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|日本|与党スキャンダルが政治改革に打撃

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【東京IPS=C.Makino】

民主党内で持ち上がった資金洗浄疑惑は、昨年9月に誕生した新政権が、ほぼ半世紀にわたって政権を担ってきたスキャンダルまみれの保守政党とは一線を画した存在であってほしいとの国民の希望を打ち砕いた。

民主党の小沢一郎幹事長は、同氏の政治資金管理団体「陸山会」による2004年当時の土地購入疑惑について、東京地検特捜部の捜査を受けている。

伝えられるところによると、総額400万ドルを超える土地購入に使われた資金には、違法な企業献金、特に小沢氏の地元である岩手県のダム建設に関わる建設会社からのものが含まれているのではないかと見られている。

 同建設会社の役員は特捜部の調べに対して、岩手県のダム建設受注の見返りとして小沢幹事長の秘書に50万ドルを支払ったと供述している。こうした状況を背景に、小沢幹事長に対して「陸山会」資金の流れについて明らかにするよう求める圧力が強まっている。

いくつかの世論調査によると鳩山由紀夫内閣の支持率は12月には50%を維持していたがこのスキャンダル絡みで逮捕者がでて以来、40%に急落した。

他の世論調査では、約70%の回答者が小沢氏は幹事長辞任し、スキャンダルの責任を負うべきと回答している。

小沢氏は昨年夏の衆議院総選挙において従来の自民党による政権支配に終止符を打ち民主党に大勝利をもたらした立役者といわれている。

かつて自民党議員であった小沢氏は、昨年上旬に持ち上がった政治資金スキャンダルで右腕の鳩山氏に地位を譲って退陣するまで民主党の代表を務めた。

支持率の低下に加えて、今回のスキャンダルは日本の有権者に対して、民主党も昨年夏の衆議院総選挙で政権を追われた自民党と本質的になにも変わらないという印象を与えてしまったようだ。

「私にとって優先事項は経済と失業問題です。小沢氏には幹事長を辞職してもらい、政府には経済対策に専念してほしいです。」と30代のサラリーマン藤田博氏は語った。

「小沢氏は私たちに理解できる言葉で説明すべきだと思います、国民あっての政治家なのですから。」と中年層の主婦は語った。

「旧態依然とした政治で、同じように腐敗していると思います。小沢氏は辞職すべきだと思います。」と大学生の小松雄志氏は語った。

しかし小沢氏は高まる辞任要求の声にも屈しないようである。小沢氏は幹事長続投と政治家としての職責を引き続き全うしていく決意を表明した。

「私は今回のことはなんとしても納得いかない。」1月16日、4か月前の新政権発足後初めてとなる民主党大会で挨拶に登壇した小沢幹事長は、自身の元秘書の相次ぐ逮捕について、このように語り、検察当局に対して抗議の意思を表明した。

小沢幹事長の元秘書3名が、政治資金規正法違反で逮捕された。そのうちの一人石川知裕氏は民主党の現職議員である。

「我が党の党大会の日に合わせたかのように、このような逮捕が行われている。私は、とうてい、このようなやり方を容認することはできませんし、これがまかり通るならば、日本の民主主義は本当に暗澹たるものに、将来はなってしまう。」と、小沢氏は党大会で述べた。3人目の逮捕はこの党大会の最中に行われた。

今回の一連の逮捕は、7月に予定されている参議院選挙で民主党にとって不利に影響を及ぼしそうである。

「小沢氏と彼の政治資金管理団体『陸山会』を取り巻く資金洗浄疑惑は民主党率いる政権与党にとって大変な痛手となるだろう。」「小沢氏は、近年の日本の政治史において最も影響力を持った政治家の一人だが、今回の資金洗浄疑惑について自身の関与を明白に否定できる説得力ある説明ができなければ、いずれ議員辞職をせざるを得なくなるだろう。」と、ワシントンに本拠を置くマンスフィールド財団のフェロー、ウェストン・コニシ氏は語った。

小沢氏は民主党幹事長として、夏の参議院選挙における選挙運動の作戦担当者でもある。

「小沢氏の選挙手腕なしに、民主党は次の選挙で参議院における十分な議席を獲得できないのでないかとの懸念がある。民主党にとって、この選挙における安定多数の獲得が、連立パートナーに頼ることなく単独で政策実現するための布石と考えられている。」とコニシ氏は語った。また鳩山政権の7兆2千億円にのぼる経済対策パッケージも、このスキャンダルの結果、頓挫するかもしれない。

「もし鳩山政権が、自らを(自民党と異なる選択肢としての)『きれいな政権』として印象付けることに失敗した場合、自民党の政権復帰への道を開くことになるだろう。」とコニシ氏は語った。

またコニシ氏は、民主党の中で大きな勢力をしめる「小沢チルドレン」といわれる議員達も剛腕幹事長との関係から「陸山会」のスキャンダルの影響を受ける可能性があると警告した。「もし彼らの中にスキャンダルに直接関与しているものがでてくれば、民主党一般党員間に大きな混乱を起こすこととなるでしょう。」とコニシ氏は語った。

テレビ中継された民主党大会に登壇した小沢氏は、自身に向けられた疑惑に反論して、東京地検特捜部は「政治的動機による」捜査を行っていると当局を批判した。

これに対して、日本の国際関係と歴史に詳しい谷川幹氏は、「中には、東京地検特捜部が自身も官僚組織であることから鳩山首相が進める官僚の力を削ぐ政策を快く思っていないという主張をする人々がいる。しかし、検察当局は行政職の官僚とは役回りが異なるものであり、実際検察当局の権限抑制には全く触れていない鳩山官僚改革そのものには関心がないはずだ。」と語った。

鳩山政権は、強大な権限を享受してきた日本の官僚組織にメスを入れると公約して政権の座に就いた。

「検察当局はたしかに政府支出に依存しているが、検察の第一の関心事は独立した権限を維持して腐敗した政治家たちを逮捕できることにあります。」と谷川氏は語った。

今回のスキャンダルについて、鳩山首相は小沢氏を擁護する立場をとっている。鳩山首相は、「小沢氏を信じており、幹事長に対する深刻な非難に対して『民主党は結束すべきだ』」と述べた。

一方、日本のメディアの中には、民主党内には小沢幹事長は辞任すべきと考えている議員もおり党内の亀裂が表面化しつつあると報じているところもある。

民主党内の空気に関わりなく、民主党についた今日の曇ったイメージは、かつて政治から疎外されてきた人々に改革勢力として自らをアピールした同党にとってよい兆候とはいえないだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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|日本|誇りと慎重さをもって(海部俊樹元総理大臣インタビュー)

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【ベルリンIDN-InDepth News=ラメシュ・ジャウラ】

海部俊樹元総理大臣は、79歳になった今も、政治的な読みの深さと生命と政治に対する人間味溢れるアプローチで、日本国内はもとより広く海外においても尊敬を集めている。

海部氏は、IDNのインタビューの中で、活発な政治人生における早期の取組みを誇りと満足感を持って振返るとともに、細心の注意をもって世界の現状を考察し、将来に影響を及ぼす詮議中の政策については慎重な対応をアドバイスした。

 海部氏の政治活動は、衆議院最年少候補として初当選した1960年に遡る。5年後、海部氏は青年海外協力隊(JOCV)創設に尽力した。JOCVは、設立以来、アジア、アフリカ、中東、ラテンアメリカ、太平洋地域、東欧の83カ国に対して33,541名の協力隊員を派遣している。

