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|カンボジア|数十年の時を経てS-21刑務所の生存者が語る真実

【プノンペンINPS=ロバート・カーマイケル】

「私は手錠をかけられ床にうつ伏せになって横たわるよう命じられた。」と老人は裁判官に向かって証言した。 

「看守たちは棒の束を持ってきて床に放り投げました。棒の束は床に落ると大きな音が響きました。そして好きな棒を選ぶように言ったのです。私は彼らに、『兄弟、たとえどれを選んでもその棒で私を殴るのだろう。それならどれにするかは君次第だよ。』と応えました。」

 これらは、カンボジア特別法廷(ECCC)として知られる現在公判中の国連支援の裁判において、ポルポト時代を生き延びたボウ・メン氏が先週プノンペンで終日に亘って行った悲惨な証言のほんの一部である。 

ボウ・メン氏はトゥール・スレン(S-21)刑務所と呼ばれた重警備刑務所において拷問された際の経験について語った。民主カンプチアとして知られるクメール・ルージュ政権に国家の敵と目された人々は、1975年から同政権が崩壊した1979年までの間、S-21刑務所に収監され、拷問のうえ惨殺された。 

この時期、15000人以上が同刑務所に送られ生き残ったのはほんの一握りの人達だった。 

1980年代初頭に撮影された有名な写真にはS-21刑務所を生き延びた7名が建物前で互いに腕を組んで立っている。以来、4名が既に他界した。 

彼らが生き残れた唯一の理由は、S-21刑務所長の「ドッチ同志」が利用できると認めた技術を持っていたからだった。 

先週、その生き残った3人に、人道に対する罪に問われているドッチ(本名:カン・ケ・イウ)の裁判で自らの経験について証言する機会が巡ってきた。ドッチはもし有罪になれば終身刑に処されることとなる。 

彼らの証言は約200万人のカンボジア人が殺された1975年から1979年の恐怖の時代の記憶を生々しくよみがえられることとなった。 

3人は、1970年代のカンボジアというクメール・ルージュ政権支配下の恐怖の時代に翻弄された、ごく普通の人々である。逮捕時、ボウ・メン氏は農業組合で農機具を作る仕事に、そして彼の妻は水田で稲作に従事していた。 

ボウ・メン氏は、法廷での証言で、「1977年中旬に夫婦そろって逮捕され、S-21刑務所に収監された」と語った。彼の妻は刑務所到着時に引き離され、その後2度と再会することはなかった。彼は写真を撮られ、服を脱がされたうえ、元小学校(=S-21刑務所)の教室だったところに他の囚人と共に鉄棒に繋ぎとめられた。 

「その部屋には30人から40人が収容されていました。私の近くの部屋の隅に背の高い白人の外国人が収監されているのを見ました。彼も私たちと同じ薄い粥の配給を受けていました。私たちには米は殆ど与えられず、私は当時痩せ細り、体力が殆どありませんでした。」とボウ・メン氏は語った。 

証言台に立った3名とも耐えられないほどの食料と水の不足、そして動物以下の扱いをうけたことを語った。S-21刑務所の囚人は、当然のこととして、殴打、鞭打ち、電気ショック等の拷問に晒された。 

拷問の目的は専ら囚人たちが「犯したはずの罪」を自白させるさせることでした。1977年中旬から1978年にかけて別々に逮捕された3名の証言者の容疑は、いずれも政府転覆を狙ってCIAかKGBに参画したというものだった。 

当時の独裁主義体制下では、S-21刑務所に収監されたことはすなわち有罪を意味していた。従って、囚人たちにとって自らの無罪を証明する機会は無きに等しいものだった。囚人に与えられた唯一のオプションは「罪を自白するか」(その後結局殺されることとなるが)或いは当時の言葉で云う「粉砕されるか」(=惨殺されるか)しかなかった。 

ボウ・メン氏が法廷で述べたように、自分がなぜ逮捕されたのか質問することは全く無意味だった。クメール・ルージュ体制の下で「革命組織(オンカー)」と呼ばれた党幹部達は、決して判断を間違えない、全てを見通し、全てを知る全能の存在とされていたからだ。 


ボウ・メン氏は、「私は(看守に向かって)『私も妻も孤児なんです。私たちがどんな間違いを犯したのでしょうか?』と問いかけたところ、彼らは『そのような質問は必要ない。知っての通りオンカーにはパイナップルのように多くの眼があるのだ。そもそもお前が間違いを犯していなければ、オンカーがお前を逮捕することはないのだ。』と言っていた。)と証言した。 

S-21刑務所において地獄の18か月を生き延びたボウ・メン氏は、先週証言台に立った他の2人の元囚人と同じく、無実の罪により逮捕・収監された人物である。 

ヴァン・ナト氏は今日カンボジアで最も有名な画家であるが、証言台に立ったナト氏は「民主カンプチアは私から人間の尊厳を奪った」と語った。 

ナト氏は、S-21刑務所で60人の囚人が大きな部屋の中でどのように鎖で繋がれていたかについて語った。囚人たちの死は日常茶飯事だったが、夜遅く死体が取り払われるまで生きた囚人と鎖でつながれたまま放置された。一日の食料は僅かティースプーン3杯ほどの薄い粥で、ナト氏が収監後約1ヵ月間そのような環境でなんとか生き延びていたある日、看守に呼び出された。その時、彼は看守の呼び出しは殺されることを意味していると知っていたので生きる望みをあきらめた。 

しかしナト氏は殺されなかった。それはドッチ所長がナト氏の画家としての腕前について評判を耳にしたからだった。当時オンカーは指導者(ポル・ポト)の肖像画を制作する人材を必要としており、結果としてナト氏はボウ・メン氏と共に巨大なキャンバスに向かって肖像画を描く仕事に従事させられた。 

3人目の証言者で機械工のチュン・メイ氏(79歳)は、彼がどのように逮捕されS-21刑務所に連行されていったかについて語った。また、刑務所での拷問に耐えられず、ありもしないKGB/CIAの陰謀に加担したと自白させられたことについても語った。 

しかしメイ氏は、殺されるどころか、彼のミシンを修理できる技術がドッチ所長の目にとまり、生き延びることが許された。ドッチ所長は当時機械修理ができる人材を必要としており、メイ氏はミシン、水道管やタイプライター等を修理する仕事に従事させられた。 

3人の男たちは、民主カンプチアに侵攻したベトナムが支援する解放軍が1979年1月7日にプノンペンを陥落させた後、S-21刑務所から釈放された。 

3人の生存者が失ったものは、当時のカンボジアに降りかかった大惨事の縮図と言えるものだった:ボウ・メン氏の妻はS-21刑務所でドッチ所長の指揮の下ほぼ確実に殺害されたと見られている。チュン・メイ氏の妻と4人の子供はクメール・ルージュの手により殺害された。ヴァン・ナト氏の妻はクメール・ルージュ時代を生き延びたが、夫妻の2人の子供たちは死んでしまった。 

3人のうち、いずれも当時の経験を忘れられるものはいないが、裁判で証言できたことで、心の負担をある程度軽減することができたようだ。ボウ・メン氏は裁判官に向かって「私はようやくカンボジア特別法廷(ECCC)の証言席に立つことができました。ECCCは私に正義を見つけることができるのです。私は、その正義がたとえ100%でなく60%であっても十分幸せなのです。」と語った。 

ヴァン・ナト氏もECCCに対する希望を表明した。「私は今日この裁判の証言に立って若い世代の人々に私の苦境や経験についてお話をする機会があるとは夢にも思っていませんでした。私はこのような機会を頂いたことを大変名誉なことと思っていますし、これ以上のことは望むべくもありません。私の唯一の希望は、当時亡くなった人達に対する正義がなされること。それこそがこの法廷ができることだと思います。」と語った。 

