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│レバノン│キリスト教系リーダーがシリア訪問

【ベイルートIPS=モナ・アラミ】

レバノンのキリスト教系リーダーのひとり、ミシェル・アウン将軍がシリアを訪問した。アウン将軍の属する自由愛国者運動(FPM)とシリア政府は長年対立しており、両者の和解に向けた第一歩となった。 

アウン将軍は、1988年、当時のジェマイケル大統領から暫定内閣の首相に任命された。当時起こっていたレバノン内戦において、シリアの勢力と敢然と闘い、レバノン国民、とりわけキリスト教系市民からの人気を集めた。 

15年にわたる内戦はシリアの勝利で1990年に終わり、アウン将軍は亡命した。将軍がレバノンに戻ってきたのは、レバノンのハリリ首相が暗殺されて1ヵ月後の2005年5月のことであった。暗殺事件の陰にはシリア政府がいたと言われるが、逆にこの事件によってシリアのレバノンに対する29年間にわたる支配が終焉を迎えることになった。

 反シリア・親西側の「3月14日グループ」は、アウン将軍のシリア訪問に激しく反発している。同グループは、「キリスト者レバノン勢力」「カタエ運動」「スンニ未来運動」「ドルゥーズ進歩社会主義党」から構成され、レバノン議会の多数を支配している。 

カタエ運動は、アウン将軍の訪問はシリア・イラン同盟の強化に資するものだとの見方を示した。また、FPMはシリアの後ろ盾を受けるヒズボラとも近い関係にある。 

政治評論家のボー・モーンセフ氏は、シリアとの関係において新しい1ページを切り開こうとするアウン将軍の意欲は評価しつつも、シリアがレバノンに対してほとんど譲歩らしい譲歩がない状況の中では、タイミングが悪すぎるとの見方を示した。シリア政府は、行方不明のレバノン人数百人に関する情報も開示していないし、シリア・レバノン間の国境紛争の解決に向けて動く気配もない。ただし、アウン将軍の訪シリアの際に、シリア国内で裁判を待つレバノン人収容者50人を恩赦すると約束している。 

レバノンのキリスト教系リーダーのシリア訪問について報告する。 (原文へ
 
翻訳/サマリ=IPS Japan 

|パキスタン|相次ぐ自爆テロに心病む市民

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【ペシャワールIPS=アシュファク・ユスフザイ】

シェルパオ前内相の2度目の暗殺を企て48人の死者と200人近い負傷者を出した12月21日のパキスタン北西辺境州(NWFPでのモスク自爆テロを含め、パキスタンは今年、親タリバン勢力や外国の過激派によるかつてない数の自爆テロに見舞われた。最悪のものは、10月ベナジール・ブット元首相の帰国を祝うパレードを狙った自爆テロである。このカラチでの自爆テロでは、およそ130人が死亡、500人が負傷した。 

暴力の激化で、パキスタンの部族地域とスワット渓谷では副次的な悪影響が見られている。

 NWFPの州都ペシャワールの精神科医アムジャド・アリ・シャー医師は「2002年から紛争地帯では(親タリバン派による)暴力の激化とそれに対する軍の作戦で、男も女も子どもも、皆が深刻な心的外傷後障害に苦しんでいる」と話す。 

病院の記録を調べたところ、精神病患者の数は2005年の706人から2007年1~11月には1001人に増加した。 

ペシャワールのカイバー大学付属病院の精神分析医クルシード・カーン医師は、学校は無期限で閉鎖され、通りをうろつく子どもたちは著しい暴力にさらされていると訴える。人々は、軍、政治家、タリバン、米国を非難する。誰が友で誰が敵なのか、皆が混乱している」 

厳格な社交儀礼や階層制を行動の指針としてかつては恐れを知らなかった人々も、今では皆が不安と不信に苦しんでいる。 

 こうした苦しみは、国境に配備されたパキスタンの自警団も同様である。親タリバン派武装勢力と戦う兵士たちは、心理的障害を病院に訴えている。彼らは、誰が敵で誰が味方なのか、混乱している。 

NWFPのバンヌに拠を置くアスラム・カーン医師によれば、ワジリスタン州では2人に1人がうつ病に苦しんでいる。病院に連れてこられた多くの女性や子どもたちが血まみれの遺体の夢を繰り返し見ると訴え、政府軍と過激派の戦闘で家を失った家族は極貧に喘いでいるという。 

民主主義は回復された。しかし、過激派と軍の板挟みになっているパキスタンの一般市民が「対テロ戦争」の代償を払うことになる。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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|パキスタン|無法のタリバン、メディアを自由に操る

