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│グアテマラ│複数パートナーで臨む飢えとの闘い

【キチェ(グアテマラ)IPS=ダニーロ・バジャダレス】

「子どもに与える配給も手にできて、にんじんやたまねぎ、ビーツを育てる家族菜園もやっているのです。」と嬉しそうに語るのはキチェ・マヤ族のマルタ・キニージャさんだ。キニージャさんは2人の子どもの母親で、夫は農業で生計を立てている。

彼女は、グアテマラ首都の北西部にあるウスパンタン(Uspantán)の住民であり、「マヤ食料安全保障プログラム」による支援を受けている。

 慢性的な栄養失調に直面しているキチェ県の6つの地区(サカプラス、キュネン、ネバジ、コツァル、チャジュル、ウスパンタン)の1万250家族がこのプログラムによって利益を得ている。運営は、セイブ・ザ・チルドレン、米国際援助庁(USAID)、フリトレー財団が地元コミュニティー組織と共同で行っている。

1960年から96年に亘って左翼ゲリラと国軍及び右派準軍事組織の間で戦われたグアテマラ内戦では、約250,000人が死亡或いは行方不明となった。先住民が住民の大半を占めるキチェ県は当時政府軍の暴力の矛先となり、国連が支援している「歴史解明委員会(Historical Clarification Commission)」によると、記録されている669件の虐殺事件の内、実に344件の虐殺と人権侵害事件の45%がこの県で発生している。

従ってプログラムの支援を得ているこの地域がグアテマラで最も貧しい地域であるのは偶然ではない。6つの町の児童栄養失調の率は2008年当時、65~78%にのぼっており、当時、国連食糧農業機関(FAO)は、農産物価格の高騰により中央アメリカにおける食糧事情は危機的な状況に陥っていると警告していた。

プログラムでは、大豆、豆、米、油の計40ポンドが各家庭に配られ、健康ワークショップや街頭演劇なども行われている。また、特に3歳以下の子ども(対象地域に9572人)の栄養回復を念頭において、ヤギのミルクも配られている。

「私たちは改良品種の栽培方法と農産物の市場開拓についてのトレーニングを受けています。」とウスパンタンから15キロのところにあるエル・カラコル村でジャガイモ栽培をしているマヌエル・アヒコット氏はIPSの取材に応じて語った。
 
今年5月、20件の農家が、フリトレイ社(米国ペプシコ社の菓子ブランド)への出荷用として2200㎡にジャガイモの作付を行った。今回の作付結果が同社の基準を満たすものであれば将来的に176,000㎡(17.6ヘクタール)に作付を拡大するここととなっている。

「もし私たちが栽培するギャガイモが基準にあえば、フリトレイ社は100ポンド(45.359キロ)当たり200ケツァル(20ドル)で引き取ってくれます。この金額は通常の引き取り額125ケツァル(16ドル)より高いものです。」とアヒコット氏は語った。

「マヤ食料安全保障プログラム」のテクニカル・マネージャー補レオナルド・アルゲタ氏によると、2007年から始まったプログラムの第二段階により、子どもの栄養失調率は、該当地域で78.7%から74.4%まで下がったという。

アルゲタ氏によると、栄養不足はプログラム対象地域の経済状況を背景とした動物性蛋白質の摂取不足にあるとのことである。事実、6つの地区の86%から95%の住民が貧困ライン以下の生活を余儀なくされており、その内29%から41%は極貧レベルに分類される。
 
グアテマラは世界で最も貧富の格差が大きな国のひとつである。国連開発計画(UNDP)の統計によると国内の豊饒な土地の約80%を全人口の僅か5%の人々が所有している。また5歳以下の幼児の約半数が慢性的な栄養失調状態にあり、この割合はラテンアメリカで最悪のレベルである。

「だからこそ、食糧の生産や消費の仕方を工夫する術を身に付けることが村人たちには重要なことなのです。私たちは地域コミュニティーのレベルでそうしたノウハウの蓄積をおこない、いずれプログラムが終息しても村人たちが関連知識や技術を生かしていけるようにしたいと考えています。」とアゲイラ氏は語った。

またこのプログラムは、各地に地元森林品種や果樹の苗木を育成する育樹園を設置し、森林破壊が進んだ自然環境の再生とリスクマネジメントに主眼をおいた指導も行っている。

「こうした小規模ビジネスを支えるプログラム得て、前進していきたいです。それが私の7人の子どもの将来に望むことでもあります。」と、ウスパンタンから9キロのところにあるマカラハウ村で小規模ジャガイモ栽培を営むアンドレス・レイノソ・サハビン氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴


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|テロとの戦い|225,000人死亡でもアフガン、イラクに民主主義は根付かず

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【トロントIDN=S.チャンドラー】

ジョージ・W・ブッシュ大統領が「テロとの戦い」を宣言してから10年が経過するが、この戦いを包括的に分析した最初の報告書が米国で公表された。同報告書は「アフガニスタン、イラク、パキスタンにおいて遂行された戦争は、たいした民主主義の進展をもたらさなかったにも関わらず、これまでに少なくとも225,000人の男女兵士が命を失った。またこの戦争は、米国に最大4兆ドルの財政負担を強いることになるだとう。」と結論付けている。

これら3つの戦争がもたらした夥しい犠牲(人的、経済的、社会的、政治的コスト)の規模を分析した報告書は、ブラウン大学ワトソン国際関係研究所を拠点にしたアイゼンハワー研究プロジェクトが発表した。報告書は、「もしこれらの戦争が継続すれば、米国国防総省は2020年までに少なくとも新規に4500億ドルの支出を余儀なくされるだろう。」と警告している。

 「戦争の代償」と題した同研究所のプロジェクトには、20人を超える文化人類学者、法律学者、人道支援要員、政治学者が参画し、9・11同時多発テロ事件後に米国が遂行した戦争が米軍にもたらした総経費のみならず、直接的・間接的にかかった人的・経済的コストを分析した。

このプロジェクトは、米軍、同盟勢力、及び米国企業との契約スタッフを含む民間人の犠牲について包括的な分析を行った最初の試みである。また、報告書には、戦争に関連した負債にかかる利子や従軍兵士に対する補償費用など戦争にともなう隠されたコストについても評価分析をおこなっている。

研究チームを率いたのはブラウン大学で文化人類学と国際関係を教えているキャサリン・ルッツ教授と、同大学出身でボストン大学政治学教授のネータ・クロフォード博士である。

