ホーム ブログ ページ 255

|軍縮|核廃絶を世界的課題に引き戻した10ヶ国

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

心を引き裂くような福島原発災害のイメージとアラブ世界の民衆蜂起の波によって、核兵器なき世界に向けて中東を非核地帯にするという急務の課題が見えなくなりそうな危険があった。しかし、地域横断的な非核兵器国10ヶ国による取り組みが、世界を無感覚状態の中から救い出そうとしている。

 非核10ヶ国の外相が、「核兵器使用の可能性によって人類がさらされている危険並びに増大する拡散リスクに対処し、核兵器を削減し、核セキュリティを強化し、また、原子力安全を強化する必要性」を指摘する一方で、「中東非核・非大量破壊兵器地帯」の創設を実現するために努力していくことを誓った。
 

Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun
Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun

そうすることで、10ヶ国の外相は、世界の市民社会の果たす重要な役割にまでは言及しなかったものの、世界で約1200万人の会員を有する仏教団体「創価学会インタナショナル(SGI)」の池田大作会長が今年1月に発表した「2011年の平和提言」で提示した重要項目を間接的に支持した、ということになろう。
 
 市民社会が重要な役割を果たす中で、たんなる核軍縮ではなく核兵器を全廃していくことこそが、核兵器の脅威に対する唯一の保証である、と「平和提言」は述べている。

4月30日にベルリンで開催された「第2回核軍縮・不拡散に関する外相会合(ベルリン会議)」に参加した10か国外相は、世界の市民社会の重要な役割については触れなかったが、全会一致で採択した成果文書「ベルリン声名」の中で、「教育が、市民の認識及び理解を深めることによって、更なる軍縮・不拡散の取組をグローバルに動員していくための強力な手段であるとの信念に基づき、軍縮・不拡散教育を積極的に促進する。」ことを誓っている。
 
また同声名は、「我々は、核兵器の使用又は核兵器の使用の威嚇に対する唯一の保証としての核兵器の完全な廃絶への新たな要求を歓迎し、支持する。また我々は、その結果として、核兵器の数、並びに安全保障戦略、概念、ドクトリン及び政策における核兵器の役割を、更に低減する必要性を認識する。」と述べている。
 
核ドクトリンを支える安全保障戦略に言及して、池田会長は平和提言の中で、「核兵器の保有を維持する前提とされてきた、“恐怖の均衡”で安全保障を維持するという抑止論的思考を徹底的に見直すことが必要。」と述べている。

オーストラリア・チリ・ドイツ・日本・メキシコ・オランダ・ポーランド・トルコ・アラブ首長国連邦の外相は、この「ベルリン声名」において、「重要な不拡散の役割を担う、国家の輸出管理体制の強化を目的とした具体的な取組」を進めていくことによって、「核軍縮の実現及び国際的不拡散体制強化に向けて取り組むという共同の意志」を再確認した。

世界各地域から集まった10ヶ国の外相は、国連総会の会期中である2010年9月22日にニューヨークで開いた第1回会合で採択した共同声明に言及した。このときの会合は、日豪両政府の外相がホスト役を務めた。

池田会長は「平和提言」の中で、「地域の永続的な安定を確保するには、非核化は避けて通れない道」と指摘した上で、「中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立に向けて対話の環境」を作り出すことを求めていた。

そうした対話の環境作りを早急に進めていかなければならないとしながら池田会長は、「昨年のNPT運用検討会議で合意をみた2012年の『中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立に関する会議』は、成否以前に開催そのものが危ぶまれている。」と付け加えた。

中東に関する2012年の会議の不確実さは、対話の環境作りに向けたさらなる努力の必要性を示している、と池田会長は述べている。

10ヶ国外相は、SGI会長の懸念とまさに同じように、「当該地域の関係国家間で自発的に達成された手段に基づき、かつ、国連軍縮委員会の1999年のガイドラインに従って、国際的に認知された非核兵器地帯の設置が促進されることを期待し、また、そのような地帯が、地域及びグローバルな平和と安全を強化し、核不拡散体制を強化し、核軍縮の実現に貢献すると確信する。」と述べている。

「この関連で」、さらに10か国外相は、「2010年NPT運用検討会議において合意された、特別会議の2012年における開催に向けた要請に従い、中東における非核兵器及びその他の非大量破壊兵器地帯の創出を促進する決定的重要性を強調する。」と述べている。

核拡散防止条約(NPT)運用検討会議は、2010年5月にニューヨークの国連本部で開かれた。

1970年に発効したNPTは、核軍縮と核拡散防止に関する国連の主要な取り決めのひとつである。190ヶ国がNPTに加盟しているが、核兵器を保有するとみられるインド・パキスタン・北朝鮮・イスラエルの4ヶ国は未加盟のままである。

10ヶ国外相は、「最近の進展、特に米露間の第四次戦略兵器削減条約(新START)の発効及び、削減プロセスを継続するとの両国による意図表明を心強く思い、このプロセスにすべての種類の核兵器が含まれる必要性を強調する。」と述べている。

しかし、ドイツのギド・ヴェスターヴェレ外相は、ベルリン会議の開会挨拶でより明確に「我々は、昨年5月のNPT会議での約束を核兵器国が守ることを期待している。」「我々は、核軍縮のペースが上がり、軍事ドクトリンにおいて核兵器の役割が低減するのを歓迎するだろう。バラク・オバマ大統領の(2009年4月の)プラハ演説以来ついた軍縮への弾みを失ってはならない。」と語った。

またヴェスターヴェレ外相は、米露両国が(核軍縮の)交渉のテーブルに戻ってきたことについて、「これは皆にとってグッド・ニュースだ。二国間ではプロセスは軌道に乗っているようである。」と賞賛する一方、「多国間の協議は脱線寸前だ。」と語った。

オーストラリアのケビン・ラッド外相も、昨年のNPT会議以来「実務的な作業はほとんど進んでいない」と指摘し、ヴェスターヴェレ外相と同様の見解を示した。

しかし、10ヶ国の外相は、ヴェスターヴェレ外相の以下の発言にあるように今後の展開について楽観的である。「これから数週間、数ヶ月の間で、我々の取りくみによって多国間交渉を再スタートさせることができるかもしれない。とりわけジュネーブ軍縮会議において、これまでの頑なな態度をともに乗り越えることができる。」

ベルリンで始められた取り組みに言及したメキシコのパトリシア・エスピノサ外相は、この共同の努力は「人類の未来に直接の影響を持つ問題の重要性」を反映していると述べた。

