ホーム ブログ ページ 256

普天間問題に見る鳩山首相の「本当の問題点」(石田尊昭)

0

【IPS東京=石田尊昭

Mr. Takaaki Ishida
Mr. Takaaki Ishida

普天間問題が完全に行き詰まった。

メディアには「首相退陣」の文字がおどる。「5月危機説」がにわかに現実味を帯びてきたようだが、政局の話は少し横に置いておこう。

普天間問題に見る鳩山首相の本当の問題点とは何だろうか。

総選挙時の演説で「国外へ。最低でも県外へ」と主張し、首相になってからは「最後は私が決める」と自信あり気に語り、その後も、時折余裕とも思える笑みを浮かべながら決意を語り続けていた。

 政権交代直後から、水面下で様々なルートを通じて米国や地元とアクティブな交渉に入り、その成果が実りつつある、あるいは道筋が見えつつあることから、上記の自信に満ちた言葉・姿勢になっているに違いない…そんな希望的観測を僕は持っていたが、まんまと裏切られてしまった。「甘かったと言われれば、そうかもしれない」―。奇しくも首相と同じセリフが頭をよぎる。

この普天間問題においては、首相の言葉の軽さ、二転三転する主張、本人も認めた認識の甘さ、リーダーシップの欠如などが指摘・批判されている。それらはいずれも事実だが、問題の本質はそこではないと僕は思っている。

批判されるべきは、「行政府の長として、国民への説明責任を全く果たしていない点」ではないだろうか。

以前、当ブログで、マニフェストで約束された政策が二転三転することに対して、開かれた政策論議を行ない、首相が説明責任を真摯に果たせば、国民は理解を示すのではないか、と述べた。

つまり、政策を変更せざるを得なくなった場合、「なぜ、そうしなければならないのか」について充分かつ説得的な説明がなされるか否かによって、国民の首相に対する見方が百八十度かわる可能性があるからだ。

この普天間問題で、首相の述べた「抑止力についての認識が甘かった」とか、ましてや「『県外』は公約ではなく個人的見解」などという物言いは、「説明」ではなく「釈明」だ。それを聞かされた国民は、どう反応すればいいのか。ただただ、この人で大丈夫だろうか、という不安が募るだけである。

その政策の何が問題だったのか。分析内容か、交渉プロセスか、実施体制か。何が原因で、どう見誤ったかを明らかにする(=自ら把握する)ことによって初めて、同じ轍を踏まないための指針・戦略を再構築することができる。

それを国民に明示し、真摯に「説明」すれば、少なくとも「釈明」するよりかは理解が得られるだろう。

それとも、「説明」できるだけの分析・整理が未だなされていないのか。さらに、する意図も能力もないとなれば、怒りを通り越し、虚脱感におおわれてしまう。そうでないことを願うばかりだ。

石田尊昭(IPS Japan理事

*原文は石田尊昭和ブログに5月8日に掲載されたものです。

関連記事:
|日本|与党スキャンダルが政治改革に打撃

NPT運用検討会議でイスラエルとイランが議論の焦点に

0

【国連IPS=タリフ・ディーン

5月3日、約1カ月に亘って開催されるNPT運用検討会議が開幕したが、予想通り議論はイスラエルに集中した。

イスラエルは中東地域で唯一核武装した国であるが、政治的に特別な地位(=Sacred Cow)を享受しており、その武器開発計画が米国及び西欧諸国から公式に非難されたことはない。

しかし会議初日、国連加盟国の圧倒的多数にあたる192カ国中118カ国が、イスラエルは自国の核兵器開発計画について公表し、核不拡散を目的とするNPTに加盟するよう求めた。

 
 118カ国が加盟する非同盟運動(NAM)を代表してインドネシアのマルティ・ナタレガワ外相は、「イスラエルがNPTへの署名、批准を拒否してきたために、中東の国々(=非核保有国)がこの大量破壊兵器を有する唯一の国(=イスラエル)による核の脅威に晒されてきました。」と語った。
 
「イスラエルは『(IAEAの管理下にない)未知の安全基準に基づく未保護の核施設を運営』していることから、それに伴う様々なリスクを国際社会に広げてきました。さらに悪いことに、イスラエルは、暗黙のうちに、『中東及び国際的な広がりを孕んだ』破滅的な核軍拡競争を引き起こす脅威の引き金となってきました。その結果、NPT体制そのものが危機的な状況に陥っているのです。」と、ナタレガワ外相は、国連最大の政治的組織の見解を代弁して警告した。
 
 またナタレガワ外相は、「現在の状況を看過するわけにはいきません。なぜならこのままでは、『中東大量破壊兵器フリーゾーン』創設を求めた1995年のNPT運用検討会議決議の実現が危うくなってしまうからです。」と語った。
 
 5月28日まで約1カ月に亘って開催される会議では、核拡散の防止と世界の兵器廠からの核兵器廃絶を究極の目的とするNPT体制の現状について、成功・失敗の両側面が検証されることとなっている。
 
 NPTは1968年7月に署名公開され、5年ごとに運用検討会議が開催されてきた。
 
現在、NPT体制の下で核保有が認められている5カ国(米国、英国、フランス、中国、ロシア:これらの国々は国連常任理事国でもある)を含む189カ国がNPTに加盟している。

一方、NPT非加盟の核兵器保有国はインド、パキスタン、イスラエルである。北朝鮮は、NPTに加盟していたが、規定違反を犯した後に脱退している。

2000年のNPT運用検討会議では、イスラエルがNPTに加盟し全ての核関連施設を国際原子力機関(IAEA)の統合保障措置の下に置く必要性が確認された。

しかしイスラエルは今日に至るまでこの提案を拒否している。

従来より軍縮と核不拡散を「最優先課題」と宣言してきた潘基文国連事務総長は、開会式の演説の中で、イランと北朝鮮について名指しで言及した。

潘事務総長は、イランに対して「国連安保理決議を完全順守しIAEAに協力する」よう強く促すとともに、北朝鮮に対しては、「朝鮮半島の検証可能な非核化」実現に協力するよう求めた。
しかし潘事務総長は、イスラエル、インド、パキスタンについて言及するには至らなかった。

もっとも、潘事務総長は、当該3カ国の国名を言及することは避けたものの、「現在NPT体制外にある国々が一刻も早くNPTに加盟することを強く求めます。」と語った。

一方、会議に元首クラスとしては唯一の出席となったイランのマフムード・アフマディネジャド大統領は、「核兵器の唯一の機能は生き物全てを殲滅し環境を破壊するものです。」と語り、核兵器に関する道徳的な見地に立った演説を行った。

