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│タイ│学問の自由の試金石となる王政論議

【バンコクIPS=マルワーン・マカン-マルカール】

タマサート大学の歴史学教授ソムサック・ジェムティーラサクル氏(53歳)は、タイ社会のタブーに

触れたことから、昨年12月の中旬以来、様々な非難・中傷に悩まされている。彼のやったことは、タイの国体である王政に関して異なる見方を提示しようとしたことである。

ソムサック教授が12月10日の憲法記念日の講演で言及したのは、不敬罪を規定した刑法112条の見直し、特権を持った枢密院の役割の見直し、王政に関する「一方的見方」を刷り込む教育の見直しなどであった。

本人は、決して王政転覆を狙ったものではないと語る。「私はただ、変化する世界とともに王政も変わる必要があるということ、そして、人々がそれについて自由に討論する必要があるという自分の主張を述べただけです。」とソムチャック教授は語った。

 しかし、この講演以降、彼の自宅には脅迫電話が入るようになり、怪しい男がバイクに乗って彼をつけ回すようになった。また彼のフェイスブックには、「タイから出ていけ」「おまえは投獄されるべきだ」「おまえは善良なタイ人ではない」等の書き込みがなされた。また軍関係者の中には、今後は言葉の脅迫にとどまらないだろうと警告する向きもいる。

タイ陸軍のプラユット・ジャンオーチャー司令官は、4月7日のインタビューの中で、名指しを避けつつも、(ソムチャック教授を)「体制を転覆」しようとする「精神異常の学者」を決めつけ非難した。

チュラロンコン大学政治学部のヴェングラット・ニティポ助教授は、「(ソムチャット教授が提起した)諸課題は、学術界で議論するに当たり、最も気を遣わなければならないテーマです。私たちは法律の枠から逸脱しないよう、いつも議論の範囲を制限し、発言内容を自ら検閲せざるを得ないのです。」と語った。

またニティポ助教授は、「ソムチャック教授を脅迫したり、逮捕しようとする動きは、かえってこの問題を巡るタイ社会の内部対立を深めることになりかねません。タイの学術界は、この問題について議論をリードしていく役割があると思います。」と語った。


このように学術界が王党派や、軍、保守政界に対して公然と議論を挑む今日の現状は、タイの政治文化を研究してきた専門家の間で「前例のない動き」と見られている。

米国のタイ政治学者デイヴィッド・ストレックフス氏は、「制度としての王政を批判的に検証し民主主義を一層前進させようとする組織的なアプローチは、タイ現代史において初めての動きだと思います。ソムチャット教授と彼を支持するグループは、王室を非難が及ばない位置に据えてきた1947年以来の法律にあえて挑戦することで、君主制度を立憲制が敷かれた後のあるべき場所に位置付けようとしているのです。」と語った。

1939年までシャムとして知られたタイは、1932年まで絶対王政を強いていたが、同年フランス留学経験をもつ改革派を中心とする立憲革命が勃発し立憲君主制が打ち立てられ、民主化への道が開かれた。その後タイは、野心的な軍事指導者達による18回のクーデターと一連の軍事独裁政権を経験してきた。

タイには王室に関する不敬罪(禁固3年~15年)があり、IPSの調べによると、2009年には164件が立件されている。投獄されたのは、政治活動家や、王政を侮辱するようなコメントをウェブに書き込んだ者などである。なお、野党議員1名と学者1名が不敬罪に問われ国外逃亡している。

近年、政府当局による大学への締め付けが強まっている。あるバンコクの大学では、タイの民主主義における王政の役割について尋ねられた学生の試験答案を開示するよう政府から要求があった。また、ウェブ上で王政について記述しただけで大学への入学を拒否された学生の事例もあった。さらに消息筋の情報によると、政府の治安部門の機関から各大学に対して、不敬罪にあたる恐れのある学内グループを監視するよう要請があったという。

しかし、ソムチャック教授らの行動に触発され、王政について議論したいという学生たちは増えており、彼らの欲求がこうした当局からの締め付けで抑えられているわけではない。タマサート大学のある学生は報復を恐れて匿名を条件に、「これは学問のやり方で議論していかねばならないテーマなのです。」と記者に語ってくれた。

タイにおける王政のありかたを巡る諸議論について報告する。(原文へ

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩


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│西アフリカ│イナゴへの備えで地域が連携

【ダカールIPS=コフィガン・アディグブリ】

5月から8月にかけて、西アフリカのサヘル地域の農民たちはイナゴの襲来に戦々恐々となる。大挙襲来するイナゴは、主食の粟やソルガムの収穫を脅かし、穀物、放牧地の双方に甚大な被害をもたらすからである。

しかし今年は、地域全体を網羅する「イナゴ襲来と闘うアフリカプロジェクト」の始動により、イナゴ被害を最小限にとどめる取り組みが強化される見込みである。

 プロジェクトはフランス語の頭文字からPALUCPと呼ばれており、マリ・ブルキナファソ・ガンビア・モーリタニア・ニジェール・セネガル・チャドの7ヶ国が参加している。世界銀行が60億CFAフラン(約1300万ドル)の出資をし、国連食糧農業機関(FAO)が技術援助を行っている。
 
 重要な活動内容のひとつが密接な情報交換である。イナゴは国境を越えて飛来する場合も少なくないので、加盟国の技術者が各地のイナゴ襲来の情報を把握し、密接に情報交換をし合うことが効果的な対応策を講じる上で重要な鍵となる。また、イナゴ対策の技術を国境を越えて互いに知らせあうことも、PALUCPの重要な役目である(例えばブルキナファソでは、夜陰に乗じてイナゴを一網打尽にする方法が採られているが、他の国ではそうした手法は知られていない。)

農薬の貯蔵・管理も焦点となる。とくに、ある国で在庫が尽きたときに他国から融通してもらえるスキーム作りが急がれている。

中には、イナゴ被害のあまりのひどさに、状況を悲観している小農も少なくない。セネガルの農民イブラヒマ・ジャウさんは「イナゴの襲来は間近だ。もうそこまで迫っている」と気を揉んでいる。

