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|アフガニスタン|「国の富は国民のものである」とUAE紙

【アブダビWAM】

「アフガニスタン国内で発見された手つかずの大規模な鉱床は、同国にとって両刃の剣となるかもしれない。報道された鉱床の規模は氷河の一角に過ぎないかもしれない、しかしこうした資源が、従来のアヘンに代わって、アフガン民衆、北大西洋条約機構(NATO)軍、タリバンを巻き込んだ新たな争いの火種となる可能性がある。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙が報じた。

「米国防総省と米地質調査所( USGS )が6月14日に発表した推定約1兆ドル相当とされる鉄、銅、コバルト、金、リチウムの鉱床は驚異的な規模である。しかし、これらは数十年に亘って戦争、歴代政権による過酷な支配、腐敗、宗教的原理主義の下で辛酸をなめてきたアフガニスタンの民衆とその政府に属するものである。」

 
「それに加えて、アフガニスタンの民衆は、生活基本物資や食料、水、電気にも事欠いており、子供たちへの教育機会もかなり限られているなど問題は山積している。」とガルフ・ニュースは6月16日付の論説で報じた。

「歴史の中で数多くの外国勢力がなぜ、アフガニスタンの植民地化を試みてきたか。その理由は同国に眠る豊かな天然資源である。このことを理解すれば、なぜ共産主義者(旧ソ連時代のロシア)から資本主義者(米国)、さらにはタリバンまではこの国を支配しようとしたのか説明がつくはずである。」と同紙は付け加えた。

この一兆ドル鉱床問題は、アフガニスタンの経済状況を一変させ、経済的な自立も為し得る可能性を秘めているだけに、注目はどの国がアフガン政府を支援して資源開発を行うかに集まっている。

「その点については既に多くのプレーヤーが独自の計画を持って策動を開始している。しかし、まず着手しなければならないことは、国内の紛争を終結させ、アフガニスタンの治安を回復することである。その後、資源開発にたどり着くには、中央政府、地方政府、及び各地の部族長間の真剣な対話が進められることが不可欠である。」とガルフ・ニュース紙は指摘した。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴


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中国でアジアメディアサミット開催

【北京IDN=マドゥ・ダッタ】

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5月25日から26日にかけて、北京でアジアメディアサミット(AMS)が開催された。このサミット

は、政府間機関であるアジア太平洋放送開発機構 (AIBD)と中国の国家ラジオ・映画・テレビ局(SARFT)が国際機関と共催したものである。

中国共産党中央委員会中央宣伝局の劉雲山局長は、約800人の参加者を前に、このサミットのテーマは、「自らの将来に関するメディアの世界の考え方や懸念、さらには、メディアの責任に対する国際社会の注目と期待を反映したものである。」と演説した。

劉局長はまた、「中国メディアは、政府の積極的な支持のもと、正義を促進するため社会的責任を第一義に掲げ、世論を代弁し、現場からの正確な報道で人民に安心感を与え、情報への世論の監視を保障するよう常に心がけてきました。」と説明した。

 
 しかし、こうしたレトリックには世界各地から参加したメディア関係者(メディア運営・記者)の間から疑問の声が上がった。今回のアジアメディアサミット(AMS)を国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)、国連環境計画(UNEP)と共催した、中国の三大マスメディア(『人民日報』、『新華社通信』、『中国中央電視台(CCTV)』)は、いずれも中国政府の強い影響下にあることは公然の秘密だからである。

研究者のアン=マリー・ブレイディ氏が2008年に出版した研究報告書によれば、中央電視台の記者らは、中国をポジティブなものとして描くようにつねにプレッシャーをかけられていたという。

「2005年8月には、中国である炭鉱事故に関する報道がなされたが、これが中国の国際的なイメージを傷つけるとして、外交部から警告を受けることになった。この事件後、編集部主任や記者らが自己批判文を書かされた」と、同研究報告書は指摘している。

一方、中央電視台に勤務する外国人記者はこの点に関して、「その当時から状況はずいぶん改善されており、その研究報告書で指摘された記者たちは解雇されることはありませんでした。」と語った。

劉局長は会場の参加者に、「中国政府はメディア・文化産業の発展を一層重視していきます。これによって中国のラジオ・テレビ部門に国際交流や国際協力など、様々な新たな機会を創出することになるでしょう。」と語った。

国際交流

劉局長はまた、「中国政府は諸外国のメディアとの国際交流や国際協力及び文明間の対話を促進していくための環境を整えていきます。」を語り、会場の各国メディア関係者の大きな関心を集めた。

「平等、互恵の精神に基づいて、全ての国のメディア、とりわけアジア・太平洋地域のメディアが報道コミュニケーション、人材、情報技術、ビジネス運営、経験の交換等の点で協力関係を強化するとともに、一層の相互理解を目指して各々の能力を共有していくことこそ、私たちが希望していることなのです。」と、劉局長は語った。

王太华同中央宣言局次長は、「中国は、相互の信頼、調整、互恵の精神で世界各地域、国々のメディアと中国メディア間の交流や実際的な協力を模索しながら、諸国間の人民の理解と友情を促進し、世界平和の維持に努めるとともに、共通の開発を実現していきます。」と語った。

しかし劉局長は、「先約」があるとのことで、そのあと行われた国連の潘基文事務総長のメッセージ代読には立ち会わなかった。国連の赤坂清隆事務次長(広報担当)が代読したそのメッセージは、「表現の自由は世界人権宣言の第19条に述べられているとおり、基本的な人権です。国連は全世界でこの権利を擁護していきます。」と指摘していた。

