物や降下物が排出されているのです。このように核連鎖のもたらす現実は、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーであるという議論とは大きくかけ離れたものであり、核エネルギーが気候変動問題の解決策となるという議論は真っ赤な嘘だと言わざるを得ません。

電離放射線は健康に深刻な被害を及ぼす

―ヒロシマ、チェルノブイリセミパラチンスク―原爆の投下、炉心溶融、大気圏核実験の違いはあっても、放出されたアイソトープ(同位体)の種類によって被爆した人々には似通った臨床症例が報告されています。

具体的には、甲状腺癌、癌種、結腸癌、肺癌、骨癌、白血病(特に子供の症例が多い)、肝臓癌、遺伝子異常などですが、その他にも多くの症例があります。福島第一原発事故の影響を長期的な観点から見た場合、こうした症例の全てが顕在化してくる可能性は高いと言わざるを得ません。

私たちの処方箋

ドイツは米軍の戦術核兵器の国外退去を目指していますが、戦術核兵器加盟国としての同盟義務が障害となり交渉が難航しています。またドイツ国内における核エネルギーの放棄も決定しましたが、放射能は国境を選ばないことから、この決定も不十分なままと言わざるを得ません。

こうしたことから、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)では、全体論的な治療法を処方しました。今こそ、全地球的な規模で物事を考え、核連鎖についてもその一部のみを対象とするのではなく、核連鎖全体を対象に取り組むべき時にきているのです。そこで私たちは、地球規模のウラン採掘禁止を呼びかけています。

ウラン採掘の被害に最も晒されているのは世界各地の先住民の人々です。彼らの人権は踏みにじられ、生活環境が破壊されているのです。ウランは、採掘せず、地中に留めるべきなのです。

核物質の輸送を止めるべき

ニジェール、オーストラリアやインドから欧州へのイエローケーキ(濃縮した加工ウラニウム酸化物)であろうが、ドイツからロシアへの核廃棄物であろうが、核物質の輸送そのものを止めるべきです。

核分裂性物質の生産に終止符を打つべき

私たちは、多くの国々が要求している核分裂性物質の軍事目的とする生産の停止を求めるにとどまらず、民生用の使用を目的とした生産も停止するよう求めています。欧州では、私たちは英国のセラフィールド原子力施設の閉鎖決定を歓迎するとともに、フランスのラアーグ核廃棄物再処理工場の閉鎖を求めています。

包括的核実験禁止条約(CTBT)は、最終的に発効すべき。

米国とカナダを含む9カ国が依然として加盟に抵抗しています。

核兵器禁止条約(NWC)

NWC発効に向けた議論が一刻も早く開始されるべきです。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)に参加してください。

地球規模のエネルギーシフトが必要

地域内でエネルギー自給ができるよう地球規模のエネルギーシフトを目指していく必要があります。再生可能エネルギーにより重点を置き、省エネ効率を高めるとともに、消費を減らしていくことで、私たちはエネルギー自給を達成することが可能です。

よいエネルギー政策は、平和を希求する政策でもあるのです。-将来においても太陽や風を巡る戦争は起こりえないのですから。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


*ザンテ・ホール氏は、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部が事務所を構えるベルリンを拠点に核軍縮専門家として18年に亘って勤務している。スコットランド生まれ、英国育ちで、バーミンガム大学で演劇を専攻した。1980年代初頭ウェストミッドランド核軍縮キャンペーンエグゼクティブコミッテ委員を務めた後、1985年に西ベルリンに活動拠点を移した。1995年、『アボリション2000』を創設する一方、ドイツ核廃絶ネットワーク『Atomwaffen abschaffen』の設立にも尽力した。またホール氏は、ミドル・パワーズ・イニシアティブ(MPI)とアボリション・グローバルカウンシルのエグゼクティブコミッテメンバー。核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)欧州コーディネーター、平和市長会議2020ビジョンキャンペーンドイツ代表を務める。

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ベルリンIDN=ザンテ・ホール】

原子力エネルギーの放棄や核兵器の廃絶が語られているが、それだけでは十分ではありません。それらは私たちを結びつけている『核の連鎖』とも言うべき大きな生産の連鎖の中の、目に見える生産物に過ぎないのです。そしてこの核の連鎖は、私たちが一般に認識しているよりも遥かに深刻な危害をもたらすものなのです。

核の連鎖の入口は、原子力エネルギーと核兵器共通の原料である「ウランの採掘」です。

そして次の連鎖は「ウラン濃縮」です。遠心分離技術でウラン濃縮が行われますが、ウランが発電に使われるか核兵器開発に使われるかを規定するものは、単に濃縮段階の問題にすぎないのが実態です。

Xanthe Hall
Xanthe Hall

私たちが何を信じようが、ウランが何の目的に使用されるかについて100%確信を持つことは不可能です。例えば、イランの核開発疑惑をめぐる問題は、核技術の使用を巡って不信がいかに緊張関係を高めるかを示している事例です。ウラン濃縮の動きを巡る政治的な対立が高まれば、戦争さえ引き起こしかねないのが現実です。

ウラン濃縮の副産物は、濃縮ウランを得た後に残される「劣化ウラン」から製造されるウラン兵器です。ウラン兵器は、例えば、ボスニアイラクアフガニスタンといった紛争地で使用され、人々の健康や環境に深刻な被害を及ぼしました。

