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明らかになるガザでの真実

【エルサレムIPS=ジェロイド・ケセル、ピエール・クロシェンドラー】

『鉛の棺作戦』と名付けられたイスラエル軍によるガザ侵攻作戦に参加したイスラエル兵士の証言が波紋を呼んでいる。イスラエルの日刊紙『ハーレツ(Haaretz)』は19日、無抵抗のガザ市民を殺害した事実を裏付けるイスラエル兵の証言を報じた。 

「遠くから歩いてくる老女。明らかに武器を所持している様子もない。しかし、我々は上からの命令でその女性を殺害した」と、ガザから帰還したある下士官は語る。また、ある歩兵分隊長はパレスチナ人の母子3人を狙撃した時の様子を生々しく説明。「命令に従っただけ」と発言したが、さらに「現地ではパレスチナ市民の命は我々兵士の命よりも軽視されている」とも話した。

 パレスチナ人権センターの調べによると、イスラエル兵により殺害されたパレスチナ人の数は1,434人。そのうち960人が一般市民、さらに288人が子どもであるという。パレスチナ各地でイスラエル兵による残虐行為や家屋破壊への批判が高まるなか、イスラエル政府も一連の『戦争犯罪』に対する調査に乗り出す構えをようやく見せた。 

ハーレツ紙の記者、アモス・ハレル氏は兵士の証言には信憑性が十分にあると言う。「ガザ各地からこのような証言が相次いでいる。報告内容は彼らがガザで目にしたこと全てである」。また、「ガザで起きた真実について、軍はこれまで『知りたくない』という理由から内部調査を怠ってきたのではないだろうか」と、ハレル氏は推測する。 

一方のイスラエル側、エフード・バラク国防相は「我々イスラエル軍は世界に誇る軍隊である。今後もこのような事件に関して積極的に調査するつもりだ」と自信を見せた。ガザ攻撃に参加したイスラエル兵士の証言について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

|バルカン半島|爆撃の副次的な影響による「殺害は続く」

【ベオグラードIPS=ヴェスナ・ペリッチ・ジモニッチ

NATOによるセルビアの爆撃から10年が過ぎ、ガンの報告症例の増加が懸念されている。1999年の11週間に及んだ爆撃では、5万発以上の爆弾とミサイルとして劣化ウランで強化された15トンの弾薬が、主にセルビア南部とコソボの116カ所に落とされた。 

NATOの軍事作戦はセルビア政府による200万人のアルバニア人の抑圧を阻止するためのものとされた。9年間国連の統治下にあったコソボは昨年2月に独立を宣言している。

 劣化ウラン(DU)は戦車や大型軍事車両の装甲を貫通するために爆弾の先端に取り付けられる。DUの健康への影響について専門家の意見は分かれ、ガンを引き起こし、腎臓、脳、肝臓、心臓に害を及ぼすというものもいるが、健康や環境に問題はないとする研究もある。 

国連環境計画(UNEP)は2000年にコソボで調査を行い、地表に広範囲のDU汚染は検知されなかったと結論した。汚染地点はあったが、汚染の程度は低かった。2001年の世界保健機関(WHO)の報告書も同じ結論だったが、この調査に参加した英国人の専門家、K.バブストック氏は「報告書には全データが反映されていない」とベオグラードの日刊紙「ポリティカ」に語っている。 

地元の医師たちも独自の報告を行っている。コソボの町ミトロヴィツァのSrbljak医師は、「コソボの子供の白血病は1999年以前には1,000人に1人だったのが、100人に1人と10倍になっている」という。放射線科のCvetkovic医師は、「1999年以前は3カ月に1症例の割合で腫瘍を発見していたが、今は毎日見つかる」とIPSの取材に応じて語った。「診断の精度が上がったわけではない。患者も若年化している傾向がある」 

同じようにNATOの爆撃を受けた隣国のボスニア・ヘルツェゴビナでもガンが急増している。ボスニアとコソボで平和維持活動に当たったイタリア兵にも、DUに関連するとみられる健康問題が報告されている。 

