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|旧ユーゴスラヴィア|死後30年、今なお人々の郷愁を誘うチトー

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【ベオグラードIPS=ヴェスナ・パリッチ・ジモニッチ】

今年の5月4日は、多くの旧ユーゴスラヴィアの人々にとって、嘗て同国に君臨したカリスマ指導者ヨシップ・ブロズ・チトーが死去してから祖国の30年の変遷を振り返る記念日となった。

チトーは第二次世界大戦が終結してから35年に亘ってこの多民族複合国家を指導した人物である。90年代の旧ユーゴスラヴィア解体で現在スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィネ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアに住む45歳以上の人々にとって、チトー時代が最良の時であった。

旧ユーゴスラヴィアは1945年以来、あらゆる側面で着実に進歩していたと思います。当時の私たちの生活水準は現在と比べると遥かに高かったし、私たちはどこに行っても歓迎されたものです。」とベオグラード出身の元小学校教師、タニヤ・ドクマノヴィッチ(75歳)氏はIPSの取材に応じて語った。「しかし90年代のユーゴ内戦以来、私たちセルビア人は世界の嫌われ者となってしまい、今や多くの一般市民が貧困に喘ぎ続けているのです。」

ドクマノヴィッチ女史は多くの一般市民と同様、チトーの死後も10年近く継続していた旧ユーゴスラヴィアの体制が、なぜ、そして如何にして血みどろの内戦へと変貌していったのか理解できない。

 しかし、歴史家や専門家にとって、その理由は単純明快なものである。

「チトーは相手の心を掴む天才でした。」「彼は一方で西側先進国を、第二次世界大戦中の反ファシスト解放運動を通して、そして開発途上諸国を、1960年代初頭の非同盟運動を通じて魅了したのです。」と、プレドラク・マルコヴィッチ教授はIPSの取材に応じて語った。

「また旧ユーゴ国内では、社会主義が国民のニーズの全てを面倒みるというリベラルな独裁体制のもとで、国民は快適な生活を享受できたのです。つまり、旧ユーゴ国民がチトー時代を郷愁の念をもって振り返る時、彼らは過去の安心と安全が確保された時代を懐かしんでいるのです。」

社会学者のアレクサ・ドゥジラス氏は、「チトー人気は、彼が旧ソ連の独裁者スターリンに抵抗して旧ユーゴを決して旧ソ連の衛星国にさせなかったことにも関係しています。旧ユーゴ国民はお陰で他の共産圏の国々の国民とは異なる生活を享受することができたのです。」と語った。

ドゥジラス氏によると、「チトーによる統治の功績はまた、社会正義、生産過程と利益分配における労働者の参画実現、それと揺るぎなき反ファシスト姿勢にも見出すことができます。」

「一方で、チトーの下では20世紀に実現したいくつかの理念は顧みられませんでした。その中でも、とりわけ、『法の統治』と『人権尊重に基づく社会構築』が欠落していたことは重要な点だと思います。」と、ドゥジラス氏は付け加えた。

チトーは、反体制派の人々に対して(他の独裁者に比べて)比較的寛容だった。彼の議論の余地のない人気に水を差す恐れがあると見られたものや、共産党の公式政策に反対したものは、数年投獄されるか、公的な資格を剥奪された。

ドゥジラス氏の父ミロヴァンは第二次大戦中と戦後数年に亘ってチトーの副官を務めたが、後にチトーを批判したことから何年にも亘って投獄された。そのため、アレクサは海外で亡命生活を余儀なくされた。

ドゥジラス氏は、「チトーの死後、もし共産党独裁体制でなく十分な近代的政策や民主化が実施されていたならば、旧ユーゴの解体という事態は必ずしも既定路線ではなかったのではないかと思います。」と語った。

「旧ユーゴは人工的な産物ではありませんでした。結果的には、国家の解体と血みどろの内戦状態というあってはならない事態が起こってしまいました。それでも私は、チトーに対してではないにしても旧ユーゴ時代に対して今でも郷愁を感じるのです。」とトゥジラス氏は語った。

旧ユーゴ時代やチトーに対して郷愁を感じることは、今でもなお旧ユーゴ構成国の一部においては賛否両論を呼ぶ問題である。

とりわけセルビアの首都ベオグラード(旧ユーゴの首都でもある)から侵入してくる連邦軍に対する戦争を経て独立を勝ち取ったクロアチアでは、この話題はタブーである。しかしながら、政府の公式方針と市民の一般感情には相違がみられる。

「今日の現状と比べると、チトー時代は、あたかも神が地上を歩いているかのごとく、遥かに素晴らしいものでした。」と、引退前は小売業を営んでしたニヴェス・ルーチェフ(65歳)氏は語った。

「もちろん(旧ユーゴ解体後に)独立したクロアチアに住むことはいいことだと思っています。しかしチトー時代と今では大きな違いがあるのは事実です。チトー時代に容易に入手できたものが、今では手に届かないものとなっています。例えば自分を養ってくれる子供に恵まれていない(私のような)定年を過ぎた市民が、年金だけで生活をしていくのは大変難しくなっています。」と、ルーチェフ氏は語った。

「私は今85歳になる母を支えています。そしてまもなく娘が私を支えなければならない時がくるでしょう。一方で私たちは、こっそりと過去の財産-その殆どはチトー時代のもの-を盗んで裕福になった人々を見てきました。」とルーチェフ氏はザグレブからIPSによる電話取材に応じて語った。

チトーの親族でさえも、(旧ユーゴ解体後に広がった)社会不正と資本主義へ適応する過程で顕在化してきた様々な困難等の影響から免れることはできなかった。

チトーの孫にあたるヨシップ・ブロズ(63歳)氏は、祖父から何も相続していない。「祖父(チトー)は、全てを人民のもの、国家のものであるべきと考えていました。彼の知名度は、旧ユーゴ諸国よりもむしろ非同盟諸国での方が高いと思います。…例えば、セルビア政府関係者が非同盟諸国への復帰交渉に関係国を訪問すると、先方から必ずといっていいほど挨拶の中で『ユーゴスラヴィアのチトーなら、もちろん知っていますよ。』と声をかけられるのです。」と、ブロズ氏は語った。

「私は、チトーが国民のために何を残したか旧ユーゴ国民が見学できるように、チトーが生前使用していた縁のものを一か所に集めて一般公開すべきだと思っています。…例えば全ての旧ユーゴ構成国に旧チトーの邸宅がありますが、これらは民衆に属するもので彼の財産ではありませんでした。しかし今ではこうした施設は、地元指導者や資産家によって接収されてしまっているのです。」

