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|パキスタン|「タリバン、パキスタン軍を翻弄する。」とUAE紙

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【アブダビWAM】

「最近勃発したパキスタン軍司令部に対する襲撃は、パキスタン軍が南ワジリスタン(アフガン―パキスタン)国境地帯のアルカイダ及びタリバン軍事拠点への新たな攻勢をまさに仕掛けようとする矢先に実行に移されたものであり、結果的に同軍当局を翻弄する結果となった。」と、アラブ首長国(UAE)の有力氏は10月12日付の論説の中で報じた。 

ドバイに本部を置く『ガルフ・ニュース(Gulf News)』紙は、「パキスタンで最も力がある国軍の中核に対してこのような大胆な攻撃が行われたということは、これらの反政府武装勢力が、アフガニスタンとパキスタン両国における彼らの支配地域に対して何カ月にもわたって掃討作戦を実施してきたにも関わらず、依然として周到な計画の下に大胆な軍事作戦を実施す能力を有していることを証明した。」と報じた。

 同紙はまた、「パキスタン国軍本部司令部襲撃に続いてアフガニスタン、パキスタン両国の様々な施設に対して武装勢力による一連の軍事作戦が実施され、その結果、カブールでは標的となったインド大使館で職員17名が死亡、イスラマバードでは国連事務所が襲われ5名の職員が犠牲となった。また16日にはペシャワールで自爆テロと思われる事件で49名が殺害されている。」と報じた。 

このような武装勢力を打ち破るための統一された対処法は未だ存在しない。 

「有効な対処法の一部として、昨年のスワット渓谷や今後数週間に亘って展開予定のワジリスタン地域といった明らかな反政府勢力拠点に対する軍事掃討作戦が挙げられる。そして同様の観点から2点目として諜報網を活用した武装民兵の補足と逮捕、そして3点目かつ重要な対処法として、武装勢力と支援者を分断し、反政府武装活動を大規模かつ民衆に支持されたものから小規模のテロリスト集団へと勢力を削減していくことが挙げられる。」と、同紙は付け加えた。 

同紙は、「アフガニスタンのNATO軍とパキスタンの国軍は、軍事掃討作戦と武装勢力補足を目的とした諜報作戦のみをあまりに重視した結果、アルカイダとタリバンの過激派をパシュトゥーン人民衆から分断することに失敗してしまった。それどころか稚拙な軍事作戦で地元民衆の支持を失い、かえって反政府武装勢力に対する支持を増やしてしまった。」と締めくくった。 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

|メディア|米国の調査報道の歴史を振り返る

【ニューヨークIPS=ウィリアム・フィッシャー】

調査報道といえばまず思い浮かべるのが、カール・バーンスタインと、ボブ・ウッドワードだろう(二人はまとめて「ウッドスタイン」と呼ばれる)。彼らは、ウォーターゲート事件を報道したことで一躍有名になった『ワシントン・ポスト』の記者である。しかしそれよりも以前に、調査報道を行う優秀な記者がいたのである。 

アプトン・シンクレア(1878-1968)は、米食肉包装業界の非人間的・非衛生的な職場実態を暴露した。レイ・スタナード・ベイカー(1870-1946)は、人種的分断の状況を初めて伝えた。ジョセフ・リンカーン・ステファンス(1866-1936)は政府の腐敗問題に取り組んだ。イダ・ターベル(1857-1944)はスタンダード・オイル社の市場独占問題を調査した。I.F.ストーン(1907-1989)は、1964年当時、トンキン湾事件[訳者注:同年8月、北ベトナム沖のトンキン湾にて、米艦船がベトナムの魚雷艦から攻撃されたとされる事件。のちに、米政府による意図的なでっち上げ事件であることが発覚した]に関するリンドン・ジョンソン大統領の説明に疑問を呈した唯一の米国人ジャーナリストであった。最後に、ジョージ・セルデス(1890-1995)は、1950年代初頭、「共産主義者」とのレッテルに対抗して戦った人物である。

 現在でも、イラクのアブ・グレイブ刑務所の実態を暴露したセイモア・ハーシュのように、優れた調査ジャーナリストは存在するが、以前に比べると、調査報道というジャンルは弱くなってきたように見える。報道を行うための技術は以前にもまして発展しているこの時代に、そうしようとする動機が以前より弱まっているのは実に皮肉である。ここでは、米国の調査報道の歴史を振り返る。 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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自由にとどまらず

今こそ「核のない世界」に近づく時(池田大作SGI会長インタビュー)

【ベルリンIPS=ラメシュ・ジャウラ

グローバルな民衆の連帯こそ不可能を可能にする原動力

具体的な行動に踏み出す努力を

IPS:2009年4月にオバマ大統領がプラハで、「核兵器のない世界」に向けたビジョンを提示しました。その一方、同じ演説の中で、「核兵器のない世界」が自分たちの生きているうちに達成できるかどうかについての疑念を表明しています。この点について、どのように思われますか?
 池田会長は提言で、世界の民衆が「核兵器の非合法化」を求める意思を明確に表明していくこと、その声を結集して2015年までに「核兵器禁止条約」の基礎となる国際規範を確立することを呼びかけていますね。

池田:核兵器廃絶に向けて方向転換を行い、本格的に前進できるかどうかという岐路に、私たち人類が立たされている今、問われるべきことは何か──。
 それは、核廃絶が実現可能かどうかといった次元ではなく、私たちが生きるこの時代に「核兵器のない世界」を実現するには具体的にどのような手立てが必要となるかを考えていく点にあります。
 私が今回の提言を通し、広く国際社会、特に保有国をはじめ、核兵器に安全保障を依存する国々の指導者に問いかけたのは、次の一点でした。
 すなわち、核兵器をめぐる現在の状況と、未来の危険性を考慮した上で、核時代に終止符を打つために戦うべき相手は、核兵器でも保有国でも核開発国でもない。真に対決し克服すべきは、自己の欲望のためには相手の殲滅も辞さない「核兵器を容認する思想」だということです。
 私の師である創価学会の戸田城聖第2代会長が、52年前に訴えた「原水爆禁止宣言」の核心の一つも、そこにありました。
 ご指摘の通り、「核兵器のない世界」への挑戦の先頭に立つと表明したオバマ大統領が、その半面で、“自分の生きているうちに、その実現は難しいかもしれない”との留保を示したわけですが、保有国はもとより、すべての国の指導者たちが責任を共有して具体的な行動を起こすこと、そして何より、グローバルな民衆の連帯が指導者たちの行動をどこまでも後押ししていくことで、「不可能は不可能でなくなる」と私は確信しています。
 その意味でも、2015年までの5年間、特にNPT(核拡散防止条約)の再検討会議が行われる2010年5月までの間が、正念場となるでしょう。「核兵器のない世界」への橋頭堡を築くために、人類共闘の輪を広げることが今、強く求められているのです。

核兵器の禁止へ民衆の包囲網を

IPS: 今回の提言の中で、「核兵器禁止条約」採択に至るまでの道のりは、軍事安全保障に関する既成概念が障害となって、決して容易なものではないと指摘されています。その上でもなお、人道的な理想が、軍事や利益追求の論理に対して優勢に立つ可能性があると予見しておられるのでしょうか?