「核兵器に伴う放射能は、未来の世代へも悪影響を及ぼし、惨禍は数世紀にもわたって継続するのです。」

「核爆弾は防衛のための武器ではなく、むしろ人間性に対する攻撃です。従って核兵器の所有は、誇りにすべきようなことではありません。むしろ最低かつ恥ずべき行為なのです。」とアフマディネジャド大統領は語った。イランは現在、核兵器を開発しようとしているとして非難に晒されているが、アフマディネジャド大統領は嫌疑をきっぱりと否定している。
 
 「核兵器の使用や、平和的核施設への攻撃をほのめかして他国を脅迫するのはさらに恥ずべきことです。それは、歴史上のいかなる犯罪とも比べられない最悪の行為です。」と同大統領は指摘した。

またアフマディネジャド大統領は、「イスラエルは中東で多くの戦争を仕掛け、今も地域の国々や人々を恐怖と侵略で脅迫し続けている。また、数百基もの核弾頭を蓄積している。」として、イスラエルを非難した。

さらに同大統領は、「イスラエルは米国及びその同盟諸国より無条件の支持を享受しており、核兵器開発計画への必要な支援さえ受けている。」と指摘した。

また同大統領は、IAEAについて、「核軍縮と核不拡散の双方で失敗した」と非難した。

これに対して、米国のヒラリー・クリントン国務長官は、「イランはあらゆる手段で自らの(核兵器開発の)行いから国際社会の注意を逸らし、説明責任を回避しようとしている」と非難した。

「イランは国連安保理とIAEAを公然と無視し、核不拡散体制の未来を危うくしました。」とクリントン長官は語った。

一方、オバマ大統領は4月に開催した核安全保障サミットにおいて、イスラエルの核兵器開発計画についての見解を記者団に求められている。

しかしオバマ大統領は、その質問を巧みにかわすとともに、あえて記者団に対して、「イスラエルに関しては、同国の(核兵器)計画についてコメントするつもりはない。」と語った。

「私が指摘しておきたいのは、米国は一貫して、全ての国に対してNPTに加盟するよう強く促してきた事実です。従って何ら矛盾することはないのです。」「イスラエルであろうとその他の国であろうと、私たちは、NPTへの加盟が重要だと考えています。」「ところで、これは新しい方針ではなく、私の政権誕生以前から米国政府が一貫して主張してきた立場です。」とオバマ大統領は付け加えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

関連記事:
NPT運用検討会議に何千人もの反核活動家が集う
米国はイスラエル、インド、パキスタンの核には寛大なのか?

オバマを保護する責任―15ヶ月が経過して(ジャヤンタ・ダナパラ)

0

【ワシントンDC・IDN=ジャヤンタ・ダナパラ】

ジョン・F・ケネディ大統領以降、これほどの熱狂と希望を呼び起こした米国の大統領はいなかった。もしバラク・オバマ大統領が米国と世界にとってのビジョンを実現することができなかったなら、そうした潜在力を持った大統領が次に出てくるまで、我々は長いこと待たなくてはならないだろう。

しかし一方で、妥協を重ねて何とか議会で通過させた医療改革法案と、ロシアとの間に締結した新核兵器削減条約(START)ぐらいが、オバマ大統領が就任後15ヶ月の間に成し遂げた成果といえるのかもしれない。

共和党右派の批判勢力はこうした状況を、典型的な口先だけの政権として攻撃を続けるだろう。一方オバマ支持者は、山積する諸問題-恐らくどの新任の大統領よりも過酷な-を生き延びた功績を讃えるだろう。

 そして彼らはオバマ大統領の功績として、世界恐慌以来最悪と言われる金融危機後の経済の緩やかな回復や、グアンタナモ基地の閉鎖決定と拷問の禁止、「核兵器なき世界」というビジョンの提示と実現に向けた行動、アフガン戦争の「出口戦略」の提示と増派、気候変動サミットでの仲介、その他ネオコン前政権とは全く異なる路線を打ち出した諸政策を挙げるだろう。

つづめて言えば、オバマ大統領も人間であり(神のように水面を歩くことができる訳ではない)、オバマ政権への評価は真っ二つに割れている。つまり、オバマ大統領も膨大な抑制と均衡に基づく制度から成り立っている米国の政治制度の中の一部であり、この制度の中においては、議会の多数派を擁する大統領と言えども、常に個人の理想主義を政策に反映することは必ずしもできないのが現実である。(その好例が自ら提唱した国際連盟への米国の加盟を上院の反対で断念させられたウィドロー・ウィルソンのケースである。)

しかしオバマ大統領の最初の1年の実績について賛否両論の評価があるのは国内のみではない。

アラブ諸国では、米国とイスラム世界間の懸け橋を構築するとしたオバマ大統領のカイロ演説には当初大きな期待がもたれたが、その後イスラエルに引きずられてパレスチナ問題を解決できていないことへの不満が強い。とりわけガザ問題に関するゴールドストーン報告書へのオバマ政権の対応は、それまでの米政権が示してきた米国のイスラエル寄りの政治姿勢を改めてアラブ世界に印象付けることとなった。

ラテンアメリカでも、ホンジュラスのクーデターに対するオバマ大統領の反応が、歴代の米政権に通ずるものを感じさせている。

またロシアは、過去の経緯から、オバマ大統領による東欧のミサイル防衛計画(一時凍結にはしているものの)に対する警戒を緩めていない。

我々が目にしているのは、複数のオバマ像である。片方には、政治に飽き飽きした米国の有権者、とくに若者を奮い立たせた理想主義的なオバマ大統領がいる。

そしてもう片方には、米議会との妥協を迫られる現実主義的なオバマ大統領がいる。上下両院とも民主党が過半数を占めているが、それでも妥協が必要なのだ。右翼勢力はオバマ大統領への追撃の手を緩めていないし、それに穏健な共和党勢力も加わっている。今年の秋の中間選挙で、民主党の多数が崩れた1994年のギングリッチ革命の再来、ということになるかもしれない。

偉大な指導者は、大義に関して人々を奮い立たせるだけでは足りない。いかなる障害があろうともそれを乗り越えて、鼓舞し続けることが必要なのだ。よりよきアメリカと世界を目指すオバマの高邁な理想をくじくべく、米国の政治制度を悪用しようとする人々がいる。結局それを防ぐことができるのは、ピープル・パワー(民衆の力)だけなのだ。

※ジャヤンタ・ダナパラ:スリランカの外交官で元国連大使。1995年核不拡散条約(NPT)運用検討会議の議長。1998年-2003年、国連軍縮担当事務次官。現在は、科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議会長。本オピニオンは、ダナパラ氏の個人的見解である。