アイゼンハワー研究プロジェクト報告書「戦争の代償」の要旨は以下のとおりである。

-米国にとってアフガニスタン、イラク、パキスタンでの戦争にかかる経費は、従軍負傷兵に対する医療保障費も含めて3.2兆ドル~4兆ドルになるだろう。ただしこの見積もりには、戦争関連の負債に対して発生する利子分は含まれていない。

-イラク人、アフガン人保安要員並びに米国との同盟関係にある軍事要員を含む軍人及び民間軍事契約業者の犠牲者は、これまでに31,000人を超えている。

イラクとアフガニスタンにおいて戦闘に巻き込まれて死亡した民間人の数は、かなり控えめに見積もっても137,000人にのぼる。

-戦場となったイラク、アフガニスタン、パキスタンで発生した難民の総数は780万人を超える。

-米国国防総省が計上している予算は、その他の諸項目で予算計上されている実際の戦争関連予算の半分に過ぎない。また、戦争がもたらす経済的コストの総額から見れば、ほんの一部分でしかない。

-戦争の経費は大半を諸外国からの借金で賄っている(クリントン元大統領発言)ため、すでに1850億ドルの利子が戦争経費として支払われている。そして2020年までには利子だけでさらに1兆ドルが発生する見込みである。

-これらの戦争に関連した従軍兵士に対する連邦政府の補償費は6000億ドル~9000億ドルに達する見込みである。こうした保障費は、これらの戦争経費を分析したほとんどの報告に含まれておらず、しかも支出のピークは今世紀の中旬になる見込みである。

「このプロジェクトで採用している算出方法は、一般国民に対して外交問題に関する情報開示を民主的に行う上で極めて重要です。一般国民、議会、大統領がアフガニスタンにおける駐留軍の削減や、財政赤字、安全保障、公共投資、復興計画など様々な政策を慎重に検討するにあたり、これらの戦争にかかっている現実の経費を把握していることが不可欠なのです。」とルッツ教授は語った。

「戦争に伴う経費や影響については、数値化できないものもたくさんあります。とりわけ戦争がもたらす影響は戦闘が止めば解決するものではありません。そこでアイゼンハワー研究グループでは、失われた生命、財産、機会など目に見える影響のみならず、戦闘終息後も問題が拡大し続けるような事象も調べ上げ、戦争のコストとして積算することから着手したのです。」
 
アイゼンハワー研究プロジェクトは、非営利、無党派の学術的な新イニシャチブで、その活動目的は1961年のドワイト・D・アイゼンハワー大統領の退任演説の中にあるとしている。アイゼンハワー大統領は同演説の中で、軍産複合体による「正当な権限のない影響力」について警告するとともに、「軍産複合体を油断なく警戒し続ける見識ある市民社会」こそが、民主主義国家において、安全保障と自由という度々矛盾し合う要求をバランスよく発展させていく力となると訴えた。(下の映像資料参照)

同報告書は、「大統領は、米国民と国際社会に対して、米国はアフガニスタンから一部兵力を撤退させるとともに、イラクからの撤退作業も継続するが、戦争そのものは今後も数年にわたり継続されると明言している。一方で、これらの戦争がいかにして始まったのか、そしてそもそも避けられない戦争だったのかについての議論が専門家の間でも続いている。」と記している。

また報告書は、「米軍の戦死者数(約6,000人強)についてはよく知られているが、驚くべきことに、従軍した傷病者数の規模について殆ど知られていない。復員軍人局(VA)に登録された復員軍人の傷病者数は、昨年の秋だけでも550,000人にも及んでいる。一方、民間軍事契約業者に関する要員の死傷規模については、把握もされていない。)と記している。

「アフガニスタン、イラク、パキスタンでは、これまでに少なくとも137,000人の民間人が紛争に巻き込まれて命を落としており、今後もさらに死者は増えるだろう。」と報告書は警告している。また、米国が国軍に対して資金・武器を提供し軍事訓練を施したパキスタンでは、この戦争により隣国アフガニスタンと同規模の死者を出している事実を、この報告書は指摘している。

報告書は、軍人民間人をとわずこの戦争で命を落とした犠牲者の総数については、控えめな見積もりを積算して22万5千人と記している。

「それに加えて、数百万人もの人々が家を追われ難民となり、極めて厳しい生活環境に置かれている。こうした難民の総数は約7,800,000人にものぼり、合衆国の人口に当てはめればコネチカット州ケンタッキー州の全住民が家を逃れて難民と化している状況に相当する。」と報告書は指摘している。

浸蝕される市民的自由

また報告書は、「アフガニスタン、イラク、パキスタンにおける戦争が進展するなかで、米国国内では市民的権利が浸蝕され、海外においては人権が侵害されたと記している。

「これらの戦争がもたらした人的、経済的コストは、今後数十年に亘って米国の納税者にのしかかってくるだろう。しかもコストの中には今世紀中頃に支出のピークを迎えるものも含まれている。こうした戦争コストは、様々な予算のなかに埋め込まれており、国民の目には見えにくいものとなっている。このことが米国内で戦争コストの問題があまり議論されてこなかった背景にある。」と同報告書は記している。

「例えば、大半の人々は、米国国防総省に対する戦争関連の予算配分が、戦争遂行のための予算と考えがちである。しかし実際の戦争関連経費はその2倍にのぼり、戦争がもたらす経済コスト全体となるとそれよりも遥かに大きな金額となるのが現実である。控えめに見積もっても、戦争遂行のために米国が既に支払ったあるいは支払い義務を負った経費の総額は実質ドル価値で3.2兆ドルにのぼる。より現実的な試算だとその総額は4兆ドルにもなる。」

また報告書は、従軍兵士への将来にわたる支払金額が戦争コストの総額の大きな部分を占めることや、失業や金利の上昇といった戦争が米国経済にもたらす甚大な波及効果について警告している。

当初アフガニスタンやイラクに対する米軍の侵攻は両国に民主主義をもたらすものと謳われたが、アフガニスタンでは引き続き米国の支援を得た軍閥が勢力を保持しており、イラクでは、戦争の結果、かえって戦前よりもジェンダー、民族間の溝が深まった事態となっている。世界各国を政治自由度でランクづけした指標でも、両国のランクは低いままである。

報告書は、「米国政府が9・11同時多発テロの後の対応策や、対イラク戦争に関する協議に際して、戦争以外のオプションについて、真剣で説得力がある議論をほとんどしていなかった」とする広く言われてきた見方を再確認した。しかし一方で、「今でも米国政府にそうした選択肢は存在している」と指摘している。