池田:近年、人道的な理想が、軍事上の論理や国益を乗り越える形で、二つの画期的な軍縮条約を生み出しました。一つは、99年3月に発効した「対人地雷禁止条約」であり、もう一つは2008年12月に締結された「クラスター爆弾禁止条約」です。いずれも、NGO(非政府組織)が連合体を形成して国際キャンペーンを行い、軍縮に積極的な国々と協力し、条約成立に大きな役割を果たしたものでした。
 提言で、“非人道的兵器の最たる存在”である核兵器を禁止する条約の基礎となる国際規範の確立を呼びかけましたが、それが一筋縄ではいかないことは承知しています。しかし私は、次の二つの理由から、それは「決して不可能ではない」と強調したいのです。
 第1に、提言でも指摘した通り、「核兵器のない世界」の必要性を訴える声が、核兵器の脅威が拡散し、高まる中での現実主義的な判断として、核保有国の元政府高官の間からも数多くあがっていることです。 私は、こうした現実主義的なアプローチと、従来の平和的・人道的なアプローチという、二つの潮流を協働させることによって、「核兵器のない世界」への突破口を開くチャンスを、必ずや生み出すことができると信じているのです。
 第2に、広島と長崎への原爆投下以来、64年にわたって、どの国も、どの指導者も、核兵器を実際に使用することができなかったように──仮に抑止論的な文脈における威嚇の意味合いは残されていたとしても──軍事的には核兵器は「いくら保有しても、ほぼ使用することができない兵器」としての位置付けが半ば固定化しつつある点です。
 こうした認識は、多かれ少なかれ、保有国の指導者の間で持たれているものではないでしょうか。
 ゆえに、核兵器禁止を現実のものとしていくためには、対人地雷やクラスター爆弾の禁止を実現させた時の取り組みを、はるかに上回る形で国際世論を高め、市民社会の意思を結集し、“核兵器禁止のための民衆の包囲網″を築いていくことが肝要なのです。

「人間の安全保障」の確立へ大幅な軍縮の推進が不可欠

核保有5力国は責任ある行動を

IPS: 今回の核廃絶提言では、核保有5力国に対し、「核兵器のない世界」のビジョンの共有を宣言するように呼びかけておられます。そのビジョンは、どのようなものになると期待されますか?
 また来年5月のNPT(核拡散防止条約)の再検討会議について、どんな結論が導き出されることを期待されますか?

池田:ビジョンは、行動を喚起する力になります。ゆえに、核兵器廃絶というビジョンが核保有国であるアメリカによって提示されたことは、画期的なことでした。その上で重要となるのは、アメリカが示したビジョンについて、まずすべての核保有国が真剣に討議し、共有していくことです。ビジョンが共有されてこそ、次なる行動へ具体的なステップに踏み出すための共通の基盤ができるからです。
 このビジョンの共有に関しては、良い兆しが見られるようになっています。9月24日には、国連安保理の核不拡散と核軍縮に関する首脳級会合で、「核兵器のない世界」の実現を目指す決意を表明する決議が採択されました。安保理の決議は、保有5力国のすべてが常任理事国として加わった合意であり、法的拘束力もあり、その意義はきわめて大きいといえます。
 今回の決議を機に、共同作業の一歩を具体的に踏み出すことができれば、核保有5力国は、「核兵器のない世界」の構築という希望ある目標に向かって、世界をリードする役割を果たすことができるでしょう。
 こうしたリーダーシツプを発揮することは、保有5力国のNPTにおける厳粛な義務であり、NPTの枠外にある国々に対しても核軍縮を促し、全面廃棄を促す唯一の方途であることは明白です。
 そして、この責任ある行動から生まれた連帯感は、貧困や気候変動といった、他の地球的問題群に対する取り組みへの勢いをも加速させることにつながるはずです。
 何にもまして、そうした役割が核保有国に求められるのは、核兵器を使用したテロの脅威というものが、現実的な可能性の範疇に入ってきているからです。いうまでもなく、核兵器を用いたテロの脅威に対し、抑止論で対処することは不可能であり、その前提に立った議論は意味をなしません。この新たな脅威に対する最大の防禦は、核兵器を厳正な検証体制のもとで廃絶する以外になく、今、最も憂慮すべきことの一つは、核兵器の入手や技術の漏洩の可能性なのです。
 私は提言で、来年のNPT再検討会議で核保有5力国が合意すべき取り組みとして、以下の3点を提起しました。①核兵器開発のモラトリアム宣言②核能力の透明性の増大③核廃絶にいたる道程で最低限の保有可能数について話し合うフォーラムの設置、です。
 もちろん、これらの措置は、NPT再検討会議よりも前に合意されるのが、より望ましいことは言うまでもありません。とくに、最初の「核兵器開発のモラトリアム宣言」について、保有国が誓約することができれば、核廃絶への重要なステツプになります。地球を何十回も破壊できる能力を維持し、技術開発を通してさらにその能力を精鋭化し増大させるというのは、民衆の目線から見て、決して許されるものではありません。さらにこれが合意されれば、必然的に「包括的核実験禁止条約」や「カットオフ条約(兵器用核分裂性物質生産禁止条約)」の議論にも大きな影響を与えていくに違いないでしょう。

市民社会つなぐ連帯の結び目に

IPS: 提言の中で、国連に「核廃絶のための有識者パネル」を創設し、核軍縮プロセスにおける市民社会との協働体制を確保するよう呼びかけられています。池田会長は、核軍縮の分野における現在の国連と市民社会の関係を、どう評価されていますか?
 また「核兵器のない世界」を実現していく上で、市民社会が果たす役割──なかでも、SGI(創価学会インタナショナル)が果たすべき役割について、どのような考えをお持ちですか?