PALUCPでは、イナゴ襲来期を控えた今年3月末、ダカールに加盟国の農務省と農業研究機関の代表者が集いワークショップを開催し、ジャウさんのような被災農民の不安の声に対して次のような提案を行った。1)イナゴ襲来に対して効果的に対処できる住民の意識啓発に取り組む市民社会の活動を強化する。2)イナゴ被災地の農家に対して、各国政府が、収穫期の間に農業資金と食糧を寄付し生産力の回復を図るとともに、小規模事業に対する貸し付けを行う。

イナゴ撲滅に取り組む西アフリカの動きを報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

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|中東|UAE、パレスチナ和解合意を歓迎

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【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)は、「パレスチナ解放機構の主流派ファタハ、ガザ地区を実効支配するハマスをはじめ、パレスチナ各派(13会派)が5月4日にカイロで和解合意に署名したことを歓迎する」と声明を発した。

今後パレスチナ各派は、暫定的な統一政府を樹立し、その後1年以内に自治政府の議長と評議会(議会)選挙を実施することを目指す。

 UAEの駐エジプト大使・アラブ連盟常駐代表のモハンマド・ビン・ナクヒラ・アル・ダヒリ氏は、「UAEは今回の合意を祝福するとともに、今後もパレスチナの人々が自身の権利を回復しエルサレムを首都とした独立パレスチナ国家を樹立するために、結束し足場を固める動きを支援していきます。」と語った。

アル・ダヒリ大使は、今回の合意がパレスチナの人々が団結する上で確固たる基盤となり、民衆の願いであった内部闘争を永久に終結させ、能力と努力を結集してパレスチナ人が公正な権利を獲得するよう希望していると述べた。

またアル・ダヒリ大使は、今回のパレスチナ和解とパレスチナ諸派による和解合意を実現する上でエジプト政府が建設的な役割を果たしたことを称賛した。

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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【アムステルダムIDN=ジャヤ・ラマチャンダラン】

リビア内戦に介入した米国と同盟国は、1991年の湾岸戦争以降、介入したいくつかの地域戦争で劣化ウラン弾を使用したと報じられている。今回リビアにおいても同様に劣化ウラン弾が使用されたのではないかとの疑惑が高まる中、ウラン兵器禁止を求める国際連合(ICBUW:120以上のNGOで構成)は、ウラン兵器を禁止する国際条約の成立に向けて運動を強化している。

米空軍のポーラ・カーツ報道官は、4月2日付の『ヘラルド・スコットランド』のインタビューで、リビアで対地攻撃機A-10を利用していることを認めた。A-10は装甲車や戦車を駆逐する目的で開発された航空機で、劣化ウラン弾頭を装着した徹甲弾を毎分3900発発射することが可能である。

カーツ報道官は、これまでの劣化ウラン弾使用疑惑の報道は否定したものの、将来的な使用の可能性に関しては「将来何が使用されるか、使用されないかについて推測でお話ししたくありません。」と明言を避けたことから、国連安保理決議1973号が保護を目的としているはずの民間人が劣化ウランの犠牲になるのではないかとの疑惑が一層強まることとなった。

一方評論家は、米国は時としてウラン兵器の使用に関しては「情報を全面公開しない」傾向にあるという。「私たちは今後も、リビアにおいて劣化ウラン弾は今までも使用されていないし今後も使用しないという確固たる保障を求めていきます。」と「核兵器廃絶キャンペーン」(CND)のケイト・ハドソン事務局長は語った。

「米国は、放射能物資の実戦配備については、実際に使用してかなりの年月が経過してから認めるということを長年繰り返してきた歴史があります。」とハドソン事務局長は付け加えた。

劣化ウランは放射性の科学的毒性を有する重金属である。ICBUWは、「ウラン兵器は燃焼すると放射能と毒性を持った粉塵が撒き散らされる。ウラン弾に貫通された標的はこの粉塵に覆われ、乾燥地域においては数キロ先まで拡散することもある。その結果、民間人、軍人を問わずその粉塵を体内に吸い込んでしまう危険性がある。」と指摘している。

劣化ウランは、1991年と2003年の米軍及び多国籍軍によるイラク進攻で戦場となった一部地域において、乳癌やリンパ腫などの癌発生率が急増した原因と考えられている。また、主戦場付近において先天性欠損症の事例が高まったこととも関連していると考えられている。

ICBUWによると、劣化ウランは、湾岸戦争、ボスニア、セルビア、コソボ、イラク戦争などで米軍・英軍が徹甲弾として使用したという。また、劣化ウラン弾はその他18カ国が使用していると考えられている。

さらに、2001年にアフガニスタンで使用された疑惑もあるという。米英政府は否定しているが、リークされた文書によると、米軍が現地で劣化ウラン弾を保持していたことは間違いないという。ICBUWは、「NATO地上軍の支援に近接航空支援用地上攻撃機A-10を使用し続けているということは、劣化ウラン弾が使用された可能性を否定できません。」と述べている。

ICBUWは、かつて地雷禁止・クラスター兵器禁止連合が取り組んだように、全ての通常兵器におけるウラン使用を禁止する「ウラン兵器禁止条約」を起草している。またICBUWは、米国に対し、英国のデイヴィッド・キャメロン首相が明言したように、劣化ウランの使用を全面的に否定する確約を求めている。また「劣化ウラン弾が既に使用された場合は、直ちに地域住民にその事実を公表するとともに、できるだけ早く除染作業を行うべき。」と主張している。

またICBUWは、米国政府に対して「米軍機は劣化ウラン弾を装着して発進せず、搭乗員は発射許可を受けることはないとする確約を国際社会に対して明言するよう」、また、「戦闘地域に既に配備されている劣化ウラン弾は選別・封印し、既に使用された場合は対象地域に関する情報を開示するよう」強く求めている。

一方、オランダでは、労働党と社会党が、リビアで米軍が「ユニファイド・プロテクター作戦」において、劣化ウラン弾を使用した可能性について、政府への追及を強めている。オランダ政府は、空軍機(F16戦闘機、給油機)、機雷掃討艇を派遣し、リビア上空の飛行禁止区域の設定作戦に深く関与している。