「これらの戦争にともなう被害で未だに数値化や評価できていないものがたくさんある。私たちは限られた予算の中で、米国政府の支出、米国及び同盟国の死亡者数、そしてアフガニスタン、イラク、パキスタンの主な紛争地域における人的損失に焦点をあてた。しかし一方で、戦争に巻込まれた人々の健康、経済状況、コミュニティーが10年に亘る戦闘でどのように変質したのか、そして彼らが直面している戦争がもたらした諸問題についてどのような解決策があるのかについては、未だに解明されていないことが少なくない。」と報告書は指摘している。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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│中国│鉛汚染で子どもたちに健康被害

【東京IDN=浅霧勝浩】

鉛精錬所や電池工場の近くにある中国の貧しい村に住む数十万人の子どもたちが、深刻な鉛中毒による

健康被害に苦しんでいる。しかも被害者に対してまともな治療がなされていないうえに、真相を求める家族や記者が不当な妨害、圧力に直面している。

これは国際人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」が、河南、雲南、山西、湖南省における鉛汚染被害を報告したレポート『私の子どもは毒を浴びせられた―中国四省での健康危機』(全75頁)に記載されている内容である。このレポートは、中国中央政府が公害規制を強化し、散発的ながら違反工場に対する取り締まりをおこなっているにも関わらず、地方政府当局が、命を脅かすレベルの鉛に晒されている子供たちの健康被害を無視している現状を報告している。

 鉛は毒性が強く人体の神経、生体、知覚機能に悪影響を及ぼす。医療専門家によれば、多量の鉛が体内に摂取・蓄積されると、脳、肝臓、腎臓、神経、胃に作用し、貧血、昏睡、痙攣等の症状を引き起こすほか死に至る場合もある。とりわけ子どもが影響を受けやすく、回復不能な知能・発達障害(学習障害、注意欠陥障害、聴覚障害、多動、死角・運動機能障害等)を引き起こす。

「血中に危険なレベルの鉛が検出された子供たちが治療を拒否され、汚染された村の自宅に帰って行っています。また、鉛の毒性の問題について告発しようとした被害者、両親や新聞記者、コミュニティーの活動家は当局に身柄を拘束されたり、嫌がらせをうけたりして、最終的には声をかき消されているのです。」とHRWのジョー・アモン健康・人権ディテクターは語った。

また同レポートは、過去10年間で多くの大規模な鉛中毒の事例が中国各地で報告されている点を指摘した。こうした事態に中央の中国環境保護部は、地方の役人に対して鉛関連工場の監督を強化し既存の環境法を施行するよう指示してきた。また、同環境保護部は、環境規制に違反した企業や地方役人に対しては刑罰を適用する意向を表明している。

しかし、こうした中央政府の対応も問題の大きさにまったく追いついていない。HRWレポートは、中国政府当局に対して、鉛汚染に晒されている村民たちに対する長期的な視点に立った医療対策を直ちに実施するとともに、鉛鉱毒の除去を行うよう強く訴えている。

「村の鉱毒被害が深刻になってから工場の所有者や地方役人を罰するだけでは不十分です。政府は鉱毒被害者に対して治療の手を差し伸べるとともに、子どもたちが有毒な鉛に再び晒されないよう必要な措置をとるべきです。」とアモン氏は語った。
 
HRWレポートによれば、地元当局は、住民が血液検査を受けられる範囲を狭く区切るなどの恣意的な対応をしているという。それどころか、検査の結果を本人に知らせなかったり、血液中の鉛濃度が高く医師の治療が必要と判明した子どもに対して、単にリンゴ、ニンニク、牛乳、卵など特定のものを食べるよう勧めることですませたりと、人権侵害の例に枚挙に暇がない。

HRWは2009年末から2010年初頭にかけて河南、雲南、山西、湖南省で聞き取り調査を実施し、鉛中毒に苦しむ子供を持つ数十組の両親の経験を克明に記録し、北京、上海で研究調査を合わせて今回のレポートを作成した。

雲南省での聞き取り調査である母親は、「この村で子供たちを診療した医師は、全員が鉛中毒に罹っていると告げました。しかし数か月後、当局は一転して子供たちは全員健康と伝えてきたのです。そして私たちがどんなにお願いしても血液検査の結果をみせてくれないのです。」と証言した。

また山西省での調査では、孫に治療を受けさせようと試みた年配の女性の証言を記録している。彼女は、「政府担当者は私たちにニンニクを渡して孫に大目に食べさせるよう言いました。私たちは孫の病気を治せる薬をお願いしました。すると彼らは鉛中毒用の薬は効かないので提供できないと答えたのです。」と語った。

近年中国中央政府は、各地に広がった産業公害を抑え環境と公衆衛生を守る目的で数々の環境関連の法令を通し普及につとめてきた。

しかしそうした法令の執行状況は一様でなく、既に深刻な鉱毒被害がでている村落で鉛汚染のレベルを軽減する措置はほとんど実行に移されていない。HRWは、こうした被害村落住民が健康的な環境を奪われ適切な健康管理を享受できない状況におかれている現状は、中国政府が「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」及び「子供の権利条約」で規定されている義務を履行していないことを意味すると警告している。

TRWレポートは、今日世界最大の人口を抱え第二位の経済大国となった中国について、過去15年で国内総生産を10倍に伸ばしたと指摘している。まさに公正な目で見て、こうした急速な国内総生産の伸びが、1978年以来実に2億の人々の生活を絶対的貧困レベルから引き上げたのである。

「しかしこの急速な経済発展は一方で、深刻な環境破壊という代償を伴うものであった。この時期広がった産業公害は水や土壌、空気を汚染し数百万人~数億人の人々の健康を危険に晒してきた。実に今日の世界で最も汚染された30都市のうち、20は中国の都市である。」とHRWレポートは記している。

「中国政府はこうした大規模な毒物公害がもたらす環境被害は受け入れられないものだと理解し始めている。しかし残念ながら、政府が無視し続けた結果数十万人もの子供たちが深刻な健康被害に直面している問題については未だに取り組んでいない。」

「中国政府の人権軽視の姿勢は、これまで同政府が、環境汚染から健康被害を最も受けやすい貧しい人々を含む自国の市民に責任を負わないで済む経済開発モデルを推し進めてきたことを意味している。」とHRWレポートは記している。

「しかし産業公害とそれに伴う責任の不在は、もはや健康問題の範疇をはるかに超え、中国においてはたして人権(生存権、適切な生活水準を享受する権利、情報取得の権利、正義へのアクセス権等)を確保できるかどうかに関わる深刻な問題である。」とHRWレポートは記している。