若い世代にとって、両親が話すこと以外にチトーを知る機会はあまりない。また歴史教科書におけるチトーに関する記述も、旧ユーゴを継承したそれぞれの国のチトー観によりまちまちである。

若者のチトー観は、サラエボ出身のハジラ・サマロヴィッチ(22歳)の次の言葉に集約されている。「両親や祖父母がよく話題にする人ですね。僕にとってはチトーについて言われてもどう考えていいか分かりません。…あえて言えば、両親、祖父母が若かりし頃や古き良き時代を懐かしんで話す話題の人物といったところでしょうか。僕にってはそれだけのイメージでしかありません。」(原文へ
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

様々な課題を残したNPT運用検討会議

【国連IPS=タリフ・ディーン】

「核兵器のない世界」への道はよい意図で敷き詰められている*。しかし、その道のりには決まり文句と空しい約束が散らばっている。

「国連を舞台に4週間に亘って開催された核不拡散条約(NPT)運用検討会議は5月28日、思ったほどの成果もなく閉幕しました。」と、核政策に関する法律家委員会のジョン・バローズ事務局長は語った。

「結果については特に驚くべきものもなく失望しました。しかし、『中東非核・非大量破壊兵器地帯』という、議論の流れによっては(5年前のように)会議決裂にもなりかねなかった伸るか反るかの重要議題について前進が見られたことは、今回の会議における具体的な成果であったと思います。」とバローズ氏は語った。

 最終文書には、2012年に中東非核・非大量破壊兵器地帯実現へ向けた会議を招集することや、その会議の開催実現にあたる「ファシリテーター(取りまとめ役)」を国連事務総長が指名することが明記された。次回のNPT運用検討会議は、その会議の3年後にあたる2015年に開催予定である。「(中東非核・非大量破壊兵器地帯実現への)道のりは容易くないが、前進するにはこの道しかない。」と、118カ国が加盟する非同盟運動(NAM)を代表してマジド・アブドゥルアジズ国連大使(エジプト)は語った。

アブドゥルアジズ大使は、今回の運用検討会議の成果として、イスラエルがNPTに加入し、同国の核施設に対する国際原子力機関(IAEA)の査察を受けることの重要性を再確認した点を挙げた。

しかし、核兵器の保有について「肯定も否定もしない」曖昧政策を堅持してきたイスラエルが、こうした要求に応じるかどうかは現時点では不明である。
 
 アブドゥルアジズ大使は、「国連で最大の政治連合組織である非同盟運動(NAM)は、2025年までの核廃絶を目指している。」と語った。

NPT運用検討会議は、4週間に亘る集中審議を経て、政治的に最も対立含みの諸問題(核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用)に関する行動計画を明記した28頁からなる最終文書を採択した。しかし、この最終文書に対する様々な批判や反応を考えれば、今回のNPT運用検討会議が打ち出した結果は、十分なものとはいえなかった。

「この行動計画は実質的な成果をもたらすものとは思えません。」と、米国の核兵器計画や政策を監視してきた西部諸州法律財団(WSLF)のジャクリーン・カバッソ事務局長は語った。

カバッソ氏は、「この行動計画では、核兵器保有国は、(核廃絶達成の)具体的な期限や行程を公約させられるのではなく、消極的安全保障や核兵器フリーゾーンといった課題に取り組むよう促されているに過ぎません。」と語った。

いくつかの非政府組織(NGO)によると、5月28日に採択された最終文書は、全会一致を最優先し、その結果全般的に内容が薄まってしまった。

米国、ロシア、英国、フランス(NPT体制下で核兵器保有を認められている5大国の内の中国を除く4カ国)は、最終文書から、短期的に自国の核軍縮を義務付けるような条項を削除することに概ね成功した。

そして多くの軍縮関連の行動案は、最終文書においては漠然とした目標として表記された。

「核実験について、草案段階で記載されていた核実験場の閉鎖を求める文言は、削除されました。」とカバッソ氏は語った。

同様に、核兵器の開発、品質向上を目的とする実験の停止を求める文言も最終文書では削除された。

カバッソ氏は、「興味深いことに、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効までの間、すべての国にいかなる核実験や核爆発も控えるよう求めた行動計画の中で、新核兵器技術の使用という新たな言葉が追加されました。」と語った。

「これは米国その他の核兵器保有国で行われている実験室ベースの核実験計画を指しているように思われます。」とカバッソ氏は付け加えた。

グローバル安全保障研究所(GSI)のジョナサン・グラノフ所長は、「核兵器保有国は、最終文書に(核軍縮に向けた)具体的かつ明確なコミットメントを残しませんでしたが、世界は核兵器を廃絶したほうが、人類にとってより安全で暮らしよいという原則については、明らかに支持しました。核保有国はさらに、全会一致で公約した原則や政策を最終文書の中で宣言しているのです。すなわち、この最終文書は核兵器のない世界へ到達するための道筋を示したものなのです。」と語った。

グラノフ氏は、「悲観論者は、この最終文書を『単なる言葉を並べたものだ』を批判するでしょう。しかしそのような論法は、建物の設計図を見て『単なる線だ』と主張するのに酷似しています。」と指摘したうえで、「この最終文書の意義を決して過小評価してはなりません。」と語った。

まず第一に、(核なき世界の)イメージと目標を示し、第二に、(それに至るための)政策とその元となる原理原則を明らかにし、そして第三に、目標を達成するために政治的な勢力を結集しなければなりません。

「そのような(核廃絶を求める)政治的な勢力を結集することが、私たちみんなの責任なのです。」と、グラノフ氏は付け加えた。
 

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: Rebecca Johnson Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

核兵器禁止国際キャンペーン(ICAN)のレベッカ・ジョンソン副議長は、「今回のNPT運用検討会議のプロセスと結果から2つのことが明らかになりました。つまり、前々回(10年前)或いはその前(15年前)のNPT運用検討会議で採択された公約は、尊重も実施もされていないことから、今回の会議でこれらの公約を再確認するだけでは、不十分だということです。」と語った。

また最終文書の中で重要性が強調されているように、核兵器の脅威を根絶するには具体的な軍縮の道筋のみならず、核兵器のない世界を実現し維持し続けるために必要な枠組みを構築することが求められている。