平和団体「IKVパックス・クリスティ」の政策顧問Wim Zwijnenburg氏は、「現在のところ、ウラン兵器の使用を巡る情報開示が確保されていないことから、被害調査の実施が難しい状況にあります。米軍はウラン兵器をリビアに実戦配備していないことを切に祈るのみです。」と語った。

またZwijnenburg氏は、「湾岸戦争、イラク戦争において使用された400トンにも及ぶ劣化ウランの実態を調査し放射能除染などの技術支援を行うためにも、イラクで使用された劣化ウラン弾に関する情報開示を行う必要があります。」と語った。

「私たちは、国際原子力基金(IAEA)のいう『低レベル放射能廃棄物』に汚染された地域をこれ以上広げる余裕はありません。この問題に対する国際社会の関心が高まり、ウラン兵器の使用に歯止めをかけるようになることを望んでいます。」

またZwijnenburg氏は、オランダ政府は議会からの度重なる要請にも関わらず、ウラン兵器の使用に関して明確に反対する立場をとることを躊躇してきた点を指摘した。オランダ政府は、議会が提出した劣化ウラン兵器の製造禁止を求める動議を棚上げにしたほどである。

「一方でオランダ政府は、昨年12月、劣化ウラン弾の使用に関する透明性を求めた国連決議A/65/55に賛成しています。同決議は、世界保健機関(WHO)や国連環境計画(UNEP)による勧告の実現も求めており、とくにUNEP勧告は劣化ウラン弾使用に関する予防的なアプローチを推奨しています。」とZwijnenburg氏は4月7日に発表した声明の中で語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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|エジプト|軍最高評議会、「エジプトにホメイニ師はいない」と語る

【カイロIDN=バヘール・カーマル】

ムバラク大統領失脚後エジプトの権力を握っている軍最高評議会は、2月5日、「エジプトはガザにもイランにもならないし、アヤトラ・ホメイニ師のような人物に統治されることもない。」という強い調子の声明を発表した。声明のあて先は、ムバラク失脚後幹部の入れ替わった国営メディア各社のディレクターや編集長たちである。

声明ではまた、「国の指導が民間人に移り、民主国家が打ち立てられ、新しい議会と大統領が選出されれば、(軍が)街頭に出ることはなくなるだろう」とも述べられている。

この声明は、米国のヒラリー・クリントン国務長官が、ムスリム同胞団が権力をとることを否定しない趣旨ともとれる発言をした直後に出された。

クリントン長官は、エジプトのオンライン新聞「マスラウィ」が企画した一般市民の質問に答える中で、(ムスリム同胞団の将来的な政権獲得についてどう思うかとの問いに対し)「暴力を否定し、民主主義に従い、全てのエジプトの民衆の権利を擁護する全ての政党は、エジプトの有権者の審判を仰ぐ機会を持つべきです。」と答えた。

 クリントントン長官のこうした見解は、シリアにおける民主化蜂起の際にも表明されているが、これは次の改革段階において、アラブ諸国のムスリム同胞団が軍とともに政権運営を担うことを、米国政府としてもはや拒否しないとするバラク・オバマ政権の新しい外交方針の流れを踏襲したものである。

他方で、米国内の強硬派は、ムスリム同胞団が力を得ることに強い警戒感を示している。下院外交委員会の有力議員イリーナ・ロス-レティネン氏(共和党)は、「私たちは、エジプトにおける一連の民主化の動きを利用して政権を奪取し、エジプト国民を虐げ、エジプトと米国、イスラエル、その他民主主義国家との外交関係を著しく傷つける恐れがあるムスリム同胞団他の原理主義団体が、選挙プロセスに関与することを明確に拒否しなければならない。」と述べ、ムスリム同砲団はエジプトの政治過程から排除されるべきだと主張した。

また、ネオコンの論者チャールズ・クラウトハマー氏もワシントンポストの特別ページ(2月11日付)の中で、「自由を求める『長い黄昏時の闘争』の中で、イスラム主義者が共産主義者にとってかわってしまった。」「かつて冷戦期に、欧州における共産党支配を戦ったように、今後の米国の外交方針は、新たに解放されたアラブ世界において、ムスリム同胞団や共産党といった全体主義政党が、暫定政権・民主政権を問わずいかなる政権にも参画しないよう働きかけることである。」と警告した。同氏は、ソ連崩壊後の米国による世界覇権を祝してフォーリン・アフェアーズ誌で発表した論文“The Unipolar Moment”において、「一極構造 Unipolarity」という用語を生み出した人物である。

欧州の政界やメディアも概ねこうした米国のネオコン、新自由主義論者による警告に同調する論陣を張った。

しかし、ムスリム同砲団は、今秋に予定されている次のエジプト大統領選挙に候補者を出す可能性、さらにこの夏の議会選挙で多数を目指す可能性のいずれも否定しており、政権奪取の意図が(少なくとも今は)ないことを引き続き表明している。
 
 ムスリム同胞団の活動は旧ムバラク政権の下で非合法化され、指導者が繰り返し投獄されるなど激しい迫害に晒されてきた。にもかかわらず、ムスリム同胞団は、旧ムバラク時代の与党である国民民主党を除く他のいかなるエジプト諸政党よりも巧みに党員の結束を保つことに成功したようである。

ムスリム同胞団は一方で、3月19日の憲法改正案を問う国民投票には積極的に動いた。憲法改正を支持した主な勢力は、国民民主党(その後多くが離党して新エジプト青年党を結成、国民民主党自体は4月16日に解散した:IPSJ)とムスリム同胞団だけで、民主革命後に結成された「若者革命連合」、「変革のための国民協会」(ノーベル平和賞受賞者モハメド・エルバラダイ氏が設立)等全ての政党は、のきなみ反対に回り、国民投票のボイコットを呼びかけた。その理由は、改正憲法案が、一党独裁を廃し政党の形成を促進する一方で、現在の大統領権限にほとんど手をつけておらず、シャリーアと呼ばれるイスラム法が引き続き法の基礎(憲法第2条)に位置付けられているからである。