コソボには今なお10万人ものセルビア人が住んでいるが、セルビア当局にとってDU問題はコソボと同じようにはるか遠くの問題のようだ。軍の医学校のM.ミソビッチ氏はDU弾の投下された地点から50m以内にいた4,000人ほどの退役軍人を調査中で、「今のところガンの増加は見られないが、この先10~15年を見守っていく」とセルビアのメディアに語っている。 

劣化ウラン弾の健康への影響について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

|オーストラリア|アフガニスタンへの貢献増大を求める圧力強まる

【ワシントンIPS=スティーブン・デ・タルチンスキ】

アフガニスタンにおける責任分担を巡りアフガニスタン国際治安支援部隊(ISAF)に貢献する42カ国の間で駆け引きが強まる中、オーストラリア政府は予測される増派要請についてその意思をあまり明らかにしていない。 

3月24日に米国で行われる豪米首脳会議では、世界経済危機と並んで、アフガニスタン戦争が優先議題となるだろう。

 3月24日に米国で行われる豪米首脳会議では、世界経済危機と並んで、アフガニスタン戦争が優先議題となるだろう。 

およそ1,100人の部隊を派遣するオーストラリアは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国以外では最大のISAF貢献国であり、ラッド豪首相はオバマ米大統領に増派を求められると予想される。 

ジェエル・フィッツギボン国防相は増派を検討すると示唆しているが、スティーブン・スミス外相は先月、オーストラリア軍の増派はNATO諸国がそのコミットメントを強化してから初めてあり得るとの公的立場を改めて表明した。 

オーストラリアは、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなどNATO加盟国のアフガニスタンにおける貢献は、兵力ばかりでなく、派兵している地域の相対的危険の観点からも、不十分であるとの認識を米国、英国、カナダとともに長年にわたり持ってきた。 

オーストラリアに対する対アフガニスタン貢献増大の高まる圧力について、対米関係やアフガニスタンからの撤退を視野に置くNATO加盟国の動向を論点に分析する専門家の諸議論を報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 


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ドイツ、アフガニスタンへの軍事関与をめぐる懸念

|インド|気候変動対策にいち早く取り組む女性農家たち

【ザヒーラバードIPS=ケヤ・アチャルヤ

インド南部の内陸乾燥地帯に広がる75の村でサンガス(sanghas)と呼ばれる村単位での集団である女性5,000人が地球温暖化に対処する一環として化学肥料を使わず、過剰に水を必要としないオーガニック農法を実践している。 

インドでは農業が温室効果ガス排出の28パーセントを占める。水田や畜牛から排出されるメタンと、肥料から出る亜硝酸化物が主である。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の2007年の報告によると、インドの降水パターンは数日間にわたる豪雨が増えるなど変動が激しくなると予測されており、それが直接農業の混乱をもたらすだろうとしている。気温が摂氏0.5度上昇すると1ヘクタール毎に0.45トン、小麦の生産量が減るという。

 ザヒーラバードでは、ダリットと呼ばれるインドのカースト制度の最下層に属する女性達が、過剰に水、化学肥料、殺虫剤を使いすぎないオーガニック農法で農作物を作り気候変動に対抗しようとしている。 

その女性達はデッカン開発協会(DDS)の援助のもとに乾燥して荒廃した土地を蘇らせ、19種類もの在来種の農作物を作っている。DDSは過去25年にわたりインドのこの乾燥地帯でダリットの女性達が土地を所有できるよう支援したりサンガスを組織したりしている。 

Samammaの1エーカーの土地ではホースグラム150キロ、雑穀200キロ、亜麻仁50キロ収穫される。彼女はそのうち穀物を50キロ、家畜飼料用豆類30キロを自分のためにとっておき、残りを市場で売る。今では75の村で5,000人の女性がこの農法を徐々に採用している。DDSのP.V.サティーシュ氏は「気候変動に関する枠組みにおいては、このような乾燥地農業は気温上昇の副産物に対抗する復元力となる」と言う。 

