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│インド│愛の道に立ちはだかる「強姦」

【スリナガルIPS=サナ・アルタフ】

2008年に結婚してからほんの数日で、イムラン(仮名)は、スリナガルの監獄に押し込められた。妻のシャフィーンを拉致し強姦したという罪(当の妻は夫の罪状を否定)で2010年まで2年間に亘って収監されたのだった。ところが、イムランを告発したのは、彼が自分たちの娘と結婚することを快く思っていなかったシャフィーンの両親だったのである。

 インドでは恋愛結婚が「名誉殺人」につながることが少なくないが、ここカシミールでは、家族が嘘の強姦の告発を行うことで、子ども達の結婚や恋愛を妨害するケースが増えてきている。

政府はジャンムーカシミール州の9月議会において過去4年間(2006年~10年)における強姦の認知件数を公表した。それによるとスリナガルにおける認知件数が最も多く、120件となっている。

しかし、法律専門家によると、カシミールの地方裁判所で係争中となっている強姦事件のうちの多くが、立件するには十分な証拠に欠けているという。

この点についてシェイク・モハマド・スルタン弁護士は、「こうしたケースのほとんどは、駆け落ちしたり、恋愛結婚や恋愛に走った娘を持つ親によって告発されたものです。残念ながら、実際におこった強姦や暴行については、それにまつわる汚名を恐れて実態が表に出てこない傾向にあります。」と語った。

イムランとシャフィーンは長らく恋愛関係にあったが、2008年に彼女の親の反対を押し切って駆け落ちし、結婚した。現在夫婦は結婚3年目である。

イムランの弁護士であるイルファン・マット氏は、「しかし、シャフィーンの両親が娘をついに発見し、地元の警察にイムランが娘を誘拐して強姦したと訴えたのです。」と語った。

またマット弁護士は、「警察は、両親の訴えを受け入れてシャフィーンとイムランを逮捕しました。さらに、2人が正式に婚姻関係にあることを証明しようと結婚証明書(Nikah nama)を提出すると、それを細かくやぶったのです。一方シャフィーンの両親は、娘を無理やり強要して、イムランに強姦されたという正式の申立書を警察に提出させたのです。そしてこの申立書と彼女の女友達たちの『証言』が、イムランによる強姦罪を確定する決め手となったのです。後になってシャフィーンは証言内容を変更して真実を語りたいと希望しましたが、それは違法だということが分かったのです。」と語った。

生後8カ月の息子と3人で同居しているこの夫婦にとって、毎回法廷で被告と原告に分かれて争わなければならなかった経験は、大変つらいものであった。イムランは2010年に仮釈放され、現在も結婚生活は続いている。

スリナガル市郊外出身の14歳の少女アスマも、似たような悪夢を経験した一人である。

「アスマはフェロズという若者と付き合っており、両親もそのことは知っていました。しかし、アスマの両親はある日、自宅に娘の姿がなかったのを理由に、フェロズを強姦と誘拐の罪で一方的に告発したのです。」とアスマの事件を担当しているスルタン弁護士は語った。

「フェロズは田舎出身の青年で、逮捕された当時は、アスマの父が所有するバスの運転手をしていました。アスマはフェロズにかけられた嫌疑についてきっぱりと否定する申立書を裁判所に提出しましたが、未成年者ということで取り上げられませんでした。」とスルタン弁護士は付加えた。

現在もこの審理が進められている中、アスマとフェロズは、生まれてきた息子とともに一緒に暮らしている。

スルタン弁護士は、これと類似した案件は数千にものぼると指摘したうえで、「こうした問題はメディアがほとんど取り上げないため、一般の人々の間の認知度は低く、問題にどう対処していいかという心構えさえできていないのが現実です。その結果、しばしば渦中の若者たちが、世間に顧みられることなく苦しむことになるのです。」と語った。

イスラムの戒律であるシャリーア法では、女性の婚姻年齢は規定されておらず、また、女性に対して男性と同様に自らの意志に基づいて婚姻相手を選ぶ権利を保障していることから、イスラム法学者の間では、こうしたイスラム法に記された戒律から逸脱している社会慣習に当惑しているものも少なくない。

社会活動家たちは、一部の両親が恣意的に「強姦罪」をでっちあげる不公正な慣習を根絶するうえで、両親と聖職者が果たす役割は極めて大きいと考えている。

スリナガルの活動家ニガット・パンディット氏は、「イスラム教の教えが、女性にみずからの夫を選ぶ権利を付与しているにも関わらず、なぜ両親たちはそれに抵抗し続けるのだろうか?」と疑問を呈した。

パンディット女史は、聖職者は、両親や若者たちに対して、婚姻における選択に関わる倫理的、宗教的価値観について教育すべきだと考えている。

またコラムニストのクラト・ウル・アイン女史は、子ども達に適切なガイダンスをおこなう責任が両親にあると考えている。またアイン女史は、こうした虚偽の「強姦罪」の犠牲者となった若者たちが、積極的にその実態を社会に対して暴露することで、この古めかしい慣習から、自らと他の若者たちを守るべきだと考えている。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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アジアのリーダーが域内に焦点をあてた反核キャンペーンを開始

【国連IPS=タリフ・ディーン】

核兵器国が最も集中しているアジア・太平洋地域の政治・外交・防衛リーダー(核保有国である中国、インド、パキスタンを含む30カ国から30名)が、まずは足元のアジア・太平洋地域を手始めに、世界で最も破壊的な兵器の廃絶を支援するキャンペーンを開始した。

このグループを招集したギャレス・エバンズ元オーストラリア外相は12日、「核兵器を廃絶しようという探求は、アジア・太平洋地域の政策責任者による決然とした深い関与なくして、成功の陽の目を見ることはあり得ません。」と語った。

世界の核兵器保有国は、-公式、非公式を問わずに見れば-アジア地域(中国、インド、パキスタン、そしておそらく北朝鮮)に最も集中している。

 「核兵器は、発明されなかったということにはできないが、化学兵器や生物兵器の場合と同様に、非合法化することは可能だし、そのようのにしなければならない。」と新たに発足した「核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)」のステートメントは述べている。

また、ステートメントには、5名の元首相と10名の元外相・国防相の署名が記載されており、「私たちはアジア・太平洋地域における変革を目指して取り組む特別な責任があります。」と記されている。

署名人には、ジェームズ・ボルジャー元ニュージーランド首相、マルコム・フレーザー元オーストラリア首相、福田康夫元首相、ジョフリー・パーマー元ニュージーランド首相が含まれている。

ステートメントは、主にアジアに焦点をあてたもので、「世界の経済、政治、安全保障の重心が否応なくこの地域にシフトする中、利害関係を深めるこの地域のリーダーが、安全な世界秩序を実現するために、様々な意見、政策提言、ビジョンを提供する義務も相当大きなものとなっている。」と述べている。

今日ではアジア地域で起こったことが、世界の核問題のあらゆる側面に影響を及ぼすようになっている。

「私たち(=アジア・太平洋地域)は、これから進むべき道として、ラロトンガ条約(=南太平洋非核地帯条約)とバンコク条約(=東南アジア非核地帯)を締結し、2つの非核地帯を創設する姿を見せてきました。しかし一方で、私たちは南アジアと朝鮮半島という世界で最も核衝突の緊張が高まっている2つの地域の姿も見せてきたのです。」
 
核政策法律家委員会(LCNP)事務局長のジョン・バローズ氏はIPSの取材に対し、「エバンズ元外相は、極めて重要な時期にこのAPLNイニシアチブを立ち上げたことになります。」と語った。