「現行のNPT体制が、ルールに従わない国々に対して有効な手を打てず、保障措置協定の強化にも失敗している現状に加えて、今回の最終文書でも肝心な部分が削除され核軍縮に関する行動計画が骨抜きになるなど、今や誰の目から見ても、(NPT体制に代わる)核兵器禁止条約(NWC)の交渉に向けたプロセスを開始する必要が明らかにあります。」とジョンソン氏は語った。

「核兵器禁止条約の下では、NPTのような核保有国と核非保有国の区別はなくなり、全ての国に対して包括的に核兵器の保有が禁止されるのです。」と、ジョンソン氏は付け加えた。

カバッソ氏は、「運用検討会議を通じて明らかになったことは、NPTが謳っている軍縮目標の実現を図ろうと決意している圧倒的多数の加盟国と、それに全く妥協しようとしない核兵器保有国の間の大きな溝です。」と語った。
 
 最終宣言の行動計画に盛り込む核軍縮措置を巡っては、核保有国と非核保有国が対立して紛糾したが、結局すべての国が、核軍縮の方法について、不可逆的、検証可能、透明である(過去にも採択されたが果たされていない)原則を採用することを再確認した。

「最終文書には何ら特筆すべき内容も目新しさもありません。しかし最終文書作成のプロセスから、NWCのような軍縮措置に向けた新たなアプローチが必要だということが明らかになりました。」とジョンソン氏は指摘した。

グラノフ氏は、「アカデミー賞は素晴らしい演技をした俳優に対して授与されます。また世界はオリンピックで傑出した運動選手を讃えます。しかし、米国やイランのような様々な異なる利害や政策を持つ国々が共通点を見出し合意に至れるよう、粘り強く調整し、より安全で安定した未来へと続く共通の土台を構築した外交官達の功績は、ほとんど顧みられていません。」と語った。

「今回のNPT運用検討会議は、米露両国が協力して核軍縮を進めるという国際的な機運を追い風に、少なからず、成功を収めたと思います。」とグラノフ氏は語った。(原文へ


翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

*地獄への道はよい意図で敷き詰められている。(=よい意図があっても実行できなければ結果はかえって悪い。)という諺を捩ったもの。

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核軍縮への障害をどう乗り越えるか(ヨハン・ガルトゥング)

本質を見誤っている鳩山首相の辞意表明演説(石田尊昭)

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【IPS東京=石田尊昭

Takaaki Ishida/ Ozaki Yukio Memorial Foundation
Takaaki Ishida/ Ozaki Yukio Memorial Foundation

本日午前10時、民主党の衆参両院議員総会で、鳩山首相が辞意を表明。約20分にわたり、「思いのたけ」を述べた。

冒頭で、昨夏の衆院選と政権交代の意義に触れた後、辞任の理由として、「普天間問題」と、自身(および小沢幹事長など)をめぐる「政治とカネ」問題の2つを挙げ、「ご迷惑をお掛けした」と謝罪。最後に「よりクリーンな民主党になりましょう」と呼び掛けて、その演説は終わった。

なんとも「さらっ」とした印象だ。聞き終えた後、物足りない、釈然としない気持ちになった。なぜか。はっきり言って「中身」が無い、問題の本質が抜け落ちてしまっているのだ。

 本来ならば、辞任の理由を述べる際、「行政府の長」として、さらに国民から300を超える議席を授かった「党の代表」として、今日までの鳩山政権の政策・運営にかかる全体的総括(成果も課題も)を、国民に対して詳細かつ丁寧に説明すべきだろう。

圧倒的支持を得て誕生した鳩山政権が退陣せざるを得ない原因を、「普天間」と「政治とカネ」の2点に矮小化した挙句、「さらっ」と説明するだけで終わってしまってよいのだろうか。もちろんその2点は重要であるし、辞意の「引き金」になったのも事実だろう。それでも過去8ヶ月間にわたって鳩山政権が取り組んだ、あるいは挑んだ課題の一部にすぎない。

つまり、ほかにも多くの失敗があっただろうし、また成果もあっただろう。重要なのは、そこにおける本当の原因を究明し、国民に明らかにすることだ。「普天間問題」に限らず、鳩山政権のどこに問題があったのか。政策内容か、交渉プロセスか、実施体制か。仮にガバナンスに問題があるとすれば、それは首相個人の資質によるものなか、あるいは構造的問題なのか。さらに言うと、政権移行プロセス自体に問題が有ったのか無かったのか。

そうした全体的総括と問題把握をした上で、政策・戦略の再構築を行なうことを国民に明示できたなら、今回の「辞意表明」は一転、新たな民主党の「決意表明」となったかもしれない。まさにチャンスだったのだ。

残念だが、鳩山首相は、最後の最後まで本質を見誤ったように思えてならない。

*原文は石田尊昭和ブログに6月2日に掲載されたものです。

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普天間問題に見る鳩山首相の「本当の問題点」
|日本|「私達には再び経済成長をもたらす小さな政府が必要だ」(河野太郎衆議院議員インタビュー)

|中東|「これは国家によるテロ行為だ」とUAE紙

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【アブダビWAM】

「支援物資を積んで平和裏にパレスチナのガザに向かっていた自由船団を急襲したイスラエルの行為は人道に対する罪にあたるものである。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙が報じた。

「イスラエル特殊部隊が公海上を航行中の自由船団を補足した際、少なくとも19名の死者と数十名の重軽傷者をだした。これは政府が主導した明らかなテロ・海賊行為であり、特殊部隊は船を占拠した上で、乗員・乗客を拘束した。」と、ドバイに本拠を置く英字日刊紙『ガルフ・ニュース』が6月1日付の論説で報じた。

「イスラエルはトルコ政府から非武装の認証を受けていた民間船舶を攻撃した。襲撃を受けた船はトルコの国旗を掲げて公海上を航行しており、今回のイスラエルの行為は明らかな戦争行為である。これに対してトルコ政府はイスラエルの行為は両国関係を『修復不能な』ものとするだろうと言明した。全ての常識ある国々は、イスラエルに対してこのような恥ずべき残虐行為は全く受け入れられないとの意思表示をすべきである。ベンヤミン・ネタニヤフ政権は、中東和平を一方的に拒絶している今日の政策は、中東全域はもとより、パレスチナ、イスラエル双方にとって破局的なものであることを理解させなければならない。」と同紙は報じた。

