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反核会議の行方を脅かす中東を巡る覇権争い

【国連IPS=タリフ・ディーン】

前回2005年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議が4週間に及んだ交渉の末に要領を得ないまま閉幕した時、同会議は、実質的な合意を伴わない「ほとんど成果のないもの」と評された。

国連の潘基文事務総長も、先週前回の会議を振り返って「明らかな失敗」と評した。しかし今回の2010年NPT運用検討会議(5月3日~28日開催予定)は、前回と同じ轍を踏むだろうか?

 おそらく、会議の行方を危うくしかねない最大の争点は、軍事情勢が不安定な中東地域に非核地帯(NWFZ)を創設するとした積年の提案を巡る議論となるだろう。

IPSの取材に応じた、アメリカ・フレンズ奉仕委員会(AFSC)全米軍縮コーディネーターのジョセフ・ガーソン氏は、この点について「中東非核地帯の創設を求める議論が過熱すればNPT運用検討会議そのものが頓挫する可能性があります。」と語った。

さらにガーソン氏は、「潘事務総長は、先週インターナショナルヘラルドトリビューン紙に掲載された記事の中で、非核地帯の創設を改めて呼びかけました。また、エジプト政府は、イラン(の核兵器開発疑惑)問題と同様に中東非核地帯創設の問題を主要議題としてくるでしょう。」と付け加えた。

「しかし、危機には必ずチャンスも付き物です。この問題について何ができるか見極めていきましょう。」と、ガーソン氏は語った。同氏は「帝国と核兵器:アメリカは世界支配のために核兵器をいかに使っているのか」の著者である。

ワシントンに拠点を持つ米英セキュリティ情報協議会(BASIC)のアン・ペンケス・プログラムディレクターは、IPSの取材に応えて「この問題が会議を頓挫させるのではないかとの懸念があるのは事実ですが、エジプト政府は受ける印象よりは柔軟さを発揮すると思います。事実、エジプトは米国との間で真剣な交渉を進めている最中です。」と語った。

「現実的な手段の合意を目指して誠心誠意交渉に臨む場合、活路が開ける場合があります。しかし現時点では、交渉の方向を見極めるのは時期尚早だと思います。」とペンケス氏は付け加えた。

中東唯一の核兵器保有国であるイスラエルを支持している米国政府は、中東非核地帯の創設については、常に中東和平交渉の進展具合と関連付けて交渉を行ってきた。
 
 しかしペンケス氏は、著書「玉葱の皮むき:中東非核地帯を目指して」の中で、「もしNPT運用検討会議においても、このジレンマの構図(中東和平問題の進展と中東非核地帯の創設をリンクする論理)がまかり通るならば、それは国際社会が、NPT体制そのものの将来について、NPT加盟国でもないイスラエルに拒否権を引き渡すに等しいことを意味します。」と指摘している。

ペンケス氏は、「中東非核地帯の交渉を阻害している主な原因は政治的意思の欠如にあります。」と語った。

アラブ諸国の間には、イスラエルが正式にその存在を認めようとしない同国の核兵器を巡る不安と深い不公平感が広がっており、そうした感情が(イスラエルの現状を黙認してきた)核兵器保有国の『二重基準』に対する批判となって噴出しているのです。」と、ペンケス氏は指摘した。

「核兵器保有国は、イスラエルをかばう一方で、NPT加盟国の権利として民生用核エネルギー開発を進めていると主張し続けるイランのような国に対する制裁をおこなっているとして非難されているのです。」と、ペンケス氏は付け加えた。

この『二重基準』について、ガーソン氏は、「イランについては、常に『リアルポリティーク(=現実政策)』の観点から二重基準が適用されてきたのです。」と語った。

「第一次世界大戦は、弱体化したオスマン帝国領の支配を巡る戦いでしたが、当時大英帝国海軍大臣だったウィンストン・チャーチル氏はこれを『中東の石油利権』と巡る戦いと理解していました。以来、欧米列強諸国は、イクバル・アーマッド氏(ジャーナリスト・反戦活動家)がかつて『世界覇権を巡る列強間の地政学的闘争の中心地』と定義した中東の石油利権を支配するために、各々が必要と思われる手段を講じてきたのです。」と、ガーソン氏は指摘した。

ガーソン氏は、「イランは、米国による石油が豊富な中東支配への脅威と見られているのです。従って(イランは)秩序に対して挑戦していると思われていることから、それを封じ込めようとする力学が働いているのです。」と語った。

「明確にしておきたいのですが、私はいかなる国も、核兵器はもとより、原子力発電所でさえ保有すべきではない、と考えています。」と、ガーソン氏は強調した。

「核兵器の使用は大量虐殺を引き起こしますし、原子力発電所も、(原子炉の)炉心溶融の危険性のみならず、幾万年も地球を汚染し生物を脅かす放射能廃棄物の安全な処分方法を人類が未だに習得していないことから、本質的に危険なものなのです。」と、ガーソン氏は強調した。

インド、パキスタン、イスラエルに対する二重基準について、ガーソン氏は、米国は中国包囲網を構築していく上でインドと暗黙の同盟関係にあること。そして、パキスタンは、米国が中央アジアにおける戦争を遂行していく上で重要な同盟国であることを指摘し、「従って、先月の核安全保障サミットで明らかになったとおり、(インド、パキスタン)両国が米国から(核開発に関する動向について)問題視されることはないのです。」と語った。

一方イスラエルについて、ガーソン氏は、「長らく中東において米国の覇権を補強するハンマーの役割とみなされてきており、ワシントンには政治的な影響力をもつイスラエルロビーの存在があります。」と指摘し、「しかし現在の米国・イスラエル間の緊張関係とエジプトがイスラエルの核兵器問題をNPT運用検討会議の主要議題としようとしている状況を考えれば、これから数日の議論の中で興味深い展開が見られるかもしれません。」と語った。

またガーソン氏は、あまり知られていない事実として、最近イスラエルの核科学者や技術者による研究を目的としたビザ申請が、米国当局より拒否されている事実を指摘した。

5月3日のNPT運用検討会議初日に演説したヒラリー・クリントン国務長官は、「米国政府は、1995年の『中東に関する決議』に従い、中東大量破壊兵器フリーゾーンを創設するという目標の実現に向けた取り組みを支持します。」と語り、米国政府としてこの課題に柔軟に対応していく姿勢を示した。

クリントン長官は、「中東地域が今日の世界において核不拡散の最大の脅威となるかも知れません。」と指摘したうえで、「しかしそうした困難な状況に関わらず、米国政府は、『大量破壊兵器なき中東』という目標に対する米国のコミットメントを再確認するともに、その目的の実現に向けた現実的な方策を支援していく用意があります。」と語った。
 
