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│タジキスタン│古きよきソビエト時代を懐かしむ

【パミール山脈IPS=ゾルタン・ドゥジジン】

ソ連の崩壊によって、タジキスタン東部は忘れされられた土地になった。ソ連のなかでもっとも貧しい共和国から、世界でもっとも貧しい国のひとつになってしまったのである。独立国家になったことで、国家所有の農場や灌漑施設、鉱山、交通網、エネルギー工場は失われ、人々はふたたび遊牧生活を余儀なくされている。 

東部のパミール高原があるゴルノ・バダクサン県は、国の半分の土地を占めているにもかかわらず、人口はわずか3%程度。 

パミール高原は、19世紀には「世界の屋根」と呼ばれていた。かつて、シルクロードを利用する商人たちが通過し、のちには、この地をめぐって地政学的な角逐を繰り広げるロシアと英国のスパイたちが通り過ぎていった。

 パミール高原を通っている唯一の道路は、1930年代初頭にソ連軍が建設したパミール・ハイウェイである。この道路は現在かなり老朽化が進み、使っているのは、アフガン北部からケシやヘロインを運ぶ業者ぐらい。なかには、かつてのシルクロードを「ケシ・ハイウェイ」と呼ぶ者もいるぐらいだ。 

半遊牧民生活をしているアジズさんは語る――「ソ連時代にはいろんな食べ物が店にあったし、燃料も安かったし、バスや道路の状況もよかった」。傍らでは、アジズさんの妻が、ヤクのミルクで作ったバターとヨーグルトをごく粗末な機械を回しながら作っていた。 

スターリンが好きだったってわけじゃない。でも、みんなソ連時代を懐かしんでるんだ。信仰の自由はなかったけど、食べ物と仕事はあった」。 

遊牧民の生活が営めるのは夏だけだ。寒い冬には、近隣の街に退避して暮らす。しかし、この間買うことができるのは、法外な値段で売っている輸入のクッキー、パン、チョコレートバー、魚や肉の缶詰(たいていは賞味期限切れ)ぐらいだ。 

エネルギー不足も深刻である。そのために、運営できなくなる学校や病院も相次いでいる。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan 

|パキスタン|「タリバン掃討作戦は効果がでてきている」とUAE紙

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【ドバイWAM】

「内戦が続くパキスタン北西辺境州に130万人のパキスタン難民が帰還を果たしたことは、国軍による対タリバン軍事掃討作戦が効果を挙げている証拠である。」とアラブ首長国連邦(UAE)の主要日刊紙は、本日の論説で報じた。 
ドバイに本部を置く『ガルフ・ニュース(Gulf News)』紙は続けて「総数230万人にのぼる難民が来年の3月までに同地域へ帰還予定で、それによって近年で最大の国内難民を出した内戦に一区切りがつくこととなる。」 

「より重要なことは、国軍が治安を回復する中で難民の軍への信頼が回復されつつあることである。そうしたなかユースフ・ラザー・ギーラーニーパキスタン首相は、タリバン民兵に対する作戦は成功したと宣言した。」 

「タリバン勢力の軍事力及び影響力は、国軍による継続的な攻撃のみならず地域住民の抵抗に晒される中で徐々に弱まりつつある。」

 「パキスタン人タリバングループTTP(Tehrik-e-Taliban)の幹部スポークスマンであるマウルヴィ・オマールの逮捕はパキスタン政府にとって重要な前進となったほか、TTPリーダーのバイツッラー・メスード師死亡報道のあと、次席指導者のファキール・モハンマド氏が新指導者を名乗るなどTTP内部で対立が深まっているようである。また、タリバン民兵たちの集団投降も相次いでいる。」 

ガルフ・ニュース氏は論説の最後に「パキスタン政府は軍事面に留まらず良い統治(good governance)の面でも取り組みことで、これらの有利な状況を活かしていかなければならない。」と締めくくった。 

翻訳=戸田千鶴/IPS Japan浅霧勝浩

アフリカが世界最大の非核大陸となる

【カイロIDN-InDepth News=ファリード・マハディ】

アフリカは面積、人口においてアジアに次ぐ世界第二の大陸であるが、今や域内に約10億人が居住する53カ国からなる世界最大の非核大陸となった。 

このニュースは、イランの核開発疑惑の動向に目を奪われている殆どの主流メディアに注目されることはなかったが、世界最大級のウラニウム産出量を誇る地域の非核化に関する問題であり、重要な出来事である。 

事実、国際原子力機関(IAEA)とアフリカ連合(AU)は8月中旬、欧州及び中国資本の多国籍企業がアフリカにおいて合法及び非合法な手段でウラニウム採掘を盛んに行っているとの報道が飛び交う中、アフリカ非核地帯化条約(NWFZ:通称ペリンダバ条約)の発効を発表した。これにより、南半球の全地域が非核地帯となった。

 ペリンダバ条約の発効に向けた手順は、ブルンジが7月15日に28番目の批准国となったことで完了した。因みにこの条約の最初の批准国はアルジェリアとブルキナファソで、条約署名の2年後にあたる1998年に批准している。 

ペリンダバ条約は、核兵器の不拡散を検証するため、全ての締結国に対してIAEAとの「包括的保障措置協定」を締結することを義務付けている。これらの協定は核不拡散条約(NPT)に関連して締結が義務付けられている諸協定に相当するものである。 

また、同条約は締結国に対して「核物質及び核関連施設や機器を盗難や不正使用から防護するために、最高水準のセキュリティーを適用すること。また、非核地帯内の核施設に対する武力攻撃の禁止」を義務付けている。 


非核兵器地帯 

ペリンダバ条約の発効によってアフリカ大陸は正式に非核兵器地帯と宣言された。1995年6月にヨハネスブルクとペリンダバで草案が作成され、1996年4月11日にカイロで署名開放された(アフリカ諸国42カ国が調印。28か国の批准が発効要件とされた:IPSJ)。この条約の名称は南アフリカ共和国(南ア)プレトリアの西に位置するハートビースプールト・ダム近郊にあるペリンダバ原子力研究所に因んで付けられたものである。 

ペリンダバ原子力研究所は、南ア原子力公社が運営する同国の主要な核研究センターで、1970年代には南ア政府による核爆弾の開発と製造、それに続く備蓄の舞台となった場所である。 

モハメド・エルバラダイIAEA事務局長は、「アフリカ非核地帯は、ラテンアメリカ、カリブ海地域、東南アジア、南太平洋、中央アジアにおける非核地帯に準じる重要な地域レベルの信頼醸成、安全保障措置であり、核兵器のない世界に向けた我々の努力を後押しするものである。」と宣言した。 