「しかしこの地域(アジア・太平洋)を含む多くの国において、ジャーナリストたちは単に仕事をするだけで、脅迫、投獄や時には殺されるリスクを負わされているのが現状です。ある国々では、独立系テレビやラジオは放送する権利を否定されています。また、政府が新聞の印刷に関して高い税金をかけ裕福な人々のみが新聞を購読できるようにしている国々もあります。またその他にも、インターネットを検閲し、市民や市民記者を投獄している国々もあります。」

「どのケースも、基本的な人権の侵害に当たり、社会・経済開発を妨げていることに他なりません。国連は全ての国々において、メディアの活動を封殺するいかなる動きにも反対するとともに、国家当局の人権擁護の責任履行を追及している人々と協力します。」と、赤坂清隆国連広報局長はメッセージの代読を続けた。

潘基文事務総長の主張は中国だけに当てはまるものではないが、中国のことが念頭にあったのは明らかであった。

メディア政策

中国共産党中央委員会中央宣伝局の王次長は、サミット参加者に対して中国のメディア政策について説明した。
 
 王次長は基調講演の中で「中国政府は国家の政治・経済・社会の進歩をはかるうえでラジオ・テレビの役割を大変重視しています。中国には251のラジオ局、272のテレビ局、2087のラジオテレビ局、44の教育テレビ局があります。そして中国は、ケーブル、地上波、衛星等の手段で、全国民の実にラジオで96.31%、テレビで97.23%に対する放送を実現しました。これは視聴者数でいえば世界で最大規模となるもので、素晴らしい成果です。」

「このネットワークは、単に情報を伝達し娯楽を視聴者のもとに届けることに止まらず、教育を促進し文化の多様性を保護し、社会の調和と進歩を促進するという重要な使命も担っているのです。」と王次長は語った。

また王次長は、「新たな環境とニーズに対応するため、中国は国内の現実的な状況に応じてラジオ・テレビ部門の改革を加速度的に推進していきます。とりわけ、中国はデジタル技術の活用を積極的に推進し、旧来メディアの改善、ニューメディアの開発、視聴者への浸透、放送セキュリティーの向上を図っていきます。」

今回で第11回を迎えるアジアメディアサミット(AMS)は、2010年5月25日~26日の2日間に亘って、初めて中国の北京で開催された。アジア太平洋放送連合(ABU)事務局長に就任したアジア太平洋放送開発機構 (AIBD)のジャヴァド・モッタギ代表は、今回のサミットを「大成功であった」と評した。

次回のアジアメディアサミットについては、ベトナムの声(VOV)が、AIBDに対してハノイで開催を申し出た。VOVは、大衆メディア全般を網羅した高品質の番組提供を心がけており、ベトナム内外に中波、短波を通じた放送を行っている。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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│タイ│無視された文化に光をあてる赤シャツのステージ

【コーンケン(タイ)IPS=マルワーン・マカン・マルカール

彼女が歌ったステージは、自分のコンサートとは呼べないような場所だった。バンコクで行われたこの

ステージの様子を、そこから450km離れたコーンケンで、人びとはラジオを通じて聞いた。聞いていたのは、このタイ北東部の農村地帯にルーツを持つ「モルラム」( mor lam )というジャンルの歌だ。

歌い手のワニダ・ピンディード(Wanida Pimdeed)が立っていたのは、首都バンコクで広がっている反政府運動の用意したステージであった。抗議活動の参加者たちは、反独裁民主統一戦線(UDD)の支持者たちであり、彼らはその格好から「赤シャツ」と呼ばれている。観客の中には、イサーン(タイ北東部の総称)の出身である人たちが多かった。

「私の歌は全て私のようなイサーンの人々と私たちの苦難について歌ったものです。」と、普段は農作業と家畜の世話をして生計を立てているワニダは語った。

 「私は観客とイサーン語で話をします。イサーン語は、草の根の言葉、社会の底辺で暮らす人々の言葉なのです。」と、ワニダは付け加えた。イサーン語はタイ東北部で使われている方言でバンコクで話されているタイ標準語よりはむしろ隣国のラオス語に近い。

しかし、このステージはアピシット政権が赤シャツ隊を蹴散らすことに成功した5月20日をもって終わりを迎えた。13日から20日にかけてのデモ隊と政府部隊との衝突によって、54人の死者が出た。

しかし、タイ東北部のユニークな文化アイデンティティーに詳しい専門家たちは、UDDのデモ隊が、バンコクで東北部出身者に舞台を提供した点に注目している。イサーンの人口は6600万人のタイ人口の実に3分の1を占めている。

オーストラリアのマクワリー大学でタイの大衆文化について研究しているジェイムズ・ミッチェル氏は、「モルラムはソム・タム(パパイヤサラダ)と並んで、イサーンやラオスの人々にとって自分たちのアイデンティティーを最もよく示すものだといって差し支えありません。しかし、バンコクのエリート層は、モルラムを地方の低級な田舎音楽とみなしてきました。従って、「モルラムがバンコクのテレビやラジオで流されることは今でも殆どありません。」と語った。

イサーンに対する意識の覚醒の歴史は、20世紀初頭にさかのぼる。当時発生した農民暴動の中で、イサーンの人々は、タイ(当時はシャム)中央のエリートから蔑まれていた。現在でもその構造は続いている。バンコクのエリートは、UDD支持者を「無知な人々」だとみなしている。そのようなエリートの差別感が、モルラムへの熱狂を生んでいるのである。

タイの政治・大衆文化における「モルラム」の役割について考える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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「核なき世界」への疾走という課題

【ワシントンDC・IDN=アーネスト・コレア】

核不拡散条約(NPT)の2010年運用検討会議の最後の数日、メディアでは暗い見出しが躍り、多くの識者は交渉は決裂に終わるだろうと考えていた。しかし、最終宣言が全会一致で可決された。意見対立の多い問題について一致を見たことは、核軍縮への道における重要な一里塚となった。

