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|ベトナム|枯れ葉剤被害者救済の道は断たれたか

【ハノイIPS=ヘレン・クラーク】

ベトナム戦争中に米軍によって大量に撒布された猛毒ダイオキシンを含む枯れ葉剤のベトナム人被害者に正義は訪れるのだろうか。3月2日米国最高裁は、米化学薬品大手ダウモンサント2社に対するベトナム被害者の上告審を棄却した。

以来地元紙は人権が踏みにじられたと報じ、外務省のLe Dung広報官は国は憤慨していると述べたが、2004年に始まった訴訟は終わりを迎えるようだ。米国の裁判所は、枯れ葉剤と奇形などの先天的異常の因果関係は認められないと裁定。さらに米国の法律では、これらの企業は政府の命令で行動したので訴追を免れる。

 希望の道は、友好協会やNGOそしてオバマ新政権に対する圧力強化など、「ソフトパワー」の面から開けるかもしれない。

オーストラリア国防軍士官学校のカール・タイヤー氏は「現政府はこれを二国間関係の障害にはしたくないと考えているが、何らかの補償を要求している有権者を抱えている。国家統制下にあるメディアや政府高官の非難は、真の不満の表れと言えるだろう」と述べている。 

さらに続けてタイヤー氏は「枯れ葉剤の汚染地帯の浄化の援助に300万ドルを割当てるなど米政府の対応と、次第に改善しつつある国家安全・防衛上の提携には、暗黙の関連があると思う。枯れ葉剤問題は、ベトナムの政治制度や社会全体に影響力を及ぼしうる道を米国に与えている」と言った。 

オバマ政権に期待を寄せる者もいる。英越友好協会のレン・アルディス事務局長は3月2日の最高裁の決定に抗議して、オバマ大統領宛の公開書状を2通用意、「裁判所の決定にもかかわらず、大統領には枯れ葉剤被害者と家族に損害賠償を支払う政策を策定する権限がある。それは大統領の道義的責任である」と訴えている。 

ベトナムの人々は、枯れ葉剤の使用を引き起こした戦争についてもはやこだわっていないと言いながらも、枯れ葉剤に対する思いは大きい。戦争は過去のことだ。しかし先天的異常をもって生まれてきた子どもたちや癌に苦しむ復員兵は違う。 

1984年には米復員兵との和解で1億8,000万ドルの補償金を支払った米政府だが、ダイオキシンと先天的異常の因果関係を否定している。 

第3世代まで影響が出ているベトナム枯れ葉剤被害者問題について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

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│ハイチ・ドミニカ│連帯するハイチの移住労働者

【サントドミンゴIPS=エリザベス・イームス・ローブリング、オーグスト・キャンテイブ】

雨の降るある土曜の夕方、サントドミンゴの労働者街にある雨漏りのする車庫にハイチの移住労働者たちが集まり、住民組織を結成した。彼らはみなドミニカ共和国において差別された共通の体験を持っている。 

ある人は、ハイチ人がドミニカ人に殴られ、歯を6本も折るのを目撃した。しかし、目撃していた彼は不法滞在だったため、助けを呼ぶことができなかった。

 ある人は、ハイチ人がドミニカ人に殴られ、歯を6本も折るのを目撃した。しかし、目撃していた彼は不法滞在だったため、助けを呼ぶことができなかった。 

建設現場で働くフランソワ・フェリペさんはこう言う。「ハイチ人に対するいじめは毎日のようにある。建設現場はハイチ人を労働者として必要としていて、ドミニカ経済にとってハイチ人は重要なのに、私たちの権利は侵害され続けている」「他の外国人なら、お巡りから身分証明を求められても、『家においてきた』といえば、それで見逃してもらえる。でも、ハイチ人はそうはいかない」。 

ハイチ人移民の教育程度は低く、身分を証明するものを何も持たないというイメージは、今回ここに集まった人々に関しては誤っているようだ。住民組織結成の集まりに来た54人のうち、ハイチのパスポートを持っていないのはわずか1人だけ。20人は、ドミニカ共和国の正式なビザを持っていた。 

しかし、ハイチ人がドミニカで居住権を得るのは非常に困難だ。第一ステップは1年間の暫定居住権を得ることだが、手続きはきわめて煩雑である。申請者は、資格を持った翻訳者がスペイン語に訳した出生証明、有効なパスポートから必要部分のコピー、HIV・結核の感染や麻薬使用などがないことを証明する血液検査、写真4枚、ドミニカ警察からの善行証明、ドミニカの合法的な住民からの身元保証などをそろえなくてはならない。さらに、少なくとも2800ドルの預金が必要だ。 