 今日世界には、アフリカ(ぺリンダバ条約)、南太平洋(ラトロンガ条約)、東南アジア(バンコク条約)、中央アジア(セメイ/セミパラチンスク条約)、ラテンアメリカ・カリブ地域(トラテロルコ条約)、モンゴル非核兵器地位宣言、南極地域(南極条約)において非核地帯が創設されている。

しかし、中東(域内のイスラエルが核兵器保有国)と南アジア(域内のインドとパキスタンが核兵器保有国)の両地域は未だにこれらの条約の適用範囲外に位置している。

またクリントン長官は、オバマ政権は、アフリカと南太平洋の非核地帯条約に批准するための議定書を上院に提出する予定であることを公表した。

「米国の条約批准をもって、これらの非核地帯条約加盟国は、米国が(これらの国々に対して)核兵器の使用及び使用の威嚇は行わず、これらの非核地帯の地位を完全に尊重するいという法的拘束力を伴う保障を得ることとなります。」と、クリントン長官は宣言した。

さらにクリントン長官は、「米国政府は、中央アジアと東南アジアの非核地帯条約加盟国とも、当該条約署名に向けた合意を目指した交渉を行う用意があります。」と、語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|6カ国青年意識調査|青年層は核廃絶を求め、核兵器禁止条約を支持

【ベルリン/東京IDN=ジャムシェド・バルアー】

世界各国の政府高官がニューヨークで核兵器拡散の防止を目指して交渉を行う中、6カ国で青年層を対象に実施された核兵器に関する意識調査結果が発表された。そこから浮彫になったことは、「平和の文化」を広げる対話の必要性であった。

世界に1200万人の会員を擁する創価学会インタナショナルの青年部のメンバーが、6カ国の同世代の青年層(10代~30代)を対象に、核兵器とその廃絶についての意識調査を行った。

調査は、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議開催前の2010年1月から3月にかけて実施され、日本、韓国、フィリピン、ニュージーランド、米国、英国の青年4,362人が回答した。

核保有国で実施した調査結果の中には当惑するものもあった。例えば、米国では自国の政府が核兵器を保有していることを認識している回答者は僅か59.2%に止まった。また、英国でも自国が核保有国であることを理解している回答者は僅か43.2%であった。

一方、勇気づけられる側面も明らかになった。「核兵器の存在が世界の平和と安定に寄与すると思うか否か」との質問に対して、核兵器保有国の青年を含む59.6%の回答者が「否」と回答した。また、67.3%が、「いかなる状況においても核兵器の使用は受け入れられない」と回答した。

僅か17.5%が、「核兵器の配備を、国の存続が脅かされている状況下において最後の手段として認める」、6.1%が、「国際テロや大量虐殺を防止するためならば認める」と回答した。しかし、59.1%が、「核兵器が廃絶された方が安心できる」と回答した。

どの国が核兵器を保有しているかとの質問に対しては、66.9%が米国、48.7%がロシア、30%が中国、19.8%が米国、19.8%がフランスと回答した。

40.7%が「北朝鮮は核兵器を保有していると思う」と回答した一方で、インド、パキスタン、イスラエルの核兵器保有を認識している者は比較的少なかった。

今回の意識調査を組織した宮尾尊久創価学会学生部長は、「調査対象の約7割の青年が、核兵器の使用はいかなる状況下においても受け入れられないと回答しました。私たちはこの結果に大変勇気づけられています。それは、核兵器廃絶に向けた努力を行っていく上で、核兵器を拒否する青年層を広げていくことが成功の鍵となるからです。」と指摘した。

宮尾氏は、IDN-InDepth Newsの電子メールによるインタビューの中で、今回の意識調査に関してコメントした。以下にインタビューの抜粋を紹介する。

IDN:あなたの視点から、調査結果のもっとも重要な側面は何ですか?

宮尾:各設問共通して、また国の違いを超えて、6~7割の若者が核兵器に否定的な態度をとっていること、肯定的な見方をする人はかなり少数であることが最も重要だと思います。中でも、核兵器の脅威を具体的に認識しているほど、否定的な態度をとる人が増える傾向にあることがわかりました。これは、核兵器がどのような兵器であるかを知らせていくことが、核兵器廃絶への意識を高める上で重要であることを物語るものです。

一方、核兵器について、意見がどちらでもない中間的な人々もいますが、核兵器の使用が認められる条件に関する回答を見ればわかるように、通常兵器とは異なる特殊な存在ととらえている人が大半です。しかし、廃絶するとなると「不安」を覚える人が1割、あるいは安心か不安か「わからない」という人が3割程度存在します。

核兵器の廃絶を求める運動を推進する私たちとしては、今回の世論調査の結果から、核兵器がもたらす悲惨さを同世代の人々にさらに広く訴えることで、核兵器を拒絶する強固な世論を築いていくことができるとの確信を深めることができました。

IDN:核兵器保有国および非保有国内において、廃絶の必要性について若者を刺激するのに何がなされるべきだと思いますか?

宮尾:1つには、核兵器がどういった兵器であるか、どういう被害をもたらすものであるかを知らせていくことが必要です。時間の経過に従い、ヒロシマ、ナガサキの惨禍の記憶は薄れて行くことは逃れようもない事実です。そうした観点から、SGIはこれまで、5カ国語で被爆者の証言を収録したDVDを作成したり、「核兵器廃絶への挑戦」展(23か国・地域、170都市で開催)を展開して参りました。

こうした活動では、大変勇気づけられる反響を得ています。展示を見学した人々は、核兵器の脅威に対する認識を新たにし、核廃絶を実現させる決意を持ったと語っています。また、人間の意識が変わることで核廃絶は可能なのだということを知り、大いに力を得て自信が持てたと言う声も寄せられています。創価学会の若いメンバーには被爆者の子孫が多くいます。私たちはこうした経験を未来の世代へと伝えていく活動を通じて、世界的な若者の連帯を強めて参りたいと考えております。

その上で、抽象論を脱し、具体的な目標設定を行うことが重要ですが、中でも、核兵器への関与を包括的に禁止する核兵器禁止条約(NWCという目標が、人々の関心を呼び起こす一つの有効な手段ではないかと考えています。

日本の創価学会青年部のメンバーは、意識調査と並行して、同条約の制定を求める署名運動も全国で展開しました。地雷やクラスター爆弾について禁止条約が成立した前例があるだけに、彼らは、核廃絶に向けたビジョンを共有し明確な目標設定を持って活動に取組んでいます。

核兵器についても同様の条約の成立を強く求めてゆく中で、核兵器は「本来存在してはいけない」「無くさなければならない」という規範意識を、人々の心の中で、そして国際社会の中で高めていくことができるのではないでしょうか。

おりしも運用検討会議開幕を前に、潘基文国連事務総長も同条約実現への努力を歓迎すると語っており、今後注目が高まることが予想されます。

いずれにしても、時代を動かす鍵を握るのは青年です。創価学会の戸田城聖第二代会長(1900~58)は「未来は青年の力と情熱が作る」と語り、1957年に、青年への遺訓として核兵器の廃絶を訴えた歴史があります。

これまで、核兵器という問題は一般の民衆、なかんずく青年からはどうしても遠く複雑な存在と映ってきてしまっていましたが、核兵器禁止条約を1つの指標にして、国連諸機関や他のNGO等とも連携しながら、運動を進めて参りたいと思います。

IDN:青年リーダーは、NPT運用検討会議に向けて何を計画してきましたか?

