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|軍縮|アラブの民衆蜂起で反核運動が再活性化するか?

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

核兵器の廃絶を求める世界の市民社会の運動が、エジプトとチュニジアに始まり、リビアやバーレーン、イエメン、ヨルダンが続いた草の根デモの驚くべき成功によって、政治的に再活性化されることになるかもしれない。 

創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動局長は、「中東と北アフリカでの動きは、人々の求めるところが無視された中での『安定』が、いかに脆いものであるかを示しています。」「核兵器の脅威から自由でありたいということほど、当然な望みはありません。それは、世界の人びとに幅広く共有されているものに他なりません。」と語った。

Hirotsugu Terasaki/ SGI
Hirotsugu Terasaki/ SGI

 核兵器廃絶をめざす世界的な運動における市民社会の役割について、寺崎氏は、「市民社会の使命は、市民に声を上げることを促し、それを更に大きくすることで、世界の意思決定者を動かし、核廃絶に向けて本当に意味ある措置を取るように求めていくことです。」と語った。 

寺崎氏は、核兵器の脅威がきわめて広範にわたることから、「私たちが必要なのはリーダーシップの新しいパラダイムで、それは、究極的には相互破壊の脅しに依存した核抑止論による『安定性』を拒否する普通の人々によるリーダーシップです。」と語った。 

192の国・地域に約1200万人の会員を有する仏教者の組織であるSGIは、核兵器なき世界をめざすNGOの運動の分野で長く活動を続けてきた。 

核軍縮を強力に訴えてきたSGIの池田大作会長は、世界の核兵器保有国が唱えている「核抑止」理論を拒否してきた。 

核兵器の保有を認められている5ヶ国は、米国、英国、フランス、中国、ロシアである。一方、核兵器保有国と認められていない核兵器保有4カ国は、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮である。 

「核兵器の保有を維持する前提とされてきた『恐怖の均衡』で安全保障を維持するという抑止論的思考を徹底的に見直すことが欠かせないでしょう」と池田会長は最新の「2011年平和提言」の中で述べている。 

先月、平和活動家と市民社会組織の連合がカリフォルニア州サンタバーバラで会合を開き、長く信じられてきた「核抑止」神話を批判した。そして、「世界的な核軍縮を達成する緊急の取り組み」を行うべきだと訴えた。 

 市民連合が採択した宣言にはこうある。「核抑止とは、核兵器保有国とその同盟国が自らの核兵器保有と、その使用及び威嚇する行為を正当化するために使っている政策である。我々は、核抑止を拒否し、段階的、検証可能、不可逆的、透明な形での核兵器の廃絶に向けた核兵器禁止条約(NWC)の交渉をすみやかに開始することを核兵器保有国とその同盟国に要求するべく、あらゆる人々に対して呼びかけていく。」 
 
 市民社会から会議に参加した人々は、「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」から「核時代平和財団」、「社会的責任を求める医師の会(PSR)」、「軍縮・安全保障センター」までさまざまである。 
 
 昨年、NPT加盟国は、中東非核地帯について話し合う国際会議を2012年に開くよう求める提案に合意した。現在、中東における唯一の核兵器保有国はイスラエルであり、長らく米国に庇護されてきた。 

池田会長は「地域の永続的な安定を確保するには非核化は避けて通れない道です。」と語り、「中東非核・非大量破壊兵器地帯へ何らかの形で対話の環境づくりを進めること」を呼びかけている。 

大量破壊兵器には、国連が禁止している生物・化学兵器が含まれる。 

2012年の中東会議の前途が不透明なだけに、対話の環境づくりに一層の努力をする必要がある、と池田会長は述べている。 

池田会長は、核軍縮という目標に向けた3段階の措置を提案している。 

 第一に、すべての保有国が全面廃棄を前提とした軍縮を速やかに進める体制を確保すること。 

第二に、一切の核兵器開発を禁止し防止すること、そして第三に、非人道的兵器の最たるものであるとの認識に基づき、核兵器禁止条約を早期に成立させる。 

とりわけ、核兵器を禁止する国際条約への無関心が広がる状況下で、核廃絶を目指す世界運動がいかに効果的でありうるのか、という問いに関して、寺崎氏は、「核兵器は、人々の生命と世界の存在そのものに対する脅威であるがゆえに、人々が無関心であることができないものなのです。」と語った。 

さらに寺崎氏は、「真の選択は、この無関心を積極的な人知によって打ち破るのか、それとも、悲劇と恐怖によって打ち破られることになるのか、ということでしょう。私たち市民社会組織の使命は、取るべき道は前者であることを確実にすることです。」と語った。 (原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

|視点|鄧小平の中国とアラブの専制政治を混同してはならない(シャストリ・ラマンチャンダラン)

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【ニューデリーIDN=シャストリ・ラマンチャンダラン】

アラブの独裁体制に対するとめどもない民衆蜂起の波が、ひとつの問いを呼び起こしている。すなわち、「アラブを席巻している変化の風は、中国の民衆を政府に対峙させることになるのかどうか」という問いである。

