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衰退するドイツの反核運動

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【ベルリンIDN=ジュリオ・ゴドイ】

彼ら―そう、ドイツからの核兵器撤去を求めて集った数十万人の平和活動家の姿を、長らく見ることはなかった。冷戦真っ只中の約30年前に大西洋条約機構(NATO)がドイツに公式に核兵器を導入したとき、彼らはドイツの政治シーンの中心的存在だった。しかし、今日、平和デモに参加する人々はほんのわずかしかいない。 

それでもなお、核軍縮を求め続けるドイツの活動家らは、以前と同じく固い意思を持っている。たとえば、ドイツ南西部ラインラント地方の小村ライエンカウルに住む薬剤師のエルケ・コーラー氏の場合もそうである。この州には、NATOの核兵器が配備されている。核軍縮を実現するための彼女の多くの活動の中でも、カール=テオドール・ツー・グッテンベルク国防相に対する訴訟がきわだっている。核兵器をドイツから撤去する積極的な努力を怠った、というのが訴えの理由である。

 コーラー氏の訴訟は、ドイツ配備の核兵器が、ドイツが批准している核不拡散条約(NPT)からドイツ最終規定条約に至るいくつかの国際条約に違反していることを根拠としている。 

コーラー氏はIDNの取材に応じて、国際反核法律家協会(IALANA)の会員である私の弁護士によれば、NPT第2条はドイツが核兵器を配備することを禁止しています。他国の核兵器であっても同じことです。我々の解釈では、ドイツ憲法はすべての市民に対して、政府に国際法を守らせる権利と義務を与えていますから」と語った。 

国防相に対する訴訟は非常に目立つように思われるかもしれないが、訴訟に勝つチャンスがあるかどうかにかかわらず、ドイツではほとんど無視されてきた。ドイツ市民が核問題に対してもつ無関心をよく示している。 

核戦争防止国際医師の会(IPPNW)ドイツ支部の会員イェンス-ペーター・シュテッフェンは「市民は30年前ほどには、核兵器を恐れていない」という。 

シュテッフェン氏はIDNの取材に対して「特に若い世代は核兵器の破壊力に関する想像力がありません。核兵器はたんにより大きな破壊力を持った通常兵器のひとつだと考えられています。核兵器のもたらす破滅について知らないのです。広島・長崎の記念日といったときにしか、核問題が注目されることはありません。あるいは、オバマ大統領のような世界的な指導者が核軍縮を求める発言をしたときぐらいでしょう。」と語った。 

市民の支持を求めて 

オバマ大統領が2009年4月のプラハ演説で、核兵器を「もっとも危険な冷戦の遺産」と呼んだとき、ドイツの指導者らは、核軍縮が市民の注目を集める問題であることに気づき、平和運動の輪に加わるようになった。 

 社会民主党(SPD)の党首でもあるフランク-ヴァルター・シュタインマイアー外相(当時)は、米国政府とNATOの核軍縮計画の中にドイツ配備の核も含めるよう求めた。外相は週刊誌『シュピーゲル』で核兵器は「時代遅れ」と正しくも名指した。彼はそれ以前に核兵器に反対するような発言をしたことはほとんどなかった。 

当時の野党党首であり現在は外相のギド・ヴェスターヴェレ氏もまた、それまでは、反軍事主義だとか国防計画への反対だとかいったことに縁がなかったが、核兵器の撤去を即座に求めた。オバマ大統領のプラハ演説から6週間後の2009年5月15日、ヴェスターヴェレ氏は「核軍縮のときが来た」と強調している。 

彼は、すでに外相となっていた今年1月にもこの主張を繰り返し、ドイツ領土から核を撤去させるための「交渉をNATO加盟国と行っている」と発言した。「オバマ政権成立以来、事態には新しい流動が生まれている」とはヴェスターヴェレ氏の言葉である。 

現在でも、ドイツには数多くの核兵器が存在している。配備の具体的内容については機密扱いされているが、IPPNWの推計によると、B61弾頭の核兵器約20発が、ブエッヘル軍事基地の施設に貯蔵されているという。ベルリンの南西500キロほどのところにある、ベルギーとルクセンブルクの国境に近いライン地区の同施設には、最大44発の核弾頭を貯蔵するスペースがある。 

約1700人のドイツ兵が、いわゆる「核共有政策」の枠組みの下で、核兵器の維持を任されている。この政策は、核兵器を保有しないNATO加盟国が核兵器の使用計画策定に関与できる、というものである。ドイツ以外には、ベルギー、イタリア、オランダが米国の核兵器を貯蔵している。 

IPPNWによれば、合計で300発の米国の核が欧州のNATO加盟国に散らばっている。この核爆弾のそれぞれが170キロトンの爆発力を持っている。ちなみに、1945年8月6日に広島に投下され20万人の命を奪った原子爆弾の爆発力は12.5キロトンであった。 

オバマ大統領のプラハ演説後に生じた核軍縮への機運は非常に魅力的なものであり、2009年10月に政権を取った保守・リベラル連合であるキリスト教民主同盟(CDU)・自由民主党(FDP)ですら、政権公約に核軍縮を含めたほどである。 

CDU・FDPの連立政権合意には、「『核兵器なき世界』という目標を含め、米国のオバマ大統領が打ち出した包括的な核軍縮構想を強く支持する」と述べられている。さらに合意は、「この文脈において、NATOによる新戦略概念策定のプロセスにおいてもまた、NATOおよび米国との同盟という条件の下で、ドイツ領土に依然として存在する核兵器の撤去を推進していく。」としている。 

現実とのギャップ 

しかし、ドイツ政府の核兵器に対する立場は、現実の政策と矛盾をきたしている。ここから明らかなことは、突如として生まれた反核への動きは、たんに政治的な機会主義のなせる業であって、軍縮に対する信念ゆえではないということである。2009年10月の連立政権合意発表の前夜まで、CDU党首でもあるアンゲラ・メルケル首相は、ドイツには核兵器を配備し続けるべきだと繰り返し述べていたのである。 

メルケル首相は、オバマ大統領のプラハ演説の数日前である09年3月、次のように述べていた。「目標と、それへと向かう道を混同しないように気をつけねばなりません。この微妙な分野においてドイツ政府のNATO内における影響力を保つために、核共有政策はわが政府の政策として確固たる地位を占めてきたのです。」 

別の言い方をすれば、軍事的な理由ではなく、NATO内におけるドイツの政治的影響力を保つという意味において、メルケル首相にとって核兵器は必要不可欠のものなのである。しかし、その数ヵ月後には、メルケル首相は、核撤去を求める政権合意に署名している。 

しかし、それから1年が過ぎ、メルケル首相の当初の慎重さを実証するように、世界の官僚機構が核軍縮への新たな動きをせき止めている。結果として、核問題はドイツの日々の政治課題から消え去ってしまっている。 

たしかに、エルケ・コーラー氏のような平和活動家は、それほど多くの人数がいるというわけではないが、「時代遅れの核兵器の撤去」を求めつづけてきた。しかし、社会全体からの注目はほとんど浴びていない。 

NATOは、11月の会合でドイツからの一部または全部の核撤去について検討するかもしれない。専門家は、「NATOはこの問題を取り上げそうだ。しかし議論の帰結は予断を許さない」と見ている。 

IPPNWのシュテッフェン氏は、「厳密に軍事的理由からではないものの、NATOもドイツ政府も同国領内に核兵器を保持しつづけることを望んでいる。」と見ている。シュテッフェン氏は、「ドイツ領内の核兵器には軍事的意味合いはありません。それは時代遅れのものだからです。核戦争が起こったら、NATOが欧州内で核兵器を使った戦闘を行う可能性はきわめて低い。それは使えない兵器だからです。なぜなら、核兵器を航空機に搭載して長い距離を運ばねばならないからです。」と語った。 

シュテッフェン氏によれば、ドイツ政府の核軍縮に対する立場は矛盾をはらんでいる。「政府は、表向きは『核兵器なき世界』を目指すとしています。しかし現実には、NATO内での勢力を保つために核兵器を維持し、さらにはロシアに対する交渉力を保持するためにそれを必要としているのです。それゆえ、ドイツの核兵器は『よく言って政治的価値しかない。軍事的には無意味』なのです。」とシュテッフェン氏は語った。 