一方でHRWレポートは、鉛中毒危機に対処するための多くの提案を記載している。

まず、世界保健機構(WHO)に対して、中国疾病予防センターに専門知識を提供して、血液検査態勢の充実を図るとともに、中国衛生部と協力して高い鉛の血中濃度が認められた患者に対する包括的な治療計画を策定するよう求めている。

また、中国から天然資源などを得ている外国企業に対しては、取引きのある中国側企業が諸法令を実際に遵守し、人権上の問題がないかどうか、現地工場の訪問や第三者機関による調査を含む監視体制を確立すべきだと提言している。

また、中国における健康、環境、人権問題に財政支援或いは関心を持つ米国、欧州連合を含む各国政府及び国際援助機関に対して、中国国内の産業公害の深刻な現状について中国政府に明確に懸念を伝えるよう呼びかけている。

さらにHRWレポートは、各国政府・機関は、産業公害と鉛中毒に関して正当な権利の行使として政府に抗議した結果、多くの市民が逮捕、拘留されている現状について中国政府を非難するよう記している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

「復興へ創造的応戦を」(池田大作創価学会インタナショナル会長)

【IPS コラム=池田大作

人間の心は、妙なる力を秘めている。それは、いかなる絶望からも、「希望」を生み出す力である。最悪の悲劇からさえも蘇生し、「価値」を創造する力である。3月11日に東日本を襲った大震災においても例外ではない。

大地震・大津波の発生後、世界中の方々から、ありとあらゆる形で励ましのお見舞い、真心あふれる救援、支援をいただいた。私たち日本人は、この恩義を決して忘れることなく、道は遠くとも、未来を見つめて、復興への歩みを断固として進めていきたい。それが、世界の皆様から寄せていただいた無量の善意への御恩返しと確信するからだ。

歴史家アーノルド・トインビー博士は、「挑戦と応戦」という法則を強調されていた。

「文明というものは、つぎつぎに間断なく襲いきたる挑戦に対応することに成功することによって誕生し、成長するものである」

 人類にとって、こうした苦難との戦いは今後も止むことはあるまい。未曾有の甚大な被害をもたらした大震災に対し、私たちはいかにそこから立ち上がり、「応戦」していくか。試練が大きいからこそ、一つ一つの課題に真摯に粘り強く立ち向かう中で、創造的な人間の英知と前進の軌跡を、後世に示し残せるはずだ。

そこで私が強調したいのは、崩れざる人間の共同体の建設である。
 
想像を絶する大地震と大津波の襲来から、九死に一生を得た体験の多くには、近隣住民のとっさの「助け合い」があった。さらに、通信・水道・電気・ガス等のライフラインが断たれたままの数日間から数週間、被災者の方々の命をつないだ大きな力も、日常生活圏に存在する地縁や地域の共同体の「支え合い」であった。
 
自ら被災し、家族を亡くされ、家や財産を失いながら、手元のわずかな食糧等を惜しまず分かち合い、他者の救援や生活再建のため奮闘する気高き方々を、私も数多く存じ上げている。いざという時に発揮される崇高な人間性の真髄の光に、あらためて感動を禁じ得ない。

私ども創価学会も被災地の全会館を避難所として開放し支援に当たってきたが、そこにも無数の善意の協力があった。震災直後、首都圏からの交通網が混乱する中、新潟の有志が別ルートから被災地へ支援物資を即座に届けてくれたことも、忘れ難い。中越地震(2004年)、中越沖地震(2007年)と度重なる震災と戦ってきた方々は、被災者に何が必要かを痛いほどわかっている。水、おにぎり、非常食、発電機、重油、簡易トイレ等が、夜を徹して準備され、迅速に続々と運ばれた。「新潟の地震の際も、多くの人の支えによって復興できました。今度は私たちが応援する番です」と、友は語っていた。

いうまでもなく、災害は忌まわしい惨禍に他ならない。しかし、近年のスマトラ島沖地震・インド洋大津波(2004年)、中国・四川省地震(2008年)、ハイチ地震(2010年)なども含め、幾多の災害に際して、世界のいずこでも、勇敢にして思いやりに満ちた民衆による相互援助の共同体が現出することは、何と荘厳な光景であろうか。ここに、人間生命に本源的に内在する誇り高き善性を見出すのは、私だけではあるまい。

行政による「公助」は、当然、復興支援の大動脈である。とともに、地域共同体による「共助」が、最前線の現場にあって、隅々に至るまで人々を救う命脈となることを銘記したい。

被災地で復興への努力が続く中、「心のケア」がますます重要となっている。その意味においても、常日頃から、草の根のレベルで、一人一人を大切にし、相手の心の声に耳を傾け、励まし合う庶民の連帯にこそ、不慮の災害にも崩れぬ人間の安全保障の起点があるといって、決して過言ではないだろう。

大災害への応戦は、まさしく「悲劇からの価値創造」である。そのためには、人間の幸福に対する価値観の深化が欠かせないだろう。それは、エネルギー政策も含めた人類の未来像にも影響を与えるに違いない。
 
 あのチェルノブイリ原発事故(1986年)は、人類に多くの教訓を投げかけている。今回の福島の原発事故もまた、世界に大きな衝撃を与えた。

今後の具体的な選択は、それぞれの国で多岐にわたるであろうが、再生可能エネルギーの積極的な導入や、一層の省エネルギー化を図るための技術開発や資源の節約など、新たな歴史の潮流が生まれていることは確かだ。

そこには、持続可能な社会の建設へ、人間の欲望の肥大化を抑え、聡明にコントロールし、昇華させゆく価値観の確立が強く要請されている。

「生活の復興」「社会の復興」「文明の復興」、そして、その一切を支える基盤となる「人間の心の力強い復興」に向けて、私たちは、いやまして衆知を結集し雄々しく応戦していきたい。(原文へ

池田大作氏は日本の仏教哲学者・平和活動家で、創価学会インタナショナル(SGI)会長である。3月11日の大震災に対する創価学会の活動の詳細は www.sokanet.jpで。池田会長による寄稿記事一覧はこちらへ。

│セネガル│もっと簡単に手を洗う

【ダカールIPS=アマンダ・フォルティエ】

もし手を洗うのが楽しいことだとしたら?セネガルでは、ユニークなしくみを使って、簡単に、安く、環境に優しい形で手を洗う試みが始まっている。それどころか、手を通じた感染症の予防にも役立つという。