核連鎖の次にくるのが「原子炉」です。核原子炉は電気を製造するのみならず、使用済核燃料棒を再処理することでプルトニウムを分離することが可能です。

核兵器は、高濃縮ウラン或いはプルトニウムを原料に製造されているのです。

核兵器が存在する限り、広島・長崎への原爆投下や核実験の事例にみられるように、常に使用されるリスクが存在するのです。

そして、核の連鎖の最後に来るのが「核廃棄物或いは放射性降下物」です。

核の連鎖は私たちの暮らしと密接に繋がっている

核の連鎖に連なるこれらの要素は、いずれも放射能を排出することから健康と環境にとって極めて危険な存在です。いずれの生産過程からも自然界に数百年から数千年にわたって残存する放射性廃棄物や降下物が排出されているのです。このように核連鎖のもたらす現実は、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーであるという議論とは大きくかけ離れたものであり、核エネルギーが気候変動問題の解決策となるという議論は真っ赤な嘘だと言わざるを得ません。

電離放射線は健康に深刻な被害を及ぼす

―ヒロシマ、チェルノブイリセミパラチンスク―原爆の投下、炉心溶融、大気圏核実験の違いはあっても、放出されたアイソトープ(同位体)の種類によって被爆した人々には似通った臨床症例が報告されています。

具体的には、甲状腺癌、癌種、結腸癌、肺癌、骨癌、白血病(特に子供の症例が多い)、肝臓癌、遺伝子異常などですが、その他にも多くの症例があります。福島第一原発事故の影響を長期的な観点から見た場合、こうした症例の全てが顕在化してくる可能性は高いと言わざるを得ません。

私たちの処方箋

ドイツは米軍の戦術核兵器の国外退去を目指していますが、戦術核兵器加盟国としての同盟義務が障害となり交渉が難航しています。またドイツ国内における核エネルギーの放棄も決定しましたが、放射能は国境を選ばないことから、この決定も不十分なままと言わざるを得ません。

こうしたことから、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)では、全体論的な治療法を処方しました。今こそ、全地球的な規模で物事を考え、核連鎖についてもその一部のみを対象とするのではなく、核連鎖全体を対象に取り組むべき時にきているのです。そこで私たちは、地球規模のウラン採掘禁止を呼びかけています。

ウラン採掘の被害に最も晒されているのは世界各地の先住民の人々です。彼らの人権は踏みにじられ、生活環境が破壊されているのです。ウランは、採掘せず、地中に留めるべきなのです。

核物質の輸送を止めるべき

ニジェール、オーストラリアやインドから欧州へのイエローケーキ(濃縮した加工ウラニウム酸化物)であろうが、ドイツからロシアへの核廃棄物であろうが、核物質の輸送そのものを止めるべきです。

核分裂性物質の生産に終止符を打つべき

私たちは、多くの国々が要求している核分裂性物質の軍事目的とする生産の停止を求めるにとどまらず、民生用の使用を目的とした生産も停止するよう求めています。欧州では、私たちは英国のセラフィールド原子力施設の閉鎖決定を歓迎するとともに、フランスのラアーグ核廃棄物再処理工場の閉鎖を求めています。

包括的核実験禁止条約(CTBT)は、最終的に発効すべき。

米国とカナダを含む9カ国が依然として加盟に抵抗しています。

核兵器禁止条約(NWC)

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地球規模のエネルギーシフトが必要

地域内でエネルギー自給ができるよう地球規模のエネルギーシフトを目指していく必要があります。再生可能エネルギーにより重点を置き、省エネ効率を高めるとともに、消費を減らしていくことで、私たちはエネルギー自給を達成することが可能です。

よいエネルギー政策は、平和を希求する政策でもあるのです。-将来においても太陽や風を巡る戦争は起こりえないのですから。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


*ザンテ・ホール氏は、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部が事務所を構えるベルリンを拠点に核軍縮専門家として18年に亘って勤務している。スコットランド生まれ、英国育ちで、バーミンガム大学で演劇を専攻した。1980年代初頭ウェストミッドランド核軍縮キャンペーンエグゼクティブコミッテ委員を務めた後、1985年に西ベルリンに活動拠点を移した。1995年、『アボリション2000』を創設する一方、ドイツ核廃絶ネットワーク『Atomwaffen abschaffen』の設立にも尽力した。またホール氏は、ミドル・パワーズ・イニシアティブ(MPI)とアボリション・グローバルカウンシルのエグゼクティブコミッテメンバー。核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)欧州コーディネーター、平和市長会議2020ビジョンキャンペーンドイツ代表を務める。

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核なき世界という「理想郷」を現実に

【IDNベルリン=ラメシュ・ジャウラ】

それは、理想のように聞こえる。しかし、それは、まさにエルンスト・ブロッホの哲学の精神の中にあるものであり、日蓮仏法の教えにある「具体的な理想」である。前者の考えは、すべての形の抑圧と搾取の排除を描いている一方で、後者は、平和の文化が暴力の文化を凌駕することを可能にし、核兵器やその他の大量破壊兵器のない世界を含む、持続可能な人間の安全保障実現への道を開くための、人間精神の変革を描いている。

 創価学会インタナショナル(SGI)が主催する「暴力の文化から平和の文化へ―核兵器廃絶への挑戦展」は、その目的の実現に向けたツールである。SGIは、13世紀の日本の僧侶・日蓮の教えで、人生を肯定する仏法を信奉する団体であり、東京に本部を置き、世界中に1200万人の会員を擁している。

 
この展示は、2007年、SGIが、創価学会第2代戸田城聖会長による原水爆禁止宣言50周年を記念して制作したものである。特に青年への意識喚起を目的として、2007年9月8日、平和市民フォーラムの際に、「核兵器廃絶のための民衆行動の10年」の開幕行事として、初めて公開された。これまで、ジュネーブの国連欧州本部、ウェリントン市の国会議事堂(ニュージーランド)、オスロ市庁舎、国連ウィーン本部等27か国地域、220都市以上で開催。最近では10月7日-10月16日、オープニングに出席した池田SGI副会長が「平和の都市」と称えたベルリン(ドイツ)にて開催された。

Photo: Dr. Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.