ベルリン声明は、「2010年のNPT運用検討会議において達成された前向きな行動計画に関するコンセンサスは、必要な政治的意志があれば、協力的で多国間の軍縮・不拡散の取組が機能することを証明した。」と述べている。

またベルリン声明は、「我々の目的は、そのような成功裏の結果のモメンタムを維持し、また、その実施を促進することである。」と述べている。10か国外相は、この目的により、行動計画の主要な事項に関する具体的行動提起として次の4つのものを採択した。

核分裂性物質

1.兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)に合意することで、核兵器用の核分裂性物質の生産を止めること。こうした条約は将来における核軍備競争のリスクを抑制し、非国家主体がそれらの物質を取得する危険を軽減するだろう。脆弱な状態の核物質を保全する取り組みの補完にもなる。また、世界の脆弱な核物質を防護するために行われている取組を補完するだろう。

FMCTは「核兵器のない世界の途上において必要不可欠な措置である。」と10ヶ国外相は述べ、「ジュネーブ軍縮会議(CD)でのFMCT即時交渉を求めたNPT運用検討会議から1年が経過し、それが履行されていないことに対し。我々は深く失望している。」とした。

合意を阻んでいるのはどこの国かという名指しは避けつつ、ベルリン声明は、すべての国の安全保障上の要求に対処しなければならないことを認識しつつも、「これ以上の遅延の理由及び言い訳はないこと」と強調している。

オーストラリア・日本・ドイツの主導した声明の署名国は、主にパキスタンによって引き起こされた現在のジュネーブ軍縮会議の行き詰まりを打破する集中的な取り組みを始めている。

「しかし、ジュネーブ軍縮会議が、2011年の実質会期でFMCT交渉の開始に合意できない場合、我々は、すでにその議題162「2010年9月24日ハイレベル会合のフォローアップ:軍縮会議の作業の再活性化及び多国間軍縮交渉の前進」の下で本件を取り上げることになっている国連総会に対し,この問題に対処し,交渉開始のために前進する方途について検討することを求める。」と10ヶ国は宣言している。

包括的核実験禁止条約(CTBT)

2.包括的核実験禁止条約(CTBT)は、15年前に署名開放された:10ヶ国外相は、すべてのCTBT未署名・未批准国に対し、署名・批准を求めている。

「我々は,米国及びインドネシアによって表明された、条約の批准を確保するとのコミットメントを心強く思う。我々は、核実験の効果的な終了は、国家及びグローバルな安全保障を弱めることなく、強化し、また、グローバルな不拡散・軍縮体制を著しく増強すると確信する。」

「我々は、CTBTの普遍化及びその早期発効促進にコミットしている。様々な外交の機会を活用し、我々は、未署名・未批准国に対し、署名・批准し、発効のために必要な手続を速やかに完了するよう求めていく。我々は、効果的な監視・検証体制を整備するに当たり、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会を支援することにコミットしており、また、すでに達成した業績を評価する。」と声名は述べている。

透明性と説明責任

3.核軍縮プロセスにおける透明性と説明責任:2010年NPT運用検討会議において、核兵器国は、核軍縮に向けた具体的な措置の進展を加速させること、また、NPT締約国に対して報告を行うことにコミットした。さらに、信頼醸成措置として、同会議は、核兵器国に対し、可及的速やかに標準化された報告フォームに合意することを奨励した。
 
 10ヶ国外相は、「我々は、核兵器国がコミットメントを実現する上で使用し得る標準化された報告フォームの案を作成している。我々は、核兵器国が6月のパリにおける会合において、我々の提案を検討するよう呼びかける。」と述べている。

この案には、10カ国が、すべての核兵器保有国が提供することを望む情報に関する同10カ国の期待が反映されている。「我々は、標準化された形式に基づく報告が、NPT運用検討会議で採択された行動計画において奨励されているように、国際的な信頼を醸成し、更なる軍縮を可能にする環境作りに寄与するものと信じる。我々は、核軍縮プロセスにおいて透明性と説明責任を高めることが重要だと認識している。」

遵守

4.国家の核不拡散義務の遵守と検証:ベルリン声明は、効果的な不拡散体制はすべての国にとって共通の安全保障上の利益であることを強調している。従って、10カ国外相は、国家の核不拡散義務の遵守を検証する上でのIAEAの重要な役割を認識している。

10カ国は、2010年12月にアラブ首長国連邦において、また、2011年3月にメキシコにおいてIAEA追加議定書が発効したことにより、地域横断的イニシアティブに属するすべての国が、我々が不可欠な検証基準と考える包括的保障措置協定及び追加議定書を履行している事実を強調している。

声明は、IAEA追加議定書がアラブ首長国連邦に関して2010年12月に、メキシコに関して2011年3月に発効したことで、10ヶ国の枠組みに属するすべての国家が包括的保障措置協定と追加議定書を実行しているという事実を強調した。これらの2つの取り決めは必要な検証上の標準であると10ヶ国はみなしている。

10ヶ国外相は、2010年NPT運用検討会議の行動計画に従って、不拡散義務の違反を確実に阻止し、かつ探知するためにIAEAが必要とする追加的な権限を与えるため、すべての国に対し、追加議定書を締結し、発効させることを求めている。

さらに声明は、「我々は、それぞれの地域において、二国間及び多国間で、追加議定書の普遍的適用を引き続き唱道していく。我々は、追加議定書の締結及び履行における経験及びベスト・プラクティスをすべての関心国と共有することを提案し、また、法的及びその他の支援を提供する用意がある。」と述べている。

10ヶ国は、9月の国連総会と同時期に開く次回会合において「ベルリン声明」に発表された提案の進展を確認する。また、トルコが2012年の次回外相会合を主催することになっている。

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

関連記事:

|軍縮|核兵器のない世界という新たな約束

|シリア|軍の侵攻で死傷者数が増加

0

【ドーハIPS/ALJ=特派員】

戦車と装甲車の支援を受けたシリア軍兵士が南部のダルアーと首都ダマスカス郊外のドウマ(Douma)に攻撃を加え、多くの市民が死傷し数十人が拘束された。

バシャール・アサド大統領に忠誠を誓う治安部隊は、侵攻を開始した24日に引き続き2日目も、地中海沿岸のジャブレ(Jableh)において反体制派に対する弾圧を行った。