翻訳/サマリー=IPS Japan戸田千鶴


関連記事:
核サミット後の安全保障
│マーチン・ルーサー・キング・デー│人種関係に関する省察
│米国│医療│26日目でようやく決着

核不拡散体制には三重基準がある(ジョン・バローズLCNP事務局長インタビュー)

0

【国連IPS=タリフ・ディーン】

John Burroughs/ LCNP
John Burroughs/ LCNP

核兵器の廃絶と、この恐ろしい兵器の拡散をいかに阻止するかということが、5月3日から約1カ月に亘って国連を舞台に開催される核不拡散条約(NPT)運用検討会議における主な協議事項となっている。

5年に一度開催されるこの会議は、米国のバラク・オバマ政権が「核兵器のない世界」を目指すとする不可能に近い公約が行われた中で開催されることとなった。

体制内外の核保有国が、少なくとも何の前提条件もなしに自国の核兵器を廃絶したり放棄したりする意思を示していない中、オバマ大統領の公約は実現には至らないかもしれない。

ニューヨークに本拠がある「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」のジョン・バローズ事務局長は、「市民社会は1980年代以来最大規模となる運動を展開し、世界規模の核廃絶合意を目指した協議を求める嘆願書に1000万人を超える署名を集めました。」と語った。

 しかしバローズ氏は、5月3日から28日まで開催予定のNPT運用検討会議は「イランの核開発プログラムを巡る対立を解決したり、北朝鮮による核兵器取得の流れを転換したりする場にはならないだろう。」と警告する。

タリフ・ディーンIPS国連総局長のインタビューに応じたバローズ氏は、「NPT運用検討会議が望ましい結論を導き出す要素は確かにあります。」と語った。

「それは世界の大半の国々がNPT体制崩壊へと進んできたこの10年の流れを逆転したいと決意していることです。」と。バローズ氏は語った。

バローズ氏は、「オバマ大統領は核兵器の危険性について雄弁に説明し、『核兵器なき世界』というビジョンを明確に示したうえで、その目標に向けた一連の動きを開始しました。とりわけ、米露両国は4月8日に新戦略兵器削減条約を締結し、長距離核弾頭の削減状況を相互に検証するシステムを復活させました。」と語った。しかしバローズ氏は同時に、「もっとも、削減規模は世界の国家社会を滅亡させる破壊力を維持したままの小規模なものにとどまっていますし、米国はその一方で武器製造能力の向上に予算増強を図っています。」と、依然として山積する課題についても指摘した。

以下にインタビューの抜粋を紹介する。

IPS:NPT運用検討会議はほぼ一カ月に亘って開催されるわけですが、今回の会議に何を期待されていますか?また、会議を成功と判断する基準をどこに置いていますか?

バローズ:
もし今までの主な合意事項が再確認され、核兵器の削減・廃絶への具体的な方策について(米露のみならず他の)核保有国間の合意がなされ、追加議定書(各非核保有国が自国の核関連活動への査察アクセスと透明性を高めることに合意する)のような核不拡散体制強化措置への支援が表明されれば、会議は成功だと思います。

しかし、交渉は3つの議論が争われている分野で、激しく困難なやり取りが行われるでしょう。一つ目の争点は、核軍縮に向けた行動計画に関してです。おそらく、1995年及び2000年のNPT運用検討会議における合意内容の改訂版を今回の会議で認めることは、それほど困難なことではないでしょう。そうした合意内容には、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、核兵器用核分裂物質の生産禁止に関する交渉の開始、核兵器削減への不可逆性の原則の適用、安全保障政策における核兵器の役割低減が含まれています。

IPS:会議成功への障害は他にどのようなものがあるでしょうか?

バローズ:
2つ目の争点は、核兵器の拡散防止強化に関する分野です。具体的には、追加議定書の適用を通じた国際原子力機関(IAEA)の査察権限の強化、核施設用燃料の生産と供給を多国間の管理下に置く仕組み、NPT脱退に関する制限の追加、等が含まれています。

こうした追加措置に対しては、多くの非核保有国が、NPTに加盟し規則順守を通じて既に十分な貢献を行ってきたとして、受入れに難色を示しています。ただし、例えば「追加議定書」の締結を各国に促すといった、より緩やかな公約については合意にたどり着ける可能性は十分あります。

3つ目の争点は、1995年のNPT運用検討会議で採択された「中東に関する決議」、すなわち、中東大量破壊兵器(核兵器・生物兵器・化学兵器)フリーゾーン構想の実現に向けて前進を図ることができるかどうかという点です。これはアラブ諸国にとって非常に重要な点であると同時に、イランの核兵器開発疑惑を巡る論争解決の一助ともなり得る可能性を秘めています。この点については、1~2年後にこのテーマについて協議する国際会議を招集することで合意がなされる可能性がでてきています。

IPS:その他にもNPT運用検討会議中に障害として浮上してくるものがあると思いますか?

バローズ:
核兵器の削減プロセスに、米露以外の核保有国を組み込んでいく多国間核軍縮交渉も複雑な課題です。オバマ政権は、原則的にこのアプローチを支持していますが、近い将来における具体的な方策はなにも提示していません。もしかするとそのあたりで進展があるかもしれません。

IPS:2005年の運用検討会議は実質的内容のある「最終文書」を不採択で閉幕しましたが、今回の会議では「最終文書」の採択に成功するでしょうか?

バローズ:
今回の会議で「最終文書」採択に至るためには、各国がこれらの争点について合意することに加えて、独自の目的から協議結果を妨害したい国が現れないことが条件となります。たとえ、各国のコンセンサスが確保できなかったとしても、「最終文書」以外の方法で、幅広い合意がなされていることを示す方法を見出すことができるでしょう。

IPS:米国や西欧諸国が、核兵器開発疑惑で(NPT加盟国の)イランに対して制裁を求める一方で、インド、パキスタン、イスラエルといったNPT未署名の核保有国に対しては異なった対応をしていることから、これを偽善でダブルスタンダード(二重基準)だとする見方もありますが?

