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|イスラエル|「核の曖昧政策」というタブーに挑んだ会議

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【占領下東エルサレムIPS=ピエール・クロシェンドラー】

イスラエル・パレスチナ間の和平交渉やイランの核開発疑惑に関する協議が続けられる中、エルサレムのノートルダムホテルにおいて「大量破壊兵器(WMD)のない中東」と題したユニークな国際会議が開催された。

これはイスラエルにおいては従来タブーとされてきたテーマである。なぜなら、イスラエルは自国の核兵器保有疑惑について、あえて「意図的に曖昧にする」政策をとり続けているからだ。

この会議では、軍備管理・地域安全保障(ACRS)多国間協議へのパレスチナ代表団元団長のジアド・アブザヤド氏や、元平和調停人で元駐イスラエル・エジプト米大使のダニエル・クーツザー氏、WMD拡散に反対するさまざまな年齢層の活動家等、特異なメンバーが一堂に会した。

また、モルデハイ・ヴァヌヌ氏も出席していたが、彼は外国人に話をすることやイスラエルを離れることを禁止されている。

かつて核兵器開発技術者だったヴァヌヌ氏は、1986年、WMDに反対する動機から、イスラエルの核兵器開発の実態の詳細を英国の『サンデー・タイムズ』紙に内部告発した人物である。ヴァヌヌ氏はその後、イスラエル諜報特務庁(モサド)によってローマで拉致され秘密裏にイスラエルに連行されたのち、裁判の末、国家反逆罪で有罪を宣告された。18年に及んだ監獄生活のうち、独房での重禁固は11年以上に及んだ。

クーツザー元大使は「10年前なら、現実離れした抽象的なテーマの会議ですら(イスラエルで)開催することはできなかったでしょう。」と指摘したうえで、「しかし『WMDのない中東』はもはや絵空事ではなく、この会議は、イスラエルでこれまで強制的に世間の関心から遠ざけられてきた、まさにこのテーマに関する公開イベントなのです。」と、興奮気味に語った。

この会議は、中東地域の平和を目指してパレスチナ・イスラエル双方の進歩的なジャーナリストによる共同編集で刊行されている『パレスチナ・イスラエル・ジャーナル(PIJ)』が主催した。

さらに現在はプリンストン大学で教授(中東政策)を務めるクーツザー元大使は、「こうしたトラック2外交(市民団体や大学の研究者等による「民間外交」)は、いずれトラック1(国家間の政府外交)に影響を及ぼすようになるでしょう。」「それは今年ではないにせよ、来年か再来年にはそうなると思います。」と語った。

この会議は、11月7日にイランと「P5+1」(英国、中国、フランス、ロシア、米国+ドイツ)間の協議第2弾が始まる数日前に開催された。第1弾は前向きな雰囲気の中で終了している。

イランが核武装に向かっているという疑いが国際社会において依然根強い中、中東で唯一核兵器を保有しているとされているのがイスラエルである。

「保有していると『されている』」というのは、イスラエルが、海外の情報源によるこの問題に関する報道を、一度も肯定も否定もしたことがないためである。イスラエルは、「意図的な曖昧さ」のベールを維持するために、核不拡散条約(NPT)にも署名していない。

イスラエルの核政策は、「中東で最初に核兵器を導入する国にならない。」という一文で表現される。

この点について、イスラエルの軍事評論家ルーベン・ペダツール氏は、「イスラエルは(中東で核兵器を導入する)一番目の国にならないとしても、二番目に甘んじることもないだろう。」と皮肉交じりに語った。

ヴァヌヌ氏は、この問題に関する厳格な検閲規定を破ればどうなるか、自身の経験を通じてよく知っている。(イスラエルでは自国の核保有に関する)公論は依然として存在しないのである。「核問題は、イスラエルにおける最後のタブーといってもいいでしょう。」とペダツール氏は語った。

プリンストン大学の主席研究物理学者フランク・フォン・ヒッペル氏は、「中東における核分裂性物質の管理」と題した発表の中で、プルトニウム分離・使用の禁止、高濃縮ウラン燃料使用の停止、6%以上のウラン濃縮の停止、新規ウラン濃縮施設建設の禁止を提案した。

(「WMDのない中東」がテーマのこの会議で)イスラエルの核計画が最も関心を集めたのは自然な成り行きであり、(同国の核開発の中心地とみなされている)ディモナの核施設が俎上にのぼった。フォン・ヒッペル氏の世界的な提案に対して、イスラエルがなさねばならないのは、「イスラエルのプルトニウムや高濃縮ウラン備蓄の凍結、宣言、そして段階的な削減」である。

しかしパネリストらは、世界でもっとも不安定な地域からもっとも不安定な兵器をなくす必要性については総論的に見解の一致を見たものの、中東で核兵器を保有しているとされる唯一の国(=イスラエル)に焦点を当てることの実践的な意義については、一致に至らなかった。

ペダツール氏は、「素晴らしい提案だが時期尚早だ。」と指摘したうえで、「イスラエルの核問題から議論を始めるべきではありません。もし米国がイスラエルに圧力をかけることがあるとしても、おそらくだが、残念なことに、米国がイスラエルにインセンティブを与えられるとは思えません。」と語った。

この点については同意見のクーツザー元大使は、「米国はとりわけ核兵器拡散を止めることに関心を抱いています。イスラエルに関しては、同国が核保有を公式宣言していないという問題と、所与の前提である米国との強力な二国間関係にあるという厳然たる現実に立ち返らざるを得ません。」と語った。

イスラエルは、マドリッド平和会議(1991年)ののち、ACRS多国間協議に加わった。しかし、イスラエルが地域の安全保障という要素を議論の優先課題としたのに対して、(エジプト率いる)アラブ諸国が軍備管理の要素、すなわち保有疑惑のあるイスラエルの核兵器の管理を優先課題とした。その結果、両者間の協議は1995年に頓挫した。

イスラエルは、自国の核保有に関して「決して明らかにしない」という自国のみに都合の良い立場を前提に、中東非WMD地帯について議論し、いわゆる永遠の敵に対する究極の抑止力を放棄する用意があるとしている。しかもこの提案には、「パレスチナやシリア、イランなどの隣国全てとの包括的和平合意の枠内で」という前提条件が課されている。

これは、およそ仮想的で実現しそうにない前提条件である。

「イスラエルは国際社会にその事実上の核保有国の立場を認めさせようとしているのです。しかし、『イスラエルが核兵器を保有していないとの前提ならば中東非核地帯に反対しない』という論理は、まったく馬鹿げているというほかありません。」とアブザヤド氏は嘆いた。

アブザヤド氏の意見は従来のパレスチナの立場を代弁するものである。つまり、核兵器の問題と和平の見通しが「順番にではなく、同時に関連付けられながら」アプローチされねばならない、というものだ。

それでは核兵器の問題と中東和平の見通しの問題の間に、あるいはそれらの中に、何らかの連関はあるのだろうか?