それでもクメール・ルージュ時代を生き延びた多くの人々は、「なぜ私がこのような酷い目に逢わなければならなかったのか?」というおそらく最も重要な疑問に対して満足のいく回答を得られることはないだろう。 

元画家のボウ・メン氏は「協同組合では妻と私は毎日懸命に働いていました。今振り返っても当時私がどのような失敗を犯したのか思い当たらないのです。」と語った。 (原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩 

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|フランス|核軍縮に関する立場は曖昧

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【パリIPS=アレシア・D・マッケンジー

北朝鮮が米国に対して自国の「核抑止力」を強化すると威嚇する中、核開発を巡る国際的な論戦に拍車がかかっている。その中にあってフランスのような国々がとっている立場は、一部の専門家達の間で「曖昧」で「偽善的」とみられている。 

フランスと英国は、西ヨーロッパにおける核保有国である。フランスの公式な立場は核兵器の備蓄量を削減し核実験は停止すべきというものだが、ニコラ・サルコジ政権は、未だ核廃絶を目指すとの公約は行っていない。 

しかし一方で、サルコジ大統領は外国の特定の国々が核兵器を開発することについては認めない立場をとっている。彼は6月に米国のバラク・オバマ大統領と行った共同記者会見の中で、北朝鮮とイランに対して核兵器開発をしないよう警告を発した。 

サルコジ大統領は、5月の北朝鮮による核実験を非難した後、「イランには、民生用に原子力エネルギーを活用する権利があるが、それを転換して核武装する能力を獲得することは認められない。」と語った。 

しかし専門家の中には、このようなフランスの立場を、表裏のある偽善的なものとみている人々もいる。 

「こうした主張は全て偽善的です。」とフランスの主要反核連合Sortir du Nucleaire Network(841団体が加盟)のスポークスマン、ピエール・エマニュエル・ベック氏は語った。

 
「民生用核開発計画を核兵器から切り離すことはできません。例えばフランスがリビアのような国々に原発施設を売却した段階で、核爆弾開発がそう遠くない未来に続くであろうということは、誰もが知っていることです。」と、ベック氏はIPSに対して語った。 

「フランスは『曖昧な』立場をとっている。」と、ベック氏は付け加えた。サルコジ大統領はフランスの核弾頭を削減したいと考えているが、フランス政府は、米ロ両国が膨大な核兵器の備蓄を維持し続け、一方でイランや北朝鮮のような「政情不安」な国々からの脅威が存在する中で、核軍縮に踏み切ることに慎重な態度を示している。 

フランスは、昨年9月までに空中発射の武器を全体の3分の1削減し、保有する核弾頭数を約300発までに減らしたと主張している。 

サルコジ大統領は、世界の軍縮は、相手方が兵器を削減すれば自らも兵器の削減に応じるとする「相互主義」に基づいて行われるべきと述べているが、専門家の中にはこの考え方を「受け入れられない」として批判するものもいる。 

またフランス政府は、同国は当初の5大核保有国の中で唯一、核実験場と核分裂性物質製造施設を自ら放棄した国だと主張している。この点について他の核保有国は具体的な対応を明らかにしておらず、来年5月に開催予定の核不拡散条約(NPT)運用検討会議を前に状況は益々不透明となっている。2010年NPT運用検討会議は、前回の5年前の会議と同様、核軍縮を求める人々にとって失望に終わる可能性がある。 

「議論が現在のようなレベルで留まっている限り、核軍縮は近い将来実現しそうにない。核兵器保有能力を持つということは力の象徴であり、各国は経済援助を含む多くの要求事項を満たす交渉手段として核カードを行使しているのです。」と、ベック氏は語った。 

「北朝鮮、イラン、イスラエル、インド、パキスタンといった『新核保有国』は、今後も核開発計画を推進する権利を主張し続けるとみられるが、これらの動きに対する当初の5大核保有国(フランス、英国、中国、米国、ロシア)の態度は不十分な点が多い。」と専門家達はみている。 

「北大西洋条約機構(NATO)加盟国の殆どの国民は、自らの政府が引き続き核兵器の使用を容認しているという現実を理解していないのです。」と、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)の共同議長であるウタ・ツァプフ氏は語った。PNNDは、核兵器政策に関する最新の情報を政策責任者に提供している国際ネットワーク組織である。 

またツァプフ氏は、「NATO加盟国の国民はまた、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコといった加盟国は今でも米国の核兵器を有事には使用する目的で配備し続けている現実を理解していない。」と語った(フランスは今年になってNATOに43年ぶりに復帰した)。 

「核兵器は地雷やクラスター爆弾と同様、無差別、非人道的、不道徳且つ非合法なものです。全ての核兵器は禁止され破棄されなければなりません。」とツァプフ氏は付け加えた。 

Sortir du Nucleaire Networkによると、フランスの団体の中にも、政府が民生用原発事業を縮小し、より多くの資金を再生可能エネルギーに投資すべきと考えているところがいくつかある。フランスでは消費エネルギーの約80%を国中に建設された59の原発施設から得ている。 

ジャンルイ・ボルロー(Jean-Louis Borloo)エコロジー・エネルギー・持続的開発相によると、フランス政府は2011年までに国内各県に太陽エネルギー発電施設を建設予定である。しかし、この計画が同国の原発政策にどのような影響を与えるかは今のところ未定である。 

 フランス政府は、189カ国が締結しているNPT運用検討会議に向けた準備段階で、自国及び欧州パートナー諸国の核政策に関する原則の輪郭を描こうとしている。 
 
サルコジ大統領は、6カ月毎に交代する欧州連合の議長国をフランスが務めた際、核軍縮に向けた欧州連合提案をまとめた書簡を潘基文国連事務総長に送った。 

昨年12月に記されたその書簡には、「欧州は、それがたとえテロとの戦いであれ、大量破壊兵器の拡散防止や方向性を是正するためであれ、或いは危機管理のためであれ、平和のために行動することを望んでいます。そしてそれが軍縮問題、とりわけ核軍縮の問題であっても欧州の姿勢は変わりません。欧州諸国は、その内2カ国の主要加盟国が核兵器所有国であることから、核軍縮の問題に対して特別な関心を持っています。」また、「欧州提案には、包括的核実験禁止条約(CTBT)の締結と検証体制の確立、そして透明性を確保し国際社会に開かれた形での核実験施設の一刻も早い放棄が含まれている。」と記されている。 

サルコジ大統領は、「欧州連合は、放射性物質の生産を即時一時停止すると共に、核兵器製造のための放射性物質生産を禁止するための交渉を開始することを要求している。」と語った。 

6月、サルコジ大統領はイランについて言及した中で、「私達はイランとの平和と対話を望んでいます。また私達はイランの開発を支援したいとも思っています。しかし、私達は核兵器の拡散は望みません。」と語った。 (原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

フランス、核軍縮に関する立場は曖昧

【パリIPS=アレシア・D・マッケンジー】

北朝鮮が米国に対して自国の「核抑止力」を強化すると威嚇する中、核開発を巡る国際的な論戦に拍車がかかっている。その中にあってフランスのような国々がとっている立場は、一部の専門家達の間で「曖昧」で「偽善的」とみられている。

フランスと英国は、西ヨーロッパにおける核保有国である。フランスの公式な立場は核兵器の備蓄量を削減し核実験は停止すべきというものだが、ニコラ・サルコジ政権は、未だ核廃絶を目指すとの公約は行っていない。

しかし一方で、サルコジ大統領は外国の特定の国々が核兵器を開発することについては認めない立場をとっている。彼は6月に米国のバラク・オバマ大統領と行った共同記者会見の中で、北朝鮮とイランに対して核兵器開発をしないよう警告を発した。