DDSは今では有機農法監視システムで国際的なParticipatory Guarantee Scheme (PGS) のOrganic India Councilが認定した有機農法の監視システムにおいて女性たちに関わっている。このシステムはオーガニック農家自身による第三者認定で、2006年に農家やNGOとの協議のうえ食糧農業機関(FAO)とインド農務省によってインドで開始された。 

ザヒーラバードでオーガニックと認定された食物や穀類にはPGSラベルを貼った包装がされハイダラバードの小売店で売られる。女性達は発注の多さに圧倒されていると言う。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

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|インド|論争が続く農産物先物取引

|米国|オバマ政権のタリバン分離政策

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【ワシントンIPS=ガレス・ポーター】

米・NATO軍の撤退と引き換えにアフガニスタンからアルカイダを追放するための交渉がアフガニスタン、サウジアラビア、パキスタン担当官とタリバン・リーダーの間で行われる可能性が浮上した。新政権のこの戦略は先週、CENTROM(米国中央司令部)のペトレイアス司令官およびアフガニスタン/パキスタン担当特使のホルブルック元大使による議会説明の後に報道されたもの。 

ペトレイアス大将は以前から、カブール政府支持を受け入れる兵士に対し金銭および職を与えることで、アフガニスタン反乱軍を分離する戦略を強く支持していた。

 バイデン副大統領は、先週ブリュッセルで行ったスピーチの中で新政府が更に練り上げている同構想について言及。アルカイダあるいはそれに近いタリバン兵士は全体の約5パーセントで、反乱兵士の少なくとも70パーセントは収入を目的に戦闘に参加していることから懐柔が可能と語った。 

しかし、多くの専門家はこの極めて楽観的な見方を支持していない。ニューヨーク・タイムズのカーロッタ・ガル記者は、3月11日の記事の中で、「西側外交官と既にタリバンと接触しているアフガニスタン担当官は、タリバン・グループから一部の司令官あるいはグループを切り離そうとする試みは成功しないだろうと語った」と述べている。反乱軍側が、降伏とアフガン政府の受け入れ、そして彼らが信用していない外国軍の駐留を認めよとの要求を受け入れることはないだろうというのが、その理由だ。 

また、マックラチー紙のジョナサン・ランデー記者がカブールから伝えたところによると、反乱軍リーダーは勝利を確信していること、カルザイ政権が益々弱体化していることから、分離政策の成功は極めて疑わしいという。 

分離政策は昨年12月、ニューヨーク大学のバーネット・ルービン、パキスタン人ジャーナリスト、アーメド・ラシドの両氏により提案され、サウジアラビアが調停に乗り出したとの報道で俄かに現実性を帯びた。 

以前はアルカイダの壊滅に消極的であったサウジアラビアも、2003年以来国内の対アルカイダ政策で成功を納めており、宗教面でもまた唯一のタリバン承認国でもあることからタリバン指導者の信頼を得ている。 

2007年10月、ヘルマンド州のタリバン指揮官がカルザイ政府に対し南部10州の支配権、外国軍撤退のスケジュール、タリバン捕虜の全員釈放などを求める要求書を提出したとの報道もあり、ルービン/ラシド両氏がフォーリン・アフェアーズ誌で指摘したように、タリバンとの取り決めでは米/NATO軍撤退の日取りを明確にすることが不可欠となろう。 

オバマ政権のアフガン新戦略について報告する。 (原文へ


翻訳/サマリー=IPS Japan 

|中東|歩み寄るイスラエルとシリア

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【ラマラIPS=メル・フリクバーグ

パレスチナの党派間の調整交渉が行き詰まり、中東和平が程遠い見通しの中、イスラエルとシリアの歩み寄りはひとつの可能性を期待させる。数週間前にイスラエルの最大の後援国である米国はダマスカスに特使を派遣し、両国の関係改善の兆しとみられている。 

トルコの仲介によるシリアとイスラエルの間接的な定期和平交渉も行われているが、イスラエルのガザ攻撃により中断していた。

 これまで米国はイスラエルにシリアとの交渉を思いとどまらせようとしてきた。米国は中東で力を強めているイランに危機感を抱いており、シリアはイランの主要同盟国で、この両国はレバノンのヒズボラやパレスチナのハマスなどの抵抗組織を支援している。 