活動家が25日夜に語ったところによるとダルアー(Deraa)だけでも18人が殺害されたとのことである。

 一方、政府当局は、軍は街から武装勢力を排除するために招き入れられたと主張している。

ダマスカスからレポートしているアルジャジーラのルラ・アミン記者は、「今回の軍による展開は、3月15日の民主化要求デモ以来シリア各地に広がった反政府運動に対する『前例のない』規模の攻勢です。」と語った。

アミン記者は、ダマスカス中心部では検問が設けられ厳重な警備態勢が敷かれていると報じた。

ダルアーの目撃者によると、車が政府軍の銃撃を受けて少なくとも5人が死亡した。AFP通信に語ったその目撃者は、「車が銃撃でハチの巣にされたのをこの目で見ました。ダルアーの各地から激しい銃撃音が聞こえました。」と語った。

AP通信の電話取材に応じたダルアーの目撃者は、「私たちは国際社会の介入を必要としています。各国による助けが必要です。」「治安部隊はモスクを包囲し尖塔からは助けを求める声が響いている。また部隊は続々と民家に侵入している。夜間外出禁止令が出されており、自宅から出るものは撃たれている。また治安部隊は住民から水を奪うために屋上の貯水タンクまで撃っている。」と語った。

アルジャジーラは今回の弾圧による死者数の総数については確認がとれていない。

アルジャジーラが治安当局から入手した情報によると、政府軍がダルアーに侵攻するにあたってヨルダンに通じる全ての南部国境を封鎖した。

目撃者の証言によると、4月25日未明、数千人の軍部隊がダルアーに進軍し、戦車が同市の中心部に配備され、屋上には狙撃兵が配置されたという。

市内のある活動家は、軍の侵攻に伴う犠牲者の数はわからないと説明した上で、「通りには死体が散乱しているが、回収することもできない。」と語った。

25日に反体制側のメディアが衛星回線を通じて配信した番組には、シリア軍兵士が目に見えない標的を狙撃銃で撃っていると思われる場面が映し出されている(アルジャジーラはこの映像の真偽について確証はとれていない)。

「怪我人が出ており、数十人が拘束されている。これは民主主義を求める民衆蜂起が起こった全ての中心地で、治安当局により繰り返されてきた典型的なパターンです。当局は、究極の残虐行為で革命を鎮圧したいのです。」と、ダマスカスでロイター通信の取材に応じた匿名の人権活動家は語った。

24日に数名が射殺されたジャブレでは、目撃者によると、迷彩服に身を包んだ治安部隊の兵士や覆面をした黒づくめの武装した男たちが街の通りを巡回していた。

「ジャブレは治安部隊に包囲されています。市民の死体がモスクや家屋に放置されていますが、我々は動かすことはできないのです。」と、電話取材に応じた同目撃者は語った。

シリア人権監視団体(The Syrian Observatory for Human Rights)は25日に催した会見の中で、ジャブレでは政府による弾圧が24日に開始されて以来、少なくとも13人が殺害されたと語った。

シリア政府は反政府民衆蜂起が始まって以来、ほぼ全ての海外メディアによる活動を禁止し、問題地域へのアクセスを制限したため、客観的な事態の把握がほぼ不可能になった。

アルジャジーラのアミン記者は、25日に始まる今回の弾圧は、「治安部隊によるそれまでの戦術とは異なるもの」と指摘し、「これまでの治安当局による弾圧は、抗議行動に対する反応という形を踏襲してきました。しかし今回のドウマとダルアーに対する多数の兵士による侵攻作戦は、両都市において抗議行動が開かれなない中で、行われたものです。」「つまり、治安部隊は都市を速やかに席巻するというこれまでとは異なる当局の戦術を目の当たりにしているのです。」と語った。

今回の侵攻では初めて通信手段が切断され、反政府活動家たちの期待に反して、シリア軍が直接民主化運動の鎮圧に乗り出した。

現地特派員によると、反政府活動家の人々は、軍が関与しないことを望んでいた。しかし事態がこのような進展を見せている今、「彼らは、今回の事件は、これから起こるであろう非常に深刻な弾圧政策の序章にすぎないと考えている。」と特派員は語った。

ある活動家がアルジャジーラに語ったところによると、ダルアーでは、軍から脱走して民衆側に立って戦う士官達もいた。
 
 またダルアーでは、2人の県議会議員が辞職した。彼らの辞職は、前日に2人のダルアー県選出の人民議会議員(ハリール・リファーイー氏、ナースィル・ハリーリー氏)及びダルアー県ムフティ(リズク・アブドゥッラフマーン・アバー・ザイド師)が、死傷者を出した治安当局による弾圧に抗議して辞表を提出したのに続く行動であった。(リファーイ前議員は、「我が国民をもはや護ることができない」ため辞職したと述べている:IPSJ)
 
また、25日には102人の作家や亡命中の全ての主だった党派の代表が、弾圧に抗議する宣言文を公表し、暴力に訴えるシリア政府に対する怒りの声を上げた。
 
同宣言には、「我々は、シリア政府の抗議参加者に対する暴力と抑圧的なやり方を強く非難するとともに、民主化運動に参加して犠牲となった人々に哀悼の意を表するものです。」と記されている。

一方、米国の政府高官がロイターに語ったところによると、オバマ政権は、民主化運動に対する武力弾圧を続けるバシャール・アサド政権に対して、シリア政府高官を対象とした制裁措置の可能性を含む一連の対応策を検討している。

同高官は、「対応策には、米国における資産凍結や米国との商取引の禁止などが含まれる可能性がある。」と語ったが、こうした追加制裁がいつ発動されるかについては言及がなかった。

また、国連のナビ・ピレー人権高等弁務官は、暴力が深刻化した現状について、「シリア政府は自国民に対する殺害を止めるよう求める国際社会の声に背を向けた。」と強く非難するとともに、シリア政府に対して、拘束中の活動家や政治犯の即時釈放と、治安部隊の抑制、さらに先週末にかけて100名近くの死者をだしたと伝えられる犠牲者について調査するよう求めた。

「まず第一歩は、武力の行使を直ちにやめること、そして軍や治安部隊の犠牲者を含む全ての犠牲者について完全かつ独立した調査を実施し、犯人に公正な裁きを受けさせなければなりません。」とピレー高等弁務官は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

|リビア|NATO同盟国は事実上の分裂国家という事態に備えるべき

【アブダビWAM】

「リビアの反政府勢力支援に外国軍を派遣するのは重大な過ちとなるだろう。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙「ガルフニュース」が報じた。