ダカール市内のクレア・ソレイユ小学校の休み時間。子どもたちが、色の褪せたぶかぶかのベストを着て、追いかけっこをしたり、砂場で遊んだり、泥を蹴り上げたりしている。世界中のどの学校でも見られる光景だ。そこにベルギー人医師のベノワ・ファンエルッケ博士が正面ゲートから入ってくる。

 「ベノワ先生だ!」子供たちは「ワー」と大喜びでファンエルッケ医師の周りに駆け寄った。そして医師の手を取って、モザイクタイルの壁に掛かったカラフルな鉄の箱が並んだ所に連れて行った。箱の中は水で満たされている。アンタ(Anta)という名の女の子が、茶色の石鹸を手にとって泡を出す。すると、クラスメイトが箱のレバーを3回引いて、出てきた水で手を洗うのだ。子どもたちは出てきた水に狂喜して「カナクラ(Canacla)!」と口々に叫んでいる。手を洗うことがこんなに楽しかったとは。

「カナクラ(Canacla)」とは、レストラン、学校、モスクの外など、ダカール各地で広く見かけるようになったセラミックと鉄でできた手洗い用の噴水のことを指す。この名前は、アフリカ大陸の多くの地域で水を蓄えるために一般に使用されている陶器製の水瓶「カナリ(Canari)」と弁(バルブ)のフランス語「クラペット(Clapet)」に由来している。

これは、ファンエルッケ医師の息子ジャックが考案したものである。ある日ジャックは父の手を引いて、砂に仕組みのデザインを指で書いたのである。これによって、アフリカの水不足、手を通じた感染症の拡大、環境汚染などの問題に解決策がもたらされることになった。しかも、地元の資源を使い、地元の職人の雇用にもつながる。

「私はこの30年間、便利、安価で、かつ環境に優しい方法で公衆衛生の問題に取り組むことができないか思案を続けてきました。」と言うファンエルッケ博士は、今は定年退職しているが、熱帯病の専門医として長年に亘ってアフリカ各地で活動してきた。

「カナクラ(Canacla)」は、まさにそうした解決策を提供するものかも知れない。ファンエルッケ博士によると、「カナクラ」はダカール市内の戦略的に便利な個所に設置されているため、通行人はさして意識することなく自然に「適切なタイミングで」手洗いができる。またその際、石鹸を使う習慣も身につけられるのである。ファンエルッケ博士は、「30秒あれば、健康に害を及ぼすバクテリアを手から除去することができる。」と語っている。

「ポイントは、手を洗う際に水を出しっぱなしではないということです。通常私たちは水道で手洗いをする際に、約3リットルの水を消費します。ところが、このしくみを使えば、30分の1の水量で済むのです。つまり『カナクラ』を使うことで水と費用を節約でき、しかもより衛生的にできるメリットがあるのです。」とファンエルッケ博士は実際に目も前で「カナクラ」で手洗いを実演しながら語った。

ファンエルッケ博士は、石鹸で泡立てた手を水で流すと手を振って水を切り、さらに両手の指を組んで素早く擦り合わせながら耳の高さまで両手を持ち上げた。その際、「キュッ、キュッ」と音が鳴った。博士は「これは手が喜んでいる音なのです。」と笑みを浮かべて語った。

すると子供たちは、石鹸を次々と手渡ししながら泡立てると、交代で「カナクラ」のレバーを上げ下げし手洗いを始めた。そして手を乾かす際に手を振ってはしゃぎながら水しぶきをお互いに散らした。この様子をクレア・ソレイユ小学校のレオニー・サディオ副校長は、温かく見守っていた。サディオ副校長は、「2007年に『カナクラ』が5台設置されてから、子供たちの手洗いに対する態度が変化してきています。」と語った。

「私たち教師が最も関心を寄せている点は教育的効果です。今日、持続可能な開発について盛んに議論がされており、中でも水が開発プロセスに重要な役割を担っていると見られています。アフリカの水不足は深刻であり、皆が協力して対処していかなければなりません。そうした対処法の一つが水保全に関する重要性を教育していくことです。基本は衛生に関することですので、そうした教育を早期に開始することで、成長しても水保全の重要性を踏まえた手洗い習慣を身に付けさせることが可能です。」とサディオ副校長は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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映画が明らかにするスリランカ内戦最後の数ヶ月

【ワシントンIPS=ナシーマ・ノール】

スリランカ国軍とタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の2009年の内戦最終段階(1月~5月)を克明に記録したドキュメンタリー映画「スリランカのキリング・フィールド」が、7月15日、米議会において上映された。映画を紹介したトム・ラントス人権委員会のジェームズ・マクガバン下院議員は「(この記録は)人間の恐るべき最悪の側面を示す実例である」と語った。


ジャーナリストで映画監督のカラム・マクラエ氏(Callum Macrae)が制作したこのドキュメンタリー(50分)は、初め英国の「チャンネル4」で放映された。ヒューマン・ライツ・ウォッチアムネスティ・インターナショナル、国際危機グループ(ICG)、オープン・ソサエティ財団などが制作を支援した。

 スリランカ軍は2009年1月、ゲリラ勢力掃討のため、既にスリランカ北東部の狭い地域に追い詰められていたLTTEに対する総攻撃を開始した。その結果、LTTEに対する決定的な勝利を収めたが、その過程で少数民族のタミル系一般住民多数が戦闘に巻き込まれて死亡した。映画には戦闘を目撃した人々の証言と生々しい虐殺の映像(両勢力の軍人や戦闘に巻き込まれた民間人等がビデオカメラ、携帯で記録し、国連が本物と認証した)が映し出されている。

映画のあるシーンは、軍による病院砲撃後の状況を映し出している。人体が粉々になり、雨で死体から流れた血が目に入ってくる。

国連専門家パネルが今年4月に報告したところでは、スリランカ軍は総攻撃に際してとりわけ砲撃を重視し、安全地帯区域として宣言していた地域にも砲撃を行ったことから4万人が殺害された。当時の目撃者や人権団体は、当時スリランカ軍は、病院や食糧配給所で並んでいた民間人を意図的に狙って砲撃したと主張している。

また別のシーンでは、小さな女の子が壕の中から母親に向かって何かを叫んでいる。わずか数メートル離れたところにいる母親は血を流し、息も絶え絶えなのだが、通常スリランカ軍は負傷者を助けに駆け寄る人々を狙って2次砲撃を行うため、女の子はまわりの人々に引き止められて母親の元に駆け寄ることができずにいる。