サルコジ大統領は、5月の北朝鮮による核実験を非難した後、「イランには、民生用に原子力エネルギーを活用する権利があるが、それを転換して核武装する能力を獲得することは認められない。」と語った。

しかし専門家の中には、このようなフランスの立場を、表裏のある偽善的なものとみている人々もいる。

「こうした主張は全て偽善的です。」とフランスの主要反核連合Sortir du Nucleaire Network(841団体が加盟)のスポークスマン、ピエール・エマニュエル・ベック氏は語った。

 
「民生用核開発計画を核兵器から切り離すことはできません。例えばフランスがリビアのような国々に原発施設を売却した段階で、核爆弾開発がそう遠くない未来に続くであろうということは、誰もが知っていることです。」と、ベック氏はIPSに対して語った。

「フランスは『曖昧な』立場をとっている。」と、ベック氏は付け加えた。サルコジ大統領はフランスの核弾頭を削減したいと考えているが、フランス政府は、米ロ両国が膨大な核兵器の備蓄を維持し続け、一方でイランや北朝鮮のような「政情不安」な国々からの脅威が存在する中で、核軍縮に踏み切ることに慎重な態度を示している。

フランスは、昨年9月までに空中発射の武器を全体の3分の1削減し、保有する核弾頭数を約300発までに減らしたと主張している。

サルコジ大統領は、世界の軍縮は、相手方が兵器を削減すれば自らも兵器の削減に応じるとする「相互主義」に基づいて行われるべきと述べているが、専門家の中にはこの考え方を「受け入れられない」として批判するものもいる。

またフランス政府は、同国は当初の5大核保有国の中で唯一、核実験場と核分裂性物質製造施設を自ら放棄した国だと主張している。この点について他の核保有国は具体的な対応を明らかにしておらず、来年5月に開催予定の核不拡散条約(NPT)運用検討会議を前に状況は益々不透明となっている。2010年NPT運用検討会議は、前回の5年前の会議と同様、核軍縮を求める人々にとって失望に終わる可能性がある。

「議論が現在のようなレベルで留まっている限り、核軍縮は近い将来実現しそうにない。核兵器保有能力を持つということは力の象徴であり、各国は経済援助を含む多くの要求事項を満たす交渉手段として核カードを行使しているのです。」と、ベック氏は語った。

「北朝鮮、イラン、イスラエル、インド、パキスタンといった『新核保有国』は、今後も核開発計画を推進する権利を主張し続けるとみられるが、これらの動きに対する当初の5大核保有国(フランス、英国、中国、米国、ロシア)の態度は不十分な点が多い。」と専門家達はみている。

「北大西洋条約機構(NATO)加盟国の殆どの国民は、自らの政府が引き続き核兵器の使用を容認しているという現実を理解していないのです。」と、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)の共同議長であるウタ・ツァプフ氏は語った。PNNDは、核兵器政策に関する最新の情報を政策責任者に提供している国際ネットワーク組織である。

またツァプフ氏は、「NATO加盟国の国民はまた、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコといった加盟国は今でも米国の核兵器を有事には使用する目的で配備し続けている現実を理解していない。」と語った(フランスは今年になってNATOに43年ぶりに復帰した)。

「核兵器は地雷やクラスター爆弾と同様、無差別、非人道的、不道徳且つ非合法なものです。全ての核兵器は禁止され破棄されなければなりません。」とツァプフ氏は付け加えた。

Sortir du Nucleaire Networkによると、フランスの団体の中にも、政府が民生用原発事業を縮小し、より多くの資金を再生可能エネルギーに投資すべきと考えているところがいくつかある。フランスでは消費エネルギーの約80%を国中に建設された59の原発施設から得ている。

ジャンルイ・ボルロー(Jean-Louis Borloo)エコロジー・エネルギー・持続的開発相によると、フランス政府は2011年までに国内各県に太陽エネルギー発電施設を建設予定である。しかし、この計画が同国の原発政策にどのような影響を与えるかは今のところ未定である。 

 フランス政府は、189カ国が締結しているNPT運用検討会議に向けた準備段階で、自国及び欧州パートナー諸国の核政策に関する原則の輪郭を描こうとしている。 
 
サルコジ大統領は、6カ月毎に交代する欧州連合の議長国をフランスが務めた際、核軍縮に向けた欧州連合提案をまとめた書簡を潘基文国連事務総長に送った。

昨年12月に記されたその書簡には、「欧州は、それがたとえテロとの戦いであれ、大量破壊兵器の拡散防止や方向性を是正するためであれ、或いは危機管理のためであれ、平和のために行動することを望んでいます。そしてそれが軍縮問題、とりわけ核軍縮の問題であっても欧州の姿勢は変わりません。欧州諸国は、その内2カ国の主要加盟国が核兵器所有国であることから、核軍縮の問題に対して特別な関心を持っています。」また、「欧州提案には、包括的核実験禁止条約(CTBT)の締結と検証体制の確立、そして透明性を確保し国際社会に開かれた形での核実験施設の一刻も早い放棄が含まれている。」と記されている。

サルコジ大統領は、「欧州連合は、放射性物質の生産を即時一時停止すると共に、核兵器製造のための放射性物質生産を禁止するための交渉を開始することを要求している。」と語った。

6月、サルコジ大統領はイランについて言及した中で、「私達はイランとの平和と対話を望んでいます。また私達はイランの開発を支援したいとも思っています。しかし、私達は核兵器の拡散は望みません。」と語った。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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ドイツ、核兵器は持たず共有するだけ

|ドイツ|核兵器は持たず共有するだけ

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【ベルリンIPS=ヴォルフガング・ケーラー】

ほとんどのドイツ国民は核廃絶を支持しているが、ドイツ政府は核兵器共有政策をまだ放棄しないかもしれない。 

「政府は核兵器共有問題を巡って内部で意見が分かれている。」と、大西洋安全保障ベルリン情報センター(BITS)所長のオトフリート・ナサウアー氏はIPSに対して語った。BITSは、国際問題及び安全保障政策に関する問題について研究活動を行っている。 

ナサウアー氏は、公開された限られた情報を基に、冷戦期にドイツに配備された数千発に及ぶ核爆弾の内、10発から20発の核爆弾が未だに国内に配備されていると見積もっている。 

ドイツは1975年に批准した核不拡散条約(NPT)の規定により独自の核兵器を所有していないが、国内に配備された米国の核爆弾を共有している。この核共有政策の起源は当時の西ドイツに最初の核爆弾を配備した1950年代末に遡る。そしてドイツ政府は自らが加盟している北大西洋条約機構(NATO)の核抑止政策の一環として、核共有政策を今日も維持している。

 
アンゲラ・メルケル首相率いる与党連立政権のパートナーであるドイツ社会民主党(SPD)は、4月5日に米国のバラク・オバマ大統領がプラハでの演説の中で核廃絶に向けたビジョンを表明したことを受けて、ドイツ国内に残存する全ての核兵器の撤去を求めている。 

オバマ氏は、世界中に拡散している数千発に上る核兵器を「冷戦時代の最も危険な遺産」と呼び、「世界規模の核実験禁止を実現するために、私の政権は、直ちにかつ強力に、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を目指します。50年以上の協議を経た今、核実験はいよいよ禁止される時だ。」と語った。 

「私たちは武器庫から核兵器を完全に消滅させなければならなくなる、そうした時代のために闘っているのです。」とSPDのフランク・ウォルター・シュタインマイヤー外相は7月14日の演説の中で語った。同氏は現連立政権の副首相であるとともに、9月に予定されている連邦選挙におけるSPD選出の首相候補でもある。 