ヴェスターヴェレ外相は、「NATOは次のリスボン・サミットにおいて新戦略を承認する。それは、現在の地政学的な状況の下で、同盟の防衛・安全保障政策において核兵器の果たすべき役割という課題にも触れるものとなるだろう。」と語っている。 

同外相に対するあるインタビューによると、4月にエストニアのタリンで開かれたNATO外相・国防相会議において、ヴェスターヴェレ外相自身が、現在の世界における核兵器の意義に関する討論を自身のイニシアチブで開始したと語った。これはまるで、オバマ大統領のプラハ演説とその後の動きなどなかったかのような発言である。 

しかし、ヴェスターヴェレ外相は、米国政府がすでに、少なくともレトリックのレベルにおいて、軍事政策における核兵器の重要性を低下させていることを認めている。「この文脈において、NATOの同盟国からの同意を得て、ドイツから核兵器を撤去することがドイツ政府の目標となった。」と同外相は語った。 

しかし、シュテッフェン氏は、核兵器が軍事的にみればあきらかに無用であるにもかかわらず、NATOがドイツから核を撤去する決定を下す可能性はきわめて低い、と考えている。 

時代遅れではあるが… 

もっともありえるシナリオは、米軍もまた核兵器が時代遅れであることを認めながら、依然としてドイツ領内には核兵器が残り続けるというものである。2008年12月、米国防総省の委託したある報告書において、専門家委員会が、欧州に配備されている B61核爆弾は「軍事的にみれば無益」と結論している。同委員会はまた、核兵器を維持するコストが不当に大きいことも強調している。 

くわえて、ドイツには米国の核にアクセスする権限がない。「核共有政策」の下で、NATOはドイツのような非核兵器国に核兵器を配備している。しかし、この核は米軍によって管理・保全されている。核爆発を引き起こすための暗号も米軍だけが握っている。 

このようなドイツの主権侵害にもかかわらず、ドイツの政治指導者と一般世論の両方にとって、核兵器はもはや重要課題とはなっていない。この問題に関してもっとも口を開かない閣僚がグッテンベルク国防相であることはきわめて示唆的である。同国防相の無関心こそが、エルケ・コーラー氏をして、国際条約違反を理由にドイツ政府に成り代わって同氏を訴えさせたのである。 

しかし、野党の指導者の間でも核問題への関心は低くなっている。それこそオバマ演説以後の数ヶ月間は、すべての政党の指導者がこぞってこの話題を論じたが、いまや議論は、青年組織や一般組織にまかせっきりになっている。 

SPDでも同じことが言える。シュタインマイヤー前外相は関心を失い、「Jusos」として知られる「青年社会主義者組織」が核問題を担っている。 

Jusosの指導者フランツィズカ・ドロセル氏は、「冷戦から20年たっているというのに、ドイツにはまだ核兵器が配備されている。(広島・長崎を殲滅した)原子爆弾の何倍もの破壊力をその一発一発がもっているというのに。」と現状への不満を語った。 

ドロセル氏は、NATOがパキスタンや北朝鮮を核兵器保有問題で吊るし上げる一方、自らは核を保有し続けていることを苦々しく思っている。「自分は核を手にしながら、他国に放棄を迫っても説得力はありません。」とドロセル氏は語った。 

オンライン・キャンペーン 

ドイツからの核撤去を求める象徴的なキャンペーンが行われている。グッテンベルク国防相に電子メールを送ろう、という試みである。送られるメールには何百もの署名が連ねられ、11月にリスボンで開かれるサミットにおいて、ドイツに依然として配備されている核兵器の撤去を他の同盟国に強く訴えるよう求める内容である。 

電子メールには、今年3月24日にドイツ連邦議会が核撤去を求める決議を圧倒的多数で可決したことにも言及されている。 

グッテンベルク国防相への訴訟を含め、これらのキャンペーンが効果を発揮することになるかどうかは未知数である。何の効果もない、という結果がもっともありえるのかもしれない。核問題に対する全般的な無関心からすると、仮にNATOがドイツからの核撤去を決めたところでそれへの注目すら集まらないかもしれない。(原文へ

IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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国連ウィーン本部で核廃絶展が開催される

【ウィーンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」展示パネルに表記されたこのユネスコ憲章の前文が、展示会を視察していたアナ・マリア・セット女史の注目を引いた。

「これは、国連のどの条文よりも、人々を触発する言葉だと思います。」と、オーストリアの国連ウィーン本部で開催した展示会の開会式で挨拶に立ったセット女史は述べた。セット女史は、1957年に、「平和のための原子力」機関として設立された国際原子力機関(IAEA)の副事務局長である。

 セット女史は、「核兵器廃絶への挑戦と人間精神の変革」と題した展示会に言及して、「このような展示の一つの目的は、観賞者一人一人の心の中に、平和の砦を築くことにあるのです。」と語った。

セット女史は、もう一つのパネルに表記された文言「無関心という無言の暴力」について、「他人の苦悩に関心を持つことなく、自分は安楽に暮したいという人間の心持ちを指しています。」と語った。
 
 「無関心は、平和の砦を大いに脅かすものです。」「一人では大したことはできないとか、遠くにいる人々が抱えている問題は避けられないことで、防ぎようがなかったのだとか、本当はそんなに悪い状況ではない、むしろ彼ら自身が招いた災難かもしれない等、私たちの心に囁きかける油断ならない声の元凶こそがこの無関心なのです。」とセット女史は警告した。

IAEA副事務局長は、今回の展示会の意義について、「この展示は、『人間の安全保障』がいかに『平和の文化』の中心を占めるかを示すとともに自分の周りだけでなく、多くの人に影響を及ぼすような問題が、いかに無関心から生じているかという事実を認識させてくれるものです。」と語った。

また同副事務局長は、「IAEAでは、世界平和を確保するには人間の安全保障を確保することが不可欠だと確信しています。私たちは、開発の伴わない治安の維持は不可能であり、一方で、治安の確保なくして持続可能な人間開発は不可能だと訴えています。」と付加えた。

10月4日にセットIAEA副事務局長が開会した展示会は、36の展示パネルで構成されており10月15日まで開催予定である。展示会場となっているウィーン国際センターには、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会などいくつかの国連機関が拠点を構えている。

CTBTO準備委員会は、CTBT発効時点における検証体制の完成、将来のCTBTOの効果的な設立を目的として1996年に設立された暫定機関である。

CTBTO準備委員会の李根信法務・対外関係局長は、「幸いなことに、過去数十年に実施されたような大規模な核実験はもはや行われなくなりました。今や私たちにはCTBTがありますし、核実験禁止の順守を監視する完全に機能する検証システムがあります。」と語った。

「しかしながら、核兵器実験モラトリアムが継続されているものの、核実験禁止を法的に規制するドアは未だ完全に閉じられていなせん。CTBTには182か国が署名し、153か国が批准しているものの、同条約は未だ発効に至っていません。」と、開会式で挨拶に立った李局長は付加えた。CTBTの発効は、核拡散の流れを止め、核軍縮を進めて行く上で重要なステップとなるだろう。

「その重要なステップを成し遂げ、さらなる核不拡散と軍縮を進めていくためには、この目標に対する国際社会の一貫した支持が必要となります。従って、核軍縮・不拡散の問題に対する一般の人々の関心を喚起するとともに、この問題は一般の人々の生活と直接的に関わっているということを知らしめていくことが重要なのです。」と、李部長は語った。

また李部長は、「『核兵器廃絶への民衆行動の10年』を通して、この草の根の運動を推し進めて下さっていることに、心から感謝いたします。」と付加えた。

オーストリアの首都で開催されたこの展示会は、ウィーンNGO(非政府組織)平和委員会と東京に本拠を構える仏教組織創価学会インタナショナルが共催したものである。SGIは2007年に「核兵器廃絶への民衆行動の10年」国際キャンペーンの一環として、核兵器に反対し核兵器禁止条約(NWC)締結を訴える国際的な一般世論を構築していく目的で第1回展示会を開催した。