 「ガザ市民に対する封鎖は解除されるべきであり、市民は平和な通常の生活を取り戻すべく復興に取りかかる自由を回復すべきである。自由船団の試みは、700人を超える平和活動家が乗船し、困窮を極めているガザ市民が必要としている食料と軍事に関わりのない支援物資を届けようとした勇敢な行為であった。」

これに対して、イスラエルは自由船団からの通信を遮断し完全なメディア封鎖を敢行した。従って、乗船していた人々の生死やけが人情報も不明のままである。全ての関係者がイスラエルの施設に拘留されている。『ガルフ・ニュース』は、特派員の安全に対する責任はイスラエル政府にあることを確認するものである。

「米国のバラク・オバマ大統領は、イスラエルのこの卑しむべき行為に対して迅速な対応策を打つべきである。また、国際社会はネタニヤフ政権に対して、この目的なき殺戮は全く受け入れられないということを明確に伝えるべきである。」

ネタニヤフ政権は和平や正義に対して無視する姿勢を繰り返し示してきた。それは同政権が、ヨルダン川西岸地域(ウエストバンク)に非合法にユダヤ人入植地を拡大し、政権の不安定化を狙ってレバノンを攻撃し、国連の中東非核化構想を軽蔑した態度であしらい、中東和平交渉開始へのパレスチナ人の希望を打ち砕いた諸政策によく表れている。

「自由船団はガザに到達することは出来なかったが、今回の試みは、ガザの人々に、彼らの苦悩を深く心に共有しそれを行動に移した多くの人々がいることを深く印象付けた。つぎはアラブ諸国がその先例に続くべきだ。」とガルフ・ニュースは結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

関連記事:
|中東|「米国はガザにおける戦争犯罪究明を求めるゴールドストン報告書を支持しなければならない」とUAE紙

核軍縮への障害をどう乗り越えるか(ヨハン・ガルトゥング)

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【IPSコラム=ヨハン・ガルトゥング】

Johan Galtung
Johan Galtung

核兵器に関しては、それぞれ非常に難しい3つの主要な問題がある。それは、軍縮・不拡散の問題、軍事的な使用の問題、そして神学上の重要性に関する問題である。しかし、すべての場合に妥当する解決策がひとつある。それは、根本にある紛争を解決するということだ。平和を通じて軍縮を達成するほうが、軍縮を通じて平和を達成するよりははるかにたやすい。

第一の問題系には、たとえば、次のようなものが含まれる。寿命に近づきつつある「戦略的な」(大量虐殺的な)推定2万3000発の核兵器の一部を削減する米露間の条約。核分裂性物質を保全するために米国のバラク・オバマ大統領が招集してワシントンで46カ国の参加により開かれた「核安全保障サミット」。イランのマフムード・アフマディネジャド大統領が招集してテヘランで60カ国の参加により開かれ、米国の核を皮切りにすべての核兵器の破壊を要求した核軍縮会議。欧州に配備されている240発の「戦術」核に関するエストニアでの北大西洋条約機構(NATO)外相会議。

 米国の戦略核戦力の三本柱(大陸間弾道ミサイル〈ICBM〉、潜水艦発射弾道ミサイル〈SLBM〉、及び核爆弾が搭載可能な戦略爆撃機)については話題に上っていないし、欧州の戦術核についても、そしてより重要なことには、苦しみながらの緩慢な死をもたらす米国の劣化ウランの使用についても、話題に上っていない。

化け物のような古い兵器をリサイクルすることを「軍縮」と呼ぶのは、たんなる世論対策に過ぎない。米国におけるウラン貯蔵―雌鳥の小屋にキツネを放つようなものだ―は、国際原子力機関(IAEA)の監督下にすらなく、まるで悪い冗談のようだ。これは、アフガニスタン戦争がベトナム戦争の再現であるのと同じように、冷戦の再現なのだ。

核に関する第二の問題は、より破滅的な影響に関するものである。1967年、私は、パグウォッシュ会議に提出した小論で、たとえばボートのような重要な目標の近くに隠されて遠隔操作され、特定の目的を達するために脅しとして使われる可能性のあるスーツケース爆弾について警告を発した(「平和、戦争、防衛」www.transcend.org/tup)。この方法は、発射した者を簡単に特定できるミサイルで核を運搬するより、はるかに単純だ。差出人の書いていない手紙で脅しをかけられた方がはるかに対処が難しい。とくに、非国家主体が容疑者であった場合はそうだ。手紙をたんなるこけおどしだとして無視することには重いリスクが伴う。核兵器が爆発してしまったあとで降下物から犯人を割り出すことは無理な相談だ。なぜなら、〔分析にあたる〕実験室がすでに存在しないであろうからだ。

オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件から15年が経つが、「専門家」と称する人たちが、国名は名指ししなかったものの、中東が関与している明確な証拠があるとみなしていたことが思い出される。しかし、犯人の出身は中東ではなく米国内の中西部であった。ティモシー・マクベイは、1991年の湾岸戦争における虐殺に兵士として参加したことで暴力を経験し、その2年前のウェーコの虐殺(FBIとの対峙の中、火事でブランチ・デビディアン教徒74名が死亡した事件)に困惑していた。彼は2001年に処刑された。しかし、死は自爆テロリストに対する抑止力にならず、予備軍は私たちの周りにいくらでもいる。

軍縮の妨げになる核の第三の問題は「神の問題」である。神は異教徒を罰するために恐るべき力に訴える。たとえば、(旧約聖書では)ユダヤ人をエジプトから解放するためにエジプトに疫病を送り込む。同じように、米国は日本人を罰するために核兵器を使い(彼らはすでに抵抗をやめていたのだが)、どの神が一番強いのかを知らしめた。核兵器はその保有者に神性を帯びさせる。それは国家でも非国家でもなく、文明である。「野蛮人」にそうした神の力をあたえることは、拡散(proliferation)よりも一層悪い、冒涜(profanation)ということとなる。米国にとっての理想的なシナリオとは、米国だけが核兵器を持っている状態であろう。次には、特定のキリスト教同盟国が核兵器を保有している状態である。ユダヤ教の核兵器も受け入れられるだろう。ボルシェビズムなきあと、東方正教の核兵器も条約と防衛手段によって制御されているならば、容認可能な範囲かもしれない。