池田SGI会長は同展に寄せたメッセージの中で、ノーベル賞を受賞した核戦争防止国際医師会議の支部であるIPPNWドイツと、国際協力評議会(GCC)との共催で開催された10月のこの展示の重要性に触れながら、「東西冷戦の対立を乗り越えて、新たな歴史を刻み続けておられるベルリン」と呼びかけた。

SGIは、IPPNWとICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)と共に、展示開催の目的である、核廃絶の運動をリードする団体である。今回の展示は、1961年10月、池田会長がベルリンを訪問し、ドイツ分断の象徴であり、市を二分したブランデンブルク門の前に立ってより、50年後に開催されることになった。

氏の訪問の2か月前に建設されたベルリンの壁は、東西冷戦の対立の最前線を象徴するものであり、兵士や戦車が居並ぶ風景は、心を深くかき乱す忘れられない光景であった。

その壁は長い間、撤去は不可能と考えられていた。しかしながら重要なことに、一般の民衆の力によって、それはついにとり壊されたのであった。池田氏は、全廃不可能であると信じられている核兵器も同様に、目覚めた民衆の力によって必ずや取り払われると確信している。

ヨーロッパの安定と平和的な統合の推進を担ってきたドイツが果たすべき役割は大きいと、氏は展示のオープニングメッセージで述べている。氏は、ドイツが、未来の挑戦において重要な役割を担うと確信している。

ゲッティンゲン宣言

池田氏は、「世界の政治的状況は、真の意味での平和の秩序が生じるよう、根本的に変革されねばなりません」との、冷戦時代に核兵器の脅威を訴え抜いたカール・フリードリヒ・フォン・ヴァイツゼッカー氏の言葉に言及した。

ゲッティンゲン市のマックス・プランク医学研究所の部長でもあったヴァイツセッカー氏が中心となって推進されたゲッティンゲン宣言は、2012年に55周年を迎える。

18人の核物理学者によって署名されたこの宣言は、核兵器を保有しようとするドイツ軍の計画に強い懸念を表したものだ。彼らは、専門家に知られている事実が一般の人々に十分に知られておらず、公に指摘せざるをえないと感じていた。

宣言は次のように述べている。「(ドイツ軍が得ようと計画した)戦略核兵器は、通常の核兵器と同じ破壊力を持つものである。戦略的という意味は、人間の居住地だけでなく、水上における軍隊との戦闘に対しても使用されることを示している。すべての戦略核兵器一つ一つは、広島を破壊した最初の原爆と同様の効果をもつ。」

大量に使用することが可能な戦略核兵器は、全体としてはるかに大きな破壊力を有することになると物理学者たちは指摘した。これらの戦略核兵器は、近年開発された「戦術的核兵器」や水素爆弾と比べるとその破壊力が小さいというに過ぎなかった。

同宣言はさらに続けて、「財産や生命に対する戦略核兵器の破壊効果がどれほど甚大になりうるかについて、想像することはできない。今日、戦略核兵器は小さな町を破壊することができる。水素爆弾は、ルール市の産業地区規模の地域を、人間が住めない状況にすることが可能である。水素爆弾による放射能によって、ドイツ連邦の全人口を、今日にも死滅させることができる。私たちには、この脅威から多くの人々を守ることが実質的に可能であるかどうかはわからない。」としていた。

戦略核兵器

同宣言にもかかわらず、米国は「核兵器共有政策」の一環として、ドイツや他のヨーロッパ諸国に戦略核兵器を配備した。これは、独自の核兵器開発プログラムを中止させて米国の核の傘の庇護の下に置こうと同盟諸国を説得するために、1950年代に始まったものである。

ドイツに加えて、米国の戦略核はベルギー、英国、イタリア、オランダといった国に配備された。7千発以上がヨーロッパに設置された70年代をピークに、その後は劇的に減少している。確かな情報筋によれば、2007年の終わりにはわずか350発が残るのみとなっている。

この戦略核の減少は、先代ブッシュ大統領とゴルバチョフ大統領が91年に発表した、「冷戦後の大統領核イニシアチヴ」に起因している。このイニシアチヴは、ヨーロッパにおける両国の戦略核の大幅な削減を求めていた。

07年1月には、米空軍は、定期的に核兵器の査察を受ける基地のリストから、ラムスタイン米軍基地(ドイツ)を除外した。アメリカ科学者連盟の核情報プロジェクト代表のハンス・クリステンセン氏は、冷戦中同基地に配備されていた130の戦略核が、恒久的に取り除かれたかもしれないとしている。

もしそうであるなら、ドイツは現在、ビュッヘル空軍基地のみを米国の核兵器配備基地として有していることになる。NATOおよび米国は、何発の核兵器が配備されているかについて一切の情報公開を行なっていないので、ドイツにおける戦略核の正確な数は確認されていない。しかし、ビュッヘルには現在20発があると見られている。

戦略核兵器の撤去の問題は、ドイツ政府内で何年も議論されてきた。しかし2009年10月、新任のギド・ヴェスターヴェレ外相(連邦民主党)は、ドイツから核を撤去するとの決意について疑いの余地を残さなかった。外相は、ドイツの新政権は米国のバラク・オバマ大統領の核兵器なき世界を目指すとのビジョンを支持すると述べた。

同時に、「オバマ大統領の言葉を信じて、冷戦の遺物ともいうべき、ドイツに残存している核兵器が最終的に撤去されるよう、同盟諸国との協議に入る」とも述べた。この考えはアンゲラ・メルケル首相(キリスト教民主同盟)によっても確認された。しかし核兵器はドイツ国内に存在し続けている。