ドイツ国会においては、ドイツ自由民主党(FDP:ドイツ語表記の頭文字)、緑の党、ドイツ左翼党など、全ての野党がドイツ領土からの核兵器撤去を支持している。5月15日、最大野党FDPのギド・ヴェスターヴェレ党首は、「核軍縮が復活する時が来た」と強調した。 

「ドイツから戦略核兵器を撤去することは、今日の新たな(軍縮に向けた)政治潮流に対する適切な反応である。」とヴェスターヴェレ氏は付け加えた。 

メルケル首相を党首とするドイツの最大政党で保守のキリスト教民主同盟(CDU’s)とその姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)は、SPDと共に連立与党政権を構成しているが、ドイツ政府としては、オバマ大統領による核廃絶を目指す新たな努力を歓迎する立場をとっている。しかしながら、核兵器共有政策については、一方的に放棄するつもりはない。 

メルケル首相は先の3月26日の国会における議論の中で、「私たちは政策目標とそこに到達するまでの手段を混同しないよう注意すべきです。私は全ての大量破壊兵器の廃絶を目指す政策を引き続き順守していきます。しかしドイツ連邦政府は、核兵器政策という慎重さを要する分野でNATO内におけるドイツ政府の影響力を保持するため、核兵器共有政策を堅持することを政策白書に明記しているのです。」と語った。 

ドイツ政府が2006年に安全保障政策とドイツ連邦軍の将来について規定した政策白書を採択した際、シュタインマイヤー氏率いるSPDも核兵器共有政策を順守していくことに同意した。 

BITSのナサウアー所長はCDUとSCUの政策は矛盾しているとして次のように語った。「連邦政府は、国際法に違反するとしてドイツ兵による核兵器の使用を禁止する一方で、戦闘機に搭載した米国製核爆弾の使用法については引き続きドイツ兵に対して訓練を継続している。」 

「米国の大統領とドイツ首相の間に、私たちが知らないような秘密協定でもない限り、核兵器共有政策を放棄することがどうしてNATO内におけるドイツの地位低下につながるのか理解できない。」とナサウアー所長はIPSに対して語った。なぜならカナダやギリシャは何年も前に核共有政策を放棄したにも関わらず、両国はそれによってNATO軍事同盟内の影響力を失ってはいないからだ。

ベルリンに本拠を置くドイツ外交問題評議会(DGAP)の対米安全保障問題の専門家であるヘニング・リイケ氏は、首相の立場を擁護する。 

「オバマ大統領と同様にドイツ連邦政府も段階的な軍縮を推進する立場をとっているのです。従ってNATO戦略の中で核兵器政策の部分のみが真っ先に交渉の課題になる必要はないのです。重要なのは一方のみが不利益を被るようなことがないよう調和のある軍縮政策を段階的に進めていくことなのです。」とリイケ氏は語った。 

ナサウアー所長は、「NATOには必要な抑止力を維持できるだけの十分な核爆弾を搭載した潜水艦が配備されている。」と述べ、ドイツの核兵器共有政策が必ずしもNATOの核抑止力維持に貢献していないと主張した。 
 
しかし核兵器共有政策に対する見解がドイツ政界の中で如何に分かれていようとも、ドイツが核兵器不拡散について一貫して取り組んできたという点については、ナサウアー所長もリイケ氏も見解を同じくしている。 

2007年にドイツとノルウェーはNATOの核兵器不拡散政策を強化するイニシャティブを開始した。ドイツ外務省はこの関連でいくつかの提案をNATOに提出している。「ドイツは、今までも米国に核軍縮の協議に応じるよう働きかけてきたのです。」とリイケ氏は語った。 

 シュタインマイヤー外相は、今年多くの機会を通じて、例えば2月に政府閣僚、高官、安全保障専門家が参加して開催されたミュンヘン国際安全保障会議の機会等を通じて、核兵器保有国に対して核兵器の武装解除プロセスを促進するよう強く求めてきた。 

シュタインマイヤー外相は6月14日に開催されたSPDの特別党大会での演説の中で、「ロシアのドミトリー・メドヴェージェフ大統領とウラジミール・プーチン首相が、ロシアは核兵器の武装解除に向けた国際努力に参加すると自分に確約した。」と述べた。 

しかし、世論調査ではアンゲラ・メルケル現首相の率いる保守政党が社会民主党を大幅に支持率で引き離しており、この様子では、兵器共有政策を巡るドイツ政府の公式な立場は、9月に予定されている総選挙を経ても変化することはないだろう。 

にもかかわらず、ドイツ軍は、技術的な理由で、おそらく米国の原子爆弾を使用する能力を失うだろう。すなわち、米国の核爆弾を搭載可能なトルネード戦闘機は2020年までに退役・廃棄予定で、その後続機となるユーロファイター戦闘機には核爆弾を搭載する能力がないからである。 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 



関連記事: 
勢いづくドイツの平和運動

|軍縮|エジプト、米国の「核の傘」を拒絶する

【カイロIDN-InDepth News=ファリード・マハディ】

今週開催された米国・エジプト首脳会談においては、中東をめぐる米国の「核の傘」という亡霊がつきまとった。5年ぶりとなるエジプトのホスニ・ムバラク大統領の訪米に向けた準備段階で、同大統領と側近の高官は、中東包括和平案の一部として米国政府が核攻撃から中東地域を守ることを提案しているとする疑惑を、きっぱりと否定していた。

米国による「核の傘」の起源は米ソ冷戦時代に遡り、通常、日本、韓国、欧州の大半、トルコ、カナダ、オーストラリア等の核兵器を持たない国々との安全保障同盟に用いられるものである。また、こうした同盟国の一部にとって、米国の「核の傘」は、自前の核兵器取得に代わる選択肢でもあった。



消息筋によると、ムバラク大統領はオバマ大統領との8月18日の首脳会談に際して、「中東に必要なものは平和、安全、安定と開発であり、核兵器ではありません。」と主張した。

ムバラク大統領はそうすることで、1974年以来エジプト政府が国是としている「中東非核地帯」設立構想をあくまでも推進する決意であることを改めて断言した。

またムバラク大統領は、首脳会談に先立つ8月17日、エジプトの主要日刊紙アル・アハラムとの単独インタビューに答え、「エジプトは中東湾岸地域の防衛を想定した米国の『核の傘』には決して与しません。」と語った。

「米国の『核の傘』を受け入れることは、エジプト国内に外国軍や軍事専門家の駐留を認めることを示唆しかねず、また、中東地域における核保有国の存在について暗黙の了解を与えることになりかねない。従って、エジプトはそのどちらも受け入れるわけにはいかないのです。」とムバラク大統領は語った。

ムバラク大統領は、「中東地域には、たとえそれがイランであれイスラエルであれ、核保有国は必要ありません。中東地域に必要なものは、平和と安心であり、また、安定と開発なのです。」と断言した。「いずれにしても、米国政府からそのような提案(核の傘の提供)に関する正式な連絡は受けていません。」と付け加えた。

同日、エジプト大統領府のスレイマン・アワド報道官も、米国の「核の傘」について論評し、「『核の傘』は、米国の防衛政策の一部であり、この問題が取り沙汰されるのは今回が初めてではありません。ただし今回の場合、問題が中東との関連で取り沙汰されている点は新しいと言えます。」と語った。

事実、中印国境紛争が最も緊迫した時期(ちょうど米国が1962年10月のキューバ危機に直面した時期と重なっていた)、ジョン・F・ケネディ政権は、中国から自国を防衛するため米国の軍事支援を求めざるを得ないと考えていた当時のインド政府に対して、非公式に米国の「核の傘」の提供を申し出たことがある。