バローズ氏は、「この重要な地域には、パキスタン・インド間の核軍備競争や北朝鮮の核兵器開発計画など、解決すべき非常に深刻な難問が存在しています。」と語った。

またバローズ氏は、「アジア・太平洋地域が全体として核エネルギーへの依存を強めていることも、そうした難題の一つです。」と付加えた。

「韓国と米国は現在、韓国が強く希望している(米国は反対している)核燃料の国産化問題について協議を行っています。」とバローズ氏は指摘した。

「韓国が核燃料を生産する能力を獲得すれば、北朝鮮の核武装を解除しようとする試みは後退を余儀なくされるでしょう。」とバローズ氏は付加えた。

この点については、核燃料生産を国際機関或いは多国間の管理下に置くというALPNの提案は、部分的な解決策を提供するものかもしれない。

「しかしALPNは、原子力エネルギーから遠ざかるよう推移させるというより根本的な解決策については避けています。」とバローズ氏は語った。

またステートメントは、「現在世界に存在する核兵器は約23,000発で、破壊力は広島に投下された原爆の15万倍に相当する。」と指摘した上で、「1946年以来核兵器が使用されない状態が維持されてきているが、これは核兵器の管理の賜物というよりもむしろ幸運に依るところが大きい。」と述べている。

さらにステートメントは、「今日の世界には、多数の核兵器保有国と地域レベルの深刻な対立が存在するほか、(核兵器を管理する)軍の指揮系統のレベルもまちまちなのが現状である。また、新たなサイバー技術にも潜在的な不安定要素が残っており、核兵器の近代化(より小型化されたものや潜在的により使用しやすく改良されたもの)開発も引き続き進められている。こうしたことから、核兵器が使用されないという幸運が今後も継続されると想定することは不可能である。」と警告している。

東京に本拠を構える仏教組織創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動局長は、IPSの取材に対して、「『核兵器なき世界』を実現するという目標を達成するうえでアジアに重要な役割があるのは明らかです。」「この点についてAPLNステートメントに示された見解を支持します。」と語った

また寺崎氏は、「ともに努力して懸念される脅威を弱めるとともに信頼を構築することが極めて重要」と指摘し、そのためには、「外交、学術、文化等、あらゆるレベルでコミュニケーションのためのチャンネルを開拓し維持していくことが不可欠です。」と語った。

「こうした不屈の忍耐強い努力をもってしてはじめて、各国政府を核兵器の保有や維持へと駆り立てている恐怖や不信の壁を突き崩すことが可能となるのです。」と寺崎氏は語った。
SGIは、「核兵器のない世界」実現を目指した活発な運動を展開している。

また寺崎氏は、最終的には、信頼を構築する重層的な努力が、南アジア及び北東アジアにおける核武装解除を成し遂げるうえで、鍵を握ることになるだろうと語った。

さらに中東では、核兵器保有を明かさないイスラエルが、事実上唯一の核兵器保有国として優位を確保してきた。

しかしこうしたイスラエルの優位も、西側欧米諸国が核兵器開発寸前にあると主張しているイランに脅かされている。一方イランは核兵器開発疑惑を一貫して否定している。

核不拡散条約(NPT)において公式に認定されている核兵器5大国は、同時に拒否権を有する国連安全保障理事会の常任理事国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)でもある。

またバローズ氏は、ALPNの結成は、2010年の新START合意(米露間の控えめな核兵器削減合意)以降勢いを失っていた世界の軍縮を目指す取り組みにとって、新たに士気を高める歓迎すべき出来事ですと語った。

ALPNは、無差別に非人道的な核兵器を使用することは、国際人道法のあらゆる根本原則に対する侮辱であると述べている。

「ALPNは、世界的な核兵器禁止について交渉を開始するよう主張することまではしなかったが、潘基文国連事務総長が提案している核兵器禁止条約(NWC)の中身について協議するよう呼びかけています。」とバローズ氏は語った。

寺崎氏は、「北東アジアにおいては、平和団体、信仰を基盤とした団体(FBO)、市民団体に加えて、広島市や長崎市のような地方自治体が、各々独自の強みや関心に基づいて活動を展開しています。」と語った。

「こうした活動主体に共通する強みは、国家の枠組を超えてものごとを見据え、さらに、そのスタンスや政策から様々な程度で独立しつつ、一般市民の関心を代表する可能性を持っている点にあります。」と寺崎氏は語った。

北東アジアでは、こうした活動主体による国境を越えたコミュニケーションや協力の動きが広がり、長年に亘る外交的な行き詰まりの打開に寄与する可能性さえ持つようになってきている。

「私は、南アジアの市民社会運動においても、これと同じようなあるいはそれより大きな可能性があるものと信じたいと思います。」と寺崎氏は明言した。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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中東を騒然とさせたギングリッチ共和党候補の発言

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【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

ニュート・ギングリッチ氏は、しばしば爆弾発言を行うことで知られている人物だ。しかし、今回のパレスチナ人に関する発言は、米国の少なくともこの20年間にわたる中東政策の成果を無に帰してしまうぐらい衝撃的なものだろう。

2012年大統領選の共和党最有力候補者のひとりであるギングリッチ氏は、12月9日に出演したケーブルテレビのインタビューにおいて、パレスチナ人を「創作された人びと」と呼んだ。「私は、我々がパレスチナ人を創作してしまったと思っています。彼らは実際にはアラブ人で、歴史的にはアラブコミュニティーの一部を構成しているのです。従って彼らは他のいろいろな場所に行くことだってできたのです。ですが様々な政治的理由により、我々はこれまでイスラエルに対するこの戦争を1940年代から維持してきてしまっているのです。」と語った。

 ギングリッチ氏は、この放送の翌日に行われた候補者討論会で、この発言の真意を問われ、「事実関係として正しいもので、歴史的な真実だ。」「誰かが真実を語る勇気を持たねばならない。パレスチナ人はテロリストだ。彼らは学校でテロリズムを教えている…『中東に関する嘘はもうたくさんだ』と誰かがいう勇気を今こそ持たねばならない。」と語った。

ギングリッチ氏の発言は、パレスチナ領のユダヤ人入植者の耳には心地よいものだが、その他の地域では、多くの人々が警戒感を深める結果となったようだ。

パレスチナ自治政府で親米派のサラム・ファイヤド首相は、「ギングリッチ氏の発言は、全く受け入れることができない歴史的真実の歪曲であり、最も急進的なユダヤ人入植者でも、あえてこのような馬鹿げた発言はしないだろう。」と語った。

バラク・オバマ政権が高まるイランとの緊張関係を背景に関係構築に尽力してきたアラブ連盟は、ギングリッチ氏の発言を「無責任で危険なものだ」と非難した。

外交政策において通常イスラエルのリクード党と見解を一にしている著名な新自由主義者(ネオコン)でさえ、ギングリッチ氏のパレスチナ人のアイデンティティに関する主張は行き過ぎていると見ている。

ジョージ・W・ブッシュ大統領の中東関係首席補佐官をつとめたエリオット・アブラムス氏は、「(ギングリッチ氏の論理に従えば)ヨルダンもシリアもイラクも、元々存在しなかったということになる。恐らく彼はこうした国々の人々も『創作された人々』で自分たちの国を持つ権利はないと主張するのだろう。」と、10日の大統領候補者討論会を前にワシントンポストの取材に応じて語った。

「その当時(オスマントルコ帝国時代)はそうだったとしても、パレスチナのナショナリズムは1948年(のイスラエル建国)以来、大きくなってきており、我々が好むと好まざるとに関わらず、存在しているのは否めません。」とアブラム氏は語った。