バローズ:
核不拡散体制は二重基準というよりも実に三重基準という根本的な問題を抱えています。NPTそのものは2階建て構造で、核兵器廃絶に向けた交渉義務を有する核保有を認められた国々と、核兵器を取得していないことを証明するため査察の受け入れを義務付けられている非核保有国から構成されています。そしてそれらの国々の他に、NPT未加盟で事実上核兵器を保有している国々-インド、パキスタン、イスラエル、(そして最近は)北朝鮮-があるのです。

このことは、核兵器の取得が禁じられているNPT加盟国の間に不公平感を呼び起こしています。また原子力供給国グループ(NSG)が、米国の圧力でインドを例外扱いしたことは、こうした不公平感にさらなる拍車をかけることとなりました。それはNSGが、NPT加盟の核保有国に課されている核軍縮義務や約束を公式に認めてさえいない国に対して核関連の商取引を認めたからです。

一方で、NPT加盟の非核保有国であるイランが核兵器製造能力を得ようとしているとする疑惑から検査、制裁の対象になっています。こうした三重基準の問題を解決する方法は一つしかありません。それはすなわち、「核兵器の保有を認めない」とする単一の規則を全ての国々に適用する全地球的な体制を創出することです。

この体制をいつどのように達成するかについては多くの意見がありますが、この基本的なポイントは、エリートと一般大衆、先進国と途上国、平和活動家と安全保障専門家の違いを問わず、ますます多くの方面で受け入れられてきているのです。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:
米国はイスラエル、インド、パキスタンの核には寛大なのか?
|政治|核軍縮に関しては、依然として他国に率先措置を求める

NPT運用検討会議に何千人もの反核活動家が集う

【国連IPS=アンナ・シェン】

NPT運用検討会議開幕前日の5月2日、約15,000人の市民が核廃絶を訴えてニューヨーク市内を行進した。この群衆の中には、「ノーモア・ヒロシマ」と訴える横断幕を掲げた着物姿の日本人女性や、80歳の老婦人、世界から集った18人の市長等、多彩な顔ぶれが見られた。
参加者たちは当日の蒸し暑い天気にも関わず、ニューヨークの中心部タイムズスクェアーから国連本部前を経由して「国際平和・音楽フェスティバル(世界の音楽演奏と核廃絶・平和活動に関するブースが出店)」が開催されるダグ・ハマーショルド広場まで行進した。

参加した人々の核問題に対する見方は様々だが、「核軍拡競争を早急に終わらせるべき。」という一点において固く団結していた。

「今こそ世界から全ての大量破壊兵器を廃絶する時です。核兵器反対。戦争反対。YES WE CAN! そうなのです、これは実現しなければならないのです。」と、ピース・アクションの創設者、ジュディス・ル・ブラン氏は語った。

 「今年の8月9日は、日本の長崎市に原子爆弾が投下されて65周年になります。」「私たちは皆、繋がっています。市民を核兵器から守るという確固たる信念を共有しなければなりません。私たちが団結すれば、政府を動かし、世界を変えることができるのです。長崎を最後の被爆地にするために連帯していきましょう。」と田上富久長崎市長は語った。

長崎から参加した吉田勲氏は1945年の米軍による長崎原爆投下の際、わずか4歳で被爆し、祖母と友人を失った。今回のNPT運用検討会議開催に合わせたニューヨーク訪問は吉田氏にとってとりわけ感慨深いものだった。

「今回の会議には多くの人々が熱い期待を寄せています。是非とも成功してもらいといと思っています。昨年の4月、オバマ大統領は『核兵器なき世界』を目指すとの公約を掲げました。今回の会議に国際社会とヒロシマ・ナガサキの被爆者の思いが届くことを期待しています。」と吉田氏は語った。

環境安全のための多文化連合(MASE)のコーディネーター、ナディネ・パディリャ氏は「核兵器がもたらす人命の犠牲は、兵器の配備(と結果的な使用)に伴うものに限りません。そこには核兵器製造に伴う環境と健康に対する影響も含まれるのです。従って私たちは(こうした核関連活動から)土地を守るために闘わなければなりません。」と語った。パディリャ氏はまた、ウラン鉱山を閉鎖し、癌や流産など人体に様々な問題を引き起こす原因となっている放射性廃棄物の源を断つよう訴えた。

戦争で疲弊したコンゴ民主共和国におけるウラン採掘をやめさせることは、ニューヨーク在住のコンゴ人教授ヤーレンギ・ンゲミ氏にとっても重要な問題である。

「ウランは広島への投下された原爆に使用されました。そして現在、コンゴの(ジョセフ・カビラ)大統領はウランをイランに売却しているのです。テロリストを支援しコンゴ人を殺戮しているカビラ大統領を取り除かねばなりません。私はそれを訴えるために行進に参加しているのです。」と、ンゲミ教授は語った。

また他の参加者から、「NPT運用検討会議に世界の指導者が参集する機会を捉えて、米国は率先して自らの(核兵器開発の)状況について実態を公開すべきだ。」との意見も聞かれた。
「米国には今も3つの核兵器製造工場があり、その内の1つがテネシー州にあります。」と同工場閉鎖を訴えているオークリッジ平和同盟のラルフ・ハンチンソン氏は語った。

「米国は世界最大級の核保有国であり、未だに核兵器の生産を継続しています。また、米国は配備されている核弾頭の他にも1500発のアクティブストックパイル(=核兵器が配備されている場所に保管しているスペア)及び戦略予備として核弾頭を保管しています。米国が自国の管理状況について正直にならない限り、世界から核兵器を廃絶することはできません。」とハンチントン氏は語った。

「どうして米国には核兵器の所有が許されて他国には許されないのでしょう?これを道徳的にどうやって正当化できるでしょう?」とハンチントン氏は問いかけた。さらに、「国連総会において核兵器保有を巡って米露両国を非難する雰囲気があることから、今回の会議では国連が影響力を行使でできるだろう。」と付け加えた。

デトロイトピースアクションのメンバー、ダン・ロンバルド氏もこの考えに同意する。「米国は1970年にNPTが発行した際に示された軍縮ビジョンを順守すべきです。」「NPTは容易に結果が出せるものです。私は宗教的観点からNPTを支援するために参加しました。なぜなら、戦争や戦争への準備は神の意志に反するからです。」と、ロンバルド氏は語った。

平和市長会議「2020ビジョンキャンペーン」の国際ディレクター、アーロン・トヴィシュ氏は、「今こそ、核兵器を廃絶するという約束-オバマ大統領が少なくとも理論上受け入れた-を果たす時です。」「核兵器を製造する施設と解体する施設は同じであり、2019年までに全ての核兵器を解体することは可能なのです。これは政治的な決断を要する問題であり、今こそ、その決断をする時なのです。国際社会は向こう10年以内に、核兵器の廃絶に関して検証・モニタリングを行うシステムを構築することは十分可能です。」と語った。さらにトヴィシュ氏は、「今回の会議が核兵器の脅威に対してより包括的なアプローチを打ち出すことができるかどうかという疑問は残っています。」と付け加えた。

ドキュメンタリー映画「フラッシュ・オブ・ホープ-世界をまわるヒバクシャたち」を上映したコスタリカのエリカ・バニャレロ監督は、国連で、「いま地球上のすべての都市を7回以上にわたって破壊できるほどの核兵器が存在しています。」と指摘した。