「私たちは暴力の文化を打倒できる」

こうした逆行ともいうべき現状に対抗する意味で、ドイツ連邦議会議員のウタ・ツァープフ氏(社会民主党)は、今回の展示のタイトルが「私たちは暴力の文化を打倒できる」とのメッセージを示そうとしていることが「素晴らしい」と評している。ツァープフ議員は、議会の軍縮・軍備管理・不拡散小委員会の議長を務めている。

核兵器なき世界は確かにまだすぐには実現しない。また、新しいNATOの戦略にも明らかなように、平和は人間精神の中に根をおろすこともできていない。それにもかかわらず、「核兵器という非人道的な存在を廃絶するために、この展示が示すようなことに取り組むのはもっともなことである」と彼女は語った。

「事実、この展示が示すような楽観主義が必要です。なぜなら、世界はいまだ武器や核兵器にあふれているからです。確かに核軍縮が進み、冷戦の間も核兵器の数は減少しました。今ようやく、STARTⅡによる一歩が進んでいます。」

「2010年5月のNPT再検討会議の好ましい結果も、楽観主義の理由となっています。事実、その行動計画は核兵器を完全に廃絶するための道を示しています。(中略)包括的核実験禁止条約が発効することも重要です。米国、ロシア、中国といった核大国の実験停止だけでは十分ではありません。超大国によって批准された条約だけが、将来核兵器がこれ以上製造されないことへの確証を与えるのです。」しかし、この目的が達成されるまでには多くの道のりが残っている。

2010年11月、リスボンでのサミットにおいて、NATO諸国は今後の10年間のロードマップとなるであろう新戦略コンセプトに合意した。米国のオバマ大統領が、核兵器なき世界へのビジョンと核兵器への依存を減少させることの必要性を明らかにした後、NATOを形成するドイツ、ベルギー、オランダは、ヨーロッパから米国の戦略核兵器を撤去することを求めた。

しかし、新戦略コンセプト発表に続く多くの議論にもかかわらず、新文書については前進がなく、いたずらに時間が経過する中、かえって次のように述べるに至った。「NATOは核兵器なき世界の条件を生み出すというゴールを目指す。しかし、核兵器が世界に存在する限り、NATOは核の同盟であることを再確認する。」

しかし、ヨーロッパの市民社会やいくつかの政府から、欧州における米国の核兵器の未来について、NATOの防衛・抑止見直しの一環として討議を行なうべきとの圧力が強まっている。この見直しは新戦略コンセプトの改定についての議論に続いて行なうとされており、2012年5月までに終了の予定となっている。

「真の安全保障」

NATOでの議論の結果が懸念されるが、今日、人類は圧倒的に深刻な挑戦に直面していることは議論の余地がない。貧困や環境破壊から、深刻な失業や経済的不安定といった問題であり、全ての国々の協調が必要とされる。

池田SGI会長は、展示のオープニングメッセージの中で、「(人類共通の課題に立ち向かうために)必要な人的・経済的資源を犠牲にしてまで核兵器を維持することの愚かさが、今、一層明らかになっております。あくまで必要とされるのは、『安全保障』であって、『核兵器の保有』ではありません」と述べた。池田SGI会長は、1983年以来毎年、平和・軍縮などを目的とした提言を発表してきている。

2011年の国連への提言で池田SGI会長は、核のない世界へ、以下3つの挑戦を進めることを呼びかけた。

一、われら民衆は、核兵器の脅威に対する唯一の保証は廃絶以外にないとの認識に基づき、すべての保有国が全面廃棄を前提とした軍縮を速やかに進める体制を確保する。

一、われら民衆は、どの国の行動であろうと「核兵器のない世界」という目的に反する行為を許さず、一切の核兵器開発を禁止し防止する制度を確立する。

一、われら民衆は、核兵器は人類に壊滅的な結果をもたらす非人道的兵器の最たるものであるとの認識に基づき、核兵器禁止条約を早期に成立させる。

さらに「第1の柱となる『全面廃棄を前提とした核軍縮の推進』については、全保有国の参加による国連での対話や交渉の枠組みを定着させる必要があると思います」と訴えた。

国連の潘基文事務総長の「核不拡散・核軍縮に関する国連安保理サミット」を定例化させることを呼びかけた提案について、池田SGI会長は、「安保理サミットの定例化にあたり、『安保理の理事国メンバーに限らず、非核の道を選択してきた国々の代表が討議に参加できるようにすること』と、『核問題に関する専門家やNGOの代表が意見表明する場を確保すること』を求めたいと思います」と述べた。

そして、「2015年のNPT再検討会議を広島と長崎で行い、各国の首脳や市民社会の代表が一堂に会して核時代に終止符を打つ『核廃絶サミット』の意義を込めて開催することを検討すべきであると訴えたいのです。」と訴えた。

もしこれが現実となれば、これまで理想郷であった核廃絶が、現実味を帯びてくるであろう。

IPS Japan

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ただの抗議行動ではなく、小さなユートピア

【ニューヨークIPS=ベン・ケイス】

ウォール街占拠」(OWS)運動は、政治的な圧力、悪天候、警察の暴力、数千人にも及ぶ逮捕者などに耐え、開始後1ヶ月を経てもなお、拡大する勢いを見せている。

運動は全米100以上の都市に広がり、欧州やアラブの民衆運動や長い歴史を持つコミュニティ組織ともつながり始めている。

占拠運動を、それが政治に与える影響という観点から分析したものは少なくない。しかし、その内部構造という視点からみてみることも、意味があることだろう。

 本記事はOWS運動の中心地であるズコッティ広場(通称:自由広場)の占拠に焦点をあてているが、この地の運動と他の占拠運動拠点の間には多くの共通点があり、類似した構造が見られるのである。もちろん、それぞれの占拠運動が自然発生的なもので、各々の地域、問題意識、人口構成、地域を取り巻く事情に基づいて独自に運営されているのはいうまでもない。