こうして初めて1年間の暫定居住権がえられるが、永住権を獲得するには、1年後にまた同じ手続きを踏まなくてはならない。 

ハイチの移住労働者たちの集まりは、ハイチで皆がそうするように、祈りの儀式に始まり、祈りの儀式に終わった。 

ドミニカ共和国での差別と闘うハイチ人移住労働者について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 

|政治|危機感漂うオバマ政権のアフガン新戦略

【ワシントンIPS=アリ・ガリブ】

米国主導のアフガン戦争の新戦略が来週にも発表される予定で、戦争で荒廃した中央アジアと不安定な隣国パキスタンにおけるその詳細が徐々に明らかになってきた。オバマ大統領はアフガニスタンに17,000人の増派を決定し、特殊部隊からの要望があればさらに13,000人増派の予定である。

ニューヨークタイムズと米政府高官のインタビューによると、タリバンによる反乱増加を静めるためにタリバンの強硬派のイデオロギー信奉者たちを寝返らせる計画を取ると言う。

オバマ米大統領はアフガニスタン兵士の少なくとも70パーセントはタリバンやアルカイダの原理主義の目的に忠実ではないという見方をしている。

 
アフガン新戦略は、マイク・マレン総合参謀本部議長、デイビッド・ペトレアス米中東軍司令官、ダグラス・ルート米陸軍中将、ボスニア戦争和平合意の立役者リチャード・ホルブルック特別代表ら、軍指導者の個々の評価に基づいて作られる。元中央情報局(CIA)中東専門家でアフガン新政策提案の責任者として起用されたブルース・リーデル氏がこれらの評価をまとめる。

オバマ政権のアフガン新戦略の概要は国際危機グループ(ICG)が13日に発表した報告書「Afghanistan: New U.S. Administration, New Directions」に重複する部分が多くあるが、ICGの戦略の方が戦闘を起こすことにより慎重で、アフガン政府が目指す目的を達成させることにもっと焦点を当てている。

タリバン構成員の中には必ずしもタリバン指導者の原理主義の熱意を持ち合わせていない人も多く存在し、米軍は彼らに報酬金を与えて米軍側に寝返らせればアフガン政府に対抗する反乱を抑えることができる。実際敵の戦闘人員を徐々に減らしていくこの方法はイラクで成功した。しかしICGはその戦略をアフガニスタンで採用することに賛成してはおらず、アフガニスタンはすでに武器と武装グループであふれており、責任所在のない傭兵を増やすことは結局民族緊張と暴力を悪化させるだけだと報告書で述べている。

ICGはまた報告で、並列構造に焦点をあてるよりも、アフガニスタンという国家づくり、法の原則強化、蔓延した政治汚職、民主主義の実現を図ることに力を注ぐべきだと言う。

楽観できないオバマ政権のアフガニスタン新戦略について報告する。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩

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不当な扱いを受けるHIV陽性の女性移民労働者

【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール】

裕福なアラブ首長国連邦には家庭内労働者の職を求め、年間何千という女性がアジアからやってくる。しかし、HIV陽性の告知を受けると、彼女達の生計を立てるための旅は屈辱的な結末を迎える。 

移民に取組むNGOネットワークの一員で、マニラに拠点を置く「達成(Achieve)」とも呼ばれる「健康イニシアチブ活動(Action for Health Initiative)」の責任者マル・マリン氏はIPSの電話によるインタビューに次のように述べている。

 「家庭内労働者達は2年毎の契約更新の際、HIV抗体テストを受けねばならないが、結果に対するカウンセリングはない。労働者がHIV陽性とわかると雇用主に連絡がいき、労働者であり弱い立場の女性たちは帰国日まで病院の収容センターで行動を制限される。そして、自分の荷物もそのままで、支払い予定の給与も受取ることを許されず強制送還させられる。その後は2度とアラブ首長国連邦で働くことが出来ない。」 

国連開発計画(UNDP) と国連エイズ合同計画(UNAIDS)により3月第2週に発表された「アジアからアラブ諸国への移民女性のHIV感染脆弱性」の中で、女性達が直面する問題の規模が明らかになった。 