中国においてアラブ諸国が直面しているような騒動が顕在化していない背景には、多くの理由が考えられるが、そうした理由は偏見を排除した目で同国を観察すれば明らかに理解できることである。

 チュニジアやエジプト、リビアといった多くのアラブ諸国と同じように、中国も権威主義的な政治体制だといえるかもしれない。しかし全ての民主主義が同じでないように全ての独裁体制が同じというわけではない、たしかに、中国は独裁国家である。ただし中国のそれは、中国共産党による独裁なのである。

ひとつの違いは、大半のアラブ諸国の独裁政権が、自らの戦略的利益の確保を目的とした外部勢力(大英帝国の衰退後は主に米国)に支援されてきたのに対して、中国の独裁体制は、中国人民自身による革命の産物であり、ナショナリズムの所産であるという点である。
 
 また、自国の民衆によって標的となったアラブの指導者は、自らの富と権力を維持するための専制的な政権を支配してきた独裁者たちである。彼らの親族や取り巻きは権力を梃に蓄財に励み、公金を自らの懐に収め、海外口座に資産を隠した。民衆は、彼らの抑圧的な支配のもとで、自らの権利は踏みにじられ、国益が売り飛ばされてしまったと感じ、自らの政府を独裁者個人の権力と利益のみのために機能する存在と見たのである。

すなわち、問題の核心は、政府の統治形態(民主主義か独裁政治か)を巡ってのものではなく、国家と支配エリートが、民衆の利益に奉仕しているかどうかという点にある。この点で見れば、中国の支配エリートによる実績は、いくつかの民主主義国家、とりわけ途上国の民主主義国家と比較しても、抜きんでたものである。

中国と民主革命に直面しているアラブ諸国の政治経済史と振り返れば、両者を比較できないことは明らかである。

そう遠くない昔、半封建的で半ば植民地化された中国は孤立し立ち遅れた国であった。また、中国の民衆は極度に貧しかった。毛沢東による革命が今日に至る社会変革を引き起こし、その過程で未発達で古い中国は消滅した。こうして毛沢東が築いた政治的基盤の上に、新たな勢いを持った中国が現出したのである。そして鄧小平が解き放った経済政策が、過去30年に亘ってみられた急激な経済開発と経済成長を可能なものとした。

毛沢東の中国と鄧小平の中国は、同じ国の異なった側面を示している。毛沢東の焦点は中国の政治的解放であり、鄧小平の焦点は経済的解放であった。中国の国家と経済主体は、不可分であり、中国共産党の産物なのである。

中華人民共和国の建国が宣言されてから60数年経過するが、その開発の歩みは実に興味深いものである。中国のグローバルパワーとしての興隆は国内の安定と繁栄、すなわち、10億を超える国民を食べさせ国民の大半のベーシックニーズを満たせる経済力に立脚したものである。

また中国の目覚ましい経済成長は、民衆を包摂するものであった。教育、ビジネス、雇用、起業、移動、貿易などにおいて、制限はなかった。定評ある欧米研究機関のものを含む研究調査資料を見ても、9割近くの中国人が国の現状に満足していると報告している。

他方で、中国は深刻な諸課題にも直面している。過去数年では、数十万件の「大衆イベント(小規模の暴動や、社会動乱、デモ、抗議行動)」が中国全土で起こっている。それらは、チベットや新疆の暴動のように、必ずしも海外メディアで取り上げられることはないが、急速な経済成長の負の側面(所得格差、失業者の増大、農村部人口の移動、汚職、犯罪、環境の悪化、社会病理、貧困層の不満等)を表している。

こうした諸問題は、中国の安定を脅かすものとなりかねない。共産党以外の政治勢力が認められない政治環境の中で、こうした問題が放置される余地はなく、政治的に厳しい規制がかけられ、反抗するものは厳しく取り締まられることとなる。1989年の天安門事件で見られたように、政府による強制力は、徹底的な実力行使も辞さないものである。それから20年以上が経過し、不満の声を上げる側も、技術の進化とともに、インターネット、ブログ、ソーシャルメディアといった新たなオプションを手に入れた。しかしこのことは情報規制の技術についても同じで、当局はフェイスブックやツイッターの交信をブロックする技術を手中にしている。

中国政府当局は、中国にジャスミン革命型の抗議運動を呼びかけたメッセージがインターネット掲示板に現れた2月20日以来、治安巡回とインターネット監視を強化し、徹底的な取り締まりを行っている。これは、万一のリスクも冒したくないとする政府当局の強い意志の表れである。また一方で、中国民衆は必要に迫られれば、こうした最も厳しい規制体制ですら、潜り抜けることができることを示した。

中国の民衆は政府と同様に、中国のこれまでの成長にあまりに多くのものを賭けてきた。共産党の実績について包括的に考えれば、その成功が失敗をカバーしてあまりあるものである。中国の民衆は、卓越した忍耐力を有しており、急激かつ暴力的な社会変化を望まないだろう。中国における変革はいつもゆっくりと秩序だったものである。2002年における共産党指導部の交代も円滑になされた。次の指導部の交代は2012年である。