ウィーンNGO平和委員会のクラウス・レノルドナー議長は、「私たちは核兵器の破壊的な影響について知っています。私は医師として、核兵器がもたらす放射線被害に対する治療法はないということを保証できます。メガトン級の破壊力を有する核兵器は大都市を破壊し、百万人以上の無実の人々を一瞬のもとに殺戮できるのです。これに対しては予防策しかありません。この場合、予防策とは核兵器の廃絶しかないのです。」と述べ、NWCの必要性を熱心に訴えた。

この展示会の重要な特徴は、核兵器の問題と人間の安全保障の関連性を伝え、核廃絶こそが人間の安全保障を構築する作業の中核となる点を明らかにしていることである。この展示は、核兵器問題を解決するためには、軍事に基づく安全保障から人間の安全保障へ、そして戦争の文化から平和の文化へと価値観や視点そのものを変革していくことが不可欠なことを明らかにしている。

「核兵器廃絶への挑戦と人間精神の変革」展は第1回開催以来、24か国の200都市以上で開催されてきた。主な展示会場には、2008年4月から5月にNPT準備委員会が開催されたジュネーブの国際連合欧州本部、2009年9月に第62回国連広報局NGO (DPI/NGO)会議が開催されたメキシコ上院議会、2009年12月に世界宗教会議が開催されたメルボルンコンベンションセンター、2010年2月の長崎原爆資料館などがある。

「こうした世界各地での展示実績こそが、この展示会が伝えるメッセージの普遍性の証左と言えるでしょう。」「今回のウィーンでの展示会は、今までの開催地の中でも特別な意味合いを持つことでしょう。それはまさにこの建物において、『核なき世界』という究極の目標に近づくために、国際社会が核拡散と核実験の脅威のない世界の実現に向けて努力を傾注している所だからです。」とセット女史は語った。

「ウィーンは、CTBTO準備委員会とIAEAといういずれも核軍縮と不拡散を推進する国連の中核的な組織をホストしている地であり、私達はこのウィーンで重要な当地の市民社会組織と協力して展示会を開催できたことを大変嬉しく思います。」とSGI平和運動局長の寺崎広嗣氏はIDNの取材に応じて語った。

最新となる今回の展示会はニューヨークで5月に開催された核不拡散条約(NPT)運用検討会議閉幕から4か月というタイミングで開催された。NPT運用検討会議では、全会一致で採択された最終文書において「核兵器のいかなる使用による破滅的な人道上の結果をも深く憂慮し、すべての国が国際人道法を含む適用可能な国際法を常に完全に遵守する必要性」を再確認した。

「軍事と政治の論理が先行しがちな核兵器をめぐる議論に対し、そうした論理に優越すべき「人間性」や「人道」という価値に鑑みて、警鐘を鳴らすものといえましょう。」と開会式で挨拶した池田博正SGI副会長は語った。

今回のNPT運用検討会議では、史上初めて最終文書の中で、NWCを通じた核兵器禁止の提案について言及がなされた。これは、世界の市民社会と各国政府が共通のビジョンと目標に向かって協働して努力した成果といえよう。

「これをさらなる“協働作業の足場”とし、その実現に向け一歩ずつ歩みを進めなければなりません。」と池田大作SGI会長のメッセージを代読した池田副会長は付加えた。

「核兵器廃絶への挑戦と人間精神の変革」展示は、完全版が、英語、スペイン語、中国語、日本語、タイ語、ネパール語版のものがあり、セルビア語については一部翻訳版がある。ドイツ語版はまもなく完成予定で、本展示は、今後はオーストリア国内の学校や様々な教育施設で開催される予定である。

「若い世代の人々に、自分たちが核兵器のない世界を実現できるという自信をつけさせることほど重要なことはありません。」と寺崎氏は語った。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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カトリック教会、イスラエル占領に抗議する声に参画する

【アブダビWAM】

ローマ法王ベネディクト16世が主宰した中東司教会議(シノドス)が23日最終会合を開き、その中で中東地域の司教が国際連合に対してイスラエルによるパレスチナ占領を終結させるよう強く訴えた。アラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙はこの声明を「中東に関するここ数年で最も喜ばしいニュース」と報じた。

カトリック教会は、2週間にわたって開催されたシノドスにおける最終決議の中で、「中東の人々は、国際社会、とりわけ国連が、平和裏、かつ公正で明確な中東問題の解決策を見いだすよう努力し(イスラエルによる)アラブ人の土地占領を終わらせるために必要な法的段をとるよう求めている。またそうすることが、パレスチナの人々が安心して尊厳をもった生活が送れる独立主権国家を手に入れる手助けとなる。そしてイスラエルも平和と安全を享受できるようになる。」と述べている。

 また同決議は、「エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教という3つの宗教にとって重要な聖地としての本来あるべき位置づけを獲得するだろう。」と述べている。

「最終決議で表明されたこうした見解や議論そのものは中東の人々にとって特に珍しいものではなかったが、こうした声明がローマ教皇やキリスト教会の指導者層からでてきたことは大変心強いことである。」とカリージ・タイムズ紙は10月25日付の論説で報じた。

聖地におけるキリスト教徒のコミュニティーは、イスラム教徒と同様に、イスラエルの土地占領と数百万人にのぼる原住民追放措置による直接的な被害を蒙ってきた。

「しかしながら、従来この問題はしばしばあたかもアラブ人とイスラム教徒のみの問題として描かれてきた。」と同紙は付加えた。

「中東全域にわたって大きなキリスト教コミュニティーが存在するように、パレスチナ人或いはアラブ系イスラエル人の中にはかなりの数のキリスト教徒がいる。彼らも同じくイスラエルによって追い立てられ占領下で生きていかなければならない悲哀と苦痛を共有してきた。また、パレスチナとエルサレムは、イスラム教徒とユダヤ教徒にとってと同様に世界中のキリスト教徒にとっても神聖な場所であるという共通点を有している。しかしこの点は、パレスチナ人やアラブ人が従来あまり強調してこなかったことから中東のキリスト教徒にとって不利な状況となってきた経緯がある。」
 
 「しかし今やカトリック教会と中東のカトリック指導者達がイスラエルの占領に反対する声に加わった。アラブ世界はこの思いがけない支持をチャンスとして生かすべきである。中東和平問題に妥協の姿勢を見せないイスラエルの現状を考慮すれば、このようなイスラエル占領終結を求める一つ一つの声が極めて貴重なのである。シノドスは勇気をもって、イスラエルにアラブ地域(東エルサレム、ヨルダン川西岸地域、ガザを含む)からの撤退を勧告した国連安保理決議に言及し、中東全体を覆う緊張と政情不安の根源はパレスチナ-イスラエル紛争にあることを強調した。」と同氏は指摘した。

またシノドスは、最近イスラエルが聖書を引用してパレスチナ占領を正当化しようと試みている点に抗議した。「神の言葉が使われている聖書や神学上の立場を利用して不正義を正当化する行為は認められない。」とシノドスは声明を出した。「こうした主張は大いに歓迎である。」とカリージ・タイムズ紙は結論付けた。
 
翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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日本の援助機関、中国、韓国との絆を強める

【東京IDN=特派員】

国際協力機構(JICA)は、緒方貞子理事長による4日間にわたる中国、韓国訪問を受けて中韓両国との2国間関係及び両国の主要機関との地球規模の開発協力関係強化に乗り出した。

日本政府は今回の緒方理事長による中国訪問から30年遡る1980年4月、中国に対する初の円借款を実施し、今日までに総計3兆6千億円(約400億ドル)の援助を実施してきた。

日本の対中国援助は当初は鉄道、港湾、発電所などの中国国内におけるインフラ整備に主眼が置かれたものだったが、後に環境保全を促進する援助も実施された。

 しかし日本が中国に対して水質・大気公害管理、気候変動、植林、下水処理、環境教育などのプロジェクトを通じた援助を継続する一方で、中国は国際経済において大きな役割を果たす存在へと成長した。