同紙は「カダフィ大佐は反乱軍の鎮圧を許されないだろう」と題した論説の中で、「たとえ人々が、カダフィ政権なきリビアの方が望ましいという点で意見が一致していたとしても、もしNATOが地上軍を投入すれば当初のミッション(リビア民間人の保護)に反して取り返しがつかない事態を招くこととなるだろう。リビアにおける闘争はリビア人自身によって勝ち取られることが重要だ。」と報じた。

内戦が勃発してほぼ2か月が経過するが、反カダフィ勢力であるリビア国民評議会を支援するNATO連合軍は、現在の戦術的な行き詰まりを打開すべく、地上軍の投入に傾きつつある。フランスと英国が主導するNATO連合軍は、当初の意図に反してカダフィ政権が頑強に抵抗を継続し崩壊の兆しも見せていないことに焦燥感を募らせている。

 英国のジェームズ・キャメロン首相は4月21日、地上軍投入という選択は誤りであるとの見解を示したものの、ウィリアム・ヘイグ外相は反政府軍勢力の体制強化支援のために20名の軍事顧問団を派遣することを発表した。

「従って、反政府勢力には、厳密には戦闘戦力とは定義されないものの最終的に数百人の外国軍が支援に派遣される可能性が高い。」

例えば、欧州連合は、リビアにおける人道支援活動をエスコートするために地上軍を配備する意向を表明している。一方、カダフィ政権はそうした兵士を軍事作戦に従事している勢力として見做すと警告している。

「リビア情勢は近い将来反乱軍の勝利に終わる目算はない。しかし国際社会はカダフィ大佐に反乱軍の鎮圧を許さないだろう。」と同紙は見通しを述べた。

「従ってNATO同盟国は、リビアが事実上2つに分裂し、地上軍は展開できないものの反乱勢力を支援し続けるという事態に備える必要がある。」

「事態は混迷を極めているが、NATO同盟国はリビア介入が『ミッション・クリープ』に陥らないよう慎重に対処していくべきである。」とガルフニュースは報じた。
 
翻訳=IPS Japan戸田千鶴

*ミッション・クリープとは、終わりの見えない展開という意味。本来は米軍事用語で任務を遂行する上で目標設定が明確でなく当初対象としていた範囲を拡大したり、いつ終わるか見通しが立たないまま人や物の投入を続けていかなくてはならなくなった政策を意味し批判的に使われる言葉である。

関連記事:
│トルコ│リビアをめぐり、古い帝国の対立が復活

中東民衆蜂起で民主選挙へと転回するアフリカ

0

【国連IPS=タリフ・ディーン

中東で多党制民主主義を求める民衆の叫びが吹き荒れる中、軍事政権や独裁政体が多いことで知られるアフリカ諸国が、大統領選、議会選挙へ向かおうとしている。

「選挙・民主主義・安全保障に関するグローバル委員会」(GCEDS)によれば、今年中に、アフリカの19の国が大統領選、あるいは議会選挙を行う予定である

 例えば、チャド、マダガスカル、セイシェル、ジンバブエ(5月)、カポベルデ、サントメプリンシペ、チュニジア(7月)、エジプト(9月)、リベリア、カメルーン、ザンビア(10月)、モーリタニア、コンゴ民主共和国(11月)、ガボン(12月)などである。

すでに、ジブチ、ケニア、コートジボワール、ウガンダ、ジンバブエなどにおいて、大統領選挙の結果をめぐって紛争が起こるか、多選禁止が打ち出されている。

ストックホルムに本拠を置く「民主主義・選挙支援国際研究所」(IDEA)のヴィダール・ヘルゲッセン氏はIPSの取材に応じ、「一口にアフリカといっても、多様な経験があります。ガーナでは安定した民主化プロセスがあり、平和裏に政権が移譲されましたが、コートジボワールでは大統領選挙が簒奪されてしまいました。これから選挙を迎えるアフリカ19カ国の国民と政府は、これら西アフリカの隣国の事例のいずれかを選択することになります。」と語った。

ヘルゲッセン氏はさらに、「比較的自由な選挙が行われたところでも、民主主義が表面上のものにとどまっているところもあります。残念ながら、現職を維持することが民主主義より大事だと考えている権力者は、まだまだ少なくないのです。」と語った。
 
 コフィ・アナン前国連事務総長が主宰するGCEDSは、様々な利害関係者に対して、「誠実な選挙」を実施することが、民主主義のみならず、いかに安全保障、人権、開発の観点からも重要なことなのかを説いている。

「民主主義を構築することは複雑なプロセスです。選挙はその入り口に過ぎません。もし選挙が妥協されたものになれば、民主主義の正当性も失われることになるのです。」とアナン氏は語った。

またGCEDSは国連で発表したプレスリリースの中で、「最近のコートジボワール(現職の大統領が選挙の敗北を認めず政権移譲を拒否した)その他の事例は、民主的な政府を確立するためには選挙が極めて重要な役割を果たすことを明確に示している。しかし、選挙だけでは十分とは言えない。なぜなら、現職候補が選挙結果を操作したり、不正な資金やメディア操作で選挙プロセスを歪め、たとえ敗北しても結果を受け入れない事例を少なからず目の当たりにしてきたからだ。選挙がこのように台無しになれば、民衆は民主主義と政治プロセスへの信頼を失い、人権が脅かされることになる。」と述べている。

「多くのアフリカの独裁者は、長期政権をほこったチュニジアやエジプトの独裁者を追いやった民衆蜂起を目の当たりにして、戦々恐々としている。しかし民衆蜂起のドミノ効果は、果たしてさらに南(サブサハラ)の独裁者にまで及ぶだろうか?」とウィリアム・グメレ氏は「アフリカフォーカス」に掲載された寄稿文の中で記している。

IDEAのヘルゲッセン氏は、「民主主義とは、選挙以上のものを意味します。人々の意思が尊重されない限り、民主主義とは言えません。民主主義とは、市民が意思決定をコントロールすることであり、そうするにあたって、市民の間に平等があることを意味するのです。従って、権力を永続的に手中に収めるために選挙結果を操作したり、憲法を改定することは、民主主義とは真逆の行為なのです。」と語った。

ヘルゲッセン氏は、アフリカが成熟した民主主義に移行するために何が必要かとの問いに、「政治指導者の意志が重要だが、北アフリカを席巻した民衆蜂起が示したように、民衆の政治意志のほうがさらに重要です。その他のアフリカ諸国の指導者たちは、民衆の意志を尊重し政策に反映させなければ、民衆の意志により最終的には政権の座を追われるということを認識すべきです。」と語った。
 