アワド報道官は、現在浮上している中東地域に向けられた米国の「核の傘」疑惑についてコメントし、「そのようなものは形式においても内容においても全く承認できない。今は米国の『核の傘』疑惑について話題にするよりも、むしろイランの核開発問題について、欧米諸国・イラン双方による柔軟性を備えた対話の精神を基調として、取り組むべきです。」と語った。

アワド報道官はまた、「イランは、核開発計画が平和的利用を目的としたものであることを証明できる限り、他の核不拡散条約(NPT)締結国と同様、核エネルギーの平和的から恩恵を受ける権利があります。」と付け加えた。

「このイランに対する取り組みには、2重基準との誹りをかわすためにも、同時並行で、イスラエルの核能力の実態解明に向けた真剣な取り組みが伴わなければなりません。」とアワド報道官は強調した。(エジプト政府は、核兵器保有国のイスラエルに対し、NPTに調印し、国際原子力機関の監視を受けるよう国際社会が圧力をかけることを求めている:IPSJ)

これら一連のムバラク大統領の報道官による発言は、「中東非核地帯」設立を目指して35年に亘ってエジプト政府が取り組んできた方針に一致するものである。ムバラク大統領は、1990年4月、このイシニアチブを更に推し進めるべく、守備範囲を更に拡大した「大量破壊兵器フリーゾーン」構想を新たに提案している。

このエジプトの取り組みは殆どのアラブ諸国の支持を獲得し、最近でも22カ国のアラブ諸国で構成するアラブ連盟のアムレ・ムサ事務局長がこのイシニアチブの正当性を改めて是認する発言を行った。

ムサ事務局長は7月5日、「中東の非核化は必ず実現しなければならない問題です。」と宣言した。

「中東非核地帯」構想へのアラブ諸国の支持は、米国、イスラエル、欧州諸国がイランの核兵器開発疑惑を問題視するようになってから、特に湾岸地域のアラブ諸国において益々強まっている。

イランはこうした欧米諸国からの嫌疑を全面的に否定し、同国の核開発プログラムはあくまでも平和的利用と原子力発電を目的としたものであると主張している。一方、米国、イスラエル、欧州諸国は、イランに核兵器開発を許さないとして一歩も譲らない構えである。

このような欧米諸国の強硬姿勢は、イランの核武装は望まないものの、その他の事態収拾策を望むロシア、中国の姿勢とは対照的である。アラブ諸国も、欧米諸国が主張するイランの核兵器開発意図について、どちらかと言えば疑念を抱いている。

欧米の見方については国際原子力機関(IAEA)の天野之弥新事務局長(12月1日就任予定)が暗に異議を唱えている。天野氏は、新事務局長選出後の7月3日、記者団に対して「イランが核兵器を開発する能力を取得しようと試みているとの動かしがたい証拠は見当たりません。」と語った。

ロイターのシルヴィア・ウェスタール記者による「イランが核武装を試みているとの見解をお持ちですか?」との質問に対して、ベテラン外交官で核不拡散問題の上級専門家でもある天野氏は、「この問題に関するIAEAの公式記録を見ても、そのような疑惑を裏付ける証拠は一切見当たりません。」と答えた。

2日後の7月5日、アラブ連盟のムサ事務局長は、クウェートの日刊紙『アル・アンバ』との単独インタビューで、「イランは中東地域にとって現実的な脅威か?」との質問に対して、「イランが軍事目的の核開発計画を行っていると証明できる書類化された証拠は何もありません。」と答えた。

「(中東には)核兵器を保有する国は1つしかありません。それはイスラエルです。」と、ムサ事務局長は強調した。

イスラエルは60年代半ばに核兵器開発を開始したが、同国の歴代政府は、核兵器の保有に関して、意図的に肯定もしなければ否定もしない政策をとってきた。

それにも関わらず、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、イスラエルを2009年1月現在における核弾頭配備数で世界第6位の核兵器大国とランク付けしている。

SIPRIのデータによると、イスラエルが配備している核弾頭数は、安保理常任理事国の5大国(米国、ロシア、英国、フランス、中国)に次ぐ80基で、インド(60~70基)、パキスタン(60基)の配備数を上回っている。

またSIPRIによると、北朝鮮は、使用可能な核兵器を保有しているかどうかについては不明だが、既に若干数の核弾頭を組み立てるには十分なプルトニウムを生成していると考えられている。

イスラエルは、米国、ロシア、英国、フランス、中国と異なり、1968年に署名開放された核不拡散条約(NPT)に加盟していない。

しかしながら、イスラエルは、今年1月の時点で総計23,300発超と見積られている世界の核弾頭を保有している8カ国の一角を構成している。このSIPRI発表の核弾頭数には、「即時使用可能核弾頭」、「非現役予備核弾頭」、活性及び不活性の「備蓄核弾頭」、及び解体待ちの「退役核弾頭」が含まれている。

「インド、パキスタン両国も、イスラエル同様、NPT未加盟の事実上の核兵器保有国であり、引き続き、核弾頭を搭載可能な新型ミサイルシステムの開発と核分裂性物質の生成能力強化に取り組んでいる。」とSIPRIは報告している。

しかし、SIPRI発表の核弾頭数については、疑問を呈する声も上がっている。例えば、ジミー・カーター元米国大統領は、「イスラエルは150基ないしそれを上回る数の核弾頭を保有している。」と主張している。

エジプトの高名なジャーナリスト、作家、政治評論家で、故ガマール・アブドゥン・ナセル、故アンワル・サダト両大統領の側近として顧問を務めたモハメド・ハサネイン・ヘイカル氏は、イスラエルは200基の核弾頭を保有していると語っている。

米国に本拠を置く軍備管理協会(ACA)は、効果的な軍備管理政策に対する公衆の理解と支援を促進する目的で1971年に設立された無党派のシンクタンクであるが、イスラエルの保有核弾頭数は75基から200基と見積もっている。

一方、エジプト軍諜報筋はイスラエルが保有する核弾頭数を230基から250基の間と見積もっている。

イスラエル政府は、これらの報告や数値に関して否定(も肯定も)していない。

アラブ諸国の支持を集めているエジプトの中東非核地帯化イシニアチブは、イスラエルが域内唯一の核兵器保有国として、中東地域全体の脅威となっている現実を踏まえたものである。

匿名を条件に記者の取材に応じたエジプト政府高官は、「我々は常々、中東地域で唯一の明らかな核兵器国(イスラエル)を特別扱いしている米国には、未だ核兵器の開発をしていないイランに対して、核開発計画を中止するよう要求する正当性は持ち合わせていないと主張してきた。」と語った。

また同政府高官は、「ムバラク大統領はオバマ大統領との会談の席でこの議論を持ち出しました。エジプトは、もし米国がイスラエルに圧力をかけて核兵器廃棄に持ち込んでいたならば、イランの潜在的な核開発の野望を止めさせる上で、正当かつ強固な立場を構築できていただろうと常々明言してきたのです。」と語った。

また同政府高官は、ムサ事務局長が最近述べた声明に言及した。「中東の非核化は必ず実現しなければならない問題です。イスラエルの核兵器の存在は、核不拡散の原則を破り、非核保有国を核開発に走らせる原因となっているのです。」

エジプト外務省のハッサム・ザキ報道官は今週初旬に行った公式声明の中で、「エジプトは、政府のあらゆるレベルで、また、国際会議などあらゆる機会を捉えて『中東地域は非核兵器地帯と宣言されるべき』と一貫して論じてきました。」と語った。