こうした野党諸政党によるボイコットの呼びかけにも関わらず、国民投票ではエジプトの圧倒的多数(77%が賛成)の国民が憲法改正案を支持した。その背景には、エジプト国民がまだ自由選挙に慣れていないのと同時に、今回の国民投票が彼らにとって初めて自由に投票できる機会と捉えられていたという事情がある(投票率は41%という異例の高さだった)。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|軍縮|核廃絶を世界的課題に引き戻した10ヶ国

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

心を引き裂くような福島原発災害のイメージとアラブ世界の民衆蜂起の波によって、核兵器なき世界に向けて中東を非核地帯にするという急務の課題が見えなくなりそうな危険があった。しかし、地域横断的な非核兵器国10ヶ国による取り組みが、世界を無感覚状態の中から救い出そうとしている。

 非核10ヶ国の外相が、「核兵器使用の可能性によって人類がさらされている危険並びに増大する拡散リスクに対処し、核兵器を削減し、核セキュリティを強化し、また、原子力安全を強化する必要性」を指摘する一方で、「中東非核・非大量破壊兵器地帯」の創設を実現するために努力していくことを誓った。
 

Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun
Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun

そうすることで、10ヶ国の外相は、世界の市民社会の果たす重要な役割にまでは言及しなかったものの、世界で約1200万人の会員を有する仏教団体「創価学会インタナショナル(SGI)」の池田大作会長が今年1月に発表した「2011年の平和提言」で提示した重要項目を間接的に支持した、ということになろう。
 
 市民社会が重要な役割を果たす中で、たんなる核軍縮ではなく核兵器を全廃していくことこそが、核兵器の脅威に対する唯一の保証である、と「平和提言」は述べている。

4月30日にベルリンで開催された「第2回核軍縮・不拡散に関する外相会合(ベルリン会議)」に参加した10か国外相は、世界の市民社会の重要な役割については触れなかったが、全会一致で採択した成果文書「ベルリン声名」の中で、「教育が、市民の認識及び理解を深めることによって、更なる軍縮・不拡散の取組をグローバルに動員していくための強力な手段であるとの信念に基づき、軍縮・不拡散教育を積極的に促進する。」ことを誓っている。
 
また同声名は、「我々は、核兵器の使用又は核兵器の使用の威嚇に対する唯一の保証としての核兵器の完全な廃絶への新たな要求を歓迎し、支持する。また我々は、その結果として、核兵器の数、並びに安全保障戦略、概念、ドクトリン及び政策における核兵器の役割を、更に低減する必要性を認識する。」と述べている。
 
核ドクトリンを支える安全保障戦略に言及して、池田会長は平和提言の中で、「核兵器の保有を維持する前提とされてきた、“恐怖の均衡”で安全保障を維持するという抑止論的思考を徹底的に見直すことが必要。」と述べている。

オーストラリア・チリ・ドイツ・日本・メキシコ・オランダ・ポーランド・トルコ・アラブ首長国連邦の外相は、この「ベルリン声名」において、「重要な不拡散の役割を担う、国家の輸出管理体制の強化を目的とした具体的な取組」を進めていくことによって、「核軍縮の実現及び国際的不拡散体制強化に向けて取り組むという共同の意志」を再確認した。

世界各地域から集まった10ヶ国の外相は、国連総会の会期中である2010年9月22日にニューヨークで開いた第1回会合で採択した共同声明に言及した。このときの会合は、日豪両政府の外相がホスト役を務めた。

池田会長は「平和提言」の中で、「地域の永続的な安定を確保するには、非核化は避けて通れない道」と指摘した上で、「中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立に向けて対話の環境」を作り出すことを求めていた。

そうした対話の環境作りを早急に進めていかなければならないとしながら池田会長は、「昨年のNPT運用検討会議で合意をみた2012年の『中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立に関する会議』は、成否以前に開催そのものが危ぶまれている。」と付け加えた。

中東に関する2012年の会議の不確実さは、対話の環境作りに向けたさらなる努力の必要性を示している、と池田会長は述べている。

10ヶ国外相は、SGI会長の懸念とまさに同じように、「当該地域の関係国家間で自発的に達成された手段に基づき、かつ、国連軍縮委員会の1999年のガイドラインに従って、国際的に認知された非核兵器地帯の設置が促進されることを期待し、また、そのような地帯が、地域及びグローバルな平和と安全を強化し、核不拡散体制を強化し、核軍縮の実現に貢献すると確信する。」と述べている。

「この関連で」、さらに10か国外相は、「2010年NPT運用検討会議において合意された、特別会議の2012年における開催に向けた要請に従い、中東における非核兵器及びその他の非大量破壊兵器地帯の創出を促進する決定的重要性を強調する。」と述べている。

核拡散防止条約(NPT)運用検討会議は、2010年5月にニューヨークの国連本部で開かれた。

1970年に発効したNPTは、核軍縮と核拡散防止に関する国連の主要な取り決めのひとつである。190ヶ国がNPTに加盟しているが、核兵器を保有するとみられるインド・パキスタン・北朝鮮・イスラエルの4ヶ国は未加盟のままである。

10ヶ国外相は、「最近の進展、特に米露間の第四次戦略兵器削減条約(新START)の発効及び、削減プロセスを継続するとの両国による意図表明を心強く思い、このプロセスにすべての種類の核兵器が含まれる必要性を強調する。」と述べている。

しかし、ドイツのギド・ヴェスターヴェレ外相は、ベルリン会議の開会挨拶でより明確に「我々は、昨年5月のNPT会議での約束を核兵器国が守ることを期待している。」「我々は、核軍縮のペースが上がり、軍事ドクトリンにおいて核兵器の役割が低減するのを歓迎するだろう。バラク・オバマ大統領の(2009年4月の)プラハ演説以来ついた軍縮への弾みを失ってはならない。」と語った。

またヴェスターヴェレ外相は、米露両国が(核軍縮の)交渉のテーブルに戻ってきたことについて、「これは皆にとってグッド・ニュースだ。二国間ではプロセスは軌道に乗っているようである。」と賞賛する一方、「多国間の協議は脱線寸前だ。」と語った。