しかしオバマ政権の緊張緩和政策は、対立を避ける方向にある。シリアのアサド大統領は米国からの特使を歓迎している。これまでの強硬姿勢は問題解決をもたらさず、かえって悪化させてきた。ハマスとヒズボラに影響力があるシリアとの関係は看過できない。 

さらに反米のイスラム民兵がシリア経由でイラクに入り込むのを防ぐためにも、シリアの協力は必要である。シリア側も、レバノンの元首相暗殺事件以来の米国による銀行送金、技術導入、ジェット機などに関する制裁が解除されるのを望んでいる。 

だがシリアの最優先事項はイスラエルによるゴラン高原の返還だ。イスラエルは返還にはシリアがハマスとヒズボラへの支援を止めることを条件にしている。イスラエル国民の70%は領土の譲歩に反対しているが、上層部はイランの影響力および抵抗勢力を弱体化するシリアとの和平の価値を認めている。経済、外交、観光の発展も期待できる。 

シリアにはその前にイランとの関係の調整という問題もある。そこにトルコが再び仲介役として登場する可能性がある。トルコはイランと政治、経済、安全保障上の関係は良好でありながら、イランの同盟国ではない。 

イスラエルとシリアの紛争の根源はこれまでの交渉でほぼ解決されている。最終的な合意とイスラエルのシリア領からの撤退の実現にはまだ時間がかかりそうだが、シリアと米国との関係改善はプラスに作用するだろう。和平には米国の関与が大きな意味を持つ。 

イスラエルとシリアの和平交渉の進展について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 


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寒気を抜け出したシリア

|ボツワナ|世界的景気低迷で失業する鉱山労働者

【ガボロネIPS=エフライム・ヌシンゴ】

「景気悪化で採掘労働者だけでなく全ての従業員が困窮している」。Christian Motsamai(仮名)はかつてダイヤモンド鉱山で働いていたが、鉱山の操業停止により職を失った。 

世界的な不況のあおりを受け、ボツワナではダイヤモンド採掘企業最大手デブズワナ(Debswana)が2か所の鉱山(オラパ鉱山第2プラント、およびDamtshaa鉱山)を年内に操業停止すると発表。これに伴い多くの鉱山労働者が苦境に陥っている。

 Motsamaiは「歴史的に見てもこの業界でこれほど需要が激減したことはない。雇用状況は益々悪化するだろう。我々はこの先どうなるか予測すらできない」と、不安を隠しきれない様子で語った。 

フランシスタウンの西190kmにあるLetlhakane鉱山近くの村に暮らすKaone NaremoもIPSの取材に応じ、村の現状を説明した。「失業者の急増は小規模事業者にも打撃を与えている。この小さな村は徐々に『地獄』へと変化しつつある」 

「我々はすでに退職金についてデブズワナ社と契約を交わしている。従って、従業員には残るよう説得しているところだ」と、労働者支援に取り組む『ボツワナ鉱山労働組合(BMWU)』のJack Tlhagale氏は話した。 

不況による鉱山閉鎖に揺れるボツワナについて報告する。 (原文へ

INPS Japan 



|メキシコ|遺伝子組み換え問題で揺れるトウモロコシ発祥の地

【メキシコシティIPS=ディエゴ・セバジョス】

トウモロコシ発祥の地であるメキシコは、1999年の遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの実験栽培禁止令を解除した。この政府決定に活動家や農民は憤慨している。GM作物は多収穫性、除草剤や病気の耐性などを遺伝子操作により付加したもの。反対派は多国籍企業による市場の独占と、9,000年前からある在来種の多様性の危機を警告している。 

GMトウモロコシの実験栽培への投資を待ち望んでいたアグロバイオ・メキシコ代表のF.サラマンカ氏は「活動家は農民の保護を主張しているが、良識が勝利した。実験栽培は北部のみで許可され、多様な在来種が栽培されている南部では許可されないため、遺伝的多様性の保護は配慮されている」とIPSの取材に応じて語った。