宮尾:周知のように、NPT条約は「非拡散」とともに「核軍縮」が欠かせない柱です。核兵器保有国には、それを誠実に実施する義務があります。その意味でも、核兵器禁止条約の制定を求める署名運動を展開して参りました。これらは5月11日に、NPT運用検討会議議長および国際連合軍縮担当上級代表に提出の予定となっております。

今回のNPT運用検討会議においては、核兵器禁止条約の議論にまず先鞭がつくことは願うところでありますが、その地ならしとして、非保有国に対し保有国が核兵器を使用しない「消極的安全保障」の法的拘束力を伴う合意や、非核兵器地帯条約(NWFZが成立していない地域において、「核不使用宣言地域」の成立といった進展を期待したいと思います。世界の青年と共に、その推移を注意深くフォローして参りたいと思います。

ただ、私たちは今回のNPT運用検討会議についても、「核兵器なき世界」という最終目的に向かっての1つの通過点であると認識しています。各国の民衆が明快に核兵器を拒絶する態度を構築しない限り、核兵器の拡散の種は残り続けます。

そうした意味で、私たちは今後も、NPT運用検討会議の結論に関わりなく、仏教徒として人々の意識に焦点を当て、対話を通し一人ひとりの心に変革と希望の炎を点火していくという、人間の内面へのアプローチを重視した教育的な活動を展開してまいりたいと思います。(原文へ

INPS Japan

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普天間問題に見る鳩山首相の「本当の問題点」(石田尊昭)

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【IPS東京=石田尊昭

Mr. Takaaki Ishida
Mr. Takaaki Ishida

普天間問題が完全に行き詰まった。

メディアには「首相退陣」の文字がおどる。「5月危機説」がにわかに現実味を帯びてきたようだが、政局の話は少し横に置いておこう。

普天間問題に見る鳩山首相の本当の問題点とは何だろうか。

総選挙時の演説で「国外へ。最低でも県外へ」と主張し、首相になってからは「最後は私が決める」と自信あり気に語り、その後も、時折余裕とも思える笑みを浮かべながら決意を語り続けていた。

 政権交代直後から、水面下で様々なルートを通じて米国や地元とアクティブな交渉に入り、その成果が実りつつある、あるいは道筋が見えつつあることから、上記の自信に満ちた言葉・姿勢になっているに違いない…そんな希望的観測を僕は持っていたが、まんまと裏切られてしまった。「甘かったと言われれば、そうかもしれない」―。奇しくも首相と同じセリフが頭をよぎる。

この普天間問題においては、首相の言葉の軽さ、二転三転する主張、本人も認めた認識の甘さ、リーダーシップの欠如などが指摘・批判されている。それらはいずれも事実だが、問題の本質はそこではないと僕は思っている。

批判されるべきは、「行政府の長として、国民への説明責任を全く果たしていない点」ではないだろうか。

以前、当ブログで、マニフェストで約束された政策が二転三転することに対して、開かれた政策論議を行ない、首相が説明責任を真摯に果たせば、国民は理解を示すのではないか、と述べた。

つまり、政策を変更せざるを得なくなった場合、「なぜ、そうしなければならないのか」について充分かつ説得的な説明がなされるか否かによって、国民の首相に対する見方が百八十度かわる可能性があるからだ。

この普天間問題で、首相の述べた「抑止力についての認識が甘かった」とか、ましてや「『県外』は公約ではなく個人的見解」などという物言いは、「説明」ではなく「釈明」だ。それを聞かされた国民は、どう反応すればいいのか。ただただ、この人で大丈夫だろうか、という不安が募るだけである。

その政策の何が問題だったのか。分析内容か、交渉プロセスか、実施体制か。何が原因で、どう見誤ったかを明らかにする(=自ら把握する)ことによって初めて、同じ轍を踏まないための指針・戦略を再構築することができる。

それを国民に明示し、真摯に「説明」すれば、少なくとも「釈明」するよりかは理解が得られるだろう。

それとも、「説明」できるだけの分析・整理が未だなされていないのか。さらに、する意図も能力もないとなれば、怒りを通り越し、虚脱感におおわれてしまう。そうでないことを願うばかりだ。

石田尊昭(IPS Japan理事

*原文は石田尊昭和ブログに5月8日に掲載されたものです。

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NPT運用検討会議でイスラエルとイランが議論の焦点に

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【国連IPS=タリフ・ディーン

5月3日、約1カ月に亘って開催されるNPT運用検討会議が開幕したが、予想通り議論はイスラエルに集中した。

イスラエルは中東地域で唯一核武装した国であるが、政治的に特別な地位(=Sacred Cow)を享受しており、その武器開発計画が米国及び西欧諸国から公式に非難されたことはない。

しかし会議初日、国連加盟国の圧倒的多数にあたる192カ国中118カ国が、イスラエルは自国の核兵器開発計画について公表し、核不拡散を目的とするNPTに加盟するよう求めた。

 
 118カ国が加盟する非同盟運動(NAM)を代表してインドネシアのマルティ・ナタレガワ外相は、「イスラエルがNPTへの署名、批准を拒否してきたために、中東の国々(=非核保有国)がこの大量破壊兵器を有する唯一の国(=イスラエル)による核の脅威に晒されてきました。」と語った。
 
「イスラエルは『(IAEAの管理下にない)未知の安全基準に基づく未保護の核施設を運営』していることから、それに伴う様々なリスクを国際社会に広げてきました。さらに悪いことに、イスラエルは、暗黙のうちに、『中東及び国際的な広がりを孕んだ』破滅的な核軍拡競争を引き起こす脅威の引き金となってきました。その結果、NPT体制そのものが危機的な状況に陥っているのです。」と、ナタレガワ外相は、国連最大の政治的組織の見解を代弁して警告した。
 
 またナタレガワ外相は、「現在の状況を看過するわけにはいきません。なぜならこのままでは、『中東大量破壊兵器フリーゾーン』創設を求めた1995年のNPT運用検討会議決議の実現が危うくなってしまうからです。」と語った。
 
 5月28日まで約1カ月に亘って開催される会議では、核拡散の防止と世界の兵器廠からの核兵器廃絶を究極の目的とするNPT体制の現状について、成功・失敗の両側面が検証されることとなっている。
 