他にも、即決で処刑される捕虜の様子、性的に暴行されたとみられる女性の死体なども記録されている。

他方で映画は、LTTEによる民間人攻撃も描いている。国連は、LTTEは民間人を人間の盾として使い、逃亡しようとした民間人を殺害したとの信頼できる証言を得ている。

マクガバン下院議員は、「これらの映像は、単に衝撃的な事実を伝えるということに止まりません。これらはこうした虐殺を犯した責任者の罪を追及する独立調査の必要性を訴える強力な証拠でもあるのです。」「もしスリランカ政府が真相解明に行動をおこせない或いはおこしたがらないということであれば、国際社会はそれに代わって行動をおこさなければなりません。」と語った。

上映会に引き続いて、この映画製作を支援した国際人権団体の専門家たちによる討論会が開かれ、スリランカ政府の責任を追及する取り組みや、最近の国連関連レポート、この問題への米国の対応等について協議がなされた。

国際危機グループのマルク・シュナイダー副代表は、スリランカ軍の行動に関する政府調査を批判し、真実を明らかにし責任の所在を明確にすべきだと発言した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのワシントン地区責任者トム・マリノウスキー氏は、反乱軍対策は、米軍では民間人と戦闘員を区別して戦闘員のみを攻撃対象とするものと指摘した上で、「スリランカ政府は、反乱軍を掃討するために、まず国際監視団やジャーナリストを追放し、民間人もろとも圧倒的な武力で攻撃し殲滅するという非常な戦略を実行しました。このようなことをすれば、当然国際的な非難に晒されるわけですが、スリランカ政府は勝ちさえすれば歴史は書き換えられるという態度に出たのです。米国は決してこのような戦略がまかりとおることを許さないでしょう。」と語った。

またマリノフスキー氏は、スリランカ内戦とリビア内戦に対する国際社会の対応について言及し、「リビア上空に飛行禁止区域を設けたのは、まさにスリランカで起こったような惨劇を防止するためだったのです。私たちはスリランカ紛争を生き延びた人々に対して、何が起きたかを私たちがきちんと理解しており、虐殺の責任者の罪を追及することを重要視していると伝えることが少なくとも必要です。」と語った。

スリランカ内戦に関するドキュメンタリー映画について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

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タリバンの武装グループがカブール市内のホテルを襲撃

【ドーハIPS/Al Jazeera】

アフガニスタン治安当局の発表によれば、28日深夜のタリバン武装グループによるカブール市内の高級ホテルに対する襲撃は、警察治安部隊との戦闘の末、武装グループ全員の死亡と最大10名の犠牲者を出して終息した。

事件から一夜明けてアルジャジーラの取材に応じた内務省報道官のデセィック・セディキ氏は、「自爆テロ犯を含む8名の武装グループは全員死亡。現時点で作戦は終了しており、地域の安全も確保されました。しかし残念ながら、警察官2名と民間人8名の合計10人の犠牲者がでました。」と語った。

それより先、カブール警察の犯罪対策班長ムハンマド・ザヒール氏は、ロイターの取材に対して、犠牲者にはホテルの従業員が含まれていると語っている。

北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)によると、同部隊のヘリコプター2機が28日未明に出動し、襲撃を受けた「インターコンチネンタル・ホテル」の屋上から銃撃していた武装グループメンバー3人を殺害した。

 セディキ氏は、武装グループの襲撃は5時間に及びその間ホテルは停電状態にあったが、ようやく電気が復旧したと語った。襲撃中のホテルの様子を捉えた映像には、ホテルの窓から炎と煙が立ち込めていた(下の映像資料参照)。

「警察当局は、今でも各部屋を捜索し怪我人と危険の有無を確かめています。」とカブール警察署長のアユーブ・サランギ氏は記者たちに語った。

タリバンの広報官ザビウラ・ムジャヒッド氏は、メディアにコンタクトをとり、今回の襲撃はタリバンの犯行であるとの声明を発した。

今回襲撃を受けた「インターコンチネンタル」はカブール市を見下ろす丘に位置する高級ホテルで、アフガニスタン在住の外国人や政府関係者に人気がある。名称は「インターコンチネンタル」だが、ホテルそのものは1980年以降、インターコンチネンタルホテルグループとの関係はない。

カブールから報道しているアルジャジーラのバーナード・スミス氏は、「ホテル入り口に続く道路には4つのセキュリティチェックがあるが、ホテルの敷地へのアクセスは比較的容易だ。」と述べている。

「ホテル入り口に続く主要道路にはセキュリティチェックはあるものの、丘に位置し雑木林に囲まれていることから、その気になれば誰でも、フェンスを越えて道路を回避しながら丘を登っていけます。」とスミス氏は語った。
 
襲撃当時、ホテルにはアフガニスタンにおける治安権限を外国勢力あらアフガン治安部隊に移譲する件について話し合う会議が予定されていたため、アフガン全土から集まった多くの地方行政官が宿泊していた。

「偶然かもしれませんが、このホテルには、ちょうど翌日から2日間にわたって開催予定のアフガン治安部隊への権限移譲に関する会議に出席する行政関係者がアフガン全土から集まっていました。」とスミス氏は語った。

「火曜日の深夜、いくつか爆発音がした後、武装グループはホテル内のボールルームまで侵入してきました。襲撃犯の一人はタリバンの戦争音楽をかけたテープレコーダを抱えており、目に入る人間を無差別に撃っていました。混乱状態の中で2階、3階の宿泊客達は惨事から逃れようと飛び降りでいました。」とあるホテルスタッフは匿名を条件にロイターの取材に応じて語った。

警察当局がアルジャジーラに語ったところによると武装グループはホテルに侵入する前に治安部隊と銃撃戦になった模様である。少なくとも犯行グループの一人がこの時点で自爆している。

アフガン警察はホテルを包囲し、犯行グループとの間にマシンガンその他の武器を使用した銃撃戦へと発展した。また現場は緊迫していたため、傍観者たちは警察の命令で地面に伏せさせられた。

この銃撃戦ではロケット推進擲弾や曳光弾の使用が確認されている。現場に居合わせた記者達は砲弾が炸裂する音や5階建てのビルの屋上から銃撃音が聞こえたと述べている。

内務省保安職員のサモンヤル・ムハンマド・ザマン氏は、武装グループはマシンガン、ロケット推進擲弾、地対空兵器、手榴弾で武装していたと語った。

ザマン氏は、襲撃時ホテルには60名~70名の客がおり、ホテル入り口で自爆した2つの死体を見たと語った。

現場に居合わせた独立ジャーナリストのベッテ・ダム氏は、アルジャジーラの取材に応じ、「銃撃戦は何時間にもわたって続きました。また、ロケット推進擲弾が発射されるのも見ました。」と語った。