胡錦濤主席と温家宝総理は今日まで順調な政権運営を成し遂げてきただけに、こうした不安定要因が当局の管理を超えて拡大することを許容しない一方で、(天安門事件で見せたような)極端な鎮圧措置にでることも望まないだろう。政権運営の汚点を指摘されることなく円満に引退を迎えようとしている現在の指導部にとって、流血を伴う鎮圧の当事者となることこそ、最も望まないものである。温総理がさらなる情報公開と政府を批判する自由を認めるよう訴えている背景にはこうした事情が考えられる。
 
 次期指導部の人々は、恩総理の融和路線に抵抗していることから、強硬路線の支持者かもしれない。しかしそうであっても、彼らは、もうすぐ権力を掌握するというこの時期にあえてリスクを冒すようなことはしないだろう。

従って、中国共産党、政府、さらに両者内の競合関係にある保守派・改革派の視点から考慮すれば、ここで問題を大きくしたり、対決姿勢を押し出したりしても政治的・経済的に得るものは殆どないのである。

ここで二つの教訓を引き出すことができる。ひとつは、民主体制の下でも失敗する国々がある一方で、中国のように民衆の福祉に奉仕するような独裁体制もありうるということである。もうひとつは、アラブ世界から広がった変革を求める民衆の要求は、必ずしも政治制度そのものを標的としたものではなく、たとえ民主体制であっても、選出された支配エリートの利益のために政権が運営されるようになれば、それは決して安定的なものではありえない、ということである。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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赤新月社(RCA)、日本人ビジネスコミュニティーと協力して被災者支援に動く

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の赤新月社(RCA)は、先の東日本大震災の際の津波で被災した人々を支援するためのキャンペーンを開始し、協力を呼びかけている。

RCAはUAE国内の日本人ビジネスコミュニティーと協力して、義援金及び援助物資の寄付を幅広く呼びかけている。集まった寄付は、日本赤十字社を通じて被災者支援に向けた同社の活動に使われる予定である。

こうした資金集めキャンペーンは、友好国であるUAEと日本の絆の強さを示すものであると同時に、津波被災者の苦しみを軽減し、生活環境を少しでも改善して頂きたいと願うUAE国民の切なる想いを反映したものである。

UAEは、東日本大震災で被災した多くの方々に降りかかった災害の影響を注視しており、日本の人々への深い同情と連帯の気持ちを表明してきた。

RCAはUAE指導者の指示のもと、震災直後から国内日本人コミュニティー及び日系企業に連絡をとり、UAE国内における義援金・支援物資の寄付と日本赤十字への引き渡しについて、最善の方法を協議してきた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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|アフリカ|「独裁者の出現を許容する余裕はない」とUAE紙

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【アブダビWAM】

「大統領選がさんざん延期された上に、現職が敗北を認めず、最終的には対立派閥間の抗争へと発展し、内戦が数百人の死者と多くの難民を生み出す…痛ましい話であるが、多くのアフリカ諸国が経験してきた『よくある話』でもある。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙は報じた。

コートジボワールは、この悲劇的な、しかし本来であれば回避可能な事態を経験した最近の事例である。4月11日、フランス軍と国連軍はアビジャンのローラン・バボ氏の潜伏先を襲撃し、逮捕することでこの内戦に終止符が打たれた。

 「難題は、こうした悪循環が他の国々で繰り返されないよう確実に取り組んでいくことである。アフリカ大陸では向こう18か月以内に少なくとも19カ国が総選挙を実施することとなっている。アフリカはもはやこれ以上の独裁者の出現を許容する余裕はないのである。」と、日刊紙『ナショナル』は4月13日付の論説の中で報じた。

アフリカは、平和的な権力移譲に関して様々な経験をしてきた。1997年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)の前大統領が、権力の移譲を拒否した際は、その後の権力闘争が流血を伴う内戦へと発展し、少なくとも300万人が犠牲となった。

一方でもっと懸命な選択をした国々もある。2009年1月、前月末に実施された大統領選挙(決選投票)で野党国民民主会議 (NDC)のジョン・A・ミルズ氏が、現職で与党新愛国党 (NPP)のナナ・アドゥ・ダンクワ・アクフォ=アドゥ氏に僅差で勝利し(50.2%対49.77%)大統領となった。

「このように接戦の場合、コートジボワールの事例でみられたように現職の大統領が政権移譲を拒否する場合が少なくない。しかしガーナの事例では、アクフォ=アドゥ氏は敗北を認め大統領職を降りた。」と同紙は報じた。

ガーナは過去4回連続で大統領選を平和裏に実施したことから、同国の政治プロセスの透明性を称賛する声が広がりを見せている。2009年にガーナ国会で演説した米国のバラク・オバマ大統領は、「アフリカに必要なのは独裁者ではなく、しっかりとした制度です。」と述べ、他のアフリカ諸国に対して、ガーナの先例に続くよう呼びかけた。

「コートジボワールの最近の危機は、昨年11月28日に行われた大統領選挙でアラサン・ワタラ候補に敗北したローラン・バボ氏が大統領職から身を引くことを拒否したことに端を発している。今年は、ルワンダ、ジンバブエを含む多くのアフリカ諸国にとって選挙の年となるが、指導者たちは、バボ氏の破壊的な事例ではなく、ガーナの先例を踏襲する義務がある。」と、アブダビに本拠を置く英字日刊紙は報じた。
 
翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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|インド|福島第一原発事故でインドの原子力推進はどうなる

【ムンバイIDN=シャストリ・ラマチャンドラン】

日本が3重災害(震度9.0の巨大地震、津波、福島第一原子力発電所の放射能事故)に見舞われた結果、インドの野心的な原子力推進計画に暗雲が垂れ込めている。とりわけ、日本政府とインド政府が協議中の原子力協力協定の交渉は、無期限で延期されることが確実な情勢である。 

また、与党統一進歩同盟(UPA)の最大の戦略的・外交的成果と喧伝されてきた[すでに締結されている]米印間の原子力協定についても、その実施までには両国の当初の予想に反して、より時間を要することになるかもしれない。 

さらに印仏間の原子力協定に至っては、ジャイタプールでの原子炉建設計画に地元からの抗議行動が強まっており、とくに厳しい状況にある。

 日本が深刻な危機に直面する中、空前の進展を見せていた日印間の経済関係も、共同事業の減速、停止などを通じて後退を余儀なくされるだろう。 

日印関係は、2000年代に入って順調に推移し、戦略的・グローバルパートナーシップを構築するまでに発展していたが、ここ数年間にみられたような勢いの大半は、失われることになるだろう。 

日本にとって対インド関係は、良好であった1950年代以降は、あまり進展することなく推移し、1998年のインドの核実験実施によってもっとも厳しいものになった。その後、2000年にビル・クリントン米大統領(当時)がインドを訪問したことが転機となり、その後、インドとの経済的、政治的、戦略的関係が強まることになった。今日、日印間で毎年首脳会談を含む年3回の閣僚会議が開催されている事実は、両国関係の強い絆の深さとその可能性を示すものと言えよう。そうした中で、協議中の日印原子力協定は、もし締結されれば、日印二国間関係で最大の成果となっていただろう。 

日印2国間の貿易総額のみを見れば依然として100億ドル規模であるが、政府開発援助(ODA:インドが最大の受領国である)、直接外国投資( FDI )、外国間接投資(FII)も含めて見れば、日印間の経済協力規模は例外的に高いレベルのものである(因みに、日本がインド以外でこのレベルの経済協力関係を有する国は米国のみである)。このような両国の経済関係を反映して、インドに進出した日本企業はこの5年間で250社から750社にまで急拡大した。また日本は、デリー・ムンバイ間産業大動脈回とチェンナイ・シンガポール間回廊という2つの計画を後押ししている。 

今後東日本大震災からの復興に日本の資源と労力の多くが費やされると予想されることから、日印間の開発計画、とりわけ建設、インフラ設備関連の企業が関与した計画は、大きな見直しを迫られることになるだろう。例外はチェンナイ・シンガポール間回廊くらいかもしれない。また、日印間の戦略、防衛分野の協力関係も後退を余儀なくされるだろう(今日の二国間関係から一方の都合による変更が大きな問題に発展する可能性はほとんどないが)。 

インドは、投資資金の撤退という事態を、なんとか乗り越えることができだろうが、民生用核開発計画が被るダメージは、電力、インフラ開発分野に止まらないだろう。その影響は、インドが従来エネルギーオプションとして追及してきた原発開発の時計の針を巻き戻し、既に締結した米国やフランスとの原子力協定をも危ういものにしてしまうかもしれない。 

日本の核関連技術は世界最高峰で最も洗練されていると評価されている。だからこそ、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)社及びウェスティングハウス社、フランスのアレバ社は、それぞれ日立、東芝、三菱と提携関係を結んでいる。日本の専門知識、技術、部材は、大半の原発設備の中核に使用されている。このため、日本の協力がなければ(日本との原子力協力に関する二国間合意が現時点でない中、事実上困難な状況にある)、米仏の企業が原発建設の発注を受けても建設が困難ということになり、結果的に米印・仏印原子力協定も頓挫してしまう可能性がある。 

さらに、福島第一原発事故は、こうした流れに水をさすことになった。日本には広島・長崎における原爆の経験があり、放射能流出を引き起こした福島第一原発事故は、この記憶が呼び覚すとともに、原発建設をこうしたリスクを踏まえたモラルの問題として再浮上させた側面がある。 

福島第一原発事故に危機感を抱いた人々は、日本政府が近い将来、インド政府との原子力協定締結を検討することにさえ反対するだろう。また、こうした日本国内に広がる感情は、インドや世界各地における原発反対世論を押し上げることになるかもしれない。そして、ジャイタプール原子炉建設計画に対する地元住民の抗議活動のような現在進行中の反原発運動は、こうした世論を背景に新たな勢いを獲得するだろう。 

世界各国に目を移せば、中国は原子力発電計画の承認を一時中止し、ドイツは7つの原発施設の閉鎖を決定した。そして米国とインドも操業中もしくは建設中の施設を対象に包括的な安全性検査を行う方針を示した。しかし、各国政府のこうした措置は、国民の原発に対する信頼を高めるどころか、かえって反対世論を勢いづかせる結果になったかもしれない。 

問題は、原発施設そのものの安全うんぬんにあるのではなく、原子力に対する世論の感情にある。こうした現状は、インドにとっても、原発の将来にとっても、現在の成長・開発モデルにとっても、よくない徴候であることに違いない。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 


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「もうひとつのノーベル賞」受賞者、原発廃止を訴え

【ベルリンIDN=ジュッタ・ウォルフ】

「もうひとつのノーベル賞」と呼ばれるライト・ライブリフッド賞の受賞者ら50人が、核兵器廃絶だけではなく、原子力発電からも撤退すべきだとする声明を3月29日付で発表した。

日本で起こった原発事故に関して、声明はこういう。「自分自身のために、そして、将来世代の受託者として活動している人間社会は、地球絶滅を引き起こしかねない技術を扱う際には、とりわけ注意を払わねばならない。われわれは、こうした技術から徐々に脱却し、それを廃し、現在・将来の世代を傷つけることのない別のものを目指さねばならない。」

 声明では、原発維持によって生み出される放射性廃棄物は、人類の文明が存在するよりもずっと長い期間にわたって毒性を保ち続けるものである、と警告する。

さらに、より安全で信頼性の高い再生可能エネルギーを開発するための経済的・人的資源を原発が奪ってしまうことも批判した。

核兵器と原子力発電の関係については、「原発計画は核兵器にも転用可能な核分裂性物質を利用し生み出すものであり、核拡散への道を開くものに他ならない。」と述べた。

「原子力は近代のエネルギー問題への答えでもないし、気候変動問題への特効薬でもない。さらなる問題を生み出すことによって、何か問題を解決することなどできない。」

ライト・ライブリフッド賞の創設者のひとりであるヤコブ・フォン・ユーカル氏は、「気候変動や核の脅威の問題に立ち向かうことは、技術的な問題ではない。それは、心理的、政治的問題なのだ」と喝破する。

声明には、ワンガリー・マータイ(ケニア)、ヴァンダナ・シヴァ(インド)、アショク・コスラ(インド)、モード・バーロウ(カナダ)、ハフサト・アビオラ-コステロ(ナイジェリア)、アレクサンダー・リコタル(ロシア)、フランシスコ・ウィタケル・フェレイラ(ブラジル)、アーウィン・クラウトラー(オーストリア)などが署名している。

ライト・ライブリフッド賞受賞者らの、福島原発事故への反応を報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

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【モスクワIPS=ケスター・ケン・クロメガー】

米国との間で新しい戦略兵器削減条約(START)を締結することがメドベージェフ政権の最優先事項であると考えられるが、この協定によって将来のロシアの軍事力が抑制されることになるのではないかという懸念が専門家の間で出てきている。

 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と米国のヒラリー・クリントン国務長官は、2011年2月5日、条約の批准式を行った。同条約によって、米露それぞれの戦略核は、現在の上限2200発から1550発まで減らされることになる。

ロシア国会(ドゥーマ)外交安全保障委員会のアレクサンドル・フォメンコ委員は、条約によってロシアの軍事力が弱められるとは考えていない。「戦略兵器は冷戦期に構築されたものであるから、戦略攻撃兵器の削減が今日行われることはおおいに理解できます。今日の真の近代戦は特殊作戦戦争であり、これは新しい現象なのです。」とフォメンコ氏はIPSの取材に応じて語った。

フォメンコ氏はまた、戦略兵器は核兵器の不使用を保証するものでもあり、ロシアは現在、新型ミサイル「トーポリM」と「イスカンダル」、及び他国からの攻撃に反応できるその他の兵器を保有していると述べた。

軍備管理協会(ワシントン)のトム・コリーナ氏は、「新STARTの締結で米露関係は非常に強化され、両国間の信頼が築かれただけではなく、両国の市民はより安全になりました。条約は両国の利益になります。核戦力を減らし、査察を復活し、信頼感を増すことで双方の安全が高まるのです。この成功を基礎として、長距離核だけではなく短距離(戦術)核も対象にした新条約に進むべきです。」と語った。

しかし、ロシアの中にも条約への批判がある。自由民主党のウラジミール・ジリノフスキー党首は、ロシアの軍事力が著しく抑制されることになると主張しているし、共産党のゲンナジー・ジュガーノフ党首は、核戦力を削減すればロシアの安全が危ないと述べている。また、退役将校のレオニド・イワショフ氏は、「新STARTは通常兵器における米国の優勢の問題を扱っていないがゆえに、ロシアにとって甚大な悪影響がある。」としている。

ロシア下院国際問題委員会のコンスタンティン・コサチェフ委員長は、国会の立場を地元メディアにこう説明している。「重要な考え方は、米国が新条約の特定の条項に関してくだす一方的な解釈は、ロシアに新しい義務を課すものではない、ということだ。」