 NPTは1968年7月に署名公開され、5年ごとに運用検討会議が開催されてきた。
 
現在、NPT体制の下で核保有が認められている5カ国(米国、英国、フランス、中国、ロシア:これらの国々は国連常任理事国でもある)を含む189カ国がNPTに加盟している。

一方、NPT非加盟の核兵器保有国はインド、パキスタン、イスラエルである。北朝鮮は、NPTに加盟していたが、規定違反を犯した後に脱退している。

2000年のNPT運用検討会議では、イスラエルがNPTに加盟し全ての核関連施設を国際原子力機関(IAEA)の統合保障措置の下に置く必要性が確認された。

しかしイスラエルは今日に至るまでこの提案を拒否している。

従来より軍縮と核不拡散を「最優先課題」と宣言してきた潘基文国連事務総長は、開会式の演説の中で、イランと北朝鮮について名指しで言及した。

潘事務総長は、イランに対して「国連安保理決議を完全順守しIAEAに協力する」よう強く促すとともに、北朝鮮に対しては、「朝鮮半島の検証可能な非核化」実現に協力するよう求めた。
しかし潘事務総長は、イスラエル、インド、パキスタンについて言及するには至らなかった。

もっとも、潘事務総長は、当該3カ国の国名を言及することは避けたものの、「現在NPT体制外にある国々が一刻も早くNPTに加盟することを強く求めます。」と語った。

一方、会議に元首クラスとしては唯一の出席となったイランのマフムード・アフマディネジャド大統領は、「核兵器の唯一の機能は生き物全てを殲滅し環境を破壊するものです。」と語り、核兵器に関する道徳的な見地に立った演説を行った。

「核兵器に伴う放射能は、未来の世代へも悪影響を及ぼし、惨禍は数世紀にもわたって継続するのです。」

「核爆弾は防衛のための武器ではなく、むしろ人間性に対する攻撃です。従って核兵器の所有は、誇りにすべきようなことではありません。むしろ最低かつ恥ずべき行為なのです。」とアフマディネジャド大統領は語った。イランは現在、核兵器を開発しようとしているとして非難に晒されているが、アフマディネジャド大統領は嫌疑をきっぱりと否定している。
 
 「核兵器の使用や、平和的核施設への攻撃をほのめかして他国を脅迫するのはさらに恥ずべきことです。それは、歴史上のいかなる犯罪とも比べられない最悪の行為です。」と同大統領は指摘した。

またアフマディネジャド大統領は、「イスラエルは中東で多くの戦争を仕掛け、今も地域の国々や人々を恐怖と侵略で脅迫し続けている。また、数百基もの核弾頭を蓄積している。」として、イスラエルを非難した。

さらに同大統領は、「イスラエルは米国及びその同盟諸国より無条件の支持を享受しており、核兵器開発計画への必要な支援さえ受けている。」と指摘した。

また同大統領は、IAEAについて、「核軍縮と核不拡散の双方で失敗した」と非難した。

これに対して、米国のヒラリー・クリントン国務長官は、「イランはあらゆる手段で自らの(核兵器開発の)行いから国際社会の注意を逸らし、説明責任を回避しようとしている」と非難した。

「イランは国連安保理とIAEAを公然と無視し、核不拡散体制の未来を危うくしました。」とクリントン長官は語った。

一方、オバマ大統領は4月に開催した核安全保障サミットにおいて、イスラエルの核兵器開発計画についての見解を記者団に求められている。

しかしオバマ大統領は、その質問を巧みにかわすとともに、あえて記者団に対して、「イスラエルに関しては、同国の(核兵器)計画についてコメントするつもりはない。」と語った。

「私が指摘しておきたいのは、米国は一貫して、全ての国に対してNPTに加盟するよう強く促してきた事実です。従って何ら矛盾することはないのです。」「イスラエルであろうとその他の国であろうと、私たちは、NPTへの加盟が重要だと考えています。」「ところで、これは新しい方針ではなく、私の政権誕生以前から米国政府が一貫して主張してきた立場です。」とオバマ大統領は付け加えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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オバマを保護する責任―15ヶ月が経過して(ジャヤンタ・ダナパラ)

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【ワシントンDC・IDN=ジャヤンタ・ダナパラ】

ジョン・F・ケネディ大統領以降、これほどの熱狂と希望を呼び起こした米国の大統領はいなかった。もしバラク・オバマ大統領が米国と世界にとってのビジョンを実現することができなかったなら、そうした潜在力を持った大統領が次に出てくるまで、我々は長いこと待たなくてはならないだろう。

しかし一方で、妥協を重ねて何とか議会で通過させた医療改革法案と、ロシアとの間に締結した新核兵器削減条約(START)ぐらいが、オバマ大統領が就任後15ヶ月の間に成し遂げた成果といえるのかもしれない。

共和党右派の批判勢力はこうした状況を、典型的な口先だけの政権として攻撃を続けるだろう。一方オバマ支持者は、山積する諸問題-恐らくどの新任の大統領よりも過酷な-を生き延びた功績を讃えるだろう。

 そして彼らはオバマ大統領の功績として、世界恐慌以来最悪と言われる金融危機後の経済の緩やかな回復や、グアンタナモ基地の閉鎖決定と拷問の禁止、「核兵器なき世界」というビジョンの提示と実現に向けた行動、アフガン戦争の「出口戦略」の提示と増派、気候変動サミットでの仲介、その他ネオコン前政権とは全く異なる路線を打ち出した諸政策を挙げるだろう。

つづめて言えば、オバマ大統領も人間であり(神のように水面を歩くことができる訳ではない)、オバマ政権への評価は真っ二つに割れている。つまり、オバマ大統領も膨大な抑制と均衡に基づく制度から成り立っている米国の政治制度の中の一部であり、この制度の中においては、議会の多数派を擁する大統領と言えども、常に個人の理想主義を政策に反映することは必ずしもできないのが現実である。(その好例が自ら提唱した国際連盟への米国の加盟を上院の反対で断念させられたウィドロー・ウィルソンのケースである。)

しかしオバマ大統領の最初の1年の実績について賛否両論の評価があるのは国内のみではない。

アラブ諸国では、米国とイスラム世界間の懸け橋を構築するとしたオバマ大統領のカイロ演説には当初大きな期待がもたれたが、その後イスラエルに引きずられてパレスチナ問題を解決できていないことへの不満が強い。とりわけガザ問題に関するゴールドストーン報告書へのオバマ政権の対応は、それまでの米政権が示してきた米国のイスラエル寄りの政治姿勢を改めてアラブ世界に印象付けることとなった。