オーストラリアのケビン・ラッド外相も、昨年のNPT会議以来「実務的な作業はほとんど進んでいない」と指摘し、ヴェスターヴェレ外相と同様の見解を示した。

しかし、10ヶ国の外相は、ヴェスターヴェレ外相の以下の発言にあるように今後の展開について楽観的である。「これから数週間、数ヶ月の間で、我々の取りくみによって多国間交渉を再スタートさせることができるかもしれない。とりわけジュネーブ軍縮会議において、これまでの頑なな態度をともに乗り越えることができる。」

ベルリンで始められた取り組みに言及したメキシコのパトリシア・エスピノサ外相は、この共同の努力は「人類の未来に直接の影響を持つ問題の重要性」を反映していると述べた。

ベルリン声明は、「2010年のNPT運用検討会議において達成された前向きな行動計画に関するコンセンサスは、必要な政治的意志があれば、協力的で多国間の軍縮・不拡散の取組が機能することを証明した。」と述べている。

またベルリン声明は、「我々の目的は、そのような成功裏の結果のモメンタムを維持し、また、その実施を促進することである。」と述べている。10か国外相は、この目的により、行動計画の主要な事項に関する具体的行動提起として次の4つのものを採択した。

核分裂性物質

1.兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)に合意することで、核兵器用の核分裂性物質の生産を止めること。こうした条約は将来における核軍備競争のリスクを抑制し、非国家主体がそれらの物質を取得する危険を軽減するだろう。脆弱な状態の核物質を保全する取り組みの補完にもなる。また、世界の脆弱な核物質を防護するために行われている取組を補完するだろう。

FMCTは「核兵器のない世界の途上において必要不可欠な措置である。」と10ヶ国外相は述べ、「ジュネーブ軍縮会議(CD)でのFMCT即時交渉を求めたNPT運用検討会議から1年が経過し、それが履行されていないことに対し。我々は深く失望している。」とした。

合意を阻んでいるのはどこの国かという名指しは避けつつ、ベルリン声明は、すべての国の安全保障上の要求に対処しなければならないことを認識しつつも、「これ以上の遅延の理由及び言い訳はないこと」と強調している。

オーストラリア・日本・ドイツの主導した声明の署名国は、主にパキスタンによって引き起こされた現在のジュネーブ軍縮会議の行き詰まりを打破する集中的な取り組みを始めている。

「しかし、ジュネーブ軍縮会議が、2011年の実質会期でFMCT交渉の開始に合意できない場合、我々は、すでにその議題162「2010年9月24日ハイレベル会合のフォローアップ:軍縮会議の作業の再活性化及び多国間軍縮交渉の前進」の下で本件を取り上げることになっている国連総会に対し,この問題に対処し,交渉開始のために前進する方途について検討することを求める。」と10ヶ国は宣言している。

包括的核実験禁止条約(CTBT)

2.包括的核実験禁止条約(CTBT)は、15年前に署名開放された:10ヶ国外相は、すべてのCTBT未署名・未批准国に対し、署名・批准を求めている。

「我々は,米国及びインドネシアによって表明された、条約の批准を確保するとのコミットメントを心強く思う。我々は、核実験の効果的な終了は、国家及びグローバルな安全保障を弱めることなく、強化し、また、グローバルな不拡散・軍縮体制を著しく増強すると確信する。」

「我々は、CTBTの普遍化及びその早期発効促進にコミットしている。様々な外交の機会を活用し、我々は、未署名・未批准国に対し、署名・批准し、発効のために必要な手続を速やかに完了するよう求めていく。我々は、効果的な監視・検証体制を整備するに当たり、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会を支援することにコミットしており、また、すでに達成した業績を評価する。」と声名は述べている。

透明性と説明責任

3.核軍縮プロセスにおける透明性と説明責任:2010年NPT運用検討会議において、核兵器国は、核軍縮に向けた具体的な措置の進展を加速させること、また、NPT締約国に対して報告を行うことにコミットした。さらに、信頼醸成措置として、同会議は、核兵器国に対し、可及的速やかに標準化された報告フォームに合意することを奨励した。
 
 10ヶ国外相は、「我々は、核兵器国がコミットメントを実現する上で使用し得る標準化された報告フォームの案を作成している。我々は、核兵器国が6月のパリにおける会合において、我々の提案を検討するよう呼びかける。」と述べている。

この案には、10カ国が、すべての核兵器保有国が提供することを望む情報に関する同10カ国の期待が反映されている。「我々は、標準化された形式に基づく報告が、NPT運用検討会議で採択された行動計画において奨励されているように、国際的な信頼を醸成し、更なる軍縮を可能にする環境作りに寄与するものと信じる。我々は、核軍縮プロセスにおいて透明性と説明責任を高めることが重要だと認識している。」

遵守

4.国家の核不拡散義務の遵守と検証:ベルリン声明は、効果的な不拡散体制はすべての国にとって共通の安全保障上の利益であることを強調している。従って、10カ国外相は、国家の核不拡散義務の遵守を検証する上でのIAEAの重要な役割を認識している。

10カ国は、2010年12月にアラブ首長国連邦において、また、2011年3月にメキシコにおいてIAEA追加議定書が発効したことにより、地域横断的イニシアティブに属するすべての国が、我々が不可欠な検証基準と考える包括的保障措置協定及び追加議定書を履行している事実を強調している。

声明は、IAEA追加議定書がアラブ首長国連邦に関して2010年12月に、メキシコに関して2011年3月に発効したことで、10ヶ国の枠組みに属するすべての国家が包括的保障措置協定と追加議定書を実行しているという事実を強調した。これらの2つの取り決めは必要な検証上の標準であると10ヶ国はみなしている。

10ヶ国外相は、2010年NPT運用検討会議の行動計画に従って、不拡散義務の違反を確実に阻止し、かつ探知するためにIAEAが必要とする追加的な権限を与えるため、すべての国に対し、追加議定書を締結し、発効させることを求めている。

さらに声明は、「我々は、それぞれの地域において、二国間及び多国間で、追加議定書の普遍的適用を引き続き唱道していく。我々は、追加議定書の締結及び履行における経験及びベスト・プラクティスをすべての関心国と共有することを提案し、また、法的及びその他の支援を提供する用意がある。」と述べている。

10ヶ国は、9月の国連総会と同時期に開く次回会合において「ベルリン声明」に発表された提案の進展を確認する。また、トルコが2012年の次回外相会合を主催することになっている。

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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|軍縮|核兵器のない世界という新たな約束

|シリア|軍の侵攻で死傷者数が増加

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【ドーハIPS/ALJ=特派員】

戦車と装甲車の支援を受けたシリア軍兵士が南部のダルアーと首都ダマスカス郊外のドウマ(Douma)に攻撃を加え、多くの市民が死傷し数十人が拘束された。

バシャール・アサド大統領に忠誠を誓う治安部隊は、侵攻を開始した24日に引き続き2日目も、地中海沿岸のジャブレ(Jableh)において反体制派に対する弾圧を行った。

活動家が25日夜に語ったところによるとダルアー(Deraa)だけでも18人が殺害されたとのことである。

 一方、政府当局は、軍は街から武装勢力を排除するために招き入れられたと主張している。

ダマスカスからレポートしているアルジャジーラのルラ・アミン記者は、「今回の軍による展開は、3月15日の民主化要求デモ以来シリア各地に広がった反政府運動に対する『前例のない』規模の攻勢です。」と語った。

アミン記者は、ダマスカス中心部では検問が設けられ厳重な警備態勢が敷かれていると報じた。

ダルアーの目撃者によると、車が政府軍の銃撃を受けて少なくとも5人が死亡した。AFP通信に語ったその目撃者は、「車が銃撃でハチの巣にされたのをこの目で見ました。ダルアーの各地から激しい銃撃音が聞こえました。」と語った。

AP通信の電話取材に応じたダルアーの目撃者は、「私たちは国際社会の介入を必要としています。各国による助けが必要です。」「治安部隊はモスクを包囲し尖塔からは助けを求める声が響いている。また部隊は続々と民家に侵入している。夜間外出禁止令が出されており、自宅から出るものは撃たれている。また治安部隊は住民から水を奪うために屋上の貯水タンクまで撃っている。」と語った。

アルジャジーラは今回の弾圧による死者数の総数については確認がとれていない。

アルジャジーラが治安当局から入手した情報によると、政府軍がダルアーに侵攻するにあたってヨルダンに通じる全ての南部国境を封鎖した。

目撃者の証言によると、4月25日未明、数千人の軍部隊がダルアーに進軍し、戦車が同市の中心部に配備され、屋上には狙撃兵が配置されたという。

市内のある活動家は、軍の侵攻に伴う犠牲者の数はわからないと説明した上で、「通りには死体が散乱しているが、回収することもできない。」と語った。

25日に反体制側のメディアが衛星回線を通じて配信した番組には、シリア軍兵士が目に見えない標的を狙撃銃で撃っていると思われる場面が映し出されている(アルジャジーラはこの映像の真偽について確証はとれていない)。

「怪我人が出ており、数十人が拘束されている。これは民主主義を求める民衆蜂起が起こった全ての中心地で、治安当局により繰り返されてきた典型的なパターンです。当局は、究極の残虐行為で革命を鎮圧したいのです。」と、ダマスカスでロイター通信の取材に応じた匿名の人権活動家は語った。

24日に数名が射殺されたジャブレでは、目撃者によると、迷彩服に身を包んだ治安部隊の兵士や覆面をした黒づくめの武装した男たちが街の通りを巡回していた。

「ジャブレは治安部隊に包囲されています。市民の死体がモスクや家屋に放置されていますが、我々は動かすことはできないのです。」と、電話取材に応じた同目撃者は語った。

シリア人権監視団体(The Syrian Observatory for Human Rights)は25日に催した会見の中で、ジャブレでは政府による弾圧が24日に開始されて以来、少なくとも13人が殺害されたと語った。

シリア政府は反政府民衆蜂起が始まって以来、ほぼ全ての海外メディアによる活動を禁止し、問題地域へのアクセスを制限したため、客観的な事態の把握がほぼ不可能になった。

アルジャジーラのアミン記者は、25日に始まる今回の弾圧は、「治安部隊によるそれまでの戦術とは異なるもの」と指摘し、「これまでの治安当局による弾圧は、抗議行動に対する反応という形を踏襲してきました。しかし今回のドウマとダルアーに対する多数の兵士による侵攻作戦は、両都市において抗議行動が開かれなない中で、行われたものです。」「つまり、治安部隊は都市を速やかに席巻するというこれまでとは異なる当局の戦術を目の当たりにしているのです。」と語った。

今回の侵攻では初めて通信手段が切断され、反政府活動家たちの期待に反して、シリア軍が直接民主化運動の鎮圧に乗り出した。

現地特派員によると、反政府活動家の人々は、軍が関与しないことを望んでいた。しかし事態がこのような進展を見せている今、「彼らは、今回の事件は、これから起こるであろう非常に深刻な弾圧政策の序章にすぎないと考えている。」と特派員は語った。

ある活動家がアルジャジーラに語ったところによると、ダルアーでは、軍から脱走して民衆側に立って戦う士官達もいた。
 
 またダルアーでは、2人の県議会議員が辞職した。彼らの辞職は、前日に2人のダルアー県選出の人民議会議員(ハリール・リファーイー氏、ナースィル・ハリーリー氏)及びダルアー県ムフティ(リズク・アブドゥッラフマーン・アバー・ザイド師)が、死傷者を出した治安当局による弾圧に抗議して辞表を提出したのに続く行動であった。(リファーイ前議員は、「我が国民をもはや護ることができない」ため辞職したと述べている:IPSJ)
 
また、25日には102人の作家や亡命中の全ての主だった党派の代表が、弾圧に抗議する宣言文を公表し、暴力に訴えるシリア政府に対する怒りの声を上げた。
 
同宣言には、「我々は、シリア政府の抗議参加者に対する暴力と抑圧的なやり方を強く非難するとともに、民主化運動に参加して犠牲となった人々に哀悼の意を表するものです。」と記されている。