「従って日中両国は、開発途上国への支援を念頭に協力関係を緊密にしているのです。」と、緒方理事長は、9月3日に上海国際問題研究院(SIIS)で開催された講演会において同研究院の研究者や大学院生に語りかけた。

これは緒方理事長が同研究院で行った、「グローバル化時代のアジアと日中関係の展望」と題する講演会での発言である。

緒方理事長は、李克強国務院常務副総理(第一副首相)が2009年12月に面談した際に、緒方氏に対して、後発開発途上国(LDCs)に対する支援こそが「日中協力における最も重要な挑戦の一つです。」と語ったエピソードを紹介した。

緒方理事長は、その後JICAと中国輸出入銀行は、2010年3月に共同ワークショップを開催し、評価手法や気候変動対策などの重点課題について情報の共有、意見交換を行ったことを披露した。

JICAは中国商務部(MOFCOM)対外援助司(日本の庁に当たる)との協議を開始しており、同司職員を対象とした研修プログラムをホストする予定である。

「私たちはまた、アフリカにおける農業支援能力を高める目的で、日中両国の農業専門家間の会合を開催していく予定です。」と緒方理事長は語った。

また緒方理事長は「私は研究及び政策の分野、とりわけ『包括的で』ダイナミックな経済開発を確保する挑戦に関する分野についてSIISとJICA間の協力関係を一層緊密なものとしていきたい。」と付加えた。

緒方理事長は、上海地域が近年経験した2つの重要な分野(①現在も続く急激な都市化を遂げる地域における環境保護と特に都市部と②農村部の間で拡大を続ける貧富の格差)に関するSIISの経験について特に強い関心を示した。

緒方理事長は、中国訪問前に韓国のソウルにおいて韓国国際協力団(KOICA)のパク・デ・ウォン総裁、韓国輸出入銀行のキム・ドンス総裁、ハン・スンス元首相、その他政府、学術関係者と会談した。

JICAとKOICAは初の日韓協調融資となるモザンビークの道路事業案件について間もなく発表する見込みだが、現在ベトナムにおける案件に関しても協調融資の可能性を協議している。

また10月には中国輸出入銀行も加えた3者会談が予定されている。

KOICAのパク・デ・ウォン総裁は、ラオス、カンボジアなどのアジア諸国において共同プロジェクトを実施していくための年次定期協議の開催を提案した。具体的な日程は事務レベル協議を経て1年以内に決定する予定である。また両者は、米国ブルッキングス研究所と三者共同で行っている開発援助についての研究の成果を、国際社会に向けて広く提示していくことで合意した。

KOICAは、JICAの設立目標と類似した、途上国に対して技術・財政支援を行うことを目的に1991年に設立された。

緒方理事長は、韓国滞在期間中に、KOICAがJICA地球ひろば(JICAの活動紹介や開発協力活動に関するセミナーや広報活動を行う拠点)を参考に最近開設した「地球村体験館」を訪問した。

パク総裁はKOICAが中国にも日韓が持つ援助機関に類似したものを作ってはどうかと提案したことを披露した。

2010年10月1日は「新生JICA」が誕生して2周年の節目となる。新生JICAのもとで、それまで別々の機関が実施していた3つの援助形態(技術協力、譲許的貸付/ODAローン、無償資金援助)は一元的に運営管理されることとなった。

緒方理事長によれば、新生JICAの下での援助の一元化によって、日本は開発途上国に暮らす人々のニーズに対応した高品質の国際協力を実施することが可能となった。

緒方氏は、元国連難民高等弁務官である。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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小売から世界の環境保護活動へ(イオン環境財団)

【東京IDN=浅霧勝浩】

彼らの緑化活動は国内外に及ぶ。中国・万里の長城で、青島ラオ山ダム周辺で、タイ南部で、クアラルンプール郊外で、世界遺産アンコールワットの周辺で、そしてケニアで、植樹を行ってきた。

世界中で920万本の植樹を行ってきたイオン環境財団のことである。2010年4月には、万里の長城での植樹が100万本に達した。

活動に積極的に参加してきた一人が、海部俊樹元首相である。海部氏は中国から深い信頼を勝ち得ており、人気もある。イオン環境財団と中国との橋渡し役を務めてきた。

財団は、2010年10月に名古屋で開かれる国連生物多様性会議において、地球上の豊かで貴重な生物多様性を守った者に対して、「生物多様性ミドリ賞」を贈呈する予定だ。日本語の「ミドリ」は緑を意味し、木々や植物を連想させる。

名古屋の会議は、正式には、生物多様性条約第10回締約国会議と呼ばれる。同条約は、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議において採択された3つの条約のうちのひとつである(他の2つは、国連気候変動枠組み条約と砂漠化防止条約)。

 イオン環境財団は、同会議(地球サミットとも呼ばれる)に2年先立つ1990年に創立された。

「ミドリ」は広い意味において環境を象徴する言葉である。財団の岡田卓也会長は、ウェブサイトに掲載したメッセージで、「この言葉は私たちの継続的な植樹活動に本来的に結びついています。私たちは、そうした活動が『根付き』、木々のように将来に向かって着実に成長していくことを願って、賞をこのように名づけました」と述べている。

「地球温暖化の防止と生物多様性の保全は、地球レベルでの2つの重要課題だと考えられています。2010年は国際生物多様性年です。……イオン環境財団は、私たちの美しく取替えの聞かない地球を将来の世代に残すためにさらなる貢献をしてゆきたいと考えております」。

イオンとはもともとギリシャ語で、「生命」「存在」「永遠」を意味する。

設立趣旨によれば、財団創立の背景には、「自然環境は、オゾン層破壊、地球温暖化、森林の激減、砂漠化、酸性雨の多発、海洋汚染などにより危機に瀕し」ているという認識がある。

こうした考えが、「小売業を超えて、社会への何らかの貢献をする」という岡田氏の決定の基礎にあった、と財団の神尾由恵事務局長は話す(岡田氏は日本ユナイテッド・ストアーズ株式会社=JUSCOの創立者でもある)。

JUSCOは、1969年、岡田屋、フタギ、シロの3社が合併してできた。1960年代の不況の荒波を超え、事業を固めるためだった。岡田屋は3社の中でもっとも歴史が長く、創業は1758年。第二次世界大戦までは、着物などの織物を扱っていた。岡田氏は終戦後に事業を再開し、14軒のデパート店をもつチェーンに発展した。

JUSCOは2001年にイオンに正式名称を変更した。日本で最大の小売業者である。所有、ジョイントベンチャー、投資などを通じて、イオンは世界で約4000店舗を傘下におさめている。日本では、イオンの看板の下に、JUSCO460店、コンビニの「ミニストップ」2600店、スーパーマーケット665店、ドラッグストアの「ウエルシア」1900店がある。イオンは、女性洋品チェーン「タルボット」を今春まで保有し、英国の洋服チェーン「ローラ・アシュレー」を一部所有している。

神尾事務局長によれば、岡田氏は企業の価値・役割は第一義的には利益追求であり、株主に奉仕することであるが、その利益の一部は地域社会に還元されねばならないとの考えを持っている。「小売業は地域社会によって支えられています。ですから、利益の一部を使って地域社会に貢献しなくてはなりません」。

1989年、イオングループの中核であるJUSCOは20周年を迎えた。この年はベルリンの壁崩壊の年であり、世界が大激動に見舞われた年であった。岡田氏は、企業としての責任を果たすため、南北問題が21世紀の重要課題になるという時代認識に基づいて新しい方向性を追求し始めた。そこから、「環境」というキーワードにたどり着いた、と神尾事務局長は語る。

こうした考えに導かれて、岡田氏は、「イオン1%クラブ」を立ち上げる。米国のミネアポリス訪問でみた「5%クラブ」に触発されてのことだった。「イオン1%クラブ」は、会社の業績に関係なく、グループ各企業が税引き前利益の1%を社会貢献に拠出するというものだ。