またダム氏は、原因はわからないが現場で2回にわたって大きな爆発音を耳にしたと語った。そして今回の武装グループの襲撃を「よく連携がなされたものだった」と語った。

ホテルの宿泊客ジャウィッド氏は、銃撃をのがれるために1階の窓から飛び降りで逃げたと語った。

「私は家族と逃げました。銃撃が始まりましたが、ホテルのレストランは客でいっぱいでした。」と語った。

アフガニスタンでは、5月2日に米軍がパキスタンに潜伏中のアルカイダの指導者オサマ・ビンラディン氏を殺害して以来、武力衝突が増えており、また、この時期はタリバンが毎年攻勢を強める時期にあたる。しかし今回のように首都カブールが攻撃されるのは比較的稀である。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧千鶴

「インターコンチネンタル」を会場にIPS主催で開催したアフガンメディアフォーラム出張時の映像資料はこちらへ

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【ドーハIPS/Al Jazeera】

アフガニスタン治安当局の発表によれば、28日深夜のタリバン武装グループによるカブール市内の高級ホテルに対する襲撃は、警察治安部隊との戦闘の末、武装グループ全員の死亡と最大10名の犠牲者を出して終息した。

事件から一夜明けてアルジャジーラの取材に応じた内務省報道官のデセィック・セディキ氏は、「自爆テロ犯を含む8名の武装グループは全員死亡。現時点で作戦は終了しており、地域の安全も確保されました。しかし残念ながら、警察官2名と民間人8名の合計10人の犠牲者がでました。」と語った。

それより先、カブール警察の犯罪対策班長ムハンマド・ザヒール氏は、ロイターの取材に対して、犠牲者にはホテルの従業員が含まれていると語っている。

北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)によると、同部隊のヘリコプター2機が28日未明に出動し、襲撃を受けた「インターコンチネンタル・ホテル」の屋上から銃撃していた武装グループメンバー3人を殺害した。

 
セディキ氏は、武装グループの襲撃は5時間に及びその間ホテルは停電状態にあったが、ようやく電気が復旧したと語った。襲撃中のホテルの様子を捉えた映像には、ホテルの窓から炎と煙が立ち込めていた(下の映像資料参照)。

「警察当局は、今でも各部屋を捜索し怪我人と危険の有無を確かめています。」とカブール警察署長のアユーブ・サランギ氏は記者たちに語った。

タリバンの広報官ザビウラ・ムジャヒッド氏は、メディアにコンタクトをとり、今回の襲撃はタリバンの犯行であるとの声明を発した。

今回襲撃を受けた「インターコンチネンタル」はカブール市を見下ろす丘に位置する高級ホテルで、アフガニスタン在住の外国人や政府関係者に人気がある。名称は「インターコンチネンタル」だが、ホテルそのものは1980年以降、インターコンチネンタルホテルグループとの関係はない。

カブールから報道しているアルジャジーラのバーナード・スミス氏は、「ホテル入り口に続く道路には4つのセキュリティチェックがあるが、ホテルの敷地へのアクセスは比較的容易だ。」と述べている。

「ホテル入り口に続く主要道路にはセキュリティチェックはあるものの、丘に位置し雑木林に囲まれていることから、その気になれば誰でも、フェンスを越えて道路を回避しながら丘を登っていけます。」とスミス氏は語った。
 
襲撃当時、ホテルにはアフガニスタンにおける治安権限を外国勢力あらアフガン治安部隊に移譲する件について話し合う会議が予定されていたため、アフガン全土から集まった多くの地方行政官が宿泊していた。

「偶然かもしれませんが、このホテルには、ちょうど翌日から2日間にわたって開催予定のアフガン治安部隊への権限移譲に関する会議に出席する行政関係者がアフガン全土から集まっていました。」とスミス氏は語った。

「火曜日の深夜、いくつか爆発音がした後、武装グループはホテル内のボールルームまで侵入してきました。襲撃犯の一人はタリバンの戦争音楽をかけたテープレコーダを抱えており、目に入る人間を無差別に撃っていました。混乱状態の中で2階、3階の宿泊客達は惨事から逃れようと飛び降りでいました。」とあるホテルスタッフは匿名を条件にロイターの取材に応じて語った。

警察当局がアルジャジーラに語ったところによると武装グループはホテルに侵入する前に治安部隊と銃撃戦になった模様である。少なくとも犯行グループの一人がこの時点で自爆している。

アフガン警察はホテルを包囲し、犯行グループとの間にマシンガンその他の武器を使用した銃撃戦へと発展した。また現場は緊迫していたため、傍観者たちは警察の命令で地面に伏せさせられた。

この銃撃戦ではロケット推進擲弾や曳光弾の使用が確認されている。現場に居合わせた記者達は砲弾が炸裂する音や5階建てのビルの屋上から銃撃音が聞こえたと述べている。

内務省保安職員のサモンヤル・ムハンマド・ザマン氏は、武装グループはマシンガン、ロケット推進擲弾、地対空兵器、手榴弾で武装していたと語った。

ザマン氏は、襲撃時ホテルには60名~70名の客がおり、ホテル入り口で自爆した2つの死体を見たと語った。

現場に居合わせた独立ジャーナリストのベッテ・ダム氏は、アルジャジーラの取材に応じ、「銃撃戦は何時間にもわたって続きました。また、ロケット推進擲弾が発射されるのも見ました。」と語った。

またダム氏は、原因はわからないが現場で2回にわたって大きな爆発音を耳にしたと語った。そして今回の武装グループの襲撃を「よく連携がなされたものだった」と語った。

ホテルの宿泊客ジャウィッド氏は、銃撃をのがれるために1階の窓から飛び降りで逃げたと語った。

「私は家族と逃げました。銃撃が始まりましたが、ホテルのレストランは客でいっぱいでした。」と語った。

アフガニスタンでは、5月2日に米軍がパキスタンに潜伏中のアルカイダの指導者オサマ・ビンラディン氏を殺害して以来、武力衝突が増えており、また、この時期はタリバンが毎年攻勢を強める時期にあたる。しかし今回のように首都カブールが攻撃されるのは比較的稀である。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧千鶴