 またヘルゲッセン氏は、「有権者教育は重要ですが、民主主義のための必須条件ではありません。同様に、社会経済発展は極めて重要ですが、民衆の心の中においては、民主主義ほどの高位置を占めていません。よい事例がチュニジア、エジプトでの民衆蜂起です。彼らは、民主主義がもたらす自由を要求したのであって社会・経済的な利益を求めたのではありませんでした。」と語った。

さらにヘルゲッセン氏は、アフリカは西洋型民主主義の概念に従うべきか、アフリカ大陸の文化・政治慣習に合った独自のものを目指すべきかとの問いに、「民主主義というものは、その社会に生きる市民と、その社会のもつ文脈によって形成されるべきものであり、単一の西欧モデルいうものはありません。それどころか、民主主義体制の下に生活している人々の大半は、開発途上国にいるのです。こうした国々が歩んできた民主主義の経験は、多岐にわたるものであり、単独のモデルなどないのです。しかし、民主主義は、市民が意思決定をコントロールし、そこに市民間の平等が確保されているという原理に基づいたものである必要があります。民主主義とは、そのような基礎があって、はじめてその上に様々なモデルを構築していくことができるのです。」と語った。

「今後独裁者の地位を狙っている者たちは、民主主義は自国の文化に馴染まないとして民衆を欺く手法に慎重であるべきです。なぜなら、こうした主張が誤っているということが、ラテンアメリカ、アジア、欧州、アフリカ、そしてアラブ世界において繰り返し証明されてきているからです。」(原文へ)

翻訳=IPS Japan
 

|湾岸地域|「イランは湾岸協力会議(GCC)加盟国の主権を尊重すべきだ。」とUAE紙

0

【アブダビWAM】

「イランはGCC諸国の主権を尊重すべきであり、その安定を脅かすような動きをすべきではない。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙「ガルフニュース」は4月22日付の論説の中で報じた。

  「湾岸諸国とイランの外交関係は長年に亘って多くの問題を抱えてきた。イランに対する不信感が湾岸諸国全域に蔓延したのは、1979年のイランイスラム革命前のパフラビー王朝時代に遡る。」と同紙は指摘した。

「その後、傲慢な帝政が瓦解したことで、湾岸諸国の間で一時イランとの関係改善への期待が高まったことがあるが、残念ながらイスラム共和国政権も前政権と大差なかった。」と同紙は嘆いた。

「強国を志向し独自の路線を進もうとすること自体はイランの(独立国としての)権利である。しかしそのやりかたは誤っており、近隣のアラブ諸国の疑念に火をつけている。」と同紙は報じた。

「宗派の違い(シーア派が大勢を占めるイランに対して近隣のアラブ諸国はスンニ派が大勢を占める)が問題をさらに複雑にしている側面があるのは事実である。しかしアラブ諸国は、イランの強引な政策や主張に対して寛大に対応してきた。イランは最近も、国連にバーレーンの内政に関する苦情を提出するなど、明らかな内政干渉にあたる行動にでたが、湾岸諸国は引き続き、イランに対して理性的な相互尊重の原理に則った対応を求めた。」と同紙は解説した。

「これこそ、シェイク・アブダッラー・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーンUAE外務大臣が4月20日の会見で強調した点である。同外相は、『全てのGCC加盟国がイランに求めているのは近隣諸国の主権と領土の統合を尊重してほしいという点のみである。』と語った。」と同紙は報じた。

湾岸諸国はイランとの良好な関係構築を望んでおり、イスラム共和国に対して、近隣諸国に敬意を払い、湾岸地域の安定に建設的な役割を果たすよう強く求めてきた。「しかし、イランは既に緊張関係にある湾岸地域において、さらなる緊張を高める動きを頑なに継続しているように思われる。」と同紙は報じた。

「イラン政府は、過去30年の歴史の中で、自国が戦争や国際経済制裁に晒される中、湾岸諸国が国際社会への関門となり、イラン国民の生活に役立ってきた点を忘れるべきではない。イラン政府は、その見返りに、GCC諸国の主権と政治的統合を尊重すべきであって、これらの国々の安定を脅かしたり、安全保障を危険にさらすようなことをすべきではない。」とガルフニュースは、結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

関連記事:
|湾岸地域|「湾岸協力会議(GCC)は平和の推進に尽力してきた。」とUAE紙
|イラン|制裁でなく交渉こそ問題打開への道

|軍縮|アラブの民衆蜂起で反核運動が再活性化するか?

0

【国連IPS=タリフ・ディーン】

核兵器の廃絶を求める世界の市民社会の運動が、エジプトとチュニジアに始まり、リビアやバーレーン、イエメン、ヨルダンが続いた草の根デモの驚くべき成功によって、政治的に再活性化されることになるかもしれない。 

創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動局長は、「中東と北アフリカでの動きは、人々の求めるところが無視された中での『安定』が、いかに脆いものであるかを示しています。」「核兵器の脅威から自由でありたいということほど、当然な望みはありません。それは、世界の人びとに幅広く共有されているものに他なりません。」と語った。

Hirotsugu Terasaki/ SGI
Hirotsugu Terasaki/ SGI

 核兵器廃絶をめざす世界的な運動における市民社会の役割について、寺崎氏は、「市民社会の使命は、市民に声を上げることを促し、それを更に大きくすることで、世界の意思決定者を動かし、核廃絶に向けて本当に意味ある措置を取るように求めていくことです。」と語った。 

寺崎氏は、核兵器の脅威がきわめて広範にわたることから、「私たちが必要なのはリーダーシップの新しいパラダイムで、それは、究極的には相互破壊の脅しに依存した核抑止論による『安定性』を拒否する普通の人々によるリーダーシップです。」と語った。 

192の国・地域に約1200万人の会員を有する仏教者の組織であるSGIは、核兵器なき世界をめざすNGOの運動の分野で長く活動を続けてきた。 

核軍縮を強力に訴えてきたSGIの池田大作会長は、世界の核兵器保有国が唱えている「核抑止」理論を拒否してきた。 

核兵器の保有を認められている5ヶ国は、米国、英国、フランス、中国、ロシアである。一方、核兵器保有国と認められていない核兵器保有4カ国は、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮である。 

「核兵器の保有を維持する前提とされてきた『恐怖の均衡』で安全保障を維持するという抑止論的思考を徹底的に見直すことが欠かせないでしょう」と池田会長は最新の「2011年平和提言」の中で述べている。 