ラテンアメリカでも、ホンジュラスのクーデターに対するオバマ大統領の反応が、歴代の米政権に通ずるものを感じさせている。

またロシアは、過去の経緯から、オバマ大統領による東欧のミサイル防衛計画(一時凍結にはしているものの)に対する警戒を緩めていない。

我々が目にしているのは、複数のオバマ像である。片方には、政治に飽き飽きした米国の有権者、とくに若者を奮い立たせた理想主義的なオバマ大統領がいる。

そしてもう片方には、米議会との妥協を迫られる現実主義的なオバマ大統領がいる。上下両院とも民主党が過半数を占めているが、それでも妥協が必要なのだ。右翼勢力はオバマ大統領への追撃の手を緩めていないし、それに穏健な共和党勢力も加わっている。今年の秋の中間選挙で、民主党の多数が崩れた1994年のギングリッチ革命の再来、ということになるかもしれない。

偉大な指導者は、大義に関して人々を奮い立たせるだけでは足りない。いかなる障害があろうともそれを乗り越えて、鼓舞し続けることが必要なのだ。よりよきアメリカと世界を目指すオバマの高邁な理想をくじくべく、米国の政治制度を悪用しようとする人々がいる。結局それを防ぐことができるのは、ピープル・パワー(民衆の力)だけなのだ。

※ジャヤンタ・ダナパラ:スリランカの外交官で元国連大使。1995年核不拡散条約(NPT)運用検討会議の議長。1998年-2003年、国連軍縮担当事務次官。現在は、科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議会長。本オピニオンは、ダナパラ氏の個人的見解である。

翻訳/サマリー=IPS Japan戸田千鶴


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核不拡散体制には三重基準がある(ジョン・バローズLCNP事務局長インタビュー)

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

John Burroughs/ LCNP
John Burroughs/ LCNP

核兵器の廃絶と、この恐ろしい兵器の拡散をいかに阻止するかということが、5月3日から約1カ月に亘って国連を舞台に開催される核不拡散条約(NPT)運用検討会議における主な協議事項となっている。

5年に一度開催されるこの会議は、米国のバラク・オバマ政権が「核兵器のない世界」を目指すとする不可能に近い公約が行われた中で開催されることとなった。

体制内外の核保有国が、少なくとも何の前提条件もなしに自国の核兵器を廃絶したり放棄したりする意思を示していない中、オバマ大統領の公約は実現には至らないかもしれない。

ニューヨークに本拠がある「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」のジョン・バローズ事務局長は、「市民社会は1980年代以来最大規模となる運動を展開し、世界規模の核廃絶合意を目指した協議を求める嘆願書に1000万人を超える署名を集めました。」と語った。

 しかしバローズ氏は、5月3日から28日まで開催予定のNPT運用検討会議は「イランの核開発プログラムを巡る対立を解決したり、北朝鮮による核兵器取得の流れを転換したりする場にはならないだろう。」と警告する。

タリフ・ディーンIPS国連総局長のインタビューに応じたバローズ氏は、「NPT運用検討会議が望ましい結論を導き出す要素は確かにあります。」と語った。

「それは世界の大半の国々がNPT体制崩壊へと進んできたこの10年の流れを逆転したいと決意していることです。」と。バローズ氏は語った。

バローズ氏は、「オバマ大統領は核兵器の危険性について雄弁に説明し、『核兵器なき世界』というビジョンを明確に示したうえで、その目標に向けた一連の動きを開始しました。とりわけ、米露両国は4月8日に新戦略兵器削減条約を締結し、長距離核弾頭の削減状況を相互に検証するシステムを復活させました。」と語った。しかしバローズ氏は同時に、「もっとも、削減規模は世界の国家社会を滅亡させる破壊力を維持したままの小規模なものにとどまっていますし、米国はその一方で武器製造能力の向上に予算増強を図っています。」と、依然として山積する課題についても指摘した。

以下にインタビューの抜粋を紹介する。

IPS:NPT運用検討会議はほぼ一カ月に亘って開催されるわけですが、今回の会議に何を期待されていますか?また、会議を成功と判断する基準をどこに置いていますか?

バローズ:
もし今までの主な合意事項が再確認され、核兵器の削減・廃絶への具体的な方策について(米露のみならず他の)核保有国間の合意がなされ、追加議定書(各非核保有国が自国の核関連活動への査察アクセスと透明性を高めることに合意する)のような核不拡散体制強化措置への支援が表明されれば、会議は成功だと思います。

しかし、交渉は3つの議論が争われている分野で、激しく困難なやり取りが行われるでしょう。一つ目の争点は、核軍縮に向けた行動計画に関してです。おそらく、1995年及び2000年のNPT運用検討会議における合意内容の改訂版を今回の会議で認めることは、それほど困難なことではないでしょう。そうした合意内容には、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、核兵器用核分裂物質の生産禁止に関する交渉の開始、核兵器削減への不可逆性の原則の適用、安全保障政策における核兵器の役割低減が含まれています。

IPS:会議成功への障害は他にどのようなものがあるでしょうか?

バローズ:
2つ目の争点は、核兵器の拡散防止強化に関する分野です。具体的には、追加議定書の適用を通じた国際原子力機関(IAEA)の査察権限の強化、核施設用燃料の生産と供給を多国間の管理下に置く仕組み、NPT脱退に関する制限の追加、等が含まれています。

こうした追加措置に対しては、多くの非核保有国が、NPTに加盟し規則順守を通じて既に十分な貢献を行ってきたとして、受入れに難色を示しています。ただし、例えば「追加議定書」の締結を各国に促すといった、より緩やかな公約については合意にたどり着ける可能性は十分あります。

3つ目の争点は、1995年のNPT運用検討会議で採択された「中東に関する決議」、すなわち、中東大量破壊兵器(核兵器・生物兵器・化学兵器)フリーゾーン構想の実現に向けて前進を図ることができるかどうかという点です。これはアラブ諸国にとって非常に重要な点であると同時に、イランの核兵器開発疑惑を巡る論争解決の一助ともなり得る可能性を秘めています。この点については、1~2年後にこのテーマについて協議する国際会議を招集することで合意がなされる可能性がでてきています。

IPS:その他にもNPT運用検討会議中に障害として浮上してくるものがあると思いますか?

バローズ:
核兵器の削減プロセスに、米露以外の核保有国を組み込んでいく多国間核軍縮交渉も複雑な課題です。オバマ政権は、原則的にこのアプローチを支持していますが、近い将来における具体的な方策はなにも提示していません。もしかするとそのあたりで進展があるかもしれません。

IPS:2005年の運用検討会議は実質的内容のある「最終文書」を不採択で閉幕しましたが、今回の会議では「最終文書」の採択に成功するでしょうか?

バローズ:
今回の会議で「最終文書」採択に至るためには、各国がこれらの争点について合意することに加えて、独自の目的から協議結果を妨害したい国が現れないことが条件となります。たとえ、各国のコンセンサスが確保できなかったとしても、「最終文書」以外の方法で、幅広い合意がなされていることを示す方法を見出すことができるでしょう。

IPS:米国や西欧諸国が、核兵器開発疑惑で(NPT加盟国の)イランに対して制裁を求める一方で、インド、パキスタン、イスラエルといったNPT未署名の核保有国に対しては異なった対応をしていることから、これを偽善でダブルスタンダード(二重基準)だとする見方もありますが?