 実験栽培の範囲や方法は細かく制限されているが、バイオ企業は実験栽培によりGM種子の有効性が証明されて、近いうちに商業用作付が許可されるのを期待している。一方、民主農民戦線(FDC)のM.コルンガ代表は、「政府は大きな過ちを犯した。メキシコの生物多様性と食の主権が危機に陥った」と述べた。FDCは抗議デモを計画している。 

3月6日に政府はバイオセーフティ法を改正し、実験栽培を可能にした。在来種の多様性の保護も規定されており、実験の条件も厳しいが、ETCグループ(NGO)のS.リベイロ氏は、法改正が「多国籍企業の圧力に屈したもの」という。「法律で禁止されているはずのGM作物の痕跡は後を絶たず、きちんとした捜査も行われていない」 

メキシコは主食となるトウモロコシを年間2,100万トン生産している。300万人の農民の多くは貧しく、大規模なアグリビジネスが進出を図っている。さらに1,000万トンの主に飼料用トウモロコシを米国から輸入している。 

米国ではGMトウモロコシが栽培されているが、その危険性については、消費者にアレルギーが発症したケースや、動物実験でラットに害があったなど、いくつか報告されている。だが決定的なデータはなく、安全性を主張する著名な科学者もいる。 

国際環境保護団体グリーンピースや農民、科学者の組織はGMトウモロコシに反対するデモや議論を行い、種子を売ることで農民を意のままに操ろうとする企業の横暴を非難している。もっとも懸念されるのは、生物種の多様性への影響である。

メキシコで実験が許可された遺伝子組み換えトウモロコシの栽培について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

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|ドイツ|遺伝子組み換え作物は解決法でなく問題

|ニュージーランド|アジア系イスラム教徒の本音

【シドニーINPS=ニーナ・バンダリ

多様なニュージーランド社会で確固たる存在感を持つアジア系イスラム教徒に新たな光を当てる本が出版され、展示会も同時に開催されている。 

「The Crescent Moon: The Asian Face of Islam in New Zealand」(仮題:三日月-ニュージーランドのアジア系イスラム教徒)は、ニュージーランドを社会経済学的、文化的に豊かにしてきたイスラム教と多様なアジア文化をより良く理解し正しい認識を深めるため、インド、マレーシア、インドネシア、フィジー出身のイスラム教徒に関して伝えている。

 ニュージーランド最初のイスラム教徒は130年前、中国から人里離れた海岸に到着した南島ダンスタンの金鉱で働く5人だ。(1874年4月ニュージーランド政府調査に基づく)1950年時点で信者は150人だったが、1996年実施の調査でイスラム教徒は14,000人弱登録された。 

2001年の調査では、イスラム教徒の数は先住民マオリ族の伸びが最も多く、10年で99人から708人に増えていた。2001年以来、ニュージーランドのイスラム教徒は52.6%増加し、2006年実施の最新調査ではほとんどがアジア出身の36,072人だった。アジアには世界のイスラム教徒の半分以上が居住する。現在、ニュージーランド在住イスラム教徒の人口はなだらかな伸びを示している。 

今日、ニュージーランドには40カ国から来たイスラム教徒がおり、ヨーロッパ出身の3,000人とマオリ族700人がいる。 

著者エイドリアン・ジャンセン氏と写真家アンス・ウェストラ氏は2年以上ニュージーランド内を旅して回り、民族も、文化も、神学的にも異なるアジア系イスラム教徒のニュージーランド人37人に正直で率直なインタビューを行い、写真を撮り、この本を製作した。中には第3、第4世代の移民もいる。ジャンセン氏は次のようにIPSに語った。 

本の中で、フィジー出身のイスラム教向け肉屋、アフガニスタン政府で外務大臣を務めたオタゴ大学の政治学教授、ラグビー選手、ITの教師、芸術家、科学者等ニュージーランド社会の中核の一部となっているアジア系イスラム教徒を紹介するのが目的。しかし、幅が広すぎて全部は紹介出来ておらず、最も保守的な意見は入っていない。国で少数派の中のさらにその隅にいると感じると、公に意見を述べるのも慎重になる、とインタビュー中多くの人が語った。 