11月末にローマで開催された「途上国の開発と女性」をテーマとした国際会議に出席した海部氏は、会議終了後にIDNのインタビューに応じ、「(今回途上国各国からの出席者の発言を聞いて)援助を受ける側のニーズを最優先し、資金援助やJOCV派遣を通じた技術援助を通じて援助受領国の自助努力を支援してきた日本の国際開発援助におけるアプローチは正しかったと改めて再認識しました。今日の世界的な経済危機を背景にアフリカ諸国の女性を取り巻く深刻な状況を考えれば、このような日本の援助が益々必要とされていると思います。」と語った。

日本は過去45年の間にJOCVを通じてボランティアをタンザニア、ガーナ、エジプト、コンゴに派遣してきた。(ただしコンゴの場合は政情不安から一時派遣を中止せざるを得なかったが。)海部氏はJOCV創設者として、日本がアフリカ諸国に対するこうした長年に亘る親善協力を実施するにあたっていかなる政治的な野心も持ってこなかったことを誇りにしている。

しかしどうして政治的な野心を持たなかったのか?

「日本は、東アジア及び東南アジアの近隣諸国との間には、『過去の歴史的な経験』が影を投げかけてきたため、1956年以来、それらの地域に対して莫大な支援を行ってきました。しかし第二次世界大戦(日本の参戦は1941年以降)中の日本の侵略と占領の記憶は、それらの国々の一部の人々の脳裏に生々しく残っており、結果的に、日本による善意の援助に対しても様々な解釈がなされてきた経緯があります。」 
 
 「しかしアフリカ大陸に関しては歴史的なしがらみがないので、日本はそうしたしがらみに囚われることなくアフリカ諸国に対する善意に基づく支援を開始することができたのです。私は、政治的な意図とは一線を画する援助を積み重ねてきた日本の善意については、アフリカ諸国にも良く理解していただいていると確信しています。」と海部氏は語った。

また海部氏は、具体的な例として、日中両国には第二次世界大戦からの痛ましい記憶があるため、日本政府は当初中国に対するJOCV隊員派遣についてあえて申し出ることを控えていたところ、むしろ中国政府より相互協力の原則さえ合意されればJOCV隊員の派遣を歓迎したいとの申し出があり、約20年前に最初のJOCV隊員の中国派遣が実現した経緯を述べた。

約1時間にわたって行われたインタビューの抜粋は以下のとおり。

IDN:日本はアフリカに対して十分な支援を行っていると思いますか?

海部:そう思います。長年にわたって日本はアフリカに対する援助を拡大して参りました。アフリカ諸国はこうした日本の貢献をよく理解していると思います。日本は概してアフリカ諸国と良好な関係を享受しています。

IDN:アフリカは世界最大規模の豊かな鉱物埋蔵量を誇っています。日本も中国と同様にそうした鉱物資源に関心を寄せていると推察しますが、アフリカの鉱物資源獲得を巡って日本と中国の間になんらかの競合関係のようなものがあるではないでしょうか?

海部:多くの国々が日本と中国の動向を注視しているでしょうし、アフリカにおける日中の活動についても様々な解釈や憶測をするでしょう。それがどのようなものであれ、解釈・憶測する側の自由だと思います。ただし、私の考えは、他国と競争して天然資源へのアクセスを獲得するために経済援助を利用するという考えは間違っているというものです。日本に関する限り、我が国はいかなる政治的なしがらみも排除した開発援助を供与しながらアフリカ諸国との相互関係を育んできました。言い換えれば、対アフリカ経済援助を通じて私達が積み重ねてきた努力は、日本の人々の善意と、受領国のニーズに焦点をあてた援助を通じて日本国民の善意を受領国に理解いただきたいという私達の希望に基づいてなされてきたものなのです。私は日本が今日に至るまで開発協力を通じてアフリカ諸国に差し伸べてきた真摯なアプローチは、アフリカ諸国に十分理解されていると確信しています。

IDN:日本は新たな政権が誕生しましたが、今日の日中関係をどうみられますか?

海部:新政権を率いている政党は私の党ではないので、この質問について私が的を射た回答はできないかもしれません。それを申し上げたうえであえてコメントするならば、民主党率いる新政権が、所謂「東アジア指向型政策」を発表したことについて懸念しています。鳩山由紀夫新総理は就任演説の中で、従来の日本の政策は米国に寄りすぎたものであり彼の政権はアジアとの関係をより重視するという印象を与えてしまいました。

この発言は日本ではたいした問題になりませんでしたが、米国では深い憂慮とともに受け止められました。この発言が契機となり、米国の政策分析の専門家の中には、日本の新しい総理大臣は伝統的な米国との関係を見直そうとしているのではないかと疑いを持つものも現れました。実際のところ、米国の国務省の友人やその他同国で私の情報源となっている人々が、私に同様の懸念を伝えてきました。その後、私は第三者を通じて、米国で巻き起こっているこうした懸念について考慮に入れるよう、総理に対して忠告を申し上げました。その後の経緯を見る限り、鳩山総理も幾分かの軌道修正をしたと思います。

今回の出来事で、日本がアメリカを伴わないでアジアに接近することについてアメリカがいかに神経質になるかという私自身が経験した20年前の出来事を思い出しました。それはまもなくマレーシアのマハティール・ビン・モハマド首相と首脳会談に臨もうとしている時のことでした。当時マハティール首相は、東アジア経済協議体(EAEC)構想を発表した直後で、興味深いことに、同構想に対する反応は中国からではなく米国からのものだったのです。ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ政権は、ジェームズ・ダンフォース・クウェール副大統領を日本に派遣し、同氏は私に対して日・マレーシア首脳会談においてEAECに賛同しないように要請してきたのです。私は副大統領に対して、私はアメリカを排除する意図は持ち合わせていないし、EAEG(アメリカを除いた東アジア経済グループ)でなく文字通りEAEC(経済協議体)とすべく最新の注意をもって臨むつもりでいるから安心するようにと説明しました。そして本件については私のやり方で対処させてほしいとブッシュ大統領に伝えるよう要請したのです。私はまた、日本におけるアメリカの圧倒的な存在感から日本の外交不在という批判がしばしばなされる実情を説明し、もしアメリカ政府がEAECに関してこの時点で騒ぎ立てるならば、アメリカとの信頼のもとに私が従来から進めてきた全ての独立外交の努力も、日本外交不在の一例として看做されることとなってしまいかねないという私の懸念を伝えました。

こうした文脈から、今回の鳩山総理のアジア優先発言に関してアメリカから共有してきた懸念に接して、この20年前の私自身の経験を思い出したのです。

IDN:あなたは20年前(1989年8月から91年11月)にブッシュ大統領を相手に日本の総理大臣として国政を運営したわけですが、現在のバラク・オバマ政権についてどのように見られていますか?

海部:オバマ大統領は変革を訴えてきました。私が見るところ、オバマ氏は美辞麗句に留まらず、外交政策における単独行動主義や先制攻撃支持で特徴づけられるジョージ・W・ブッシュ前政権からのパラダイムシフトを引き起すことに成功していると思います。私が見るところ、オバマ政権は、前政権が行ってきたことについて自制をかけているように思えます。

IDN:バラク・オバマ氏はノーベル平和賞を受賞するに値すると思いますか?