しかし、儒教の核兵器はどうだろうかということとなると、あやしいものである。さらにヒンズー教の核兵器はどうだろうか(1998年には「仏陀の微笑み」というコードネームが付けられたが)?これについて意見はまとまっていない。それでは「仏教の核兵器」とは自家撞着だが、神道の核兵器はどうだろうか?それにも問題がある。彼らがそれでもって復讐するかもしれないとの疑念が残るからだ。
 
 しかし、イスラム教を尊重できない西側社会にとって本当の問題は、イスラム教の核兵器であろう。イランが自らをペルシャ文明そのものとみなしていたらどうだろうか。たしかにそれは事実で、自らを他のどの文明よりも歴史があると考えている。さらに悪い可能性は、誰よりも神に近いと自称するイスラム教の非国家主体、たとえばアルカイダのような人びとが(アルカイダには「基地」という意味がある)、メッカメディナエルサレムの神聖なるものを守り、信仰心のない侵略者を征伐すると言い出したときだ。実際、アメリカ同時多発テロ事件ではいくつかのビルが攻撃されている。

核の地位を失うことは、神性を失うことだとみなされる。内輪の社会(=核兵器保有国の間)では、これは合理的ではないように見られているのだ。

では、出口はあるのだろうか?英国の女性たちは、奴隷制度と植民地主義に反対し最終的にそれを廃絶する上で、大きな役割を果たした。英国の一方的軍縮が道を切り開くかもしれない。英国の女性たちには、トライデント核兵器システムの有益性を疑っている自由民主党のニコラス・クレッグという偉大なる才能と手を携え、ぜひとも、そういう大きなことをまた実現してほしいものだ!(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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核廃絶への世界的支持が頂点に(ジョナサン・フレリックスWCC平和構築、軍縮エグゼクティブ)

|イラク|「文明の発祥地で豊かな文化遺産が奪われている」とUAE紙

【アブダビWAM】

かつて中東文明発祥の地であったイラクでは、文化遺産が破壊と流出の危機に晒されている。「(2003年の多国籍軍による)侵攻後、イラクは主権国としての権利を侵害されているのみならず、その豊かな文化遺産を奪われている。」と、アラブ首長国連邦(UAE)の主要日刊紙が報じた。

ドバイに本拠を置く英字日刊紙「カリージ・タイムズ」紙は、論説の中で「今日イラクには、イラクの文化遺産を盗掘・強奪、あるいは海外流出させる窃盗犯や『顔の見えない』収集家達が跳梁跋扈しており、世界的に名高いイラクの歴史的文化遺産が絶滅の危機に瀕している」として、「この惨めな状況にあるイラクの『今の歴史』を救うために何らかの取り組みがなされなければならない。」と訴えた。また同紙は、イラク国内の全ての文化施設・歴史遺産(博物館、図書館、遺跡等)がこうした犯罪から逃れられない現状の背景には、文化保護に対するイラク政府の優先順位の低さと、対策の欠如があると指摘し、「今日の現状はイラクにとって大きな損失をもたらしている。」と報じた。

 また同紙は、米軍が古代バビロニア文明の文化保護区に軍事基地を建設したことは、「地元文化遺産に対する最大の冒涜である。文化遺産が常に戦争で脅威に晒されるものではあるが、イラクの人々が苦しんでいる今日の文化被害の現状は、実に信じられないほど悲惨なものだ。」とカリージタイムズ紙は報じた。

「かつて中東文明発祥の地として、多くの歴史的『不思議』建造物・伝説を世界に誇ったイラクは今や荒廃し、多くの文化遺産は傷つき古代遺物のリストから姿を消している。」と同紙は嘆いた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴


国連教育科学文化機関(ユネスコ)の報告書によると、イラク侵攻直後の2003年4月から12月までバビロン(バグダッドの南約90キロ)に駐留した米軍が、基地設営時に行った掘削作業などにより、バビロン様式の遺跡群、南部のネブカドネザル宮殿など主要部を含む遺跡が損壊しているという。報告書は、大英博物館の2005年の報告書を引用する形で、駐留米軍によるバビロン遺跡への影響を、エジプトのピラミッドや英国南部の巨石遺跡「ストーンヘンジ」の周囲に基地を建設するのに等しい行為だと批判した。

「それはものの見方の完全な転換だ」(ジェームズ・キャメロン監督インタビュー)

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【国連IPS=マルゲリテ・ソッジ 】

大ヒット映画「アバター」は、貪欲な企業によって遠い星の原始的な生態系が容赦なく収奪されるというストーリーである。地球上でも、先住民族にとってみれば同じようなことが起こっている。

国連の第9回「先住民問題に関する常設フォーラム(Permanent Forum on Indigenous Issues)」での「アバター」上映会に出席したジェイムズ・キャメロン監督に、IPSのマルゲリテ・ソッジがインタビューを行った。以下にインタビューの抜粋を紹介する。

ames Cameron Credit: Courtesy of Broddi
ames Cameron Credit: Courtesy of Broddi

IPS:自然が変わりゆくさまを見ることで「アバター」の制作につながったのでしょうか。

キャメロン:自然と自分がつながっていると感じるとき、そして、社会の一部として行動していると感じるとき、心の中に一種の義務感のようなものが生じることでしょう。私の場合、それは芸術家としてこの問題について何らかの発言をするという義務感だったのです。そして私は、商業的なエンターテイメントの世界にいるわけです。

商業的なエンターテイメントは通常、こういうことを伝えるために使われる場ではありません。普通それはドキュメンタリーという形を取ることになるでしょう。しかし、ドキュメンタリーには、すでにその課題を理解している人々しかそれを見ないという問題があります。一方で、世界的な大衆エンターテイメントの世界では、全ての人々にそれを見せることができます。ですから、「アバター」で私がやろうとしたことは、説教くさくならないように、アドベンチャー・ストーリーという枠の中でこのテーマを取り扱い、人々にたんに知的な反応を呼び起こすだけではなく、力強くて感情的なカタルシス)を与えることだったのです。

IPS:私たちは、科学、開発、進歩、発見に価値を置く経済システムのもとで生活しているわけですが、先住民の権利を侵すことなくこのシステムとどのように折り合いをつけていけるのでしょうか?