ギングリッチ氏の発言に対して、共和党の他の候補者たちは、あまりはっきりした評価を口にしていない。

共和党ユダヤ人連合(RCJ)」が先日開催したフォーラムでは、イスラエルに対する懐疑的な考えの持ち主だということで出席を拒否されたロン・ポール下院議員(テキサス州)以外でギングリッチ氏の発言に異議を唱えたのは、前マサチューセッツ州知事でギングリッチ氏の主要なライバルであるミット・ロムニー氏だけであった。

ただしそのロムシー氏も、この点については、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の判断に従うと述べ、まもなく他の2候補(ミシェル・バックマン下院議員(ミネソタ州)とリック・サントラム元上院議員(ペンシルベニア州))もその立場を支持した。

ロムニー氏は、ギングリッチ氏の『パレスチナ人はテロリスト』という主張には歩調を合わせて「元下院議長のおっしゃったことについて、大方の点については見解を共にしております。」としたうえで、「ただし、パレスチナ人が『創作された人々』と発言したことについては、元下院議長のミスだと思います。私ならば、そのような発言をする前に、友人のネタニヤフ(イスラエル)首相に電話し、『こう発言したらいい結果が望めるだろうか?自分にどうしてほしいか?我々はパートナーだから協力し合っていこう。』と言うでしょう。私は(ギングリッチ候補と違って)爆弾発言がする人間ではないのです。」と語った。

しかしギングリッチ氏がネタニヤフ首相に相談するだろうことはほとんど疑いの余地がない。過去数年におけるギングリッチ氏の最大の支援者の一人はネタニヤフ首相のスポンサーでもある大富豪でカジノ界の大物シェルドン・アデルソン氏である。

アデルソン氏はイスラエルの全国紙フリーペーパー「イスラエル・ハヨム」の出資者であるが、同氏はネタニヤフ首相寄りの論調からしばしば「ビビトン」とも呼ばれている。

最新の投票結果によると、ギングリッチ氏は、ゴッドファーザーズビザの前最高経営責任者のハーマン・ケイン氏が指名争いから脱落して以降、既に予備選挙を実施した各州(アイオワ州、サウスカロライナ州等)で、ロムニー氏らを支持率2桁で大きく引き離す人気を博している。

ギングリッチ氏が共和党の大統領候補者指名を獲得するのではないかとの見通しに、共和党の多くの年配議員、とりわけ1990年代(ギングリッチ氏は1994年の中間選挙で共和党の下院多数派独占に貢献、しかし、98年の中間選挙後で共和党が大敗した後、政界を引退させられた)にギングリッチ氏の同僚や部下としてかかわったことがある人々の間で、警戒感が高まっている。

歴史学の博士号(卒論は旧ベルギー領コンゴにおける教育に関して)と元大学助教授という経歴を持つギングリッチ氏は、大言壮語したがる直情的な性格の人物として知られている。

ニューヨークタイムズの保守派コラムニストであるデイヴィッド・ブルックス氏は、先週ギングリッチ氏の気質について、「革命的…激烈で活動的、無秩序で、なにごとも過激な反応を要する激突ととらえる傾向がある人物」と評している。

先週、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティー氏や前ニューハンプシャー州知事で元ホワイトハウス首席補佐官のジョン・スヌヌ氏を含む歴代の共和党リーダーが、明らかにギングリッチ氏の人気上昇を逆転させようとして、同氏の立候補資格について強く批判した。

ニュースレター「ネルソンレポート」を発行しているジャーナリストのクリス・ネルソン氏は、「つまり、この問題を説明するにあたって礼儀正しく表現する方法はないのです。クリスティー氏やマケイン(上院議員)等が公式に発言したくないこと…とは、ギンギリッチ氏の同僚達は彼のことをよく知っており、殆ど例外なく、かなり前の段階で『彼が文字通り正気でない』というという結論に達していたのです。『狂っている』というのではなく、むしろ『本当に抑制がきかない』ということです。つまりこのことだけでも、大統領候補として不適格だし、ましてや、ギングリッチ氏が(元国連大使の)ジョン・ボルトン氏を国務長官に従えた(核兵器の発射ボタンに指をかけた)自由世界のリーダーになるなど、到底受け入れることはできない。」と述べている。

ギングリッチ氏は、JRCフォーラムにおいて、もし自分が大統領に就任したら、同じく極右の論客で、ネオコンシンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)に所属しているジョン・ボルトン氏を国務長官に指名すると明言した。

また同フォーラムでは、ロムニー氏と、リック・ペリー氏が、もし大統領に選出されたら、1995年の議会の決議に従って、イスラエルの米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると公約した。
 
今日まで、米国の歴代大統領は、国際法を引用するとともに、そのような移転は中東に新たな不安定と暴力を引き起こす引き金になりかねないとして、議会の移転要請を一貫して拒否してきた。

しかしギングリッチ氏は、この点でもさらに一方踏み込み、大統領就任の暁には当日に(米国大使館をエルサレムに移転させる)大統領命令を発すると公約した。

イランの核開発疑惑については、ポール候補を除く全ての共和党候補がタカ派的な立場を強調した。この点についてギングリッチ氏は、イランの政権交代を成し遂げるための戦略として採用している製油所の破壊活動や核科学者の暗殺を含む、米国が擁する「隠密能力(covert capabilities)」に引き続き期待していると語った。

またギングリッチ氏は、もしイスラエルがイランを攻撃した場合、核兵器を使用しないかぎり米国はイスラエルを支持するだろうとして、「私はイスラエルが核兵器を使用する段階にまで追い込まれることがないよう、むしろイスラエルと協力して通常兵器による(対イラン)共同作戦計画を立てることを支持したい。」と翌日CNNのウォルフ・ブリッツァー氏の取材に応じて語った。

ニューヨークタイムスが12日付一面記事で取り上げているように、ギングリッチ氏は、長年に亘ってイランが米国本土上空で核兵器を爆発させ電気インフラを機能不全にする電磁パルス(EMP)を発生させる懸念について警告している。ギングリッチ氏は、EMPの発生がもたらす影響について、「我々の文明はほんの一秒で失われるだろう。」と述べている。(原文へ

翻訳=IPS Japan山口響/浅霧勝浩

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【トリポリIPS=カルロス・ズルトゥザ】

「もし四輪駆動車なんて運転していたら、カダフィ派かって言われるだろうね。今では、反乱勢力の司令官クラスなら、ほとんどが四輪駆動車を持っているよ。」と、トリポリの交通渋滞から抜け出てきたバシャールは語った。

首都のトリポリが8月に反乱勢力の手に落ちて以来、バシャールは、ボロボロになったタクシーの窓から、街の変化を見てきた。30才のバシャールは、大半のリビア国民と同様に、生まれてこの方、故ムアマール・カダフィ氏による独裁政治以外の政体を知らない。

 しかしバシャールは、新しい政府に満足しているわけではない。「これが、反乱勢力がもたらすと言ってきた自由と平和なのだろうか?」と、武装勢力の設置した検問所を通りながらバシャール氏は語った。作り笑顔と、バックミラーにかけられた三色旗は、彼のタクシーを営業する政治的な免許証のようなものだ(新政権は、それまでの緑一色に代わって三色の国旗を採用している:IPSJ)。

「ムアマール、ムアマール…」バシャールは、バーブ・アジジヤ地区のカダフィ最高指導者の破壊された邸宅跡を見て、切なさそうに声を上げた。リビア内戦が残した傷跡は、トリポリ市街地の「殉教者広場」から南へ3キロの郊外にあるアブ・サリム地区においても生々しく見てとれた。火災で黒くくすんだ窓枠の周りは大小あらゆる大きさの銃痕が壁一面を埋め尽くしており、攻撃の凄まじさを想起させるものだったが、驚いたことに、そうした廃墟と化した家々の窓から、時折洗濯物が干されている光景を目にした。