海部:今回のノーベル平和賞はオバマ氏が将来にわたって実際に行動を起こすかもしれないことへの期待に対してではなく、むしろ彼が今までに雄弁な演説の中で発言してきたことに対して授与されたのだと思います。従って深遠な判断に基づく決定とは思えません。願わくば、将来振返った時に、オバマ大統領がノーベル平和賞受賞に相応しい努力をしたと思える成果を出してもらいたいと思います。確かにオバマ氏は演説の才に素晴らしく長けていると思います。彼が日本の国会で演説した際、平和の象徴としての大仏で有名な古都鎌倉を過去に訪れた際の話をしました。大統領は、大仏のことはよく覚えていないが、そこで食べた味わい深い抹茶アイスクリームの味は良く覚えていると語りました。これを聞いた多くの日本の国会議員が、オバマ氏は日本文化に対して造詣が深いとして手を叩いて賞賛しましたが、仏教徒の私としては、抹茶味のアイスクリームより大仏について話をしてくれた方がよかったのにと残念に思ったものです。なぜなら、このことは私達の文化と密接に関わる内なる霊性の問題だからです。それはさておき、オバマ大統領には、是非ともご自身が発言してきたことを実行していってほしいと思います。

IDN:あなたは歴代の駐日本中国大使と密接なコンタクトをとってこられたことで知られていますが、最近の中国大使との面談ではどのようなことをお話になられましたか?

海部:中国政府は毎回日本語の流暢な大使を人選して派遣してきます。歴代の中国大使が、多くの機会に私を訪問してこられましたが、特に王毅大使(在任2004年~07年)は頻繁に足を運んでこられ、多くの問題について話し合いました。オバマ政権については、現在の中国大使は、「中国政府はオバマ大統領のリーダーシップのもとで新たに変化しつつある状況を慎重に注視しており、全体的な方向性については歓迎している。」と私に説明しました。(原文へ

翻訳=IPS Japan

インタビューは、ラメシュ・ジャウラIPS欧州局長と浅霧勝浩IPS Japan理事長が、海部会長がローマで開催されたIPS年次会合に参加時に行ったものである。

グローバルパスペクティブ(2010.1月号に掲載)

1月、2月には卓越した世界の音楽と舞踊が鑑賞できる

【アブダビWAM】

現代音楽と舞踊における最高峰のアーチストの招聘で知られるアブダビ文化遺産庁(ADACH)は、1月―2月に、3名の卓越した芸術家をホストして、今年も「世界ステージ(World Stage)」を開催する。

 音楽ファンは、1月21日にドバイの文化財団で開催される、国際的に称賛されているマリの音楽家ハビブ・コイテ氏の公演を堪能するだろう。 

華麗なギター演奏と躍動的なアフリカのリズムで知られるコイテ氏と共演グループのバマダ(KLティグイ・ディアバテ氏を含む西アフリカの有名バンド)は世界各地の音楽祭に出演しヒットチャート1位のアルバムで数々の賞を受賞してきた。 

またADACHは、1月24日と25日に、エミレーツパレスホテルの劇場で、「ホアキン・コルテス氏とのフラメンコの夜」を開催する。 
コルテス氏は20代でフラメンコ界に革新の旋風を巻き起こした人物で、現代的な感受性とジプシーの血を受継ぐダンサーとしてのインスピレーションを武器に限界に挑み続けているスーパースターである。アブダビ公演では、コルテス氏は40名のダンサーとともに、CALEと題した最新のフラメンコショーを披露する。 

現代舞踊の振付け師で最高峰の一人であるアクラム・カーン氏とADACHIは、中東の芸術遺産を反映した国際舞台芸術の共同制作プロジェクトを2年間にわたって実施している。その第一弾となる「グノーシス(Gnosis)」は、北インドの古典舞踊カタックダンスと現代舞踊を融合したものを、アラブ伝統のオウド(Oud)・カヌーン(Qanoon)音楽の生演奏に合わせて舞台で演じるものである。本作品は、既にロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場でのプレミアショーで高い評価を獲得し、アブダビでのプレミア公演を経て中東各地で巡業を行う予定である。 

本公演は2月25日、26日にアブダビ劇場(マリナモール地区)で開催される。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴 


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|文化|パキスタンの自由な一面を示す国際舞台芸術祭

|気候変動|ブータン王国、カーボンニュートラルを誓う

【ティンプーIDN=ネドゥップ・ツェリン】

気候変動の悪影響に取組むために策定されたブータン王国の国家適応行動計画(NAPA)によると、南アジアの内陸国である同国は気候変動に対して大変影響を受けやすい状況にある。

脆弱な生態系を持つブータンでは、北部山脈地帯の氷河湖決壊洪水(氷河湖が何らかの原因で決壊して、大量の湖水が下流へ流れる現象:IPSJ)が常に存在する脅威である。NAPAによると、同国に存在する2674の氷河湖のうち、24が潜在的に危険な状態にある。

この数十年における気温上昇によりブータンの氷河は後退を続けており、その後退速度は年間30~60センチに及んでいる。そしてその中には既に氷河上の湖沼(Supraglacial Lakes)や地圧の限界点に亀裂を形成しているものもある。

 
世界銀行が新たに発表した報告書によると、ブータンの冬季平均気温は2050年までに1.5度~4度上昇するとみられている。「開発と気候変動に関する共通の見解」と題した同報告書は、コペンハーゲンで開催された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第15回締約国会議. (COP15)において発表された。

人口691,141のブータンは、山岳地域特有の脆弱な生態系のほか、自給自足農業と乾燥地作物栽培への依存、世界でも高い人口増加率(2.5~3%)、モンスーン雨への依存(年間降雨量の7割がモンスーン期のもの)、水力発電による電力輸出など、様々な自然条件の制約を受けている。

気候変動の影響は、ブータンに於いては、農作物の収穫の落ち込み、水不足、地下水の枯渇、森林面積の減少、生物多様性の危機、そして氷河湖決壊洪水の危機という形で顕在化してきている。

気象当局によるとブータンの平均気温は過去5年間で2度上昇しており、その結果、降雨をもたらすモンスーン到来の時期が遅れ、米の生産は深刻な被害を被った。

ダショー・ナド・リンチェン環境庁副長官は、ブータンの氷河は既に溶け出していると述べたうえで、「ブータンは、迅速かつ更に踏み込んだ温室効果ガスの削減に努力するとともに、途上国各国が気候変動の悪影響に対処できるよう、キャパシティ・ビルディング、技術移転、財政支援の面で、先進諸国に対して支援を強化するよう求めている。」と語った。
 
 実際のところ、ブータン政府代表はコペンハーゲンのCOP15において自国の気候変動対策プロジェクトを紹介している。そしてジグミ・Y・ティンレイ首相は帰国後、ブータンはは今後将来に亘って二酸化炭素排出量を同国の吸収量以下に止める(カーボンポジティブ)ことを公約した歴史的な気候宣言(Climate Declaration)に署名した。

気候宣言は、ブータン政府が同国の豊かな生態系保護に取り組んでいくことを公約するとともに、その見返りに気候変動が及ぼす悪影響を軽減、適応していくための支援を国際社会に対して求めたものである。

同宣言には「我が国は多くの社会経済開発上のニーズと優先事項を抱えた小さな山国の発展途上国であるが、生命が存続していける安全な地球を守っていくことほど必要かつ大切なことはないと感じている。」と記されている。