バローズ:
核不拡散体制は二重基準というよりも実に三重基準という根本的な問題を抱えています。NPTそのものは2階建て構造で、核兵器廃絶に向けた交渉義務を有する核保有を認められた国々と、核兵器を取得していないことを証明するため査察の受け入れを義務付けられている非核保有国から構成されています。そしてそれらの国々の他に、NPT未加盟で事実上核兵器を保有している国々-インド、パキスタン、イスラエル、(そして最近は)北朝鮮-があるのです。

このことは、核兵器の取得が禁じられているNPT加盟国の間に不公平感を呼び起こしています。また原子力供給国グループ(NSG)が、米国の圧力でインドを例外扱いしたことは、こうした不公平感にさらなる拍車をかけることとなりました。それはNSGが、NPT加盟の核保有国に課されている核軍縮義務や約束を公式に認めてさえいない国に対して核関連の商取引を認めたからです。

一方で、NPT加盟の非核保有国であるイランが核兵器製造能力を得ようとしているとする疑惑から検査、制裁の対象になっています。こうした三重基準の問題を解決する方法は一つしかありません。それはすなわち、「核兵器の保有を認めない」とする単一の規則を全ての国々に適用する全地球的な体制を創出することです。

この体制をいつどのように達成するかについては多くの意見がありますが、この基本的なポイントは、エリートと一般大衆、先進国と途上国、平和活動家と安全保障専門家の違いを問わず、ますます多くの方面で受け入れられてきているのです。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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NPT運用検討会議に何千人もの反核活動家が集う

【国連IPS=アンナ・シェン】

NPT運用検討会議開幕前日の5月2日、約15,000人の市民が核廃絶を訴えてニューヨーク市内を行進した。この群衆の中には、「ノーモア・ヒロシマ」と訴える横断幕を掲げた着物姿の日本人女性や、80歳の老婦人、世界から集った18人の市長等、多彩な顔ぶれが見られた。
参加者たちは当日の蒸し暑い天気にも関わず、ニューヨークの中心部タイムズスクェアーから国連本部前を経由して「国際平和・音楽フェスティバル(世界の音楽演奏と核廃絶・平和活動に関するブースが出店)」が開催されるダグ・ハマーショルド広場まで行進した。

参加した人々の核問題に対する見方は様々だが、「核軍拡競争を早急に終わらせるべき。」という一点において固く団結していた。

「今こそ世界から全ての大量破壊兵器を廃絶する時です。核兵器反対。戦争反対。YES WE CAN! そうなのです、これは実現しなければならないのです。」と、ピース・アクションの創設者、ジュディス・ル・ブラン氏は語った。

 「今年の8月9日は、日本の長崎市に原子爆弾が投下されて65周年になります。」「私たちは皆、繋がっています。市民を核兵器から守るという確固たる信念を共有しなければなりません。私たちが団結すれば、政府を動かし、世界を変えることができるのです。長崎を最後の被爆地にするために連帯していきましょう。」と田上富久長崎市長は語った。

長崎から参加した吉田勲氏は1945年の米軍による長崎原爆投下の際、わずか4歳で被爆し、祖母と友人を失った。今回のNPT運用検討会議開催に合わせたニューヨーク訪問は吉田氏にとってとりわけ感慨深いものだった。

「今回の会議には多くの人々が熱い期待を寄せています。是非とも成功してもらいといと思っています。昨年の4月、オバマ大統領は『核兵器なき世界』を目指すとの公約を掲げました。今回の会議に国際社会とヒロシマ・ナガサキの被爆者の思いが届くことを期待しています。」と吉田氏は語った。

環境安全のための多文化連合(MASE)のコーディネーター、ナディネ・パディリャ氏は「核兵器がもたらす人命の犠牲は、兵器の配備(と結果的な使用)に伴うものに限りません。そこには核兵器製造に伴う環境と健康に対する影響も含まれるのです。従って私たちは(こうした核関連活動から)土地を守るために闘わなければなりません。」と語った。パディリャ氏はまた、ウラン鉱山を閉鎖し、癌や流産など人体に様々な問題を引き起こす原因となっている放射性廃棄物の源を断つよう訴えた。

戦争で疲弊したコンゴ民主共和国におけるウラン採掘をやめさせることは、ニューヨーク在住のコンゴ人教授ヤーレンギ・ンゲミ氏にとっても重要な問題である。

「ウランは広島への投下された原爆に使用されました。そして現在、コンゴの(ジョセフ・カビラ)大統領はウランをイランに売却しているのです。テロリストを支援しコンゴ人を殺戮しているカビラ大統領を取り除かねばなりません。私はそれを訴えるために行進に参加しているのです。」と、ンゲミ教授は語った。

また他の参加者から、「NPT運用検討会議に世界の指導者が参集する機会を捉えて、米国は率先して自らの(核兵器開発の)状況について実態を公開すべきだ。」との意見も聞かれた。
「米国には今も3つの核兵器製造工場があり、その内の1つがテネシー州にあります。」と同工場閉鎖を訴えているオークリッジ平和同盟のラルフ・ハンチンソン氏は語った。

「米国は世界最大級の核保有国であり、未だに核兵器の生産を継続しています。また、米国は配備されている核弾頭の他にも1500発のアクティブストックパイル(=核兵器が配備されている場所に保管しているスペア)及び戦略予備として核弾頭を保管しています。米国が自国の管理状況について正直にならない限り、世界から核兵器を廃絶することはできません。」とハンチントン氏は語った。

「どうして米国には核兵器の所有が許されて他国には許されないのでしょう?これを道徳的にどうやって正当化できるでしょう?」とハンチントン氏は問いかけた。さらに、「国連総会において核兵器保有を巡って米露両国を非難する雰囲気があることから、今回の会議では国連が影響力を行使でできるだろう。」と付け加えた。

デトロイトピースアクションのメンバー、ダン・ロンバルド氏もこの考えに同意する。「米国は1970年にNPTが発行した際に示された軍縮ビジョンを順守すべきです。」「NPTは容易に結果が出せるものです。私は宗教的観点からNPTを支援するために参加しました。なぜなら、戦争や戦争への準備は神の意志に反するからです。」と、ロンバルド氏は語った。