またエルバラダイ氏は、「ペリンダバ条約が核科学技術を平和目的のために活用することを支持していることを歓迎し、そのような核技術の活用がアフリカ大陸の経済・社会開発に寄与すると確信している。」と語った。 

非核化への遠き道のり 

アフリカを非核地帯とする試みの起源は、1964年7月17日から21日にカイロで開催された当時のアフリカ統一機構(OAU)(2002年にアフリカ連合に発展改組:IPSJ)首脳会議に遡る。その際、加盟国首脳達はアフリカ非核地帯を設立することを決定した。 

カイロに集ったアフリカ各国の首脳達は、「国際連合主催の下で締結される国際合意を通じて核兵器の製造及び同技術を駆使する能力を取得しないことを約束する」用意があるとの宣言を行った。 

その際、アフリカ各国の首脳達は、自らの立場を「非核地帯が、核兵器の水平的拡散(非核国が核兵器開発に乗り出すことによって核保有国が増えること)及び垂直的拡散(核保有国が自分らの安全保障戦略で核兵器に対する依存度を高めながら核戦力の質的・量的増強を図ること)を防止する最も効果的な手段のひとつである」とした1975年12月11日の国連総会決議をはじめとする全ての関連合意に基づくものとした。 

アフリカ諸国の首脳達はまた、「核兵器のない世界構築という究極の目標達成に向けてあらゆる手段を講じる必要があり、全ての国々がその目標に向けて貢献する義務がある」との信念を強調した。 

彼らはまた、「アフリカの非核化は、核不拡散管理体制を強化し、核エネルギーの平和的利用における国際協力を促進するとともに、包括的かつ完全な軍縮に向けた歩みを促し、地域及び国際社会の平和と安全保障を向上させることと確信している」との声明を述べた。 

ペリンダバ条約の発表に際して、アフリカ諸国の首脳達は「非核地帯化条約がアフリカ諸国を核攻撃から守る」と確信している点を強調した。 

また同条約は、締結国に核廃棄物の投棄を禁じていることから、アフリカを放射線廃棄物やその他放射性物質による環境汚染から保護することになる。 

しかしながら、アフリカ諸国の首脳達は同時に、NPT第4条を厳格に順守していく意向を表明した。 

平和的利用が絶対条件 

NPT第4条は、「全ての締結国が等しく、核エネルギーを平和目的のために開発、研究、及び生成、活用する不可譲の権利を有している」ことを認めている。 

同条項はまた、締約国が原子力の平和的利用のため設備、資材並びに科学的及び技術的情報を最大限交換することを不可譲の権利として認めている。 

また、カイロに集ったアフリカ各国の首脳達は、アフリカ諸国の持続可能な社会経済開発のために、平和利用を目的とした核エネルギーの開発と実用的な適用を目的とした地域協力を推進していく決意である旨を強調した。 

豊富なウラニウム資源と核廃棄物 

アフリカは世界有数の豊富なウラニウム鉱床を有する地域である。多くの工業先進国がアフリカの鉱物資源一般に、特にウラニウム資源に深く依存している。例えばフランスの場合、国内58か所の原子力発電所を稼働し続けるため、ニジェールのウラニウム資源に完全に依存している。 

アフリカにおける他のウラニウム産出国は、アルジェリア、ボツワナ、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン、ガンビア、ギニア、マラウィ、モロッコ、ナミビア、タンザニア、ザンビアである。 

しかしながら、アフリカはそれと同時に、東南アジアと並んで世界最大の放射能性及び毒性廃棄物の投棄地域と報道されている。 

ソマリアは核廃棄物の主な投棄地域で、同国近海の海賊活動もこの不法活動に関連しているとの疑惑も報じられている。 

アジア、ラテンアメリカにも広がる非核化地帯 

事実、類似した非核化条約が南アメリカ(トラテロルコ条約)、南太平洋(ラトロンガ条約)、東南アジア(バンコク条約)及び南極(アトランティック条約)においても発効している。 

さらに中央アジアに非核兵器地帯を創設するセメイ条約(カザフスタンのセメイの旧名はセミパラチンスク:IPSJ)が、今年の3月21日に発効した。この条約にはカザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの五カ国が加盟している。 

セメイ条約(中央アジア非核地帯条約)は、中央アジアの旧ソ連加盟諸国で構成されたこの種のものとしては最初のものであり、北半球における最初の非核地帯である。また同条約には中央アジアならではの環境問題を取り扱った項目が含まれている。 

これら中央アジアの5カ国には、旧ソ連時代に核兵器関連施設が建設され、いずれの国も当時の核兵器製造や実験を起因とする深刻な環境被害に直面している。 

アフリカ非核地帯化条約と同様、中央アジア非核地帯条約も締結国による、域内における核爆発装置の開発、製造、貯蔵、取得、及び所有を禁止している。 

このように地域レベルで発効に漕ぎつけている非核化条約の動きは、核兵器の廃絶を目指して活動を展開している世界の市民社会にとっての一里塚となっている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事: 
|軍縮|エジプト、米国の「核の傘」を拒絶する

エジプト、米国の「核の傘」を拒絶する

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【カイロIDN-InDepth News=ファリード・マハディ】

今週開催された米国・エジプト首脳会談においては、中東をめぐる米国の「核の傘」という亡霊がつきまとった。5年ぶりとなるエジプトのホスニ・ムバラク大統領の訪米に向けた準備段階で、同大統領と側近の高官は、中東包括和平案の一部として米国政府が核攻撃から中東地域を守ることを提案しているとする疑惑を、きっぱりと否定していた。 

米国による「核の傘」の起源は米ソ冷戦時代に遡り、通常、日本、韓国、欧州の大半、トルコ、カナダ、オーストラリア等の核兵器を持たない国々との安全保障同盟に用いられるものである。また、こうした同盟国の一部にとって、米国の「核の傘」は、自前の核兵器取得に代わる選択肢でもあった。

Hosni Mubarak and Barak Obama/ IPS
Hosni Mubarak and Barak Obama/ IPS


消息筋によると、ムバラク大統領はオバマ大統領との8月18日の首脳会談に際して、「中東に必要なものは平和、安全、安定と開発であり、核兵器ではありません。」と主張した。 

ムバラク大統領はそうすることで、1974年以来エジプト政府が国是としている「中東非核地帯」設立構想をあくまでも推進する決意であることを改めて断言した。 

またムバラク大統領は、首脳会談に先立つ8月17日、エジプトの主要日刊紙アル・アハラムとの単独インタビューに答え、「エジプトは中東湾岸地域の防衛を想定した米国の『核の傘』には決して与しません。」と語った。 

「米国の『核の傘』を受け入れることは、エジプト国内に外国軍や軍事専門家の駐留を認めることを示唆しかねず、また、中東地域における核保有国の存在について暗黙の了解を与えることになりかねない。従って、エジプトはそのどちらも受け入れるわけにはいかないのです。」とムバラク大統領は語った。 