「従って、我々は排出する以上の二酸化炭素を吸収し温室効果ガス(GHG)の純吸収国としての地位を維持していくことを公約する。」

「私達は、我が国の吸収能力を超えた温室効果ガスを排出しないことを公約します。私達はそうすることで、国際社会に対して、世界の二酸化炭素の吸収タンクとしての役割を果たしていきます。ブータンはこの努力に対する見返りとして国際社会の支援を求めます。」と、冬季議会閉会後の12月11日、宣言に署名したティンレイ首相は語った。

「なぜなら、人口増加、農業増産、都市化、産業化といった課題に対処しながら今日の生態系バランスを維持していくには、相応の環境保全対策費が必要となるからです。」

またティンレイ首相は、ブータン政府とメディアは、同国が危機的な状況に直面している現実を国際社会に知らしめる責任があると語った。

「気候変動がもたらす影響はブータンの存立を脅かす実に深刻なものなのです。ジグミ・シンゲ・ワンチュク第4代国王も即位当初からこの脅威にどのように対処していくか常に頭を悩ませてきました。このような背景から、同国王は、世界で環境保全という概念が一般化するはるか以前から、環境保護論者として問題に対処するようになったのです。」

他の国々が持続可能な開発について議論している一方で、ブータンはジグミ・シンゲ・ワンチュク国王の指導の下、従来の国民総生産の概念に代わる国民総幸福量(GNH)という開発哲学を採用しました。そして自然環境保護は、GNH哲学を構成する4代支柱の1つを構成しているのです。(他の3つは、持続可能で公平な社会経済開発、有形、無形文化財の保護、良い統治:IPSJ)

農業大臣リョンポ・ペマ・ジャムツォ博士は、「気候宣言は、ブータン政府が環境にやさしい政策を施行するために経済的な代償を支払ってきた背景の中でなされたものです。そのような環境保全政策には、少数・高付加価値の観光開発、木材の輸出禁止、天然資源に対する高価格設定、そして、農民にとっては収入減になる化学肥料の使用抑制政策等があります。つまり、ブータンの豊かな生態系は偶然の産物ではなく、健全な環境政策の成果なのです。」と語った。

ジャムツォ農業大臣によると、ブータンの年間二酸化炭素吸収能力約630万トンに対して、二酸化炭素の総排出量は約150万トンである。従ってブータンのカーボンバランスはプラス470万トン(さらに470万トンの二酸化炭素を吸収できる)となる。

「ブータンは主に先進国からの財政・技術支援を求めているのです。もし私達がブータンにおける森林保有率60%を維持していこうとするならば、それなりの費用がかかります。そこで私達は、諸外国、とりわけ富裕国が(環境保護政策の代償としてブータンが被った)経済機会の損失分をどのように補填できるか見極めなければならないのです。」とジャムツォ農業大臣は語った。

同大臣は、必要な資金の用途について、グリーン・テクノロジーへの転換、有機農業の普及、水力発電技術開発、土地劣化の防止と土壌改良の推進を挙げた。

ブータンにとって今日の健全な生態系を維持していくことは困難な課題である。森林及び水管理のほか、ブータンにとって最も困難な課題の一つは、国内の産業開発を管理し、いかに新たな収入や雇用機会を国民に提供していくかということである。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

*ネドゥップ・ツェリン氏は、ブータン王国国家環境委員会に12年以上に亘り勤務。同国の非政府組織Bhutan Innovative Communityの創立者の一人である。 

*カーボンニュートラル:何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量である、という概念。排出される二酸化炭素が吸収される二酸化炭素を上回る場合はカーボンネガティブ、排出される二酸化炭素が吸収される二酸化炭素を下回る場合は欧米においてはカーボンポジティブという。

ノーベル平和賞は戦争賞になったのか?(ヨハン・ガルトゥング)

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【IPSコラム=ヨハン・ガルトゥング】

ジョージ・オーウェルの小説『1984』では、ビック・ブラザーが「戦争は平和、自由は隷従、無知は強さ」という有名な標語を口にする。これが、私たちが現在到達した地点なのだろうか?

オバマ大統領が12月10日にノーベル平和賞の授賞式で行ったスピーチは、米国のような軍事主義的な国の兵学校での卒業式にむしろふさわしいものだった。

オバマ大統領は、マハトマ・ガンジーマーチン・ルーサー・キングJr の非暴力主義は、アドルフ・ヒトラーやアルカイダには通用しないだろうと論じた。しかし、冷戦の終結は、その非暴力行動によってもたらされたのである。東ドイツ警察は、デモ隊に対する発砲許可をすでに得ていたが、すぐに発砲しなかった。石や火炎瓶が投げられるなど、何かの「口実」が現れるのを待っていたのである。しかし、デモ参加者らはつとめて非暴力に徹し、こうした口実を警察に与えなかった。ベルリンの壁が崩壊したのはその直後のことである。ポーランドやチェコスロバキア、ブルガリアにおいても、全体主義体制の崩壊に非暴力行動が一役買っていた。

 あのヒトラーですら、非ユダヤ人の妻たちが1943年2月から3月にかけてベルリンで行った非暴力抗議行動のために、ユダヤ人の夫たちをゲシュタポから解放しなくてはならなかったくらいだ。

オバマスピーチの欠陥のひとつは、9・11やアフガニスタン、イラクを理解しようとの意思に欠けていたことだ。オバマ大統領はただ、銃を置くのを拒否している人々について語っただけである。それに対して、スペインのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相は賢かった。2004年3月11日にマドリッドでテロが起こったあと、イラクから兵を引き、モロッコとの関係改善に乗り出すなど、事態を根本的に解決しようとの姿勢を見せたからだ。

オバマ大統領は、9・11テロを起こした航空機になぜ多くのサウジアラビア人が乗っていたのか考えてみもしないのだろうか?それは、イスラムの聖地において石油確保と米軍駐留と引き換えに抑圧的な体制を米国が擁護しているためではないのか?もしサウジアラビア軍がバチカンにいたら、キリスト教徒はどう思うだろうか?アフガニスタン人は、150年にわたる欧州の侵略をどう捉えているだろうか?彼らには不満があり、非暴力的手段を用いることもできる。しかし、米国は、その逆のやり方を身をもって示してしまっているのだ。

オバマ大統領が提示したのは、戦争を通じた安全という古い考え方に過ぎない。世界が必要としているのは、紛争を解決し、その根本にある暴力の根本原因をなくす新しいアプローチなのだ。(原文へ
 
翻訳/サマリー=IPS Japan

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|視点|緊急性を増した核軍縮(ミハイル・ゴルバチョフ)

世界政治フォーラムを取材

ボイコットだけでは事態は悪化する(エーリク・ソールハイム)

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【IPSコラム=エーリク・ソールハイム】

ハマスとの接触を断て!イスラエルと話をするな!ビルマから距離をとれ!過去の長きにわたって、望ましくない体制とは接触するなとのこうした叫びが繰り返されてきた。 

しかし、タカ派というべきイスラエルのダヤン元外相の次の発言を思い出してみるべきだ。「もし平和を作り出したければ、友人と話をするな。敵と話をすべきである」。

 私は、20年以上にわたって、ビルマの人権と民主主義の問題にかかわり続けてきた。事態が大きく展開しそうだと思ったことが何度もあったが、そのたびに期待は裏切られてきた。1月の末にビルマに行ったが、自分の目で確かめてみて、ビルマがこの数十年全く変わっていないことを思い知らされた。 