池田:世界の情勢は、国連が設立された当時からは大きく変化しており、最近は、民衆の声をいかに汲み取っていくかが時代の要請となっています。
 これまで国家の専権事項とされてきた軍縮の分野においても、市民社会が持っている専門知識やコミュニケーション能力が本格的に活用されるようになっていけば、必ずや大きな進展がみられるはずです。
 先日もメキシコで国連広報局NGO年次会議が開催されましたが、62回目となる今回、初めて「軍縮」がテーマとして取り上げられたのは、こうした趨勢を象徴するものにほかならず、誠に歓迎すべきことです。
 また近年、「人間の安全保障」の重要性が叫ばれるようになっていることも見逃せません。従来の「国家の安全保障」からは欠落してしまっていた視点、つまり、“政治的判断が人々の生活にどのように影響を及ぼすのか”という視点が、市民社会の側から明快に提供されるようになっています。国家の側も、新たな安全保障のあり方を探り、実現していくパートナーとして、市民社会を受け入れようとする兆しがあり、国連でも同様の動きがみられます。
 私はこれまで、「核兵器廃絶を求める規範の確立」とともに、「民衆の力強い意思の結集」が必要であると訴えてきました。それは、国益が複雑に絡み合い、国家主導では解決が困難といえる課題への挑戦には、市民社会の側に果たすべき大きな役割があると考えているからです。
 ゆえに市民社会の側でも、「自分たちが主体者として時代を変革させる」との強い自覚を持てるような教育や意識啓発の機会を提供していくことが大切になります。さらには、同じ志を持つ人々やNGOがそれぞれ個別に活動を進めるのではなく、連携し合い、市民社会の連帯をより強固なものにしていく必要があるのです。
 私どもには、50年にわたる核廃絶への取り組みの経験があります。これを生かし、これまで以上に市民社会における「エンパワーメント(能力開花)」のための着実な運動を展開しつつ、世界各地で真剣に活動を推進している人々やNGOと協働関係を深めていきたい。
 そして、さまざまな運動のネットワーク化を目指し、その一つの結び目としての役割を果たしたいと決意しています。(原文へDaisaku Ikedaウェブサイト

IPS Japan

※池田大作氏は日本の仏教哲学者・平和活動家で、創価学会インタナショナル(SGI)会長。池田会長による寄稿記事一覧はこちらへ。

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|軍縮|核兵器のない世界という新たな約束

青年の力で国連の改革を(英文)(PDF版

オバマ大統領、核なき世界へ向けて国連の支援を求める

【国連IPS=タリフ・ディーン】

9月24日、米国の大統領として歴史上初めて国連安全保障理事会(安保理)の議長席に座ったバラク・オバマ氏の主な動機は、「核兵器なき世界」という彼の野心的で長期の努力を要する目標を推し進める点にあった。 

国連でもっとも強力な機構である安保理は、15ヶ国の全会一致によって採択した決議で、核拡散の脅威への深い懸念と、拡散防止に向けた国際社会の行動の必要性を表明した。

 オバマ大統領は、次の12ヶ月が「この決議と、核兵器の拡散および使用の防止という我々の努力が成功するかどうかに関して、決定的に重要になるだろう。」と語り、明確な時限設定に踏み込んだ。同大統領は、国連安保理の会合に集まった各国首脳に対して、「本日、安保理は、すべての脆弱な核物質を4年以内に凍結するという世界的な目標を是認しました。」と宣言した。 

またオバマ大統領は、すべての国家を支援しつつこの目標に向かって突き進むことを目的とした首脳級会合を、来年4月に米国が開催することを確約した。 

オバマ大統領は、イランと北朝鮮を名指しして、核兵器開発計画を放棄するよう両国に求めたこれまでの国連安保理決議を「完全に遵守」するよう促した。またそれと同時に、「個別の国家を名指しすることが目的なのではない。すべての国が(核に関する)それぞれの責任を果たす権利を擁護するためのものなのです。」と語った。 

しかし、国連安保理会合での議論の雰囲気とは異なり、24日に採択された決議はイランも北朝鮮も名指ししなかった。これに関して、IPSの取材に応じたあるアジアの外交官は、「それはおそらく決議採択に中国とロシアの支持を得るためだったのでしょう。」と語った。国連安保理で拒否権を持つ両国は、従来からイランと北朝鮮を擁護する傾向にある。その主な理由は、核兵器保有国になるかもしれないイラン・北朝鮮に対して中国・ロシアが政治・経済・軍事の各面において利害関係があるからだ。上記の外交筋は、「もしイランと北朝鮮が決議で名指しされたなら、米国は全会一致の決議を得ることはできなかったのでしょう。」と語った。 

しかし、安保理会合では北朝鮮とイランを非難する声明も相次いだ。おそらく、決議自体において両国が名指されないことへの穴埋めだったのだろう。フランスのニコラ・サルコジ大統領は、「我々は現在2つの大きな核拡散の危機、すなわちイランと北朝鮮問題に直面しており、毎年状況は悪くなっている。世界が見つめる中、この2国の問題に取り組まずして、どうしてこのような会合を正当化できようか。」と、明確に不快感を表明した。 

英国のゴードン・ブラウン首相は、イランや北朝鮮などに厳しい制裁を課す一方で、核兵器開発を断念する用意のある非核保有国には民生用の原子力技術を提供するという内容を含む「核兵器に関する世界的な取り決め」を結ぶべきだと提案した。また同首相は、核兵器保有国に対しても、保有核弾頭数を削減する公約を行うよう求めた。 

5つの公式の核兵器保有国―国連安保理の5常任理事国でもある―は、米国、英国、フランス、中国、ロシアである。一方、核兵器保有国だと公式に認められていないのは、パキスタン、インド、イスラエル、北朝鮮である(イランもその仲間入りをしつつある)(「公式に認められていない」とは、核不拡散条約(NPT)においてこれらの国が「核兵器保有国」のカテゴリーに入れられていないことを意味する:IPSJ) 

ニューヨークに本拠がある「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」のジョン・バローズ事務局長はIPSの取材に応じ、「決議を先導した米国のスーザン・ライス国連大使は、決議が特定の国をターゲットにしたものにはならないことを明確にしました。しかし、ロシアや中国との決議策定はもっと早く行うことができたはずです。」と語った。同氏はまた、「私に言わせれば、特定の国を名指しするかどうかは的外れの議論です。決議はすべての国に適用される規範に関するものであり、核不拡散だけではなく核軍縮に関する決議であるべきものです。実際、ある程度まではそうなっています。」と語った。 

したがって、実際の決議は、特定の核拡散状況に焦点を当てたものになっていない。決議はまた、名指しを避けながら、両国が関連の国連安保理決議に従うべきことを明確にしている。「どうして、核軍縮の約束を果たしていない国が名指しされずに、イランと北朝鮮を名指しすべきだなどという議論を行うことができるのでしょう?」とバローズ氏は疑問を呈した。 

世界でもっとも有名な軍備管理・軍縮問題に関するシンクタンクであるストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のイアン・アンソニー研究主幹は、「今回の国連安保理決議は、今後長期にわたって複雑な問題に対処していく国際協力の枠組みを打ち立てたものです。」と評した。「この作業計画を国連安保理が実行する意思を示し続けられるかどうかが、他の国連加盟国が関連の措置において積極的な役割を果たすべきかどうかの一つの判断材料となるでしょう。今後、国連安保理にとっての主要な課題は、経済・金融・気候変動やその他の緊急を要する問題に関連して対処すべき優先順位をめぐる争いがある中で、今回の決議に盛り込まれた一連の措置を実行し続けられるか否かという点にあります。」とIPSの取材に対して語った。 