「外交官による公式回答であれば『ノー』ということになるだろう。ところが、妨害で中止に追い込まれることなく、このような市民団体の集会で議論が行われてしまえば、両者の間には何らかの関連があるということになるのです。」とクーツザー元大使は語った。

イスラエルは、自国の核計画と現在芽生えつつある中東地域の緊張緩和との間にはいかなる関連性もないと主張している。

アブザヤド氏とPIJを共同編集しているヒレル・シェンカー氏は、「シリアから化学兵器を移動させるとの米ロ合意、1979年以来初となった米国・イラン大統領の会談、3年ぶりに再会されたイスラエル・パレスチナ間の和平交渉…」等の事例を挙げながら、「これらの出来事により、中東非WMD地帯の実現に向かって前進していくための建設的な下地が形成されつつあります。」との見解を示した。

これに対してペダツール氏は、会議の楽観主義的な雰囲気に冷水を浴びせるかのように、逆の要素を挙げていった。「シリア内戦での化学兵器使用、イラン核危機が今日まで解決されていないこと、イスラエルが依然として核兵器を保有し、パレスチナ占領を続けていること。中東非WMD地帯がすぐにでも実現しそうにないこと。」

クーツザー元大使は「米国がその影響力と権力を行使する用意に応じて、中東非WMD地帯の可能性に関する議論を行うだけではなく、実際にこれらの問題への取り組みを始めることを容易にするような地域安全保障に関する新たな局面が開かれる可能性があります。」と語った。

アブザヤド氏は、「イスラエルの話をすれば、イスラエルはイランの話をします。するとイランはパキスタンの話をし、パキスタンはインドの話を…といった具合に、核の連鎖は続いていくことになるのです。」と指摘したうえで、「(核兵器廃絶に関する)世界的な取り決めが必要です。」と主張した。

会議は、イスラエルの事実上の核保有をめぐる検閲を破ることには成功したかもしれないが、実効性のある中東非WMD地帯を創設するというイスラエルにおけるタブーを破るところまではいかなかったようだ。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|パキスタン|「米国は無人機攻撃作戦の影響を理解すべき」とUAE紙

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【ドバイWAM】

「米軍はパキスタン北西部の部族管轄地域でパキスタン政府の提案に応じて和平交渉に赴いてきた『パキスタンのタリバン運動』の指導者ハキムラ・メスード司令官を無人機で攻撃して殺害した。しかしこの行動は、米国が想定しなかった副次効果、つまり、アフガニスタンに駐留する北大西洋条約機構(NATO)軍を危機に陥れかねないリスクを招くこととなってしまった。」とUAEの英字日刊紙「カリージ・タイムス」が報じた。

「今日、アフガニスタン駐留NATO軍に対する補給物資は、カイバル・パクトゥンクワ州を通過しており、この補給ルートは多国籍軍の兵が撤退した後も、重火器や戦車などの装備を撤収する際、極めて重要な役割を果たすことになる。しかし、クリケット選手から政治家に転身したイムラン・カーン氏が率いる同州議会の与党『パキスタン正義運動』は、この米軍による無人機攻撃を激しく非難し、作戦を中止しなければ、NATO補給物質の同州通過を差し止める意向を明らかにした。もしこれが実行に移されれば、NATO軍は撤退前に補給物資を断たれて窮地に陥るリスクが出てくる。」

カリージ・タイムス紙は、「ナワズ・シャリフ政権は、アフガニスタン駐留NATO軍への物資補給ルートを提供している見返りに、50億ドルを超える通行料収入を得ているとみられている。しかし米軍との協力を巡ってカイバル・パクトゥンクワ州政府との対立が深まっていることから、この収入源が失われる可能性がでてきている。もし州議会が警告を実施に移した場合、11月20日から全てのNATO補給物資が同州を通過できなくなるだろう。」と報じた。

しかしシァリフ政権は、この州議会の動向を全く無視するわけにはいかない事情がある。それは州議会の与党が連邦下院にも影響力をもっていることと、民間人に多くの犠牲者を出してきた米軍による無人機攻撃に対する非難が国内で高まっており、その批判の矛先の一部が、『弱い者いじめをする外国勢力と共謀している』というイメージとともにシャリフ首相自身に向けられているからである。

シャリフ政権は、国民の怒りを鎮めるために今回の無人機攻撃を非難する声明を発したが、単なるリップサービスでは、カーン氏率いる州議会与党が本気で対決姿勢を貫こうとしている場合、それを思いとどまらせる効果はないだろう。万一の場合、代替えルートとして想定されるのは、パキスタン南西部のバロチスタン州を経由するルートだが、同州ではパキスタンからの独立を目指すグループや同州の自治拡大を目指すグループ等による反政府闘争が行われているため、州内は極めて不安定な治安状況にあり、NATO補給物資が直面するリスクは現行ルートよりもさらに悪化するものと見られている。

「NATO軍撤退期限が迫る中、安全な撤収ルートを確保するためにも、パキスタン中央政府とカイバル・パクトゥンクワ州間の和解が必要である。従って、同州における無人攻撃機による作戦を今後も継続することは、米国の敵のみならず、同盟諸国も危険にさらすことになりかねないのである。」とカリージ・タイムス紙は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【アックスブリッジ(カナダ)IPS=スティーブン・リーヒー

欧米の環境保護団体による最新の報告書によると、インドネシア、アルゼンチン、ナイジェリアの一部が、地球上で最も汚染された場所トップ10にランクインした。これらの汚染地域では、数百万人が生活し労働に従事しているが、概ね住人の寿命は短く、各種病気への罹患率も高い。またこうした地域では、より裕福な国で使われる製品が製造されていることが少なくない。

汚染関連の環境問題に取組んでいる「ブラックスミス研究所」(本部ニューヨーク)のジャック・カラバノス研究チーフは、「美しい宝石が、このような環境で作られていると知ったら、人びとは驚くでしょう。」と語った。同研究所は、11月4日、「グリーンクロス・スイス」とともに報告書『毒物の脅威トップテン2013(Top Ten Toxic Threats 2013)』を発表した。

インドネシア・カリマンタン島では、地元の人々が、きわめて毒性が強く神経を侵す可能性がある水銀を使って金を抽出している。

「彼らは、危険性について認識しないまま、この作業を家屋内で行っているのです。私たちのスタッフが実際に家屋に立ち入って水銀量を計測したところ、安全基準より350倍の高い水銀が検出されました。」と、ブラックスミス研究所主任で汚染地域のリスク評価を指揮したブレット・エリクソン氏は語った。

このような労働慣行により世界で1000万から1500万の人々が、深刻な健康被害のリスクに晒されている。エリクソン氏は、「これは、世界各地で大規模な水銀公害の発生源にもなっています。水銀は、ひとたび環境中に放出されると、魚など人間が食べるものに蓄積していくのです。」と指摘したうえで、「低コストで水銀を利用しない金採掘の方法は確かに存在するのですが、あまり広く知られていないのが現状です。」と語った。

『毒物の脅威トップテン2013』は、世界の汚染問題を記録した年次報告書の最新版である。この報告書には、旧ソ連チェルノブイリ原発事故の放射性物質による汚染が続くウクライナのチェルノブイリなど、有害物質による環境汚染が最も深刻な世界の10地点が収録されている(健康被害リスクの深刻さと被害を受けた人々の数に応じて分析・評価されている。なお、東京電力福島第1原発事故によって放射線量が高くなった地域は今回10地点に含まれなかったが、特記事項として「放射性物質漏れが続いている」と指摘している:IPSJ)。

報告書はこれまでも、公害による健康被害者数が世界で2億人にものぼり、規模ではマラリア結核症の被害に相当する現実を明らかにしてきた(前者と異なり後者の場合、世界の関心と数十億ドルの資金が注がれている:IPSJ)。また報告書は、「世界的に見れば、ガン患者の2割と子どもの疾病の33%が環境への曝露が原因であり、その傾向は国民総所得(GDP)レベルが低い国ほど、被害が大きい。」と記している。

ブラックスミス研究所は、「グリーンクロス・スイス」と共同で最初の報告書を発表した2007年以来、49か国において3000以上の汚染地域で危険性評価を実施してきた。今回の報告書では、2007年版に掲載した「ドミニカ共和国ハイナ市の自動車用バッテリーリサイクル用溶鉱炉跡地(数少ない成功事例として23頁に掲載)」など当時の「トップテン」地域についての、追跡調査の結果も報告されている。