1988年にビルマに軍政が誕生して以来、西側諸国はビルマ孤立策を採ってきた。しかし、軍政は政治的・経済的改革を行うことを拒否してきた。いまこそ、別のアプローチを考えるべきだ。 

孤立策が事態の改善に結びつくことはほとんどない。民主化が中産階級の登場と深い関係にあることは経験上明らかだ。表現の自由などの社会の進歩を求める力は、そうした動きを起こす資源を持つ中産階級から出てくる。ある国が世界から孤立していれば、そのような中産階級は出てきようがない。 
 
 ノルウェーは、誰とでも分け隔てなく協議を行う外交政策で評判を博してきた。ノルウェーは、ハマスと協議を行ったがゆえに、中東和平プロセスにおいて独自の地位を占めることができる。スリランカでは、「タミル・イーラム解放の虎」と接触をとれる数少ない関与者のひとつである。ネパールの毛派とも協議してきたが、その毛派からは、いまや、首相を出すまでに到っている。我々は、フィリピンの共産主義者とも会うし、ブルンジやスーダンの反体制派とも話をする。 

 ビルマもまた、金融危機のために難題に直面している。軍政は総選挙を予定しているが、自由でも公正なものでもないだろう。アウン・サン・スー・チー氏はいまだに軟禁状態にある。残念ながら、近い将来に民主化するとの希望はない。しかし、私たちは、より長期的で歴史的な視点を持つべきである。すなわち、孤立よりも、開放と対話こそがより効果的なのだということを。 (原文)

翻訳/サマリー=IPS Japan 

*エーリク・ソールハイム氏は、ノルウェー環境・国際開発大臣。 

日豪核軍縮委員会の報告書に批判

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【東京IDN=浅霧勝浩】

賢人会議「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)は、12月15日、2025年までに世界の核兵器を90%以上削減することを求めた報告書を発表した。報告書の提出を受けた日本の鳩山由紀夫首相とオーストラリアのケビン・ラッド首相は大いに満足したようだ。

 日豪両政府の支援を受けた委員会は、ギャレス・エバンズ、川口順子の両外務大臣経験者を共同議長とし、ニューヨークで5月に開かれる核不拡散条約(NPT)運用検討会議に5ヶ月先立って、待望の報告書を提出した。 

しかし、両首相の満足は、日豪を含めた世界の市民社会組織からの批判の嵐によって水を差されることになった。報告書はエヴァンズ・川口両氏を筆頭とする15人の委員によって書かれ、全会一致の賛成を得ている。 

「核の脅威を除去する―世界の政策決定者への現実的な提案」と題された332ページの報告書は、冷戦後20年を経てもなお、広島型原爆15万発の威力に相当する2万3000発の核弾頭が世界に存在するという事実を考えると、きわめて重要な意味を持っている。米ロで2万2000発を保有し、フランス・イギリス・中国・インド・パキスタン・イスラエルで残りの1000発を保有している。 

全核弾頭の約半数が実戦使用可能な状態に置かれており、米ロはそれぞれ2000発の弾頭をすぐに発射可能な危険な警戒態勢下においている。攻撃があったと認知した場合、それぞれの大統領には4~8分しか判断の時間がない。ちなみに冷戦期を通じて、指揮・管制システムには人為的なミスや誤作動が絶えなかった。 

こうした状況の中、鳩山首相は、報告書について、「世界を平和に導くガイドブックが完成した。大変素晴らしいことだと思う。」と述べた。ラッド首相は、「2010年という重要な年にあたり、核不拡散と核軍縮に関する議論の重要な枠組みを提供すると思う。」と発言した。 

報告書は、「1970年に発効したNPT(5年ごとに運用検討会議がある)には大きな制約がある」と指摘している。2005年のNPT運用検討会議は、当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領のようなキープレイヤーが軍縮に関する約束を果たそうとせず、「完全なる失敗」に終わったと報告書はみている。そのうえ、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮といった核兵器保有国はNPTに批准していない。 

日豪などのNGOが出した共同声明は、報告書を歓迎しつつも、「報告書が示した核軍縮の行動計画はあまりに遅く、期待からは大きくかけ離れたものだった。」と断じている。さらに、「これでは、核廃絶に向けた世界的な機運を後押しするよりも、むしろブレーキをかける危険性をはらんでいる。」と警告している。 

共同声明には、広島の秋葉忠利市長(平和市長会議議長)や長崎の田上富久市長も名を連ねている。両市は世界で唯一、核兵器による大虐殺の犠牲となった地だ。またその他の署名者の中には、ノーベル平和賞を受賞した「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」、核軍縮キャンペーン、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のティルマン・ラフ議長もいる。 

核兵器ゼロを目指して―いつまでに? 

報告書が市民社会に失望を与えた最大の理由は、核廃絶に向けた現実的な道筋を、緊急かつ実現可能な目標として導き出さなかった点にある。報告書は、世界の核兵器を2000発以下にまで削減する「最小化地点」として2025年を目指すとしたが、核廃絶に到るその後のプロセスや時間枠をまったく示していない。 

市民社会の共同声明は、「このような行動計画では、委員会が示した核兵器のない世界という目標に向けて前進するのではなく、核兵器が削減されるが保持され続けるという世界の永続化に利用されてしまう危険性があります。」と批判している。 

被爆者たちは、10月に広島でICNND会合が行われた際に証言を行い、こうした悲劇が地球上で繰り返されてはならないと委員たちに訴えた。彼らは、核兵器の使用は「人道に対する罪」であり、人類は核兵器と共存できないと主張した。 

科学者たちは、ほんのわずかであっても核兵器が使用されることがあるならば、地球の環境は破壊されるだろうと警告している。最近の国際的動向を見れば、核兵器を保有し続けたり、その価値を認めたりする国々が存在する限り、他国がそれに追従しようとする動きが出てくることは明らかだ。 

このため、市民社会は核廃絶に向けた包括的なアプローチを要求している。世界の市長たちは、核兵器は2020年までに廃絶されるべきだと主張している。広島・長崎両市長は、その年に核兵器なき世界を祝福しようと呼びかけている。 

「これらの声に真摯に耳を傾けるとき、今回の報告書が掲げる行動計画は、緊急性の意識と危機感をあまりにも欠くものであったと言わざるをえません。」と共同声明は述べている。 
ICNNDの報告書は、包括的な核兵器禁止条約(NWC)が核兵器なき世界の達成のために必要になるだろうと示唆している。共同声明はその点で委員会を評価している。しかし、報告書は、NWCの起草は2025年ごろでかまわないとしている。 

共同声明は、これではあまりに遅すぎると指摘し、「現実には、すでに10年以上前にNGOによって起草されたモデル核兵器禁止条約がマレーシアとコスタリカ政府によって国連に提出されており、潘基文国連事務総長はそのような条約を真剣に検討するようくり返し呼びかけています。オーストラリア議会の超党派委員会は今年、核兵器禁止条約の支持を同政府に全会一致で勧告しています。求められているのは、各国政府が市民社会と協力して、核兵器禁止条約への作業を『いま』開始することです。」と述べている。 

核兵器の価値を否定する 

共同声明の署名者らは、報告書が核兵器の価値を否定し、安全保障政策における核兵器の役割を限定すべきだとしたことを歓迎した。ICNND報告書は、「先制不使用」の核態勢をめざしつつ、核兵器の唯一の役割は核攻撃の抑止であるとの宣言をすべての核保有国に求めた。 

市民社会の共同声明は、拡大核抑止(いわゆる核の傘)に依存する日豪両国が主導した委員会がこのような勧告を行ったことの「意義は大きい」としている。しかし、委員会の議論においては、日本の参加者が核兵器の役割を限定することに抵抗したといわれている。 

したがって、市民社会は「今後の日本政府の行動に注目したい」と述べている。彼らは、「核不拡散条約(NPT)に加盟する非核兵器保有国の政府の役人が、核兵器保有国の軍縮に抵抗したり、核の傘がなくなって非核の抑止力や防衛力に置き換えられるなら自らが核兵器を持つと脅したり暗示したりするようなことはまったく容認できない。」との立場をとっている。 

ICAN豪州支部は、6ページからなる別の声明においてより厳しい見方を示した。「ICNNDは独立の委員会であるとされていたが、米国の同盟国である日豪両政府の支援を受け有力者を集めたこの試みは、自らの役割をもっと明確にすべきだった。」と批判している。 

ICANによれば、日本の外務省が、公式見解に反して、米国による日本への核持ち込みを長年にわたって黙認してきたことが最近わかったという。 

さらには、日本政府は、オバマ政権の核軍縮の動きにさかんに反対してもいるという。また、米国が核兵器の先制不使用政策へと動こうとしていることに対して日本が頑強に反対し、ICNNDの委員たちを困らせたとも伝えられている。同声明は「国内の2都市が核攻撃を受けた国の行動だけに、やっかいで残念なことである。」と述べている。 

また同声明は、「オーストラリアの今年の防衛白書は、米国の核抑止力に2030年以降も依存し続けることを確認しており、核軍縮を目指すとの同国の公式目標に完全に反している。また、核兵器国に対するオーストラリアのウラン輸出は継続しているが、ウラン濃縮に関する保障措置は十分でないし、使用済み核燃料の再処理についても規制がかけられていない。」と指摘している。 

さらに、ICAN声明は、「拡大抑止は核兵器である必要はない。日本の新政権では、岡田克也外相が核の先制不使用政策を支持し、鳩山首相が『核兵器なき世界』という目標を口にしている。オバマ大統領の核軍縮目標と先制不使用政策を積極的に支援する日豪の共同の取り組みは、すばらしい機会を提供することになるであろう。」「豪日両国は、核兵器の使用を排除した新しい同盟関係を米国と結ぶべきだ。これこそが、オバマ大統領と『核兵器なき世界』を支持するために両国がとれるもっとも強力な行動であろう。NATOをはじめとして、世界全体に影響力を持つはずだ。」と述べている。 

原子力にNoを 

ICNNDの報告書は、核テロリズムの脅威と、原子力平和利用に伴うリスクについて言及している。しかし、市民声明は、ウランやプルトニウムなど、核兵器に転用可能な物質および技術に対する具体的な規制措置の提案は「不十分」だと述べている。 

この報告書は、おりしも気候変動枠組み条約に関するコペンハーゲン会合(COP15)のさなかに提案されており、「地球温暖化によって世界的なエネルギー政策が転機にあるなか、原子力にともなう核拡散の脅威に対処するために、より一層強い措置が必要です」と市民声明は述べている。 

ICAN豪州支部のティルマン・ラフ議長は、「ウラン濃縮と、プルトニウム抽出のための使用済み核燃料再処理は、必然的に軍民両用的な性格を持っている。ICNNDの明白な原子力推進の姿勢は、これらを規制する必要性を一方で示していることと折り合わない。委員会が原子力を推進することは矛盾している。既存の核不拡散体制の失敗に対処しそれをどう修正していくのかを示さないまま、核拡散の危険性を高めることになるであろう。」と述べている。 

ICAN豪州の立場は、「核兵器なき世界」を達成し維持していくには、原子力を次第になくしていく方が手っ取り早いというものである。しかし、原子力が現実に使用されている中、原子力産業は、ウラン濃縮を厳格な国際監視の下でのみ行い、プルトニウム抽出のための使用済み核燃料の再処理を中止する大きな方向転換を必要としている。 
ICANは、「核兵器なき世界」達成に向けた努力の一環として、安全保障政策における核兵器の役割を低減することは、核兵器保有国だけではなくすべての国々の責任だと考えている。また、核兵器保有国の同盟国は、特に大きな責任を持っている。 

批判の封じ込め 

しかし、ICNNDの共同議長2人は、予測される批判の先回りをして、2008年7月に共同議長就任を要請された際、同委員会の使命は、「あくまでハイレベルの国際的議論を促すことを主目的とし、冷戦終了直後に軍備管理への熱情が失われて以来、国際的な核政策が陥っていた夢遊状態から目を覚まさせることが目的だった。」と述べた。 

特に共同議長の両氏は、「彼らの任務は、2010年5月に開催予定のNPT運用検討会議において、前回の2005年運用検討会議と同年の世界サミットにおいて何の合意にも到らなかった失敗を繰り返させないようにすることであった。」と述べた。 

シュルツ、ペリー、キッシンジャー、ナンの4人が2007年1月に発表した論文で、現実主義者の観点から、核兵器は以前に持っていた有用性を失ってしまったと論じてから新しい論争に火がつけられていたが、2008年半ばぐらいまでは、政策決定者たちは現実にその問題に目を向けてはいなかった。 

しかし、2009年初めに事態は一転した。新たに選出されたバラク・オバマ米大統領が核軍縮、核不拡散、核セキュリティに関する一連の方向性を打ち出し、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領も直ぐに賛意を示した。こうして、核問題は世界的な課題として再登場することになったのである。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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|カンボジア|宗教の違いを超えた「人間の尊厳」重視のHIV陽性者支援とHIV/AIDS防止の試み

【IPS HIV/AIDS研究事業現地取材からの抜粋】

Seedling of Hopeは、カトリック教会系の慈善団体で、一般市民やハイリスク集団に対してHIV/AIDSに関する啓蒙活動を行う一方、HIV/AIDS感染者に対しては、患者の自宅や入院先を訪問してカウンセリングを提供している。

また、Seedling of Hopeでは独自のシェルター/ホスピスを擁しており、エイズ患者に対する精神/肉体両面にわたる支援を行っている。本稿では、人口の95%を仏教徒が占めるカンボジアにおいて、宗教の違いを超えた「人間の尊厳」に対する共感を信条に活動を展開している牧師から見た、HIV/AIDSの現状と課題を概説する。(以下、Jim Noonan神父への取材内容の抜粋)

 
エイズ患者に最も必要なもの
 
「エイズ患者が抱える精神的なストレスは想像を絶するものです。エイズに対する社会の偏見は依然として厳しいものがあり、HIV感染者は、差別や迫害を恐れて病気のことを周りから必死に隠そうとします。しかし、ここ(シェルター)では、皆彼女達の病気のことは了解した上で受け入れているので、エイズ感染者やそうでない者も等しく家族のように自然体で触れ合っています。
 
私は、このエイズ患者の精神的なストレスを取り除く生活環境が、患者の免疫力の維持/向上のための重要な要素となっていると考えています。実際に、ここの収容者達の健康状態は、入所後概ね向上しており、人間の健康は環境さえ整えば、かくも回復する力があるものかと改めて驚かされています。私達は元々専門的に訓練されたカウンセラーではありませんが、収容者に対して彼女達の『人間としての尊厳』に留意し、最大限の愛情を注ぐよう努力しています。私達の信条は、相手が誰であっても等しく接することです。つまり、収容者に向き合う私達の姿勢は、例えば相手が女王陛下であったとしても全く変わりません。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)

「ホスピスでは、ビタミン剤といくつかの合併症に使用する薬があるのみで、カンボジアにはエイズ治療薬はないのが現状です。もし、海外からの支援国/団体に『なにが今のカンボジアに最も必要か』と問われれば、〈1〉質の高い血液検査施設と、〈2〉エイズ治療薬を現地生産できる施設、が最も求められていると確信しています。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)

宗教の違いを超えた「人間の尊厳」への共感

「私は、ただ助けを必要としている人々に手を差し伸べる活動をしている1老人に過ぎません。私は牧師だが、ここでは人々をキリスト教へ改宗させるといった試みは行っていません。それは、彼らには彼らの価値観に基づく宗教があり、私には私の宗教と信仰があるからである。それよりも、エイズ患者への具体的な支援活動を通じて『人のためになる』活動に従事できることが、私の牧師としての信仰の実践と考えており、それだけで満足です。

また、助けを必要とする人々に『慈しみの心』をもって接することは宗教の違いを超えて人間共通の行いであると思います。エイズ患者の死に際して、私は私流に祈り、仏教徒のカンボジア人達は仏教式に祈りを捧げている。そこに宗教の違いに起因する違和感はありません。また、臨終に際して、私がエイズ患者に、『あなたの為に祈らせてほしい』旨伝えるようにしていますが、彼女達は皆、異教徒の私の祈りを喜んで受け入れてくれています。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)
 
エイズを克服するもの

「現在のカンボジア社会における女性の『性』をとりまく現状は非常に歪められたものだと思います。『性』に対する男性の態度は一般に露骨であり、女性の『性』はあたかも人格を失った物かのように見なされ、不当な扱いを受けたり騙されたりしています。また男性の間では、複数の女性との交際を『男らしさの証』と勘違いしている風潮もあり、中には女性に対する性的虐待/搾取の経験を周りに自慢するものさえいます。このような男性達の歪んだ性意識/性行動を1世代の間に転換させることはほぼ不可能に等しいと思いますが、とにかく行動変容をもたらす努力を1日でも早く開始することが重要だと思います。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)

「現在のカンボジア社会に必要なものは早期からの性教育の実践です。1996年、国連合同エイズ計画(UNAIDS)では若者の性意識/性行動を変えていくための長期戦略を作成しました。そこで強調されたことは、若者への対策が遅れれば遅れるほど、(エイズ問題は)取り返しのつかない事態に進展するという危機感でした。現在のカンボジアの若者を取り巻く環境は一刻の猶予も許さない深刻なものであり、本格的な若者を対象とした性教育に着手するには絶好の時期でだと確信しています。

また、若者達の健全な性意識を育んでいく上で、両親の説明能力を向上させる努力をしていくことが重要だと思います。『性』をもっと幅広い人間関係の中で若者達が捉えられるよう親達が子供達と真剣に向き合える環境を作っていく必要があると思います。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)

「すなわち『エイズを克服するもの』は、異性に対する『誠実さ:Faithfulness』だと思います。自分と異性のパートナーの人生を大切にするためにも、できるだけ婚前交渉を避けることが重要です。そしてそれがどうしても実践できなければ、結婚を誓った相手にのみに性交渉の相手を限定することです。

ポル・ポト時代に禁止され、激しい迫害を受けたカンボジア仏教ですが、元来カンボディア社会における仏教の位置付けは大きく、仏教の僧侶は民衆から深く尊敬されています。宗教は『誠実さ』をはじめHIV/AIDSから身を守る上で重要な諸要素を説いてきており、HIV/AIDS対策を実践していく上で重要なパートナー勢力となりうると思います。カンボジア政府もその点に着目し、近年は僧侶を積極的に活用したHIV/AIDS対策を進めています。私達の団体も1995年頃より僧侶、コミュニティー指導者、NGO等と宗教を活用したHIV/AIDS対策について協議を重ねてきており、多くのことを学んでいます。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)

Seedling of Hopeの活動について:

8人のスタッフと4人のボランティアとともに、週2回、一般市民及び工場労働者を対象としたHIV/AIDS教育を実施しており、その際、コンドームを配布している。

「目の前の人々を救うことが最も重要であり、そのためにはカトリック教会も現地のニーズに応じた柔軟な対応が必要だと思います。」

シェルターでは、自分の身の回りの世話は出来るが、一般社会で働くことができなくなったエイズ患者を収容している。ここでは、収容者に対して、敢えて体調の許す限り、裁縫などいくつかの作業グループに割り当てて労働に従事させている。(作業を通じてネガティブ思考に陥ることを防ぐとともに、社会に貢献しているという誇りを感じてもらうため。)一方、ホスピスでは12床の設備と6人の24時間スタッフ体制で、身寄りのないエイズ末期患者を引き取って、最後の日々を共にしている。

(カンボジア取材班:IPS Japan浅霧勝浩、ロサリオ・リクイシア)


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【ウィーンIDN=クリーブ・バネルジー】

原子力という言葉は、クリーン・エネルギーを主唱している者にとって禁句である。従って、重要な非化石エネルギー源として原子力を擁護するにはちょっとした勇気を要する。 

日本のベテラン外交官である天野之弥氏が、国際原子力機関(IAEA)の事務局長職について7日後の12月9日にやろうとしたのは、まさにこのことであった。 

天野氏は、151加盟国の代表に対して、原子力は「地球温暖化の影響を軽減する安定的でクリーンなエネルギー源としてますます受け入れられるようになっている。」と演説した。 

この発言がなされたのは、デンマークの首都コペンハーゲンで気候変動に関する歴史的な国際会議が開催される2日前のことで、途上国・新興国が、先進国と角を突き合せんとしているところであった。 

「多くの加盟国が、新しい原子力計画の開始、あるいは既存計画の拡張を非常に重視していることを表明しています。」「原子力新興国のニーズに対応するため、IAEAは活動の焦点をかなりの程度変えてきました。これまでの成果を生かし、できるだけ現実的で、受け手国の役に立つように、能力構築(キャパシティ・ビルディング)などの分野で支援を行っていきたいと考えています。」と、天野氏は語った。

 さらに天野氏は、「私の希望は、IAEAの活動によって、加盟国が原子力を導入する道への明確な前進を4年以内に実感し始められるようにすることです。」とも述べた。 

こうした発言は時代遅れのものに聞こえるかもしれない。しかし、IAEAの新事務局長がここで示しているのは、中期的に力を入れようとしている分野の見取り図であり、そこには、国連の一部として「平和のための原子力」を実現すべく1957年に設立されたIAEAの理念が見据えられている。 

米国が広島・長崎に投下した原子爆弾の惨禍を繰り返すことなく、人類の福利のために原子力を利用する支援をするというのがIAEAの任務である。 

IAEAは、核不拡散を推進し、核の安全とセキュリティを高めるために活動している。加盟国が「原子力技術の適用を通じて、エネルギー需要を満たし、気候変動への懸念に対応し、食料安全保障と清潔な水を確保し、医療サービスを改善する」ことを支援する役割も担っている。 