NPT運用検討会議は5年に一度開かれるが、前回は決裂に終わった。当時、決裂の原因は米国の前政権にあると多くの代表が非難した。

「NPT運用検討会議は、2005年のあとでもう一度失敗に終わることなどできなかった。核不拡散、核軍縮、原子力の平和利用というNPTの三本柱を強化する文書に合意したことは、(加盟総数190カ国のうち)出席した172カ国による素晴らしい努力の証左です。」とジャヤンタ・ダナパラ博士は語った。ダナパラ博士は「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」の会長であり、1995年のNPT運用検討・延長会議では議長も務めた。

Jayantha Dhanapala/ Photo by Katsuhiro Asagiri
Jayantha Dhanapala/ Photo by Katsuhiro Asagiri

 成果

ダナパラ博士は、「加盟国が『留意』する再検討部分と、全会一致で採択された『64の行動計画』からなる『結論と勧告』の部分に最終文書を分割する新しい方式は、未来のよい先例になるでしょう。」と付け加えた。

会議の成果は心強いものであり、「世界の新しい政治的リーダーシップと、市民社会組織によって媒介された世界の世論の強い潮流の結果として生まれたものです。『核兵器なき世界』という目標を早期に達成できるように、今後起きるであろう障害を乗り越えて、こういう協働作用を強めなくてはなりません。」とダナパラ博士は語った。

ダナパラ博士の見方では―そしてそれはいくつかの国の代表や識者も同意するところであるが―、会議の「最も重要な成果」は、「ようやく15年を経過して、中東に関する1995年の決議の履行に関する合意がなされたこと。」だという。パグウォッシュ会議は、運用検討会議の間、特にこの問題に焦点をあてたサイド・イベントを開いたり、各国政府代表に対する働きかけを行ったりして、努力をしてきた。

ダナパラ博士は、「中東非核兵器・非大量破壊兵器地帯を設立するための会議を2012年に開催すること、その会議のための準備を行い、会議後にも責任を持ち続けるファシリテーター(取りまとめ役)を任命することを決めたのは、重要な前進でした。また、この決議を履行するにあたって市民社会の果たす役割の重要性に文書で言及したことは、パグウォッシュ会議がこの任務を続けていく後押しになりました。」と語った。

軍縮

元国連事務次長(軍縮担当)でもあるダナパラ博士は、会議の結果について以下の点を指摘した。

「核軍縮に関する最適の結果は核兵器保有国による抵抗によって薄められてしまったが、全会一致で採択された行動計画は2000年運用検討会議の最終文書より前進している。」

「すべての加盟国は、『核兵器なき世界』という目標を達成するために、非可逆的で、検証可能、透明性のある政策を追求するという約束をし、核兵器保有国は、核兵器を完全に廃絶するという『明確な約束』(unequivocal undertaking)を履行するとした。」

「会議は、国連事務総長による核軍縮に向けた『5つの提案』に留意した。この提案の中には、核兵器禁止条約(NWC)の交渉も含まれている。また、核兵器国は、いくつかの問題に関連して、核軍縮に向けて早急にスピードアップすることを約束した。」

再確認

その他の主な合意は以下のようなものである。

包括的核実験禁止条約(CTBT)の重要性を再確認。会議は、核兵器の完全廃絶こそが、核兵器の使用(あるいはその威嚇)をさせない唯一の保証であることを認識。

・ロシアと米国は、4月に締結した核兵器削減条約の履行を促される。

・核拡散を防ぎ「密輸を探知・抑止・防止」する必要性をすべての加盟国に再確認させる。

・密輸への抑止になり、核テロリズムの問題に対処するための既存の協定にまだ署名していない加盟国は、早期に署名すべきこと。

・イスラエルがNPT体制に加入し、すべての核施設を国際原子力機関(IAEA)の監視下に置くことの重要性を再確認。

・NPT加盟国はIAEAに関連するすべての未解決問題を解決する義務があることを再確認。

リーダーシップ

第8回目のNPT運用検討会議はこうして閉幕した。この成功の上に将来的にどんな形で波風が立つことになるのかわからないものの、ダナパラ博士が指摘するように、会議の成果は、現在の政治的リーダーシップのなせる業であったことには疑いの余地はない。

会議のリブラン・カバクトゥラン議長(フィリピン国連大使)は、全会一致可能なラインで、かつ基本原則を犠牲にすることなく、十分な内容を持った合意を導き出すために、労力を惜しまなかった。

また、非同盟諸国(NAM)の指導者らもよく努力した。エジプトのマジド・アブドゥルアジズ国連大使はNAMを引っ張った。

しかし、おそらく最大の影響力を発揮したのは、会議に参加してはいなかったある指導者であろう。つまり、米国のバラク・オバマ大統領だ。彼は1年前、プラハで行った画期的な演説で『核兵器なき世界』というビジョンを聴衆に対して披露し、国際的な集まりにおいて公共政策に影響力を持ち続ける世論の流れを作り出した。

これは長続きしないかもしれない。たしかに、この国では、すでに反動が起きはじめている。だからこそ、ニューヨークで行われた、この前向きで歴史的でもある会議で表明された善意を実現するために、スピードこそが肝要になってくるのである。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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様々な課題を残したNPT運用検討会議
近代的な核安全保障事業を目指して

|旧ユーゴスラヴィア|死後30年、今なお人々の郷愁を誘うチトー

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【ベオグラードIPS=ヴェスナ・パリッチ・ジモニッチ】

今年の5月4日は、多くの旧ユーゴスラヴィアの人々にとって、嘗て同国に君臨したカリスマ指導者ヨシップ・ブロズ・チトーが死去してから祖国の30年の変遷を振り返る記念日となった。

チトーは第二次世界大戦が終結してから35年に亘ってこの多民族複合国家を指導した人物である。90年代の旧ユーゴスラヴィア解体で現在スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィネ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアに住む45歳以上の人々にとって、チトー時代が最良の時であった。

旧ユーゴスラヴィアは1945年以来、あらゆる側面で着実に進歩していたと思います。当時の私たちの生活水準は現在と比べると遥かに高かったし、私たちはどこに行っても歓迎されたものです。」とベオグラード出身の元小学校教師、タニヤ・ドクマノヴィッチ(75歳)氏はIPSの取材に応じて語った。「しかし90年代のユーゴ内戦以来、私たちセルビア人は世界の嫌われ者となってしまい、今や多くの一般市民が貧困に喘ぎ続けているのです。」

ドクマノヴィッチ女史は多くの一般市民と同様、チトーの死後も10年近く継続していた旧ユーゴスラヴィアの体制が、なぜ、そして如何にして血みどろの内戦へと変貌していったのか理解できない。

 しかし、歴史家や専門家にとって、その理由は単純明快なものである。

「チトーは相手の心を掴む天才でした。」「彼は一方で西側先進国を、第二次世界大戦中の反ファシスト解放運動を通して、そして開発途上諸国を、1960年代初頭の非同盟運動を通じて魅了したのです。」と、プレドラク・マルコヴィッチ教授はIPSの取材に応じて語った。

「また旧ユーゴ国内では、社会主義が国民のニーズの全てを面倒みるというリベラルな独裁体制のもとで、国民は快適な生活を享受できたのです。つまり、旧ユーゴ国民がチトー時代を郷愁の念をもって振り返る時、彼らは過去の安心と安全が確保された時代を懐かしんでいるのです。」

社会学者のアレクサ・ドゥジラス氏は、「チトー人気は、彼が旧ソ連の独裁者スターリンに抵抗して旧ユーゴを決して旧ソ連の衛星国にさせなかったことにも関係しています。旧ユーゴ国民はお陰で他の共産圏の国々の国民とは異なる生活を享受することができたのです。」と語った。

ドゥジラス氏によると、「チトーによる統治の功績はまた、社会正義、生産過程と利益分配における労働者の参画実現、それと揺るぎなき反ファシスト姿勢にも見出すことができます。」

「一方で、チトーの下では20世紀に実現したいくつかの理念は顧みられませんでした。その中でも、とりわけ、『法の統治』と『人権尊重に基づく社会構築』が欠落していたことは重要な点だと思います。」と、ドゥジラス氏は付け加えた。

チトーは、反体制派の人々に対して(他の独裁者に比べて)比較的寛容だった。彼の議論の余地のない人気に水を差す恐れがあると見られたものや、共産党の公式政策に反対したものは、数年投獄されるか、公的な資格を剥奪された。

ドゥジラス氏の父ミロヴァンは第二次大戦中と戦後数年に亘ってチトーの副官を務めたが、後にチトーを批判したことから何年にも亘って投獄された。そのため、アレクサは海外で亡命生活を余儀なくされた。

ドゥジラス氏は、「チトーの死後、もし共産党独裁体制でなく十分な近代的政策や民主化が実施されていたならば、旧ユーゴの解体という事態は必ずしも既定路線ではなかったのではないかと思います。」と語った。

「旧ユーゴは人工的な産物ではありませんでした。結果的には、国家の解体と血みどろの内戦状態というあってはならない事態が起こってしまいました。それでも私は、チトーに対してではないにしても旧ユーゴ時代に対して今でも郷愁を感じるのです。」とトゥジラス氏は語った。

旧ユーゴ時代やチトーに対して郷愁を感じることは、今でもなお旧ユーゴ構成国の一部においては賛否両論を呼ぶ問題である。

とりわけセルビアの首都ベオグラード(旧ユーゴの首都でもある)から侵入してくる連邦軍に対する戦争を経て独立を勝ち取ったクロアチアでは、この話題はタブーである。しかしながら、政府の公式方針と市民の一般感情には相違がみられる。

「今日の現状と比べると、チトー時代は、あたかも神が地上を歩いているかのごとく、遥かに素晴らしいものでした。」と、引退前は小売業を営んでしたニヴェス・ルーチェフ(65歳)氏は語った。

「もちろん(旧ユーゴ解体後に)独立したクロアチアに住むことはいいことだと思っています。しかしチトー時代と今では大きな違いがあるのは事実です。チトー時代に容易に入手できたものが、今では手に届かないものとなっています。例えば自分を養ってくれる子供に恵まれていない(私のような)定年を過ぎた市民が、年金だけで生活をしていくのは大変難しくなっています。」と、ルーチェフ氏は語った。

「私は今85歳になる母を支えています。そしてまもなく娘が私を支えなければならない時がくるでしょう。一方で私たちは、こっそりと過去の財産-その殆どはチトー時代のもの-を盗んで裕福になった人々を見てきました。」とルーチェフ氏はザグレブからIPSによる電話取材に応じて語った。

チトーの親族でさえも、(旧ユーゴ解体後に広がった)社会不正と資本主義へ適応する過程で顕在化してきた様々な困難等の影響から免れることはできなかった。

チトーの孫にあたるヨシップ・ブロズ(63歳)氏は、祖父から何も相続していない。「祖父(チトー)は、全てを人民のもの、国家のものであるべきと考えていました。彼の知名度は、旧ユーゴ諸国よりもむしろ非同盟諸国での方が高いと思います。…例えば、セルビア政府関係者が非同盟諸国への復帰交渉に関係国を訪問すると、先方から必ずといっていいほど挨拶の中で『ユーゴスラヴィアのチトーなら、もちろん知っていますよ。』と声をかけられるのです。」と、ブロズ氏は語った。

「私は、チトーが国民のために何を残したか旧ユーゴ国民が見学できるように、チトーが生前使用していた縁のものを一か所に集めて一般公開すべきだと思っています。…例えば全ての旧ユーゴ構成国に旧チトーの邸宅がありますが、これらは民衆に属するもので彼の財産ではありませんでした。しかし今ではこうした施設は、地元指導者や資産家によって接収されてしまっているのです。」

若い世代にとって、両親が話すこと以外にチトーを知る機会はあまりない。また歴史教科書におけるチトーに関する記述も、旧ユーゴを継承したそれぞれの国のチトー観によりまちまちである。

若者のチトー観は、サラエボ出身のハジラ・サマロヴィッチ(22歳)の次の言葉に集約されている。「両親や祖父母がよく話題にする人ですね。僕にとってはチトーについて言われてもどう考えていいか分かりません。…あえて言えば、両親、祖父母が若かりし頃や古き良き時代を懐かしんで話す話題の人物といったところでしょうか。僕にってはそれだけのイメージでしかありません。」(原文へ
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

様々な課題を残したNPT運用検討会議

【国連IPS=タリフ・ディーン】

「核兵器のない世界」への道はよい意図で敷き詰められている*。しかし、その道のりには決まり文句と空しい約束が散らばっている。

「国連を舞台に4週間に亘って開催された核不拡散条約(NPT)運用検討会議は5月28日、思ったほどの成果もなく閉幕しました。」と、核政策に関する法律家委員会のジョン・バローズ事務局長は語った。

「結果については特に驚くべきものもなく失望しました。しかし、『中東非核・非大量破壊兵器地帯』という、議論の流れによっては(5年前のように)会議決裂にもなりかねなかった伸るか反るかの重要議題について前進が見られたことは、今回の会議における具体的な成果であったと思います。」とバローズ氏は語った。

 最終文書には、2012年に中東非核・非大量破壊兵器地帯実現へ向けた会議を招集することや、その会議の開催実現にあたる「ファシリテーター(取りまとめ役)」を国連事務総長が指名することが明記された。次回のNPT運用検討会議は、その会議の3年後にあたる2015年に開催予定である。「(中東非核・非大量破壊兵器地帯実現への)道のりは容易くないが、前進するにはこの道しかない。」と、118カ国が加盟する非同盟運動(NAM)を代表してマジド・アブドゥルアジズ国連大使(エジプト)は語った。

アブドゥルアジズ大使は、今回の運用検討会議の成果として、イスラエルがNPTに加入し、同国の核施設に対する国際原子力機関(IAEA)の査察を受けることの重要性を再確認した点を挙げた。

しかし、核兵器の保有について「肯定も否定もしない」曖昧政策を堅持してきたイスラエルが、こうした要求に応じるかどうかは現時点では不明である。
 
 アブドゥルアジズ大使は、「国連で最大の政治連合組織である非同盟運動(NAM)は、2025年までの核廃絶を目指している。」と語った。

NPT運用検討会議は、4週間に亘る集中審議を経て、政治的に最も対立含みの諸問題(核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用)に関する行動計画を明記した28頁からなる最終文書を採択した。しかし、この最終文書に対する様々な批判や反応を考えれば、今回のNPT運用検討会議が打ち出した結果は、十分なものとはいえなかった。

「この行動計画は実質的な成果をもたらすものとは思えません。」と、米国の核兵器計画や政策を監視してきた西部諸州法律財団(WSLF)のジャクリーン・カバッソ事務局長は語った。

カバッソ氏は、「この行動計画では、核兵器保有国は、(核廃絶達成の)具体的な期限や行程を公約させられるのではなく、消極的安全保障や核兵器フリーゾーンといった課題に取り組むよう促されているに過ぎません。」と語った。

いくつかの非政府組織(NGO)によると、5月28日に採択された最終文書は、全会一致を最優先し、その結果全般的に内容が薄まってしまった。

米国、ロシア、英国、フランス(NPT体制下で核兵器保有を認められている5大国の内の中国を除く4カ国)は、最終文書から、短期的に自国の核軍縮を義務付けるような条項を削除することに概ね成功した。

そして多くの軍縮関連の行動案は、最終文書においては漠然とした目標として表記された。

「核実験について、草案段階で記載されていた核実験場の閉鎖を求める文言は、削除されました。」とカバッソ氏は語った。

同様に、核兵器の開発、品質向上を目的とする実験の停止を求める文言も最終文書では削除された。

カバッソ氏は、「興味深いことに、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効までの間、すべての国にいかなる核実験や核爆発も控えるよう求めた行動計画の中で、新核兵器技術の使用という新たな言葉が追加されました。」と語った。

「これは米国その他の核兵器保有国で行われている実験室ベースの核実験計画を指しているように思われます。」とカバッソ氏は付け加えた。

グローバル安全保障研究所(GSI)のジョナサン・グラノフ所長は、「核兵器保有国は、最終文書に(核軍縮に向けた)具体的かつ明確なコミットメントを残しませんでしたが、世界は核兵器を廃絶したほうが、人類にとってより安全で暮らしよいという原則については、明らかに支持しました。核保有国はさらに、全会一致で公約した原則や政策を最終文書の中で宣言しているのです。すなわち、この最終文書は核兵器のない世界へ到達するための道筋を示したものなのです。」と語った。

グラノフ氏は、「悲観論者は、この最終文書を『単なる言葉を並べたものだ』を批判するでしょう。しかしそのような論法は、建物の設計図を見て『単なる線だ』と主張するのに酷似しています。」と指摘したうえで、「この最終文書の意義を決して過小評価してはなりません。」と語った。

まず第一に、(核なき世界の)イメージと目標を示し、第二に、(それに至るための)政策とその元となる原理原則を明らかにし、そして第三に、目標を達成するために政治的な勢力を結集しなければなりません。

「そのような(核廃絶を求める)政治的な勢力を結集することが、私たちみんなの責任なのです。」と、グラノフ氏は付け加えた。
 

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: Rebecca Johnson Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