一方、米国の政府高官がロイターに語ったところによると、オバマ政権は、民主化運動に対する武力弾圧を続けるバシャール・アサド政権に対して、シリア政府高官を対象とした制裁措置の可能性を含む一連の対応策を検討している。

同高官は、「対応策には、米国における資産凍結や米国との商取引の禁止などが含まれる可能性がある。」と語ったが、こうした追加制裁がいつ発動されるかについては言及がなかった。

また、国連のナビ・ピレー人権高等弁務官は、暴力が深刻化した現状について、「シリア政府は自国民に対する殺害を止めるよう求める国際社会の声に背を向けた。」と強く非難するとともに、シリア政府に対して、拘束中の活動家や政治犯の即時釈放と、治安部隊の抑制、さらに先週末にかけて100名近くの死者をだしたと伝えられる犠牲者について調査するよう求めた。

「まず第一歩は、武力の行使を直ちにやめること、そして軍や治安部隊の犠牲者を含む全ての犠牲者について完全かつ独立した調査を実施し、犯人に公正な裁きを受けさせなければなりません。」とピレー高等弁務官は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

|リビア|NATO同盟国は事実上の分裂国家という事態に備えるべき

【アブダビWAM】

「リビアの反政府勢力支援に外国軍を派遣するのは重大な過ちとなるだろう。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙「ガルフニュース」が報じた。

同紙は「カダフィ大佐は反乱軍の鎮圧を許されないだろう」と題した論説の中で、「たとえ人々が、カダフィ政権なきリビアの方が望ましいという点で意見が一致していたとしても、もしNATOが地上軍を投入すれば当初のミッション(リビア民間人の保護)に反して取り返しがつかない事態を招くこととなるだろう。リビアにおける闘争はリビア人自身によって勝ち取られることが重要だ。」と報じた。

内戦が勃発してほぼ2か月が経過するが、反カダフィ勢力であるリビア国民評議会を支援するNATO連合軍は、現在の戦術的な行き詰まりを打開すべく、地上軍の投入に傾きつつある。フランスと英国が主導するNATO連合軍は、当初の意図に反してカダフィ政権が頑強に抵抗を継続し崩壊の兆しも見せていないことに焦燥感を募らせている。

 英国のジェームズ・キャメロン首相は4月21日、地上軍投入という選択は誤りであるとの見解を示したものの、ウィリアム・ヘイグ外相は反政府軍勢力の体制強化支援のために20名の軍事顧問団を派遣することを発表した。

「従って、反政府勢力には、厳密には戦闘戦力とは定義されないものの最終的に数百人の外国軍が支援に派遣される可能性が高い。」

例えば、欧州連合は、リビアにおける人道支援活動をエスコートするために地上軍を配備する意向を表明している。一方、カダフィ政権はそうした兵士を軍事作戦に従事している勢力として見做すと警告している。

「リビア情勢は近い将来反乱軍の勝利に終わる目算はない。しかし国際社会はカダフィ大佐に反乱軍の鎮圧を許さないだろう。」と同紙は見通しを述べた。

「従ってNATO同盟国は、リビアが事実上2つに分裂し、地上軍は展開できないものの反乱勢力を支援し続けるという事態に備える必要がある。」

「事態は混迷を極めているが、NATO同盟国はリビア介入が『ミッション・クリープ』に陥らないよう慎重に対処していくべきである。」とガルフニュースは報じた。
 
翻訳=IPS Japan戸田千鶴

*ミッション・クリープとは、終わりの見えない展開という意味。本来は米軍事用語で任務を遂行する上で目標設定が明確でなく当初対象としていた範囲を拡大したり、いつ終わるか見通しが立たないまま人や物の投入を続けていかなくてはならなくなった政策を意味し批判的に使われる言葉である。

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中東民衆蜂起で民主選挙へと転回するアフリカ

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【国連IPS=タリフ・ディーン

中東で多党制民主主義を求める民衆の叫びが吹き荒れる中、軍事政権や独裁政体が多いことで知られるアフリカ諸国が、大統領選、議会選挙へ向かおうとしている。

「選挙・民主主義・安全保障に関するグローバル委員会」(GCEDS)によれば、今年中に、アフリカの19の国が大統領選、あるいは議会選挙を行う予定である

 例えば、チャド、マダガスカル、セイシェル、ジンバブエ(5月)、カポベルデ、サントメプリンシペ、チュニジア(7月)、エジプト(9月)、リベリア、カメルーン、ザンビア(10月)、モーリタニア、コンゴ民主共和国(11月)、ガボン(12月)などである。

すでに、ジブチ、ケニア、コートジボワール、ウガンダ、ジンバブエなどにおいて、大統領選挙の結果をめぐって紛争が起こるか、多選禁止が打ち出されている。

ストックホルムに本拠を置く「民主主義・選挙支援国際研究所」(IDEA)のヴィダール・ヘルゲッセン氏はIPSの取材に応じ、「一口にアフリカといっても、多様な経験があります。ガーナでは安定した民主化プロセスがあり、平和裏に政権が移譲されましたが、コートジボワールでは大統領選挙が簒奪されてしまいました。これから選挙を迎えるアフリカ19カ国の国民と政府は、これら西アフリカの隣国の事例のいずれかを選択することになります。」と語った。

ヘルゲッセン氏はさらに、「比較的自由な選挙が行われたところでも、民主主義が表面上のものにとどまっているところもあります。残念ながら、現職を維持することが民主主義より大事だと考えている権力者は、まだまだ少なくないのです。」と語った。
 
 コフィ・アナン前国連事務総長が主宰するGCEDSは、様々な利害関係者に対して、「誠実な選挙」を実施することが、民主主義のみならず、いかに安全保障、人権、開発の観点からも重要なことなのかを説いている。

「民主主義を構築することは複雑なプロセスです。選挙はその入り口に過ぎません。もし選挙が妥協されたものになれば、民主主義の正当性も失われることになるのです。」とアナン氏は語った。