古いバザール地区の人々も元の生活に戻ろうと必死だ。しかし、北大西洋条約機構軍(NATO)の空爆がこの地区を灰燼に帰してからは、この露天街の店はほとんど再開されていない。

「人びとはここから離れていっています。ここの住民はみんな、武装勢力のパトロールを怖がっているのです。カダフィ派を探すという名目で家々に侵入し、若い人たちをどこかへ連行しているのです。」と台所用品と中古の蛇口を商っているアブドゥル・ラフマン氏は語った。
 
内戦の終結は、カダフィ氏が殺害されて3日後の10月24日に公式に宣言された。しかし、アブ・サリム地区では11月にも武装勢力とカダフィ派と言われている勢力との衝突が見られた。また、カダフィ側の2番目の拠点であったバニ・ワリド地区においても先月に武力衝突があり死傷者が出たとの報道がされている。

しかし、こうした衝突にカダフィ派の民兵による組織だった関与が実際にあったのか、それとも、武装勢力による度重なる襲撃と恣意的な逮捕に反発した地域住民による衝動的な抵抗だったのかは定かではない。

国連は先月、「革命部隊」と称する武装民兵組織が管理する収容所に7000人が収監されていると明らかにした。潘基文国連事務総長は、カダフィ氏死亡後のリビア復興支援に関する国連安保理会合に先立って声明をだし、「報告によれば、収監されている人々の中には外国人や多くの女性・子供が含まれており、中には拷問を受けたものもいます。」と語った。

アブ・サリム地区出身で電化製品の小売業を営んでいたビラルも、多くの住民とともに、ジェディダ刑務所(トリポリの主要な収監施設)に連行されたひとりだ。彼も取材に応じた多くの人々と同じく、フルネームを明かしたがらなかった。ビラルは、突然連行されてから何の説明もなく釈放されるまで過ごした地獄のような数週間は、決して忘れることはないだろうと語った。

「やつらは、俺がカダフィ派の兵士で、ソク・アル・ジマ地区(トリポリ東部)で、女性1人とその子どもを2人殺したって言うんだ。刑務所では来る日も来る日も、電極や火のついたタバコで拷問された。やつらはいつも、俺の犯罪を証明する目撃者がいる。早く白状したほうが身のためだぞと脅してきたんだ。」「そしてある日、独房の奥の壁を背にして立てと言われたんだ。誰かがドアの穴から覗いているのが分かった。そして数時間後、突然、荷物をまとめて出ていくように言われたんだ。」とビラルは語った。彼は、アブ・サリム地区に戻るつもりはないと語った。

ビラルのような証言は、トリポリ以外のリビア各地でも多く耳にした。トリポリから東に150キロのマジェール村は、8月8日にNATOが空爆を加えたことで注目を浴びた。当時カダフィ政権のムサ・イブラヒム報道官は、85人の民間人が殺害されたを発表した。これに対してNATOは「犠牲者はカダフィ派の軍人と民兵である」と反論した。

この際殺害された村人の遺族達は、IPSの取材に対して、「当時35人を埋葬しました。」と語った。今日、遺族達は失った愛する人々を悼む悲しみと、(この旧カダフィ派の拠点とされた街を)縦横に行き来する武装勢力に対する不安と恐怖で、打ちのめされている。

マジェール村に住むメルワンは、私たちが彼の家に入るのを誰も見ていないことを確かめたうえで、「私たちはリビア国民としての権利を無視され、遺族の補償も受けられない、いわば新政権にとってのスケープゴートにされているのです。武装勢力は、私たちの財産を略奪し、車を盗んだうえに、そうした罪を私たちに押し付けてくるのです。」と語った。

再びトリポリに戻った私は、カダフィ政権下で建設業や貿易業で財を成した実業家のスレイマン(40歳)を取材した。彼は3年前に購入した四輪駆動車に今も乗っている。

トリポリの高級ショッピング街ガルガレッシュ通りの最新流行のカフェで取材に応じたスレイマンは、「もちろん、カダフィのときも不正はあったさ。でも、それが他の中東の国よりひどいとか、ましてや、ヨーロッパ側の地中海諸国よりもひどいとは思わないね。」と語った。この辺りに駐車している車では、三色旗を誇らしげに掲げているものは少数だった。

またスレイマンは、「死のその日までカダフィ大佐を信奉していた。」と認めたうえで、「だから、わざわざ三色旗を掲げようとは思わないのさ。」と語った。彼は首都圏にいくつかのアパートを所有している。これは不安定な戦後経済を乗りきっていくためには必要な保険である。

この成功を収めたビジネスマンは、明日がどのような状況になろうと、このところの暴力的な変化についてもあまり気にしていないようである。「われわれビジネスマンは、いつでもジャングルの中で生き延びてきたんだ。ちなみに、新しい政権の私のコンタクト先は、前のやつと同じ人物だよ。」とスレイマンは語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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危機のなか、富者はさらに肥える

【パリIPS=A.D.マッケンジー

12月7日道路の片方にはマンション、もう片方にはスラム街が広がる。人びとが食べ物の配給の列に並ぶ横を、窓にスモークスクリーンが入った豪華なランドローバーが走り抜ける。

これは、ダニエル・ニーレンバーグ氏が世界30ヶ国を訪ね歩く中で見てきた光景である。彼女は、この調査をもとに、ワールドウォッチ研究所の報告書『2011年の世界の状態―地球を養う革新』をまとめた。

「ひとつの国の中でも、明確な違いを簡単に見て取ることができます。そしてそれは、日々目にできることなのです。アフリカでは、不況は富める者に影響を及ぼしていないようです。一番悪影響を受けたのは、貧しい人びとです。」とニーレンバーグ氏は語った。

 ニーレンバーグ氏は、今週パリで、同報告書のフランス語版『70億人をいかに食べさせるか(Comment Nourir 7 Milliards d’Hommes)』を発表した。

この報告書は主にアフリカの農業に焦点を当てたものであるが、これと同時期に、経済協力開発機構(OECD)から、同機構加盟国(34か国)において広がり続ける貧富の格差状況について分析した最新報告書『分断された社会―なぜ不平等が広がっているのか』が公表された。

両報告書とも、各国政府に対して、貧困と不平等を緩和する施策をとるとともに、先進国か途上国かに関わりなく、支援が必要な人々により多くの投資を行うよう求めている。OECD報告書によると、OECD諸国全体では、もっとも豊かな10%の収入は最貧層10%のそれの9倍であるという。

デンマーク、スェーデン、ドイツなどの「伝統的に平等主義」といわれる社会においても、所得格差は、1980年代の5対1から今日は6対1へと拡大している。同報告書によると、この所得格差は、英国、イタリア、日本、韓国で1対10、米国、イスラエル、トルコではそれを上回る(1対14)ものであった。

例えば米国では、1979年から2007年にかけて、もっとも豊かな1%の課税後収入の占める割合が2倍になる一方、もっとも貧しい20%の占める割合は7%から5%に落ちた。
 
アンヘル・グリアOECD事務総長は、(貧富の格差が広がる)一般動向とは異なる歩みを見せた国は数カ国に過ぎないと指摘した上で、「チリとメキシコにおいては、近年所得格差が狭まっています。しかしそれでも両国の場合、最も裕福な層の所得は、なおも最貧層の25倍を超えているのです。」と語った。