「よいニュースは、インドなどの国が次第に公害問題に対処するようになっていることです。」とエリクソン氏は語った。インドはクリーンエネルギーの導入を推進する資金(4億ドル規模)を捻出するため、2010年7月から新たに「クリーンエネルギー租税(石炭税)」を導入した。インド政府はこの資金で、国内の汚染地域の一覧を作成し除染作業を進めていく予定である。

一方、汚染地域周辺で持ち上がっている問題の一つに、今日多くの国で見かけるようになった、国による規制の行き届かない小規模事業所の存在がある。インドネシアチタルム川沿いには2000以上の事業所があり、これらから排出される鉛・水銀・ヒ素などの毒物によって、面積にして1.3万平方キロメートルにおよぶ広大な地域が汚染されている。

「世界銀行から5億ドルの融資が出たおかげで、ようやく除染作業が始まりました。しかし、作業を完了するには十数年はかかるでしょう。」とエリクソン氏は語った。

また同報告書によると、アルゼンチンのブエノスアイレス近郊では、推定5万の小規模事業所が、大気中や土壌中、水中に毒性が強い化学物質や金属の混合物を排出している。そしてマタンザ・リアチュエロ川沿いでは、少なくとも2万人が危険な毒物に曝されている。ここでも、世界銀行が資金を提供し、ブラックスミス研究所が技術的支援を行って、浄化作業が進められている。

グリーンクロス・スイスのステファン・ロビンソン氏は、「最悪の環境汚染地域の中には、規模があまりにも広範囲にわたり、除染するには数十億ドルの資金と数十年の作業期間を擁するものも含まれています。こうした地域は、今後も長年に亘ってこの年次報告書にランクインし続けていくでしょう。」とIPSの取材に対して語った。

ロシアにはこうした最悪の環境汚染地域が2カ所存在する。ロシア政府は、こうしたソビエト連邦時代の負の遺産がもたらす深刻な状況についてようやく認め、除染予算として30億ドルを割り当てた。一つは旧ソ連時代に約半世紀にわたってサリン、VXガス、マスタードガス、ホスゲン等の化学兵器の生産拠点であったジェルジンスク(人口約30万人)である。ここでは少なくとも30万トンにのぼる工場からの廃棄物が地下水に流れ込んだとみられている。

この街では先天性欠損症などの出生異常の発生率が高く、住民の平均余命も40歳代にまで低下している。これと類似した状況は、シベリアのノリリスク(人口約13万5千人)でも見られる。ここでは、世界最大のニッケル製錬所から排出される二酸化硫黄等により周辺30キロの木々が枯れるなど、住民は深刻な公害問題に直面している。

「ノリリスクの公害防止の必要性については多くが語られていますが、対策はほとんど行われていないのが現状です。」と、ロビンソン氏は語った。

今回新たにトップテン入りし、今後長年に亘って掲載され続けるであろう汚染地域が、ナイジェリア最大の産油地帯「ニジェールデルタ」である。ここでは1976年から96年にかけて、250万バレル石油が土地と運河に流出しており、国連環境計画(UNEP)も2011年に発表した調査報告書の中で、史上最大規模の除去作業(除染費用10億ドル、作業期間30年)が必要だとの認識を示している。石油およびその副産物は極めて毒性が強く、この地域に暮らす約3000万人の貧しい住人の健康に深刻な被害(呼吸障害、皮膚や消化器疾患、腫瘍やがん)をもたらしている。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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「アラファト氏の毒殺説、裏付けられる」とUAE紙

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【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙は11月8日、「ヤーセル・アラファトパレスチナ自治政府議長(当時)の死因については、2004年の死亡以来、様々な憶測がとびかってきたが、放射性物質ポロニウム210を用いた毒殺であったことを裏付ける決定的証拠が発見されたようだ。」と報じた。

パレスチナの真相解明委員会は同日、記者会見を開き、「アラファト氏の遺体から採取した検体を鑑定していたスイスの研究所が、『ポロニウムを通常より高い水準で検出した』と発表したのを受けて、同氏の死は暗殺によるものとの見方を示した。」

しかし、ポロニウム210がどのような経路でアラファト氏の体内に送り込まれたかについては、同氏が使用した歯磨き粉に混入されていたという説や、食べ物の中に混入されていたという説、はたまたアラファト氏が病院で着ていた服に付着させたという説など様々である。

PLO Chairman Yasser Arafat / By Government Press Office (Israel), CC BY-SA 3.0
PLO Chairman Yasser Arafat / By Government Press Office (Israel), CC BY-SA 3.0

しかし少量で継続的な激痛をもたらし死に至らしめるポロニウムをどのような方法でアラファト氏の体内に送り込んだのかという問題よりは、誰の仕業であったかという点の方が重要である。この点について主犯として名指しされているのがイスラエルである。

「アラファト氏は、過激派・政治指導者としての生涯を通じて、イスラエルによる占領と抑圧からパレスチナの民衆と土地を解放し、パレスチナを独立国として国際社会の中で本来あるべき地位に復帰させるという悲願を妥協なく追求した人物だった。」とガルフ・ニュース紙は11月8日付の論説の中で報じた。

イスラエルの指導者はアラファト氏の生前、同氏を公然と「敵とみなしている」と語り、口封じの対象であることを示唆していた。アラファト氏の存在は、パレスチナ民衆に加えられている非合法かつ不道徳なイスラエルの行為を国際社会に訴える生きた象徴であり、パレスチナ人の大義を中東和平問題の中心課題に据え続けたアラファト氏の手腕は、イスラエルにとっては困惑の元凶であり、アラファト氏は文字通りイスラエル政府にとって不倶戴天の敵であった。

ポロニウムは、核開発プログラムを通じて人工的に生成しない限り自然界にはほとんど存在しない(ウランの100億分の1程度)放射性物質であり、イスラエルは2004年当時、(自国の核開発プログラムを通じて)容易に入手できた。イスラエルの保安・諜報部員は、このパレスチナ人活動家に対して、最も非道な手段を講じたのである(イスラエルは関与を否定:IPSJ)。なお、同国は、2010年にもここUAEの主権を侵して偽造外国人旅券で保安・諜報部員をドバイに入国させ、ハマス幹部マフムード・マフブーフ氏を暗殺するという非道な手段を実行した経歴がある。

しかし、米国および国連安保理(における米国の拒否権)によってイスラエルが今日の地位を保証されている限り、アラファト氏を殺害した実行犯らが公正な裁きを受ける日は、決して訪れないだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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課題は残るが、核軍縮によいニュース

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

核軍縮に関しては多くのよいニュースがあるが、核兵器禁止を求める活動家が「枕を高くして安らかに眠る」ことができるまでには、まだ長い道のりが待っている。広島・長崎での核兵器使用から約70年、未だに約1万7000発の核弾頭が人類の生存を脅かし続けている。

これらの大量破壊兵器を保持している一握りの国は、核兵器の維持・近代化のために今後10年間で1兆ドル以上を消費しようとしている。つまり年間1千億ドルである。

その大部分は核兵器国の納税者が支払っているものだが、最近のある報告書によると、フランス、インド、英国、米国で核戦力を生産、維持、近代化している民間企業に対して、民間部門が314,349,920,000ドル以上を投資しているという。

よいニュースは、(核抑止力に頼る安全保障政策上の理由からこれまで参加を見送ってきた)日本のような「核の傘依存国」を含む世界の124か国が、「いかなる状況でも核兵器を2度と使わないことが人類の生存の利益につながる」と強調した画期的な声明を承認したということである。

