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米国の影響を最小限に抑えようとするカナダ

【トロントIPS=ポール・ワインバーグ】

カナダのハーパー首相は、専門家が先行きを懸念する中、景気後退が来年には回復すると楽観的に予想するしか選択肢はない。バンクーバーのカナダ代替政策センターの経済学者、M.リー氏は、「指導者の悲観的な姿勢は事態を悪化させる。さらに今、雇用創出のためのインフラ投資が重要だ」と語った。

『グローブアンドメール』紙によると、与党保守党の議員は財政委員会の公聴会で、7月までに失業者が38万5,000人になると予想され、2008年第四四半期の国民総所得が15.3%も急落したとの報告を受けたが、フラハティ財務相は「急落」という言葉に不快感を示した。

 カナダ銀行のD.ドッジ前総裁も、「経済回復は遅れ、2013年にまでもつれ込む」と厳しい見方をしている。さらに予測機関であるHISグローバル・インサイトは、世界経済が2%以上縮小し、米国は3.7%、カナダは2.5%と予想している。戦後最大規模の世界的な景気後退に個々の国での対応は困難になっている。 

カナダは米国への経済的依存が大きく、米国政府の景気刺激策の影響もある。カナダ労働会議の経済学者、A.ジャクソン氏は米国の刺激策の効果はカナダに波及しないという。「米国内の公的投資とドル安で輸出攻勢が高まり、カナダにとっては問題だ」ジャクソン氏らはインフラ整備におけるバイ・カナダ運動(カナダ製品購買運動)を推進しようとしている。 

「このまま経済が不振であれば次の選挙でハーパー首相は国民の支持を得られない」とビクトリア大学のR.ウィテカー名誉教授はIPSの取材に応じて語り、「国民に不信が起きている」という。「だがカナダの銀行は投資熱に感染していなかったため、他の国より優位にあることは事実」 

けれどもリー氏は、カナダ政府も米国政府も金融安定にとらわれ、景気後退の主要因である家計の借金、失業の増加、個人消費の落ち込みを軽視しているという。カナダ統計局によると、積極的に仕事を探していない人を含めると、失業率は11.7%である。「減税より社会保障に投資して低所得者層の消費を促すべき」と同氏は主張する。 

米国の影響を大きく受けるカナダの景気対策について報告する。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan 

|米国|労働|お父さんたちのジレンマ

【ニューヨークIPS=ミレラ・ザンサキ】

父親の育児休業について数十年の実績を持つスカンジナビア諸国には到底及ばないが、米国でも父親が育児休業をとり、母親が働き続けるケースが増えている。とはいえ、いくら稼ぐかで男性の価値が従来決まっていた米国の文化においては、伝統的に女性が果たすと見られてきた役割を担う父親に対する社会的偏見は依然根強い。

米国国勢調査局によると、15歳未満の子供の育児に専念する父親の数は2006年においておよそ15万9000人。しかし育児に専念する親の数が580万人とされていることから、依然大半が母親ということになる。

More than a third of working dads say they’d leave their jobs if their spouse or partner made enough money to support the family. Credit: Sarah Katzenell

 ニューヨークを本拠に仕事と家庭の問題に取り組む法的権利擁護団体A Better Balanceのスタッフ弁護士フォエーブ・トーブマン氏は「有給・無給各12週間の育児休業を認めている企業でさえ、書類上に終わっていることが多い。問題は、男性がそれだけの休業を取れると思っているかどうか、そして実際に多くの男性が育児休業を取っているかどうかだ」と指摘している。 

Flex-Time Lawyers and Working Mothers Magazineの2008年の調査では、育児休業が設けられている場合休業を取った父親は62%であったが、今年の調査では83%に増加した。 

ある概算によると米国の企業のうちおよそ13%しか有給育児休業を認めていないが、母親が働き、父親が育児を担当する専業主夫が増え続けているのも事実であるようだ。 

権利擁護団体National Fatherhood Initiativeのローランド・ワレン会長は「今回の金融危機では、雇用削減の対象となる仕事の性格上、女性よりも男性に影響が多く及んでいる。好むと好まざるにより、子供と充実した時間を過ごしている男性が増えている」と述べている。 