先月、平和活動家と市民社会組織の連合がカリフォルニア州サンタバーバラで会合を開き、長く信じられてきた「核抑止」神話を批判した。そして、「世界的な核軍縮を達成する緊急の取り組み」を行うべきだと訴えた。 

 市民連合が採択した宣言にはこうある。「核抑止とは、核兵器保有国とその同盟国が自らの核兵器保有と、その使用及び威嚇する行為を正当化するために使っている政策である。我々は、核抑止を拒否し、段階的、検証可能、不可逆的、透明な形での核兵器の廃絶に向けた核兵器禁止条約(NWC)の交渉をすみやかに開始することを核兵器保有国とその同盟国に要求するべく、あらゆる人々に対して呼びかけていく。」 
 
 市民社会から会議に参加した人々は、「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」から「核時代平和財団」、「社会的責任を求める医師の会(PSR)」、「軍縮・安全保障センター」までさまざまである。 
 
 昨年、NPT加盟国は、中東非核地帯について話し合う国際会議を2012年に開くよう求める提案に合意した。現在、中東における唯一の核兵器保有国はイスラエルであり、長らく米国に庇護されてきた。 

池田会長は「地域の永続的な安定を確保するには非核化は避けて通れない道です。」と語り、「中東非核・非大量破壊兵器地帯へ何らかの形で対話の環境づくりを進めること」を呼びかけている。 

大量破壊兵器には、国連が禁止している生物・化学兵器が含まれる。 

2012年の中東会議の前途が不透明なだけに、対話の環境づくりに一層の努力をする必要がある、と池田会長は述べている。 

池田会長は、核軍縮という目標に向けた3段階の措置を提案している。 

 第一に、すべての保有国が全面廃棄を前提とした軍縮を速やかに進める体制を確保すること。 

第二に、一切の核兵器開発を禁止し防止すること、そして第三に、非人道的兵器の最たるものであるとの認識に基づき、核兵器禁止条約を早期に成立させる。 

とりわけ、核兵器を禁止する国際条約への無関心が広がる状況下で、核廃絶を目指す世界運動がいかに効果的でありうるのか、という問いに関して、寺崎氏は、「核兵器は、人々の生命と世界の存在そのものに対する脅威であるがゆえに、人々が無関心であることができないものなのです。」と語った。 

さらに寺崎氏は、「真の選択は、この無関心を積極的な人知によって打ち破るのか、それとも、悲劇と恐怖によって打ち破られることになるのか、ということでしょう。私たち市民社会組織の使命は、取るべき道は前者であることを確実にすることです。」と語った。 (原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

|視点|鄧小平の中国とアラブの専制政治を混同してはならない(シャストリ・ラマンチャンダラン)

0

【ニューデリーIDN=シャストリ・ラマンチャンダラン】

アラブの独裁体制に対するとめどもない民衆蜂起の波が、ひとつの問いを呼び起こしている。すなわち、「アラブを席巻している変化の風は、中国の民衆を政府に対峙させることになるのかどうか」という問いである。

中国においてアラブ諸国が直面しているような騒動が顕在化していない背景には、多くの理由が考えられるが、そうした理由は偏見を排除した目で同国を観察すれば明らかに理解できることである。

 チュニジアやエジプト、リビアといった多くのアラブ諸国と同じように、中国も権威主義的な政治体制だといえるかもしれない。しかし全ての民主主義が同じでないように全ての独裁体制が同じというわけではない、たしかに、中国は独裁国家である。ただし中国のそれは、中国共産党による独裁なのである。

ひとつの違いは、大半のアラブ諸国の独裁政権が、自らの戦略的利益の確保を目的とした外部勢力(大英帝国の衰退後は主に米国)に支援されてきたのに対して、中国の独裁体制は、中国人民自身による革命の産物であり、ナショナリズムの所産であるという点である。
 
 また、自国の民衆によって標的となったアラブの指導者は、自らの富と権力を維持するための専制的な政権を支配してきた独裁者たちである。彼らの親族や取り巻きは権力を梃に蓄財に励み、公金を自らの懐に収め、海外口座に資産を隠した。民衆は、彼らの抑圧的な支配のもとで、自らの権利は踏みにじられ、国益が売り飛ばされてしまったと感じ、自らの政府を独裁者個人の権力と利益のみのために機能する存在と見たのである。

すなわち、問題の核心は、政府の統治形態(民主主義か独裁政治か)を巡ってのものではなく、国家と支配エリートが、民衆の利益に奉仕しているかどうかという点にある。この点で見れば、中国の支配エリートによる実績は、いくつかの民主主義国家、とりわけ途上国の民主主義国家と比較しても、抜きんでたものである。

中国と民主革命に直面しているアラブ諸国の政治経済史と振り返れば、両者を比較できないことは明らかである。

そう遠くない昔、半封建的で半ば植民地化された中国は孤立し立ち遅れた国であった。また、中国の民衆は極度に貧しかった。毛沢東による革命が今日に至る社会変革を引き起こし、その過程で未発達で古い中国は消滅した。こうして毛沢東が築いた政治的基盤の上に、新たな勢いを持った中国が現出したのである。そして鄧小平が解き放った経済政策が、過去30年に亘ってみられた急激な経済開発と経済成長を可能なものとした。

毛沢東の中国と鄧小平の中国は、同じ国の異なった側面を示している。毛沢東の焦点は中国の政治的解放であり、鄧小平の焦点は経済的解放であった。中国の国家と経済主体は、不可分であり、中国共産党の産物なのである。

中華人民共和国の建国が宣言されてから60数年経過するが、その開発の歩みは実に興味深いものである。中国のグローバルパワーとしての興隆は国内の安定と繁栄、すなわち、10億を超える国民を食べさせ国民の大半のベーシックニーズを満たせる経済力に立脚したものである。

また中国の目覚ましい経済成長は、民衆を包摂するものであった。教育、ビジネス、雇用、起業、移動、貿易などにおいて、制限はなかった。定評ある欧米研究機関のものを含む研究調査資料を見ても、9割近くの中国人が国の現状に満足していると報告している。

他方で、中国は深刻な諸課題にも直面している。過去数年では、数十万件の「大衆イベント(小規模の暴動や、社会動乱、デモ、抗議行動)」が中国全土で起こっている。それらは、チベットや新疆の暴動のように、必ずしも海外メディアで取り上げられることはないが、急速な経済成長の負の側面(所得格差、失業者の増大、農村部人口の移動、汚職、犯罪、環境の悪化、社会病理、貧困層の不満等)を表している。