バローズ氏は、「決議はイランや北朝鮮を名指ししなかったものの、核不拡散という義務を遵守させるために国連安保理が一定の役割を果たしていくことを明確にしています。」と語った。 

しかし、決議は、核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約:FMCT)の交渉が進む間、核兵器保有国が同物質の生産を停止すべきだとの内容を盛りこまなかった。「どうやら、中国がいやがったようです。」とバローズ氏は言う。「南アジアにおいて核分裂性物質を生産停止にすることは、深刻な核軍拡競争を現実に止める効果があり、きわめて重要です。インドとパキスタンは、兵器用の核分裂性物質を現在製造している世界で唯一の国です(イスラエルが生産しているかもしれないが)。しかし、中国はおそらくそのオプションを手放したくないのでしょう。」とバローズ氏は付け加えた。 

SIPRIのアンソニー氏は、「すべての国家が誠実に合意を結んだのではなかったことが明らかになってしまえば、軍備管理が依っている基本原則への重大な打撃となります。」と語った。その原則とは、「それぞれの責任の下で、すべての当事者が自己抑制という合意されたルールを守る」ということだ。 

さらにアンソニー氏は、「テロで甚大な影響を与えることを狙った非国家主体による脅威は、軍備管理においてこれまで論じられてこなかったテーマでした。」と指摘した。同氏は、「軍備管理は、既存合意の遵守に対する信頼性を高め、テロで甚大な影響を与えることをねらった集団がもっとも危険な能力を得ることを阻止することによって、安全保障環境の変化に適用しようと努めてきました。」と語った。24日の国連安保理会合は、米国が多国間枠組みの中で責任あるリーダーシップをとろうと望んでいたことを示している。 

「これは、近年考え出されてきた新しい法的・政治的・技術的な道具立てを、公正かつ包括的、効果的に使うための最善の道です。そうした道具立ての多くは、国連安保理決議の前文に書かれています。」とアンソニー氏は付け加えた。 

オバマ大統領は、今年4月にプラハで行った歴史的な演説において、「核兵器なき世界」について語った。 

バローズ氏は、プラハ演説で語られたある点が今回の決議には欠けていると指摘した。すなわち、安全保障戦略における核兵器の役割の低減の問題である。また、軍備管理/軍縮に関する新しい手法や、その点に関する国連安保理の役割についても落とされている。 

例えば、核兵器保有国を巻き込んだ軍縮プロセスの開始についての言及がない。核不拡散・核軍縮問題についての下位機構設置の提案もない。核不拡散・核軍縮上の義務違反に対して効果的に対応するための国連安保理改革案も出されていない。さらに、軍縮に関する計画を提案するという、国連憲章に定められた安保理の責任を果たさせるためのステップも打ち出されていない。 

対照的に、核不拡散と反テロ措置については、ずいぶんと詳しく展開されている。 

まとめるならば、決議は、新核兵器保有国の登場やテロリストによる核兵器の取得を防止するための国連安保理の役割については強力な措置を打ち出しており、現在の強調点は、オバマ政権が既存の軍備管理問題の解決を追求する意図があるというメッセージに置かれている。 

「オバマ大統領がプラハ演説で打ち出した公約に見合うようにするには、決議は、核兵器の拡散を抑えこむだけではなく、既存の核兵器保有国が核兵器への依存をやめ、自らが核兵器ゼロに向けて削減していくプロセスを開始する野心的な努力に道筋をつける必要があります。」とバローズ氏は主張した。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

「暴力を増殖させる小型武器」(国連IDP/NGO年次会合)

【メキシコシティーIPS=エミリオ・ゴドイ】

小型武器の不正取引問題は、とりわけメキシコ、グアテマラ、ブラジルといった国々において、都市部の犯罪率を引き上げる元凶となっていることから、ラテンアメリカでは、軍縮問題の中でも特に懸念されている分野の一つである。 

この問題は、「平和と発展に向けて:今こそ核軍縮を!」をテーマに世界75カ国から1700人の代表が参加して開催された第62回国連広報局NGO (DPI/NGO)会議における議題の一つである。

 「これらの小型武器は、莫大な利益を背景に非合法に取引されているもので、一般の犯罪者や犯罪組織が、社会や治安部隊のメンバーを攻撃するために使用している。」と、メキシコのパトリシア・エスピノサ外務大臣は、水曜日(9月9日)に開会した会議の冒頭で語った。今年のDPI/NGO年次会議は、メキシコシティー歴史地区の中心部に近い修道院跡を会場に開催されている。 

麻薬カルテルの活動が社会に幅広くはびこるメキシコにおいては、小型武器の問題は同国政府にとって特に悩みの種となっている。未知数の武器が、米国の合法市場で入手されるか、或いは、中央アメリカからの密輸ルートを通じてメキシコに運び込まれている。 

メキシコ国防省の統計によると、2000年から2006年の間、合計257,993丁の小火器を破壊処分、723丁を紛失、2,367丁が盗難被害、238,838丁を登録、31,931丁が所有者・管轄区の間で移転と記録されている。 

 2006年下旬に就任した保守派のフェリペ・カルデロン大統領は、麻薬密売と戦うためにメキシコ全土に数千人にのぼる兵士を展開した。しかしながら、その後麻薬関連の殺人事件が急増し、非公式統計によると今年8月までに14,000人以上の犠牲者を出した。 

このように多数の犠牲者を出した背景には、麻薬マフィアの火力を大幅に増強した小型武器の存在があった。 

国連の統計によると、世界に出回っている小型武器の総数は5億丁以上で、この数値は、人口換算すると平均で12人に一丁の割合となる。小型武器は1990年以来起こった49の主な紛争の内、46の紛争で主要な役割を果たしている。 

また、世界の小型武器取引の中で合法のものは約半分しかないと推定されている。さらに、合法的に輸出された武器も、行き着く先が闇市場である場合も少なくない。 

国際小型武器行動ネットワーク(IANSA)によると、小型武器の不正取引から上がる純益は年間20億ドルから100億ドルと推定されている。IANSAは1998年に120カ国における800の非政府団体により設立されたネットワークである。 

年間700万丁近いライフルと拳銃が、主に米国と欧州連合において製造されている。 

この問題に取組むため、国連小型武器会議(正式名:小型武器非合法取引のあらゆる側面に関する国際会議)が2001年の7月9日から20日にかけてニューヨークの国連本部で開催された。 

「メキシコでは、武装による暴力と女性への暴力は深刻な問題です。小型武器が暴力を増殖させているのです。」とIANSAのメキシコ代表エクトル・グエラ氏はIPSの取材に対して語った。 