CareerBuilder.comの調査によれば、配偶者の収入が十分であれば仕事を辞めると答えた父親は37%に上る。また選択できるのであれば、給料が減っても子供と過ごす時間を増やしたいと38%が回答している。 

この調査では、働く父親の24%が、子供との関係に仕事が悪影響を及ぼしていると感じていることが明らかとなった。仕事と家庭のバランスを図るために選択肢を設けている企業は増えているものの、働く父親の3分の1以上が、在宅勤務やワークシェアリングなど雇用主側の柔軟な制度の不足を指摘している。たとえ上司に理解があっても、友人やコミュニティに理解がない場合も多く見られる。 

父親業に関するベストセラー作家で、男性の仕事と家庭の両立を助ける企業Fathers at Workの創始者アーミン・ブロット氏は、父親に優しい職場政策を支持することによって、仕事に満足し、長く企業に留まりかつ生産性の高い従業員を確保することができるということを企業は理解すべきだと説いている。 

米国における男性の育児休業の問題について報告する。 (原文へ

INPS Japan 

アラブ人であることとイスラエル市民であること

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【サクニンIPS=ピエール・クロシェンドラー】

イスラエルの極右グループは3月24日、高等裁判所の許可を得て、パレスチナ支持の機運が高くイスラエル・イスラム運動の中心地であったガリレアの町ウンム・エル・ファムで国旗を翻しながら示威行進を行った。数百人の参加者は、町の外れを数百メートル歩いた後、抗議するアラブ系市民の投石を避けるため警察に守られて同市を後にした。 

同行進は、彼らのリーダー、メイヤ・カハネ師(Meir Kahane)が同地にイスラエルの国旗を掲げてから20年になるのを記念すると共に、カハネ師の後輩が打ち出した具体的政策の支持表明が目的であった。

 極右の国家統一党は、最近の選挙で4議席を獲得。首相指名のベンヤミン・ネタニヤフ元首相は同党との連立も検討していた。今や極右の考えは、ユダヤ系市民の大きな支持を得ている。この事は、Yisrael Beiteinu(我が家イスラエル)のアヴィグドール・リーバーマン党首が来週外務大臣に就任することからも見てとれる。リーバーマン氏の選挙スローガンは、イスラエル民主派と特にアラブ系市民に向けられた「忠誠心の無い者は市民ではない」であった。 

イスラエル国内のユダヤ系市民と少数派のアラブ系市民との分裂は進んでいる。ユダヤ系市民は、アラブ系市民の多くは過激派で、ユダヤ国家の存在を阻む民族統一主義者と見なし、様々な差別を行っている。一方、アラブ系市民は祖国であるイスラエルに市民として完全に受け入れられること、そしてパレスチナ同胞との連帯の間で揺れている。 

アラブ系市民の中には、このジレンマから逃れるにはイスラエルを「全ての市民のための国家」に変質させることが重要との主張がある。人口2万6千人のサクニン市のスポークスマン、ガザル・アブ・ラヤ氏は、「我々は、他の市民と同様の権利、義務を有するイスラエルの完全なる構成員になりたい」と語る。これを体現したのが、5年前に国際サッカー大会で優勝した同市のサッカー・クラブ「ブネイ・サクニン」である。 

人権活動家のイブラヒム・ブシュナク氏は、「ブネイ・サクニンは、プレーを通じ否定と共存に橋を架ける方法を示した。相互理解があってこそ、共存は可能だ」と語る。 

ウンム・エル・ファフムの声だかの政治要求と異なり、サクニンは、パレスチナの遺産と歴史に背をむけることは拒否しつつも、イスラエルの現実を考慮する姿勢を示している。昨年11月、サクニン市長に選出されたサッカー・クラブのマゼン・ガナイム会長は、「マイノリティーに十分な権利が与えられていなくても、まずは手にしている権利を保持することだ」と語っている。


イスラエルの極右勢力の台頭とアラブ系市民の姿勢について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

|タンザニア|障害者への偏見を打ち破る工芸品ビジネス

【イリンガ(タンザニア)IPS=サラ・マクレガー】

タンザニアに2003年設立されたNPO法人ネーマ工芸は、障害者は肉体的、知的に厳しくても仕事をしながら人生を精一杯生きることが出来るという信念の下で運営している。出来ることもなく通りで過ごす障害者を雇用し、仕事を実地訓練し、消費者が本当に欲しい物を生産し、施しとしてではなく購入してもらうのを目指す。

製作製品は、ゾウの糞から作った紙や贈答用のカード、ビーズアクセサリー、色彩豊かなハンモック、スカーフ、クッションカバー、絞り染めの服、クリスマスの飾り、ランプシェード、キルト、パッチワーク、その他の珍しい品物だ。旅行者、ボランティア、地元の宗教団体職員に人気で、インターネット経由(http://www.neemacrafts.com/)でも注文を受け、英国、米国、ドイツの小さなフェアトレードショップの店頭に並んでいる。

併設する聴覚障害者運営のカフェでは、客は注文する時、紙に書いたりメニューにある手話を使ったりする。何か必要がある時にはテーブルにあるスイッチを押してライトを点滅させる。 

ネーマ工芸の運営、維持費は売上収益と寄付でまかなわれる。 

タンザニアで障害者は、教育も就業の機会も与えられず、貧困の中にとどまらざるを得ないので、社会では貧しい家族の重荷とみなされている。タンザニアでは人口4千万人の3分の1が1日1ドル以下で暮らし、80%が自給自足で、手足が不自由な障害者は肉体労働の畑仕事を手伝えないからだ。 

ネーマ工芸の運営を手伝う英国人スージー・ハート氏は、次のように言う。 

「ネーマ工芸があるイリンガ州はタンザニアの最貧地域で、貧困ゆえに子供達が障害を持って生まれてくる。ここでは女性も重労働を担っており、妊娠してから出産まで重い水を運ばなければならず、お腹の子に悪影響を与えている。妊娠中の栄養不足や、出産に対する不十分なケア(出産時、胎児の酸素不足が多発)、未然に防げない脳マラリアなどもある」 

また、東アフリカの障害者は、のろわれているという烙印を押され、社会からの疎外にも苦しむ。そして、リハビリ施設もほとんどなく、どこへ行くにも道路も建築物も障害者に全く考慮されて造られていない。 

ネーマ工芸では、働き始めて自尊心を取戻し、仕事を楽しむ60人の作業者に人員を追加したいと考えている。しかし、その前に賃金を支払うため、新しく製品を売る市場を見つけねばならないとハート氏は言う。今年に入って、働きたいと言う人を1週間に9人も断らねばならないという最もつらい仕事をしたからだ。 

障害者に職と生きがいを提供するタンザニアのネーマ工芸について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=INPS Japan 浅霧勝浩 

|エジプト|ピラミッドは不況の上を行く

【カイロIPS=カム・マックグラス】

観光はエジプト経済にとって国内総生産の約7パーセント、雇用の12・6パーセントを占める重要産業である。2008年度の収入は、前年比15パーセント増の128億ドルを記録した。しかし、世界金融危機による経済不安と主要マーケットであるロシア、英国、ドイツ、イタリアなどの通貨安でブームが弾けるのは時間の問題との不安が広がっている。 

エジプト観光連盟(ETFのアーメド・エル・ナハス会長は、「深刻な事態と考えていたが、1月から3月の売上は昨年比で約12パーセント減に止まっている」と言うが、紅海沿岸のリゾート、ハルガダとシャルム・エル・シェイクのホテルでは、最近の客室占有率は最高40パーセントの落ち込みを見せているという。ホテルは料金の値下げや長期滞在者に対する特別料金提供などを行っているが、全体の1/4を占める契約社員の一時解雇に踏み切ったホテルも多い。

 シャルム・エル・シェイクのラディソンSASリゾートの予約担当責任者は、客室占有率が昨年比で20パーセント減となった時点で料金を引き下げたと語る。しかし、同氏は、小額の引き下げは良いが、大幅値下げは価格戦争を引き起こし長期的な損失をもたらすだけと主張する。エジプト観光連盟(ETF)は、ホテル業界に対し値下げを控え、サービスの向上や特別優待を提供するよう指導した。 

3月の業績は多少上向いたが、専門家は、金融危機は更に続くと警告している。世界旅行産業会議(WTTC)は、今年の観光産業の落ち込みは過去数10年間で最悪の3.6パーセントに及び、1千万人の雇用が失われると予測している。 