OECD加盟国以外を見ると、主な新興国における所得格差ははるかに深刻なものである。例えば、「ブラジル政府は富を再分配する施策を実施し、過去10年間に貧富の格差緩和に成果を挙げているが、それでも現在の所得格差は1対50で、OECD加盟国平均の5倍である。」と報告書は述べている。

「OECD非加盟国の国々ですが、堅調な経済成長を背景に数百万人を絶対貧困のレベルから引き上げることに成功した新興諸国があります。しかし、力強い経済成長から得た利益は、平等に配分されず、所得格差は一層広がりました。こうした成長著しい新興国の中で、なんとか所得格差を縮小させたのはブラジルだけです。」とグリア事務局長は記者達に語った。

OECDは、所得格差が拡大した主な原因として、賃金・給料の不平等拡大、給付金の削減、高所得者に対する減税を挙げている。

グリア事務局長とニーレンバーグ氏は、別々の機会であるが、「世界の経済危機が深刻になっている中、各国政府は緊急にこうした問題に対処することが求められています。」と語った。

「多くの国々において、先行きに対する不安や社会が衰退しているのではないかという恐怖感が中産階級の間でも広がってきています。人々は、そもそも自分たちに責任がない経済危機の付けを負わされている一方で、高所得者層はその責任からうまく逃れていると感じているのです。」とグリア事務局長は語った。

またグリア事務局長は、OECDの提案には、富裕層の限界税率引き上げを含んでいると指摘して、「最も裕福な人々については、税率を引き上げる余地があると考えています。具体的には、消費税や資産税、炭素税などの税率を増やすことを提案しています。」と語った。

しかしグリア事務局長は、多くのNGOや著名な経済学者が提唱している金融取引税(FTT)については言及しなかった。

フランスの反貧困団体「ONE」のギローム・グロッソ代表は、「単に富裕層に対する税率を引き上げるのは、格差問題解決に向けた一つの方策に過ぎません。」と語った。

「業界に課された税金は、貧困層に対する資金の再分配に使われます。明らかに金融セクターは、その収益規模に見合う貢献をしてきませんでした。しかも、今日世界が直面している様々な問題については、金融セクターに責任があるという議論もあるのです。」とグロッソ代表は語った。

「金融取引税(FTT)のしくみはきわめて簡単なもので、金融取引にわずかな税金をかけるだけなのです。これは比較的負荷が少ないものですし、公平な仕組みです。しかも私たちが金融セクターからの努力を要請するのはこれが初めてであり、我々は援助を最も必要としている国々の貧困解決にそれを使うことができるのです。」とグロッソ氏は付加えた。

また、グロッソ氏は、OECD報告書は透明性向上の問題にも触れていない、と批判した。

「私たちは基本的に、国が自国の予算をどのように使っているかを知る必要があるのです。つまり、非常に深刻な問題の一つとして、特に貧困国においてより多く見られる傾向ですが、政府がどのように予算を使っているかを把握することは極めて難しいのです。一つの例を挙げると、アフリカに赤道ギニアという国がありますが、GDP規模ではギリシャやポルトガルに近いにも関わらず、国民の3分の2が1日当たり1ドル以下の生活を強いられているのです。」

グロッソ代表は、「『ONE』は、『例えば石油・ガス会社がどこに利益を入れているのか』といったお金の流れが把握できるような法的な枠組みを、先進国の承認の下、設立するよう提唱しています。私たちはそうした企業が政府に対してどのような支払いをしているのか、そのお金の流れが明らかになるよう、透明性の確保を求めているのです。こうした要求はOECDではできないことですから。」と語った。

一方ニーレンバーグ氏もまた、透明性の向上が必要だと考えている。たとえば、富裕国がアフリカの貧困国の農地を買う(土地収奪「land grabbing」)ことによって、国によっては貧困と不平等が拡大しているが、この状況はきわめて不透明だという。

「食糧価格があまりにも高騰し、民衆の収入がとてもそれに追いつかない状況です。その結果は、見てのとおり明らかで、お腹を膨らませた子供の姿に象徴されるように、栄養失調や飢饉の兆候となるあらゆる事象が5・6年前では想像のできない深刻さで顕在化してきています。」とニーレンバーグ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|北朝鮮-チェコ共和国|「一人は王朝に生まれ、一人は民主運動の中から生まれた」とUAE紙

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【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦の日刊紙は、先週逝去したチェコ共和国のヴァーツラフ・ハヴェル元大統領と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正日総書記を比較した興味深い考察を掲載した。

UAEの英字日刊紙「ナショナル」は、「2人とも国家を率いた指導者だったが、ステイツマン(Statesman:立派な政治家)と呼ぶにふさわしいのはその内の1人のみだった。」と報じた。

「両者とも世界が東西に分裂して対峙していた冷戦期に、(鉄のカーテン)の東側(共産圏側)で育った。また、両者とも著名で裕福な家庭の出身で、闘争に依ることなく政治権力を掌握した点や、小さな国のリーダーにも関わらず、世界的に大変な名声を得た点でも共通している。」と同紙は論説の中で述べている。

 「しかしヴァーツラフ・ハヴェル氏金正日氏の共通点は、ともに先週逝去したという点を除いては、これ以上見出すことはできない。ハヴェル元大統領は、世界から多くの名誉と賛辞を贈られながら75歳の生涯を閉じたが、69歳か70歳(この年齢すら詐称の疑いがある)で亡くなった金正日総書記に対する世界の反応は対照的なものであった。」と同紙は報じた。
 
金正日氏は1945年に新たに誕生した北朝鮮を治めるべくソ連のヨシフ・スターリン書記長が擁立した金日成氏の長男として生まれた。金日成氏は国民を世界から隔離し、類稀にみる個人崇拝体制を築き上げた。そして金正日氏は1994年に北朝鮮の権力を継承するにあたり、父に対する個人崇拝の成果も自らに移行させた。」と同紙は報じた。
 
また同紙は、金正日総書記指導下の常軌を逸した経済政策、執拗な軍事優先政策、破滅的な外交政策を、数百万人もの北朝鮮国民を飢えの淵に追いやった原因と指摘した。「夜の朝鮮半島を撮影した衛星写真には、あかたも光が豊かさを象徴しているかのように韓国領土は眩いほど明るく照らされている。一方、北朝鮮は大半が漆黒の闇の中にある。」一方同紙は、ハヴェル大統領については、数十年に亘るソ連によるチェコスロヴァキア支配に民衆が立ち上がった1968年の「プラハの春」で頭角を現した知識人・劇作家として言及し、「国民と自らの良心に耳を傾けた人物」として称賛した。

「ハヴェル氏は、時期尚早だった民主化運動がワルシャワ条約機構軍の戦車によって蹂躙された際、良心的に共産主義を拒絶するチェコ人、スロヴァキア人の心情を巧みに表現した劇作品を発表し、世界的に大きな注目を浴びた。そしてハヴェル氏が記したその民衆の意志が、ついにはソ連の支配を駆逐するに至った(ビロード革命)のである。」とナショナル紙は結論付けた。

翻訳=IPS Japan

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インド、核廃絶で世界をリードへ(シャストリ・ラマチャンダランIDN-InDepth News編集委員)

【ニューデリーIDN=シャストリ・ラマチャンダラン

インド政府が、普遍的な軍縮の追求を先導する方向を模索し始めたようだ。核軍縮の基本的な考え方と目標を前進させることのできる雰囲気と環境をあらためて作り出そうとの熱意は、核兵器なき世界秩序を目指した故ラジブ・ガンジー首相の行動計画(RGAP)を実行すべく進められている数多くの取り組みを見れば、明らかである。