女性達は安全性が保障されていない所で仕事に就き、困難な環境に居住し、滞在中や母国との移動中に性的搾取や暴力を受けることも多い。医療サービスや社会的保護を受けられないことが相まってHIV感染脆弱性が高い。また、調査をしたバーレンやアラブ首長国連邦等の湾岸諸国では特に司法や補償制度を受けられないか、受けられても限られていることが多い。母国へ帰ると、差別、社会的孤立が待っており、生計を立てる代わりの手段も見付けにくい。 

インドネシア、フィリピン、スリランカ等移民労働者の母国で家庭内労働者のHIV感染者が報告されており、バングラデシュ、パキスタン、フィリピン、スリランカなど、HIV患者数が少ない国ではHIV患者数の大半を移民労働者が占めている。 

2007年ジュネーブで開催された世界保健機構 (WHO) 加盟国の年次総会で、パキスタンが南アジア諸国のこうした現状に憂慮を表明したことを受けこの国連報告は作成された。その時パキスタンは、この問題に関して他のアジア諸国と話し合う機会を設けたが、アラブ諸国にとってはデリケートな問題だとUNDP-UNAIDS報告書の編集者マルタ・ファレホ氏は言う。 

報告書によれば、移民労働者が本国に送金する額はかなりの額の外国為替となり、母国と働き先の国にかなりの経済的恩恵をもたらしているのでアジア諸国は心配なのだという。 

2007年、アラブ諸国で働くフィリピン人が母国へ送金した額は21億7,000万ドル、報告書発行時点でスリランカの移民労働者の送金額は30億ドルだ。バングラデシュ中央銀行によると、貧しいバングラデシュでは去年の6月までの会計年度中、アラブ首長国連邦からのみで8億480万ドルが送金され、それは全送金額約60億ドル中の7.4%にあたる。 

 国際労働機関(ILO)によると、湾岸協力会議(GCC)(アラブ首長国連邦・バーレーン・クウェート・オマーン・カタール・サウジアラビア)内の外国人労働者数は約950万人にのぼり、内750万人がアジアからだった。 ILOアジア・太平洋総局専門委員長マノロ・アベーラ氏は、「インドネシアの移民労働者のほとんどがサウジアラビア行きの女性で、スリランカは75%が女性、フィリピンは85%が女性だ」と言う。 

「家庭内労働は中東では労働法下にないので労働者は弱者になる。給料の未払いにも労働法違反にも法的手段は一切取れない。」 

「雇用契約で保護がうたわれていても、屋内に閉じ込められている労働者達はめったに権利を訴えられない。家庭内労働者は100%雇用主の支配下にいる。」 

家庭内労働者として海外へ働きに出掛け、過酷な労働条件のなか性的虐待によりHIV陽性となり、将来が閉ざされるアジアの女性達について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

|パキスタン|「長征(long march)」と長期展望

【カラチIPS=ビーナ・サルワル】

総選挙から1年、パキスタンの政治状況はいまだ不穏である。弁護士たちを先頭にした多くの政治勢力が、long marchに参加している。 

2009年2月18日の総選挙では、宗教色のない政党が支持を集め、ベネジール・ブットのPPP(パキスタン人民党)もナワズ・シャリフのPML-N(イスラム教徒連盟シャリフ派)も拒絶された。政治的対立の収束と政治と宗教の分離を望む、選挙民の声である。 

80年代パキスタン政府は、米国からの圧力もあり、ソビエトをアフガニスタンから排するために、宗教心を利用して軍事力を強めていた。「ジハード・インターナショナル」が誕生したのも、その中からであった。2001年の9.11以来、今度は国内のイスラム武装勢力と戦う、前線としての役割を担うことになった。その結果、世界で軍事攻撃のもっとも多い地域となっている。

 long marchは、チョードリー前最高裁長官の復職を求めるものである。チョードリーは、2007年1月、当時のムシャラフ大統領により、非常事態宣言の直前に解任された。さまざまな政治組織が、この復職要求運動に組みしている。シャリフ以外は2008年の国民投票をボイコットした勢力である。 

今回PPPとPMD-Nの間で緊張が高まったのは、最高裁が2月25日にシャリフとその兄が出馬することを停止したことにある。ブットの夫、アシフ・アリ・ザルダリ大統領が促したと言われている。シャリフがlong marchに参加しているのは、チョードリー解任の不合理を純粋に訴えるものではなく、政権交代が目的である。 