ザキ報道官は、米国・エジプト首脳会談は、核軍縮を協議するのに相応しいタイミングで開催された点を指摘した。オバマ大統領は4月5日、チェコ共和国の首都プラハで行った演説で、「核兵器のない世界」の実現に向けて取り組んでいくことを誓った。

7月6日、米国のオバマ大統領は、ロシアのメドベージェフ大統領との間に、向こう7年以内に双方の備蓄核兵器の一部削減を目指した共同文書に署名した。

このモスクワ合意は、大陸間弾道ミサイルと潜水艦発射ミサイル双方を含む戦略核弾頭を削減対象としたもので、今年12月に失効する第1次戦略兵器削減条約(SART1)の後継条約について骨子を合意したものである。

米国・エジプト首脳会談は、また、核兵器廃絶に向けた重要なステップとして世界的な核軍縮キャンペーンが展開されている最中に開催された。

核兵器廃絶を目指す世界的な核軍縮運動「グローバルゼロ(Global Zero)」キャンペーンは、政治や軍事、経済、宗教、市民活動など、様々な政治路線を横断的に網羅した有識者およそ100人の署名人によって、昨年12月にパリで創設された。

このキャンペーンは、「グローバルゼロ宣言」の中で運動の目的を、「2大核兵器大国(世界の核兵器の95%を保有する米国とロシア)が、段階的かつ検証を伴う削減システムの確立を通じて、世界の核兵器廃絶に向けた包括的合意を実現できるよう運動を通じて支えていくこと。」としている。

現在グローバルゼロでは、段階を踏んだ核廃絶を実現していくための政策立案を進めており、世界的なメディア、オンラインコミュニケーション、市民社会組織を通じた幅広い一般民衆による支持態勢の構築に取組んでいる。

グローバルゼロの署名人は、2010年上旬に数百人の各界の指導者を集めて、同キャンペーンのヨルダンのヌール王妃が「核の狂気(the nuclear folly)」と呼ぶ「核兵器」の廃絶をテーマとしたグローバルゼロ世界サミットを開催すると発表している。(原文へ

翻訳=IPS Japan 

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|軍縮|核兵器に反対しつつも伸び続ける米国の武器輸出

│北朝鮮│民衆の腹をすかせて核兵器?

【ソウル/ニューヨークIDN-InDepth News=タリフ・ディーン

北朝鮮による核実験は、金正日総書記が、北朝鮮の軍事的地位を格上げし、政治的影響力を増すことを狙ったものであろう。 

かつて、パキスタンのある元首相が、「たとえ民衆が草を食むような生活にまで落ち込んだとしても、パキスタンは核兵器を製造する決意だと述べた。」と伝えられる。民衆の腹をすかせてまで核兵器開発に走る状況は、まさに今の北朝鮮に当てはまる。 

まもなく退任する国際原子力機関(IAEA)のモハメド・エルバラダイ事務局長は、「核軍縮に向かって抜本的な措置が取られなければ、今後数年のうちに核兵器国が10~20出てきてもおかしくない」と語った。 

逆に、北朝鮮の核実験のような行動が、核兵器国による軍縮を遅らせる効果も懸念される。 

6月12日、国連安全保障理事会は、全会一致で北朝鮮への制裁決議を採択した。決議は初めて、北朝鮮を出入りする貨物の検査を加盟国に求めた。 

しかし、北朝鮮側は、国連の偽善と二重基準を厳しく批判している。北朝鮮政府の声明は、「今回我が国が行った核実験は、世界で2054番目の核実験である。国連安保理の5大国はこれまで、核実験全体の99.99%を行ってきた」と述べた。

 「核兵器アーカイブ」のキャリー・サブレット氏によれば、これまでに確かに2054回の核実験が行われ、そのうち、5大国以外によるものは13回であるという。すなわち、5大国による占有率は99.37%だ。北朝鮮の言うことはあながち外れていない、とサブレット氏は語った。(原文へ) 

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 



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緊急性を増した核軍縮(ミハイル・ゴルバチョフ) 

|視点|緊急性を増した核軍縮(ミハイル・ゴルバチョフ)

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【ローマIPS=ミハイル・ゴルバチョフ】

今日の世界においてもっとも急を要する問題のひとつは、核兵器の危険性である。北朝鮮による5月25日の予想外の核実験と短距離ミサイル発射実験は、そうした恐怖をあらためて想い起こさせた。

1990年代以来、核軍縮の分野においては根本的な変化が起こっていない。冷戦終結から20年経っても、核兵器国は依然として数千発もの核兵器を保有し、世界は新たな軍拡競争の危険性を目の当たりにしている。 

実際、核軍縮でこれまでに達成されたことと言えば、1980年代末から90年代初頭にかけて結ばれた協定の履行ぐらいであった。1987年の中距離核戦力(INF)条約は2種類の核ミサイルを廃絶し、1991年の戦略兵器削減条約(START)はこれまでで最大の核兵器削減を打ち出した。また、米ソ協定によって、数千発もの戦術核兵器も廃棄された。 

しかしその後、核兵器削減のペースは遅くなり、管理と検証のメカニズムは弱められる。包括的核実験禁止条約(CTBT)は未だに発効していない。ロシアと米国が保有する核兵器数は他国の保有核兵器数の合計をはるかに上回り、それがために、米ロ以外の核保有国が軍縮プロセスに関わることを難しくしている。

核不拡散体制も危機に立たされている。主要核兵器国である米ロにその責任の大半があるが、中でも米国は、対弾道ミサイル制限条約(ABM条約)から脱退し、CTBTを批准せず、法的拘束力と検証メカニズムを伴った戦略攻撃兵器削減のための条約をロシアと新たに結ぶことを拒否している。 

最近になってようやく、米ロは現在の状態をいつまでも続けているわけにはいかないことに気づき始めたようだ。米ロの大統領は、今年末までに、戦略攻撃兵器を削減するための検証メカニズムを伴った条約を結ぶことで合意し、核不拡散条約(NPT)の下での義務を果たすとの約束を再確認した。両国の共同声明は、米国によるCTBT批准など、核の危険性を減らすための他の措置の実行を呼びかけている。 

これらは大いに意味のあることだ。しかし、問題と危険性の大きさの前では、これまでの成果もかすんでしまう。その根本原因は、冷戦終結の原因を見誤っている点にある。つまり、米国などの諸国は、冷戦の終結を西側の勝利だと見、単独主義的な行動へのゴーサインだとみなしてしまったのである。こうして、真の協力を基盤とした国際安全保障のための新しい制度を構築するのではなく、残った唯一の超大国と、冷戦期の遺産でありその後も改編されることのなかった北大西洋条約機構(NATO)のような組織によって、世界を独占的に指導しようと試みてきたのである。 

国連憲章の下ではもちろん違法である武力の行使(またはその威嚇)が、問題解決の「通常の」方法として再評価されるようになった。公的文書によって先制攻撃ドクトリンと米国による軍事的優勢の必要性が正当化された。 

人類は、あらたな軍拡競争に十分警戒をしなくてはならない。依然として軍事政策に資金を投入することに比重が置かれ、安全保障の面から見て必要な水準をはるかに超す「防衛」予算が伸び続けている。兵器貿易もそうだ。米国は、世界の他の全国家の合計と同程度の軍事支出をしている。国際法と紛争の平和的解決の原則への無視、国連と安全保障理事会の軽視が、ひとつの政策として主張されている。 

結果として、欧州(ユーゴスラビア)で戦争が起こった。それは以前には考えられないことであった。中東情勢は以前より悪化した。イラク戦争も起こった。アフガン情勢は極端に悪くなった。核拡散の危機が増した。 

その主要な原因は、核兵器を保有する国々(核クラブのメンバー)が、核兵器廃絶を目指して努力するという核不拡散条約上の義務を果たしていないことにある。これが事実であれば、他国が核兵器を取得しようとする危険は消えないことになる。今日では、技術的に核保有が可能な国は数十にのぼるのだ。 