「RGAP88」として知られるこの行動計画は、米ソ超大国による対立的なレトリックがピークに達していた1988年当時、「6ヶ国・5大陸イニシアチブ」から、核戦争の勃発を回避するための論理的な帰結として発表され、世界的に大いに注目された。しかし、ラジブ・ガンジー首相(当時)は、国連総会にこのアイデアを受け入れさせることは、できなかった。

 それから23年経過した今、「RGAP88は」、同構想に関するインフォーマル・グループ(IG)が2011年8月に284ページに及ぶ報告書を発表するなど、再び息を吹き返している。表面上は「インフォーマル・グループ」と名づけられているが、これは誤解を招く名称で、その実態は、マンモハン・シン首相が核軍縮を推進するためにRGAPを再活性化することを企図して2010年10月に設置した首相の諮問グループにほかならない。

生前のラジブ・ガンジー首相に近く、外務官僚から政治家に転じたマニ・シャンカール・アイヤール(元大臣、国会議員)氏が委員長を務めるIGには、著名な外交官をはじめ、戦略問題や核問題の専門家、学者などが名を連ねている。

シン首相は、2009年4月に「米国は核兵器のない世界の平和と安全を追求する」と公約したバラク・オバマ大統領のプラハ演説を受けて、このIGを設置した。オバマ大統領は、「核兵器なき世界」を追求すると誓った初めての核兵器国の元首として賞賛に値する人物であるが、それ以前から核拡散の危険性について警告している。核兵器がテロリストの手に落ちる危険性は、「冷戦のもっとも危険な遺産だ」とオバマ大統領は述べている。

報告書には、普遍的な軍縮という考え方をいかに実施していくかという点について、とるべき方策を勧告している。IG報告書は、核兵器の保有が安全保障に対する安心感には結びつかなかったインドの経験を前提に作成されたものである。「核兵器なき世界に向かうべき」との主張は、冷戦期よりもむしろ現在の方が説得力あるものになっている。なぜなら、当時よりも核兵器保有国が増え、核武装の思惑を持っている国も存在するからである。従って報告書は、核紛争とテロリストによる核攻撃の危険性に対する認識をインド国内で高めるための広範な運動が必要である、としている。

報告書は、インドが、核攻撃という形であれ核テロという形であれ、最大かつ最も現実的な脅威に直面しているという事実に焦点を当て、「インドにとって安全をもたらす最善の方法は、普遍的な核軍縮を達成することにある」と論じている。諮問グループのメンバーは、1988年には存在しなかった、米国による核廃絶への支持という事態によって力を得ていると、明確に述べている。

シン首相とS・M・クリシュナ外相に提出された報告書は、RGAP88再活性化の第一のステップとして、核軍縮に関する委員会設置に向けたコンセンサス形成のための特別コーディネーターを任命することを勧告している。

7項目のロードマップ

報告書には、7項目から成るロードマップと、14項目の勧告が盛り込まれている。たとえば、インドが「普遍的、非差別的、検証可能な世界的プロセスの一環として自国の核兵器を削減する」と約すること、安全保障ドクトリン、先制不使用、法的拘束力のある消極的安全保証において核兵器の突出した役割を低減するコンセンサスを形成すること、核兵器の完全廃絶に向けて諸国を動員することを目的とした議論を活発化させるためにジュネーブ軍縮会議(CD)の「火を絶やさない」こと、そして、核兵器の使用(および使用の威嚇)を禁止する条約の策定、などである。これらは全て、「決められた時限の中で『核兵器なき世界』をめざす核兵器禁止条約の交渉」に向けて、道を切り開いていくためのものである。

報告書は、信頼できる最小限の核抑止力を保持した「核兵器を保有した国家」(State with Nuclear Weapons=SNW)としてのインドが、核兵器を保有するすべての国家と軍縮に関する二国間対話を開始すべきだと勧告している。また報告書は、核軍縮をより積極的に進めるために、市民運動による活動に参加したり、外務省軍縮局を強化したり、国連総会におけるインドの存在を際立たせるといったことも求めている。

IGは、インドが核兵器廃絶に向けて世界をリードし、60年に及ぶインドの核廃絶追求の道義性と、国際社会におけるインドの影響力の拡大を通じて、この問題の解決を図るべきだと考えている。インドが、核軍縮を主唱していたかつての役割を取り戻す機が熟した、と報告書は主張している。さらに、核兵器削減はすでに緒についており、世界全般の環境は追い風であると考えられる。

諮問グループの報告書は、インドが国連総会に2006年に提出したワーキング・ペーパーの要素を取り入れることによって、RGAP88を前進させようとした、と言えるかもしれない。

核軍縮に関する報告書や提案、委員会や集団は、内外のいたるところにある。しかし、もしこの諮問グループの報告書と提案が注目に値するとすれば、それは、問題に新しい次元を付け加えているからであり、報告書が優れた特徴を持っているからである。

第二の点から先に言うと、この報告書の独自の特徴は、その哲学や意図、言語、アプローチにあるのではなく、ましてやそのレトリックにあるのでもない。そうではなくて、核廃絶という目標を現実化するために必要な、特定の実践的なステップにあえて向き合っている点にあるのである。核廃絶という目標に向けたステップ・バイ・ステップのアプローチに示された連続的な動きが、進捗具合の―あるいは進捗の不在の―物差しとなる。それには、運動の特定のステージを指し示し、それを里程標にするという利点がある。

報告書はいくつかの新しい次元に焦点を当てている。それは、核軍縮運動に対して以前とは異なって好意的な国際環境があるということ、米国が核軍縮を支持していること、インド政府が、国内において、そして2012年1月に始まる二国間・地域・国際舞台での行動を通じて、核廃絶の大義を先導して追求するとの強い意志を示していることである。

IGのマニ・シャンカール・アイヤール委員長が提案されたロードマップに関して国内外で行動し始めたという事実は、進行中の取り組みが真摯になされているものであることを示している。

ニューヨークの会議におけるインド

国際レベルでは、今年の国連デー(10月24日)が、報告書への関心を集めるよい機会となった。グローバル・セキュリティ研究所、東西センター、ジェームズ・マーチン不拡散センターの共催のもとニューヨークで開かれた会議において、国連の潘基文事務総長やアイヤール委員長を含む発言者が、核兵器廃絶を強く訴えた。

この会議は、大演説のゆえにではなく、核廃絶に向けて新たに意識を喚起していこうという運動の再生へのステージとして、大きな意義を持っている。またハイレベル会議でも、3年前に初めて提示された核廃絶に向けた潘事務総長の包括的提案である「五項目提案」に焦点が当てられた。

会議の公式報告によれば、潘事務総長はこう述べている。「我々は、明日の世界は今日我々が行う決定によって形成されることを知っています。核兵器なき世界は、具体的に見えている可能性なのです。」潘事務総長は基調演説において、透明性と説明責任を強化し、核軍縮義務における法の支配を強化する緊急の必要があることを強調し、核兵器禁止条約策定に向けた作業を始めるべきとの彼の2008年の提案にあらためて言及した。

一方この会議でアイヤール委員長は、「近隣諸国における核軍拡の動き、核物質や場合によっては核兵器にすらアクセスするかもしれないテロリストの脅威によって、インドほど脅威を感じている国は他にありません。従って、(インドが)一方的に軍縮を進めるということは想像しがたいものがあります。核兵器の廃絶は、テロリストによって核兵器が『大量虐殺』のために使われ、或いは国家によって『大量自殺』のために使われることを防ぐ唯一の方法であり、『第3の道はない』のです。」と語った。