アナリストのクアドリ氏はガーディアン紙で、「個人的なパワーゲームや、部族闘争を超えて、民主主義を育てていこうという大きな視点に立てない」と、政治家たちを批判している。(“Long march to nowhere”, The Guardian, Mar.10,2009) 

 またムシャラフ元大統領による、先週のインド訪問も無関係でない。同氏はインド政府に対し、タリバンら武装勢力に対抗する砦となっているパキスタン軍を、敵視しないよう要請したと言われている。ムシャラフは、チョードリーを解任したのち、政治力を行使して、大量の逮捕者を出し、当時のlong marchを阻止した。 

ザルダリ大統領も今回、同様のことをするであろうと思われている中、long marchを支援する女性活動家タヒラ・アブドラの家に警察が押し入り、身柄を拘束した。事件はメディアの注目を集め、困惑した政府は同氏を3時間で釈放した。アブドラ氏は、「タリバンの首領たちを逮捕せずに、私のような一般市民を事前逮捕する政府に、失望している。」とIPS記者に語った。 

アブドラ氏のような生粋の活動家ですら、チョードリーの復職を求めるlong marchにおいては、右派連合と協調していることは、皮肉である。市民活動家らは、IPS記者の取材に応え、「我々は少人数であり、弁護士にしても全国で10万ほどである。他のことはともかく、チョードリーに関して歩調を合わせ、お互いに利用しあうことはやむを得ない。」と語った。 

しかしこのような“相互利用”が右傾化を促すと危惧する人々もある。かつて学生活動家で政治経済学者のS.M.ナシームは、「弁護士らの活動は、与野党の両方を批判しながら、新しい政治的組織、制度を構築できないのが、弱点である。正直だ、勇敢だ、とはいえ、ひとりの復職のためだけに、2年が過ぎている。」と述べている。 

さらにギーラニ首相は、long marchを「民主的な権利」として、否定していない。ザルダリ大統領に反旗を翻すことになるが、首相解任は、政治混乱を避けるためにも、ないであろうと言われている。 

PPPとPML-Nの妥協への動きがあるものの、各都市から弁護士らを先頭にしたlong marchはイスラマバードに向かっている。3月16日に集結し、座り込みに入る。long marchのリーダーたちは否定しているが、暴力に発展するのではと懸念されている。 

さまざまな政治勢力の思惑が交錯するパキスタンの政治状況について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩

|中東|平和・共存を呼びかける女性デュオ

【エルサレムIPS=ジェロルド・ケッセル、ピエール・クロシェンドラ】

毎年5月になるとヨーロッパ諸国や地中海沿岸国から国を代表する歌手が集まり、国別対抗の大々的な音楽祭が開かれる。今年の『ユーロビジョン・ソング・コンテスト』はモスクワで5月12日から16日までの日程で開催され、テレビ視聴者は1億人を超えると見られている。 

歌唱力・振り付け・華々しさなどコンテストには様々な評価基準があるが、特に今年度は「イスラエルによる戦争行使の正当性」の問題をめぐる評価・議論が紛糾し、政治色の強いコンテストになると予測されている。 

イスラエルの放送局(IBA)はイスラエル代表として生まれの異なる女性デュオを選んだ。ユダヤ系イスラエル人のAhinoam Nini(39)さんと、アラブ系イスラエル人の血を引くMira Awad(33)さん。彼女たちは2人とも平和主義者である。

 「我々は過激な民族主義に傾倒してはいけない」とAwadさん。家族がイエメン出身のNiniさんも「平和と共存こそが必要だ」と訴える。 

しかし、2人に向けられる視線は様々だ。「彼女たちはイスラエルの広告塔だ」、「多くのパレスチナ人が殺されているのにユダヤ人とアラブ人の共存なんて有り得ない」、「彼女らは夢見る理想主義者である」などの批判的意見も多い。有名なパレスチナ人俳優ムハンマド・バクリー氏も「戦争擁護者に利用されているに過ぎない」と話した。 

一方、イスラエル人は平和を訴える彼女たちの歌声が多くの人々の心を動かすこと、イスラエルに対する偏った考えに何らかの変化をもたらすことを望んでいる。民族の対立を超えた女性デュオについて報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 


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|オーストラリア|危機にひんする先住民族の言語

【メルボルンIPS=スティーブン・デ・タルチンスキ】

オーストラリアの言語は主に英語で、その他にイタリア語、ギリシア語、広東語、アラビア語などが使用されている。さらに100を超える先住民族の言語が話されているが、その今後が危ぶまれている。 