セルゲイ・イワノフ副首相は、「条約は両国の核兵器を相当程度削減することを規定しているが、それぞれの軍隊の戦略的構成要素の開発に影響を与えない。」と指摘したうえで、「条約は、規定された制限を守ること以外に、ロシアにいかなる新しい義務を与えることも想定していない。ロシアは、米国と同じように、将来的に戦略的戦力を開発し続ける権利を持っている。」と語った。

さらにイワノフ副首相は、「この点で、新STARTは双方の戦略攻撃兵器のレベルに制限を課したものではない。軍隊の戦略的構成要素を開発するために策定済みの我々の計画は、完全に生きている」と付け加えた。

つまり、ロシアは、とくに先端的な兵器として、潜水艦に搭載する弾道ミサイル「ブラバ」や(大陸間弾道ミサイルである)「RS-24ヤルス」を開発し続ける、ということである。

ロシア外務省外交アカデミー研究・国際部門のエフゲニー・バザノフ副代表は、「ロシアと西側は接近し、非常に良好な議論を積み重ねてきた。両国間の関係は、他の核兵器保有国、あるいはこれから核を取得しようとする国に対して、米露は軍縮プロセスを推し進めるつもりであり、他国もそれに参加すべきだというメッセージを発することになります。」と語った。

条約は米露関係の改善につながり、両国による協力への機会を提供することになるであろうと見られている。共同のミサイル防衛システム構築という難しい問題も含め、両国間で軍事問題に関するさらなる協議への道を開くであろう、と新STARTの支持者は考えている。

「共同のミサイル防衛に関して何らかの協定があるとすれば、ロシアと米国、NATOは真のパートナーになれるでしょう。そうした協定のひとつの有益な効果は、世界規模での緊張緩和に資するという点にあります。」とバザノフ氏は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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|アフガニスタン|コーラン焼却に対する抗議デモで国連職員が犠牲に

【カブールINPS/ AlJ=特派員】

アフガニスタン当局によると、同国北部の都市マザリシャリフで、米国で牧師がイスラム教の聖典コーランを焼いたとされる報道に怒ったデモ隊が暴徒化し、同市内の国連事務所を襲撃して少なくとも11名が死亡した。

今回の襲撃事件は、国連が標的となったものとしては、2001年に米国が主導した有志連合軍によるアフガニスタン侵攻以来、最悪のものとなった。

米国フロリダ州の牧師が聖典コーランを焼却したとする報道に怒った約2千人の民衆が、マザリシャリフ国連アフガン支援ミッション(UNAMA)事務所前で抗議集会を開いていたが、一部が暴徒化して事務所に乱入し、警備員に発砲、館内に放火した。

  国連は、この襲撃で国連職員3名(ノルウェー、スウェーデン、ルーマニア人)とネパール人警備員ら4人が殺害されたと発表した。犠牲者の中にアフガニスタン人は含まれていなかった。しかしAP通信に国連職員が語ったところによると、7人の職員と4人のアフガニスタン人デモ参加者が死亡したとの報道もある。その他、20人のデモ参加者が負傷したとみられている。

これまでに、全職員がUNAMAマザリシャリフ事務所から退避している。

アフガニスタン警察は、詳細は不明としながら、犠牲者について、国連職員8名(内、2名は頭部を切断されていた)、アフガニスタン人デモ参加者4名と発表していた。

アルジャジーラのハシェム・アヘルバラ記者は、「デモに参加した群集は、昼の祈りの直後にUNAMAマザリシャリフ事務所前に集結した。同事務所は、アフガニスタンにおける国連の主要拠点の一つである。デモ参加者の中にはナイフで武装していたものもおり、事務所長は襲撃で重傷を負った。」と、カブールから報じた。

「抗議集会は、極めて暴力的な襲撃へと変質した。」とアヘルバラ記者は説明した。

北バルク州のアタ・モハンマド・ヌール知事は、反乱軍の兵士は抗議集会を国連襲撃の隠れ蓑として利用した、と語った。

「反乱軍兵士たちは、この状況を利用して国連事務所を襲撃したのです。」とヌール知事は語った。

またヌール知事は、犠牲者の中にネパール人のグルカ警備員が含まれており、彼らは民間の警備会社に所属していたことを明らかにした。

タリバンは、今回の犯行を認め、「今回の襲撃は来る大統領選挙に反対するキャンペーンの第一歩である」との声明を発表した。

アフガニスタン当局の発表によると、当初は約2000人の群集がマザリシャリフの国連事務所前に集結していたが、やがて一部の群集が国連事務所の警備員から武器を奪取し警察官に発砲し、国連事務所になだれ込んだとのことである。

潘基文国連事務総長の広報官ファルハン・ハク氏は、アルジャジーラ国連特派員の取材に応じ、事務総長は今回の襲撃に関する情報を収集しているが、「これは卑怯な攻撃であり、いかなる状況においても正当化できるものではない」と考えていると語った。

またハク報道官は、「ステファン・デ・マツラUNAMA代表が、早速状況確認のため事件当日にマザリシャリフに赴いている。」と付け加えた。

マザリシャリフの国連職員は、選挙支援、政策提言、人道的支援、復興・開発事業を含む幅広い活動に従事している。

「UNAMAのこうした活動の全ては、アフガニスタンの人々に可能な限りの支援を行うよう配慮されたものです。だからなおさら、UNAMA事務所が襲撃の対象となったことは決して正当化できることではないのです。」とハク報道官は語った。