PTIの報告書によれば、アイヤール委員長は、一方的な核軍縮は簡単ではないが、インドは、核兵器およびその他の大量破壊兵器の普遍的な削減に向けた国際条約という枠組みの中で、「これらの兵器をなくすことができるかもしれない。」「インドは『核兵器なき世界』というビジョンを追求し続けなくてはならない。なぜなら、そのような世界は、地球にとっても、地域にとっても、インドの国家安全保障にとっても望ましいことだからである。」と論じている。

その1週間前、IGの顧問を務めたヴィドヤ・シャンカール・アイヤール博士は、列国議会同盟(IPU)会議において、「核廃絶運動の完全なる再興をIG報告書が呼びかけたことが大きな関心を呼びました。」と語った。

最新の状況

アイヤール博士は、IDNの取材に対して、首相・外相への報告書提出後の状況について、「国家安全保障補佐官のシブシャンカール・メノン氏が、報告書で提案されたイニシアチブに対してもっとも強力な支援をしてくれています。」と語った。

IGのマニ・シャンカール・アイヤール委員長は現在、外相の出席の下で外務省高官と会談を持つ段取りを進めている。これは、IGがインド世界問題評議会(ICWA)とともに2012年1月に計画している全国レベルの会議の準備作業となるものである。この会議には、戦略問題の専門家、核兵器・軍縮問題の専門家やシンクタンクから参加者を集めることが予定されている。

ヴィドヤ・シャンカール・アイヤール博士によれば、その後は、国際的枠組みの構築を目指して国連安全保障理事会の五大国(=常任理事国・核兵器保有国)をまとめにかかる前に、まずは隣国において会議を開催し、地域レベルでの一体性を作ることを提案するつもりだという。

これらすべてが、楽観主義の源泉となっている。しかし、行く先での障害を過小評価するわけにはいかない。報告書自体も、先々の課題について現実的な評価を下している。その課題とは、オバマ大統領とは異なった意見を持った米国内の強力な勢力からの抵抗、米国・ロシアなど五大国の中で欠けている熱意、総論では賛成しているが具体的なステップについては意見が割れていることなどである。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

※筆者は、ニューデリーで活動する独立の政治・国際問題評論家。『サンデー・メール』紙元編集委員で、インド、中国、デンマーク、スウェーデンの主要紙に勤める。かつて中国で『チャイナ・デーリー』、『グローバル・タイムズ』の編集主幹・記者。20年以上前には、『タイムズ・オブ・インディア』『ザ・トリビューン』紙の編集主幹。新聞、ラジオ、テレビでの評論活動の他に、書籍、モノグラフ、報告書、論文など多数。『ネパールの状況』の共編者、『メディア、紛争、平和』の共著者。現在はIDN-InDepth Newsに定期寄稿している。

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|米国|最も高い太陽発電タワー、アリゾナで建設へ

【アトランタIPS=マシュー・カーディナル】

豪州企業のエンバイロミッション(EnviroMission)が、米国南西部のアリゾナ州に新式の太陽発電タワー(the solar tower)を建設する計画を進めている。

太陽発電タワーは、太陽熱を利用する新しい発電方法である。タワーの下には、直径4.8kmの温室が広がる。ここで熱せられた空気が高さ800メートルのタワーの中に吸い込まれ、中にある冷気を押し上げる。この際の空気の動きを利用してタービンを回すのである。

環境を汚染する「汚いエネルギー」の代表格である原子力発電にしても火力発電にしても、最終的にタービンを回すという意味においては、太陽熱発電と変わるところがない。ただ、熱を発生させる方法が異なるだけである。原発に関しては、[あまりに発生するエネルギーが多いことから]反核活動家たちの間では、核技術を利用して湯を沸かすのは「チェーンソーでバターを切るようなもの」と揶揄されることもある。

 太陽発電タワーは2015年完成予定で、米国内では最も高く、世界全体でも第2の高さの建造物になる予定である。これによって15万世帯に電気を供給することが可能となる。すでに、南部カリフォルニア電力公社が200メガワットを購入する契約を結んでいる。

また建設段階で地元に1500人、その後の管理運用に30人から50人の雇用創出が見込まれている。

また太陽発電タワーは、温室効果ガスの年間100万トン削減、発電に伴う水利用の年間10億ガロン削減など、環境上の利点は少なくない。

また、温度の絶対的な高さではなく温度の差を利用するために悪天候下でも利用できること、昼間に溜め込んだ熱で夜間も発電できること、タービン関連以外にはメンテナンスの必要がほとんどないことなど、運用上の利点もさまざまに指摘されている。

エンバイロミッション社では、今後20年かけて、全米で少なくとも15棟のタワーを建設することを目指している。

太陽発電タワーという新しい発電の試みについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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2012年国連中東会議に向けた準備会合がアンマンで開催

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【エルサレムIPS=ジリアン・ケストラーダムール】

国連が目標としている中東非大量破壊兵器地帯の創設に向けた基礎固めを行うため、65の国や機関の代表が、ヨルダンの首都アンマンに集まった。

「(アンマン)会議では、11の専門分科会において協議が進められました。中でも特に重要なのが、『中東非大量破壊兵器地帯の設置における国連機関の役割』、『(同地帯設置に伴う)安全保障上の意味合い』、『核燃料サイクル構築の見通し』、『中東における核セキュリティー』です。」と主催団体の一つArab Institute for Security Studies (ACSIS:本部アンマン)のアイマン・カリル所長は語った。

 この会議は、オランダ政府とノルウェー政府が後援し、ACSISとパートナーシップ・フォー・グローバルセキュリティー(本部:ワシントンDC)が共催して開催された。

「2012年に向けて基礎を固める:核不拡散、核セキュリティーを推進する機会」と題した3日間の会議(11月29日~12月1日)では、2012年に開催が予定されている「中東非大量破壊兵器地帯創設に関する国連会議(=中東会議)」を実現するためにクリアすべき諸問題について協議が行われた。

この国連主催の中東会議は、2010年5月に開催された核不拡散条約(NPT)運用検討会議(5年毎に開催)が、2012年の開催を呼びかけたものである。今年10月、フィンランド政府がこの会議をホストし、同国のヤッコ・ラーヤバ外務事務次官がファシリテータを務めることが発表された。

「アンマン会議は、国、地域組織、及び国際機関の代表者が、意見交換し調整する場を提供するとともに、2012年プロセス(中東会議の実現に向けた)に、中東域内の全ての国々が積極的に参加、関与するためにクリアすべき課題や条件を浮き彫りにしました。」とカリル氏はIPSの取材に対して語った。

NPTの無条件、無期限延長が決定された1995年のNPT再検討延長会議は、最終文書の中で、中東の全ての国に対して、中東非大量破壊兵器(核兵器、生物・化学兵器)地帯を設立するよう呼びかけるとともに、その他の国々に対して核不拡散を推進するよう強く訴えた。

その最終文書には、「(NPTの普遍的加盟を早期に実現する重要性を強調し)、未だそれを行っていないすべての中東諸国に対し、例外なく、可能な限り早期にNPTに加盟し、自国の核施設を包括的なIAEA保障措置の下に置くよう求める。」と記されている。

1970年に発効したNPTは、核兵器及び核兵器技術の拡散を防止し、世界における核軍縮を前進させることを目的としている。現在、核兵器保有5大国である中国、ロシア、英国、フランス、米国を含む190カ国が条約に加盟している。