実際、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICANが指摘するように、核兵器の使用がもたらす人道的影響に関する否定しえない証拠によって突き動かされ、核軍縮の進展が遅いことに深い懸念を表明した国家や国際組織の数は、2013年だけでも加速度的に増えている。

2013年3月、ノルウェー政府がオスロで主催した「核兵器の人道的影響に関する国際会議」では、核爆発に対応できるような国際的な対処計画を効果的に実施することは不可能との結論に達した。

9月、核兵器国からの抵抗を受けながらも国連総会によって初めて招集された「核軍縮に関するハイレベル会合」は、人道主義的アプローチと核兵器禁止を求める数多くの呼びかけに焦点を当てた。この勢いに乗って、メキシコ政府は、核兵器の使用がもたらす人道的影響に関する議論を継続するため、2014年2月13~14日に同国太平洋沿岸のナヤリトで会議を主催することを発表した。

国連総会第一委員会で今年10月21日にニュージーランドが発表した共同声明の重要性は、オランダの平和団体「IKVパックス・クリスティ」がICANと共同で行った調査『核兵器に投資するな』によって強調されている。

このような背景の下、核兵器なき世界を半世紀以上にわたって追求してきた創価学会インタナショナル(SGI)は、「核兵器の非人道的性格を明確にし、いかなる状況下でも核兵器を使用しないとの明確な国際規範の確立を目指す継続した取り組み」を歓迎し支持を表明してきた。

SGI平和運動局長の寺崎広嗣氏はIDNの取材に対して、「核兵器のいかなる使用によって生ずる壊滅的な帰結は、『そのようないかなる使用も国際人道法の違反にあたると明確に宣言する』ことを諸政府に義務付けるような次のステップを求めています。」と語った。

創価学会の副会長でもある寺崎氏は同時に、「核兵器禁止に向けた人道的側面からの議論の現実的な限界、つまり引き続き核兵器保有国の協力を得られないでいる問題」についても指摘した。

寺崎氏は、核兵器保有国のオピニオン・リーダーや政策決定者に働きかける協調的な取り組みが必要だとして、「彼らの多くは、非国家主体が核兵器技術を求めるような世界においては核抑止論が既に本質的に破綻していることを認めており、核兵器なき世界はより安全な世界だと述べています。」と語った。

市民社会にとっての課題

この点について寺崎氏は、「市民社会は、『核兵器保有国と非核兵器保有国が生産的な対話に臨めるよう共通言語を作っていく』という重要な課題に直面しています。」と語った。

さらに寺崎氏は、「そしてこれは、この世の終わりをもたらすような兵器を世界からなくすという要請が現実的にも道徳的にもあるからです。この意味で、核兵器を廃絶する作業は本質的に、世界的な企図であり、すべての当事者が建設的な役割を担っているのです。」と語った。

このことはとりわけ外交官に当てはまる。ICANのレベッカ・ジョンソン共同代表はこの点について、「核兵器を禁止し廃絶する外交行動こそが、将来的に核の惨事を避ける最善の道です。」と指摘するとともに、「核兵器の人道的影響に関する重要な(共同)声明に署名した124の政府は、一部の国による核兵器保有の軍事的な正当化よりも、自国民の安全を優先したということです。」と語った。

ICAN国際運営グループのベアトリス・フィン氏は、「核兵器に人道主義の側面から焦点を当てることは成功してきたと言えます。ますます多くの国が、この大量破壊兵器が生みだしかねない容認不可能な害悪に対する懸念を示しています。この議論は、核兵器禁止に向けて信頼に足るような道筋があるという我々の自信と決意を強化してくれたのです。」と語った。

80か国に300人以上の会員を擁するICANは、来年2月の会議で市民社会が効果的かつ意義ある参加を果たせるよう、メキシコ政府と密接に協議している。メキシコ政府は、市民社会のためにこのプロセスを促進し、会議がオープンで包括的なものであるように努力をするであろう。ICANはまた、途上国の活動家に対する支援プログラムを実施する予定だと活動家らは述べている。

長い道のり

核兵器なき世界を実現するまでになぜ長い道のりを歩まねばならないのかということについては、IKVパックス・クリスティとICANの報告書『核兵器に投資するな』に記されている。これは、世界中の298の民間・公的金融機関が、核兵器の生産・維持・近代化に関わる27の企業に約3140億ドルを投資している件について焦点を当てた唯一の報告書である。

同報告書の要約には、核兵器製造企業に融資しているとみられる全ての金融機関名が記されている。その内訳は北米に175機関、欧州に65機関、アジア太平洋に47機関、中東に10機関、アフリカに1機関であったが、ラテンアメリカ・カリブ海地域には一つも存在しなかった。なかでも最も深く関与しているとみられる銀行やその他金融機関としては、バンク・オブ・アメリカ、ブラックロック、JPモルガンチェース(以上米国)、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(英)、BNPパリバ(仏)、ドイチェ・バンク(独)、三菱東京UFJ銀行(日)などが挙げられている。

これらの大量破壊兵器のリスクと効果について批判している国家や金融機関も一部にはある。しかし、同報告書の調査が明らかにしているように、この3年間で、さまざまな金融機関が、少なくとも計630億ドルを融資し、投資銀行が少なくとも430億ドルを投資し、さらに少なくとも2070億ドルを(核兵器生産関連企業の)株式・債権保有などに使ったという。

にもかかわらず、多くの金融機関は核兵器違法化に向けた緩慢な政治プロセスを待つつもりはない、と同報告書は断言している。「一部の金融機関は、多国間の条約プロセスが始まるのを待つことなく、核兵器生産者に対する投資を禁止あるいは制限する政策を採用している。これらの金融機関は甚大な人道的加害を避けるという倫理的責任に基づいて行動してきた。」と報告書は述べている。

さらに報告書には、「金融機関の倫理的責任を強調する傾向の強まりに続けて、金融機関や政府に対して、核兵器の保有や開発を継続することは容認できないとの明確なシグナルを送る個々の市民の責任を強調する傾向も強まっている。」と記されている。

実際、核兵器は、無差別殺戮兵器であり、危険な人間の手に渡る可能性もあるという認識が世界的にも高まっているにもかかわらず、生物兵器や化学兵器とは違って、依然として国際法で禁止されていない唯一の大量破壊兵器である。今年6月19日、米国のバラク・オバマ大統領はベルリンにおいて、「核兵器が存在し続けるかぎり、我々は本当に安全とは言えません。」と語った。

核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合」において、オーストリアのハインツ・フィッシャー大統領は、「核の奈落を避けようとの我々の共同の取り組みは、その野心においてあまりに控えめであり、わずかな成功しかもたらしていません。」「核兵器が我々を滅ぼしてしまう前に、我々がそれを悪とみなし、禁止し、廃絶しなくてはなりません。」と語った。

これまでに、核不拡散条約(NPTの全190加盟国が「核兵器のいかなる使用によっても起こる破滅的な人道的帰結」を認識しており、国際赤十字委員会が言うように、次のステップは核兵器を「違法化し廃絶すること」である。

これによって、まさに「希望は人間の胸に永遠に湧き出る」という古い格言に重みが加わることになろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ペシャワール(パキスタン)IPS=アシュファク・ユスフザイ

ジョハル・マセーさんは、パキスタンの大半のキリスト教徒がそうであるように、清掃の仕事をしていた。場所はカイバル・パクトゥンクワ州の州都ペシャワールの工場である。

彼は、ペシャワールの諸聖徒教会で9月22日に起きた自爆テロの犠牲者の一人である。また、清掃の仕事をしていることから人口の大半を占める国内のイスラム教徒から「不潔な人々」と蔑まれている数十万人におよぶキリスト教徒の1人でもあった。