こうした諸問題は、中国の安定を脅かすものとなりかねない。共産党以外の政治勢力が認められない政治環境の中で、こうした問題が放置される余地はなく、政治的に厳しい規制がかけられ、反抗するものは厳しく取り締まられることとなる。1989年の天安門事件で見られたように、政府による強制力は、徹底的な実力行使も辞さないものである。それから20年以上が経過し、不満の声を上げる側も、技術の進化とともに、インターネット、ブログ、ソーシャルメディアといった新たなオプションを手に入れた。しかしこのことは情報規制の技術についても同じで、当局はフェイスブックやツイッターの交信をブロックする技術を手中にしている。

中国政府当局は、中国にジャスミン革命型の抗議運動を呼びかけたメッセージがインターネット掲示板に現れた2月20日以来、治安巡回とインターネット監視を強化し、徹底的な取り締まりを行っている。これは、万一のリスクも冒したくないとする政府当局の強い意志の表れである。また一方で、中国民衆は必要に迫られれば、こうした最も厳しい規制体制ですら、潜り抜けることができることを示した。

中国の民衆は政府と同様に、中国のこれまでの成長にあまりに多くのものを賭けてきた。共産党の実績について包括的に考えれば、その成功が失敗をカバーしてあまりあるものである。中国の民衆は、卓越した忍耐力を有しており、急激かつ暴力的な社会変化を望まないだろう。中国における変革はいつもゆっくりと秩序だったものである。2002年における共産党指導部の交代も円滑になされた。次の指導部の交代は2012年である。

胡錦濤主席と温家宝総理は今日まで順調な政権運営を成し遂げてきただけに、こうした不安定要因が当局の管理を超えて拡大することを許容しない一方で、(天安門事件で見せたような)極端な鎮圧措置にでることも望まないだろう。政権運営の汚点を指摘されることなく円満に引退を迎えようとしている現在の指導部にとって、流血を伴う鎮圧の当事者となることこそ、最も望まないものである。温総理がさらなる情報公開と政府を批判する自由を認めるよう訴えている背景にはこうした事情が考えられる。
 
 次期指導部の人々は、恩総理の融和路線に抵抗していることから、強硬路線の支持者かもしれない。しかしそうであっても、彼らは、もうすぐ権力を掌握するというこの時期にあえてリスクを冒すようなことはしないだろう。

従って、中国共産党、政府、さらに両者内の競合関係にある保守派・改革派の視点から考慮すれば、ここで問題を大きくしたり、対決姿勢を押し出したりしても政治的・経済的に得るものは殆どないのである。

ここで二つの教訓を引き出すことができる。ひとつは、民主体制の下でも失敗する国々がある一方で、中国のように民衆の福祉に奉仕するような独裁体制もありうるということである。もうひとつは、アラブ世界から広がった変革を求める民衆の要求は、必ずしも政治制度そのものを標的としたものではなく、たとえ民主体制であっても、選出された支配エリートの利益のために政権が運営されるようになれば、それは決して安定的なものではありえない、ということである。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

関連記事:
|南アジア|印パ間でバランスとる中国
日本の援助機関、中国、韓国との絆を強める
│トルコ│リビアをめぐり、古い帝国の対立が復活

赤新月社(RCA)、日本人ビジネスコミュニティーと協力して被災者支援に動く

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の赤新月社(RCA)は、先の東日本大震災の際の津波で被災した人々を支援するためのキャンペーンを開始し、協力を呼びかけている。

RCAはUAE国内の日本人ビジネスコミュニティーと協力して、義援金及び援助物資の寄付を幅広く呼びかけている。集まった寄付は、日本赤十字社を通じて被災者支援に向けた同社の活動に使われる予定である。

こうした資金集めキャンペーンは、友好国であるUAEと日本の絆の強さを示すものであると同時に、津波被災者の苦しみを軽減し、生活環境を少しでも改善して頂きたいと願うUAE国民の切なる想いを反映したものである。

UAEは、東日本大震災で被災した多くの方々に降りかかった災害の影響を注視しており、日本の人々への深い同情と連帯の気持ちを表明してきた。

RCAはUAE指導者の指示のもと、震災直後から国内日本人コミュニティー及び日系企業に連絡をとり、UAE国内における義援金・支援物資の寄付と日本赤十字への引き渡しについて、最善の方法を協議してきた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

関係記事:
|UAE-トルコ|リビアへの合同救援船を派遣
|日本|国連諸機関、連携して日本救援に動く
|アラブ首長国連邦|赤新月社(RCA)、パキスタンの洪水被害地域で医療援助活動を開始

|アフリカ|「独裁者の出現を許容する余裕はない」とUAE紙

0

【アブダビWAM】

「大統領選がさんざん延期された上に、現職が敗北を認めず、最終的には対立派閥間の抗争へと発展し、内戦が数百人の死者と多くの難民を生み出す…痛ましい話であるが、多くのアフリカ諸国が経験してきた『よくある話』でもある。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙は報じた。

コートジボワールは、この悲劇的な、しかし本来であれば回避可能な事態を経験した最近の事例である。4月11日、フランス軍と国連軍はアビジャンのローラン・バボ氏の潜伏先を襲撃し、逮捕することでこの内戦に終止符が打たれた。

 「難題は、こうした悪循環が他の国々で繰り返されないよう確実に取り組んでいくことである。アフリカ大陸では向こう18か月以内に少なくとも19カ国が総選挙を実施することとなっている。アフリカはもはやこれ以上の独裁者の出現を許容する余裕はないのである。」と、日刊紙『ナショナル』は4月13日付の論説の中で報じた。

アフリカは、平和的な権力移譲に関して様々な経験をしてきた。1997年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)の前大統領が、権力の移譲を拒否した際は、その後の権力闘争が流血を伴う内戦へと発展し、少なくとも300万人が犠牲となった。

一方でもっと懸命な選択をした国々もある。2009年1月、前月末に実施された大統領選挙(決選投票)で野党国民民主会議 (NDC)のジョン・A・ミルズ氏が、現職で与党新愛国党 (NPP)のナナ・アドゥ・ダンクワ・アクフォ=アドゥ氏に僅差で勝利し(50.2%対49.77%)大統領となった。

「このように接戦の場合、コートジボワールの事例でみられたように現職の大統領が政権移譲を拒否する場合が少なくない。しかしガーナの事例では、アクフォ=アドゥ氏は敗北を認め大統領職を降りた。」と同紙は報じた。