イオングループの熱心な参加と支援により、「1%クラブ」は、環境保護、国際的な文化・個人交流、地域社会・文化の復興、種々の支援・社会貢献を活動の中心にしている。

岡田氏は、クラブの創立1年後、イオン環境財団を立ち上げ、自ら保有する株式を寄付することを決めた。2010年時点で、財団は2112万8000株を所有し、一株あたり20円の配当を得ている。つまり、今年の収入は約4億2000万円であり、「イオン1%クラブ」はこれに1億円を寄付している。財団の神尾事務局長は、「イオングループが配当を出し続けるかぎり、わが財団は活動を維持・拡大できるということになります」と話す。

「岡田氏はかつて1%クラブと当財団両方の理事長を務めておりましたが、2008年以降は財団の理事長のみを務めております」と神尾氏は言う。これによって、両組織の透明性と独立性は増すことになった。

1%クラブが創設20周年となった2009年、「イオン環境塾」という新しい試みが始まった。この活動を通じて、イオンは地域住民が環境問題を学び討議する場を提供している。

同時に、「1%クラブ」の原田昭彦委員長がウェブサイトでのメッセージで述べるように、「学校建設支援基金」を通じてアジア諸国の学校設立を支援し、「小さな大使プログラム」をつうじて日本と海外の若者の相互理解と友好を深め、「イオンチアーズクラブ」と「ドイツに学ぶエコライフツアー」を通じて環境教育を行い子どもたちの健全な育成を図っている。

イオンエコツアーは、子どもたちが環境問題を考えるきっかけを提供し、環境への意識を高く持った新しい世代を育成することを目的としている。子どもたちは、学校や国立公園、家庭などの場所をドイツで訪問する。こうした子どもたちを「1%クラブ」では「環境に関する世界的リーダー」を呼んでいる。プログラムが2003年に始まって以来、316人の小中学生が参加してきた。

イオングループは、小売業からの利益にばかり目を向けるのではなく、環境を保護し、自らのサービスの質を高め、個人情報を保護する積極的な努力を継続して行う方針を確立している。同グループは、「企業の社会的責任」報告書を2005年2月20日に終わる会計年度から公表を開始し、それ以来、定期的に報告書を出すと同時に、様々な責任にコミットすることを再確認している。

毎月11日は「イオンの日」と決まっている。この日に買い物をした顧客は黄色のレシートをもらい、そのレシートを、様々なNGOやNPOの名前が書かれた箱に投函する。こうすることで、顧客は、ほんの小さなことで、自分の選択した活動の支援をすることができる。半年毎にレシート金額が合計されて、当該団体はその額の1%相当のものを、イオンから支援されることになる。

「このプログラムを通じた地域の市民団体に対する私たちの支援総額は10億円になる」と神尾氏は言う。このアイディアは元々、韓国のスーパーマーケット「E-マート」から来たものだ。イオンの販売担当がこの企画のことを知り、イオングループに持ち込んだという。

「この『企業の社会的責任』のすばらしい点は、お客様の思いを事業の中に取り込むことができるという点にあります。私の知る限り、こうした事業を日本で行っているのは、わがイオングループだけでしょう」と神尾氏は語る。

イオングループがながらく実行してきている「企業の社会的責任」活動は、植樹祭である。新しいショッピングセンターが建設される際には、地域住民が招待されて、イオンの従業員と共に一人当たり苗木10本を植える。

この試みは、マレーシアのマラッカにショッピングセンターが建設された1991年に始まった。日本では、岡田氏の出身地である三重県にショッピングセンターが建設された1992年に始まっている。埼玉県に日本最大のショッピングモール「イオンレイクタウン」(面積26万1633平方メートル)が作られたときにも同じように植樹がなされた。1991年以来、イオングループは923万本の苗木を植えてきた。
 
 神尾事務局長は、植樹活動の重要性を強調して、こう語る。「イオングループが全国で出店させていただく中で、岡田理事長はしばしば日本全国津々浦々を回らせていただきます。12~3年前と比べますと、日本海沿いの風景はずいぶんと変わりました。冬には、海岸道路沿いの木々は日本海からの風に逆らって強く立っていたのですが、徐々に立ち枯れになり、いまやその多くが死んでしまっています。これをみて、岡田理事長は、大気中の二酸化硫黄が問題だと考え、それを世に問うていこうとされたのです。しかし、当時は誰も見向きもしませんでした。人々は汚染は中国から海を越えてやってくると考えていました。もしそれが事実なら、解決は日中協力を通じてのみなされるということになります。そこでイオン環境財団では、1993年、95年、97年と、当時の東大総長加藤一郎氏を議長として、『日中環境問題国際シンポジウム』を開催したのです」。

中国環境研究所との協力を通じて、多くの学者がシンポジウムに参加し、環境問題に関する多彩な議論が展開する基礎を築いた。当時の環境庁長官も参加している。

イオン環境財団は、このシンポを受けて、万里の長城周辺での植樹を提案した。植樹を通じて、いまや世界中に広まった環境問題への関心を広げるきっかけを作ったのである。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|輸送と環境|紙と鉛筆があればできるエコ・プロジェクト

|輸送と環境|紙と鉛筆があればできるエコ・プロジェクト(遠藤啓二)

【バンコクIDN=浅霧勝浩】

アジア・太平洋地域は、すでに世界最大の自動車保有数を誇っている。現在の流れが続けば、そのうちに欧州と北米の合計台数を上回るようになるだろう。

日本だけでも、1966年の812万台から2009年には7800万台にまで急増している。内訳は、自家用車54%、軽自動車34%、トラック8%である。残りはバイクとバスだ。

同時に、運送会社の数も伸びている。東京都トラック協会(東ト協)の遠藤啓二環境部長によれば、「現在日本には約6万の運送会社があり、1990年代からは50%増えた」という。遠藤氏の発言は、アジア22カ国の政府関係者と交通専門家が集まって8月23日から25日までバンコクで開催された「環境面から持続可能な交通政策に関する第5回地域フォーラム」でなされたものである。

Keiji Endo/ Photo by Katsuhiro Asagiri
Keiji Endo/ Photo by Katsuhiro Asagiri

 フォーラムは、国連地域開発センター(UNCRD)、タイの天然資源環境省、日本の環境省国連アジア経済社会委員会が開催した。

遠藤氏によれば、日本の運送会社の99%は100台以下のトラックしか保有しておらず、全体の76%は20台以下しか保有しない零細企業であるという。

窒素酸化物と粒子状物質の排出を抑制することを目的とした日本の「自動車NOx・PM法」では、2003年以降、製造後9年を越した大型トラックと、8年を越した小型トラックは(それまでの総走行距離に関わらず)走行してはいけないことになった。中小運送会社が使う車両からの排出物を抑制すること目的とした厳しい法律の内容の一部である。

東京都では、この厳しい規制によって、製造後7年以上の車両はディーゼル粒子状物質フィルターを装着するか、新車両を購入するかしかなくなった。規制に違反すれば罰則が待っている。

この法律施行後、東京都のすべての観測地点において、2005年以降の大気汚染レベルが下がったという。大気は以前よりきれいになり、空は青くなった。

しかし、中小運送会社は大きな代償を払うことになった。値段の高いフィルターを付けるか、新しいトラックを買うか。結果として、東ト協の会員企業は20%も減少した。また、トラックの数も2003年以来20%以上減少した。

改正省エネ法が環境を守るためのもうひとつの道具である。同法は、運送会社にCO2排出に関する定期的報告を義務づけている。「しかし、零細企業はそんなデータを集めたり解析したりすることなどできません。運送会社の99%は中小企業なのですから。」と遠藤氏は語った。

エコドライブ

そこで東ト協は新しいプロジェクトを立ち上げることにした。名づけて「エコドライブ」である。運送会社にとっての「CSR:企業の社会的責任」を果たす中心的なプロジェクトだ。

ある調査によれば、エコドライブ開始後、窒素酸化物の排出が15%、CO2の排出が20%削減されたという。

Green Eco Project/ TTA

グリーン・エコプロジェクトには4つの側面がある。持続可能性、コスト削減、収集データの正確性、そして何よりも、ドライバーのやる気を持続する活動であるということである。