ムバラク大統領は、「中東地域には、たとえそれがイランであれイスラエルであれ、核保有国は必要ありません。中東地域に必要なものは、平和と安心であり、また、安定と開発なのです。」と断言した。「いずれにしても、米国政府からそのような提案(核の傘の提供)に関する正式な連絡は受けていません。」と付け加えた。 

同日、エジプト大統領府のスレイマン・アワド報道官も、米国の「核の傘」について論評し、「『核の傘』は、米国の防衛政策の一部であり、この問題が取り沙汰されるのは今回が初めてではありません。ただし今回の場合、問題が中東との関連で取り沙汰されている点は新しいと言えます。」と語った。 

事実、中印国境紛争が最も緊迫した時期(ちょうど米国が1962年10月のキューバ危機に直面した時期と重なっていた)、ジョン・F・ケネディ政権は、中国から自国を防衛するため米国の軍事支援を求めざるを得ないと考えていた当時のインド政府に対して、非公式に米国の「核の傘」の提供を申し出たことがある。 

アワド報道官は、現在浮上している中東地域に向けられた米国の「核の傘」疑惑についてコメントし、「そのようなものは形式においても内容においても全く承認できない。今は米国の『核の傘』疑惑について話題にするよりも、むしろイランの核開発問題について、欧米諸国・イラン双方による柔軟性を備えた対話の精神を基調として、取り組むべきです。」と語った。 

アワド報道官はまた、「イランは、核開発計画が平和的利用を目的としたものであることを証明できる限り、他の核不拡散条約(NPT)締結国と同様、核エネルギーの平和的から恩恵を受ける権利があります。」と付け加えた。 

「このイランに対する取り組みには、2重基準との誹りをかわすためにも、同時並行で、イスラエルの核能力の実態解明に向けた真剣な取り組みが伴わなければなりません。」とアワド報道官は強調した。(エジプト政府は、核兵器保有国のイスラエルに対し、NPTに調印し、国際原子力機関の監視を受けるよう国際社会が圧力をかけることを求めている:IPSJ) 

これら一連のムバラク大統領の報道官による発言は、「中東非核地帯」設立を目指して35年に亘ってエジプト政府が取り組んできた方針に一致するものである。ムバラク大統領は、1990年4月、このイシニアチブを更に推し進めるべく、守備範囲を更に拡大した「大量破壊兵器フリーゾーン」構想を新たに提案している。 

このエジプトの取り組みは殆どのアラブ諸国の支持を獲得し、最近でも22カ国のアラブ諸国で構成するアラブ連盟のアムレ・ムサ事務局長がこのイシニアチブの正当性を改めて是認する発言を行った。 

ムサ事務局長は7月5日、「中東の非核化は必ず実現しなければならない問題です。」と宣言した。 

「中東非核地帯」構想へのアラブ諸国の支持は、米国、イスラエル、欧州諸国がイランの核兵器開発疑惑を問題視するようになってから、特に湾岸地域のアラブ諸国において益々強まっている。 

イランはこうした欧米諸国からの嫌疑を全面的に否定し、同国の核開発プログラムはあくまでも平和的利用と原子力発電を目的としたものであると主張している。一方、米国、イスラエル、欧州諸国は、イランに核兵器開発を許さないとして一歩も譲らない構えである。 

このような欧米諸国の強硬姿勢は、イランの核武装は望まないものの、その他の事態収拾策を望むロシア、中国の姿勢とは対照的である。アラブ諸国も、欧米諸国が主張するイランの核兵器開発意図について、どちらかと言えば疑念を抱いている。 

欧米の見方については国際原子力機関(IAEA)の天野之弥新事務局長(12月1日就任予定)が暗に異議を唱えている。天野氏は、新事務局長選出後の7月3日、記者団に対して「イランが核兵器を開発する能力を取得しようと試みているとの動かしがたい証拠は見当たりません。」と語った。 

ロイターのシルヴィア・ウェスタール記者による「イランが核武装を試みているとの見解をお持ちですか?」との質問に対して、ベテラン外交官で核不拡散問題の上級専門家でもある天野氏は、「この問題に関するIAEAの公式記録を見ても、そのような疑惑を裏付ける証拠は一切見当たりません。」と答えた。 

2日後の7月5日、アラブ連盟のムサ事務局長は、クウェートの日刊紙『アル・アンバ』との単独インタビューで、「イランは中東地域にとって現実的な脅威か?」との質問に対して、「イランが軍事目的の核開発計画を行っていると証明できる書類化された証拠は何もありません。」と答えた。 

「(中東には)核兵器を保有する国は1つしかありません。それはイスラエルです。」と、ムサ事務局長は強調した。 

イスラエルは60年代半ばに核兵器開発を開始したが、同国の歴代政府は、核兵器の保有に関して、意図的に肯定もしなければ否定もしない政策をとってきた。 

それにも関わらず、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、イスラエルを2009年1月現在における核弾頭配備数で世界第6位の核兵器大国とランク付けしている。 

SIPRIのデータによると、イスラエルが配備している核弾頭数は、安保理常任理事国の5大国(米国、ロシア、英国、フランス、中国)に次ぐ80基で、インド(60~70基)、パキスタン(60基)の配備数を上回っている。 

またSIPRIによると、北朝鮮は、使用可能な核兵器を保有しているかどうかについては不明だが、既に若干数の核弾頭を組み立てるには十分なプルトニウムを生成していると考えられている。 

イスラエルは、米国、ロシア、英国、フランス、中国と異なり、1968年に署名開放された核不拡散条約(NPT)に加盟していない。 

しかしながら、イスラエルは、今年1月の時点で総計23,300発超と見積られている世界の核弾頭を保有している8カ国の一角を構成している。このSIPRI発表の核弾頭数には、「即時使用可能核弾頭」、「非現役予備核弾頭」、活性及び不活性の「備蓄核弾頭」、及び解体待ちの「退役核弾頭」が含まれている。 

「インド、パキスタン両国も、イスラエル同様、NPT未加盟の事実上の核兵器保有国であり、引き続き、核弾頭を搭載可能な新型ミサイルシステムの開発と核分裂性物質の生成能力強化に取り組んでいる。」とSIPRIは報告している。 

しかし、SIPRI発表の核弾頭数については、疑問を呈する声も上がっている。例えば、ジミー・カーター元米国大統領は、「イスラエルは150基ないしそれを上回る数の核弾頭を保有している。」と主張している。 

エジプトの高名なジャーナリスト、作家、政治評論家で、故ガマール・アブドゥン・ナセル、故アンワル・サダト両大統領の側近として顧問を務めたモハメド・ハサネイン・ヘイカル氏は、イスラエルは200基の核弾頭を保有していると語っている。 