バニャレロ監督は、今回のNPT運用検討会議では、前回の2005年の会議よりも力強く、問題への対処を前進させるような文書が採択されることを期待すると語った。

「世界の人々が、今日の世界には23,000発の核弾頭が存在し、その大半は米露両国が保有している事実を知っています。私たちはその数を削減していく必要があるのです。」と、パニャレロ監督は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

関連記事:
|軍縮|核兵器ゼロを呼びかけるハリウッド映画
|軍縮|核廃絶への取り組みに地雷禁止の経験を(ノーベル平和賞受賞者ジョディー・ウィリアムズ女史インタビュー)

まずイスラエルの核を問題にせよ

0

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字紙が、[他国の]核保有について米国が適用している二重基準を厳しく批判している。同紙は、米国がイスラエルの核兵器については沈黙を保つ一方、イランに対しては厳しく追及しているとしている。

バラク・オバマ米大統領がワシントンで核安全保障サミットを開く中、『ガルフ・トゥデイ』紙は、「中東における唯一の核兵器保有国であり米国の同盟国でもあるイスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相が、世界の首脳が集うこの歴史的サミットへのオバマ大統領からの出席要請を簡単に断ってしまった。」「しかし、出席拒否の理由は示されなかった。」と報じた。

 同紙によれば、オバマ大統領は、集まった46ヶ国に対して、核テロが主要な脅威のひとつであることを認識させ、大量破壊兵器とその製造に必要な物質を保全しそれがテロリストの手に渡らないようにする必要性を訴えた。
 
 大統領は、その直前に、米ロ両国の核兵器を削減するためにロシアとの協定(新戦略兵器削減条約)に署名したばかりであった。国際社会は、地球の安全を保障し彼の夢の実現のために世界の協力を得ようとするオバマ大統領に拍手喝采を送った。

「しかし、問題は、『核兵器なき世界』というオバマ氏の主張に他国の指導者らがどれだけついていけるか、ということだ。核兵器を保有し米国と緊密な同盟を結んでいるある国の指導者は、世界をより安全にしようという共通の課題に背をそむけているのだから」。

イスラエルは「核物質の拡散を防ぎそれが他者の手に渡ることを阻止してきたと主張しているが、70年代には南アフリカの核開発を支援するために放射性物質を供給したとみられている」。

同紙は、「イスラエルは約200の『先進的な核爆発装置』と保有しているとみられている」としたうえで、「こうした過去を考えるとき、イスラエルがその核能力を将来的に濫用しないと誰が言えようか?」と疑問を呈した。

ネタニヤフ首相から袖にされたことについて、米国が「通常見せるような遺憾の意」をまだ見せていないことには大きな意味がある、と同紙は論じる。ネタニヤフ首相が米大統領を困惑させたのはこれが初めてのことではない。ユダヤ人入植問題に対する最近の頑強な態度もまた米国を困らせている。

「同時に、米国は、ウラン濃縮は核兵器製造ではなくエネルギー用だとしているイランに対して、より強い制裁を与えるべしと強い調子で要求している」。

イランは、国連[=国際原子力機関のこと]による核施設査察を拒んだことに対してすでに制裁を受けている。皮肉なことに、イランは現時点では核兵器を保有していないと言っているのは米国自身だ。しかし、イランは2015年ごろまでには核兵器製造能力を獲得する可能性があるから強い制裁を課すべきだ、と米国は主張している。

「オバマ氏の意図と努力は高く評価されるべきだが、まずはイスラエルを何とかすべきである」と『ガルフ・トゥデイ』は要求している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:
|軍縮|アフリカが世界最大の非核大陸となる
米国はイスラエル、インド、パキスタンの核には寛大なのか?

米国はイスラエル、インド、パキスタンの核には寛大なのか?

【国連IPS=タリフ・ディーン】

世界47カ国の首脳級参加者が集い、鳴物入りで2日間に亘って開催された「核安全保障サミット」が閉幕した時、サミットの協議内容はもとより、主催者のバラク・オバマ大統領からさえ回答を得られなかった、いくつかの拭いきれない疑問が残った。

すなわちそれらは以下の3点である。①米国はイスラエルに自国の核兵器計画を認めるよう求めるか?②米国はイスラエルに対して核不拡散条約(NPT)に加盟するよう迫るか?③米国はインド、パキスタンに対してNPTに加盟するよう説得を試みるか?

 しかし、空前の規模で開幕した「核安全保障サミット」の最大の関心事は、核兵器(及びその開発に必要な核物質)をテロリストグループに入手させないための体制づくりであり、これらの疑問点については、ほとんど或いは全くと言っていいほど取り上げられることはなかった。
 
 「サミットでは、核爆弾に使用可能な核関連物質の安全管理体制を4年以内に確立すること、核兵器や原子力施設の安全強化、核爆弾に使用可能な高濃縮ウランの使用・取引を削減、などの点で有用な合意に至ることができました。」と、ニューヨークに本拠がある「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」のジョン・バローズ事務局長は語った。

「しかし世界47カ国から、しかもその大半が元首という顔ぶれでワシントンに集った環境にも関わらず、今回のサミットは、国際社会から全ての核兵器を除去していく端緒にするというユニークな機会は逸してしまいました。」とバローズ氏は付け加えた。

また多くのメディアが指摘した通り、オバマ大統領はあえて記者団に「イスラエルに関しては、同国の(核兵器)計画についてコメントするつもりはない。」と宣言し、イスラエルに関する質問を「避けた」。

「私が指摘しておきたいのは、米国は一貫して、全ての国に対してNPTに加盟するよう強く促してきた事実です。従って何ら矛盾することはないのです。」とオバマ大統領は語った。

「従って、イスラエルであろうとその他の国であろうと、私たちは、NPTへの加盟が重要だと考えています。ところで、これは新しい方針ではなく、私の政権誕生以前から米国政府が一貫して主張してきた立場です。」とオバマ大統領は付け加えた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、明らかに同国が秘密裏に進めてきた核兵器開発プログラムが議題に上がるのを恐れて土壇場になってサミットへの参加を「避けた」。しかし結局、サミットではこの問題が取り上げられることはなかった。

NPTの下で認められた核保有国は、米国、英国、フランス、中国、ロシアの5カ国であるが、NPT体制外で核兵器を保有しているインド、パキスタン、イスラエルの3カ国はいずれも、NPTへの加盟を拒否している。

5月3日からNPT運用検討会議が約1カ月に亘り国連で開催される予定である。

バローズ氏はIPSの取材に対して、「イスラエルが核兵器を保有しているか否かについては、オバマ大統領は従来の米国政府の立場を踏襲して、コメントを避けたのです。」と語った。

またバローズ氏は、「サミットでは、中東大量破壊兵器(核兵器・生物兵器・化学兵器)フリーゾーン構想の実現に向けて前進を図ることが、5月のNPT運用検討会議が最終的な合意結果を生み出すことができるか否かの鍵となるという議論がなされなかった。」と指摘した。