しかし、実際に使われているツールは、インターネットで手に入るようなものではない。たとえば以下のようなことだ。

・ポスターやステッカーで相互のやる気を高める
・チェックリストにデータを手で記入(この方が経済的にも優れたデータ収集の方法)
・こうすることで、省エネと交通事故減少が目に見えてわかるようになる
・エコドライブ教育
・優良ドライバーの表彰
・上司も同等の立場でプロジェクトに参加
・収集データのプロによる解析
・マネージャーは年7回の研修

遠藤氏は、プロジェクトは大いなる成果を挙げたと胸を張った。毎年、参加企業は増加している。今年3月時点で、500以上の企業と1万1000台以上の車両がグリーン・エコプロジェクトに参加している。
 
 加えて、燃料消費もこの4年間で減少した。それは、500台の大型タンクローリーに積載できる量に匹敵する。金額にして8.8億円分だ。
 
この省エネで2万トンのCO2排出削減もできた。交通事故もこの4年間で4割減少している。

「プロジェクトは国民経済の面だけではなく、社会全体に対しても大きな成果をあげている」と遠藤氏はバンコクのフォーラムで語った。次のステップは、各車両タイプごとに省エネデータベースを構築することだ。

「日本では、デジタルタコグラフのように、エコドライブをサポートする多くの先進的な装置があります。」と遠藤氏は言う。

しかし、グリーン・エコプロジェクトは巨額の投資もハイテクも必要としない。必要なのは、「運転管理シート」と呼ばれる1枚の紙と鉛筆だけだ。これだけで、環境を守り、燃料コストを削減し、交通事故を減らし、従業員間での意思疎通の円滑化を図れるのだ。

遠藤氏は、このプロジェクトを日本全国に広げたいと考えている。また、低予算で紙と鉛筆さえあればできることから、東京都での経験に学ぼうという団体が他のアジア諸国で現れるのではないかと期待している。(原文へ

翻訳=INPS Japan


グリーン・エコプロジェクトと持続可能な開発目標(SDGs)

SDGs for All
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*グローバルパスペクティブス (2010.9月号に掲載)

「100万の訴え」で核兵器なき世界を

 【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ

核による人類絶滅の脅威の現実味がかつてより増す中、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)オーストラリア支部が、核廃絶の緊急性を主張するため、「100万の訴え」キャンペーンを開始した。 

「『100万の訴え』キャンペーンは核兵器の問題に顔と声を与え、完全軍縮と核廃絶の緊急性を世に問います。人々は核兵器を完全に廃絶したいと願っていますが、そのメッセージを世界の指導者たちに伝える手立てを持ちません。しかし、このキャンペーンなら、それができるのです」と語るのは、ICANオーストラリア本部のキャンペーン責任者ディミティ・ホーキンス氏である。

Jody Williams Credit: Photo by Judy Rand
Jody Williams Credit: Photo by Judy Rand

 日本の小学生と80才の被爆体験者中西巌さんに焦点を当てた45秒の映像を通じて、9つの核兵器国に核廃絶を要求する。この映像は、史上もっとも長いビデオ・チェーン・レターとなって世界を駆け巡り、インターネット上の双方向的なキャンペーンの一里塚となった。 

ICAN豪州がメルボルンの広告代理店「ワイビンTBWA」と共同で始めたこのキャンペーンでは、ユーチューブやフェイスブック、ツイッターといったSNSを用いて、個人の映像と訴えをアップロードし、核軍縮支持の声を人々があげることを可能にした。 

キャンペーンにはノーベル平和賞受賞者のデズモンド・ツツ大司教や地雷廃絶国際キャンペーンのジョディー・ウィリアムズ、元豪州首相のマルコム・フレーザーも加わっており、一瞬にして数十万人の命を奪った広島長崎の原爆投下から65周年を記念して8月6日に始められた。 

広島の原爆祈念式典に歴代の国連事務総長として初めて出席した潘基文氏は、キャンペーン開始に際した希望と平和のメッセージの中で、こう述べた。「私たちはともに、グラウンド・ゼロ(爆心地)から「グローバル・ゼロ」(大量破壊兵器のない世界)を目指す旅を続けています。それは、世界から大量破壊兵器をなくす旅です。それ以外に、世界をより安全にするための分別ある道はありません。私たちは、非常にシンプルな真実を知らねばなりません。つまり、地位と名声は、核兵器を保有する者にではなく、それを拒否する者に伴うのだということを」。 

潘基文氏は、9月24日に国連でハイレベル会合を召集し、包括的核実験禁止条約(CTBT)兵器用核分裂物質生産禁止条約(FMCT)の成立、軍縮教育の推進(被爆証言の翻訳など)を図っていきたい意向だ。 

CTBTはすでに153ヶ国が批准しているが、核開発能力のある9ヶ国、すなわち、米国、中国、エジプト、インドネシア、イラン、イスラエル、北朝鮮、インド、パキスタンが批准を済ませていないために、いまだに発効できずにいる。 

ICAN豪州のティム・ライト理事は、滞在した広島でこう語った。「子どもたちやNGOは、『悲劇をふたたび起こすな』というメッセージを真剣に伝えようとしている。人道主義的な『100万の訴え』キャンペーンの説得力と感動を人々は感じている。こんにち核兵器の脅威を説く者は、核テロの脅威を言う傾向にあるが、私たちが常に強調してきたことは、核兵器は非人道的な兵器であり、誰の手にあってもならないということだ」。 

ティム氏は続けて言う。「潘基文氏が議論の俎上に載せたことのひとつは、事態の緊急性だと思う。彼は広島で、CTBTの2012年までの発効を主張し、2020年までに完全廃棄するという目標をパーフェクトなビジョンだと述べた。これは、核兵器国が言っていることとはぜんぜん違う」。 

1945年に日本の2つの都市に原爆が投下されて以来、何千回もの核実験が世界中で行われてきた。1945年から1998年までの間に7ヶ国(米、露、仏、英、中、印、パキスタン)が核実験を行ったことを認め、北朝鮮は2006年と09年に実験を行った。今年の8月29日は、旧ソ連の主要な核実験場であったカザフスタンのセミパラチンスクが1991年に閉鎖されたのを記念して、初の「国連核実験反対の日」とされた。 

現在、推定で2万2600発の核弾頭が世界中に存在する。ホーキンス氏は「環境全体を破壊し、多くの人々を死に陥れ、さらに多くの人々から家を奪い、飢饉と大規模な気候変動を起こそうとすればそんなにたくさんの核兵器は必要でないことを考えると、この数は驚くべきものだ」と話す。 

核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の第19回世界大会が8月25日から30日にかけてスイスのバーゼルで開催された。ICANは、50以上の参加国に対して、「100万の訴え」キャンペーンをそれぞれの国内問題と結びつけて取り上げるよう要請した。現在は英語と日本語版のみ存在する映像は、オーストラリアの多くの商業的な主要ラジオ・テレビで宣伝されている。 

世界的な草の根運動であるICANは、法的拘束力があり検証可能で時限を切った核兵器禁止条約(NWC)によって、核兵器の開発・実験・製造・使用(またはその威嚇)を禁じることを提案している。 

最近、政治的意思と協力さえあれば軍縮は可能であることを示した意義ある動きがいくつかあった。米国のバラク・オバマ大統領は核兵器廃絶の必要性を力強く語り、4月にロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領とともに新しい「戦略兵器削減条約」(START)に署名した。この新条約によって両国の戦略核弾頭の数は3割削減されることになる(両国で世界の核兵器の9割を保有)。 

それに先立つ2008年6月、オーストラリアのケビン・ラッド元首相は、同国の首相として初めて広島を訪れ、その場で、「核不拡散・軍縮に関する国際委員会」(ICNND)の設置を日本政府とともに発表した。ICNND答申は核兵器削減の数と時期を具体的に挙げており、2025年までに「最小化時点」として世界の核兵器を全体で2000発まで減らすことを推奨した。 

しかし、ICANのティム・ライト理事はこう言う。「委員会を作ることと、実際に軍縮を進めるような困難な決定を下すこととは、別の問題だ。労働党政権はそうした重要なステップに踏み出す意思を見せてこなかった。たとえば、核兵器国へのウラン売却をやめるとか、核兵器禁止条約を推進するとか、米国の核の傘を拒否するとかいったことだ」。 