核兵器禁止国際キャンペーン(ICAN)のレベッカ・ジョンソン副議長は、「今回のNPT運用検討会議のプロセスと結果から2つのことが明らかになりました。つまり、前々回(10年前)或いはその前(15年前)のNPT運用検討会議で採択された公約は、尊重も実施もされていないことから、今回の会議でこれらの公約を再確認するだけでは、不十分だということです。」と語った。

また最終文書の中で重要性が強調されているように、核兵器の脅威を根絶するには具体的な軍縮の道筋のみならず、核兵器のない世界を実現し維持し続けるために必要な枠組みを構築することが求められている。

「現行のNPT体制が、ルールに従わない国々に対して有効な手を打てず、保障措置協定の強化にも失敗している現状に加えて、今回の最終文書でも肝心な部分が削除され核軍縮に関する行動計画が骨抜きになるなど、今や誰の目から見ても、(NPT体制に代わる)核兵器禁止条約(NWC)の交渉に向けたプロセスを開始する必要が明らかにあります。」とジョンソン氏は語った。

「核兵器禁止条約の下では、NPTのような核保有国と核非保有国の区別はなくなり、全ての国に対して包括的に核兵器の保有が禁止されるのです。」と、ジョンソン氏は付け加えた。

カバッソ氏は、「運用検討会議を通じて明らかになったことは、NPTが謳っている軍縮目標の実現を図ろうと決意している圧倒的多数の加盟国と、それに全く妥協しようとしない核兵器保有国の間の大きな溝です。」と語った。
 
 最終宣言の行動計画に盛り込む核軍縮措置を巡っては、核保有国と非核保有国が対立して紛糾したが、結局すべての国が、核軍縮の方法について、不可逆的、検証可能、透明である(過去にも採択されたが果たされていない)原則を採用することを再確認した。

「最終文書には何ら特筆すべき内容も目新しさもありません。しかし最終文書作成のプロセスから、NWCのような軍縮措置に向けた新たなアプローチが必要だということが明らかになりました。」とジョンソン氏は指摘した。

グラノフ氏は、「アカデミー賞は素晴らしい演技をした俳優に対して授与されます。また世界はオリンピックで傑出した運動選手を讃えます。しかし、米国やイランのような様々な異なる利害や政策を持つ国々が共通点を見出し合意に至れるよう、粘り強く調整し、より安全で安定した未来へと続く共通の土台を構築した外交官達の功績は、ほとんど顧みられていません。」と語った。

「今回のNPT運用検討会議は、米露両国が協力して核軍縮を進めるという国際的な機運を追い風に、少なからず、成功を収めたと思います。」とグラノフ氏は語った。(原文へ


翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

*地獄への道はよい意図で敷き詰められている。(=よい意図があっても実行できなければ結果はかえって悪い。)という諺を捩ったもの。

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本質を見誤っている鳩山首相の辞意表明演説(石田尊昭)

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【IPS東京=石田尊昭

Takaaki Ishida/ Ozaki Yukio Memorial Foundation
Takaaki Ishida/ Ozaki Yukio Memorial Foundation

本日午前10時、民主党の衆参両院議員総会で、鳩山首相が辞意を表明。約20分にわたり、「思いのたけ」を述べた。

冒頭で、昨夏の衆院選と政権交代の意義に触れた後、辞任の理由として、「普天間問題」と、自身(および小沢幹事長など)をめぐる「政治とカネ」問題の2つを挙げ、「ご迷惑をお掛けした」と謝罪。最後に「よりクリーンな民主党になりましょう」と呼び掛けて、その演説は終わった。

なんとも「さらっ」とした印象だ。聞き終えた後、物足りない、釈然としない気持ちになった。なぜか。はっきり言って「中身」が無い、問題の本質が抜け落ちてしまっているのだ。

 本来ならば、辞任の理由を述べる際、「行政府の長」として、さらに国民から300を超える議席を授かった「党の代表」として、今日までの鳩山政権の政策・運営にかかる全体的総括(成果も課題も)を、国民に対して詳細かつ丁寧に説明すべきだろう。

圧倒的支持を得て誕生した鳩山政権が退陣せざるを得ない原因を、「普天間」と「政治とカネ」の2点に矮小化した挙句、「さらっ」と説明するだけで終わってしまってよいのだろうか。もちろんその2点は重要であるし、辞意の「引き金」になったのも事実だろう。それでも過去8ヶ月間にわたって鳩山政権が取り組んだ、あるいは挑んだ課題の一部にすぎない。

つまり、ほかにも多くの失敗があっただろうし、また成果もあっただろう。重要なのは、そこにおける本当の原因を究明し、国民に明らかにすることだ。「普天間問題」に限らず、鳩山政権のどこに問題があったのか。政策内容か、交渉プロセスか、実施体制か。仮にガバナンスに問題があるとすれば、それは首相個人の資質によるものなか、あるいは構造的問題なのか。さらに言うと、政権移行プロセス自体に問題が有ったのか無かったのか。

そうした全体的総括と問題把握をした上で、政策・戦略の再構築を行なうことを国民に明示できたなら、今回の「辞意表明」は一転、新たな民主党の「決意表明」となったかもしれない。まさにチャンスだったのだ。

残念だが、鳩山首相は、最後の最後まで本質を見誤ったように思えてならない。

*原文は石田尊昭和ブログに6月2日に掲載されたものです。

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|中東|「これは国家によるテロ行為だ」とUAE紙

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【アブダビWAM】

「支援物資を積んで平和裏にパレスチナのガザに向かっていた自由船団を急襲したイスラエルの行為は人道に対する罪にあたるものである。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙が報じた。