IANSAは、銃器を使用した対女性暴力で有罪となった人々に対して、銃器免許の発給を停止、或いは免許取消しを規定する法律を新たに制定するよう提案している。 

7月下旬に英国のジャーナル誌『犯罪学と刑事司法(Criminology and Criminal Justice)』に掲載された米国、カナダ、スイスの共同研究によると、人口1億700万人を擁するメキシコでは、高い犯罪発生率が、平均余命を半年以上引き下げている。 

このような背景からメキシコ政府は、小型武器貿易に関する合意と、武器の不法取引取り締まりに向けた国際的な努力を積極的に支持している。 

また、『核兵器の拡散問題』が、今週金曜日(9月11日)まで開催予定のDPI/NGO年次会議のもう一つの中心議題である。本年次会議がニューヨークの国連本部以外の地で開催されるのは今回で連続2回目となる。 

播其文国連事務総長は、開会の辞の中で、「今日地球上には、約2万発の核兵器が即時使用可能な状態で配備されています。」と述べ、国際社会に対して核軍縮に向けて努力するよう訴えた。 

「平和なくして開発はありませんし、開発なくして平和が訪れることもありません。核軍縮を進めることによって、その両方を実現する手段を見出すことが可能となるのです。」と播事務総長は語った。 

1991年に米国と当時のソ連の間で結ばれ、両国が保有する戦略核弾頭の上限を定めたSTART(戦略兵器削減条約)は今年の12月で失効する。 

こうした中、9月24日に開催予定の国連安全保障理事会首脳級特別会合(議長:オバマ米国大統領)では、「核不拡散」と「核軍縮」の問題が話し合われる予定である。 

また、2010年5月には、1970年に発効した核不拡散条約(NPT)の次回運用検討会議が、ニューヨークで開催される予定である。 

地雷禁止国際キャンペーンを率いて1997年のノーベル平和賞を受賞した米国の活動家ジョディー・ウィリアムズ氏は、水曜日の記者会見で、「私はあくまで核兵器禁止条約実現を目指すよう働きかけていきます。なぜならば、もし私たちが『最終的な核兵器の廃絶という軍縮議論』に終始する限り、将来的に核兵器が禁止されることは現実にあり得ないからです。」と語った。 

ラテンアメリカとカリブ海地域は、通称「トラテロルコ条約」として知られる、ラテンアメリカ及びカリブ海域核兵器禁止条約の下で、非核兵器地帯となっている。この条約は1967年にメキシコシティーで調印されたもので、メキシコはこの核兵器禁止条約の提案国の1つであった。 

播事務総長は、「国連は『核兵器のない世界』実現に向けた戦略として、核軍縮のありかたについて次のような提案をしています。すなわち、核軍縮は、諸国の安全を強化するものでなければならず、そのためには、新たに開発がなされるかもしれない他の兵器が及ぼす脅威に備える一方で、核兵器の削減が、法的拘束力をもつ信頼できる検証システムの下で、情報公開と透明性を確保した中で実施されなければならないと訴えています。」と語った。 

ウィリアムズ氏は、「もしこの重要な転換期に、市民社会組織が介入して核兵器廃絶に向けた活発な運動を展開しなかったとしたら、(核廃絶に向けた流れを押し進める)機会は失われてしまい、その後には、制御不能な恐ろしい軍拡競争が引き起こされるかもしれない。それは考えただけでも恐ろしい将来の見通しです。」と語った。 

国際小型武器行動ネットワーク(IANSA)のグエラ代表は、今週開催された第62回国連広報局NGO会議は、「全ての武器、とりわけ小型武器に反対する力強い宣言を行って閉会すべきです。」と語った。 (原文へ
 
翻訳=IPS Japan

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関連記事: 
合意への道遠い小型武器貿易条約 

|日本|「私達には再び経済成長をもたらす小さな政府が必要だ」(河野太郎衆議院議員インタビュー)

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【東京IPS=M.Murakami】

8月30日に行われた衆議院総選挙では長年与党の座にあった自由民主党(LDP)のベテラン議員の多くが落選し、民主党(DPJ)による地滑り的な勝利と共に歴史的な政権交代がなされた。 

河野太郎氏は、今回の衆議院総選挙で再選を果たした自民党議員の一人である。 

神奈川第15区選出で今回5期目となる河野議員は、現在46歳。国会議員として高い評価を得てきた河野氏は、自民党に対する逆風が強かった今回の衆議院総選挙においても、選挙民の圧倒的な支持を獲得した。 

米国ワシントンDCにあるジョージタウン大学卒の河野氏は、1996年の衆議院総選挙に立候補し初当選を果たした。近年は自民党の体制について歯に衣着せぬ批判を展開して注目を浴びている。自民党内では国会議員を14期務め今年引退した父、河野洋平前衆議院議長と同様、リベラル派を代表する議員である。

 河野氏は、自民党指導部の間に集団的な危機感が明らかに欠如しているとして批判する一方、社会保障制度の改善と政府による無駄な支出の削減の必要性を訴えた。多くの論点について河野氏の政策的な立場は、民主党が提唱しているものに近かった。 

河野氏は今回IPSの取材に応じ、先般の衆議院総選挙における自民党の大敗についてと、民主党が率いる新政権に対する期待について率直な思いを語ってくれた。ここにインタビューの抜粋を紹介する。 

IPS: 先般の衆議院総選挙での自民党の劇的な大敗をどのように見ておられますか? 

河野:これは過去4年間に亘る政府(安倍晋三、福田康夫、麻生太郎首相首班の3代に亘った政権)の失政の結果だと思います。この期間、大臣たちは、経済が失速、失業率が増加、GDPが低下し、自殺率が上昇する中、本来の役割を十分果たしませんでした。 

またこの期間、日本の金融市場も急落し、リーマンショック(昨年の世界金融危機の発端となった米国の名門証券会社、投資銀行の破綻)がそれに更なる拍車をかけました。 

もしこれら一連の政権の大臣たちが十分な対策を講じていたならば、国営漫画喫茶(漫画喫茶店の略で日本式コミックカフェの意味)と批判された巨大なポップカルチャーセンター(国立メディア芸術総合センター)の建設費として117億円もの予算を承認することはなかっただろう、そして日本の状況がここまで悪くなることはなかったと思います。 

IPS:それでは先の3内閣までの自民党政治はむしろよくやっていたと思いますか?一方で、自民党政治に対する一般国民の不満は長年に亘って蓄積されてきたと主張するみかたもありますが。 

河野:4年前の衆議院総選挙で自民党が大勝したことを思い出してください。私は今でも小泉純一郎前首相の改革路線を支持しています。しかし小泉政権の後継である安部首相は、(小泉政権の郵政民営化に反対した)反改革派を復党させ、政府の要職につけました。その時点から政策路線が誤った方向に動き出したと思います。 

IPS:麻生太郎前首相は自民党総裁の辞任を表明しました。そして9月16日には特別国会で新総理大臣が選出されます。自民党議員の中で同氏を首相に推薦することは意味がないと感じている方々が少なくないようですが。
 

河野:衆院選の敗北の責任者でありその結果総裁辞任が決まっている人物に投票する必要はないと思います。 

IPS:自民党は今後野党としての役割を担う訳ですが、最大の課題は何だと思いますか? 