「私たちは問題の一部分でもある。だから、核問題に関しての豪州の『良い子』ぶりは疑ってかかる必要がある。豪州は米国の核兵器に依存することによって核兵器の存在を正当化し、『核兵器は安全のためには必要なものだ』というメッセージを他国に送っている。軍縮にとってはマイナスだ」。 

オーストラリアは軍縮をめぐる議論の中できわめて肝要な位置にいる。というのも、同国はウランの主要な輸出国であり、核不拡散条約(NPT)に署名している核兵器国にもウランを輸出しているからだ。今年4月には、2001年以来国際原子力機関(IAEA)の査察を受けていないロシアへのウラン輸出を政府が認可した。 

シドニーの独立系シンクタンク「ロウィ国際政策研究所」の世論調査によると、豪州国民の84%が同国による核開発に反対しているが、「近隣国が仮に核兵器開発を始めたら」、という条件を加えると、反対が57%、賛成が42%となった。 

ホーキンス氏はこう言う。「核兵器を保有していようと保有していなかろうと、核兵器を廃絶するには世界のすべての国が努力しなくてはならない。ある国の一発の核兵器は、それだけでも十分な存在だ。事故のリスクはつねにあるし、意図的であれ偶発的であれ使用の危険性もある。どこに核兵器があろうと核テロの危険もある。『100万の訴え』キャンペーンに意味があるのはそのためだ。核兵器を永久に眠らせ、その使用から正当性を剥奪せんと65年にわたって努力してきた市民や団体に力を与えるのだから」。 

大きな問題のひとつは、すでに核兵器を保有している国と、保有していない国に、別々のルールが存在するということだ。一定の国、たとえば、国連安全保障理事会の五大国が、自ら核兵器を保有しながら、他国の核兵器取得にはきわめて厳しい姿勢で臨んでいることが非常に目に付く。 

NPTは、条約第6条を通じて核軍縮の必要性を承認させる、法的拘束力のある多国間取り決めとしては唯一のものであるが、NWCは、NPT第6条には書かれていない核兵器ゼロに向けたロードマップをそれに付け加えることで、むしろ第6条の義務を強化することになるだろう。また、表面上は民間の原子力開発であっても、核技術が拡散するリスクはある。 

ホーキンス氏が言うように、「原子力開発に必要な技術は核兵器製造に必要な技術に似ている」のである。 

オーストラリアは伝統的に、主要な国際的軍備管理取り決めの交渉を主導してきた。最近ではクラスター弾禁止条約がある。しかし、ホーキンス氏は、「このところ私は非常に失望している。というのも、今年5月のNPT運用検討会議でNWCの議論があったときに、我が政府はまったくその場にいなかったからだ。本当にやる気がない」と語る。 

「しかし、8月の上院選挙で緑の党が勝って議席バランスが変わったことはよかった。彼らは核兵器問題に取り組んできた歴史的経緯もあるし明確なビジョンも持っている」。 

核廃絶の主唱者たちは、多くの人々が飢え死にし、水がなく、防げるはずの病気が防げない状態にあるときに、核兵器の開発・維持・強化のために巨万の支出をすることはおかしいと考えている。 

「もし核兵器を廃絶できたら、技術や資源、科学的頭脳には余裕が生まれ、真の安全保障問題に対処することができるようになるだろう」とホーキンス氏は語った。米国は2008年には524億ドルを核兵器維持のために使ったが、その一方で3700万人以上の米国民が貧困にあえぎ、約5000万人が無保険状態にある。 

核兵器の完全廃絶は人類の生存のための唯一の希望である。「100万の訴え」キャンペーンは、各国政府に行動を促すことで、世界をより安全な場所に変え、より確実な将来をもたらすひとつのステップだ。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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沖縄を取材(世界に響く平和への想い)

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of IPS Japan.
Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of IPS Japan.

IPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターは、来日中のラメシュ・ジャウラIPS欧州総局長と共に、沖縄戦跡国定公園の「平和の礎」(沖縄戦最後の戦いが行われた摩文仁の地に沖縄戦と終戦50周年を記念して1995年に建てられた記念碑)、「ひめゆり平和祈念資料館」、 旧米国空軍B核ミサイル基地(現在は創価学会沖縄研修道場)を取材した。

IPS Japan

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Photo by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of IPS Japan.
Photo by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of IPS Japan.
Photo by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of IPS Japan.
Photo by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of IPS Japan.

|アフガニスタンー米国|近視眼的な政策から脱するとき

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【ドバイWAM】

「今や歴史に深く刻まれた9・11同時多発テロ記念日は、未だ達成されていない諸目標を思い出させる機会となっている。米国の政策責任者たちが、その後の大規模なテロ攻撃を防止し、アルカイダを敗走に追い込んでいると表明する一方で、テロとの戦いに伴うコストは想像を超える規模となっている。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙が9月11日付けの論説の中で報じた。

「その一例が引き続くアフガン戦争における悲惨な現状である。アフガン駐留軍のデイビッド・H・ペトレイアス司令官は、連合軍(45カ国で構成)の努力は成果を生みつつある、と最近述べているが、アフガン情勢の行方は依然として不透明なままである。」とカリージ・タイムズ紙は報じた。

 「皮肉なことに、9・11記念日の2日前にタリバン指導者のムラ―・オマール師による声明が流された。同氏が声明を発するのは稀なことである。ダリ語、パシュトゥーン語、ウルドゥ語、英語の4ヶ国語で電子メールで配信された同声明は、ラマダン開けを告げる体裁を踏んだものだが、その内容はアフガン人に対するというよりはより広い大衆に対して向けられたものであった。オマール師はその中で、連合軍による軍事作戦は完全に失敗したと断じ、諸外国勢力のアフガンからの撤退を強く訴えた。」

「オマール師は『不信心が外国人侵略者』を嘲笑して、『彼ら自身が現在の戦略的失敗を認めている』と語り、バラク・オバマ大統領に対して無条件かつ早期の撤退を強く訴えた。来年7月に開始予定のアフガン撤退計画については、米国の政策責任者の間でも賛否両論の論争を引き起こしている。たとえアフガンへの兵力増強をはかったとしても、戦争全体の行方がどうなるかはここ数ヶ月の動向が鍵となるだろう。

「アフガンへの兵力を増強しても問題解決にはならないだろう。連合軍兵士による民間人殺害に対するアフガン人の怒りは高まってきており、ムラー師は最近の声明の中で巧みにこの点を強調している。ムラー師はタリバン兵に対してタリバンの規律に従い民間人に危害を加えることを避けるよう命令した。これは明らかに民間人の支持を獲得することを意図したものである。」と同紙は報じた。 

「オマール師が外国軍撤退後のアフガニスタンの政治状況について言及したことも重要なポイントである。このことは、アフガン政府に加わったかつてのムジャヘディン諸勢力(タリバンと共にソ連軍と戦ったイスラム諸勢力)に対して、長期的な観点からより可能性のある同盟関係を改めて考え直すよう間接的なメッセージを送ったのではないかとの憶測が広がっている。」

「反乱軍がたとえ敗走していないとしても、連合軍によって圧迫されているのが現状である。しかし反乱軍に有利な点があるとすれば、外国勢力に対して祖国解放のために戦いを挑んでいるとする大義名分がある。このことは外国諸勢力が無期限に駐留し続けることができない現実とともに反乱軍に有利な要素となっている。それにもかかわらずアフガニスタンには困難な時代がこの先も続くものと思われる。それはオマール師がアルカイダとの関係を絶つことを頑なに拒否していることが、タリバンとの協定を妨げる唯一の障害となっているからである。」 

「また、米国政府がアフガン政策のドクトリンを見直し、事実上前向きな動きを不可能にしている政権内部の対立を少なくとも解消することが重要であろう。また、現在のカルザイ政権の腐敗と統治能力の低さがアフガン人を阻害している現実も忘れてはならない。」と、カリージ・タイムズ紙は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