最後に、核の危険は核兵器を廃絶することによってのみ除去できると主張したい。しかし、国際関係を非軍事化し、軍事予算を減らし、新型兵器開発に歯止めをかけ、宇宙での武装を防ぐことなくしては、核兵器なき世界に関する議論は空しいものとなるだろう。 

オバマ大統領が4月5日に行った演説を聴くと、米国が本当にCTBTを批准する可能性が出てきたと私は考える。これは、とりわけ、米ロ間での戦略兵器削減新条約と組み合わせることで、重要な前進となるだろう。 

その後に、核クラブの他のメンバー――公式メンバー、非公式メンバーを含めてだが――が、少なくとも核兵器製造の凍結を宣言し、その制限と削減に関する交渉を始める用意があることを明らかにすべきであろう。核兵器の最大の保有国が本当にその削減を始めたら、その他諸国は、それを静観したり、国際的管理から自らの核兵器を隠し通したりすることは難しくなる。 

それなしでは共通の安全保障が達成できない「信頼」というものを我々が持とうとするのならば、我々はいまこそ核兵器を問題視しなくてはならないだろう。(原文へ

INPS Japan 

※ミハイル・ゴルバチョフは、1985年から91年までソ連の最高指導者。世界政治フォーラム会長。

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世界政治フォーラムを取材

|環境|UAE政府、中東最大の太陽エネルギー施設の建設を計画中

【ドバイWAM】

アリ・ビン・アル・オウェイスUAEエネルギー省電力局長は、「政府は地域最大の太陽エネルギー製造施設の建設を計画している」と語った。 

アル・オウェイス局長は、昨日シティセンターホテルで開催された「再生可能エネルギーの見通し」に関するエネルギー省主催のワークショップで発言し、アブダビに建設中のマスダールシティ(二酸化炭素排出ゼロをめざす2015年完成予定の環境都)を例に挙げながら「政府は将来のエネルギー需要を満たすため、エネルギー源の多様化に取り組んでいる。」と語った。 

アル・オウェイス局長はまた、フジャイラ首長国における66メガワット級の風力発電可能性調査が完了したと付け加えた。

 同局長はさらに、アブダビ石油公社、一部の電力・水道公社、市町村、ドバイ道路・運輸公社、首長国電話公社等、公的機関で限定的に太陽エネルギーの利用を進めていることを披露し、「UAE政府のこの分野への投資は向う10年で数十億ドルにのぼるだろう」と語った。 

このワークショップには再生可能エネルギー分野の専門家約80名が出席した。 

地域最大の太陽エネルギー施設の建設計画はUAE政府が世界初となる「グリーン建築法」の採択を意図している旨を発表して間もなく公表された。UAE政府は持続可能な建築環境を実現する先駆者を目指しており、2008年初頭からの新規プロジェクトに対してグリーン建築技法の導入を開始している。 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

|ネパール|民主主義からデマゴギーへ(クンダ・ディキシット『ネパーリ・タイムズ』の編集長)

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【IPSコラム=クンダ・ディキシット

手ぶれしたアマチュアビデオは、ネパールの毛沢東派リーダーが、7000人のゲリラしかいないのに、国連を騙して3万5000人の軍勢がいると思い込ませたことを自慢している映像を捉えていた。彼はこの中で、民主主義と和平プロセスへのコミットメントについて皆に嘘をついてきたこと、そして彼の本当の目標は軍隊と国家の完全支配であることを認めている。

これらはすべて、毛沢東主義革命の指導者が言うべき、至極当然のことであった。しかし、これはプシュパ・カマル・ダハル(戦名は「プラチャンダ」)が昨年、和平協定に署名した後、首相に選出される前に軍隊に向かって語った言葉である。

このテープは、プラチャンダが5月4日に陸軍大将の解任に失敗して首相を辞任した後、ネパールのテレビ局で放送された。毛派のリーダーが他の政党や国際社会をいかに欺いたかを自慢している姿が暴露されたことで、他の政党が彼の意図を信頼し、彼を新しい連立政権に加えることは困難になったのである。

昨年の選挙での毛沢東の勝利は民主主義の勝利を意味し、ネパールは、暴力革命を起こした集団が銃弾ではなく投票によって政権を獲得した、紛争解決の成功モデルとして歓迎された。しかし、それはあまりにも楽観的な見方だったようだ。 

テープの中で、プラチャンダは、すべては手の込んだ策略であり、革命を完成させ、全権力を握るための戦術であったと語っている。「軍隊を支配した後は、何でもできる。」のだ。

そして、プラチャンダは、陸軍大将のルックマングド・カタワル将軍をクビにして、自分たちが育ててきた副司令官と交代させることによって、まさにそれを実現しようとしたのである。カタワルは、ネパール軍に毛沢東派ゲリラを入れることに断固反対していた。教化された政治的幹部が軍のプロ意識を破壊すると言っていたからだ。プラチャンダは、カタワルが引退する2ヶ月前に、とにかく退役を命じた。毛派の意図は、ネパールの10年にわたる反乱で軍事的に倒すことができなかった軍隊を、こっそりと引き継ぐことであることは明らかであった。

軍が真っ二つに割れて収拾がつかなくなったとき、ランバラン・ヤダヴ大統領が介入し、カタワルの復職を要請した。プラチャンダは、面目を保つため、そして、自分の支持者の間で道徳的優位に立つために辞任した。

プラチャンダの下心に関する暴露は、毛派と他の政党の間のギャップを広げ、新政府の樹立を困難にしている。彼らは5月9日の連合結成の期限に間に合わず、ネパールが新政府を樹立するまでにしばらく時間がかかりそうだ。

ネパールにはこの遅れは許されない。選挙で選ばれた代表者は、来年4月までに連邦共和制の新憲法を起草しなければならないが、このプロセスはすでに遅れている。国連が監督するキャンプにいる数千人の毛派ゲリラは、国連の任務が終了する7月までに統合、リハビリ、動員解除されなければならない。今後、どの政党が政権を取るにせよ、その仕事は大変なものだ。

和平プロセスもさることながら、新政府は開発活動を活発化させる必要がある。この9カ月間、毛派主導の政府は政治に執着し、法秩序を悪化させ、開発活動を停滞させた。民衆が再び立ち上がらないのは、カトマンズのどの政府にもあまり期待をしてこなかったからである。

一方、毛派は青年共産主義者同盟から戦闘的な幹部を動員して、大統領に対する街頭抗議行動を起こし、他の政党の支持者を恐怖に陥れている。彼らは大統領の動きを支持する者に対して「物理的な攻撃」をすると脅し、インドがネパールの内政に干渉していると非難して民族主義的熱狂を煽ろうとしているのである。

2006年以来ネパールの和平プロセスに舵を切ったインド政府は、プラチャンダに陸軍長官を解任しないよう圧力をかけていた。インド陸軍とネパール陸軍は密接な関係にあり、インド軍には6万人のグルカ兵が所属している。インドの治安部隊はインド東部6州で自国の毛派ゲリラとの戦いにも従事しており、隣に全体主義の毛派ネパールがあることを望んでいないのである。

選挙で政権を取った後、毛派が武力、脅迫、威嚇の手段に訴える必要はなかった。実際、政権を取った後、彼らはさらに大きないじめっ子になってしまった。統治しようとする代わりに、支配を拡大するために貴重な時間を浪費してきた。彼らは、官僚、司法、軍隊、メディアを組織的に弱体化させようとしている。