河野:これは自民党にとっての課題だけではありません。今の日本には再び経済成長路線へと導く(国民への現金により手当を計画している民主党の方針とは異なる)「小さな政府」が必要なのです。 

もし自民党が今後存続していくとするならば、自らのアイデンティティーを再定義し、国際社会に対して自民党が目指す理念や政権像を示していかなければなりません。もし自民党が小さな政府を目指すという点でコンセンサスを構築できなければ、希望はありません。 

IPS:マニフェストで喧伝された民主党の政策をどう見ていますか? 

河野:年金改革といった具体的な政策では賛同できるものも見受けられます。しかし、民主党の掲げる労働組合を基盤とした「大きな政府」やそのような政府による「福祉の再分配」といった政策には賛同できません。私は経済発展を取り戻すことに焦点を当てた小さな政府を支持します。 

IPS:民主党新政権は、初めてとなる国政をどのように運営していくと思いますか? 

河野:国政運営は容易にはいかないでしょう。民主党が公約した政策は具体的な財源の根拠がないまま打ち出したものですので、実施には至るのは困難でしょう。民主党はこの点について財政支出の無駄な部分を見直すことで、必要財源を絞りだせるとしています。しかし、遅かれ早かれ民主党は、「子供手当」などの(子供のいる家庭や農家を対象とした)特別手当の支給を諦めざるを得なくなるでしょう。 

IPS:あなたのような自民党の若い世代のリーダーの役割はなんでしょうか?自民党をどのように再生していかれますか? 

河野:私は私自身の信念に沿って行動していきます。もし自民党が正しい方向を進むのであれば、私はその中にあって支持していきます。しかし、党のためというよりも日本の人々のために誠実に使命を果たして参りたいと考えています。私が自民党に属してきたのは、(各党の政策理念を見渡した時に)他に選択肢がなかったからです。しかし自民党に所属するために同党にとどまる必要はないと考えています。今後の党の方向性によっては、離党や新党旗揚げも考えるかもしれません。 

IPS:自民、民主両党の若手国会議員間の交流ネットワークは今後拡大していくでしょうか? 

河野:自民党議員の中には党主流の議員達と考えを異にする人々もいます。またこの状況は民主党側にも言えます。このような両党の議員達が将来におけるさらなる政党間の再編成に向けて動く勢力となるかも知れません。 

今日、結局のところ、自民党と民主党の政策には大きな違いがありません。もし両党がそれぞれの独自性に基づくビジョンと政策を競い合う環境が実現すれば、日本国会はあるべき機能を発揮することができるようになるでしょう。 (原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

│キルギス│新たなる大国間競争が始まる

【ビシュケクIPS=ゾルタン・ドゥジジン】

米軍基地がロシア軍基地からわずか40kmのところに―こうしたことがキルギスでは実際に起こっている。キルギスはいま、列強によるあらたな争いの場なのだ。 

キルギスを含む中央アジア地域では、モンゴル、アラブ、中国、イギリス、ロシアなどの強大な勢力が長らく相争ってきた。そこに新たに加わったのが米国である。 

2001年、アフガニスタンでの戦争に利用するために、首都ビシュケクにマナス空軍基地を設置したのだ。しかし、そこからわずか40kmしか離れていないカントには、ロシアが別の空軍基地を構えている。

 今年初め、キルギスのバキエフ大統領とロシアのメドベージェフ大統領は、ロシアがキルギスに対して20億ドル規模の融資や投資を行う計画を発表し、この直後、キルギスが要求して、いったんは米軍基地の撤退が決まった。 

しかし、米国はマナス基地の使用料を以前の3倍にあたる年6000万ドル支払うことを提案し、米軍基地は一転してキルギスに留まることになった。ただし、米兵の不逮捕特権は以前より弱められ、マナス基地の警護の権利はキルギス軍に与えられることになる。 

米国はさらに、空港インフラ整備に3600万ドル、管制施設整備に3000万ドル、反テロ・麻薬撲滅対策に3000万ドル、再開発計画に2000万ドルなどを投じることを約束した。 

しかし、問題がないわけではない。ソ連崩壊以降、イスラム系暴力集団の国内での活動が活発になったとされている。米国によるアフガニスタン・パキスタンでの戦争のために、「より安全な」中央アジア諸国にテロリストが流れてきているとの懸念もある。 

他方で、トルコと中国がキルギスへの影響力を強めつつある。 

トルコは教育分野への投資が多い。すでに、キルギス・トルコ大学(マナス)とアタトゥルク・アラ・トゥー国際大学の建設を支援している。 

キルギスの量販市場を席巻しつつある中国への地元住民の評判はあまりよくない。2004年から06年にかけて、中国からの輸入は3倍の16.4億ドルまで伸びた。中国人貿易商たちが乗ったバスが焼き討ちにあったとの情報もある。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 

なぜ核兵器を廃絶するのか(梅林宏道)

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【IPSコラム=梅林宏道】

「なぜ核兵器廃絶なのか?」この素朴な問いが最先端の問題になっているように思われる。広島、長崎の原爆投下を経験した日本においては、核兵器のもたらす非人道的な惨害が核兵器廃絶を求める深い願望として存在している。しかし、これだけでは「核兵器のない世界」のビジョンを描くには不十分だ。核兵器廃絶の努力は、より平等で、公正で、人間的な地球社会を創り出そうとする挑戦に強く結び付くものでなければならない。 

米国で新たに反核イニシアチブが始まり「核兵器のない世界」という概念が現実的な目標として再浮上したことで、私は改めてこの「なぜ」という問いに直面した。 

貧困や気候変動といった問題に対するグローバルな取組みは、あたかも人間社会が律せられるべき暗黙の規範に導かれているかのように、当然のことと考えられる傾向にある。しかし核兵器廃絶運動は、それとは対照的に、国の安全保障との関連から個別兵器の問題の枠組みに閉じ込められがちである。核廃絶の問題は、倫理上の、グローバルな人間にかかわる問題として見られないのである。従って、核廃絶運動を成功させるためには、私たちは思考基盤において、より広い空間に出る必要がある。

Hiromichi Umebayashi

 私は10年前に元英国海軍中佐のロバート・グリーン著「核兵器廃絶への新しい道」を日本語に翻訳したが、それ以来ずっと気にかかっている問題があった。そこには、200年前の奴隷制度廃止運動と核兵器廃絶運動とのアナロジーを語る中で、「ただ奴隷制度の残酷さのみを語るのではなく、それを法的問題として語ることによって、奴隷制度廃止運動は成功した」という趣旨が述べられていた。 