米国に本拠を置く軍備管理協会(ACA)は、効果的な軍備管理政策に対する公衆の理解と支援を促進する目的で1971年に設立された無党派のシンクタンクであるが、イスラエルの保有核弾頭数は75基から200基と見積もっている。 

一方、エジプト軍諜報筋はイスラエルが保有する核弾頭数を230基から250基の間と見積もっている。 

イスラエル政府は、これらの報告や数値に関して否定(も肯定も)していない。 

アラブ諸国の支持を集めているエジプトの中東非核地帯化イシニアチブは、イスラエルが域内唯一の核兵器保有国として、中東地域全体の脅威となっている現実を踏まえたものである。 

匿名を条件に記者の取材に応じたエジプト政府高官は、「我々は常々、中東地域で唯一の明らかな核兵器国(イスラエル)を特別扱いしている米国には、未だ核兵器の開発をしていないイランに対して、核開発計画を中止するよう要求する正当性は持ち合わせていないと主張してきた。」と語った。 

また同政府高官は、「ムバラク大統領はオバマ大統領との会談の席でこの議論を持ち出しました。エジプトは、もし米国がイスラエルに圧力をかけて核兵器廃棄に持ち込んでいたならば、イランの潜在的な核開発の野望を止めさせる上で、正当かつ強固な立場を構築できていただろうと常々明言してきたのです。」と語った。 

また同政府高官は、ムサ事務局長が最近述べた声明に言及した。「中東の非核化は必ず実現しなければならない問題です。イスラエルの核兵器の存在は、核不拡散の原則を破り、非核保有国を核開発に走らせる原因となっているのです。」 

エジプト外務省のハッサム・ザキ報道官は今週初旬に行った公式声明の中で、「エジプトは、政府のあらゆるレベルで、また、国際会議などあらゆる機会を捉えて『中東地域は非核兵器地帯と宣言されるべき』と一貫して論じてきました。」と語った。 

ザキ報道官は、米国・エジプト首脳会談は、核軍縮を協議するのに相応しいタイミングで開催された点を指摘した。オバマ大統領は4月5日、チェコ共和国の首都プラハで行った演説で、「核兵器のない世界」の実現に向けて取り組んでいくことを誓った。 

7月6日、米国のオバマ大統領は、ロシアのメドベージェフ大統領との間に、向こう7年以内に双方の備蓄核兵器の一部削減を目指した共同文書に署名した。 

このモスクワ合意は、大陸間弾道ミサイルと潜水艦発射ミサイル双方を含む戦略核弾頭を削減対象としたもので、今年12月に失効する第1次戦略兵器削減条約(SART1)の後継条約について骨子を合意したものである。 

米国・エジプト首脳会談は、また、核兵器廃絶に向けた重要なステップとして世界的な核軍縮キャンペーンが展開されている最中に開催された。 

核兵器廃絶を目指す世界的な核軍縮運動「グローバルゼロ(Global Zero)」キャンペーンは、政治や軍事、経済、宗教、市民活動など、様々な政治路線を横断的に網羅した有識者およそ100人の署名人によって、昨年12月にパリで創設された。 

このキャンペーンは、「グローバルゼロ宣言」の中で運動の目的を、「2大核兵器大国(世界の核兵器の95%を保有する米国とロシア)が、段階的かつ検証を伴う削減システムの確立を通じて、世界の核兵器廃絶に向けた包括的合意を実現できるよう運動を通じて支えていくこと。」としている。 

現在グローバルゼロでは、段階を踏んだ核廃絶を実現していくための政策立案を進めており、世界的なメディア、オンラインコミュニケーション、市民社会組織を通じた幅広い一般民衆による支持態勢の構築に取組んでいる。 

グローバルゼロの署名人は、2010年上旬に数百人の各界の指導者を集めて、同キャンペーンのヨルダンのヌール王妃が「核の狂気(the nuclear folly)」と呼ぶ「核兵器」の廃絶をテーマとしたグローバルゼロ世界サミットを開催すると発表している。(原文へ) 
*編集:ラメシュ・ジャウラ

翻訳=IPS Japan 

核兵器に反対しつつも伸び続ける米国の武器輸出

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【国連IPS=タリフ・ディーン

「『核兵器のない世界』に向けて具体的な措置をとる‐」と誓った米国のバラク・オバマ大統領による発言は、世界中の平和活動家たちから圧倒的な支持を獲得した。 

しかし同時に、オバマ大統領は、通常兵器の販売については(核兵器に対するような)削減の意向について全く触れていない。少なくとも増加し続ける米国製兵器輸出の今年の動向を見る限り、このことは明らかである。 

「今までのところ、オバマ政権は従来の武器輸出政策に関して、殆どメスを入れていない。」と、ジョージタウン大学エドモンド・A・ウォルシュ外交学部平和・安全保障センターシニアフェローのナタリー・J・ゴールドリング女史は語った。

 
ゴールドリング氏は、「戦闘機、ミサイル、軍艦、戦車を含む主だった米軍の武器体系の輸出実績は伸び続けている」と言う。 

「2009年の米国の武器輸出高が空前の規模となることが予想されていることからも明らかなように、要するに、通常兵器の輸出に関しては『平常通り』ということです。」とゴールドリング氏はIPSの取材に対して答えた。 

米国防総省によると、今年末までの米国の対政府武器輸出総額は、2008年の実績が364億ドルであったのに対して、想定された400億ドルを突破すると予想されている。 

2000年代初期の通常兵器の年間平均輸出額は、約80億ドルから130億ドルの間であったが、2009年の前半期の輸出実績だけでも270億ドルに達しており、さらに記録を伸ばす勢いである。 

これら通常兵器の主な輸出先は、エジプト、イスラエル、パキスタン、アフガニスタン、トルコ、ギリシャ、韓国、バーレーン、ヨルダン、タイ、アラブ首長国連邦等の米国と同盟関係にある国々である。 

「この傾向は、歴史的に国防予算の削減圧力に対抗して武器の売却を試みてきた請負業者にとっては朗報と言えるでしょう。」とゴールドリング氏は語った。 

「しかし、このことは同時に、オバマ政権が米国の武器輸出政策の見直しを行うと期待していた人々にとっては悪い知らせと言わざるを得ない。」と同氏は付け加えた。 

一方、世界有数のシンクタンクであるストックホルム国際平和研究所(SIPRI)兵器輸出プログラムのシモン・ベイズマン主任研究員は、「米国防総省提供のデータはやや不明確」と言う。 

ベイズマン氏は、「想定された400億ドルという数字は、はたして2009年度の武器輸出実績額を指すのか、それとも単なる目標額を示したものなのか定かでない。しかしながら、そうは言っても米国の通常兵器輸出額が右肩上がりで伸び続けているのは事実で、それにはいくつかの理由が考えられます。」と語った。 