エジプト政府は最近、観光会社救済のため、水上ホテルのドッキング料金値下げやホテルの宣伝費無料化などの策を打ち出した。また民間航空省は、チャーター機の離着料を値下げした他、特定の路線でチャーター機の空席コストを負担することに同意している。 

エジプト最大の旅行会社イシス・トラベルの西ヨーロッパ担当者ハテム・カファギ氏は、西ヨーロッパ諸国からの予約は約30パーセント減少しているが、全体的な落ち込みは予想を下回ると語る。同氏によれば旅客は、最終料金を求めてぎりぎりまで待つ傾向にあるという。 

 エル・ナハス氏は、エジプトは渡航に10時間、15時間を要する極東と違い、ヨーロッパの殆どの都市から3時間の距離にあり、物価の安い所としても知られると述べ、地の利の優位さを強調するが、問題は不況が更に悪化すると見られる夏だ。気温の上がる夏に競争相手のスペイン、トルコとどう戦うか、これがエジプト観光業界の試練となる。 

世界不況の中、旅客獲得に苦慮するエジプト観光業界について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 
 
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│メディア│HIV/AIDS患者のための新感覚マガジン

【ブエノスアイレスIPS=マルセラ・バレンテ】

「国際女性HIV/AIDS患者の会」のラテンアメリカ・カリブ海支部が、ファッションや娯楽といった要素を含んだ、HIV/AIDS患者のための新しい感覚の雑誌をこの2月から発行し始めた。その名も『あなたはひとりじゃない』(No estas sola)。雑誌は患者の会の支部があるラテンアメリカ20ヶ国で発行されている。 

編集長のマリア・マンジージャさんは語る。「病院においてある雑誌ってのは、たいてい、HIVに感染している患者を悲劇の人生を送る犠牲者として描いています。でも、私が知っている患者は、もっと幸せそうで、エネルギーに満ちていて、タバコをすわない健康な生活を送っていて、自分の免疫システムに気を遣いながら生きているんです。」

 そこで彼女たちが創刊した雑誌では、単にHIV/AIDSに関する情報を提供するだけではなく、女性患者たちのネットワークに読者をひきつけ、生活がより楽しくなるような記事を提供することに重点が置かれている。 

ある記事では、女性患者とその家族の生活に焦点が当てられている。フランスの写真家ジョエル・ドレの撮った写真には、笑顔で健康的な2~3人が常に写っているのだが、そのうちどれが患者なのかは明示されていない。実際には、どれが患者なのかを読者が写真から見分けることは難しいのだ。 

また、別の記事では、アルゼンチンのデザイナーであるマリア・チェルが、体の美しい魅せ方について語っている。抗レトロウイルス薬を服用すると、副作用によって体の脂肪が変形し、顔や四肢、腹や乳房などが奇形になることがある。この記事では、脂肪が変形した患者が自分の体をいかに美しく見せることができるかを教えてくれるのである。 

女性エイズ患者のための新しい雑誌創刊の話題について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 

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実現には程遠いエイズ防止目標

東欧にも冷たい風

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【ブダペストIPS=ゾルタン・ドゥジシン】

欧州の経済成長の牽引役となることを自負し、世界経済危機の影響を受けないと主張していた東欧地域にも、景気低迷の打撃が及びつつある。 

中東欧の欧州連合(EU)加盟諸国でも、外資の流出が進み、通貨安が続き、経済成長の鈍化さらにはGDPの縮小も予測されている。

経済危機対策への高まる非難から辞任に追い込まれたハンガリーのジュルチャーニ首相は、1,800億ユーロの包括的救済策を西欧に要請。しかしこれは意見の分かれる要請であった。

 ハンガリーのエコノミスト、アンドラス・ナジー氏はIPSの取材に応えて「地域は同質で、問題は同一だという印象を与えようとしたのは間違いだった。彼は交渉において有利な立場を生み出せると考えたのだろうが、十分に準備されたものではなく、他の国はこの戦術に賛同してなかった」と語った。 