グリーン中佐の研究から教訓として学んだことは、国内法、国際法にかかわらず重要な法律を制定させた政治意志の背景には、人類が経験した時代時代の苦しみや苦悩が刻まれているという事実であった。そして、そのような法律には、制定過程で妥協を強いられたとしても、新たな時代を切り開く取組みにおいて活用できる法的規範、語法、概念体系が含まれていることを学んだ。 

兵器を禁止・制限する国際諸条約の前文には基本的な法規範や原理が謳われている。しかし核兵器を制限する諸条約とその他の兵器に関するものとでは、その内容が大幅に異なっている。生物兵器禁止条約、化学兵器禁止条約、対人地雷禁止条約、そして最近のクラスター弾禁止条約には、「禁止は文明世界の当然の要件であり、人間の良心が命じる法に従うものである」として、人道的、道徳的根拠が明確に解説されている。一方驚くべきことに、核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)のような核兵器に関する諸条約では、事情が全く異なるのである。 

生物・化学兵器禁止条約にあるこれらの規範を読んだ読者は、これらすべては、核兵器の禁止・制限にとっても当然の規範として記述されるであろうと想像するに違いない。しかし、それは全くない。NPTやCTBTのどこにも、同様の人道的・道徳的規範に関する記述はないのである。はたしてこのように脆弱な法的立場で、「核兵器のない世界」が実現できるのだろうか。 

核兵器が上記のような規範状況に留まっている理由は明らかである。それは核兵器保有国の参加を確保するためにはそのような婉曲語法が必要だからである。しかしこのような手法を受入れている限り、国際社会は、核兵器の本質とそれが人類の未来の世代に及ぼす影響を踏まえた法規範を確立することに失敗するかもしれない。そうなれば、「核兵器のない世界」を、人類社会にとってより良い世界としてビジョンを描くことはできないだろう。 

従って、私たちが取り組むべき第一の課題は、たとえ核保有国が、核兵器の未曾有の脅威に見合った倫理規範を規定しているがゆえに受け入れなかったとしても、なお有効であるような国際的な法律文書を確立する道を探求することである。 

その方向性を示唆する試みとしては、レベッカ・ジョンソン女史が最近の論文(「軍縮外交」2009年春季号)の中で議論している、核兵器の使用・威嚇を禁止する条約案がある。ここでは、市民社会と同志国家が協力し合う、いわゆる「オタワプロセス」が有効なアプローチになるだろう。 

また私たちは、今日の世界がいかに軍事力を背景とした威嚇外交によって歪められているか、そしてその最たる事例が核兵器使用の威嚇であったという事実を、詳細に明らかにしてゆく必要がある。国連憲章に謳われている「人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係」(第1条第2項)や「差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重する」(第1条第3項)といった規範は、核兵器の恐怖が支配する世界においては、決して実現をみることはないだろう。「核兵器のない世界」に向けた道のりは、人類がそのような規範が体現される新たな人道社会を思い描くことを可能にするようなものになるべきであろう。(原文へ) 
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

※梅林宏道はNPO法人ピースデポ(平和資料協同組合)の創設者・特別顧問。工学博士(磁性物理学専攻)。 



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|軍縮|国連会議で核廃絶が焦点に(第21回国連軍縮会議in新潟)

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【東京IDN-InDepth News=浅霧勝浩】

もし「核兵器のない世界」を、現実からかけ離れた単なる夢で終わらせないとするならば、核兵器保有国は、来年5月にニューヨークで開催予定の歴史的な核不拡散条約(NPT)運用検討会議において、政治的な意思、リーダーシップ、及び柔軟性を発揮しなければならない。 

これは日本の本州北西部に位置する新潟市を舞台に、米国、中国、フランス、ドイツ、日本、中東諸国を含む21カ国から約90人の政府関係者や研究者らが参加して3日間に亘って開催された国連軍縮会議における結論である。国連軍縮会議は、89年以降、毎年日本で開催されており、今回で21回目となる。

 この年次会合は、国際社会が直面している差し迫った安全保障問題や軍縮関連の問題について率直な対話や意見交換を行うことができる重要な公開討論の場と考えられている。また会合では、アジア・太平洋地域の国々に関わる軍縮及び核不拡散の問題についても検討がなされている。 

今回の軍縮会合は、「新潟から世界へ:核兵器のない世界に向けた新しい決意と行動」をテーマに、国連軍縮部と国連アジア太平洋平和軍縮センターの主催(新潟県、新潟市、外務省の協力)で、9月24日に予定されている国連安全保障理事会首脳級特別会合まで4週間をきるタイミングで開催された。 

米国のバラク・オバマ大統領は、同首脳級特別会合において議長を務め、国連における最もデリケートな問題の中から、「核不拡散」と「核軍縮」の問題を取り上げる予定である。 

スーザン・バーク米大統領特別代表(核不拡散担当大使)は、初日のセッションにおける講演の中で「核兵器のない世界」実現を目指すオバマ大統領の決意を再確認し、「米国単独では無理だが、(各国を)主導することはできる」と語った。 

またバーク大使は、核軍縮に向けた米国の戦略について、「米国は核兵器の備蓄量を削減することで(核兵器が有する)軍事的な役割の比重を低下させていきます。そして他の核兵器保有国に対しても同様の削減策をとるよう要請していきます。」と説明した。 

 「さらに、米国は現在ロシアと交渉中の第一次戦略兵器削減条約(START1)に替わる新条約には、法的に拘束力のある検証機能を盛り込むことを目指しています。その目的は、新条約を実質的に機能させるものにするためです。」とバーグ大使は付け加えた。 

日本政府を代表して歓迎の挨拶に立った浅野勝人官房副長官は、オバマ米大統領が「米国は核兵器のない世界に向けた具体的な措置を取る」と述べた4月のプラハ演説を挙げ、「世界で核軍縮の機運が高まっています。今こそ協調する時です。」と訴えた。 

「核兵器のない世界」のビジョンを行動に 

ハナロア・ホッペ国連軍縮部長兼軍縮担当上級代表次席は、開会発言の中で、「核兵器のない世界を実現するには、核兵器保有国と非保有国の双方が共に努力していく必要があります。」と語った。 

今回の会議では、「核兵器のない世界」のビジョンを具体的な行動に移す方法が模索された。 

協議された具体的な行動には、大幅な核兵器保有量削減を目標とした準備的な措置、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効に向けた取組みの強化、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉の推進等が含まれる。 

「現存の核兵器が及ぼす脅威や、核兵器の拡散、非国家の所有というリスクは、国際社会の平和と安全にとって最も憂慮すべき課題です。」とホッペ国連軍縮部長は語った。 

川口順子元外務大臣は、現在の国際情勢について、「米ロ両国が核兵器削減に向けた交渉を開始するなど、核軍縮を取り巻く最近の情勢は数年前とは対照的なものとなっています。」と指摘した。 