そしてその理由として、「おそらく最も重要な点は、今日では10年から20年前に比べて先端兵器を大規模に製造できる業者が少なくなっていることだと思います。つまり武器を購入する側の選択肢がより限られているのです。」と語った。 

「米国は、世界で最も進んだ軍事技術と幅広い品揃えを誇る兵器製造国であり、とりわけ人気の新鋭戦闘機や各種航空機、ミサイル、軍事用電子部品といった分野で、基本的に顧客のあらゆる要望に応えることができるのです。」とベイズマン氏は指摘した。 

 またベイズマン氏は、「大手競合相手がかなり限られてきている中で、世界の兵器市場に占める米国の割合は大きくなってきており、今後もその傾向は続くと思われます。」と語った。 
この点に関して良い例が、2009年に諸外国との関連諸契約が結ばれた、統合打撃戦闘機(JSF:米国のロッキード・マーティン社が中心となって開発中の単発単座のステルス性を備えたマルチロール機で、F-35ライトニングII戦闘機のことを指す:IPSJ)開発計画である。前述の米国防総省による400億ドルにのぼる武器輸出想定額には、2009年におけるJSF追加発注額が含まれている可能性がある。 

JSF計画は既に取引額で史上最大の兵器輸出契約となっている。そして、世界市場で他の追従を許さない商品競争力を有していることから、今後さらに大幅な発注増加が見込まれている。 

「JSF計画だけでも、向こう20年以上の期間に亘って米国の武器輸出総額を高いレベルに維持し続けることができるだろう。」とベイズマン氏は付け加えた。 

また、米国製の兵器を伝統的に購入してきたアジア・オセアニア(日本、台湾、韓国、パキスタン、オーストラリア)、中東(サウジアラビア、アラブ首長国連邦)、欧州・近東(英国、トルコ)の国々が、いずれも最近大規模な発注を行った、或いは近く行う予定である点も重要である。 

「金融危機にも関わらずこれらの国々の多くは、軍備費を大幅に増強し、最新の軍装備の発注を計画している。」とベイズマン氏は語った。 

ベイズマン氏は、その理由の一部として、「これらの国々が各々感じている脅威 – 例えば、「テロ」に対する戦争、台頭する中国の近代化、北朝鮮及びイランの核開発計画、長引くアフガニスタン紛争 – に対応しているものです。」と語った。 

例えば、台湾の場合、昨年まで米国からの武器輸入額は低いレベルに留まっていたが、米国との約8年に及ぶ交渉が妥結し、今年には台湾一国で数十億ドル規模の発注を行う予定である。 
一方、サウジアラビアは100億ドル規模を超える米国製武器を発注する計画を発表した。そしてその一部については、既に契約が行われたか或いは2009年-2010年中に行われる予定である。 

それに加えて、米国は、20億から30億ドル規模の「前菜(=米国製兵器)」を手始めに、巨大なインド市場への参入を果たした。関連契約が最近結ばれており、今年中に更なる発注がなされるものと期待されている。 

また、米国は現在イラクに対する主要武器供給国である。(発注計画規模は100億ドル近くに及び、その大半は2009年-2010年に最終決定する予定である。) 

ジョージタウン大学のゴールドリング氏は、「米国防安全保障協力局(DSCA)の記録によると、オバマ政権は、ゆっくりではあるが、新たな武器輸出案件を許可し始めている。」と語った。 

オバマ政権発足から最初の5カ月間に、DSCAは議会に対して合計最大8件の大規模な兵器輸出案件がある旨を通知している。 

しかしその後ペースは加速化し、DSCAは7月だけで、それまでの5カ月分に匹敵する最大8件の更なる大規模兵器輸出案件を報告している。そして8月に入ると同月の最初の1週間だけで、DSCAは更に10件の案件を議会に報告している。 

 「オバマ政権関係者の発言内容から、彼らも既に、『米国による親善の象徴』及び『2国間及び多国間関係重視の約束』として、米国製武器の売却を活用する誘惑にかき立てられていることが窺えます。」とゴールドリング氏は語った。 

米政府関係者は、過去においても米国製武器の売却が輸入国の国防力増強に貢献すると度々主張してきた。 

「しかし米国の武器供与は、(米政府関係者の主張に反して)軍拡競争や地域における対立国との関係悪化、紛争が勃発した際の人的被害の増大といった、武器輸入の目的である輸入国が直面している脅威そのものを、しばしば増大させてきたように思われます。」とゴールドリング氏は付け加えた。 

政策責任者たちは、過去の行き過ぎを繰り返すのではなく、こうした武器輸出が長期間にもたらしうるマイナス面の影響について計算に入れておかなければならない。 

ゴールドリング氏は、「この因果関係についての立証責任は、こうした武器取引を止めようとする側にではなく、武器を売却する側にあるのです。」と語った。

オバマ大統領は、小型武器・小火器が引き起こしている被害について従来雄弁に言及してきていることから、無秩序に行われている小型武器・小火器輸出が及ぼす不安定作用については、理解しているようである。 

オバマ大統領は既に、小型武器・小火器輸出の分野におけるブッシュ前政権の政策の一部を見直す作業に着手している。 

「米国の安全保障も、この見直し作業を全ての通常兵器を対象に広げていくことによって十分確保できると思います。」とゴールドリング氏は語った。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

│ロシア-トルコ│スルタンと仲直りをするツァー

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【イスタンブールIPS=ヒルミ・トロス】

この300年間で12回もの戦争を交わした長年の仇敵だと考えられていたロシアとトルコが、最近急速に歩み寄っている。 

先週トルコを訪問したロシアのウラジミール・プーチン首相は、トルコのエルドアン首相と実に20もの協定に署名した。合計で400億ドル相当の取引である。

中でも注目は、ガスパイプラインのナブコサウスストリームは「競合的」ではなく、「相互補完的」だと宣言されたことだ。欧州と米国が支援するナブコは、トルクメニスタン・カザフスタン・アゼルバイジャンの天然ガスをロシアを通過せずに欧州に運ぶ(2014年に供用開始予定)。サウスストリームは、ロシアからトルコ領土の黒海を経由して欧州までガスを運ぶが(2016年開始予定)、そのポイントは、ウクライナを通過しない点にある(現在、ロシアから欧州向けのガスの80%が同国を通過)。 