昨年、米フロリダ州ゲーンズビルのキリスト教会「ダブ・ワールド・アウトリーチ・センター」のテリー・ジョーンズ牧師は、9・11同時多発テロ記念日に聖典コーランを焼却すると発表して激しい論争を引き起こした。その後、ジョーンズ牧師は、米国政府高官からの圧力もあり、焼却イベントを「中止する」としていた。

ところが今年の3月20日、ジョーンズ牧師は、同教会のウェイン・サップ牧師が聖典コーランを焼却するのを見守った。

これまでアフガニスタンで国連職員を標的とした最悪の事件は、2009年10月に首都カブールで起こった国連宿泊施設に対する襲撃事件で、国連職員5人が死亡し、9人が負傷している。

その他の国々でも国連職員が標的となるテロ事件が発生しており、2007年12月にはアルジェの国連施設が爆弾テロによる攻撃を受け、17名の職員が殺害されている。

また2003年8月には、国連現地本部が入っていたバグダッドのホテルが爆破され、セルジオ・デ・メロ国連事務総長特別代表を含む少なくとも22名が殺害された。(原文へ

翻訳=INPS Japan戸田千鶴

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│トルコ│リビアをめぐり、古い帝国の対立が復活

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【アンカラIPS=ジャック・コバス】

トルコ国民会議は3月24日、非公開の審議で採決を行い、それまでの方針から180度転換して、リビア内戦に対する北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入作戦に参加することを決定した。トルコ政府はそれまでリビア情勢への西側同盟国の干渉に徹底して反対する態度を通してきただけに、この突然の方針転換は、リビア問題に対するトルコの姿勢を一層分かりにくいものにする結果となった。

3月17日に国連安保理が採択した決議1973号(賛成10、棄権5:ブラジル、中国、ドイツ、インド、ロシア)は、反政府軍と戦闘状態にあるムアンマール・カダフィ政権の動きを封じ込めるため、リビア上空での飛行禁止区域の設定などについて定めていた。

 トルコ政府の計画では、同国のフリゲート艦4隻、支援船1隻、潜水艦1隻を参加させる予定である。海軍の参加をすでに表明している5ヶ国は各1隻ずつの参加規模にとどまっていることから、トルコ軍はかなりの割合を占めることになる。これらの艦艇は、イタリア軍の指揮下で、リビア政府軍向けの武器等の海上輸送を阻止する任務に従事する予定である。さらにトルコ政府は25日、イズミルの空軍施設をNATO軍が飛行禁止区域を履行する拠点として提供する方針を発表した。
 
 24日、トルコ国民会議議事堂や米国大使館の前では、野党勢力やNGOを中心に数百人が抗議集会を開き、トルコのリビア内戦への関与や、欧州連合軍最高司令官ジェームス・スタブリデス氏のトルコ軍高官との会談に反対するスローガンが叫ばれた。

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン政権は、リビアでの内戦勃発以来、一貫して西側諸国による内戦介入を抑える側に回ってきた。これは、2008年12月にイスラエルが軍事作戦「鋳造された鉛(キャストレッド)」でパレスチナのガザ地区に侵攻して以来、トルコ・イスラエル関係が悪化してトルコが中東に回帰し、同地域での(西側諸国との)仲介役を自認するようになった流れの延長線上にある(この結果、トルコはイスラエルとの軍事交流を停止、冷戦状態に突入したことから、中東諸国ではエルドアン氏に対する支持が高まった)。

こうした中東でのトルコの振舞い方は、専門家の間で「ネオ・オスマン帝国的」だと評されることもあるが、昨年12月以来、国内で民主化要求デモに直面しているエジプト・リビア・バーレーン・サウジアラビアなどの指導部に対して、トルコ政府は、自制を促し、民主化へと向かうよう活発に調停外交を展開してきた。

トルコのこうした外交活動の背景には、3か月後に迫った次回の国政選挙を見据えて、政権の高支持率を支えてきたアラブ諸国との好調な経済関係を最重要視したいというエルドアン政権の思惑がある。

エルドアン首相が党首をつとめる与党公正発展党(AKP)は、2002年に政権を獲得して以来、主に中東諸国への好調な輸出(5年間で600%増の300億ドルで総輸出の3分の1を占める)に支えられた好景気を背景に、2007年の総選挙で空前の勝利(47%の票を獲得)を収めた。トルコのリビアへの直接投資は150億ドル強にのぼる。

従って、国連安保理決議1973号の適用をトルコ政府が心配するのも容易に理解できることである。トルコはNATO加盟国の中で唯一のイスラム国家として、中東地域(トルコがオスマン帝国時代に1918年まで500年に亘って支配した地域)において帝国主義的な役割を果たしていると見做されたくないのである。

しかし一方で、トルコは、中東で起こっている出来事について傍観者でいられる立場ではない。それはNATOの活動に積極的に関与することで、トルコははじめて、西側同盟国の情報や政治的意図を把握でき、その意思決定過程に参加できるからである。