また、ナジー氏は「ハンガリー人は難局を訴えているが、チェコやポーランドは深刻な影響を受けることないと言っている。彼らはとても国粋主義的で、他の国々より優れているとのイメージを打ち出そうとしている。私は楽観論も悲観論も信じない。どうなるかはわからないのだから」と語った。 

域内諸国間の協調はこれまでも見られなかった。ただ通貨保護のためにチェコ、ハンガリー、ポーランド、ルーマニアの中央銀行が協調して口先介入を行っている。 

また、フランスのサルコジ大統領が自動車メーカーに対しチェコの工場閉鎖を求めるなど、再び欧州に広がる保護主義の動向に対し、ポーランドのトゥスク首相の主導で連携の協議が行われている。 

ナジー氏は「西欧は自身が厳しい状況にあるため支援に積極的でないことは明らかだ。しかしこれらの国のいずれかが危機に瀕すれば、支援するだろう」と言う。こうした支援はハンガリーとラトビアに実施されてきた。次はルーマニアと予測されている。いずれかの国の破綻がもたらす波及効果を西欧は恐れている。 

東欧危機について報告する。 (原文へ
 
 INPS Japan

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十字砲火にさらされて凍える国々

|シエラレオネ|暴力扇動を理由にラジオ局が放送禁止に

【シエラレオネIPS=ランサナ・フォファナ】

シエラレオネのサミュエル・サム=スマナ副大統領は3月13日、与党全人民議会党(APC)が所有するラジオ局ライジング・サンFM88.8と最大野党シエラレオネ人民党(SLPP)が所有するラジオ局ラジオ・ユニティ94.9の無期限放送禁止を命じた。 

これは、この2週間国内全土で両党の過激派組織間の衝突が激化する中で行われたもの。IPSの取材に応えたカルグボ情報通信相は、こうした衝突が「ようやく勝ち得た平和と安定を崩壊することを認めるわけにはいかない」と述べた。

 多くの評論家によれば、15年間野党の地位に甘んじていたAPCが2007年の選挙で政権を勝ち取ったのもラジオで草の根の支持を集める一方でSLPPへの信頼を失墜させた「ラジオ戦争」に助けられたものであるという。今度はSLPPが政権奪回を狙って同じ戦略を展開している。 

今回の放送禁止命令の前にも、市民の間からは与党支持者を中心に放送禁止命令を求める声が聞こえていた。ルワンダの大虐殺にラジオ局が果たした役割との類似点も指摘されている。 

しかしシエラレオネ・ジャーナリスト協会(SLAJ)は、メディアの規制機関である独立メディア委員会(IMC)の調査を経ていない今回の弾圧を即時非難。ウマル・フォファナSLAJ会長は、同国の芽生えたばかりの民主主義にとって悪い兆しであり、言論の自由を封じる試みだと述べた。

市民社会も非難の声を上げており、市民社会団体連合のチャールズ・マムブ氏は、民主主義の進展を覆す不当で受け入れがたい動向として、決定の即時撤回を求めていくと述べている。 

ただラジオ局閉鎖の動きを支持する声も多く聞こえる。政治アナリストのジョージ・トーマス氏は、内戦の再発を恐れる。「この2つのラジオ局が放送禁止とならなければ、国は再び混乱と内乱に陥る。ラジオ局が支持者に戦闘準備を呼びかけ、国の分裂に加担することは明らかだ」と話す。 

国の分断に寄与してきたシエラレオネの「ラジオ戦争」を巡る動向について報告する。 (原文へ
 
翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 


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|国連|戦争も平和もメディア次第

|米国-イラン|「悪の枢軸」から「新年おめでとう」へ

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【ワシントンIPS=アリ・ガリブ】

イランの正月にあたる3月20日、オバマ米大統領はホワイトハウスの公式サイトでイランの国民と政府に新年のビデオ・メッセージを送り、「私たちが求めている将来を理解してもらいたい」と呼びかけた。 

「人的交流を再開し、パートナーシップと通商の機会を増す将来、かつての不和を克服し、あなたやあなたの隣人そしてより広い世界が安全で平和に暮らすことのできる将来」だとした。

 イランを「悪の枢軸」のひとつに挙げたブッシュ前大統領や他の強硬派の西側および中東指導者とは対照的である。 

オバマ大統領はさらに「米国はイラン・イスラム共和国が国際社会の中で本来あるべき場所にあることを望む」と述べた。地域ならびに国際社会においてイランには果たすべき重要な役割があることを暗に認めたと言えよう。 