またGCEDSは国連で発表したプレスリリースの中で、「最近のコートジボワール(現職の大統領が選挙の敗北を認めず政権移譲を拒否した)その他の事例は、民主的な政府を確立するためには選挙が極めて重要な役割を果たすことを明確に示している。しかし、選挙だけでは十分とは言えない。なぜなら、現職候補が選挙結果を操作したり、不正な資金やメディア操作で選挙プロセスを歪め、たとえ敗北しても結果を受け入れない事例を少なからず目の当たりにしてきたからだ。選挙がこのように台無しになれば、民衆は民主主義と政治プロセスへの信頼を失い、人権が脅かされることになる。」と述べている。

「多くのアフリカの独裁者は、長期政権をほこったチュニジアやエジプトの独裁者を追いやった民衆蜂起を目の当たりにして、戦々恐々としている。しかし民衆蜂起のドミノ効果は、果たしてさらに南(サブサハラ)の独裁者にまで及ぶだろうか?」とウィリアム・グメレ氏は「アフリカフォーカス」に掲載された寄稿文の中で記している。

IDEAのヘルゲッセン氏は、「民主主義とは、選挙以上のものを意味します。人々の意思が尊重されない限り、民主主義とは言えません。民主主義とは、市民が意思決定をコントロールすることであり、そうするにあたって、市民の間に平等があることを意味するのです。従って、権力を永続的に手中に収めるために選挙結果を操作したり、憲法を改定することは、民主主義とは真逆の行為なのです。」と語った。

ヘルゲッセン氏は、アフリカが成熟した民主主義に移行するために何が必要かとの問いに、「政治指導者の意志が重要だが、北アフリカを席巻した民衆蜂起が示したように、民衆の政治意志のほうがさらに重要です。その他のアフリカ諸国の指導者たちは、民衆の意志を尊重し政策に反映させなければ、民衆の意志により最終的には政権の座を追われるということを認識すべきです。」と語った。
 
 またヘルゲッセン氏は、「有権者教育は重要ですが、民主主義のための必須条件ではありません。同様に、社会経済発展は極めて重要ですが、民衆の心の中においては、民主主義ほどの高位置を占めていません。よい事例がチュニジア、エジプトでの民衆蜂起です。彼らは、民主主義がもたらす自由を要求したのであって社会・経済的な利益を求めたのではありませんでした。」と語った。

さらにヘルゲッセン氏は、アフリカは西洋型民主主義の概念に従うべきか、アフリカ大陸の文化・政治慣習に合った独自のものを目指すべきかとの問いに、「民主主義というものは、その社会に生きる市民と、その社会のもつ文脈によって形成されるべきものであり、単一の西欧モデルいうものはありません。それどころか、民主主義体制の下に生活している人々の大半は、開発途上国にいるのです。こうした国々が歩んできた民主主義の経験は、多岐にわたるものであり、単独のモデルなどないのです。しかし、民主主義は、市民が意思決定をコントロールし、そこに市民間の平等が確保されているという原理に基づいたものである必要があります。民主主義とは、そのような基礎があって、はじめてその上に様々なモデルを構築していくことができるのです。」と語った。

「今後独裁者の地位を狙っている者たちは、民主主義は自国の文化に馴染まないとして民衆を欺く手法に慎重であるべきです。なぜなら、こうした主張が誤っているということが、ラテンアメリカ、アジア、欧州、アフリカ、そしてアラブ世界において繰り返し証明されてきているからです。」(原文へ)

翻訳=IPS Japan
 

|湾岸地域|「イランは湾岸協力会議(GCC)加盟国の主権を尊重すべきだ。」とUAE紙

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【アブダビWAM】

「イランはGCC諸国の主権を尊重すべきであり、その安定を脅かすような動きをすべきではない。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙「ガルフニュース」は4月22日付の論説の中で報じた。

  「湾岸諸国とイランの外交関係は長年に亘って多くの問題を抱えてきた。イランに対する不信感が湾岸諸国全域に蔓延したのは、1979年のイランイスラム革命前のパフラビー王朝時代に遡る。」と同紙は指摘した。

「その後、傲慢な帝政が瓦解したことで、湾岸諸国の間で一時イランとの関係改善への期待が高まったことがあるが、残念ながらイスラム共和国政権も前政権と大差なかった。」と同紙は嘆いた。

「強国を志向し独自の路線を進もうとすること自体はイランの(独立国としての)権利である。しかしそのやりかたは誤っており、近隣のアラブ諸国の疑念に火をつけている。」と同紙は報じた。

「宗派の違い(シーア派が大勢を占めるイランに対して近隣のアラブ諸国はスンニ派が大勢を占める)が問題をさらに複雑にしている側面があるのは事実である。しかしアラブ諸国は、イランの強引な政策や主張に対して寛大に対応してきた。イランは最近も、国連にバーレーンの内政に関する苦情を提出するなど、明らかな内政干渉にあたる行動にでたが、湾岸諸国は引き続き、イランに対して理性的な相互尊重の原理に則った対応を求めた。」と同紙は解説した。

「これこそ、シェイク・アブダッラー・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーンUAE外務大臣が4月20日の会見で強調した点である。同外相は、『全てのGCC加盟国がイランに求めているのは近隣諸国の主権と領土の統合を尊重してほしいという点のみである。』と語った。」と同紙は報じた。

湾岸諸国はイランとの良好な関係構築を望んでおり、イスラム共和国に対して、近隣諸国に敬意を払い、湾岸地域の安定に建設的な役割を果たすよう強く求めてきた。「しかし、イランは既に緊張関係にある湾岸地域において、さらなる緊張を高める動きを頑なに継続しているように思われる。」と同紙は報じた。

「イラン政府は、過去30年の歴史の中で、自国が戦争や国際経済制裁に晒される中、湾岸諸国が国際社会への関門となり、イラン国民の生活に役立ってきた点を忘れるべきではない。イラン政府は、その見返りに、GCC諸国の主権と政治的統合を尊重すべきであって、これらの国々の安定を脅かしたり、安全保障を危険にさらすようなことをすべきではない。」とガルフニュースは、結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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