アラブ諸国と核の地獄への競争

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【イスタンブールIDN=ファリード・マハディ】

国連の潘基文事務総長は楽観的である。あるいは、努めてそのようにしてきた。ニューヨークで核兵器廃絶に関する閣僚級会合を9月に開くと8月3日に発表する2週間ほど前、潘事務総長は「核不拡散に関わる交渉では進展の兆しがみられる」と語った。しかし、アラブ地域と米国での状況をみれば、まったく別の結論が導き出されてくる。

 実際、中東で起こっていることは、地域での原子力競争だ。世界でもっとも紛争に満ち、世界で唯一非核兵器地帯を持たないこの地域で、それが起こっているのである。ラテンアメリカ・カリブ海地域やアフリカは非核地帯であるし、中央アジア諸国や東南アジア諸国にもやはり非核地帯条約がある。 

したがって中東は、少なくとも表面上は核兵器の廃絶に向かって世界が動いている中で、例外的な地位を占めている。 

中東では平和目的のための正当な原子力利用を表明した国がすでに10カ国あり、これにヨルダンとスーダンが最近加わった。その10カ国とは、アルジェリア、エジプト、イラク、モロッコ、クウェート、カタール、サウジアラビア、シリア、チュニジア、アラブ首長国連邦である。 

これら12カ国で、アラブ連盟22カ国の半分を超えている。ただし、連盟中少なくとも5カ国(ソマリア、イエメン、コモロ諸島、ジブチ、モーリタニア)には原子力開発能力がほぼないことを考えると、開発意思を持つ国の割合はぐっと高まる(3分の2以上)。 

危険なレース 

イランの核計画に対する西側の議論が妥当だとするならば、中東諸国がこのような核のレースに踏み出すことはきわめて危険だと言えるだろう。なぜらなら、イラン政府が民生用の原子力開発を追求しているという事実だけで明白な危険を意味し、国の武装化が進み、核兵器を製造するようになる、というのであるから。 

こうした欧米諸国の意見を敷衍させていけば、アラブ諸国が原子力開発を始めれば、そのうち核兵器開発に進む、という理論になる。 

しかし、ここで3つの疑問がある。 

・なぜアラブ諸国が核開発をしなくてはならないのか? 

・なぜ、欧州や米国、そのアジアの同盟国が、アラブ諸国をそうした核のレースに追いやっているのか? 

・イランの原子力開発を口実としてアラブ諸国は核レースを始め、西側諸国はそれを支援しているのか? 

アラブの言い分 

アラブ諸国は、原子力開発を進めることについて少なくとも四つの主張(あるいは正当化)ができるだろう。 
 
まず、中東唯一の核兵器国であるイスラエルが200発以上の核弾頭(インドあるいはパキスタンの3倍)を保有しており、核不拡散条約(NPT)に加わるべきだとの国際圧力を無視し続けている。 

実際、イスラエルは、核事業を国際監視下に置くという要求をすべて撥ねつけている。核施設を国際原子力機関(IAEA)の義務的査察下に置くこともないし、国際的な軍縮協議の場に加わることもないし、中東を非核地帯にするための動きにも関与してこない。 

二つ目の議論は、アラブ諸国は、イランが核兵器国になろうとしているとの言いがかりで中東を痛めつけてやろうという米欧からの国際圧力に始終さらされているというものだ。 

第三に、中東が依然として非核兵器地帯となっていないことだ。中東を核兵器を含めた大量破壊兵器を禁ずる地帯にせよとの要求は、ことごとく無視されてきた。 

第四に、西側の核能力保有国は、「原子力支援」をアラブ諸国に対して系統的に行ってきた。フランスが中心であり、米英がこれに続いている。 

彼らはたんに商業的利益を優先しているだけであり、世界を核の恐怖から救うという善行のパワーゲームを演じているに過ぎない。こうした西側の姿勢を見て、ロシアもまた、政治・経済両面の理由からこのレースに加わるようになってきた。 

すでに原子力開発に踏み出した国 

結果として、アラブ首長国連邦が、サウジアラビア、クウェート、カタールといった他の湾岸諸国に加わって、原子力開発への道を歩み始めた。 

同時に、ウラン資源の豊かなヨルダンは、フランスの巨大企業「アレバ」や日本の三菱とともに、初の原子炉建設のための技術取得を目指して交渉を進めている。 

さらに、ヨルダン政府は、韓国と協力して初の研究炉を設置すると今年7月に発表した。 

ヨルダンの原子力計画は、米欧の政策に対する最初の「反乱」の兆しである。欧米諸国ははヨルダンのウラン濃縮計画に待ったをかけようとしているが、ヨルダンはその意向に従うことに難色を示している。 

また、フランスはカタール・モロッコの原子力計画への支援を約束し、エジプトは原子炉設置に関してロシアと協定を結んだ。 

スーダンもまた、8月22日、原子炉建設を表明してこの核のレースに参加してきた。 

米国の「オプション」 

一方、オバマ大統領が「核兵器なき世界」を実現すると宣言した米国だが、地球上から核兵器の危険を除去するとの意思を本当に見せているわけではない。 

それどころか米国は、核兵器を減らすと一方で言いながら、今後10年間少なくとも3000発の核弾頭を保有し、核兵器を近代化し、いわゆる「スーパー核兵器」の製造を目指すとしている。 

さらに、ヒラリー・クリントン国務長官がある中東歴訪の機会に述べたように、もしアラブ国家が原子力を手に入れたいならば、次の3つのオプションのうちから選ぶべきだと米国は要求している。 

「(イランからの)脅しに屈するか、原子力を含めた自らの能力向上を図るか。それとも、あなた方を支援する用意のある米国のような国と組むか。第三の選択肢がもっとも望ましいとは思いますが」。 

CIAは見ている 

米国の中央情報局(CIA)は大量破壊兵器の拡散に対抗するために拡散防止センターを設置することを決めた。クリントン長官の「オプション」を再確認して米国がアラブ諸国と連携を深める意図を鮮明にしているのか、或いは、たんに中東における地歩を固めたいのかはわからないが。 

CIAのレオン・エドワード・パネッタ長官は、8月18日、新センターでは、「核兵器、化学兵器、生物兵器などの大量破壊兵器の脅威に対抗する」計画を練るために、CIAの分析官と工作員が膝詰めで協力することになると述べた。 

イランというアリバイ 

アラブ地域における原子力レースにはもうひとつの要素がある。それは、欧米諸国が、イランの核計画が彼らにとって、そして世界全体にとっての脅威であるとの見方を広めようとしていることだ。 

イランが民生原子力計画を軍事用の核兵器製造(さらには使用)にまで高める可能性があるという議論は、湾岸諸国だけを狙い撃ちしたものだ。 

それもそうだ。中東は、世界でもっとも豊かな産油地域であり、欧米の「同盟国」も多い。さらに十分な経済力もある。 

強制されてというわけではないが誘われるままに欧米諸国から通常兵器を購入する必要を満たすために、こうした資源が不均衡に使われてきた。いまや、「単純な」軍拡競争を原子力競争に発展させる大きなビジネスチャンスの対象である。 

逆説的なことに、誇大化した愛国主義の発露によってイラン政府がこの原子力競争になした貢献は大きい。 

トルコも原子力競争へ? 

最大の核保有国が火をつけた中東のこの原子力競争の副次的効果のひとつは、トルコが自らの核施設をもつ決意を呼び込んだことであろう。 

トルコ国会は、7月13日、海外沿いの町、メルシン州アックユに初の原子炉を建設するためにロシアとの間で協定を結ぶことを承認した。 

ロシアのメドベージェフ大統領が訪問した5月に結ばれたこの協定によれば、両国は原子炉の建設と稼動の両面において協力することになる。 

ロシアの国営「アトム・ストロイ輸出」が建設を担当するが、費用は200億米ドルと算定されている。建設は今年末にかけて始まり、4基で4800メガワットの出力となる予定だ。 

トルコが二重に果たしている役割、つまり、NATOの主要な加盟国としてのそれと、中東の大国としてのそれを考えると、この原子力計画は大きな意味を持ってくる。 

これらすべての動きが、絶望的な核拡散のシナリオにつながっていく。国連事務総長は、これでもなお、楽観的でいられるというのだろうか? 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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