いまだに消えない鳥インフルエンザ

【バンコクIPS=マルワン・マカン-マルカール】

ここ数週間、アジアにおいてふたたび鳥インフルエンザが流行する兆しが出てきている。専門家らの試算によれば、鳥インフルエンザが世界的に大流行すれば1億8000万人もの死者が出る可能性があるという。これは、5000万人が死亡した1918年のスペインかぜの事例を基に算出されている。 

世界保健機構(WHO)によると、2003年以降、世界で鳥インフルエンザに感染した391人のうち、247人が死亡している。感染者139人中113人が死亡したインドネシアと106人中52人が死亡したベトナムが世界のトップ2である。

 今冬、ふたたび鳥インフルエンザが広がりつつある。香港では、近代的な安全体制を敷いていた飼育場において感染が発覚し、近隣の飼育場を含めて8万羽近い鶏が処分された。また、中国東部の江蘇省においても35万羽以上が処理された。 

カンボジアでも首都プノンペン南方でやはり家畜が処分されたほか、カンダル州で鳥を販売したり輸送したりすることを30日間禁止する措置が採られている。 

だが、ほとんどの国において、2003年の流行の経験から、鳥インフルエンザの事例が発生した場合の通報態勢が以前よりも充実していることが救いだ、と専門家らは話す。 

また、WHO、世界銀行、国連食糧農業機関(FAO)などの調査によると、2005年12月以降、それまでに鳥インフルエンザの発生が確認された63ヶ国のうち50ヶ国において、鳥インフルエンザを撲滅することに成功したという。 

アジアにおける鳥インフルエンザの問題について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|アルゼンチン|人権犯罪裁判の進展は遅く…

【ブエノスアイレスIPS=マルセラ・ヴァレンテ】

アルゼンチン最高裁判所の恩赦法廃止決定により、キルチネル政権(2003-2007年)は、軍の人権犯罪に対する裁判を再開したが、その速度は遅く、係争中の案件は現在800件に及ぶ。 

12月18日、モンテネロス・ゲリラ5人を拉致した罪で軍事政権の元メンバーのクリスティノ・ニコライデス(82)に懲役25年の刑が言い渡された。 

また、5人の軍高官、警察署長、民間諜報員に対しても、海外亡命者誘拐の罪で懲役20-25年の刑が宣告された。元軍人に対する判決は今回が初。しかし、警察官、沿岸警備隊員に対する4件の裁判では、重要証人2人が誘拐、殺害されている。

 アムネスティ・インターナショナル・アルゼンチンを始めとする人権擁護団体は、軍事独裁時代に約3万人が行方知らずになった同国には、刑務所の混雑、警察の暴力、不正、先住民族の差別といったキルチネル政権が見過ごして来た様々な人権問題が存在すると主張する。 

連邦政府にはこれら問題を扱う省庁があるが余り熱心ではなく、フェルナンデス新大統領は12月10日の就任演説でこれらの問題に言及しなかった。 

ブエノスアイレス州の拷問反対委員会によると、同州の刑務所では昨年だけで6千件の暴力事件が発生。毎月8人の受刑者が殺されたり重症を負ったりしているという。 

フェルナンデス新大統領は裁判の迅速化を約束したが、人権擁護団体「 Madres de Plazade Mayo Linea Fundadora 」のコルティニャス代表は、高齢の犯罪者が死亡する前に人権犯罪の責任を取らせること、軍公文書を公開することを要求している。 

キルチネル政権は、軍事独裁政権の拷問センターとなった海軍工兵学校を博物館にすること、軍事学校の写真ギャラリーから独裁者ヴィデラおよびビニョーネの写真を外すことを決定。最後の仕事の1つは、2006年に国連が採択した「強制的失踪防止条約」の批准であった。アルゼンチン独裁政権の人権犯罪裁判について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|米国|「腐ったリンゴ」は木の近くに落ちた

【ニューヨークIPS=ウィリアム・フィッシャー】

「対テロ戦争」拘束者に対する厳しい尋問を採用したのはブッシュ政権の高官であるとする超党派の議会報告を受け、アムネスティ・インターナショナルは独立の調査委員会設立を求める要望書を提出した。 

上院軍事委員会が先週発表した報告書は、グアンタナモおよびアブグレイブにおける厳しい尋問の責任は、拷問ともいえる過激なテクニックに関する情報の提供を要請し、その正当性を裏付けるため法を修正し、実施を許可したブッシュ政権の高官にあると結論した。ラムズフェルド前国防長官は、それらの行為は一部の「腐ったリンゴ」によるものと主張していたが、上院報告は、拘束者に対する虐待あるいは拷問の第1責任者はラムズフェルド氏であるとした。