天野氏は加盟国代表に対して、「原子力科学技術の利点を広めていくIAEAの技術協力プログラムは、すべての加盟国にとって重要です。私は、技術協力に焦点をあて、加盟国のニーズをより効果的に満たすようにしたいと考えています。」と演説した。 

この点で優先されるのは、原子力科学技術に関する専門能力を各国が確立するのを支援することになるだろう。 

天野氏は、初年度はガン征圧に力を入れるとの計画を明らかにした。この計画に関する成果を視察するために、最初の公式訪問地としてナイジェリアに向かう予定である。 

また1月には、ダボスでの「世界経済フォーラム」に出席する機会を利用して、世界的なガン拡大の問題に注目を集めることをねらう。さらに9月の「IAEA科学フォーラム」ではガン問題を主要に取り上げる予定である。 

天野氏は、核不拡散の分野における自身の任務は、保障措置協定が締結・完全履行されるようにすること、加盟国に事実に基づく客観的なデータと分析を提供すること、国連安保理とIAEA理事会の関連決議に従って行動することだと考えている。 

「追加議定書を発効させ履行することは、原子力を平和利用に限ろうとするIAEAの活動に対して、非常に重要な意味を持ちます。事務局長としての任期の早い段階で、追加議定書の締結国(現在91カ国:IPSJ)を100カ国の大台に乗せたいと考えています。」と天野氏は語った。 
天野氏は、米露両国による核兵器削減の努力を歓迎し、戦略核兵器削減条約(START)の後継条約に関する交渉の進展に満足感を示した。 

また天野氏は、「2010年には、来年5月の核不拡散条約(NPT)運用検討会議の成功や、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の策定協議開始をそれぞれ期待している。」と発言した。 

この関連で、天野氏は、日豪両政府の肝いりで始まった「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)の報告書を読むことを楽しみにしていると述べた。ICNNDは10月18日から20日にかけて広島で4回目の会合を開催した。しかし、「同委員会は『核兵器なき世界』という目標から外れていってしまっているのではないか」との市民団体からの強い批判にさらされている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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米国と北朝鮮政府、核問題で2005年の合意を再確認

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【ワシントンIPS=エリ・クリフトン】

米国のスティーブン・ボズワース北朝鮮問題特別大使は、12月10日、「3日間に亘った今回の訪朝では、北朝鮮の非核化を目指した多国間協議への復帰の約束を取り付けることができなかった。」と語った。ただし、朝鮮民主主義人民共和国が経済支援などの見返りと引き換えに自国の核開発を中止することを約束した2005年の共同声明については、米朝両国が再確認した。 

ボズワース大使は、ソウルで開いた記者会見において、「バラク・オバマ大統領が明確にしたように、米国は、北朝鮮に別の将来をもたらすために、地域の同盟国やパートナーと協力する用意がある。北朝鮮がこの将来を実現する道筋は、6カ国協議において対話のドアを開くことであり、朝鮮半島非核化のための不可逆的な措置をとることである。」と述べた。 

北朝鮮は、国連安全保障理事会が北朝鮮による核実験への非難決議を出した後、6カ国協議(米国、中国、韓国、ロシア、日本、北朝鮮)から抜けて、米国との二国間協議を求めていた。

 ビル・クリントン元米大統領が8月に北朝鮮を訪問して、中国から越境して北朝鮮に入国したとして3月以降身柄を拘留されていた米国人ジャーナリスト2名を救出した以外は、4月以降めだった成果は見られない。 

ボズワース大使は用心深く、今回の協議は「あくまで今後に向けてのもの」であり、「交渉の必要性に関する『共通の理解』を打ち立てるためのものだった。」と述べた。しかし、そうならば、6カ国協議の他の当事者との協議が必要となってくるだろう。 

北朝鮮政府はオバマ政権との直接交渉に熱心であり、中国当局は、米朝接触は北朝鮮が6カ国協議に復帰する条件のひとつだとしていた。 

ボズワース大使は金正日総書記と会わなかったが、姜錫柱(カン・ソクチュ)第一外務次官、金桂寛(キム・ゲグァン)核問題上級大使とは面談している。 

ボズワース大使は、「今回の会談で、経済支援と引き換えに北朝鮮が核開発を放棄することを約した2005年の共同声明を再確認すべきとの『共通の理解』に達した。」と語った。 

ヘンリー・L・スチムソン・センターの朝鮮専門家で元国務省高官であるアラン・ロンバーグ氏は、「6カ国協議への復帰は米朝協議の成果いかんにかかっているとの北朝鮮の立場を慮ったような内容をボズワース大使の発言に見出すことはできない。今後それがどう定義されるかが、非常に重要になる。」と語った。 

さらにロンバーグ氏は、「ある意味でさらに興味深いことは、北朝鮮がかつて死んだ文書だと述べ、そうした約束は無効だとしていた2005年の共同声明の必要性と重要性に関して両国が共通の理解に達したという事実であり、しかも、極めて重要な時期にそういう合意を行ったという点だ。少なくとも、米朝両国は、和解不可能な立場からは後退したようだ。しかし、この時点で、両国がどれほど柔軟に立場を変えうるのかは未知数だ。」と語った。 

確かに、北朝鮮を6カ国協議に復帰させることはできなかったかもしれないが、2005年の共同声明を再確認したことは、北朝鮮がさまざまな見返りを受けて核開発を放棄する可能性を検討する意思があることを示している。 

それでもなお、ボズワース大使は、「ひとたび6カ国協議が再開され、北朝鮮の核放棄に向けて『相当の見通しが得られる』ならば、米国は、経済支援や、朝鮮戦争の公的終結のための平和条約、関係正常化、安全の保証など、2005年の共同声明に言及された見返りについて議論する用意がある。」と強調した。 

ブルッキングス研究所北東アジア政策研究センター所長のリチャード・C・ブッシュ3世は、「この行き詰まりを打開するひとつの前提条件は、米韓、米中、米日間にくさびを打ち込むことや米国から譲歩を引き出すことは無理だということを北朝鮮が認識することだろう。この私的立場は、同時に公的立場でもある。これは、我々の立場を強化するための重要な第一歩だ。」と語った。 

北朝鮮を6カ国協議に復帰させるという動きの前途は多難だ。しかし、国連は、北朝鮮の秋の収穫は貧弱なものであり再び食糧難に直面する可能性があると報告していることから、北朝鮮が支援を求めて2009年初頭の時期より協議への復帰により積極的になるかもしれないとの見方も出てきた。 

しかし、今回米国は、支援の条件は北朝鮮が6カ国協議に復帰し、核開発放棄という約束を破らないことと明言してきた。 

ある米国政府高官は、12月7日、「我々は当初から、これは6カ国協議の全当事者が合意していることだと明言してきた。つまり、北朝鮮が以前の約束に単純に戻るだけのことに対して見返りは与えないこということだ。以前にも北朝鮮のこうしたやり方を見てきが、それはむしろ全体の目標達成にとっては逆効果であることが明らかになっている。従って、彼らが交渉に復帰してはじめて、非核化に進んだ際に可能となるものを追求しうる立場に立てるということであって、それ以外に誘引や見返りを与えるつもりはない。」と語った。 

ボズワース大使は、日本・中国・ロシアなど他の6カ国協議の当事国を今後数日の間に訪問し、協議の行く末について議論する予定だ。(原文へ) 
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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