ガーナは過去4回連続で大統領選を平和裏に実施したことから、同国の政治プロセスの透明性を称賛する声が広がりを見せている。2009年にガーナ国会で演説した米国のバラク・オバマ大統領は、「アフリカに必要なのは独裁者ではなく、しっかりとした制度です。」と述べ、他のアフリカ諸国に対して、ガーナの先例に続くよう呼びかけた。

「コートジボワールの最近の危機は、昨年11月28日に行われた大統領選挙でアラサン・ワタラ候補に敗北したローラン・バボ氏が大統領職から身を引くことを拒否したことに端を発している。今年は、ルワンダ、ジンバブエを含む多くのアフリカ諸国にとって選挙の年となるが、指導者たちは、バボ氏の破壊的な事例ではなく、ガーナの先例を踏襲する義務がある。」と、アブダビに本拠を置く英字日刊紙は報じた。
 
翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

関連記事:
収奪と殺しのライセンスをキャンセルする(ジュリオ・ゴドイ)
|アフリカ民衆蜂起|アフリカの独裁者クラブからメンバーが脱落した(ロセベル・カグミレ)

|インド|福島第一原発事故でインドの原子力推進はどうなる

【ムンバイIDN=シャストリ・ラマチャンドラン】

日本が3重災害(震度9.0の巨大地震、津波、福島第一原子力発電所の放射能事故)に見舞われた結果、インドの野心的な原子力推進計画に暗雲が垂れ込めている。とりわけ、日本政府とインド政府が協議中の原子力協力協定の交渉は、無期限で延期されることが確実な情勢である。 

また、与党統一進歩同盟(UPA)の最大の戦略的・外交的成果と喧伝されてきた[すでに締結されている]米印間の原子力協定についても、その実施までには両国の当初の予想に反して、より時間を要することになるかもしれない。 

さらに印仏間の原子力協定に至っては、ジャイタプールでの原子炉建設計画に地元からの抗議行動が強まっており、とくに厳しい状況にある。

 日本が深刻な危機に直面する中、空前の進展を見せていた日印間の経済関係も、共同事業の減速、停止などを通じて後退を余儀なくされるだろう。 

日印関係は、2000年代に入って順調に推移し、戦略的・グローバルパートナーシップを構築するまでに発展していたが、ここ数年間にみられたような勢いの大半は、失われることになるだろう。 

日本にとって対インド関係は、良好であった1950年代以降は、あまり進展することなく推移し、1998年のインドの核実験実施によってもっとも厳しいものになった。その後、2000年にビル・クリントン米大統領(当時)がインドを訪問したことが転機となり、その後、インドとの経済的、政治的、戦略的関係が強まることになった。今日、日印間で毎年首脳会談を含む年3回の閣僚会議が開催されている事実は、両国関係の強い絆の深さとその可能性を示すものと言えよう。そうした中で、協議中の日印原子力協定は、もし締結されれば、日印二国間関係で最大の成果となっていただろう。 

日印2国間の貿易総額のみを見れば依然として100億ドル規模であるが、政府開発援助(ODA:インドが最大の受領国である)、直接外国投資( FDI )、外国間接投資(FII)も含めて見れば、日印間の経済協力規模は例外的に高いレベルのものである(因みに、日本がインド以外でこのレベルの経済協力関係を有する国は米国のみである)。このような両国の経済関係を反映して、インドに進出した日本企業はこの5年間で250社から750社にまで急拡大した。また日本は、デリー・ムンバイ間産業大動脈回とチェンナイ・シンガポール間回廊という2つの計画を後押ししている。 

今後東日本大震災からの復興に日本の資源と労力の多くが費やされると予想されることから、日印間の開発計画、とりわけ建設、インフラ設備関連の企業が関与した計画は、大きな見直しを迫られることになるだろう。例外はチェンナイ・シンガポール間回廊くらいかもしれない。また、日印間の戦略、防衛分野の協力関係も後退を余儀なくされるだろう(今日の二国間関係から一方の都合による変更が大きな問題に発展する可能性はほとんどないが)。 

インドは、投資資金の撤退という事態を、なんとか乗り越えることができだろうが、民生用核開発計画が被るダメージは、電力、インフラ開発分野に止まらないだろう。その影響は、インドが従来エネルギーオプションとして追及してきた原発開発の時計の針を巻き戻し、既に締結した米国やフランスとの原子力協定をも危ういものにしてしまうかもしれない。 

日本の核関連技術は世界最高峰で最も洗練されていると評価されている。だからこそ、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)社及びウェスティングハウス社、フランスのアレバ社は、それぞれ日立、東芝、三菱と提携関係を結んでいる。日本の専門知識、技術、部材は、大半の原発設備の中核に使用されている。このため、日本の協力がなければ(日本との原子力協力に関する二国間合意が現時点でない中、事実上困難な状況にある)、米仏の企業が原発建設の発注を受けても建設が困難ということになり、結果的に米印・仏印原子力協定も頓挫してしまう可能性がある。 

さらに、福島第一原発事故は、こうした流れに水をさすことになった。日本には広島・長崎における原爆の経験があり、放射能流出を引き起こした福島第一原発事故は、この記憶が呼び覚すとともに、原発建設をこうしたリスクを踏まえたモラルの問題として再浮上させた側面がある。 

福島第一原発事故に危機感を抱いた人々は、日本政府が近い将来、インド政府との原子力協定締結を検討することにさえ反対するだろう。また、こうした日本国内に広がる感情は、インドや世界各地における原発反対世論を押し上げることになるかもしれない。そして、ジャイタプール原子炉建設計画に対する地元住民の抗議活動のような現在進行中の反原発運動は、こうした世論を背景に新たな勢いを獲得するだろう。 

世界各国に目を移せば、中国は原子力発電計画の承認を一時中止し、ドイツは7つの原発施設の閉鎖を決定した。そして米国とインドも操業中もしくは建設中の施設を対象に包括的な安全性検査を行う方針を示した。しかし、各国政府のこうした措置は、国民の原発に対する信頼を高めるどころか、かえって反対世論を勢いづかせる結果になったかもしれない。 

問題は、原発施設そのものの安全うんぬんにあるのではなく、原子力に対する世論の感情にある。こうした現状は、インドにとっても、原発の将来にとっても、現在の成長・開発モデルにとっても、よくない徴候であることに違いない。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 


関連記事: 
|南アジア|印パ間でバランスとる中国