「そうした中、潘基文国連事務総長がそうしたフリーゾーン設立に向けた議論を行う新たな会議を招集するという提案が、現在真剣に検討されています。」とバローズ氏は語った。

「1995年にNPTを無期限延長する決定は、同条約の寄託国である米国、英国、ロシアが『中東に関する決議』を支持することなしに、実現は見なかったのです。」とバローズ氏は付け加えた。

オバマ大統領は、記者からパキスタンの核兵器開発プログラムについて問われ、姿勢を軟化させて次のように語った。「私はパキスタンが異なるルールで(核兵器開発を)進めているとは思いません。米国は他の国々に対してと同じく、パキスタンにもNPTに加盟するよう明確に求めてきました。」

しかしオバマ大統領は、「パキスタンの核安全保障問題については実際のところ、過去数年間にわたって進展が見られます。」と指摘した。

「私は、核兵器開発プログラムについては、南アジア全域の緊張関係を緩和したいのです。」「事実、パキスタンのギラーニ首相がサミットに参加してコミュニケに署名し、同国からの核物質拡散や不正取引を防止していく一連のコミットメントを示したこと自体、前向きなことだ思います。」と、オバマ大統領は語った。

「まだやるべきことが沢山あるのではと問われれば、全くそのとおりです。しかしギラーニ首相がここに出席していることは、南アジアで核危機が起こらない保障体制構築に向けた重要な第一歩だと思います。」と、オバマ大統領は付け加えた。

それとは対照的に、オバマ大統領は北朝鮮(と同国の核兵器実験)並びに(核兵器開発疑惑で非難されている)イランに対しては比較的厳しい態度で臨んだ。

バローズ氏はIPSの取材に対してインド、パキスタン両国は核兵器に使用する核分裂物質を生産していると語った。

パキスタンは、新たに2基の核兵器用プルトニウムが抽出可能な重水炉の建設を進める一方で、ジュネーブ軍縮会議による核兵器用核物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)に関する審議入りを妨害している。

伝えられるところでは、オバマ大統領はサミットにおいてギラーニ首相とカットオフ条約について協議したが、ジュネーブ軍縮会議での同条約の審議開始についてパキスタン側の協力を確約する返事は得られなかった。

「サミット自体、兵器用核分裂性物質の生産に関する問題を取り上げませんでした。」とバローズ氏は指摘した。

記者会見で拡大を続けるパキスタンの核開発プログラムについて問われたオバマ大統領は、「パキスタンは核物質の密輸といった核拡散防止に取り組むコミットメントを表明しています。米国の立場はパキスタンがNPTに加盟すべきだというものです。」とのみ語った。

一方、核政策に関する法律家委員会(LCNP)は、「市民社会は5月のNPT運用検討会議を活用して各国代表に対して、NPT加盟の如何を問わずそれぞれの核保有国が、他の核保有国に対する抑止力として自国の核兵器を維持する決意と見られることから、『核兵器なき世界』というビジョンは幻想にすぎないということを知らしめる予定です。」と語った。

1996年の国際司法裁判所(ICJ)による勧告的意見*で求められているような、全ての核兵器の廃絶に向けた普遍的なアプローチがなされない限り、『核兵器なき世界』というビジョンは幻想のままであり続けるだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan
 
* ICJによる勧告的意見(1996):「核兵器の使用や威嚇は一般的に国際人道法に違反する」、「NPT 参加国には、核軍縮交渉を誠実に行い完結させる義務がある」という2つの判断が示された。とりわけ、核兵器保有国に核軍縮にむけて「誠実に交渉を行う」という義務を定めたNPT第6条に対し、それまでの曖昧な解釈ではなく、「交渉するだけではなく、その交渉を妥結させ、具体的な成果を達成する義務がある」とした。

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

イラク戦争の現実を振り返る

0

【アンカレッジIDN=ダール・ジャメイル】

イラクの群集に向かって発砲する米軍ヘリの映像がリークされたが、これは侵略当初からつづく無差別殺人の状況を典型的に示したものだ。

映像は、4月5日、WikiLeaks.orgに流された。米軍のアパッチヘリから2007年7月に撮影されたものだ。この攻撃によって12人が殺害された。死者の中には、2人のロイター通信関係者も含まれていた。米軍は、映像は本物であることを認めた。

イラク戦争に3回従事したことのある海兵隊員のジェイソン・ウォッシュバーン伍長は、2008年3月に米メリーランド州シルバースプリングで開かれた「冬の兵士」集会においてこう証言した。「ある女性が近くを歩いていました。彼女は大きなかばんを持っていて、こちらに向かっているように見えました。それで私たちは、Mk19自動擲弾銃で彼女を攻撃しました。煙が消えたとき、彼女のかばんが食べ物でいっぱいであることに気づいたのです。彼女は私たちに食べ物を持ってこようとしていたのに、私たちは彼女を粉々にしてしまったのです」。

 交戦規定に関するパネルで発言したウォッシュバーン伍長によると、交戦規定はきわめてゆるく解釈されていて、ほとんど無きに等しいものにされていたという。

次第に兵士らは、「置き捨て兵器」や「置き捨てシャベル」を持っていくように指示されるようになった。兵士が誤って民間人を射殺してしまった場合に、死体の横に兵器やシャベルを置き捨てていくことによって、あたかも死者が「ゲリラ」であったかのように見せることが目的だった。

2004年11月のファルージャ攻撃に加わった海兵隊員のマイケル・レドゥックは、大隊の法務官から、「白旗を振っていて、ゆっくり近づきこちらの指示に従う様子の者がいれば、それは騙しだと判断して射殺してよい」と指示された。

元州兵のジェイソン・ムーンは、彼の上官が「ゲリラと民間人の違いは、死んでいるか生きているかだけだ」と話している様子を撮影したビデオを見せた。つまり、「もし民間人を殺してしまったら、事後的に、その人間が脅威でありゲリラであったことにする」というのである。

2005年から06年までイラクで従軍したスコット・エウィングは、米軍部隊は子どもたちの人心獲得のためにキャンディを配ることがあったが、目的はそれだけではなく、兵士の周りに子どもが集まっているとゲリラからの攻撃を受けにくく、「人間の盾」として機能するから、だと証言した。

冒頭のリークされたビデオに関して、国防総省は、映っている人々が戦士であったと米兵らが「信じるに足る理由があった」という見解を明らかにしている。

イラク戦争の実情をあらためて振り返る。

翻訳/サマリー=IPS Japan

世界に衝撃与えたアラル海の縮小

【ヌクスIDN=ラウシャン・バリカノフ】

国連の潘基文事務総長は、4月4日、消滅しつつあるアラル海を上空から視察した。また、岸辺にたった潘事務総長は、「『砂に埋まったまま打ち捨てられた船の墓場』以外には何も見えない。」と語った。