2005年の全国先住民族言語調査報告書によると、250の先住民族言語のうち全年齢層で話されているのは18言語で、110言語は高齢者だけしか使っていない。その他は消失した。アボリジニ・トレス海峡島しょ民言語連盟(FATSIL)のP.ハーバート氏は「先の見通しは暗い」という。

 言語と文化の多様性を推進するための国際母語デーの2日前、2月19日に発表されたユネスコの「Atlas of the World’s Languages in Danger(危機にひんする世界言語地図)」の新版によると、世界のおよそ6,000の言語のうち、2,500が危機にある。 

危機にある先住民族言語を懸念して、ハーバート氏は下院宛ての請願書を作成し、国の先住民族言語政策の策定を求めている。請願書は教育や地域社会における言語の重要性を訴えるとともに、そうした言語を保存あるいは再導入する動きも紹介している。 

さらに、昨年12月に無党派のオーストラリア教育研究審議会が作成した「A Way Forward(ひとつの進展)」という報告書によると、16,000人の先住民族の生徒と13,000人の先住民族以外の生徒が先住民族言語プログラムに参加し、80の言語が260の学校で教えられていた。 

ジラード教育相は先住民族言語の学習を支援すると言っているが、予算は他の言語と比べてはるかに少ない。「先住民族言語の保護は文化の保護につながる」とハーバート氏はいう。 

モナシュ大学先住民族研究センターのJ. ブラッドレー氏も言語と文化は切り離せないと主張している。同氏はオーストラリア北部のヤニュワ族の人々と、過去30年にわたり、言語を含む自然や文化の維持にかかわってきた。 

ヤニュワ語を保存するために、ブラッドレー氏と専門家チームは地域社会の人々とともに二言語用のアニメを作成している。これにより若い世代だけでなく、未来の世代にもヤニュワ語とその文化に関する知識を伝えることが期待されている。 

オーストラリアの先住民族言語を保存する活動について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

未だに苦しんでいる元セルビア兵士たち

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【ベオグラードIPS=ヴェスナ・ペリッチ・ジモニッチ

セルビアの軍事医療アカデミーが『セルビア退役軍人の健康状態と保健ニーズ』と題する報告書を発表した。セルビアの元兵士たちが、バルカン半島での軍事紛争終結から10年近くたった今もなお、苦しみ続けていることが明らかにされている。 

1991年から95年にかけてのクロアチア、ボスニアでの戦争、1998年から99年にかけてのコソボでの戦争に参加したセルビア人は約40万人と推計されている。セルビアの人口は750万人。 

調査対象は2399人の元兵士で、平均年齢は45.7才。そのうち、実に84%の元兵士が、主に心臓や血管などの慢性的な健康問題に悩まされている。また、54.1%が精神上の健康問題を抱え、3分の1が鬱やアルコール中毒を患っている。

 8.8%の元兵士は、いまだに心的外傷後ストレス障害(PTSD)にかかっている。過去にPTSDにかかっていた者も20%近くに上る。 

調査チームのひとりであるスピリッチ博士は「国際的な調査では、PTSD患者の3分の1が自力で回復し、3分の1が治療を受け、残り3分の1が永久にPTSDから抜け出すことができない」と話す。 

しかし、苦しんでいるのは元兵士だけではない。民間人もまたそうなのだ。非暴力行動センターのネナド・ブコサブイェビッチ氏によると、バルカン半島での武力紛争によって300万人が家を追われ、20万人が何らかの形で収容所に入ったことがあるという。 

人びとに心の平穏が訪れるには、まだまだ時間がかかりそうだ。 

元セルビア兵士の健康状態に関する調査について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 

スーダン大統領訴追をめぐり問われる国際法廷の合法性

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国際刑事裁判所(ICC)による逮捕状を受けてのスーダンのオマル・ハサン・アル・バシール大統領の行為は好ましくない。しかし、米国をはじめ世界の大国がICC非加盟であるのはいかがなものか」。コロンビア大学法学部のマイケル・ラトナー助教授は述べた。 

ICCは異例とも思われる現職大統領への逮捕状発行に踏み切った。これに対しバシール大統領は猛反発。外交官や外国人活動家をスーダンから国外退去をさせると脅し、先週13のダルフール支援団体を国外追放した。 