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米国の核兵器予算増額は不拡散に水を差すと活動家が警告

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David Krieger

【国連IPS=ハイダー・リツヴィ】

米国の核政策に関する独立の専門家らが、核兵器予算を増やす国防総省(ペンタゴン)の計画は軍縮に向けた世界の努力に深刻な悪影響を及ぼす、と警告している。

核時代平和財団のデイビッド・クリーガー会長は、米軍が核兵器維持に予算の増額を求めていることに関して、「これは明らかに核軍縮義務に直接抵触します。」と語った。

報道によれば、米軍は、今後10年間にわたって核兵器とその運搬手段を「近代化」するために、2130億ドルを承認するよう米議会に求めている。しかもこの要求額は、年間540億ドルにのぼる核兵器システムの維持費に上乗せするものである。

 予算増額分のほとんどが、新型の無人機、潜水艦、大陸間弾道ミサイル、及び新世代核兵器製造のインフラに投資されると専門家は見ている。

議会は現在、来年度予算のカットを審議している。現在のところ、議員の多数とバラク・オバマ政権が新型核兵器システム開発の意義を疑っている様子はない。

オバマ大統領は、2009年1月に政権をとって以来、世界的な核軍縮の大義を謳う演説を行っているが、実際には、歴代の前任者と同じく、国内外における完全なる核兵器廃絶の時限を設定していない。

「オバマ大統領は核軍縮について口当たりのいいことは言っていますが、明らかに、核兵器の近代化に2000億ドル以上を使うことに同意しているのです。」とクリーガー氏は語った。

またクリーガー氏は、いわゆる「新型」核兵器計画には、核兵器を搭載した無人機も含まれていることを指摘した。

「これは紛れもなく長距離殺人兵器です。核兵器を搭載した無人機など間違っています。これは核のカオスへの招待状となるでしょう。」とクリーガー氏は付け加えた。クリーガー氏は、こうなると、核兵器を所有や核兵器開発計画を疑われている国々は、今後ますます頑なになるのではないかと懸念を抱いている。

米国の核兵器サークルは、10年以上にわたって、イランと北朝鮮を敵視し続けてきた。イランは核兵器開発を進めようとし、北朝鮮は核兵器保有を宣言した、という言い分である。しかし、米国自らがその膨大な核兵器をいつ廃棄する用意があるのかについては、明確なシグナルを与えてこなかった。

世界の8つの主要な軍縮団体の横断組織である「中堅国家構想」(MPI)の傘下団体である核時代平和財団は、核不拡散と完全軍縮に向けた国連主導のプロセスを加速するようロビー活動を続けている。

MPIは、「検証可能、不可逆的で、実行可能な、核兵器の法的禁止」を主唱し、国連の潘基文事務総長による核軍縮に関する五項目提案について緊急の行動を求めている。潘事務総長は、「相互に補強しあうような」枠組み合意、すなわち核兵器禁止条約の策定を呼びかけていた。

MPIのリチャード・バトラー議長は、先週IPSに送付された声明において、「核兵器廃絶を求める政府と市民の切なる願いは、実際的な行動です。核兵器が存在し続けることは、すべての人々にとっての脅威であり、受け入れがたいリスクなのです。」と述べた。

MPIは、核兵器国が自国の核兵器削減の義務を受諾した核不拡散条約(NPT)第6条の履行を支持するよう、世界の外交官らに求めてロビー活動をつづけている。

オーストラリアで長く外交官の職にあり、国連の核兵器査察官も勤めたバトラー氏は、先週、NPTでの合意履行を求めるMPIのプロジェクトの一環として、国連で各国政府にブリーフィングを行った。

バトラー氏が先週ニューヨークの国連本部で他の外交官らと軍縮行動に関する協議に備える一方で、MPIの創設者であるカナダのダグラス・ロウチ上院議員は、同じ目的での世界ツアーを開始した。

ノーベル賞にノミネートされたこともあるロウチ氏は、欧州、ロシア、中国、インドへの歴訪の前に発表した声明の中で、地雷とクラスター弾が、「その継続的使用が人間に及ぼす影響についての理解が人々の間に浸透した結果」、条約で禁止されることになった点を強調した。

さらにロウチ氏は、「いまや、同じように、核兵器の使用だけではなく、使用の威嚇、保有、拡散もまた、人間への脅威になるという認識が出てきているのです。」と語った。

一方クリーガー氏は、ロウチ氏の核軍縮・平和に対する努力を賞賛しつつ、同時に、米議会とオバマ政権が今後取るかもしれない行動の帰結について憂慮している。

「米国が世界を支配し続けようとするならば、これは大変な問題です。」とクリーガー氏は語った。クリーガー氏は、ワシントンの政策立案者たちは、米国の安全保障は軍事予算の拡大によってではなく、その大幅削減によって確保できることを認識すべきだとみている。

「核兵器(への予算を)増やすことは、米国は核軍縮に熱心でないというメッセージを世界に送ることになるのです。」とクリーガー氏は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩



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|モロッコ|「憲法改正の動きは良き先例となるだろう」とUAE紙

【アブダビWAM】

モロッコにおける憲法改正の動きは同国にとって重要な一里塚となるだろう。ムハンマド6世国王(1999年即位:右の写真)は17日、新たに民主的な憲章をそなえた「市民に立脚した君主制度」への移行プロセスが開始されたと発表した。

「民主化勢力からは、改革内容が十分でないとして批判する声がでているが、大半のモロッコ国民は、国王の改革提案をより透明性の高い政府の実現に向けた動きとして支持しているようである。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙は報じた。

「特筆すべきは改革提案(3月に国王の指示で設立された委員会で審議がなされてきた)が即時実施を前提とした計画を擁している点である。国王の改革提案は7月1日に国民投票にかけられこととなっており、それによりモロッコは改革の道を前進していくだろう。」とガルフ・ニュース紙は6月22日付の論説の中で報じた。

提案内容の目玉は、国王自身が自らの権限の一部を放棄することに同意する一方、首相と議会の権限を大幅に強化した点である。首相は総選挙で最大の票を獲得した政党から選出され、閣僚の任命権を持つことになる。

立法府の権限も強化され、議会の5分の1の賛成があれば政府関係者に対する調査を実施でき、3分の1の賛成があれば閣僚に対する譴責決議を行うことができる。一方国王は、今後も、治安・国防・宗教関連の最高責任者であり、閣議の議長と軍の最高司令官にとどまる。

「モロッコには伝統的に権威主義的な政府と強大な権限をもった治安当局が国王を補佐して国内の政治世論を統制してきた歴史がある。現国王のムハンマド6世は、先王から相続した強力な権限の緩和に踏み切ってきたが、今回の憲法改正提案はこうした改革の流れを大きく前進させるものとなるだろう。」とガルフ・ニュース紙は付け加えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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