エルドアン首相は21日、イスタンブールで声明をだし、(リビア情勢への干渉のために)急いで組織された英仏同盟の動機に疑問を呈するとともに、「リビアの天然資源奪取を企図したいかなる軍事作戦も許されるものではない。」と語った。また、フランスのアラン・ジュペ外相が(今回の攻撃を)「現代の十字軍」と間接的に言及したことについて、「私は、中東といえば、原油、金鉱、様々な地下資源しか見ない者たちに、これからは『良心の眼鏡』を通して中東を見てもらいたいと願っている。」と痛烈に批判した。

フランスはトルコの欧州連合加盟に一貫して反対しており、このことが時折、両国間の対立の火種となってきた。今回、フランスのニコラ・サルコジ大統領は、決議履行のために3月19日に開いた国際会議にトルコを招かなかった。そして、安保理決議1973号からわずか2日後に仏英を中心とした多国籍軍がリビア内戦への介入を開始した。こうした動きが、トルコの急激な方針転換を促したものとみられる。

エルドアン首相のこうした発言は、トルコが現在置かれている微妙な外交的な立ち位置を反映したものである。それはこうした中東の利益を代弁して西側に対峙する発言は、トルコが自認する中東の民主的なイスラム国家のイメージをアピールするとともに、国内の保守層やアラブ世界の反西側感情に訴えることができ、選挙対策にも有効だからである。

しかし、トルコは同時に、「中東における西側との仲介者」という新たな外交的立場を強化していくためには、西側列強諸国の一員にとどまっていなければならないとというジレンマを抱えている。今回の対リビア軍事介入における英仏同盟の背景には、中東地域に影響力を伸ばすトルコに対して危機感を抱く両国が、新たなアラブ世界に勢力を確保しようと乗り出してきた構図が浮かび上がってくる。

多国籍軍を構成している英国、フランス、イタリアはいずれも、1918年以降にオスマン帝国に代わって中東を植民地支配した旧宗主国であり、明らかに今回の軍事干渉を通じて、中東舞台への勢力「復活」の可能性を見出している。問題は、彼らが銃を抱えてやってくるのか、それとも平和の使者としてやってくるのか、という点にある。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


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【アブダビWAM】

「シリアの主要な地方都市であるダルアーやラタキアで連日大規模なデモが繰り広げられる中、民衆の改革への希望は高まりを見せているが、明らかにバシャール・アサド大統領は、いかなる変化も、とりわけ民主化圧力のもとで改革を強いられることを恐れている。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙は報じた。

「3月30日のアサド大統領の演説には国民の多くが期待したが、結局政治改革についてはなんの言及もなく、失望に終わった。」とドバイに本拠を置く英字日刊紙「ガルフニュース」は4月1日付の論説の中で報じた。

 また同紙は、政府報道官が、大統領の演説内容について、1963年から続く非常事態宣言の解除や新たなメディア関連法の導入の可能性、さらに支配政党バース・アラブ社会党の絶対優位を定めた憲法の改正について言及される画期的なものとなるだろうと事前に触込んでいた点を指摘した。

同紙は、3月29日のムハンマド・オトリー内閣の総辞職(アサド大統領による事実上の更迭で国民への融和姿勢を打ち出したもの)に続くこうした具体的な公約に、国民の間で政治変革への期待が高まっていたと報じた。しかし実際のアサド大統領による国会演説内容は「そうした民主改革を無視したもの」であり、国民は期待を裏切られたと報じた。

アサド大統領は、演説の中で、「シリアに騒乱の種を播こうとする巨大な陰謀がある」と指摘した上で、「シリア国民は平和的だが、われわれは国益や理念、価値を守ることをちゅうちょしたことはない。私は戦いを望まないが、挑まれれば、喜んで応じる」と述べた。

「エジプトに次ぐアラブ世界最大の軍事大国の大統領によるこうした発言には独特の響きがある。シリア政府が民主化を要求している勢力とのいかなる対話も拒否し、治安当局を頼みとした治安重視に再び舵を切った手法は、1946年にフランス勢力が撤退した後に一党独裁体制を数十年に亘って行ってきたバース党政権の権威主義的支配の継続を意味するものである。」と同紙は報じた。

また同紙は、「シリアの主要な地方都市であるダルアーやラタキアで連日前例のない大規模なデモが繰り広げられる中、改革への期待が高まっていた。しかし政権側は明らかにいかなる変化も、とりわけ民主化圧力のもとで改革を強いられることを恐れている。今懸念されることは、多くのコメンテーターが言及している1982年のハマーの虐殺(ムスリム同胞団の鎮圧に政府軍が街を包囲攻撃し数万人の市民が虐殺された事件)のような、政府による抗議勢力に対する大規模な鎮圧作戦が実施され流血の大惨事を招く事態である。政府はそのような事態は事態は避けるべきである。」と報じた。

ガルフニュース紙は、「今後政府による前向きな動きがあるとするならば、治安当局に令状なしの逮捕や尋問を認めてきた非常事態法の解除がその第一歩となるだろう。」と報じた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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