同報告書によれば、ライス国務長官は9月に、2002年からテロ容疑者に対する水責め(ウォーター・ボーディングと呼ばれる)実施について話し合う高官会議を2002年から開始した旨初めて明かしたという。実際、ブッシュ大統領は昨年4月、ABCの記者に対し2007年2月7日に国家安全保障会議閣僚級委員会を招集し、CIAが拘束者に対し使用可能な具体的尋問テクニックについて討議したと語っている。同委員会のメンバーにはチェイニー副大統領、ライス国家安全保障担当補佐官、テネット元CIA長官、アシュクロフト元司法長官などが含まれていた。 

報告書発表の直後、アムネスティ・インターナショナルは詳細なグアンタナモ収容所閉鎖プランを提出するとともに、9/11委員会と同様の独立委員会を設立し囚人虐待に関する完全調査を行うよう提案した。アムネスティUSAのラリー・コックス事務局長は、「オバマ次期大統領が約束したグアンタナモ閉鎖は第1歩にすぎない。国家安全保障に名を借りた虐待が繰り返されることのないよう、ブッシュ政権の政策を白日の元にさらけ出す必要がある」と語っている。 

アムネスティは、(1)政権準備期間中に委員会設立の具体的方法や司法長官室付きとするか独立の調査官を指名するかなどの検討を行い、就任から100日以内に作業を完了させること、(2)調査にはCIAおよび他の機関の行動、拘束者の第3国移送などを含むこと、(3)機密書類へのアクセス確保、証人喚問、犯罪調査としての位置づけなどを要求している。また、次期大統領に対し政権発足から18か月以内に進展状況の報告をすること、2010年までに最終報告書を提出することを要求した。 

ロバート・ゲーツ現国防長官(次期政権でも留任)もペンタゴンに対してグアンタナモ閉鎖計画作成に着手するよう命じたとされるが、この他にも、ヒューマン・ライツ・ファースト(HRF)は数か月前にグアンタナモ閉鎖計画を準備。アメリカ自由人権協会(ACLU)、ヒューマンライツ・ウォッチも以前からグアンタナモ閉鎖を主張している。 

アムネスティ・インターナショナルが次期政権に提出したグアンタナモ閉鎖計画およびテロ容疑者虐待の真相究明計画について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|キューバ|「私は男であるが、涙を出すこともある。」

【ハバナIPS=ダリア・アコスタ】

中南米の男性は、本当の男とは、強靭である、出世する、分別をわきまえている、という価値観のもとに育てられる。キューバも例外でないが、アレハンドロ・ロペス氏は、2007年12月、「男らしさとジェンダー暴力についての覚醒ワークショップ」(Masculinity and Gender Violence Awareness Workshop)に参加してから、家庭や職場での人への接し方が変わった。「みんなに言って回りたい。涙を流しても、男らしくないわけじゃないと。」ロペス氏は、感情を押し殺す必要のないことに気づいた。 

偏った男らしさの価値観は、暴力的、権威主義的、競争的な行動につながる。1990年代の調査によると、殺人事件の女性の犠牲者は、47%が夫か恋人に殺害されている。最近のラスヴィリャス中央大学の研究でも、侮蔑、怒号、権利の抑圧、脅迫、過重労働、排斥など家庭内暴力が浮き彫りになっている。

 メキシコの心理学学術誌Psicología para América Latinaに掲載された研究によると、暴力的な行動は一般にコミュニケーション能力の乏しさに起因する。ロペス氏が参加したワークショップは、NGO(Oscar Arnulfo Romero Reflection and Solidarity Group:OAR)がジェンダー暴力に対抗するプロジェクトの締めくくりとして行ったものである。ロペス氏は職場の人々に話をし、ジェンダー関係の改善と暴力追放をめざすアクショングループを作った。女性に侮蔑的な日常の言葉使いや行動をチェックし、意志決定に女性の参加を促す。「最初は笑うだけだった人たちも、よく話をすることによって怒りをコントロールできるようになる。私自身、攻撃的でなくなってから、何でも話すことができるようになり、必要なら妥協することを学んだので、前より能率的に仕事ができるようになった。」とロペス氏は語る。 