OWS運動における占拠の特徴は、その開放性であり、自発性である。自由広場には、運動のメッセージ-「米国の経済システムには根本的な欠陥があり、大胆な変革を必要としている。」或いは「自分たちはこの欠陥あるシステムの犠牲者であり、他の場所でやり直すにも自信がない。」に賛同する人々が自由に集まり抗議活動に参加している。

占拠活動の組織にはじめから加わっているウルジ・シェイク氏は、「OWSの構造はオープンで、誰でも入れて参加することができます。参画方法は、会場に来て自分の役割を見つけること、つまり、どの既存の委員会に参加してもいいし、自ら発案してそこに仲間を集めてもいいのです。」と語った。

お金のかからない経済

そしてこの運動のユニークな一面は、参加にあたってお金が一切要らない仕組みとなっている点である。現在のシステムは、食べ物、医療、居住空間、リラックスする空間、通信手段、教育、娯楽など、生きていくため、人生を楽しむために何かを獲得、利用しようとしても、お金なしには何も手に入らない仕組みとなっている。このお金がかからないという仕組みは、一見重要でないように思えるが、お金が偏在した現在のシステムに対する活動家たちの批判がおそらくその背景にあるのだろう。

OWSでは、寄付以外にはお金というものが存在しない。お金の心配なく、飲み、食べ、リラックスし、音楽を聴き、本を読み、政治を語り、睡眠し、応急処置を受けることもできる。OWSの活動家にとって、平等とは、みなが同じだけのお金を持っていることではなく、まずもってお金を必要としない社会のことである。

医療委員会を立ち上げた救急医療技術者のリリー・ホワイトさんは、「私は運動が始まって2日目、まだ参加者は数人で、医療備品もごみ袋にまちまちのものが入っているという状態で医療テントを開設しました。しかし今では、テントも2つになり、医者と看護婦が常駐し外来急患に対応できるレベルの医療器具を備えるまでになりました。これまでのところここで処置した患者の大半は、警察によるこん棒やペッパースプレーによる傷を負った人々でしたが、その他の病気や怪我に対する処置もおこなっています。最近は気温がだいぶ下がってきたので、低体温症を防ぐ努力をしています。」とIPSの取材に応じて語った。

OWSの組織構成と意思決定の仕組みにも平等主義が貫かれており、誰もが発言する機会を与えられ、参加者の声が無視されることがないようになっている。

協同組合的な民主主義を構築する

OWSの意思決定は、毎日1度は開かれる「総会」で行われているが、実質的な活動は、誰もが組織し参加できる多くの委員会によってなされている。こうした委員会の会合時間や場所はまちまちだが、毎朝掲示板で公表されている。食料、衛生、医療、慰安、安全、ファシリテーションなどの内部的な委員会に分かれている。

「当初、OWSにはあまりにも参加者が多く、運営は大変な状況にあるのではないかと思いました。しかしまもなくすると、きちんと機能している仕組みがあることに気付いたのです。命令されることに慣らされた世界に育った者が突然こんなにも自主的な参加が尊重される世界に飛び込むわけですから、当惑するのは無理ありません。しかし、当惑と言っても、開放感に満ちたものです!」とトロントから参加したショロモ・ロスさんは語った。

またロスさんは、「私は、家族と旅行していて、どちらかというと偶然OWS運動に足を踏み込み、活動の趣旨に賛同して、何ができるか尋ねたのが運動に関わるようになったきっかけです。すると彼らは私に何ができるか尋ね、私でもできそうな職種を紹介してくれたのです。つまりこの運動は大変開かれたもので、誰でも参加できるのです。」と語った。

委員会には、食糧委員会(食糧の収拾、仕入れ、蓄積、配分を担当する)、公衆衛生委員会(会場の衛生管理、清掃を担当する)、医療委員会(医療品の仕入れ、患者の治療、精神面のケア、医療技術の訓練を担当する)、慰問委員会(寄付された衣服、毛布、寝袋、枕等を取りまとめ配布する)、運営委員会(総会のファシリテーター等を訓練する)等がある。

中でも重要なのが、食料委員会と医療委員会である。なぜなら、これらが、OWS運動における参加者の生活を文字通り維持する役割を果たしているだけでなく、米国社会が全体として人々に与えないものを提供し、今後同国の社会が向かうべきもう一つの社会のありかたを示しているからである。

「これこそ、我が国が、国民に提供すべきヘルスケアの在り方の好例といえます。しかも私たちはこの仕組みを路上で1っカ月もかからない期間で実現したのです。」とホワイト氏は語った。

また、外向けの委員会として、メディア関連や、地域・労働団体との連携を担当するものなどがある。その他、芸術、音楽、瞑想、路上演劇、ヨガ教室など、OWS運動に参加している人々の生活全般を潤す様々な文化活動を担当しているグループがある。

ひと月以上が経過し、OWS運動はまるで、誰もが共感する平等主義の原理に基づいて開設した機関や活動によって意図的に運営されている独自の町のような雰囲気になってきた。抗議行動としては、こうした占拠戦術が、常に人々を惹きつけ行動を組織化する源泉となっていることからかなりの成功を収めている。

少なくともOWS運動の魅力は、占拠地が参加者達にとって暮らしたいと思うような小世界を現出する機会を提供していることだろう。明らかなことは、この運動が拡大し続ける中で、現実の社会に不満を抱いている多くの人々が、そこで体現されている新たな社会に共感するだろうということである。