アラル海は、カザフスタンとウズベキスタンの間にある。かつては、世界第4位の広さを誇る内海であった。しかし、いまや、50年前の面積のわずか4分の1しか残されていない。

 アラル海は「島々の海」を意味し、かつてこの内海に点在した1500以上の島々が語源となっている。人類は、数千年に亘って、アラル盆地に注ぐ河川(アムダリヤ川、シルダリヤ川)の豊かな水の恩恵を受けてきた。残されている記録によれば、20世紀初頭には、アラル海周辺における灌漑農業は十分に持続可能な状況であった。

しかし、60年代から70年代に入ると、乾燥したソヴィエト中央アジアにおける綿生産のための水の消費量が多くなり、水が枯渇し始めた。アラル海の水面はかつて66,100㎡(琵琶湖の約100倍)であったが、1987年までには水量の60%が失われ、水深は14メートル減少した。その結果、水中の塩分濃度が2倍になりアラル海での漁業は不可能となった。

また、水位の減少により、アラル海とそこに流れ込む河川の生態系は破壊されてしまった。干上がった大地には大量の塩分と有害物質が残され、それが風で巻き上げられて周辺住民に健康被害が発生することとなった。ガンなどの発生率はきわめて高いと伝えられている。

現在ではアラル海の面積は50年前の25%程度に縮小し、北側の小アラル海と南側の大アラル海に分かれている。小アラル海についてはシルダリア川デルタにおける堤防建設で水量の回復が確保されたが、専門家よれば、大アラル海は向こう15年以内に消滅する見通しである。

中東アジア歴訪の最後の訪問地ウズベキスタンで同国シャヴカト・ミルズィヤエフ首相とヘリコプターでアラル海を視察した潘事務総長は、ヌクスでの記者会見で、「(アラル海の惨状にはショックを受けました。これは明らかに世界最悪の環境破壊のひとつです。あの広大な海が消失するとは…深い悲しみとともに強烈な印象が私の心に刻まれました。」と語った。この環境破壊の結果、アラル海周辺の住民は病気になり、土地は汚染され、塩分と有害物質を含んだ埃は、風に運ばれて遠くは北極圏にまで達する事態となっている。



「アラル海で起こっていることは、私たちが環境を無視して乱開発し、共通の自然資源を破壊すれば、どのような事態になるかをまざまざと示しています。」
 
 その後首都タシケントで開かれた夕食会で講演した潘事務総長は、「今回のアラル海の上空からの視察は、2008年に視察したアフリカのチャド湖を彷彿とさせるものでした。チャド湖の場合もアラル海の場合と同じく、数百万人におよぶ周辺住民に深刻な被害を及ぼしながら水面の大半が消滅してきたのです。」

「私は、アラル海の悲劇は中央アジア諸国のみならず、全世界の集団責任だと思います。今回の視察でアラル海の問題に取り組む中央アジア諸国政府の様々な試みを知り、感銘を受けました。」

潘事務総長は、中央アジア5カ国のイニシャチブで設立されたアラル海救済国際基金を評価するとともに、同基金の努力に国連も支援していくことを約束した。

「私たちは地球環境に対してより良き管理人にならなければなりません。私たちは子々孫々が安心して環境的にも持続可能な生活ができるよう、地球環境を守り受け継いでいく道義的、政治的責務があるのです。」と、潘事務総長は語った。

アラル海とそこに流れ込む河川の生態系は、とりわけ塩分濃度の上昇によりほぼ破壊された。またアラル海周辺の土壌は汚染され地域住民は水不足と様々な健康被害に苦しんでいる。

水面が後退したことで塩分と有害物質で覆われた湖底が表出し、これに風が吹き付け、有毒な埃となって周辺地域に拡散している。アラル海周辺の住民の間では高い率で癌をはじめとする様々な呼吸器系の病気が発症している。地域の穀物も土壌に堆積した塩分により破壊された。

国連は、このまま何の手当てもしなければ、アラル海は2020年には消滅してしまうと見積もっている。

アラル海の生態系の破壊は、突然始まり急速に進行した。1960年代の初頭から、ソ連が「自然改造計画」の一環として実施した綿花栽培のための灌漑やアムダリア川の上流部にカラクーム運河を建設したことにより、アラル海の水位は激減した。

その後もウズベキスタン、カザフスタンをはじめとする旧ソ連を構成する中央アジア諸国は、漁獲高の減少、水質・土壌汚染、汚染大気物質の飛散を含む様々な環境被害が広がっているにもかかわらず、綿花をはじめとした輸出用作物を栽培するためにアラル海に流入するはずの水を使い続けた。

灌漑農業を編重した政策はその他にも直接的な被害を引き起こした。この時期、デリケートな生態系を持つ流入河川のデルタ地帯は穀物地帯に転換され、アラル盆地周辺の全地域において大量の殺虫剤が使用された結果、アラル海の水質汚染は深刻なレベルで悪化していった。また過剰な灌漑の結果、多くの耕作地に塩が集積された。

1990年代初頭までにアラル海の表面積は約半分に、水量は25%程度まで減少した。その結果、多くの副次的影響が表面化し始めた。例えば地域の気候が、より大陸的なものとなり、作物の生育期間が短くなったことから、綿花から水稲に切り替える農家が続出した。しかし水稲は綿花よりより多くの水を必要とするため問題はさらに深刻化した。

アラル海の縮小によりむき出しとなった地表は28,000㎡に及び、推定4300万トンの塩分と殺虫剤を含む堆積物が強風で周辺地域に運ばれ、深刻な健康被害をもたらしている。

このアラル海を起源とする汚染された砂塵嵐は、遠くは北極圏やパキスタンでも観測されている。その結果、特に呼吸器疾患が広がり、咽喉癌が急増した。またアラル海地域の植生の減少は年間降雨量の減少に繋がったとみられている。

カザフスタン・ウズベキスタン・トルクメニスタン・タジキスタン・キルギスは1992年にアラル海再生に向けた相互協力を約した協定を締結したが、その後ほとんど有効な対策はとられなかった。同諸国は1994年1月に再び会合を開き、各国が節水を努力しアラル海救済国際基金に拠出することが合意された。しかし、同基金によると、アラル海の縮小は今日も進行中で、南側の大アラル海は消滅の危機に瀕しており、その将来は不透明なままである。