OARのヒダルゴ氏は、アクショングループに参加する男性が訓練を受けて、他の男性に働きかけることにより、コミュニティ全体の意識向上を図ることを企てている。担当者は、「やっとキューバで、暴力の問題が、公的機関の関心対象となったが、人々の感情や態度を一夜にして変えることはできない。」とIPS記者に語る。OARは数か所の公的機関と協力して、プロジェクト(“Doves Project”)を継続していく。 

男らしさのステレオタイプを打ち破ることで、暴力追放を図るキューバでの取り組みを報告する。(原文へ) 

翻訳者/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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|ボリビア|伝統と現代が融合した先住民交易

【エル・アルト(ボリビア)IPS】

ボリビア西部・ペルー南部・チリ北部に暮らすボリビアの先住民、アイマラ(Aymara)族は元来、物々交換による商いで生計を立てていた。現在も、農村部にはその伝統が残っている。

しかし、その一方で首都ラパス近郊のエル・アルト地区では工芸品などを売る露店がずらりと軒を連ねている。アイマラ族のLeonardo Esteban(50)さんは長年の間、魚と交換に野菜や穀物を手に入れる一方で、農村部のマーケットにも出向き様々な工芸品を売っている。

 2001年の統計によると、ボリビアの総人口920万人のうち、アイマラ族の人口はケチュア族(155万人)に次ぎ2番目に多い128万人。

昔から彼ら先住民の生活に欠かせないのが伝統的手法である物々交換だった。しかし、スペイン人による征服後、先住民らの活動を規制する法律によりこのような交易手法は一時ストップし、伝統的共同体の設立を禁止する動きが活発になった。

その後、高原地帯に暮らすアイマラ族はコカ葉の生産に従事し、現在はその輸出先をアルゼンチンにまで広げている。このような遠距離貿易は大きな役割を果たしてきたが、現在では資本主義経済を補足するものに過ぎない。アイマラ族が資本経済に上手く溶け込めたのは、商品の需要に適応できたためと考えられる。

NGOのSenda Nueva(New Path)のNorah Poma氏は「アイマラ族に境界はない」とIPSとの取材に答えた。最近、ブラジルのブラジレイアの町では伝統衣装を身に着けたアイマラ族の女性が木材や綿織物から傘を作る作業を行っている。アイマラ族は、まさに自身の適所を開拓しているのである。ボリビアの先住民アイマラ族の貿易について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|フィリピン|報道の自由を脅かすジャーナリスト殺害

【マニラIPS=プライム・サミエント】

ジャーナリストのマーレーン・エスペラトが居間で射殺されてから3年。彼女はいまだフィリピン・ジャーナリストの窮状のシンボルとなっている。 

エスペラトがジャーナリストになったのは偶然である。彼女は農務省で働いている時、高官の汚職に気づき、それがきっかけとなって南部スルタン・クダラトの新聞コラムニスト、ラジオ・キャスターへと転身した。彼女は、中央ミンダナオの農務省における不正行為を暴き続けていたが、2005年3月、こどもたちの目の前で不審者に射殺されてしまった。

 メディアの自由と責任センター(CMFR)は今月、アロヨ大統領就任の2001年以来62人のジャーナリストが殺害されたと報告した。ニューヨークを拠とするジャーナリスト保護委員会は、フィリピンはジャーナリストにとって世界で最も危険な国の1つであると宣言している。また、フィリピン・ジャーナリストのための自由基金(FFFJ)は先週、今年殺害されたジャーナリストの数を見ても、批判的な報道、コメントに堪えられない人々がジャーナリストの口を塞ぎ報道の自由や国内の民主対話を妨害する傾向が未だ強いことを示しているとコメントしている。 

11月のラジオ局dxRS Radyo Natinのアレシオ・パドリガオ氏殺害、12月のレオ・ミラ氏殺害を含め、今年これまでに8人のジャーナリストが殺されている。 

CMFRのメリンダ・クィントス・デ・ジザス事務局長は、「これはジャーリストへの攻撃であり、報道の自由への攻撃だ。脆弱な司法/裁判システム、警察捜査のいい加減さ、処罰の不徹底などが原因にあげられる。我々は皆でメディアに対する圧力や脅迫と闘う方法を考えるべきだ」と語る。 

しかし政府の保護は期待できない。ある弁護士は、警察、検察は仕事量に比して給与が低くそこまで手は回らないと語っており、ジャーナリストは自ら身体の安全に注意する他ないと語っている。 