キャメロン:先住民の権利を侵害しているのはダム、高速道路、石油パイプラインといったインフラプロジェクトに代表される開発行為だと思います。例えば石油処理施設からの廃棄物や排煙、排水物といった公害が先住民を苦しめています。そして、消費社会に生活する私たちこそが、消費者として市場経済を通じてこのような産業施設や資源採取のフロンティアを広げ続けている原動力になっているのです。

一方、科学者が必ずしも先住民の権利を侵害しているとは思えません。彼らは静かにフロンティアに入り込み、生態系や現地の先住民へのインパクトを最小限にとどめる配慮をしながら、熱帯雨林における生物多様性や先住民の文化等について研究を行っているのです。その点でいえば、石油やガス、鉱山業などの採取産業にそのような配慮はありません。彼らは、道義的な障害さえなければ、開発を断行すると思います。

こうした採取産業からの圧力に対して、先住民の諸権利を謳った憲法条文や様々な宣言が採択されてきました。しかし現実にこうした規定や宣言は執行力に乏しいのが実情で、住民たちは、結局のところ、自らの資金と資源を使って、自身の権利を守るための法的な闘争を余儀なくされているのが現状です。

IPS:こうした問題から抜け出すために先住民の知恵を活用するのはどうでしょう?

キャメロン:これは多くの人々が陥るポイントだと思います。たしかに、先住民の知恵から生物多様性が豊かな熱帯雨林よりある薬の成分を入手できたりするなど、先住民はもとより我々もその恩恵を獲得できるような先住民の知的財産とも言うべきものがあるのは確かです。すなわち、先住民族は彼らの知の利用によって自ら利益を得るべきでしょうが、それは重要な点ではありません。

本当に重要なのは、彼らが長年にわたって自然と調和しながら生きてきたという価値の体系(自然との精神的な繋がりや仲間間の責任感)の方にあります。私たちが学ぶべきはそちらの方でしょう。それは、ものの見方の完全な転換です。私たちが、先住民のそうした価値体系を身につけれるかどうかについては確信がありません。しかしもし希望があるとすれば、私たちの意識転換をはかる能力-すなわち与える以上に奪わない-にかかっているのではないかと考えています。

IPS:中には、「アバター」は惑星ナヴィを救う白人男性の主人公を描いたものと批判する意見もありますが、この「白人救世主」批判にどのように応えますか。

キャメロン:私はそうは思いません。ここで「アバター」を鑑賞し、自身の直面している現実を重ね合わせて観た先住民の方々も、白人男性が主人公であることが、作品を楽しむ障害になったり、そうした違和感を持つことにつながったとは思えません。

IPS:先住民族からあなたの映画への反応はありましたか。

キャメロン:圧倒的に好評をいただいています。もっとも、私にわざわざ感想を言ってきてくれるわけですから、当然そうなるともいえますが。しかし、今のところ私に近づいてきて「アバター」の白人救世主問題を非難するひとにはお目にかかったことはありません。

重要なのは、アフリカ系米国人の問題―それは、歴史的に根が深い、貧困に関する社会経済的な問題であり政治的な発言権の問題です―と、ブルドーザーが実際に森を破壊し、高度に機械化した軍隊が一つの文明をまさに破壊しようとしているという現実の生存の問題を、区別することでしょう。

このような侵略勢力に対して、対抗するものが弓矢だけであるのならば、国際社会からの介入が必要です。救世主がどの人種であるかは問題ではありません。ブルドーザーを弓矢で止めるのは不可能な訳ですから、私たちすべてが救世主であるべきでしょう。

とはいえ、大事なのは、先住民族自体が発言権を持つことであり、彼らが政治過程に引き入れられることです。私は、彼らの「代理」として発言しようとは思いません。

IPS:最近では、あなたが声高に反対しているベロモンチ水力発電ダム計画*が進んでいるようですが。

キャメロン:まだ建設が始まっていないのでコメントは難しいのですが、この計画については紆余曲折があり、最近も3度目の入札差し止め命令がでたものの、建設が始まっていないことから先住民への直接的な脅威はないとしてその命令を裁判所が再び覆すということが起こりました。私が聞くところでは、実際に建設が始まる前に様々な手続きが議論されることになるだろうとのことです。ダムの建設反対派と賛成派の争いはようやく熱を帯びてきたところというのが私の見方です。私たちはこの段階で勝利を期待してはおらず、むしろ事態は私たちの期待通りの展開になっています。すなわち、先住民に多大な影響を与えかねないこのダム計画への関心が、ブラジル国内と国際社会双方で大いに高まったということです。メディアにおいてもニューヨークタイムズの1面に掲載されたのをはじめ多くが取り上げています。

従って、このダム計画阻止の成否は、今や非政府組織とブラジル国内の法手続きに委ねられています。そしてその中に、当事者として開発計画の対象地域に住む先住民へも僅かながらスポットライトが当てられているというのが現状です。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

*ベロモンチ水力発電ダムは、ブラジル政府がシングー川に建設計画しているダムで、完成すれば世界で三番目、ブラジルで一番大きいダムとなる。シングー保護区の境界と隣接する10以上の先住民の村に影響を与えるといわれており、アマゾン熱帯林の広大な地域を破壊すると指摘されている。ジェームズ・キャメロン監督は、ルラ大統領に建設を懸念する書簡を送っています。

│中国│30周年記念で再燃する「一人っ子政策」論争

【北京IPS=アントアネタ・ベッカー】

今年、中国では、一人っ子政策が始められてから30年を迎える。独自性の高い社会工学上の実験だとして賞賛する意見もあれば、中国がグローバル・パワーとしてのし上がっていくことを妨げるとの予測もある。

政府は政策の是非に関する論争を避けようとしているが、あまり都合のよくない意見がこのところ頻出している。

12月には、学者の胡鞍鋼氏が、中国共産党への公開書簡という形で、一人っ子政策は主に1960年代のベービーブーマー世代による人口圧力を緩和するために導入された30年という時限を切った政策であり、今後は家族計画の適切なルールを別に考えていく必要があるとの見方を示した。

さらに一人っ子政策の策定者の一人である田雪源氏が、12月の『人民日報』で、中国はふたりっ子政策に移行し、都会・農村を問わず全ての夫婦に2人の子供を持つことを認めるべきだとの見解を披露した。

田氏は同紙の中で、「中国は時代の流れに適応していくべきだ。次期開発5カ年計画(2011年開始予定)の重点項目を考えれば、人口政策の転換を図るのは今である。」と述べた。一人っ子政策の策定者自身によるこうした見解が人民日報に掲載されたことは、この政策を巡る議論が学術論争の枠を出て、今や政治課題となったとの見方が広がっている。