「私たちはここで、資本主義を解体し、より良いものを作り上げているのです。」とシェイク氏は語った。(原文へ

INPS Japan浅霧勝浩

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|アラブ首長国連邦|インターネットに潜む危険から子供たちを守る

【アブダビWAM】

「インターネットは、多くの子どもが、家庭や学校で世の中のことについて学ぶ在り方を一変させたツールである。教育ツールとして利用すれば、大人も子供も、様々な学問について学び、知識を広げることができる。」とアラブ首長国連邦の英字日刊紙が報じた。

「しかし、子どもを持つ親からしてみると、インターネットを通じて子供が接する世界には、子どもを標的とする変質者や子供にふさわしくないコンテンツ等、憂慮せざるを得ない問題も少なくないのが現実である。」とガルフ・ニュースが11月8日付の論説の中で報じた。

「しかし、だからといって子ども達をインターネットから遠ざけるわけにもいかないだろう。なぜなら、子ども達が現代社会で生き延び、成功していくためのスキルを奪うことになってしまうからである。一方で、子ども達のインターネット使用に関して、親がモニターしアクセスをコントロールする技術も存在する。」

 「学校や家庭にそうした技術やインターネットを導入するのが誰であったとしても、子ども達を育て、世間の様々な危険から守る最終的な責任は、結局親にあるのである。」とガルフ・ニュース紙は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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フィンランド、中東非大量破壊兵器地帯会議の主催国に

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【国連IPS=エリザベス・ウィットマン】

フィンランドが、2012年に開かれる中東非大量破壊兵器地帯化に関する会議の主催国にようやく選ばれた。この会議の目的は、すべての中東諸国を参加させることにある。たとえばイランとイスラエルのように、長年にわたって意見が対立してきた国々があるからである。

国連の潘基文事務総長は、10月14日、フィンランドのヤッコ・ラーヤバ外務事務次官が会議のファシリテーター(取りまとめ役)となることを発表した。

 潘事務総長とロシア・英国・米国政府が共同で発表したこの会議は長く待ち望まれていたもので、エジプトが1990年にはじめてこのアイデアを提案してからすでに20年近くに及ぶ困難な道のりの中で、ひとつの前進となるものである。

軍備管理・軍縮関連の団体は、会議の開催自体と、主催国としてフィンランドが選ばれたことを歓迎しているが、主催国とファシリテーター役が指名されるまでにかなりの時間がかかってしまったことに懸念を示し、会議を開催するまでに残っている難題や、中東非大量破壊兵器地帯を最終的に創設することの難しさを指摘している。

英米安全保障情報評議会(BASIC)のプログラムディレクター、アン・ペンケス氏(ワシントン)は、IPSの取材に応じ、「ファシリテーターを指名できたことは明らかに前進です。しかし、それが10月半ばまでかかってしまったということは…このような難しい会議を2012年に開く実務作業が果たして可能なのかどうか、疑問を抱かざるを得ません。」と語った。

それでもなお、「もしイランとイスラエルが同じテーブルについて相互の安全保障問題について討論するならば、会議は非常に大きなステップとなるでしょう。」とペンケス氏は語った。

軍備管理協会のダリル・キンボール事務局長も、「会議開催の決定は非常によいことです。」と指摘したうえで、「大事なことは、会議を実際に開催し、地域のすべての主要国が建設的な議論に参加するよう努力することです。ただし、そうした成果が得られるという確証はありませんが。」と語った。

またキンボール事務局長は、「イランであろうとイスラエルであろうとシリアであろうと、核・生物・化学兵器問題について、これらの国の間での実際的な対話を始めるという点に注目しなければなりません。」と語った。

進展はやはり困難か?
 
1990年にエジプトがはじめて提案した後、中東非大量破壊兵器地帯が公的に主張されたのは、1995年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議においてである。しかし、諸国がその目標の具体的な達成手段についてようやく合意したのは、2010年のNPT運用検討会議であった。

合意されたひとつのステップは、2012年に会議を開催することであり、ロシア、英国、米国、国連がこれを主導することになった。

会議の主催国とファシリテーターが、なんとか決まったということは、少なくともこのような難題に関して諸国家をまとめる取り組みが進展したことを意味している。しかしだからといって、このこと自体が会議の成功を保証するものではない。

「主要政府が、中東地域をいかにして軍縮に向けた軌道に乗せていくかについて建設的な意見を携えてこの会議に臨むことがなによりも重要です。そうすることで、最初のいくつかのステップが出てくるでしょう。」とキンボール事務局長は語った。

「核兵器であれ生物兵器であれ、あるいは核実験禁止であれ、各国には、条約に署名しそれを履行するという点で、必ずとらねばならない手続きがあります。しかし、会議に向けた取り組みに関する外交的言辞は、疑いや前置き、前提条件に満ちています。」とキンボール事務局長は指摘した。

米国国連代表部のカーティス・クーパー副報道官は、「2012年の会議が建設的な議論の場となることを望んでいます。」とIPSの取材に応じて語った。クーパー副報道官によると、米国は「この目標達成の障害を取り除く実際的かつ建設的な措置」をとるよう諸国に促している、という。

またクーパー副報道官は、「大量破壊兵器なき中東は『達成可能な目標』ではありますが、一夜にして実現できるものではありません。」「この目標は、中東における包括的かつ持続可能な平和という文脈においてのみ、つまり、イランとシリアがそれぞれの国際合意の完全履行へと復帰することではじめて、達成できるものなのです。」と語った。

英国は、同じような声明の中で、中東非大量破壊兵器地帯の創設にコミットし続けるとしたうえで、「しかし、それは一夜にして成るものではないし、地域のすべての国家の努力や支持なくして可能なものでもない。」と述べている。