平和市長会議「2020ビジョンキャンペーン」の国際ディレクター、アーロン・トヴィシュ氏は、「今こそ、核兵器を廃絶するという約束-オバマ大統領が少なくとも理論上受け入れた-を果たす時です。」「核兵器を製造する施設と解体する施設は同じであり、2019年までに全ての核兵器を解体することは可能なのです。これは政治的な決断を要する問題であり、今こそ、その決断をする時なのです。国際社会は向こう10年以内に、核兵器の廃絶に関して検証・モニタリングを行うシステムを構築することは十分可能です。」と語った。さらにトヴィシュ氏は、「今回の会議が核兵器の脅威に対してより包括的なアプローチを打ち出すことができるかどうかという疑問は残っています。」と付け加えた。

ドキュメンタリー映画「フラッシュ・オブ・ホープ-世界をまわるヒバクシャたち」を上映したコスタリカのエリカ・バニャレロ監督は、国連で、「いま地球上のすべての都市を7回以上にわたって破壊できるほどの核兵器が存在しています。」と指摘した。

バニャレロ監督は、今回のNPT運用検討会議では、前回の2005年の会議よりも力強く、問題への対処を前進させるような文書が採択されることを期待すると語った。

「世界の人々が、今日の世界には23,000発の核弾頭が存在し、その大半は米露両国が保有している事実を知っています。私たちはその数を削減していく必要があるのです。」と、パニャレロ監督は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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まずイスラエルの核を問題にせよ

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【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字紙が、[他国の]核保有について米国が適用している二重基準を厳しく批判している。同紙は、米国がイスラエルの核兵器については沈黙を保つ一方、イランに対しては厳しく追及しているとしている。

バラク・オバマ米大統領がワシントンで核安全保障サミットを開く中、『ガルフ・トゥデイ』紙は、「中東における唯一の核兵器保有国であり米国の同盟国でもあるイスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相が、世界の首脳が集うこの歴史的サミットへのオバマ大統領からの出席要請を簡単に断ってしまった。」「しかし、出席拒否の理由は示されなかった。」と報じた。

 同紙によれば、オバマ大統領は、集まった46ヶ国に対して、核テロが主要な脅威のひとつであることを認識させ、大量破壊兵器とその製造に必要な物質を保全しそれがテロリストの手に渡らないようにする必要性を訴えた。
 
 大統領は、その直前に、米ロ両国の核兵器を削減するためにロシアとの協定(新戦略兵器削減条約)に署名したばかりであった。国際社会は、地球の安全を保障し彼の夢の実現のために世界の協力を得ようとするオバマ大統領に拍手喝采を送った。

「しかし、問題は、『核兵器なき世界』というオバマ氏の主張に他国の指導者らがどれだけついていけるか、ということだ。核兵器を保有し米国と緊密な同盟を結んでいるある国の指導者は、世界をより安全にしようという共通の課題に背をそむけているのだから」。

イスラエルは「核物質の拡散を防ぎそれが他者の手に渡ることを阻止してきたと主張しているが、70年代には南アフリカの核開発を支援するために放射性物質を供給したとみられている」。

同紙は、「イスラエルは約200の『先進的な核爆発装置』と保有しているとみられている」としたうえで、「こうした過去を考えるとき、イスラエルがその核能力を将来的に濫用しないと誰が言えようか?」と疑問を呈した。

ネタニヤフ首相から袖にされたことについて、米国が「通常見せるような遺憾の意」をまだ見せていないことには大きな意味がある、と同紙は論じる。ネタニヤフ首相が米大統領を困惑させたのはこれが初めてのことではない。ユダヤ人入植問題に対する最近の頑強な態度もまた米国を困らせている。

「同時に、米国は、ウラン濃縮は核兵器製造ではなくエネルギー用だとしているイランに対して、より強い制裁を与えるべしと強い調子で要求している」。

イランは、国連[=国際原子力機関のこと]による核施設査察を拒んだことに対してすでに制裁を受けている。皮肉なことに、イランは現時点では核兵器を保有していないと言っているのは米国自身だ。しかし、イランは2015年ごろまでには核兵器製造能力を獲得する可能性があるから強い制裁を課すべきだ、と米国は主張している。

「オバマ氏の意図と努力は高く評価されるべきだが、まずはイスラエルを何とかすべきである」と『ガルフ・トゥデイ』は要求している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

世界47カ国の首脳級参加者が集い、鳴物入りで2日間に亘って開催された「核安全保障サミット」が閉幕した時、サミットの協議内容はもとより、主催者のバラク・オバマ大統領からさえ回答を得られなかった、いくつかの拭いきれない疑問が残った。

すなわちそれらは以下の3点である。①米国はイスラエルに自国の核兵器計画を認めるよう求めるか?②米国はイスラエルに対して核不拡散条約(NPT)に加盟するよう迫るか?③米国はインド、パキスタンに対してNPTに加盟するよう説得を試みるか?

 しかし、空前の規模で開幕した「核安全保障サミット」の最大の関心事は、核兵器(及びその開発に必要な核物質)をテロリストグループに入手させないための体制づくりであり、これらの疑問点については、ほとんど或いは全くと言っていいほど取り上げられることはなかった。
 
 「サミットでは、核爆弾に使用可能な核関連物質の安全管理体制を4年以内に確立すること、核兵器や原子力施設の安全強化、核爆弾に使用可能な高濃縮ウランの使用・取引を削減、などの点で有用な合意に至ることができました。」と、ニューヨークに本拠がある「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」のジョン・バローズ事務局長は語った。

「しかし世界47カ国から、しかもその大半が元首という顔ぶれでワシントンに集った環境にも関わらず、今回のサミットは、国際社会から全ての核兵器を除去していく端緒にするというユニークな機会は逸してしまいました。」とバローズ氏は付け加えた。

また多くのメディアが指摘した通り、オバマ大統領はあえて記者団に「イスラエルに関しては、同国の(核兵器)計画についてコメントするつもりはない。」と宣言し、イスラエルに関する質問を「避けた」。

「私が指摘しておきたいのは、米国は一貫して、全ての国に対してNPTに加盟するよう強く促してきた事実です。従って何ら矛盾することはないのです。」とオバマ大統領は語った。

「従って、イスラエルであろうとその他の国であろうと、私たちは、NPTへの加盟が重要だと考えています。ところで、これは新しい方針ではなく、私の政権誕生以前から米国政府が一貫して主張してきた立場です。」とオバマ大統領は付け加えた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、明らかに同国が秘密裏に進めてきた核兵器開発プログラムが議題に上がるのを恐れて土壇場になってサミットへの参加を「避けた」。しかし結局、サミットではこの問題が取り上げられることはなかった。

NPTの下で認められた核保有国は、米国、英国、フランス、中国、ロシアの5カ国であるが、NPT体制外で核兵器を保有しているインド、パキスタン、イスラエルの3カ国はいずれも、NPTへの加盟を拒否している。

5月3日からNPT運用検討会議が約1カ月に亘り国連で開催される予定である。

バローズ氏はIPSの取材に対して、「イスラエルが核兵器を保有しているか否かについては、オバマ大統領は従来の米国政府の立場を踏襲して、コメントを避けたのです。」と語った。