50年ものキャリアを持つ著名なドキュメンタリー写真家ウェストラ氏は、ポートレートに各個人の毎日の暮らしで関わりの深い物を一緒に写そうとしたが、大切な物を隠しておきたいと言ってポーズだけ取った人も多いと言う。様々な写真からは個性が伝わってくる、と自身もオランダに生まれ、十代後半にニュージーランドに移民したウェストラ氏はIPSに語った。 

9・11テロ事件の影響を受けた人も多い。事件をきっかけにイスラム教への見方が変わったと感じている人、米国を祖国と思っていたがイスラム教徒への差別の子供への影響を恐れニュージーランドに移住した人などだ。 

ニュージーランドも事件の影響を免れなかった。「“互いへの関心、尊敬し合う心”を築く助けをするのが大切」と、アジア・ニュージーランドの文化財団(Culture at the Asia New Zealand Foundation)責任者、ジェニファー・キング氏は言う。「ロンドン同時爆破事件(2005年)後、ニュージーランドでも少ないが反イスラム教の動きがあったので、本と展覧会の参加者に率直な思いを述べてもらった。“生ぬるい”本にするつもりは当初からない。」 

長期に渡り、移民に英語を教えてきたジャンセン氏は、「インタビューで多くの人がマスコミの事件の報道の仕方について述べており、イスラム教徒といえば自爆テロのイメージを植えつけるなど、イスラム教への偏見を生んでいるのが心配だ。そして、イスラム教の習慣と見られているものが文化的習慣でしかないこともあり、多くの人がイスラム教とその人の属する民族性を分けて理解して欲しいと願っている。少数派は孤立しがちだから気を付けなければならない。」と言う。 

9・11以降、若者はイスラム教から離れる者と、以前よりはっきりイスラム教徒だと表明するようになった者に分かれるという。 

キング氏はこの展示会がニュージーランドが外交関係のあるイスラム諸国でも開催されることを願っている。 

多様なニュージーランド社会のアジア系イスラム教徒に新たな光を当てる本について報告する。 (原文へ)


翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

│エジプト│インフレで労働者のストが頻発

【カイロIPS=アダム・モロー、カレッド・ムーサ・アルオムラ】

最近エジプトでは、トラック運転手から弁護士に到るまで、さまざまな職業の人々によるデモが頻発している。 

2月中旬には、トラック運転手が、連結トラックを禁止する政府の新方針に対する5日間のストを打った。その数日後には、薬局の店主ら4万人以上が、薬剤に遡及的に課税するという政府の決定に対して抗議行動を繰り広げた。

 2月末から3月にかけては、法廷での手数料値上げに反対する弁護士のデモや、未払いボーナスの支給を求める教育省職員によるストも行われた。3月5日には、最近民営化されたばかりの織物工場において、利益分配をめぐる労働者ストが展開された。 

政府側はかなりの譲歩を強いられている。トラック運転手は、新しい安全基準に適応するための準備期間をより長く与えられることになった。また、薬剤課税や法廷手数料については、政府が政策見直しを決めている。 

このように労働者の抗議行動が頻発する背景には年率20%にのぼるインフレがある、と経済学者のハムディ・アブデラジム氏(サダト・アカデミー元代表)は話す。物価上昇に対して収入増が追いついていないことが問題なのだ。 

また、世界的な不況にある現在においても、独占傾向にあるエジプト市場にあっては、物価がそれほど下がっていない。 

エジプトでは、2007年初頭から2008年にかけても、労働者による多数の抗議行動が起こった。このときは、食料価格の暴騰と政治的停滞が原因であった。このときの行動の成功が、労働者たちを今また立ち上がらせているのである。 

エジプトで活発化する労働運動について報告する。 

翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 

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|エジプト|労働者の反乱、功を奏する