ロシア・トルコ間の貿易は現在年間380億ドル規模。この8年間で8倍に伸びた。トルコにとってロシアは最大の貿易相手にまで成長した。 

2007年にはトルコで「ロシア文化年」が開かれ、翌年には逆にロシアで「トルコ文化年」があった。トルコへの観光客数は、ドイツに続いてロシアが第2位に入った。 

トルコは欧州共同体入りを50年にわたって望むなど、長らく欧州よりの姿勢を見せてきたが、エネルギー問題は対ロシア外交に新たな次元を持ち込みつつある。 

しかし、英字紙『ハリエット』(Hurriyet)のコラムニスト、ユスフ・カンリ氏は、トルコがロシアに急接近し始めたことで、トルコの地政学上の重要さを欧州が改めて認識することになり、逆に欧州とトルコの距離は縮まるのではないか、との見方を示している。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 

|ブラジル|男性服役者に輪姦された少女の事件は氷山の一角

【リオデジャネイロINPS=ファビアナ・フレシネット

パラ州の刑務所内で、15歳の少女が1カ月にわたり、20人の男性服役者に強姦され続けた。少女は窃盗の疑いで連行されたまま、法的な手続きなしに、拘留されていた。

パラ州のカレパ知事は、同州の刑務所の状況が憂慮すべきものであることを認めた。同事件について十分調査すると述べた上で、同州の市営刑務所132カ所のうち男女別に収監できるのは、6カ所だけであると報道陣に伝えた。

 
ブラジル法務省の統計によれば、女性服役者は5%のみであるが、アムネスティ・インターナショナルは、その比率は上昇傾向にあるとし、政府の対応を早急に求めている。

当局の発表によると、根本的にブラジルの刑務所は過密問題を抱えており、暴力や暴動の原因となっている。1,050カ所の施設は定員26万2千人のところ、42万人を収容している。

アムネスティのブラジル研究者ティム・ケイヒル氏は、「今回の事件は特別なものでなく、我々が受けてきた報告と一致している。多くの女性服役者が性的暴力、拷問、健康管理の欠落など、非人間的状況におかれている。訪問調査で生後11カ月の赤ん坊や病気の幼児が、母親といっしょに収監されているのを見た。手錠をはめたまま、出産した者もある。」とIPS記者に語った。

「当局やメディアはより年少者に刑事責任を問うことを訴えているが、今回の事件で明らかになったように、ブラジルの現状では収監した若者を最低限保護することもできない。刑事責任年齢を下げても、犯罪は減らない。ブラジルの更正制度が服役者を非人間的にし、より多くの暴力的な人間を生み出している。」と同氏は主張する。

超法規的、即時、恣意的処罰に関する国連特別報告者のフィリップ・アルストン氏は、今月ブラジルを11日間訪問し、予備報告で、ペルナンブコ州だけでもこの10ヶ月間に61人が刑務所内で殺害されていると伝えた。「70%が集団による殺害と思われ、その集団の多くが、現在または以前の警察官である。」

国連の拷問禁止委員会でも、ブラジルの刑務所では拷問が「広範囲に渡り、組織ぐるみである。過密、不衛生、高温、暗室、永久収監などの劣悪な条件に加え、暴力が一般化しており、監督がいないため、告発されない。」という報告がされている。

さらに米州人権委員会にも、ブラジル国立司教会議によって、同様の内容が報告され、5つの州において、女性服役者への暴力が認められたと訴えた。

ダ・シルバ内閣も状況改善に動いている。タルソ・ゲンロ法務大臣は、今回の「野蛮な」事件は特別なものでなく、服役施設に対する公的投資が「慢性的に」不十分であったためと述べた。最近立ち上げられた「安全保障と市民権の国家プログラム」によって、パラ州には1200万ドルが拠出され、2カ所の女性用収監施設が建設される。

ケイヒル氏は数十年に渡って、国内外のNGOが、拷問や暴力について訴えてきたことを指摘し、行政の対応は遅いと言う。メディアで注目されたこの事件だけに対応するのでなく、すべてのケースに対応する対策が必要であると訴える。

ブラジルの刑務所問題が、少女輪姦事件で注目を集めている。(原文へ

翻訳/サマリー=INPS Japan浅霧勝浩

|ブラジル|男性服役者に輪姦された少女の事件は氷山の一角

【リオデジャネイロINPS=ファビアナ・フレシネット

パラ州の刑務所内で、15歳の少女が1カ月にわたり、20人の男性服役者に強姦され続けた。少女は窃盗の疑いで連行されたまま、法的な手続きなしに、拘留されていた。 

パラ州のカレパ知事は、同州の刑務所の状況が憂慮すべきものであることを認めた。同事件について十分調査すると述べた上で、同州の市営刑務所132カ所のうち男女別に収監できるのは、6カ所だけであると報道陣に伝えた。

 ブラジル法務省の統計によれば、女性服役者は5%のみであるが、アムネスティ・インターナショナルは、その比率は上昇傾向にあるとし、政府の対応を早急に求めている。 

当局の発表によると、根本的にブラジルの刑務所は過密問題を抱えており、暴力や暴動の原因となっている。1,050カ所の施設は定員26万2千人のところ、42万人を収容している。 

アムネスティのブラジル研究者ティム・ケイヒル氏は、「今回の事件は特別なものでなく、我々が受けてきた報告と一致している。多くの女性服役者が性的暴力、拷問、健康管理の欠落など、非人間的状況におかれている。訪問調査で生後11カ月の赤ん坊や病気の幼児が、母親といっしょに収監されているのを見た。手錠をはめたまま、出産した者もある。」とIPS記者に語った。 

「当局やメディアはより年少者に刑事責任を問うことを訴えているが、今回の事件で明らかになったように、ブラジルの現状では収監した若者を最低限保護することもできない。刑事責任年齢を下げても、犯罪は減らない。ブラジルの更正制度が服役者を非人間的にし、より多くの暴力的な人間を生み出している。」と同氏は主張する。 

超法規的、即時、恣意的処罰に関する国連特別報告者のフィリップ・アルストン氏は、今月ブラジルを11日間訪問し、予備報告で、ペルナンブコ州だけでもこの10ヶ月間に61人が刑務所内で殺害されていると伝えた。「70%が集団による殺害と思われ、その集団の多くが、現在または以前の警察官である。」 

国連の拷問禁止委員会でも、ブラジルの刑務所では拷問が「広範囲に渡り、組織ぐるみである。過密、不衛生、高温、暗室、永久収監などの劣悪な条件に加え、暴力が一般化しており、監督がいないため、告発されない。」という報告がされている。 

さらに米州人権委員会にも、ブラジル国立司教会議によって、同様の内容が報告され、5つの州において、女性服役者への暴力が認められたと訴えた。 

ダ・シルバ内閣も状況改善に動いている。タルソ・ゲンロ法務大臣は、今回の「野蛮な」事件は特別なものでなく、服役施設に対する公的投資が「慢性的に」不十分であったためと述べた。最近立ち上げられた「安全保障と市民権の国家プログラム」によって、パラ州には1200万ドルが拠出され、2カ所の女性用収監施設が建設される。 