こうした中、李克強副首相が、今年実施される「第6回人口調査」の責任者に任命された。李氏は、しばしば13億人と言われる中国の正確な人口を把握するという困難な事業の責任者に任命された最高位の政府要人となった。前回2000年に実施された人口調査では、未登録の農村子女や国内移民など政府がそれまで把握していなかった多くの人口集団の存在が明らかにされた。

「一部の学者が如何に良い側面を評価しようとも、一人っ子政策こそ、今日中国社会が直面している深刻な諸問題(急速な高齢化、極端な男女格差)の原因なのです。」と、人口学者のHe Yafu氏は語った。

中国指導部は、一人っ子政策のおかげで約4億の人口抑制が可能となり、人口管理が不可能となる事態が回避できたと評価している。それと同時に、かつて厳格を極めた一人っ子政策の適用の在り方は徐々に変化し、多くの場合、暗黙のうちに、より緩やかな法律が適用されるようになった。

広州や上海、そして最近では北京のような大都市においては、「ダブル・シングル」のカップル(双方とも一人っ子の夫婦)に対して、子どもを2人作ることを容認する政策が始まっている。その背景には、上海のような富裕層が多い大都市において子どもの出生率が全国平均の1.8をはるかに下回っている(上海の場合0.8)ことに対する当局の危機感があり、政策の変化を導いている。

昨年、中国で最も裕福な広東省では、「2人の子供を持つ」資格のある夫婦が2番目の子供を儲けるまで4年待つ規則が静かに廃止された。北京も今年この前例に続く予定である。

「私は政府の方針が変わるのを待てませんでした。」と北京のホテルでスポーツクラブを経営するFan Xirongは言う。彼は30万人民幣(RMB=44,000ドル)罰金と手数料を支払い第二子(娘)を登録した。これにより子供は国から教育と医療の恩恵を受けることができる。

「私達夫婦はお金を払うことで第2子の登録ができました。最初の子供は男の子だったのですが、年を重ねるにつれて女の子がほしくなったのです。」とFan夫人は語った。「私たちは老後のお金については心配していません。それよりも年をとって頼れる息子と娘がほしいのです。」

30年に亘る一人っ子政策を通じて、家族計画の担当官達は、「子沢山が幸福をもたらす」という中国人民の間に根付いていた伝統的な観念を変えることに成功したかもしれない。しかし経済成長で裕福となり老後の孤独を不安が高まるのかでこの伝統的な観念が再び復活しつつある。

超高齢化社会に対する一般人民の不安は、「4-2-1」と言われる中国の人口構造に端的に表れている。2人の大人が4人の老人の面倒をみて、1人の子どもを育てる、という意味である。こうした状況の下で、中国の60歳を超える人口は2030年には3億5500万人に達するとする、家族計画当局による予測もある。

「この30年間、中国経済は人口抑制政策の『恩恵(=ボーナス)』を受けてきた。しかし一人っ子政策を今見直さなければ、急速に進む高齢化がやがてこの『ボーナス』を『負債』に変えていくだろう。」と、田雪源氏は3月に南方周末(Southern Weekend)紙の取材に応えて語った。

経済学者の胡鞍鋼氏は12月下旬に「経済観察(Economic Observer)」紙の中で、1980年の中国共産党文書を引用し、「いづれにしても一人っ子政策は30年の期間限定の政策だったのですから。」と述べている。(原文へ
 
翻訳=IPS Japan戸田千鶴

「私には核兵器なき世界実現を訴えていく義務がある」(秋葉忠利広島市長インタビュー)

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【国連IPS=アンナ・シェン】

Tadatoshi Akiba, Mayor of Hiroshima
Tadatoshi Akiba, Mayor of Hiroshima

国連で世界の市長が核問題について果たせる役割について演説した秋葉忠利広島市長は、核廃絶の早期実現を一貫して訴え続けている人物である。

秋葉氏は今年で原爆投下から65年を迎える広島市の市長をつとめるとともに、世界で4000近い市が加盟している世界平和市長会議(Mayors for Peace)の会長をつとめている。秋葉氏はアンナ・シェンIPS特派員の取材に応え、広島市の復興、核廃絶への想い、そして今月国連で開催中の核不拡散条約(NPT)運用検討会議について語った。

IPS:今では広島市は完全に現代的な街として再建されています。広島市は原爆投下後、どのような復興の道を歩んだのでしょうか?

秋葉:日本降伏後に来日した進駐米軍の一部に実に素晴らしい都市計画の専門家たちがいました。お陰で、広島市の復興計画は当時最新の都市計画のノウハウを反映したものとなったのです。例えば、平和記念公園の設計に丹下健三氏を起用したのもその表れでした。

また一方で、歴史的な要因もあります。原爆による破壊はあまりにも凄まじく、しかし人々の生活はその中で続けていかなければならなかったことから、当時は、夥しい犠牲者に対する適切な埋葬や葬儀を行う余裕がありませんでした。その結果、いわば、人々は広島の街中に横たわる死骸の上を歩いているような状態だったわけです。こうした実情から、戦後の都市計画を進めるにあたっては犠牲者に対する繊細な配慮がなされることになったのです。

例えば、原爆投下前にあったある花屋の周りでは、多くの人々が犠牲となりました。そしてそこには記念碑が出来ています。こうした数千におよぶ記念碑が広島の街全体に建立されました。広島市民にとって美しい街を再建することは、犠牲者を慰霊する神聖な空間を作り上げることでもあるのです。

IPS:広島、長崎の原爆投下を経験した被爆者についてお話しください。

秋葉:被爆者は様々な身体的・精神的苦痛を背負って生きているのです。従って、自らの被爆の経験を世間に語ることは、同時にその苦痛を呼び起こすことでもあります。多くの戦争や惨劇の犠牲者がそうであるように、自らの経験について固く口を閉ざす被爆者も少なくないのが実情です。そうした中で、被爆の後遺症等に苦しみながらも、幸い高齢になるまで生き延びて、自らの被爆経験を語ることができた人々も多くいます。

例えば60歳の還暦を迎えるまで自身の被爆体験を語ったことがなかった田辺さんという被爆者がおられます。彼は原爆で両親を失い、叔父夫婦のもとで育てられました。当時、育ての親に心配をかけたくないと、自身の被爆経験について一切話さなかったとのことです。田辺さんはどのようにして、長い年月に亘ってこうして耐え続け、しかも復讐や悔恨の念を抱かないでおられるのでしょうか。この田辺さんが唯一望んだことは、爆心地(旧中島地区=現・平和記念公園)に嘗て住んでいた人々の記憶から当時の人々の営みや佇まいを映像で再現し、見てもらうことだったのです。原爆によって永遠に失われたあの街に生きていた人々のストーリーを見てもらうことで、失われたものの尊さと、このような悲劇が二度と繰り返されてはならないというメッセージを伝えたかったのです。

IPS:市長としての役割についてどのようにお考えですか?