地元で仕立屋を営むラフィク・マセーさんは、「キリスト教徒と握手する奴なんていないよ。文字通り、私たちは『触れてはいけない人間』として扱われているのさ。」と語った。彼の店にはイスラム教徒の客も多いが、大半の客は彼と口をきこうともしないという。

「キリスト教徒の大半は、ペシャワールの街に集中してのさ。なぜなら田舎だと、(イスラム教徒)の住民からなにをされるかわからないからね。」

またキリスト教徒の圧倒的多数は、不衛生で水道もなく、保健施設も整っていないスラムで極貧生活を送っている。ペシャワール大学で清掃の仕事をしているジャヴィド・プヤラさんは、「私たちは2部屋の泥とレンガの家に住んでいるが、家族10人にはあまりに狭い」と語った。

このように厳しい環境に置かれているキリスト教徒だが、彼らはしばしば欧米諸国の手先と見なされる傾向にある。

「世界で(イスラム教に対する)何らかの冒涜的な事件が起こると、パキスタンではキリスト教徒がその責めを負わされることになります」とシャムシャッド・カーンさんはIPSの取材に対して語った。昨年、米国で預言者ムハンマドを冒涜する映画が制作されたのを受けて、近隣の町マルダンでは、キリスト教会が焼き打ちされる事件が起きた。

「人々はキリスト教徒を異教徒(非イスラム教徒)として嫌っているのです。」とカーンさんは語った。

パキスタン憲法では、キリスト教徒が大統領や首相の職に就くことを禁じている。「国会や州議会ではキリスト教徒に1%の議席が割り当てられているのですが、これをもって彼らの声が国の政治に反映されているとはとても言えません。」「住民の多くはキリスト教徒を握手したがりませんし、ましてや食事を共にするものなどいないのが現状です。」とカーンさんは語った。

このような状況の中で、多くのキリスト教徒たちの望みは、次の世代がよりよい生活を送れるようになることだ。「最近では、若いキリスト教徒の中に、教育を受けて高賃金の仕事に就く者が増えてきています。彼らは(親の世代のように)清掃の仕事に就こうとはしません。」と政府庁舎で清掃の仕事をしているブータ・マセー(60)さんは語った。

「私は地元の大学を卒業して今では銀行で現金出納係をしています。私の友人十数人も大学を卒業して高給な仕事に就いています。」と息子のアクラム・マセーさんはIPSの取材に対して語った。

多くの若い世代のキリスト教徒は、親の世代では経験することがなかったより良い未来を見据えている。「友人にはイスラム教徒もいます。私たちはともに食事をし、政治やいろいろな話題を語り合います。お互いに尊敬しあっているのです。」と掃除人の息子で現在はペシャワールのイスラミア大学に通うムクタール・マセーさんは語った。

「キリスト教徒の少女の大半は、(イスラム教徒の)地元の少女が就労を望まない看護の仕事に就きます。あるいは公立や私立の学校で教師の職に就くこともあります。」と、地元住民のジャラル・マセーさんは語った。しかし、こうしたより良い生活を志向するキリスト教徒の若者らの希望は、今回のキリスト教徒を狙った過去最悪の自爆テロにより。大きく揺らぐことになった。この死亡者85人、負傷者140人を出した自爆テロに、パキスタンのキリスト教徒は震え上がった。

ペシャワール在住の10万人にも及ぶキリスト教徒らは、まともな生活と、社会に受け入れられることを求めて努力を積み重ねてきたが、今やテロリストからの脅迫に対処することを余儀なくされている。

「私たちキリスト教徒は全く無防備な状況に置かれています。テロリストたちは私たちを標的にしてくるので、当局によるしっかりとした保護が必要です。」と9月22日の自爆テロで負傷したジャミル・マセーさんは語った。

ペシャワールの宗教学者ムハマド・カリム氏は、「テロはイスラム教徒とキリスト教徒の間の対立を煽ることを目的にしているのです。」と指摘したうえで、「キリスト教徒は、私たちの病院や事務所、市場を掃除し、奉仕してくれているのだから、彼らに感謝しこそすれ、傷つけてはならないはずです。イスラム教では、非イスラム教徒と共存することを謳っているのですから。」と語った。

ウラマー連合のマウラナ・タヒール・アシュラフィ会長は、「マイノリティー(=キリスト教徒)を保護できないでいる現状に衝撃を受けるとともに、極めて恥ずかしいことだと思っています。なぜなら、預言者ムハンマドの教えによれば、非イスラム教徒のための礼拝の場を保護することは国の義務なのですから。」と語った。

一方、イスラム宗教学者マウラナ・ザファル・グル氏は、「イスラム教スンニ派宗教学者のほとんどは、教会の存在を認めていません。彼らがそれでも沈黙を保っているのは、政府や国際社会からの圧力があるからにすぎないのです。」と語った。

パキスタンマイノリティー運動のサレーム・グラブル会長は、「パキスタンではキリスト教徒はこれまでも惨めな生活を送ってきました。私たちは僅かな賃金で清掃の仕事をしてきたのです。そして今、テロ攻撃により命の危険に晒されているのです。」と語った。

「最近のキリスト教徒を標的にした自爆テロは、パキスタン政府がタリバンとの対話を決意したタイミングを狙って国際社会の注目を引こうとしたものです。テロリストらは、対テロ戦争におけるパキスタン政府の関与に激しい憤りを感じており、パキスタン国内のモスク、シーア派住民、葬列、学校、市場、政府庁舎等を標的にすることで、そうした怒りを訴えているのです。」とラホールの政治学者サワール・シャー氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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未来の世代を維持するカギを握る軍縮

【ニューヨークIDN=ジョアン・エラキット】

政策形成を通じて将来世代の利益増進に取り組んでいる「世界未来評議会(The World Future Council)」は、列国議会同盟(IPUおよび国連軍縮部(UNODAと協力して、4年前から世界の平和と安定に貢献した優れた政策に「未来政策賞」を授与している。

この国際社会にプラスの変化をもたらす使命を帯びた三者連合による顕彰プロセスは、次の質問から始まる。「今日もっとも重要な問題は何であり、いったいどの国が、他者の注意を引くような熱意をもってそれに取り組んでいるのか?」そして今年のテーマは優れた「軍縮政策」に焦点を当てることとなった。

10月23日、国連関係者、市民社会、各国の代表がニューヨークの国連本部に集い、「2013年未来政策賞」授賞式が開催された。

国連オーケストラの演奏と、自動小銃「AK-47を改造したギターを携えたコロンビアの歌手セサル・ロペス氏の歌で始まった授賞式は、平和と安全保障をもたらす手段としての政策形成の重要性を訴えるイベントとなった。

3つの受賞カテゴリー(「金賞」「銀賞」「特別賞」)に沿って、「優れた軍縮政策」、とりわけ、兵器(小火器および核兵器)を廃棄する取り組みが模範的かつ持続可能だと評価された国に賞が授与された。

潘基文国連事務総長は、すべての形態の兵器を解体することの重要性を支持するとしたうえで、軍縮は「もっとも重要な世界の公共財」であり、「国連軍縮部の取り組みを引き続き支援していきます。」と語った。

世界未来協議会によると、2012年の世界の軍事支出は1兆7000億ドルを遥かに上回るという。これは、貧困削減や疾病対策、環境問題に使われている資金の額と対比してみると驚くべき数値である。

兵器の存在そのものが社会に脅威を及ぼすものだと言うこともできる。また、兵器の不法な拡散・売買は、引き続き多くの国にとって深刻な問題であり、武器を用いた暴力を加速し無辜の市民を死に追いやる一方で和平プロセスを妨げている。