ケイヒル氏は数十年に渡って、国内外のNGOが、拷問や暴力について訴えてきたことを指摘し、行政の対応は遅いと言う。メディアで注目されたこの事件だけに対応するのでなく、すべてのケースに対応する対策が必要であると訴える。 

ブラジルの刑務所問題が、少女輪姦事件で注目を集めている。(原文へ) 

翻訳/サマリー=INPS Japan浅霧勝浩

|米印関係|原子力協力の商業化以前にそびえるハードル

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ】

ヒラリー・クリントン米国務長官は、7月20日、前ブッシュ政権がインドと結んだ米印原子力協力(2国間民生用原子力協力協定)を前進させるための協議をニューデリーで開始した。しかし、推定100億ドル相当の協定に署名する前に、多くの障害を乗り越えなくてはならないのは明らかである。 

ロバート・ブレイク米国務次官補(南アジア担当)は先週、協定は「米国の企業にとって大きな機会を提供し、100億ドル相当にものぼる輸出をインドにもたらすことになる。」と語った。


しかし、インド議会での法案審議が原子炉や原子力技術などの輸出商機の前に立ちふさがる。法案は、米国の原子炉製造業者に事故の際の免責を与え、そのことによって保険加入を可能とするものである。 

「デリー科学フォーラム」の中心人物プロビール・プルカヤスタ氏は、「インドの原子炉運転業者にのみ責任をかぶせて米国の製造業者を免責することは受け入れがたく、人権活動家や議会の野党によって批判されることになるだろう。」とIPSの取材に対して語った。 

プルカヤスタ氏は、インドのエネルギー需要を満たすために原子力を使用することに反対ではないとしつつも、メガワットあたり約560万ドルと同氏が推定する原子力発電のコストに懸念を示した。 

GE=日立やウェスティングハウスのような米企業はすでに、フランスのアレバSAやロシアのロスアトム社のような企業と競争関係にある。しかし、アレバやロスアトムは完全国営あるいは半官半民であるため、国家免責が与えられている。 

米国製原子炉の建設候補地としてすでにアンドラ・プラデシュ州とグジャラート州の名が挙がっているが、米国製原子炉から発生した使用済み燃料をどのように再処理するかをめぐって、今週末からウィーンで米印当局間での協議が始まることになる。 

インドへの原子力技術販売を可能とするため両国が昨年署名した協定では、(核実験による制裁から)30年のときを経て、使用済み燃料の再処理が行われることになる特別保障措置施設が建設されることになっている。 

インドは、この協定によって、国際原子力機関(IAEA)による査察を容認する民生用核施設において米国の核技術を利用することができるようになる。軍事施設は除外されたが、これは、インドの軍事用核計画を原子力発電と分離する適切な保障措置が存在しないとの理由で軍備管理関係者から出ていた反対論において、きわめて重要なポイントになっていた。 

協定を進めるため、ブッシュ政権は、核取引に関わる特別の権利をインドに与えることを、45カ国からなる原子力供給国グループ(NSG)に認めさせた。NSGは昨年9月、「NSG加盟国は、原子力関係の軍民両用機器・物質・ソフトウェア・関連技術を、平和目的でかつIAEA保障措置がかけられた民生用核施設で利用するために、インドに移転することができる」と決定した。 

しかし、G8諸国は、7月はじめにイタリアのラクイアで行われた主要国首脳会議(サミット)において、核不拡散条約(NPT)に加盟していない国への濃縮・再処理の技術・機器の移転を禁止すると宣言した。インドは、不平等であるとの理由で、NPTへの署名を一貫して拒んでいる。 

このG8宣言は「濃縮・再処理に関する施設・機器・技術の拡大に伴う核拡散上のリスクを低減する」努力と、「濃縮・再処理に関する物品・技術の移転に関する規制メカニズムをNSGが強化し続けていること」を歓迎した。 

しかし、宣言は、2008年11月にNSGの専門家グループで策定された濃縮・再処理の物品・技術に関する規制強化の提案は「有益かつ建設的」であるとし、NSG加盟国に対して「各国ごとに」それを実行するよう求めた。 

米国がG8の一角を占めているため、バラク・オバマ政権がインドをNPT非加盟国として扱おうとしているのではないかとの恐れがインド国内で広がっている。しかし、プラナブ・ムカジー財務相は、「IAEAとの特別保障措置協定があるのだから、G8がどのような立場を取ろうとも我々は気にしていない」と7月13日にインド国会で述べて、火消しに回った。 

インドが今後30年間で少なくとも1750億ドルを原子力発電に費やそうとしていること、1974年に核実験を実行した直後から、原子炉供給・核技術・核燃料供給の面で国際社会から制裁を受けながらも自ら技術開発を進めてきたことが、交渉上のインドの強みになっているとの分析もある。 

他方、米国の主要な原子炉メーカーであるウェスティングハウスとGEに関する懸念もある。というのも、これらのメーカーが、インドと核協力協定を結んでいない日本との関係が深いからである。ウェスティングハウスは日本の東芝が所有しているし、GEは日立と組んで世界中で原子力プロジェクトを推進している。 

7月19日、独立のシンクタンク「イマジンディア研究所」は次のような声明を発した――「日本とインドが核協力協定を結ばないかぎり、ウェスティングハウスとGEがインドとビジネスを行うことが難しくなるのではないかと強く懸念している」。 

同研究所の声明によれば、東芝と日立が日本政府から特別の許可をもらわないかぎり、「GEとウェスティングハウスがインドの核ビジネスに関与する能力が著しく削がれることになる」という。 

しかし、米企業と核ビジネスを行うことへの最大の反対論は、ユニオン・カーバイド社の不誠実な態度を問題にする活動家からのものかもしれない。同社は、1984年12月にインドのボパールで3800人を死に到らしめた、イソシアン酸メチル流出事件を引き起こしている。これは、史上最悪の産業災害といわれている。 

6月、27人の米下院議員が、ユニオン・カーバイド社がボパールに所有していた資産を2001年に継承したダウ・ケミカルズに対して書簡を送った。跡地の土壌と周辺の水源を浄化することに加えて、事件の被害者に医療・経済支援を行うよう求めたものである。 

書簡には、「市民からの要求と世界からの抗議が繰り返しなされているにもかかわらず、ユニオン・カーバイド社は災害に関する刑事事件の被告としてボパール地裁に出頭することを拒み続けています。」と書かれている。 

全国反核運動連盟(NAAM)の呼びかけ人であるS.P.ウダヤクマール氏は、「ボパールで起きたことを考えると、原子力事故が起こった際に米国の原子炉製造業者を免責する立法を行おうとするいかなる動きにも反対します」と語った。 

NAAMはとくに、原子炉の運転業者に事故の責任をかぶせる一方で製造業者を免責する「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」をインドが批准することに反対している。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

冷戦期の核抑止構想を修正

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【エルサレムIPS=ジェロルド・ケッセル】

曖昧さ――特に今日のイランイスラム共和国の政情不安を鑑みるとき、同国の核兵器開発疑惑に関心を寄せている全ての人々にとって、この言葉が「合言葉」となるだろうか? 