一方、ICCが設立されて6年になるがこれまでに起訴されたのはコンゴ民主共和国のトマス・ルバンガ(Thomas Lubanga)被告ただ1人。有罪判決は未だに出された事もない。逮捕状が出された13名の被告のうち4名は拘留されており、残りは逃亡中あるいは死亡したと見られている。

 このような現状に、専門家からはICCの存在に疑問を投げかける声も出始めた。「ICCが起訴するのはアフリカを中心とした途上国の人間だけ。米国や欧州に戦争犯罪人はいないのか」。 

米国では国連平和活動への参加を条件に戦犯の訴追から免責を受ける事ができる。スーダンの特使は、「米国はICCに加盟もせず、ICCを上手く利用しているだけ」とし、豊富な天然資源を有するスーダンに対して米国が石油利権獲得を狙っていると非難した。 

ヒューマン・ライツ・ウォッチのリチャード・ディッカー氏は国際司法制度の『ダブル・スタンダード(2重規範)』について、「国際法上まだ歴史の浅い制度であるため、西側諸国とその他の国々の間に不公平が生じてしまうのは否めない」と語った。国際司法制度のあり方について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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「取り戻そう分かち合いの文化」ガスル・ムブル氏へのインタビュー

【ナイロビIPS=テルナ・ギューズ

アフリカの緑の革命(AGRA)は、ウェブサイト上で、アフリカの総体的食糧安全保障および生計は世界でも特異な悲劇的状態にあると述べている。同問題に取り組むAGRAプログラムは、本当にアフリカに適したアプローチなのだろうか。

同計画に異議を唱える人々は、同プログラムはアフリカの食糧生産の核をなす零細農家ではなく商業的農業に寄与するもので、作物の多様性、伝統的農業知識の喪失をもたらすと主張している。同問題について、ナイロビを拠とする文化エコロジー研究所のガスル・ムブル所長に聞いた。

IPS:緑の革命はアフリカで既に試されているのですか。

ガスル・ムブル:アフリカの全ての国で肥料や除草剤が使用され、多くの改良種も紹介されていますから、それぞれの方法で緑の革命は行われていると思います。

IPS:その結果は?

GM:商業的農業では、パッケージとなっている肥料、農薬、種を買うための継続的資金が得られますから、成果が出ています。

IPS:アフリカの食糧安全保障は小規模農家が担っていると聞きますが、緑の革命が彼らに利益をもたらさないのは何故ですか。

GM:実を言えば、緑の革命は彼らの農業システムを崩壊させているのです。このモデルでは継続的に改良種子を購入しなければならないのですが、小規模農家の収入は不安定でそれができないのです。収穫が悪ければ、翌年は肥料、農薬どころか種子を買うこともできません。

IPS:緑の革命はアジアでは成功しましたが。

GM:アジアは生産性の高い作物の栽培で成功しましたが、作物の多様性が失われました。基本的に緑の革命は作物の多様性を問題としないのです。

IPS:アフリカの小規模農業を支えているのは女性です。緑の革命がジェンダー問題に与える影響は。

GM:AGRAはアフリカの女性地位向上にとどめを刺すものです。AGRAは銀行ローンにより行われますから、銀行口座を持たない女性は資金を手にできません。ローンを獲得できるのは男性で、それも農業従事者ではありません。この資金は女性支援に使われるどころか彼女たちを奴隷状態に追いやるのです。

IPS:緑の革命がアフリカに適さないとしたら、どの様な代替策があるでしょう。

GM:アフリカが必要としているのはローカルな革新、つまりエコ農業、多様な作物から取れる自前の種の使用、地元農家支援のための法の確立、原生植物の耕作技術開発などです。

IPS:実践例はありますか。

GM:ジンバブエでは緑の革命のフィージビリティー・テストが行われました。同国ではオーガニック運動も盛んです。ケニアでは、オーガニック農業を促進しているNGOがあり、食の安全への関心の高まりにより我々は文化を取り戻さなければなりません。収益を上げています。またインドでも、エコロジー農業への回帰が食の確保に必要だとの認識が高まっています。私は、世界のいかなる企業も意義ある社会変換をもたらすことはできないと考えます。緑の革命は利益に基づくものです。真の社会変革は人によってもたらされるものです。

アフリカの緑の革命をテーマとしたケニア文化エコロジー研究所所長とのインタビューを紹介する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