従って今や軍縮問題は、持続可能な発展と民衆保護の両立という難題を解決するために不可欠の要素となっており、今年の授賞式ではその重要性が大いに強調された。

そして受賞者は……

多くの候補推薦を募ったのち、8人で構成する受賞者選定委員会が7月に検討を行い、ニューヨークで発表される受賞者を決定した。その際、6大州15ヵ国における25以上の軍縮政策が検討された。

ノミネートされた国の多様性は言うに及ばず、提示された政策の多様性は、このテーマが今日の国際社会においていかに緊急の課題であるかを物語っている。検討された軍縮政策には、特定の兵器の廃棄に焦点を当てたものもあれば、核兵器の完全廃棄と軍縮に着目したものもあった。

授賞式をホストした「世界未来評議会」のアレクサンドラ・ワンデル理事長は、IDNの取材に対して、今日の世界情勢に照らしてこの賞が持つ重要性について次のように説明した。

「今日、ニュースを見れば、毎日のように武力紛争や銃の拡散を伝える暗い報道に接する状況であり、世界の多くの人々が絶望感に打ちひしがれています。だからこそ、『未来政策賞』は、前向きな(今年の場合、軍縮政策の)実例が世界に存在し、軍縮を行い現在および将来世代の生活環境を向上させることは可能だということを、世界の人々と各国政府に知らしめる責務を負っていると考えています。」

「未来政策賞」特別賞は、ベルギーをはじめとする5ヵ国に授与された。ベルギーは、対人地雷を禁止した、「1995年武器弾薬法」改正、さらに、クラスター弾を禁止した「兵器に関する経済的・個人的活動を規制する2006年の法律」が評価された。

コスタリカは、1948年の5週間にわたる内戦の後、1949年に制定した憲法の12条で常備軍を廃止したことが評価された。

モザンビーク南アフリカ共和国は、犯罪撲滅の領域で相互協力・支援した1995年の取り組みが評価された。そして5ヵ国目の「特別賞」受賞国モンゴルは、2000年に国内法である非核法「モンゴルの非核兵器地位に関する法律」を成立させ「一国非核兵器地帯」を確立したことが評価された。

「未来政策賞」銀賞は、アルゼンチンとニュージーランドに授与された。アルゼンチンは、2006年に施行した「銃火器自発供出」政策が評価された。この政策は、不必要な銃火器による暴力を防止する記念碑的な第一歩であった。

ニュージーランドは、1987年に施行した「ニュージーランド非核地域、軍縮、軍備管理法」(これによりニュージーランドの国土と領海は、非核兵器および非原子力推進艦艇地帯となった:IPSJ)が評価された。このニュージーランドの政策は、南太平洋において核実験が行われていた時代に、健康と環境を守るうえで重要な役割を果たした。

そして「未来政策賞」の最高賞である「金賞」は、既に半世紀以上に亘って多くの国に影響を及ぼしてきた「トラテロルコ条約」としても知られる「ラテンアメリカ・カリブ海核兵器禁止条約」を実現した、ラテンアメリカとカリブ海諸国に授与された。

1967年に署名されたこの条約は、核軍縮を利用した協力的な地域安全保障を生み出す前例を作った。キューバ危機に刺激されて、(条約署名から)2年後の1969年、ラテンアメリカ・カリブ海地域核兵器禁止機構(OPANALが設置された。トラテロルコ条約の基本原則を守り、地域の平和と安全を継続的に作り出す活動をしている。

トラテロルコ条約は、あらゆる核兵器の製造、使用、実験、設置、貯蔵、取得、保有を禁止するという顕著な特徴を有し、地域外からの核兵器の脅威に対処するという公約を果たしてきた。一方、当時多くのラテンアメリカ諸国が将来的に核兵器開発能力を取得しかねない原子力産業の育成に乗出し始めていたことを踏まえて、同条約は将来を見据えてもいた。2013年の現在、この非核兵器地帯条約は、1960年代当時と同様に重要な意義を持ち続けている。

「ラテンアメリカ・カリブ海核兵器禁止条約の特異な点は、これらの国々が人類初の非核兵器地帯の創設に成功したのみならず、他者にも影響を与えたということにあります。今日、南半球は非核兵器地帯であり、それが他の地域や他の核兵器国に対する刺激となっているに違いありません。なぜなら、依然として核兵器を保持しているということは平和への脅威だからです。」とワンデル会長は語った。

軍縮の将来

それぞれの受賞者は賞を母国に持ち帰り、地球社会を守るための取り組みを続けることになるが、ここで問わねばならないのは、軍縮の未来が次の世代にとって何を意味するのかということだ。

「核廃絶フォーラム」第2号に寄稿した、示唆に満ちた論文の中で、ロブ・ファン・リエット氏は、まもなく核兵器が日常の一部となっている世界で生きる可能性と対峙しなくてはならなくなる、概して核問題に無知な人々について言及している。米国のバラク・オバマ大統領が2009年4月にプラハで行った演説を回想しながら、ファン・リエット氏は、核抑止をどう捉えるのかはっきりしない状況がもたらす致命的な側面について再考している。

「(オバマ大統領による)この発言は同時に我々の目を覚まさせるものであった。核兵器が及ぼす危険性について概して認識が浅い若い世代に対して、ベルリンの壁の崩壊は核兵器の壁の崩壊につながらず、今すぐにも世界を完全に破壊しかねないものであるということを気づかせたのだった。」

この悲しい真実は、大半の若者―間違いなく核世界の影響を維持しつづけなければならないであろう世代Y(1970年代末から90年代中盤に生まれた世代)―が、軍縮をめぐる政治動向についてほとんど理解していないという事実によって、より現実的なものとなっている。

過去の行動は将来の条件を形作るが、未来政策賞によって光を当てられた政策は、この現象をきわめて明瞭な形で明らかにしている。

これらの政策の多くは30年前のものであり、40年も前のものすらある。内戦や世界的な不安、権力の濫用が、現在においてもそうであるように、これらの時代にきわめて重い意味を持っていた。これに対抗して、ともに手を携えて、歴史を繰り返させないように政府が実行することのできる政策を創り出すべく刺激を受けた人々の姿があった。

世界の指導者らが集って核兵器の将来について議論する際、これらの計画に来る世代も関与させるよう願うばかりだ。あるいは、少なくとも、平和と軍縮の関係について熟考するよう世代Yに対して呼びかけよう。こうした世代によって、兵器に対する考え方が再評価され、社会を守る政策に関する教育が行われ、彼らが地方政治や国政への関与を実現していけば、将来の世代を支えていく思慮に富んだ措置が可能になるだろう。

軍縮は、国際の平和と安全を強化し、「未来政策賞」を通じて我々が垣間見たように、変化のドミノ効果を生み出すことができるのだ。(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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サウジ政府が国連安保理を非難

【国連IPS=タリフ・ディーン

1991年、サウジアラビアが国連総会議長のポストを目指してパプアニューギニアと争っていた時のこと―。サウジアラビアはまず、アジアグループからの指名を勝ち取る必要があった。そのために「袖の下」も使ったという。

国連報道に長く携わり現在は米国のシンクタンク「フォーリン・ポリシー・イン・フォーカス(FPIF)」で上級アナリストを務めるイアン・ウィリアムズ氏は、IPSの取材に対して、「当時アジアグループからの代表指名投票が行われた際、サウジアラビアに賛成の挙手をする大使らの手のほとんどに、スイスの高級腕時計『ロレックス』が光っていました。」と語った。

この話自体はやや眉唾物だが、国連機関の要職の座を巡って裏側で何が行われていたかを示すエピソードではある。

10月17日、サウジアラビアは、(おそらく高価なギフトを伴わない)精力的なロビー活動を経て、国連総会で国連安保理非常任理事国(任期2年)のポストを勝ち取った。ところが、それから24時間もしないうちに、理事国入りを辞退するとの異例の発表を行ったのである。

「安保理非常任理事国のポストを辞退するというサウジ政府の決定は、絶対王政国家だからこそあり得る判断だと思います。また、国王自身が(安保理非常任理事国のポスト獲得を目指した)自国の外務省の動きについて知らなかったという可能性さえあります。」と英国のトリビューン誌にも寄稿しているウィリアムズ氏は語った。

イスラム協力機構(OICは21日、サウジアラビアの決定を支持する声明を発したが、国連のアラブ諸国の代表部は、サウジ政府がこの決定を見直すことを期待している。

あるアジアの外交官はIPSの取材に対して、「サウジ政府はシリア情勢を巡って行き詰っている国連安保理の現状に不満を抱いており、今回の決定を覆すことはないだろう。」と語った。とりわけ、シリアのバシャール・アサド大統領に対する制裁を求めた西側諸国主導の決議案がロシアと中国の拒否権行使により3度も頓挫している現状を問題視しているのだという。

「アラブ研究所」が発行する有力電子マガジン『ジャダリーヤ』(Jadaliyya)のモーイン・ラバニ編集長は、「今回のサウジアラビアの行動は、同政府に外交政策を行う能力が欠如していることが表面化したもの」と指摘したうえで、「自国の国連代表部が、非常任理事国選出に大いに沸いたにも関わらず、その直後に彼らの多大な準備と努力の一切を無にすることになる(辞退)発表を本国政府が行ったことを考えればこの点は明らかです。」と語った。またラバニ編集長は、「この決定を誰が下したのか、またこの発表自体が単なる決定を伝えたものなのか、それともサウジ政府の懸念を誇示するために行った政治的なジェスチャーだったのかについては不確かなままです。」と語った。

またラバニ編集長は、「サウジ政府は、国連安保理のポストを辞退する発表を行った際、安保理の構造的な機能不全と、安保理がシリアやパレスチナ問題の解決に失敗してきた経緯を指摘した」点を挙げ、「こうした懸念は、さらなる検討に値します。」と語った。

ラバニ編集長はしかし一方で、「国際の平和と安全を守り紛争解決を協議する場としての国連の権威を失墜させるような行為を、米国やイラク、ときには中東から遠く離れたニカラグアと結託して、長年に亘って行ってきたのも、他ならぬサウジアラビアなのです。」と指摘した。

ウィリアムズ氏は、サウジ政府の今回の決定の背後には、国内の有権者の期待に応えようとしながら、(米国をはじめとした)重要な支援国への配慮を示さなければならないことから生じるジレンマが存在する、と指摘した。

1991年に国連総会議長に就任したサウジアラビアのシャミル・シハビ氏が最初に手掛けた仕事の一つが、「シオニズムは人種主義と人種差別の一形態である」とした国連総会決議3379について再検討する国連特別総会の議長を務めることだった。この国連総会はジョージ・H・W・ブッシュ大統領の呼びかけで開催されたもので、再検討の結果、(そもそも1975年にアラブ諸国、第三世界諸国、ソ連が主導して実現した)同決議は覆された。

ウィリアムズ氏は、当時シハビ議長自身が、イスラエル代表の欠席にもかかわらず、(イスラエルにとって有利な決議を行った)この総会を欠席していた点を指摘した。当時ブッシュ政権に借款を拒否されていたイスラエル政府は、ブッシュ大統領がこの国連総会の開催を呼びかけることで、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC、親イスラエルロビー団体)からの支持獲得を狙っていると警戒して大使の出席を見送っていた(当時の米以関係)。

ウィリアムズ氏は、「当時のサウジアラビアの動きに、今回のショッキングな決定の背後にある共通の論法を見出すことができます。つまり、そもそもサウジアラビアの外交政策は二枚舌的なものにならざるを得ないのです。例えば、一方で米国と結んでイランを追い詰めながら、他方では、同じイスラム教国に攻撃を加えていると見られないように注意しなくてはならないのです。」と指摘した。

ラバニ編集長は、「実際のところ、サウジアラビアがパレスチナ問題の解決を真剣に考えているとまともに受け止めている人はほとんどいないでしょう。」と語った。

「ほとんどの人が、サウジアラビアが今になって突然、国連安保理の機能不全やパレスチナ問題に関する責任放棄に気づいたというのは、遅きに失したと考えるのではないだろうか。もしサウジ政府がそれほどまでにパレスチナ問題を重要だと考えているのならば、今回のように国連を舞台にした政治ショーを演出する前に、なぜ米国に対してそれを真剣に提起し、対米関係を見直さなかったのだろうか。」とラバニ編集長は疑問を呈した。

またラバニ編集長はシリア情勢について「サウジ政府は、容赦ない宗派間抗争を遂行するために(シリアのみならずイラクやレバノンにおける)最も過激なスンニ派原理主義グループに対する武器援助を含めた支援を行っているが、こうした政策がサウジ政府が国連安保理に要求している平和と安全の確保にどのように貢献しているのかという問いに対して、未だに説明を行っていません。」「この問いにサウジ政府がどのように回答するかは不明です。」と語った。

そして今後の中東情勢について、「現在懸念されているのは、サウジ政府が、交渉によるシリア情勢の妥結とイランとの対話が進展する事態を防ぐために、(そうした状況を同じく望んでいない)イスラエルと結託して中東を戦火に巻き込む方向に動く事態です。今後の望みは、サウジ政府がこれまで通り、米国政府の指示に従うことです。」とラバニ編集長は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【デリク(シリア)INPS=カルロス・ズルトゥザ】

3か月前に内戦から逃れてきたばかりのグルナズさんは、イスラム教の戒律に従って死後24時間以内に弟を埋葬するために再びシリアへと帰る途中である。しかし、棺を担いでイラク・シリア国境を超えるのは容易なことではない。

バグダッドの北西460キロにあるクルド自治区の町ペシュカブールには、この数か月間、尋常でない人の波が押し寄せている。その多くがシリアからの難民だが、いったん離れた戦乱の地に戻らねばならない者たちもたくさんいる。イラク側の国境検問でクルド人官吏による出国審査手続きを待っている間、弟の死に直面してショックで打ちひしがれているグルナズさんに代わって、同行の人物が事情を次のように語ってくれた。

「シリアで7月にイスラム過激派らによる(クルド人支配地域に対する)攻勢が始まってから、私たちは隣国イラクのエルビル(バグダッドから北390キロにあるクルド人自治区の行政上の首都)に移ってきました。しかし、まったく不運なことに、彼女(グルナズさん)の弟が交通事故で亡くなってしまったのです。」

イラク・シリア国境の行き来を管理する両国の検問所の風景は他の国々のものとほとんど変わらない。ここでも制服を着た検査官らが荷物を調べ、カウンターの向こうでは私服の官吏がひたすらコンピューターにデータを打ち込んでいるおなじみの風景である。およそ一時間後、グルナズさんら一行の出国手続きは終わったが、彼女らのパスポートに出国印が押されていないのが、ここの検問所の特徴を示している。

 Kurdish-inhabited area, by CIA, Public Domain
 Kurdish-inhabited area, by CIA, Public Domain

つまりここペシュカブールは、イラクのクルド人自治区(クルド人の長年の悲願である自らの国家樹立とまではいかなかったが、これまでに勝ち取ったそれに最も近い自治形態)と、クルド系シリア人が今日実質支配しているシリア北東部が接する国境なのである。

今日クルド人は、約4000万人が、イラン、イラク、シリア、トルコの国境に分断されて暮らす、独立国家を持たない世界最大の民族である。シリアに暮らす約300万~400万人のクルド人は、2011年3月に民衆蜂起がシリアで勃発して以来、バシャール・アサド政権にもスンニ派アラブ人を主体とする反政府勢力にも与せず、基本的に中立の立場をとる「第三の道」を選択した。

シリア北部と北東部では、政府が反政府勢力と戦う兵力を南部に結集するため軍を撤退させたのに続いて、2012年7月には人口の大半を占めるクルド人が事実上の自治を確立した。しかしその立場は、政府軍及び反政府勢力双方の攻撃に晒される不安定なものである。とりわけ、トルコ政府の支援を受けていると報じられているアルカイダと繋がりを持つイスラム原理主義勢力との熾烈な戦闘が続いている。

(長年国内のクルド人独立運動に悩まされてきた)トルコ政府は、国境の南側(=シリア北部及び北東部)にクルド人の統治政体が樹立される事態を決して歓迎しないと公言している。

当面のところ、イラク北西部のクルド自治区とシリア北東部の間に天然の国境を形成するハブール川を渡る物品や人間の通過記録を、イラク政府もシリア政府も取っていない。

イラク側での書類手続きが終わり、グルナズさんら会葬者らは自分の名が記載された書類を受け取った。その書類を所持した者だけが、ハブール川を行き来する2隻の船に乗ることを許される。

まず、涙を必死に堪えようとしている民族衣装を着たクルド人男性らが棺を担いで乗船し、船の中央に棺を置いた。そして2人の女性が彼らの深い悲しみを媒介するかのように、クルド人が歓喜か悲しみが極まった時に発する独特の奇声を発していた。グルナズさんは、同行者に促されて、両手で顔を覆ったまま乗船した。

船頭のシェルワンさんは、「川に橋ができればもっと楽になるのだが。」と、シリア側の川岸で既に工事に取りかかっている2台のブルドーザーを指してながらつぶやいた。

ペシュカブールにかかる浮橋は、本来車両の通行と石油輸送に限られている。にもかかわらず、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、8月だけでも3万人以上が国境を越えたという。シリアからイラクに逃れた難民は20万人ほどだと見られている。

流れが穏やかなハブール川を渡る時間は僅か5分ほどであった。対岸のシリア側に上陸すると、新たに創設されたクルド系シリア人からなる治安警察「アサイッシュ」の制服に身を包んだ2人の少女が、越境者の荷物を検査していた。

この地で治安警察を率いるハシム・モハメッドさんは、IPSの取材に対して、「私の部隊は約40000万人規模のクルド人民保護部隊(YPG=シリアのクルド人の中で唯一自前の武装組織)を補佐する約4000人のボランティアで構成しています。」と説明した。YPGは、本格的な軍事組織で、これまでのところシリア北部・北東部への勢力拡大を目論むイスラム原理主義勢力の攻勢を防ぐことに成功している。

このクルド人軍事組織の資金源の大半が、イラクのクルド人自治区からの越境支援のほか国境管理に伴う収益で賄われている。国境では、ハブール川の岸から数メートルのところに白い小屋が設けられており、越境者は一人当たりここで1000シリアポンド(=約665円)を徴収される。現地の官吏の話によると、この川を渡河する人の数は一日当たり150人から200人とのことである。

シリア側の検問所の外ではタクシーが待機しているが、出発前に一休憩したい人は、施設に隣接して建てられている小屋の中に、臨時食堂を見つけることができる。現地のクルド人は、このような困難な状況下にあっても持ち前の商魂をたくましく発揮している。

グルナズさん一行は、入国審査を通過すると直ちに葬儀場に向かった。一方同じくハブール川を渡河してシリア側に入国したその他の人々は、ここで各々の計画を立てている。

ダマスカスの北東680キロのカミシリを目指すマスード・ハミッドさんも、この臨時食堂で腰を掛けてお茶を飲んでいた。ハミッドさんは、アラブ語とクルド語の2つの言語で作成されたシリア初のバイリンガル新聞『ヌ・デム』をシリアで発行している。最新号をイラクのエルビルで印刷しての帰りだった。

「シリアのクルド人自治地域には、依然としてまともな印刷機がないので、15日ごとにイラクとの間を行き来しなくてはならないのです。」とハミッドさんは語った。

ハミッドさんはダマスカス大学に在学中の2004年、ユニセフ本部前で抗議活動をする子どもの写真を掲載したとしてシリア当局に逮捕され、3年の懲役刑に処せられた。しかし彼の勇気ある行動は「国境なき記者団」に注目された。釈放後フランスに亡命し、状況が好転したのを見てシリアに戻ってきた。ハミッドさんは、「シリアはこれから大きな変革期を迎えます。かつてとは全く異なる様々な変化が起こるでしょう。」と指摘したうえで、「今日、私たちは(イラクとシリアの)出入国管理を通らなくてはならなかったわけですが、今やどちら側の検査官もクルド人なのです。」「これは、これから中東で起きる数多くの変化のひとつにすぎません。」と語った。

翻訳=INPS Japan

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【ドバイWAM】

英国のデイビッド・キャメロン首相は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国こそ、2020年万国博覧会を主催するのにふさわしい、と語った。

キャメロン首相は英字日刊紙「ガルフ・ニュース」に寄稿した記事の中で、2020年万博のドバイ開催を支持する理由として次の3点を挙げた。「第一に、来る万博はまさにドバイの出番だと思います。誰もがドバイに近づくにつれ、砂漠に忽然と現れる高層ビルのスカイラインに鮮烈な第一印象を受けることでしょう。しかし昨年ドバイを訪問した私もそうですが、この街を後にする頃には、誰もがその鮮烈な第一印象を遥かに上回る、長く心に残る感銘を覚えることでしょう。この街は、わずか半世紀の間に、漁業と真珠養殖を営む小さな街から、世界有数の国際都市に変貌を遂げたのです。

「この街には、アラビア語、ウルドゥ語、マラヤーラム語(インド南西部ケララ州で話されるドラヴィダ語)、ソマリア語、タガログ語、ロシア語、英語が日常生活の中で飛び交っています。そしてこの街には200を超える国籍の人々が働き、暮らしているのです。」

 「第2に、2020年万博をドバイで開催することは、国際社会に対して中東が可能性と活力に満ちた地域であり、過去・現在・未来に亘って革新の源泉でありつづけていることを改めて知らしめる効果が期待できます。」


「ドバイは世界有数のビジネス拠点であり、人々は、この都市の成功を目の当たりにして中東地域の可能性を見出すとともに、より良いビジョンと信念、そして弛まぬ努力をもってすれば、自分の国も変えられるという確信を抱けるのです。」

 
「第3に、ドバイは世界を繋ぐ中東における貿易・流通のハブとしての地位を確立しました。つまりドバイ万博は、世界の幅広い地域からのアクセスが可能という点においても、(他の候補地より)優れているのです。1851年の第一回万博がロンドンのハイドパークに建設された水晶宮(クリスタルパレス)で開幕した時、来場者は太陽の光を浴びて光り輝くクリスタルの外観を見て、あたかも『アラビアナイト(千一夜物語)』の世界から飛び出してきたような建物のように思えたと言い伝えられています。」

「しかしそれから150年以上が経過しているにもかかわらず中東における万博開催は未だに実現していません。私は、2020年の万博でそれを実現する時だと確信しています。そしてその中東初の万博開催地としてドバイに勝る場所はありません。」とキャメロン首相は述べている。

翻訳=IPS Japan

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