イランの「核パズル」(=核兵器開発疑惑の真相)を解くには、先週死亡したロバート・マクナマラ国防長官(当時)の下で公式採用となった、冷戦当時における米国の国防方針を振り返ってみる価値があるだろう。マクナマラ長官の就任期間に、「相互確証破壊」という核抑止構想が一般に知られるようになった。これは米国及びソ連(当時)政府の双方が、一方が核兵器を使えば最終的にお互いが必ず破滅する、という状態を理解している(従って双方が核兵器の使用を抑制する:IPSJ)ことを指している。

 「おそらくイランはイスラエルとの間に同様の核抑止関係を構築することを目指している。」と、イスラエルのテレビ局「チャンネル2」のエフード・ヤーリ氏は推測する。ヤーリ氏は、イスラエルの安全保障当局内に「信頼できる情報源」を持っているとして知られている人物である。 

ヤーリ氏は、「イランは民生用核開発計画を諦めないだろう。それどころか、核兵器開発の野心についても意図的に曖昧な態度をとり続けている。」「彼らは、核専門家が『限界点』と定義する核爆弾製造能力を取得するポイントに到達するまで曖昧な立場をとり続けるだろう。」と語り、イランが民生用の核関連ノウハウを核兵器開発へと転用できる最終段階まで行き着くことを躊躇しないだろうとの見方を示した。 

しかしイランのこの態度は、まさにイスラエルが「我が国は中東最初の核保有国にはならない。」と宣言しつつ数十年に亘って核開発に対する態度を曖昧にしてきた政策と酷似するものである。イスラエルは、同国が既に数十基の核弾頭を配備する核保有国ではないかとの非難をかわすためにこの主張を貫いてきた。 

イランのマームード・アフマディネジャド政権は、今日に至るまで、改良を加えたミサイル計画を挑発的に誇示する一方で、核開発に関しては、イランがそのノウハウを取得する正当な権利を有しているとのみ主張し、民生用核開発計画を軍事転用するレベルに移行するか否かという点については明確な発言を避ける方針を維持してきている。 

このイランの込み入った核戦略に対する米国の態度は、バラク・オバマ大統領が米ロ2国間の枠を超えて世界の核廃絶を目指すと表明しているにもかかわらず、曖昧なままである。 

この米国の曖昧な態度は、イラン核問題へのイスラエルの対応に関する米国の懸念について、オバマ大統領とバイデン副大統領が各々見解を述べた際に明らかとなった微妙なニュアンスの違いに表れている。バイデン副大統領はABCテレビの番組で、もしある主権国家が他国の脅威に晒されていると認識している状況下で、「米国がその国に対して何が出来るか、出来ないかといった要求をすることはできない。」と発言した。 

バイデン氏のこの発言が、イスラエルに対してイランの核施設への空爆を容認したものではないことを、イスラエル政府は理解できたであろう。しかし、その点を明確に否定する必要性を感じたオバマ大統領は、翌日CNNの番組で、米国の空爆容認疑惑について「そのようなことは全くない」と断言した。 

イスラエル政府筋によると、バイデン発言の背後にイスラエルの関与はなかったとのことである。 

米国首脳の相次ぐ発言に対してイスラエル当局はその後数日間、「ノーコメント」を通してきたが、週末になってベンヤミン・ネタニヤフ首相の安全保障顧問ウージー・アラド氏が、インタビューに答える形で率直な見解を述べた。 
彼は「ハアレツ」(Ha’aretz)紙に対して「イランは既に、核開発段階における『引き返しのきかない一線』を越えている。その一線とは、自前で核燃料を生成するサイクルを完成する能力を獲得した段階と定義できるだろう。それは言い換えれば、他国に依存することなく核分裂性物質を生産するために必要な要素を全て手中にした段階を指す。イランは現在その段階にある。」「イランが全ての核関連の技術を既に修得したかどうかは分からないが、ほぼその段階にある。」と語った。 

またアラド氏は、「しかし、イランはまだ核兵器を使用できるところまで到達していない。そこに至るまでには、イランはさらに困難な壁を克服しなければならない。国際社会は自らの意思でイランの核武装を止めさせる十分な時間がある。…明らかに(国際社会は)十分な対応をしてこなかった。とられた対応策も、タイミングが遅すぎるか、内容があまりにも不十分なものばかりであった。現実問題として、イランを阻止することはまだ可能である。しかし、イランは危険水域として設定した『一線』を既に超えている。」と付け加えた。 

アラド氏は、「イランが核兵器国となるのを認める時ではないのか?」との質問し対して、「懸念されているのは、イランの核武装が契機となってあたかもダムが決壊するように一気に中東諸国の核武装化が進むという事態です。冷戦中に世界が核武装したソ連や中国と共存したように、今後も核武装したイランとの共存が可能と考えるのは間違っています。それは問題の本質が、単にイラン一国の核武装ではなく、中東地域全体の核武装という点にあるからです。」と答えた。 

アラド氏はまた、「イスラエル人でない中東専門家たちの間でも、もしイランが2015年に核保有国になれば中東全体が2020年には核武装化されるだろうとみている。まさに複数の核保有国が競合する中東地域は悪夢に他ならない。世界のエネルギー資源が眠る緊迫した不安定な地域に、5・6カ国の核保有国が存在する場合、核兵器の存在が地域の安定をもたらすどころか、著しく不安定にさせることになる。核武装した中東地域は、まさに逆さに立てられたピラミッドのようなものだ。」と語った。 

さらにアラド氏は、「イランと取引したければ必ず軍事オプションを用意しておかなければならないというのが安全保障の専門家たちの見解だ。その軍事オプションがより信頼のおける具体的なものであればあるほど、実際に使用する可能性が低くて済む。事実、軍事オプションを用意していないものが、結局は軍事力に訴えなければならない状況に追い込まれる傾向にある。」と付け加えた。 

アラド氏が述べた見解は、従来イラン核問題に関して我々が耳にしてきたものと比べるとより率直で具体的なものである。つまりイスラエルは、イランの核武装化を阻止することで、冷戦期に一般化した核抑止論「相互確証破壊」に対する修正を加えたいと考えている。また、おそらく少なくとも、核開発の意図を曖昧にして国際社会を欺いてきた自らの核兵器開発政策をイランが踏襲しないよう手を打つ必要があると考えている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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