「イスラエル特殊部隊が公海上を航行中の自由船団を補足した際、少なくとも19名の死者と数十名の重軽傷者をだした。これは政府が主導した明らかなテロ・海賊行為であり、特殊部隊は船を占拠した上で、乗員・乗客を拘束した。」と、ドバイに本拠を置く英字日刊紙『ガルフ・ニュース』が6月1日付の論説で報じた。

「イスラエルはトルコ政府から非武装の認証を受けていた民間船舶を攻撃した。襲撃を受けた船はトルコの国旗を掲げて公海上を航行しており、今回のイスラエルの行為は明らかな戦争行為である。これに対してトルコ政府はイスラエルの行為は両国関係を『修復不能な』ものとするだろうと言明した。全ての常識ある国々は、イスラエルに対してこのような恥ずべき残虐行為は全く受け入れられないとの意思表示をすべきである。ベンヤミン・ネタニヤフ政権は、中東和平を一方的に拒絶している今日の政策は、中東全域はもとより、パレスチナ、イスラエル双方にとって破局的なものであることを理解させなければならない。」と同紙は報じた。

 「ガザ市民に対する封鎖は解除されるべきであり、市民は平和な通常の生活を取り戻すべく復興に取りかかる自由を回復すべきである。自由船団の試みは、700人を超える平和活動家が乗船し、困窮を極めているガザ市民が必要としている食料と軍事に関わりのない支援物資を届けようとした勇敢な行為であった。」

これに対して、イスラエルは自由船団からの通信を遮断し完全なメディア封鎖を敢行した。従って、乗船していた人々の生死やけが人情報も不明のままである。全ての関係者がイスラエルの施設に拘留されている。『ガルフ・ニュース』は、特派員の安全に対する責任はイスラエル政府にあることを確認するものである。

「米国のバラク・オバマ大統領は、イスラエルのこの卑しむべき行為に対して迅速な対応策を打つべきである。また、国際社会はネタニヤフ政権に対して、この目的なき殺戮は全く受け入れられないということを明確に伝えるべきである。」

ネタニヤフ政権は和平や正義に対して無視する姿勢を繰り返し示してきた。それは同政権が、ヨルダン川西岸地域(ウエストバンク)に非合法にユダヤ人入植地を拡大し、政権の不安定化を狙ってレバノンを攻撃し、国連の中東非核化構想を軽蔑した態度であしらい、中東和平交渉開始へのパレスチナ人の希望を打ち砕いた諸政策によく表れている。

「自由船団はガザに到達することは出来なかったが、今回の試みは、ガザの人々に、彼らの苦悩を深く心に共有しそれを行動に移した多くの人々がいることを深く印象付けた。つぎはアラブ諸国がその先例に続くべきだ。」とガルフ・ニュースは結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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|中東|「米国はガザにおける戦争犯罪究明を求めるゴールドストン報告書を支持しなければならない」とUAE紙

核軍縮への障害をどう乗り越えるか(ヨハン・ガルトゥング)

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【IPSコラム=ヨハン・ガルトゥング】

Johan Galtung
Johan Galtung

核兵器に関しては、それぞれ非常に難しい3つの主要な問題がある。それは、軍縮・不拡散の問題、軍事的な使用の問題、そして神学上の重要性に関する問題である。しかし、すべての場合に妥当する解決策がひとつある。それは、根本にある紛争を解決するということだ。平和を通じて軍縮を達成するほうが、軍縮を通じて平和を達成するよりははるかにたやすい。

第一の問題系には、たとえば、次のようなものが含まれる。寿命に近づきつつある「戦略的な」(大量虐殺的な)推定2万3000発の核兵器の一部を削減する米露間の条約。核分裂性物質を保全するために米国のバラク・オバマ大統領が招集してワシントンで46カ国の参加により開かれた「核安全保障サミット」。イランのマフムード・アフマディネジャド大統領が招集してテヘランで60カ国の参加により開かれ、米国の核を皮切りにすべての核兵器の破壊を要求した核軍縮会議。欧州に配備されている240発の「戦術」核に関するエストニアでの北大西洋条約機構(NATO)外相会議。

 米国の戦略核戦力の三本柱(大陸間弾道ミサイル〈ICBM〉、潜水艦発射弾道ミサイル〈SLBM〉、及び核爆弾が搭載可能な戦略爆撃機)については話題に上っていないし、欧州の戦術核についても、そしてより重要なことには、苦しみながらの緩慢な死をもたらす米国の劣化ウランの使用についても、話題に上っていない。

化け物のような古い兵器をリサイクルすることを「軍縮」と呼ぶのは、たんなる世論対策に過ぎない。米国におけるウラン貯蔵―雌鳥の小屋にキツネを放つようなものだ―は、国際原子力機関(IAEA)の監督下にすらなく、まるで悪い冗談のようだ。これは、アフガニスタン戦争がベトナム戦争の再現であるのと同じように、冷戦の再現なのだ。

核に関する第二の問題は、より破滅的な影響に関するものである。1967年、私は、パグウォッシュ会議に提出した小論で、たとえばボートのような重要な目標の近くに隠されて遠隔操作され、特定の目的を達するために脅しとして使われる可能性のあるスーツケース爆弾について警告を発した(「平和、戦争、防衛」www.transcend.org/tup)。この方法は、発射した者を簡単に特定できるミサイルで核を運搬するより、はるかに単純だ。差出人の書いていない手紙で脅しをかけられた方がはるかに対処が難しい。とくに、非国家主体が容疑者であった場合はそうだ。手紙をたんなるこけおどしだとして無視することには重いリスクが伴う。核兵器が爆発してしまったあとで降下物から犯人を割り出すことは無理な相談だ。なぜなら、〔分析にあたる〕実験室がすでに存在しないであろうからだ。

オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件から15年が経つが、「専門家」と称する人たちが、国名は名指ししなかったものの、中東が関与している明確な証拠があるとみなしていたことが思い出される。しかし、犯人の出身は中東ではなく米国内の中西部であった。ティモシー・マクベイは、1991年の湾岸戦争における虐殺に兵士として参加したことで暴力を経験し、その2年前のウェーコの虐殺(FBIとの対峙の中、火事でブランチ・デビディアン教徒74名が死亡した事件)に困惑していた。彼は2001年に処刑された。しかし、死は自爆テロリストに対する抑止力にならず、予備軍は私たちの周りにいくらでもいる。

軍縮の妨げになる核の第三の問題は「神の問題」である。神は異教徒を罰するために恐るべき力に訴える。たとえば、(旧約聖書では)ユダヤ人をエジプトから解放するためにエジプトに疫病を送り込む。同じように、米国は日本人を罰するために核兵器を使い(彼らはすでに抵抗をやめていたのだが)、どの神が一番強いのかを知らしめた。核兵器はその保有者に神性を帯びさせる。それは国家でも非国家でもなく、文明である。「野蛮人」にそうした神の力をあたえることは、拡散(proliferation)よりも一層悪い、冒涜(profanation)ということとなる。米国にとっての理想的なシナリオとは、米国だけが核兵器を持っている状態であろう。次には、特定のキリスト教同盟国が核兵器を保有している状態である。ユダヤ教の核兵器も受け入れられるだろう。ボルシェビズムなきあと、東方正教の核兵器も条約と防衛手段によって制御されているならば、容認可能な範囲かもしれない。

しかし、儒教の核兵器はどうだろうかということとなると、あやしいものである。さらにヒンズー教の核兵器はどうだろうか(1998年には「仏陀の微笑み」というコードネームが付けられたが)?これについて意見はまとまっていない。それでは「仏教の核兵器」とは自家撞着だが、神道の核兵器はどうだろうか?それにも問題がある。彼らがそれでもって復讐するかもしれないとの疑念が残るからだ。
 
 しかし、イスラム教を尊重できない西側社会にとって本当の問題は、イスラム教の核兵器であろう。イランが自らをペルシャ文明そのものとみなしていたらどうだろうか。たしかにそれは事実で、自らを他のどの文明よりも歴史があると考えている。さらに悪い可能性は、誰よりも神に近いと自称するイスラム教の非国家主体、たとえばアルカイダのような人びとが(アルカイダには「基地」という意味がある)、メッカメディナエルサレムの神聖なるものを守り、信仰心のない侵略者を征伐すると言い出したときだ。実際、アメリカ同時多発テロ事件ではいくつかのビルが攻撃されている。

核の地位を失うことは、神性を失うことだとみなされる。内輪の社会(=核兵器保有国の間)では、これは合理的ではないように見られているのだ。

では、出口はあるのだろうか?英国の女性たちは、奴隷制度と植民地主義に反対し最終的にそれを廃絶する上で、大きな役割を果たした。英国の一方的軍縮が道を切り開くかもしれない。英国の女性たちには、トライデント核兵器システムの有益性を疑っている自由民主党のニコラス・クレッグという偉大なる才能と手を携え、ぜひとも、そういう大きなことをまた実現してほしいものだ!(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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核廃絶への世界的支持が頂点に(ジョナサン・フレリックスWCC平和構築、軍縮エグゼクティブ)

|イラク|「文明の発祥地で豊かな文化遺産が奪われている」とUAE紙

【アブダビWAM】

かつて中東文明発祥の地であったイラクでは、文化遺産が破壊と流出の危機に晒されている。「(2003年の多国籍軍による)侵攻後、イラクは主権国としての権利を侵害されているのみならず、その豊かな文化遺産を奪われている。」と、アラブ首長国連邦(UAE)の主要日刊紙が報じた。

ドバイに本拠を置く英字日刊紙「カリージ・タイムズ」紙は、論説の中で「今日イラクには、イラクの文化遺産を盗掘・強奪、あるいは海外流出させる窃盗犯や『顔の見えない』収集家達が跳梁跋扈しており、世界的に名高いイラクの歴史的文化遺産が絶滅の危機に瀕している」として、「この惨めな状況にあるイラクの『今の歴史』を救うために何らかの取り組みがなされなければならない。」と訴えた。また同紙は、イラク国内の全ての文化施設・歴史遺産(博物館、図書館、遺跡等)がこうした犯罪から逃れられない現状の背景には、文化保護に対するイラク政府の優先順位の低さと、対策の欠如があると指摘し、「今日の現状はイラクにとって大きな損失をもたらしている。」と報じた。

 また同紙は、米軍が古代バビロニア文明の文化保護区に軍事基地を建設したことは、「地元文化遺産に対する最大の冒涜である。文化遺産が常に戦争で脅威に晒されるものではあるが、イラクの人々が苦しんでいる今日の文化被害の現状は、実に信じられないほど悲惨なものだ。」とカリージタイムズ紙は報じた。

「かつて中東文明発祥の地として、多くの歴史的『不思議』建造物・伝説を世界に誇ったイラクは今や荒廃し、多くの文化遺産は傷つき古代遺物のリストから姿を消している。」と同紙は嘆いた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴


国連教育科学文化機関(ユネスコ)の報告書によると、イラク侵攻直後の2003年4月から12月までバビロン(バグダッドの南約90キロ)に駐留した米軍が、基地設営時に行った掘削作業などにより、バビロン様式の遺跡群、南部のネブカドネザル宮殿など主要部を含む遺跡が損壊しているという。報告書は、大英博物館の2005年の報告書を引用する形で、駐留米軍によるバビロン遺跡への影響を、エジプトのピラミッドや英国南部の巨石遺跡「ストーンヘンジ」の周囲に基地を建設するのに等しい行為だと批判した。