一方NPTに未加盟のイスラエルは、核兵器を保有していると広く考えられている。カリル氏は、「域内の全ての国々が、中東非大量破壊兵器地帯の創設を望んでいるにも関わらず、この構想は未だに実現できないままでいます。もちろん、これを妨げている最大の要因は、NPTへの加盟を頑なに拒否している国があるからです。」と語り、NPT加盟を渋るイスラエルの態度こそが、中東非大量破壊兵器地帯の創設にとって最大の障害になっていると指摘した。

「中東には、例えばアラブ-イスラエル紛争や核兵器保有・核開発計画疑惑など、依然として(中東非大量破壊兵器地帯という)目標実現を困難にしている難題が数多くあります。」とカリル氏は語った。

ここ数カ月の間に、イランは疑惑を一貫して否定しているものの、同国が核兵器開発とその技術取得を進めているとする報告書が発表され、多くの国々が、イランに対する制裁を課した。

こうした事態から、中東全体を紛争に巻き込みかねないイスラエルとイランの衝突を懸念する声が浮上している。先月、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、国際社会に対して「手遅れになる前に、核武装を目論むイランの動きを止めなければならない。」と強く訴えた。

しかしカリル氏は、イランはNPT加盟国で、これまでIAEA査察を受け入れているのに対して、イスラエルはNPT未加盟国というだけでなく、核保有について曖昧政策をとってきた点を指摘し、「イランとイスラエルを同じカテゴリーに入れて考えるのは、問題点を複雑にしかねません。」と語った。

「アンマン会議では、イスラエルの核防衛能力についても議論されました。(中東で)NPT未加盟の唯一の国でありながら、大規模とは言えない周辺諸国の通常兵力に対して、核兵器を取得して抑止力を図るというイスラエルの姿は、例えるならば、『躾の出来ていない子ども』とでも言わざるを得ません。」

「もし2012年の中東会議開催に向けたプロセスを成功させることができるとすれば、イランとイスラエル双方が積極的に会議に参加することが大前提となるでしょう。」とカリル氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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不信が曇らせるインドの中国認識

【ニューデリーIDN=シャストリ・ラマチャンダラン】

私がかつて北京にいたとき、インドに関するニュースを英字紙やテレビで見ることはほとんどなかった。二国間の会談や閣僚訪問ですら、インドにおける場合と同じ程度に報じられることはなかった。インドが中国のメディアで大きく取り上げられるのは、中国共産党や政府がなんらかのメッセージを国民に伝えたいときに限られていた。

他方で、インドのメディアの主要な関心は中国に向けられている。中国への強迫観念とすら言ってもよいかもしれない。インドのメディアが伝える中国イメージとは、中国がインドに対して日々あらゆる陰謀を巡らしており、いつの日か中国がインドに軍事的な攻撃を仕掛けてくるに違いない、というものである。

Shastri Ramachandaran
Shastri Ramachandaran

 インド外務省は、こうしたメディアによる行き過ぎた危機イメージを打ち消そうと努力しているが、思うような成果はあがっていない。むしろネガティブ報道に圧倒されている状況である。こうした背景から、インド国防相自身による不適切な発言はないものの、中国との関係について、外務省と国防省の間に見解の相違があるのではないかとの見方も一時は浮上していた。

今では、そうした中国脅威論を振りまいているのは、インドの政治的指導層というよりも、強大な力を持つ国軍内の一部の勢力という見方が濃厚になっている。さらに今日では、多くの安全保障、戦略分析の専門家がこうした風潮をさらに後押しする動きを示すようになってきており、中には、中国によってインド領土の一部が奪われた1962年の武力紛争が再来するとの予測を打ち出すものも現れている。また、中国が紛争をしかける準備を着々と進めており、インドは不意をつかれないよう警戒すべきとの論文が数多く出回っている。その中でも最もまことしやかに議論されている主張は、「中国は、紛争を予期することが最も困難で、かつ、インドが最も有事に対する準備ができていないタイミング‐すなわちインドの軍備が十分整っていない今の段階(インドは核弾頭搭載の中距離弾道弾の国境地帯配備を2012年に完了予定:IPSJ)-で攻撃をしかけてくる可能性がある。」というものである。

ある紛争のシナリオ

1962年、インドに侵入した中国人民解放軍はインド軍を圧倒し、カシミール州のアクサイチン地区を奪取した後、一方的に停戦を宣言して紛争地から撤退した(だだしアクサイチン地区はその後中国が新疆の一部として実効支配している)。現在インドで取りざたされている中国侵攻のシナリオは、50年前と同様に中国がインド国境の領土、例えば(中国が領有権を主張している)アルナチャル・プラデシュ州タワンを奪うのではないかという憶測である。

たしかに、こうしたシナリオを想起させる状況証拠には事欠かない。中国は、チベットのようなインドに接する辺境地域に空港や道路、鉄道ネットワークを着々と整備しつつあるのに対して、インドは50年前と同様に、現時点においては中国国境沿いに見るべきインフラや軍事施設を配置していない。

一方で、この段階でインドとことを構えるのは中国にとって得策ではないと主張する専門家もいる。その理由として第一に挙げられるのが、中国指導部が10年に一度の大きな交代時期(国家主席、国務院総理、さらに中国共産党の最高指導部である政治局常務委員9人のうち、5人が2012年に退任予定)を迎えており、新指導部は国内の足固め、さらに安定と継続性を最優先するだろうという分析である。そして2つ目が、経験豊かで強力なカリスマを備えた指導者が不在な過渡期に、対外的な紛争に臨むのは、結果的にリスクが大きすぎるだろうという分析である。

これに対して、好戦派の理論家たちは、インドに対して軍事的な圧力を加えるか否かの判断は、政治的な上部組織ではなく、人民解放軍が行うだろう。従って、軍事関連の深慮については、政治指導部の交代という要素は重要ではない、と述べている。

インドでは、こうした議論がこれから益々、活発になっていく勢いである。

過熱した報道合戦

中国メディアは、この狂騒を煽るかのように、あるいは自ら楽しむかのように、インド国内の中国脅威論を紹介している。中国の人民日報は、インドが中国国境地域において軍備増強を図っていることに言及して、「インドは中国を敵対国と考え始めたようだ。」と報じた。

11月10日、同紙は「インドが国境の兵力を増強しているのは、興隆する中国を狙ったものか?」というタイトルの記事を掲載し、その中で、インドと米国、日本、ベトナムといった国々との関係は、中国に対する恐怖と疑念に駆られたものだと考察をしている。しかし記事全体の基調は、両国の「友好関係」を強調するものであった。

この記事は、新華社通信が、インドは現在の東方政策を見直し、「東への歩み寄りを止めるべき」と「警告」した2日後に配信されたものである。新華社通信は、インドの動向や他国との関係について中国の視点から分析を加えたこの記事の後半部分において、「しかしながら、もしインドが、隣国を仮想敵国と見做し、その裏庭を侵害するような浅はかな行動に関与することで隣国を阻害し敵愾心を抱かせるようなことを意図しているとしたら、それは国家戦略を人質にインド自身の国益を損ないかねない選択だと言わざるを得ない。」とぶっきらぼうに指摘し、最後に「インド政府は、(東方政策という)外交政策の落とし穴について再考することが非常に望ましい。」と締めくくった。

しかし、こうした中国側の論調がまた、インドの安全保障専門家らを奮い立たせる結果になってしまっている。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

*シャストリ・ラマチャンダラン氏は、ニューデリーを拠点にする政治・外交コメンテーター。ラマチャンダラン氏は2009年4月から2010年7月末まで北京を拠点に編集者・記者、論説員としてChina Dailyとthe Global Timesに寄稿した。

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