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

関連記事:
│キルギス│新たなる大国間競争が始まる

軍縮をすべき10億の理由

【バルセロナIDN=バドリヤ・カーン】

「世界には武器があふれており、他方では飢餓が蔓延している。」これは何も新しいスローガンではない。これは、世界が年間1兆ドル以上を武器に費やす一方で、10億人以上が腹をすかせているという証明済の事実を述べたものだ。

 最新の数字を見る限り、今日の世界では軍縮を進める10億の正当な理由がある。しかし現状を変革できるチャンスは、あったとしても限りなくゼロに近いものだ。 

なぜなら、武器取引という商売が、あまりにも莫大な利益を生む、そして政府や道理をも超越した強大な政治力を持った産業だからである。 

ここにいくつかの具体的な事例を紹介しよう。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が今年4月に発表したところによれば、世界の軍事企業トップ100社による2008年の武器売り上げは(前年比で)390億ドル増加して、3850億ドルに達したことが明らかになった。 

米国企業が依然としてリストの上位を占めているが、今回はじめて、非米国企業であるBAEシステムズ(英国)がトップの座に躍り出た。 

「引き続き、アフガニスタンとイラクにおける戦闘が、装甲車両、無人航空機、ヘリコプター等の軍装備売り上げに大きく貢献している。」とSIPRI報告書は説明している。 

軍事企業トップ100社のうち、45社が北米企業(1社を除きすべて米国)で売上高は全体の60%を占めている。以下、34社が西欧企業(売上高32%)、7社がロシア企業(売上高3%)、それに、日本、イスラエル、インド、韓国、シンガポールの企業が続いている。 

欧米先進諸国の実態 

これは世界の武器取引の実に95%が、民主主義、自由、人権の擁護者を自認する米国及び西欧諸国によって行われていることを示している。まさにこれらの国々こそが、いわゆる「自由のための戦争」をとおして、自由の擁護者たる自らの価値モデルを、組織的に世界に押しつけてきたのである。 

さらに事例を紹介する:装甲車両を製造している米企業ナヴィスター(Navistar)社の売上高は1年で960%増加した。 

ロシア企業Almaz-Antei 社は、2008年に初めてトップ20入りした。 

軍事企業トップ100社のうち、前年より売上げを落としたのはわずかに6社に過ぎず、一方で年間売上を10億ドル以上伸ばした企業が13社、また、売上高を30%以上伸ばした企業は23社にのぼった。 

SIPRIによると、こうした軍事企業の売上が伸びた要因には、アフガニスタン、イラクの戦場に要する軍事装備・物資の調達需要に加えて、軍事トレーニングサービス関連の売り上げが世界的に伸びたこと等が挙げられる。 

一方、国連はより驚くべき数字を発表していている。すなわち世界全体で武器購入に費やされる予算が年間1兆ドルを大幅に超えており、さらに増大傾向にあるというのである。 

軍縮 

この数値は、国連の潘基文事務総長が4月19日に開催された軍縮に関する国連総会の会合において明らかにしたものである。 

「世界には武器があふれており、他方では飢餓が蔓延しています。」と、潘事務総長は軍縮と安全保障に関する討議に先立って、国連総会の出席者に語りかけた。 

「優先順位を変えるべきです。軍縮を進めることにより、私たちは(軍事予算から)解放された資金を、気候変動対策や、食の安全保障への取り組み、さらにはミレニアム開発目標の達成のために活用することが可能になるのです。」と、潘事務総長は語った。 

また潘事務総長は、大量破壊兵器のみならず、通常兵器を規制していくことの重要性を強調した。「小型武器が誤った人々の手に堕ちれば、多くの命が失われ、平和への努力は阻害され、人道支援は妨害を受け、麻薬などの不正取引が蔓延り、投資や開発が滞ることになるのです。」と、潘事務総長は語った。 

国連総会のアリ・トレキ議長は、5月の核不拡散条約(NPT)の運用検討会議を成功させ、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効に向けた具体的な手順を踏んでいけるよう、加盟各国に協力を求めた。 

またトレキ議長は、「(核問題にのみならず)国際社会は、小型武器を含む通常兵器の生産、使用、輸出入についても、真剣に取り組んでいくことが極めて重要です。」と述べ、生物化学兵器拡散の脅威にも取組んでいく必要性を強調した。 

日常の脅威 

トレキ議長によれば、一方で、核兵器は実に悲惨な効果を伴なったとはいえ人類史上二度(広島・長崎への原爆投下)しか使用されていない。しかし、通常兵器は日常的に世界各地で紛争に火を注いでおり、国際社会の平和と安全保障に対する深刻な脅威となっている。 

トレキ議長は、「さらに(核戦力とは異なり)通常戦力では力の不均衡が即、『脅威認識と軍拡競争』に結びつき、地域・国際間の平和と安全保障を脅かす問題へと発展するのです。」と警告した。 

一方、潘事務総長は、4月13日から14日にかけてワシントンで開催された核安全保障サミットの成果を踏まえて、テロリストの核関連物質入手を阻止する努力を具体化することを目的とした、一連のハイレベル会合の開催を提案した。 

国連総会は5年前に、「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(核テロリズム防止条約)」を採択しているが、今日までに批准した国は、国連加盟国の3分の1にあたる65カ国にすぎない。 

潘事務総長は、「これは全く満足できる状況ではありません。」と述べ、全ての核分裂性物質の備蓄状況を正確に管理する透明性のある管理体制と、その生産を抑制する信頼できる国際的な仕組みを作る必要性を強調した。 

また潘事務総長は、「検証可能で法的拘束力がある核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約が発効しない限り、どのような努力も中途半端な結果に終わってしまいます。」と述べ、ジュネーブ軍縮会議が一刻も早くカットオフ条約締結に向けた協議を開始するよう繰り返し強く要請してきたことを指摘した。 

犠牲者は増加し続ける 

大量破壊兵器の絶え間ない脅威から世界を開放すべきだとする様々な呼びかけがなされている一方で、そうした兵器の大半が米国及び西欧諸国によって絶え間なく日々生産・販売されている現実は、意図的に無視されている。 

例えばこの現実が意味することは、世界が武器購入に費やす年間1兆ドルの資金があれば、気候変動に伴う災害から十分地球を救えるということである。 

また、人類の6人に1人にあたる10億2百万人が恒常的に飢餓に苦しんでおり、一人当たり1.5ドルの支援を1週間継続するだけで、地球上から飢餓を根絶できることも明らかにされている。 

飢えている10億の人々救うのには、年間440億ドルしかかからない。この金額は毎年軍需産業に費やされている1兆ドルからしてみれば、ごく僅かな金額である。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan戸田千鶴 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事: 
|軍縮|核兵器に反対しつつも伸び続ける米国の武器輸出
NPT運用検討会議に何千人もの反核活動家が集う