同声明は、会議について「困難になるであろうプロセスの最初の一歩であり」、「地域の国家が議論に参加する絶好の機会となる」としつつも、「そのためには地域のすべての国家と国際社会の完全なる参加が不可欠である。」と指摘している。

その他の問題

かりに、会議がどれだけ建設的なものになるかという疑いがそれほどでなかったとしても、会議の見通しに影響を与える現在の中東情勢に関する懸念はかなり深刻なものである。

ペンケス氏は、現在進行中の「アラブの春」や、イランによる駐米サウジ大使の暗殺疑惑などの「実際的な問題」が、プロセスを困難に陥れるかもしれない、と指摘した上で、「この種の会議は空白の中で開催できるものではなく、それに向けて多くの政治的に微妙な問題がうまく処理されねばなりません。」と語った。

ヘルシンキ・サノマット』によると、ラーヤバ外務事務次官は、2012年という広いスケジュールを示しただけだという。

この言葉の選び方、とくに「広く」という言葉は、「会議遅延の可能性を匂わせるものです」とペンケス氏は指摘した。

それとは別に、ラーヤバ外務事務次官が、中東問題に関する経験があるとみられていないこと自体は、「この状況では有利に働くかもしれない」とペンケス氏は見ている。「アウトサイダーとして、長年にわたって深く事態に関与したり利害を持ってしまっている人よりも、問題を鋭く指摘することができるかもしれません。」とペンケス氏は語った。

中東で唯一の核兵器国であるイスラエルは、同国が公式に所有を認めないまま核兵器を保有していることを会議で非難されるかもしれないとの懸念を示し、もしそうならば会議には参加しない、と主張している。

キンボール事務局長は、「会議の開催国が決まったとしても、会議を建設的なものにするのは依然として困難な課題です。」と強調した上で、「関係諸国は、会議の始まる前、そして会議後に行動を起こす準備をしなくてはなりません。そうしてはじめて新たなプロセスを始めることができるのです。」「この会議が、特定の国の外交官がただ集まって帰るだけのものに終わらせないことが大事なのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|パレスチナ|ユネスコ加盟は重要な一歩

【アブダビWAM】

「国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、パレスチナを正式な加盟国として迎え入れることを決定した。このことは、ユネスコ加盟の重要性もさることながら、より広い文脈、すなわち、パレスチナに基本的権利を認めるという緊急かつ重要な観点からみても、パレスチナにとって大きな一歩となった。」とアラブ首長国連邦の日刊紙が報じた。

パレスチナは10月31日に行われた採択で、賛成107(反対14、棄権52)でユネスコの195番目の加盟国として承認された。この背景にはパレスチナ及び支援諸国による活発なキャンペーン活動があった(89年に申請した際には事実上「門前払い」された)。採択後、パレスチナ暫定自治政府のリヤド・アル-マリキ外相は、「今回の採択は、パレスチナ人民に行われてきた不当な権利の侵害を僅かながらでも正す一助となるだろう。」と語った。

しかし今回の採択は代償も伴うものであった。米国は同盟国イスラエルの敵を国家扱いするユネスコの姿勢に猛反発し、拠出金の支払いを凍結すると発表した。「今回の決定は、パレスチナに関する問題となると、米国政府の姿勢が国際社会からいかに遊離しているかを浮き彫りにするものとなった。」とガルフ・ニュースは論説の中で報じた。

「国際社会の大きな流れは、人々が自由と権利を獲得できるよう後押しするというものである。もしそのような後押しを必要とする人々があるとすれば、それは、何十年にもわたって権利を無視・侵害・差別されてきたパレスチナ人に他ならないだろう。従って、パレスチナのユネスコ加盟は、小さいながらも、独立国家として国際社会の承認を獲得するための、重要な一歩となった出来事である。」

この文脈から見れば、パレスチナのユネスコ加盟に反対した国々は偏見に基づく差別的な判断をしたと見做されてもやむを得ないだろう。パレスチナ人は未だにイスラエルの占領下、或いは難民として生きることを強いられているのが現実であり、このことを無視することはできない。

従って、パレスチナと支援諸国が目指すべき次のステップは、同様の承認を獲得すべく、引き続きこの方向性を追求していくことである。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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│東アフリカ│オバマ政権、「神の抵抗軍」征伐へ軍事支援

 【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

米国のバラク・オバマ大統領は10月14日、約100人の軍事顧問団をウガンダをはじめとする周辺諸国に派遣し、「神の抵抗軍」(LRA)征伐の支援を行うことを発表した。

ホワイトハウスが公表したオバマ大統領が議会指導部に通告した書簡には、「今回の派遣人員は緊急の場合には戦闘に対応はできるが、その任務はあくまで、「神の抵抗軍」の指導者ジョセフ・コニーと幹部の排除を目的とする現地国軍パートナーに対する情報提供や助言に限られている。」「派遣部隊は、12日のウガンダ派遣を皮切りに、南スーダン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国に対して、それぞれの国々の承認を得た上で、派遣される。」と記されている。

LRAの指導者ジョセフ・コニーとその他4人の司令官は国際刑事裁判所によって2005年に戦争犯罪と「人道に対する罪」で起訴されており、人権団体はオバマ政権の方針を歓迎している。

 1980年代末に北ウガンダに現れた「神の抵抗軍」は、ウガンダと近隣諸国において少なくとも30,000人を殺害し、約200万人の難民を生み出した元凶とされている。また、子どもを誘拐して強制的に自軍の兵士に編入したり、犠牲者の手足切断や、集団レイプを犯すなど、その残虐さで悪名が轟いている。