FFFJのキンサヤス法律顧問は、「報道の自由は、情報取得権利、情報へのアクセス確保、情報の伝播権利、報道後の身分の保障の4つの要素で成り立っている。ところがフィリピンでは、名誉誹謗記事には悪意が隠れているとして、無罪証明の責任は被告であるジャーナリスト側にある。また、巨大政治一家は、特に地方においてジャーナリストの脅迫や殺害によって不正暴露を食い止めようとする傾向がある」と語っている。 

ジャーナリストにとって最も危険な国フィリピンのメディア弾圧について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩 

│カリブ海地域│世界的不況で沈む観光産業

【ポートオブスペインIPS=ピーター・リチャーズ】

セントルシアに住むマリア・ハーベイさんは、冬のボーナスを楽しみにしていた。しかし、彼女がボーナスの代わりに受け取ったのは、彼女をレイオフにすることを告げる会社からの通告書であった。マリアさんは、世界的な経済不況の影響で苦しむカリブ海地域の観光業に従事している。 

カリブ海諸国は観光産業に大きく依存している。カリブ観光業協会によると、昨年の観光客は2300万人で、2002年から19.4%増であるという。昨年の売り上げは570億ドルで、2006年の254億ドルから急増している。

 しかし、経済不況は各国の観光産業を襲っている。バハマでは、あるホテルが800人の従業員を解雇した。ヒューバート・イングラム首相は、来年はじめも見通しは暗いと述べた。 

セントルシアの観光当局は、最大4000人の職が失われる可能性に言及している。チャスタネット観光大臣は、今週にも政府のタスクフォースが雇用問題に関する報告書を出すと述べた。 

ジャマイカでは、政府が、ホテルによる一般消費税の減税やジャマイカ開発銀行による観光業界への特別融資などの対策を発表した。 

英国の税制の変更もカリブの観光業界に影響を与えそうだ。というのも、航空会社にではなく飛行機の乗客自体に課税する計画を英国政府が発表したからである。欧州からカリブ海地域へは多くの長距離便が飛んでおり、観光業には打撃となる。 

他方で、国際労働機関(ILO)カリブ支部は、経済不況下にあってもまともな労働(decent work)の原則を守らせるように、各国政府に呼びかけている。 

カリブ海地域の観光産業の状況について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 

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|エジプト|ピラミッドは不況の上を行く

|米国-イラン|中東に関して米国とイランは交渉できるか

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【テヘランIPS=ガレス・ポーター】

オバマ次期政権ではイランとの交渉による合意が可能だろうか。イラン高官とシンクタンクの専門家の答えは肯定的だが含みを残す。イランは米国との合意を熱望しているが、両国の考える合意の中身には差がある。米国側はウラン濃縮停止を求め、イラン側は外交関係の根本的変化を求めている。さらに二国間の関係正常化には中東に関する新たな理解が不可欠のようだ。 

イラン外務省のシンクタンク、政治国際研究所・ペルシャ湾中東センターのデフガニ代表は、「双方の理解の欠如が問題である」という。一方でイラン高官は、アルカイダやイスラムテロリストの対策については米国とイランの利害が共通し、この分野で協力できると考えている。そのためにはイラクとアフガニスタンに関する合意が必要となるだろう。 

デフガニ氏はそうした協力には2011年までにイラクから米軍が撤退するかどうかが絡んでくるという。オバマ次期大統領は撤退を約束し、米軍撤退にはイラク世論とイラク政府内の親イランの派閥、つまりシーア派の圧力が影響する。だが現在のイラクの治安部隊や軍隊は米国によって設立され、親イランではない。イラクに駐留する米軍はイランへのけん制の意味もある。

 アフガニスタンに関してイランは米軍の増強よりもスンニ派の過激派の台頭を憂慮している。イランはタリバンとの和平交渉に反対しており、米国もこの点で一致しているとデフガニ氏はいう。 

イランの核問題以外でもっとも政治的に慎重を期する問題は、イランとヒズボラなど反イスラエル組織との関係になる。2003年3月にイランはひそかにアラブ連盟の和平調停を支持する提案を行い、イランがイスラエルを承認する可能性もあった。米国とイランが合意すれば中東問題の解決につながる。 

米国問題に関するイラン外務省の高官であるレザイー氏は「障害となっているのは利害ではなくイランの中東地域における影響力に対する米国の懸念である」と語った。「この悪循環を断つには米国が中東におけるイランとの共存を認めることであり、遅かれ早かれ米国はそうせざるを得ないだろう」 

米国安全保障政策専門の歴史家でジャーナリストのガレス・ポーターの12日間のテヘラン取材によるイランと米国の新政権との関係について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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