大統領が軍隊を統制しようとする彼らの試みを阻止すると、毛派は憲法上の大統領という制度そのものを攻撃し始め、今や国会を麻痺させた。全体主義的な野心を隠そうともせず、自前の軍隊を持つ政党が、今になって軍隊に対する「文民優位」を訴えているのは皮肉なことだと多くの人が感じている。

ネパールのメディアと民主化運動家は、過去に絶対王政や独裁政権と闘ってきた多くの経験を持っている。問題は、民主的に選ばれた指導者が、政権を獲得するのに役立ったまさにその制度の解体を進めたときに生じる。ネパールの新たな挑戦は、選ばれたデマゴーグと戦うことである。(原文へ
 
翻訳=IPS Japan 

*クンダ・ディキシット氏は、『ネパーリ・タイムズ』の編集長・発行人で、元BBCラジオ国連特派員、元インタープレスサービスアジア・太平洋総局長。

|軍縮|NGO諸団体、核兵器に関する国際司法裁判所の意見を求める

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国際的な非政府組織(NGOs)の連盟が国際司法裁判所(ICJ)に対して核兵器の合法性と使用に関する助言を求めている。このような求めは13年ぶり2度目のことである。 

元ICJ判事で国際反核法律家協会(IALANA)会長のクリストファー・ウィラマントリ氏は、「ICJ判事が全員一致で『核兵器は全ての文明とこの惑星の全ての生態系を破壊する潜在能力を持っている』と宣言してから既に10年以上が経過した。」と語った。 

オランダのハーグに拠点を置くICJは、国際連合の主要な司法機関である。15名の判事の任期は9年で国連総会と安全保障理事会によって選出されている。

 核兵器の使用・威嚇は一般的に国際法に違反するとのICJ勧告にも関わらず、核兵器開発を継続し既存の核兵器を維持し続けようとする動きに歯止めがかかっていないのが現状である。 

核不拡散条約(NPT)で核兵器保有が認められているのは米国、英国、フランス、中国、ロシアの5カ国だが、インド、パキスタン、イスラエルが新たに核兵器保有疑惑国として浮上し、さらにイラン、北朝鮮がその後に続こうとしている。 

ICJは1996年7月に出した勧告的意見の中で各国政府に対し、「厳格かつ効果的な国際的管理のもと、あらゆる分野にわたる核軍縮につながる交渉を誠実におこない完了させる義務が存在する」と述べている。 

今回ICJに対して新たな勧告的意見を求めている団体には、核政策に関する法律家委員会(LCNP)と核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の支援を受けているIALANAやハーバードロースクール国際人権クリニックが含まれている。 

「その後核軍縮に向けた具体的な進展がなくICJ見解にある『各国に課された誠意ある交渉義務』の解釈を巡って論争が絶えない今日の現状を考えれば、改めてICJから核軍縮に関するガイドラインを得て(核軍縮に向けた各国の)法的順守義務を明らかにすべき時がきている。」とNGOグループが提出したメモランダムに記されている。 

ICJの勧告的意見を求めようとするこのようなNGOによる提唱が実現するためには、なお192カ国が加盟している国連総会において同様の決議が採択されなければならない。1996年の核兵器の使用・威嚇の合法性に関するICJの勧告的意見は、まさに国連総会における決議案が通ったことで実現をみた。 

ジョン・バローズLCNP事務局長はIPSの取材に対し、「ICJが1996年に出した最初の勧告的意見は、一般に考えられているより遥かに影響力のあるものだった。」と語った。 

NPT第6条規定によって各国には核兵器の全面的な廃棄を実現する交渉を誠実に行い、妥結する責務が存在するとしたICJ判事全員一致の見解は、国際社会に幅広く受け入れられている。 

「すなわち、各国には交渉を通じて最善を尽くす義務にとどまらず、交渉を通じて核兵器廃絶を成し遂げる義務があるのです。」とバローズ事務局長は付け加えた。 

国連年次総会の場でも、ICJの勧告的意見のフォローアップとして、核廃絶実現を責務とするICJ見解を歓迎する別条項についての決議が行われてきた。これらの決議では、インド、パキスタンを含む殆どの国々が賛成したが、米国、ロシア、イスラエルの3カ国のみが反対している。 

NGO2団体は、ICJによる2回目の勧告的意見を求めるメモランダムの中で、国際社会が核廃絶についての見解を異にし具体的な行動を起こせない現状に鑑み、核廃絶を実現させる責務を果たすために各国がとるべき行動に関する明快なガイドラインが求められていると述べている。 

ICJが1996年の勧告的意見の中で言及した全面的な核廃絶の約束は、政治的なコミットメントであると同時に法的拘束力を持つものである。 

核不拡散を超えて 

 「従って、ICJは国連の主要司法機関として、今日行われている各国の『責務』を巡る論争に終止符を打つべく法的なガイダンスを提供し、(核廃絶という)約束を現実のものとするために必要な見識を国際社会に示す必要がある。」とメモランダムには記されている。 

ウィラマントリ氏は、「国際機関並びに政府トップレベルによる最近の発言が核兵器の完全廃棄はもはや架空の話ではなく実現可能な目標であるとの希望をもたらした。」と指摘した。 

それらの発言の中には、潘基文国連事務総長が2008年10月に行った核軍縮に向けた5つの提案や、オバマ大統領が今年4月にプラハで行った「アメリカは核兵器のない平和で安全な世界を希求する。」と表明した演説が含まれる。 

「核兵器のない世界という目標が実現可能となった今日の情勢を考えれば、ICJの示す(核廃絶への法的)道筋を厳密に実行に移していくことがますます必須の課題となってきます。2010年のNPT運用検討会議(その第3回準備委員会が2週間の日程で今週金曜日まで国連で開催中)はこの目的を追求する絶好の機会となるでしょう。」とウィラマントリ氏は付け加えた。 

バローズ氏はIPSに対し、「1996年のICJ見解は、米国の士官養成学校であるウエストポイントにおいて、武力紛争法の講座の一部として取り上げられるなど、国際社会において、一般及び専門分野の議論に幅広く浸透してきた。」と語った。 

IALANA及びハーバードロースクール国際人権クリニックは、国連総会がICJに対して軍縮義務の法的意味合いについて明確な見解を求めるよう提言している。 

バローズ氏は、ICJの見解が求められている問題について、「軍縮に向けた誠実な取り組み義務とは、各国が期限を設けて完全なる核廃絶に向けた多国間交渉を即時開始することを意味するか否かという点が含まれている。」と語った。 

これはNPT加盟国の大多数の政府が採用している見解であるが、一部の核兵器保有国はこの見解を拒否する立場をとっている。 

同様にICJの見解が求められている問題に「核兵器、運搬手段及びそれを支える支援技術体系を長期的な観点から保持、管理、改良を加えていくこと、及びそのような計画をたてていくことが、軍縮に向けた誠実な取り組み義務を欠くことにあたるか否か」という問いかけがある。 

バローズ氏は、「今日、核兵器保有国は、数十年先を視野に入れた核兵器の維持及び管理計画に莫大な資金を投資しており、このような動きは核軍縮を達成しようとする意図に決して沿ったものとは思えない。しかしICJはこの問題について法的な側面からコメントすることができる。」と語った。 

そしていま一つの問題に「軍縮に向けた誠実な取り組み義務は全ての国々、つまりインドやパキスタンといったNPT未加盟国に対しても適用されるか否か」という問いかけがある。 

1996年のICJ見解ではこの問題に対して明確な判断を下していない。ただし当時のモハメッド・ベジャウイICJ所長を含む数名の判事は、別の意見書の中で問題の義務は全ての国々に適用されるとの見解を述べている。 

バローズ氏は「ICJはこの重要な問題についても明確化することができる。」と語った。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