「軍事顧問を配置することで、オバマ大統領は、関係諸国が「神の抵抗軍」による大虐殺に最終的に終止符を打てるよう、決定的なリーダーシップを発揮しているのです。彼らは赴任地において、民間人の保護や『神の抵抗軍』指導部の捕獲作戦の向上など、従来とは異なる前向きな変化をもたらすことができるのです。」と紛争解決に取り組む団体「Resolve」のポール・ローナン代表は語った。

今回の決定は、オバマ政権内で「人道的介入」を唱道してきた人々、とりわけ国家安全保障会議メンバーで大統領上級顧問のサマンサ・パワー氏スーザン・ライス国連大使にとって再度の勝利となったようだ。彼女たちにとっての前回の勝利は、3月における米国及び北大西洋条約機構(NATO)によるリビア情勢介入の決定であった。

当時、国連安全保障理事会はムアンマール・カダフィ政権の軍及び治安部隊から民間人を保護するためにリビアに「飛行禁止区域」を設定することを承認した。しかし米国及びNATO同盟諸国はこの安保理決議を拡大解釈し、米軍及びNATO派遣軍は事実上、反乱勢力を支える空軍部門として機能し、反乱勢力がリビアのほぼ全域を掌握するうえで大きな役割を果たしている。

特殊部隊を中心として派遣される今回の軍事顧問団の規模はリビア派遣部隊と比較するとかなり小規模である。リビア情勢への介入の場合(オバマ大統領は議会と協議せず中南米訪問中に米軍の攻撃を命じた)と異なり、今回の軍事顧問団の派遣は、2009年のLRA非武装・北ウガンダ再建法案(2010年5月に民主共和両党の圧倒的支持を得て法制化)を根拠とするもので、米議会は「LRAからの民間人の保護、ジョセフ・コニーおよびLRA幹部の逮捕或いは排除、残存LRA勢力の武装解除」を目指すオバマ政権に対する支持を表明している。

LRA非武装・北ウガンダ再建法案の起案者の一人である共和党のジェームズ・インホーフェ上院議員は、「私はLRAがもたらした惨状をこの目で見てきました。私は米軍がLRA問題を重視しこの法の規定に基づいて行動をおこしていることを称賛します。軍事顧問団派遣は、最終的には現地の子ども達や一般民衆をジョセフ・コニーの恐怖支配から保護し、アフリカの人権危機をもたらしたコニーの忌まわしい行為に終止符を打つ助けとなるでしょう。」と語った。

オバマ政権とその前のジョージ・W・ブッシュ政権は、LRA制圧に取り組むウガンダに対して、「非戦闘的」(non-lethal)で兵站的な支援のみを行ってきた。LRAのコニーが2008年に二度にわたって和平協定を拒んだ際には、援助が増やされた。2008年以来、米国は、LRAと戦闘する地域の軍隊に4000万ドルの軍事援助を提供してきた。
 
2008年12月、ウガンダ、コンゴ民主共和国、南部スーダンの軍は、新たに創設された米国アフリカ軍(AfriCom)からの諜報・兵站支援を得た合同軍事掃討作戦「Operation Lightning Thunder(稲妻作戦)」を発動しコニーとLRA残党の捕捉を試みた。

しかしこの軍事作戦はコニーをはじめとするLRAメンバーの多くを取り逃がしてしまい失敗に終わった。LRAは報復として12月下旬にコンゴ民主共和国と南部スーダンで無抵抗の村人を襲撃し1000人近くを殺害、人権擁護団体によると、この報復作戦で最大180万人の地域住民が故郷を追われた。

また米国政府は、LRA非武装・北ウガンダ再建法に基づき、LRAの被害を受けている地域に対して相当額(国務省によると2011年だけでも1800万ドルを超える)の人道支援を実施している。

オバマ大統領は議会指導部への通告した書簡の中で、LRAを掃討する試みは未だ成功していないと述べている。LRAの戦闘員数は大きく後退したものの依然として300~400だとみられている。専門家は掃討作戦の失敗の原因として、諜報活動の不十分さ、各国軍間の調整不足、そして同地域で最も有力視されているウガンダ軍の多くが掃討作戦から撤退した要因を挙げている。

「LRA掃討作戦に欠けている要因は、ジョセフ・コニー逮捕と市民の保護に専念できる有能な兵士の不足であり、こうした各国部隊の活動を成功に導く米国からの諜報及び兵站面の支援でした。今回の派遣される米軍顧問団は、こうした多国間戦略の一部として、全体の作戦を進展させるうえで触媒的な役割がはたせるでしょう。」と、東アフリカ及びアフリカの角地域における虐殺防止に取り組む人権団体「イナフプロジェクト」の共同創設者ジョン・プレンダーガスト氏は語った。

「米国政府は、米軍顧問団の配置と並行してパートナーとなる地域の各国政府、とりわけコンゴ民主共和国とウガンダ間の対立を解消し相互に協力する方向にもっていくよう外交努力を強めていくことが極めて重要です。」とローナン代表は語った。

今回の軍事懇談派遣は、いくつかの点で、9.11同時多発テロ直後に米国がフィリピン南部のゲリラ組織「アブサヤフ」を掃討するために特殊部隊からなる軍事顧問団を派遣したミッションと似通っている。ブッシュ政権は、アブサヤフをアルカイダと関係したテロ組織とみなしていた。

当時軍事顧問団のフィリピン派遣は、米国が1991年にクラーク海軍基地を閉鎖して以来、初めての兵力配置であったが、ミッションは20年後の今日まで継続している。これにもかかわらず、米政府はこのミッションをとおしてフィリピン政府との軍事的つながりを深めてきており、ミッションを高く評価している。

オバマ政権の報道官は、10月14日に開催した記者会見において、今回の東アフリカにおける作戦は数ヶ月以上続くことはないだろう語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