来週には政権が命じた米政策の公式なレビューが完了する。核問題は対イラン政策において最も議論のある問題と捉えられている。米国とイスラエルのタカ派や強硬派はイランに対する軍事行動をこの10年間折に触れて求めてきた。しかしオバマ大統領は「このプロセスは脅しによっては進展しない」と新年の挨拶で述べている。 

ハワイ大学の教授でイラン専門家のファリデ・ファルヒ氏は「オバマ大統領の姿勢は、あらゆる課題に取り組む外交と2国間の建設的な関係に専心するもの」と述べ、「イランの国民は好きだが、政府は嫌いだ」と繰り返したブッシュ政権との違いを評価している。 

さらに注目すべき点としてオバマ大統領は「regime(政権、体制)」という言葉を使用していないばかりか、「イスラム共和国」という呼称に言及している。全米イラン・アメリカ協議会(NIAC)のトリタ・パルシ会長は「これは政権交代を求めていないことを示唆するものであり、オバマ大統領はイランの体制を認めている」と、「Iranian regime」と常に述べていた前政権との違いを指摘する。 

ペルシャ語の字幕も付けられ、最後にはペルシャ語で新年の挨拶を述べたオバマ大統領のイランへのメッセージについて報告する。 (原文へ
 
翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

|ニカラグア|カリブ海沿岸地域住民への差別

【マナグアIPS=ホセ・アダン・シルヴァ】

中央アメリカ議会(PARLACEN)のブリジット・ブディエ・ブリアン議員の異議申し立てによりニカラグアで初めて行われた人種差別裁判で、同国沿岸地域に住む先住民族およびアフリカ系住民、特に女性に対する差別的扱いが明らかになった。 

ブリアン議員のティーンエージャーの娘が白人の友達数人とディスコへ行き、一人だけ入場を拒否されたことが事件の発端となった。議員は調査を開始。首都マナグアのナイトクラブでも先住民族あるいはアフリカ系住民、特に女性が入場を拒否されている事実が明らかになったのだ。 

ニカラグアカリビアン沿岸自治区大学(URACCAN)のアルタ・フーカー学長は、これは単にナイトクラブの問題ではないと言う。

 URACCANの統計では、先住民族の人口は、ニカラグア総人口570万の10から12パーセントを占めるという。しかし、アフリカ系住民の数についてははっきりしない。 

アフリカ系市民は英国の奴隷船で現在のニカラグア、ホンジュラスのカリブ海沿岸へ連れて来られた奴隷の子孫である。これら地域は、植民地時代には欧州列強の紛争が絶えなかった所で、スペインが支配する中央高原と太平洋側平地はスペイン語を話す白人と混血のメソティゾの居住地となった。そして、アフリカ人の子孫は、先住民族居住地のカリブ海沿岸地域で暮らすことになったのだ。 

カリブ海沿岸地域は、ニカラグアの他の地域と異なり多様な言語、文化が残っている。フーカー学長は、「スペイン語を話すことが就職のための必須条件となっている。白人でスペイン語を話す太平洋岸地域の出身ならば、職はすぐに見つかり給料も高い」と語る。 

社会学者で「ニカラグア大西洋沿岸の正義と人権センター」(CEJUDHCAN)のロティー・カニングハム所長は「雇用者は、大西洋側の大学よりもマナグアおよび中央地域の大学を出た女性を好んで採用する。銀行融資にも同様の差別がある」と語る。 

公共機関が差別撤廃の努力を行っていない訳ではないが、「大西洋沿岸の人道・市民・自治権センター」(CEDEHCA)のミリアム・フーカー会長は「人種差別は国の組織に深く根付いている。国はカリブ海沿岸地域の投資、交通インフラ、生活インフラなどを蔑にしており、これが地域の社会/経済面に大きく影響している」と語る。 

国連開発計画(UNDP)の2005年報告によれば、ニカラグアの貧困率は47パーセントであるのに対し、大西洋岸の2自治区の貧困率は79パーセントに達するという。 

歴史的背景に負うところの大きいニカラグアの人種差別について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