またバローズ氏は、「サミットでは、中東大量破壊兵器(核兵器・生物兵器・化学兵器)フリーゾーン構想の実現に向けて前進を図ることが、5月のNPT運用検討会議が最終的な合意結果を生み出すことができるか否かの鍵となるという議論がなされなかった。」と指摘した。

「そうした中、潘基文国連事務総長がそうしたフリーゾーン設立に向けた議論を行う新たな会議を招集するという提案が、現在真剣に検討されています。」とバローズ氏は語った。

「1995年にNPTを無期限延長する決定は、同条約の寄託国である米国、英国、ロシアが『中東に関する決議』を支持することなしに、実現は見なかったのです。」とバローズ氏は付け加えた。

オバマ大統領は、記者からパキスタンの核兵器開発プログラムについて問われ、姿勢を軟化させて次のように語った。「私はパキスタンが異なるルールで(核兵器開発を)進めているとは思いません。米国は他の国々に対してと同じく、パキスタンにもNPTに加盟するよう明確に求めてきました。」

しかしオバマ大統領は、「パキスタンの核安全保障問題については実際のところ、過去数年間にわたって進展が見られます。」と指摘した。

「私は、核兵器開発プログラムについては、南アジア全域の緊張関係を緩和したいのです。」「事実、パキスタンのギラーニ首相がサミットに参加してコミュニケに署名し、同国からの核物質拡散や不正取引を防止していく一連のコミットメントを示したこと自体、前向きなことだ思います。」と、オバマ大統領は語った。

「まだやるべきことが沢山あるのではと問われれば、全くそのとおりです。しかしギラーニ首相がここに出席していることは、南アジアで核危機が起こらない保障体制構築に向けた重要な第一歩だと思います。」と、オバマ大統領は付け加えた。

それとは対照的に、オバマ大統領は北朝鮮(と同国の核兵器実験)並びに(核兵器開発疑惑で非難されている)イランに対しては比較的厳しい態度で臨んだ。

バローズ氏はIPSの取材に対してインド、パキスタン両国は核兵器に使用する核分裂物質を生産していると語った。

パキスタンは、新たに2基の核兵器用プルトニウムが抽出可能な重水炉の建設を進める一方で、ジュネーブ軍縮会議による核兵器用核物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)に関する審議入りを妨害している。

伝えられるところでは、オバマ大統領はサミットにおいてギラーニ首相とカットオフ条約について協議したが、ジュネーブ軍縮会議での同条約の審議開始についてパキスタン側の協力を確約する返事は得られなかった。

「サミット自体、兵器用核分裂性物質の生産に関する問題を取り上げませんでした。」とバローズ氏は指摘した。

記者会見で拡大を続けるパキスタンの核開発プログラムについて問われたオバマ大統領は、「パキスタンは核物質の密輸といった核拡散防止に取り組むコミットメントを表明しています。米国の立場はパキスタンがNPTに加盟すべきだというものです。」とのみ語った。

一方、核政策に関する法律家委員会(LCNP)は、「市民社会は5月のNPT運用検討会議を活用して各国代表に対して、NPT加盟の如何を問わずそれぞれの核保有国が、他の核保有国に対する抑止力として自国の核兵器を維持する決意と見られることから、『核兵器なき世界』というビジョンは幻想にすぎないということを知らしめる予定です。」と語った。

1996年の国際司法裁判所(ICJ)による勧告的意見*で求められているような、全ての核兵器の廃絶に向けた普遍的なアプローチがなされない限り、『核兵器なき世界』というビジョンは幻想のままであり続けるだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan
 
* ICJによる勧告的意見(1996):「核兵器の使用や威嚇は一般的に国際人道法に違反する」、「NPT 参加国には、核軍縮交渉を誠実に行い完結させる義務がある」という2つの判断が示された。とりわけ、核兵器保有国に核軍縮にむけて「誠実に交渉を行う」という義務を定めたNPT第6条に対し、それまでの曖昧な解釈ではなく、「交渉するだけではなく、その交渉を妥結させ、具体的な成果を達成する義務がある」とした。

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

イラク戦争の現実を振り返る

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【アンカレッジIDN=ダール・ジャメイル】

イラクの群集に向かって発砲する米軍ヘリの映像がリークされたが、これは侵略当初からつづく無差別殺人の状況を典型的に示したものだ。

映像は、4月5日、WikiLeaks.orgに流された。米軍のアパッチヘリから2007年7月に撮影されたものだ。この攻撃によって12人が殺害された。死者の中には、2人のロイター通信関係者も含まれていた。米軍は、映像は本物であることを認めた。

イラク戦争に3回従事したことのある海兵隊員のジェイソン・ウォッシュバーン伍長は、2008年3月に米メリーランド州シルバースプリングで開かれた「冬の兵士」集会においてこう証言した。「ある女性が近くを歩いていました。彼女は大きなかばんを持っていて、こちらに向かっているように見えました。それで私たちは、Mk19自動擲弾銃で彼女を攻撃しました。煙が消えたとき、彼女のかばんが食べ物でいっぱいであることに気づいたのです。彼女は私たちに食べ物を持ってこようとしていたのに、私たちは彼女を粉々にしてしまったのです」。

 交戦規定に関するパネルで発言したウォッシュバーン伍長によると、交戦規定はきわめてゆるく解釈されていて、ほとんど無きに等しいものにされていたという。

次第に兵士らは、「置き捨て兵器」や「置き捨てシャベル」を持っていくように指示されるようになった。兵士が誤って民間人を射殺してしまった場合に、死体の横に兵器やシャベルを置き捨てていくことによって、あたかも死者が「ゲリラ」であったかのように見せることが目的だった。

2004年11月のファルージャ攻撃に加わった海兵隊員のマイケル・レドゥックは、大隊の法務官から、「白旗を振っていて、ゆっくり近づきこちらの指示に従う様子の者がいれば、それは騙しだと判断して射殺してよい」と指示された。

元州兵のジェイソン・ムーンは、彼の上官が「ゲリラと民間人の違いは、死んでいるか生きているかだけだ」と話している様子を撮影したビデオを見せた。つまり、「もし民間人を殺してしまったら、事後的に、その人間が脅威でありゲリラであったことにする」というのである。

2005年から06年までイラクで従軍したスコット・エウィングは、米軍部隊は子どもたちの人心獲得のためにキャンディを配ることがあったが、目的はそれだけではなく、兵士の周りに子どもが集まっているとゲリラからの攻撃を受けにくく、「人間の盾」として機能するから、だと証言した。

冒頭のリークされたビデオに関して、国防総省は、映っている人々が戦士であったと米兵らが「信じるに足る理由があった」という見解を明らかにしている。

イラク戦争の実情をあらためて振り返る。

翻訳/サマリー=IPS Japan