秋葉:私たち市長は、どこにいても民衆の声を代弁する存在でなければなりません。そうして初めて政府も民衆の声に耳を傾けるのです。同様に、私たち世界平和市長会議のメンバーが国連に来て演説をするのは、国連に集う各国代表に、(広島の被爆体験を含む)世界の都市の民衆の経験を理解してもらうためなのです。

その点を証明する出来事がありました。約2週間前、マルコム・フレーザ(インターアクション・カウンシル名誉議長)元オーストラリア首相をはじめ、世界各国の大統領、首相経験者らによる「インターアクション・カウンシル」(OBサミット)の第28回年次総会が広島で開催されました。

広島平和記念資料館の視察や被爆者との対話を経て、参加者たちには核兵器のもたらす苦しみがどのようなものかということを、より深く理解していただけたと思います。そしてそこで得た危機感が、「世界の全ての政治指導者は広島と長崎を訪れるべき」というコミュニケに繋がったと思います。参加者の方々は、一般の人々ではなく、思いやりがあり博愛主義を信奉する大きな影響力を有する元国家指導者の方々ですが、今回広島を訪問して本当に心を動かされたようでした。

広島市は今年の8月6日、原爆投下65周年を迎えますが、私は全ての核保有国の指導者を是非この機会に広島に招待したいと考えています。

広島市長としての私の役割は、被爆者の方々の声を代弁して「核兵器のない世界」を実現させることだと考えています。被爆者の方々は、原爆で命を落とした方々に天国で再会した時、「あなたたちの死は無駄ではなったかですよ。私は『核兵器のない世界』をこの目で見てきたのですから。」と語れるようになるために、彼らが存命のうちに、是非とも核廃絶の実現を目の当たりにしたいと切望しているのです。私は市長として被爆者の方々のこうした望みを実現する義務があると感じています。

IPS: 今回のNPT運用検討会議の結論には、どのようなものを期待されていますか?

秋葉:今回の会議は、世界の民衆の意見を動員し、それを全人類の福祉のために活用する素晴らしい機会です。開会式でのいくつかの演説内容は、平和市長会議がその実現に向けてこれまで努力を傾けてきた目標の多くに言及するものでした。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩



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|イラン|制裁でなく交渉こそ問題打開への道

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【アブダビWAM】

「今こそ、イランと協議すべきときである。制裁を科すなどというときではない。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙が報じた。

カリージタイムス紙は5月15日付の論説の中で、「新たな対イラン制裁へ向けた動きは順調には進んでいないようだ。中国とロシアはイランの核兵器開発を阻止するために懲罰的な手段を講じることには同意したが、米国の対イラン戦略そのものには同意しかねている。」と報じた。

 このことから国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた「P5プラス1」での交渉は難航している。その原因は関係国の中にイランに対する好意・同情論があるというわけではなく、概して制裁の内容を巡る対立によるものである。このイスラム共和国に対する制裁は、新しい動きではない。事実、イランは過去30年に亘って様々な制裁の対象となってきた。しかし、そうした制裁にも関らずイランはウラン濃縮を諦めていない。

「イランは自ら招いた国際的な孤立に加えて、執拗な制裁を科せられてきたことから、安全保障の手段として極端な手段(核開発)を模索するようになった。従って、制裁を科すかどうかは別として、国際社会はイラン革命政権との交渉を通じて、国際社会の一員に復帰させることに主眼を置くべきである。すなわち、イランの安全保障と独立に関する問題を含めた包括的な取り組みがなされてはじめて、今日の状況は打開に向かって動き始めるだろう。」と、カリージタイムズ紙は報じた。

同紙は、イランが、NPT運用検討会議で現行のNPT体制を痛烈に非難して議論を大いに紛糾された後、様々な条件を出しながらも冷静な交渉を行う用意がある意思を示している点を指摘した。また、イランがトルコ・ブラジルの仲介案(イランは、国内の低濃縮ウラン1.2トンをトルコに搬出しIAEAの管理下に置く代わりに20%に濃縮・加工された核燃料棒120キロを受け取るというもので、安保理非常任理事国でもある両国は、これでもって米国が中心になって進めようとしている対イラン追加制裁措置は必要なくなったと主張している:IPSJ)を受け入れたことを国際社会は認知し適切な対応をすべきである。さらに、イランは国連が推した低濃縮ウランと燃料棒の交換案は拒否したものの、その後一連の代替提案を申し出ている。

同紙は、「こうしたイランの動きについても、欧米諸国が(イランの核開発疑惑について)従来表明してきた懸念内容と十分照らし合わせ検討する必要がある。また、現在対イラン追加制裁に向けた協議を同盟諸国と進めている米国に対して、発想を転換してイランへの対話を呼びかけるようアドバイスすべきだ。」と報じた。

同紙は、「おそらく米国は参考にすべき問題解決への処方箋を持っているはずです。米国は、かつてリビアを説得して友好国に転換し、北朝鮮に対しても説得して協議を通じた核危機の回避を志向させた実績がある。それを考えればイラン問題もそんなに困難な問題ではないはずだ。」と報じた。

さらに同紙は、「イランは核不拡散条約(NPT)加盟国であり、常に国際原子力機関(IAEA)に協力してきた。しかもイラン指導部は、核兵器は本質的に非イスラム的だという認識を示している」と指摘し、「リビア、北朝鮮と異なり、イランにはいくつかのメリットがある。」と指摘した。

カリージタイムズ紙は、「こうしたメリットはイランとの交渉の出発点に十分なり得るものであり、イランの核開発を巡って紛糾している問題は、同国が抱えている安全保障上の不安と孤立感にも配慮した包括的な取り組みをもって初めて打開に向けた方向性を見出すことができる。」と指摘した。

同紙は、「制裁を通じてイランを屈服させるという選択は、非現実的なアプローチであり、今はむしろ制裁よりも、イランとの対話をすすめる時だ。」と締めくくった。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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