「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の共同議長を務める川口元外相は、核軍縮に向けた取組みのあるべき方向性について、「私たちは核兵器を保有する諸国間の信頼醸成を促進するとともに、法的拘束力を持って検証できる国際ルールを策定し、それぞれの地域が置かれている安全保障環境を反映した議論を展開していく必要があります。」と自らの信念を語った。 

2010年5月の核不拡散条約(NPT)運用検討会議で議長を務めるフィリピンのリブラン・カバクチュラン駐アラブ首長国連邦大使は、広島に本拠を持つ日刊紙『中国新聞』の取材に対して、「NPT運用検討会議の成功には、政治的な意志とリーダーシップが必要です。私はその機運が高まっていることを嬉しく思います。」と、NPT運用検討会議の行方について前向きな見通しを示した。 

カバクチュラン大使はとりわけ、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を追求するオバマ大統領について「大統領の意欲は、NPT運用検討会議への追い風となっている。」と高く評価した。 

また同時に、カバクチュラン大使は、過去のNPT運用検討会議での合意事項が進展していない現状が「締約国の間で不満を招いている」と指摘し、来年の会議ではNPTの3分野(核軍縮、不拡散、原子力の平和利用)全てにおいて議論を進展させる必要性を強調した。 

それらの合意事項には、「中東非大量破壊兵器地帯」の創設や、「核兵器保有国による、核兵器廃絶の明確な約束」を含む13項目の核軍縮措置が含まれる。 

新潟会議では、来年5月の核不拡散条約(NPT)運用検討会議の展望の他にも、朝鮮半島の非核化から軍縮におけるメディアや市民社会の役割まで、幅広い話題について協議が行われた。 

北朝鮮 

中国政府代表者は、現在進められている朝鮮半島の非核化に向けた外交努力について言及し、「中国の役割に注目するというよりも、むしろ米国、韓国、日本、中国、ロシア間の共同努力によって(朝鮮半島の非核化を)目指すべきです。」と語った。 

「中国はこれまでも、そしてこれからも(半島の非核化という)目標達成に向けた役割を果たしていきます。しかし、他の6カ国協議参加国の重要性や米国との直接対話を望む朝鮮民主主義人民共和国の希望についても十分考慮しなければなりません。」と中国外交部軍備管理軍縮局の江映峰副処長は語った。 

朝鮮民主主義人民共和国は北朝鮮の正式名称である。 

核拡散防止に取り組むカザフスタンのカナット・B・サウダバエフ国務長官は、基調講演の中で、「核兵器保有国は、核兵器削減に取り組むことによって、核廃絶に向けた取組みの手本を示さなければなりません。」と語った。 

サウダバエフ国務長官は、カザフスタンがかつて旧ソビエト連邦の構成国であった過去に言及し、「我が国はソ連時代に繰り返し行われた核実験により深刻な被害を受けました。私たちはその経験から自主的に核廃絶に向けた道を歩き始めたのです。核兵器保有国は、核軍縮に取組むことで、率先して手本を示さなければなりません。」と会場の参加者に訴えた。 

核の傘 

日本共産党の日刊紙「赤旗」によると、今回の軍縮会議では、「核の傘」の問題についても協議が行われた。日本は、米国の「核の傘」による安全保障上の保護を受けている。 

川口元外相は、「北朝鮮の『深刻な脅威』に直面している日韓両国が、自国の安全を不安定化させることなしに、どのように『核の傘』の役割を減らせるだろうか」と発言した。 

川口元外相は、核抑止をなくすのに資する条件として、安全保障情勢の好転と核兵器以外の兵器への依存等を挙げ、それらが達成されるまでは「核の傘」が必要であるとの見解を述べた。 

ニュージーランドの市民団体の代表からは、「非核保有国に対して核攻撃を行わない」とする「消極的安全保障」に法的拘束力を持たせ、「核の傘」から離脱すべきだとの発言があった。 

同代表は参考事例として、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間でも、ベルギーやイタリアなどの国々が、非核ニュージーランドのように「核の傘」からの離脱を図りつつある現状を指摘した。 

今回国連軍縮会議を初めてホストした新潟市は、第二次世界大戦末期、広島、長崎、小倉と並んで米軍による核爆弾投下候補地となっていた都市である。国連軍縮会議はこれまで、京都市で6回、世界初の原爆投下地である広島市で3回、札幌市で3回、長崎市で2回、仙台市、秋田市、金沢市、大阪市、横浜市及びさいたま市で各1回開催されている。 

篠田昭新潟市市長は、オバマ大統領が核廃絶を国家目標として宣言した後のタイミングで新潟市が今回の国連軍縮会議の会場となったことに満足の意を表明し、「今この時期に、新潟の地においてこの問題を協議できることは意義深いことです。」と述べた。 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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│タジキスタン│古きよきソビエト時代を懐かしむ

【パミール山脈IPS=ゾルタン・ドゥジジン】

ソ連の崩壊によって、タジキスタン東部は忘れされられた土地になった。ソ連のなかでもっとも貧しい共和国から、世界でもっとも貧しい国のひとつになってしまったのである。独立国家になったことで、国家所有の農場や灌漑施設、鉱山、交通網、エネルギー工場は失われ、人々はふたたび遊牧生活を余儀なくされている。 

東部のパミール高原があるゴルノ・バダクサン県は、国の半分の土地を占めているにもかかわらず、人口はわずか3%程度。 

パミール高原は、19世紀には「世界の屋根」と呼ばれていた。かつて、シルクロードを利用する商人たちが通過し、のちには、この地をめぐって地政学的な角逐を繰り広げるロシアと英国のスパイたちが通り過ぎていった。

 パミール高原を通っている唯一の道路は、1930年代初頭にソ連軍が建設したパミール・ハイウェイである。この道路は現在かなり老朽化が進み、使っているのは、アフガン北部からケシやヘロインを運ぶ業者ぐらい。なかには、かつてのシルクロードを「ケシ・ハイウェイ」と呼ぶ者もいるぐらいだ。 

半遊牧民生活をしているアジズさんは語る――「ソ連時代にはいろんな食べ物が店にあったし、燃料も安かったし、バスや道路の状況もよかった」。傍らでは、アジズさんの妻が、ヤクのミルクで作ったバターとヨーグルトをごく粗末な機械を回しながら作っていた。 

スターリンが好きだったってわけじゃない。でも、みんなソ連時代を懐かしんでるんだ。信仰の自由はなかったけど、食べ物と仕事はあった」。 

遊牧民の生活が営めるのは夏だけだ。寒い冬には、近隣の街に退避して暮らす。しかし、この間買うことができるのは、法外な値段で売っている輸入のクッキー、パン、チョコレートバー、魚や肉の缶詰(たいていは賞味期限切れ)ぐらいだ。 

エネルギー不足も深刻である。そのために、運営できなくなる学校や病院も相次いでいる。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan